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特開2023-169813継手部材及び継手部材と鋼管の接続構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169813
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】継手部材及び継手部材と鋼管の接続構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20231122BHJP
   F16B 7/18 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
E02D5/24 101
F16B7/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081148
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 悠紀
【テーマコード(参考)】
2D041
3J039
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA33
2D041DB02
2D041DB13
3J039AA01
3J039BB01
3J039GA03
(57)【要約】
【課題】継ぎ足す鋼管どうしの直線性を確保しつつ、内周面を滑らかに連続させることである。
【解決手段】軸線方向に隣り合う鋼管どうしを連結するオス継手及びメス継手を備える継手部材であって、オス継手及びメス継手はそれぞれ、鋼管と略等しい外径を有する筒状体よりなり、筒状体は、外周面に外径を漸次縮径する縮径面が形成されて一端側が縮径されるとともに、縮径された一端側に鋼管挿入部が設けられ、オス継手及びメス継手のうち、少なくともいずれか一方の鋼管挿入部の内周側に、鋼管の内周面に向かう斜面が形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に隣り合う鋼管どうしを連結するオス継手及びメス継手を備える継手部材であって、
前記オス継手及び前記メス継手はそれぞれ、前記鋼管と略等しい外径を有する筒状体よりなり、
該筒状体は、外周面に外径を漸次縮径する縮径面が形成されて一端側が縮径されるとともに、縮径された一端側に鋼管挿入部が設けられ、
前記オス継手及び前記メス継手のうち、少なくともいずれか一方の前記鋼管挿入部の内周側に、前記鋼管の内周面に向かう斜面が形成されていることを特徴とする継手部材。
【請求項2】
請求項1に記載の継手部材において、
前記鋼管挿入部が、挿入部本体と該挿入部本体から前記筒状体の軸線方向に延長した延長部とを有し、
前記斜面は、前記延長部の内周面に形成されていることを特徴とする継手部材。
【請求項3】
請求項2に記載の継手部材において、
前記挿入部本体及び前記延長部の部材長がそれぞれ、該挿入部本体の肉厚に基づいて設定されることを特徴とする継手部材。
【請求項4】
請求項2に記載継手部材において、
前記挿入部本体の部材長が、該挿入部本体の肉厚に基づいて設定されるとともに、
前記延長部の部材長が、前記鋼管の内周面に対する前記斜面の勾配に基づいて設定されることを特徴とする継手部材。
【請求項5】
請求項1に記載の継手部材において、
前記オス継手及び前記メス継手にそれぞれ、前記筒状体の他端側にねじ部を形成された篏合部及び被篏合部が設けられていることを特徴とする継手部材。
【請求項6】
請求項1に記載の継手部材において、
前記縮径面に、前記鋼管挿入部に接続する階段部が形成されていることを特徴とする継手部材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の継手部材において、
前記鋼管が、マイクロパイル工法に用いる鋼製補強材であることを特徴とする継手部材。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の継手部材と鋼管の接続構造であって、
前記オス継手及び前記メス継手各々の前記鋼管挿入部が前記鋼管に挿入されるとともに、
該鋼管の端面と該端面に対向する前記縮径面により、開先が形成されることを特徴とする継手部材と鋼管の接続構造。
【請求項9】
請求項6に記載の継手部材と鋼管との接続構造であって、
前記オス継手及び前記メス継手各々の前記鋼管挿入部が前記鋼管に挿入されて、該鋼管の端面と前記階段部が当接するとともに、
前記鋼管の端面と該端面に対向する前記縮径面により、開先が形成されることを特徴とする継手部材と鋼管の接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管を継ぎ足す際に用いる継手部材、及び継手部材と鋼管の接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地山を削孔して小口径の鋼製補強材を挿入し、グラウトを注入して地盤に定着させるマイクロパイル工法では、鋼製補強材に、継手部材を介して継ぎ足した複数の管材を採用する場合が多い。特許文献1には、マイクロパイル工法のなかでも、鋼製補強材であるケーシングセグメントを削孔時の孔壁保護管と兼用させて、杭体を構築する手順、及びケーシングセグメントの継手部材が開示されている。
【0003】
特許文献1では、ケーシングセグメントの内部に削孔ドリルを挿入し、両者をそれぞれ回転しつつ地盤を削孔する。地中孔が所定の深さになるごとに、継手部材を介してケーシングセグメントを継ぎ足していく。継手部材は、ケーシングセグメントを挿入可能なスリーブ状に形成され、その内周面に雌ねじが形成されている。一方、ケーシングセグメントの端部外周には、雄ねじが形成されている。
【0004】
したがって、雌ねじに雄ねじを螺合しながら継手部材にケーシングセグメントを挿入していくことで、ケーシングセグメントを順次継ぎ足すことができる。しかし、スリーブ形状の継手部材は、ケーシングセグメントより外径が大きいことから、削孔時に孔壁と継手部材が干渉して抵抗となりやすい。このため、削孔作業に手間を要し、掘削歩掛の低下が課題となっていた。
【0005】
このような中、例えば特許文献2に開示されているような、外側に突出しない構造の継手を採用することが考えられる。特許文献2に開示されている継手は、メス継手が、基端側の外形状を鋼管内に収納可能な形状に、また、先端側の外形状を鋼管と同一形状に形成され、その内周面に雌ねじが設けられている。オス継手は、基端側の外形状が鋼管内に収納可能な形状に形成され、先端側にメス継手の雌ねじに螺合する雄ねじが設けられている。
【0006】
したがって、まずは、鋼管の一端にオス継手の基端側を挿入して溶接接合するとともに、鋼管の他端にメス継手の基端側を挿入して同じく溶接接合する。そして、鋼管どうし連結する際は、オス継手の先端側に設けた雄ねじを、メス継手の先端側に設けた雌ねじに螺合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-135971号公報
【特許文献2】特開2005-2599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2によれば、継手が外側に突出することがない。また、オス継手及びメス継手の基端側が鋼管内に挿入されて鋼管との間に印籠継ぎ部を形成するため、継ぎ足した鋼管どうしの直線性を確保しやすい。しかし、鋼管内に挿入されたオス継手及びメス継手の基端側は、鋼管の内周面から突出した状態にある。
【0009】
このため、継ぎ足した鋼管の内部空間を利用して、棒材や管材などを配設しようとすると、これらの先端と鋼管の内周面から突出する継手が干渉し、鋼管内へスムーズに挿入することができない。特に、複数の鋼管を継ぎ足す場合、使用する継手の数量も増大することから、継手と棒材や管材などの先端が干渉する回数も増大する。このため、作業時に多大な手間を要することとなりかねない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、継ぎ足す鋼管どうしの直線性を確保しつつ、内周面を滑らかに連続させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明の継手部材は、軸線方向に隣り合う鋼管どうしを連結するオス継手及びメス継手を備える継手部材であって、前記オス継手及び前記メス継手はそれぞれ、前記鋼管と略等しい外径を有する筒状体よりなり、該筒状体は、外周面に外径を漸次縮径する縮径面が形成されて一端側が縮径されるとともに、縮径された一端側に鋼管挿入部が設けられ、前記オス継手及び前記メス継手のうち、少なくともいずれか一方の前記鋼管挿入部の内周側に、前記鋼管の内周面に向かう斜面が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の継手部材は、前記鋼管挿入部が、挿入部本体と該挿入部本体から前記筒状体の軸線方向に延長した延長部とを有し、前記斜面は、前記延長部の内周面に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の継手部材は、前記挿入部本体及び前記延長部の部材長がそれぞれ、該挿入部本体の肉厚に基づいて設定されることを特徴とする。
【0014】
本発明の継手部材は、前記挿入部本体の部材長が、該挿入部本体の肉厚に基づいて設定されるとともに、前記延長部の部材長が、前記鋼管の内周面に対する前記斜面の勾配に基づいて設定されることを特徴とする。
【0015】
本発明の継手部材は、前記オス継手及び前記メス継手にそれぞれ、前記筒状体の他端側にねじ部を形成された篏合部及び被篏合部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の継手部材は、前記縮径面に、前記鋼管挿入部に接続する階段部が形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の継手部材は、前記鋼管が、マイクロパイル工法に用いる鋼製補強材であることを特徴とする。
【0018】
本発明の継手部材と鋼管と接続構造は、前記オス継手及び前記メス継手各々の前記鋼管挿入部が前記鋼管に挿入されるとともに、該鋼管の端面と該端面に対向する前記縮径面により、開先が形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明の継手部材と鋼管と接続構造は、前記オス継手及び前記メス継手各々の前記鋼管挿入部が前記鋼管に挿入されて、該鋼管の端面と前記階段部が当接するとともに、前記鋼管の端面と該端面に対向する前記縮径面により、開先が形成されることを特徴とする。
【0020】
本発明の継手部材及び継手部材と鋼管と接続構造によれば、オス継手及びメス継手各々一端側に設けられた鋼管挿入部のうち、少なくともいずれか一方の内周側に、前記鋼管の内周面に向かう斜面を形成する。これにより、鋼管挿入部を鋼管に挿入すると、斜面を介して鋼管挿入部と鋼管の内周面を滑らかに連続させることができる。
【0021】
したがって、鋼管を継ぎ足して形成した中空部に棒材や管材などを挿入する際、その先端が鋼管挿入部に干渉することを防止できる。特に、継ぎ足す鋼管の数量が多く、継手部材の数量が増大する場合に、中空部に挿入物を配設する際の手間を大幅に向上することが可能となる。
【0022】
また、鋼管挿入部を挿入部本体と延長部とにより構成し、延長部に鋼管の内周面に向かう斜面を形成する。これにより、鋼管挿入部を鋼管に挿入することで継手部材と鋼管との間に形成される印籠継ぎ部の、重なり長さを大きく取ることができる。これにより、継手部材を利用して継ぎ足す鋼管どうしの直線性及び固定度を高めることができる。また、鋼管と継手部材とを溶接固着する際の作業時の安定性も確保でき、高い工作精度を維持でき、品質向上に寄与できる。
【0023】
さらに、挿入部本体及び延長部の部材長を挿入部本体の肉厚に基づいて適切な長さに設定することで、軽量化を図りつつ、印籠継ぎ部としての機能を維持しながら鋼管挿入部と鋼管の内周面が滑らかに連続する継手部材を製造することができる。
【0024】
また、オス継手及びメス継手の縮径面に階段部を設け、鋼管挿入部を鋼管に挿入する際、この階段部を鋼管の端面に当接させる。これにより、鋼管挿入時の終点を明確にすることができる。また、いわゆる面タッチを形成でき、継ぎ足した鋼管どうしの間で、軸線方向に作用する圧縮力をスムーズに伝達することができる。したがって、これらをマイクロパイル工法に採用して支持杭を構築すると、杭頭部に作用する鉛直荷重を効率よく支持することが可能となる。
【0025】
また、階段部とすることで、縮径面と鋼管との離間距離を変更することなく、鋼管の端面に当接する当接面を形成できる。したがって、縮径面と鋼管の端面とにより形成される開先に必要な断面積を保持できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鋼管に挿入される鋼管挿入部の内周側に、鋼管の内周面に向かう斜面を形成するため、鋼管との間に印籠継ぎ部を形成して継ぎ足す鋼管どうしの直線性を確保しつつ、斜面を介して鋼管挿入部と鋼管の内周面とを滑らかに連続させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態における継ぎ足した鋼管をマイクロパイル工法に使用する事例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるマイクロパイル工法の概略を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるオス継手とメス継手を篏合させた継手部材を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における継手部材における平面視断面を示す図である。
図5】本発明の実施の形態におけるオス継手とメス継手を篏合させる前の継手部材を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における継手部材の鋼管挿入部を拡大した図である。
図7】本発明の実施の形態における鋼管を継ぎ足して形成した中空部にグラウト注入用のホースを挿入した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、鋼管を軸線方向に継ぎ足す継手部材、及び継手部材と鋼管との接続構造であり、鋼管に継手部材を挿入して印籠継ぎ部を形成し、継ぎ足した鋼管どうしの直線性を確保する一方で、凹凸が生じる内周面を滑らかに連続させるものである。
【0029】
以下に、マイクロパイル工法で採用する小口径の鋼管を継ぎ足す場合を事例に挙げ、継手部材及び鋼管と継手部材の接続構造の詳細を、図1図7を参照しつつ、以下に説明する。継手部材及び鋼管と継手の接続構造を説明するに先立ち、まずは、マイクロパイル工法の概略について説明する。
【0030】
≪≪≪マイクロパイル工法の概略≫≫≫
マイクロパイル工法は、地山を削孔して鉄筋や鋼管等の鋼製補強材を挿入し、グラウトを注入して地盤に定着させる小口径の杭工法であり、マイクロパイルは、杭径300mm以下の場所打ち杭・埋込み杭の総称である。
【0031】
図1で示すマイクロパイル10は、鋼製補強材として小口径の鋼管11を採用して構築したものであり、複数の鋼管11を継ぎ足しながら地山に挿入している。このようなマイクロパイル10は、例えば、図2で示すような手順で構築できる。図2では、土留め杭として使用するタイプのマイクロパイル10を構築する手順を例示している。
【0032】
まず、先端に削孔ビットを設けたインナーロッド(図示せず)を、図2(a)で示すような、先端に掘削ビットを備えたケーシングパイプ61の内方に挿入し、二重管削孔により地山を削孔する。所定深度に到達したところでインナーロッドを回収し、ケーシングパイプ61を残置する。
【0033】
次に、図2(b)で示すように、ケーシングパイプ61内に複数の鋼管11を、継手部材30を介して継ぎ足しながら挿入し建て込む。最下部の鋼管11が孔底に到達したところで、図2(c)で示すように、ケーシングパイプ61に建て込まれた鋼管11内にグラウト注入用のホース62を挿入する。このホース62を利用してグラウト12を打ち上げて、鋼管11内及び鋼管11と地山との間をグラウト12で充填する。
【0034】
こののち、ケーシングパイプ61を撤去すると鋼管11内及び鋼管11と地山との間におけるグラウトの天端高さは低下するため補充打設し、鋼管11とグラウト12よりなるマイクロパイル10を地山に定着させる。こうして構築したマイクロパイル10には、例えば図1で示すように、地中孔20の口元と鋼管11とが拘束部材13で拘束される。
【0035】
このような手順において、図2(b)で示すように、鋼管11を継ぎ足す際に用いる継手部材30は、鋼管11各々の端部にあらかじめ溶接固着されており、次に示す構成を有している
【0036】
≪≪≪継手部材≫≫≫
継手部材30は、図3で示すように、ねじ式継手を構成するメス継手40とオス継手50とを備える。メス継手40及びオス継手50はともに、外径が鋼管11と略同一径の筒状部材により構成されている。そして、内径は鋼管11より小さく形成されており、肉厚Lf1が鋼管11の肉厚Lより厚肉になっている。
【0037】
このような形状の筒状部材よりなるメス継手40及びオス継手50には、それぞれ外周面に縮径面41、51が設けられている。縮径面41、51は、筒状部材の軸線C方向に漸次縮径するリング状の平滑斜面であり、これより一端側(基端側)に、鋼管挿入部42、52が設けられており、他端側(先端側)にねじ式継手を形成する被篏合部43及び篏合部53が設けられている。
【0038】
≪≪メス継手40の被篏合部43≫≫
メス継手40の被篏合部43は、図3で示すように、外周面が鋼管11と略等しい外径に形成され、縮径面41と隣り合う基端側にレンチカット部44を備える。
【0039】
レンチカット部44は、図4(a)で示すように、メス継手40の接線方向に平行な切り欠きであり、対向する2カ所に設けられている。レンチカット部44は、例えば、図2(b)で示すように、継手部材30を利用して鋼管11を継ぎ足しながら建て込む際、これらをレンチ90を利用して保持するための溝である。その他、レンチ90を利用してメス継手40とオス継手50の締込み作業を行う場合などにも、このレンチカット部44を活用する。
【0040】
一方、被篏合部43の内周面は、図3で示すように、基端側が鋼管挿入部42と同径に連続するものの、先端側は鋼管11に略等しい内径に形成されている。この部分には、図5で示すように、タップ孔431と雌ねじ部432が設けられている。つまり、雌ねじ432は、鋼管11の内周面と略同一もしくは近接した位置に配置されている。
【0041】
また、タップ孔431は、図4(b)で示すように、被篏合部43の平面視における2方向(例えば、90°間隔)に設けられており、逆回転防止用ネジ60が装着される貫通孔である。逆回転防止用ネジ60は、ねじ式継手である継手部材30において、メス継手40もしくはオス継手50が逆回転し、ゆるみを生じることを防止するものである。このため、その長さは、タップ孔431に装着されると、被篏合部43の内周面より内側に突出可能な長さに形成されている。
【0042】
≪≪オス継手50の篏合部53≫≫
オス継手50の篏合部53は、図3で示すように、内周面がメス継手40と平滑に連続するよう、全長にわたって被篏合部43及び鋼管挿入部42の内周面と略等しい内径に形成されている。
【0043】
一方、篏合部53の外周面は、鋼管11と略等しい外径に形成され、縮径面51と隣り合う基端側にレンチカット部54が設けられている。レンチカット部54は、メス継手40に設けたレンチカット部44の形状と同様に、オス継手50の接線方向に平行な切り欠きであり、対向する2カ所に設けられている。
【0044】
また、篏合部53の先端側は、図5で示すように、被篏合部43に挿入可能な外径に形成され、外周面に雄ねじ部532が形成されている。さらに、篏合部53には、被篏合部43に設けたタップ孔431と対向する位置に、凹形状のネジ受け部531が設けられている。このネジ受け部531に、図4(b)を参照して説明した逆回転防止用ネジ60が挿入される。
【0045】
上記の構成により、メス継手40とオス継手50が篏合すると、図3で示すように、外径が鋼管11に略等しい筒状部材よりなる継手部材30を構成できる。
【0046】
そして、継手部材30と鋼管11と接合構造は、鋼管挿入部42、52と鋼管11とにより形成される印籠継ぎ部と、縮径面41、51と鋼管11の端面11aとの間に形成される開先70を利用した溶接固着とにより構成される。
【0047】
≪≪鋼管挿入部42、52≫≫
メス継手40の鋼管挿入部42は、図5及び図6で示すように、縮径面41側に位置する挿入部本体421と、この挿入部本体421から軸線C方向に延長した延長部422とによりなる。オス継手50の鋼管挿入部52も同様に、鋼管11との間で印籠継ぎ部を形成し、挿入部本体521と延長部522とを備える。図6は、図5のD部分を拡大表示したものである。
【0048】
≪≪挿入部本体421、521≫≫
挿入部本体421、521は、継ぎ足した鋼管11どうしの直線性と固定度を確保する機能を有する。これらの機能は、挿入部本体421、521が軸線C方向に長尺であれば容易に確保できるが、重量や材料コストを考慮すると適切な長さを設定することが好ましい。
【0049】
そこで、発明者らは実験を実施し鋭意検討した結果、挿入部本体421、521の最適な部材長を、肉厚に基づいて算定できることを見出した。以下に、メス継手40の挿入部本体421を事例に挙げ、図3及び図6を参照しつつ、その算定方法を以下に示す。
【0050】
≪挿入部本体421の部材長L1の算定方法≫
挿入部本体421の部材長は、次の(1)式により算定できる。(1)式において、αは、継手部材30の材質や外径などに応じて適宜調整する係数であり、例えば、継手部材30に外径300mm以下の機械構造用炭素鋼鋼管(STKM)や機械構造用高炭素鋼鋼管(S45C)などを採用した場合、α=36が好適である。
【0051】
L1=α×Lf2/Lf1・・・・・・(1)
L1 :挿入部本体421の部材長
f2:インロー肉厚
f1 :メス継手40の肉厚
【0052】
上記の(1)式において、インロー肉厚Lf2は挿入部本体421の肉厚をいう。インロー肉厚Lf2は、次の(2)式により算定できる(図5を参照)。
【0053】
f2=Lf1-L-G・・・・・・(2)
f1 :メス継手40の肉厚
:鋼管の肉厚
:挿入部本体421と鋼管11とのクリアランス
【0054】
オス継手50の挿入部本体521についても同様に、上記(1)及び(2)式に基づいて部材長L1を算定できる。上記の算定式により、挿入部本体421の部材長L1を算定した事例を次に示す。鋼管11として、鋼管径267.4mm及び肉厚9.3mmの一般構造用炭素鋼鋼管(STK 490)を採用し、また、継手部材30に継手径が267.4mm及び肉厚25mmの機械構造用高炭素鋼鋼管(S45C)を採用した場合、挿入部本体421の部材長L1は22.4mmとなる。
【0055】
ここでは、クリアランスG=0.15、α=36に設定している。こうして算定した部材長L1を採用すると、直線度及び固定度を維持しつつ、軽量で経済的にも好適な継手部材30を製造することができる。
【0056】
≪≪延長部422、522≫≫
メス継手40の延長部422は、図6で示すように、その内周面が鋼管11に対して勾配θ1を有する斜面4221に形成されて、鋼管11の内周面と滑らかに連続する。
【0057】
オス継手50の延長部522も同様に、その内周面が鋼管11に対して勾配θ1を有する斜面5221に形成されている。したがって、鋼管11を継ぎ足して形成した中空部を利用して棒材や管材などを配設する際、その先端が鋼管挿入部42、52に干渉することを防止できる。
【0058】
例えば、図2(c)で示すようなグラウト注入用のホース62は一般に、耐圧性を有するポリエチレン製パイプなどにより製造されている場合が多い。また、施工現場には、巻き取られた状態の荷姿で搬入される場合が多い。このため、ホース62の使用時に巻き取られた状態から巻き出すと、巻き癖によりうねりが生じている。
【0059】
このようなうねりを生じたホース62は、図7で示すように、継手部材30や鋼管11の内周面に衝突しながら、鋼管11を継ぎ足して形成した中空部に挿入される。このとき、前述したように、鋼管挿入部42、52は斜面4221、5221により、鋼管11の内周面と滑らかに連続している。したがって、ホース62の先端に引っかかり生じさせることなくスムーズに配設することができる。
【0060】
特に、マイクロパイル工法では、小規模な施工機械を使用することによる制約条件から、採用可能な鋼管11の長さは1.5m程度と短尺である。すると、長尺なマイクロパイル10を構築したい場合には、継ぎ足す鋼管11の数量が多く、継手部材30の数量も増大となる。このような場合に、ホース62を配設する際の手間を大幅に向上することができる。
【0061】
また、延長部422、522を設けることで、鋼管挿入部42、52と鋼管11との間に形成される印籠継ぎ部の重なり長さを大きく取ることができる。これにより、継手部材30を利用して継ぎ足す鋼管11どうしの直線性及び固定度をより高めることが可能となる。これに伴い、鋼管11と継手部材30を溶接固着する際の作業時の安定性も確保できるため、高い工作精度を維持でき、品質向上に寄与できる。
【0062】
本実施の形態では、メス継手40及びオス継手50に設けた鋼管挿入部42、52の両者に斜面4221、5221を設けている。しかし、鋼管11内に挿入する部材が、グラウト注入用のホース62のように引抜きが容易であったり、挿入後に撤去せず埋め殺しする部材である場合などには、鋼管挿入部42、52の斜面4221、5221うち、挿入時に干渉する恐れのあるいずれか一方のみに設ければよい。また、斜面4221、5221のうち、いずれか一方を省略する場合には、延長部422、522も併せて省略してもよい。
【0063】
上記の延長部422、522は、軸線C方向に長尺であればより滑らかに鋼管11の内周面に連続するが、重量や材料コストを考慮すると適切な長さを設定することが好ましい。
【0064】
そこで、発明者らは、挿入部本体421、521と同様に、延長部422、522の最適な部材長L2を肉厚に基づいて算定できることを見出した。以下に、メス継手40の鋼管挿入部42を事例に挙げ、図3及び図6を参照しつつ、その算定方法を以下に示す。
【0065】
≪延長部422の部材長L2の算定方法(その1)≫
延長部422の部材長L2は、次の(3)式により算定できる。(3)式において、βは、継手部材30の材質や外径などに応じて適宜調整する係数であり、例えば、継手部材30に外径300mm以下の機械構造用炭素鋼鋼管(STKM)や機械構造用高炭素鋼鋼管(S45C)などを採用した場合に、β=5が好適である。
【0066】
L2=β×√Lf2・・・・・・(3)
L2 :延長部422の部材長
f2:インロー肉厚
【0067】
上記(3)式及び前述の(2)式によりメス継手40の延長部422の部材長L2を算定した事例を次に示す。鋼管11に鋼管径267.4mm及び肉厚9.3mmの一般構造用炭素鋼鋼管(STK 490)を採用し、また、継手部材30に継手径が267.4mm及び肉厚25mmの機械構造用高炭素鋼鋼管(S45C)を採用した場合に、部材長L2は19.7mmとなる。
【0068】
≪延長部422の部材長L2の算定方法(その2)≫
また、発明者らは実験により、鋼管11の内周面に対する斜面4221の勾配θ1を30°以上40°以下に設定することが好適であるとの知見を得ている。したがって、延長部422の部材長L2は、あらかじめ斜面4221に付与する勾配θ1を上記の範囲で設定し、これとインロー肉厚(挿入部本体421の肉厚)とに基づいて、設定してもよい。
【0069】
なお、オス継手50の延長部522についても同様に、上記(3)式もしくは斜面5221の勾配θ1に基づいて部材長を設定できる。こうして算定した部材長L2を延長部422、522に採用すると、鋼管11の内周面と滑らかに連続しつつ、軽量で経済的にも好適な継手部材30を製造することができる。
【0070】
≪≪縮径面41、51≫≫
メス継手40の縮径面41は、図6で示すように、鋼管11の端面11aとともに開先70を形成する面として機能する。また、縮径面41には鋼管挿入部42との取合いに、階段部80が形成されている。オス継手50の縮径面51も同様に、鋼管11の端面11aとともに開先70を形成する面として機能する。また、縮径面51には鋼管挿入部52との取合いに、階段部80が形成されている。
【0071】
≪開先70及び階段部80≫
開先70は、鋼管11の端部にメス継手40、50を溶接固着する際に使用する溝部であり、縮径面41と鋼管11の端面11aとにより、いわゆる「レ形」に形成されている。したがって、縮径面41、51は、開先70に必要な開先角度θ2に基づいて形成されている。
【0072】
≪階段部80≫
階段部80は、メス継手40を例に挙げて説明すると、図6で示すように、鋼管挿入部42を鋼管11内に挿入した際に鋼管11の端面11aと対向し、面どうしで当接する当接面81を有する。また、この当接面81と縮径面41とを連結する連結面82を有することで、階段状を形成している。
【0073】
このように、縮径面41に階段部80を設け、この階段部80の当接面81を鋼管11の端面11aに当接させる。これにより、鋼管挿入部42を鋼管11に挿入した際の終点を明確にできる。
【0074】
また、当接面81と連結面82よりなる階段部80とすることで、縮径面41と鋼管11との離間距離が変更することなく、鋼管の端面に当接面81を形成できる。また、縮径面41と鋼管11の端面11aとにより形成される開先70に必要な断面積も、開先角度θ2を変更することなく保持できる。さらに、連結面82の大きさを調整すれば、開先70の断面積を拡張することも自在となる。
【0075】
そして、オス継手50に設けた階段部80も同様に、鋼管11の端面11a当接面81と連結面82を設けており、メス継手40に設けた階段部80と同様の機能を有する。これら、メス継手40及びオス継手50の両者に設けた階段部80の当接面81と対向する鋼管11の端面11aは、いわゆる面タッチを形成する。
【0076】
これにより、継ぎ足した鋼管11どうしの間で、軸線C方向に作用する圧縮力をスムーズに伝達することができる。したがって、これらをマイクロパイル工法に採用して支持杭を構築すると、杭頭部に作用する鉛直荷重を効率よく支持することが可能となる。
【0077】
本発明の継手部材及び鋼管と継手の接続構造は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0078】
例えば、本実施の形態では、マイクロパイル工法で採用する小口径の鋼管11を継ぎ足す場合を事例に挙げたが、継手部材30を用いて継ぎ足す鋼管11の径や炭素含有量などは、何ら限定されるものではない。
【0079】
また、本実施の形態では、鋼管挿入部42、52に設けた斜面4221、5221を平面に形成したが、例えば凸曲面に形成する等、棒材や管材などを挿入した際の干渉(引っ掛かり)を防止できれば、いずれの面に形成してもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 マイクロパイル
11 鋼管
11a 端面
12 グラウト
13 拘束部材
20 地中孔
30 継手部材
40 メス継手
41 縮径面
42 鋼管挿入部
421 挿入部本体
422 延長部
4221 斜面
43 被篏合部
431 タップ孔
432 雌ねじ部
44 レンチカット部
50 オス継手
51 縮径面
52 鋼管挿入部
521 挿入部本体
522 延長部
5221 斜面
53 篏合部
531 ネジ受け部
532 雄ねじ部
54 レンチカット部
60 逆回転防止用ネジ
70 開先
80 階段部
81 当接面
82 連結面
90 レンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7