(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169596
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】獣害防止装置および獣害防止構造
(51)【国際特許分類】
A01G 13/10 20060101AFI20231122BHJP
A01M 29/30 20110101ALI20231122BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A01G13/10 Z
A01M29/30
E02D17/20 102B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080813
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩崇
(72)【発明者】
【氏名】大西 崇太
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
2D044
【Fターム(参考)】
2B024AA10
2B024DB10
2B024DD10
2B024EA06
2B024GA10
2B121AA01
2B121BB25
2B121EA30
2B121FA12
2D044DA12
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で以て植生領域内への野生動物の侵入防止と、野生動物による食害防止作用を発揮できる、獣害防止技術を提供すること。
【解決手段】植物種子を担持させた面状の植生マット30と、植生マット30の上面に積層して敷設した格子状のスノコパネル20とを具備し、スノコパネル20は間隔を隔てて並設した複数の縦リブ21と複数の横リブ22と交差し、その交差部に複数の開口23を有し、スノコパネル20が隣り合う縦リブ21の間に縦リブ21の長手方向に沿って連続した保護溝24を形成している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生領域上に配置し、植生領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、植生領域内の植物を保護するための獣害防止装置であって、
少なくとも植物種子を担持させた面状の植生基盤構造体と、
前記植生基盤構造体の上面に積層して敷設した格子状のスノコパネルとを具備し、
前記スノコパネルは間隔を隔てて並設した複数の縦リブと、該縦リブと交差して配置した複数の横リブとを具備し、前記縦リブと横リブの交差部に上下に貫通した複数の開口を有する格子構造体であり、
前記スノコパネルが隣り合う縦リブの間に縦リブの長手方向に沿って連続した保護溝を形成し、
前記保護溝と前記複数の開口とが連通していることを特徴とする、
獣害防止装置。
【請求項2】
前記横リブが縦リブの下部側に偏倚して設けてあることを特徴とする、請求項1に記載の獣害防止装置。
【請求項3】
前記縦リブはその上端面が平坦面であり下端面が波形面であることを特徴とする、請求項1に記載の獣害防止装置。
【請求項4】
前記スノコパネルは合成樹脂で一体的に成形されていることを特徴とする、請求項1に記載の獣害防止装置。
【請求項5】
前記面状の植生基盤構造体が植生マットまたは植生シートの何れかであることを特徴とする、請求項1に記載の獣害防止装置。
【請求項6】
植生領域上に配置し、植生領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、植生領域内の植物を保護するための獣害防止構造であって、
請求項1に記載の獣害防止装置を使用し、
植生生領域の全域に亘って面状の植生基盤構造体を敷設し、
前記植生基盤構造体の上面に単数または複数のスノコパネルを積層して敷設し、
前記植生基盤構造体とスノコパネルとを固定ピンで固定したことを特徴とする、
獣害防止構造。
【請求項7】
前記スノコパネルの保護溝を上方向に向けて植生基盤構造体の上面に敷設したことを特徴とする、請求項6に記載の獣害防止構造。
【請求項8】
隣り合うスノコパネルの縦リブの向きが異なるように前記植生基盤構造体の上面に複数のスノコパネルを敷設したことを特徴とする、請求項6に記載の獣害防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シカ、イノシシ、クマ等の野生動物による植物の食害防止機能と、野生動物の侵入を防ぐ侵入抑止機能を併有する獣害防止装置および獣害防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面や傾斜地では、斜面の安定及び景観の向上等の目的として緑化工を施している。
緑化工としては吹付工が広く知られている。吹付工では、土壌、堆肥、植物種子等の混合物からなる緑化基材を傾斜地等に層状に吹付け、芝、クローバー、ヨモギ等の在来種の植物を植生している。
緑化基材を構築するにあたり、緑化基材の内部または上面に菱形金網等の網状物を敷設して傾斜面を安定化している。
【0003】
このような植生領域に、カモシカ、ニホンジカ等の野生動物が侵入して、植物を食べつくす食害の問題と、植生領域を踏み荒らす問題が指摘されている。
食害を放置すると自然景観の再生が困難となり、野生動物による踏み荒らしは、土壌が流出して斜面崩壊の原因となる。
【0004】
野生動物による食害の防止手段としては、例えば植生領域全体を網状物で被覆することが知られている(特許文献1~3)。
特許文献1には、硬質の補強材と柔らかい金網とを組み合わせて形成したアーチ体で被覆することが開示され、特許文献2には傾斜地に井桁状の枠体を敷設し、この枠体の上面に金網を張ることで、傾斜地から離間した状態で金網を敷設することが開示され、特許文献3には、帯状ネットをアーチ状に屈曲して成形した複数のネット材を使用し、各ネット材の相対向する両辺を固定ピンで固定して傾斜地を覆うことが開示されている。
【0005】
また野生動物の侵入を防止する他の手段としては、保護領域を侵入防止柵で囲うことも広く知られている。
特許文献4には、支柱の間にネットを張設した柵本体の一部に、複数の裸電線を追加設置した侵入防止柵が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-213606号公報
【特許文献2】特開2004-73192号公報
【特許文献3】特許第5503067号公報
【特許文献4】特開平11-206305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の食害防止技術にはつぎの解決すべき課題を有する。
<1>植生領域を各種の網状物で被覆することで、ある程度の食害防止効果を期待できるものの、野生動物の侵入を確実に抑制することができない。
食害防止効果を高めるには、植生領域の周囲に侵入防止柵を別途に設ける必要がある。
そのため、大規模な施設となって建設ストが高くなる。
<2>従来の網状物は地面から浮かして配置しているが、網状物が撓み変形や弾性変形を許容する構造である。
そのため、網状物の上に野生動物が載ると、網状物が沈み込んでしまうため、植物が根元近くまで食い荒らされてしまい、防食効果を十分に発揮することができない。
【0008】
従来の侵入防止柵はつぎの課題を内包している。
<1>侵入防止柵は、多数の支柱と大面積の網状物を構成資材とするため、侵入防止柵の設置に多くの時間と労力を要するだけでなく、建設コストが非常に高くつく。
<2>侵入防止柵は柵の高さのみで野生動物の侵入を防止する構造であるため、柵高が十分でない場合や、シカ等の跳躍力の高い野生動物が柵を飛び越えて侵入する。
そのため、野生動物に対する侵入防止効果が限定的である。
<3>山岳地帯に設置した場合、雪塊の滑落により侵入防止柵が破壊され易く、融雪後における柵の補修に多くの手間とコストがかかる。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、以上の課題を解決できる、獣害防止装置および獣害防止構造を提供することを目的とする。
<1>簡易な構造で以て植生領域内への野生動物の侵入防止と、野生動物による食害防止作用を発揮できること。
<2>資材コストと設置コストを大幅に削減可能であること。
<3>雪塊の滑落により機能喪失に陥らないこと。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、植生領域上に配置し、植生領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、植生領域内の植物を保護するための獣害防止装置であって、少なくとも植物種子を担持させた面状の植生基盤構造体と、前記植生基盤構造体の上面に積層して敷設した格子状のスノコパネルとを具備し、前記スノコパネルは間隔を隔てて並設した複数の縦リブと、該縦リブと交差して配置した複数の横リブとを具備し、前記縦リブと横リブの交差部に上下に貫通した複数の開口を有する格子構造体であり、前記スノコパネルが隣り合う縦リブの間に縦リブの長手方向に沿って連続した保護溝を形成し、前記保護溝と前記複数の開口とが連通している。
本発明の他の形態において、前記横リブが縦リブの下部側に偏倚して設けてある。
本発明の他の形態において、前記縦リブはその上端面が平坦面であり下端面が波形面である。
本発明の他の形態において、前記スノコパネルは合成樹脂で一体的に成形されている。
本発明の他の形態において、前記面状の植生基盤構造体が植生マットまたは植生シートの何れかである。
本発明は、植生領域上に配置し、植生領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、植生領域内の植物を保護するための獣害防止構造であって、前記した何れかひとつの獣害防止装置を使用し、植生生領域の全域に亘って面状の植生基盤構造体を敷設し、前記植生基盤構造体の上面に単数または複数のスノコパネルを積層して敷設し、前記植生基盤構造体とスノコパネルとを固定ピンで固定した。
本発明の他の形態において、前前記スノコパネルの保護溝を上方向に向けて植生基盤構造体の上面に敷設した。
本発明の他の形態において、隣り合うスノコパネルの縦リブの向きが異なるように前記植生基盤構造体の上面に複数のスノコパネルを敷設した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>獣害防止装置は、単独で植生領域に対する野生動物の侵入防止作用と、野生動物による食害防止作用を発揮することができる。
したがって、従来の野生動物の侵入防止柵を追加して設置する必要がなくなる。
<2>植生マットや植生シート等の植生基盤構造体の上面にスノコパネルを積層して敷設するだけの簡易な構造によって、野生動物の侵入を効果的に防止することができる。
<3>獣害防止装置を設置した植生領域において、野生動物の侵入を防止できるだけでなく、スノコパネルの全高分だけ植物の生育長を確実に保護することができる。
したがって、従来の食害防止技術と比べて、食害防止面積が広くなって、植生領域のほぼ全域において食害を防止できる。
<4>獣害防止装置を構成する緑化マットとスノコパネルが協働して防護機能を発揮して地面を保護するので、野生動物による地面の踏み荒らしを効果的に防止することができる。
<5>獣害防止装置のスノコパネルが雪塊の誘導作用を発揮して、雪塊によるスノコパネルの下方への潜り込みを抑止するので、融雪時に獣害防止装置の変形や破損の心配がなく、融雪後に特別な補修やメンテナンスを必要としない。
<6>隣り合うスノコパネルの縦リブの向きが異なるように植生基盤構造体の上面に複数のスノコパネルを敷設しても、野生動物の自由な移動を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一部を破断した実施例1に係る獣害防止装置の斜視図
【
図5】獣害防止装置の設置方法の説明図で、(A)は植生マットの敷設工の説明図、(B)はスノコパネルの敷設工の説明図
【
図7】一部を破断した実施例3に係る獣害防止装置を構成するスノコパネルの縦平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施例1]
<1>獣害防止装置
図1を参照して説明すると、本発明に係る獣害防止装置10は、植生領域(保護領域)への野生動物の侵入を防止しつつ、植生領域内の植物を保護するための装置である。
獣害防止装置10は植生領域に亘って敷設する面状の植生基盤構造体と、植生基盤構造体の上面に積層して敷設した折り曲げ可能なスノコパネル20とを具備する。
本例では、面状の植生基盤構造体が、植生マット30である形態について説明する。
【0014】
<2>スノコパネル
スノコパネル20は、所定の間隔を隔てて並設した複数の縦リブ21と、縦リブ21と交差して配置し、所定の間隔を隔てて並設した複数の横リブ22とを具備する格子構造体である。
これらの両リブ21,22の交差部を固定して、両リブ21,22の間に上下に貫通した開口23を形成する。
スノコパネル20は合成樹脂で一体的に成形することで、簡単かつ低コストに製作できる。
【0015】
スノコパネル20の全体形状に制約は特にない。
本例ではスノコパネル20が帯状を呈する形態について説明するが、スノコパネル20の平面形状は長方形または正方形でもよい。
【0016】
<2.1>縦リブ
板状を呈する縦リブ21は、両端面を上下に向けた縦向きで使用し、複数の縦リブ21がスノコパネル20の長手方向に沿って並行に配列してある。
縦リブ21を縦向きに使用するのは、植物の育成高さを確保するためと、野生動物の脚の着地面積を少なくして歩行をし難くするためである。
【0017】
縦リブ21の全高hは、植生する植物40の種類に応じて適宜選択する。
縦リブ21の全高hは、例えば5~30mm程度とするのが望ましい。
【0018】
縦リブ21の板厚tは野生動物がスノコパネル20に乗ったときに縦リブ21が簡単に潰れないだけの強度確保が可能な寸法とする。
縦リブ21の板厚tは、例えば0.5~7mm程度とするのが望ましい。
【0019】
野生動物の脚を滑りやすくするために、縦リブ21の上端面21aは平滑面として形成することが望ましい。
【0020】
縦リブ21は高さ方向の板幅を均一にした板体でもよいが、縦リブ21は高さ方向の板幅を不均一にしてスノコパネル20に撓み性を付与するとよい。
本例では、縦リブ21は高さ方向の板幅を不均一にする形態として、縦リブ21の下端面21bを波形面として形成した形態を示す。
縦リブ21に撓み性を持たせることで、スノコパネル20をロール状に巻き取ることが可能となるだけでなく、スノコパネル20を敷設する際に敷設面の起伏に追従させることが可能となる。
【0021】
<2.2>横リブ
横リブ22は隣り合う各縦リブ21の間隔を一定に保持するために機能する間隔保持材(スペーサ)である。
横リブ22がスノコパネル20の上面側に突出しないように、横リブ22を縦リブ21の下部側に偏倚して設ける。
横リブ22を縦リブ21の下部側に設けるのは、スノコパネル20の上面側に保護溝24を形成するためである。
スノコパネル20の上面側に保護溝24を形成するのは、スノコパネル20の上面側に野生動物がスノコパネル20を歩行する際に横リブ22が引掛り要素となるのを避けるためである。
【0022】
<2.3>開口
横リブ22を縦リブ21の下面21b側に交差して設けることで、スノコパネル20の下面21b側を格子構造とし、両リブ21,22の間に複数の開口23を形成する。
開口23は植物40の植生空間として機能する。
開口23の大きさは、縦リブ21の間隔l1と横リブ22の間隔l2により求められる。
開口23の寸法としては、例えば縦横何れかの一辺が5~60mm程度とするのが望ましい。
【0023】
<2.4>保護溝
既述したように、横リブ22を縦リブ21の下部側に偏倚して設けて、縦リブ21の上面側に連続した保護溝24を形成する。
すなわち、隣り合う各縦リブ21の間に縦リブ21と平行に保護溝24を形成する。
複数の保護溝24は開口23と連通していて、植物40の植生空間として機能する。
縦リブ21の間隔l1である保護溝24の溝幅は、野生動物の足(または蹄)と口先が入り込まない寸法とする。野生動物には幼獣を含む。
リブ21の間隔l1と横リブ22の間隔l2により求められる。
保護溝24の溝幅は、5~60mmとするのが望ましい。
保護溝24の溝幅が5mmより狭いと、野生動物の対する嫌気作用が減少し、60mmを越えると保護溝24内の植物40が食べられ易くなるといった弊害がある。
【0024】
<3>植生マット
本例では植生基盤構造体が植生マット30である形態について説明する。
植生マット30は、所定の厚みを有する柔軟性を有するマット状物である。
図1,2に例示した植生マット30は、上下面を有するマット基材31と、マット基材31の上面に間隔を隔てて列設した複数の植生袋32と、複数の植生袋32に投入した緑化基材33とを備える。
植生マット30は
図1,2に例示した構造に限定されず、植物を繁茂可能な公知の植生マットを適用できる。
【0025】
<3.1>素材
マット基材31は長尺の帯状体で、ロール状に巻回が可能である。
マット基材31と植生袋32は、公知のポリエチレン等化学繊維または例えば、ジュート繊維、椰子繊維、藁等の天然繊維からなる。
マット基材31と植生袋32の素材は同質素材の組合せでもよい、または異質材の組合せでもよい。
マット基材31および植生袋32の素材には、生分解性の素材を使用することが望ましい。
【0026】
<3.2>植生袋
植生袋32は独立した細長い筒状の袋体であり、マット基材31の長手方向に対して直行する方向(横断方向)に向けて配置する。
マット基材31の長手方向に沿った植生袋32の設置間隔は、適宜選択が可能である。
【0027】
<3.3>緑化基材
緑化基材32は、土壌、植物種子、肥料を少なくとも含み、必要に応じて保水材、土壌改良資材等を追加して含む。緑化基材32は少なくとも植物種子を含んでいればよい。
植物種子は草本類と木本類の何れでもよい。野生動物の嫌悪臭を発する植物や刺植物の植物種子を混入してもよい。
これらの混合物を予め植生袋32に収容して封入しておく。
【0028】
<4>スノコパネルと植生マットの関係
本例ではスノコパネル20と植生マット30を分離して使用する形態について説明するが、スノコパネル20と植生マット30は予めリングや紐材等の連結材を用いて一体化してもよい。
【0029】
[獣害防止装置の設置方法]
図5を参照して獣害防止装置10の設置方法について説明する。
【0030】
<1>獣害防止装置の設置対象
本例では植生対象の地面Gが勾配のある斜面である場合について説明するが、植生対象の地面Gは平地でもよい。
【0031】
<2>植生マットの敷設(
図5(A))
植生範囲に亘って植生マット30を敷設する。
この際、植生マット30の植生袋32を斜面の傾斜方向に対して直交方向に向けて配置する。
【0032】
<3>スノコパネルの敷設(
図5(B))
植生マット30の上面にスノコパネル20を載置して敷設する。
この際、スノコパネル20を構成する縦リブ31を地面Gの傾斜方向に沿って敷設する。
複数のスノコパネル20を並設する場合には、各スノコパネル20の縦リブ21が互いに平行になるように敷設する。
スノコパネル20の上面側から固定ピン25を打設して、スノコパネル20と植生マット30を地面Gに固定する。
【0033】
このように、植生範囲に亘って植生マット30とスノコパネル20敷設して固定するだけの簡単な作業で獣害防止装置10を設置できる。
【0034】
[獣害防止装置の複数の作用]
図2,3等を参照して獣害防止装置10の作用について説明する。
【0035】
<1>野生動物の侵入防止作用(防獣作用)
植生領域の全面に敷設したスノコパネル20の表層には、複数の細幅の縦リブ21が並列している。
そのため、野生動物が獣害防止装置10の上位に位置するスノコパネル20に載ろうとすると、脚裏に細幅の縦リブ21が食い込んで違和感を与える。
野生動物が有蹄類の場合は、蹄の主蹄や副蹄の間に縦リブ21が挟まると脚裏に不快感を与えて、植生領域内への侵入を困難にする。
【0036】
特に、獣害防止装置10を傾斜地に設置する際に、上位に位置するスノコパネル20の縦リブ21を傾斜方向に沿って配置しておくと、野生動物の脚が縦リブ21上で滑るので、野生動物が自由に動き回ることができない。
そのため、野生動物が傾斜地を乗り越えることが困難となる。
【0037】
野生動物はスノコパネル20への入り込みを何度か繰り返すが、その都度、不快感を感じ、不快感の学習効果によって野生動物は植生領域内へ侵入しなくなる。
【0038】
以上説明したように、地面Gに植生マット30とスノコパネル20を積層して設置するだけの簡易な構成でありながら、スノコパネル20の上面で野生動物の脚裏に積極的に不快感を与えたり、野生動物の脚を滑らせたりすることで、野生動物が植生領域へ侵入するのを効果的に防止することができる。
【0039】
さらに野生動物が植生領域の一部に入り込んでも、獣害防止装置10を構成する緑化マット30とスノコパネル20が協働して防護機能を発揮して地面Gを保護するので、野生動物による地面Gの踏み荒らしも効果的に防止することができる。
【0040】
<2>食害防止作用(防食作用)
獣害防止装置10を構成する植生マット30から植物40が発芽する。
発芽した植物40は、植生袋32を突き破って生育を続ける。
植物40は、スノコパネル20の開口23を経て保護溝24内に伸びる。
スノコパネル20の縦リブ21が植物40の保護部材として機能するため、野生動物は保護溝24内にある植物40を食べることができない。
本発明の獣害防止装置10は、野生動物の侵入防止作用を発揮しながら、防食作用を発揮する。
【0041】
過大に成長した植物40はスノコパネル20の上面から上方にはみ出して野生動物の草食対象となるが、それは植生領域の一部だけである。
本発明の獣害防止装置10は、防食作用と野生動物の侵入防止作用を併有するため、野生動物の草食対象となるのは、植生領域の周縁部だけであり、植生領域の大半の植物は獣害防止装置10が隠れるまで植物40が生育可能である。
さらに、スノコパネル20の高さを越えて成長した植物40が野生動物に食べられたとしても、植物40は根元から食べられずに、スノコパネル20の高さ分だけが残存する。
したがって、従来の食害防止技術と比べて、食害防止面積が広くなって、植生領域のほぼ全域において食害を防止できる。
なお、植物40はその一部を野生動物に食べられたとしても成長が可能なため、植生領域の周縁部においても植生状態を長期間に亘って持続することができる。
【0042】
<3>積雪の影響
獣害防止装置10を山岳地帯に設置した場合、冬季において、獣害防止装置10が積雪に埋設される。
獣害防止装置10は地面Gに沿って低い位置に敷設してあるだけであるから、獣害防止装置10に対して斜面谷側へ向けた大きな積雪荷重(または雪圧)が加わらない。
そのため、獣害防止装置10は地面Gに敷設した状態を保持できる耐久性を有しているので、積雪荷重によって獣害防止装置10が圧潰する心配がない。
【0043】
また融雪時には雪塊が斜面に沿って滑り落ちる。
斜面から浮かした状態で網状物を配置した従来の防食技術にあっては、雪塊が網状物の下面に潜り込んで網状物を剥離して破壊する。
【0044】
これに対して本発明の獣害防止装置10では、植生マット30の上面に敷設したスノコパネル20に並列した多数の縦リブ21が雪塊の潜り込みを抑止しながら雪塊を谷側へ誘導する。
そのため、雪塊の滑落によってスノコパネル20が地面Gから剥がれて変形したり破損したりする心配がなくなる。
獣害防止装置10は、融雪後に特別な補修やメンテナンスを必要としない。
【0045】
<4>排水作用(侵食防止作用)
図3を参照して説明すると、植生マット30の上面をスノコパネル20で覆った獣害防止装置10に降雨があると、雨水が開口23を通じてスノコパネル20を透過する一方で、透過しきれなかった雨水の一部が縦リブ21の上端面21aと側面21cに沿って流下する。
そのため、植生マット30の素材が紫外線劣化等により破損しても緑化基材33や地面Gの侵食を効果的に抑制できるので、獣害防止装置10の支持地盤を失うことなく、獣害防止作用を長期間に亘って持続することが可能となる。
【0046】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0047】
<1>植生シート
実施例1では、植生基盤構造体が植生マット30である形態について説明したが、植生基盤構造体に植生シート35を適用することも可能である。
すなわち、本例では、スノコパネル20と植生シート35とにより獣害防止装置10を構成する。
【0048】
図6を参照して説明すると、植生シート35は,不織布や土壌改良シート等からなる複数のシート状物からなり、シート状物の一部に少なくとも植物種子を担持していればよい。
植生シート35は植物種子以外に必要に応じて肥料等の各種の植生材料を含む。
【0049】
図6に示すように、スノコパネル20と植生シート35の間を予めリングや紐材等の連結材36を用いて一体化してもよいが、植生シート35を先行して敷設した後にスノコパネル20を植生シート35の上面に敷設するようにしてもよい。
【0050】
<2>獣害防止装置の使用方法と作用効果
本例における獣害防止装置10の使用方法と作用効果は既述した実施例1と同様である。
植生環境や植生面積等を考慮して、植生マット30または植生シート35を使い分ければよい。
【0051】
[実施例3]
<1>スノコパネルの配置形態
図7を参照して、隣り合うスノコパネル20の縦リブ21が直交関係または交差関係となるように縦リブ21の向きを変えて敷設した形態について説明する。
【0052】
本例においても、既述した実施例と同様にスノコパネル20は図外の生基盤構造体(植生マット30または植生シート35)の上面に敷設する。
【0053】
なお、
図7では獣害防止装置10を構成するスノコパネル20の平面形状が正方形である形態について示しているが、スノコパネル20の平面形状は長方形でもよい。
また本例では植生領域が平地であってもよいし、傾斜地であっても適用が可能である。
【0054】
<2>本例の作用効果
本例における獣害防止装置10の作用効果は既述した実施例1,2と同様である。
本例にあっては、野生動物が複数のスノコパネル20の上面を自由に歩き回ろうとすると、縦リブ21の向きが何度も変わることで、脚裏に不快感を与えて野生動物の自由歩行を困難にする。
特に、縦リブ21の長手方向に野生動物が進行しようとすると、野生動物の脚が滑り易くなるので、野生動物の自由歩行がさらに困難となる。
したがって、本例においても野生動物による植生領域内への侵入が困難となる。
【符号の説明】
【0055】
10・・・・獣害防止装置
20・・・・スノコパネル
21・・・・縦リブ
21a・・・縦リブの上端面
21b・・・縦リブの下端面
21c・・・縦リブの側面
22・・・・横リブ
23・・・・開口
24・・・・保護溝
30・・・・緑化マット
31・・・・マット基材
32・・・・植生袋
33・・・・緑化基材
40・・・・植物