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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169519
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20231122BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20231122BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F16F15/08 E
F16F15/08 W
F16F1/38 S
B60K5/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080667
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】古町 直基
【テーマコード(参考)】
3D235
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB19
3D235CC01
3D235EE14
3D235EE16
3J048AA01
3J048BA19
3J048EA01
3J059AD05
3J059BA42
3J059BC06
3J059CC01
3J059GA09
(57)【要約】
【課題】取付孔の周縁部の厚さ寸法が異なる複数種類のブラケットに共通の位置決め部材を採用することが可能となる、新規な構造の防振装置を提供する。
【解決手段】防振連結対象部材32に固定されるブラケット14を備えた防振装置10であって、ブラケット14の取付孔28に取り付けられた位置決め部材34が、防振連結対象部材32の位置決め穴48に差し入れられてブラケット14を位置決めする位置決め用突出部36と、位置決め用突出部36から突出して取付孔28に挿通される筒状の取付部38とを、備えており、取付部38には外周へ突出する係止爪44が設けられて、取付孔28の周縁部47が位置決め用突出部36と係止爪44との間に挟持されることで位置決め部材34がブラケット14に対して位置決めされており、取付孔28の周縁部47には、取付孔28の貫通方向に突出することで周縁部47の厚さ寸法を調節設定する突起50が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振連結対象部材に固定されるブラケットを備えた防振装置であって、
前記ブラケットに貫通形成された取付孔に位置決め部材が取り付けられており、
該位置決め部材は、前記防振連結対象部材の位置決め穴に差し入れられて該ブラケットを該防振連結対象部材に対して位置決めする位置決め用突出部と、該位置決め用突出部から延び出して該ブラケットの該取付孔に挿通される筒状の取付部とを、備えており、
該取付部の突出先端部分には外周へ突出する係止爪が設けられており、
該取付孔の周縁部が該位置決め用突出部と該係止爪との対向面間に挟持されることにより該位置決め部材が該取付孔の貫通方向で該ブラケットに対して位置決めされており、
該ブラケットにおける該取付孔の該周縁部には、該取付孔の貫通方向に突出することによって該取付孔の該周縁部の厚さ寸法を調節設定する突起が設けられている防振装置。
【請求項2】
前記防振連結対象部材に固定される固定部が前記ブラケットに設けられている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
複数の前記突起が周方向で相互に離れて設けられている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記位置決め部材における前記位置決め用突出部と前記係止爪との対向面が、前記取付孔の貫通方向と直交して広がる平面とされていると共に、
前記突起の先端面が該取付孔の貫通方向と直交して広がる平面とされている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項5】
前記位置決め部材の前記取付部が周方向で複数に分割されている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項6】
前記ブラケットがプレス金具とされており、前記突起がプレス成形されている請求項1又は2に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーユニットマウント等に用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用のパワーユニットマウント等に用いられる防振装置が知られている。防振装置は、例えば、特開2015-218754号公報(特許文献1)等に示されており、特許文献1では、ブラケットである第一の取付板部材と第二の取付板部材とが本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有している。
【0003】
特許文献1の防振装置は、ブラケットの車両ボデーに対する相対位置を規定するガイドとして、キャップが設けられている。特許文献1のキャップは、ナットを覆うように取り付けられており、車両ボデーに設けられた位置決め穴に挿入されることによって、ブラケットと車両ボデーを相対的に位置決めするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-218754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のようなナットがない場合には、例えば、ブラケットを貫通する取付孔に対して、特許文献1のキャップに相当する位置決め部材の取付部が取り付けられる構造が採用される場合もある。即ち、取付部は、全体として取付孔に挿通可能な筒状とされて、車両ボデーの位置決め穴に挿入される位置決め用突出部から延び出しており、突出先端部分には外周へ突出する係止爪が設けられている。そして、取付部がブラケットの取付孔に挿通されて、取付孔の周縁部が位置決め部材の位置決め用突出部と係止爪との対向面間で挟持されることによって、位置決め部材がブラケットに取り付けられる。
【0006】
しかし、このような位置決め部材の取付構造では、位置決め用突出部と係止爪との対向面間距離が、ブラケットにおける取付孔の周縁部の厚さ寸法に対して精度よく設定されている必要があり、取付孔の周縁部の厚さ寸法が異なる複数種類のブラケットに対しては、それぞれ専用の位置決め部材を準備する必要があった。
【0007】
本発明の解決課題は、取付孔の周縁部の厚さ寸法が異なる複数種類のブラケットに対して共通の位置決め部材を取り付けることが可能とされた、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、防振連結対象部材に固定されるブラケットを備えた防振装置であって、前記ブラケットに貫通形成された取付孔に位置決め部材が取り付けられており、該位置決め部材は、前記防振連結対象部材の位置決め穴に差し入れられて該ブラケットを該防振連結対象部材に対して位置決めする位置決め用突出部と、該位置決め用突出部から延び出して該ブラケットの該取付孔に挿通される筒状の取付部とを、備えており、該取付部の突出先端部分には外周へ突出する係止爪が設けられており、該取付孔の周縁部が該位置決め用突出部と該係止爪との対向面間に挟持されることにより該位置決め部材が該取付孔の貫通方向で該ブラケットに対して位置決めされており、該ブラケットにおける該取付孔の該周縁部には、該取付孔の貫通方向に突出することによって該取付孔の該周縁部の厚さ寸法を調節設定する突起が設けられているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、突起の突出寸法によってブラケットにおける取付孔の周縁部の厚さ寸法を簡単に調節設定することができる。それ故、突起がない部分で厚さが異なる複数種類のブラケットに対して、共通の位置決め部材を取り付けることが可能となる。取付孔の周縁部の厚さが突起の突出寸法によって調節されることから、ブラケット全体の厚さ寸法を変更することなく共通化された位置決め部材を取り付けることができて、ブラケットの強度や重量等への影響を抑えることができる。
【0011】
第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記防振連結対象部材に固定される固定部が前記ブラケットに設けられているものである。
【0012】
本態様のように防振連結対象部材に固定される固定部がブラケットに設けられている場合、耐荷重性能などの要求特性に基づいて部材寸法(特に厚さ寸法)が設定されることから、位置決め部材の装着のために厚さを変えることは現実的でないが、突起を設けることによって、ブラケットの要求性能は満たしながら、共通化された位置決め部材の取付けも実現することができる。
【0013】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、複数の前記突起が周方向で相互に離れて設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、例えば中空構造の突起であっても、各突起の周方向長さを制限することによって、突起の変形剛性を確保し易く、位置決め部材の取付けによる意図しない変形を防ぐことができる。
【0015】
好適には、3つ以上の突起が周方向で相互に離れて設けられる。これによれば、各突起の突出寸法に多少の誤差が生じたとしても、位置決め部材の安定した取付けを実現することができる。
【0016】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記位置決め部材における前記位置決め用突出部と前記係止爪との対向面が、前記取付孔の貫通方向と直交して広がる平面とされていると共に、前記突起の先端面が該取付孔の貫通方向と直交して広がる平面とされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、取付孔の貫通方向において相互に当接する位置決め部材とブラケットの各面が、何れも取付孔の貫通方向と直交して広がる平面とされていることにより、位置決め部材のブラケットへの取付け状態の安定化が図られる。
【0018】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記位置決め部材の前記取付部が周方向で複数に分割されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、位置決め部材の係止爪をブラケットの取付孔に挿入する際に、分割された取付部が内周側へ収縮するように変形することで、係止爪が取付孔を通過し易くなって、位置決め部材のブラケットへの取付け作業が容易になる。
【0020】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記ブラケットがプレス金具とされており、前記突起がプレス成形されているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、突起を備えたブラケットをプレス加工によって簡単に得ることができる。特に、ブラケットのプレス成形時に突起の形成も行うことができて、突起の形成工程を特別に設ける必要がなく、突起の形成による製造工程数の増加が回避される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、防振装置において、取付孔の周縁部の厚さ寸法が異なる複数種類のブラケットに対して共通の位置決め部材を採用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図
図2図1に示すエンジンマウントの縦断面図であって、図3のII-II断面に相当する図
図3図2のIII-III断面図
図4図1に示すエンジンマウントを構成するアウタブラケットの正面図
図5図4に示すアウタブラケットの底面図
図6図1に示すエンジンマウントを構成するキャップの斜視図
図7図6に示すキャップを別角度で示す斜視図
図8図1に示すエンジンマウントにおけるキャップの取付構造を拡大して示す縦断面図
図9】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1図3には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、マウント本体12にブラケットとしてのアウタブラケット14が装着された構造を有するブラケット付きの筒形防振装置とされている。マウント本体12は、インナ軸部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図2中の上下方向を、前後方向とは図2中の左右方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0026】
インナ軸部材16は、前後方向に直線的に延びる小径の略円筒形状とされている。インナ軸部材16は、金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。なお、インナ軸部材の具体的な形状は特に限定されず、例えば、中心孔を持たない円柱形状とされて軸方向端部にパワーユニット等への取付構造が設けられていてもよいし、多角形等の円形以外の断面形状であってもよい。
【0027】
アウタ筒部材18は、インナ軸部材16よりも大径の略円筒形状とされている。アウタ筒部材18は、金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。
【0028】
インナ軸部材16とアウタ筒部材18は、同一中心軸上に配されている。インナ軸部材16とアウタ筒部材18は、径方向で相互に離隔して対向配置されており、それらインナ軸部材16とアウタ筒部材18の径方向間に本体ゴム弾性体20が配されている。本体ゴム弾性体20は、略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材16の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材18の内周面に加硫接着されている。これにより、インナ軸部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20によって径方向に弾性連結されて、マウント本体12が構成されている。本体ゴム弾性体20は、インナ軸部材16とアウタ筒部材18を備える一体加硫成形品として形成されている。インナ軸部材16とアウタ筒部材18は、本体ゴム弾性体20に対して前後方向の両側へ突出している。
【0029】
図1図3に示すように、マウント本体12のアウタ筒部材18には、アウタブラケット14が取り付けられている。アウタブラケット14は、図4図5にも示すように、装着筒部22と固定部24とが連結部26によって相互に連結された構造を有している。
【0030】
装着筒部22は、アウタ筒部材18よりも大径の略円筒形状とされている。そして、装着筒部22にアウタ筒部材18が圧入固定されることにより、アウタブラケット14がマウント本体12に取り付けられている。
【0031】
固定部24は、略矩形板形状とされており、中央部分を厚さ方向に貫通する略円形断面の取付孔28が形成されている。固定部24は、取付孔28の前後両側にボルト孔30が形成されている。ボルト孔30は、取付孔28よりも小径の円形孔であって、取付孔28の前後両側において左右方向で相互に離隔して2つが設けられている。そして、ボルト孔30に挿通される図示しないボルトによって、固定部24が防振連結対象部材である車両ボデー32に固定されることにより、図2図3に示すように、アウタブラケット14が車両ボデー32に取り付けられる。なお、固定部24は、例えば、金属素板をプレス加工して形成されるプレス金具とされる。
【0032】
装着筒部22と固定部24は、図1図4に示す連結部26によって相互に連結されている。連結部26は、前後方向に対して略直交して広がる板状とされており、上端面が装着筒部22の外周面に沿った凹状湾曲面を有している。連結部26は、上端が装着筒部22の外周面に固定されると共に、下端が固定部24の上面に固定されることによって、装着筒部22と固定部24とを連結している。本実施形態では、一対の連結部26,26が前後方向で相互に離れて対向配置されており、それら連結部26,26が装着筒部22と固定部24とに対して前後方向の二箇所で固定されている。これにより、装着筒部22と固定部24がより強固に固定されており、装着筒部22と固定部24の相対変位が防止されている。固定部24に設けられた前後2組のボルト孔30,30は、図1に示すように、連結部26,26に対して前後両外側に配されている。また、取付孔28は、前後一対の連結部26,26の間に配されている。なお、装着筒部22及び固定部24と連結部26,26とは、例えば溶接によって固定される。
【0033】
アウタブラケット14の固定部24には、位置決め部材としてのキャップ34が取り付けられている。キャップ34は、図6図7に示すように、円筒状の位置決め用突出部36と、位置決め用突出部36から上方へ向けて突出する取付部38とを、備えている。本実施形態のキャップ34は、合成樹脂によって形成されているが、例えば金属等で形成されていてもよい。
【0034】
位置決め用突出部36は、上部が略一定の外径寸法で上下方向に延びる円筒状とされていると共に、下部が下方へ向けて小径となるテーパー状の案内部40とされている。位置決め用突出部36の上面は、上下方向に対して略直交して広がる平面とされている。
【0035】
取付部38は、位置決め用突出部36の中心孔の上端開口周縁部から上方へ向けて突出しており、全体として略円筒状とされている。本実施形態の取付部38は、位置決め用突出部36と一体形成されている。取付部38は、周方向で8つに分割されており、周方向で相互に離れて並んだ8つの係止片42によって構成されている。
【0036】
係止片42は、径方向が厚さ方向となる板状とされており、径方向の弾性的な曲げ変形が許容されている。係止片42の突出先端部分には、外周へ向けて突出する係止爪44が設けられている。係止爪44は、下面が上下方向と略直交して広がる平面とされていると共に、上面が上方へ向けて内周へ傾斜する傾斜面46とされている。
【0037】
8つの係止片42で構成された取付部38の上端の外径寸法は、取付孔28の開口径寸法よりも小さくされている。係止爪44の下端における取付部38の外径寸法は、取付孔28の開口径寸法よりも大きくされている。係止爪44よりも下方における取付部38の外径寸法は、取付孔28の開口径寸法と略同じとされている。
【0038】
かくの如き構造とされたキャップ34は、アウタブラケット14に取り付けられている。即ち、キャップ34の取付部38がアウタブラケット14を構成する固定部24の取付孔28に挿通されて、取付孔28の周縁部(周辺板部)47がキャップ34の位置決め用突出部36と係止爪44との間で上下方向に挟まれることにより、キャップ34が固定部24に対して上下方向で位置決めされている。
【0039】
キャップ34の取付部38が固定部24の取付孔28へ挿入される際に、挿入先端側の傾斜面46が取付孔28の周縁部47に押し当てられることで、取付部38を構成する係止片42に対して内周へ向けた力が作用する。これにより、各係止片42が内周側へ弾性的に曲げ変形して、取付部38が縮径した状態で取付孔28に挿通される。そして、係止爪44が取付孔28を通過して、係止爪44と取付孔28の周縁部47との接触が解除されると、係止片42に対する入力が解除されて、係止片42が弾性的に元の形状に復元する。これにより、係止爪44が取付孔28の周縁部47の上側へ移動して、取付部38の取付孔28に対する下方への抜けが、係止爪44が取付孔28の周縁部47に係止されることで防止される。このように、取付部38が周方向で複数の係止片42に分割されていることによって、取付部38の先端部分(上端部分)に外周へ突出する係止爪44が設けられていても、係止爪44が取付孔28を通過可能とされて、取付部38が取付孔28に挿通可能とされている。
【0040】
固定部24に取り付けられたキャップ34は、固定部24から下方へ突出した位置決め用突出部36が車両ボデー32に設けられた位置決め穴48に挿入されることによって、エンジンマウント10と車両ボデー32を前後方向及び左右方向で位置決めする位置決め機構を構成する。なお、本実施形態の位置決め穴48は、図2図3に示すように、貫通孔とされているが、位置決め穴48は有底の凹所状であってもよい。
【0041】
ところで、本実施形態において、固定部24の板厚寸法tは、キャップ34における位置決め用突出部36と係止爪44との上下方向での対向面間距離dよりも小さい(図8参照)。そこで、固定部24における取付孔28の周縁部47には、複数の突起50が設けられている。本実施形態の突起50は、取付孔28の周縁部47において固定部24を上方から下方へ向けて押し出して下方へ突出させることにより形成されている。従って、突起50は、図2図8に示すように、上面に開口する凹部52を備えた中空構造とされている。
【0042】
また、突起50は、上下逆向きの略円錐台形状とされており、外周面が突出先端である下方へ向けて小径となるテーパー面とされて、下方へ向けて先細形状とされている。突起50は、周方向に連続しないスポット状とされており、周方向で相互に離隔して略均等に6つが設けられている。突起50の先端面である下面は、上下方向に対して略直交して広がる平面とされている。固定部24は、凹部52を外れた部分の上面が、突起50の下面と略平行に広がる平面とされている。
【0043】
本実施形態では、固定部24がプレス金具とされており、突起50が固定部24を成形するプレス加工時に形成される。これにより、突起50を形成するための特別な工程が不要となって、製造工程数の増加を防ぎながら、突起50を備えた固定部24を簡単に得ることができる。
【0044】
そして、キャップ34が固定部24に取り付けられると、キャップ34の位置決め用突出部36の上面が固定部24の突起50の先端面(下面)に当接すると共に、キャップ34の係止爪44の下面が固定部24における取付孔28の周縁部47の上面に当接する。ここにおいて、図8に示すように、固定部24の板厚寸法tと突起50の高さ寸法hの和(t+h)が位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dと略同じになるように、突起50の高さ寸法hが設定されている。要するに、固定部24の周縁部47の上下厚さ寸法が、突起50によって調節設定されている。これにより、固定部24の板厚寸法tが位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dより小さい場合にも、固定部24を位置決め用突出部36と係止爪44との間で上下方向に挟み込んで、キャップ34を固定部24に固定することができる。
【0045】
固定部24の板厚寸法tと、位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dとを、何れも変更することなく、突起50の高さ寸法hを調節設定することによって、キャップ34を固定部24に取付け可能とすることができる。従って、所定の距離dが設定されたキャップ34を、板厚寸法tが相互に異なる複数種類の固定部24に取り付けることが可能となって、固定部24の板厚寸法tが異なる複数種類のアウタブラケット14に対して、共通のキャップ34を採用することができる。また、固定部24の板厚寸法tの設定に際してキャップ34の取付けを考慮する必要がなく、車両ボデー32への取付部分である固定部24において、強度や車両ボデー32への取付構造等の要求性能に合わせた板厚寸法tを設定することが容易となる。
【0046】
突起50の先端面は、取付孔28に対して外周に離れて位置しているが、位置決め用突出部36の上面は、係止爪44の下面よりも外周側まで広がっていることから、位置決め用突出部36の上面を突起50の先端面に当接させることができる。
【0047】
突起50が周方向の複数箇所に設けられていることにより、突起50の当接反力がキャップ34に対して周方向でバランスよく作用して、位置決め用突出部36の傾きなどが生じ難い。特に、複数の突起50が独立的に設けられて、それら突起50が位置決め用突出部36に対して周方向で離れた位置にそれぞれ当接していることにより、突起50の高さの誤差や位置決め用突出部36の上面の凹凸等による当接状態のバラつきが問題になり難い。
【0048】
固定部24における突起50の先端面と取付孔28の周縁部47における凹部52を外れた部分の上面とは、何れも上下方向と略直交して広がる平面とされている。また、キャップ34における位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面とは、何れも上下方向と略直交して広がる平面とされている。それ故、突起50の先端面と位置決め用突出部36の上面及び取付孔28の周縁部47の上面と係止爪44の下面が、それぞれ安定して当接して、キャップ34の固定部24への装着状態が安定する。また、キャップ34に対して固定部24からの離脱方向に外力が作用した場合に、取付孔28の周縁部47の上面と係止爪44の下面との係止による抜止作用が効果的に発揮される。
【0049】
図9には、本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウント60が示されている。エンジンマウント60は、アウタブラケット62の固定部64にキャップ34が取り付けられた構造を有している。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0050】
固定部64は、取付孔28の周縁部47に突起66を備えている。突起66は、取付孔28の周縁部47において上方へ向けて突出している。突起66は、略円錐台形状とされており、突出先端に向けて小径となる先細のテーパー形状とされている。突起66は、固定部64の下面に開口する凹部68によって中空構造とされている。本実施形態の突起66は、例えば、第一の実施形態の突起50と同様に、固定部64のプレス成形時にプレス加工によって形成される。
【0051】
そして、キャップ34の取付部38が固定部64の取付孔28に挿通されて、キャップ34における位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との間で固定部64における取付孔28の周縁部47が挟み込まれることにより、キャップ34が固定部64に取り付けられている。
【0052】
固定部64の板厚寸法tは、位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dよりも小さくされており、固定部64の板厚寸法tと突起66の高さ寸法hとの和が位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dと略同じとされている。そして、位置決め用突出部36の上面が固定部64の下面に当接状態で重ね合わされると共に、係止爪44の下面が突起66の先端面(上面)に当接状態で重ね合わされることにより、固定部64がキャップ34の位置決め用突出部36と係止爪44との間で挟持されている。これにより、位置決め用突出部36の上面と係止爪44の下面との対向面間距離dよりも薄肉とされた固定部64に対して、キャップ34が安定して取り付けられている。
【0053】
突起66の先端面が取付孔28から外周へ離れた位置に配されていることから、係止爪44の突出寸法が突起66の先端面に重ね合わせ可能となるように大きくされている。また、好適には、周方向で隣り合う係止爪44,44の間隔が、突起66の先端面の周方向幅寸法よりも小さくされており、それによって、キャップ34の周方向での向きに関係なく、係止爪44と突起66の当接状態での重ね合わせが実現される。
【0054】
上述の実施形態の説明からも理解されるように、本発明は、取付孔の周辺が互いに厚さ寸法tの異なる平板状の周辺板部によって構成された複数種類のブラケットのセットであって、少なくとも該周辺板部が最大厚さ寸法のブラケットの他には該周辺板部に位置して厚さ方向に突出する突起が形成されることで、それら複数種類のブラケットにおける各該周辺板部の実質的な厚さ方向寸法t+h、即ち突起を有する場合には突起の突出高さを含む該周辺板部の厚さ寸法が等しく揃えられたブラケットセットとして、把握することもできる。このような複数種類のブラケットの組み合わせからなるブラケットセットでは、各取付孔28に対して同一のキャップ34を取り付けることも可能となるのであり、少なくとも各取付孔28に取り付けられるキャップ34について前記対向面間距離dを等しく揃えたり、取付部38の形状や大きさを揃えたりすることもできて、たとえ位置決め用突出部36の形状や大きさ等を異ならせる場合でも設計や製造の容易化が図られ得る。なお、上記複数種類のブラケットは、板厚寸法だけでなく全体の形状や寸法等も相互に異なっていてもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、突起は、前記実施形態に示したスポット的な形状に限定されず、例えば、周方向に延びる形状とされ得る。この場合に、突起は、取付孔28の周縁部47において全周に亘って連続する環状とされていてもよいし、一周に満たない長さで延びる複数が設けられていてもよい。
【0056】
突起は、固定部24のプレス加工によって形成されることが望ましいが、例えば、削り出しやエッチング等によって固定部24と一体的に設けられていてもよいし、別部品を固定部24に固定することで設けられていてもよい。
【0057】
キャップ34の取付部38は、必ずしも複数に分割されていなくてよく、例えば、取付部38にある程度の可撓性を持たせて、取付部38の変形によって取付孔28に挿通可能とすれば、取付部38を筒状とすることもできる。
【0058】
キャップ34において、位置決め用突出部36と取付部38は、必ずしも一体形成されていなくてもよい。例えば、位置決め部材としてのキャップは、取付部38が合成樹脂で形成され、位置決め用突出部36が金属で形成されていてもよい。また、キャップは、例えば、位置決め用突出部36と取付部38を相互に異なる合成樹脂材料で2色成形することもできる。
【0059】
前記実施形態では、キャップ34がアウタブラケット14の固定部24に対して下方へ突出するように取り付けられる構造例を示したが、キャップ34は、固定部24に対して側方や上方へ突出するように設けられ得る。
【0060】
前記実施形態では、筒形防振装置に本発明を適用した例を示したが、本発明は、筒形以外の防振装置にも適用可能であり、例えば、特許文献1(特開2015-218754号公報)に示されたエンジンマウント等にも適用され得る。特許文献1では、キャップがナットに被せ付けられて取り付けられているが、当該キャップの取付構造として、取付孔にキャップの取付部を挿通して取り付ける本発明構造を適用すればよい。
【0061】
アウタブラケット14の構造は特に限定されず、例えば、固定部24の具体的な構造は、必要となる車両ボデー32への取付構造に応じて適宜に変更され得る。例えば、固定部24のボルト孔30に代えて或いは加えて、固定部24に植設ボルトが設けられる等してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジンマウント(第一の実施形態 防振装置)
12 マウント本体
14 アウタブラケット(ブラケット)
16 インナ軸部材
18 アウタ筒部材
20 本体ゴム弾性体
22 装着筒部
24 固定部
26 連結部
28 取付孔
30 ボルト孔
32 車両ボデー
34 キャップ(位置決め部材)
36 位置決め用突出部
38 取付部
40 案内部
42 係止片
44 係止爪
46 傾斜面
47 周縁部
48 位置決め穴
50 突起
52 凹部
60 エンジンマウント(第二の実施形態 防振装置)
62 アウタブラケット(ブラケット)
64 固定部
66 突起
68 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9