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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169536
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】印刷方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20231122BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20231122BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20231122BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H04N1/60
B41J2/52
B41J2/205
B41J2/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080699
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
2C262
5C079
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EC72
2C056ED01
2C056EE03
2C056EE18
2C057AF39
2C057AM15
2C057CA00
2C262AA02
2C262AA24
2C262AB11
2C262AC02
2C262BA02
2C262EA08
5C079HB01
5C079HB08
5C079KA16
5C079LA05
5C079LB01
5C079MA04
5C079NA05
5C079PA03
(57)【要約】
【課題】グラデーションを有する部分の色彩値を充分に再現することができる印刷方法を提供する。
【解決手段】印刷方法は、色空間変換工程と、画素群がグラデーションを形成するかを判定するグラデーション判定工程と、グラデーションを形成すると判定された画素群のインク量を算出するグラデーション領域インク量算出工程とを備える。グラデーション領域インク量算出工程は、画素値が均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する配列情報取得工程と、配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する格子色彩値算出工程と、決定された格子色彩値を用いて配列における格子点のインク量である格子インク量を算出する格子インク量算出工程と、算出した格子インク量を用いた補間により、グラデーションを形成すると判定された画素群のインク量を算出する補間演算工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷方法であって、
画像データの色空間を機器依存色空間から均等色空間に変換する色空間変換工程と、
変換された前記均等色空間における注目画素から予め定められた範囲に含まれる画素群の分布および色の変化を用いて、前記画素群がグラデーションを形成するかを判定するグラデーション判定工程と、
前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出するグラデーション領域インク量算出工程と、を備え、
前記グラデーション領域インク量算出工程は、
前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群を構成する画素値が前記均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する配列情報取得工程と、
前記配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する格子色彩値算出工程と、
決定された前記格子色彩値を用いて前記配列における格子点のインク量である格子インク量を算出する格子インク量算出工程と、
算出した前記格子インク量を用いた補間により、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出する補間演算工程と、を備える、
印刷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷方法であって、
さらに、前記グラデーションを形成すると判定されなかった画素のインク量を、色予測モデルを用いて算出する非グラデーション領域インク量算出工程を備える、
印刷方法。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷方法であって、
前記格子インク量算出工程は、色予測モデルを用いて前記格子インク量を算出する、
印刷方法。
【請求項4】
請求項1に記載の印刷方法であって、
さらに、前記画像データの印刷条件を取得する印刷条件取得工程を備え、
前記格子インク量算出工程は、取得した前記印刷条件に従いインク量を算出する、
印刷方法。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷方法であって、
前記印刷条件には、使用するインクの種類と、印刷媒体の種類との少なくともいずれかが含まれる、
印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基準光源下で確実な色再現を実現するとともに複数光源下での色の見え方をできるだけ一致させるために、指定色の色彩値とインク量の色彩値との色差を評価する第1評価指数およびインク量について複数の観察条件で得られる色彩値の色差を評価する第2評価指数を含む評価指数を取得するインク量決定装置が知られている(例えば、特許文献1)。このインク量決定装置は、取得した評価指数が所定の評価基準を満たしたインク量データと指定色データとを対応づける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-334945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、色彩値を再現するためのインク量を決定した場合に、グラデーションを有する部分の色彩値が充分に再現されないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、印刷方法が提供される。この印刷方法は、画像データの色空間を機器依存色空間から均等色空間に変換する色空間変換工程と、変換された前記均等色空間における注目画素から予め定められた範囲に含まれる画素群の分布および色の変化を用いて、前記画素群がグラデーションを形成するかを判定するグラデーション判定工程と、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出するグラデーション領域インク量算出工程と、を備える。前記グラデーション領域インク量算出工程は、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群を構成する画素値が前記均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する配列情報取得工程と、前記配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する格子色彩値算出工程と、決定された前記格子色彩値を用いて前記配列における格子点のインク量である格子インク量を算出する格子インク量算出工程と、算出した前記格子インク量を用いた補間により、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出する補間演算工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の第1実施形態としての印刷システムの構成を示すブロック図。
図2】本実施形態の印刷方法を示すフロー図。
図3】グラデーション判定工程の詳細を示すフロー図。
図4】グラデーション領域インク量算出工程の詳細を示すフロー図。
図5】配列情報取得工程の詳細を示す説明図。
図6】画像データの一例を示す説明図。
図7】均等色空間を模式的に示す説明図。
図8】グラデーション領域の画素群を構成する画素値の一例を示す説明図。
図9】グラデーション領域を構成する画素群の格子色彩値と格子インク量との色変換テーブルを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての印刷システム300の構成を示すブロック図である。印刷システム300は、画像解析装置100と、プリンター200とを備えている。画像解析装置100は、画像データを解析し、印刷に使用するインク種および当該インク種ごとのインク量を示す使用インク情報を取得する。「画像データ」とは、複数の画素によって構成されており、例えばRGB色空間などの機器依存色空間の各色成分を階調表現して各画素の色を規定したドットマトリクス状のデータである。本実施形態では、画像データの各画素の画素値は、各色256階調であり、sRGB規格に従った表色系を採用したデータである。画像解析装置100は、グラデーションを形成する画素群を含むグラデーション領域の有無を判定し、グラデーション領域であるか否かに応じて異なる方法によりインク量を算出する。なお、画像データはRGBデータに限定されるものではなく、例えば、YCbCr表色系を採用したJPEG画像データや、CMYK表色系を採用したデータなど種々のデータを採用可能である。
【0008】
画像解析装置100は、例えば、コンピューターであり、CPU60と、記憶装置70と、入出力I/F80を備えている。CPU60、記憶装置70、ならびに入出力I/F80は、内部バスを介して双方向に通信可能に接続されている。画像解析装置100には、入出力I/F80を介して、キーボードやマウスなどの操作用入力機器50と、画面表示用のディスプレイ40と、プリンター200とが接続されている。
【0009】
CPU60は、記憶装置70に予め格納されている制御プログラムを実行することにより、色空間変換部602、グラデーション判定部604、配列情報取得部606、格子色彩値算出部608、格子インク量算出部610、グラデーション領域インク量算出部612、非グラデーション領域インク量算出部614、印刷条件取得部616、ならびに印刷部618として機能する。色空間変換部602は、画像データの色空間を、例えばRGB色空間などの機器依存色空間から均等色空間に変換する。「均等色空間」とは、色を見たときに、同じ色違いに見える色同士の距離を均等にした色立体を意味する。本実施形態では、「均等色空間」として「L*a*b*空間」を用いる。以下の説明において、説明の便宜のために、画像色彩値としてのL*a*b*を、単に「Lab」とも呼ぶことがある。なお、均等色空間としてLCH空間、LUV空間等が用いられてもよい。
【0010】
グラデーション判定部604は、均等色空間における注目画素から予め定められた範囲に含まれる画素群の分布および色の変化を用いて、画素群がグラデーションを形成するか、すなわちグラデーション領域の有無を判定する。配列情報取得部606は、グラデーションを形成すると判定された画素群を構成する画素が均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する。格子色彩値算出部608は、グラデーションを形成すると判定された画素群の各画素の配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する。格子インク量算出部610は、決定された格子色彩値を変換して、格子点のインク量である格子インク量を算出する。グラデーション領域インク量算出部612は、グラデーションを形成すると判定された画素群の各画素のインク量を算出する。非グラデーション領域インク量算出部614は、グラデーションを形成すると判定されなかった画素のインク量を、色予測モデルを用いて算出する。印刷条件取得部616は、ユーザーにより指定された印刷条件を取得する。印刷部618は、プリンター200を駆動させて画像データを印刷する。
【0011】
記憶装置70は、ROM、RAM、およびEEPROMを含む。記憶装置70には、本実施形態で提供される機能を実現するための各種プログラムのほか、色予測モデル72と、プロファイルデータ74とが格納されている。プロファイルデータ74は、RGBデータを画像色彩値に変換するためのプロファイルである。本実施形態では、プロファイルデータ74は、sRGB色空間をL*a*b*色空間に変換する。色予測モデル72は、プリンター200で用いられるインク種のインク量の組み合わせ、印刷画質や印刷速度などのプリンター200に設定される印刷モード、ならびに使用する印刷媒体などの印刷条件で印刷を行った場合における印刷物の分光反射率の予測値を取得する。色予測モデル72は、例えばCIE標準の光D50などの観察条件における標準光源を定めたうえで、取得した分光反射率を画像色彩値(L*a*b*)に変換し、変換された画像色彩値を再現するためのインク量データに変換することができる。色予測モデル72は、例えば、インク色の表色系により表されるインク量空間における複数の代表点について実際にカラーチャートを印刷し、その分光反射率を取得し、インク量セットと分光反射率との対応関係を学習データとして、ニューラルネットワークによる学習を行うことによって作成することができる。
【0012】
プリンター200は、複数色のインクを充填するインクカートリッジを色ごとに着脱可能な機構を備えている。プリンター200には、一般的なインク種であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)に加えて、例えば、赤(Rd)、オレンジ(Or)、緑(Gr)、ライトブラック(Lk)といった特色インクのカートリッジが搭載されている。さらに、青(Bl)、紫(Vi)、蛍光イエロー(FY)、蛍光マゼンタ(FM)、ライトシアン(Lc)やライトマゼンタ(Lm)などのインク種が搭載されてもよい。なお、LkはKよりも低濃度の無彩色であり、LcはCよりも低濃度のシアンであり、LmはMよりも低濃度のマゼンタである。プリンター200は、キャリッジを主走査させ、紙送りローラーによって副走査を行いながら、キャリッジに形成されたノズルからインクを吐出することが可能であり、各インク種を組み合わせて多数の色を形成し、これにより印刷媒体上にカラー画像を形成する。本実施形態では、プリンター200は、インクジェット方式のプリンターであるが、インクジェット方式の他にもレーザー方式等、種々のプリンターを適用可能である。
【0013】
図2は、本実施形態の印刷方法を示すフロー図である。本フローは、例えば、画像データの印刷処理を実行する操作を画像解析装置100もしくはプリンター200が受け付けることによって開始される。ステップS10の色空間変換工程では、印刷条件取得部616は、例えばユーザーが操作用入力機器50を用いて入力した印刷条件を取得する。印刷条件としては、例えば、プリンター200に設定される印刷モード、印刷媒体の情報、使用を許可するインク種、ならびにインク種のデューティー制限値などが挙げられる。印刷媒体としては、写真用紙や普通紙などの種々の紙媒体のほか、樹脂フィルム、布帛などの任意の種類の媒体を設定することができる。「デューティー制限値」とは、印刷媒体の単位面積中に吐出可能なインクの合計量の上限値を意味する。デューティー制限値を設けることにより、インクジェットプリンターによって単位面積あたりに過剰なインクが吐出されることによるインクのにじみ等の不具合を抑制または防止することができる。デューティー制限値は、単色によるデューティー制限値のほか、複数色の合計によるデューティー制限値を指定することができる。例えば、単色によるデューティー制限値として0%から100%のインク量、2色のインクの組み合わせによるデューティー制限値として0%から200%のインク量、これら以外の任意の色数の組み合わせによるトータルデューティー制限値として0%からインク種x100%までのインク量をそれぞれ設定可能である。
【0014】
ステップS20の色空間変換工程では、色空間変換部602は、画像データの色空間を機器依存色空間から均等色空間に変換する。具体的には、色空間変換部602は、プロファイルデータ74を用いて、画像データの色空間を機器依存色空間から均等色空間に変換して画像色彩値(L*a*b*)を算出する。ステップS30では、グラデーション判定部604は、変換された均等色空間における一の注目画素から予め定められた範囲に含まれる画素群の分布および色の変化を用いて、その画素群がグラデーションを形成するか否かを判定する。ステップS40では、非グラデーション領域インク量算出部614は、色予測モデル72を用いて、グラデーションを形成すると判定されなかった画素で構成される非グラデーション領域の各画素のインク量を算出する。
【0015】
ステップS50では、グラデーション領域インク量算出部612は、グラデーション判定部604によりグラデーションを形成すると判定された画素群、すなわちグラデーション領域に含まれる画素群の各画素のインク量を算出する。ステップS60では、印刷部618は、プリンター200を駆動させて、非グラデーション領域およびグラデーション領域それぞれで算出された印刷に使用するインク種および当該インク種ごとのインク量を示す使用インク情報を統合して、画像データの印刷を行う。
【0016】
図3は、グラデーション判定工程の詳細を示すフロー図である。ステップS302では、グラデーション判定部604は、均等色空間を均等に分割することで複数の単位領域を得る。グラデーション判定部604は、例えば、Lab空間を、L軸方向、a軸方向、b軸方向に沿ってそれぞれ所定の間隔で分割することにより、明度が一定の色空間上に複数の単位領域を取得する。取得した単位領域には識別符号を付すことができる。グラデーション判定部604は、取得した単位領域ごとに画素を検出し、単位領域に表された画素の画像空間における座標を単位領域ごとに取得する。グラデーション判定部604は、取得した画素の画像空間における座標から、各画素を、予め定められた探索範囲にもとづきグループ化する。具体的には、グラデーション判定部604は、画像空間をX軸及びY軸からなる二次平面上に表し、一の注目画素の座標から予め定められた探索範囲に存在する他の画素を探索する。探索範囲において他の画素を検出した場合には、一のグループに属する画素として対応付けを行う。
【0017】
ステップS304では、グラデーション判定部604は、各画素について均等色空間上の色彩値および画像空間上の座標値に基づいてラベリング処理を施す。ラベリング処理では、グラデーション判定部604は、均等色空間において注目画素から所定の色彩値の範囲内に属する画素であって、画像空間上の座標値が隣接する画素ごとに識別符号を付す。
【0018】
ステップS306では、グラデーション判定部604は、ラベリング処理が施された分割領域ごとに、その分割領域に属する画素における均等色空間上の分散値を測定する。得られた分散値が所定値以上であれば均等色空間上の単位領域の範囲内でバラツキがあり、色相又は彩度に関するグラデーションの存在を肯定的に推認することができる。
【0019】
ステップS308では、グラデーション判定部604は、各分割領域における画素の色変化方向を検出する。グラデーション判定部604は、隣接する画素間の濃度差や色差等を利用して色変化方向を検出することができる。例えば、線状のグラデーションの場合、隣接する各画素の色変化方向は、互いに一致するため、相互の色変化方向の角度は、0度程度となる。放射状のグラデーションの場合、各画素の色変化方向は特定点に収束するか、または、特定点から発散するため、隣接する各画素の色変化方向は、例えば45度などの所定角度を超えない限り同様の傾向を示す。この場合、グラデーション判定部604は、例えばソーベルフィルター等の特徴抽出フィルターを利用して色彩値の変化方向の角度を検出し、これによって放射状グラデーションを検出することができる。
【0020】
色変化方法を検出すると、グラデーション判定部604は、グラデーションのグループ化を行う。具体的には、グラデーション判定部604は、分割領域ごとに色変化ベクトルを求め、隣接する分割領域の色変化ベクトルとの方向が予め定められた範囲内である場合に同一のグラデーショングループとする。色変化ベクトルは、色の変化方向と変化量によって表すことができる。「色の変化方向」は、画像空間上における各画素の色の変化を示し、「色の変化量」は、均等色空間における画素間の色差を求め、分割領域ごとの色差の平均を求めることにより取得できる。例えば、2つの色方向ベクトルについて内積を求め、求めた内積にもとづいて、方向が一様か否かを判定することができる。求めた内積値が所定値未満であれば色変化方向がまとまっておらず、内積値が所定値以上であれば色変化方向がまとまっていると判断することができる。
【0021】
ステップS310では、グラデーション判定部604は、ステップS306で求めた分散値が所定値以上で、かつ、ステップS308で検出した色変化方向がまとまっているか否かによってグラデーション領域であるか否かを判定する。分散値が所定値以上であり、かつ、色の変化方向がまとまっている場合(S310:YES)、ステップS312に移行し、その画素群はグラデーションを形成しグラデーション領域に属すると判定する。分散値が所定値未満、または色の変化方向がまとまっていない場合(S310:NO)、ステップS314に移行し、その画素群はグラデーションを形成せず非グラデーション領域に属する、と判定する。
【0022】
図4は、グラデーション領域インク量算出工程の詳細を示すフロー図である。ステップS52の配列情報取得工程では、配列情報取得部606は、グラデーションを形成すると判定された画素群を構成する画素値が均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの幾何学情報に基づく配列であるかを取得する。ステップS54の格子色彩値算出工程では、格子色彩値算出部608は、取得した配列における外縁に位置する格子点の色彩値である格子色彩値を決定する。格子点は、グラデーション領域に属する画素群の配列が直線状である場合には、その両端の端点を意味する。ステップS56の格子インク量算出工程では、格子インク量算出部610は、決定された格子色彩値を用いて格子点のインク量である格子インク量を算出する。ステップS58では、格子インク量算出部610は、算出した格子インク量を用いた補間演算により、グラデーション領域に含まれる画素群のうち格子点によって囲まれる空間内に包含される画素のインク量を算出する。
【0023】
図5は、配列情報取得工程の詳細を示す説明図である。配列情報取得工程では、配列情報取得部606は、グラデーションを形成すると判定された画素群が均等色空間上のどの範囲に存在するかを特定する。ステップS520では、グラデーションを形成すると判定された画素群の各画素の画像色彩値を用いて、画素群が均等色空間上において直線状に配列されているか否かを判定する。画素群が直線状に配列されている場合(S520:YES)、ステップS521に移行し、直線の両端に位置する2点の画素を格子点と判定する。画素群が直線状に配列されていない場合(S520:NO)、ステップS522に移行し、配列情報取得部606は、画素群の画像色彩値が平面状に配列されているか否かを確認する。画素群が平面状に配列されている場合(S522:YES)、ステップS524に移行し、画素群に含まれる3点の画素間の線分の長さが、画素群に含まれる4点の画素間の線分の長さよりも大きいか否かを判定する。3点の線分の長さが、4点の線分の長さ以下である場合には(S524:NO)、ステップS525に移行し、3点の画素を格子点と判定する。3点の線分の長さが、4点の線分の長さよりも大きい場合には(S524:YES)、ステップS526に移行し、4点の画素を格子点と判定する。
【0024】
画素群が平面状に配列されていない場合(S522:NO)、ステップS528に移行する。ステップS528では、配列情報取得部606は、画素群に含まれる一部の画素によって形成される平面と、辺の長さが最長となる頂点としての他の画素とによって囲まれる空間内に、すべての画素群を包含できるか否かを確認する。配列情報取得部606は、すべての画素群を当該空間内に包含できる場合には(S528:YES)、ステップS530に移行する。すべての画素群を当該空間内に包含できない場合には(S528:NO)、ステップS539に移行し、配列情報取得部606は、外縁の8点の画素を格子点と判定する。
【0025】
ステップS530では、画素群に含まれる一部の画素によって形成される平面の3点間の線分の長さが同平面の4点間の線分の長さ以下である場合(S530:NO)、ステップS532に移行し、外縁の3点による平面に対する追加点となる画素を確認する。追加点が1点である場合には(S532:1点)、ステップS533に移行し、平面の外縁に位置する3点と、追加点1点との計4点を格子点と判定する。追加点が2点である場合には(S532:2点)、ステップS534に移行し、平面の外縁に位置する3点と、追加点2点との計5点を格子点と判定する。
【0026】
ステップS530において、平面の3点間の線分の長さが4点間の線分の長さよりも大きい場合(S530:YES)、ステップS536に移行し、外縁の4点による平面に対する追加点となる画素を確認する。追加点が1点である場合には(S536:1点)、ステップS537に移行し、平面の外縁に位置する4点と、追加点1点との計5点を格子点と判定する。追加点が2点である場合には(S536:2点)、ステップS538に移行し、平面の外縁に位置する4点と、追加点2点との計6点を格子点と判定する。
【0027】
図6から図9を用いて、本実施形態の印刷方法の詳細について説明する。図6は、画像データの一例を示す説明図である。図6に示す画像データPDは、グラデーション領域D1と、非グラデーション領域D2~D5を備えている。
【0028】
図7は、均等色空間を模式的に示す説明図である。図7では、技術の理解を容易にするためにb*値とa*値との2次元の色空間を示しているが、実際には、L*a*b*の3次元の色空間である。図7に実線で囲まれた画素群は、図6で示した画像データPDのグラデーション領域D1を構成する画素群である。図7に示すそれ以外の4点の画素は、画像データPDの非グラデーション領域D2~D5の画像色彩値に対応する画素である。非グラデーション領域インク量算出部614は、色予測モデル72を用いて、非グラデーション領域D2~D5の各画素の画像色彩値を用いて、入力される画像色彩値が示す画像の分光反射率を再現するインク量を算出する。
【0029】
図8は、グラデーション領域D1の画素群を構成する画素値の一例を示す説明図である。図8の表TB1の例では、グラデーション領域D1の画素群の画素値は、L*値の最小値が75、最大値が80、a*値の最小値が10、最大値が20、b*値の最小値が70、最大値が80である。配列情報取得部606は、グラデーション領域D1の画像色彩値の最大値・最小値を用いて、グラデーション領域D1を構成する画素群が均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを判定する。本実施形態では、グラデーション領域D1の画素群は、画素群に含まれる一部の画素によって形成される平面と、辺の長さが最長となる頂点としての他の画素とによって囲まれる空間内に、すべての画素群を包含できず、配列情報取得部606は、外縁の8点の画素を格子点と判定する。格子色彩値算出部608は、図8で示したL*値、a*値、b*値の最小値および最大値の組み合わせとなる8点を格子点とし、各格子点の画像色彩値を格子色彩値として決定する。
【0030】
図9は、グラデーション領域D1を構成する画素群の格子色彩値と格子インク量との色変換テーブルを示す説明図である。図9に示す表TB2には、基準光源下における均等色空間の画像色彩値と、インク種ごとの使用量との対応関係が各格子点について規定されている。表TB2の各格子色彩値に対応する格子インク量は、ユーザーにより設定された印刷媒体の情報、使用を許可するインク種、インク種のデューティー制限値などの印刷条件にしたがって、格子インク量算出部610によって色予測モデル72を用いて算出される。グラデーション領域D1に含まれる画素群のうち、格子点を構成する画素以外の画素、より具体的には表TB2の8点の格子点により構成される多面体の空間内に包含される画素のインク量は、色変換テーブルに代えて、グラデーション領域インク量算出部612による補間演算によって算出される。
【0031】
以上、説明したように、本実施形態の印刷方法によれば、グラデーション領域インク量算出工程は、グラデーションを形成すると判定された画素群を構成する画素値が均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する配列情報取得工程と、配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する格子色彩値算出工程と、決定された格子色彩値を用いて配列における格子点のインク量である格子インク量を算出する格子インク量算出工程と、算出した格子インク量を用いた補間によりグラデーションを形成すると判定された画素群のインク量を算出する補間演算工程と、を備えている。本実施形態の印刷方法によれば、グラデーション領域D1に含まれる画素群を抽出し、グラデーション領域の各画素のインク量の変化を画像色彩値の変化に合わせて連続的な色変化を表現することができる。したがって、グラデーション領域D1の画素群の各画素を個別に画像色彩値からインク量に変換する場合と比較して、グラデーションを有する部分の色彩値を充分に再現することができ、高い階調性を有する画像を形成することができる。また、グラデーション領域D1を構成する画素群を包含する格子点を抽出して補間演算をすることにより、インク量算出にかかる負荷を低減することができる。
【0032】
本実施形態の印刷方法は、さらに、非グラデーション領域インク量算出工程を備えている。非グラデーション領域インク量算出工程では、グラデーションを形成すると判定された画素群とは異なる画素、すなわち非グラデーション領域D2~D5の各画素のインク量を、色予測モデルを用いて画素ごとに個別にインク量を算出する。したがって、印刷画像の非グラデーション領域D2~D5の色再現性を高くすることができる。
【0033】
本実施形態の印刷方法によれば、格子インク量算出工程は、色予測モデル72を用いて格子インク量を算出する。色予測モデル72を用いることにより、観察条件の標準光源を定めたうえで取得した分光反射率を画像色彩値(L*a*b*)に変換し、変換された画像色彩値を再現するためのインク量データに変換することができ、印刷画像の色再現性を高くすることができる。
【0034】
本実施形態の印刷方法は、さらに、画像データの印刷条件を取得する印刷条件取得工程を備え、格子インク量算出工程は、取得した印刷条件に従いインク量を算出する。本実施形態の印刷方法によれば、ユーザーが所望する印刷条件に適したインク量で画像データを印刷することができる。
【0035】
本実施形態の印刷方法は、印刷条件には、使用するインクの種類と、印刷媒体の種類との少なくともいずれかが含まれている。本実施形態の印刷方法によれば、ユーザーが所望するインクの種類および印刷媒体に適したインク量で画像データを印刷することができる。
【0036】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、グラデーションを形成するか否かを判定する場合に、分散値を用いる例を示した。これに対して、異なるクラスターの点の間の最小ユークリッド距離を使用して点群をクラスターにセグメント化することによりグラデーションを形成するか否かを判定してもよく、分散値を用いる方法以外の方法によってグラデーションを形成するか否かを判定してもよい。
【0037】
C.他の形態:
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0038】
(1)本開示の一形態によれば、印刷方法が提供される。この印刷方法は、画像データの色空間を機器依存色空間から均等色空間に変換する色空間変換工程と、変換された前記均等色空間における注目画素から予め定められた範囲に含まれる画素群の分布および色の変化を用いて、前記画素群がグラデーションを形成するかを判定するグラデーション判定工程と、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出するグラデーション領域インク量算出工程と、を備える。前記グラデーション領域インク量算出工程は、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群を構成する画素値が前記均等色空間において直線、平面、および多面体のいずれの配列であるかを取得する配列情報取得工程と、前記配列における格子点の色彩値である格子色彩値を決定する格子色彩値算出工程と、決定された前記格子色彩値を用いて前記配列における格子点のインク量である格子インク量を算出する格子インク量算出工程と、算出した前記格子インク量を用いた補間により、前記グラデーションを形成すると判定された前記画素群のインク量を算出する補間演算工程と、を備える。
この形態の印刷方法によれば、グラデーションを形成すると判定された画素群の各画素を個別に画像色彩値からインク量に変換する場合と比較して、高い階調性を有する画像を形成することができる。
【0039】
(2)上記形態の印刷方法において、さらに、前記グラデーションを形成すると判定されなかった画素のインク量を、色予測モデルを用いて算出する非グラデーション領域インク量算出工程を備えてよい。
この形態の印刷方法によれば、非グラデーション領域の各画素のインク量を、色予測モデルを用いて画素ごとに個別に算出するので、印刷画像の非グラデーション領域の色再現性を高くすることができる。
【0040】
(3)上記形態の印刷方法において、前記格子インク量算出工程は、色予測モデルを用いて前記格子インク量を算出してもよい。
この形態の印刷方法によれば、印刷画像の色再現性を高くすることができる。
【0041】
(4)上記形態の印刷方法において、さらに、前記画像データの印刷条件を取得する印刷条件取得工程を備えてよい。前記格子インク量算出工程は、取得した前記印刷条件に従いインク量を算出してよい。
この形態の印刷方法によれば、ユーザーが所望する印刷条件に適したインク量で画像データを印刷することができる。
【0042】
(5)上記形態の印刷方法において、前記印刷条件には、使用するインクの種類と、印刷媒体の種類との少なくともいずれかが含まれてよい。
この形態の印刷方法によれば、ユーザーの所望するインクの種類および印刷媒体に適したインク量で画像データを印刷することができる。
【0043】
本開示は、印刷方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、印刷装置、画像解析装置、印刷装置と画像解析装置とを備える印刷システム、印刷装置の製造方法や印刷装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
40…ディスプレイ、50…操作用入力機器、60…CPU、70…記憶装置、72…色予測モデル、74…プロファイルデータ、80…入出力I/F、100…画像解析装置、200…プリンター、300…印刷システム、602…色空間変換部、604…グラデーション判定部、606…配列情報取得部、608…格子色彩値算出部、610…格子インク量算出部、612…グラデーション領域インク量算出部、614…非グラデーション領域インク量算出部、616…印刷条件取得部、618…印刷部、D1…グラデーション領域、D2~D5…非グラデーション領域、PD…画像データ、TB1,TB2…表
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9