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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169616
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】通気構造および鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61C 17/00 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
B61C17/00 B
B61C17/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080844
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】高見 創
(72)【発明者】
【氏名】新木 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 由衣
(72)【発明者】
【氏名】梅田 啓
(72)【発明者】
【氏名】武田 敏徳
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の外側面にエアインテークを設ける場合の走行中の風切り音の抑制と通風量の確保との両立を図る新たな通気構造の技術を提供すること。
【解決手段】通気構造10は、側カバー5の進行方向およびその逆方向に対称形状で設けられた一対のエアインテーク(第1エアインテーク21、第2エアインテーク22)を備える。当該エアインテークは、それぞれ先端部から末端部へ向かって開口幅が漸増し、且つ、通風断面積が漸増する形状を有する。また、通気構造10は、エアインテークそれぞれに対応した近接位置に、負圧域を形成する負圧域形成構造部(第1凹部31,第2凹部32)を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の外側面に進行方向およびその逆方向に対称形状で設けられた一対のエアインテークを備え、進行方向上流側のエアインテークから導入した走行風をダクトへ導き、進行方向下流側のエアインテークから排気する通気構造であって、
前記一対のエアインテークそれぞれは、当該エアインテークの先端部から他方のエアインテークに向かって、開口幅が漸増し、且つ、通風断面積が漸増する構造を有し、
前記一対のエアインテークそれぞれに対応して、前記外側面における当該エアインテークと他方のエアインテークとの間の当該エアインテークの近接位置に、負圧域を形成する負圧域形成構造部を有する、
通気構造。
【請求項2】
前記一対のエアインテークそれぞれは、前記外側面に対する通風傾斜面の傾斜角度が15度以上25度以下である、
請求項1に記載の通気構造。
【請求項3】
前記負圧域形成構造部は、凹部である、
請求項1に記載の通気構造。
【請求項4】
前記凹部は、当該エアインテーク寄りの第1スロープと、他方のエアインテーク寄りの第2スロープとを有し、
前記第1スロープの傾斜角度は、前記第2スロープの傾斜角度より大きい、
請求項3に記載の通気構造。
【請求項5】
前記第2スロープの傾斜角度は、境界層剥離を誘発する角度である、
請求項4に記載の通気構造。
【請求項6】
前記負圧域形成構造部は、凸部である、
請求項1に記載の通気構造。
【請求項7】
前記負圧域形成構造部は、前記近接位置において前記開口幅に亘って設けられている、
請求項1から6の何れか一項に記載の通気構造。
【請求項8】
前記負圧域形成構造部は、前記外側面からの高さ方向の長さが、当該エアインテークのリップ部の当該高さ方向の長さの0.5倍以上0.8倍以下である、
請求項1から6の何れか一項に記載の通気構造。
【請求項9】
請求項1から6の何れか一項に記載の通気構造を具備する鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車には電力変換装置が備えられており、例えば新幹線等の交流電化区間を走行する電気車には、交流を直流に変換するコンバータ部および直流を交流に変換するインバータ部などからなる電力変換装置が備えられている。電力変換装置には冷却が必要な半導体素子が搭載されている。特に、高速車両ほど半導体素子の熱負荷は高くなるため、冷却性能の要求が高くなる。
【0003】
半導体の冷却には、一般的に送風機が用いられるが、電力変換装置の小型化・軽量化の要請から、走行時に車両の外側を流れる風(以下「走行風」という)を用いた冷却方法の技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1の技術は、電力変換装置を冷却するための水冷循環式の放熱部(ラジエータ)を床下ダクト内に配置し、進行方向に沿って車両の外側面に設けた一対のエアインテークを通じて床下ダクトに空気を通すことによってその放熱部を冷やす技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-271646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エアインテークを鉄道車両の外側面に設けることによって走行中に風切り音が発生し、騒音となり得る。風切り音を抑制するためにはエアインテークの開口を小さくする方法が考えられるが、単純に開口を小さくすると通風量の減少が余儀なくされる。
【0007】
また、冷却用にエアインテークを設ける場合に限らず、換気用にエアインテークを設ける場合にも、同様の課題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、鉄道車両の外側面にエアインテークを設ける場合の走行中の風切り音の抑制と通風量の確保との両立を図る新たな通気構造の技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための第1の発明は、鉄道車両の外側面に進行方向およびその逆方向に対称形状で設けられた一対のエアインテークを備え、進行方向上流側のエアインテークから導入した走行風をダクトへ導き、進行方向下流側のエアインテークから排気する通気構造であって、前記一対のエアインテークそれぞれは、当該エアインテークの先端部から他方のエアインテークに向かって、開口幅が漸増し、且つ、通風断面積が漸増する構造を有し、前記一対のエアインテークそれぞれに対応して、前記外側面における当該エアインテークと他方のエアインテークとの間の当該エアインテークの近接位置に、負圧域を形成する負圧域形成構造部を有する、通気構造である。
【0010】
第1の発明によれば、一対のエアインテークは、それぞれ、当該エアインテークの先端部から末端部(他方のエアインテーク側の端部)に向かって開口幅が漸増し、且つ、通風断面積が漸増する形状を有する。よって、当該エアインテークを吸気口とする場合に、そこから生じる風切り音を抑制できる。また、負圧域形成構造部により、排気口となる他方のエアインテークの開口付近に負圧域が形成され、この負圧域によりダクトからの排気が効果的に誘引・排出される。よって、吸気口となるエアインテークからは効果的に走行風が取り入れられ、通風量を確保することができる。すなわち、風切り音を抑制しつつ通風量を確保することができる。
【0011】
第2の発明は、前記一対のエアインテークそれぞれは、前記外側面に対する通風傾斜面の傾斜角度が15度以上25度以下である通気構造である。
【0012】
吸気口となるエアインテークの通風傾斜面の傾斜角度を大きくすれば、エアインテークに繋がるダクトの入口の開口面積を大きくとれるので通風量を確保しやすくなる。しかし、傾斜角度を大きくし過ぎると、通風傾斜面で境界層剥離が生じる可能性が高まり、境界層剥離が生じるとダクトの開口面積を大きくしても通風量が頭打ちになる。
第2の発明によれば、通風傾斜面での境界層剥離を抑制しつつ、ダクトの入口の開口面積を稼ぎ、吸入空気量を増加させることができる。
【0013】
第3の発明は、前記負圧域形成構造部が、凹部である、通気構造である。
【0014】
また、第4の発明は、前記凹部が、当該エアインテーク寄りの第1スロープと、他方のエアインテーク寄りの第2スロープとを有し、前記第1スロープの傾斜角度は、前記第2スロープの傾斜角度より大きい、通気構造である。
【0015】
第3又は第4の発明によれば、外側面からの突出が無い負圧域形成構造部により、負圧域形成構造部に起因する空気抵抗と風切り音を低減しつつ負圧域を形成できる。
【0016】
第5の発明は、前記第2スロープの傾斜角度が、境界層剥離を誘発する角度である、通気構造である。
【0017】
第5の発明によれば、凹部は、第2スロープの末端で走行風の境界層剥離を生じさせて、走行風に対して交差する方向に渦巻く横渦を作る。よって、強い負圧域を形成できる。
【0018】
また、第6の発明として、前記負圧域形成構造部が凸部である通気構造を構成してもよい。
【0019】
第7の発明は、前記負圧域形成構造部が、前記近接位置において前記開口幅に亘って設けられている、通気構造である。
【0020】
第7の発明によれば、開口幅に亘る負圧域を形成できる。
【0021】
第8の発明は、前記負圧域形成構造部が、前記外側面からの高さ方向の長さが、当該エアインテークのリップ部の当該高さ方向の長さの0.5倍以上0.8倍以下である、通気構造である。
【0022】
第8の発明によれば、負圧域形成構造部を起因とする風切り音の抑制と、通風量を確保とを、適度にバランスさせることができる。
【0023】
第9の発明は、上述した何れかの発明の通気構造を具備する鉄道車両である。
【0024】
第9の発明によれば、上述した何れかの発明と同様の効果を発揮する鉄道車両を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の通気構造を有する高速鉄道の鉄道車両の構成例を示す側面外観図。
図2】第1実施形態の通気構造の構成例を示す斜視透視図。
図3】第1実施形態の通気構造を、第1エアインテークおよび第2エアインテークの開口を正面にして見た側面図。
図4図3のIV-IV断面図。
図5】第1凹部および第2凹部のXY断面。
図6】第1実施形態の通気構造における走行風の流れの概要を説明するための図。
図7】第2実施形態の通気構造の斜視透視図。
図8】第2実施形態の通気構造を、第1エアインテークおよび第2エアインテークの開口を正面にして見た側面図。
図9図8のIX-IX断面図。
図10】第2実施形態の第1凸部および第2凸部のXY断面図。
図11】第2実施形態の通気構造における走行風の流れの概要を説明するための図。
図12】第3実施形態における第1凸部と第2凸部の形状例を示すXY断面図。
図13】従来の通気構造(従来構成)を基準とする流入風速の風速比を比較するグラフ。
図14】従来の通気構造(従来構成)を基準とする風切り音の低減効果を比較するグラフ。
図15】負圧域形成構造部の突起形状(凸部の形状)による流入風速を比較するグラフ。
図16】負圧域形成構造部の突起高さ(凸部の高さ)違いによる風切り音を比較するグラフ。
図17】従来の通気構造(従来構成)を、第1走行風取入口および第2走行風取入口を正面にして見た図。
図18図17のXVIII-XVIII断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0027】
図1は、本実施形態の通気構造10を有する高速鉄道の鉄道車両3の構成例を示す側面外観図である。説明の便宜上、各図に方向を表す直交右手系のXYZ軸を示し、X軸プラス方向を鉄道車両3の進行方向・前方とし、Y軸プラス方向を左方、Z軸プラス方向を上方、として説明する。なお、鉄道車両3として、中間車両を例示しているが、先頭車両についても本実施形態を同様に適用できる。
【0028】
鉄道車両3は、床下に電力変換装置(非図示)の冷却機構として水冷循環式のラジエータ7を配置し、鉄道車両3が移動することで相対的に生じる走行風を冷却風としてラジエータ7に供給するための通気構造10を有する。
【0029】
通気構造10は、ラジエータ7が内部に設置される床下ダクト14と、左方の側カバー5に開口する一対のエアインテーク(第1エアインテーク21、第2エアインテーク22)と、一対のエアインテークそれぞれに対応して設けられた一対の凹部(第1凹部31、第2凹部32)と、を有する。
【0030】
鉄道車両3が前方(X軸プラス方向)へ走行すると、走行風が第1エアインテーク21から床下ダクト14へ導入されてラジエータ7を通過する。ラジエータ7を通った空気は、第2エアインテーク22から排気される。鉄道車両3の走行方向が反転すると、走行風は第2エアインテーク22から床下ダクト14へ導入されてラジエータ7を通り、第1エアインテーク21から排気される。
【0031】
図2は、通気構造10の構成例を示す斜視透視図である。
図3は、第1エアインテーク21および第2エアインテーク22の開口を正面にして見た通気構造10の側面図である。
図4は、図3のIV-IV断面図である。
【0032】
通気構造10は、第1エアインテーク21と第2エアインテーク22とを前後方向に離隔して有する。第1エアインテーク21と第2エアインテーク22とは前後対称の形状を有している。ここでは、第1エアインテーク21について説明することとし、第2エアインテーク22についての説明は省略する。
【0033】
第1エアインテーク21は、先端部(X軸プラス側端部)から末端部(X軸マイナス側端部;第2エアインテーク22の側の端部)に向かって開口部23の幅(開口幅;Z軸方向の幅)が漸増し、且つ、通風断面積が漸増する構造を有している。当該構造は、例えば、NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)ダクトの形状プロファイルを参考にして実現される。すなわち、第1エアインテーク21を開口面に対して法線方向(Y軸プラス方向)から見た場合に、先端部から末端部にかけて、Z軸方向の幅である開口幅の増加率が先端部と末端部との間の中央付近を過ぎたあたりから増加し、末端部に近づくと増加率が減少して1に近づくようにデザインされた略二等辺三角形を成している。
【0034】
第1エアインテーク21の末端部には、XY断面が流線形状のリップ部24が設けられている。通風傾斜面26(ランプとも言える)は、先端部から徐々に深さ(Y軸マイナス方向における位置の変化)が増し、床下ダクト14に繋がっている(図4参照)。
【0035】
ここで、本実施形態の通気構造10と従来の通気構造90とを対比する。図17は、図3に相当する従来の通気構造70の側面図であり、図18は、図4に相当する従来の通気構造70の断面図(図17のXVIII-XVIII断面図)である。図3,17に示すように、通気構造10は、従来の通気構造90と同様に、側カバー5の上下幅は固定であり、第1エアインテーク21が取り得る後端部の開口幅Awは、側カバー5の上下幅から導かれる規定値となる。当該規定値は、従来の通気構造90における第1走行風取入口91(第1エアインテーク21に相当)や第2走行風取入口92(第2エアインテーク22に相当)の開口幅Awと同じ値となる。
【0036】
第1エアインテーク21の形状プロファイルをNACAダクトの形状プロファイルに当てはめた本実施形態においては、第1エアインテーク21の前後長(X軸方向の長さ)は、例えば、従来の通気構造90の第1走行風取入口91や第2走行風取入口92の全長Al(図17参照)の0.86倍(0.86Al)とすることができる。
【0037】
同様に第1エアインテーク21のリップ部24直下の開口高さAh(床下ダクト14のエントランスギャップ)をNACAダクトの形状プロファイルに当てはめると、側カバー5からの開口面積が従来の通気構造90に比べて低下することに起因して、第1エアインテーク21の吸気効率は第1走行風取入口91よりも吸気効率が低下し得る。そこで、図4に示すように、本実施形態の通気構造10では、第1エアインテーク21のリップ部24直下の開口高さAhは、図18に示す従来の通気構造90の開口高さAhと同程度に設定されている。
【0038】
具体的には、第1エアインテーク21の通風傾斜面26は、側カバー5の外側面からの傾斜角度を15度以上25度以下(より好適には19度)として、リップ部24直下までの傾斜面とする。そして、通風傾斜面26と床下ダクト14の内面とを滑らかに連続させる傾斜を形成する。この結果、第1エアインテーク21のリップ部24の末端部における開口高さAhは、従来の通気構造90の開口高さAhと同程度になる。
【0039】
一般的なNACAダクトのランプ角度(通風傾斜面26の傾斜角度相当)は、5度から7度程度であって大きくとも11度程度である。よって、第1エアインテーク21は、NACAダクトそのものではなく、鉄道車両3の通気構造90の用途に適合した独特の形状・構成を有しているといえる。
【0040】
図2から図4に示すように、第1エアインテーク21の第1凹部31は、側カバー5の外側面のうち、リップ部24に近接する位置において、第1エアインテーク21の開口幅に亘って設けられている。前後対称形の第2エアインテーク22においても同様に、第2凹部32は、側カバー5の外側面のうち、リップ部24に近接する位置において、第2エアインテーク22の開口幅に亘って設けられている。
【0041】
図5は、第1凹部31および第2凹部32のXY断面図である。
第1凹部31と第2凹部32とは前後対称の形状を有しているため、第1凹部31について説明することとし、第2凹部32についての説明は省略する。
【0042】
第1凹部31は、対応する第1エアインテーク21寄りの第1スロープ33と、他方のエアインテーク(第2エアインテーク22)寄りの第2スロープ35とを有する。
第1凹部31の深さ(側カバー5の外側面を基準面とするY軸方向の長さ;高さ方向の長さ)は、第1スロープ33と第2スロープ35との接続位置が最も大きい最深位置となり、リップ部24の高さ方向の長さRh(リップ部24の厚さ)の0.5倍以上0.8倍以下とされる(図5の例では、0.7倍;図5中の0.7Rh)。
【0043】
第1スロープ33は、リップ部24の外側面から最深位置にかけて下るように傾斜するスロープであり、前後方向の長さを例えば0.7Rhとすることができる。
【0044】
第2スロープ35は、最深位置から後方に側カバー5の外側面にかけて連なって上るように傾斜するスロープであり、第1スロープ33よりも傾斜角が緩やかに設定されている。第2スロープ35の前後方向の長さは、例えば2.1Rhとすることができる。
【0045】
図6は、通気構造10における走行風の流れの概要を説明するための図である。
走行風のうち第1エアインテーク21に差し掛かった第1走行風W1は、第1エアインテーク21に導入される。この時、第1エアインテーク21がNACAダクトの形状プロファイルを参考にした開口構造を有することで、吸気口において、従来の通気構造90の第1走行風取入口91(図17参照)よりも、空気抵抗の発生と風切り音の発生を抑制しつつ空気を導入することができる。
【0046】
導入された第1走行風W1は、床下ダクト14の中に設置されたラジエータ7を通過することで熱交換に利用される。ラジエータ7を抜けた第1走行風W1は第2エアインテーク22へ向かう。
【0047】
一方、第1エアインテーク21に導入されなかった走行風のうち、第2凹部32に差し掛かった第2走行風W2は、第2スロープ35に沿って凹形状内に滑らかに導かれた後、第1スロープ33に沿って跳ね上げられて、急激に流れの向きが変化する。第2走行風W2は、跳ね上げにより境界層剥離が発生し、走行風に対して横向きの渦を含む乱流を作る。この乱流により、第2エアインテーク22の近傍位置に負圧域9が生じる。つまり、第2凹部32は、負圧域形成構造部として機能する。
【0048】
負圧域9は、第2エアインテーク22に連なる床下ダクト14から空気を吸い上げる吸引作用を発揮する。よって、ラジエータ7を抜けて第2エアインテーク22へ向かう第1走行風W1は、第2凹部32が無い構成よりも効果的に排気され、通風量が増加する。負圧域9の吸い上げ効果は、床下ダクト14を通じて第1エアインテーク21にも及ぶので、第1エアインテーク21における空気導入効率(吸気効率とも言える)も向上する。
【0049】
鉄道車両3の進行方向が前後反転すると、通気構造10における空気の流れも図6の例の前後が逆転する。すなわち、第2エアインテーク22から走行風の一部が導入され、床下ダクト14を通ってラジエータ7を通過する。ラジエータ7で熱交換された空気は、第1エアインテーク21から排気される。一方、第1凹部31に差し掛かった走行風の一部(図6における第2走行風W2に相当する風)は、第1凹部31の第2スロープ35に沿って凹形状内に滑らかに導かれた後、第1スロープ33に沿って跳ね上げられ、第1エアインテーク21の近傍位置に負圧域9を生じさせる。つまり、鉄道車両3の進行方向が前後反転すると、第1凹部31が負圧域形成構造部として機能するようになる。
【0050】
一対のエアインテークである第1エアインテーク21と第2エアインテーク22とのそれぞれに対応して、外側面における第1エアインテーク21と第2エアインテーク22との間には、第1エアインテーク21の近接位置に形成された第1凹部31によって負圧域形成構造部が設けられるとともに、第2エアインテーク22の近接位置に形成された第2凹部32によって負圧域形成構造部が設けられる。
【0051】
なお、第1凹部31のスロープ形状はこれに限定されるものではなく、負圧域を形成できればよい。例えば、第2スロープ35は凹形状内に流れを導く程度に緩やかな傾斜角度で、第1スロープ33は凹形状内の流れを跳ね上げて境界層剥離を発生させる程度に急な傾斜角度であればよい。その結果として、第1実施形態では、第1スロープ33の傾斜角度は、第2スロープ35の傾斜角度より大きくなっている。
【0052】
〔第2実施形態〕
次に、本発明を適用した第2実施形態について説明する。但し、第1実施形態との差異について主に述べることとし、第1実施形態と同様の構成要素については、第1実施形態と同じ符号を付与して説明を省略する。
【0053】
図7は、第2実施形態の通気構造10Bの構成例を示す斜視透視図である。
通気構造10Bは、床下ダクト14と、側カバー5に開口する一対のエアインテーク(第1エアインテーク21B、第2エアインテーク22B)と、一対のエアインテークそれぞれに対応して設けられた一対の凸部(第1凸部41、第2凸部42)と、を有する。
【0054】
図8は、第1エアインテーク21Bおよび第2エアインテーク22Bの開口を正面にして見た通気構造10Bの側面図である。
第1エアインテーク21Bおよび第2エアインテーク22Bは、第1実施形態の通気構造10の第1エアインテーク21および第2エアインテーク22よりも全体的に縮小した構造を有している。また、通気構造10Bは、第1実施形態の第1凹部31に代えて第1凸部41を有し、第2凹部32に代えて第2凸部42を有する。
【0055】
具体的には、第1エアインテーク21Bおよび第2エアインテーク22Bの形状プロファイルは、第1実施形態と同様にNACAダクトの形状プロファイルを参考として設定されるが、開口幅(Z軸方向に沿った開口の長さ)は、図17に示す従来の通気構造90における第1走行風取入口91の開口幅Awの0.74倍(0.74Aw)に設定されている。
【0056】
また、第1エアインテーク21Bおよび第2エアインテーク22Bの前後長は、図17に示す従来の通気構造90における第1走行風取入口91や第2走行風取入口92の全長Alの0.6倍(0.6Al)に設定されている。
【0057】
図9は、図8のIX-IX断面図である。
第1エアインテーク21Bの開口高さ(床下ダクト14のエントランスギャップ)は、第1実施形態における開口高さAhの0.74倍(0.74Ah)に設定されている。通風傾斜面26の傾斜角度は、第1実施形態と同じく15度以上25度以下の角度とされ、より好適には19度とされる。
【0058】
図8図9に示すように、第1凸部41は、側カバー5の外側面のうち、第1エアインテーク21Bのリップ部24に近接する位置において、第1エアインテーク21Bの開口幅に亘って設けられている。第2凸部42は、側カバー5の外側面のうち、第2エアインテーク22Bのリップ部24に近接する位置において、第2エアインテーク22Bの開口幅に亘って設けられている。
【0059】
図10は、第1凸部41および第2凸部42のXY断面図である。
第1凸部41と第2凸部42とは前後対称の形状を有している。ここでは、第1凸部41について説明することとし、第2凸部42についての説明は省略する。
【0060】
第1凸部41は、側カバー5の外側面に接する基部44と、基部44の前後中間位置から外向き(Y軸プラス向き)に突出した壁部45とが一体となった逆T字型の断面を有する。
【0061】
第1凸部41の高さ(側カバー5の外側面からの長さ;Y軸方向の長さ)は、第1エアインテーク21Bのリップ部24の高さ方向の長さRh(リップ部24の厚さ)の0.5倍以上0.8倍以下とされる(図10の例では、0.8倍(0.8Rh))。なお、基部44と壁部45との接続部は滑らかな曲面で繋がれている。
【0062】
図11は、通気構造10Bにおける走行風の流れの概要を説明するための図である。
走行風のうち第1エアインテーク21Bに差し掛かった第1走行風W1は、第1エアインテーク21Bに導入される。導入された第1走行風W1は、床下ダクト14に設置されたラジエータ7を通過して熱交換に利用される。第1走行風W1はラジエータ7を抜けて第2エアインテーク22Bへ向かう。
【0063】
一方、第1エアインテーク21Bに導入されなかった走行風のうち、第2凸部42に差し掛かった第2走行風W2は、壁部45に当たって流れの向きを急激に変えられ、外方向へ跳ね上げられ、境界層剥離が生じて横渦を含む乱流を発生させる。第2走行風W2が跳ね上げられたことにより生じた渦および乱流によって、第2エアインテーク22Bの近傍位置に負圧域9が生じる。つまり、第2凸部42は、負圧域形成構造部として機能する。
【0064】
負圧域9は、第2エアインテーク22Bに連なる床下ダクト14から空気を吸い上げる吸引作用を発揮する。よって、ラジエータ7を抜けて第2エアインテーク22Bへ向か第1走行風W1は、第2凸部42が無い構成よりも効果的に排気され、通風量が増加する。負圧域9の吸い上げ効果は、床下ダクト14を通じて第1エアインテーク21Bにも及ぶので、第1エアインテーク21Bにおける空気の導入効率(吸気効率とも言える)も向上する。
【0065】
鉄道車両3の進行方向が前後反転すると、通気構造10Bにおける空気の流れも図11の例の前後が逆転する。すなわち、第2エアインテーク22Bから走行風の一部が導入され、床下ダクト14を通ってラジエータ7を通過する。ラジエータ7で熱交換された空気は、第1エアインテーク21Bから排気される。一方、第1凸部41に差し掛かった走行風の一部(図11の第2走行風W2に相当する風)は、第1凸部41の壁部45によって跳ね上げられる。跳ね上げにより生じた渦や乱流によって第1エアインテーク21Bの近傍位置に負圧域9が生じる。つまり、第1凸部41が、負圧域形成構造部として機能することになる。
【0066】
〔第3実施形態〕
次に、本発明を適用した第3実施形態について説明する。第3実施形態の通気構造10Cは、基本的に第2実施形態の通気構造10Bと同様に実現されるが、負圧域形成構造部のXY断面の形状が異なる。以降では、第2実施形態との差異について主に述べることとし、第2実施形態と同様の構成要素については、同じ符号を付与して説明を省略する。
【0067】
図12は、通気構造10Cにおける第1凸部51および第2凸部52の形状例を示すXY断面図である。
第3実施形態の通気構造10Cは、基本的に第2実施形態の通気構造10Bと同様であるが、第2実施形態の第1凸部41に代えて第1凸部51を有し、第2実施形態の第2凸部42に代えて第2凸部52を有する。
第1凸部51は、側カバー5の外側面のうち、第1エアインテーク21Bのリップ部24に近接する位置において、第1エアインテーク21Bの開口幅(Z軸方向に沿った開口の長さ)に亘って設けられている。第2凸部52は、側カバー5の外側面のうち、第2エアインテーク22Bのリップ部24に近接する位置において、第2エアインテーク22Bの開口幅に亘って設けられている。
【0068】
第1凸部51のXY断面は、略半円形を有する。第1凸部51の高さ(側カバー5の外側面からの長さ;Y軸方向の長さ)は、第1エアインテーク21Bのリップ部24の高さ方向の長さRh(リップ部24の厚さ)の0.5倍以上0.8倍以下とされる(図12の例では、0.8倍(0.8Rh))。第2凸部52は、第1凸部51と前後対称の形状を有している。
【0069】
通気構造10Cにおける走行風の流れは、第2実施形態の通気構造10Bと同様であり、第2走行風W2が第1凸部51や第2凸部52によって跳ね上げられて負圧域9を生じさせる。
【0070】
〔各実施形態の作用効果〕
次に、上述した各実施形態の作用効果について実験した結果をもとに説明する。
図13は、従来の通気構造90(従来構成)を基準とした流入風速の風速比を比較するグラフである。比較対象の流入風速は、床下ダクト14の内部においてラジエータ7の上流側の複数箇所で計測した風速の平均値とした。ラジエータ7の冷却に必要とされる風量から求めた目標値は、従来の通気構造90に対する風速比「0.85」である。
【0071】
第1実施形態、第2実施形態ともに目標値である風速比「0.85」に達しており、ラジエータ7の冷却に十分な空気を通風できている。また、第1実施形態から第1凹部31および第2凹部32を省略した構成(グラフの「第1凹部・第2凹部なし」)も、第1実施形態の構成よりも風速比が低減したが目標値に到達している。但し、第2実施形態では、エアインテークの寸法を、第1実施形態の通気構造10より小さくしている。そのため、第2実施形態から第1凸部41および第2凸部42を省略した構成(グラフの「第1凸部・第2凸部なし」)は目標値に到達できていない。このことから、第1凹部31および第2凹部32や、第1凸部41および第2凸部42が、負圧域形成構造部として有効に機能し、流量の確保に寄与していることが分かる。
【0072】
図14は、従来の通気構造90(従来構成)を基準とする風切り音を比較するグラフである。
第1実施形態および第2実施形態ともに、従来に比べて風切り音を低減できている。また、第1実施形態から第1凹部31および第2凹部32を省略した構成は、第1実施形態とほぼ同様の風切り音の低減効果が得られた。但し、第2実施形態に着目すると、第1凸部41および第2凸部42を省略した構成の方が、風切り音の低減効果が高いことが分かる。つまり、第1凸部41および第2凸部42は、図13に示すように流量の確保に大きく寄与するが、反面、風切り音を増加させる影響がある。第1凸部41および第2凸部42の高さを決定する際には、流量と風切り音とのバランスを考慮する必要があると言える。
【0073】
図15は、負圧域形成構造部の突起形状(凸部の形状)による流入風速の風速比を比較するグラフであって、第1実施形態から負圧域形成構造部(第1凹部31,第2凹部32)を省略した構成を基準とした風速比を示している。
【0074】
突起形状(凸部の形状)の高さが同じであれば、第1凸部41および第2凸部42のように断面形状が逆T字型の第2実施形態の方が、第1凸部51および第2凸部52のような断面形状が略半円形の第3実施形態よりも、流入風速が大きくなるため、流量が大きい。つまり、断面形状が逆T字型の方が、より効果的な負圧域9を形成できる。
【0075】
図16は、負圧域形成構造部の突起形状(凸部の形状)の高さ違いによる風切り音を比較するグラフであって、第1実施形態から負圧域形成構造部(第1凹部31、第2凹部32)を省略した構成を基準とした騒音レベルの増加量を示している。
負圧域形成構造部の突起形状に着目すれば、逆T字型断面の第2実施形態の方が、略半円形断面の第3実施形態よりも、風切り音が大きくなる傾向があるが、その差は僅かである。また、負圧域形成構造部の突起高さに着目しても、「0.3Rh」と「0.5Rh」とでは、当然ながら後者の方が高くなるが、その差は僅かである。
【0076】
以上の実験結果から、上記実施形態のなかでは、第1実施形態の通気構造10の構成が最も有効的であると言える。また、第2実施形態と第3実施形態においては、流入風速と風切り音とがトレードオフの関係(大きな流入風速を求める場合には風切り音の低減効果が小さくなる(逆に言うと風切り音が大きくなる)関係)をなしており、鉄道車両3全体の寸法や、想定される走行速度などの諸条件をもとに、負圧域形成構造部の突起形状および突起高さを決定するとよい。
【0077】
以上、本発明を適用した実施形態の一例を説明したが、本発明が適用可能な形態は上記の実施形態そのものに限らない。例えば、第1実施形態の負圧域形成構造部に代えて、第2実施および第3実施形態の負圧域形成構造部を適用した構成も可能である。
【0078】
また、上記実施形態では、電力変換装置を冷却するための水冷循環式のラジエータ7への冷却風を供給するための通気構造10,10B,10Cの例を説明した。しかし、通気構造10,10B,10Cは、風切り音の抑制と通風量の確保とを両立可能な構造であるため、ラジエータ7へ冷却風を供給する冷却用途に限らず、鉄道車両の客室や特定個室(例えばトイレ)等の室内空気を換気する換気用途にも適用することが可能である。
【0079】
また、上記実施形態では、水冷循環式のラジエータ7を鉄道車両3の床下に配置し、通気構造10を側カバー5に開口する例を示したが、ラジエータ7の配置位置や通気構造10の開口位置は適宜変更可能である。例えば、ラジエータ7を鉄道車両3の屋根上や上部内部空間、側壁内などに配置してもよい。それに応じて、通気構造10の第1エアインテーク21および第2エアインテーク22を開口する位置も鉄道車両3の上面や側面(例えば側カバー5より上の側面)などとしてもよい。
【符号の説明】
【0080】
3…鉄道車両
5…側カバー
7…ラジエータ
9…負圧域
10,10B,10C…通気構造
14…床下ダクト
21…第1エアインテーク
22…第2エアインテーク
23…開口部
24…リップ部
26…通風傾斜面
31…第1凹部
32…第2凹部
33…第1スロープ
35…第2スロープ
41…第1凸部
42…第2凸部
Ah…開口高さ
Al…全長
Aw…開口幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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