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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169532
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20231122BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H01L21/306 D
H01L21/308 E
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080692
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホー リンダ
(72)【発明者】
【氏名】鰍場 真樹
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA31
5F043AA35
5F043BB22
5F043BB23
5F043DD07
5F043DD13
5F043EE07
5F043EE08
5F043EE09
5F043EE22
5F043EE23
5F043EE25
5F043EE28
(57)【要約】
【課題】リン酸を用いて酸化ケイ素および窒化ケイ素を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる基板処理方法および基板処理装置を提供する。
【解決手段】基板処理方法および基板処理装置は、フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を加熱することにより、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度において酸化ケイ素膜O1のエッチング速度と窒化ケイ素膜N1のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけた一定のエッチング温度にフッ化物含有リン酸を維持する。当該方法および装置は、エッチング温度のフッ化物含有リン酸を、基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させることにより、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をフッ化物含有リン酸でエッチングする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を加熱することにより、前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に前記フッ化物含有リン酸を維持するリン酸加熱工程と、
前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を、基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させることにより、前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を前記フッ化物含有リン酸でエッチングするリン酸供給工程と、を含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記フッ化物は、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度と前記窒化ケイ素膜のエッチング速度とを増加させる化合物である、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度が一定の場合、前記等速温度よりも低い温度では、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度が前記窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きく、前記等速温度よりも高い温度では、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度が前記窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも小さい、請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記フッ化物は、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムである、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記リン酸供給工程でエッチングされた前記酸化ケイ素膜のエッチング速度に対する、前記リン酸供給工程でエッチングされた前記窒化ケイ素膜のエッチング速度の比を表す選択比は、0.9~1.1の範囲内である、請求項1~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板は、前記酸化ケイ素膜と前記窒化ケイ素膜とが交互に入れ替わるように前記基板の厚み方向に積層された複数の前記酸化ケイ素膜および複数の前記窒化ケイ素膜と、前記基板の最表面から前記厚み方向に凹んでおり、前記複数の前記酸化ケイ素膜および前記複数の前記窒化ケイ素膜を前記厚み方向に貫通するホールとを含み、
前記リン酸供給工程は、前記ホール内で露出した前記複数の前記酸化ケイ素膜および前記複数の前記窒化ケイ素膜に、前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を接触させる工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記ホールの直径は、前記基板の前記厚み方向への位置に応じて変化している、請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記基板処理方法は、前記フッ化物含有リン酸から前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を保護する固体、液体、または半固体状の保護物質で前記基板の前記厚み方向における前記ホールの内周面の一部の範囲を覆う内周面保護工程をさらに含み、
前記リン酸供給工程は、前記一部の範囲を前記保護物質によって前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸から保護しながら、前記保護物質で覆われていない前記ホールの内周面の残りの部分に前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を接触させる工程を含む、請求項7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を、前記基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる前に、前記基板を加熱することにより前記基板を一定の温度に維持する基板加熱工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を加熱することにより、前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に前記フッ化物含有リン酸を維持するヒーターと、
前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を吐出し、吐出された前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸と、基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜と、の接触により、前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を前記フッ化物含有リン酸でエッチングする薬液ノズルと、を含む、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。基板には、例えば、半導体ウエハ、液晶表示装置や有機EL(electroluminescence)表示装置などのFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、三次元NANDデバイスを製造する際に、酸化ケイ素および窒化ケイ素にリン酸を供給し、100:1より大きな選択性(窒化ケイ素が100)で酸化ケイ素および窒化ケイ素をエッチングすることを開示している。
【0003】
特許文献2は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とが露出したシリコンウエハの表面にリン酸水溶液を供給し、シリコン酸化膜のエッチングを抑えながらシリコン窒化膜をエッチングすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-530874号公報
【特許文献2】特開2018-182228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体ウエハ等の基板にリン酸を供給して、酸化ケイ素および窒化ケイ素をエッチングする場合、通常は、特許文献1および特許文献2に記載のように、高い選択比で窒化ケイ素をエッチングすることが求められる。しかしながら、リン酸を用いて酸化ケイ素および窒化ケイ素を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることが求められる場合もある。特許文献1および特許文献2では、このような要求に応えることができない。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、リン酸を用いて酸化ケイ素および窒化ケイ素を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するためのこの発明の一実施形態は、フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を加熱することにより、前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に前記フッ化物含有リン酸を維持するリン酸加熱工程と、前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を、基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させることにより、前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を前記フッ化物含有リン酸でエッチングするリン酸供給工程と、を含む、基板処理方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を、基板に形成された酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させることにより、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をフッ化物含有リン酸でエッチングする。フッ化物含有リン酸は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に維持されている。したがって、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる。
【0009】
等速温度は、フッ化物含有リン酸中のフッ化物の濃度に依存する。典型的な基板処理においては、フッ化物含有リン酸中のフッ化物の濃度はほぼ一定に保持され、したがって、等速温度はほぼ一定である。それに応じて、フッ化物含有リン酸は、一定のエッチング温度に維持される。
【0010】
酸化ケイ素膜は、酸化ケイ素の薄膜である。酸化ケイ素は、Si(ケイ素)およびO(酸素)だけが化学式に含まれる化合物であってもよいし、SiおよびO以外の元素も化学式に含まれる化合物であってもよい。酸化ケイ素の典型例は、SiOである。
【0011】
窒化ケイ素膜は、窒化ケイ素の薄膜である。窒化ケイ素は、Si(ケイ素)およびN(窒素)だけが化学式に含まれる化合物であってもよいし、SiおよびN以外の元素も化学式に含まれる化合物であってもよい。窒化ケイ素の典型例は、SiNまたはSiである。窒化ケイ素の化学式に含まれるSiの数は、1および3以外であってもよい。窒化ケイ素の化学式に含まれるNの数は、1および4以外であってもよい。
【0012】
酸化ケイ素膜のエッチング速度は、単位時間当たりの酸化ケイ素膜の厚みの減少量を表す。窒化ケイ素膜のエッチング速度についても同様である。酸化ケイ素膜に対する窒化ケイ素膜の選択比は、酸化ケイ素膜のエッチング速度に対する窒化ケイ素膜のエッチング速度の比を表す(酸化ケイ素膜に対する窒化ケイ素膜の選択比=窒化ケイ素膜のエッチング速度/酸化ケイ素膜のエッチング速度)。以下では、酸化ケイ素膜に対する窒化ケイ素膜の選択比を、単に選択比ということがある。
【0013】
前記実施形態において、以下の特徴の少なくとも1つを、前記基板処理方法に加えてもよい。
【0014】
前記フッ化物は、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度と前記窒化ケイ素膜のエッチング速度とを増加させる化合物である。前記フッ化物は、前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度が増加するにしたがって前記酸化ケイ素膜のエッチング速度と前記窒化ケイ素膜のエッチング速度とを増加させる化合物であることが好ましい。
【0015】
この方法によれば、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とを増加させるフッ化物を含むエッチング温度のフッ化物含有リン酸を、基板に形成された酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる。これにより、フッ化物を含まないリン酸で酸化ケイ素膜をエッチングしたときよりも大きなエッチング速度で酸化ケイ素膜をエッチングでき、フッ化物を含まないリン酸で窒化ケイ素膜をエッチングしたときよりも大きなエッチング速度で窒化ケイ素膜をエッチングできる。その結果、基板の処理時間を短縮でき、電力などのエネルギーの消費を削減できる。
【0016】
前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度が一定の場合、前記等速温度よりも低い温度では、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度が前記窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きく、前記等速温度よりも高い温度では、前記酸化ケイ素膜のエッチング速度が前記窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも小さい。
【0017】
この方法によれば、選択比が温度に応じて変化するフッ化物含有リン酸を等速温度またはその付近の温度に維持し、この温度のフッ化物含有リン酸を基板に形成された酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる。フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度が一定の場合、選択比は、フッ化物含有リン酸の温度にかかわらず一定ではなく、フッ化物含有リン酸の温度に応じて増加または減少する。したがって、フッ化物含有リン酸の温度を制御することにより、選択比が1またはその付近になるように酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングしたり、選択比が1を超えるまたは下回るように酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングしたりすることができる。
【0018】
前記フッ化物は、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムである。
【0019】
この方法によれば、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを含むエッチング温度のフッ化物含有リン酸を、基板に形成された酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる。これにより、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる。フッ化物がフッ化ナトリウム(NaF)やフッ化カリウム(KF)などのアルカリ金属のフッ化物である場合、基板が金属で汚染されるおそれがある。フッ化物がフッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムである場合、このようなおそれがない。したがって、基板の清浄度の低下を防止しながら、前記のように酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングすることができる。
【0020】
前記リン酸供給工程でエッチングされた前記酸化ケイ素膜のエッチング速度に対する、前記リン酸供給工程でエッチングされた前記窒化ケイ素膜のエッチング速度の比を表す選択比は、0.9~1.1の範囲内である。このような選択比の範囲は、エッチング温度が等速温度に一致するまたは近づけられたときの選択比の範囲の一例である。
【0021】
この方法によれば、選択比(窒化ケイ素膜のエッチング速度/酸化ケイ素膜のエッチング速度)が0.9~1.1の範囲内の値になるようにフッ化物含有リン酸の温度を調節し、この温度のフッ化物含有リン酸を基板に形成された酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる。酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜は、0.9~1.1の範囲内の選択比でエッチングされる。これにより、フッ化物を含まないリン酸で酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングしたときのように、酸化ケイ素膜が殆どエッチングされない一方で、窒化ケイ素膜が酸化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きなエッチング速度でエッチングされることを防止できる。
【0022】
前記基板は、前記酸化ケイ素膜と前記窒化ケイ素膜とが交互に入れ替わるように前記基板の厚み方向に積層された複数の前記酸化ケイ素膜および複数の前記窒化ケイ素膜と、前記基板の最表面から前記厚み方向に凹んでおり、前記複数の前記酸化ケイ素膜および前記複数の前記窒化ケイ素膜を前記厚み方向に貫通するホールとを含み、前記リン酸供給工程は、前記ホール内で露出した前記複数の前記酸化ケイ素膜および前記複数の前記窒化ケイ素膜に、前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を接触させる工程を含む。
【0023】
この方法によれば、複数の酸化ケイ素膜および複数の窒化ケイ素膜を基板の厚み方向に貫通するホールの中にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する。フッ化物含有リン酸は、ホールの内周面を構成する複数の酸化ケイ素膜および複数の窒化ケイ素膜に接触し、これらをエッチングする。エッチング前のホールの内周面の縦断面(基板の厚み方向と平行で且つホールの中心線を含む平面で切断した断面)が直線状である場合、フッ化物を含まないリン酸でホールの内周面をエッチングすると、ホールの内周面の縦断面が波線状に変化することがある。エッチング温度のフッ化物含有リン酸をホール内に供給すれば、このような変化を防止または緩和できる。
【0024】
前記ホールの直径は、前記基板の前記厚み方向への位置に応じて変化している。
【0025】
この方法によれば、基板の厚み方向への位置に応じて直径が変化するホールの中にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する。これにより、ホールの内周面の縦断面の形状を維持しながら、フッ化物含有リン酸でホールの内周面をエッチングすることができる。ホールの内周面をエッチング液でエッチングすると、ホールの底に近づくにしたがってエッチング液が入れ替わりにくくなるので、エッチング速度は、ホールの底に近づくにしたがって減少する傾向がある。ホールの直径がホールの底に近づくにしたがって増加している場合、フッ化物含有リン酸でホールの内周面をエッチングすれば、ホールの内周面の縦断面の形状を維持しながら、ホールの直径のばらつきを軽減できる。
【0026】
前記ホールの内周面は、前記基板の前記最表面から前記ホールの底まで前記ホールの底に近づくにしたがって前記ホールの直径が連続的または段階的に減少または増加した形状であってもよい。もしくは、前記ホールの内周面は、前記ホールの底に近づくにしたがって前記ホールの直径が連続的または段階的に減少した部分と、前記ホールの底に近づくにしたがって前記ホールの直径が連続的または段階的に増加した部分と、の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0027】
前記基板処理方法は、前記フッ化物含有リン酸から前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を保護する固体、液体、または半固体状の保護物質で前記基板の前記厚み方向における前記ホールの内周面の一部の範囲を覆う内周面保護工程をさらに含み、前記リン酸供給工程は、前記一部の範囲を前記保護物質によって前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸から保護しながら、前記保護物質で覆われていない前記ホールの内周面の残りの部分に前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を接触させる工程を含む。
【0028】
この方法によれば、基板の厚み方向への位置に応じて直径が変化するホールの中にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する前に、基板の厚み方向におけるホールの内周面の一部の範囲の全体を保護物質で覆い、その後、保護物質で覆われていないホールの内周面の残りの部分にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を接触させる。これにより、ホールの内周面の残りの部分を選択的にエッチングでき、ホールの形状を意図的に変化させることができる。
【0029】
ホールの直径が基板の最表面からホールの底までホールの底に近づくにしたがって「減少」している場合、ホールの内周面の入口側部分を保護物質で保護し、ホールの内周面の底側部分をフッ化物含有リン酸でエッチングすれば、ホールの直径のばらつきを軽減できる。これに対して、ホールの直径が基板の最表面からホールの底までホールの底に近づくにしたがって「増加」している場合、ホールの内周面の底側部分を保護物質で保護し、ホールの内周面の入口側部分をフッ化物含有リン酸でエッチングすれば、ホールの直径のばらつきを軽減できる。
【0030】
フッ化物含有リン酸を基板に供給したときに、基板の厚み方向におけるホールの内周面の一部の範囲が保護物質で覆われた状態が維持されるのであれば、保護物質は、固体、液体、および半固体状のいずれであってもよい。保護物質は、ホールの内周面と同軸の筒状の保護膜であってもよいし、ホールの内周面の内側の領域の全体を埋める保護栓であってもよい。保護物質で覆われていないホールの内周面の残りの部分は、保護物質よりもホールの底側の部分であってもよいし、保護物質よりもホールの入口側(基板の最表面側)の部分であってもよい。
【0031】
前記基板処理方法は、前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を、前記基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に接触させる前に、前記基板を加熱することにより前記基板を一定の温度に維持する基板加熱工程をさらに含む。
【0032】
この方法によれば、加熱によりエッチング温度に維持されたフッ化物含有リン酸を基板に接触させる前に、基板を加熱し一定の温度に維持する。これにより、室温の基板にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給した場合に比べて、短時間で酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングできる。さらに、フッ化物含有リン酸に接触する前の基板の温度を安定させるので、複数枚の基板をエッチング温度のフッ化物含有リン酸に順次接触させる場合に、複数枚の基板の間でエッチング量を安定させることができる。
【0033】
前記目的を達成するためのこの発明の他の実施形態は、フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を加熱することにより、前記フッ化物含有リン酸における前記フッ化物の濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に前記フッ化物含有リン酸を維持するヒーターと、前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸を吐出し、吐出された前記エッチング温度の前記フッ化物含有リン酸と、基板に形成された前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜と、の接触により、前記酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を前記フッ化物含有リン酸でエッチングする薬液ノズルと、を含む、基板処理装置を提供する。この装置によれば、前述の基板処理方法と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A-D】本実施形態に係る基板の処理の一例について説明するための基板の断面図である。
図1E-H】本実施形態に係る基板の処理の一例について説明するための基板の断面図である。
図2】フッ化物を含まないリン酸でエッチングする前後のメモリーホールの内周面のイメージを示す基板の断面図である。
図3】フッ化物を含むフッ化物含有リン酸でエッチングする前後のメモリーホールの内周面のイメージを示す基板の断面図である。
図4】フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度と酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度との関係を示す折れ線グラフである。
図5】フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度と酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度との関係を示す折れ線グラフである。
図6】フッ化物含有リン酸の温度と酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度との関係を示す折れ線グラフである。
図7】フッ化物含有リン酸の温度と酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度との関係を示す折れ線グラフである。
図8】本発明の一実施形態に係るバッチ式の基板処理装置のレイアウトを示す概略平面図である。
図9】薬液処理槽の鉛直断面の一例を示す概略図である。
図10】薬液処理槽の鉛直断面の他の例を示す概略図である。
図11A】本発明の一実施形態に係る枚葉式の基板処理装置のレイアウトを示す概略平面図である。
図11B】枚葉式の基板処理装置の概略側面図である。
図12】処理ユニットの内部を水平に見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
図1A図1B図1C図1D図1E図1F図1G、および図1Hは、本実施形態に係る基板Wの処理の一例について説明するための基板Wの断面図である。
【0037】
図1A図1Hは、基板Wの表面に対して垂直な平面で基板Wを切断した断面を示している。以下では、基板Wの処理が、三次元NAND型フラッシュメモリーの製造工程の一部である例について説明する。以下の説明において、特に断りがない限り、リン酸は、リン酸水溶液を意味する。ただし、リン酸の濃度は、リン酸の化合物(HPO)の濃度を意味する。
【0038】
図1Aに示すように、基板Wは、シリコンウエハなどの板状の母材101と、母材101上に形成された積層膜102と、基板Wの最表面103に相当する積層膜102の最表面から基板Wの厚み方向Dtに凹んだメモリーホール104とを含む。積層膜102は、三次元NAND型フラッシュメモリーのメモリーセルアレイを構成する部分である。メモリーセルアレイは、直交する3つの方向に立体的に配列された複数のメモリーセルを含む部分である。
【0039】
積層膜102は、酸化ケイ素の薄膜である酸化ケイ素膜O1と窒化ケイ素の薄膜である窒化ケイ素膜N1とが交互に入れ替わるように基板Wの厚み方向Dtに積層された複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1を含む。メモリーホール104は、複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1を基板Wの厚み方向Dtに貫通している。メモリーホール104は、反応性イオンエッチングなどのドライエッチングによって形成されている。
【0040】
メモリーホール104の内周面105の少なくとも一部は、酸化ケイ素膜O1の内周面と窒化ケイ素膜N1の内周面とが交互に入れ替わるように基板Wの厚み方向Dtに連続した複数の酸化ケイ素膜O1の内周面および複数の窒化ケイ素膜N1の内周面によって構成されている。図1Aは、メモリーホール104の直径が基板Wの最表面103からメモリーホール104の底までメモリーホール104の底に近づくにしたがって連続的に減少した例を示している。メモリーホール104の横断面、つまり、基板Wの厚み方向Dtに対して直交する平面に沿うメモリーホール104の断面は、円形である。
【0041】
図1Bに示すように、本実施形態に係る基板Wの処理の一例では、メモリーホール104が形成された基板Wに充填液111を供給し、メモリーホール104を充填液111で満たす。その後、図1Cに示すように、メモリーホール104内の充填液111を充填物質112に変化させ、メモリーホール104を充填物質112で埋める。図1Cは、メモリーホール104の全体が充填物質112で埋まった状態を示している。充填物質112は、固体であってもよいし、液体を含む半固体状であってもよい。
【0042】
充填液111は、例えば析出、凝固、および固化のいずれかによって、固体状または半固体状に変化する。析出は、溶媒の蒸発によって溶質の濃度が飽和濃度を上回ることにより溶媒に溶解した溶質が固体に変化することを意味する。凝固は、凝固点以下まで温度が低下することにより液相から固相に変化することを意味する。固化は、熱や光などのエネルギーの供給を受けて化学変化により液体から固体に変化することを意味する。充填液111を基板Wに供給した後、充填液111を析出、凝固、および固化のいずれかによって固体状または半固体状に変化させ、充填液111を充填物質112に変化させる。
【0043】
充填液111は、溶質および溶媒を含む溶液であってもよい。溶質は、感熱水溶性樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、および、ポリアミドイミド、からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。感熱水溶性樹脂は、所定の変質温度以上に加熱する前は水に対して難溶性ないし不溶性で、変質温度以上に加熱することで変質して水溶性になる性質を有する樹脂である。溶媒は、水よりも高い揮発性を有することが好ましい。溶媒として、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)を用いることが好ましい。
【0044】
充填液111は、昇華性物質を含んでもよい。昇華性物質としては、5℃~35℃での蒸気圧が高く、固相から液相を経ずに気相に変化する種々の物質が用いられる。昇華性物質としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、1,3,5-トリオキサン、1-ピロリジンカルボジチオ酸アンモニウム、メタアルデヒド、炭素数20~48程度のパラフィン、t-ブタノール、パラジクロロベンゼン、ナフタレン、L-メントール、フッ化炭化水素化合物等が用いられる。とくに、昇華性物質としては、フッ化炭化水素化合物を用いることができる。昇華性物質として、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを用いることが特に好ましい。
【0045】
溶媒としては、例えば、純水(脱イオン水:DIW(deionized water))、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、アルコール、およびエーテルからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。具体的には、溶媒としては、例えば、純水、メタノール、エタノール、IPA、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMA(ジメチルアセトアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ヘキサン、トルエン、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、PGPE(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)、GBL(γ-ブチロラクトン)、アセチルアセトン、3-ペンタノン、2-へプタノン、乳酸エチル、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、及びm-キシレンヘキサフルオライドからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
メモリーホール104内に充填物質112が形成された後は、図1Dに示すように、充填物質112を溶解させる除去液113を基板Wに供給し、メモリーホール104の底側に充填物質112を残しながら、メモリーホール104内の充填物質112を除去液113で除去する。基板Wに供給された除去液113は、メモリーホール104内の充填物質112に接触し、メモリーホール104の入口側からメモリーホール104の底に向かって充填物質112を溶解する。これにより、充填物質112の端面がメモリーホール104の底側に移動し、充填物質112の高さが徐々に減少していく。
【0047】
除去液113としては、例えばシンナー、トルエン、酢酸エステル類、アルコール類、グリコール類等の有機溶媒、酢酸、蟻酸、ヒドロキシ酢酸等の酸性液を用いることができる。特に、水系の液体との相溶性を有する溶媒を除去液113として用いることが好ましい。例えば、除去液113として、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol:IPA)を用いることが好ましい。
【0048】
メモリーホール104の入口からメモリーホール104の中間までの範囲から充填物質112が除去され、メモリーホール104の中間からメモリーホール104の底までの範囲に充填物質112が残る時間が経過すると、除去液113を基板Wから除去する。除去液113の除去は、基板Wに接触する除去液113を、純水や後述する保護液114などの液体で置換することにより行ってもよい。メモリーホール104の入口からメモリーホール104の中間までの距離は、メモリーホール104の中間からメモリーホール104の底までの距離と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0049】
除去液113を基板Wから除去した後にメモリーホール104に残った充填物質112を、残存充填物質112rと定義する。メモリーホール104の内周面105において残存充填物質112rに接触していない部分を、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eと、メモリーホール104の内周面105において残存充填物質112rに接触した部分を、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bと、それぞれ定義する。入口側部分105eの少なくとも一部は、複数の酸化ケイ素膜O1の内周面と複数の窒化ケイ素膜N1の内周面とによって構成されている。底側部分105bの少なくとも一部は、別の複数の酸化ケイ素膜O1の内周面と別の複数の窒化ケイ素膜N1の内周面によって構成されている。
【0050】
メモリーホール104内の充填物質112の一部を除去した後は、図1Eに示すように、保護液114を基板Wに供給し、保護物質の一例である保護膜115をメモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに形成する。メモリーホール104の底側に充填物質112が残っているので、保護液114を基板Wに供給すると、メモリーホール104の入口側領域、つまり、メモリーホール104内における残存充填物質112rよりもメモリーホール104の入口側の領域が、保護液114で満たされ、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eと残存充填物質112rの端面とが、保護液114に接触する。
【0051】
保護液114は、例えば、シリコン(Si)自体およびシリコンを含む化合物を疎水化させる撥水剤の液体である。典型的には、撥水剤は、シランカップリング剤である。一例では、シランカップリング剤は、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)、TMS(テトラメチルシラン)、フッ素化アルキルクロロシラン、アルキルジシラザン、および非クロロ系撥水剤の少なくとも1つを含む。非クロロ系撥水剤は、例えば、ジメチルシリルジメチルアミン、ジメチルシリルジエチルアミン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、N,N-ジメチルアミノトリメチルシラン、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミンおよびオルガノシラン化合物の少なくとも1つを含む。
【0052】
保護液114は、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eを構成する複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1に付着し、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに保護膜115を形成する。保護膜115は、メモリーホール104の内周面105と同軸の筒状の液膜であり、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eの全域に接している。図1Eでは、理解を容易にするために、保護液114と保護膜115との間に境界を示しているが、実際にはこのような境界は存在しない。
【0053】
保護液114がメモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに接触し、保護膜115がメモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに形成されると、保護液114を基板Wから除去する。保護液114の除去は、純水などの液体で保護液114を置換することにより行ってもよい。保護液114を基板Wから除去しても、保護液114は、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに残る。
【0054】
メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに保護液114を接触させた後は、図1Fに示すように、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに保護膜115を残しながら、メモリーホール104の底側領域、つまり、メモリーホール104内において残存充填物質112rが占有している領域から充填物質112を除去する。残存充填物質112rの除去は、図1Fに示すように、除去液113を基板Wに供給することにより行ってもよい。この場合、メモリーホール104内の保護液114を除去液113で置換してもよい。残存充填物質112rの除去は、基板Wを加熱することにより行ってもよい。残存充填物質112rが昇華性物質を含む場合、基板Wの加熱により残存充填物質112rを昇華させてもよい。
【0055】
図1Fに示すように、メモリーホール104から残存充填物質112rを除去すると、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eが保護膜115で覆われた状態で、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bが充填物質112から露出する。図1Gに示すように、この状態で、フッ化物含有リン酸を基板Wに供給する。図1Gは、フッ化物含有リン酸に含まれるフッ化物がフッ化アンモニウム(NHF)である例を示している。基板Wに供給されたフッ化物含有リン酸は、メモリーホール104の入口からメモリーホール104の中に入り、筒状の保護膜115の内側を通過する。これにより、メモリーホール104の底側領域と保護膜115の内側の領域とが、フッ化物含有リン酸で満たされる。
【0056】
フッ化物含有リン酸は、フッ化物を含むリン酸(厳密には、フッ化物を含むリン酸水溶液)である。フッ化含有リン酸は、基板Wと化学反応する物質を含む薬液の一例である。フッ化含有リン酸は、基板Wをエッチングするエッチング液の一例でもある。フッ化物含有リン酸に含まれるフッ化物は、リン酸に溶解した固体のフッ化物であってもよいし、リン酸と混合されたフッ化物含有液(フッ化物の液体またはフッ化物を溶解させた溶液)に含まれるフッ化物であってもよい。
【0057】
フッ化含有リン酸に含まれるフッ化物は、フッ化アンモニウム(NHF)または二フッ化アンモニウム(NHHF)である。フッ化物がフッ化アンモニウムである場合、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度は、0.15~1.5wt%(質量パーセント濃度)である。フッ化物を加える前のリン酸の濃度(リン酸水溶液におけるリン酸の濃度)は、85%である。リン酸の濃度およびフッ化物の濃度は、前記に限られない。
【0058】
メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eを構成する複数の酸化ケイ素膜O1と複数の窒化ケイ素膜N1とは、保護膜115によってフッ化物含有リン酸から保護される。これに対して、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bを構成する複数の酸化ケイ素膜O1と複数の窒化ケイ素膜N1とは、フッ化物含有リン酸に接触し、フッ化物含有リン酸によってエッチングされる。後述するように、フッ化物含有リン酸は、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1が等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングされる処理条件で基板Wに供給される。したがって、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bがエッチングされる一方で、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eはエッチングされないまたは殆どエッチングされない。
【0059】
メモリーホール104の内周面105の底側部分105bは、メモリーホール104の周方向におけるいずれの位置でもエッチングされ、基板Wの厚み方向Dtに一致するメモリーホール104の深さ方向におけるいずれの位置でもエッチングされる。したがって、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bの高さ(メモリーホール104の底から保護膜115までの基板Wの厚み方向Dtへの最短距離)は変わらないまたは殆ど変わらないものの、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bの直径は、基板Wの厚み方向Dtにおけるいずれの位置でも増加する。エッチング後のメモリーホール104の内周面105の底側部分105bは、エッチング前のメモリーホール104の内周面105の底側部分105bと同軸の筒状である。
【0060】
図1Aは、メモリーホール104がメモリーホール104の底に向かって先細りになった例を示している。この例では、フッ化物含有リン酸が基板Wに供給される前、メモリーホール104の直径は、メモリーホール104の入口付近で最大であり、メモリーホール104の底付近で最小である。フッ化物含有リン酸が基板Wに供給されると、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eの直径は変化しないまたは殆ど変化しない一方で、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1のエッチングによりメモリーホール104の内周面105の底側部分105bの直径は増加する。メモリーホール104の直径の最小値はメモリーホール104の直径の最大値に近づく。これにより、メモリーホール104の直径の最大値および最小値の差が減少する。
【0061】
基板Wへのフッ化物含有リン酸の供給を開始してから所定時間が経過すると、フッ化物含有リン酸を基板Wから除去する。フッ化物含有リン酸の除去は、基板Wに接触するフッ化物含有リン酸をリンス液などの液体で置換することにより行ってもよい。保護膜115は、フッ化物含有リン酸を除去した後に、または、フッ化物含有リン酸を除去しながら、基板Wの加熱や基板Wへの紫外線の照射などにより除去してもよい。三次元NAND型フラッシュメモリーの特性に影響を与えないのであれば保護膜115を残してもよい。
【0062】
フッ化物含有リン酸を基板Wから除去した後は、図1Hに示すように、三次元NAND型フラッシュメモリーの一部である薄膜116を、化学気相堆積などの気相堆積によってメモリーホール104の内周面105の全域に堆積させる。メモリーホール104の内周面105に接する薄膜116は、基板Wの厚み方向Dtに配列された複数のメモリーセルを構成する部分である。この薄膜116は、ポリシリコン膜などの導電膜であってもよいし、酸化ケイ素膜などの絶縁膜であってもよい。窒化ケイ素膜N1は、メモリーホール104の内周面105に薄膜116を堆積させた後に金属膜などの薄膜で置き換えられる犠牲膜であってもよい。
【0063】
メモリーホール104を形成した後、メモリーホール104の内周面105に薄膜116を堆積させる前までの一連の工程は、メモリーホール104の形状をウェットエッチングにより修正するホール形状修正工程である。ホール形状修正工程は、処理液を基板Wに接触させるウェットプロセスによって行う。これに対して、メモリーホール104は、ドライプロセスの一例であるドライエッチングによって形成する。メモリーホール104の内周面105に接する薄膜116も、ドライプロセスの一例である気相堆積によって形成する。
【0064】
ホール形状修正工程は、1つの基板処理装置1(図8および図11参照)によって行ってもよいし、複数の基板処理装置1によって行ってもよい。ホール形状修正工程は、複数枚の基板Wを一括して処理するバッチ式の基板処理装置1、または、複数枚の基板Wを1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置1によって行ってもよいし、バッチ式の基板処理装置1および枚葉式の基板処理装置1によって行ってもよい。ホール形状修正工程の一部は、ドライプロセスによって行ってもよい。例えば、保護液114ではなく、保護ガスをメモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに接触させることにより、保護ガスに含まれる物質で固体、液体、または半固体状の保護膜115をメモリーホール104の内周面105の入口側部分105eに形成してもよい。
【0065】
次に、エッチング前後の基板Wの断面について説明する。
【0066】
図2は、フッ化物を含まないリン酸(以下、単に「リン酸」という。)でエッチングする前後のメモリーホール104の内周面105のイメージを示す基板Wの断面図である。図3は、フッ化物を含むフッ化物含有リン酸でエッチングする前後のメモリーホール104の内周面105のイメージを示す基板Wの断面図である。
【0067】
図2および図3では、エッチング前のメモリーホール104の内周面105を二点鎖線で示しており、エッチング後のメモリーホール104の内周面105を実線で示している。エッチング前後のメモリーホール104の内周面105の形状はあくまでイメージであり、実際の形状とは異なり得る。図3は、フッ化物含有リン酸に含まれるフッ化物がフッ化アンモニウム(NHF)である例を示している。
【0068】
メモリーホール104の内周面105の少なくとも一部は、酸化ケイ素膜O1の内周面と窒化ケイ素膜N1の内周面とが交互に入れ替わるように基板Wの厚み方向Dtに連続した複数の酸化ケイ素膜O1の内周面および複数の窒化ケイ素膜N1の内周面によって構成されている。リン酸をメモリーホール104に供給すると、酸化ケイ素膜O1は、リン酸によってエッチングされないまたは殆どエッチングされない一方で、窒化ケイ素膜N1は、リン酸によって酸化ケイ素膜O1のエッチング速度よりも大きなエッチング速度でエッチングされる。
【0069】
図2に示すように、リン酸でメモリーホール104の内周面105をエッチングすると、メモリーホール104の直径は、複数の酸化ケイ素膜O1の位置で変わらないまたは殆ど変わらない一方で、複数の窒化ケイ素膜N1の位置で増加する。図2において二点鎖線で示すように、エッチング前のメモリーホール104の直径が均一である場合、リン酸でメモリーホール104の内周面105をエッチングすると、メモリーホール104の内周面105の縦断面(基板Wの厚み方向Dtと平行で且つメモリーホール104の中心線を含む平面で切断した断面)は、直線状から波線状に変化する。この場合、メモリーホール104の内周面105は、複数の酸化ケイ素膜O1の位置で直径が減少し、複数の窒化ケイ素膜N1の位置で直径が増加する筒状に変化する。
【0070】
メモリーホール104の内周面105には、三次元NAND型フラッシュメモリーの一部となる薄膜116(図1H参照)が形成される。メモリーホール104の内周面105の縦断面は、可能な限り起伏が小さいことが好ましい。加えて、メモリーホール104の直径は、可能な限り均一であることが好ましい。図3は、エッチング後もメモリーホール104の直径が均一であり、エッチング後もメモリーホール104の内周面105の縦断面の起伏が小さい例を示している。この例では、メモリーホール104の内周面105の縦断面が直線状に維持されたまま、メモリーホール104の内周面105がエッチングされる。
【0071】
後述するように、フッ化物含有リン酸は、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1が等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングされる処理条件でメモリーホール104の内周面105に供給される。これにより、窒化ケイ素膜N1だけでなく、酸化ケイ素膜O1も十分なエッチング速度でエッチングでき、複数の窒化ケイ素膜N1の位置で基板Wの面方向Dp(基板Wの厚み方向Dtに対して垂直な方向)に凹んだ複数のリング状の凹みが、メモリーホール104の内周面105に形成されることを防止できる。仮にこのような凹みが形成されたとしても、凹みを浅くできる。
【0072】
次に、フッ化物の濃度またはフッ化物含有リン酸の温度とエッチング速度との関係について説明する。
【0073】
図4図7は、フッ化物含有リン酸を用いて酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜をエッチングしたときのエッチング速度の測定値を示す折れ線グラフである。
【0074】
図4図7は、85%のリン酸(リン酸の濃度が85%のリン酸水溶液)にフッ化アンモニウムを加えた溶液を用いて酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングしたときのエッチング速度を示している。図4図7において、縦軸は、エッチング速度を示しており、横軸は、フッ化アンモニウムの濃度またはフッ化物含有リン酸の温度を示している。エッチング速度は、単位時間当たりの膜厚の減少量を表す。
【0075】
図4」は、フッ化物含有リン酸が「120℃」である場合の、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度と、フッ化物含有リン酸におけるフッ化アンモニウムの濃度と、の関係を示す折れ線グラフである。「図5」は、フッ化物含有リン酸が「130℃」である場合の、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度と、フッ化物含有リン酸におけるフッ化アンモニウムの濃度と、の関係を示す折れ線グラフである。
【0076】
図6」は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化アンモニウムの濃度が「0.15wt%」である場合の、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度と、フッ化物含有リン酸の温度と、の関係を示す折れ線グラフである。「図7」は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化アンモニウムの濃度が「0.3wt%」である場合の、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜のエッチング速度と、フッ化物含有リン酸の温度と、の関係を示す折れ線グラフである。図7中の一点鎖線は、酸化ケイ素膜のエッチング速度の変化の予想を示しており、図7中の二点鎖線は、窒化ケイ素膜のエッチング速度の変化の予想を示している。
【0077】
図4に示すように、フッ化物含有リン酸が120℃である場合、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とは、フッ化アンモニウムの濃度が増加するにしたがって増加した。フッ化アンモニウムの濃度が0.15wt%以下の範囲では、0.15wt%を超える範囲に比べて、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度との差が小さかった。フッ化アンモニウムの濃度が0.15wt%を超える範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きく、フッ化アンモニウムの濃度が増加するにしたがって両者の差が広がった。
【0078】
図5に示すように、フッ化物含有リン酸が130℃である場合、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とは、フッ化アンモニウムの濃度が増加するにしたがって増加した。フッ化アンモニウムの濃度が0.15wt%以下の範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも小さかった。フッ化アンモニウムの濃度が0.3wt%以下の範囲では、0.3wt%を超える範囲に比べて、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度との差が小さかった。フッ化アンモニウムの濃度が0.3wt%を超える範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きく、フッ化アンモニウムの濃度が増加するにしたがって両者の差が広がった。
【0079】
図6に示すように、フッ化アンモニウムの濃度が0.15wt%である場合、酸化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が120℃未満の範囲ではほぼ一定であり、フッ化物含有リン酸の温度が120℃以上の範囲では温度の上昇に伴って減少した。窒化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が90℃未満の範囲ではほぼ一定であり、フッ化物含有リン酸の温度が90℃以上の範囲では温度の上昇に伴って増加した。
【0080】
図6に示すように、フッ化物含有リン酸の温度が120℃未満の範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きく、フッ化物含有リン酸の温度が120℃を超える範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも小さかった。酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度との差は、フッ化物含有リン酸の温度が120℃に近づくにしたがって減少した。
【0081】
図7に示すように、フッ化アンモニウムの濃度が0.3wt%である場合、酸化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が120℃未満の範囲では温度の上昇に伴って増加し、フッ化物含有リン酸の温度が120℃以上、130℃以下の範囲では温度の上昇に伴って減少した。窒化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が80℃以上、130℃以下の範囲では温度の上昇に伴って増加した。図6に示す測定結果によると、フッ化物含有リン酸の温度が130℃を超える範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度(図7中の一点鎖線参照)は、ほぼ一定であり、窒化ケイ素膜のエッチング速度(図7中の二点鎖線参照)は、温度の上昇に伴って増加すると予想される。
【0082】
図7に示すように、フッ化物含有リン酸の温度が130℃未満の範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きかった。フッ化物含有リン酸の温度が130℃を超える範囲では、酸化ケイ素膜のエッチング速度が窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも小さいと予想される。酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度との差は、フッ化物含有リン酸の温度が130℃に近づくにしたがって減少した。
【0083】
図6図7において酸化ケイ素膜のエッチング速度を示す折れ線と窒化ケイ素膜のエッチング速度を示す折れ線とが交わるときのフッ化物含有リン酸の温度を等速温度と定義する。フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度とフッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度とが決まると、等速温度が1つ決まる。すなわち、等速温度とは、フッ化物含有リン酸中のフッ化物の濃度に依存し、当該濃度において酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが等しくなるときのフッ化物含有リン酸の温度をいう。反対に、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度とフッ化物含有リン酸の温度とが決まると、フッ化物等速濃度が1つ決まる。フッ化物等速濃度は、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが等しいときのフッ化物の濃度である。
【0084】
図4図5に示す結果から、リン酸にフッ化物を加えると、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが増加することが分かる。加えて、図4図5に示す結果から、フッ化物含有リン酸の温度が一定であれば、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とは、フッ化物の濃度が増加するにしたがって増加することが分かる。図4図5に示す結果から分かるように、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度がある値(図4では、0.15wt%、図5では、0.3wt%)を超えると、酸化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度の増加に伴って、窒化ケイ素膜のエッチング速度よりも大きな割合で増加する。
【0085】
図6図7に示す結果から、酸化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が変化しても大幅に変化せず、窒化ケイ素膜のエッチング速度は、フッ化物含有リン酸の温度が増加するにしたがって増加することが分かる。加えて、図6図7に示す結果から、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度が一定であれば、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが等しい等速温度(図6図7では、酸化ケイ素膜のエッチング速度を示す折れ線と窒化ケイ素膜のエッチング速度を示す折れ線との交点の温度)が1つ存在することが分かる。図6図7に示す結果から分かるように、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度が増加すると、等速温度も増加する。
【0086】
図4図7に示す結果から、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度と、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度と、を安定させながら、フッ化物含有リン酸を等速温度またはその付近に維持すれば、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができることが分かる。フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度を増加させると、酸化ケイ素膜のエッチング速度が増加し、等速温度に対応する窒化ケイ素膜のエッチング速度も増加する。したがって、前記の条件に加えて、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度をできるだけ大きな値に維持すれば、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を等しいまたはほぼ等しい大きなエッチング速度でエッチングすることができる。
【0087】
前述のメモリーホール104の内周面105の底側部分105bのエッチングでは(図1G参照)、等速温度に一致するまたは近づけた一定のエッチング温度のフッ化物含有リン酸を基板Wに供給する。これにより、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bを構成する酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜を等しいまたはほぼ等しい大きなエッチング速度でエッチングすることができる。エッチング温度は、選択比(窒化ケイ素膜のエッチング速度/酸化ケイ素膜のエッチング速度)が0.9~1.1であり、酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが3~14nm/minになるように設定してもよいし、選択比と、酸化ケイ素膜のエッチング速度と、窒化ケイ素膜のエッチング速度との少なくとも一つが前記の範囲外の値になるように設定してもよい。
【0088】
ここまでは、フッ化アンモニウムを含むフッ化物含有リン酸で酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜をエッチングする場合について説明したが、フッ化物含有リン酸に含まれるフッ化物は、二フッ化アンモニウムなどのフッ化アンモニウム以外のフッ化物であってもよい。二フッ化アンモニウムが水に溶解すると、「NHHF⇔NHF+HF」で示される通り、フッ化アンモニウムとフッ化水素とに分解する。したがって、二フッ化アンモニウムを含むフッ化物含有リン酸は、フッ化アンモニウムを含むフッ化物含有リン酸と同様の特性を有すると考えられる。
【0089】
次に、フッ化物含有リン酸を基板Wに供給する基板処理装置1について説明する。最初に、バッチ式の基板処理装置1について説明し、その後、枚葉式の基板処理装置1について説明する。
【0090】
図8は、本発明の一実施形態に係るバッチ式の基板処理装置1のレイアウトを示す概略平面図である。
【0091】
基板処理装置1は、複数枚の基板Wを一括して処理するバッチ式の装置である。基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを収容するキャリアCを保持するロードポートLPと、ロードポートLPから搬送された基板Wを薬液やリンス液などの処理液で処理する処理ユニット2と、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送システムと、基板処理装置1を制御する制御装置3とを含む。
【0092】
制御装置3は、プログラム等の情報を記憶するメモリーと、メモリーに記憶されたプログラムにしたがって基板処理装置1を制御するCPU(central processing unit)と、を含むコンピューターである。制御装置3は、基板処理装置1を制御することにより、以下で説明する基板Wの搬送および処理等を行う。言い換えると、制御装置3は、以下で説明する基板Wの搬送および処理等を行うようにプログラミングされている。
【0093】
処理ユニット2は、複数枚の基板Wが浸漬される処理液を貯留する複数対の液処理槽4と、減圧乾燥などの乾燥方法により複数枚の基板Wを乾燥させる乾燥処理槽8とを含む。減圧乾燥は、気圧を減少させることにより基板Wに付着している液体を蒸発させる乾燥方法である。複数対の液処理槽4は、平面視で基板処理装置1の奥行方向(図8の紙面の左右方向)に直線状に並んでいる。乾燥処理槽8は、平面視で基板処理装置1の奥行方向における搬送システムと複数対の液処理槽4との間に配置されている。
【0094】
搬送システムは、ロードポートLPと処理ユニット2との間でキャリアCを搬送し、複数のキャリアCを収容するキャリア搬送装置9と、キャリア搬送装置9に保持されているキャリアCに対して複数枚の基板Wの搬入および搬出を行い、水平な姿勢と鉛直な姿勢との間で基板Wの姿勢を変更する姿勢変換ロボット10とを含む。姿勢変換ロボット10は、複数のキャリアCから取り出した複数枚の基板Wで1つのバッチを形成するバッチ組み動作と、1つのバッチに含まれる複数枚の基板Wを複数のキャリアCに収容するバッチ解除動作とを行う。
【0095】
搬送システムは、さらに、姿勢変換ロボット10と処理ユニット2との間で複数枚の基板Wを搬送する主搬送ロボット11と、主搬送ロボット11と処理ユニット2との間で複数枚の基板Wを搬送する複数の副搬送ロボット12とを含む。図8は、2つの副搬送ロボット12と二対の液処理槽4とが設けられた例を示している。副搬送ロボット12は、対をなす2つの液処理槽4のそれぞれに対して複数枚の基板Wの搬入および搬出を行うと共に、対をなす2つの液処理槽4の間で複数枚の基板Wを搬送する。
【0096】
主搬送ロボット11は、複数枚(例えば50枚)の基板Wからなる1バッチの基板Wを姿勢変換ロボット10から受け取り、受け取った1バッチの基板Wを複数の副搬送ロボット12のいずれかに渡す。副搬送ロボット12は、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wを少なくとも1つの液処理槽4内の処理液に浸漬させる。その後、主搬送ロボット11は、1バッチの基板Wを副搬送ロボット12から受け取り、受け取った1バッチの基板Wを乾燥処理槽8に搬入する。
【0097】
複数の液処理槽4は、複数枚の基板Wが浸漬される加熱液を貯留する加熱処理槽5と、複数枚の基板Wが浸漬される薬液を貯留する薬液処理槽6と、複数枚の基板Wが浸漬されるリンス液を貯留するリンス処理槽7とを含む。加熱処理槽5、薬液処理槽6、およびリンス処理槽7は、平面視においてこの順番で基板処理装置1の奥行方向に直線状に並んでいる。乾燥処理槽8は、平面視で基板処理装置1の奥行方向における搬送システムとリンス処理槽7との間に配置されている。
【0098】
加熱液は、リン酸であり、薬液は、フッ化物含有リン酸であり、リンス液は、純水である。加熱液は、純水などのリン酸以外の液体であってもよい。同様に、リンス液は、純水以外の液体であってもよい。例えば、リンス液は、IPA(イソプロピルアルコール)、電解イオン水、水素水、オゾン水、希釈濃度(例えば、10~100ppm程度)の塩酸水、および希釈濃度(例えば、10~100ppm程度)のアンモニア水のいずれかであってもよい。
【0099】
基板処理装置1には、図1Fに示すような酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1が露出した基板Wが搬送される。搬送システムは、1バッチの基板Wを、加熱処理槽5、薬液処理槽6、リンス処理槽7、および乾燥処理槽8にこの順番で順次搬送する。したがって、ロードポートLPを通じて基板処理装置1に搬入された基板Wは、リン酸、フッ化物含有リン酸、および純水にこの順番で順次接触し、乾燥させられる。フッ化物含有リン酸を基板Wに供給することにより、図1Gに示すように、メモリーホール104の内周面105の底側部分105bがエッチングされる。基板Wに付着しているフッ化物含有リン酸は、純水によって洗い流される。純水で濡れた基板Wは、乾燥処理槽8で乾燥する。乾燥した基板Wは、ロードポートLPを通じて基板処理装置1から搬出される。
【0100】
加熱処理槽5内のリン酸と薬液処理槽6内のフッ化物含有リン酸とは、100℃以上の一定の温度に維持されている。リンス処理槽7の純水は、室温(15~30℃内の一定またはほぼ一定の温度)であってもよいし、室温よりも高いまたは低い一定の温度に維持されていてもよい。リン酸の温度は、例えば100~150℃の範囲内であり、フッ化物含有リン酸の温度は、例えば100~150℃の範囲内である。リン酸の温度は、フッ化物含有リン酸の温度と等しくてもよいし、フッ化物含有リン酸の温度よりも高いまたは低くてもよい。加熱処理槽5内のリン酸によって基板Wが加熱されるので、薬液処理槽6には、加熱処理槽5内のリン酸と同じまたはほぼ同じの温度の基板Wが搬送される。
【0101】
加熱液がリン酸である場合、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1を加熱液に接触させると、僅かではあるが、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1がエッチングされる。このようなエッチングが好ましくなければ、純水などの酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングしない液体を加熱液として用いればよい。加熱液がリン酸である場合、フッ化物含有リン酸用のリン酸配管35(図9参照)を加熱液用の配管として利用できる。
【0102】
図9は、薬液処理槽6の鉛直断面の一例を示す概略図である。図示はしないが、加熱処理槽5およびリンス処理槽7は、薬液処理槽6と同様の構成を備えている。
【0103】
薬液処理槽6は、フッ化物含有リン酸を貯留する内槽21と、内槽21からあふれたフッ化物含有リン酸を貯留する外槽22とを含む。複数枚の基板Wは、内槽21の中に入れられ、内槽21内のフッ化物含有リン酸に浸漬される。これにより、フッ化物含有リン酸が複数枚の基板Wに接触し、複数枚の基板Wがエッチングされる。
【0104】
副搬送ロボット12は、複数枚の基板Wを鉛直な姿勢で保持する複数のホルダー23と、ホルダー23に保持されている複数枚の基板Wが内槽21内のフッ化物含有リン酸から上方に離れた上位置と、ホルダー23に保持されている複数枚の基板Wが内槽21内のフッ化物含有リン酸に浸漬される下位置(図9に示す位置)と、の間で複数のホルダー23を鉛直に昇降させるリフター24とを含む。ホルダー23に保持されている複数枚の基板Wは、内槽21の上端部に設けられた開口部を通じて内槽21の中に入り、内槽21の開口部を通じて内槽21の外に出る。
【0105】
基板処理装置1は、薬液処理槽6内のフッ化物含有リン酸を循環させながら加熱する循環加熱システムを含む。循環加熱システムは、外槽22内のフッ化物含有リン酸を内槽21の方に案内する循環配管25と、循環配管25内のフッ化物含有リン酸を内槽21の方に送る循環ポンプ26と、循環配管25内を流れるフッ化物含有リン酸を室温よりも高い温度で加熱するヒーター27と、循環配管25内を流れるフッ化物含有リン酸から異物を除去するフィルター28とを含む。
【0106】
循環加熱システムは、さらに、循環配管25から供給されたフッ化物含有リン酸を内槽21内に配置された吐出口29pから吐出することにより、フッ化物含有リン酸を内槽21内に供給すると共に、内槽21内のフッ化物含有リン酸中に上昇流を形成する薬液ノズル29を含む。図9は、2つの薬液ノズル29が設けられた例を示している。この例では、循環配管25は、外槽22から下流に延びる上流配管25uと、上流配管25uから分岐した2つの下流配管25dとを含む。一方の薬液ノズル29は、一方の下流配管25dの下流端に取り付けられており、他方の薬液ノズル29は、他方の下流配管25dの下流端に取り付けられている。
【0107】
内槽21、外槽22、循環配管25、および薬液ノズル29は、フッ化物含有リン酸を循環させる循環路を形成している。薬液処理槽6内のフッ化物含有リン酸の量は、内槽21の容積(内槽21が貯留できるフッ化物含有リン酸の最大量)よりも多い。循環ポンプ26は、常時、循環配管25の上流端から循環配管25の下流端にフッ化物含有リン酸を送る。したがって、フッ化物含有リン酸は、内槽21から外槽22にあふれ続け、循環路を循環する。フッ化物含有リン酸は、循環路を循環している間にヒーター27によって加熱され、室温よりも高い一定の温度に維持される。
【0108】
循環加熱システムは、循環配管25から排出されたフッ化物含有リン酸を案内するドレイン配管30と、循環配管25からドレイン配管30にフッ化物含有リン酸が排出される開状態と循環配管25からドレイン配管30にフッ化物含有リン酸が排出されない閉状態との間で切り替わるドレインバルブ31とを含む。ドレイン配管30は、循環ポンプ26の下流で循環配管25に接続されている。ドレインバルブ31が開かれると、循環配管25内のフッ化物含有リン酸がドレイン配管30に流れ、循環配管25から排出される。
【0109】
基板処理装置1は、薬液処理槽6にフッ化物含有リン酸を供給する供給システムを含む。供給システムは、純水供給源から薬液処理槽6に純水を案内する純水配管32と、リン酸供給源から薬液処理槽6にリン酸を案内するリン酸配管35と、フッ化物供給源から薬液処理槽6にフッ化物含有液を案内するフッ化物配管38とを含む。フッ化物含有液は、フッ化物の液体またはフッ化物を溶解させた溶液である。フッ化物含有液におけるフッ化物の濃度は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度よりも高い。
【0110】
供給システムは、純水配管32に取り付けられた純水バルブ34と、リン酸配管35に取り付けられたリン酸バルブ37と、フッ化物配管38に取り付けられたフッ化物バルブ40とを含む。リン酸バルブ37は、リン酸配管35内のリン酸が薬液処理槽6に供給される開状態と、リン酸配管35内のリン酸が薬液処理槽6に供給されない閉状態と、の間で切り替わる。純水バルブ34およびフッ化物バルブ40についても同様である。
【0111】
図示はしないが、リン酸バルブ37は、液体が流れる内部流路と内部流路の一部を形成する環状の弁座とが設けられたバルブボディと、弁座に対して移動可能な弁体と、弁体が弁座に接触する閉位置と弁体が弁座から離れた開位置との間で弁体を移動させるアクチュエータとを含む。他のバルブについても同様である。アクチュエータは、空圧アクチュエータまたは電動アクチュエータであってもよいし、これら以外のアクチュエータであってもよい。制御装置3は、アクチュエータを制御することにより、リン酸バルブ37を開閉させる。
【0112】
制御装置3がリン酸バルブ37を開くと、つまり、閉状態から開状態に切り替えると、リン酸配管35内のリン酸が薬液処理槽6に供給される。同様に、制御装置3が純水バルブ34を開くと、純水配管32内の純水が薬液処理槽6に供給され、制御装置3がフッ化物バルブ40を開くと、フッ化物配管38内のフッ化物含有液が薬液処理槽6に供給される。リン酸、純水、およびフッ化物含有液は、内槽21および外槽22の少なくとも一方に供給される。図9は、リン酸等が外槽22に供給される例を示している。
【0113】
純水またはフッ化物含有液を純水配管32またはフッ化物配管38から薬液処理槽6に供給すると、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度が純水またはフッ化物含有液の供給量に応じて減少する。リン酸をリン酸配管35から薬液処理槽6に供給すると、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度がリン酸の供給量に応じて増加する。
【0114】
同様に、リン酸または純水をリン酸配管35または純水配管32から薬液処理槽6に供給すると、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度がリン酸または純水の供給量に応じて減少する。フッ化物含有液をフッ化物配管38から薬液処理槽6に供給すると、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度がフッ化物含有液の供給量に応じて増加する。
【0115】
制御装置3は、純水配管32から薬液処理槽6に供給される純水の流量を測定する純水流量計33に電気的に接続されている。同様に、制御装置3は、リン酸配管35から薬液処理槽6に供給されるリン酸の流量を測定するリン酸流量計36に電気的に接続されており、フッ化物配管38から薬液処理槽6に供給されるフッ化物含有液の流量を測定するフッ化物流量計39に電気的に接続されている。
【0116】
制御装置3は、純水流量計33の測定値に基づいて薬液処理槽6に供給された純水の量を検出する。同様に、制御装置3は、リン酸流量計36の測定値に基づいて薬液処理槽6に供給されたリン酸の量を検出し、フッ化物流量計39の測定値に基づいて薬液処理槽6に供給されたフッ化物含有液の量を検出する。フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度と、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度とは、薬液処理槽6に供給された液体の量および種類に応じて変化する。
【0117】
制御装置3は、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度を測定するリン酸濃度計C1と、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度を測定するフッ化物濃度計C2と、に電気的に接続されている。制御装置3は、さらに、フッ化物含有リン酸の温度を検出する温度計T1に電気的に接続されている。図9は、リン酸濃度計C1およびフッ化物濃度計C2が、内槽21内のフッ化物含有リン酸の濃度を測定し、温度計T1が、内槽21内のフッ化物含有リン酸の温度を測定する例を示している。リン酸濃度計C1は、外槽22内のフッ化物含有リン酸の濃度を測定してもよいし、循環配管25内のフッ化物含有リン酸の濃度を測定してもよい。フッ化物濃度計C2および温度計T1についても同様である。
【0118】
制御装置3は、リン酸濃度計C1の測定値に基づいてフッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度を検出する。検出されたリン酸の濃度がリン酸設定濃度とは異なる場合、制御装置3は、リン酸、純水、およびフッ化物含有液の少なくとも一つを薬液処理槽6に供給し、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度をリン酸設定濃度に近づける。これにより、フッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度をリン酸設定濃度に維持することができる。
【0119】
同様に、制御装置3は、フッ化物濃度計C2の測定値に基づいてフッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度を検出する。検出されたフッ化物の濃度がフッ化物設定濃度とは異なる場合、制御装置3は、リン酸、純水、およびフッ化物含有液の少なくとも一つを薬液処理槽6に供給し、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度をフッ化物設定濃度に近づける。これにより、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度をフッ化物設定濃度に維持することができる。
【0120】
制御装置3は、また、温度計T1の測定値に基づいてフッ化物含有リン酸の温度を検出する。検出されたフッ化物含有リン酸の温度がエッチング温度よりも高い場合、制御装置3は、ヒーター27の温度を減少させる。検出されたフッ化物含有リン酸の温度がエッチング温度よりも低い場合、制御装置3は、ヒーター27の温度を増加させる。これにより、フッ化物含有リン酸の温度を増加または減少させることができ、エッチング温度に維持することができる。
【0121】
「リン酸設定濃度」は、基板Wに供給すべきフッ化含有リン酸におけるリン酸の濃度の設定値を表す。「フッ化物設定濃度」は、基板Wに供給すべきフッ化含有リン酸におけるフッ化物の濃度の設定値を表す。「エッチング温度」は、基板Wに供給すべきフッ化含有リン酸の温度の設定値を表す。リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、およびエッチング温度は、ユーザーによって基板処理装置1に直接または間接的に入力されてもよいし、制御装置3に記憶されていてもよい。
【0122】
リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、およびエッチング温度が、制御装置3に記憶されている場合、リン酸設定濃度等は、制御装置3に記憶されたレシピで指定されていてもよい。レシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順を規定する情報である。制御装置3は、複数のレシピを記憶している。複数のレシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順の少なくとも一つにおいて互いに異なる。制御装置3は、ホストコンピュータによって指定されたレシピにしたがって基板Wが処理されるように基板処理装置1を制御する。
【0123】
リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、およびエッチング温度は、酸化ケイ素膜O1のエッチング速度と窒化ケイ素膜N1のエッチング速度とが等しくなるまたはほぼ等しくなるように設定されている。言い換えると、選択比が1またはほぼ1になるように、リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、およびエッチング温度が設定されている。したがって、薬液処理槽6内のフッ化含有リン酸に接触した酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1は、等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングされる。
【0124】
図4図7に示す結果から分かる通り、選択比は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度が増加するにしたがって減少し、フッ化物含有リン酸の温度が等速温度(酸化ケイ素膜のエッチング速度と窒化ケイ素膜のエッチング速度とが等しい温度)から離れるにしたがって増加または減少する。選択比が意図的に1とは異なる値になるように、リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、およびエッチング温度を設定してもよい。
【0125】
図10は、薬液処理槽6の鉛直断面の他の例を示す概略図である。
【0126】
図10に示す薬液処理槽6が図9に示す薬液処理槽6に対して主として異なる点は、リン酸、純水、およびフッ化物含有液を混合する混合タンク41が設けられていることである。
【0127】
薬液処理槽6にフッ化物含有リン酸を供給する供給システムは、薬液処理槽6に供給すべきフッ化物含有リン酸を貯留する混合タンク41と、混合タンク41から薬液処理槽6にフッ化物含有リン酸を案内する供給配管42と、供給配管42を通じて混合タンク41から薬液処理槽6にフッ化物含有リン酸を送る供給ポンプ43とを含む。供給システムは、さらに、薬液処理槽6から混合タンク41にフッ化物含有リン酸を案内する回収配管44と、フッ化物含有リン酸が回収配管44から混合タンク41に流れる開状態とフッ化物含有リン酸が回収配管44から混合タンク41に流れない閉状態との間で切り替わる回収バルブ45とを含む。
【0128】
供給配管42は、混合タンク41から内槽21にフッ化物含有リン酸を案内し、回収配管44は、外槽22から混合タンク41にフッ化物含有リン酸を案内する。薬液ノズル29は、供給配管42によって案内されたフッ化物含有リン酸を内槽21に向けて吐出する。薬液ノズル29は、内槽21および外槽22の両方に向けてフッ化物含有リン酸を吐出してもよい。混合タンク41、供給配管42、薬液ノズル29、内槽21、外槽22、および回収配管44は、フッ化物含有リン酸を循環させる循環路を形成している。供給ポンプ43は、常時、供給配管42の上流端から供給配管42の下流端にフッ化物含有リン酸を送る。
【0129】
循環配管25の上流端および下流端は、内槽21および外槽22ではなく、混合タンク41に接続されている。混合タンク41および循環配管25は、薬液処理槽6とは独立した、つまり、薬液処理槽6を通らない循環路を形成している。リン酸配管35、純水配管32、およびフッ化物配管38は、混合タンク41に接続されている。リン酸配管35、純水配管32、およびフッ化物配管38から混合タンク41に供給されたリン酸、純水、およびフッ化物含有液は、混合タンク41内で混合され、供給配管42および薬液ノズル29を介して薬液処理槽6に供給される。リン酸濃度計C1、フッ化物濃度計C2、および温度計T1は、混合タンク41内のフッ化物含有リン酸の濃度または温度を測定する。
【0130】
制御装置3は、混合タンク41内のフッ化物含有リン酸におけるリン酸の濃度をリン酸設定濃度に維持し、混合タンク41内のフッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度をフッ化物設定濃度に維持する。制御装置3は、さらに、混合タンク41内のフッ化物含有リン酸の温度をエッチング温度に維持する。これにより、リン酸の濃度、フッ化物の濃度、および、フッ化物含有リン酸の温度が、リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、エッチング温度に一致するまたはほぼ一致するフッ化物含有リン酸を混合タンク41から薬液処理槽6に供給することができ、このフッ化物含有リン酸で内槽21内の複数枚の基板Wをエッチングすることができる。
【0131】
次に、枚葉式の基板処理装置1について説明する。
【0132】
図11Aは、本発明の一実施形態に係る枚葉式の基板処理装置1のレイアウトを示す概略平面図である。図11Bは、枚葉式の基板処理装置1の概略側面図である。
【0133】
図11Aに示すように、基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを1枚ずつ処理する枚葉式の装置である。基板処理装置1は、基板Wを収容するキャリアCを保持するロードポートLPと、ロードポートLP上のキャリアCから搬送された基板Wを処理する複数の処理ユニット2と、ロードポートLP上のキャリアCと複数の処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送システムと、基板処理装置1を制御する制御装置3とを備えている。
【0134】
搬送システムは、ロードポートLP上のキャリアCに対して基板Wの搬入および搬出を行うインデクサロボットIRと、それぞれの処理ユニット2に対して基板Wの搬入および搬出を行うセンターロボットCRとを含む。インデクサロボットIRは、ロードポートLPとセンターロボットCRとの間で基板Wを搬送し、センターロボットCRは、インデクサロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。センターロボットCRは、基板Wを支持するハンドH1を含み、インデクサロボットIRは、基板Wを支持するハンドH2を含む。
【0135】
複数の処理ユニット2は、平面視でセンターロボットCRのまわりに配置された複数のタワーTWを形成している。図11Aは、4つのタワーTWが形成された例を示している。センターロボットCRは、いずれのタワーTWにもアクセス可能である。図11Bに示すように、各タワーTWは、上下に積層された複数(例えば3つ)の処理ユニット2によって構成されている。
【0136】
図12は、処理ユニット2の内部を水平に見た概略図である。
【0137】
処理ユニット2は、内部空間を有する箱型のチャンバー52と、チャンバー52内で1枚の基板Wを水平に保持しながら基板Wの中央部を通る鉛直な回転軸線A1まわりに回転させるスピンチャック57(基板ホルダ)と、スピンチャック57に保持されている基板Wに向けて処理液や処理ガスなどの処理流体を吐出する複数のノズルと、スピンチャック57および基板Wから外方に飛散した処理液を受け止める筒状の処理カップ63とを含む。
【0138】
チャンバー52は、センターロボットCR(図11A参照)によって搬送される基板Wが通過する搬入搬出口53bが設けられた箱型の隔壁53と、搬入搬出口53bを開閉するシャッター54とを含む。クリーンエアー(フィルターによってろ過された空気)をチャンバー52内に送るFFU51(ファン・フィルター・ユニット51)は、隔壁53の天井面で開口する送風口53aの上に配置されている。送風口53aは、チャンバー52の上端部に設けられており、チャンバー52内の気体を排出する排気ダクト56は、チャンバー52の下端部に配置されている。
【0139】
チャンバー52は、チャンバー52の内部空間を上空間Suと下空間SLとに仕切る整流板55を含む。隔壁53の天井面と整流板55の上面との間の上空間Suは、クリーンエアーが拡散する拡散空間である。整流板55の下面と隔壁53の床面との間の下空間SLは、基板Wの処理が行われる処理空間である。スピンチャック57は、下空間SLに配置されている。基板Wの処理は、クリーンエアーの下降流が下空間SLに形成されている状態で行われる。
【0140】
スピンチャック57は、基板Wを水平に挟む複数のチャックピン58と、複数のチャックピン58を支持する円板状のスピンベース59とを含む。スピンチャック57は、さらに、スピンベース59の中央部から下方に延びるスピン軸60と、スピン軸60を回転させることにより複数のチャックピン58およびスピンベース59を回転させる電動モータ61と、電動モータ61を取り囲むチャックハウジング62とを含む。スピンチャック57は、バキュームチャックなどの他の形式のチャックであってもよい。
【0141】
処理カップ63は、スピンチャック57および基板Wから外方に飛散した処理液を受け止める複数のガード64と、複数のガード64によって下方に案内された処理液を受け止める複数のカップ65とを含む。図12は、2つのガード64と2つのカップ65とが設けられており、最も外側のカップ65が外側から2番目のガード64と一体である例を示している。
【0142】
複数のガード64は、複数のガード64を鉛直方向に個別に昇降させるガード昇降ユニット66に接続されている。ガード昇降ユニット66は、上位置から下位置までの範囲内の任意の位置にガード64を位置させる。図12は、2つのガード64が下位置に配置された状態を示している。上位置は、スピンチャック57による基板Wの保持位置よりもガード64の上端が上方に配置される位置である。下位置は、スピンチャック57による基板Wの保持位置よりもガード64の上端が下方に配置される位置である。スピンチャック57による基板Wの保持位置は、スピンチャック57に保持されている基板Wが配置される位置である。
【0143】
回転している基板Wに処理液を供給するとき、制御装置3は、ガード昇降ユニット66を制御することにより、少なくとも一つのガード64を上位置に位置させる。この状態で、処理液が基板Wに供給されると、処理液は、基板Wから外方に振り切られる。振り切られた処理液は、基板Wに水平に対向するガード64の内周面に衝突し、このガード64に対応するカップ65に案内される。これにより、基板Wから排出された処理液がカップ65に集められる。
【0144】
複数のノズルは、スピンチャック57に保持されている基板Wの上面に向けて加熱液を吐出する加熱流体ノズル67と、スピンチャック57に保持されている基板Wの上面に向けてフッ化物含有リン酸を吐出する薬液ノズル71と、スピンチャック57に保持されている基板Wの上面に向けてリンス液を吐出するリンス液ノズル75とを含む。
【0145】
薬液ノズル71は、基板Wに対する薬液の衝突位置を基板Wの上面内で移動させることができるスキャンノズルであってもよいし、基板Wに対する薬液の衝突位置を移動させることができない固定ノズルであってもよい。他のノズルについても同様である。図12は、薬液ノズル71および加熱流体ノズル67がスキャンノズルであり、リンス液ノズル75が固定ノズルである例を示している。
【0146】
図12に示す例では、加熱流体ノズル67は、ノズル移動ユニット70に接続されており、薬液ノズル71は、ノズル移動ユニット74に接続されている。ノズル移動ユニット74は、薬液ノズル71から吐出された薬液が基板Wの上面に衝突する処理位置と、薬液ノズル71が平面視でスピンチャック57のまわりに位置する待機位置と、の間で薬液ノズル71を水平に移動させる。ノズル移動ユニット70についても同様である。
【0147】
加熱流体ノズル67は、加熱液の一例であるリン酸を加熱液供給源から加熱流体ノズル67に案内する加熱液配管68に接続されている。加熱液配管68に取り付けられた加熱液バルブ69を制御装置3が開くと、加熱流体ノズル67が、高温(例えば100~150℃)のリン酸を吐出し、制御装置3が加熱液バルブ69を閉じると、加熱流体ノズル67がリン酸の吐出を停止する。加熱流体は、リン酸以外の加熱液であってもよいし、窒素ガスなどの加熱ガスであってもよい。
【0148】
薬液ノズル71は、薬液の一例であるフッ化物含有リン酸を薬液供給源から薬液ノズル71に案内する薬液配管72に接続されている。薬液配管72に取り付けられた薬液バルブ73を制御装置3が開くと、薬液ノズル71が、高温(例えば100~150℃)のフッ化物含有リン酸を吐出し、制御装置3が薬液バルブ73を閉じると、薬液ノズル71がフッ化物含有リン酸の吐出を停止する。
【0149】
薬液ノズル71に供給されるフッ化物含有リン酸は、例えば、図10に示す混合タンク41内のフッ化物含有リン酸である。これにより、リン酸の濃度、フッ化物の濃度、および温度が、リン酸設定濃度、フッ化物設定濃度、エッチング温度に一致するまたはほぼ一致するフッ化物含有リン酸を、薬液ノズル71に吐出させることができ、スピンチャック57に保持されている基板Wに供給することができる。
【0150】
図10に示す混合タンク41内のフッ化物含有リン酸を薬液ノズル71に供給する場合、薬液配管72を、混合タンク41に直接接続してもよいし、循環配管25を介して混合タンク41に接続してもよい。前者の場合、図10に示す供給配管42を薬液配管72として用いてもよい。より具体的には、薬液ノズル71および薬液バルブ73を、薬液配管72としての供給配管42に取り付けてもよい。カップ65に集められたフッ化物含有リン酸を、回収配管44を介して混合タンク41に回収してもよい。
【0151】
リンス液ノズル75は、リンス液の一例である純水をリンス液供給源からリンス液ノズル75に案内するリンス液配管76に接続されている。リンス液配管76に取り付けられたリンス液バルブ77を制御装置3が開くと、リンス液ノズル75がリンス液を吐出し、制御装置3がリンス液バルブ77を閉じると、リンス液ノズル75がリンス液の吐出を停止する。リンス液ノズル75から吐出されるリンス液は、室温であってもよいし、室温よりも高いまたは低くてもよい。
【0152】
基板処理装置1には、図1Fに示すような酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1が露出した基板Wが搬送される。搬送システムは、1枚の基板WをロードポートLP上のキャリアCから処理ユニット2に搬入する。搬入された1枚の基板Wが処理ユニット2で処理された後、搬送システムは、処理済みの1枚の基板Wを処理ユニット2からロードポートLP上のキャリアCに搬送する。したがって、ロードポートLPを通じて基板処理装置1に搬入された基板Wは、処理ユニット2で処理された後、ロードポートLPを通じて基板処理装置1から搬出される。
【0153】
制御装置3は、センターロボットCRによって1枚の基板Wがスピンチャック57に搬送された後、スピンチャック57に基板Wを保持および回転させる。この状態で、制御装置3は、加熱流体ノズル67、薬液ノズル71、およびリンス液ノズル75に、リン酸、フッ化物含有リン酸、および純水をこの順番で順次吐出させる。これにより、リン酸、フッ化物含有リン酸、および純水が、この順番で基板Wの上面の全域に順次供給される。その後、制御装置3は、スピンチャック57を高速回転させることにより、基板Wを乾燥させる。基板Wが乾燥した後、制御装置3は、スピンチャック57の回転を停止し、スピンチャック57に基板Wの保持を解除させる。その後、制御装置3は、スピンチャック57上の処理済みの基板WをセンターロボットCRに搬送させる。
【0154】
以上のように本実施形態では、フッ化物を含むリン酸であるフッ化物含有リン酸を、基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させることにより、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をフッ化物含有リン酸でエッチングする。フッ化物含有リン酸は、フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度において酸化ケイ素膜O1のエッチング速度と窒化ケイ素膜N1のエッチング速度とが互いに等しい等速温度に一致するまたは近づけたエッチング温度に維持されている。したがって、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる。
【0155】
本実施形態では、酸化ケイ素膜O1のエッチング速度と窒化ケイ素膜N1のエッチング速度とを増加させるフッ化物を含むエッチング温度のフッ化物含有リン酸を、基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させる。これにより、フッ化物を含まないリン酸で酸化ケイ素膜O1をエッチングしたときよりも大きなエッチング速度で酸化ケイ素膜O1をエッチングでき、フッ化物を含まないリン酸で窒化ケイ素膜N1をエッチングしたときよりも大きなエッチング速度で窒化ケイ素膜N1をエッチングできる。その結果、基板Wの処理時間を短縮でき、電力などのエネルギーの消費を削減できる。
【0156】
本実施形態では、選択比が温度に応じて変化するフッ化物含有リン酸を等速温度またはその付近の温度に維持し、この温度のフッ化物含有リン酸を基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させる。フッ化物含有リン酸におけるフッ化物の濃度が一定の場合、選択比は、フッ化物含有リン酸の温度にかかわらず一定ではなく、フッ化物含有リン酸の温度に応じて増加または減少する。したがって、フッ化物含有リン酸の温度を制御することにより、選択比が1またはその付近になるように酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングしたり、選択比が1を超えるまたは下回るように酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングしたりすることができる。
【0157】
本実施形態では、フッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムを含むエッチング温度のフッ化物含有リン酸を、基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させる。これにより、酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1を等しいまたはほぼ等しいエッチング速度でエッチングすることができる。フッ化物がフッ化ナトリウム(NaF)やフッ化カリウム(KF)などのアルカリ金属のフッ化物である場合、基板Wが金属で汚染されるおそれがある。フッ化物がフッ化アンモニウムまたは二フッ化水素アンモニウムである場合、このようなおそれがない。したがって、基板Wの清浄度の低下を防止しながら、前記のように酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングすることができる。
【0158】
本実施形態では、選択比(窒化ケイ素膜N1のエッチング速度/酸化ケイ素膜O1のエッチング速度)が0.9~1.1の範囲内の値になるようにフッ化物含有リン酸の温度を調節し、この温度のフッ化物含有リン酸を基板Wに形成された酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1に接触させる。酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1は、0.9~1.1の範囲内の選択比でエッチングされる。これにより、フッ化物を含まないリン酸で酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングしたときのように、酸化ケイ素膜O1が殆どエッチングされない一方で、窒化ケイ素膜N1が酸化ケイ素膜O1のエッチング速度よりも大きなエッチング速度でエッチングされることを防止できる。
【0159】
本実施形態では、複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1を基板Wの厚み方向Dtに貫通するメモリーホール104の中にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する。フッ化物含有リン酸は、メモリーホール104の内周面105を構成する複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1に接触し、これらをエッチングする。エッチング前のメモリーホール104の内周面105の縦断面(基板Wの厚み方向Dtと平行で且つメモリーホール104の中心線を含む平面で切断した断面)が直線状である場合、フッ化物を含まないリン酸でメモリーホール104の内周面105をエッチングすると、メモリーホール104の内周面105の縦断面が波線状に変化することがある。エッチング温度のフッ化物含有リン酸をメモリーホール104内に供給すれば、このような変化を防止または緩和できる。
【0160】
本実施形態では、基板Wの厚み方向Dtへの位置に応じて直径が変化するメモリーホール104の中にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する前に、基板Wの厚み方向Dtにおけるメモリーホール104の内周面105の一部の範囲の全体を、保護膜115などの保護物質で覆い、その後、保護物質で覆われていないメモリーホール104の内周面105の残りの部分にエッチング温度のフッ化物含有リン酸を接触させる。これにより、メモリーホール104の内周面105の残りの部分を選択的にエッチングでき、メモリーホール104の形状を意図的に変化させることができる。
【0161】
本実施形態では、加熱によりエッチング温度に維持されたフッ化物含有リン酸を基板Wに接触させる前に、基板Wを加熱し一定の温度に維持する。これにより、室温の基板Wにエッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給した場合に比べて、短時間で酸化ケイ素膜O1および窒化ケイ素膜N1をエッチングできる。さらに、フッ化物含有リン酸に接触する前の基板Wの温度を安定させるので、複数枚の基板Wをエッチング温度のフッ化物含有リン酸に順次接触させる場合に、複数枚の基板Wの間でエッチング量を安定させることができる。
【0162】
他の実施形態
メモリーホール104の横断面、つまり、基板Wの厚み方向Dtに対して直交する平面に沿うメモリーホール104の断面は、円形に限らず、楕円または多角形などの円形以外の形状であってもよい。
【0163】
メモリーホール104の直径は、メモリーホール104の底に近づくにしたがって、連続的ではなく、段階的に減少していてもよい。メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が連続的に減少した部分と、メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が段階的に減少した部分とが、メモリーホール104の内周面105に含まれていてもよい。
【0164】
メモリーホール104の直径は、基板Wの最表面103からメモリーホール104の底までメモリーホール104の底に近づくにしたがって連続的または段階的に増加していてもよい。メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が連続的に増加した部分と、メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が段階的に増加した部分とが、メモリーホール104の内周面105に含まれていてもよい。
【0165】
メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が連続的または段階的に減少した部分と、メモリーホール104の底に近づくにしたがってメモリーホール104の直径が連続的または段階的に増加した部分とが、メモリーホール104の内周面105に含まれていてもよい。
【0166】
メモリーホール104などのホールの内周面をエッチング液でエッチングすると、メモリーホール104の底に近づくにしたがってエッチング液が入れ替わりにくくなるので、エッチング速度は、メモリーホール104の底に近づくにしたがって減少する傾向がある。メモリーホール104の直径がメモリーホール104の底に近づくにしたがって増加している場合、フッ化物含有リン酸でメモリーホール104の内周面105をエッチングすれば、メモリーホール104の直径のばらつきを軽減できる。この場合、メモリーホール104の内周面105の入口側部分105eを保護膜115でフッ化物含有リン酸から保護する必要がないので、前述の充填液111および保護液114を基板Wに供給しなくてもよい。
【0167】
エッチング温度のフッ化物含有リン酸を供給する基板Wの構造は、図1A等に示す構造に限られない。フッ化物含有リン酸でエッチングする面は、メモリーホール104以外のホールの内周面であってもよいし、酸化ケイ素膜O1と窒化ケイ素膜N1とが交互に入れ替わるように基板Wの厚み方向Dtに積層された複数の酸化ケイ素膜O1および複数の窒化ケイ素膜N1を基板Wの厚み方向Dtに貫通する溝の側面であってもよい。フッ化物含有リン酸でエッチングする面は、基板Wの厚み方向Dtに対して垂直な平面であってもよい。
【0168】
加熱液と基板Wとの接触により基板Wを加熱することに代えてまたは加えて、室温よりも高温(例えば100~150℃の範囲内の温度)の加熱ガスを基板Wに接触させることにより、フッ化物含有リン酸でエッチングする前の基板Wを加熱してもよい。加熱ガスは、窒素ガスなどの不活性ガスであってもよいし、クリーンエアー(フィルターによってろ過された空気)であってもよいし、これら以外のガスであってもよい。
【0169】
加熱液や加熱ガスなどの室温よりも高温の加熱流体を基板Wに接触させることに代えてまたは加えて、電力の供給により発熱するヒーターで、フッ化物含有リン酸によってエッチングする前の基板Wを加熱してもよい。例えば、このようなヒーターを図12に示す基板Wの上方または下方に配置してもよい。
【0170】
エッチング前の基板Wの加熱を省略してもよい。つまり、エッチング温度のフッ化物含有リン酸を室温の基板Wに接触させてもよい。
【0171】
基板処理装置1は、円板状の基板Wを処理する装置に限らず、多角形の基板Wを処理する装置であってもよい。
【0172】
前述の全ての構成の2つ以上を組み合わせてもよい。前述の全ての工程の2つ以上を組み合わせてもよい。
【0173】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0174】
1 :基板処理装置
6 :薬液処理槽
27 :ヒーター
29 :薬液ノズル
32 :純水配管
35 :リン酸配管
38 :フッ化物配管
41 :混合タンク
67 :加熱流体ノズル
71 :薬液ノズル
75 :リンス液ノズル
101 :母材
102 :積層膜
103 :基板の最表面
104 :メモリーホール
105 :メモリーホールの内周面
111 :充填液
112 :充填物質
112r :残存充填物質
113 :除去液
114 :保護液
115 :保護膜
116 :薄膜
O1 :酸化ケイ素膜
N1 :窒化ケイ素膜
W :基板
図1A-D】
図1E-H】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12