(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169644
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】画像形成装置およびそれに用いられるモータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20231122BHJP
【FI】
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080884
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】白木 朋代
(72)【発明者】
【氏名】川村 忠史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 善秋
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA18
5H501DD06
5H501DD07
5H501GG03
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501LL07
(57)【要約】
【課題】複数の回転速度を切換えて運転するモータのフィードバック制御において特別な速度検出器や回路を用いなくても目標をより低い速度に切換えた際に安定したモータの追従が得られるようにする。
【解決手段】駆動信号を受けてモータを駆動する駆動回路と、モータの回転速度に応じた時間間隔で回転信号を出力する速度検出器と、速度検出器から出力される回転信号からモータの現在の回転速度を得てモータが目標の速度で回転するように駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するフィードバック制御部と、を備え、フィードバック制御部は、駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を速度検出器が出力したものと見做して駆動信号を更新する画像形成装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号を受けてモータを駆動する駆動回路と、
前記モータの回転速度に応じた時間間隔で回転信号を出力する速度検出器と、
前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得て前記モータが目標の速度で回転するように前記駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するフィードバック制御部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新する画像形成装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの間に前記速度検出器からの少なくとも1つの回転信号が出力された場合は、その回転信号とその直前の回転信号との時間間隔に基づいて前記モータの現在の回転速度を得る請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御部は、予め設定された時間間隔で前記モータの現在の回転速度に基づいて前記駆動信号を更新する処理を実行する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記時間間隔は、前記モータの応答特性に基づいて設定されたものである請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、前記速度検出器からの回転信号の時間間隔が、前回の更新から今回の更新までの期間に収まる回転速度よりもさらに低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、前記モータが停止していると見做して前記駆動信号を更新する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記モータは、画像形成装置における用紙または原稿の搬送に係るモータである請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項8】
画像形成装置に用いられるモータを制御する制御部が、
速度検出器を用いて前記モータの回転速度に応じた時間間隔の回転信号を取得するステップと、
前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得るステップと、
前記モータが目標の速度で回転するように駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するステップと、
前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して駆動信号を更新するステップと、
を実行するモータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、画像形成装置およびそれに用いられるモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置には、画像形成プロセスに係る機構を駆動するほか、画像形成に係る原稿や印刷用紙を搬送するために1以上のモータが使用される。
それらのモータの駆動に、速度フィードバック制御を適用するものがある。速度フィードバック制御が適用される代表的なモータは直流モータである。
速度フィードバック制御は、モータの回転速度を検出する速度発電機や回転角度を検出するエンコーダ等の速度検出器を用いてモータの実際の回転速度を検出し、検出された回転速度を所定の速度に近づけるようにモータの駆動を制御するものである。回転速度が目標の速度よりも速い場合は目標との速度の差に応じて駆動を弱めて減速させ、逆に回転速度が目標の速度よりも遅い場合は目標との速度の差に応じて駆動を強めて加速させる。適切なフィードバック制御を行うことにより、負荷の変動に対してモータの回転を所定の速度に保つことができる。
【0003】
ところで、画像形成装置に使用されるモータの中には、一定の速度で回転するだけでなく速度を変化させたり所定のタイミングで停止させたりすることが必要なものがある。
例えば、停止の制御に関して以下の回転制御方法が知られている。画像形成のタイミングに合わせて用紙を転写位置に搬送するレジスト動作の制御に関するものである。
レジスト動作は、画像形成のタイミングに合わせて用紙を転写位置に搬送するために用紙搬送方向の下流側で停止しているレジストローラに突き当てる。その際、用紙の先端側に斜行を補正するための撓みが形成されると上流側の搬送ローラを一時停止させ、画像形成のタイミングに合わせて搬送ローラとレジストローラの双方の回転を開始する。
【0004】
ここで、搬送ローラを一時停止させる際、低回転域になるほどエンコーダからのパルス信号の間隔が大きくなり、パルス入力を待つ時間が長くなる。その待ち時間の間は、パルス信号の間隔の大きさに基づき実際の速度と減速時の目標速度の大小関係を判断して加減速を行うフィードバック制御が実行できない。そのため、停止距離が安定せず、また停止時間が長くなる場合もある。
そこで、減速開始からブレーキと力行(りっこう)またはフリーラン(惰行)の少なくとも何れかの動作を繰り返すことにより回転数を基準速度まで低下させ、続いて停止まで継続してブレーキを実行する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の手法は、レジストセンサが用紙先端を検出してから搬送ローラが停止するまでの停止距離(用紙搬送距離)と停止時間のばらつきを抑制することを課題としている。
しかし、原稿や印刷用紙の搬送制御においては、モータを停止させるだけでなく、目標の速度を迅速に切り替えるように制御する場合がある。例えば、印刷用紙を排出トレイへ排出させる直前に搬送速度を減速させる制御がある。排出トレイ上に印刷用紙を整然と堆積させるために十分減速させたうえで排出することが好ましい。また、片面に画像が印刷された後の印刷用紙をスイッチバックさせてもう一方の面に印刷を行うための両面印刷経路へ導く場合も、搬送速度を減速させた後にスイッチバックを行う。それらの減速時に印刷用紙の後端と後続の印刷用紙の先端とが重なると紙づまりが発生する。紙づまりを避けるには、後続する印刷用紙との用紙間隔を十分確保する必要がある一方、用紙間隔を大きくとると画像形成の生産性が低下する。従って、上述のように搬送速度を一時的に減速させる場合は、できる限り迅速に減速して減速の期間をできる限り短くすることが好ましい。よって、目標の速度を略階段状に変更し、その変更にモータの回転を追従させるフィードバック制御が望まれる。
【0007】
印刷用紙の例を述べたが、原稿を搬送する原稿搬送装置の制御についても同様のことがいえる。
ところが、変更前より変更後の目標速度が低い場合、目標速度への変更に追従しようとするモータの回転速度にアンダーシュートが生じる。目標速度におけるエンコーダからのパルス信号の時間間隔がモータの応答時間に匹敵する程度である場合、アンダーシュートの期間中はパルス信号の時間間隔がモータの応答時間よりも長くなる瞬間が生じ得る。ここで、モータの応答時間は、例えば負荷駆動状態におけるモータの機械時定数として表される時間である。
【0008】
フィードバック制御は、系の安定した制御を実現するために、モータの応答時間よりも短い時間間隔で行うことが好ましい。しかし、パルス信号の時間間隔がモータの応答時間より長くなると、パルス信号に基づいてモータの加減速を行うフィードバック制御の基礎となる情報が得られず、所定の時間間隔でのフィードバック制御が実質的に行えない。
パルス間隔を短くするように高い分解能のエンコーダを用いることで、低い目標速度へ変更した際にもモータの応答時間よりも短いパルス間隔が得られるようにしてもよい。しかし、高い分解能のエンコーダを用いると、低い回転速度でモータが回転する場合だけでなく高い回転速度においてもパルスの時間間隔が短くなる。高い回転速度においては、パルス信号に係る処理を必要以上に頻繁に行うことになる。
【0009】
上述したような印刷用紙や原稿の排出時あるいはスイッチバック時の減速期間は、搬送制御全体を通して見た場合にごく一部の期間に過ぎず、そのために必要以上に頻繁なパルス信号の処理を行うことは不合理であるとも考えられる。
この開示は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、複数の回転速度を切換えて運転するモータのフィードバック制御において特別な速度検出器や回路を用いなくても目標をより低い速度に切換えた際に安定したモータの追従が得られる手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この開示は、駆動信号を受けてモータを駆動する駆動回路と、前記モータの回転速度に応じた時間間隔で回転信号を出力する速度検出器と、前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得て前記モータが目標の速度で回転するように前記駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するフィードバック制御部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新する画像形成装置を提供する。
【0011】
また、異なる観点からこの開示は、画像形成装置に用いられるモータを制御する制御部が、速度検出器を用いて前記モータの回転速度に応じた時間間隔の回転信号を取得するステップと、前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得るステップと、前記モータが目標の速度で回転するように駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するステップと、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新するステップと、
を実行するモータの制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
この開示による画像形成装置において、フィードバック制御部は、駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に速度検出器からの回転信号が出力されないことにより現在の回転速度が得られない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新するので、特別な速度検出器や回路を用いなくても目標をより低い速度に切換えた際に安定したモータの追従を得ることができる。
この開示によるモータの制御方法も同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この開示による画像処理装置の一例として、複合機の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す複合機の構成を示す断面図である。
【
図3】
図1および
図2に示す複合機の制御および搬送駆動に係る構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1乃至
図3に示す画像読取部および印刷部に配置されるモータを示す説明図である。
【
図5】
図1乃至
図3に示す原稿搬送ユニットに配置されるモータを示す説明図である。
【
図6】この実施形態においてモータとフィードバック制御部の構成例を示す説明図である。
【
図7】この実施形態において、フィードバック制御部の処理をプロセッサが実行する場合の例を示すフローチャートである。
【
図8】この実施形態においてエンコーダから出力される回転信号の波形例と、その回転信号に基づいて回転速度計測部が導く現在の回転速度との関係を示す説明図である。
【
図9】
図8に比較例として示す従来手法による減速運転時の過渡応答波形の例を示す波形図である。
【
図10】
図10は、この実施形態の手法による減速運転時の過渡応答波形の例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いてこの開示をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、この開示を限定するものと解されるべきではない。
≪画像形成装置の構成例≫
図1は、この開示の画像形成装置の一実施形態であるデジタル複合機の外観を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す複合機の機構的構成を示す断面図である。
図3は、
図1および
図2に示す複合機の制御および搬送駆動に係る構成を示すブロック図である。
【0015】
図1乃至
図3に示すように、複合機100は、原稿を読み取る画像読取部111、ユーザーの操作を受け付ける操作部105、通信回路107(
図3参照)および画像形成を行う印刷部115を本体に備えている。操作部105は、操作者に装置の状態や設定を知らせて指示を受け付ける。通信回路107は、制御部101が外部の機器と通信できるようにする。
さらに、印刷部115の下側に給紙トレイ18A、18B、18Cおよび18Dを備えている。印刷部115の上側かつ画像読取部111の下側に排出トレイ39Aを備え、印刷部115の右端から突出する排出トレイ39Bを備える。
本体の上に、原稿を読取り部に搬送する原稿搬送ユニット103を備えている。
また、複合機100は、動作を制御する制御部101を備える(
図3参照)。
【0016】
ここで、
図2に示す複合機100の本体の内部構成について述べておく。
複合機100は電子写真プロセスによりイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)の4色のトナー画像を形成し、それらを重ね合わせて印刷シートにカラー画像を印刷する。あるいは、単色(例えばブラック)を用いたモノクロ画像を印刷シートに印刷する。このため、現像ユニット12、感光体ドラム13、帯電器14およびドラムクリーナー15等が、それぞれ4個ずつ設けられている。感光体ドラム13、帯電器14、ドラムクリーナー15は、一体で着脱可能なプロセスユニットとして構成されている。プロセスユニット30の下方には、各色に対応する感光体ドラム13にポリゴンミラー11Mで偏光されたレーザービームを走査露光させる光走査ユニット11が配置されている。
【0017】
複合機100は、色毎のプロセスユニット30y、30m、30c、30kを備えるが、
図2では、イエローのプロセスユニット30yの構成要素にだけ符号を付し、他の色については省略している。プロセスユニットについても、代表符号を用いてプロセスユニット30と表記する場合がある。代表符号を用いた説明は、Y、M、C、Kの各色に適用されると解されるべきである。
【0018】
プロセスユニット30の上方には、各色に対応するトナー収容ユニット27が配置されている。現像ユニット12やトナー収容ユニット27もプロセスユニット30と同様に色毎のユニットが存在するが、イエローのユニットのみに符号を付し他の色は省略している。
【0019】
複合機100は、光走査ユニット11へ入力信号を生成する画像処理回路41をさらに備えている(
図3を参照)。画像処理回路41は、画像読取部111が読み取った原稿の画像データを処理して感光体ドラム13の露光パターンに係る露光データを生成する。露光データは感光体ドラム13の表面に形成する静電潜像のパターンに対応する。
図3に示す制御部101の制御下で、ドラムクリーナー15によるクリーニング、帯電器14による帯電、光走査ユニット11による露光、現像ユニット12による現像の電子写真プロセスを経て感光体ドラム13にY,M,C,Kの何れかのトナー画像が形成されるように制御する。
【0020】
感光体ドラム13にY,M,C,Kに形成されたトナー画像は、中間転写ベルト21を介した1次転写ローラ16によって中間転写ベルト21に重ねて転写される。制御部101は、各色の感光体ドラム13の回転と同期させて中間転写ベルト21を回転させ、中間転写ベルト21上に転写されたトナー画像を右端の2次転写ユニット23と接する位置へ送る。制御部101は、2次転写ユニット23に張り渡された転写ベルトを中間転写ベルトに同期して回転させる。そして、給紙トレイ18A乃至18Dから給送される印刷シートに中間転写ベルト21のトナー画像を転写する。
【0021】
制御部101は、2次転写ユニット23によってトナー画像が転写された印刷シートを、定着ユニット17へ搬送する。定着ユニット17は、対向する加熱ローラR11および加圧ローラの間を通過する印刷シートを加熱および加圧して、印刷シートに転写されたトナー画像を印刷シートに定着させる。
【0022】
制御部101は、定着ユニット17を通過した印刷シートを排出トレイ39Aへ排出させる。あるいは、排出ローラR13で一端スイッチバックさせて排出ローラR14を経て右側面部にある排出トレイ39Bへ排出させる。あるいはまた、スイッチバックさせた印刷シートを両面搬送ローラR15、R16、R17が配された両面搬送路へ導き、2次転写ユニット23が配された転写部へ戻す。そして、印刷シートの裏面側にトナー画像を転写し、定着ユニット17を経て排出トレイ39Aまたは39Bへ印刷シートを排出させる。
【0023】
図3に示すように、制御部101は、ハードウェア資源としてプロセッサ121、RAM122、不揮発性メモリ123等のデバイスを含む。不揮発性メモリ123は、書き換え可能に制御プログラムやデータを格納する。プロセッサ121が不揮発性メモリ123に予め格納された制御プログラムを実行し、ハードウェア資源と協働することによって、制御部101の機能が実現される。制御部101は、後述するように複数のモータを制御するモータ制御部125を備える。モータ制御部125は、フィードバック制御部127を含んでいてもよい。ただし、その構成に限るものでなく、フィードバック制御部127は、制御部101と異なるハードウェア資源を用いて構成されてもよい。
【0024】
図3に示す印刷部115のブロックに、主として用紙搬送および原稿搬送に係る駆動源としてのモータおよび各モータが駆動する負荷(ローラ等)を示している。
図3に示す各ローラの順序は、
図2における各ローラの配置にある程度合わせている。
図2に各負荷の配置を符号で示しており、
図4および
図5に各モータの配置を示している。
図3に示すように、給紙モータ50は、給紙クラッチ52を介して給紙ローラR01、ピックアップローラR02および分離ローラR03を駆動する。なお、ピックアップローラR02は、給紙ソレノイド53がオンすると降下して給紙トレイ18Aに収容されている最も上の印刷シートに接触し、その印刷シートを給紙ローラR01と分離ローラR03の間へ送り出す。
【0025】
給紙モータ50は、また搬送クラッチ54を介して搬送ローラR04、R05、R06およびR07を駆動する。
現像モータ58は、現像ユニット12およびプロセスユニット30を駆動する。
転写搬送モータ60は、2次転写駆動ローラR09、中間転写駆動ローラR10、定着ユニット17の加熱ローラR11および搬送ローラR12を駆動する。
レジストモータ56は、レジストローラR08を駆動して印刷シートに係るレジスト動作を行う。
【0026】
また、排出反転モータ64は、排出ローラR13およびR14を逆転可能に駆動する。なお、排出ローラR13は、シフトモータ65によって印刷シートの搬送方向に直行する方向(
図2の紙面に対して手前側と奥側の方向)にシフトさせることが可能である。シフトさせることで、排出トレイ39Aに排出される印刷シートの位置を部単位あるいはジョブ単位でずらして堆積させることができる。
両面搬送モータ62は、両面搬送ローラR15、R16およびR17を駆動する。
【0027】
また、
図3に図示しない印刷部115のモータもいくつか存在する。例えば、給紙トレイ18A乃至18Dに収容された印刷シートをリフトアップさせるリフトアップモータが挙げられる。また、光走査ユニット11のポリゴンミラー11Mを回転駆動するモータや各色のトナー収容ユニット27に収容されたトナーを対応する現像ユニット12に補給するトナーモータなどがある。
【0028】
また、複合機100の画像読取部111は、
図4に示すように画像読取部111の上面に配置された透明な原稿台67に置かれた原稿を走査する原稿走査ユニット68を備える。そして、原稿走査ユニット68を駆動するスキャンモータ69を備える。
また、原稿台67の上を覆うように配置される原稿搬送ユニット103は、
図3および
図5に示すように、原稿給紙モータ71、原稿レジストモータ73および原稿搬送モータ75を備える。
【0029】
原稿給紙モータ71は、原稿給紙ローラR31、原稿ピックアップローラR32および原稿分離ローラR33を駆動する(
図2および
図3参照)。なお、原稿ピックアップローラR32は、原稿給紙ソレノイド72がオンすると降下して原稿給紙トレイ43に置かれている最も上の原稿に接触し、その原稿を原稿給紙ローラR31と原稿分離ローラR33の間へ送り出す。
原稿レジストモータ73は、原稿レジストローラR34を駆動して印刷シートに係るレジスト動作を行う。即ち、原稿給紙トレイ43から給紙され搬送された原稿の斜行を補正する。
原稿搬送モータ75は、原稿搬送ローラR35、R36および原稿排出ローラR37を駆動する。
【0030】
≪モータのフィードバック制御≫
複合機100が備える複数のモータには、求められる性能に応じた種類のものが適用される。広い範囲で異なる回転速度を切り替える用途には、フィードバック制御される直流モータが適用される。
フィードバック制御される直流モータは、この実施形態において以下に適用されるものとする。印刷部115においては、給紙モータ50、レジストモータ56、現像モータ58、転写搬送モータ60、両面搬送モータ62および排出反転モータ64に適用される。なお、シフトモータ65にはステッピングモータが適用されるものとする。
画像読取部111が備えるスキャンモータ69にはステッピングモータが適用される。
フィードバック制御される直流モータは、さらに原稿搬送ユニット103が備える原稿給紙モータ71、原稿レジストモータ73および原稿搬送モータ75に適用される。
【0031】
回転速度を大きく変えて減速させる制御に関して述べる。
排出反転モータ64は、印刷シートが排出ローラR13を通過し終える直前に搬送速度を減速する。そうして、印刷シートが排出ローラR13の位置から遠くへ飛び出さないようにゆっくりと排出トレイ39Aへ排出させる。両面印刷の場合は、第1面の印刷を終えた印刷シートが排出ローラR13を通過し終える直前に搬送速度を減速してから逆方向へ搬送して両面搬送路へ導く。また、印刷シートが排出ローラR14を通過し終える直前に搬送速度を減速する。そうして、印刷シートが排出ローラR14の位置から遠くへ飛び出さないようにゆっくりと排出トレイ39Bへ排出させる。
また、原稿搬送ユニット103が備える原稿搬送モータは、原稿が原稿排出ローラR37を通過し終える直前に搬送速度を減速する。そうして、原稿が原稿排出トレイ45の位置から遠くへ飛び出さないようにゆっくりと原稿排出トレイ45へ排出させる。
【0032】
図6は、この実施形態においてモータとフィードバック制御部の構成例を示す説明図である。
図6に示すようにフィードバック制御部127は、目標回転速度取得部129、回転速度計測部131、検出下限処理部133およびモータ駆動部135を備える。モータ駆動部135は、ドライバ回路137への駆動信号を生成して出力する。ドライバ回路137は、エンコーダ139を備えた直流モータ138を駆動する。
図3の説明で述べたように、フィードバック制御部127は、制御部101のハードウェア資源を用いて構成されてもよいし、別のハードウェア資源を用いて構成されてもよい。即ち、制御部101のプロセッサ121がフィードバック制御部127としての処理を行ってもよいが、制御部101と別の回路で構成されてもよい。
【0033】
また、
図3および
図6に示す例において、フィードバック制御部127はプロセッサを用いてその機能が実現されるものとしているが、それは一つの態様に過ぎない。フィードバック制御部127の全部もしくは一部の機能がハードウェア回路を用いて実現されてもよい。
フィードバック制御部127は、基本的に負荷を駆動する際の直流モータ138の機械時定数よりも短い時間間隔で繰り返しフィードバック制御に係る処理を実行する。
図6に示す直流モータ138は、例えば、排出反転モータ64に相当するものと理解されたい。あるいは、原稿搬送モータ75に相当するものと理解されたい。ただし、それに限定されるものでなく、この実施形態において直流モータが適用される種々のモータに相当するものと理解されない。また、
図6に示す構成は直流モータに限るものでなく、フィードバック制御が適用されるモータであればよい。
【0034】
図6に示すドライバ回路137は、フィードバック制御部127から駆動信号を受けて直流モータ138を駆動する。即ち、ドライバ回路137は、モータを駆動する駆動回路に相当するものである。
また、エンコーダ139は、モータの回転速度に応じた間隔で回転信号を出力する速度検出器に相当するものである。
図6において、目標回転速度取得部129は、上位の制御を行うモータ制御部125としてのプロセッサ121から目標の回転速度を取得する。
【0035】
回転速度計測部131は、エンコーダ139からの回転信号を取得する。そして回転信号を取得した時刻を記憶する。回転速度計測部131は、エンコーダ139から回転信号が得られた直近の時刻およびそれより1つ前の回転信号が得られた時刻を少なくとも記憶している。
回転速度計測部131は、直近の回転信号が得られた時刻とそれより1つ前の回転信号が得られた時刻の時間間隔に基づいて、現在の直流モータ138の回転速度を導き出す処理を行う。
【0036】
ただし、上述したようにフィードバック制御部127は、フィードバック制御に係る処理を繰り返し実行するところ、直流モータ138の回転速度が低いとエンコーダ139から出力される信号の時間間隔が広すぎて、前回処理の時点から今回処理の時点までの間に回転信号が一つも得られないことが起こりえる。あるいは、今回処理の時点から負荷駆動状態のモータの機械時定数のような、フィードバック制御系の応答時間だけ遡った期間に回転信号が一つも得られないことが起こりえる。直近の回転信号が得られない状態ともいえる。そのような状態が生じると、回転速度計測部131は、直近の回転信号に基づく直流モータ138の現在の回転速度を導き出すことができない。
その場合、検出下限処理部133は、回転速度計測部131が導き出すべき現在の回転速度に代えて、所定の回転速度を出力する。
モータ駆動部135は、目標回転速度取得部129から出力される目標速度と、回転速度計測部131から検出下限処理部133を介して出力される直流モータ138の現在の回転速度との偏差を求め、偏差に応じた駆動信号をドライバ回路137へ出力する。
【0037】
≪フローチャート≫
上述したフィードバック制御に係る処理をプロセッサが実行する場合の処理の手順についてフローチャートを参照しながら説明する。
図7は、この実施形態において、フィードバック制御部127としての処理をプロセッサが実行する場合の例を示すフローチャートである。プロセッサは、制御部101のプロセッサであってもよいし、それと異なり、例えばフィードバック制御部127に専用のプロセッサであってもよい。
【0038】
図7に示すように、プロセッサは、上位のモータ制御部125からその時点における目標の回転速度を取得する(ステップS11)。上位のモータ制御部125は、印刷を行うジョブ等の進行に応じてそれぞれの時点における目標の回転速度を提供する。
目標の回転速度を取得すると、プロセッサは、エンコーダ139から回転信号が取得されているかを確認する(ステップS13)。ここで、現時点から遡った所定の期間に直近の回転信号が取得されたか否かを判定する(ステップS15)。所定の期間の一例は、フィードバック制御部が駆動信号を前回更新した時点から現時点までの期間である。あるいは、他の一例として、モータの応答時間に相当する期間、即ち負荷駆動状態におけるモータの機械時定数に相当する期間であってもよい。
【0039】
プロセッサは、所定の期間に直近の回転信号が取得されていると判定したら(ステップS15のYes)、その直近の回転信号が得られた時刻とそれよりも1つ前の回転信号が得られた時刻との時間間隔に基づいて現在のモータの回転速度を算出する(ステップS17)。回転速度は、エンコーダ139の分解能(1つの回転信号が出力されてから次の回転信号が出力されるまでのモータ軸の回転角度、ある回転速度に対する回転信号の時間間隔ともいえる)を考慮して算出される。そして、処理を後述するステップS21へ進める。
一方、所定の期間に直近の回転信号が取得されていないと判定した場合(ステップS15のNo)、プロセッサはモータの現在の回転速度が算出できないと判定し、それに代えて予め定められた回転速度を出力する(ステップS19)。そして、処理を後述するステップS21へ進める。
【0040】
所定の期間に直近の回転信号が取得されていない場合の弊害についてさらに述べる。所定の期間よりもさらに遡った時点で得られた回転信号を直近の回転信号とした場合、それは結局前回の更新時の現在の回転速度と同じ値となる。目標速度が前回と同じであれば前回更新した駆動信号と同じ駆動信号を結果的に出力することになり、目標速度が前回と同じでなかったとしても、回転信号は前回と同じであるから現在のモータの回転速度を反映したフィードバック制御にならない。
その場合に顕在化する問題は、課題として既に述べたとおりである。即ち、目標速度を変更して減速した場合のアンダーシュートにおいて、エンコーダ139からの回転信号の時間間隔がモータの応答時間よりも長くなると、フィードバック系の安定した制御が実現できなくなる。
【0041】
この実施形態において、プロセッサは予め定められた回転速度を出力することにより安定したモータの追従が得られるようにする。予め定められた回転速度は、目標の回転速度より低い回転速度である。その回転速度は、好ましくは、エンコーダ139からの回転信号の時間間隔が、前回のフィードバック制御の処理から今回のフィードバック制御の処理までの期間に収まる回転速度よりもさらに低い回転速度である。
具体的な効果は後述することとして、ここではプロセッサの処理について説明を続ける。
ステップS21において、プロセッサは目標速度と現在のモータの回転速度との差分をとって現在の速度の偏差を求める。求めた偏差に応じて、ドライバ回路137に提供する駆動信号を求めてドライバ回路137に出力する(ステップS23)。即ち、フィードバック制御の制御器としての処理を行って、駆動信号を更新する。偏差に応じた駆動信号は、例えば、公知のフィードバック制御理論の手法を適用して制御系に好適なゲイン特性およびフィルタ特性を決定すればよい。ただし、それに限定されるものでなく、古典的なフィードバック制御理論以外の手法を用いてもよい。
【0042】
駆動信号を更新したら、プロセッサはモータの駆動をさらに続けるか否かを判定する(ステップS25)。即ち、上位のモータ制御部125から駆動停止の指示を受けたか否かを判定する。駆動停止の指示を受けた場合は(ステップS25のNo)、直流モータ138の駆動を停止して(ステップS27)、フィードバック制御の処理を終了する。
直流モータ138の駆動を続ける場合は(ステップS25のYes)、所定の期間が経過するのを待って(ステップS29のループ)、処理を前述のステップS11へ戻す。
以上が、フィードバック制御を行うプロセッサの処理の例である。
【0043】
≪現在の回転速度の取得≫
回転速度計測部131は、エンコーダ139からの回転信号に基づいて直流モータ138の現在の回転速度を得るが、従来手法(比較例)およびこの実施形態による手法について述べる。
図8は、エンコーダ139から出力される回転信号の波形例と、その回転信号に基づいて回転速度計測部131が導く現在の回転速度との関係を示す説明図である。
図8に示すように、エンコーダ139は、直流モータ138の回転軸が所定の角度だけ回転するとローレベルからハイレベルへ、およびハイレベルからローレベルへ遷移する2値の回転信号を出力する。なお、
図8の横軸は時間を示す。
【0044】
一例で、エンコーダ139は、直流モータ138の回転軸が3.6度回転する度に回転信号をローレベルからハイレベルへ、またハイレベルからローレベルへ遷移させるものとする。言い換えると、回転軸が1回転(360度回転)する間に、回転信号はローレベルからハイレベルへの遷移を100回行う。ハイレベルからローレベルへの遷移も100回行い、100個のパルス信号を出力する。
図8に示す回転信号は、遷移の間隔が次第に広がっている。これは、直流モータ138が次第に減速している状態を示している。
図8で上下方向に延びる複数の鎖線は、1ミリ秒間隔の時刻t0乃至t10を示している。この実施形態において、フィードバック制御部127は、1ミリ秒の時間間隔でフィードバック制御に係る処理を行うものとしている。別の言い方をすると、
図7のステップS29に示す処理における「所定の期間」が、
図8に示す1ミリ秒の時間間隔に対応するものとしている。
【0045】
回転信号のパルス信号波形に示す(1)乃至(4)は、回転信号のそれぞれのローレベルからハイレベルへの遷移、即ち立ち上がりエッジの時間間隔を示している。
図8で回転信号の下方の比較例、ケース1乃至ケース3の右側に示す[1]乃至[4]は、上述の時間間隔(1)乃至(4)から回転速度計測部131が導く現在の回転速度を示している。例えば[1]は、時間間隔(1)から回転速度計測部131が導く現在の回転速度であって、上述の数値例にようにエンコーダ139が1回転で100回の立ち上がりエッジを有する回転信号を出力する場合の回転速度V[1]は、
V[1]=1/(100×時間間隔(1)) (rps)
=60/(100×時間間隔(1))(rpm)
で算出される。
[2]乃至[6]についても同様である。
また、
図8に示す[C]は、回転信号の時間間隔が広くて現在の回転速度を導くことができないと検出下限処理部133が判定した場合に、現在の回転速度に代えて検出下限処理部133が出力する所定の回転速度を示している。
【0046】
図8に示す比較例は、1ミリ秒毎の時刻t0乃至t10におけるフィードバック制御の処理において以下のように現在の回転速度を導く手法である。前回の処理から今回の処理の間に直近の回転信号の立ち上がりエッジが入力されなくても、即ち、直近の回転信号が前回の処理以前のものであっても、前回の回転信号とその前の回転信号の時間間隔に基づいて現在の回転速度を導く。
例えば、時刻t4における処理で、直近の回転信号の立ち上がりエッジは今回の時刻t4から前回の時刻t3まで遡る期間に入力されていない。直近の回転信号の立ち上がりエッジは時刻t3の前に入力されたものである。しかし、回転速度計測部131は、その直近の回転信号とその前の回転信号との時間間隔(2)に基づいて現在の回転速度[2]を導く。結果的に、時刻t2と時刻t3において導かれる現在の回転速度は、何れも[2]である。同様のことが時刻t4、t6乃至t8および時刻t10についてもいえる。
【0047】
それに対して、
図8に示す「ケース1」は、この実施形態による手法の一つ(第1実施形態)であって、直近の回転信号とその1つ前の回転信号が何れも前回の処理まで遡る期間に入力されていなければ現在の回転速度を導くことができないとするものである。
例えば、時刻t2における処理で、直近の1つ前の回転信号の立ち上がりエッジは今回の時刻t2から前回の時刻t1まで遡る期間に入力されていない。従って、回転速度計測部131は、現在の回転速度を導くことができないと判断する。その判断を受けて検出下限処理部133は予め定められた回転数[C]を出力する。同様のことが時刻t3以降の処理についてもいえる。
【0048】
ところで、エンコーダ139からの直近の回転信号とその1つ前の回転信号が何れも前回の処理まで遡る期間に入力され得るのは、エンコーダ139からの回転信号の時間間隔が、フィードバック制御の処理を繰り返す1msに等しいかそれよりも短い場合である。回転信号の時間間隔が1msを超える回転速度では、ケース1の場合に回転速度計測部131が現在の回転速度を導くことはできない。その下限の回転速度、即ち、回転信号の時間間隔が1msとなる回転速度は、この実施形態において、10ps、即ち600rpmである。
【0049】
図8に示す「ケース2」は、この実施形態による「ケース1」と異なる手法を指す(第2実施形態)。直近およびその1つ前の回転信号が、いずれも以下の条件を満たしていれば、現在の回転速度を導くことができると判定する。直近の回転信号については、前回のフィードバック制御の処理まで遡る期間に入力されていることを条件とする。また、直近の回転信号の1つ前の回転信号については、前々回のフィードバック制御の処理まで遡る期間に入力されていることを条件とする。両方の条件が満たされていれば、直近の回転信号の1つ前の回転信号との時間間隔に基づいて現在の回転速度を導く。
「ケース2」の場合、例えば、時刻t2における処理で、直近の回転信号は今回の時刻t2から前回の時刻t1に遡る間に入力されている。さらに直近の回転信号の1つ前の回転信号は前々回の時刻t0まで遡る期間内に入力されている。従って、回転速度計測部131は、現在の回転速度を時間間隔(2)に基づいて導くことができる判断する。「ケース1」が時刻t2における処理で現在の回転速度を導くことができないと判断しているのに比べて緩い基準といえる。
【0050】
「ケース3」は、さらに緩い基準の例である(第3実施形態)。「ケース3」の手法は、今回の処理に係る時刻から前回の処理に係る期間に直近の回転信号が入力されていれば、その前回の回転信号との時間間隔に基づいて現在の回転速度を導く手法である。直近の1つ前の回転信号がいつ入力されたかは問わない。
【0051】
例えば、時刻t5における処理で、直近の回転信号は今回の時刻t5から前回の時刻t4まで遡る期間に入力されている。従って、回転速度計測部131は、現在の回転速度を時間間隔(3)に基づいて導くことができると判断する。同様のことが時刻t9についてもいえる。
【0052】
回転信号に基づく現在の回転速度を導くことができるか否かの判定基準は、前述のケース1、ケース2、ケース3に限らず、種々の変形例が考えられる。
例えば、ケース2とそれよりも緩い基準のケース3の中間に位置するケースとして、直近の回転信号の1つ前の回転信号が3以上の所定回数だけ前(例えば、前々々回)まで遡る期間に入力されていればよいとする判定基準も考えられる(第4実施形態)。
また、
図8に1ミリ秒の刻みで示すフィードバック制御の処理の時間間隔でなく、負荷駆動状態の直流モータ138の応答時間を基準とする変形例も考えられる(第5実施形態)。フィードバック制御の処理を繰り返す時間間隔は、安定したフィードバック制御を実現するために、通常は前述した系の応答時間よりも短い間隔に設定される。
図8に示す例において、フィードバック制御処理の時間間隔は1ミリ秒であるが、直流モータ138の応答時間を表す機械時定数の一例は、3.8ミリ秒である。例えば、直近の回転信号とその1つ前の回転信号が何れもこの機械時定数で表される時間まで遡る期間に入力されている場合は現在の回転送度を導くことができるが、そうでなければ現在の回転速度を導くことができないとする手法である。
【0053】
≪検出下限処理部によるフィードバック制御への効果≫
図8に示す比較例に対してこの実施形態によるフィードバック制御の利点をフィードバック制御の応答波形の例を示しながら以下に説明する。
図9は、
図8に比較例として示す従来手法による減速運転時の過渡応答波形の例を示す波形図である。それに対して
図10は、この実施形態の手法による減速運転時の過渡応答波形の例を示す波形図である。なお、
図9および
図10におけるフィードバック制御の手法は、
図8に示す比較例およびケース1にそれぞれ対応するものであるが、
図8に示す回転信号波形は例示であって、
図9および
図10に示す波形と直接的に対応するものではない。
【0054】
図9および
図10において、目標回転速度は、いずれも当初の2446rpmの回転速度から623rpmへ階段状に変化している。
図9および
図10において、時間軸上の3.5ms乃至4.5msの期間に変化している。目標回転速度の低速度への急激な変化は、例えば、印刷シートの後端が排出ローラR13を通過し終える直前に排出反転モータ64を減速させる場合の減速制御に相当するものである。
図9において、直流モータ138の実際の回転速度は、目標回転速度が623rpmへ変化した時間軸上の3.5msの時点から6.5msの時点まで、当初の2446rpmの回転速度に略等しい一定の速度である。これは、フィードバック制御系の応答遅れといえる。その後、時間軸上の6.5msの時点から目標回転速度の623rpmへ向けて減速を始める。波形上の各点は、1msの刻みを表し、フィードバック制御の処理が繰り返し行われる時点に対応する。時間軸上の10.5msの時点の処理において、直流モータ138の実際の回転速度は877rpmまで減速している。フィードバック制御部127は、さらに1ms後の11.5msの時点において、次のフィードバック制御の処理を行う。
【0055】
時間軸上の11.5msの時点で、直流モータ138の実際の回転速度は500rpmまで落ちている。即ち、フィードバック制御の処理を繰り返す1msの時間刻みの期間に直近の回転信号とその1つ前の回転信号の2つの立ち上がりエッジが存在し得る下限の回転速度である600rpmよりも低い回転速度である。その下限の回転速度である600rpmよりも低い500rpmでは、
図8に示す比較例における時刻t3、t4や、時刻t6乃至t8あるいは時刻t10の場合と同様に、回転速度計測部131は、現在の回転速度として前のフィードバック制御処理と同じ回転速度を導き出す。その結果、前と同じ駆動信号が出力される。言い換えると、フィードバック制御を繰り返す時間間隔の間にエンコーダ139からの新たな回転信号が入力されないので、現在の回転速度が更新されずに過去の状態が維持され、駆動信号も過去の状態が維持される。
【0056】
図9において時間軸上の10.5ms以降の時間における「制御上の現在の回転速度」の波形は、回転速度が更新されずに過去の回転速度が維持される状態を示している。モータ駆動部135は、例えば時間軸上の11.5msの時点において、更新されない過去の回転速度を制御上の現在の回転速度とする。その結果、目標の回転速度よりも速い回転速度で直流モータ138が回転していると判断して、直流モータ138の回転をさらに低くするような駆動信号を出力する。
図9に示す時間軸上の11.5msの時点における「駆動信号のDUTY」は、その状態を示している。なお、駆動信号のDUTYは、ゼロが直流モータ138をまったく駆動しない無駆動の状態に対応し、100が直流モータ138をフル駆動する状態に対応する。時間軸上の11.5ms以降の時点においても、駆動信号のDUTYは略ゼロ(無駆動)の状態が続く。それは、エンコーダ139から新たな回転信号が入力されないためであって、現在の回転速度を導き出せていないからに過ぎない。
図9に「実際の現在の回転速度」で示すように、直流モータ138の実際の回転速度は、目標回転速度を下回って降下しやがて直流モータ138は停止する。
【0057】
このように、減速時のアンダーシュートの期間にエンコーダ139からの回転信号の時間間隔が広すぎて現在の回転速度が更新できない状態が続くと、直流モータ138の回転速度を目標回転速度に追従させることができない。結果的に、直流モータ138が停止してしまうという事態が生じ得る。
この実施形態による手法によれば、そのような不具合を単純な構成で回避することができる。
【0058】
図10に示す波形は、
図8の「ケース1」の手法によるフィードバック制御に対応する例を示している。直近の回転信号とその1つ前の回転信号の2つの立ち上がりエッジが1msの時間間隔に存在し得ない時間軸上の11.5ms以降の時点において、回転速度計測部131は、現在の回転速度を導くことができないと判定する。その判定を受けて検出下限処理部133は、予め定められた回転速度を、制御上の現在の回転速度として出力する。
図10に示す例で、予め定められた回転速度の値は、ゼロである。なお、
図10において検出下限処理部133が出力する回転速度の値は一例である。回転速度計測部131が現在の回転速度を導けないと判定した際に検出下限処理部133が出力する所定の回転速度は、設計者が実験に基づいて個々のフィードバック制御系に好適な値を設定すればよい。
好適な回転速度の範囲は、下限値がゼロである。上限値は、直近の回転信号とその1つ前の回転信号の2つの立ち上がりエッジがフィードバック制御の処理を繰り返す時間間隔(この実施形態では1ms)に存在し得なくなる回転速度である。
図10に示す例において、直近の回転信号とその1つ前の回転信号の2つの立ち上がりエッジがフィードバック制御の処理を繰り返す1msの時間間隔に等しくなる回転速度は、即ち毎秒1000個の回転信号が出力される回転速度に対応する。エンコーダ139は1回転で100個の回転信号を出力するので、その回転速度は10rps、つまり600rpmに相当する。従って、所定の回転速度の好ましい範囲の上限は600rpmである。
【0059】
図10に示す時間軸上の11.5msおよび12.5msの時点において、回転速度計測部131は、1ms遡る期間に直近およびその1つ前の回転信号が入力されず、従って現在の回転速度を導けないと判定する。その判定を受けて検出下限処理部133は、制御上の現在の回転速度としてゼロを出力する。モータ制御部125は、目標回転速度に対して現在の回転速度が低いと判断して直流モータ138を加速させるように駆動信号を出力する。
図10において、時間軸上の11.5msの時点で出力される駆動信号DUTYの値は34であり、時間軸上の12.5msの時点で出力される駆動信号DUTYの値は42である。
【0060】
そのようなDUTYの駆動信号が出力されることによって、直流モータ138の実際の回転速度は、時間軸上の12.5msの時点で減速から加速に転じる。そして、時間軸上の13.5msの時点で実際の回転速度は650rpmまで上昇する。その後、実際の回転数は目標回転速度の623rpmを超えてオーバーシュートした後に、目標回転速度にほぼ収束する。
図10に示すように、この実施形態によれば、減速時の一時的なアンダーシュートがあっても直流モータ138は停止することなく目標回転速度に追従して回転し、安定したフィードバック制御が実現されている。
【0061】
以上に述べたように、
(i)この開示による画像形成装置は、駆動信号を受けてモータを駆動する駆動回路と、前記モータの回転速度に応じた時間間隔で回転信号を出力する速度検出器と、前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得て前記モータが目標の速度で回転するように前記駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するフィードバック制御部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新することを特徴とする。
【0062】
この開示において、モータは、画像形成装置に用いられフィードバック制御が適用されるものである。モータの種類としては直流モータが代表的なものであるが、フィードバック制御が適用可能なものであれば、特に限定されるものでなく、例えば誘導モータやシンクロナスモータであってもよい。
また、速度検出器は、モータの回転速度に応じた時間間隔で回転していることを示す回転信号を出力するものである。その具体的な態様として、例えば、所定の角度だけ回転する毎に信号を出力するエンコーダが挙げられる。
さらにまた、フィードバック制御部は、回転信号に基づいてモータが目標の速度で回転するように駆動信号を更新し出力するものである。その具体的な態様として、例えば、フィードバック制御部がプロセッサを用いて構成される態様が挙げられる。ただし、一部または全部の機能がハードウェア(回路)によって構成されてもよい。
【0063】
フィードバック制御部は、駆動信号を逐次更新する。その時間間隔は、基本的にモータが応答可能な時間よりも短い時間間隔である。
【0064】
さらに、この開示の好ましい態様について説明する。
(ii)前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの間に前記速度検出器からの少なくとも1つの回転信号が出力された場合は、その回転信号とその直前の回転信号との時間間隔に基づいて前記モータの現在の回転速度を得てもよい。
この態様によれば、現在のモータの回転速度は、前回の更新までさかのぼる間に少なくとも1つが入力された回転信号に基づくので直近の状態を反映したものになる。
【0065】
(iii)前記フィードバック制御部は、予め設定された時間間隔で前記モータの現在の回転速度に基づいて前記駆動信号を更新する処理を実行してもよい。
この態様によれば、フィードバック制御部は、予め定められた時間間隔で駆動信号を更新するので、継続的かつ実質的に連続的にモータのフィードバック制御がなされる。
【0066】
(iv)前記時間間隔は、前記モータの応答特性に基づいて設定されたものであってもよい。
この態様によれば、モータの応答特性に応じた時間間隔で繰り返しフィードバック制御の処理を行って駆動信号を更新するので、実質的に連続的なモータのフィードバック制御がなされる。
【0067】
(v)前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、前記速度検出器からの回転信号の時間間隔が、前回の更新から今回の更新までの期間に収まる回転速度よりもさらに低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新してもよい。
この態様によれば、回転速度が低いために前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合であっても、その期間に速度検出器からの回転信号が収まる回転速度よりもさらに回転速度に対応する回転信号が出力されたと見做して制御することによってモータを停止させることなく安定したフィードバック制御が実現可能である。
【0068】
(vi)前記フィードバック制御部は、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、前記モータが停止していると見做して前記駆動信号を更新してもよい。
この態様によれば、回転速度が低いために前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合であっても、その期間に前記モータが停止していると見做して制御することによってモータを停止させることなく安定したフィードバック制御が実現可能である。
【0069】
(vii)前記モータは、画像形成装置における用紙または原稿の搬送に係るモータであってもよい。
この態様によれば、用紙または原稿の搬送速度を一時的に減速した場合にもモータを停止させることなく安定したフィードバック制御が実現可能である。
【0070】
(viii)この開示の一態様は、画像形成装置に用いられるモータを制御する制御部が、速度検出器を用いて前記モータの回転速度に応じた時間間隔の回転信号を取得するステップと、前記速度検出器から出力される回転信号から前記モータの現在の回転速度を得るステップと、前記モータが目標の速度で回転するように駆動回路への駆動信号を逐次更新して出力するステップと、前記駆動信号の前回の更新から今回の更新までの期間に前記速度検出器からの回転信号が出力されない場合、目標の回転速度より低い回転速度を前記速度検出器が出力したものと見做して前記駆動信号を更新するステップと、
を実行するモータの制御方法を含む。
【0071】
この開示の態様には、上述した複数の態様のうちの何れかを組み合わせたものも含まれる。
前述した実施の形態の他にも、この開示について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、この開示の範囲に属さないと解されるべきものではない。この開示には、請求の範囲と均等の意味および前記範囲内でのすべての変形とが含まれるべきである。
【符号の説明】
【0072】
11:光走査ユニット、 11M:ポリゴンミラー、 12:現像ユニット、 13:感光体ドラム、 14:帯電器、 15:ドラムクリーナー、 16:1次転写ローラ、 17:定着ユニット、 18A,18B,18C,18D:給紙トレイ、 21:中間転写ベルト、 23:2次転写ユニット、 27:トナー収容ユニット、 30,30y,30m,30c,30k:プロセスユニット、 39A,39B:排出トレイ、 41:画像処理回路、 43:原稿給紙トレイ、 45:原稿排出トレイ、 50:給紙モータ、 52:給紙クラッチ、 53:給紙ソレノイド、 54:搬送クラッチ、 56:レジストモータ、 58:現像モータ、 60:転写搬送モータ、 62:両面搬送モータ、 64:排出反転モータ、 65:シフトモータ、 67:原稿台、 68:原稿走査ユニット、 69:スキャンモータ、 71:原稿給紙モータ、 72:原稿給紙ソレノイド、 73:原稿レジストモータ、 75:原稿搬送モータ
100:複合機、 101:制御部、 103:原稿搬送ユニット、 105:操作部、 107:通信回路、 111:画像読取部、 115:印刷部、 121:プロセッサ、 122:RAM、 123:不揮発性メモリ、 125:モータ制御部、 127:フィードバック制御部、 129:目標回転速度取得部、 131:回転速度計測部、 133:検出下限処理部、 135:モータ駆動部、 137:ドライバ回路、 138:直流モータ、 139:エンコーダ
R01:給紙ローラ、 R02:ピックアップローラ、 R03:分離ローラ、 R04,R05,R06,R07,R12:搬送ローラ、 R08:レジストローラ、 R09:2次転写駆動ローラ、 R10:中間転写駆動ローラ、 R11:加熱ローラ、 R13,R14:排出ローラ、 R15,R16,R17:両面搬送ローラ、 R31:原稿給紙ローラ、 R32:原稿ピックアップローラ、 R33:原稿分離ローラ、 R34:原稿レジストローラ、 R35,R36:原稿搬送ローラ、 R37:原稿排出ローラ