IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日機装株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 宮崎大学の特許一覧

<>
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図1
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図2
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図3
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図4
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図5
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図6
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図7
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図8
  • 特開-積層セラミック電子部品の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169569
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080759
(22)【出願日】2022-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 由
(72)【発明者】
【氏名】植野 琴美
(72)【発明者】
【氏名】森永 高広
(72)【発明者】
【氏名】森 隆博
(72)【発明者】
【氏名】加来 昌典
(72)【発明者】
【氏名】甲藤 正人
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AH01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
5E082FG41
(57)【要約】
【課題】離型処理が施されていない基材を用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、フィルム状の透明基材(20)の一面(20a)に直接塗布されたセラミックグリーンシート(10)と前記一面との界面(X)に、前記透明基材の他の一面(20b)側から剥離用紫外線を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程(S15)と、前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程(S16)と、を含む。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の透明基材の一面に直接塗布されたセラミックグリーンシートと前記一面との界面に、前記透明基材の他の一面側から剥離用紫外線を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程と、
前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程と、
を含む、
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記一面に塗布用紫外線を照射し、前記一面の表面粗さを変化させる非透過照射工程と、
前記塗布用紫外線が照射された前記一面にセラミック粒子を含むスラリーを塗布することにより、前記一面に前記セラミックグリーンシートを塗布する塗布工程と、
を含む、
請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記剥離用紫外線の波長は、前記塗布用紫外線の波長と異なる、
請求項2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記透明基材は、ポリエステル製であり、
前記塗布用紫外線の波長は、200nmより長く300nmより短く、
前記剥離用紫外線の波長は、300nm以上である、
請求項3に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記非透過照射工程において、前記塗布用紫外線の積算光量は、前記表面粗さと前記一面に対する水の接触角とに基づいて設定される、
請求項2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造を有する積層セラミック電子部品(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)、チップインダクタ、低温同時焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)など)の製造工程では、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム状の基材上に、セラミック粉体をバインダーおよび溶剤に分散させたスラリーが塗布され、溶剤が加熱乾燥により除去されることにより、基材上にセラミックグリーンシートが形成される。次いで、セラミックグリーンシート上に内部電極が適宜印刷される。次いで、セラミックグリーンシートが基材から剥離され、複数のセラミックグリーンシート同士が積層・加熱・圧着されることによりセラミックグリーンシートの積層体が形成される。次いで、セラミックグリーンシートの積層体が所定のサイズに切断されることにより積層体がチップ化される。次いで、チップ化された積層体が焼成され、焼成体の表面に外部電極が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
通常、この製造工程において、主にセラミックグリーンシートの基材からの剥離を容易にさせることを目的として、例えば、基材の表面に離型層を形成する離型処理が施されている(例えば、特許文献2、3参照)。特に、近年、電子部品の小型化により、セラミックグリーンシートの薄膜化が進み、離型処理はセラミックグリーンシートおよび多層構造の電子部品の製造に必要不可欠となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/219143号公報
【特許文献2】特開2019-72849号公報
【特許文献3】特開2019-18583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
離型処理が施された基材の価格は、離型処理のグレードに応じて異なる。また、剥離性を向上させた基材の表面のスラリーの濡れ性は悪く、スラリーの均一な塗布が困難である。さらに、離型処理には離型効果の高いシリコン系の離型剤が広く用いられているが、セラミックグリーンシートが基材から剥離されるとき、離型剤のセラミックグリーンシートへの転写が生じ得る。そのため、離型処理が施されていない基材の使用が求められている。
【0006】
しかしながら、離型処理が施されていない基材の表面は、僅かに荒れており、スラリー(セラミックグリーンシート)との接触点が多くなる。そのため、スラリーの均一塗布が難しく、仮にスラリーが均一に塗布されたとしても、セラミックグリーンシートを基材から剥離する際にセラミックグリーンシートの破れや切れなどの不良が生じ得る。したがって、積層セラミック電子部品の製造において、離型処理が施されていない基材に直接形成されたセラミックグリーンシートを剥離する手法が求められている。
【0007】
本発明は、離型処理が施されていない基材を用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様における積層セラミック電子部品の製造方法は、フィルム状の透明基材の一面に直接塗布されたセラミックグリーンシートと前記一面との界面に、前記透明基材の他の一面側から剥離用紫外線を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程と、前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、離型処理が施されていない基材を用いた積層セラミック電子部品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るセラミックグリーンシートの製造方法を含む積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図1の積層セラミックコンデンサの製造方法の一部の工程を示す模式断面図である。
図3図1の積層セラミックコンデンサの製造方法に含まれる第1照射工程において、第1紫外線の積算光量に対する被照射面の表面粗さの変化を模式的に示すグラフである。
図4図1の積層セラミックコンデンサの製造方法に含まれる第1照射工程において、第1紫外線の積算光量に対する被照射面の接触角の変化を模式的に示すグラフである。
図5図1の積層セラミックコンデンサの製造方法に含まれる第2照射工程において、第2紫外線の波長スペクトルと、第2紫外線の透過率と、の関係の一例を模式的に示すグラフである。
図6】本発明の実施例において、被照射面の表面粗さの変化を示すグラフである。
図7】本発明の実施例において、被照射面の接触角の変化を示すグラフである。
図8図3の第1照射工程において、基材の短手方向の中央部および両端部における第1紫外線の照射条件を異ならせた状態を示す模式図であり、(a)は両端部の積算光量が中央部の積算光量より小さい状態を示し、(b)は端部の積算光量が中央部の積算光量より大きい状態を示す。
図9図1の積層セラミックコンデンサの製造方法に含まれる第2照射工程において、基材の特定の端部における第2紫外線の積算光量を他の部分よりも大きくした状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法(以下「本製法」という。)の実施の形態について説明する。以下の説明において、同一の構造または機能を有する要素については同一の符号が付され、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、各図面に図示されている比率に限定されない。
【0012】
「積層セラミック電子部品」は、例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)、チップインダクタ、低温同時焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックの多層構造を有する電子部品である。以下の実施の形態では、積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサが適用されている場合を例に、本製法が説明される。
【0013】
以下の説明において、「紫外線の波長」は、特に明記されない限り、同紫外線のスペクトルにおけるピーク波長を意味している。
【0014】
●積層セラミック電子部品の製造方法●
図1は、本製法の実施の形態を示すフローチャートである。
図2は、本製法の一部の工程を示す模式断面図である。
【0015】
積層セラミックコンデンサ1は、例えば、スラリー作製工程(S11)、第1照射工程(S12)、塗布工程(S13)、内部電極印刷工程(S14)、第2照射工程(S15)、剥離工程(S16)、積層・加圧工程(S17)、チップ化工程(S18)、焼成工程(S19)、および外部電極形成工程(S20)を経て製造される。第1照射工程(S12)は本発明における塗布用照射工程の一例であり、第2照射工程(S15)は本発明における剥離用照射工程の一例である。以下の説明において、第1照射工程(S12)および第2照射工程(S15)を除く各工程(S11,S13,S14,S16~S20)は公知の積層セラミックコンデンサの製造方法と共通するため、詳細な説明は省略される。
【0016】
先ず、積層セラミックコンデンサ1が備える各セラミック層(誘電体層12)となるセラミックグリーンシート10の材料となるスラリーSLが作製される(S11:スラリー作製工程)。スラリーSLは、例えば、誘電体セラミックの粉体、バインダー樹脂、および溶剤が湿式混合されることにより作製される。
【0017】
「誘電体セラミック粉末」は、高誘電率を有するセラミック製であり、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)などから適宜選択される。
【0018】
「バインダー樹脂」は、例えば、エチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール系樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、及びこれらの共重合体などから適宜選択される。
【0019】
「溶剤」は、例えば、テルピネオール、アルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、キシレン、及び酢酸ベンジルなどから適宜選択される。
【0020】
次いで、セラミックグリーンシート10のキャリアフィルムとなる基材20に第1紫外線が照射される(S12:第1照射工程)。第1紫外線は、例えば、公知の紫外線照射装置100を用いて、基材20の上面20aに直接照射される。第1紫外線の照射条件は、後述される。第1照射工程(S12)は本発明における非透過照射工程の一例であり、第1紫外線は本発明における塗布用紫外線の一例である。
【0021】
「基材20」は、例えば、合成樹脂製の透明なフィルムである。基材20の形状は、例えば、帯状である。基材20は、ロール状に巻かれた状態から順次送り出されることにより供給されている。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリメタクリレートおよびポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ナイロン6,6などのポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドなどから適宜選択される合成樹脂を含む。合成樹脂は、好ましくはポリエステルを含み、より好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。本実施の形態では、基材20は、ポリエチレンテレフタレート製である。
【0022】
基材20の厚さは、剥離工程(S16)における打ち抜き時の基材20の破断を抑制するために20μm以上であることが好ましく、剥離工程(S16)後の基材20の破棄による環境負荷を低減するために150μm以下であることが好ましい。また、基材20のヘイズ(HAZE)が相対的に高い場合、基材20の厚さは、前述の範囲内において薄い方が好ましい。
【0023】
本発明において、基材20の表面には、基材20からのセラミックグリーンシート10の離型を促進させる表面処理(例えば、公知の離型処理)は、施されていない。すなわち、第1紫外線の照射前の状態において、基材20における第1紫外線の被照射面である上面20aには、離型処理は施されていない。したがって、 紫外線は、離型処理において用いられる離型剤(離型層)などを介することなく、基材20の上面20aに直接照射される。上面20aは、本発明における一面の一例である。
【0024】
第1紫外線の波長は、基材20を透過しない波長帯内であり、かつ、基材20の上面20aの表面粗さおよび接触角に後述される影響を与える波長に設定されている。ここで、300nm以上の波長の紫外線は、基材20を透過する(基材20を透過する波長成分を有する)ため、第1照射工程(S12)の波長として適していない。また、200nm以下の波長の紫外線は、オゾンを発生させるため、環境および設備(真空雰囲気を必要とするなど)の観点から第1照射工程(S12)の波長として適していない。そのため、第1照射工程(S12)において、第1紫外線の波長は、好ましくは200nmより長く300nmより短い波長であり、より好ましくは260nm以上290nm以下の波長である。
【0025】
「表面粗さ」は、特に明示しない限り、上面20aの算術表面粗さ(R)の平均値を意味する。
【0026】
なお、本発明において、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(R)の平均値で示されていてもよい。
【0027】
「接触角」は、上面20aにおける水の接触角を意味する。
【0028】
第1紫外線の照射条件、特に、積算光量は、後述されるとおり、第1紫外線の積算光量に対する基材20の上面20aの表面粗さの変化、および、積算光量に対する上面20aの接触角の変化に基づいて設定されている。基材20の短手方向において、第1紫外線は一定の照度で均一に照射され、積算光量は、例えば、基材20の送り速度により調節される。
【0029】
図3は、第1紫外線の積算光量に対する基材20の被照射面(上面20a)の表面粗さの変化を模式的に示すグラフである。
同図の横軸は積算光量(J/cm)を示し、縦軸は表面粗さ(nm)を示す。
【0030】
図3に示されるとおり、基材20の被照射面である上面20aの表面粗さは、第1紫外線の積算光量の増加に伴い変化する。具体的には、表面粗さは、積算光量が第1紫外線の照射開始から大きくなるにつれて第1紫外線の照射前の表面粗さ(以下「初期表面粗さ」という。)「Vini」から大きくなるように変化し、所定の積算光量(以下「第1積算光量」という。)「L1」において最大表面粗さ「Vmax」となる。次いで、積算光量が第1積算光量「L1」よりも大きくなると、表面粗さは、最大表面粗さ「Vmax」から小さくなるように変化する。次いで、所定の積算光量(以下「第2積算光量」という。)「L2」において、表面粗さは、最大表面粗さ「Vmax」から初期表面粗さ「Vini」と最大表面粗さ「Vmax」との差分「Vdif」の半分だけ小さくなる。次いで、表面粗さは第2積算光量よりも大きい所定の積算光量(以下「第3積算光量」という。)「L3」までは小さくなり、第3積算光量「L3」以上において、表面粗さの変化(減少)は収まり、表面粗さの変化は安定する。
【0031】
このように、第1紫外線が直接照射されたときにおける上面20aの表面粗さの状態は、第1紫外線の積算光量が大きくなるにつれて表面粗さが大きくなるように変化する表面粗さ増大状態(第1紫外線照射開始から第1積算光量「L1」までの状態)、積算光量が大きくなるにつれて表面粗さが小さくなるように変化する表面粗さ減少状態(第1積算光量「L1」から第3積算光量「L3」までの状態)、積算光量に依らず表面粗さの変化が安定する表面粗さ安定状態(第3積算光量「L3」以上の状態)、の順に変化する。すなわち、上面20aは、一度荒らされた後、滑らかに均される。その結果、上面20aの凹凸のばらつきは、第1紫外線の照射前よりも収束する。
【0032】
「表面粗さの安定」は、積算光量の増加に対する表面粗さの変化量が、例えば、約±20%以内に収まっている状態を意味する。
【0033】
図4は、第1紫外線の積算光量に対する基材20の被照射面(上面20a)の水の接触角の変化を模式的に示すグラフである。
同図の横軸は積算光量(J/cm)を示し、縦軸は接触角(deg)を示す。
【0034】
図4に示されるとおり、基材20の被照射面である上面20aの接触角は、第1紫外線の積算光量の増加に伴い変化する。具体的には、接触角は、第1紫外線の照射開始から積算光量が大きくなるにつれて第1紫外線の照射前の接触角(以下「初期接触角」という。)「θini」から少し小さくなる。次いで、接触角の変化は、所定の積算光量(以下「第4積算光量」という。)「L4」までは、濡れの悪い所定の接触角「θ」(例えば、90°)近傍で安定する。次いで、積算光量が第4積算光量「L4」よりも大きくなると、接触角は、積算光量が大きくなるにつれて小さくなるように(濡れが良くなるように)変化する。次いで、接触角は第4積算光量「L4」よりも大きい所定の積算光量(以下「第5積算光量」という。)「L5」までは小さくなり、第5積算光量「L5」以上において、接触角の変化は、濡れの良い所定の接触角「θ」(例えば、20°)近傍で安定する。
【0035】
「接触角の安定」は、積算光量の増加に対する接触角の変化量が、例えば、約±20%以内に収まっている状態を意味する。
【0036】
このように、第1紫外線が直接照射されたときにおける上面20aの接触角の状態は、積算光量に依らず接触角の変化が安定している第1接触角安定状態(第1紫外線照射開始から第4積算光量「L4」までの状態)、積算光量が大きくなるにつれて接触角が小さくなる接触角減少状態(第4積算光量「L4」から第5積算光量「L5」までの状態)、積算光量に依らず接触角の変化が安定する第2接触角安定状態(第5積算光量「L5」以上の状態)、の順に変化する。
【0037】
ここで、第1積算光量「L1」~第5積算光量「L5」それぞれの間には、以下の(1)~(3)の関係が成立している。
【0038】
(1)第3積算光量「L3」は、例えば、第1積算光量「L1」の約2倍以上である。
【0039】
(2)第4積算光量「L4」は、第1積算光量「L1」とほぼ同じ、または、第1積算光量「L1」以上である。この関係によれば、表面粗さが最大表面粗さ「Vmax」となる第1積算光量「L1」よりも小さい積算光量では、第1紫外線の照射に基づく接触角の変化は、濡れの悪い接触角「θ」で安定している(向上していない)。すなわち、表面粗さの状態が表面粗さ増大状態のとき、接触角の状態は、第1接触角安定状態である。
【0040】
(3)第2積算光量「L2」および第3積算光量「L3」は、第4積算光量「L4」よりも大きく、第5積算光量「L5」よりも小さい。第5積算光量「L5」は、例えば、第1積算光量「L1」の約3倍から約4倍以上(図3および図4では3倍以上)である。この関係によれば、第1紫外線の照射に基づく表面粗さの変化は、接触角が濡れの良い接触角「θ」で安定し始める第5積算光量「L5」よりも小さい積算光量で安定している。すなわち、第1紫外線の照射に基づく接触角の変化は、表面粗さの変化が安定した後(均された後)においても続いている。つまり、接触角の状態が接触角減少状態のとき、表面粗さの状態は、表面粗さ減少状態または表面粗さ安定状態である。
【0041】
上記(1)~(3)の関係のうち、(3)の関係に示されるとおり、積算光量が大きくなると、表面粗さが均された状態で安定した後も接触角は減少を続け、最終的に接触角も濡れの良い角度「θ」で安定する。すなわち、表面粗さが安定する積算光量と接触角が安定する積算光量との間には差異が存在する。本製法において、第1紫外線の積算光量は、この表面粗さと接触角との間の差異((3)の関係)に基づいて、設定されている。すなわち、例えば、第1紫外線の積算光量は、表面粗さの状態が表面粗さ減少状態または表面粗さ安定状態であり、かつ、接触角の状態が接触角減少状態となるような積算光量に設定され、好ましくは、表面粗さの状態が表面粗さ安定状態であり、かつ、接触角の状態が接触角減少状態となるような積算光量に設定されている。換言すれば、第1紫外線の積算光量は、表面粗さが最大表面粗さ「Vmax」から差分「Vdif」の半分以上小さくなる範囲内であり、かつ、積算光量の増加に対して接触角が小さくなるように変化している範囲内に設定されている。具体的には、第1紫外線の積算光量は、第1積算光量「L1」および第4積算光量「L4」より大きく設定され、好ましくは第2積算光量「L2」以上に設定され、より好ましくは第3積算光量「L3」以上第5積算光量「L5」以下に設定されている。このように第1紫外線の積算光量が設定されることにより、表面粗さが充分に均された状態において、接触角の制御が可能となっている。
【0042】
図1および図2に戻る。
次いで、第1紫外線が照射された基材20の上面20aにスラリーSLが塗布される(S13:塗布工程)。スラリーSLは、公知の塗布方法(例えば、ドクターブレード法、ダイコータ法など)を用いて直接塗布される。前述のとおり、上面20aの表面粗さは均されており、かつ、上面20aの接触角は減少しているため、スラリーSLは、上面20aに均一に塗布される。また、接触角が制御されることにより、スラリーSL(セラミックグリーンシート10)の厚み(濡れ広がり)の制御、およびムラの無い塗布が可能となる。塗布後、塗布されたスラリーSLを乾燥させることにより、所定の厚み(例えば、1μm以下)の帯状のセラミックグリーンシート10が、上面20aに載置(形成)される。セラミックグリーンシート10は、最終的に積層セラミックコンデンサ1の誘電体層12を構成する。基材20および基材20の上面20aに載置されたセラミックグリーンシート10は、複合体11を構成している。
【0043】
次いで、導電ペーストが公知の印刷方法(例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷など)を用いてセラミックグリーンシート10の上面10aに印刷されることにより、上面10aに所定パターンの内部電極13が印刷される(S14:内部電極印刷工程)。導電ペーストは、内部電極13の主成分金属の粉末、バインダー、溶剤、および、必要に応じてその他助剤を含む。
【0044】
次いで、セラミックグリーンシート10の下面10bと基材20の上面20aとの界面Xに第2紫外線が照射される(S15:第2照射工程)。第2紫外線は、公知の紫外線照射装置200を用いて、基材20の下面20b側から基材20を透過して界面Xに照射される。第2照射工程(S15)は本発明における透過照射工程の一例であり、第2紫外線は本発明における剥離用紫外線の一例であり、下面20bは本発明における他の一面の一例である。
【0045】
第2紫外線の波長は、基材20を透過可能な波長帯内であり、かつ、セラミックグリーンシート10の下面10bと基材20の上面20aとの界面Xにおける化学的な結合を切断可能な波長に設定されている。
【0046】
図5は、基材20に第2紫外線が照射されたときの第2紫外線の波長スペクトルと、第2紫外線の透過率と、の関係の一例を模式的に示すグラフである。
同図の横軸は波長(nm)を示し、第1縦軸(左側)は相対強度を示し、第2縦軸(右側)は透過率を示している。同図において、実線は第2紫外線の波長(265nm、280nmおよび310nm)ごとの波長スペクトルを示し、破線は透過率を示している。
【0047】
透過率は約310nmを起点として急激に増加し、その増加率は約330nmにおいて緩やかになり、約380nmにおいてほぼ横ばいとなっている(ほぼ飽和している)。第2紫外線の各波長の強度分布は、ピーク波長を中心とした正規分布状であり、約10nm~約20nmの範囲の半値幅を有し、複数の波長成分を含む。
【0048】
265nmおよび280nmの波長の第2紫外線が照射された基材20に対する第2紫外線に含まれる各波長成分の透過率は「0%」であり、これらの波長の第2紫外線は基材20を透過しない。このように、300nm未満の波長は第2照射工程(S15)の波長として適していない。したがって、第1照射工程(S12)の第1紫外線の波長は、第2照射工程(S15)の波長として適していない。一方、310nmの波長の第2紫外線が照射された基材20に対する第2紫外線に含まれる各波長成分の透過率は、約310nmを超える波長成分において、波長の増加と共に増加している。すなわち、310nmの波長の第2紫外線に含まれる波長成分のうち、ピーク波長(310nm)を超える一部の波長成分は波長が長くなるにつれて基材20を透過するようになり、残りの波長成分(約310nm以下の波長成分)は基材20を透過しない。そのため、第2照射工程(S15)において、300nm以上(紫外線の波長の上限である400nm以下)の波長が、第2紫外線の波長として好ましい。
【0049】
ここで、電磁波(紫外線)のエネルギーは波長が低くなるほど大きくなる。そのため、化学的な結合の切断の観点からも、第2紫外線の波長は、300nmに近い波長(例えば、310nmなど)が好ましい。すなわち、例えば、第2紫外線の波長は、いわゆるUV-A領域に属する波長よりも、いわゆるUV-B領域に属し300nm以上の波長の方が好ましい。このように、第2紫外線の積算光量は、前述の界面Xにおける化学的な結合の程度に応じて、適宜設定されている。
【0050】
なお、ポリエチレンテレフタレートの紫外線の透過率において、透過率が急激に増加する起点となる波長は、ポリエチレンテレフタレートの構成により増減する。そのため、図5に示されるグラフは一例であり、第2紫外線の波長として好適な波長は310nmに限定されない。
【0051】
次いで、内部電極13が印刷されたセラミックグリーンシート10の一部が所定の大きさのシート状に打ち抜かれ、打ち抜かれたセラミックグリーンシート10が基材20から剥離される(S16:剥離工程)。ここで、セラミックグリーンシート10と接している基材20の上面20aの表面粗さの状態は、表面粗さ減少状態または表面粗さ安定状態である。すなわち、上面20aの表面は均され、セラミックグリーンシート10との接触点は第1紫外線照射前より少なくなっている。そのため、第1紫外線が照射された上面20aに対するセラミックグリーンシート10の剥離性は、第1紫外線が照射されていない上面20aに対するセラミックグリーンシート10の剥離性よりも良好である。また、第2紫外線の照射により、界面Xにおける化学的な結合は切断されている。そのため、セラミックグリーンシート10は、離型処理が施されていない上面20aに塗布されていても、同上面20aから容易に剥離できる。また、基材20には離型処理が施されていないため、剥離工程(S16)において、セラミックグリーンシート10への離型剤の転写は、生じない。
【0052】
ここで、基材20の上面20aの表面粗さの状態が表面粗さ減少状態であるとき、第2紫外線の照射により、界面Xにおける上面20aの表面粗さの減少は進行する。そのため、上面20aの表面粗さの状態が表面粗さ減少状態であるとき、第2照射工程(S15)を経ることにより、界面Xにおける上面20aの表面粗さが充分に均される。その結果、剥離工程(S16)において、セラミックグリーンシート10の基材20からの剥離性は向上する。
【0053】
次いで、剥離されたシート状のセラミックグリーンシート10は、例えば、内部電極13と誘電体層12となるセラミックグリーンシート10とが交互になるように所定層数(例えば、数100層)積層され、加圧される(S17:積層・加圧工程)。
【0054】
次いで、積層・加圧されたセラミックグリーンシート10が所定寸法に切断されて、チップ化されたほぼ直方体状のセラミック積層体14が形成される(S18:チップ化工程)。
【0055】
次いで、セラミック積層体14は、例えば、焼成炉を用いて所定条件で焼成され、焼結体15が形成される(S19:焼成工程)。
【0056】
次いで、焼結体15に外部電極16が形成されることにより、積層セラミックコンデンサ1が形成される(S20:外部電極形成工程)。
【0057】
なお、上記された積層セラミックコンデンサの製造方法は、一例であり、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、剥離工程(S16)は、積層後に実行されていてもよい。
【0058】
●実施例(第1紫外線照射例)
次に、ポリエチレンテレフタレート製の透明なフィルムに第1紫外線が直接照射されたときの接触角および表面粗さの変化が、本発明の実施例(第1紫外線照射例)として説明される。以下の実施例の説明において、表面粗さは、例えば、公知のAFM(Atomic Force Microscope)を用いて測定されている。また、接触角は、例えば、「θ/2法」を用いる公知の測定装置を用いて測定されている。接触角の測定において、液適量は0.69μLであり、測定時間は滴下後120secである。
【0059】
図6は、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムに第1紫外線が照射されたときのフィルムの被照射面の表面粗さの変化を示すグラフである。
図7は、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムに第1紫外線が照射されたときのフィルムの被照射面の接触角の変化を示すグラフである。
同図の横軸は積算光量(J/cm)を示し、図6の縦軸は表面粗さ(nm)を示し、図7の縦軸は接触角(deg)を示す。
【0060】
図6において、第1紫外線の波長は265nmであり、実線は算術平均粗さ(R)を示し、破線は二乗平均平方根粗さ(R)を示している。表面粗さの変化は、前述の波長の範囲内(200nmより長く300nmより短い範囲内)であればほぼ同じであるため、265nm以外の波長における表面粗さの変化の図示は省略される。図7において、実線は第1紫外線の波長が265nmのときの接触角の変化を示し、破線は第1紫外線の波長が280nmのときの接触角の変化を示し、一点鎖線は第1紫外線の波長が310nmのときの接触角の変化を比較例として示している。また、図7は、説明の便宜上、積算光量「L11」~「L13」の位置も図示している。
【0061】
被照射面の算術平均粗さ(R)は、積算光量が第1紫外線の照射開始から大きくなるにつれて初期値(約1.6nm)から大きくなるように変化し、積算光量「L11」において最大値(約5.2nm)となる。次いで、積算光量が積算光量「L11」よりも大きくなると、算術平均粗さ(R)は、小さくなるように変化している。次いで、積算光量「L12」において、算術平均粗さ(R)は、最大値から初期値と最大値との差分(約3.2nm)の半分(約1.6nm)だけ小さくなっている。次いで、積算光量「L13」以上において、算術平均粗さ(R)の変化(減少)は収まり、算術平均粗さ(R)の変化は安定している。一方、二乗平均平方根粗さ(R)は、積算光量が第1紫外線の照射開始から大きくなるにつれて初期値(約1.9nm)から大きくなるように変化し、積算光量「L21」において最大値(約7.7nm)となる。次いで、積算光量が積算光量「L21」よりも大きくなると、二乗平均平方根粗さ(R)は、小さくなるように変化している。次いで、積算光量「L22」において、二乗平均平方根粗さ(R)は、最大値から初期値と最大値との差分(約5.8nm)の半分(約2.9nm)だけ小さくなっている。次いで、積算光量「L23」以上において、二乗平均平方根粗さ(R)の変化(減少)は収まり、二乗平均平方根粗さ(R)の変化は安定している。ここで、積算光量「L11」「L21」は第1積算光量「L1」に対応し、積算光量「L12」「L22」は第2積算光量「L2」に対応し、積算光量「L13」「L23」は第3積算光量「L3」に対応している。このように、算術平均粗さ(R)の変化は二乗平均平方根粗さ(R)の変化と類似の挙動を示し、算術平均粗さ(R)および二乗平均平方根粗さ(R)の変化は図3に示される変化と類似の挙動を示している。
【0062】
一方、265nmの第1紫外線が照射された被照射面における接触角は、第1紫外線の照射開始から積算光量が大きくなるにつれて初期の角度(約100°)から少し小さい角度(約90°)になっている。次いで、同接触角の変化は、積算光量「L14」まではその角度(約90°)近傍で安定している。次いで、積算光量が積算光量「L14」よりも大きくなると、同接触角は、積算光量が大きくなるにつれて小さくなるように変化している。そして、積算光量「L15」以上の積算光量における接触角の変化量は、積算光量「L14」以上「L15」未満の積算光量における接触角の変化量より小さくなっている。ここで、265nmの第1紫外線が照射された被照射面において、積算光量「L14」は第4積算光量「L4」に対応し、第5積算光量「L5」に対応する積算光量は、図7における最大積算光量(積算光量「L11」の4倍)より大きいため、同積算光量における接触角は未測定である。
【0063】
また、280nmの第1紫外線が照射された被照射面における水の接触角は、第1紫外線の照射開始から積算光量が大きくなるにつれて初期の角度(約100°)から少し小さい角度(約90°)になっている。次いで、同接触角の変化は、積算光量「L34」まではその角度(約90°)近傍で安定している。次いで、積算光量が積算光量「L34」よりも大きくなると、同接触角は、積算光量が大きくなるにつれて小さくなるように変化している。ここで、280nmの第1紫外線が照射された被照射面において、積算光量「L34」は第4積算光量「L4」に対応し、第5積算光量「L5」に対応する積算光量は、図7における最大積算光量より大きいため、同積算光量における接触角は未測定である。
【0064】
さらに、300nmを超える波長の紫外線はフィルムを透過するため、310nmの第1紫外線が照射された被照射面における接触角は、積算光量に依らず初期の角度(約100°)から殆ど変化していない。
【0065】
このように、被照射面の表面粗さの状態が表面粗さ安定状態(図6では、積算光量「L13」「L23」以上の状態)において、接触角の状態は接触角減少状態である。すなわち、表面粗さが充分に均された状態において、接触角の制御が可能となっている。また、 紫外線のエネルギーは波長が短いほど強くなるため、280nmの積算光量「L34」は、265nmの積算光量「L14」よりも大きくなる。そのため、前述の差異は、波長が短くなるにつれて小さくなる傾向となる。この結果より、表面粗さ安定状態において、第1紫外線の波長が大きくなる(例えば、いわゆるUV-B領域に属し300nm未満の波長)と接触角減少状態の変動幅(角度幅)は大きくなり、第1紫外線の波長が小さくなる(例えば、いわゆるUV-C領域に属する波長)と接触角減少状態の変動幅(角度幅)は小さくなる。
【0066】
●まとめ
以上説明した実施の形態によれば、本製法は、第2照射工程(S15)および剥離工程(S16)を含む。第2照射工程(S15)では、フィルム状の透明な基材20の上面20aに直接塗布されたセラミックグリーンシート10と上面20aとの界面Xに、第2紫外線が、基材20の下面20b側から基材20を透過させて照射される。剥離工程(S16)では、第2紫外線の照射後に、セラミックグリーンシート10が上面20aから剥離される。この構成によれば、界面Xにおける化学的な結合は、第2紫外線により切断される。また、上面20aの表面粗さの状態が表面粗さ減少状態であるとき、第2照射工程(S15)を経ることにより、界面Xにおける上面20aの表面粗さが充分に均される。したがって、離型処理が施されていない基材20に直接塗布されたセラミックグリーンシート10の剥離が可能となる。その結果、離型処理が施されている従来の基材が使用される場合と比較して、セラミックグリーンシート10の製造コストは低減され、シリコンなどの転写は生じない。
【0067】
また、以上説明した実施の形態によれば、本製法は、第1照射工程(S12)および塗布工程(S13)を含む。塗布工程(S13)では、上面20aの表面粗さおよび上面20aにおける水の接触角を変化させるため、単一素材により構成されているフィルム状の基材20の上面20aに第1紫外線が直接照射される。この構成によれば、第1紫外線の照射により、上面20aの接触角の制御が可能となると共に、上面20aの表面粗さが均される。そのため、離型処理が施されていない基材20に対してスラリーSLの均一な塗布が可能となると共に、同基材20からのセラミックグリーンシート10の剥離が可能となる。
【0068】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、第2紫外線の波長は、第1紫外線の波長と異なる。この構成によれば、第1照射工程(S12)および第2照射工程(S15)それぞれにおいて、最適な波長が選択可能である。
【0069】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、基材20は、ポリエステル製(ポリエチレンテレフタレート製)である。第1紫外線の波長は200nmより大きく300nmより小さく、第2紫外線の波長は300nm以上である。この構成によれば、第1照射工程(S12)において、オゾンが生成されることなく、第1紫外線は基材20の上面20aに確実に照射される。また、第2照射工程(S15)において、第2紫外線は確実に基材20を透過して界面Xに照射される。さらに、実施例において説明されたとおり、第1紫外線の積算光量に対する表面粗さの変化と接触角の変化との間に差異が確実に生じている。そのため、離型処理が施されていない基材20に対してスラリーSLの均等な塗布が可能となると共に、同基材20からのセラミックグリーンシート10の剥離が可能となる。
【0070】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1照射工程(S15)において、第1紫外線の積算光量は、上面20aの表面粗さおよび接触角に基づいて設定される。この構成によれば、第1紫外線の積算光量は、スラリーSLの塗布(セラミックグリーンシート10の状態)に影響を与える接触角(濡れ性)だけでなく、セラミックグリーンシート10の剥離に影響を与える表面粗さに基づいて設定される。そのため、本製法では、離型処理が施されていない基材20に対してスラリーSLの均一な塗布が可能となると共に、同基材20からのセラミックグリーンシート10の剥離が可能となる。
【0071】
●その他の実施形態●
なお、以上説明した実施の形態において、積層セラミックコンデンサの製造方法が本製法の一例であった。これに代えて、他の積層セラミック電子部品(例えば、チップインダクタ)の製造方法が本製法の一例であってもよい。
【0072】
また、以上説明した実施の形態において、第3積算光量「L3」は、第1積算光量「L1」の約2倍でなくてもよい。すなわち、例えば、第3積算光量「L3」は、第1積算光量「L3」の約3倍であってもよい。
【0073】
さらに、第1照射工程(S12)において、基材20の短手方向における基材20の両端部に対する第1紫外線の照射条件(積算光量)は、両端部を除く中央部に対する第1紫外線の照射条件(積算光量)と異なっていてもよい。
【0074】
図8は、基材20の短手方向の中央部および両端部における第1紫外線の照射条件を異ならせた状態を示す模式図であり、(a)は両端部の積算光量が中央部の積算光量より小さい状態を示し、(b)は端部の積算光量が中央部の積算光量より大きい状態を示す。
同図の黒塗り矢印は積算光量の大きさを示し、長さが長いほど積算光量は大きいことを意味している。
【0075】
一般的に、両端部の濡れ性が良好な場合、接触角が小さくなるため、両端部においてスラリーSLの厚み、すなわちセラミックグリーンシート10の厚みが薄くなる。ここで、両端部の積算光量が中央部の積算光量よりも小さい場合、両端部の接触角は、中央部の接触角よりも大きくなる。すなわち、両端部の濡れ性は、中央部の濡れ性よりも悪くなる。この構成では、前述した両端部における接触角の減少によるセラミックグリーンシート10の厚みの減少が抑制される。また、一般的に、紫外線照射装置100の照射範囲内における照射量は、照射範囲の外縁部において弱くなる傾向にある。したがって、基材20の短手方向の長さ(幅)が照射範囲とほぼ同じ場合、両端部の積算光量が中央部の積算光量よりも小さくなり易い。すなわち、短手方向において積算光量が不均一になり易い。ここで、両端部の積算光量が中央部の積算光量より大きい場合、前述した積算光量の不均一が解消される。このように、部分的に照射条件を変更することにより、塗布工程(S13)において、セラミックグリーンシート10を均一に塗布できると共に、剥離工程(S16)において、セラミックグリーンシート10を均一に剥離できる。この場合、紫外線照射装置100の光源がランプであっても実現可能であるが、個別に照射条件を変更可能なLED(Light-Emitting Diode)が光源として好ましい。
【0076】
さらにまた、第2照射工程(S15)において、基材20の特定の端部(例えば、剥離時に起点となる部分:起点部)に対する第2紫外線の照射条件(積算光量)は、同端部を除く他の部分に対する第2紫外線の照射条件(積算光量)よりも大きくてもよい。
【0077】
図9は、基材20の特定の端部(起点部)における第2紫外線の積算光量を他の部分よりも大きくした状態を示す模式図である。
同図の黒塗り矢印(透過部は灰色)は積算光量の大きさを示し、長さが長いほど積算光量は大きいことを意味している。
【0078】
図9に示されるとおり、起点部の積算光量が他の部分の積算光量よりも大きくなると、起点部における化学的な結合の切断効果が高まる。そのため、起点部からのセラミックグリーンシート10の剥離性が向上する。この場合、紫外線照射装置200の光源がランプであっても実現可能であるが、個別に照射条件を変更可能なLEDが光源として好ましい。
【0079】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0080】
本発明の第1の実施態様は、フィルム状の透明基材(例えば、基材20)の一面(例えば、上面20a)に直接塗布されたセラミックグリーンシート(例えば、セラミックグリーンシート10)と前記一面との界面(例えば、界面X)に、前記透明基材の他の一面(例えば、下面20b)側から剥離用紫外線(例えば、第2紫外線)を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程(例えば、第2照射工程(S15))と、前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程(例えば、剥離工程(S16))と、を含む、積層セラミック電子部品の製造方法である。
この構成によれば、離型処理が施されていない基材に直接塗布されたセラミックグリーンシートの剥離が可能となる。
【0081】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記一面に塗布用紫外線(例えば、第1紫外線)を照射し、前記一面の表面粗さを変化させる非透過照射工程(例えば、第1照射工程(S12))と、前記塗布用紫外線が照射された前記一面にセラミック粒子を含むスラリー(例えば、スラリーSL)を塗布することにより、前記一面に前記セラミックグリーンシートを塗布する塗布工程(例えば、塗布工程(S13))と、を含む、積層セラミック電子部品の製造方法である。
この構成によれば、離型処理が施されていない基材に対してスラリーの均一な直接塗布が可能となると共に、同基材からのセラミックグリーンシートの剥離が可能となる。
【0082】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、前記剥離用紫外線の波長は、前記塗布用紫外線の波長と異なる、積層セラミック電子部品の製造方法である。
この構成によれば、第1照射工程および第2照射工程それぞれにおいて、最適な波長が選択可能である。
【0083】
本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記透明基材は、ポリエステル製であり、前記塗布用紫外線の波長は、200nmより大きく300nmより小さく、前記剥離用紫外線の波長は、300nm以上である、積層セラミック電子部品の製造方法である。
この構成によれば、第1照射工程において、オゾンが生成されることなく、第1紫外線は基材の上面に確実に照射される。また、第2照射工程において、第2紫外線は確実に基材を透過して界面に照射される。
【0084】
本発明の第5の実施態様は、第2の実施態様において、前記非透過照射工程において、前記塗布用紫外線の積算光量は、前記表面粗さと前記一面に対する水の接触角とに基づいて設定される、積層セラミック電子部品の製造方法である。
この構成によれば、離型処理が施されていない基材に対してスラリーの均一な塗布が可能となると共に、同基材からのセラミックグリーンシートの剥離が可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミックグリーンシート
10b 下面
20 基材
20a 上面(一面)
20b 下面(他の一面)
X 界面
SL スラリー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-09-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の透明基材の一面に塗布用紫外線を直接照射し、前記一面の表面粗さを変化させる非透過照射工程と、
前記塗布用紫外線が照射された前記一面にセラミック粒子を含むスラリーを直接塗布することにより、前記一面にセラミックグリーンシートを塗布する塗布工程と、
前記一面に直接塗布された前記セラミックグリーンシートと前記一面との界面に、前記透明基材の他の一面側から剥離用紫外線を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程と、
前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程と、
を含
前記非透過照射工程において、
前記塗布用紫外線の照射前の前記基材には、前記基材からの前記セラミックグリーンシートの離型を促進させる表面処理が施されてなく、
前記表面粗さは、前記塗布用紫外線の積算光量に応じて、増大した後に減少し、その後に安定するように変化し、
前記塗布用紫外線は、前記表面粗さが安定するまで照射される、
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記剥離用紫外線の波長は、前記塗布用紫外線の波長と異なる、
請求項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記透明基材は、ポリエステル製であり、
前記塗布用紫外線の波長は、200nmより長く300nmより短く、
前記剥離用紫外線の波長は、300nm以上である、
請求項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記非透過照射工程において、前記塗布用紫外線の前記積算光量は、前記表面粗さと前記一面に対する水の接触角とに基づいて設定される、
請求項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
【特許文献1】特開2021-122068号公報
【特許文献2】特開2019-72849号公報
【特許文献3】特開2019-18583号公報
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の一実施態様における積層セラミック電子部品の製造方法は、フィルム状の透明基材の一面に塗布用紫外線を直接照射し、前記一面の表面粗さを変化させる非透過照射工程と、前記塗布用紫外線が照射された前記一面にセラミック粒子を含むスラリーを直接塗布することにより、前記一面にセラミックグリーンシートを塗布する塗布工程と、前記一面に直接塗布された前記セラミックグリーンシートと前記一面との界面に、前記透明基材の他の一面側から剥離用紫外線を前記透明基材に透過させて照射する透過照射工程と、前記剥離用紫外線の照射後に、前記セラミックグリーンシートを前記一面から剥離する剥離工程と、を含前記非透過照射工程において、前記塗布用紫外線の照射前の前記基材には、前記基材からの前記セラミックグリーンシートの離型を促進させる表面処理が施されてなく、前記表面粗さは、前記塗布用紫外線の積算光量に応じて、増大した後に減少し、その後に安定するように変化し、前記塗布用紫外線は、前記表面粗さが安定するまで照射される