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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169623
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】セルロース誘導体および成型体
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20231122BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20231122BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C08B15/04
B01D71/12
D01F2/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080855
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】森 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕
【テーマコード(参考)】
4C090
4D006
4L035
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA25
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB94
4C090BD03
4C090BD06
4C090BD36
4C090CA38
4C090DA31
4D006GA01
4D006GA41
4D006GA44
4D006MC16
4L035AA04
4L035GG08
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】高い親水性を備え、且つ、その成型体に対して、優れた破断時の伸び性能を付与することのできるセルロース誘導体を提供する。
【解決手段】セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、脂肪族アシル基と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基とを備え、前記脂肪族アシル基の平均置換度が0.5~2.5であり、前記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度が0.5~2.5であり、ヒドロキシ基の平均残留量が0~1.0である、セルロース誘導体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、脂肪族アシル基と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基とを備え、
前記脂肪族アシル基の平均置換度が0.5~2.5であり、
前記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度が0.5~2.5であり、
ヒドロキシ基の平均残留量が0~1.0である、セルロース誘導体。
【請求項2】
請求項1に記載のセルロース誘導体を含む成型体。
【請求項3】
半透膜、フィルム、繊維、シート、パイプ、トレイ、または袋である請求項2に記載の成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はセルロース誘導体および成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、多数のグルコース単位(グルコピラノース単位)がβ-1,4-グルコシド結合によって重合した高分子化合物である。現在、セルロースやその誘導体は、化粧料などの皮膚に塗布して使用する用途、コーティング剤や塗料などの塗布後に乾燥・固化して使用する用途や、フィルムなどの成型体として使用する用途が知られている。例えば、三酢酸セルロースのフィルムは、寸法安定性、平滑性、電気的光学的特性、加工性等に優れており、電材・光学用途等の機能フィルムとして汎用されている。
【0003】
セルロース誘導体の一種である三酢酸セルロースからなる半透膜は、親水性が高い点で透水性能や耐ファウリング性能に優れていることから、膜材料として有用であり、その用途は多岐にわたる。例えば、特許文献1には、RO膜(逆浸透膜もしくはナノ濾過膜)として、酢酸セルロースを材質とした膜が記載されている。特許文献2には、酢酸セルロースからなる中空糸型半透膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-072864号公報
【特許文献2】国際公開第2013/118859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酢酸セルロースは薬品洗浄が必要な用途では当該薬品による劣化が生じることから耐用年数が短いといった問題があった。また、酢酸セルロースの成型体は破断時の伸びが充分でないことから、その用途が限られるという問題もあった。
【0006】
従って、本開示の目的は、高い親水性を備え、且つ、その成型体に対して、優れた破断時の伸び性能を付与することのできるセルロース誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の置換基を有するセルロース誘導体が親水性に優れ、その成型体に優れた高い破断時の伸び性能を付与することを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて完成されたものに関する。
【0008】
すなわち、本開示は、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、脂肪族アシル基と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基とを備え、
前記脂肪族アシル基の平均置換度が0.5~2.5であり、
前記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度が0.5~2.5であり、
ヒドロキシ基の平均残留量が0~1.0である、セルロース誘導体を提供する。
【0009】
また、上記セルロース誘導体を含む成型体についても提供する。
【0010】
上記成型体は、半透膜、フィルム、繊維、シート、パイプ、トレイ、または袋であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示のセルロース誘導体は、高い親水性を備える。したがって、高親水性に起因する溶解・加工性、密着・接着性、導電・制電特性、耐汚染性、水分保持性、寸法安定性等の機能特性に優れる傾向がある。このため、多岐にわたる用途に材料として使用可能である。また、本開示のセルロース誘導体は、その成型体に高い破断時の伸び性能を付与することができる。さらにまた、本開示のセルロース誘導体を含む成型体は高い破断時の伸び性能を兼ね備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で合成したセルロース誘導体の1H-NMRスペクトルを示す。
図2】実施例2で合成したセルロース誘導体の1H-NMRスペクトルを示す。
図3】実施例3で合成したセルロース誘導体の1H-NMRスペクトルを示す。
図4】実施例4で合成したセルロース誘導体の1H-NMRスペクトルを示す。
図5】実施例5で合成したセルロース誘導体の1H-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[セルロース誘導体]
本開示のセルロース誘導体は、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、脂肪族アシル基と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基とを備え、上記脂肪族アシル基の平均置換度が0.5~2.5であり、上記有機基の平均置換度が0.5~2.5であり、ヒドロキシ基の平均残留量が0~1.0であることを特徴とする。本開示のセルロース誘導体は上記構成を有することにより、高い親水性を備えつつ、その成型体に高い破断時の伸び性能を付与することができる。
【0014】
また、本開示のセルロース誘導体は、上記脂肪族アシル基の平均置換度が1.4~2.2であり、上記有機基の平均置換度が0.5以上1.6未満である場合、高い親水性を備えつつ、その成型体に高い耐塩素性及び高い破断時の伸び性能を付与することができる。
【0015】
また、本開示のセルロース誘導体は、上記脂肪族アシル基の平均置換度が1.1以上1.4未満であり、上記有機基の平均置換度が1.6~2.0である場合、より高い親水性を備えつつ、その成型体に高い破断時の伸び性能を付与することができる。
【0016】
なお、本明細書において「セルロース」とは分子式(C6105)nで表される炭水化物(多糖類)を意味し、セルロースを構成するグルコース単位は3つのヒドロキシ基を有する。例えば、上記セルロースには、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、セルロースアセテートブチレート(CAB)などの、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の一部又は全部がヒドロキシプロピル基等の置換基に置換されたものは含まれない。
【0017】
本開示のセルロース誘導体は、具体的には、下記式(A)で表される繰り返し単位の結合体である。上記セルロース誘導体は、下記式(A)において、酸素原子に結合する3つの基(すなわち、3つの酸素原子から延びる結合手が結合する基)が、上記脂肪族アシル基や上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基に対応する。
【化1】
【0018】
セルロース誘導体は脂肪族アシル基を有することで、成型体に対して優れた耐塩素性や高い破断時の伸び性能を付与することができる。脂肪族アシル基は、セルロース中のグルコース単位における3つのヒドロキシ基のうちのいずれのヒドロキシ基の水素原子に置換していてもよい。すなわち、脂肪族アシル基は、セルロース中のグルコース単位における3つのヒドロキシ基のうちのいずれのヒドロキシ基の酸素原子に結合していてもよい。また、セルロース誘導体は、脂肪族アシル基を一種のみ有していてもよいし、二種以上有していてもよい。
【0019】
脂肪族アシル基は、脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する酸素原子と直接結合してエステル結合を形成する。すなわち、脂肪族アシル基は下記式(1)で表される基である。
-C(=O)-R1 (1)
【0020】
式(1)中、R1は脂肪族炭化水素基を示す。カルボニル基(-C(=O)-)はセルロースにおけるヒドロキシ基を構成する酸素原子と結合してエステル結合を形成する。すなわち、-C(=O)-基の左に延びる結合手はセルロース骨格における酸素原子に結合する。なお、本明細書において、「セルロース骨格」とは、セルロースにおけるヒドロキシ基に由来する酸素原子に結合する基を除いた基を意味する。
【0021】
脂肪族アシル基における脂肪族炭化水素基(上記式(1)におけるR1)は特に限定されないが、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、ステアリル基、オレイル基などの炭素数が3~25の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよい。
【0022】
上記炭化水素基(R1)における炭素数は、4以上が好ましく、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である。また、上記炭化水素基における炭素数は、24以下が好ましく、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下、特に好ましくは16以下、最も好ましくは12以下である。炭素数が上記範囲内にあることにより、成型体に対して、より優れた耐塩素性や高い破断時の伸び性能を付与することができる傾向がある。
【0023】
セルロース誘導体において、脂肪族アシル基の平均置換度は0.5~2.5であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上である。また、脂肪族アシル基の平均置換度は2.5以下であり、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.3以下である。平均置換度が上記範囲内にあることにより、成型体に対して、より優れた高い破断時の伸び性能を付与することができる傾向がある。
【0024】
セルロース誘導体において、成型体に対する耐塩素性の付与の観点からは、脂肪族アシル基の平均置換度は1.4以上であること、及び/又は、2.2以下であることが好ましい。また、親水性のさらなる向上の観点からは、脂肪族アシル基の平均置換度は1.1以上であること、及び/又は、1.4未満であることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書における平均置換度は、セルロース誘導体における上記式(A)で表される繰り返し単位当たりの基の数(平均値)である。本明細書において、平均置換度は、公知乃至慣用の方法で測定でき、例えば1H-NMRや13C-NMRにより分析・測定することができる。具体的には、例えば、セルロース骨格におけるプロトンと、脂肪族アシル基中の脂肪族炭化水素基の末端メチル基のプロトンとの積分比から算出することができる。また、NMRスペクトルにおいて、セルロース誘導体が有する脂肪族炭化水素基のピークとセルロース骨格由来のピークとが重なる場合は、セルロース誘導体中のセルロース骨格が有する残存ヒドロキシ基をすべてベンゾイル化して得られるセルロース誘導体を1H-NMR分析し、ベンゾイル基を含む合計の平均置換基を3.0として特徴的なピークの積分比から算出してもよい。
【0026】
本開示のセルロース誘導体は、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基を備える。上記有機基におけるオキシアルキレン鎖は、下記式(2)で表される基である。上記有機基を備えることにより、親水性に優れる。また、親水性の程度は、水中気泡接触角により評価することができる。
-O-R2 (2)
[式中、R2は炭化水素基を示す]
【0027】
2の炭化水素基は特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの炭素数が6以下(好ましくは1~4、より好ましくは1~3)の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよい。
【0028】
上記有機基における炭素原子の総数は、1~20が好ましく、より好ましくは2~15、さらに好ましくは3~12である。炭素原子の総数が上記範囲内にあることにより、親水性により優れる傾向がある。
【0029】
上記有機基は(ポリ)オキシアルキレン鎖を含むことが好ましい。上記(ポリ)オキシアルキレン鎖中のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの炭素数1~6(より好ましくは2~4)のアルキレン基が挙げられる。なお、上記(ポリ)オキシアルキレン鎖は、上記アルキレン基を一種のみ有していてもよいし、二種以上を有していてもよい。
【0030】
上記(ポリ)オキシアルキレン鎖におけるオキシアルキレン鎖の平均重合度は、1~5が好ましく、より好ましくは2~3である。上記平均重合度が上記範囲内であると、セルロース誘導体のパッキングがより抑制される。
【0031】
上記有機基の有するエーテル結合の個数(エーテル結合数)は少なくとも1つであり、2以上が好ましい。上記エーテル結合数は特に限定されないが、例えば、6以下が好ましく、より好ましくは4以下である。エーテル結合数が上記範囲内であることにより、親水性により優れる傾向がある。
【0032】
上記有機基は、特に、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
-X2-R4(-O-R3)n-O-R2 (3)
【0033】
式(3)中、R2は上記に同じであり、炭化水素基である。R3はアルキレン基を示す。nは(-O-R3)の重合度を示す1以上の整数である。R4は直接結合または二価の炭化水素基を示し、X2は連結基を示す。X2の左に延びる結合手はセルロース骨格における酸素原子に結合する。
【0034】
3のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの炭素数1~6(より好ましくは2~4)のアルキレン基が挙げられる。nは、例えば、1~5であることが好ましく、より好ましくは1~2である。
【0035】
4は直接結合または二価の炭化水素基である。上記二価の炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよく、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。上記二価の炭化水素基の炭素数は1~6が好ましい。上記二価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの炭素数1~6(より好ましくは1~4)のアルキレン基が好ましい。
【0036】
2の連結基としては、例えば、カルボニル基(-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-N(-R)-)、(-P(=O)(-R)-)、チオカルボニル基(-C(=S)-)が挙げられる。なお、上記のRは水素原子または一価の炭化水素基(例えば、炭素数が1~6の炭化水素基)である。中でも、カルボニル基(-C(=O)-)が好ましい。
【0037】
セルロース誘導体において、上記有機基の平均置換度は0.5~2.5であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.1以上である。また、上記有機基の平均置換度は2.5以下であり、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.3以下、さらに好ましくは2.2以下である。平均置換度が上記範囲内であることにより、親水性により優れる傾向がある。
【0038】
セルロース誘導体において、成型体に対する耐塩素性の付与の観点からは、上記有機基の平均置換度は1.6未満であることが好ましい。また、親水性のさらなる向上の観点からは、上記有機基の平均置換度は1.6以上であること、及び/又は、2.0以下であることが好ましい。
【0039】
本開示のセルロース誘導体において、脂肪族アシル基の平均置換度と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度との差(「脂肪族アシル基の平均置換度」-「オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度」)は特に限定されないが、例えば、-1.0~1.5が好ましく、より好ましくは-0.8~1.4である。上記差が上記範囲内であることにより、親水性により優れ、その成型体に優れた耐塩素性や高い破断時の伸び性能を付与することができる傾向がある。
【0040】
成型体に対して、より優れた耐塩素性とより高い破断時の伸び性能を付与するためには、脂肪族アシル基の平均置換度と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度との差を、0.2~1.4とすることが好ましい。成型体に対して、より優れた親水性とより高い破断時の伸び性能を付与するためには、脂肪族アシル基の平均置換度と、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度との差を、-0.8~-0.2とすることが好ましい。
【0041】
本開示のセルロース誘導体において、脂肪族アシル基の平均置換度の、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度に対する比率(「脂肪族アシル基の平均置換度」/「オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の平均置換度」)は、0.3~3.5が好ましく、より好ましくは0.5~3.0である。上記比率が親水性により優れ、その成型体に優れた耐塩素性や高い破断時の伸び性能を付与することができる傾向がある。
【0042】
上記比率は、より優れた耐塩素性とより高い破断時の伸び性能を付与するためには、1.1以上とすることが好ましい。また、成型体に対して、より優れた親水性とより高い破断時の伸び性能を付与するためには、1.1未満とすることが好ましい。
【0043】
セルロース誘導体は、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部は置換されていなくてもよい。すなわち、セルロース誘導体は、セルロース由来のヒドロキシ基を有していてもよい。
【0044】
本開示のセルロース誘導体において、ヒドロキシ基の平均残留量は0~1.0であり、好ましくは0~0.5、より好ましくは0~0.3、さらに好ましくは0~0.1である。平均残留量が上記範囲内であることにより、親水性により優れ、その成型体に優れた耐塩素性や高い破断時の伸び性能を付与することができる傾向がある。
【0045】
なお、本明細書における平均残留量は、セルロース誘導体における上記式(A)で表される繰り返し単位当たりのヒドロキシ基の数(平均値)である。本明細書において、平均残留量は、セルロース誘導体中のセルロース骨格が有する残存ヒドロキシ基をすべてベンゾイル化して得られるセルロース誘導体を1H-NMR分析し、ベンゾイル基を含む合計の平均置換基を3.0としてピークの積分比から算出することができる。
【0046】
セルロース誘導体は、上記脂肪族アシル基、および上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基以外に、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子の少なくとも一部に置換された、その他の置換基を備えていてもよい。上記その他の置換基としては、置換基を有していてもよいベンゾイル基や末端にヒドロキシ基を有する一価の置換基が挙げられる。セルロース誘導体は上記その他の置換基を一種のみ有していてもよいし、二種以上有していてもよい。
【0047】
置換基を有していてもよいベンゾイル基は特に限定されないが、例えば、ベンゾイル基、パラーメチルベンゾイル基、オルソーメチルベンゾイル基、パラーメトキシベンゾイル基、オルソーメトキシベンゾイル基、ジメチルベンゾイル基が挙げられる。
【0048】
セルロース誘導体中の、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子に置換された全置換基(100モル%)中の、上記脂肪族アシル基および上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基からなる群より選択される一種以上の置換基の合計割合は、80モル%以上が好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0049】
セルロース誘導体中の、セルロースにおけるヒドロキシ基を構成する水素原子に置換された全置換基(100モル%)中の、上記その他の置換基の割合は、10モル%以下が好ましく、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0050】
[セルロース誘導体の製造方法]
本開示のセルロース誘導体は、例えば、(i)イオン液体中でセルロースとアシル基供与体とを反応させる方法、(ii)高極性溶媒(ジメチルアセトアミド)中で塩化リチウムの存在下、セルロースとアシル化供与体とを反応させる方法が挙げられる。上記イオン液体、上記アシル基供与体、および上記高極性溶媒などの各種成分は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0051】
(i)において使用されるイオン液体は、セルロースを溶解する溶媒として用いられるとともに、強力な有機分子触媒として機能する。上記イオン液体は、一種のみ使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0052】
上記イオン液体の構成アニオンとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオンなどのカルボン酸系アニオン、PF6 -イオン、CF3SO3 -イオン、(CF3SO22-イオン、Cl-イオン、BF4 -イオンなどが挙げられる。上記アニオンとしてカルボン酸系アニオンを用いた場合、(i)の方法により、セルロース骨格に上記カルボン酸アニオン由来の置換基を導入することができる。例えば上記アニオンとして酢酸アニオンを用いた場合、セルロース誘導体にアセチル基を導入することができる。
【0053】
上記イオン液体の構成カチオンとしては、有機系のカチオンであることが好ましく、例えば、アンモニウムカチオン、ヘテロ環オニウムカチオンなどが挙げられる。アンモニウムカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシリルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、ジエチルトリメチル(2-メトキシエチル)アンモニウムイオンなどの脂肪族4級アンモニウムイオン、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムイオンなどの脂環式4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0054】
ヘテロ環オニウムカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンなどが挙げられる。イミダゾリウムカチオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムイオンなどのジアルキルイミダゾリウムカチオン、1-(1,2または3-ヒドロキシプロピル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどのトリアルキルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムイオンなどの1-アリル-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。ピリジニウムカチオンとしては、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4-ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられる。ピペリジニウムカチオンとしては、N-メチル-N-エチルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピペリジニウムイオンなどが挙げられる。ピロリジニウムカチオンとしては、N-メチル-N-エチルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0055】
上記アシル基供与体としては、例えば、セルロースにおけるヒドロキシ基と反応し、水素原子をアシル基で置換し得る化合物であり、上記脂肪族アシル基や上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基に応じて適宜選択することができる。このような化合物としては、例えば、鎖状または環状のエステル(例えば、カルボン酸ビニルエステル)、アルデヒド、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物が挙げられる。
【0056】
上記アシル基供与体の使用量は、特に限定されず、導入する置換基の置換度(平均置換度)に応じて適宜調整できる。上記アシル基供与体の使用量は、セルロースの総量100質量部に対して、例えば、100~6000質量部であり、好ましくは100~3000質量部である。また、上記アシル基供与体の使用量は、セルロースにおけるグルコース1当量(すなわち、ヒドロキシ基3当量)に対して、例えば1~20当量であり、好ましくは3~9当量である。
【0057】
(i)の反応においてイオン液体以外の溶媒を添加してもよい。上記溶媒としては、公知乃至慣用の有機溶媒や水を使用することができる。セルロースの油剤に対する親和性を維持しつつ製造コストを低減することができる。上記溶媒としては、具体的には、上記高極性溶媒が好ましい。
【0058】
反応温度は例えば40~120℃、反応時間は例えば1分~48時間である。反応後の溶液は、メタノールなどの溶媒を用いて再沈殿、ろ過などを行うことで、上記アシル基供与体がセルロースにおけるヒドロキシ基の酸素原子上に導入され、上記脂肪族アシル基及び上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基を備えるセルロース誘導体を得ることができる。また、反応に用いたイオン液体は、回収して再利用することができる。
【0059】
(ii)において使用される高極性溶媒は、セルロースを溶解する溶媒として用いられる。上記高極性溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピペリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;スルホラン;γ-ブチルラクトン;ヘキサメチルリン酸トリアミドなどが挙げられる。中でも、セルロースの溶解性に優れる観点から、アミド系溶媒が好ましく、より好ましくはN,N-ジメチルアセトアミドである。
【0060】
上記アシル基供与体としては、上述の(i)において使用されるアシル基供与体として例示および説明されたものが挙げられる。上記アシル基供与体の使用量は、特に限定されず、導入する置換基の置換度(平均置換度)に応じて適宜調整できる。上記アシル基供与体の使用量は、セルロースの総量100質量部に対して、例えば100~6000質量部であり、好ましくは100~3000質量部である。また、上記アシル基供与体の使用量は、セルロースにおけるグルコース1当量(すなわち、ヒドロキシ基3当量)に対して、例えば1~20当量であり、好ましくは3~15当量である。
【0061】
上記塩化リチウムの使用量は、特に限定されないが、高極性溶媒の総量100質量部に対して、例えば1~12質量部であり、好ましくは3~9質量部である。
【0062】
(ii)において、塩基性触媒を使用することが好ましい。上記塩基性触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィンなどの第三級アミンが挙げられる。
【0063】
反応温度は例えば40~120℃、反応時間は例えば1分~48時間である。反応後の溶液は、メタノールなどの溶媒を用いて再沈殿、ろ過などを行うことで、上記アシル基供与体がセルロースにおけるヒドロキシ基の酸素原子上に導入され、上記脂肪族アシル基及び上記オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基を備えるセルロース誘導体を得ることができる。
【0064】
[組成物]
本開示のセルロース誘導体は、極性溶媒に対する溶解性に優れるとともに、脂肪族アシル基を有することから非極性溶媒に対する溶解性に優れる。したがって、様々な溶剤に対する親和性に優れる。したがって、本開示のセルロース誘導体を含む組成物(以下、本開示の組成物と称することがある)は、用途に応じて好ましい溶剤を選択することができる。
【0065】
本開示の組成物は、包装用紙分野、印刷分野、繊維分野、医療分野、化粧料分野などの各種分野において使用され得る。これらの分野において、上記組成物は、化粧料、皮膚外用剤、コーティング剤、塗料などの組成物そのものが用いられる場合と、上記組成物を乾燥・固化、必要に応じて光及び/または熱硬化することで成型体として用いられる場合がある。
【0066】
本開示の組成物が化粧料や皮膚外用剤として用いられる場合、上記組成物は、セルロース誘導体に加えて、油剤、粉体、界面活性剤、低級アルコール、多価アルコール、セルロース誘導体以外の高分子化合物、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、香料、色材、防汚剤、保湿剤、水などを含んでいてもよい。これらの成分は一種のみ使用してもよいし、二種以上使用してもよい。上記組成物の剤型としては、固形、半固形、ゲル、液状などのいずれであってもよい。
【0067】
本開示の組成物がコーティング剤や塗料として用いられる場合、上記組成物は、セルロース誘導体に加えて、セルロース誘導体以外の高分子化合物(例えば、硬化性樹脂)、フィラー、揮発性有機溶剤、レベリング剤、染料、色材、防汚剤などを含んでいてもよい。これらの成分は一種のみ使用してもよいし、二種以上使用してもよい。
【0068】
[成型体]
本開示の成型体は、上記セルロース誘導体を含む。上記成型体は、例えば、上記セルロース誘導体、溶媒、及び必要に応じて添加剤を含む組成物を、乾燥・固化して形成することができる。上記成型体としては、例えば、半透膜、フィルム、繊維、シート(発泡シートを含む)、パイプ、トレイ、袋が挙げられる。
【0069】
上記組成物における溶媒は特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を挙げることができる。
【0070】
本開示の成型体において、引張破断強度は特に限定されないが、例えば、0.5~90Mpaであることが好ましく、より好ましくは0.8~50Mpa、さらに好ましくは1.0~20Mpaである。また、本開示の成型体において、破断時の伸びは特に限定されないが、例えば、30~240%であることが好ましく、より好ましくは50~200%、さらに好ましくは80~180%である。なお、引張破断強度と破断時の伸びの測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の実施例における測定方法であってもよい。
【0071】
本開示の成型体において、耐塩素性は特に限定されないが、例えば、2000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液浸漬品の引張破断強度に基づいた期間(日数)で5日以上であることが好ましく、より好ましくは10日以上である。なお、耐塩素性の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の実施例における測定方法であってもよい。
【0072】
本開示の成型体において、水中気泡接触角は親水性の指標である。上記成型体の水中気泡接触角は特に限定されないが、三酢酸セルロースの水中気泡接触角である121°の前後の値、すなわち、110°~130°の範囲の値が親水性に基づく耐汚染性(耐ファウリング性)の観点から好ましい。また、耐汚染性をより高めるためには、113°~130°の範囲の値が好ましい。なお、水中気泡接触角の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の実施例における測定方法であってもよい。
【0073】
本開示の成型体が半透膜の場合、上記セルロース誘導体を含む組成物は、添加剤として、カプロラクトン誘導体、芳香族系カルボン酸エステル、または芳香族系リン酸エステルを含んでいてもよいが、含まないことが好ましい。上記半透膜は、公知の紡糸溶液や製膜溶液を使用し、例えば、特許第5418739号公報の実施例に記載の製造方法を利用して製造することができる。上記半透膜は高い靭性を有する。上記半透膜は、中空糸膜、逆浸透膜や正浸透膜の分離機能膜または平膜が好ましい。
【0074】
本開示の成型体がフィルムである場合、上記セルロース誘導体を含む組成物は、添加剤として、カプロラクトン誘導体、芳香族系カルボン酸エステル、芳香族系リン酸エステル、または脂肪族系多価カルボン酸エステルを含むことができる。上記フィルムは高い靭性を有し、靭性不足によるフィルム作製時の白化を抑制することができる。フィルムは、公知の製膜溶液を基板上に流延した後、乾燥する方法を適用して製造することができる。
【0075】
上記成型体が繊維(フィラメント)である場合、上記セルロース誘導体を含む組成物は、添加剤として、カプロラクトン誘導体、芳香族系カルボン酸エステル、または芳香族系リン酸エステルを含むことができる。上記繊維は高い靭性を有する。上記繊維は、公知の製膜溶液を使用し、公知の湿式紡糸法または乾式紡糸法を適用して製造することができる。また、上記繊維を用いて、乾式法や湿式法といったフリース形成法や、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、スパンレース法といったフリース結合法などの公知の方法により不織布を製造することができる。
【0076】
シート(発泡シート)、パイプ、トレイ、袋は、上記セルロース誘導体を含む組成物と必要に応じて樹脂及び樹脂用添加剤(可塑剤等)を混合した後、押出成形、ブロー成形、射出成形などの公知の成形法を適用して製造することができる。
【0077】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0078】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0079】
・調製例1
窒素雰囲気下、室温で[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(27.0g、0.15mol)に塩化チオニル(21.6g、0.18mol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、約40℃で3時間程度攪拌して反応を行い、その後、温度を60℃まで昇温して反応を完遂させた。ガスクロマトグラフィー(GC)分析により原料の消失を確認した後、室温まで冷却し、過剰な塩化チオニルを溶媒留去することで酸クロライド(28.2g、0.14mol、濃度94.6質量%)を得た。
【0080】
・調製例2
窒素雰囲気下、室温で2-(2-メトキシエトキシ)酢酸(60.0g、0.45mol)に塩化チオニル(63.8g、0.54mol)をゆっくり滴下した。その後は調製例1と同様の方法によって酸クロライド(67.2g、0.44mol、濃度98.5質量%)を得た。
【0081】
・実施例1
窒素雰囲気下、塩化リチウムを溶解したジメチルアセトアミド溶液20.14g(濃度6.7質量%)に再生セルロース(テンセル(登録商標)、富士紡ホールディングス株式会社製)0.50g(3.1mmol)を添加して溶解させ、セルロース溶液を得た。ここに、ジメチルアミノピリジン1.13g(9.3mmol)、調製例1の酸クロライド2.73g(13.9mmol)、およびラウリン酸クロライド3.04g(13.9mmol)の混合液を加えた後、80℃で3時間攪拌することで反応を行った。その後、多量のメタノールを添加することで生成物を析出させ、ろ過で回収した。得られた生成物はTHFに溶解させ、多量のメタノール中に滴下することで精製し、沈殿物をろ過で回収して乾燥させることで、ラウロイル基(脂肪族アシル基)及び上記酸クロライドに由来する基(オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基)がセルロース骨格の酸素原子上に置換したセルロース誘導体が得られた。セルロース誘導体の置換度は1H-NMRにより確認し、脂肪族アシル基(ラウロイル基)の置換度は1.7、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の置換度は1.3、ヒドロキシ基の置換基は0と算出された。なお、残存するヒドロキシ基の置換度は、得られたセルロース誘導体をピリジンに溶解させ、ベンゾイルクロリドと反応させた後、1H-NMRにより芳香環の置換度を算出することで推定した。
【0082】
上記で得たセルロース誘導体をスクリュー管に加え、セルロース誘導体/ジクロロメタン(質量比)=10/90となるようにジクロロメタンを添加し、室温で完全に溶解してセルロース誘導体溶解液(ドープ)を調製した。
【0083】
・実施例2
調製例1の酸クロライドを3.64g(18.5mmol)、ラウリン酸クロライドを2.02g(9.3mmol)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体を合成した。1H-NMRにより、セルロース誘導体の脂肪族アシル基(ラウロイル基)の置換度は1.1、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の置換度は1.9、ヒドロキシ基の置換基は0と算出された。また、実施例1と同様にして、セルロース誘導体溶解液(ドープ)を調製した。
【0084】
・実施例3
調製例1の酸クロライドを1.82g(9.3mmol)、ラウリン酸クロライドを4.05g(18.5mmol)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体を合成した。1H-NMRにより、セルロース誘導体の脂肪族アシル基(ラウロイル基)の置換度は2.2、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の置換度は0.8、ヒドロキシ基の置換基は0と算出された。また、実施例1と同様にして、セルロース誘導体溶解液(ドープ)を調製した。
【0085】
・実施例4
酸クロライドとして、調製例2の酸クロライド2.12(13.9mmol)を使用し、ラウリン酸クロライドを3.04g(13.9mmol)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体を合成した。1H-NMRにより、セルロース誘導体の脂肪族アシル基(ラウロイル基)の置換度は1.7、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の置換度は1.3、ヒドロキシ基の置換基は0と算出された。また、実施例1と同様にして、セルロース誘導体溶解液(ドープ)を調製した。
【0086】
・実施例5
酸クロライドとして、調製例2の酸クロライド2.82g(18.5mmol)を使用し、ラウリン酸クロライドを2.02g(9.3mmol)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロース誘導体を合成した。1H-NMRにより、セルロース誘導体の脂肪族アシル基(ラウロイル基)の置換度は1.2、オキシアルキレン鎖を末端に有する有機基の置換度は1.8、ヒドロキシ基の置換基は0と算出された。また、実施例1と同様にして、セルロース誘導体溶解液(ドープ)を調製した。
【0087】
・比較例1
ジクロロメタン/メタノール=90/10(質量部)の混合溶媒に、アセチル基の置換度が2.87の三酢酸セルロース(株式会社ダイセル製)を、三酢酸セルロース/混合溶媒=10/90(質量部)となるように添加してスクリュー管に入れ、加熱攪拌することで完全に溶解して三酢酸セルロース溶解液を得た。
【0088】
[極性溶媒溶解性]
実施例1~5、比較例1で得た溶解液の析出精製乾燥物(約50mg)を、約1gのDMSOおよびNMPに入れ、室温(24℃)で浸漬撹拌させることで溶解性を確認した。また、室温で溶解しなかった場合は95℃まで加熱して溶解性を確認した。以上の溶解性が確認できた極性溶媒とその溶解温度を表1の「極性溶媒溶解性」の項に記載する。
【0089】
[引張破断強度、破断時の伸び測定]
実施例1~5、比較例1で得た溶解液を、それぞれガラスシャーレへ移液し、軽く蓋をして徐々に溶媒を留去して透明のフィルム(厚さ約50μm)をそれぞれ得た。得られたフィルムから、ダンベル片(JIS規定ダンベル状7号形)を加工し、フィルム状ダンベル片を作製した。
【0090】
小型卓上試験機(島津製作所製「EZ-Test」)を用いて、チャック間距離2cmになるよう上記フィルム状ダンベル片を一本ずつ挟んで、引張速度20mm/分で測定を10回(N=10)実施し、測定値の平均値から引張破断強度(MPa)と破断時の伸び(%)を求めた。以上の結果を表1に記載した。なお、上記フィルム状ダンベル片は水に浸漬させて脱溶媒させており、水分を拭き取った後、湿った状態のまま引張試験を実施した。また、フィルムの断面積は一本毎測定し、引張破断強度測定値の計算に用いた。以上の結果を表1の「破断強度」と「破断時の伸び」の項に記載する。
【0091】
[耐塩素性試験]
上記フィルム状ダンベル片(膜厚50μm程度)を実施例・比較例毎に約50枚使用した。有効塩素濃度12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈し、2000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を試験液に用いた。上記試験液に上記フィルム状ダンベル片を一定期間浸漬させた後に10枚ずつ取出し、水道水で洗浄後、水分を拭き取り、湿った状態のまま小型卓上試験機(島津製作所製「EZ-Test」)を用い引張試験を実施した。試験液は7日毎に新たに2000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製し、試験液を全量交換した。耐塩素性の判断方法は、2000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させていない上記フィルム状ダンベル片の機械物性(引張破断強度)を基準として、その値が基準値の90%を下回るまでの期間(日数)を、表1の「耐塩素性」の項に記載した。
【0092】
[水中気泡接触角試験]
実施例1~5、比較例1で得た溶解液を、それぞれガラス板上にバーコーターで塗布して乾燥・固化することによって、ガラス基板付フィルムを得た。
【0093】
接触角測定装置(DropMaster700、協和界面科学株式会社製)を用いて、上記ガラス基板付フィルムをサンプル台に固定して水中に浸漬させることで試験サンプルを作製し、ニードル先端から放出した気泡とフィルム面との接触角を求めた。気泡のサイズは2.0μlであり、気泡との接触角を表1の「水中気泡接触角」の項に記載する。
【0094】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5