(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169685
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】眼科装置及び合焦判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
A61B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080958
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213702
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 芳則
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 俊一
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB16
4C316FA08
4C316FY02
4C316FY06
4C316FZ01
4C316FZ03
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により被検眼の観察と合焦評価が可能な眼科装置及び合焦判定方法を提供すること。
【解決手段】
眼科装置は、光源から出射された光を第一分光及び第二分光に分光する分光部材と、走査方向に分割された被撮像ラインを複数含む被検眼の被観察領域に、第一分光及び第二分光を導光する光スキャナと、被観察領域からの戻り光を検出可能であって、被撮像ラインと結像位置を各々対応させた複数の露光ラインを受光領域に含むライン露光式の撮像素子と、所定の露光ライン群に含まれる複数の露光ラインの露光動作を順次移動させる間、露光ライン群の複数の露光ラインに対応する複数の被撮像ラインの領域に第一分光及び第二分光を照射して、露光ライン群における露光ラインの検出結果から合焦判定を行う制御部と、を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射された光を第一分光及び第二分光に分光する分光部材と、
走査方向に分割された被撮像ラインを複数含む被検眼の被観察領域に、前記第一分光及び前記第二分光を導光する光スキャナと、
前記被観察領域からの戻り光を検出可能であって、前記被撮像ラインと結像位置を各々対応させた複数の露光ラインを受光領域に含むライン露光式の撮像素子と、
所定の露光ライン群に含まれる複数の前記露光ラインの露光動作を順次移動させる間、前記露光ライン群の複数の前記露光ラインに対応する複数の前記被撮像ラインの領域に前記第一分光及び前記第二分光を照射して、前記露光ライン群における前記露光ラインの検出結果から合焦判定を行う制御部と、
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記検出結果として、前記撮像素子により取得された画像の検出方向に対する光強度を対応させたラインプロファイルを求め、
前記ラインプロファイルにおいて、光強度の頂部における第一検出値pと、底部における第二検出値vとを用いた可視度V=(p-v)/(p+v)が、予め定めた閾値以上であった場合に合焦していると判定する、
請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記第一分光及び前記第二分光を検出させる前記露光ライン群は、間欠的に設けられる請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記露光ライン群に含まれる前記露光ラインの数、及び、複数の前記露光ライン群間の間隔を、増加又は減少させて、複数の前記ラインプロファイルに基づいて合焦評価する請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記第一分光及び前記第二分光を検出させる前記露光ライン群は、間欠的に設けられる請求項1に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記露光ライン群に含まれる前記露光ラインの数、及び、複数の前記露光ライン群間の間隔を、増加又は減少させて、複数のラインプロファイルに基づいて合焦判定する請求項1に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記第一分光及び前記第二分光の照射領域は、複数の前記露光ラインに対応する請求項1に記載の眼科装置。
【請求項8】
光源から出射された光を第一分光及び第二分光に分光する分光部材と、
走査方向に分割された被撮像ラインを複数含む被検眼の被観察領域に、前記第一分光及び前記第二分光を導光する光スキャナと、
前記被観察領域からの戻り光を検出可能であって、前記被撮像ラインと結像位置を各々対応させた複数の露光ラインを受光領域に含むライン露光式の撮像素子と、
を備える眼科装置における合焦判定方法であって、
所定の露光ライン群に含まれる複数の前記露光ラインの露光動作を順次移動させる間、前記露光ライン群の複数の前記露光ラインに対応する複数の前記被撮像ラインの領域に前記第一分光及び前記第二分光を照射して、前記露光ライン群における前記露光ラインの検出結果から合焦判定を行う工程を含む、
合焦判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置及び合焦判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検眼の眼底の撮影を行うスリットスキャン方式の眼底カメラ(眼科装置)が提案されている。例えば、特許文献1には、光スキャナを用いて眼底に照射するスリット光(照明光)の照射位置を移動させながら、眼底内で移動するスリット光の照明領域からの戻り光を、ローリングシャッタ機能を有するCMOS型の撮像素子で撮像する。これにより、散乱光の影響を抑えた眼底像を取得することができる。
【0003】
また、特許文献2には、眼底に対して、スプリット指標像を照射し、眼底からのスプリット指標光の戻り光を検出器で検出した検出結果に基づき、眼底カメラの合焦状態の評価と合焦制御を行う眼科装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5736211号
【特許文献2】特許第6518054号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の眼科装置では、合焦状態の評価を行うための照明系と、被検眼の観察を行うための照明系とをそれぞれ設けており、装置全体が大きくなったりコストが増加することが想定される。
【0006】
本開示は、以上の点に鑑み、簡易な構成により被検眼の観察と合焦評価が可能な眼科装置及び合焦判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本開示に係る眼科装置は、光源から出射された光を第一分光及び第二分光に分光する分光部材と、走査方向に分割された被撮像ラインを複数含む被検眼の被観察領域に、前記第一分光及び前記第二分光を導光する光スキャナと、前記被観察領域からの戻り光を検出可能であって、前記被撮像ラインと結像位置を各々対応させた複数の露光ラインを受光領域に含むライン露光式の撮像素子と、所定の露光ライン群に含まれる複数の前記露光ラインの露光動作を順次移動させる間、前記露光ライン群の複数の前記露光ラインに対応する複数の前記被撮像ラインの領域に前記第一分光及び前記第二分光を照射して、前記露光ライン群における前記露光ラインの検出結果から合焦判定を行う制御部と、を備える。
【0008】
上記した目的を達成するために、本開示に係る合焦判定方法は、光源から出射された光を第一分光及び第二分光に分光する分光部材と、走査方向に分割された被撮像ラインを複数含む被検眼の被観察領域に、前記第一分光及び前記第二分光を導光する光スキャナと、前記被観察領域からの戻り光を検出可能であって、前記被撮像ラインと結像位置を各々対応させた複数の露光ラインを受光領域に含むライン露光式の撮像素子と、を備える眼科装置における合焦判定方法であって、所定の露光ライン群に含まれる複数の前記露光ラインの露光動作を順次移動させる間、前記露光ライン群の複数の前記露光ラインに対応する複数の前記被撮像ラインの領域に前記第一分光及び前記第二分光を照射して、前記露光ライン群における前記露光ラインの検出結果から合焦判定を行う工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いる本開示に係る眼科装置及び合焦判定方法によれば、簡易な構成により被検眼の観察と合焦評価を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る眼科装置の全体構成図である。
【
図3】眼科装置の光路模式図であり、分光部材から出射される光に着目した光路について示している。
【
図4】眼科装置の光路模式図であり、第一フォーカス光学系から出射される光に着目した光路について示している。
【
図6】合焦時及び非合焦時における、照明光の光路を示す被検眼周辺の側面図、及び照明光が照射された被検眼を正面(P方向)から見た眼底の正面図である。
【
図7】合焦調整時における眼底の正面図、撮像素子の受光領域、及び取得画像を示す図である。
【
図8】合焦調整時における眼底に照射する照明光のタイミングチャート及び撮像素子の露光動作のタイミングチャートである。
【
図9】合焦時及び非合焦時における露光ラインと照明光との関係を示す図である。
【
図10】合焦調整時における、照明光の光路を示す被検眼周辺の側面図、及び照明光が照射された被検眼を正面(P方向)から見た眼底の正面図である。
【
図11】合焦調整時における眼底の正面図、撮像素子の受光領域、及び取得画像を示す図である。
【
図12】スリットスキャン撮影時における眼底の正面図、撮像素子の受光領域、及び取得画像を示す図である。
【
図13】スリットスキャン撮影時における眼底に照射する照明光のタイミングチャート及び撮像素子の露光動作のタイミングチャートである。
【
図14】ラインプロファイルと変調伝達関数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、眼科装置1の全体構成図である。なお、
図1において、X方向は被検者を基準とした左右方向(被検眼Eの眼幅方向)であり、Y方向は上下方向であり、Z方向は被検者に対する遠近方向である前後方向(作動距離方向ともいう)である。また、以下の眼科装置1の説明では、各装置や配置関係は、模式的に示しており、説明の便宜上実際の縮尺と異なる場合がある。
【0012】
眼科装置1は、スリットスキャン方式で被検眼Eの眼底Efの撮影(スリットスキャン撮影)を行うことができる。眼科装置1は、カメラヘッドとして機能する装置本体11と、操作部12と、表示部13と、制御装置14(制御部)とを備える。
【0013】
装置本体11は、被検眼Eに対して手動又は自動によりX方向、Y方向又はZ方向に移動可能な図示しない駆動機構により保持されている。したがって、装置本体11は、被検眼Eに対して相対的に移動されてアライメント調整可能に構成される。
【0014】
操作部12は、スリットスキャン撮影の撮影開始操作、装置本体11の被検眼Eに対する移動操作、眼科装置1の設定操作などの眼科装置1の各種操作の入力を受け付けることができる。
【0015】
表示部13は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)などの公知のディスプレイを用いることができる。この表示部13は、制御装置14が生成した眼底Efの観察像(正面画像)である眼底像、及び各種の設定画面などを表示する。
【0016】
制御装置14は、各種の演算処理及び制御処理などを実行するコンピュータなどの演算処理装置である。制御装置14には、装置本体11、操作部12及び表示部13が通信可能に接続されている。制御装置14は、例えば、操作部12に入力された操作指示に基づき装置本体11及び表示部13の各部の動作を統括制御する。制御装置14は、装置本体11のアライメントと、ラインプロファイル7(
図11等参照)を用いた眼底Efに対する照明系2及び受光系3の合焦判定と、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31の合焦制御と、装置本体11による眼底Efのスリットスキャン撮影と、眼底像の生成及び表示と、を含む各種制御及び処理を実行する。
【0017】
装置本体11の構成について説明する。装置本体11は、照明系2及び受光系3を備える。
【0018】
照明系2は、光源21、分光部材22、第一フォーカス光学系23、複数のレンズ(第一照明系レンズ24、第二照明系レンズ25、対物レンズ53)、光スキャナ51、及び光路分割部材52を有する。なお、第一フォーカス光学系23と被観察部位(例えば、眼底Ef)とは光学的共役関係であり、眼科装置1と被検眼Eとの相対的な位置や、被検眼Eにおける被観察部位の位置に応じて、制御装置14によって合焦制御される。
【0019】
光源21は、照明光Lsを出射する。光源21は、照明光Lsとして、眼底Efのスリットスキャン撮影が行われる場合には可視光(例えば、白色光)を出射し、合焦調整が行われる場合には被検眼Eの視感度が小さい近赤外光(赤外領域の光)を出射する光源素子を備える。光源21は、一つ又は複数の光源素子により構成されていてもよい。なお、合焦調整においても可視光を用いてもよい。光源21に用いられる光源素子としては、レーザ発光素子、LED(Light Emitting Diode)、蛍光発光素子などを用いることができる。
【0020】
分光部材22は、
図1のY方向(分光方向ともいう)に配置された複数の円形の分割孔221を有して光源21から出射された光を分割する。分光部材22は、被検眼Eの前眼部Ea(角膜や水晶体)、光スキャナ51及び光路分割部材52と、光学的共役関係又は略光学的共役関係に位置している。分割孔221は、光軸Aに対して対称に配置されており、本実施形態では、
図1のY方向に二箇所に離間して配置されている(
図3等も参照)。分光部材22は、光源21から出射された照明光Lsを二箇所の分割孔221に通過させることで、照明光Lsのうち、
図1の光軸Aに垂直なY方向の一部を第一分光(第二成分光Ls21)とし、他の一部を第二分光(第二成分光Ls22)として分光することができる。
【0021】
第一フォーカス光学系23は、分光部材22から出射された各光が照射されるスリット孔231を有する。スリット孔231は、長矩形状に形成されている(
図3参照)。スリット孔231は、X方向に長尺となるように光軸A上に配置される。第一フォーカス光学系23は、被検眼Eの被観察部位(本実施形態では眼底Ef)と光学的共役関係又は略光学的共役関係に位置している。したがって、分光部材22に対する共役位置と、第一フォーカス光学系23に対する共役位置とは異なるように形成されている。また、第二フォーカス光学系31は、照明光Lsの光軸B(被検眼Eから光路分割部材52迄は光軸Aと共通軸)に沿って移動可能に設けられ、制御装置14による制御により受光系3のフォーカス調整を行う。なお、第一フォーカス光学系23は、光軸A上においてスリット孔231の前後の一方又は両方に1又は複数のレンズを移動可能に設けてもよく、フォーカス調整の方法は特に限定されない。
【0022】
第一照明系レンズ24は、第一フォーカス光学系23のスリット孔231から出射された照明光Ls(第一分光(Ls21)、第二分光(Ls22))を集光して光スキャナ51に導光する。
【0023】
光スキャナ51は、例えば、ガルバノミラー、レゾナントミラー、ポリゴンミラー、又はMEMS(Micro Electro Mechanical System)などの光学素子により構成することができ、光源21側の第一照明系レンズ24から入射された照明光Lsを1次元偏向(走査)して後段の第二照明系レンズ25に向けて反射し、導光可能な偏向機能を有する。
【0024】
光スキャナ51により偏向された照明光Lsの偏向角度或いは偏向方向は、制御装置14によって制御される。また、光スキャナ51は、スリットスキャン撮影時には照明光Lsを対物レンズ53の光軸A(
図1ではZ方向)及びスリット孔231の長軸方向(
図1ではX方向)の双方に垂直な方向(
図1ではY方向)に偏向する。したがって、光スキャナ51は、第一フォーカス光学系23から出射された照明光Lsを被検眼Eの被観察部位(例えば、眼底Ef)において照射領域R1を移動可能に導光することができる。
【0025】
第二照明系レンズ25は、光スキャナ51から出射された照明光Lsを集光して、光路分割部材52に導光する。
【0026】
光路分割部材52は、内側に光を通過させる略円形の開口521を有した環状の反射部材である所謂ホールミラーである。光路分割部材52は、第二照明系レンズ25から出射された照明光Lsを反射して対物レンズ53に向けて出射させるとともに、対物レンズ53から出射された戻り光Lbを通過させて受光系3に導光する。なお、光路分割部材52は、照明光Ls及び戻り光Lbの光路を分割可能(すなわち、照明光Lsを被検眼E側の対物レンズ53に向けて導光し且つ戻り光Lbを受光系3に導光可能)であれば、その他の形状のミラーやスプリッタにより構成した光路分割部材であってもよい。
【0027】
対物レンズ53は、光路分割部材52により反射された照明光Lsを、被検眼Eの前眼部Ea(角膜や水晶体)を通して眼底Efの一部に照射する。この際に、前述の光スキャナ51により照明光LsがY方向に偏向されることで、X方向に長尺な照明光Ls(スリット光)が、眼底Ef内においてY方向(走査方向D1)に走査される。そして、照明光LsのY方向の偏向が行われている間、照明光Lsが照射された被検眼Eの眼底Efからの戻り光Lbは、対物レンズ53及び光路分割部材52を通して受光系3に導光される。
【0028】
受光系3は、対物レンズ53、光路分割部材52、第二フォーカス光学系31、受光系レンズ32、及び撮像素子33を備える。
【0029】
第二フォーカス光学系31は、戻り光Lbの光軸B(被検眼Eから光路分割部材52迄は光軸Aと共通軸)に沿って移動可能な1又は複数のレンズ(フォーカスレンズ)を備え、制御装置14による制御により受光系3のフォーカス調整を行う。第二フォーカス光学系31による受光系3の合焦と、第一フォーカス光学系23による照明系2の合焦とは、被検眼Eのディオプタ(視度)に応じて連動している。光路分割部材52から第二フォーカス光学系31に入射した戻り光Lbは、受光系レンズ32に入射する。なお、第二フォーカス光学系31に、1又は複数のフォーカスレンズを移動自在に設ける代わりに1又は複数の可変焦点レンズを設けてもよく、フォーカス調整の方法は特に限定されない。
【0030】
受光系レンズ32は、1又は複数のレンズにより構成されており、第二フォーカス光学系31から出射された戻り光Lbを撮像素子33に集光させる。
【0031】
撮像素子33は、例えば、CMOSイメージセンサが用いられ、被検眼Eの被観察領域からの戻り光Lbを検出可能に配置される。撮像素子33は、受光系レンズ32からの戻り光Lbが入射する受光領域331を有し、この受光領域331内で所定の露光ライン332毎の露光の開始及び終了のタイミングをずらしながら戻り光Lbの検出(受光又は撮像ともいう)を行うローリングシャッタ機能を有する。この撮像素子33は、スリットスキャン撮影時には、制御装置14によってローリングシャッタ駆動されることで、光スキャナ51による照明光Lsの偏向に応じて眼底Ef内を移動する照明光Lsの戻り光Lbを撮像し、戻り光Lbの撮像信号を制御装置14に出力させる。
【0032】
図2は、制御装置14の機能ブロック図である。制御装置14の機能は、各種のプロセッサを用いて実現される。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays))などが含まれる。なお、制御装置14の各種機能は、一つのプロセッサにより実現されていてもよいし、同種又は異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0033】
制御装置14は、図示しない制御プログラムを実行することで、照明制御部141、偏向制御部142、撮像制御部143、信号取得部144、画像生成部145、合焦評価部146、繰り返し制御部147、合焦制御部148、及び表示制御部149として機能する。なお、制御装置14の各機能部は、プログラム又は回路、装置若しくは機器により、ソフトウェア及びハードウェアの一方又はこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0034】
次に、照明系2の光路について説明する。
図3は、分光部材22を通過する照明光Ls(第一成分光Ls11,Ls12)に着目した光路について示した照明系2の光路模式図であり、上段には平面
図2-1を示し、中段には側面
図2-2を示している。光源21から出射された照明光Lsは、分光部材22によって、一部がY方向の一方側の分割孔221から出射し、他の一部がY方向の他の一方側の分割孔221から出射されて、複数の分光成分に分光される。なお、分光された照明光Lsのうち、分光部材22の分割孔221を物点位置として導光される分光成分を第一成分光Ls11,Ls12として説明し、第一フォーカス光学系23のスリット孔231を物点位置として導光される分光成分を第二成分光Ls21,Ls22として説明する。
【0035】
照明系2において、分光部材22、光スキャナ51、光路分割部材52及び前眼部Eaの位置は互いに光学的共役関係又は略光学的共役関係にある。第一照明系レンズ24により導光された第一成分光Ls11,Ls12は、光スキャナ51の反射面において略結像し、光スキャナ51によって第二照明系レンズ25に向けて反射される。その後、第一成分光Ls11,Ls12は、第二照明系レンズ25により光路分割部材52に導光され、光路分割部材52の環状の反射面において略結像し、この反射面により対物レンズ53に向けて反射される。対物レンズ53により集光された第一成分光Ls11,Ls12は、前眼部Eaで結像した後、眼底Efに照射される。
【0036】
なお、
図3において(
図4も同様)、側面
図2-2の下方には、各光学部材(分光部材22、第一フォーカス光学系23、光スキャナ51及び光路分割部材52)の平面図(分光部材22及び第一フォーカス光学系23については光軸A方向に見た図)、及び、光路断面位置S1における照明光Ls(第二成分光Ls21,Ls22)の断面形状を示している。
【0037】
図4は、第一フォーカス光学系23を通過する照明光Ls(第二成分光Ls21,Ls22)に着目した光路について示した照明系2の光路模式図である。照明系2において、第一フォーカス光学系23及び眼底Ef(被観察部位)の位置は互いに光学的共役関係又は略光学的共役関係にある。分光部材22から出射された第二成分光Ls21,Ls22は、第一照明系レンズ24により導光されて、光スキャナ51によって第二照明系レンズ25に向けて反射される。その後、第二成分光Ls21,Ls22は、第二照明系レンズ25により光路分割部材52に導光され、光路分割部材52の反射面により対物レンズ53に向けて反射される。また、第二成分光Ls21,Ls22は、光路分割部材52と対物レンズ53との間の光路断面位置S1においても再結像する。対物レンズ53により集光された第二成分光Ls21,Ls22は、前眼部Eaで集光された後、眼底Efに照射される。眼底Efにおいて、第二成分光Ls21,Ls22は、略再結像される。このように、照明系2では、光スキャナ51が被観察領域61である眼底Efの一部に、第二成分光Ls21(第一分光)及び第二成分光Ls22(第二分光)である照明光Lsを導光してスリット光として照射させることができる。
【0038】
なお、
図4では、照明系2が合焦状態である光路について示しているが、被検眼Eの位置は眼科装置1を使用するごとに異なる場合があるため、眼科装置1は、後述するように合焦状態の調整を行うことができる。
【0039】
図5は、眼科装置1の動作フローチャートである。ステップS01で、眼科装置1は、ユーザにより図示しない電源スイッチ等を介してハードウェア(HW)及びソフトウェア(SW)の起動が行われる。
【0040】
ステップS02で、制御装置14は、操作部12により撮影モードへの切り替え指示を受けると、撮影モードに切り替える。また、ステップS03で、制御装置14は、操作部12からの指示等に基づいて、被検眼Eにおける動作距離(WD:Working Distance)の調整が行われる。
【0041】
ステップS04で、制御装置14は、照明系2及び受光系3の合焦調整(「合焦アライメント」ともいう)を行う。ここでは、被観察部位として眼底Efに対する合焦が調整される。本実施形態の眼科装置1は、ステップS05で行う眼底Efのスリットスキャン撮影前に、眼底Efに対する照明系2及び受光系3の合焦評価及び合焦制御を含む合焦調整を行う。合焦評価では、眼底Efに対して照明系2及び受光系3が合焦している状態(合焦時)と、眼底Efに対して照明系2及び受光系3が合焦していない状態(非合焦時)とにおいて、眼底Efに対する照明光Lsの照射領域R1(光像)の幅が変化することに着目する。
【0042】
図6は、合焦時及び非合焦時において、照明光Lsの光路を示す被検眼E周辺の側面
図6A1~6A3、及び、照明光Lsが照射された被検眼Eを正面(P方向)から見た眼底Efの被観察領域61の正面
図6B1~6B3を示している。
【0043】
側面
図6A1に示すように、合焦時には、各分光成分(第二成分光Ls21,Ls22)の光束の集光位置が眼底Efに一致(略一致を含む)するため、正面
図6B1に示すように、一方の第二成分光Ls21と他の一方の第二成分光Ls22は、Y方向(光スキャナ51の走査方向)の位置が略同じ位置に重なってスリット状の照射領域R1に結像された照明光Lsが照射される。一方、側面
図6A2,6A3及び正面
図6B2,6B3に示すように、非合焦時には、各分光成分(第二成分光Ls21,Ls22)の光束の集光位置が眼底Ef対して前後(光軸A方向)にずれるため、第二成分光Ls21(第一分光)及び第二成分光Ls22(第二分光)は眼底Ef上のY方向に広がった(ずれて)照射領域R1に照射される。
【0044】
例えば、側面
図6A2に示すように照明光Lsが眼底Efよりも手前で結像している場合、正面
図6B2に示すように合焦時(正面
図6B1)と比較して一方の第二成分光Ls21は下方に、他の一方の第二成分光Ls22は上方に照射される。他方、側面
図6A3に示すように照明光Lsが眼底Efよりも奥で結像している場合、正面
図6B3に示すように合焦時(正面
図6B1)と比較して一方の第二成分光Ls21は上方に、他の一方の第二成分光Ls22は下方に照射される。そして、眼底Efに対する第二成分光Ls21,Ls22の結像位置のずれ量(光軸A方向のずれ量)は、正面
図6B1~6B3における第二成分光Ls21,Ls22のY方向のずれ量に相関する照明光Lsの光強度Iより評価することができる。
図6の例では、正面
図6B1における合焦時の照射領域R1に照射された照明光Lsの光強度Iは、正面
図6B2又は正面
図6B3における非合焦時の照射領域R1に照射された照明光Lsの光強度Iよりも高くなる。
【0045】
図7は、合焦調整時における被観察部位である眼底Efの正面
図6B4、撮像素子33の受光領域331、及び、眼底Efを撮像素子33により撮像して取得された取得画像71を示す図である。
【0046】
眼底Efの正面
図6B4は、照明光Lsが、光軸Aよりも上方(Y軸方向の上方)の位置において合焦した状態を示している。眼底Efの正面
図6B4は、被観察領域61を示している。被観察領域61は、照明光Lsの走査方向D1に分割された複数の被撮像ライン611を含む。被撮像ライン611は、ライン番号N=1からN=nまでの複数形成される(「n」は2以上の整数である)。なお、被撮像ライン611は、説明の便宜上図示した仮想の領域である。
【0047】
CMOSイメージセンサ等により構成される撮像素子33の受光領域331は、上下及び左右方向のマトリクス状に複数のフォトダイオードである受光部を有する。撮像素子33は、ローリングシャッタ機能を有し、被撮像ライン611と結像位置を各々対応させた複数の露光ライン332を受光領域331に含むライン露光式の撮像素子である。受光領域331は、露光方向D2に分割された複数の露光ライン332を有する。露光ライン332は、受光領域331において受光した光を同じタイミングで検出する単位領域である。露光ライン332は、
図7の受光領域331において露光方向D2とは直交する行方向に配列された複数の受光部を有する。また、露光ライン332は、受光領域331における露光方向D2については、一つ又は複数の受光部を有する。露光ライン332は、ライン番号N=1からN=nまでの複数形成される(「n」は2以上の整数である)。ライン番号N=1からnの被撮像ライン611は、ライン番号N=1からnの露光ライン332と、各々結像位置が対応する。
【0048】
取得画像71は、撮像素子33の受光領域331に入射されて検出された戻り光Lbによって形成された画像である。取得画像71は、受光領域331において検出される光の光強度Iが比較的低い暗領域712と、照射領域R1に対応する照明光Lsが検出された光の光強度Iの高い明領域711と、を含む。制御装置14は、撮像素子33により取得された取得画像71の検出方向D3に対する光強度Iを対応させたラインプロファイル7を検出結果として求める。ラインプロファイル7は、走査方向D1及び露光方向D2と移動方向が同じ検出方向D3に対して、光強度Iの高低を示しており、明領域711に対応する第一検出値pと、暗領域712に対応する第二検出値vと、を含む。
図7の例では、眼底Efに対して照明光Lsが比較的合焦状態に近いため、第二検出値vに対する第一検出値pの強度比は比較的高い。本実施形態では、制御装置14は、ラインプロファイル7において、光強度Iの頂部における第一検出値pと、底部における第二検出値vとを用いた可視度V=(p-v)/(p+v)を求めて、合焦状態(合焦又は非合焦の程度)を評価する。制御装置14は、例えば、可視度V=(p-v)/(p+v)が、予め定めた閾値以上であった場合に合焦していると判定する。
【0049】
図8は、合焦調整時における眼底Efに照射する照明光Lsのタイミングチャート及び撮像素子33の露光動作のタイミングチャートである。照明光Lsの照射に関するタイミング特性F1は、時間Tの経過にしたがって、被撮像ライン611の位置を走査方向D1(
図7参照)に移動させる。
図8の例では、タイミングT0からタイミングT3の間及びタイミングT6からタイミングT9の間に、それぞれ被撮像ライン611のライン番号N=2及びライン番号N=8の位置に照明光Ls(第一分光及び第二分光)を照射し、タイミングT3からタイミングT6の間に照明光Lsの照射を停止(消灯)する。なお、
図8では、2つの時間領域(タイミングT0~T3の間、及び、タイミングT6~T9の間)に照明光Lsを間欠的に照射する例を示しているが、タイミングT9からタイミングTnまでの期間についても同様に照明光Lsが間欠的に照射される。したがって、第二成分光Ls21(第一分光)及び第二成分光Ls22(第二分光)を検出させる露光ライン群333も、間欠的に設けられる(
図11も参照)。
【0050】
また、撮像素子33の露光動作に関するタイミング特性F2は、時間Tの経過にしたがって、露光ライン332の位置を露光方向D2(
図7参照)に順次移動させる。
図8の例では、タイミングT0からタイミングT10の各区間において、ライン番号N=1からライン番号N=10の露光ライン332で露光動作させる。また、タイミングT10からタイミングTnの各期間についても、ライン番号N=11からN=nまで順次露光ライン332が移動して露光動作が行われる。
【0051】
以上のように照明光Lsの照射と露光動作とが行われると、複数の露光ライン332が露光動作する期間(例えば、タイミングT0からタイミングT3までの期間)、各露光ライン332と各々結像位置が対応する複数の被撮像ライン611の略中央位置(例えば、被撮像ライン611のライン番号Nが「1」~「3」であった場合はそれらの中央のライン番号N=2の被撮像ライン611)に照明光Lsが照射される。本実施形態では、照明光Lsの合焦評価に用いる複数の露光ライン332を含む群を、露光ライン群333とする。
【0052】
制御装置14は、
図8のように、所定の露光ライン群333に含まれる複数の露光ライン332の露光動作を順次露光方向D2に移動させる間、露光ライン群333の複数の露光ライン332に対応する複数の被撮像ライン611の照射領域R1に、照明光Ls(第一分光(Ls21)及び第二分光(Ls22))を照射する。本実施形態では、制御装置14(制御部)が、露光ライン群333における露光ライン332の検出結果から前述したラインプロファイル7を求めることにより合焦判定を行う。
【0053】
図9は、合焦時又は非合焦時における露光ライン332と照明光Lsとの関係の具体例を示す図である。まず、合焦状態における受光領域331に示すように、本実施形態の露光ライン群333は、照明光Lsの原点(物点)である第一フォーカス光学系23から撮像素子33までの光路に沿って露光方向D2に3[deg](度)分の角度の幅で設けられる。また、合焦状態において、受光領域331に到達する第二成分光Ls21及び第二成分光Ls22は、第一フォーカス光学系23から撮像素子33までの光軸A,Bに沿って露光方向D2に1.5[deg](度)分の角度の幅で到達する。
【0054】
受光例A1は照明光Lsの合焦状態を示している。受光例A1における照明光Lsは、露光ライン群333内に収まる約1.5[deg]分の幅で照射される。受光例A2は照明光Lsの非合焦状態を示している。受光例A2における照明光Lsは、第二成分光Ls21,Ls22の分離が進んだ状態であり、受光例A1よりも露光ライン群333内において露光方向D2(
図9の上下方向)に拡幅して露光ライン群333よりもやや狭幅に照射される。受光例A3は照明光Lsの非合焦状態を示している。受光例A3における照明光Lsは、露光ライン群333の幅方向の両境界部に跨るように第二成分光Ls21,Ls22に分離して照射される。受光領域331により検出される照明光Lsの光強度I(第一検出値p)は、受光例A1、受光例A2及び受光例A3の順に小さい。このように、露光ライン群333の幅を照明光Lsの合焦時の幅よりも予め広幅に設定することで、第二成分光Ls21,Ls22の幅が広がった非合焦時であっても照明光Lsを露光ライン群333の幅の範囲内であれば検出することができる。
【0055】
なお、露光ライン群333の幅「3[deg]」及び照明光Lsの幅「1.5[deg]」は例であり、受光例A1に示されるように、露光ライン群333の幅が合焦時の照明光Lsの幅よりも大きくしたその他の幅に設定されていてもよい。
【0056】
図10は、合焦評価撮影時において、照明光Lsの光路を示す被検眼E周辺の側面
図6A5~6A7、及び、照明光Lsが照射された被検眼Eを正面(P方向)から見た眼底Efの正面
図6B5~6B7を示している。制御装置14は、光スキャナ51による照明光Lsの偏向角度を変化させながら、照明光Lsが照射されている眼底Efからの戻り光Lbを撮像素子33で撮像し、取得画像71を取得する。そして、制御装置14は、取得画像71から求めたラインプロファイル7に基づき、可視度Vが最も大きくなるように、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31の合焦制御を実行する。
【0057】
合焦評価及び合焦制御は、主に、
図2に示した制御装置14の照明制御部141、偏向制御部142、撮像制御部143、信号取得部144、画像生成部145、合焦評価部146、繰り返し制御部147、及び合焦制御部148により行われる。
【0058】
照明制御部141は、合焦評価時において照明系2から照明光Ls(例えば、近赤外光)を出射させる。照明光Lsとして近赤外光を用いた場合は、被検眼Eの縮瞳を低減することができる。
【0059】
信号取得部144は、合焦評価時において、撮像素子33のローリングシャッタ駆動が行われている間、撮像素子33の受光領域331から出力される撮像信号を逐次取得する。
【0060】
画像生成部145は、合焦評価時において撮像素子33のローリングシャッタ駆動が行われている間に信号取得部144が取得した撮像信号に基づき取得画像71を生成する。
図6に示すよう、合焦時の被観察領域61(正面
図6B1参照)では照明光Lsが幅狭のパターン像として検出され、非合焦時の被観察領域61(正面
図6B2,6B3参照)では照明光Lsが広がった又は離れたパターン像として検出される。
【0061】
合焦評価部146は、照明制御部141を介して光スキャナ51を制御するとともに、撮像制御部143を介して撮像素子33を制御して、画像の撮影を実行する。例えば、合焦評価部146は、偏向制御部142により、眼底Efに照明光Lsが照射されるように光スキャナ51による照明光Lsの偏向角度を制御する。また、合焦評価部146は、取得画像71からラインプロファイル7を求め、ラインプロファイル7に基づいて合焦評価を行う。
【0062】
繰り返し制御部147は、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31のフォーカスレンズのレンズ位置を変更しながら、第一フォーカス光学系23の異なる複数の位置ごとに、合焦評価部146、信号取得部144、及び画像生成部145を繰り返し作動させる繰り返し制御を実行する。これにより、第一フォーカス光学系23の位置ごとの取得画像71が取得される。なお、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31がフォーカスレンズの代わりに可変焦点レンズを備える場合には、繰り返し制御部147は、可変焦点レンズの互いに異なる複数の焦点位置ごとに繰り返し制御を実行する。
【0063】
合焦制御部148は、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31の合焦制御を行って、眼底Efに対して照明系2及び受光系3を合焦させる。なお、前述の通り、第二フォーカス光学系31による受光系3の合焦と、第一フォーカス光学系23による照明系2の合焦とは、被検眼Eのディオプタ(視度)に応じて連動して動く。合焦制御部148は、取得画像71から求めたラインプロファイル7に基づき、可視度Vが最も大きくなるように(すなわち、最も合焦状態に近くになるように)、第一フォーカス光学系23及び第二フォーカス光学系31を制御する。
【0064】
このように、第一フォーカス光学系23が被検眼Eの被観察部位(本実施形態では眼底Ef)と合焦すると、第二フォーカス光学系31は第一フォーカス光学系23の合焦と連動して被観察部位と撮像素子33とが合焦するように制御する。制御装置14は、眼底Efに対する照明光Ls(第二成分光Ls21,Ls22)の照射領域R1を撮像素子33により検出させて、ラインプロファイル7を評価することで、合焦状態の評価を行い、合焦制御することができる。
【0065】
図11に示すように、合焦評価部146は、
図8のタイミングチャートに従って得られた複数の明領域711を含む取得画像71からラインプロファイル7を求め、このラインプロファイル7から可視度Vを算出して合焦状態を評価することができる。なお、合焦評価部146は、一つの明領域711に対応する第一検出値pを含むラインプロファイル7に基づいて合焦評価を行ってもよいし、二以上の複数の明領域711に対応する第一検出値pを含むラインプロファイル7に基づいて合焦評価を行ってもよい。制御装置14は、二つ以上の複数の明領域711を含むラインプロファイル7を用いる場合は、複数の明領域711のうち最も第一検出値pの最も高い明領域711の位置が、最も合焦された位置であると判定できる。したがって、制御装置14は、例えば、眼底Efにおける略中央位置に第一検出値pの高い明領域711が観測された場合は、焦点の位置が被観察領域61である眼底Ef全体の奥側に位置すると判定し、眼底Efにおける走査方向D1の始端部又は終端部の位置に第一検出値pの高い明領域711が観測された場合は、焦点の位置が被観察領域61である眼底Ef全体の手前側に位置すると判定することができる。これにより、制御装置14は、焦点の位置を眼底Efに対して手前側又は奥側のどちら側に移動させれば眼底Efに対して合焦可能であるか判定することができる。
【0066】
図5に戻り、ステップS05で、制御装置14は、スリットスキャン撮影を行う。スリットスキャン撮影では、主に、
図2に示した制御装置14における照明制御部141、偏向制御部142、撮像制御部143、信号取得部144、画像生成部145、及び表示制御部149が機能する。
【0067】
照明制御部141は、光源21(すなわち照明系2)からの照明光Lsの出射を制御する。照明制御部141は、スリットスキャン撮影時において、光源21からの照明光Lsとして可視光を出射させる。
【0068】
偏向制御部142は、光スキャナ51による照明光Lsの偏向角度を制御する。この偏向制御部142は、スリットスキャン撮影時には光スキャナ51を制御して照明光LsをY方向に偏向させることで、照明光Ls(スリット光)により眼底Ef内をスリット光の幅方向であるY方向(例えば、上から下へ向かう走査方向D1)に走査する。
【0069】
照明光Lsの照射領域R1は、
図12に示すように、照明光LsのY方向の偏向に応じて眼底Ef(被観察部位)内をY方向に移動する(
図10の側面
図6A5~6A7及び正面
図6B5~6B7も参照)。なお、
図12において、照明光Lsの照射領域R1は、被撮像ライン611と略同幅で示しているが、被撮像ライン611よりも幅広であってもよい。また、
図13に示すように、この照射領域R1の移動に応じて、受光領域331内における戻り光Lbの露光ライン332も露光方向D2(Y方向)に同期して移動する。
【0070】
撮像制御部143は、撮像素子33の駆動を制御する。この撮像制御部143は、スリットスキャン撮影時において、光スキャナ51による照明光LsのY方向の偏向が行われている間(すなわち眼底Ef内で照射領域R1が走査方向D1に移動している間)、撮像素子33にローリングシャッタ駆動を行わせる。
【0071】
具体的に、撮像制御部143は、受光領域331内で走査方向D1に移動する戻り光Lbの照射領域に対応して露光ライン332を追従させながら、この露光ライン332による戻り光Lbの検出を連続して実行させる。換言すると、眼底Ef内において走査方向D1に移動する照射領域R1の移動に対して、撮像素子33が局所的に露光範囲を追従させながら照射領域R1の検出が連続して行われる。このようなローリングシャッタ駆動は公知の技術を用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0072】
信号取得部144は、不図示の通信インタフェースを介して、撮像素子33に対して有線接続或いは無線接続されている。信号取得部144は、スリットスキャン撮影時において、光スキャナ51による照明光Lsの偏向が行われている間、撮像素子33の受光領域からの撮像信号(検出信号又は受光信号ともいう)を逐次取得する。
【0073】
画像生成部145は、上述したスリットスキャン撮影時において、光スキャナ51による照明光Lsの偏向が行われている間に、信号取得部144が取得した撮像信号に基づき眼底像の生成を行うことができる。
図12の取得画像71は、ライン番号N=1及びN=2の露光ライン332で検出された光を重ね合わせ、眼底Efの様子を示す画像が一部生成された状態を示している。
【0074】
ステップS06で、表示制御部149は、表示部13による表示を制御する。表示制御部149は、例えば、スリットスキャン撮影時には画像生成部145が生成した眼底Ef像を表示部13に表示させる。
【0075】
ステップS07で、制御装置14は、再撮影を行うか判定する。制御装置14は、再撮影を行う場合(ステップS07の「再撮影有り」)ステップS02の処理を実行し、再撮影を行う場合(ステップS07の「再撮影無し」)ステップS08の処理に実行する。なお、ステップS07で、制御装置14は、ユーザによって操作部12に入力された選択指示に基づいて再撮影有り又は再撮影無しの判定をおこなってもよい。ユーザは、再撮影有り又は再撮影無しの判断を、表示部13に表示された取得画像を確認して行うことができる。
【0076】
ステップS08で、制御装置14は、撮影結果として取得されたスリットスキャン撮影における取得画像を図示しない記憶部(又は記憶装置)に記憶する。
【0077】
ステップS09で、制御装置14は、操作部12に対する入力指示にしたがって、次の撮影(例えば、別の被検眼Eの撮影)に進む。
【0078】
以上、本実施形態の眼科装置1について説明したが、眼科装置1は、変調伝達関数(MTF:Modulation Transfer Function)を求める機能を有してもよい。
図14は、ラインプロファイル7と変調伝達関数F3の関係を示す図である。
【0079】
変調伝達関数F3は、取得画像71において周期的に検出される明領域711及び暗領域712の空間周波数[Line/mm]毎の可視度V[au]を表している。制御装置14は、複数の空間周波数f01~f03において(露光ライン群333に含まれる露光ライン332の数、及び、複数の露光ライン群間の間隔を、増加又は減少させて)、合焦状態における可視度Vを予め求めることで変調伝達関数F3を求めることができる。変調伝達関数F3は、ある性能を有する光学系の理想状態の可視度Vと空間周波数との関係を表している。ある空間周波数における可視度Vは、被検眼Eの光学系(角膜、水晶体などを含む)等の影響を受けながら測定される為に、被検眼E(眼底Ef)に合焦した状態(ピントがあった状態)においても、理想状態の可視度Vには及ばない。被検眼Eに投影された光は、変調伝達関数F3を有する光学系を介して、撮像素子33で取り込まれる。
【0080】
上記の理想状態として測定された状態の可視度Vと実測により求められた可視度Vとの差分が、被検眼Eの光学系(角膜、水晶体など)による変化分として解釈することができる。したがって、変調伝達関数F3を予め求めておくことで、制御装置14は、被検眼Eに関する変調伝達関数F3のパラメータを測定することができる。
【0081】
また、制御装置14は、変調伝達関数F3のコントラストの高さ(例えば、理想状態として測定された状態の可視度Vと実測により求められた可視度Vとの差分)を、被検眼Eに対して合焦しているか(ピントがあっているか)どうかを判定する手掛かりにすることもできる。従って、変調伝達関数F3を用いることで、合焦判定をより容易に行うことができる。
【0082】
さらに、制御装置14は、特定の空間周波数において求めたラインプロファイル7から、空間周波数毎に合焦判定に用いる適切な可視度Vの閾値を想定して求めることができる。可視度Vの合焦判定の閾値は、手動で又は自動で設定される。このように構成すると、制御装置14は、露光ライン群333に含まれる露光ライン332の数、及び、複数の露光ライン群間の間隔を、増加又は減少させて、複数のラインプロファイル7に基づいて合焦判定することができる。
【0083】
以上のように、本実施形態では、光源21から出射された光を第一分光(Ls21)及び第二分光(Ls22)に分光する分光部材と、走査方向D1に分割された被撮像ライン611を複数含む被検眼Eの被観察領域61に、第一分光(Ls21)及び第二分光(Ls22)を導光する光スキャナ51と、被観察領域61からの戻り光Lbを検出可能であって、被撮像ライン611と結像位置を各々対応させた複数の露光ライン332を受光領域331に含むライン露光式の撮像素子33と、所定の露光ライン群333に含まれる複数の露光ライン332の露光動作を順次移動させる間、露光ライン群333の複数の露光ライン332に対応する複数の被撮像ライン611の領域に第一分光(Ls21)及び第二分光(Ls22)を照射して、露光ライン群333における露光ライン332の検出結果から合焦判定を行う制御装置14(制御部)と、を備える眼科装置1の構成について説明した。
【0084】
このような構成により、照明光Lsを分割するための光学部材を少なくすることができ(例えば、照明系2に照明光Lsを分割するための光学部材として、分光部材22とは別途のプリズム等を設けなくてもよく)、合焦評価用の光源及び光路と、観察用の光源及び光路とを、光源21を含む照明系2により兼用することができる。そのため、簡易な構成により被検眼Eの観察と合焦評価が可能な眼科装置1及び合焦判定方法を構成することができる。
【0085】
以上で本開示の実施形態の説明を終えるが、本開示の態様は各実施形態に示した構成に限定されるものではない。
【0086】
例えば、本実施形態において、分光部材22の分割孔221は、
図1のY方向に二箇所に離間して配置した構成について例示したが、光軸Aに対して偏心した位置に複数設けられていればよく、分割孔221の数及び配置についてその他の構成としてもよい。
【0087】
また、分光部材22、第一フォーカス光学系23、及び撮像素子33は、光軸A,B回りに同期しながら回転可能に構成してもよい。この場合、例えば、光スキャナ51の反射面を2軸方向(例えば、光軸に対して互いに垂直な2軸周りの方向)に任意に傾動可能な構成とすることができる。これにより、被観察部位である眼底Efに対する照明光Lsの走査方向を任意の方向に設定したり、スリット状の照明光Lsの向き(例えば、照明光Lsの長尺方向の向き)を変化させることができる。そのため、照射領域R1に対して異なる角度から照明光Lsを当てるなどして、被観察部位の観察をより高精度に行うことができる。なお、分光部材22、第一フォーカス光学系23、及び撮像素子33に加えて、眼底Efに対する照明光Lsの走査方向や照明光Lsの向きが変化するように、光スキャナ51を同期しながら回転(例えば、光スキャナ51の反射部(反射面)の法線周りに回転)させてもよい。
【0088】
また、第一分光(Ls21)と、第二分光(Ls22)とを異なる特性の光に分光として照射してもよい。例えば、第一分光(Ls21)と第二分光(Ls22)の波長を異なるものとすることで、被観察対象に照射される第一分光(Ls21)と第二分光(Ls22)の上下位置に応じて被観察領域に対する装置本体11の遠近位置を評価することができる。制御装置14は、被観察領域である眼底Efに照射された照明光Lsのうち、第一分光(Ls21)が第二分光(Ls22)よりも下方に位置した場合(
図6の正面
図6B2)は被観察領域に対して装置本体11が遠いと判定でき、第一分光(Ls21)が第二分光(Ls22)よりも上方に位置した場合(
図6の正面
図6B3)は被観察領域に対して装置本体11が遠いと判定できる。なお、第一分光(Ls21)と第二分光(Ls22)の波長を異ならせる分光方法として、例えば、分光部材22の分割孔221に合焦評価時にのみダイクロイックフィルタを配置させることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 眼科装置
2 照明系
3 受光系
6A1~6A3,6A5~6A7 側面図
6B1~6B9 正面図
7 ラインプロファイル
11 装置本体
12 操作部
13 表示部
14 制御装置
21 光源
22 分光部材
23 第一フォーカス光学系
24 第一照明系レンズ
25 第二照明系レンズ
31 第二フォーカス光学系
32 受光系レンズ
33 撮像素子
51 光スキャナ
52 光路分割部材
53 対物レンズ
61 被観察領域
71 取得画像
141 照明制御部
142 偏向制御部
143 撮像制御部
144 信号取得部
145 画像生成部
146 合焦評価部
147 繰り返し制御部
148 合焦制御部
149 表示制御部
221 分割孔
231 スリット孔
331 受光領域
331A 受光領域
332 露光ライン
333 露光ライン群
521 開口
611 被撮像ライン
711 明領域
712 暗領域
A 光軸
B 光軸
D1 走査方向
D2 露光方向
D3 検出方向
E 被検眼
Ea 前眼部
Ef 眼底
F1 タイミング特性
F2 タイミング特性
F3 変調伝達関数
I 光強度
Lb 戻り光
Ls 照明光
Ls11 第一成分光
Ls12 第一成分光
Ls21 第二成分光(第一分光)
Ls22 第二成分光(第二分光)
N ライン番号
R1 照射領域
S1 光路断面位置
V 可視度
f01~f03 空間周波数
p 第一検出値
v 第二検出値