(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169588
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】プラントシミュレータ及び運転訓練用シミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20231122BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G09B9/00 B
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080801
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 力夫
(72)【発明者】
【氏名】西 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】家弓 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】森山 慧
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BB17
3C223EA02
3C223FF23
3C223FF34
3C223GG03
3C223HH01
(57)【要約】
【課題】通常運転時とは異なる運転領域におけるシミュレーションの予測精度を向上させること。
【解決手段】プラントシミュレータ30は、コンバスタから排出された流動材をサイクロン及び外部熱交換器を経由してコンバスタへ循環させる循環流動層ボイラを備えるプラントの挙動を模擬する。プラントシミュレータ30は、プラントの物理モデルを記憶するためのモデル記憶部40と、入力データと物理モデルとを用いてプラントの挙動を模擬する演算部45とを備える。プラントの物理モデルは、循環流動層ボイラの構成要素に関する物理モデルを含んでいる。演算部45は、コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れを模擬するコンバスタ演算部46、サイクロンにおける後燃え現象を模擬するサイクロン演算部47、及び外部熱交換器における流動材による伝熱遅れを模擬する外部熱交換演算部48の少なくともいずれか1つを含んでいる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバスタから排出された流動材をサイクロン及び外部熱交換器を経由して前記コンバスタへ循環させる循環流動層ボイラを備えるプラントの挙動を模擬するプラントシミュレータであって、
前記プラントの物理モデルを記憶するためのモデル記憶部と、
入力データと前記物理モデルとを用いて前記プラントの挙動を模擬する演算部と
を備え、
前記プラントの物理モデルは、前記循環流動層ボイラの構成要素に関する物理モデルを含み、
前記演算部は、前記コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れ、前記サイクロンにおける後燃え現象、及び前記外部熱交換器における前記流動材による伝熱遅れの少なくともいずれか1つを含む演算を行うプラントシミュレータ。
【請求項2】
前記演算部は、前記コンバスタの挙動を模擬するコンバスタ演算部を備え、
前記コンバスタ演算部は、燃料種別、燃料流量、燃焼ガス流量、及び燃料を投入する機器の運転状態に関する情報の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと投入燃料の燃焼遅れを演算するための物理モデルとを用いて、前記コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れを模擬する燃焼遅れ演算部を備える請求項1に記載のプラントシミュレータ。
【請求項3】
前記演算部は、前記サイクロンの挙動を模擬するサイクロン演算部を備え、
前記サイクロン演算部は、前記コンバスタの出口における燃焼ガス温度及び燃焼ガス流量、前記コンバスタの出口における流動材温度及び流動材流量、並びに前記コンバスタ内における燃焼ガスの酸素濃度の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと前記サイクロンの入口近傍における後燃え現象を演算するための物理モデルとを用いて、前記後燃え現象を模擬する後燃え演算部を備える請求項1に記載のプラントシミュレータ。
【請求項4】
前記演算部は、前記外部熱交換器の挙動を模擬する外部熱交換演算部を備え、
前記外部熱交換演算部は、前記外部熱交換器に流入する前記流動材の温度及び流量、並びに、流体の温度、流量、及び圧力の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと前記外部熱交換器の伝熱遅れを演算するための物理モデルとを用いて、前記外部熱交換器における伝熱遅れを模擬する伝熱遅れ演算部を備える請求項1に記載のプラントシミュレータ。
【請求項5】
コンピュータを請求項1に記載のプラントシミュレータとして機能させるためのプログラム。
【請求項6】
請求項1に記載のプラントシミュレータと、
操作量を入力するための訓練者端末と、
前記操作量に基づく制御指令値を前記プラントシミュレータに与える制御シミュレータと、
前記プラントシミュレータ又は前記制御シミュレータの内部パラメータに変化を与えるための監督者端末と
を備える運転訓練用シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラントシミュレータ及び運転訓練用シミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電プラント、原子力発電プラント等の発電プラントにおいて、運転員の教育及び訓練に利用される運転訓練用シミュレータが開発されている。例えば、特許文献1には、循環流動層(CFB:Circulating Fluidized Bed)ボイラを用いた火力発電プラントの運転訓練用シミュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される運転訓練用シミュレータは、プラントの挙動を表現するモデルとして統計モデルを用い、操作者により入力された設定値に応じてプロセス値を演算することで、プラントの挙動をシミュレーションしている。このため、シミュレーションの予測精度を高くするためには、相当数の稼働データを必要とする。したがって、稼働データが十分に得られる通常運転時の予測精度は高いものの、データが不足する運転領域、例えば、異常発生時においては、十分な予測精度を得ることが難しいという問題があった。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、通常運転時とは異なる運転領域におけるシミュレーションの予測精度を向上させることのできるプラントシミュレータ及び運転訓練用シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第一態様は、コンバスタから排出された流動材をサイクロン及び外部熱交換器を経由して前記コンバスタへ循環させる循環流動層ボイラを備えるプラントの挙動を模擬するプラントシミュレータであって、前記プラントの物理モデルを記憶するためのモデル記憶部と、入力データと前記物理モデルとを用いて前記プラントの挙動を模擬する演算部とを備え、前記プラントの物理モデルは、前記循環流動層ボイラの構成要素に関する物理モデルを含み、前記演算部は、前記コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れ、前記サイクロンにおける後燃え現象、及び前記外部熱交換器における前記流動材による伝熱遅れの少なくともいずれか1つを含む演算を行うプラントシミュレータである。
【0007】
本開示の第二態様は、コンピュータを上記プラントシミュレータとして機能させるためのプログラムである。
【0008】
本開示の第三態様は、上記プラントシミュレータと、操作量を入力するための訓練者端末と、前記操作量に基づく制御指令値を前記プラントシミュレータに与える制御シミュレータと、前記プラントシミュレータ又は前記制御シミュレータの内部パラメータに変化を与えるための監督者端末とを備える運転訓練用シミュレータである。
【発明の効果】
【0009】
本開示のプラントシミュレータ及び運転訓練用シミュレータによれば、通常運転時とは異なる運転領域におけるシミュレーションの予測精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る発電プラントの概略構成図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るプラントシミュレータのハードウェア構成の一例を示した図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るプラントシミュレータが備える機能の一例を示した機能ブロック図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る循環流動層ボイラの挙動を模擬する各演算部の関係及び入出力データの一例を示した図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係るコンバスタ演算部により実行される演算処理の内容を示した図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るサイクロン演算部により実行される演算処理の内容を示した図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る外部熱交換演算部により実行される演算処理の内容を示した図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る運転訓練用シミュレータの全体構成を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係るプラントシミュレータの一実施形態について、図面を参照して説明する。
本開示の一実施形態に係るプラントシミュレータは、循環流動層ボイラ(以下「CFBボイラ」という。)を備える発電プラントの挙動を模擬(シミュレーション)するシミュレータである。以下、本実施形態に係るプラントシミュレータについて説明する前に、発電プラント1の構成について簡単に説明する。
【0012】
(発電プラントの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る発電プラント1の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る発電プラント1は、蒸気を生成するボイラとしてCFBボイラ2を備えている。更に、発電プラント1は、CFBボイラ2で生成された蒸気によって回転駆動する蒸気タービン3と、蒸気タービン3の駆動力によって発電する発電機4とを備えている。
なお、以下の説明において、「上方」とは鉛直上側方向を、「下方」とは鉛直下側方向を示している。
【0013】
CFBボイラ2は、例えば、コンバスタ5、サイクロン13、及び外部熱交換器15を備えている。更に、CFBボイラ2は、複数の熱交換器8等を備える対流伝熱部7を備えている。
CFBボイラ2は、コンバスタ5から排出された流動材をサイクロン13及び外部熱交換器15を経由してコンバスタ5へ循環させる。流動材の一例として、流動砂(例えば、河砂などSiO2が主体の粒子)が挙げられる。
【0014】
更に、CFBボイラ2は、コンバスタ5に燃料を供給する燃料供給装置6を備えている。CFBボイラ2では、広範な燃料を燃焼可能であり、例えば、燃料として石炭(瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、無煙炭など)、石油コークス、木質バイオマス、製紙スラッジ、RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)、RDF(Refuse Derived Fuel)、廃タイヤ、脱水汚泥、都市ごみ等を採用することができる。
【0015】
図1に示す燃料供給装置6は燃料として石炭を採用した場合の一例である。本実施形態では、コンバスタ5の内圧力が大気圧より少し高いので、燃料供給装置6は、燃料供給系統へ燃焼ガスなどが逆流しないよう、ロータリバルブ10及びシール空気供給装置(図示省略)が設けられている。
【0016】
コンバスタ5は、例えば、炉底29に設けられたノズルから供給される空気(気体)により、内部で流動材を流動させ、流動材の流動層を形成する。CFBボイラ2は、このように流動層を形成することで、コンバスタ5内の燃料、流動材、および空気の混合を促進し、燃焼効率の向上を図っている。なお、CFBボイラ2の通常運転時においては、ノズルからは気体として空気が供給されるが、停止時の炉内パージなどでは、不活性ガス(窒素ガスなど)を導入してもよい。
【0017】
また、コンバスタ5から排ガスとともに飛び出す循環粒子(例えば、流動材と未燃燃料)は、コンバスタ5出口側に設けられたサイクロン13によって、燃焼ガスと循環粒子とに分離される。サイクロン13で分離・捕集した循環粒子は、シールポット14および外部熱交換器15を介して、再びコンバスタ5へ戻される。このように、本実施形態に係るCFBボイラ2では、流動材や未燃燃料を循環させるシステムとすることにより燃焼効率の向上を図っている。また、外部熱交換器15へ送られる循環粒子の分岐率を灰取出弁16で調整することで、コンバスタ5の炉内温度を調整することができる。外部熱交換器15へは、循環粒子を流動させるための流体(例えば、空気等)がブロワ17から供給されている。
【0018】
サイクロン13で分離された燃焼ガスは、対流伝熱部7に送られる。対流伝熱部7において、燃焼ガスは、対流伝熱部7に設けられた複数の熱交換器8の内部を流通する水や蒸気と熱交換する。熱交換器8では、燃焼ガスとの熱交換によって蒸気が生成される。生成された蒸気は、蒸気タービン3に送られ、蒸気タービン3を回転駆動する。蒸気タービン3が回転駆動すると、その回転力が発電機4に伝達され、発電機4が発電する。また、対流伝熱部7において、熱交換器8と熱交換した燃焼ガスは、空気予熱器22及びバグフィルタ23を通過した後に、煙突(図示省略)から大気に放出される。
【0019】
コンバスタ5には、コンバスタ5内において流動材を流動させる複数のノズル(図示略)と、燃焼空気を供給する燃焼空気供給部26とが設けられている。なお、微粉燃焼方式で用いられるコンバスタが部分的に1500℃程度を超過することに対し、CFBボイラ2で用いられるコンバスタ5では炉内温度が均一であるとともに、例えば800~900℃に制御される。このため、CFBボイラ2では、サーマルNOx(燃焼温度依存の発生NOx)の生成量を抑制できる。また、コンバスタ5内に石灰石を供給することで炉内脱硫(CaCO3→CaO+CO2、CaO+SO2+1/2O2 →CaSO4)を行うことも可能となる。
【0020】
燃焼空気供給部26は、例えば、複数設けられている。燃焼空気供給部26は、各々、FDF(Forced Delivery Fan)27から供給され、空気予熱器22で燃焼ガスとの熱交換によって予熱された空気の一部を、燃焼用空気として炉内に噴出する。噴出される燃焼用空気は、風室28によって、各燃焼空気供給部26に略均一に分配されている。このため、コンバスタ5内では一様な流動層が形成され、炉内温度が比較的均一になる。
【0021】
このように、CFBボイラ2は、各構成要素における熱容量の比較的大きな流動材による熱移動、コンバスタ5における反応速度が比較的遅い流動層燃焼、サイクロン13における流動材及び燃焼ガスの分離、外部熱交換器15における流動層伝熱といった、噴流床燃焼を用いた微粉燃料焚ボイラとは異なる特徴的な挙動を示す。
【0022】
(プラントシミュレータ)
次に、本実施形態に係るプラントシミュレータ30について、図面を参照して説明する。プラントシミュレータ30は、上述した発電プラント1の挙動を模擬する装置である。
【0023】
図2は、プラントシミュレータ30のハードウェア構成の一例を示した図である。
図2に示すように、プラントシミュレータ30は、いわゆるコンピュータであり、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)31、主記憶装置(Main Memory)32、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)33等を備えている。更に、プラントシミュレータ30は、外部機器と接続するための外部インターフェース34、ネットワークを介して他の装置と通信を行い、情報の送受信を行うための通信インターフェース35を備えていてもよい。また、プラントシミュレータ30は、プラントシミュレータ30に対して設定値や運転条件等の各種データを与えるための入力部(図示略)、シミュレーション結果を表示するための表示部(図示略)を備えていてもよい。これら各部は、例えば、バス36を介して互いに情報の授受が可能な構成とされている。また、入力部及び表示部は、外部インターフェース34又は通信インターフェース35を介してプラントシミュレータ30のCPU31と情報の授受が可能な構成とされていてもよい。
【0024】
主記憶装置32は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPU31の実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
二次記憶装置33は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置33は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。
【0025】
後述する各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置33に記憶されており、このプログラムをCPU31が主記憶装置32に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述する各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置33に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0026】
CPU31、主記憶装置32、二次記憶装置33は、複数設けられていてもよい。例えば、CPU31は、1つのプロセッサ・パッケージ内に複数のプロセッサコアが搭載されたマルチコア・シングルプロセッサとして実現されてもよい。また、CPU31は、1つのプロセッサ・パッケージ内に1つのプロセッサコアが搭載されたシングルコアを複数備えるシングルコア・マルチプロセッサにより実現されてもよい。
【0027】
図3は、本実施形態に係るプラントシミュレータ30が備える機能の一例を示した機能ブロック図である。
図3に示すように、プラントシミュレータ30は、発電プラント1の物理モデルを記憶するためのモデル記憶部40と、シミュレーションに関する演算を実行する演算部45とを備えている。
【0028】
モデル記憶部40には、発電プラント1の挙動を演算するための複数の物理モデルが格納されている。例えば、モデル記憶部40には、発電プラント1を構成する各構成要素の物理モデルが格納されている。例えば、CFBボイラ2においては、コンバスタ5、サイクロン13、外部熱交換器15等の構成要素に関する物理モデルがそれぞれ格納されている。各物理モデルは、例えば、ヤコビアン等の行列によって表され、各構成要素の入出力を紐づける内部パラメータを含んでいる。
【0029】
モデル記憶部40は、例えば、上述した二次記憶装置33として実現されてもよい。また、モデル記憶部40は、外部インターフェース34又は通信インターフェース35を介して接続される外部記憶装置として実現されてもよい。例えば、モデル記憶部40は、クラウド上のサーバとして実現されてもよい。このように、モデル記憶部40は、後述する演算部45がアクセス可能な記憶部として実現されていればよく、物理モデルの格納場所については特に限定されない。
【0030】
演算部45は、入力データ(制御指令信号、設定値等)とモデル記憶部40に格納されている各種物理モデルとを用いて発電プラント1の挙動を模擬する。例えば、演算部45は、コンバスタ演算部46、サイクロン演算部47、及び外部熱交換演算部48等を備えている。
【0031】
図4は、本実施形態に係るCFBボイラ2の挙動を模擬する各演算部の関係及び入出力データの一例を示した図である。CFBボイラ2に関する物理モデルは、例えば、CFBボイラ2の特徴である流動材による熱移動、コンバスタ5における流動層燃焼、サイクロン13による燃焼ガスと流動材の分離回収といった独自の挙動を再現するマスヒートバランスを演算可能な物理モデルとして構築されている。
【0032】
図1に示したように、CFBボイラ2においては、投入された燃料が流動材と混合され、燃焼することで発生した熱が対流伝熱部7へ供給されるとともに、流動材はサイクロン13で回収されて、シールポット14又は外部熱交換器15からコンバスタ5へと再度投入される。したがって、このような燃焼ガス及び流動材の流れに沿って各演算部46~48が演算を行う。
なお、
図4においては、流動材の循環に関する入力データ及び出力データを主に示しており、一部の入力データ及び一部の出力データは図示が省略されている。
【0033】
図5は、コンバスタ演算部46により実行される演算処理の内容を示した図である。
図5に示すように、コンバスタ演算部46は、主にコンバスタ5に投入された燃料が流動材と混合され、燃焼する燃焼状態の挙動を模擬する。コンバスタ演算部46は、例えば、燃焼遅れ演算部461及び出口状態演算部462を備えている。
【0034】
燃焼遅れ演算部461は、コンバスタ5における投入燃料の燃焼遅れを模擬する。例えば、燃焼遅れ演算部461は、燃料種別、燃料流量、燃焼ガス流量、及び燃料投入機器の運転状態に関する情報(例えば、運転ポイント、運転負荷等)の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した入力データと投入燃料の燃焼遅れを演算するための物理モデルとを用いて、コンバスタ5における投入燃料の燃焼遅れを演算する。
【0035】
燃料種別の一例として、石炭、バイオマス燃料(例えば、木質ペレット、PKS、木質チップ等)、廃棄物燃料(例えば、廃タイヤ)が挙げられる。燃料投入機器の一例として、払出コンベア、給炭器が挙げられる。
【0036】
本実施形態では、一例として、投入燃料量、燃料発熱量、燃料水分量、燃料性状(含有成分組成、揮発分量、固定炭素量、灰分量等)、流動材流量Fr_com、流動材温度Tr_fbhe、炉内流体速度、空気流量、循環ガス流量Fg_r_com、燃料粉砕性能、燃料比、燃焼ガス性状、及びコンバスタ差圧が入力データとしてコンバスタ演算部46に入力される。この入力データの内、
図4に示すように、流動材流量Fr_com、循環ガス流量Fg_r_com(
図5参照)は、シールポット及び外部熱交換演算部48からフィードバックされるデータに基づいて演算されたデータである。すなわち、以下の式が成立する。
【0037】
Fr_com=Fr_cyc2 +Fr_fbhe +Fr_supply
Fg_r_com=Fg_cyc2 +Fg_cyc3
【0038】
ここで、流動材流量Fr_cyc2はシールポット14からコンバスタ5に戻される流動材流量、Fr_fbheは外部熱交換器15からコンバスタ5に戻される流動材流量、Fr_supplyは、追加流動材の流量である。また、Fg_cyc2は、シールポット14からコンバスタ5に戻される燃焼ガス流量、Fg_cyc3は外部熱交換器15からコンバスタ5に戻される燃焼ガス流量である。
【0039】
燃焼遅れ演算部461は、例えば、上述した入力データの全て又は一部を用いて、燃料投入のための流量指令値が出力されてから燃料投入のための燃料投入機器に伝達されるまでの通信遅れ、燃料投入機器の動作遅れ、投入された燃料がコンバスタに到達するまでの時間、投入燃料がコンバスタ内で燃焼するために有する時間の少なくとも一つを模擬する。
【0040】
出口状態演算部462は、燃焼遅れ演算部461の出力結果を用いてコンバスタ5の出口状態の挙動を模擬する。出口状態演算部462は、例えば、コンバスタ内における熱量、燃焼ガス流量、圧力等の挙動を模擬する。この際、出口状態演算部462は、各内部パラメータのフィッティングを行う。内部パラメータの一例としては、ヒートロス、熱吸収、流動材状態(厚さ)などが挙げられる。
【0041】
コンバスタ演算部46は、コンバスタ5の出口状態の挙動を示す出力データとして、コンバスタ出口の燃焼ガス温度Tg_com及び燃焼ガス流量(流動材含まず)Fg_com、流動材温度Tr_com及び流動材流量Fr_com、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_com、燃焼ガス性状、コンバスタ5の炉内ガス圧力、コンバスタ5の炉内流体速度等を出力する。
コンバスタ演算部46から出力されたこれらの出力データは、
図4に示すように、サイクロン演算部47に入力データとして与えられる。
【0042】
図6は、サイクロン演算部47により実行される演算処理の内容を示した図である。
図6に示すように、サイクロン演算部47は、主にサイクロン13における熱移動と物質移動の挙動を模擬する。サイクロン演算部47は、例えば、後燃え演算部471及び熱量演算部472を備えている。
【0043】
後燃え演算部471は、後燃え現象を模擬する。サイクロン13における「後燃え」は、コンバスタ5において燃焼しきれなかった未燃分の燃料が、コンバスタ5の後流に位置するサイクロン13の入口近傍にて燃焼する現象である。「後燃え」によって燃焼ガスの温度が上昇するため、後燃え演算部471は、この燃焼ガスの温度の挙動を模擬する。例えば、後燃え演算部471は、コンバスタ出口における燃焼ガス温度及び燃焼ガス流量、コンバスタ出口における流動材温度及び流動材流量、炉内燃焼ガス酸素濃度等の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した入力データと後燃え演算を行うための物理モデルとを用いて、燃焼ガスの温度上昇の様子を模擬する。
【0044】
本実施形態では、一例として、コンバスタ出口における燃焼ガス温度Tg_com及び燃焼ガス流量Fg_com、コンバスタ出口における流動材温度Tr_com及び流動材流量Fr_com、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_com、燃料ガス性状、コンバスタ5の炉内ガス圧力、コンバスタ5の炉内流体速度等が入力データとしてサイクロン演算部47に入力される。
【0045】
更に、後燃え演算部471は、後燃えによる燃焼ガスの温度上昇の模擬結果と上記入力データの全て又は一部を用いて、燃焼ガスと循環ガスの分離計算を行う。この分離配分も物理モデルに反映することで、シミュレーションの予測精度を向上させることが可能となる。
【0046】
熱量演算部472は、後燃え演算部471の出力結果と入力データの全て又は一部を用いてサイクロン13の挙動を模擬する。熱量演算部472は、例えば、サイクロン13における熱量計算、具体的には、遠心分離による流量分岐計算を行う。この際、熱量演算部472は、各内部パラメータのフィッティングを行う。内部パラメータの一例としては、流動化用流体流量、コンバスタ出口のガス性状などが挙げられる。
【0047】
サイクロン演算部47は、サイクロンの挙動を示す出力データとして、サイクロン出口の燃焼ガス温度Tg_cyc及び燃焼ガス流量Fg_cyc、外部熱交換器入口の流動材温度Tr_cyc及び流動材流量Fr_cyc、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_comを出力する。
【0048】
サイクロン演算部47の出力データのうち燃焼ガス流量Fg_cycは、対流伝熱部7の挙動を模擬する対流伝熱演算部49への入力データと、シールポットへの入力データとに分離される。
具体的には、燃焼ガス流量Fg_cycの一部が燃焼ガス流量Fg_hsとして対流伝熱演算部49に入力され、燃焼ガス流量Fg_cycの残りが燃焼ガス流量Fg_cyc1としてシールポットに入力される。すなわち、以下の関係式が成立する。
【0049】
Fg_cyc=Fg_hs+Fg_cyc1
【0050】
対流伝熱演算部49は、入力データを用いて対流伝熱部7の挙動を模擬する。なお、対流伝熱部7以降における燃焼ガス等の挙動の模擬や給水蒸気系統における挙動の模擬については、CFBボイラ2を備える発電プラントに特有の演算ではないため、公知の発電プラントのシミュレーション手法を適宜取り入れればよい。したがって、対流伝熱演算部49以降の詳細な説明については省略する。
【0051】
一方、シールポットに入力された入力データは、出力データとしてそのまま出力される。すなわち、
図4では、説明の便宜上、データの流れを理解しやすくするために、
図1のような実際のCFBボイラ2の構成と同様にシールポットを演算部の入出力データの要素として示しているが、このシールポットについては入力データと出力データとが同一であるため、省略可能である。
【0052】
シールポットの出力データのうち、燃焼ガス流量Fg_cyc1及び流動材流量Fr_cyc1については、シールポット出口からコンバスタ演算部46へ直接入力される燃焼ガス流量Fg_cyc2、流動材流量Fr_cyc2と、外部熱交換演算部48へ入力される燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材流量Fr_cyc3とに分離される。すなわち、以下の関係式が成立する。なお、シールポットに入力された流動材流量Fr_cycは、シールポット内部で一時的に溜まり、コンバスタ5と外部熱交換器15へ流れるまでの遅れ時間を考慮して、シールポットからFr_cyc1として出力する。
【0053】
Fg_cyc1=Fg_cyc2 +Fg_cyc3
Fr_cyc1=Fr_cyc2 +Fr_cyc3
【0054】
また、外部熱交換演算部48に入力される流動材温度Tr_cyc3及び燃焼ガス温度Tg_cyc3については、シールポット14と外部熱交換器15の間にある配管を考慮し、その配管における温度降下を模擬するため、シールポット出口における流動材温度Tr_cyc及び燃焼ガス温度Tg_cycとは異なる値を用いる。
【0055】
上記のことから、シールポットからコンバスタ演算部46に入力される入力データは、燃焼ガス温度Tg_cyc及び燃焼ガス流量Fg_cyc2、流動材温度Tr_cyc及び流動材流量Fr_cyc2となる。
また、シールポットから外部熱交換演算部48に入力される入力データは、燃焼ガス温度Tg_cyc3及び燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材温度Tr_cyc3及び流動材流量Fr_cyc3、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_comとなる。
【0056】
図7は、外部熱交換演算部48により実行される演算処理の内容を示した図である。
図7に示すように、外部熱交換演算部48は、主に外部熱交換器15における伝熱挙動を模擬する。外部熱交換演算部48は、例えば、伝熱遅れ演算部481及び伝熱演算部482を備えている。
【0057】
伝熱遅れ演算部481は、例えば、外部熱交換器15に流入する流動材の温度及び流量、並びに、流体の温度、流量、及び圧力の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した入力データと伝熱遅れ演算を行うための物理モデルとを用いて、外部熱交換器15における伝熱遅れを模擬する。ここで、流体の一例として、空気、燃焼ガス、蒸気、給水等の少なくともいずれか一つが挙げられる。本実施形態において、この流体は、外部熱交換器15の内部を流通する蒸気または給水である。
伝熱遅れ演算部481は、例えば、上述した入力データの各値に応じて、熱交換する伝熱量の遅れ(時間成分)と熱交換の効率が変化するものとして、伝熱遅れを模擬する。
【0058】
本実施形態では、一例として、燃焼ガス温度Tg_cyc3及び燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材温度Tr_cyc3及び流動材流量Fr_cyc3、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_com、流体流量Ffw_in、流体温度Tfw_in、流体圧力Pfw_inが入力データとして外部熱交換演算部48に入力される。
【0059】
伝熱演算部482は、伝熱遅れ演算部481の出力結果と入力データの全て又は一部を用いて外部熱交換器15の挙動を模擬する。この際、伝熱演算部482は、各内部パラメータのフィッティングを行う。内部パラメータの一例としては、流動材保有熱、外部熱交換伝熱面熱伝達係数などが挙げられる。
【0060】
外部熱交換演算部48は、外部熱交換器15の挙動を示す出力データとして、燃焼ガス温度Tg_fbhe及び燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材温度Tr_fbhe及び流動材流量Fr_fbhe、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_comを出力する。更に、外部熱交換演算部48は、伝熱面出口流体温度Tfw_outを出力データとして出力してもよい。そして、これら出力データは、コンバスタ演算部46の入力データとして用いられる。なお、流動材流量Fr_fbheは、外部熱交換演算部48に入力されるFr_cyc3に対して、ガス流量及びブロワ流量に応じて変動する。
【0061】
次に、上述したプラントシミュレータ30の動作について
図4~
図7を参照して簡単に説明する。まず、シミュレーション開始時には、シミュレーションを行うために必要とされる各種設定値、制御指令値等のデータがプラントシミュレータ30が備える入力部(図示略)から入力される。プラントシミュレータ30の演算部45は、これら入力データが入力されると、発電プラント1のシミュレーションを開始する。
【0062】
まず、コンバスタ演算部46により、コンバスタの燃焼状態の挙動が模擬される。具体的には、投入燃料量、燃料発熱量、燃料水分量、燃料性状、流動材流量Fr_com、流動材温度Tr_fbhe、炉内流体速度、空気流量、循環ガス流量Fg_r_com、燃料粉砕性能、燃料比、燃焼ガス性状、及びコンバスタ差圧が入力データとしてコンバスタ演算部46に与えられる。燃焼遅れ演算部461は、これら入力データと、燃焼遅れを演算するための物理モデルとを用いて、コンバスタ5における投入燃料の燃焼遅れを演算する。
【0063】
燃焼遅れの演算結果は、出口状態演算部462に出力され、出口状態演算部462により、コンバスタ5の出口状態の挙動が模擬される。この結果、コンバスタ演算部46から、燃焼ガス温度Tg_com、燃焼ガス流量Fg_com、流動材温度Tr_com、流動材流量Fr_com、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_com、燃焼ガス性状、炉内ガス圧力、炉内流体速度が出力データとして出力される。
【0064】
これらの出力データは、サイクロン演算部47に入力データとして与えられ、サイクロン13における熱量の挙動が模擬される。具体的には、サイクロン演算部47の後燃え演算部471は、これら入力データと後燃え演算を行うための物理モデルとを用いて、燃焼ガスの温度上昇の様子を模擬する。更に、後燃え演算部471により、後燃えによる燃焼ガスの温度上昇の模擬結果を用いて、燃焼ガスと循環ガスの分離計算が行われる。
【0065】
後燃え演算部471の演算結果は、熱量演算部472に出力される。熱量演算部472は、後燃え演算部471の出力結果と入力データとを用いてサイクロン13における熱量計算を行う。この結果、サイクロン演算部47から燃焼ガス温度Tg_cyc、燃焼ガス流量Fg_cyc、流動材温度Tr_cyc、流動材流量Fr_cyc、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_comが出力される。
【0066】
サイクロン演算部47の出力データのうち燃焼ガス流量Fg_cycは、燃焼ガス流量Fg_hsと燃焼ガス流量Fg_cycとに分離され、燃焼ガス流量Fg_hsは対流伝熱演算部49に入力データとして与えられ、燃焼ガス流量Fg_cyc1はシールポットに入力データとして与えられる。
【0067】
シールポットに入力された入力データは、流動材流量を除いて出力データとしてそのまま出力される。シールポットの出力データのうち、燃焼ガス流量Fg_cyc1は、燃焼ガス流量Fg_cyc2と、燃焼ガス流量Fg_cyc3とに分離される。同様に、流動材流量Fr_cyc1は、流動材流量Fr_cyc2と流動材流量Fr_cyc3とに分離される。そして、燃焼ガス温度Tg_cyc、燃焼ガス流量Fg_cyc2、流動材温度Tr_cyc、流動材流量Fr_cyc2がシールポットからコンバスタ演算部46に入力データとして与えられ、上述したコンバスタ演算部46における演算に再び用いられる。
【0068】
また、外部熱交換演算部48には、シールポットから出力された出力データに基づく入力データが与えられる。すなわち、外部熱交換演算部48には、燃焼ガス温度Tg_cyc3、燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材温度Tr_cyc3、流動材流量Fr_cyc3、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_comが入力データとして与えられる。また、外部熱交換演算部48には、流体流量Ffw_in、流体温度Tfw_in、流体圧力Pfw_inが入力データとして与えられる。なお、流動材温度Tr_cyc3及び燃焼ガス温度Tg_cyc3については、上述した通り、配管における温度降下を模擬するため、シールポット出口における流動材温度Tr_cyc及び燃焼ガス温度Tg_cycとは異なる値を用いる。
【0069】
外部熱交換演算部48の伝熱遅れ演算部481は、これら入力データと流動材の伝熱遅れ演算を行うための物理モデルとを用いて、流動材による伝熱遅れを模擬する。伝熱遅れ演算部481の演算結果は、伝熱演算部482に出力される。伝熱演算部482は、伝熱遅れの演算結果と入力データとを用いて外部熱交換器15における伝熱挙動を模擬する。この結果、外部熱交換演算部48から燃焼ガス温度Tg_ fbhe、燃焼ガス流量Fg_cyc3、流動材温度Tr_fbhe、流動材流量Fr_ fbhe、炉内燃焼ガス酸素濃度O2_com等が出力される。これら出力データは、コンバスタ演算部46に入力データとして与えられ、上述したコンバスタ演算部46における演算に再び用いられる。
【0070】
以上説明してきたように、本実施形態に係るプラントシミュレータ30によれば、以下の作用効果を奏する。
プラントシミュレータ30は、物理モデルを用いて発電プラント1の挙動を模擬するシミュレータであり、更に、コンバスタ5における燃料投入時の燃焼遅れを模擬する燃焼遅れ演算部461、サイクロン13における後燃え現象を模擬する後燃え演算部471、及び外部熱交換器15における流動材の伝熱遅れを模擬する伝熱遅れ演算部481を備える。これにより、CFBボイラ2に特有のプラント挙動を再現することができる。この結果、通常運転時とは異なる運転領域(例えば、異常発生時等)における発電プラント1のシミュレーションの予測精度を向上させることができる。
【0071】
なお、本実施形態のプラントシミュレータ30は、燃焼遅れ演算部461、後燃え演算部471、及び伝熱遅れ演算部481の全てを備える必要はない。例えば、これらの演算部の少なくとも1つを備えるような構成とされていればよい。
【0072】
(運転訓練用シミュレータ)
次に、上述した本実施形態に係るプラントシミュレータ30の一適用例である運転訓練用シミュレータ60について図面を参照して説明する。本実施形態に係る運転訓練用シミュレータ60は、発電プラント1の運転訓練に用いられるシミュレータである。
図8は、本実施形態に係る運転訓練用シミュレータ60の全体構成を概略的に示した図である。
【0073】
図8に示すように、運転訓練用シミュレータ60は、上述したプラントシミュレータ30を備えている。更に、運転訓練用シミュレータ60は、訓練者端末62、制御シミュレータ64、及び監督者端末66を備えている。
【0074】
訓練者端末62は、主に訓練者が操作する端末である。訓練者は、訓練者端末62を操作することにより、発電プラント1を操作するための操作量を入力する。
制御シミュレータ64は、発電プラント1を制御するための制御装置を模擬するシミュレータである。制御シミュレータ64は、例えば、訓練者端末62から入力された操作量に基づく制御指令値をプラントシミュレータ30に与える。また、制御シミュレータ64は、例えば、プラントシミュレータ30の制御量を入力データとして取得し、それら入力データを目標値に一致させるためのフィードバック制御を行う。
監督者端末66は、プラントシミュレータ30又は制御シミュレータ64の内部パラメータに変化を与えるための装置であり、主に、訓練者を指導する監督者によって操作される。
【0075】
訓練者端末62、制御シミュレータ64、及び監督者端末66は、いずれもコンピュータである。なお、これらが備える構成の一例については、例えば、
図2に示したプラントシミュレータ30のハードウェア構成と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0076】
次に、本実施形態に係る運転訓練用シミュレータ60による運転訓練について説明する。
【0077】
例えば、監督者端末66には、複数種類の異常を発生させるための設定項目が登録されている。監督者は、監督者端末66の表示画面に表示された設定項目の中から、訓練生に訓練させたい設定項目を選択する。これにより、監督者によって選択された設定項目に対応する異常を発生させるための異常発生指令が制御シミュレータ64又はプラントシミュレータ30に出力される。以下、監督者によって定格負荷運転時の外部熱交換器15の過熱器におけるチューブリーク(伝熱管からの内部流体漏洩)の設定項目が選択された場合について説明する。
【0078】
この場合、過熱器のチューブリークを発生させる異常発生指令が監督者端末66からプラントシミュレータ30に与えられる。これにより、プラントシミュレータ30は、過熱器にチューブリークが発生した状態を模擬する。例えば、
図6に例示した燃焼ガス系統側では、蒸気が炉内にリークして膨張することにより、過熱器の出口ガス圧力及び温度が変化し、コンバスタ演算部から出力される燃焼ガス圧力及び燃焼ガス温度が変化し、対流伝熱部へ入力される入力データに影響が伝搬する。この場合において、プラントシミュレータ30の演算部45は、コンバスタ5における投入燃料の燃焼遅れ、サイクロン13における後燃え現象、及び外部熱交換器15における流動材による伝熱遅れを考慮して異常発生時における挙動の模擬を行う。これにより、異常発生時におけるプラント挙動のシミュレーション精度を向上させることができる。
【0079】
異常発生によってコンバスタ演算部46、サイクロン演算部47、外部熱交換演算部48の各々における入力データ、内部パラメータ、及び出力データが変動することにより、プラントシミュレータ30から制御シミュレータ64にフィードバックされる制御量が変化する。これにより、制御シミュレータ64からプラントシミュレータ30に与えられる制御指令値が変化する。例えば、過熱器スプレーやタービンガバナ弁等の制御指令値が変化し、この変化がプラントシミュレータ30における発電プラント1の挙動に反映される。
【0080】
このような各種プロセス値の変化及び制御指令値の変化は、訓練者端末62の表示部に表示される。訓練者は、表示部に表示されたプロセス値の変化及び制御指令値の変化を確認し、プラントシミュレータ30が模擬している計測器などのセンサ値を確認するなどして、異常発生の有無などを判断する。そして、訓練者は、異常発生であると判断した場合には、訓練者端末62の入力部を操作することにより、異常を抑制するための初期対応動作を行う。例えば、異常発生のレベル(この場合は、リーク量に応じた各種プロセス値の変動量の大きさ)などに応じて、自身が正しいと考える操作を訓練者端末62から行う。例えば、初期対応動作の一例として、燃料遮断や負荷の調整が挙げられる。
監督者は、異常発生時における訓練者の初動対応動作などを確認することにより、訓練生の指導を行う。
【0081】
以上説明してきたように、本実施形態に係る運転訓練用シミュレータ60によれば、以下の作用効果を奏する。
プラントシミュレータ30は、物理モデルを用いて発電プラント1の挙動を模擬するシミュレータであり、更に、コンバスタ5における燃料投入時の燃焼遅れ、サイクロン13による燃焼ガスと流動材の分離回収、外部熱交換器15における流動材の保有熱といったCFBボイラ2に特有のパラメータを再現可能な構成とされている。したがって、異常発生時における発電プラント1の挙動を高精度で模擬することが可能となる。これにより、発電プラント1の起動・停止及び通常運転時の訓練に加え、異常発生時の訓練を行うことが可能となる。これにより、訓練者の運転技能を効果的に向上させることが可能となる。更に、想定外のプラント停止の予防にもつながり、プラント停止期間を極力短くできる。これにより、プラント稼働率の向上にも寄与することが可能となる。
【0082】
以上、本開示のプラントシミュレータ30及び運転訓練用シミュレータ60について各実施形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。開示の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0083】
例えば、上述した各実施形態におけるシミュレーションにおいて、入力遅れ及び出力遅れを加味することとしてもよい。例えば、実際の発電プラント1では、制御装置や作業員が操作する入力部から制御指令値等が設定又は変更された場合、その制御指令値によってプラントを構成する各機器(操作端)が動作するまでにタイムラグが生じる。このタイムラグは、例えば、通信遅延や操作端自体の動作遅れ等によるものである。したがって、これらの入力遅れを表す内部パラメータ等を用いることにより、入力遅れを模擬することとしてもよい。
【0084】
同様に、制御指令値や設定等が変更されることにより、発電プラント1の挙動が変化し、その挙動の変化が発電プラント1内に設けられている各種センサによって検出されるまでには、各機器の応答遅れ、センサの検出遅れ、通信遅延、表示部への表示遅れ等が発生する。したがって、これらの応答遅れ等を表す内部パラメータ等を用いることにより、出力遅れを模擬することとしてもよい。
【0085】
以上説明した各実施形態に記載のプラントシミュレータ30及び運転訓練用シミュレータ60は、例えば以下のように把握される。
【0086】
本開示の第1態様に係るプラントシミュレータ(30)は、コンバスタ(5)から排出された流動材をサイクロン(13)及び外部熱交換器(15)を経由して前記コンバスタへ循環させる循環流動層ボイラ(2)を備えるプラント(1)の挙動を模擬するプラントシミュレータであって、前記プラントの物理モデルを記憶するためのモデル記憶部(40)と、入力データと前記物理モデルとを用いて前記プラントの挙動を模擬する演算部(45)とを備え、前記プラントの物理モデルは、前記循環流動層ボイラの構成要素に関する物理モデルを含み、前記演算部は、前記コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れ、前記サイクロンにおける後燃え現象、及び前記外部熱交換器における前記流動材による伝熱遅れの少なくともいずれか1つを含む演算を行う。
【0087】
上記プラントシミュレータは、物理モデルを用いてプラントの挙動を模擬するものであって、更に、コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れ、サイクロンにおける後燃え現象、及び外部熱交換器における流動材による伝熱遅れの少なくともいずれか1つを含む演算を行う。これにより、循環流動層ボイラに特有の内部パラメータを再現することができる。この結果、通常運転時とは異なる運転領域(例えば、異常発生時等)におけるプラントのシミュレーションの予測精度を向上させることができる。
【0088】
本開示の第2態様に係るプラントシミュレータ(30)は、前記第1態様において、前記演算部(45)は、前記コンバスタの挙動を模擬するコンバスタ演算部(46)を備え、前記コンバスタ演算部は、燃料種別、燃料流量、燃焼ガス流量、及び燃料を投入する機器の運転状態に関する情報の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと投入燃料の燃焼遅れを演算するための物理モデルとを用いて、前記コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れを模擬する燃焼遅れ演算部(461)を備える。
【0089】
上記プラントシミュレータによれば、コンバスタにおける投入燃料の燃焼遅れを考慮してコンバスタの燃焼の挙動を模擬することが可能となる。これにより、循環流動層ボイラにおける挙動の予測精度を向上させることができる。
【0090】
本開示の第3態様に係るプラントシミュレータ(30)は、前記第1態様又は前記第2態様において、前記演算部(45)は、前記サイクロンの挙動を模擬するサイクロン演算部(47)を備え、前記サイクロン演算部は、前記コンバスタの出口における燃焼ガス温度及び燃焼ガス流量、前記コンバスタの出口における流動材温度及び流動材流量、並びに前記コンバスタ内における燃焼ガスの酸素濃度の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと前記サイクロンの入口近傍における後燃え現象を演算するための物理モデルとを用いて、前記後燃え現象を模擬する後燃え演算部(471)を備える。
【0091】
上記プラントシミュレータによれば、サイクロンにおける後燃え現象を考慮してサイクロンの伝熱挙動を模擬することが可能となる。これにより、循環流動層ボイラにおける挙動の予測精度を向上させることができる。
【0092】
本開示の第4態様に係るプラントシミュレータ(30)は、前記第1態様から前記第3態様のいずれかにおいて、前記演算部(45)は、前記外部熱交換器の挙動を模擬する外部熱交換演算部(48)を備え、前記外部熱交換演算部は、前記外部熱交換器に流入する前記流動材の温度及び流量、並びに、流体の温度、流量、及び圧力の少なくともいずれか一つを入力データとして取得し、取得した前記入力データと前記外部熱交換器の伝熱遅れを演算するための物理モデルとを用いて、前記外部熱交換器における伝熱遅れを模擬する伝熱遅れ演算部(481)を備える。
【0093】
上記プラントシミュレータによれば、外部熱交換器における伝熱遅れを考慮して外部熱交換器における伝熱挙動を模擬することが可能となる。これにより、循環流動層ボイラにおける挙動の予測精度を向上させることができる。
【0094】
本開示の第5態様に係るプログラムは、コンピュータを前記第1態様から前記第4態様のいずれかにおけるプラントシミュレータとして機能させるためのプログラムである。
【0095】
本開示の第6態様に係る運転訓練用シミュレータ(60)は、前記第1態様から前記第4態様のいずれかにおけるプラントシミュレータ(30)と、操作量を入力するための訓練者端末(62)と、前記操作量に基づく制御指令値を前記プラントシミュレータに与える制御シミュレータ(64)と、前記プラントシミュレータ又は前記制御シミュレータの内部パラメータに変化を与えるための監督者端末(66)とを備える。
【0096】
上記運転訓練用シミュレータによれば、前記第1態様から前記第4態様のいずれかにおけるプラントシミュレータを備えている。すなわち、このプラントシミュレータは、物理モデルを用いてプラントの挙動を模擬するシミュレータであり、循環流動層ボイラに特有のパラメータを模擬可能な構成とされている。したがって、上記運転訓練用シミュレータは、異常発生時における発電プラントの挙動を高精度で模擬することができ、循環流動層ボイラの運転訓練に耐える実機再現度を達成することができる。これにより、発電プラント1の起動及び停止の訓練に加え、異常発生時の訓練を行うことが可能となる。よって、訓練者の運転技能を効果的に向上させることが可能となる。更に、想定外のプラント停止の予防にもつながり、プラント停止期間を極力短くでき、発電稼働率の向上にも寄与することが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1 :発電プラント(プラント)
2 :CFBボイラ(循環流動層ボイラ)
3 :蒸気タービン
4 :発電機
5 :コンバスタ
6 :燃料供給装置
7 :対流伝熱部
8 :熱交換器
10 :ロータリバルブ
13 :サイクロン
14 :シールポット
15 :外部熱交換器
16 :灰取出弁
17 :ブロワ
22 :空気予熱器
23 :バグフィルタ
26 :燃焼空気供給部
28 :風室
29 :炉底
30 :プラントシミュレータ
31 :CPU
32 :主記憶装置
33 :二次記憶装置
34 :外部インターフェース
35 :通信インターフェース
36 :バス
40 :モデル記憶部
45 :演算部
46 :コンバスタ演算部
47 :サイクロン演算部
48 :外部熱交換演算部
49 :対流伝熱演算部
60 :運転訓練用シミュレータ
62 :訓練者端末
64 :制御シミュレータ
66 :監督者端末
461 :燃焼遅れ演算部
462 :出口状態演算部
471 :後燃え演算部
472 :熱量演算部
481 :伝熱遅れ演算部
482 :伝熱演算部