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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169564
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】雌螺子
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/02 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
F16B33/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080746
(22)【出願日】2022-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】520408917
【氏名又は名称】合同会社Helicodesign
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山村 武美
(57)【要約】
【課題】雌螺子の口元付近において雄螺子との接触により生じる応力を低減し分散させることができる雌螺子を提供する。
【解決手段】雌螺子1は、螺旋状のねじ山20に形成された、軸力が付加される第1のフランク面30が、第1のフランク面30の傾斜方向において谷底側に位置し、雌螺子1の中心軸Pを含む断面において形状が直線となる谷側螺旋面51と、第1のフランク面30の傾斜方向において谷側螺旋面51よりも山頂側に位置し、断面における形状が直線となり、谷側螺旋面51に連続している山側螺旋面50と、を有する。山側螺旋面50は、谷側螺旋面51よりも大きいねじ山角度を有する。山側螺旋面50は、第1のフランク面30の傾斜方向における幅が雌螺子1の口元10から離れる方向に向けて次第に大きくなるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌螺子であって、
螺旋状のねじ山に形成された、軸力が付加されるフランク面が、
前記フランク面の傾斜方向において谷底側に位置し、前記雌螺子の中心軸を含む断面において形状が直線となる谷側螺旋面と、
前記フランク面の前記傾斜方向において前記谷側螺旋面よりも山頂側に位置し、前記断面における形状が直線となり、前記谷側螺旋面に連続している山側螺旋面と、を有し、
前記山側螺旋面は、前記谷側螺旋面よりも大きいねじ山角度を有し、
前記山側螺旋面は、前記フランク面の前記傾斜方向における幅が前記雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に大きくなるように構成されている、
雌螺子。
【請求項2】
前記フランク面は、前記雌螺子の口元側に配置され、前記山側螺旋面がなく前記谷側螺旋面を有する口元部を有している、
請求項1に記載の雌螺子。
【請求項3】
前記フランク面の前記口元部は、前記フランク面の口元端から、前記フランク面の螺旋の半周以上の範囲に形成されている、
請求項2に記載の雌螺子。
【請求項4】
前記フランク面の前記傾斜方向の幅に対する前記山側螺旋面の幅の割合は、0%から100%まで変動する、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項5】
前記谷側螺旋面は、前記フランク面の前記傾斜方向における幅が前記雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に小さくなるように構成されている、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項6】
前記フランク面の前記傾斜方向の幅に対する前記谷側螺旋面の幅の割合は、0%から100%まで変動する、
請求項5に記載の雌螺子。
【請求項7】
前記谷側螺旋面と前記山側螺旋面とのねじ山角度の差は、20°以下である、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項8】
前記フランク面は、前記谷側螺旋面と前記山側螺旋面が接続される螺旋頂部を有し、
前記螺旋頂部は、前記雌螺子の口元に近づく方向に向けて前記雌螺子の中心軸に対し次第に縮径している、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項9】
前記山側螺旋面は、前記フランク面の螺旋の2周以上の範囲に形成されている、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌螺子に関する。
【背景技術】
【0002】
雌螺子の口元部分の端面には、軸方向に平坦な面或いは面取り面があり、当該端面から雌螺子のねじ螺旋が開始されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-266024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の雌螺子に雄螺子が螺合される際には、雄螺子のねじ螺旋が雌螺子の口元部分から挿入される。このとき、雌螺子の口元部分の端面と雄螺子のねじ螺旋は、互いに交差しており、この口元部分に接触部が生じる。そして、雄螺子が雌螺子に挿入され、雄螺子に軸応力が生じ、雄螺子のねじ山が軸方向に広がる方向に変形すると、上記接触部において、雄螺子のねじ螺旋が雌螺子の口元部分に押し付けられ、雌螺子の口元部分に応力が生じる。
【0005】
上述のような雌螺子の口元部分に生じる応力は、雌螺子の口元を広げる方向に働く横応力を生じさせる。かかる横応力は、雌螺子の疲労破壊を招くものであり、好ましくない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、雌螺子の口元付近において雄螺子と雌螺子との接触により生じる応力を低減し分散させることができる雌螺子を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る雌螺子は、螺旋状のねじ山に形成された、軸力が付加されるフランク面が、フランク面の傾斜方向において谷底側に位置し、雌螺子の中心軸を含む断面において形状が直線となる谷側螺旋面と、フランク面の傾斜方向において谷側螺旋面よりも山頂側に位置し、断面における形状が直線となり、谷側螺旋面に連続している山側螺旋面と、を有し、山側螺旋面は、谷側螺旋面よりも大きいねじ山角度を有し、山側螺旋面は、フランク面の傾斜方向における幅が雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に大きくなるように構成されている。
【0008】
上記態様によれば、雌螺子の口元側において、山側螺旋面の幅が相対的に小さいので、雄螺子のフランク面と雌螺子のフランク面との接触領域が減り、雌螺子の口元側における雄螺子と雌螺子との接触を抑制することできる。この結果、雌螺子の口元付近において雄螺子と雌螺子の接触により応力が発生することを抑制することができる。また、雄螺子のフランク面と雌螺子のフランク面の山側螺旋面との接触領域が、口元から離れる方向に向けて次第に増加するので、雄螺子と雌螺子の接触により生じる応力を螺旋方向に分散させることができる。
【0009】
上記態様において、フランク面は、雌螺子の口元側に配置され、山側螺旋面がなく谷側螺旋面を有する口元部を有していてよい。
【0010】
上記態様において、フランク面の口元部は、フランク面の口元端から、フランク面の螺旋の半周以上の範囲に形成されていてよい。
【0011】
上記態様において、フランク面の前記傾斜方向の幅に対する山側螺旋面の幅の割合は、0%から100%まで変動してよい。
【0012】
上記態様において、谷側螺旋面は、フランク面の傾斜方向における幅が雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に小さくなるように構成されていてよい。
【0013】
上記態様において、フランク面の傾斜方向の幅に対する谷側螺旋面の幅の割合は、0%から100%まで変動してよい。
【0014】
上記態様において、谷側螺旋面と山側螺旋面とのねじ山角度の差は、20°以下であってよい。
【0015】
上記態様において、フランク面は、谷側螺旋面と山側螺旋面が接続される螺旋頂部を有し、螺旋頂部は、雌螺子の口元に近づく方向に向けて雌螺子の中心軸に対し次第に縮径してよい。
【0016】
上記態様において、山側螺旋面は、フランク面の螺旋の2周以上の範囲に形成されていてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、雌螺子の口元付近において雄螺子との接触により生じる応力を低減し分散させることができる雌螺子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】雌螺子の構成の一例を示す断面図である。
図2】雌螺子の拡大断面図である。
図3】雄螺子が挿入された雌螺子の拡大断面図である。
図4】雌螺子の第1のフランク面の拡大断面図である。
図5】雄螺子が挿入された雌螺子の他の構成例を示す拡大断面図である。
図6】雄螺子が挿入された雌螺子の他の構成例を示す拡大断面図である。
図7】雄螺子が挿入された雌螺子の他の構成例を示す拡大断面図である。
図8A】本発明の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の応力の状態を示す図である。
図8B】従来の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の応力の状態を示す図である。
図9A】本発明の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の雄螺子のフランク面の応力の状態を示す図である。
図9B】従来の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の雄螺子のフランク面の応力の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る雌螺子1の一例を示す断面図である。図2は、雌螺子1のねじ山のフランク面を示す拡大断面図である。図3は、雄螺子100が雌螺子1に締結された状態における、雌螺子1のねじ山のフランク面を示す拡大断面図である。図1乃至図3は、雌螺子1の中心軸Pを含む面で雌螺子1を切断した断面図である。なお、本明細書の「上」、「下」は、雌螺子1の口元10側を上とし、奥側(口元10の反対側)を下とする。
【0020】
図1に示すように雌螺子1は、雄螺子が挿入される入口となる口元10を有している。口元10には、入口端(上端)に向かって拡径するテーパ面(面取り面)が形成されている。雌螺子1は、口元10から奥側に向かって連続的に形成される螺旋状のねじ山20を有している。ねじ山20は、締結時に主に軸力が付加される螺旋状の第1のフランク面30と、主に軸力が付加されない螺旋状の第2のフランク面31を有している。第1のフランク面30は、ねじ山20の奥側(下側)に位置し、第2のフランク面31は、ねじ山20の口元10側(上側)に位置している。
【0021】
図2及び図3に示すように第1のフランク面30は、例えば、雌螺子1の口元10付近に位置する口元部40と、口元部40の奥側に位置しフランク面30、31の形状が変動する形状変動部41と、形状変動部41の奥側に位置しフランク面30、31の形状が固定された形状固定部42を有している。
【0022】
口元部40は、第1のフランク面30の口元端(螺旋の開始端)30aから螺旋の例えば第1周の終端までの範囲(例えば口元10から数えて1番目のねじ山)に形成されている。すなわち、口元部40は、螺旋の半周以上の範囲に形成されている。なお、螺旋の1周は360°である。口元部40が形成される範囲は適宜変更することができる。
【0023】
形状変動部41は、例えば、口元部40の終端(螺旋の第1周の終端)から螺旋の例えば第5周の終端までの範囲(例えば口元10から数えて2番目のねじ山から5番目のねじ山)に形成されている。すなわち、形状変動部41は、螺旋の2周以上の範囲に形成されている。なお、形状変動部41が形成される範囲は適宜変更することができる。
【0024】
形状固定部42は、例えば、形状変動部41の終端(螺旋の第5周の終端)から螺旋の例えば最後の周の終端までの範囲(口元10から数えて6番目以降のねじ山)に形成されている。
【0025】
形状変動部41は、第1のフランク面30の傾斜方向において、山頂側に位置する山側螺旋面50と、谷底側に位置する谷側螺旋面51を有している。例えば形状変動部41は、山側螺旋面50と谷側螺旋面51の2つの平坦な面から構成されている。
【0026】
山側螺旋面50は、雌螺子1の中心軸P(図3に示す)を含む断面において形状が直線となるように形成されている。谷側螺旋面51は、雌螺子1の中心軸Pを含む断面において形状が直線となるように形成されている。図2に示すように、山側螺旋面50は、谷側螺旋面51のねじ山角度(フランク角)α2よりも大きいねじ山角度(フランク角)α1を有している。山側螺旋面50と谷側螺旋面51は、互いに接続され、山側螺旋面50と谷側螺旋面51の接続部分には、螺旋状の頂角を形成する螺旋頂部60が形成されている。山側螺旋面50のねじ山角度α1は、雌螺子1に適合する雄螺子100のフランク面110(図3に示す)のねじ山角度と同等であり、谷側螺旋面51のねじ山角度α2は、雄螺子100のフランク面110のねじ山角度よりも小さい。
【0027】
山側螺旋面50のねじ山角度α1は、例えば、10°以上60°以下であり、好ましくは、27.5°以上30°以下である。谷側螺旋面51のねじ山角度α2は、例えば、10°以上55°以下である。山側螺旋面50と谷側螺旋面51のねじ山角度の差(α1‐α2)は、例えば、25°以下が好ましく、5°以上15°以下がさらに好ましい。
【0028】
図4は、第1のフランク面30の一部のねじ山20の拡大図である。図4に示すように山側螺旋面50は、第1のフランク面30の傾斜方向に第1の幅D1を有している。谷側螺旋面51は、第1のフランク面30の傾斜方向に第2の幅D2を有している。第1のフランク面30の全体は、第3の幅D3を有する。第3の幅D3は、第1の幅D1と第2の幅D2を合わせたものである。
【0029】
図2及び図3に示すように山側螺旋面50の第1の幅D1と谷側螺旋面51の第2の幅D2は、ねじ山20の螺旋方向に変動する。例えば山側螺旋面50の第1の幅D1は、口元部40の終端を起点に口元10から離れる方向に向けて次第に大きくなっている。一方、谷側螺旋面51の第2の幅D2は、口元部40の終端を起点に口元10から離れる方向に向けて次第に小さくなっている。螺旋頂部60は、口元10に近づく方向に向けて中心軸Pに対し次第に縮径している。
【0030】
例えば、第1のフランク面30の第3の幅D3に対する山側螺旋面50の第1の幅D1の割合R1(D1/D3×100(%))は、口元部40の終端(形状変動部41の開始端)において0%であり、奥側に行くにつれて次第に増加し、螺旋の第5周の終端において100%となっている。
【0031】
例えば第1のフランク面30の第3の幅D3に対する谷側螺旋面51の第2の幅D2の割合R2(D2/D3×100(%))は、口元部40の終端(形状変動部41の開始端)において100%であり、奥側に行くにつれて次第に減少し、螺旋の第5周の終端において0%となっている。
【0032】
口元部40は、山側螺旋面50がなく(割合R1が0%)、ねじ山角度が相対的に小さい谷側螺旋面51を有している。本実施の形態において、口元部40は、雄螺子100のフランク面110と接触しない非接触部である。
【0033】
形状固定部42は、谷側螺旋面51がなく(割合R2が0%)、ねじ山角度が相対的に大きい山側螺旋面50を有している。
【0034】
ねじ山20の第2のフランク面31は、螺旋状の一つの面から構成されている、図2に示すように第2のフランク面31は、ねじ山角度α3を有している。ねじ山角度α3は、例えば、第1のフランク面30の山側螺旋面50のねじ山角度α1と同じ角度を有している。ねじ山角度α3は、雄螺子100のフランク面110のねじ山角度と同等である。
【0035】
図3に示すように雌螺子1には、雄螺子100が挿入され締結される。雄螺子100は、雌螺子1の山側螺旋面50と同じねじ山角度を有するフランク面110を有するものである。
【0036】
雌螺子1における第1のフランク面30の口元部40では、例えば、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30が接触しない。第1のフランク面30の形状変動部41では、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30の山側螺旋面50が接触する。谷側螺旋面51は、雄螺子100のフランク面100と接触しない。形状変動部41では、口元部40から離れるにつれて山側螺旋面50の第1の幅D1が増加し、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30との接触領域が増えていく。形状固定部42では、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30の一定幅の山側螺旋面50が接触し、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30との接触領域が一定である。
【0037】
なお、雌螺子1の製造は、一般的な加工技術を用いて行うことができ、旋盤等による旋削加工、マシニング等で回転工具を用いた加工、ねじ切りを行うタップ(工具)を用いたタップ加工等により行われる。
【0038】
本実施の形態によれば、軸力が付加される第1のフランク面30が、谷側螺旋面51と、山側螺旋面50とを有し、山側螺旋面50は、谷側螺旋面51よりも大きいねじ山角度を有し、第1のフランク面30の傾斜方向における第1の幅D1が雌螺子1の口元10から離れる方向に向けて次第に大きくなるように構成されている。これにより、雌螺子1の口元10側において、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30の山側螺旋面50との接触領域が減り、雌螺子1の口元10側における雄螺子100と雌螺子1との接触を抑制することできる。この結果、雌螺子1の口元10付近において雄螺子100と雌螺子1の接触により応力が発生することを抑制することができる。また、雄螺子100のフランク面110と第1のフランク面30の山側螺旋面50との接触領域が、口元10から離れる方向に向けて次第に増加するので、雄螺子100と雌螺子1の接触により生じる応力を螺旋方向に分散させることができる。
【0039】
ところで、雄螺子100により山側螺旋面50に軸力が付加されると、山側螺旋面50が雄螺子100のフランク面110に押され、山側螺旋面50に対し、雌螺子100のねじ山の間隔が広げられる方向に力が働く。第1のフランク面30の谷側螺旋面51は、雌螺子100の中心軸を含む断面において直線形状になっているため、山側螺旋面50を高い強度で支えることができ、山側螺旋面50の剛性を確保することができる。また、山側螺旋面50の変形量も抑えることができる。さらに、山側螺旋面50と谷側螺旋面51が、傾斜方向に直線状に形成されているため、雄螺子100が締結されたときに、山側螺旋面50と谷側螺旋面51にかかる応力が概ね一定方向(例えば図4に示す斜め上方の矢印方向F)に向く。この結果、山側螺旋面50と谷側螺旋面51にかかる応力に基づいた、雌螺子1や雄螺子100を破断させるようなせん断力が生じにくく、雌螺子1と雄螺子100の強度を向上することができる。
【0040】
第1のフランク面30は、山側螺旋面50がなく谷側螺旋面51を有する口元部40を有している。これにより、第1のフランク面30の口元部40において、ねじ山角度が小さい谷側螺旋面51だけであるので、雄螺子100のフランク面110と雌螺子1の第1のフランク面30との接触を十分に低減し、応力の発生を十分に低減することができる。
【0041】
第1のフランク面30の口元部40は、第1のフランク面30の口元端30aから、第1のフランク面30の螺旋の半周以上の範囲に形成されている。これにより、第1のフランク面30の口元部40において、雄螺子100のフランク面110と雌螺子1の第1のフランク面30との接触を十分かつ確実に低減し、応力の発生を十分かつ確実に低減することができる。
【0042】
第1のフランク面30の傾斜方向の第3の幅D3に対する山側螺旋面50の第1の幅D1の割合R1は、0%から100%まで変動する。これにより、雌螺子1の口元10付近において雄螺子100と雌螺子1の接触により生じる応力を螺旋方向に十分かつ適切に分散させることができる。
【0043】
谷側螺旋面51は、第1のフランク面30の傾斜方向における第2の幅D2が雌螺子1の口元10から離れる方向に向けて次第に小さくなるように構成されている。これにより、雌螺子1の口元10付近において雄螺子100と雌螺子1の接触により生じる応力を螺旋方向に好適に分散させることができる。
【0044】
第1のフランク面30の傾斜方向の第3の幅D3に対する谷側螺旋面51の第2の幅D2の割合R2は、0%から100%まで変動する。これにより、雌螺子1の口元10付近において雄螺子100と雌螺子1の接触により生じる応力を螺旋方向に十分かつ適切に分散させることができる。
【0045】
谷側螺旋面51と山側螺旋面50とのねじ山角度の差は、20°以下である。ねじ山角度の差を5°以上とすることで、雄螺子100のフランク面110と雌螺子1の第1のフランク面30との接触をより十分に抑制することができる。ねじ山角度の差を20°以下とすることで、谷側螺旋面51と山側螺旋面50との接続部分における螺旋頂部60の角度が小さくなり、谷側螺旋面51が山側螺旋面50を十分に支えることができるため、十分なねじ山強度を確保し雌螺子1の剛性を確保することができる。
【0046】
第1のフランク面30は、谷側螺旋面51と山側螺旋面50が接続される螺旋頂部60を有し、螺旋頂部60は、雌螺子1の口元10に近づく方向に向けて中心軸Pに対し次第に縮径している。これにより、例えばNC工作機械により谷側螺旋面51と山側螺旋面50の形成を行うことが可能になり、雌螺子1の製造を容易に行うことができる。また、かかる場合、雌螺子1の中心軸Pに対し螺旋頂部60が文字通りスパイラル状に形成されるので、雌螺子1のねじ山が中心線Pに対し正確な円錐台となる。この結果、雄螺子100と雌螺子1の接触領域が変動する場合でも、雄螺子100の中心線を雌螺子1の中心線Pに一致させることができる。雄螺子100と雌螺子1の接触領域が口元10に向かって減少することで、例えば、雄螺子100のねじ部と頭部の直角度が悪い場合や構造物に対しての雌螺子の直角度が低い場合でも柔軟に対応することができ、外的な振動やクリープ等への対応力も増加する。
【0047】
山側螺旋面50は、第1のフランク面30の螺旋の2周以上の範囲に形成されている。これにより、雄螺子100と雌螺子1の接触により生じる応力を螺旋方向に十分に分散させることができる。
【0048】
上記実施の形態において、形状変動部41は、口元10側から奥側に向かって、山側螺旋面50の割合R1が0%から100%まで変動するものであったが、図5に示すように、山側螺旋面50の割合R1が、0%を超える割合、例えば50%から100%まで変動するものであってもよい。この場合、山側螺旋面50の開始端における割合R1は、50%となる。山側螺旋面50の開始端における割合R1は、例えば0%以上60%以下であってもよい。また、山側螺旋面50の終端における割合R1は、例えば50%以上100%以下であってもよい。さらに山側螺旋面50の終端における割合R1は、100%未満、例えば80%以下であってもよい。
【0049】
上記実施の形態において、口元部40は、第1のフランク面30の口元端30aから、第1のフランク面30の螺旋の1周の範囲に形成されていたが、図6に示すように、第1のフランク面30の螺旋の2周以上、例えば3周程度形成されていてもよい。また、口元部40は、第1のフランク面30の螺旋の3周以上、5周以上形成されていてもよい。
【0050】
形状変動部41は、図7に示すように第1のフランク面30の螺旋の4周以下、さらに3周以下の短い範囲に形成されていてもよい。一方、形状変動部41は、第1のフランク面30の螺旋の3周以上、4周以上、例えば第1のフランク面30の口元部40以外の全部に形成されていてもよい。形状固定部42はなくてもよい。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば雌螺子1の第1のフランク面30の形状変動部41の長さや形状は、上記実施の形態のものに限られない。雌螺子1の全体形状も上記実施の形態のものに限られない。軸力が付加されるフランク面は、第2のフランク面31であってもよいし、第1のフランク面30と第2のフランク面31の両方であってもよい。
【実施例0053】
コンピュータによるCAE解析を用いて、雄螺子を挿入し軸力を付加した時に本発明の雌螺子1と従来の雌螺子にかかる内部応力を比較した。従来の雌螺子には、第1のフランク面が螺旋状の1つの面で形成されているものを用いた。
【0054】
図8Aは、本発明の雌螺子1に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の応力の状態を示し、図8Bは、従来の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の応力の状態を示す。図8A,8Bにおいて、色が暗いほど応力が小さく、色が明るいほど応力が大きいことを示す。図8Bの従来の雌螺子1では、雌螺子のフランク面の口元付近に、雄螺子から大きな応力がかかっていることが確認できる。図8Aの本発明の雌螺子1では、第1のフランク面の口元付近にかかる応力が、従来の雌螺子に比べて小さく、また、第1のフランク面かかる応力が、口元から離れる方向に分散していることが確認できる。
【0055】
さらに、図9Aは、本発明の雌螺子1に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の雄螺子のフランク面にかかる応力の状態を示し、図9Bは、従来の雌螺子に雄螺子を挿入し軸力を付加した時の雄螺子のフランク面にかかる応力の状態を示す。なお、雄螺子のフランク面にかかる応力は、雌螺子のフランク面にかかる応力に対応する。図9A,9Bにおいて、色が濃いほど応力が小さく、色が薄いほど応力が大きいことを示す。図9Bの従来の雌螺子1では、雌螺子の口元付近のフランク面に、雄螺子から大きな応力が集中してかかっていることが確認できる。図9Aの本発明の雌螺子1では、第1のフランク面の口元付近にかかる応力が、従来の雌螺子に比べて小さく、また、第1のフランク面かかる応力が、口元から離れる方向に分散していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、雌螺子の口元付近において雄螺子との接触により生じる応力を低減し分散させることができる雌螺子を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 雌螺子
10 口元
20 ねじ山
30 第1のフランク面
31 第2のフランク面
40 口元部
41 形状変動部
42 形状固定部
50 山側螺旋面
51 谷側螺旋面
60 螺旋頂部
P 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
【手続補正書】
【提出日】2022-06-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌螺子であって、
螺旋状のねじ山に形成された、軸力が付加されるフランク面が、
前記フランク面の傾斜方向において谷底側に位置し、前記雌螺子の中心軸を含む断面において形状が直線となる谷側螺旋面と、
前記フランク面の前記傾斜方向において前記谷側螺旋面よりも山頂側に位置し、前記断面における形状が直線となり、前記谷側螺旋面に連続している山側螺旋面と、を有し、
前記山側螺旋面は、前記谷側螺旋面よりも大きいねじ山角度を有し、
前記山側螺旋面は、前記フランク面の前記傾斜方向における幅が前記雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に大きくなるように構成されている、
雌螺子。
【請求項2】
前記フランク面は、前記雌螺子の口元側に配置され、前記山側螺旋面がなく前記谷側螺旋面を有する口元部を有している、
請求項1に記載の雌螺子。
【請求項3】
前記フランク面の前記口元部は、前記フランク面の口元端から、前記フランク面の螺旋の半周以上の範囲に形成されている、
請求項2に記載の雌螺子。
【請求項4】
前記フランク面の前記傾斜方向の幅に対する前記山側螺旋面の幅の割合は、前記雌螺子の口元から離れる方向に沿って、0%から100%まで変化する、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項5】
前記谷側螺旋面は、前記フランク面の前記傾斜方向における幅が前記雌螺子の口元から離れる方向に向けて次第に小さくなるように構成されている、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項6】
前記フランク面の前記傾斜方向の幅に対する前記谷側螺旋面の幅の割合は、前記雌螺子の口元から離れる方向に沿って、100%から0%まで変化する、
請求項5に記載の雌螺子。
【請求項7】
前記谷側螺旋面と前記山側螺旋面とのねじ山角度の差は、20°以下である、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項8】
前記フランク面は、前記谷側螺旋面と前記山側螺旋面が接続される螺旋頂部を有し、
前記螺旋頂部は、前記雌螺子の口元に近づく方向に向けて前記雌螺子の中心軸に対し次第に縮径している、
請求項1又は2に記載の雌螺子。
【請求項9】
前記山側螺旋面は、前記フランク面の螺旋の2周以上の範囲に形成されている、
請求項1又は2に記載の雌螺子。