(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169661
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】液晶光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080911
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井桁 幸一
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 安
(72)【発明者】
【氏名】岡 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩之
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA00
2H149AB01
2H149AB18
2H149BA05
2H149FA01Z
2H149FA21W
2H149FA26Z
2H149FA27W
2H149FA28Z
2H149FA40W
2H149FA42Z
2H149FD03
(57)【要約】
【課題】反射帯域を拡大することが可能な液晶光学素子を提供する。
【解決手段】本実施形態の液晶光学素子は、第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、を有する透明基板と、前記第2主面に配置された配向膜と、前記配向膜に重なり、コレステリック液晶及び液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、前記添加剤の屈折率異方性は、前記液晶層の屈折率異方性よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、を有する透明基板と、
前記第2主面に配置された配向膜と、
前記配向膜に重なり、コレステリック液晶及び液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、
前記添加剤の屈折率異方性は、前記液晶層の屈折率異方性よりも大きい、液晶光学素子。
【請求項2】
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、を有する透明基板と、
前記第2主面に配置された配向膜と、
前記配向膜に重なり、コレステリック液晶及び液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、
前記添加剤の屈折率異方性は、前記コレステリック液晶の屈折率異方性よりも大きい、液晶光学素子。
【請求項3】
前記添加剤は、ネマティック液晶材料またはスメクティック液晶材料によって形成されている、請求項1または2に記載の液晶光学素子。
【請求項4】
前記添加剤は、シアノビフェニル系及びその類縁体、含フッ素ビフェニル系及びその類縁体、その他のビフェニル系及びその類縁体、フェニルエステル系、シッフ塩基系の材料、シクロヘキサンフェニルトラン系、シクロヘキサンエステルフェニルトラン系、アルコキシシクロヘキサンエステルフェニルトラン系、フルオロシクロヘキサンエステルフェニルトラン系、4環エステルトラン系、フェニルトランエステル系、シアノフェニルトランエステル系、フルオロフェニルトランエステル系、または、ビフルオロフェニルトランエステル系の材料によって形成されている、請求項3に記載の液晶光学素子。
【請求項5】
前記コレステリック液晶の螺旋ピッチは、300nm以上、700nm以下である、請求項1または2に記載の液晶光学素子。
【請求項6】
前記液晶層の屈折率異方性は、0.21以上、0.24以下であり、
前記添加剤の屈折率異方性は、0.24より大きい、請求項1に記載の液晶光学素子。
【請求項7】
前記コレステリック液晶の屈折率異方性は、0.2であり、
前記添加剤の屈折率異方性は、0.2より大きい、請求項2に記載の液晶光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液晶光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶材料を用いた液晶偏光格子が提案されている。このような液晶偏光格子では、格子周期、液晶層の屈折率異方性Δn(液晶層の異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)、及び、液晶層の厚さdといったパラメータの調整が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態の目的は、反射帯域を拡大することが可能な液晶光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る液晶光学素子は、
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、を有する透明基板と、前記第2主面に配置された配向膜と、前記配向膜に重なり、コレステリック液晶及び液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、前記添加剤の屈折率異方性は、前記液晶層の屈折率異方性よりも大きい。
一実施形態に係る液晶光学素子は、
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、を有する透明基板と、前記第2主面に配置された配向膜と、前記配向膜に重なり、コレステリック液晶及び液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、前記添加剤の屈折率異方性は、前記コレステリック液晶の屈折率異方性よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の他の例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、本実施形態に係る液晶光学素子100の製造方法を説明するための図である。
【
図11B】
図11Bは、本実施形態に係る液晶光学素子100の製造方法を説明するための図である。
【
図11C】
図11Cは、本実施形態に係る液晶光学素子100の他の製造方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、添加剤4が浸透する様子を説明するための図である。
【
図13】
図13は、サンプル1乃至5についての分光透過スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、サンプル1乃至5についての選択反射帯域Δλ及び中心波長λmの関係を示す図である。
【
図15】
図15は、太陽電池装置200の外観の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、太陽電池装置200の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
なお、図面には、必要に応じて理解を容易にするために、互いに直交するX軸、Y軸、及び、Z軸を記載する。Z軸に沿った方向をZ方向または第1方向A1と称し、Y軸に沿った方向をY方向または第2方向A2と称し、X軸に沿った方向をX方向または第3方向A3と称する。X軸及びY軸によって規定される面をX-Y平面と称し、X軸及びZ軸によって規定される面をX-Z平面と称し、Y軸及びZ軸によって規定される面をY-Z平面と称する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
液晶光学素子100は、透明基板1と、配向膜2と、液晶層3と、を備えている。
【0010】
透明基板1は、例えば、透明なガラス板または透明な合成樹脂板によって構成されている。透明基板1は、例えば、可撓性を有する透明な合成樹脂板によって構成されていてもよい。透明基板1は、任意の形状を取り得る。例えば、透明基板1は、湾曲していてもよい。
【0011】
本明細書において、『光』は、可視光及び不可視光を含むものである。例えば、可視光域の下限の波長は360nm以上400nm以下であり、可視光域の上限の波長は760nm以上830nm以下である。可視光は、第1波長帯(例えば400nm~500nm)の第1成分(青成分)、第2波長帯(例えば500nm~600nm)の第2成分(緑成分)、及び、第3波長帯(例えば600nm~700nm)の第3成分(赤成分)を含んでいる。不可視光は、第1波長帯より短波長帯の紫外線、及び、第3波長帯より長波長帯の赤外線を含んでいる。
本明細書において、『透明』は、無色透明であることが好ましい。ただし、『透明』は、半透明又は有色透明であってもよい。
【0012】
透明基板1は、X-Y平面に沿った平板状に形成され、第1主面(外面)F1と、第2主面(内面)F2と、側面S1と、を有している。第1主面F1及び第2主面F2は、X-Y平面に略平行な面であり、第1方向A1において、互いに対向している。側面S1は、第1方向A1に沿って延びた面である。
図1に示す例では、側面S1は、X-Z平面と略平行な面であるが、側面S1は、Y-Z平面と略平行な面を含んでいる。
【0013】
配向膜2は、第2主面F2に配置されている。配向膜2は、X-Y平面に沿って配向規制力を有する水平配向膜である。配向膜2は、例えば、光照射により配向処理が可能な光配向膜であるが、ラビングによって配向処理される配向膜であってもよいし、微小な凹凸を有する配向膜であってもよい。配向膜2の第1方向A1に沿った厚さT2は、5nm~300nmであり、好ましくは10nm~200nmである。
【0014】
液晶層3は、第1方向A1において、配向膜2に重なっている。つまり、配向膜2は、透明基板1と液晶層3との間に位置し、また、透明基板1及び液晶層3に接している。
液晶層3は、第3主面(内面)F3と、第4主面(外面)F4と、を有している。第3主面F3及び第4主面F4は、X-Y平面に略平行な面であり、第1方向A1において、互いに対向している。第3主面F3は、配向膜2に接している。液晶層の第1方向A1に沿った厚さT3、厚さT2より大きく、例えば、1μm~10μmであり、好ましくは2μm~7μmである。
なお、第4主面F4は、透明な保護層で覆われてもよい。
【0015】
液晶層3は、拡大して模式的に示すように、第1旋回方向に旋回したコレステリック液晶311を有している。コレステリック液晶311は、第1方向A1にほぼ平行な螺旋軸AX1を有し、また、第1方向A1に沿った螺旋ピッチPを有している。螺旋ピッチPは、螺旋の1周期(液晶分子が360度回転するのに要する螺旋軸AX1に沿った層厚)を示す。
【0016】
液晶層3は、反射面321を有している。反射面321では、液晶層3への入射光のうち、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP及び液晶層3の屈折率異方性Δnに応じて決定する選択反射帯域の円偏光が反射される。例えば、第1旋回方向が右回りの場合、右回りの円偏光が反射面321で反射され、第1旋回方向が左回りの場合、左回りの円偏光が反射面321で反射される。なお、本明細書において、液晶層3における「反射」とは、液晶層3の内部における回折を伴うものである。また、本明細書において、円偏光は、厳密な円偏光であってもよいし、楕円偏光に近似した円偏光であってもよい。
【0017】
図1に示す例では、液晶層3は、第1主面F1の側から入射した光LTiの一部を透明基板1に向けて反射するように構成されている。なお、液晶層3は、第4主面F4の側から入射した光の一部を反射するように構成することもできる。また、液晶光学素子100において、
図1に示した液晶層3に、他のコレステリック液晶を有する液晶層が積層されていてもよい。他のコレステリック液晶とは、例えば、螺旋ピッチPとは異なる螺旋ピッチを有するコレステリック液晶や、第1旋回方向とは逆回りの第2旋回方向に旋回したコレステリック液晶などである。
【0018】
次に、
図1に示す液晶光学素子100の光学作用について説明する。
【0019】
液晶光学素子100に入射する光LTiは、例えば、可視光、紫外線、及び、赤外線を含んでいる。
図1に示す例では、理解を容易にするために、光LTiは、透明基板1に対して略垂直に入射するものとする。なお、透明基板1に対する光LTiの入射角度は、特に限定されない。例えば、互いに異なる複数の入射角度をもって透明基板1に光LTiが入射してもよい。
【0020】
光LTiは、第1主面F1から透明基板1の内部に進入し、第2主面F2から出射して、配向膜2を透過し、液晶層3に入射する。そして、液晶層3は、光LTiの一部を反射する。一例では、液晶層3は、赤外線の第1円偏光を透明基板1に向けて反射し、他の光LTtを透過する。
【0021】
液晶層3は、第1円偏光を、透明基板1における光導波条件を満足する進入角θで、透明基板1に向けて反射する。ここでの進入角θとは、透明基板1と空気との界面で全反射を起こす臨界角θc以上の角度に相当する。進入角θは、透明基板1に直交する垂線に対する角度を示す。
【0022】
透明基板1、配向膜2、及び、液晶層3が同等の屈折率を有している場合、これらの積層体が単体の光導波体となり得る。この場合、光LTrは、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、側面S1に向けて導光される。
【0023】
なお、ここでは赤外線Iが反射される例について説明したが、液晶層3は、可視光を反射するように構成されてもよいし、紫外線を反射するように構成されてもよいし、複数の波長帯の光を反射するように構成されてもよい。
【0024】
図2は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の一例を説明するための図である。
なお、
図2では、液晶層3を第1方向A1に拡大して図示している。また、簡略化のため、コレステリック液晶311を構成する液晶分子LM1として、X-Y平面に平行な同一平面に位置する複数の液晶分子のうちの1つの液晶分子LM1を図示している。図示した液晶分子LM1の配向方向は、同一平面に位置する複数の液晶分子の平均的な配向方向に相当する。
【0025】
液晶層3は、コレステリック液晶311と、液晶性を示す添加剤(ゲスト液晶)4と、を有している。
【0026】
1つのコレステリック液晶311に着目すると、コレステリック液晶311は、旋回しながら第1方向A1に沿って螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子LM1によって構成されている。複数の液晶分子LM1は、コレステリック液晶311の一端側の液晶分子LM11と、コレステリック液晶311の他端側の液晶分子LM12と、を有している。液晶分子LM11は、第3主面F3あるいは配向膜2に近接している。液晶分子LM12は、第4主面F4に近接している。
【0027】
図2に示す例の液晶層3において、第2方向A2に沿って隣接する複数のコレステリック液晶311は、互いに配向方向が揃っている。つまり、第2方向A2に沿って隣接する複数の液晶分子LM11の配向方向は、ほぼ一致している。また、第2方向A2に沿って隣接する複数の液晶分子LM12の配向方向も、ほぼ一致している。
【0028】
液晶層3の反射面321は、X-Y平面に沿って延びた平面状に形成される。ここでの反射面321は、液晶分子LM1の配向方向が揃った面、あるいは、空間位相が揃った面(等位相面)に相当する。
【0029】
このような液晶層3は、液晶分子LM1の配向方向が固定された状態で硬化している。つまり、液晶分子LM1の配向方向は、電界に応じて制御されるものではない。このため、液晶光学素子100は、液晶層3に電界を形成するための電極を備えていない。
【0030】
添加剤4は、液晶層3においてほぼ均一に浸透している。添加剤4は、コレステリック液晶311と同様に配向している。このような添加剤4は、屈折率異方性Δn4を有している。屈折率異方性Δn4は、コレステリック液晶311の屈折率異方性Δn3よりも大きい。このため、液晶層3の屈折率異方性Δnは、添加剤4が液晶層3に添加された分に応じて増大する。屈折率異方性Δnは、屈折率異方性Δn4を超えることはない。つまり、屈折率異方性Δn4は、屈折率異方性Δnよりも大きい。
【0031】
一般的に、コレステリック液晶311を有する液晶層3において、垂直入射した光に対する選択反射帯域Δλは、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP、液晶層3の屈折率異方性Δn(異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)に基づいて、次の式(1)で示される。
Δλ=Δn*P …(1)
選択反射帯域Δλの具体的な波長範囲は、(no*P~ne*P)の範囲であり、一例では、800nm~1000nmの近赤外の範囲である。
【0032】
選択反射帯域Δλの中心波長λmは、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP、液晶層3の平均屈折率nav(=(ne+no)/2)に基づいて、次の式(2)で示される。
λm=nav*P …(2)
【0033】
上記の式(1)に基づくと、選択反射帯域Δλを拡大する要望に対しては、屈折率異方性Δnを増大する、もしくは、螺旋ピッチPを増大する必要がある。しかしながら、上記の式(2)で示すように、螺旋ピッチPは、中心波長λmにも影響を与える。このため、中心波長λmの長波長側へのシフトを抑制しつつ選択反射帯域Δλを拡大するためには、屈折率異方性Δnを増大することが有効である。
【0034】
本実施形態によれば、液晶層3は、コレステリック液晶311に加えて、添加剤4を有している。添加剤4の屈折率異方性Δn4は、コレステリック液晶311の屈折率異方性Δn3より大きい。このため、液晶層3が添加剤4を有していない場合と比較して、液晶層3の屈折率異方性Δnを増大することができる。これにより、液晶層3における選択反射帯域Δλを拡大することができる。
【0035】
また、コレステリック液晶311を形成するための材料として、所望の屈折率異方性Δnを得るための材料を選定することが難しい場合であっても、添加剤4の添加量を調整することで容易に所望の屈折率異方性Δnを実現することができる。
【0036】
図3は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の他の例を説明するための図である。
図3に示す例は、
図2に示した例と比較して、第2方向A2に沿って隣接する複数のコレステリック液晶311の配向方向が互いに異なっている点で相違している。また、第2方向A2に沿って隣接するコレステリック液晶311の各々の空間位相は、互いに異なっている。そして、複数の液晶分子LM11の配向方向は、第2方向A2に沿って連続的に変化している。また、複数の液晶分子LM12の配向方向も、第2方向A2に沿って連続的に変化している。これらの配向方向については、後述する。
【0037】
液晶層3の反射面321は、X-Y平面に対して傾斜している。反射面321とX-Y平面とのなす角度φは、鋭角である。
なお、反射面321の形状は、
図2及び
図3に示したような平面形状に限らず、凹状や凸状の曲面形状であってもよく、特に限定されるものではない。また、反射面321の一部に凸凹を有していたり、反射面321の傾斜角度φが均一でなかったり、複数の反射面321が、規則的に整列していなかったりしてもよい。複数のコレステリック液晶311の空間位相分布に応じて、任意の形状の反射面321を構成することができる。
【0038】
図4は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
図4には、コレステリック液晶311の空間位相の一例が示されている。ここに示す空間位相は、コレステリック液晶311に含まれる液晶分子LM1のうち、第3主面F3の近傍に位置する液晶分子LM11の配向方向として示している。
【0039】
第2方向A2に沿って並んだコレステリック液晶311の各々について、液晶分子LM11の配向方向は互いに異なる。つまり、コレステリック液晶311の空間位相は、第2方向A2に沿って異なる。
一方、第3方向A3に沿って並んだコレステリック液晶311の各々について、液晶分子LM11の配向方向は略一致する。つまり、コレステリック液晶311の空間位相は、第3方向A3において略一致する。
【0040】
特に、第2方向A2に並んだコレステリック液晶311に着目すると、各液晶分子LM11の配向方向は、一定角度ずつ異なっている。つまり、第2方向A2に沿って並んだ複数の液晶分子LM11の配向方向は、線形に変化している。したがって、第2方向A2に沿って並んだ複数のコレステリック液晶311の空間位相は、第2方向A2に沿って線形に変化している。その結果、
図3に示した液晶層3のように、X-Y平面に対して傾斜する反射面321が形成される。ここでの「線形に変化」は、例えば、液晶分子LM11の配向方向の変化量が1次関数で表されることを示す。なお、ここでの液晶分子LM11の配向方向とは、X-Y平面における液晶分子LM11の長軸方向に相当する。このような液晶分子LM11の配向方向は、配向膜2になされた配向処理によって制御される。
【0041】
ここで、
図4に示すように、一平面内において、第2方向A2に沿って液晶分子LM11の配向方向が180度だけ変化するときの2つの液晶分子LM11の間隔を周期Tと定義する。なお、
図4においてDPは液晶分子LM11の旋回方向を示している。
図3に示した反射面321の傾斜角度φは、周期T及び螺旋ピッチPによって適宜設定される。
【0042】
ここで、上記の添加剤4として適用可能な材料例について
図5乃至
図10を参照して説明する。
【0043】
図5に示す材料例(1)~(8)、及び、
図6に示す材料例(9)~(14)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、シアノビフェニル系及びその類縁体、含フッ素ビフェニル系及びその類縁体、その他のビフェニル系及びその類縁体、フェニルエステル系、シッフ塩基系の材料である。
【0044】
図7乃至
図9に示す材料例(15)~(44)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、トラン系の材料である。
材料例(15)及び(16)は、シクロヘキサンフェニルトラン系の材料である。
材料例(17)~(20)は、シクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(21)及び(22)は、アルコキシシクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(23)~(26)は、フルオロシクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(27)及び(28)は、4環エステルトラン系の材料である。
材料例(29)~(32)は、フェニルトランエステル系の材料である。
材料例(33)~(36)は、シアノフェニルトランエステル系の材料である。
材料例(37)~(40)は、フルオロフェニルトランエステル系の材料である。
材料例(44)~(44)は、ビフルオロフェニルトランエステル系の材料である。
【0045】
図10に示す材料例(45)~(54)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、シアノビフェニル系及びその類縁体の材料である。
【0046】
次に、液晶光学素子100の製造方法について説明する。
まず、
図11Aに示すように、透明基板1を洗浄する(ステップST1)。
そして、透明基板1の第2主面F2に配向膜2を形成する(ステップST2)。配向膜2には、所定の配向処理を行う。
【0047】
そして、配向膜2の上に液晶材料(コレステリック液晶を形成するためのモノマー材料を含む溶液)を塗布する(ステップST3)。その後、チャンバ内を減圧することで溶媒を乾燥し(ステップST4)、さらに、液晶材料をベークする(ステップST5)。ベークにより液晶材料に含まれる液晶分子は、配向膜2の配向処理方向に応じて所定の方向に配向する。そして、液晶材料を室温程度まで冷却し(ステップST6)、その後、液晶材料に紫外線を照射して液晶材料を硬化する(ステップST7)。これにより、コレステリック液晶311を有する液晶層3が形成される。
【0048】
続いて、
図11Bに示すように、溶媒に上記の添加剤4を溶かした液晶溶液を用意する。溶媒は、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ヘプタン、トルエン、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などの有機溶媒が適用可能である。そして、液晶層3に液晶溶液を塗布する(ステップST8)。ここでの塗布とは、液晶層3を液晶溶液に浸漬したり、液晶層3に液晶溶液を滴下したりすることを含むものである。これにより、液晶溶液に含まれる添加剤4が溶媒とともに液晶層3に均一に浸透する。塗布した液晶溶液のうち、過剰な液晶溶液は、スピンナーなどを利用して除去される。必要に応じて、液晶溶液を除去するための有機溶媒を用いてもよい。
その後、透明基板1を加熱することで液晶層3に浸透した溶媒を除去する(ステップST9)。そして、透明基板1を室温程度まで冷却する(ステップST10)。
なお、液晶層3への添加剤4の添加量は、上記のステップST8乃至ST10を行う回数で調整することができる。つまり、添加量を増大したい場合には、上記のステップST8乃至ST10を複数回繰り返し行えばよい。これにより、所望の反射性能を有する液晶光学素子100が製造される。
【0049】
図11Bに示した工程の代わりに、
図11Cに示す工程を適用してもよい。以下、
図11Cに示す工程について説明する。
まず、添加剤4を用意する。そして、液晶層3に添加剤4を塗布する(ステップST11)。ここでの塗布とは、液晶層3を添加剤4に浸漬したり、液晶層3に添加剤4を滴下したりすることを含むものである。
その後、塗布した添加剤4がNI点(Nematic-Isotropic転移温度)を超えて液体状態になるように、透明基板1を加熱する(ステップST12)。
これにより、添加剤4が液晶層3に均一に浸透する。
その後、スピンナーなどを利用して過剰な添加剤4を除去する(ステップST13)。なお、必要に応じて、過剰な添加剤4を除去するための有機溶媒を用いてもよい。
そして、透明基板1を加熱することで液晶層3を乾燥させる(ステップST14)。
そして、透明基板1を室温程度まで冷却する(ステップST15)。
なお、液晶層3への添加剤4の添加量は、上記のステップST11乃至ST15を行う回数で調整することができる。つまり、添加量を増大したい場合には、上記のステップST11乃至ST15を複数回繰り返し行えばよい。これにより、所望の反射性能を有する液晶光学素子100が製造される。
【0050】
図12は、添加剤4が浸透する様子を説明するための図である。
図12の左側は液晶溶液を塗布する前の液晶光学素子100を示し、
図12の右側は液晶溶液を塗布した後の液晶光学素子100を示している。なお、
図12は、添加剤4が添加された様子を模式的に示すものである。
【0051】
液晶溶液を塗布する前の液晶層3においては、コレステリック液晶311は螺旋ピッチP0を有している。
液晶溶液を塗布した後の液晶層3は、添加剤4を含む液晶溶液が浸透したことによって膨潤する。このため、コレステリック液晶311の螺旋ピッチPは、螺旋ピッチP0より拡大する。
【0052】
《実施例1》
まず、コレステリック液晶311を形成するための材料として、屈折率異方性Δn3が0.2である液晶材料を適用し、上記のステップST1乃至ST7を経て液晶層3を形成した。
【0053】
続いて、溶媒としてのシクロヘキサノンに、添加剤4として、4-Cyano-4’’-pentyl-p-terphenyl(別名:5CT)を溶解させて濃度10wt%の液晶溶液を作製した。そして、上記のステップST8乃至ST10を経て液晶層3に添加剤4を添加した。
【0054】
そして、5つのサンプルを用意した。
サンプル1は、添加剤4を含まないものである。
サンプル2は、上記のステップST8乃至ST10を1回行って添加剤4を添加したものである。
サンプル3は、上記のステップST8乃至ST10を2回行って添加剤4を添加したものである。
サンプル4は、上記のステップST8乃至ST10を3回行って添加剤4を添加したものである。
サンプル5は、上記のステップST8乃至ST10を4回行って添加剤4を添加したものである。
これらの5つのサンプルについて、分光透過スペクトルを測定した。
【0055】
図13は、サンプル1乃至5についての分光透過スペクトルの測定結果を示す図である。
図の横軸は波長(nm)を示し、図の縦軸は透過率(%)を示している。
【0056】
図中のSP1はサンプル1の測定結果を示し、図中のSP2はサンプル2の測定結果を示し、図中のSP3はサンプル3の測定結果を示し、図中のSP4はサンプル4の測定結果を示し、図中のSP5はサンプル5の測定結果を示している。
これらの測定結果から、サンプル1乃至5のそれぞれの選択反射帯域Δλ及び選択反射帯域Δλの中心波長λmを求めた。
【0057】
図14は、サンプル1乃至5についての選択反射帯域Δλ及び中心波長λmの関係を示す図である。
図の横軸は中心波長λm(nm)を示し、図の縦軸は選択反射帯域Δλ(nm)を示している。
【0058】
これらの測定結果によると、添加剤4の添加量が多いほど、選択反射帯域Δλが拡大し、しかも、選択反射帯域Δλの中心波長λmも長波長化する傾向が確認された。
【0059】
図中のSP6及びSP7は、比較例であるサンプル6及びサンプル7の測定結果を示すものである。サンプル6は、サンプル1と同様に添加剤4を含まず、サンプル1の螺旋ピッチよりも大きな螺旋ピッチのコレステリック液晶を有するものである。サンプル7は、サンプル1と同様に添加剤4を含まず、サンプル6の螺旋ピッチよりもさらに大きな螺旋ピッチのコレステリック液晶を有するものである。
【0060】
サンプル2乃至5によれば、同一の中心波長λmを得るために螺旋ピッチを拡大した比較例よりも、選択反射帯域Δλを拡大できることが確認された。
また、サンプル2乃至5によれば、同一の選択反射帯域Δλを得るために螺旋ピッチを拡大した比較例よりも、中心波長λmの長波長側へのシフトが軽減できることも確認された。
【0061】
サンプル2について、電子顕微鏡で撮影した断面写真に基づいて、螺旋ピッチPを求めたところ、348nmであった。また、上記の分光透過スペクトルの測定結果に基づいて、選択反射帯域Δλを求めたところ、74nmであった。したがって、上記の式(1)に基づき、液晶層3の屈折率異方性Δnは、0.213であると算出された。この屈折率異方性Δnは、実施例1で適用した液晶材料の屈折率異方性Δn3(=0.2)よりも大きいことがわかる。
【0062】
同様に、サンプル3について、螺旋ピッチPを求めたところ、378nmであった。また、選択反射帯域Δλを求めたところ、83nmであった。したがって、上記の式(1)に基づき、液晶層3の屈折率異方性Δnは、0.220であると算出された。
【0063】
同様に、サンプル5について、螺旋ピッチPを求めたところ、388nmであった。また、選択反射帯域Δλを求めたところ、92nmであった。したがって、上記の式(1)に基づき、液晶層3の屈折率異方性Δnは、0.237であると算出された。
【0064】
このように、一例として、コレステリック液晶311の螺旋ピッチPは、300nm以上、700nm以下の範囲に設定される。このとき、液晶層3の屈折率異方性Δnは、0.21以上、0.24以下であり、添加剤4としては、屈折率異方性Δn4が0.24より大きい材料を適用している。
また、他の観点では、コレステリック液晶311の屈折率異方性Δn3は、0.2であり、添加剤4としては、屈折率異方性Δn4が0.2より大きい材料を適用している。
【0065】
《実施例2》
まず、コレステリック液晶311を形成するための材料として、屈折率異方性Δn3が0.2である液晶材料を適用し、上記のステップST1乃至ST7を経て液晶層3を形成した。
【0066】
続いて、溶媒としてのシクロヘキサノンに、添加剤4として、4’-pentyl cyclohexane estel phenyl tolans(別名:ET50)を溶解させて濃度10wt%の液晶溶液を作製した。そして、上記のステップST8乃至ST10を経て液晶層3に添加剤4を添加した。
【0067】
このような実施例2においても、実施例1と同様の効果が得られた。
【0068】
《実施例3》
まず、コレステリック液晶311を形成するための材料として、屈折率異方性Δn3が0.2である液晶材料を適用し、上記のステップST1乃至ST7を経て液晶層3を形成した。
【0069】
続いて、溶媒としてのシクロヘキサノンに、添加剤4として、4-methoxy-4’-propyl cyclohexane estel phenyl tolans(別名:ET301)を溶解させて濃度10wt%の液晶溶液を作製した。そして、上記のステップST8乃至ST10を経て液晶層3に添加剤4を添加した。
【0070】
このような実施例3においても、実施例1と同様の効果が得られた。
【0071】
《適用例》
次に、本実施形態に係る液晶光学素子100の適用例として、太陽電池装置200について説明する。
【0072】
図15は、太陽電池装置200の外観の一例を示す図である。
太陽電池装置200は、上記した液晶光学素子100と、発電装置210と、を備えている。発電装置210は、液晶光学素子100の一辺に沿って設けられている。発電装置210と対向する液晶光学素子100の一辺は、
図1に示した透明基板1の側面S1に沿った辺である。このような太陽電池装置200において、液晶光学素子100は、発電装置210に所定波長の光を導く導光素子として機能する。
【0073】
発電装置210は、複数の太陽電池を備えている。太陽電池は、光を受光して、受光した光のエネルギーを電力に変換するものである。つまり、太陽電池は、受光した光によって発電する。太陽電池の種類は、特に限定されない。例えば、太陽電池は、シリコン系太陽電池、化合物系太陽電池、有機物系太陽電池、ペロブスカイト型太陽電池、又は、量子ドット型太陽電池である。シリコン系太陽電池としては、アモルファスシリコンを備えた太陽電池や、多結晶シリコンを備えた太陽電池などが含まれる。
【0074】
図16は、太陽電池装置200の動作を説明するための図である。
透明基板1の第1主面F1は、屋外に面している。液晶層3は、屋内に面している。
図16において、配向膜の図示を省略している。
【0075】
液晶層3は、例えば、
図1に示したように赤外線Iの第1円偏光を反射するように構成されている。なお、液晶層3は、赤外線Iの第1円偏光及び第2円偏光をそれぞれ反射するように構成されてもよい。
【0076】
液晶層3で反射された赤外線Iは、側面S1に向かって液晶光学素子100を伝播する。発電装置210は、側面S1を透過した赤外線Iを受光して発電する。
【0077】
太陽光のうちの可視光V及び紫外線Uは、液晶光学素子100を透過する。特に、可視光Vの主要な成分である第1成分(青成分)、第2成分(緑成分)、及び、第3成分(赤成分)の各々は、液晶光学素子100を透過する。このため、太陽電池装置200を透過した光の着色を抑制することができる。また、太陽電池装置200における可視光Vの透過率の低下を抑制することができる。
また、上記の液晶光学素子100を適用することにより、発電に利用できる帯域を拡大することができ、発電効率(変換効率)を向上することができる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によれば、反射帯域を拡大することが可能な液晶光学素子を提供することができる。
【0079】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
100…液晶光学素子
1…透明基板 F1…第1主面 F2…第2主面 S1…側面
2…配向膜 3…液晶層 311…コレステリック液晶 321…反射面