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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169675
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20231122BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20231122BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080941
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】515185924
【氏名又は名称】株式会社プロギア
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】三枝 宏
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH01
(57)【要約】
【課題】反発性能を確保しつつ耐久性の向上を図る上で有利なゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】カバーフェース32の周縁部とフェース部14の周縁部とを固定した固定部34を設けると共に、周縁部を除くカバーフェース32とフェース部14の箇所にそれらカバーフェース32とフェース部14とが固定されていない非固定部36を設けた。そして、非固定部36におけるカバーフェース32の単位あたりの曲げ剛性EIの平均を10N・mm以上26000N・mm以下とした。打球時、カバーフェース32が変形したのち、変形したカバーフェース32の内面3204がフェース面14Aに接触することからカバーフェース32とフェース部14との双方が変形しカバーフェース32およびフェース部14が時間経過に伴い2段階にわたって変形する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部のフェース面を覆うカバーフェースを備えた積層構造のゴルフクラブヘッドであって、
前記カバーフェースの周縁部と前記フェース部の周縁部とを固定した固定部を設けると共に、前記周縁部を除く前記カバーフェースと前記フェース部の箇所にそれら前記カバーフェースと前記フェース部とが固定されていない非固定部を設け、
前記非固定部における前記カバーフェースの単位あたりの曲げ剛性EIの平均が10N・mm以上26000N・mm以下であり、
前記単位当たりの曲げ剛性EIは以下の式(1)で定義される、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッド。
EI=E・h・b/12 (1)
ただし、E:縦ヤング係数(N/mm)、h:前記カバーフェースの厚さ(mm)とし、前記カバーフェースの幅bを1.0(mm)とする。
【請求項2】
前記非固定部の面積が300mm2以上、2150mm2以下である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記フェース面の面積に占める前記非固定部の面積が8%以上55%以下である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記固定部は、面状の接着、面状の粘着、面状のロウ付け、面状の熱溶着の何れかにより接合されている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記接着、粘着またはロウ付け層の厚みが0.01mm以上0.3mm以下である、
ことを特徴とする請求項4記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記非固定部は、前記カバーフェースと前記フェース面との間の隙間を含んで構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記隙間に位置する前記フェース面の箇所または前記カバーフェースの箇所に、デュロメータ硬度A90以下の低剛性材料が設けられている、
ことを特徴とする請求項6記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記ゴルフクラブヘッドを水平面に対して予め定められたライ角およびロフト角通りに設置した基準状態において、フェース面の中心点を通る法線を含みかつ前記水平面と直交する平面で前記ヘッド本体を破断した断面をフェース中心基準断面としたとき、
前記フェース中心基準断面と平行し前記フェース中心基準断面からトウ方向に21.3mm離間した第1平面と、前記フェース中心基準断面と平行し前記フェース中心基準断面からヒール方向に21.3mm離間した第2平面とで区画される前記フェース面の範囲内に、前記非固定部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド
【請求項9】
前記カバーフェースは、デュロメータ硬度A98以上の合成樹脂材料または繊維強化樹脂材料で構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド
【請求項10】
反発係数が0.822以上である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
打球時にフェース部に発生する衝撃を緩和して耐久性(強度)を確保するために、フェース部を2枚の板材を積層させて構成すると共に、それらの板材の間の隙間に気体や液体、粉体、膜体を充填させた積層構造のゴルフクラブヘッドが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-239076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、フェース部の曲げ剛性はゴルフクラブヘッドの反発性能に大きな影響を与えるが、上記従来技術ではフェース部の曲げ剛性については特に考慮されていない。
本発明は、上記曲げ剛性がゴルフクラブヘッドの反発性能に影響を与える点に着目してなされたものであり、その目的は、反発性能を確保しつつ耐久性の向上を図る上で有利なゴルフクラブヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一実施の形態は、フェース部のフェース面を覆うカバーフェースを備えた積層構造のゴルフクラブヘッドであって、前記カバーフェースの周縁部と前記フェース部の周縁部とを固定した固定部を設けると共に、前記周縁部を除く前記カバーフェースと前記フェース部の箇所にそれら前記カバーフェースと前記フェース部とが固定されていない非固定部を設け、前記非固定部における前記カバーフェースの単位あたりの曲げ剛性EIの平均が10N・mm以上26000N・mm以下であり、前記単位当たりの曲げ剛性EIは以下の式(1)で定義されることを特徴とする。
EI=E・h・b/12 (1)
ただし、E:縦ヤング係数(N/mm)、h:前記カバーフェースの厚さ(mm)とし、前記カバーフェースの幅bを1.0(mm)とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、フェース面を覆うカバーフェースを設けたので、打球時にカバーフェースでエネルギーが吸収されることでフェース部に生じる応力を低下させることができ、フェース部の耐久性を確保する上で有利となる。また、カバーフェースの非固定部における単位あたりの曲げ剛性EIの平均を10N・mm以上26000N・mm以下としたため、ゴルフクラブヘッドの反発性能を確保する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態に係るゴルフクラブヘッドをフェース面の前方から見た正面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】(A)カバーフェースの単位あたりの曲げ剛性EIを定義する際のカバーフェースの厚さhおよび幅bの説明図、(B)カバーフェースに曲げ応力が生じた状態を示す模式図である。
図4】非固定部の一例を説明するゴルフクラブヘッドの正面図である。
図5】非固定部の他の例を説明するゴルフクラブヘッドの正面図である。
図6】実験例1(比較例)の加速度波形を示す図である。
図7】実験例2の加速度波形を示す図である。
図8】実験例3の加速度波形を示す図である。
図9】実験例4-12における単位当たりの曲げ剛性EIの数値を示す図である。
図10】実験例4-12についての単位当たりの曲げ剛性EIと実験例1に対するCORの差分との関係を示す図である。
図11】複数の実験例についてのカバーフェースの内面とフェース面との間の隙間と、実験例1に対するCORの差分との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1図2に示すように、本実施の形態において、ゴルフクラブヘッド10は、中空のウッド型ゴルフクラブヘッド(ドライバー)であり、ヘッド本体12と、カバーフェース32とを含んで構成されている。
ヘッド本体12は、金属材料または繊維強化樹脂材料(FRP)で構成され、あるいは、金属材料と繊維強化樹脂材料とが組み合わされて構成される。
前記金属材料としては、例えばステンレス鋼、マルエージング鋼、純チタン、チタン合金又はアルミニウム合金等の1種又は2種以上が用いられる。
前記繊維強化樹脂材料としては、炭素繊維強化樹脂材料(CFRP)などが用いられる。
ヘッド本体12は、フェース部14と、クラウン部16と、ソール部18と、サイド部20とを備えている。
ヘッド本体12は、それらフェース部14とクラウン部16とソール部18とサイド部20とで囲まれた内部が中空部28とされた中空構造を呈している。
フェース部14は、上下の高さを有して左右に延在している。
【0009】
クラウン部16は、フェース部14よりも小さい肉厚でフェース部14の上部から後方に延在している。
フェース部14の外側に露出する表面がボールを打撃するフェース面14Aである。
クラウン部16には、フェース面14A側でかつヒール24寄りの位置にシャフトSに接続するホーゼル30が設けられ、ホーゼル30にシャフトSが接続されることでゴルフクラブ100が構成される。
ソール部18は、フェース部14の下部から後方に延在している。
図1図2に示すように、サイド部20は、クラウン部16とソール部18の間でフェース部14のトウ22側縁とヒール24側縁との間をフェースバックを通って延在している。
【0010】
カバーフェース32は、フェース面14Aの全域を覆うように形成されている。
カバーフェース32がフェース面14Aと反対側に位置する面を表面3202とし、カバーフェース32がフェース面14Aに対向する面を内面3204とする。
カバーフェース32の周縁部とフェース部14の周縁部とを固定した固定部34が設けられている。
本実施の形態では、固定部34は、それら周縁部の周方向の全周にわたって連続して形成されている。なお、固定部34の周方向の一部が途切れていても構わないが、全周にわたって連続して形成されていると、カバーフェース32の応力が固定部32の部分に集中しにくく耐久性の向上を図る上で有利となる。
また、周縁部を除くカバーフェース32とフェース部14の箇所にそれらカバーフェース32とフェース部14とが固定されていない非固定部36が設けられている。
したがって、非固定部36において、カバーフェース32は打球時に変形し、変形したカバーフェース32の内面3204はやがてフェース面14Aに接触するため、カバーフェース32と共にフェース部14が変形する(たわむ)ことになる。
このようにカバーフェース32の変形と、カバーフェース32およびフェース部14の変形とが2段階にわたって発生することにより、ボールとカバーフェース32およびフェース面14Aとの接触時間、すなわちボールとヘッド本体12との接触時間を増大でき、ヘッド本体12に加わる衝撃力(加速度)の最大値を低減し、ヘッド本体12の耐久性の向上を図りつつ、打感を向上する上で有利となる。
なお、カバーフェース32の表面(外面)と直交する方向の力(すなわち打球時に加わる力)に対して、固定部34は変形しにくい一方、非固定部36は変形しやすいことが、非固定部36において打球時におけるカバーフェース32の変形量を確保する上で好ましい。
【0011】
本実施の形態において、非固定部36におけるカバーフェース32の単位あたりの曲げ剛性EIの平均は10N・mm以上26000N・mm以下とした。なお、「単位当たりの曲げ剛性EI」の定義については後述する。
カバーフェース32の単位曲げ剛性EIの平均が上記範囲内にあると、打球時にカバーフェース32およびフェース部14の変形量を適度に確保できるため、ゴルフクラブヘッド10の反発性能を確保でき、また、カバーフェース32により打球時の応力を緩和できるため、ゴルフクラブヘッド10の耐久性の向上を図る上で有利となる。
カバーフェース32の単位曲げ剛性EIの平均が上記範囲を下回ると、単位曲げ剛性EIの平均が低すぎるため、打球時にカバーフェース32の変形量が過剰となり、エネルギーロスが大きくなり、反発性能が低下する。
特にカバーフェース32の単位曲げ剛性EIの平均が低く、言い換えると、カバーフェース32の硬度がボールの硬度よりも低い(概ねデュロメータ硬度A90以下)場合には、打球時にボールよりもカバーフェース32が大きく変形し、エネルギーロスが顕著となり、反発性能が低下する。
カバーフェース32の単位曲げ剛性EIの平均が上記範囲を上回ると、単位曲げ剛性EIの平均が高すぎるため、打球時にカバーフェース32およびフェース部14の変形量が過小となり、反発性能が低下する。
特に打球時にカバーフェース32がフェース部14に当接することでカバーフェース32とフェース部14が共に変形する際の変形量が十分に得られず、反発性能が低下する。
また、単位あたりの曲げ剛性EIの平均が10N・mm以上10000N・mm以下であることが上記効果を発揮する上でより好ましい。
また、あたりの曲げ剛性EIの平均が10N・mm以上4000N・mm以下であることが上記効果を発揮する上でより一層好ましい。
【0012】
また、図2に示すように、本実施の形態では、カバーフェース32の厚さはほぼ均一に形成されているが、非固定部36においてカバーフェース32の中央部の厚さを周縁部の厚さよりも小さくしてもよく、その場合は、打球時のカバーフェース32の変形量を確保する上で有利となる。
【0013】
(単位当たりの曲げ剛性EIの定義)
ここで、図3を参照してカバーフェース32の単位当たりの曲げ剛性EIについて説明する。
一般的に、材料の曲げ剛性EIは、図3(A)に示すように、厚さh(mm)、幅b(mm)を有する矩形状の均一断面を有する材料において、以下の式(1)によって規定される。
EI=E・h・b/12 (1)
ただし、Eは材料の縦ヤング係数(N/mm)とする。
材料とその縦ヤング係数Eを例示すると以下の通りである。
チタン:105000N/mm
ポリカーボネート:2700N/mm
CFRP:51000N/mm
(ただし、CFRPの縦ヤング係数Eは積層数、配向角などで変動する)
ウレタン:20N/mm
曲げ剛性EIは、図3(B)に示すように、材料に荷重を加えたときの曲がりにくさを示すものである。
そして、本明細書においては、「カバーフェース32の単位曲げ剛性EI」を、上記幅bを1.0mmとしたときに上記式(1)で規定される数値として定義する。
【0014】
また、繊維強化樹脂材料の場合、繊維の配向角度を異ならせたプリプレグを積層してカバーフェース32を製造することになる。
例えば、配向角度を0度、45度、90度、-45度と異ならせたプリプレグを重ねて1セットとし、複数のセットを積層してカバーフェース32が製造される。
この場合、繊維強化樹脂材料の縦ヤング係数Eは積層理論によって算出された値を用いる。
【0015】
本実施の形態では、カバーフェース32は、デュロメータ硬度A98以上の樹脂材料または繊維強化樹脂材料で構成されている。
カバーフェース32の硬度がデュロメータ硬度A98以上であると、硬度を確保できるため、打球時におけるカバーフェース32によるエネルギーロスが抑制され、反発性能を確保する効果を高める上で有利となる。
カバーフェース32の硬度がデュロメータ硬度A98を下回ると、硬度が低すぎるため、打球時におけるカバーフェース32によるエネルギーロスが大きくなり、反発性能を確保する効果が低下する。
なお、カバーフェース32は、金属材料で形成されていてもよいが、本実施の形態のようにすると、ゴルフクラブヘッド10の軽量化を図る上で有利となる。
【0016】
なお、炭素繊維強化樹脂材料(CFRP)の具体的な構成例と単位当たりの曲げ剛性EIを以下に例示する。
(構成例1)弾性率24tのプリプレグ(0.08mm)を、配向角度0度、45度、90度、-45度で積層したものを1セットとして、6セット重ねたもの(総厚み約1.92mm)で、EI=26000N・mmとなる。
(構成例2)上記プリプレグのセットを4セット重ねたもの(総厚み約1.28mm)で、EI=10000N・mmとなる。
(構成例3)上記プリプレグのセットを3セット重ねたもの(総厚み約0.96mm)で、EI=4000N・mmとなる。
【0017】
本実施の形態では、固定部34は、面状の粘着により接合されており、図2において符号35は粘着剤(粘着テープ)を示す。
なお、固定部34は、面状の粘着の他、面状の接着、面状のロウ付け、面状の熱溶着の何れかにより接合されてもよい。
すなわち、カバーフェース32およびフェース部14の材料を問わず、接着剤、粘着剤(粘着テープ)を用いることができる。
なお、前述したように、カバーフェース32の表面3202と直交する方向の力に対して、固定部34は変形しにくい一方、非固定部36は変形しやすいことが、非固定部36において打球時におけるカバーフェース32の変形量を確保する上で好ましい。したがって、固定部34を接合する接着剤、粘着剤は、カバーフェース32の表面3202と直交する方向の力に対して変形しにくい剛性、硬度を有していることが好ましい。例えば、固定部34を接合する接着剤、粘着剤の硬度は、デュロメータ硬度D50以上が好ましい。
また、カバーフェース32およびフェース部14の双方が金属材料で構成されている場合は、固定部34をロウ付けにより接合できる。
また、カバーフェース32およびフェース部14の双方が合成樹脂材料で構成されている場合、あるいは、双方が繊維強化樹脂材料で構成されている場合、あるいは、一方が合成樹脂材料で他方が繊維強化樹脂材料で構成されている場合は、固定部34を熱溶着により接合できる。
この場合は、非固定部36に対応するカバーフェース32の内面3204を削って凹部を形成し、凹部の周囲の内面3204を熱溶着によってフェース面14Aに接合すればよい。
また、接着、粘着またはロウ付けを用いた場合、接着層、粘着層、ロウ付け層の厚みを0.01mm以上0.3mm以下とすることで、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの間に0.01mm以上0.3mm以下の隙間Dを形成することができる。
隙間Dが上記範囲内であると、打球時のカバーフェース32の変形量(たわみ量)を十分に確保でき、打球時に変形したカバーフェース32の内面3204がフェース面14Aに当接するまでの時間を確保できることから、ボールとヘッド本体12との接触時間を増大でき、ヘッド本体12に加わる衝撃力(加速度)の最大値を低減し、ヘッド本体12の耐久性の向上を図りつつ、打感を向上する上で有利となる。
隙間Dが上記範囲を上回ると、打球時のカバーフェース32の変形によるエネルギーロスが大きくなりすぎて反発性能に大きく影響する。
なお、隙間Dが0.01mm以上0.2mm以下であると、上記効果を高める上でより好ましい。
【0018】
なお、カバーフェース32とフェース部14との双方が金属材料で構成されている場合、固定部34を点状に溶接することが考えられるが、このような点状の溶接を行なうと、カバーフェース32に局所的に歪みが生じやすく、カバーフェース32とフェース面14Aとの間の隙間Dが不均一となりやすく、意図した隙間Dを確保する上で不利となる。
【0019】
本実施の形態では、非固定部36が、カバーフェース32とフェース面14Aとの間の隙間Dを含んで構成されている場合について説明するが、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの少なくとも一部が互いに接触していてもかまわない。
すなわち、非固定部36においてカバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの少なくとも一部が接触した状態であっても、打球時には、まず、カバーフェース32が変形し、次いで、カバーフェース32およびフェース部14が変形するといったように、時間経過に伴い2段階にわたって変形が発生することから、上記のように隙間Dが形成されている場合に比較して効果が低下するものの、ボールとヘッド本体12との接触時間を増大でき、ヘッド本体12に加わる衝撃力(加速度)の最大値を低減し、ヘッド本体12の耐久性の向上を図りつつ、打感を向上する効果は奏される。
【0020】
また、本実施の形態では、ゴルフクラブヘッド10はドライバーであり、非固定部36の面積が300mm以上、2150mm以下である。
【0021】
また、本実施の形態では、フェース面14Aの面積に占める非固定部36の面積が8%以上55%以下である。
フェース面14Aの面積に占める非固定部36の面積が上記範囲内であると、カバーフェース32の剛性が適切な範囲となり、打球時のカバーフェース32の変形量(たわみ量)を十分に確保でき、打球時に変形したカバーフェース32がフェース面14Aに当接するまでの時間を確保できることから、ボールとヘッド本体12との接触時間を増大でき、ヘッド本体12に加わる衝撃力(加速度)の最大値を低減し、ヘッド本体12の耐久性の向上を図りつつ、打感を向上する上で有利となる。
フェース面14Aの面積に占める非固定部36の面積が上記範囲を下回ると、打球時におけるカバーフェース32の変形が小さいため、ボールとヘッド本体12との接触時間を増大させ、ヘッド本体12に加わる衝撃力(加速度)の最大値を低減し、ヘッド本体12の耐久性の向上を図りつつ、打感を向上するという効果が十分に得られない。
フェース面14Aの面積に占める非固定部36の面積が上記範囲を上回ると、打球時におけるカバーフェース32の変形によるエネルギーロスが大きくなりすぎ、反発性能を確保する効果が低下する。また、フェース面14Aとカバーフェース32の接合範囲(固定部34)が十分に得られず、フェース面14Aとカバーフェース32との接合強度を確保する効果が低下する。
【0022】
また、隙間Dに位置するフェース面14Aの箇所またはカバーフェース32の内面3204の箇所に、デュロメータ硬度A90以下の低剛性材料を設けてもよい。
すなわち、低剛性材料は、隙間Dを完全に充填するように設けてもよく、あるいは、隙間Dを完全に充填せず隙間Dの一部が残存していてもよい。
このような低剛性材料を設けると、打球時に変形したカバーフェース32の内面3204は低剛性材料を介してフェース面14Aに接触し、カバーフェース32と共にフェース部14が変形することになるため、打球時におけるカバーフェース32の変形量が若干低下するが、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの間の隙間Dを均一に確保する上で有利となる。特に、低剛性材料によって隙間Dを完全に充填すると、隙間Dを均一に確保する上でより有利となる。
低剛性材料としては、デュロメータ硬度A90以下の材料であればよく、例えば、シリコーン、ウレタンなどの合成樹脂材料、粘着剤、粘着テープ、弾性接着剤が使用可能である。
なお、本発明では、隙間Dに位置するフェース面14Aの箇所またはカバーフェース32の内面3204の箇所に、低剛性材料としての、言い換えると、デュロメータ硬度A90以下の粘着剤、粘着テープ、弾性接着剤を設けた場合であっても、非固定部36が設けられているものとする。
これは、デュロメータ硬度A90以下の粘着剤、粘着テープ、弾性接着剤をフェース面14Aの箇所またはカバーフェース32の内面3204の箇所に設けたとしてもフェース部14とカバーフェース32とが一体的に接合されて固定されていないためである。
また、低剛性材料を設ける構造としては、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの間の隙間Dに低剛性材料を充填する構造でもよく、あるいは、カバーフェース32の内面3204あるいはフェース面14Aに対してデュロメータ硬度A90以下の合成樹脂材料を塗装、コーティングして皮膜(膜体)を形成する構造であってもよい。
【0023】
また、図4図5に示すように、ゴルフクラブヘッド10を水平面HPに対して予め定められたライ角およびロフト角通りに設置した基準状態において、フェース面14Aの中心点(幾何学的中心点)を通る法線を含みかつ水平面と直交する平面でヘッド本体を破断した断面をフェース中心基準断面Pfcとしたとき、フェース中心基準断面Pfcと平行しフェース中心基準断面Pfcからトウ方向に21.3mm離間した第1平面P1と、フェース中心基準断面Pfcと平行しフェース中心基準断面Pfcからヒール方向に21.3mm離間した第2平面P2とで区画されるフェース面14Aの範囲内に、非固定部36が設けられている。
上述した第1平面P1および第2平面P2で区画されるフェース面14Aの範囲は、一般的にあるいはルール上でインパクトエリアとして規定されている範囲である。インパクトエリアは一般的に打撃確率が高い範囲となるため、インパクトエリアの範囲内に非固定部36を設けると、インパクトエリアの耐久性および打感を向上する上で有利となり、ゴルフクラブヘッド10としてのメリットが大きい。
また、ゴルフクラブヘッド10を正面視した状態で非固定部36の形状としては、例えば、図4に示すような円形、あるいは、図5に示すような矩形があるが、非固定部36の形状は任意であり限定されるものではない。
【0024】
また、本実施の形態のゴルフクラブヘッド10は、反発係数(COR)が0.822以上であると好ましい。
すなわち、反発係数が0.822以上のいわゆる高反発ヘッドを呼ばれるゴルフクラブヘッド10では、打球時のフェース部14のたわみ量を確保するためにフェース部14の肉厚が薄くなるため、フェース部14の耐久性が低下しやすい。したがって、0.822以上のゴルフクラブヘッド10の方が、フェース面14Aにカバーフェース32を形成することによる耐久性向上の効果が大きい。
【0025】
以上説明したように本実施の形態によれば、カバーフェース32の周縁部とフェース部14の周縁部とを固定した固定部34を設けると共に、周縁部を除くカバーフェース32とフェース部14の箇所にそれらカバーフェース32とフェース部14とが固定されていない非固定部36を設けた。そして、非固定部36におけるカバーフェース32の単位あたりの曲げ剛性EIの平均を10N・mm以上26000N・mm以下とした。
したがって、打球時、まず、カバーフェース32が変形したのち、変形したカバーフェース32の内面3204がフェース面14Aに接触することからカバーフェース32とフェース部14との双方が変形し、カバーフェース32およびフェース部14が時間経過に伴い2段階にわたって変形する。
そのため、打球時におけるボールとヘッド本体12との接触時間を増大させる上で有利となる。
一方、打球時にカバーフェース32がエネルギーを吸収するので、フェース部14に生じる最大加速度が低減され、言い換えると、フェース部14に生じる応力が緩和されるので耐久性を向上する上で有利となり、また、打感が柔らかく良化される。
【0026】
次に、ゴルフクラブヘッド10の実験結果について説明する。
以下では、試料となるゴルフクラブヘッド10を各実験例毎に作成し、以下に示す条件を変えて、ボールとヘッド本体12との接触時間、ゴルフクラブヘッド10の反発性能、耐久性について評価した。
【0027】
実験例1は、比較例であり、フェース面14Aにカバーフェース32を設けないゴルフクラブヘッド10であり、本発明の請求項1の規定を満たさないものである。
実験例1の各部の仕様は以下の通りである。
ヘッド本体12の材料:チタン合金 Ti-8Al-1Mo-1V
フェース部14の材料:Ti-6Al-4V
ロフト角 10.5°
ライ角 59°
ヘッド体積 460cc
【0028】
なお、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例はカバーフェース32を設けた点以外は実験例1と同じ仕様である。
また、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例においてカバーフェース32の厚さは均一厚さとしている。
また、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例において固定部34は、面状の粘着により接合されている。
また、実験例1(比較例)を除く以下の各実験例では、隙間Dに低剛性材料を設けていない。
実験例1(比較例)を除く以下の各実験例では、条件1-3によって変化させた数値を除き、請求項1-6、8-10の規定を満たしているものとした。
【0029】
以下では、各実験例のゴルフクラブヘッド10に対してペンデュラム試験機を用い、ゴルフクラブヘッド10にシャフトが取り付けられた状態でシャフトを治具で固定し、振り子によりカバーフェース32で覆われたフェース部14に一定の衝突力を与え、振り子のうちフェース部14に衝突する側と反対側に位置する背面に取り付けた加速度センサで加速度(加速度波形)を測定した。
加速度波形の測定結果は、図6図8に示す通りであり、横軸が時間(μs)、縦軸が加速度(m/s)を示している。また、図中、左側に記載されたμs単位の数値は加速度波形から算出した振り子とヘッド本体12との接触時間(以下、単に接触時間ともいう)を示し、右側に記載されたm/s単位の数値は最大加速度(加速度のピーク値)を示す。
【0030】
(条件1)
条件1では、実験例2、3においてカバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの隙間Dを有り、無しとして実験を行った。
図6:実験例1(比較例)カバーフェース32無し
図7:実験例2:カバーフェース32有り(隙間D=0mm)
図8:実験例3:カバーフェース32有り(隙間D=0.01mm)
なお、実験例2、3において、カバーフェース32の材料はポリカーボネートであり、厚さは1.0mmとした。
また、実験例2、3において、カバーフェース32の単位あたりの曲げ剛性EIの平均は225N・mmであり、10N・mm以上26000N・mm以下の範囲内である。
【0031】
図6図8を比較してわかるように、実験例1に比較してカバーフェース32が設けられた実験例2、3では、打球時にカバーフェース32が変形することでエネルギーが吸収されるので最大加速度が低下している。
また、加速度波形から明らかなように、実験例2、3では、打球時に、まず、カバーフェース32が変形し、次いで、カバーフェース32の内面3204がフェース面14Aに接触してカバーフェース32とフェース部14とが共に変形し、したがって、カバーフェース32とフェース部14が時間経過に伴い2段階にわたって変形していることから接触時間が実験例1よりも長くなっており、衝撃力(加速度)の最大値も低く抑えられている。
また、図7に示すように、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの間に隙間Dが形成されていない場合に比較して、図8に示すように、隙間Dが形成されていると、打球時のカバーフェース32の変形量(たわみ量)をより大きく確保でき、打球時に変形したカバーフェース32がフェース面14Aに当接するまでの時間をより長く確保できることから、接触時間を確保し、衝撃力(加速度)の最大値を低減すると共に、打感を向上する上で有利となっている。
【0032】
(条件2)
条件2では、図9に示すように、実験例4-12においてカバーフェース32の材料および単位あたりの曲げ剛性EIの平均を異ならせて、図10に示すように反発性能(反発係数:COR)を比較した。
実験例4:チタンで厚さが1.5mm
実験例5:チタンで厚さが1.2mm
実験例6:チタンで厚さが1.0mm
実験例7:チタンで厚さが0.5mm
実験例8:カーボン(CFRP)で厚さが0.64mm
実験例9:カーボン(CFRP)で厚さが1.28mm
実験例10:ポリカーボネート(PC)で厚さが3.0mm
実験例11:ポリカーボネート(PC)で厚さが1.0mm
実験例12:ポリカーボネート(PC)で厚さが0.5mm
なお、実験例4-12において、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの隙間Dは0.01mmとした。
また、隙間Dに低剛性材料は充填されておらず、空気が収容されている。
図10において、横軸は単位当たりの曲げ剛性EIの平均、縦軸は実験例1のCORに対する各実験例のCORの低下量(すなわち、「実験例1のCOR」から「実験例のCOR」を差し引いた差分)を示し、実験例4-12の値をそれぞれプロットしている。なお、実験例1のCORは0.823である。
図10を見ると、概ね単位当たりの曲げ剛性EIの平均が10000N・mmを超えると、CORが低下する傾向であり、単位当たりの曲げ剛性EIの平均が26000N・mmを超えると、CORの低下が顕著となる。
したがって、反発性能(COR)を確保する上で、カバーフェース32の単位あたりの曲げ剛性EIの平均は、10N・mm以上26000N・mm以下の範囲内であることが必要である。
【0033】
(条件3)
条件3では、カバーフェース32の内面3204とフェース面14Aとの隙間Dを変化させた4つの実験例を比較した。
4つの実験例において、カバーフェース32はポリカーボネートであり、厚さは1.0mmである。
図11において、横軸は隙間D(mm)、縦軸は実験例1のCORに対する各実験例のCORの低下量(すなわち、「実験例1のCOR」から「実験例のCOR」を差し引いた差分)を示し、合計4つの実験例の値をそれぞれプロットしている。
図11からわかるように、隙間Dが0.2mmを超えると、CORが低下し、隙間Dが0.3mmを超えると、CORが急激に低下している。
したがって、したがって、反発性能(COR)を確保する上で、隙間Dは0.01mm以上0.2mm以下の範囲内であることが必要である。
【0034】
なお、本実施の形態では、ゴルフクラブヘッド10が、中空のウッド型ゴルフクラブヘッド(ドライバー)である場合について説明したが、本発明は、中空のユーティリティやフェアウェイウッド、あるいは、キャビティーアイアンなど、中空部を備えないゴルフクラブヘッドにも無論適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 ゴルフクラブヘッド
12 ヘッド本体
14 フェース部
14A フェース面
16 クラウン部
18 ソール部
20 サイド部
22 トウ
24 ヒール
28 中空部
30 ホーゼル
32 カバーフェース
3202 表面
3204 内面
34 固定部
35 粘着剤(粘着テープ)
36 非固定部
100 ゴルフクラブ
D 隙間
S シャフト
Pfc フェース中心基準断面
P1 第1平面
P2 第2平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11