(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169754
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】工作機械の送り軸の監視装置及び監視方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081064
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】北郷 匠
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB01
3C269BB03
3C269BB12
3C269CC02
3C269MN13
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】加工面性状に悪影響を与える送り軸の異常を適切に判定する。
【解決手段】S1で各送り軸の指令値と現在位置との差である位置偏差を算出し、S2で位置偏差を算出したタイミングにおける機械座標に対する加工面との垂直方向を算出する。S3で、各送り軸の位置偏差を加工面との垂直方向の成分に変換し、S4で、各送り軸の位置偏差を加工面との垂直方向に変換した値と、あらかじめ設定してある閾値とを比較し、変換した値が閾値を越えている場合は、S5で送り軸に異常があると判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に取り付けた工具又はワークを回転させ、移動体を送り軸により駆動させながらワークの加工を行う工作機械において、前記送り軸の異常を判断する工作機械の送り軸の監視装置であって、
前記送り軸の位置偏差を算出する位置偏差算出手段と、
位置偏差算出時の加工面との垂直方向を算出する加工面垂直方向算出手段と、
前記送り軸の位置偏差を前記垂直方向の成分に変換する位置偏差成分変換手段と、
位置偏差算出時における前記主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量の少なくとも一方を前記主軸の動作状態として、予め設定した前記主軸の動作状態と閾値との関係に基づいて前記閾値を算出する閾値算出手段と、
前記位置偏差成分変換手段により前記垂直方向の成分に変換された前記送り軸の位置偏差と、前記閾値算出手段により算出された前記閾値とを比較し、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合に前記送り軸に異常があると判断する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする工作機械の送り軸の監視装置。
【請求項2】
主軸に取り付けた工具又はワークを回転させ、移動体を送り軸により駆動させながらワークの加工を行う工作機械において、前記送り軸の異常を判断する工作機械の送り軸の監視方法であって、
前記送り軸の位置偏差を算出する位置偏差算出ステップと、
位置偏差算出時の加工面との垂直方向を算出する加工面垂直方向算出ステップと、
前記送り軸の位置偏差を前記垂直方向の成分に変換する位置偏差成分変換ステップと、
位置偏差算出時における前記主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量の少なくとも一方を前記主軸の動作状態として、予め設定した前記主軸の動作状態と閾値との関係に基づいて前記閾値を算出する閾値算出ステップと、
前記位置偏差成分変換ステップで前記垂直方向の成分に変換された前記送り軸の位置偏差と、前記閾値算出ステップで算出された前記閾値とを比較し、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合に前記送り軸に異常があると判断する異常判定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の送り軸の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主軸に取り付けた工具又はワークを回転させながらワークの加工を行う工作機械において、加工面性状に悪影響を与える送り軸の異常を判断するための工作機械の送り軸の監視装置及び監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の工作機械の送り軸では、モータの回転運動をボールねじに伝えて駆動させ、転がり案内装置に沿って移動可能とされる方式が多く使用されている。この送り軸は、ボールねじや転がり案内装置といった駆動部品に対し、経年劣化や異物の混入、潤滑不良などが発生すると、正常に動作しない状態となる。結果、加工物の形状不良や加工面性状不良といった加工不良が生じ、生産に悪影響を与える。よって、工作機械の稼働における安定した生産を実現するために、機械の異常を検知し、機械の状態を管理者や作業者に知らせてワークの加工不具合を未然に防ぐといったことが必要とされ、様々な診断を行う方法が提案されている。
例えば特許文献1には、駆動部を有する機械に通常設けられている駆動動力値の検出手段を用い、予め計測したアクチュエータの正常な駆動動力値を記憶手段に記憶しておき、検出された駆動動力値を正常な駆動動力値と比較して、その差が閾値以上の時に動力系に故障があると判定する故障診断装置が開示されている。この故障診断装置は、検出した駆動動力値と記憶された正常な駆動動力値とを比較して、その差がある閾値以上であるときには重故障と判断し、その差が比較的小さな閾値以上であるときには軽故障と判断している。
また、特許文献2には、工作機械の駆動部を所定のパターンで駆動させて測定したデータから、バックラッシュ、位置偏差、駆動力の振幅、速度偏差などの評価データを算出する手段を持ち、算出された評価データと、実施日時と関連付けて記憶された評価データとを比較し、評価データが所定の変化を検知した時に警告を発する機械診断システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-250625号公報
【特許文献2】特開2018-73327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ユーザにより様々なワークを加工する工作機械では、放置しても短時間の内に駆動部が動作不能とならない軽度の異常では、異常の判断基準はユーザが加工するワークにより異なる場合がある。
工作機械の送り軸が劣化した際の動作影響としては、軸動作時の位置偏差の変化の増加が挙げられ、加工面品位や加工形状に悪影響を与えるが、加工するワーク、加工動作により、影響度合いが異なるため、異常とすべき送り軸の動作状態が異なる。例えば、部品加工では、送り軸動作の変動の方向と加工面とが平行である場合が多い、変動の発生しやすい加減速部が加工面にない場合が多い、といった理由により、送り軸の劣化の影響を受けにくいのに対し、金型加工では、自由曲面であるため、送り軸の劣化の影響を受けやすい。そのため、金型加工を基準としたような閾値で、軽度の異常や異常の予兆段階を検知し、部品交換を行うと、部品加工を行っているユーザでは、まだ問題なく使用できる段階であるにもかかわらず部品交換をしてしまう場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、このような問題に鑑みなされたものであり、加工面性状に悪影響を与える送り軸の異常を適切に判定することができる工作機械の送り軸の診断装置及び監視方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、主軸に取り付けた工具又はワークを回転させ、移動体を送り軸により駆動させながらワークの加工を行う工作機械において、前記送り軸の異常を判断する工作機械の送り軸の監視装置であって、
前記送り軸の位置偏差を算出する位置偏差算出手段と、
位置偏差算出時の加工面との垂直方向を算出する加工面垂直方向算出手段と、
前記送り軸の位置偏差を前記垂直方向の成分に変換する位置偏差成分変換手段と、
位置偏差算出時における前記主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量の少なくとも一方を前記主軸の動作状態として、予め設定した前記主軸の動作状態と閾値との関係に基づいて前記閾値を算出する閾値算出手段と、
前記位置偏差成分変換手段により前記垂直方向の成分に変換された前記送り軸の位置偏差と、前記閾値算出手段により算出された前記閾値とを比較し、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合に前記送り軸に異常があると判断する異常判定手段と、を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、主軸に取り付けた工具又はワークを回転させ、移動体を送り軸により駆動させながらワークの加工を行う工作機械において、前記送り軸の異常を判断する工作機械の送り軸の監視方法であって、
前記送り軸の位置偏差を算出する位置偏差算出ステップと、
位置偏差算出時の加工面との垂直方向を算出する加工面垂直方向算出ステップと、
前記送り軸の位置偏差を前記垂直方向の成分に変換する位置偏差成分変換ステップと、
位置偏差算出時における前記主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量の少なくとも一方を前記主軸の動作状態として、予め設定した前記主軸の動作状態と閾値との関係に基づいて前記閾値を算出する閾値算出ステップと、
前記位置偏差成分変換ステップで前記垂直方向の成分に変換された前記送り軸の位置偏差と、前記閾値算出ステップで算出された前記閾値とを比較し、前記位置偏差が前記閾値を超えた場合に前記送り軸に異常があると判断する異常判定ステップと、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、予め設定した主軸の動作状態と閾値との関係に基づいて閾値を算出し、垂直方向の成分に変換した送り軸の位置偏差と算出された閾値とを比較して送り軸の異常を判断するので、加工動作に応じた加工面性状に悪影響を与える送り軸の異常を適切に判定することが可能となる。よって、軽度の異常や異常の予兆段階でまだ問題なく使用できる部品を交換してしまう事態が起こりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械及び送り軸の監視装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械及び、本開示の第1の構成に係る送り軸の監視装置の一例を示すブロック構成図である。工作機械の主軸ハウジング1には、主軸モータで回転可能な主軸2が備えられ、主軸2の先端には工具3が取り付けられる。移動体である主軸ハウジング1は、Z軸方向に移動が可能となっている。また、移動体であるテーブル4の上には、ワーク5が固定され、テーブル4をベッド6上で互いに直交するX軸、Y軸方向に移動可能となっている。ここでは工具3とワーク5とを相対的に移動させることでワーク5の加工が行われる。
工作機械を制御するNC装置10は、プログラム解釈部11と、機械動作指令部12とを備えている。プログラム解釈部11は、オペレータが図示しない入力手段で入力したプログラムを主軸回転指令、送り軸動作指令に解釈する。機械動作指令部12は、プログラム解釈部11から送られた指令に基づいて主軸モータや各送り軸モータ等を制御する。機械動作指令部12の制御によりワーク5の加工が行われる。
【0010】
また、送り軸の監視装置でもあるNC装置10は、軸動作監視部13と、モニタ14とをさらに備えている。軸動作監視部13は、機械動作指令部12にて生成された主軸2および、X軸、Y軸、Z軸といった各送り軸の制御に関する情報を監視、分析する。そして、送り軸に異常な動作があると判断した場合、モニタ14に異常が検知されたことを表示する等の処理を行う。
軸動作監視部13は、本開示の位置偏差算出手段、加工面垂直方向算出手段、位置偏差成分変換手段、閾値算出手段、異常判定手段として機能する。
【0011】
次に、本開示の第2の構成に係る軸動作監視部13による送り軸の監視方法について、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
まず、各送り軸の指令値と現在位置との差である位置偏差を算出する(S1:位置偏差算出ステップ)。この算出は工作機械を構成する送り軸のすべてに対して、工作機械を構成する送り軸のうちのどこかの軸が切削送りで動作している場合に処理を行う。ここで算出する位置偏差は、加工面性状に強く影響を与える要素として、単位時間当たりの位置偏差の変動量とする。単位時間の設定は、送り軸の1回転当たりの変動や、加減速による影響により発生する振動が検知可能なように、いずれかの影響時間の長い方を設定する。また、単位時間当たりの位置偏差の絶対値において最大となる時間を次の工程における位置偏差を算出したタイミングとして用いる。なお、加工面性状に強く影響を与える要素として位置偏差の絶対値を用いる場合は、加工形状における影響が強くなるため、後述するように単位時間当たりの位置偏差の変動量に対する閾値と別の閾値を設定する必要がある。
【0012】
次に、位置偏差を算出したタイミングにおける機械座標に対する加工面との垂直方向を算出する(S2:加工面垂直方向算出ステップ)。例えば、
図1に示した構成の工作機械において、加工プログラムの座標情報のみから加工面との垂直方向を算出する場合は、下記のように算出される。
・1軸のみの動作の場合、加工面との垂直方向は、動作していない軸の方向となる。
動作状態1
(X、Y、Z)=(0、0、0)→(X、Y、Z)=(100、0、0)
⇒ 加工面との垂直方向 Y0度、Z0度
・2軸が動作している場合、加工面との垂直方向は、動作していない軸の方向および、動作している軸の座標平面における移動方向との垂直方向となる。
動作状態2
(X、Y、Z)=(0、0、0)→(X、Y、Z)=(100、100、0)
⇒ 加工面との垂直方向 Z0度、XY平面 135度
また、NC装置10に素材形状や工具形状が登録されている場合では、加工プログラム実行時の加工形状のシミュレーションを行うことにより、加工面との垂直方向を求めることも可能である。
【0013】
次に、各送り軸の位置偏差を加工面との垂直方向の成分に変換する(S3:位置偏差成分変換ステップ)。各送り軸の位置偏差の方向となる0度方向を基準に変換を行う。X軸の位置偏差が5μmであった際を例に説明すると、例えば、動作状態1では、Y0度方向の位置偏差は0、Z0度方向の位置偏差は0となる。動作状態2では、Z0度方向の位置偏差は0、XY平面135度方向の位置偏差は3.5μm(|5×cos135|)が算出値となる。
次に、各送り軸の位置偏差を加工面との垂直方向に変換した値と、図示しない記憶部にあらかじめ設定してある閾値とを比較する(S4)。変換した値が閾値を越えている場合は、送り軸に異常があると判定し(S5)、モニタ14に表示する。S4,S5が異常判定ステップとなる。
【0014】
位置偏差は加工負荷の影響を受けるため、粗加工といった加工負荷が大となる加工では位置偏差を許容するべき場合もあるため、加工負荷に応じた閾値設定となることが望ましい。本開示では、位置偏差算出時における主軸の動作状態に応じて閾値を可変とする構成も含んでいる。以下、主軸2の動作状態の判断方法及び閾値の算出方法(閾値算出ステップ)を2例挙げる。
第1の例では、主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値を用いる。単位時間とは主軸の1回転分の時間を最低の単位時間とするが、複数回転分の状態が取得できるように設定してもよい。まず、加工を行っていない空転時の主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値を予め算出、および記録しておく。また、主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値における空転時と位置偏差算出時における差分と閾値との関係を予め設定しておく。
そして、位置偏差算出時における主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値との差分を算出し、予め設定した差分と閾値との関係に基づいて監視に用いる閾値を設定する。この差分と閾値との関係は、所定の差分となる加工実施時の各送り軸の位置偏差を予め測定し、テーブルや関数を作成してもよい。
【0015】
第2の例では、主軸の負荷の単位時間当たりの変動量を用いる。単位時間とは主軸の1回転分の時間を最低の単位時間とするが、複数回転分の状態が取得できるように設定してもよい。この場合も、位置偏差算出時における主軸の負荷の単位時間当たりの変動量と閾値との関係を予め設定しておき、この関係に基づいて監視に用いる閾値を設定する。変動量と閾値との関係も、第1の例と同様に、予め行う実験により算出してもよい。また、主軸の負荷の単位時間当たりの変動量と工具径および加工方向とにより、送り軸にかかる負荷を算出し、この負荷と送り軸の剛性とを用いて位置偏差の変動量の許容値を求めてもよい。例えば、XY方向への加工の場合、X軸、Y軸に対しては送り軸にかかる負荷は変動量×工具径の値そのままとなり、基準の閾値と、前述の方法で計算された位置偏差の変動量の許容値とを合算した値が監視に用いる閾値となる。但し、Z軸に対しては送り軸に負荷はかからないため、基準の閾値となる。
なお、上述したそれぞれの閾値の設定については、ユーザの求める加工面品位に応じて、閾値を調整可能なインターフェースを設けてもよい。
【0016】
このように、上記形態の工作機械の送り軸の監視装置及び監視方法は、送り軸の位置偏差を算出して、位置偏差算出時の加工面との垂直方向を算出し、送り軸の位置偏差を垂直方向の成分に変換して、位置偏差算出時における主軸2の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量を主軸2の動作状態として、予め設定した主軸2の動作状態と閾値との関係に基づいて閾値を算出し、垂直方向の成分に変換した送り軸の位置偏差と算出された閾値とを比較し、位置偏差が閾値を越えた場合に送り軸に異常があると判断する。
この構成によれば、加工面性状に悪影響を与える送り軸の異常を適切に判定することができる。よって、軽度の異常や異常の予兆段階でまだ問題なく使用できる部品を交換してしまう事態が起こりにくくなる。
【0017】
なお、加工面との垂直方向は、加工面が曲面或いは球面であれば、接線方向で規定される面に対する垂直方向を採用することができる。
上記形態では、主軸の動作状態として、主軸の負荷の単位時間当たりの絶対値又は変動量を用いているが、絶対値と変動量との双方を用いて閾値を設定してもよい。
上記形態では、送り軸の異常を判定したらモニタに表示するようにしているが、音声やランプ等の他の報知手段を採用してもよい。報知と共に送り軸の動作を停止させてもよい。
上記形態では、NC装置に送り軸の監視装置を設けているが、送り軸の監視装置はNC装置と別に設置してもよい。
【符号の説明】
【0018】
1・・主軸ハウジング、2・・主軸、3・・工具、4・・テーブル、5・・ワーク、6・・ベッド、10・・NC装置、11・・プログラム解釈部、12・・機械動作指令部、13・・軸動作監視部、14・・モニタ。