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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169724
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】オートサンプラ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20231122BHJP
   G01N 21/31 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G01N35/10 C
G01N21/31 610A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081015
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】潮海 麻生
(72)【発明者】
【氏名】高見 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 悟史
(72)【発明者】
【氏名】宇澤 志保美
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
【テーマコード(参考)】
2G058
2G059
【Fターム(参考)】
2G058CB04
2G058EA02
2G058ED03
2G058ED35
2G058GA01
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB04
2G059CC03
2G059DD01
2G059DD12
2G059DD13
2G059DD16
2G059EE01
2G059FF01
2G059PP01
(57)【要約】
【課題】ティーチングを行うことが困難な分析装置であっても、チップの先端の位置を確認することができる技術を提供する。
【解決手段】試料を採取及び吐出するためのチップ25が取り付けられる試料採取部23、24と、チップに試料容器から試料を採取する第1位置と、該チップから分析装置の試料注入部に試料を注入する第2位置と、第3位置との間で試料採取部を移動させる移動機構27と、試料採取部が第3位置にあるときにチップの先端の画像を取得する画像取得部26と、試料採取部が第3位置にあるときにチップの先端の反射像が画像取得部の視野内に入るように配置された反射部材28と、画像取得部により取得された画像における、チップの先端の位置及び該チップの反射像の先端の位置に基づいて、チップの先端の三次元位置を求める三次元位置算出部42とを備えるオートサンプラ20。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を採取及び吐出するためのチップが取り付けられる試料採取部と、
前記チップに試料容器から試料を採取する第1位置と、該チップから分析装置の試料注入部に前記試料を注入する第2位置と、第3位置との間で前記試料採取部を移動させる移動機構と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の画像を取得する画像取得部と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の反射像が前記画像取得部の視野内に入るように配置された反射部材と、
前記画像取得部により取得された画像における、前記チップの先端の位置及び該チップの反射像の先端の位置に基づいて、前記チップの先端の三次元位置を求める三次元位置算出部と
を備えるオートサンプラ。
【請求項2】
さらに、
前記試料採取部が前記第3位置にあるときの、前記チップの先端の基準位置に関する情報が保存された記憶部と、
前記三次元位置算出部により算出された三次元位置と前記基準位置の差分に基づいて、前記第1位置及び前記第2位置への前記試料採取部の移動量を予め決められた移動量から変更する移動量調整部
を備える、請求項1に記載のオートサンプラ。
【請求項3】
前記反射部材が、その法線が、前記チップの先端と該先端を捉える前記画像取得部の画素とを結ぶ直線に対して非平行である向きに配置された平板ミラーである、請求項1又は2に記載のオートサンプラ。
【請求項4】
前記チップは管状の部材であり、
前記平板ミラーの反射面が、前記チップの中心軸と略平行に配置される、請求項3に記載のオートサンプラ。
【請求項5】
前記移動機構が、前記試料採取部とともに前記画像取得部を移動させる、請求項1又は2に記載のオートサンプラ。
【請求項6】
前記移動機構が、前記試料採取部とともに前記反射部材を移動させる、請求項1又は2に記載のオートサンプラ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のオートサンプラを備えた原子吸光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の試料を分析するために用いられるオートサンプラに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料水等の液体試料に含まれている金属等の元素を定量するために、原子吸光光度計が用いられている(例えば特許文献1)。原子吸光光度計では、液体試料を熱分解して原子蒸気を生成し、その原子蒸気に光を照射して吸光度を測定する。
【0003】
原子吸光光度計は、測定部とオートサンプラを備えている。測定部は、試料加熱部と、該試料加熱部で生成される原子蒸気に光を照射する光源と、原子蒸気を通過した光を検出する検出器を備えており、試料加熱部には液体試料を注入するための試料注入部が設けられている。オートサンプラは、液体試料を収容した試料容器が複数セットされる試料載置部と、液体試料を試料容器から採取するために用いられる管状のチップと、該チップが先端に取り付けられたアームと、該アームを試料採取位置と試料注入位置の間で移動させる移動機構を備えている。分析の際には、オートサンプラのアームに取り付けられたチップを試料容器の内部に差し込んで液体試料を採取し、該チップを試料注入部に差し込んで液体試料を試料加熱部に注入する。
【0004】
使用を繰り返すうちにチップが劣化して、つまりが生じたり、先に測定した液体試料がチップ内に残存してコンタミネーションが生じたりすることを防止するために、分析者は適宜の時点でチップを交換する。このとき、チップの交換を分析者が手作業で行うため、チップが傾いた状態で取り付けられるなどの取り付け誤差が生じうる。原子吸光光度計では、試料注入部の開口の大きさが例えば直径1.8mm、チップの外径が例えば1.5mmであり、チップの径方向の両側に許される誤差は0.15mm未満と非常に小さい。これよりも取り付け誤差が大きいと、チップが試料注入部に接触してしまう。そのため、従来、チップを交換した後には、チップの先端が試料注入部の直上に位置するようにアームの位置を調整する、ティーチングと呼ばれる作業が行われている。特許文献2及び3には、チップの先端と試料注入部の両方を同時に捉える位置に配置したカメラで取得した画像をモニタに表示し、その画像を分析者が確認しながらティーチングを行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3127657号
【特許文献2】国際公開第2021/124513号
【特許文献3】特開2012-32310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ティーチングを行うためには、チップの先端と試料注入部の両方を捉える位置にカメラを配置する必要がある。しかし、原子吸光光度計では、試料加熱部から熱が逃げるのを防止するために、試料注入部の近傍以外は断熱部材で覆われている。また、試料加熱部を挟んで配置される光源と検出器も遮光部材で覆われている。さらに、装置を小型化するため、筐体内に無駄な空間が生じないように各部が配置されている。そのため、チップの先端と試料注入部の両方を捉える位置にカメラを配置可能な空間が存在せず、ティーチングを行うことが難しい場合があった。
【0007】
ここでは原子吸光光度計を例に従来技術の課題を説明したが、原子吸光光度計以外の分析装置においてオートサンプラを使用する場合にも上記同様の問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ティーチングを行うことが困難な分析装置であっても、チップの先端の位置を確認することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るオートサンプラは、
試料を採取及び吐出するためのチップが取り付けられる試料採取部と、
前記チップに試料容器から試料を採取する第1位置と、該チップから分析装置の試料注入部に前記試料を注入する第2位置と、第3位置との間で前記試料採取部を移動させる移動機構と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の画像を取得する画像取得部と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の反射像が前記画像取得部の視野内に入るように配置された反射部材と、
前記画像取得部により取得された画像における、前記チップの先端の位置及び該チップの反射像の先端の位置に基づいて、前記チップの先端の三次元位置を求める三次元位置算出部と
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るオートサンプラでは、試料採取部を第3位置に移動させた状態で、画像取得部により、該チップの先端の実像と該チップの先端の反射像を含む画像を取得し、それらの位置に基づいて該チップの先端の三次元位置を求める。なお、第3位置は、液体試料を採取する第1位置及び液体試料を注入する第2位置のいずれとも異なる位置であってもよく、いずれかと同じ位置であってもよい。本発明では、試料注入部等の位置に関係なく第3位置を設定し、試料採取部に取り付けられているチップの先端の三次元位置を求める。従って、ティーチングを行うことが困難な分析装置であっても、チップの先端の位置を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るオートサンプラの実施例を含む原子吸光光度計の要部構成図。
図2】第1実施例のオートサンプラにおけるチップ等の位置関係を説明する図。
図3】第1実施例のオートサンプラにおいてチップの先端の位置を確認する処理の手順のフローチャート。
図4】第1実施例のオートサンプラについて、ZX面内における、カメラの画素の位置とチップの先端の位置の関係を説明する図。
図5】第2実施例のオートサンプラにおけるチップ等の位置関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るオートサンプラの第1実施例及び第2実施例について、以下、図面を参照して説明する。第1実施例及び第2実施例のオートサンプラはいずれも、原子吸光光度計の一部に組み込まれて用いられる。
【0013】
図1は第1実施例のオートサンプラ又は第2実施例のオートサンプラを含む原子吸光光度計1の概略図である。原子吸光光度計1は、大別して、測定部10及びオートサンプラ20で構成される分析部3と、制御・処理部4で構成されている。
【0014】
測定部10は、試料加熱部11と、該試料加熱部11で生成される原子蒸気に光を照射する光源12と、原子蒸気を通過した光を検出する検出器13を備えている。試料加熱部11は電気加熱炉であり、その中央上部に試料注入部14が設けられている。実施例1及び2の試料注入部14の開口の直径は、例えば1.8mmである。光源12から検出器13に至る光路のうち、試料注入部14を除いた部分は遮光及び断熱のための遮光・断熱部材15で覆われている。
【0015】
オートサンプラ20は、液体試料を収容した試料容器22が複数セットされるターンテーブル21と、該試料容器22から液体試料を採取するためのチップ25が先端部の下面に取り付けられたアーム24と、該アーム24の基端部が回転可能に取り付けられた軸部材23を備えている。オートサンプラ20には、軸部材23を中心にアーム24を回転させたり、軸部材23及びアーム24を水平面内及び鉛直方向に移動したりするための移動機構27が設けられている。移動機構27は、少なくとも、チップ25が取り付けられたアーム24を、液体試料を採取する第1位置(図1に破線で示す位置)、液体試料を試料注入部14に注入する第2位置(図1に二点鎖線で示す位置)、及びチップ25の先端の三次元位置を確認するための第3位置(図1に実線で示す位置)に移動可能に構成されている。実施例1及び2で用いるチップ25の外径は1.5mmである。なお、実施例1及び2におけるチップ25は管状(中空の棒)であるが、他の形状であってもよい。
【0016】
また、アーム24の中央部の下面にはカメラ26が取り付けられており、先端部のチップ25の近傍にはLED29(図1では図示略)が取り付けられている。カメラ26は、LED29により照明されたチップ25の先端を視野に捉える向きで取り付けられている。さらに、チップ25が取り付けられたアーム24が上記第3位置にあるときに、該チップ25の先端の反射像がカメラ26の視野に入る位置及び向きに平板ミラー28が配置されている。
【0017】
制御・処理部4は、記憶部41を有している。記憶部41には、原子吸光光度計1を用いた測定時に使用する各種の測定条件(例えば、測定対象元素と、当該元素の測定時に使用する光源の種類及び検出器13で検出する光の波長を対応付けた情報など)が保存されている。また、記憶部41には、チップ25の先端の標準三次元位置の情報と、上記第1位置、第2位置、及び第3位置の間でアーム24を移動させる際の、移動機構27によるアーム24の移動量の情報が保存されている。さらに、記憶部41には、チップ25の先端の位置を決定する際に使用する各種の計算式(後記)が保存されている。
【0018】
また、制御・処理部4は、機能ブロックとして、三次元位置算出部42、移動量調整部43、分析制御部44、及び測定データ処理部45を備えている。制御・処理部4の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた原子吸光光度計用プログラムをプロセッサで実行することにより上記の機能ブロックが具現化される。制御・処理部4には、キーボードやマウスなどで構成される入力部51と、液晶ディスプレイなどで構成される表示部52が接続されている。
【0019】
原子吸光光度計では、測定を繰り返すうちにチップが劣化して、つまりが生じたり、先に測定した液体試料がチップ内に残存してコンタミネーションが生じたりすることがある。これらを防止するために、分析者は適宜の時点でチップ25を交換する。このとき、チップ25の交換を分析者が手作業で行うため、チップ25が傾いた状態で取り付けられるなどの取り付け誤差が生じうる。本実施例の原子吸光光度計1では、試料注入部14の開口の大きさは直径1.8mm、チップ25の外径が1.5mmであり、径方向に許される誤差は0.15mm未満と非常に小さい。これよりも取り付け誤差が大きいと、チップが試料注入部に接触してしまう。
【0020】
そこで、本実施例の原子吸光光度計1では、分析者がチップ25を交換した後、以下の手順でチップ25の先端の三次元位置を確認する。本実施例の原子吸光光度計1は、三次元位置算出部42によりチップ25の先端の三次元位置を確認する動作に特徴を有する。
【0021】
図2は、第1実施例のオートサンプラにおける、チップ25等の各部の位置関係、及び以下に説明する実像の直線方程式及び鏡像の直線方程式等を示す図である。また、図3は、第1実施例のオートサンプラにおいて、チップ25の先端の三次元位置を確認する際の手順のフローチャートである。
【0022】
分析者が、チップ25の先端の三次元位置の確認を指示する所定の入力操作を行うと、三次元位置算出部42は、移動機構27によりアーム24を第3位置に移動させる(ステップ1)。以降の動作も、三次元位置算出部42による制御の下で実行される。
【0023】
続いて、三次元位置算出部42は、LED29を点灯させてチップ25を照明しながら、カメラ26によりチップ25の実像の先端と、チップ25の鏡像(平板ミラー28により反射された像)の先端を含む画像を取得する(ステップ2)。
【0024】
そして、チップ25の実像の先端を捉えたカメラ26の画素の位置に基づいて、チップ25の先端が位置し得る直線を表す式(実像の直線方程式)を求める(ステップ3)。
【0025】
次に、上記実像の直線方程式を、平板ミラー28の反射面に対して折り返し、チップ25の先端の鏡像が位置し得る直線を表す式(鏡像の直線方程式1)を求める(ステップ4)。
【0026】
また、チップ25の鏡像の先端を捉えた画素の位置に基づいて、チップの25の鏡像の先端が位置し得る直線を表す式(鏡像の直線方程式2)を求める(ステップ5)。
【0027】
さらに、鏡像の直線方程式1で表される直線と、鏡像の直線方程式2で表される直線の交点を求め、この位置を、チップ25の先端の鏡像の位置として決定する。ただし、カメラ26の解像度やミラー角度の取付け精度よっては、各方程式に多少の誤差が生じる場合があり、その結果、鏡像の直線方程式1と鏡像の直線方程式2に交点が存在しないことがある。その場合には、鏡像の直線方程式1で表される直線と、鏡像の直線方程式2で表される直線の最近接点をチップ25の先端の鏡像の位置として決定する(ステップ6)。
【0028】
続いて、ステップ6で求めた、チップ25の鏡像の先端の位置を、平板ミラー28の反射面に対して折り返すことにより、チップ25の実像の先端の位置を決定する(ステップ7)。
【0029】
チップ25の先端の三次元位置が決定すると、移動量調整部43は、記憶部41に保存されている標準三次元位置との差分を求め(ステップ8)、その差分の値により、記憶部41に保存されている、第1位置、第2位置、及び第3位置の間でアーム24を移動させる際の、移動機構27によるアーム24の移動量の情報を更新する(ステップ9)。これにより、分析者がチップ25を取り付けた時に生じた誤差が解消される。
【0030】
原子吸光光度計では、試料加熱部11である電気加熱炉に劣化や変形が生じた場合に試料加熱部11を交換する。試料加熱部11の交換も、通常、分析者が手作業で行うため、試料注入部14の開口の位置が変化することがある。従って、チップ25の交換と併せて試料加熱部11の交換も行う場合は、試料注入部14の位置をカメラ26で撮影する等により、試料注入口14の位置の変化量(試料加熱部11を交換する前の試料注入口14の位置と、試料加熱部11の交換した後の試料注入口14の位置のずれ)を求め、その変化量を反映して標準三次元位置を更新したうえで、チップ25の三次元位置と更新後の標準三次元位置の差分を求め(ステップ8)、アーム24の移動量の情報を更新するとよい(ステップ9)。
【0031】
次に、上記の各ステップにおいて使用する具体的な方程式等の一例を説明する。
【0032】
鉛直方向をZ軸、アームが延びる方向をY軸、これらに垂直な方向をX軸とするワールド座標系を導入する。ここでは、説明を簡便にするため、光軸が鉛直下方(-Z方向)となるようにカメラ26が配置されており、また、ミラー28の反射面がZX平面に平行になるようにミラー28が配置されているものとし、より一般的な配置については後述する。また、カメラ26の画素数を1600x1600画素とする。さらに、X軸方向及びY軸方向の画素分解能をそれぞれdx及びdy、X軸方向及びY軸方向の画像サイズをImSx及びImSy、カメラ26から対象物(チップ25の先端)までの距離をWD、X軸方向及びY軸方向のカメラ26の視野角をθx及びθyとする。ZX面内におけるX軸方向の各パラメータを図4に示す。
【0033】
上記のパラメータを用いて、X方向の視野lx[mm]は次式で表される。
【数1】
【0034】
また、ピクセル分解能dx1は、視野lxをX軸方向の画素数1600で等分したものであるから、
【数2】
となる。YZ面内におけるY軸方向のパラメータも、上記の式(1)(2)と同様の式で表される。
【0035】
さらに、カメラ26の位置が原点であり、カメラ26の光軸上のX軸方向の値は0であることから、画素(u.v)により検出される物体の位置(x',y',z')は、
【数3】
【数4】
【数5】
と表すことができる(上記のステップ3)。
【0036】
また、カメラ26の位置(u,v)にある画素に写る物体で、対象物までの距離WDが不明であるとき、実際に対象物がある可能性のある位置を示す方程式(実像の直線方程式)は次式で表される。
【数6】
【0037】
次に、ワールド座標系における平板ミラー28の反射面(鏡面)を表す平面の方程式を求める。平面の法線ベクトルを(l,m,n)とし、Y軸との交点をLとすると、鏡面(を含む平面)は、次式で表される。図2に示す第1実施例では、法線ベクトルは(0,1,0)である。従って、後記の各式においてもl=n=0, m=1とすればよい。
【数7】
【0038】
続いて、反射面の平面方程式に対して、実像の直線方程式を折り返す。これにより実像の画素位置から予測した鏡像の位置を示す方程式が得られる。実像の直線方程式は、媒介変数を用いると次式で表される。
【数8】
【0039】
ここで、チップ25の先端が位置する可能性があると考えられる三次元位置の点群(sx',sy',sz')を用いると、該点群を通り鏡面と直交する直線は次式で表される。
【数9】
【0040】
まず、この直線と鏡面の交点Hの点群を求める。式(9)をpとして点Hを媒介変数表示で表すと、
【数10】
となる。
【0041】
次に、点Hは鏡面上に位置するため、式(10)を鏡面の方程式(7)に代入すると、
【数11】
となる。
【0042】
よって、pは以下のように求められる。
【数12】
【0043】
上式(11)から媒介変数pを消去すると、点Hを表す点群(媒介変数s)が決まる。鏡面に対して点群(sx',sy',sz')に対称な点群を(X',Y',Z')とすると、これらの中点がHであることから、
【数13】
と立式できる。
【0044】
これを、(X',Y',Z')について解くことにより、媒介変数をsとする直線が求められる。この直線は、実像の直線方程式を鏡面に対して折り返した方程式(鏡像の直線方程式1)である(ステップ4)。
【数14】
【0045】
次に、実像と同様に、カメラ26に映った鏡像の画素位置(a,b)を用いて鏡像のワールド座標系における位置(xm',ym',zm')は、鏡像の位置のz座標をzm’=WDmで表すと、
【数15】
【数16】
【数17】
と表される。
【0046】
従って、鏡像の直線方程式2を媒介変数で表すと、次式のようになる(上記のステップ5)。
【数18】
【0047】
実際の鏡像の位置は、式(14)と式(18)の交点であることから、次式(19)~(21)を満たす位置として求めることができる(上記のステップ6)。
【数19】
【数20】
【数21】
【0048】
この鏡像位置を(xm,ym,zm)とすると、チップ25の先端の実像の位置(xr,yr,zr)は、これを鏡面に対して反転させた位置である。点(xm,ym,zm)を通り、鏡面と直交する直線の方程式は次式で示される。
【数22】
【0049】
上式(22)の直線と鏡面の交点Oは、上式=qとして媒介変数で表すと、
【数23】
となる。
【0050】
点Oは鏡面上に位置する点であるため、
【数24】
と表すことができる。
【0051】
上式(24)をqについて解くことにより、点Oの位置が求められる。
【数25】
【0052】
ここで、チップ25の先端の実像の位置(xr,yr,zr)とチップ25の先端の鏡像の位置(xm,ym,zm)の中点が点Oであることから、
【数26】
となる。
【0053】
上式(26)を(xr,yr,zr)について解くことにより、チップ25の実像の先端の位置を決めることができる(上記のステップ7)。
【数27】
この式(27)における媒介変数qは上式(25)で表される。
【0054】
上記の第1実施例では、説明を簡便にするためにカメラ26の光軸が鉛直下方を向いている場合の計算例を示したが、カメラ26の光軸は他の方向を向いていてもよい。また、上記では、平板ミラー28の反射面(鏡面)がZX平面に平行である場合の計算例を示したが、平板ミラー28の向きはX軸、Y軸、及びZ軸の全てに対して傾斜していてもよい。これらの場合には、上記計算式の例に、カメラ26の光軸の向きや平板ミラー28の反射面の向きに応じたパラメータを導入し、適宜の座標変換を行うことによってチップ25の先端の位置を決定することができる。さらに、本発明における反射部材は平板ミラー28に限らず、鏡面の曲率が既知である適宜のミラーを用いることができる。
【0055】
カメラの光軸を鉛直下方から傾けるとともに、平板ミラーの反射面をZX平面と非平行に配置した構成の第2実施例について、図5を参照して説明する。図5において、カメラ261と平板ミラー281以外の各構成要素は第1実施例と同じであるため、これらについては第1実施例と同じ符号を付して説明を省略する。また、チップ25の実像の先端の位置を決める方法についても、第1実施例と異なる、カメラ261と平板ミラー281の配置に関連する内容のみを説明する。
【0056】
第2実施例では、カメラ261の光軸がZ軸に対して(90-γ)度傾けられている。
【0057】
第1実施例では、実像の直線方程式を式(6)で表したが、第2実施例ではカメラ261の光軸が、第1実施例のカメラ26の光軸から角度γだけ傾いている。従って、第2実施例では、式(6)における座標系をX軸周りに角度γだけ変換する変換行列を用いる等の演算処理を行って、第2実施例における実像の直線方程式を求めればよい。
【0058】
また、第1実施例では、ワールド座標系における平板ミラー28の反射面(鏡面)を表す平面を上式(7)における法線ベクトル(l,m,n)を(0,1,0)とした。第2実施例の構成や、平板ミラーの反射面をX軸、Y軸、及びZ軸の全てに対して傾けた構成では、平板ミラー281の反射面(鏡面)のX軸に対する傾きθmや煽り角(XY平面に対する傾き)Φなどの適宜のパラメータを用いて法線ベクトル(l,m,n)の具体的な値を求めればよい。
【0059】
なお、上記実施例2のように、カメラ261及び平板ミラー281を傾けて配置する際には、その法線がチップ25の先端と該先端を捉えるカメラ261の画素とを結ぶ直線に対して非平行である向きに平板ミラー281を配置するとよい。
【0060】
カメラ261とチップ25の先端を結ぶ線の延長線上に、チップ25の先端の鏡像が位置していると、チップ25の先端の実像と鏡像がカメラ261の同じ画素で捉えられてしまい、チップ25の先端の奥行方向の位置を特定することができない。上記のように、平板ミラー281の法線が、チップ25の先端と該先端を捉えるカメラ261の画素を結ぶ直線に対して非平行になるように配置することにより、カメラ261の異なる画素にチップの先端の実像と鏡像を形成して奥行方向の位置を確実に特定することができる。
【0061】
上記実施例及び計算式の例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0062】
上記実施例は、原子吸光光度計1に組み込まれたオートサンプラであるが、液体クロマトグラフ等の他の分析装置において複数の試料を採取する場合にも上記実施例と同様の構成を採ることができる。
【0063】
上記実施例では、試料を採取する第1位置、試料を注入する第2位置のいずれとも異なる第3位置において、チップ25の先端の位置を決定したが、装置の構成等によっては、即ち、カメラ26や平板ミラー28などを配置可能な空間がある場合には、第1位置又は第2位置においてチップ25の先端の位置を確認することができる。
【0064】
上記実施例では、チップ25が先端に取り付けられているアーム24に、カメラ26を取り付けて、チップ25とカメラ26が一体で移動する構成としたが、カメラ26の位置をアーム24に取り付けることは必須ではなく、カメラ26の位置を固定してもよい。また、上記実施例では、平板ミラー28の位置を固定したが、平板ミラー28をアーム24に取り付けてもよい。
【0065】
本実施例ではLED29によりチップ25の先端を照明する構成としたが、第3位置が十分に明るい場合にはLED29等の照明部を用いなくてもよい。
【0066】
[態様]
上述した複数の例示的な実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0067】
(第1項)
本発明の一態様に係るオートサンプラは、
試料を採取及び吐出するためのチップが取り付けられる試料採取部と、
前記チップに試料容器から試料を採取する第1位置と、該チップから分析装置の試料注入部に前記試料を注入する第2位置と、第3位置との間で前記試料採取部を移動させる移動機構と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の画像を取得する画像取得部と、
前記試料採取部が第3位置にあるときに前記チップの先端の反射像が前記画像取得部の視野内に入るように配置された反射部材と、
前記画像取得部により取得された画像における、前記チップの先端の位置及び該チップの反射像の先端の位置に基づいて、前記チップの先端の三次元位置を求める三次元位置算出部と
を備える。
【0068】
第1項のオートサンプラでは、試料採取部を第3位置に移動させた状態で、画像取得部により、該チップの先端の実像と該チップの先端の鏡像を含む画像を取得し、それらの位置に基づいて該チップの先端の三次元位置を求める。なお、第3位置は、液体試料を採取する第1位置及び液体試料を注入する第2位置のいずれとも異なる位置であってもよく、いずれかと同じ位置であってもよい。第1項のオートサンプラでは、試料注入部等の位置に関係なく第3位置を設定して試料採取部に取り付けられているチップの先端の三次元位置を求める。従って、ティーチングを行うことが困難な分析装置であっても、チップの先端の位置を確認することができる。
【0069】
(第2項)
第1項に記載のオートサンプラにおいて、さらに、
前記試料採取部が前記第3位置にあるときの、前記チップの先端の基準位置に関する情報が保存された記憶部と、
前記三次元位置算出部により算出された三次元位置と前記基準位置の差分に基づいて、前記第1位置及び前記第2位置への前記試料採取部の移動量を予め決められた移動量から変更する移動量調整部
を備える。
【0070】
第2項のオートサンプラでは、移動量調整部によって、チップの取り付け誤差を解消するための位置調整を自動的に行うことができる。
【0071】
(第3項)
第1項又は第2項に記載のオートサンプラにおいて、
前記反射部材が、その法線が、前記チップの先端と該先端を捉える前記画像取得部の画素とを結ぶ直線に対して非平行である向きに配置された平板ミラーである。
【0072】
画像取得部とチップの先端を結ぶ線の延長線上に、チップの先端の鏡像が位置していると、チップの先端の実像と鏡像が画像取得部の同じ位置に形成されてしまい、チップの先端の奥行方向の位置を特定することができない。第3項のオートサンプラでは、法線が、チップの先端と該先端を捉える画素を結ぶ直線に対して非平行である向きに配置された平板ミラーを用いることにより、画像取得部の異なる位置にチップの先端の実像と鏡像を形成して奥行方向の位置を確実に特定することができる。
【0073】
(第4項)
第3項に記載のオートサンプラにおいて、
前記チップは管状の部材であり、
前記平板ミラーの反射面が、前記チップの中心軸と略平行に配置される。
【0074】
第4項のオートサンプラでは、平板ミラーの反射面がチップの中心軸(長手方向の軸)に対して平行であるため、両者が非平行である場合よりも少ないパラメータを含む計算式を用いて簡便にチップの先端の三次元位置を求めることができる。
【0075】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載のオートサンプラにおいて、
前記移動機構が、前記試料採取部とともに前記画像取得部を移動させる。
【0076】
第5項のオートサンプラでは、画像取得部と試料採取部が一体的に移動するため、試料採取部の位置に関わらず、常にチップの先端の実像を確認することができる。
【0077】
(第6項)
第5項に記載のオートサンプラにおいて、
前記移動機構が、前記試料採取部とともに前記反射部材を移動させる。
【0078】
第6項のオートサンプラでは、画像取得部と反射部材の両方が試料採取部と一体的に移動するため、試料採取部の位置に関わらず、他の部材により形成される背景とのコントラスト等を考慮して、画像を確認しやすい位置でチップの先端の三次元位置を確認することができる。
【0079】
(第7項)
第1項から第6項のいずれかに記載のオートサンプラを備えた原子吸光光度計。
【0080】
第1項から第6項に記載のオートサンプラは、特に、試料採取部の径が小さく、また、試料注入部の近傍でティーチングを行うことが困難な分析装置において好適に用いることができ、その典型的な一例として、第7項の原子吸光光度計が挙げられる。
【符号の説明】
【0081】
1…原子吸光光度計
10…測定部
11…試料加熱部
12…光源
13…検出器
14…試料注入部
15…遮光・断熱部材
20…オートサンプラ
21…ターンテーブル
22…試料容器
23…軸部材
24…アーム
25…チップ
26…カメラ
27…移動機構
28…平板ミラー
29…LED
3…分析部
4…制御・処理部
41…記憶部
42…三次元位置算出部
43…移動量調整部
44…分析制御部
45…測定データ処理部
51…入力部
52…表示部
図1
図2
図3
図4
図5