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特開2023-169807NAMNのメラニン産生抑制剤としての利用
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  • 特開-NAMNのメラニン産生抑制剤としての利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169807
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】NAMNのメラニン産生抑制剤としての利用
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/13 20160101AFI20231122BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20231122BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20231122BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20231122BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231122BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20231122BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20231122BHJP
【FI】
A23L33/13
A61K8/60
A61K31/706
A61Q19/02
A61P17/00
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L33/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081140
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】打田 慶明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿哉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD44
4B018MD81
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK21
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE16
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、食品、又は医薬品等として安全性が高く、さらに美白効果の優れたメラニン産生抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】マウスB16メラノーマ細胞によるメラニン産生抑制効果が同濃度のβ‐ニコチンアミドモノヌクレオチド(β-NMN)よりも高い、ニコチン酸モノヌクレオチド(NAMN)を含有するメラニン産生抑制剤、メラニン産生抑制剤を含有する飲食品、メラニン産生抑制剤を含有する化粧品、及びメラニン産生抑制剤を含有する医薬品を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAMNを含有するメラニン産生抑剤。
【請求項2】
請求項1に記載のメラニン産生抑剤を含有する飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載のメラニン産生抑剤を含有する化粧品。
【請求項4】
請求項1に記載のメラニン産生抑剤を含有する医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食経験があり安全性が認められている酵母を利用し、菌体培養後に酵母エキスを抽出し、抽出後に得られたNAMNを利用したメラニン産生抑制剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
加齢、ストレス、紫外線暴露などの要因により引き起こされるシミ、シワ、たるみ等の皮膚症状の悪化に対し、肌の美観を美しく保つことは、女性にとって重要な関心事である。このため、皮膚症状の悪化を予防又は改善するための手段を求め、今尚、様々な研究がなされている。特に、シミ、ソバカス、日焼け後の色素沈着等は、皮膚に存在する色素細胞(メラノサイト)の活性化によりメラニン生成が著しく亢進することが原因で起こることが知られている。これらの色素沈着が関係する皮膚症状の悪化を予防又は改善するための素材の一つとしてβ‐ニコチンアミドモノヌクレオチド(β-NMN)が知られている(特許文献1)。
【0003】
他方、ニコチン酸モノヌクレオチド(NAMN)は生体内のサルベージ経路の中核物質であるNicotinamide Adenine Dinucleotide (NAD)の中間代謝物である。NAMN投与によるNAD増加に伴う、Sirt1に代表される「サーチュイン遺伝子 (長寿遺伝子)」の活性化による抗老化 (アンチエイジング)を示すことなどが報告されている(特許文献2)。このように、老化現象に関わるさまざまな生体現象は、NAMNがサーチュイン活性のトリガーになることで抑制することができ、最終的には生命の延命に繋がるとされている。
【0004】
しかし、NAMNがメラニンの産生を抑制することは、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2018/147385
【特許文献2】特表2021-524501
【発明の概要】
【課題を解決するための課題】
【0006】
本発明は、食品、又は医薬品等として安全性が高く、さらに美白効果の優れたメラニン産生抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況に鑑みて、鋭意研究を重ねた結果、食経験があり安全性が認められているNAMNにβ-NMN単独よりも高いメラニン産生抑制効果が有ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)NAMNを含有するメラニン産生抑剤、
(2)(1)に記載のメラニン産生抑剤を含有する飲食品、
(3)(1)に記載のメラニン産生抑剤を含有する化粧品、
(4)(1)に記載のメラニン産生抑剤を含有する医薬品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
食経験があり、安全性が認められているトルラ酵母から抽出したNAMNについて、マウスB16メラノーマ細胞によるメラニン産生抑制効果を確認したところ、同濃度のβ-NMN単体と比較して、2倍以上の優れたメラニン産生抑制効果が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】メラニン産生抑制効果
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいうNAMNは、医薬品又は食品として使用できる方法で取得されれば、特に制限はない。例えば、特公昭47-4508に開示された製造方法を用いて得ることができ、「ハイチオンエキスYH8」(興人ライフサイエンス社製)を基質に、通常用いられる酵素処理でNADをNAMNに変換したものなどが挙げられる。精製法は、イオン交換樹脂等を用いた、一般的に採用できる精製法が利用できる。
【0012】
本発明でいうNAMNは、nicotinic acid mononucleotide:ニコチン酸モノヌクレオチドをいう。
さらに、NAMN含有酵母エキスを本発明のNAMNの代替として用いることもできる。
【0013】
本発明で使用する酵母は、特に制限なく使用できる。例えば、NAMNを含有する酵母を用いることができる。特に好ましい酵母は、一般名トルラ酵母と称されるCandida utilisである。酵母の培養形式は特に制限がないが、一般にバッチ培養、あるいは連続培養のいずれかが用いられる。培地も一般に使用されているものが使用できる。例えば、炭素源として、ブドウ糖、酢酸、エタノール、グリセロール、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液等を使用することができる。窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸塩などが使用される。リン酸、カリウム、マグネシウム源も過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の通常の工業用原料で良い。その他に、一般的に、亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩を添加する。また、ビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等を添加することもある。カゼイン、酵母抽出物、肉エキス、ペプトン等の有機物を添加しても良い。培養温度は21~37℃、好ましくは25~34℃で、pHは3.0~8.0、特に3.5~7.0が好ましい。
【0014】
菌体培養後に酵母菌体から抽出を行う。抽出法は、とくに制限がないが、一般的に、自己消化法、熱水抽出法、酵素抽出法、酸、若しくはアルカリ抽出法、又はこれらの組み合わせにより行うことが可能である。
【0015】
本発明のメラニン産生抑制剤の有効成分は、NAMNであるため、NAMNをそのままメラニン産生抑制剤として投与することもできる。また、効果を低下させない又は効果を増加させる他の素材との混合物にして投与してもよい。例えば、賦形剤、希釈剤となるマルチトール、ソルビトール、澱粉などである。メラニン産生抑制剤の形態は、特に制限されず、NAMNを含有するものであれば、固形状、油状、溶液状など何れのものでもよい。
【0016】
本発明に係るNAMNの投与方法は特に限定されず、経口投与、静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができる。具体的には、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよい。
【0017】
本発明の投与量は、NAMNの活性が発現される量を投与すればよい。ヒトに投与する場合の投与量および投与回数は、投与形態、被投与者の年齢、体重等により異なる。
【0018】
本発明のメラニン産生抑制剤は、医薬品だけでなく、食料品、化粧品、飲料品、嗜好品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメントとしても摂取可能である。化粧品は、上記NAMNを配合した化粧水、乳液、ファンデーション、口紅などを例えば指す。ヒトが摂取する場合の摂取量および摂取回数は、摂取形態、被摂取者の年齢、体重等により異なる。
【実施例0019】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
【0021】
(メラニン産生抑制効果の確認)
以下の手順に従ってメラニン産生抑制効果を測定した。
【0022】
<メラニン産生抑制効果の検証>
B16マウスメラノーマ細胞を6well plateに播種(2×10/well)し、24時間前培養した(5%CO?、37℃)。培養液は、5%牛胎児血清を含むD-MEM培地を使用した。その後、α‐MSH(メラニン誘導剤、終濃度200nM)を添加するのと同時に下記サンプルを添加した。サンプルには、NAMN(実施例1、三菱商事ライフサイエンス社製)、NMN(比較例1、三菱商事ライフサイエンス社製)、NR(比較例2、三菱商事ライフサイエンス社製)、NAR(比較例3、三菱商事ライフサイエンス社製)、NA(比較例4、SIGMA社製)、NAM(比較例5、SIGMA社製)およびNAD(比較例6、オリエンタル酵母社製)、を用いた。使用にあたっては、これらサンプルの終濃度がそれぞれ1、3および10mMとなるように、新鮮な培地に置換して使用した。サンプルを添加しないものをコントロールとした。播種4日目に培地を除去し、プレートをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、0.25%トリプシンEDTAで剥がし、遠心(10000rpm、3min)操作によりペレット(細胞)を回収した。回収したペレットはPBSで2回洗ったのち、1mLのPBSで細胞浮遊液を調整して0.8mLをメラニン量の測定に、0.2mLをタンパク質の定量に使用した。
メラニン量の測定用に回収したペレットを150μLの1N NaOHで融解し(100℃、10分)、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。タンパク質の定量用に回収したペレットはBCA法にてタンパク質の定量を行った。コントロールを100%としてときの培養した細胞のタンパク質あたりのメラニン量をメラニン生成率として求めた。
【0023】
結果を図1に示す。図1に示すように、10mMの添加区では、NMN(比較例1)ではメラニン産生抑制率がコントロールと比較して約25%であるのに対して、本願発明のNAMNではメラニン産生抑制率はコントロールと比較して約50%であり、NMNと比較して2倍以上のメラニン産生抑制効果を有することが判る。また、NR(比較例2)、NAR(比較例3)、NA(比較例4)およびNAM(比較例5)は、むしろメラニン産生を促進しており、本願のメラニン産生抑制効果はNAMN(実施例1)に特徴的なものであることが分かる。したがって、本発明におけるNAMNは優れたメラニン産生抑制効果を発揮し、メラニン産生抑制剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上記載したごとく、本発明によれば、?美白効果の優れたメラニン産生抑制剤を得ることができる。
図1