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特開2023-169767眼鏡レンズ決定方法、眼鏡レンズ決定支援システム、眼鏡レンズ決定支援装置及び眼鏡レンズ決定支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169767
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ決定方法、眼鏡レンズ決定支援システム、眼鏡レンズ決定支援装置及び眼鏡レンズ決定支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20231122BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20231122BHJP
   A61B 3/028 20060101ALI20231122BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20231122BHJP
   G06T 7/20 20170101ALI20231122BHJP
【FI】
A61B3/113
A61B3/103
A61B3/028
G02C7/06
G06T7/20 300Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081085
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】門馬 司
【テーマコード(参考)】
2H006
4C316
5L096
【Fターム(参考)】
2H006BD03
4C316AA21
4C316AA30
4C316FA01
4C316FA18
4C316FB07
4C316FB22
4C316FB26
4C316FC21
4C316FY05
4C316FZ01
4C316FZ03
5L096AA06
5L096BA06
5L096CA04
5L096DA02
5L096FA33
5L096GA51
5L096HA02
5L096HA09
(57)【要約】
【課題】例えば、眼鏡店において実施するのに現実的な眼鏡レンズ決定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の第1の態様においては、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定方法が提供される。眼鏡レンズ決定方法は、被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出することを含む。眼鏡レンズ決定方法は、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者に適した眼鏡レンズを決定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定方法であって、
前記被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出することを含み、
前記マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定する、眼鏡レンズ決定方法。
【請求項2】
前記マイクロサッカードの発生頻度に関する回帰モデルを生成することを含み、
前記回帰モデルに基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定する、請求項1に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項3】
収差を有する収差画像を前記被検者に注視させて前記マイクロサッカードを検出し、
前記収差画像を前記被検者が注視しているときに検出された前記マイクロサッカードの発生頻度と、前記収差画像の収差量との関係を示す前記回帰モデルを生成する、請求項2に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項4】
予め処方された処方せんに従ったテストレンズを用いて前記収差画像を注視させる、請求項3に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項5】
収差のない特定画像を前記被検者に注視させて前記マイクロサッカードを検出し、
前記特定画像を前記被検者が注視しているときに検出された前記マイクロサッカードの発生頻度と、前記回帰モデルとに基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定する、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項6】
前記特定画像の見え方について前記被検者による主観的な判断が困難又は不能な場合に、現在のテストレンズとは異なるテストレンズを用いて前記特定画像を注視させる、請求項5に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項7】
現在のテストレンズとは異なるテストレンズとして、現在のテストレンズよりも前記マイクロサッカードの発生頻度が小さくなるテストレンズを用いる、請求項6に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項8】
前記回帰モデルにおける前記マイクロサッカードの発生頻度が小さくなるようにテストレンズを選択する、請求項7に記載の眼鏡レンズ決定方法。
【請求項9】
眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援システムであって、
前記被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部を備え、
前記マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする、眼鏡レンズ決定支援システム。
【請求項10】
眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援装置であって、
前記被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部を備え、
前記マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする、眼鏡レンズ決定支援装置。
【請求項11】
眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援装置として、コンピュータを機能させる眼鏡レンズ決定支援プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部として機能させ、
前記マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、前記被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする、眼鏡レンズ決定支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ決定方法、眼鏡レンズ決定支援システム、眼鏡レンズ決定支援装置及び眼鏡レンズ決定支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、眼科において検眼して得られた処方度数等が指示された処方せんに基づいて、生理光学的検査を行い、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者の目的、自覚症状、既往歴等を把握して決定される。
【0003】
眼鏡レンズは、眼鏡を装用する者が快適であるように調整されなければならない。したがって、眼鏡レンズは、被検者が眼鏡レンズを装用したときの見え方を正確に把握して決定される必要がある。
【0004】
しかし、眼鏡レンズは、完全に矯正された度数であっても、眼鏡を装用する者にとって必ずしも適切とは限らない。同様に、眼鏡レンズは、オートレフラクトメーターを用いた他覚的屈折検査を行って決定されたとしても、眼鏡を装用する者にとって必ずしも適切とは限らない。
【0005】
一般的に、眼鏡レンズの仕様は、仕様が異なる複数のテストレンズを用いて、各テストレンズを用いたときの見え方について、被検者の主観的な判断に基づいて、決定される。しかし、被検者の主観的な判断に基づく検査方法は、被検者がどのような見え方をしているかを正確に把握できない。正確に把握できない理由は、見え方について、被検者が正確に説明することが困難又は不能なことに起因する。また、正確に把握できない理由は、他覚的な方法によって鮮明な網膜像を得たとしても、網膜像の情報が脳に伝えられたときに、どのように判断されているか不明なことに起因する。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、眼鏡レンズの設計方法に関する。
【0007】
特許文献2に記載の技術は、大脳視覚野等の誘発活動を利用した眼鏡レンズの評価方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-197556号公報
【特許文献2】特開2018-18103号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様においては、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定方法が提供される。眼鏡レンズ決定方法は、被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出することを含む。眼鏡レンズ決定方法は、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者に適した眼鏡レンズを決定する。
【0010】
本発明の第2の態様においては、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援システムが提供される。眼鏡レンズ決定支援システムは、被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部を備える。眼鏡レンズ決定支援システムは、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【0011】
本発明の第3の態様においては、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援装置が提供される。眼鏡レンズ決定支援装置は、被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部を備える。眼鏡レンズ決定支援装置は、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【0012】
本発明の第4の態様においては、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための眼鏡レンズ決定支援装置として、コンピュータを機能させる眼鏡レンズ決定支援プログラムが提供される。眼鏡レンズ決定支援プログラムは、コンピュータを、被検者の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部として機能させる。眼鏡レンズ決定支援プログラムは、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援システム100を示す図である。
図2】本実施形態に係る被検者TS1の眼球E1に対する第1表示装置120及びデジタルカメラ130の位置関係を示す図である。
図3】本実施形態に係る画像表示制御装置150を示す図である。
図4】本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援装置160を示す図である。
図5】本実施形態に係る眼鏡レンズ決定方法を示す図である。
図6】本実施形態に係る収差画像を示す図である。
図7】本実施形態に係る収差画像を被検者TS1に注視させてマイクロサッカードを検出する手順を示す図である。
図8】本実施形態に係る収差画像の表示例を示す図である。
図9】本実施形態に係るマイクロサッカードの検出処理を示す図である。
図10】本実施形態に係る瞳孔の平均速度Vxytの変化を示す図である。
図11】本実施形態に係る標準化された瞳孔の平均速度Vxytの変化を示す図である。
図12図9に示すS309においてマイクロサッカードの候補となる区間S1として検出される例を示す図である。
図13図9に示すS310においてマイクロサッカードの候補となる区間S2として検出される例を示す図である。
図14図9に示すS310においてマイクロサッカードの候補となる区間S2として検出されない例を示す図である。
図15図9に示すS311においてマイクロサッカードの候補となる区間S3として検出される例を示す図である。
図16図9に示すS314においてマイクロサッカードとして検出されない例を示す図である。
図17図9に示す検出処理によって検出されたマイクロサッカードを含む瞳孔の軌跡を示す図である。
図18】本実施形態に係る線形回帰モデルを示すである。
図19】本実施形態に係る多項式回帰モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
各眼の眼球運動は、衝動性眼球運動(saccade)、滑動性追従眼球運動(smooth pursuit movement)、視運動性眼振(optokinetic nystagmus)、前庭動眼反射(vestibulo-ocular reflex)、振幅開散運動(vergence)及び固視微動(miniature eye movement)の6つに大別される。
【0016】
ここでは、本実施形態で注目する固視微動について詳しく説明する。固視微動は、意識的にある一点を固視した場合でも眼球は無意識に絶えず小さく動く眼球運動で、マイクロサッカード(microsaccades)、ドリフト(drift)、トレマー(tremor)の3成分に分類される。マイクロサッカードは、固視時に生じる不随意な微少振幅のサッカードであり、1907年にDodgeにより報告された。マイクロサッカードに関する研究は、マイクロサッカードに関連する細胞活動と、網膜、外側膝状体、視覚野との関連性に関して活発となっている。マイクロサッカードに関する細胞活動は、人間の高次な脳機能に関連することが明らかにされている。人間の高次な脳機能は、例えば、エッジや小さい指標等の高い空間周波数成分を有する物体の認識向上、視覚的注意への関与、色相差の認識に重要な役割を果たすこと等である。
【0017】
本実施形態は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出し、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定可能とする技術に関する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援システム100を示す図である。眼鏡レンズ決定支援システム100は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するシステムである。眼鏡レンズ決定支援システム100は、ボタンスイッチ110、第1表示装置120、デジタルカメラ130、第2表示装置140、画像表示制御装置150及び眼鏡レンズ決定支援装置160を備える。
【0019】
被検者TS1は、検査を受けるにあたり、椅子AC1に腰掛けて、テーブルT1に置かれた顎台CR1に頭を固定させる。以下の説明における被検者TS1は、椅子AC1に腰掛けて、テーブルT1に置かれた顎台CR1に頭が固定されているものとする。
【0020】
ボタンスイッチ110は、押下操作が可能なボタンを有する装置である。ボタンスイッチ110は、被検者TS1が操作できるように、テーブルT1における、被検者TS1の手が届く位置に置かれる。ボタンスイッチ110は、ケーブルC1により画像表示制御装置150と通信接続される。
【0021】
第1表示装置120は、被検者TS1に注視させる画像を表示するディスプレイである。第1表示装置120は、例えば、1920×1080の解像度を有する21.5インチのディスプレイである。第1表示装置120は、被検者TS1が視認できるように、テーブルT1における、被検者TS1から所定距離を保った位置に置かれる。第1表示装置120は、例えば、被検者TS1の眼から60cm離れた位置に置かれる。第1表示装置120は、ケーブルC2により画像表示制御装置150と通信接続される。第1表示装置120は、画像表示制御装置150から出力された画像を表示する。第1表示装置120に表示される画像の大きさは、例えば、被検者TS1の視野5度になるように予め調整される。
【0022】
デジタルカメラ130は、光に反応する半導体素子を用いて外界からの光を、レンズを通じて受光し、デジタルデータに変換する装置である。デジタルカメラ130は、例えば、高速度カメラである。デジタルカメラ130のレンズは、例えば、75mmの焦点距離を有するレンズである。デジタルカメラ130は、被検者TS1の眼を撮像できるように、テーブルT1における、被検者TS1から所定距離を保った位置に置かれる。デジタルカメラ130は、例えば、被検者TS1の眼の位置から30cmの距離を保つように、三脚を利用してテーブルT1に置かれる。デジタルカメラ130は、ケーブルC3により眼鏡レンズ決定支援装置160と通信接続される。
【0023】
図2は、本実施形態に係る被検者TS1の眼球E1に対する第1表示装置120及びデジタルカメラ130の位置関係を示す図である。椅子AC1の高さ、及び顎台CR1における顎のせの高さは、被検者TS1が第1表示装置120の画面を見た場合に、画面の中心に表示された注視点V1が視線の先に位置したときに、被検者TS1の目の位置がデジタルカメラ130による録画画面の中心になるように、予め調整される。
【0024】
デジタルカメラ130は、照明L1を備える。照明L1は、例えば、940nmにピークを持つ複数の近赤外線LEDを有する。複数の近赤外線LEDは、例えば、環状に配置される。
【0025】
図1の説明に戻り、第2表示装置140は、被検者TS1の検査を行う検査者に対する情報を表示するディスプレイである。第2表示装置140は、ケーブルC4により眼鏡レンズ決定支援装置160と通信接続される。
【0026】
画像表示制御装置150は、第1表示装置120に画像を表示させるコンピュータである。画像表示制御装置150は、ケーブルC5により眼鏡レンズ決定支援装置160と通信接続される。
【0027】
図3は、本実施形態に係る画像表示制御装置150を示す図である。画像表示制御装置150は、記憶装置151、中央処理装置152及び入出力インターフェース153を備える。
【0028】
記憶装置151は、データやプログラムの保存、記憶を行うための装置である。記憶装置151は、画像表示プログラムCM1を記憶する。画像表示プログラムCM1は、画像表示制御装置150としてコンピュータを機能させるプログラムである。
【0029】
中央処理装置152は、記憶装置151及び入出力インターフェース153の制御やデータの演算等を行う装置である。中央処理装置152は、画像表示プログラムCM1を読み込むことにより、収差画像表示制御部SM1及び特定画像表示制御部SM2として機能する。収差画像表示制御部SM1は、収差を有する収差画像を第1表示装置120に表示させるソフトウェアモジュールである。特定画像表示制御部SM2は、収差のない特定画像を第1表示装置120に表示させるソフトウェアモジュールである。
【0030】
入出力インターフェース153は、画像表示制御装置150と周辺機器との間で信号を入力又は出力するためのインターフェースである。入出力インターフェース153は、ボタンスイッチ110から信号を受信する。入出力インターフェース153は、第1表示装置120に信号を出力する。
【0031】
図1の説明に戻り、眼鏡レンズ決定支援装置160は、被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するためのコンピュータである。
【0032】
図4は、本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援装置160を示す図である。眼鏡レンズ決定支援装置160は、記憶装置161、中央処理装置162及び入出力インターフェース163を備える。
【0033】
記憶装置161は、データやプログラムの保存、記憶を行うための装置である。記憶装置161は、眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2を記憶する。眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2は、眼鏡レンズ決定支援装置160としてコンピュータを機能させるプログラムである。
【0034】
中央処理装置162は、記憶装置161及び入出力インターフェース163の制御やデータの演算等を行う装置である。中央処理装置162は、眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2を読みことにより、マイクロサッカード検出部SM3及び回帰モデル生成部SM4として機能する。マイクロサッカード検出部SM3は、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出するソフトウェアモジュールである。回帰モデル生成部SM4は、マイクロサッカードの発生頻度に関する回帰モデルを生成するソフトウェアモジュールである。
【0035】
入出力インターフェース163は、眼鏡レンズ決定支援装置160と周辺機器との間で信号を入力又は出力するためのインターフェースである。入出力インターフェース153は、デジタルカメラ130から信号を受信する。入出力インターフェース153は、第2表示装置140に信号を出力する。
【0036】
図5は、本実施形態に係る眼鏡レンズ決定方法を示す図である。被検者TS1に対する検査を行う検査者は、例えば、予め、第1表示装置120の画面の注視点V1を基準にした水平・垂直方向9点によるキャリブレーションを行う。また、検査者は、被検者TS1に対し、検査中にまばたきをせず、注視点V1と画像を注視するように教示する。
【0037】
まず、検査者は、被検者TS1に対して予め処方された処方せんに従ったテストレンズをテストフレームにセットして、テストフレームを被検者TS1に装着させる(S101)。
【0038】
次に、検査者は、収差を有する収差画像を被検者TS1に注視させて、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出する(S102)。
【0039】
ところで、レンズにおける収差は、色収差と単色収差とに大別できる。単色収差は、ザイデル五収差とよばれる。色収差は、軸上色収差及び倍率色収差である。単色収差は、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、及び歪曲収差である。
【0040】
物体からの光が収差を有するレンズを通して網膜上に映る像は、収差を有する収差画像として作成できる。2次元に広がりを有する物体の強度分布に対して収差を有するレンズを通したときの像強度分布は、そのレンズと同じ光学特性を有する点拡がり関数を用いた畳み込み演算によって作成できる。
【0041】
図6は、本実施形態に係る収差画像を示す図である。
【0042】
図6に示す収差画像は、小文字のアルファベット「e」の画像を用いて作成された収差画像である。小文字のアルファベット「e」の画像は、例えば、既知のグラフィックソフトを用いて作成可能である。収差画像は、小文字のアルファベット「e」の画像における各ピクセルの値に対して、非点収差を有するレンズを通した場合の点拡がり関数の収差カーネルを用いて畳み込み演算を行うことにより作成できる。
【0043】
図6(A)から図6(D)に示す収差画像は、互いに収差量が異なる。図6(A)に示す収差画像は、0.1ディオプターの収差量を有する収差画像である。図6(B)に示す収差画像は、0.4ディオプターの収差量を有する収差画像である。図6(C)に示す収差画像は、0.8ディオプターの収差量を有する収差画像である。図6(D)に示す収差画像は、1.0ディオプターの収差量を有する収差画像である。
【0044】
図7は、本実施形態に係る収差画像を被検者TS1に注視させてマイクロサッカードを検出する手順を示す図である。被検者TS1は、例えば、検査を行う準備が整うと、ボタンスイッチ110を押下操作する。画像表示制御装置150は、例えば、ボタンスイッチ110が押下操作されると、図7に示す処理を開始し、デジタルカメラ130により被検者TS1の眼の撮影も開始する。
【0045】
まず、画像表示制御装置150は、初期画像を第1表示装置120に表示させる(S201)。S201において、画像表示制御装置150は、例えば、第1表示装置120の画面における注視点V1の位置に、被検者TS1を注視させる所定画像を表示させる。画像表示制御装置150は、例えば、所定画像として、クロスマークを表示させる。
【0046】
次に、画像表示制御装置150は、1000msが経過したかを判定する(S202)。画像表示制御装置150は、例えば、初期画像を表示したときに、インターバルタイマーを設定し、インターバルタイマーによって発生する第1割り込み信号を第1トリガーにしてS202の処理を実行する。インターバルタイマーは、所定時間が経過する毎にそのことを知らせる仕組みである。第1割り込み信号は、現在実行中の処理を一時中断させ、強制的にS202の処理を実行させる信号である。第1トリガーは、第1割り込み信号が発生したときに、自動的にS202の処理を起動する画像表示プログラムCM1の仕組みである。
【0047】
S202において1000msが経過していない場合(S202;NO)、画像表示制御装置150は、それまで実行していた処理を再開する。
【0048】
S202において1000msが経過した場合(S202;YES)、画像表示制御装置150は、初期画像を非表示とし、標準刺激画像を第1表示装置120に表示させる(S203)。S203において、画像表示制御装置150は、例えば、標準刺激画像として、収差のない特定画像を表示する。画像表示制御装置150は、例えば、収差のない特定画像として、小文字のアルファベット「e」の収差のない画像を表示する。
【0049】
次に、画像表示制御装置150は、3000msが経過したかを判定する(S204)。画像表示制御装置150は、例えば、標準刺激画像を表示したときに、インターバルタイマーを設定し、インターバルタイマーによって発生する第2割り込み信号を第2トリガーにしてS204の処理を実行する。第2割り込み信号は、現在実行中の処理を一時中断させ、強制的にS204の処理を実行させる信号である。第2トリガーは、第2割り込み信号が発生したときに、自動的にS204の処理を起動する画像表示プログラムCM1の仕組みである。
【0050】
S204において3000msが経過していない場合(S204;NO)、画像表示制御装置150は、それまで実行していた処理を再開する。
【0051】
S204において3000msが経過した場合(S204;YES)、画像表示制御装置150は、標準刺激画像を非表示とし、ブランク画像を第1表示装置120に表示させる(S205)。
【0052】
次に、画像表示制御装置150は、1000msが経過したかを判定する(S206)。画像表示制御装置150は、例えば、ブランク画像を表示したときに、インターバルタイマーを設定し、インターバルタイマーによって発生する第3割り込み信号を第3トリガーにしてS206の処理を実行する。第3割り込み信号は、現在実行中の処理を一時中断させ、強制的にS206の処理を実行させる信号である。第3トリガーは、第3割り込み信号が発生したときに、自動的にS206の処理を起動する画像表示プログラムCM1の仕組みである。
【0053】
S206において1000msが経過していない場合(S206;NO)、画像表示制御装置150は、それまで実行していた処理を再開する。
【0054】
S206において1000msが経過した場合(S206;YES)、画像表示制御装置150は、ブランク画像を非表示とし、収差画像を第1表示装置120に表示させる(S207)。S207において、画像表示制御装置150は、例えば、収差画像として、図6(A)から図6(D)に示す収差画像のうちのいずれかの収差画像を表示する。画像表示制御装置150は、収差画像を表示するにあたり、収差画像を傾けて表示してよい。
【0055】
図8は、本実施形態に係る収差画像の表示例を示す図である。図8(A)に示す収差画像は、傾いていない。図8(B)に示す収差画像は、90度傾いている。図8(C)に示す収差画像は、180度傾いている。図8(D)に示す収差画像は、270度傾いている。画像表示制御装置150は、収差画像を表示するにあたり、例えば、図8(A)から図9(D)のいずれかに示す態様で表示してよい。
【0056】
図7の説明に戻り、画像表示制御装置150は、収差画像を第1表示装置120に表示させると、その旨を通知する通知データを、眼鏡レンズ決定支援装置160に送信する。
【0057】
眼鏡レンズ決定支援装置160は、画像表示制御装置150から通知データを受信すると、デジタルカメラ130による被検者TS1の眼の撮影を停止し、撮影した動画データからマイクロサッカードを検出し(S208)、図7に示す処理を終了する。
【0058】
図9は、本実施形態に係るマイクロサッカードの検出処理を示す図である。眼鏡レンズ決定支援装置160は、図8に示すS208において、図9に示す処理を実行する。
【0059】
まず、眼鏡レンズ決定支援装置160は、被検者TS1の眼を撮影した動画データを取得する(S301)。S301において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、少なくとも、収差画像が表示されているときにデジタルカメラ130によって撮影された動画データを取得する。
【0060】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、動画データから被検者TS1の眼の画像をサンプリングする(S302)。S302において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、S301において取得した動画データにおける、収差画像が表示されているときに撮影された部分の動画データから画像をサンプリングする。眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、1000hzのサンプリング周波数で画像をサンプリングする。眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、サンプリングして得られた複数の画像データを、記憶装置161に記憶させる。
【0061】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、サンプリングして得られた複数の画像データのうちの一の画像データを読み出す(S303)。
【0062】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、画像から瞳孔の範囲を検出する(S304)。S304において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、画像認識を用いて画像から瞳孔の範囲を検出する。画像認識は、画像から所望のオブジェクトや特徴を認識し検出するパターン認識技術である。ここで、人間の瞳孔は、ほぼ正円形である。したがって、S304において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、瞳孔の範囲に対応する正円形の範囲を検出する。
【0063】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、瞳孔の重心座標を算出する(S305)。S305において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、S304において瞳孔の範囲に対応する正円形の重心座標を算出する。
【0064】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、全ての画像データについて、S303からS305の処理を実行したかを判定する(S306)。S306において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、S302においてサンプリングして得られた全ての画像データについて処理を実行したかを判定する。眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、S302においてサンプリングして得られた複数の画像データのうちの、所定時間内に撮像された動画データに対応する全ての画像データについて処理を実行したかを判定する。眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、S302においてサンプリングして得られた複数の画像データのうちの、所定数の全ての画像データについて処理を実行したかを判定する。
【0065】
S306において全ての画像データについて処理を実行していない場合(S306;NO)、眼鏡レンズ決定支援装置160は、処理を実行していない画像データについて、S303からS305の処理を実行する。
【0066】
S306において全ての画像データについて処理を実行している場合(S306;YES)、眼鏡レンズ決定支援装置160は、所定時間におけるXY軸に対する瞳孔の平均速度Vxytを算出する(S307)。S307において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、まず、所定時間内の複数の微少時間におけるX軸に対する瞳孔の平均速度Vxtを、微少時間毎に算出する。微少時間におけるX軸に対する瞳孔の平均速度Vxtは、例えば、式(1)にて算出できる。式(1)は、t-2~t+1までの3Δt間の移動距離と、t-1~t+2までの3Δt間の移動距離の和を以て、6Δt間の移動距離として、X軸に対する瞳孔の平均速度Vxtとしている。
【0067】
【数1】
【0068】
また、眼鏡レンズ決定支援装置160は、所定時間内の複数の微少時間におけるY軸に対する瞳孔の平均速度Vytを、微少時間毎に算出する。微少時間におけるY軸に対する瞳孔の平均速度Vytは、例えば、式(2)にて算出できる。式(2)は、t-2~t+1までの3Δt間の移動距離と、t-1~t+2までの3Δt間の移動距離の和を以て、6Δt間の移動距離として、Y軸に対する瞳孔の平均速度Vytとしている。
【0069】
【数2】
【0070】
そして、眼鏡レンズ決定支援装置160は、所定時間内の複数の微少時間におけるXY軸に対する瞳孔の平均速度Vxytを、微少時間毎に算出する。微少時間におけるXY軸に対する瞳孔の平均速度Vxytは、例えば、式(3)にて算出できる。なお、XY軸に対する瞳孔の平均速度Vxyは、眼球の形状を球とみなして角速度に変換できる。角速度は、人の平均的な眼球半径(r)を13(mm)とし、平均速度が単位時間あたりの弧の長さ(L)とすれば、L/rとなる。
【0071】
【数3】
【0072】
図10は、本実施形態に係る瞳孔の平均速度Vxytの変化を示す図である。図10に示す例は、1000ms内の瞳孔の平均速度Vxytの変化を示している。図10に示す例の場合、眼鏡レンズ決定支援装置160は、1000ms内の複数の微少時間における瞳孔の平均速度Vxytを算出する。
【0073】
図9の説明に戻り、次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、瞳孔の平均速度Vxytを標準化する(S308)。S308において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、瞳孔の平均速度Vxytの標準偏差を求め、瞳孔の平均速度Vxytを標準偏差で除することにより、瞳孔の平均速度Vxytを標準化する。
【0074】
図11は、本実施形態に係る標準化された瞳孔の平均速度Vxytの変化を示す図である。図11に示す例は、図10に示す瞳孔の平均速度Vxytが標準化されている。
【0075】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、標準化した平均速度Vxytが閾値を超える区間S1を検出する(S309)。S309において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、標準化されたVxytの標準偏差の5倍を閾値として、その閾値を超える区間S1をマイクロサッカードの候補として検出する。
【0076】
図12は、図9に示すS309においてマイクロサッカードの候補となる区間S1として検出される例を示す図である。図12に示す例は、標準偏差の5倍の閾値を超える区間がある。したがって、S309において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S1として検出する。
【0077】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、S309において検出した区間S1のうちの閾値を超える時間が所定時間以上の区間S2を検出する(S310)。S310において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、区間S1のうちの閾値を超える時間が6ms以上の区間S2をマイクロサッカードの候補として検出する。
【0078】
図13は、図9に示すS310においてマイクロサッカードの候補となる区間S2として検出される例を示す図である。図13に示す例は、標準偏差の5倍の閾値を超える区間がある。標準偏差の5倍の閾値を超える区間は、閾値を超える時間が6ms以上である。したがって、S310において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S2として検出する。
【0079】
図14は、図9に示すS310においてマイクロサッカードの候補となる区間S2として検出されない例を示す図である。図14に示す例は、標準偏差の5倍の閾値を超える5つの区間がある。しかし、標準偏差の5倍の閾値を超える5つの区間は、いずれも、閾値を超える時間が6ms未満である。したがって、S310において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、これら5つの区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S2としては検出しない。
【0080】
図9の説明に戻り、次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、S310において検出した区間S2のうちの最大平均速度の半値全幅が所定値以下の区間S3を検出する(S311)。S311において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、区間S2のうちの最大平均速度の半値全幅が20ms以下の区間S3をマイクロサッカードの候補として検出する。
【0081】
図15は、図9に示すS311においてマイクロサッカードの候補となる区間S3として検出される例を示す図である。図15に示す例は、閾値を超える時間が6ms以上の区間がある。閾値を超える時間が6ms以上の区間は、最大平均速度の半値全幅が20ms以下である。したがって、S311において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S3として検出する。
【0082】
図9の説明に戻り、次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、S311において検出した区間S3のうちの最大平均速度の半値全幅よりも大きい区間において、他の区間S3と重ならない区間S4を検出する(S312)。S312において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、区間S3のうちの最大平均速度の半値全幅の2倍の区間において、他の区間S3と重ならない区間S4をマイクロサッカードの候補として検出する。図15に示す例は、区間S3となる区間の最大平均速度の半値全幅の2倍の区間において、他の区間S3と重なっていない。したがって、S312において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S4として検出する。
【0083】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、S312において検出した区間S4のうちの振幅が所定値以下の区間S5を検出する(S313)。S313において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、区間S4のうちの振幅が1deg以下の区間S5をマイクロサッカードの候補として検出する。図15に示す例は、区間S4となる区間の振幅が1deg以下である。したがって、S313において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードの候補となる区間S5として検出する。
【0084】
次に、眼鏡レンズ決定支援装置160は、S313において検出した区間S5のうちの最大平均速度が所定値以下の区間S6をマイクロサッカードとして検出し(S314)、図9に示す処理を終了する。S314において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、区間S5のうちの最大平均速度が100deg/s以下の区間S6をマイクロサッカードとして検出する。図15に示す例は、区間S5となる区間の最大平均速度が100deg/s以下である。したがって、S314において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードとして検出する。
【0085】
図16は、図9に示すS314においてマイクロサッカードとして検出されない例を示す図である。図16に示す例は、最大平均速度が100deg/sを超えている。したがって、S314において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、この区間について、マイクロサッカードとして検出しない。
【0086】
図17は、図9に示す検出処理によって検出されたマイクロサッカードを含む瞳孔の軌跡を示す図である。図17において、実線の軌跡は、瞳孔のマイクロサッカードの軌跡である。点線の軌跡は、マイクロサッカードの前後における瞳孔の軌跡である。マイクロサッカードは、直線的な軌跡となる。
【0087】
図5の説明に戻り、S102において、検査者は、図7及び図9に示す処理を繰り返し、収差量が異なる複数の収差画像を注視させたときのマイクロサッカードを検出する。検査者は、例えば、図6(A)に示す0.1ディオプターの収差量を有する収差画像を注視させてマイクロサッカードを検出する。また、検査者は、例えば、図6(B)に示す0.4ディオプターの収差量を有する収差画像を注視させてマイクロサッカードを検出する。また、検査者は、例えば、図6(C)に示す0.8ディオプターの収差量を有する収差画像を注視させてマイクロサッカードを検出する。また、検査者は、例えば、図6(D)に示す1.0ディオプターの収差量を有する収差画像を注視させてマイクロサッカードを検出する。
【0088】
また、S102において、検査者は、図7及び図9に示す処理を繰り返し、収差量が同じ収差画像について、表示するときの傾きが異なる収差画像を注視させたときのマイクロサッカードを検出する。検査者は、例えば、収差量が同じ収差画像について、図8に示す表示例のように、0度、90度、180度、270度と傾きを変えて表示したときのマイクロサッカードをそれぞれ検出する。
【0089】
次に、検査者は、眼鏡レンズ決定支援装置160により、マイクロサッカードの発生頻度に関する回帰モデルを生成する(S103)。S103において、眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、収差画像を被検者TS1が注視しているときに検出されたマイクロサッカードの発生頻度と、収差画像の収差量との関係を示す回帰モデルを生成する。
【0090】
マイクロサッカードの発生頻度のばらつきを表す確率分布が等分散正規分布である場合、回帰モデルは、線形回帰モデルとなる。線形回帰モデルは、式(4)にて算出できる。
【0091】
【数4】
【0092】
特徴量が1つしかない場合の線形回帰モデルは、式(5)にて算出できる。式(5)におけるxは、収差画像の収差量(ディオプター)である。マイクロサッカードの発生頻度は、例えば、収差画像の収差量に0.104を乗じて0.316(Hz)を足すことにより算出できる。
【0093】
【数5】
【0094】
図18は、本実施形態に係る線形回帰モデルを示すである。図18に示す線形回帰モデルは、式(5)にて算出された線形回帰モデルである。
【0095】
マイクロサッカードの発生頻度と収差画像の収差量との関係が非線形の場合、回帰モデルは、多項式回帰モデルとなる。多項式回帰モデルは、式(6)にて算出できる。
【0096】
【数6】
【0097】
2次の多項式の場合の多項式回帰モデルは、式(7)にて算出できる。
【0098】
【数7】
【0099】
図19は、本実施形態に係る多項式回帰モデルを示す図である。図19に示す多項式回帰モデルは、式(7)にて算出された多項式回帰モデルである。
【0100】
図5の説明に戻り、次に、検査者は、収差のない特定画像を被検者TS1に注視させる(S104)。S104において、検査者は、画像表示制御装置150を用いて、収差のない特定画像を第1表示装置120に表示させる。
【0101】
次に、検査者は、収差のない特定画像の見え方について、被検者TS1が主観的に判断できるかを確認する(S105)。S105を初めて実行する場合、検査者は、例えば、単に、収差のない画像が良く見えるかを被検者TS1に確認する。
【0102】
S105において収差のない画像が良く見えるかを被検者TS1が主観的に判断できる場合(S105;YES)、検査者は、収差のない特定画像について被検者TS1が良く見えているかを確認する(S106)。S106において、検査者は、例えば、既知の視力検査と同様の確認を行う。
【0103】
S106において収差のない特定画像を被検者TS1が良く見えている場合(S106;YES)、検査者は、現在のテストレンズを被検者TS1に適した眼鏡レンズに決定し(S111)、図5に示す処理を終了する。
【0104】
S106において収差のない特定画像を被検者TS1が良く見えていない場合(S106;NO)、検査者は、テストレンズを交換する(S107)。S107において検査者は、例えば、既知の視力検査と同様の手法により、現在のテストレンズから、被検者TS1の見え方に対する意見を基に、より適切なテストレンズを選択する。
【0105】
S105において収差のない画像が良く見えるかを被検者TS1が主観的に判断できない場合(S105;NO)、検査者は、収差のない特定画像を被検者TS1に注視させて、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出する(S108)。S108において、画像表示制御装置150は、収差のない特定画像を第1表示装置120に表示させる。画像表示制御装置150は、例えば、図7に示す処理と同様の処理を実行し、収差のない特定画像を第1表示装置120に表示させる。眼鏡レンズ決定支援装置160は、収差のない特定画像を被検者TS1が注視しているときのマイクロサッカードを検出する。眼鏡レンズ決定支援装置160は、例えば、図9に示す処理と同様の処理を実行し、マイクロサッカードを検出する。
【0106】
次に、検査者は、マイクロサッカードの発生頻度が最小値近傍であるかを判定する(S109)。S109において、検査者は、S103において生成された回帰モデルと、S108において検出されたマイクロサッカードの発生頻度とを参照して、マイクロサッカードの発生頻度が最小値近傍であるかを判定する。適切なレンズであるかは、新たに選択されたテストレンズとそれ以前に選択されたテストレンズとの見え方の差を被検者TS1が主観的に判断できない場合でも、被検者TS1の眼の網膜上に結像した画像が視神経を通して脳内において、より良く見えている場合において変化するマイクロサッカードの発生頻度から他覚的に判断できる。図18に示す例の場合、マイクロサッカードの発生頻度の最小値は、約0.316である。S103において生成された回帰モデルが多項式回帰モデルである場合、マイクロサッカードの発生頻度が最小値となるポイントは、多項式回帰モデルにおける変曲点のときの発生頻度である。図19に示す例の場合、マイクロサッカードの発生頻度の最小値は、約0.377である。
【0107】
S109においてマイクロサッカードの発生頻度が最小値近傍でない場合(S109;NO)、検査者は、マイクロサッカードの発生頻度が小さくなるように、テストレンズを交換する(S110)。S110において、検査者は、例えば、S103において生成された回帰モデルを参照して、回帰モデルにおけるマイクロサッカードの発生頻度が最小値に近くなるようなテストレンズに交換する。
【0108】
S107又はS110の後、検査者は、再び、収差のない特定画像を被検者TS1に注視させ(S104)、収差のない特定画像の見え方について、被検者TS1が主観的に判断できるかを確認する(S105)。S107又はS110の後にS105を再び実行する場合、検査者は、例えば、1つ前のテストレンズと、現在のテストレンズとを比較すると、どちらが良く見えるかを被検者TS1に確認する。
【0109】
S109においてマイクロサッカードの発生頻度が最小値近傍である場合(S109;YES)、検査者は、現在のテストレンズを被検者TS1に適した眼鏡レンズに決定し(S111)、図5に示す処理を終了する。
【0110】
以上、本実施形態に係る眼鏡レンズ決定方法は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための方法である。眼鏡レンズ決定方法は、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出することを含む。眼鏡レンズ決定方法は、マイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定する。
【0111】
眼鏡レンズ決定方法は、マイクロサッカードの発生頻度に関する回帰モデルを生成することを含む。眼鏡レンズ決定方法は、回帰モデルに基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定する。
【0112】
眼鏡レンズ決定方法は、収差を有する収差画像を被検者TS1に注視させてマイクロサッカードを検出する。眼鏡レンズ決定方法は、収差画像を被検者TS1が注視しているときに検出されたマイクロサッカードの発生頻度と、収差画像の収差量との関係を示す回帰モデルを生成する。
【0113】
眼鏡レンズ決定方法は、予め処方された処方せんに従ったテストレンズを用いて収差画像を注視させる。
【0114】
眼鏡レンズ決定方法は、収差のない特定画像を被検者TS1に注視させてマイクロサッカードを検出する。眼鏡レンズ決定方法は、特定画像を被検者TS1が注視しているときに検出されたマイクロサッカードの発生頻度と、回帰モデルとに基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定する。
【0115】
眼鏡レンズ決定方法は、特定画像の見え方について被検者TS1による主観的な判断が困難又は不能な場合に、現在のテストレンズとは異なるテストレンズを用いて特定画像を注視させる。
【0116】
眼鏡レンズ決定方法は、現在のテストレンズとは異なるテストレンズとして、現在のテストレンズよりもマイクロサッカードの発生頻度が小さくなるテストレンズを用いる。
【0117】
眼鏡レンズ決定方法は、回帰モデルにおけるマイクロサッカードの発生頻度が小さくなるようにテストレンズを選択する。
【0118】
本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援システム100は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するためのシステムである。眼鏡レンズ決定支援システム100は、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部SM3を備える。眼鏡レンズ決定支援システム100は、マイクロサッカード検出部SM3により検出されたマイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【0119】
本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援装置160は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための装置である。眼鏡レンズ決定支援装置160は、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部SM3を備える。眼鏡レンズ決定支援装置160は、マイクロサッカード検出部SM3により検出されたマイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【0120】
本実施形態に係る眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2は、眼鏡レンズ決定支援装置160として、コンピュータを機能させるプログラムである。眼鏡レンズ決定支援装置160は、眼鏡レンズを所望して検査を受ける被検者TS1に適した眼鏡レンズを他覚的に決定するための装置である。眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2は、コンピュータを、被検者TS1の眼球運動からマイクロサッカードを検出するマイクロサッカード検出部SM3として機能させる。眼鏡レンズ決定支援プログラムCM2は、マイクロサッカード検出部SM3により検出されたマイクロサッカードの発生頻度に基づいて、被検者TS1に適した眼鏡レンズを決定可能とする。
【0121】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0122】
上記実施形態における眼鏡レンズ決定支援システム100は、画像表示制御装置150及び眼鏡レンズ決定支援装置160を備える。画像表示制御装置150は、収差画像表示制御部SM1及び特定画像表示制御部SM2として機能する。眼鏡レンズ決定支援装置160は、マイクロサッカード検出部SM3及び回帰モデル生成部SM4として機能する。収差画像表示制御部SM1及び特定画像表示制御部SM2と、マイクロサッカード検出部SM3及び回帰モデル生成部SM4とは、一のコンピュータにより機能してよい。
【0123】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム及び方法における動作、手順、ステップ及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示していない。また、各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現し得ることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0124】
100 眼鏡レンズ決定支援システム
110 ボタンスイッチ
120 第1表示装置
130 デジタルカメラ
140 第2表示装置
150 画像表示制御装置
151 記憶装置
152 中央処理装置
153 入出力インターフェース
160 眼鏡レンズ決定支援装置
161 記憶装置
162 中央処理装置
163 入出力インターフェース
AC1 椅子
C1 ケーブル
C2 ケーブル
C3 ケーブル
C4 ケーブル
C5 ケーブル
CM1 画像表示プログラム
CM2 眼鏡レンズ決定支援プログラム
CR1 顎台
L1 照明
SM1 収差画像表示制御部
SM2 特定画像表示制御部
SM3 マイクロサッカード検出部
SM4 回帰モデル生成部
T1 テーブル
TS1 被検者
V1 注視点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19