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特開2023-169632心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169632
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/185 20160101AFI20231122BHJP
   A61K 38/56 20060101ALI20231122BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20231122BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231122BHJP
【FI】
A23L33/185
A61K38/56
A61P9/04
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080867
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】古川 希
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018MD58
4B018ME04
4B018ME14
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA15
4C084DC50
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA371
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来とは異なる機序で作用する物質を含む、心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物を提供する。
【解決手段】β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用食品または心不全予防用医薬組成物。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用食品。
【請求項2】
β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の開示は、心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、全身に血液を送り出すポンプとして機能している。この血液を送り出す機能が低下した状態が心不全である。心不全は、送り出される血液が不足するため、全身に様々な症状を引き起こす。症状の具体例としては、動悸や息切れ、呼吸困難、むくみ等が知られている。
【0003】
心不全を発症した場合は、外科的治療または薬物治療が行われるが、発症を予防することも重要である。特許文献1には、Val Pro Pro又はIle Pro Proを有効成分として投与することで、アンジオテンシン変換酵素阻害によっては抑制されない心臓壁肥厚を抑制する、心不全の予防方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5292632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1は、特定の構造を有するトリペプチドを用いることを特徴としている。しかしながら、機能性食品や医薬組成物の分野では、奏する効果について個人差があることから、同じ用途(疾患)であっても、異なる機序で作用する物質を探求することが望まれている。
【0006】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたものである。本発明者らは鋭意研究を行ったところ、β-コングリシニンが心不全の進展抑制効果を有することを新たに見出した。
【0007】
すなわち、本出願の開示の目的は、β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の開示は、以下に示す、心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物に関する。
【0009】
(1)β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用食品。
(2)β-コングリシニンを有効成分として含む、心不全予防用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本出願で開示する心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物を用いることで、心不全が進展することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、心不全の代償機構である求心性肥大の概略を示す図である。
図2図2は、実施例で用いた心不全マウス作製の概略を示す図である。
図3図3は、実施例1および比較例1~3のEF、FS、LV MASS、LVEDdの変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例1および比較例1~3のHW/TLを示すグラフである。
図5図5は、実施例1および比較例1~3のマッソン・トリクローム染色および線維化定量グラフである。
図6図6は、実施例2および比較例4~5のEF、FS、LV MASS、LVEDdの変化を示すグラフである。
図7図7は、実施例2および比較例4~5のHW/TLを示すグラフ、実施例2および比較例4~5のマッソン・トリクローム染色および線維化定量グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本出願で開示する心不全予防用食品および心不全予防用医薬組成物について詳しく説明する。
【0013】
(心不全予防用食品の実施形態)
先ず、心不全予防用食品の実施形態について説明する。心不全予防用食品は、β-コングリシニンを有効成分として含むことを特徴としている。β-コングリシニンは、大豆に含まれるタンパク質で血中脂質低下等の効果があることが知られている(例えば、特開2010-94035号公報参照)。しかしながら、β-コングリシニンが、心不全の予防効果を奏することは、本発明者らが新たに見出した作用機序である。
【0014】
上記のとおり、心臓の血液を送り出す機能が低下した状態のことを心不全という。ところで、心臓の血液を送り出す機能が低下する疾患として、心筋梗塞が知られている。心筋梗塞は、心筋(心臓を構成する筋肉)に血流を送る“冠動脈”の閉塞により血流が途絶えることで心筋が酸素不足の状態に陥り、その結果、心筋細胞が壊死した領域(梗塞領域)が動かなくなる疾患である。ところで、心臓に負荷がかかると、代償機構(ストレスに対応しようと心臓が変化して保護的に働こうとする力。以下、「リモデリング」と記載する。)が働くことが知られている。心不全も心筋梗塞もリモデリングが働くが、リモデリングの内容が異なる。より具体的には、心筋梗塞の場合、梗塞領域は動かなくなるため、代償機構として血液拍出のために全体的に心臓の容量を大きくしようとする(前負荷、血液が心臓に戻ってきた時の負荷)。そのため、遠心性肥大が起こる。一方、心不全は、血液を送り出すのに負荷がかかる(後負荷、血液を送り出そうとするときに負荷がかかる)。そのため、心不全の場合は心室の壁が厚くなる方向に代償機構が働くことから、求心性肥大が起こる(図1参照)。後述する実施例に記載のとおり、本出願では、β-コングリシニンの投与により、求心性肥大が起きることを抑制できるという効果を奏する。なお、本明細書において「心不全予防」とは、心機能の低下や心肥大を抑制することを意味する。したがって、「心不全予防」には、心不全を発症していない患者が将来的に心不全を発症するリスクを軽減することに加え、軽度の心不全を既に発症している患者が重篤化することを抑制(換言すると、心不全の治療)の概念が含まれる。
【0015】
心不全予防用食品は、β-コングリシニンを有効成分として含めば、その他の成分は特に制限はない。β-コングリシニンは、市販品を用いてもよいし、上記特開2010-94035号公報等に記載の方法で製造したものを用いてもよい。心不全予防用食品は、心不全の予防といった効能を有する特定保健用食品等の機能性食品として提供することができる。このような効能を得るための摂取量は、食品、例えば機能性食品が、日常的、連続的又は断続的に長期間摂取することを鑑みると、ヒトの場合、限定されるものではないが、1日あたり、有効成分であるβ-コングリシニンの量が、1~20g程度摂取できるように、食品中に含まれることが好ましい。心不全予防用食品の摂取期間は特に制限はないが、予防との観点では、長期間摂取することが好ましい。限定されるものではないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、1カ月以上、3か月以上、6カ月以上、1年以上等が挙げられる。
【0016】
心不全予防用食品は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態とすることができる。例えば、乳酸菌飲料等の発酵乳製品、各種加工飲食品、乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が挙げられ、更には各種飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等とすることができる。また、心不全予防用食品は、糖類、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、フレーバー、炭水化物、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等又はこれらの混合物等の添加物を添加し、栄養的バランスや風味等を改善してもよい。
【0017】
(心不全予防用医薬組成物の実施形態)
次に、心不全予防用医薬組成物(以下、単に「医薬組成物」と記載することがある。)の実施形態について説明する。医薬組成物は、β-コングリシニンを有効成分として含むことを特徴としている。β-コングリシニンの作用機序は、心不全予防用食品と同じである。
【0018】
医薬組成物は、局所投与または全身投与することができる。投与形態は特に限定されず、経口投与および非経口投与の何れでもよい。また、医薬組成物は、有効成分であるβ-コングリシニンの他に、投与形態に応じて、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、および粘着剤等が挙げられる。
【0019】
医薬組成物の投与量は、患者の体重、年齢等に応じて変動するものであり、特に限定するものではない。投与量は、医師が適宜設定すればよい。
【0020】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0021】
[心不全マウスの作製]
心不全マウスは、大動脈縮窄術(Transverse-aortic constriction:TAC)により作製した。図2を参照しながら、より具体的に説明する。9週齢のオスの野生型マウス(C57BL/6NCrSlc 日本エスエルシー株式会社より購入)をイソフルランで麻酔し、呼吸が浅くなったところで挿管した。挿管が出来たか否かは腹式呼吸とは別に、麻酔装置の動きに合わせた胸郭の動きを見て確認した。確認後、マスキングテープ等でマウスが動かないように両腕・両脚を固定し、胸部の皮膚を剥がし、その後皮下の組織を剥がした。周りの筋肉を少し切り、胸骨ぎりぎりのところで第2肋骨の上側~第3肋間の下側まで切断した。そこから、せっし(ピンセット)で胸部内が見えるように組織を押し広げ、胸腺の右葉と左葉を押し広げるとその下に大動脈弓がみえてくる。ここまで丁寧に脂肪組織・胸腺を剥離した。大動脈弓が見えたら、曲がりピンセットを大動脈弓の裏にかけた。大動脈弓にピンセットをかけたまま、7-0縫合糸を通した別のピンセットから糸を曲がりピンセットでつかみ、大動脈弓に通した。27G針を横行大動脈の上に来るようにマウスと垂直方向にセットし、二回ほど結び(図2の矢印部分)、余分な糸を切った後閉胸作業を行った。筋肉を6-0縫合糸で縫って、次に皮膚を同様に6-0縫合糸で縫った。そして挿管を外し、マウスの呼吸が戻るか確認した。
【0022】
上記TACにより作製したモデルマウスは、横行大動脈を縛ることで全身への血流が抑えられるが、血流を完全に止めないことから心筋の壊死・梗塞領域は生じず、求心性肥大を生じ、心不全の症状を忠実に再現できる。したがって、経口または非経口投与されたβ-コングリシニンは血液により横行大動脈を縛った先の心臓にも到達できるので、心不全に対する効果(心機能低下や心肥大の抑制)を正確に確認できる。このとき組織学的には、著明な心筋細胞肥大と心臓間質の線維化を伴う。なお、TACの詳細は、“Koitabashi N et al:Pivotal role of cardiomyocyte TGF-β signaling in the murine pathological response to sustained pressure overload.J Clin Invest.2011 Jun;121(6):2301-12. doi:10.1172/JCI44824.(以下、非特許文献1と記載することがある。)”に記載されている。非特許文献1に記載の内容は、参照により本明細書に含まれる。
【0023】
[餌および投与方法]
(1)β-コングリシニン配合餌
餌の全質量に対して、β-コングリシニンが約20質量%配合されている固形餌を準備した。
(2)コントロール用餌
餌の全質量に対して、乳酸菌不使用Mineral Acidカゼインが約20質量%配合されている固形餌を準備した。
なお、上記(1)および(2)に記載の餌は、β-コングリシニンおよびカゼインが上記配合割合となるように、リサーチダイエット社に作製依頼し入手した。
マウスは飼育ゲージで飼育し、餌は、一日当たり、マウス1匹に対し約4gを与え自由摂食させた。
【0024】
[腹腔投与試薬および投与方法]
β-コングリシニン(不二たん白質研究振興財団から入手)を生理食塩水に溶解し、100mg/kg/dayの割合で毎日腹腔に投与した。
【0025】
[マウスの心エコー]
心機能を経時的に計測するために、心エコー検査を実施した。麻酔薬は心機能を抑制するため無麻酔で行った。
マウスに餌を与えた場合は、餌の摂食開始前、摂食開始後1週間目、2週間目に心エコーを測定すると共に、2週間目にTAC手術を実施した。術後、1週間目、2週間目、3週間目に心エコーを測定することで、心肥大の程度や心筋重量、および心機能について評価を行った。
マウスにβ-コングリシニンを腹腔投与した場合は、TAC手術後3日目より投与を開始した。TACのみの群ではコントロールとして生理食塩水を投与した。TAC手術前、および手術後1週間目、2週間目に心エコーを測定することで心肥大の程度や心筋重量、および心機能について評価を行った。
【0026】
計測項目は、以下のとおりである。何れの項目も、心肥大および心機能を評価する公知の指標である。
・左室駆出率(Ejection Fraction:EF)、
・左室内径短縮率(Fractional shortening:FS)、
・左室心筋重量(LV MASS)、
・M-modeを用いて左室拡張末期径(LVEDd)を計測、
・心重量計測(HW/TL):TAC手術3週間後にマウスをト殺して、心重量を計測し、脛骨長で補正することで心肥大の程度を評価。なお、体重で補正するとバラつきが大きくなるため、脛骨長で補正を行った。
【0027】
[マッソン・トリクローム染色による線維化定量]
上記非特許文献1のp2311左欄の“Tissue histology”に記載の手順にしたがって、ト殺したマウスの心筋組織のパラフィン切片についてマッソン・トリクローム染色し、線維化定量を行った。
【0028】
<実施例1および比較例1~3>
・β-コングリシニン配合餌を用いTAC手術を実施した群を実施例1(TAC+β-コングリシニン)、
・コントロール用餌を用いTAC手術を実施した群を比較例1(TAC+カゼイン)、
・β-コングリシニン配合餌を用いTAC手術を実施しなかった群を比較例2(Control+β-コングリシニン)、
・コントロール用餌を用いTAC手術を実施しなかった群を比較例3(Control+カゼイン)、
として、実験を行った。
【0029】
図3は、実施例1および比較例1~3のEF、FS、LV MASS、LVEDdの変化を示すグラフである。図4は、実施例1および比較例1~3のHW/TLを示すグラフである。図5は、実施例1および比較例1~3のマッソン・トリクローム染色および線維化定量グラフである。
【0030】
図3および図4から明らかなように、β-コングリシニンを有効成分として含む餌を摂食させることで、心不全手術による心機能低下に対し抑制傾向が見られた。また、図5から明らかなように、β-コングリシニンを有効成分として含む餌を摂食させることで、線維化に対し抑制傾向が見られた。
【0031】
<実施例2および比較例4~5>
・β-コングリシニンを腹腔投与しTAC手術を実施した群を実施例2(TAC+β-コングリシニン)、
・β-コングリシニンを腹腔投与せずにTAC手術を実施した群を比較例4(TAC)、
・β-コングリシニンを腹腔投与せずに、TAC手術も実施しなかった群を比較例5(Control)、
として、実験を行った。
【0032】
図6は、実施例2および比較例4~5のEF、FS、LV MASS、LVEDdの変化を示すグラフである。図7は、実施例2および比較例4~5のHW/TLを示すグラフ、実施例2および比較例4~5のマッソン・トリクローム染色および線維化定量グラフである。
【0033】
図6から明らかなように、β-コングリシニンを腹腔に投与することで、心不全手術による心機能低下・悪化に対し抑制傾向が見られた。また、図7から明らかなように、β-コングリシニンを腹腔に投与することで、心不全による心肥大および線維化に対し抑制傾向が見られた。
【0034】
以上の結果より、β-コングリシニンを経口または非経口投与することで、心機能の低下や心肥大を抑制できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本出願で開示する食品および医薬組成物により、心不全を予防できる。したがって、製薬産業や食品産業等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7