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特開2023-169819ワゴン車への換気機構の組み込み方法および換気機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169819
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ワゴン車への換気機構の組み込み方法および換気機構
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/26 20060101AFI20231122BHJP
   B60H 1/24 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B60H1/26 671
B60H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081155
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】322004614
【氏名又は名称】有限会社ウェルビー
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良介
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA02
3L211BA12
3L211DA17
3L211DA96
(57)【要約】
【課題】既存のワゴン車に換気機構を簡単に組み込めるようにする。
【解決手段】ワゴン車1の運転席ドア以外のドアが設けられていない側部の運転席ドア11より後方の範囲に換気機構を組み込む場所を定め、その組み込み場所にある内装パネルの内面に換気装置2と電源装置3とを固定し、外装パネル10のアウターパネル10Aに排気口4を設ける。換気装置2は、背面側の端部が内装パネルとその外側のインナーパネルとに設けられた貫通穴を通り、かつ空気通路がインナーパネルとアウターパネル10Aとの間の空間に連通する状態で支持される。電源装置3は換気装置2より前方に固定されると共に、内装パネルの外面や床下を通って前方へと案内される電源ケーブル30Aを介して車内電源に電気接続される。排気口4は、換気装置2が固定される場所より下になる位置に設けられ、その外側に排気グリル40が取り付けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席側の側部に運転席ドア以外のドアが設けられていない構成のワゴン車に車室の内部を換気するための換気機構を組み込むための方法であって、
前記車室の運転席側の運転席ドアより後ろの内壁部を形成する内装パネルの所定位置と、当該内装パネルの外側にあるインナーパネルの前記所定位置に対向する位置とに、一方向に延びる空気通路が設けられた換気装置の背面側の端部を通すことが可能で当該空気通路に連通可能な大きさの貫通穴を開け、
前記換気装置の前記端部が前記インナーパネルとその外側のアウターパネルとの間の空間に入るように当該端部を内装パネルの内面側から内装パネルおよびインナーパネルの各貫通穴に通して前記空気通路を前記空間に連通させると共に、当該換気装置の内装パネルの内側に突出した部分を内装パネルに固定し、
前記運転席の近傍に配備されている車内電源から出力される直流電圧を前記換気装置に適合する電源電圧に変換する電源装置を、前記内装パネルの内面の前記換気装置が固定される場所より前方に固定して前記換気装置に電気接続すると共に、当該電源装置を前記車内電源に接続するための電源ケーブルを、前記運転席側の側部の内装パネルの外面に沿って前方へと移動して車体の床下に入った後に当該床下を通って前記車内電源への接続位置へと移動するように案内し、
前記アウターパネルの前記換気ユニットが固定される場所より下または後ろになる位置に排気口となる貫通穴を開ける、
ことを特徴とする、ワゴン車への換気機構の組み込み方法。
【請求項2】
請求項1に記載された方法において、前記車体の運転席の前方位置に、前記車内電源に接続されている状態と接続されていない状態とを切り替えるための操作スイッチを配備し、この操作スイッチおよび前記電源ケーブルを介して前記電源装置を前記車内電源に接続する、ワゴン車への換気機構の組み込み方法法。
【請求項3】
運転席側の側部に運転席ドア以外のドアが設けられていない構成のワゴン車の前記運転席側の側部に組み込まれる換気機構であって、
一方向に延びる空気通路が設けられた換気装置と、前記運転席の近傍に配備されている車内電源から出力される直流電圧を前記換気装置に適合する電源電圧に変換して前記換気装置に供給する電源装置と、前記換気装置の背面側の端部を通すことが可能で前記空気通路に連通可能な大きさを有する穴として、前記ワゴン車の車室の運転席側の運転席ドアより後ろの内壁部を形成する内装パネルの所定位置と当該内装パネルの外側にあるインナーパネルの前記所定位置に対向する位置とにそれぞれ形成される貫通穴と、前記インナーパネルの外側のアウターパネルに設けられる排気口とが含まれており、
前記換気装置は、前記背面側の端部が前記インナーパネルと前記アウターパネルとの間の空間に入るように当該端部が内装パネルの内面側から内装パネルおよびインナーパネルの各貫通穴を通り、かつ前記空気通路が前記空間に連通する状態で支持されるように、前記内装パネルの内側に突出した部分が当該内装パネルに固定されており、
前記電源装置は、前記内装パネルの内面の前記換気装置よりも前方になる場所に固定されると共に、当該内装パネルを含む運転席側の側部の内装パネルの外面に沿って前方へと移動して車体の床下に入った後に当該床下を通って前記運転席の近傍の適所へと案内された電源ケーブルを介して前記車内電源に電気接続され、
前記アウターパネルの排気口は、前記換気ユニットが固定される場所より下または後ろになる位置に設けられる、
ことを特徴とするワゴン車用の換気機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワゴン車の車体に換気機構を組み込む技術に関する。特に、本発明は、福祉車両にする目的で運転席側の側部に運転席ドア以外のドアを設けないようにした構成のワゴン車に換気機構を組み込むための方法、およびその方法が適用された換気機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における換気機構の先行例を表す文献として、以下の特許文献1,2をあげる。
【0003】
特許文献1には、車室の後部の側部に車室内の空気を吸い込むための吸込口を設け、その外側の外装パネルと吸引口との間の空間にファンやモータを有する換気装置を設けると共に、吸込口から車幅方向の外側下方に向けてダクトを延出し、ダクトの外側に排気用の吐出口を設けた構成の換気機構が開示されている。
【0004】
特許文献2には、前部側に吸引孔が設けられ、後部下面に排気孔が設けられた構成のケース体に送風方向を後ろ向きとした送風機が内蔵された構成の換気装置をワゴン車のルーフパネルの内面の後部に配備することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-193955号公報
【特許文献2】実開平4-9316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
世界中で猛威をふるう新型コロナウイルスに関する最近の研究によって、同ウイルスへの感染は飛沫のほかエアロゾルを介しても発生することが知られるようになった。感染を防ぐには十分な換気を行う必要があるということも、世間の一般常識となっている。
【0007】
感染すると重症化するリスクが高い高齢者や障害者を送迎する福祉車両でも、車内の換気の機能を高める対策をとるべきであるが、その対策に大がかりなコストをかけることは難しい。また日々の送迎に支障が生じないように、換気装置を取り付ける作業も短時間で完了できるようにしなければならない。
【0008】
特許文献1に記載された換気機構では、室内の内壁部と外装パネルとの間の空間に換気装置の全体が配備され、その空間内に換気装置を支持するための機構やダクトが形成されているが、このような構造にするには、上記の空間に換気装置を完全に組み込むことを想定して車体を設計しなければならない。したがって、既存の車両に特許文献1に記載の構成を適用するのは非常に困難である。
【0009】
特許文献2に記載された換気装置は、吸引孔や排気孔を含めた1つのユニットとなっており、またワゴン車に組み込むことを想定しているので、ワゴン型の福祉車両に後付けすることも可能であると思われる。しかし、ユニット化されたものでは寸法や形態の変更が難しく、実際に取り付けることができる車種は限られると思われる。
【0010】
本発明は上記の問題に着目し、福祉車両として使用されている既存のワゴン車に、車種を問わず、換気機構を簡単に組み込めるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
福祉車両に使用されるワゴン車の多くは、車椅子を載せて動かないように保持するための設備を搭載する都合や走行中の安全性を高める目的などにより、運転席側の側部に運転席ドア以外のドアを設けない仕様にしている。本発明は、この車体の特徴を利用して、運転席側の側部の運転席ドアより後ろの範囲に、一方向に延びる空気通路が設けられた換気装置(吸引口と排気口とを対向させ、その間にファンを入れたごく一般的な構成のもの)を取り付けることにした。
【0012】
上記の換気装置の取り付けは、車室の運転席側の運転席ドアより後ろの内壁部を形成する内装パネルの所定位置と、当該内装パネルの外側にあるインナーパネル(車体側部の外装パネルの内側部分)の前記所定位置に対向する位置とに、上記の換気装置の背面側の端部を通すことが可能で前記空気通路に連通可能な大きさの貫通穴を開ける。そして、換気装置の前記端部がインナーパネルとその外側のアウターパネルとの間の空間に入るように当該端部を内装パネルの内面側から内装パネルおよびインナーパネルの各貫通穴に通して換気装置の空気通路を前記空間に連通させると共に、当該換気装置の内装パネルの内側に突出した部分を内装パネルに固定する。
【0013】
なお、上記の固定では、換気装置の背面側の端部から空気通路の終端位置(排気口)までの範囲がインナーパネルとアウターパネルとの間の空間に入る状態になるのが望ましいが、空気通路から出る空気が上記の空間以外に漏れることがないようにして空気通路を当該空間に連通させることができるのであれば、空気通路の終端位置をインナーパネルと内装パネルとの間、または内装パネルより内側に配置してもよい。
【0014】
さらに本発明では、上記の換気装置を作動可能にするために、運転席の近傍に配備されている車内電源から出力される直流電圧を換気装置に適合する電源電圧に変換する電源装置を、上記内装パネルの内面の換気装置が固定される場所より前方に固定して換気装置に電気接続する。さらに、この電源装置を車内電源に接続するための電源ケーブルを運転席側の側部の内装パネル(電源装置が固定されるパネル以外の内装パネルも含む。)の外面に沿って前方へと移動して車体の床下に入った後に当該床下を通って車内電源への接続位置へと移動するように案内する。
【0015】
さらに本発明では、アウターパネルの換気ユニットが固定される場所より下または後ろとなる位置に排気口となる貫通穴を開ける。
【0016】
上記の方法によって、車体の側部の外装部分のインナーパネルとアウターパネルとの間の空間を空気の通り道として機能させ、車室の内部の空気を換気装置の空気通路から上記空間およびアウターパネルの排気口を介して車外へと排出する換気機構が形成される。この換気機構では、排気口が換気装置よりも下または後ろに設けられるので、排気口から雨水などの水滴が入っても、その水滴が換気装置の空洞部分から車室の内部に侵入するのを防ぐことができる。
【0017】
車体本体に対する加工は、内装パネルおよびインナーパネルに換気装置の取付用の貫通穴を設けることと、アウターパネルに排気口用の貫通穴を設けることだけで、車体の大がかりな改造をする必要はない。換気装置や電源装置を内装パネルに固定する作業や外装パネルに排気グリルを取り付ける作業も、大がかりな労力を要するものではない。また、換気装置を動かす電源を供給するための電源ケーブルをドアのない部分の内装パネルの外面に沿って案内することで、電源ケーブルの設置や保護も容易に行うことができる。
【0018】
さらに、車体の運転席の前方位置に、車内電源に接続されている状態と接続されていない状態とを切り替えるための操作スイッチを配備し、この操作スイッチおよび前記電源ケーブルを介して電源装置と車内電源とを接続すれば、換気装置が作動するオン状態と換気装置が停止するオフ状態とを運転席で容易に切り替えることが可能になる。
【0019】
上記のとおり、本発明によれば、大きな労力をかけずに、既存のワゴン車に換気機構を組み込み、換気機能を高めることができる。換気装置や電源装置には市販の製品を利用することができるので、コストが大がかりになるおそれもない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、運転席側の側部に運転席ドア以外のドアが設けられていない、という要件を満たすワゴン車であれば、車種を問わずに容易に換気機構を組み込むことができる。その組み込みの作業の労力やコストが大がかりになるおそれもない。しかも短時間で組み込み作業を完了させることができるので、福祉事業者に手頃な価格で速やかに提供することができ、多くの福祉施設の利用者や職員らの健康を守ることに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による換気機構が組み込まれたワゴン車の運転席側の側部の外観を表す側面図である。
図2】上記のワゴン車の車室の内部のレイアウトを表した図である。
図3】車室の中の換気装置と電源装置とが取りつけられている場所とその周囲の状態を表した斜視図である。
図4】換気装置の取付構造を換気の原理と共に現した模式図である。
図5図1と同タイプのワゴン車の運転席側の側部の上部位置に換気機構を組み込んだ例を表す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明による換気機構が組み込まれたワゴン車1の一実施形態の運転席側(車の進行方向を向いたときに右側となる。)の側部を表した図であり、図2は当該ワゴン車1の車室内の座席等の配置を表したレイアウト図である。なお、以下の説明では、車体の運転席側を右側と言い、助手席側を左側と言うことにする。また、図2では、車室全体を符号100により表している。
【0023】
この実施例のワゴン車1は、高齢者用の施設が利用者を送迎するために使用する福祉車両である。図2に示すように、車室100の運転席15および助手席16の後ろには、利用者用の座席17a,17bが幅方向に沿って並べられているが、それより後方では、2つの座席17c,17dが左側の壁部に沿って並べられ、その右側のスペースの後部に車椅子110を運ぶためのリフト装置101が設けられている。このリフト装置101の上およびリフト装置101の前方の空スペースに、利用者を乗せた車椅子110を1台ずつ置くことができる。また右側の壁部に沿う範囲には、折り畳まれた車椅子110を載せて保持するための載置台102が配備されている。
【0024】
図1に示すように、ワゴン車1の車体の右側部には運転席ドア11は設けられているが、利用者用のドアは設けられておらず、運転席ドア11の背後の外装パネル10(以下「サイドパネル10」という。)は窓になる部分を除き、後端部まで一連に連なる一体物のパネルとなっている。このサイドパネル10は、外面を形成するアウターパネル10Aおよび内面を形成するインナーパネル10B(図3に示す。)に端面用のパネル(図示せず。)や補強用のフレーム(図示せず。)を介して繋いだ構成のものである。よって、サイドパネル10は、外観上は2~3cm程度の厚みのパネルとなるが、その厚み部分は、補強用のフレームが入っている箇所以外は空洞となっている。
【0025】
図示を省略した車体の左側部には、助手席用のドアのほか、中央部に利用者の乗り降り用のスライドドアが設けられ、車体の背面部には、ハッチ式のドアが設けられている。これらのドアや運転席ドア11を形成するパネル部材、図1中に符号12で示したルーフパネル、図示されていない左側のサイドパネルも、上記のサイドパネル10と同様の構造を有している。
【0026】
図3は、車室100の中の換気機構が配備されている箇所とその周囲の外観を表した図であり、図4は換気装置2の取付構造や換気装置2と排気口との関係を模式的に表した図である。以下、これらの図を参照に加えて、換気機構について詳細に説明する。
【0027】
この実施例の換気機構は、車室100の右側後方部の窓の下の内装パネル13に取り付けられた換気装置2、換気装置2の電源装置として働くDC-ACインバータ3(以下、単に「インバータ3」という。)、サイドパネル10のアウターパネル10Aに設けられた一対の排気口4,4、およびサイドパネル10の内部の空間Sを、主要な構成要素とする。
【0028】
図3に示すように、この実施例では、右側後部の窓の下の内装パネル13のうち前述した車椅子の載置台102の前端部に対応する場所に換気装置2が取り付けられ、換気装置2のやや前方の位置にインバータ3が取り付けられている。
【0029】
図4に示すように、換気装置2は、吸引口となる円形孔23が設けられた前板24の背面に当該円形孔23に連なる空洞部(符号省略)を有する筒体25が一体に設けられた形態の本体部20と、この本体部20の前面側に着脱可能に装着される吸気グリル21とを備える。本体部20の筒体25の内部には、交流モータを含む駆動部27に連結されたファン26が配備される。駆動部27は前端側の一部分のみが筒体25の中に入り、残りの部分は筒体25の背後に突出している。また、筒体25の外周面の適所に、電源への接続用の端子(図示せず。)が設けられている。
【0030】
吸気グリル21は、前板24および筒体25の前端部分を覆うように当該前板24に噛み合わせられている。さらにこの実施例では、筒体25の吸気グリル21に覆われる範囲より後ろにも、吸気グリル21とほぼ同じ外形と筒体25が嵌る大きさの嵌合穴を有する補助部材22が取り付けられている。
【0031】
図4には表していないが、内装パネル13の換気装置2の取り付け位置には筒体25が通る大きさの貫通穴が設けられ、インナーパネル10Bの前記貫通穴に対向する場所にもほぼ同じ大きさの貫通穴が設けられている。換気装置2は、筒体25の補助部材22に覆われていない後端部および駆動部27の筒体25から突出した部分(以下、これらを合わせて「(換気装置2の)後方部分」と言う。)が各貫通穴に通されることによって、図4に示すように、当該後方部分が内装パネル13の外側に配置され、吸気グリル21および補助部材22に覆われた部分が内装パネル13の内側に配置された状態となり、この状態が維持されるようにネジにより内装パネル13に固定される。この固定によって、換気装置2の駆動部27の後端面を含む後方部分の大半がインナーパネル10Bとアウターパネル10Aとの間の空間Sに入り、その空間Sに筒体25の空洞部が連通した状態になる。
【0032】
アウターパネル10Aの一対の排気口4,4は、換気装置2が取り付けられた範囲よりも下になる範囲で上下に並ぶように形成される。各排気口4には排気グリル40が取り付けられる。排気される空気が路面に向かうようにすることと、雨などの水滴がアウターパネル10Aの内側に入るのを防ぐことを目的として、排気グリル21の羽根はアウターパネル10Aから離れるにつれて下がる方向に傾けられている。
【0033】
インバータ3もネジにより内装パネル13に固定される。内装パネル13のインバータ3が取り付けられる範囲の上下には小孔(図示せず。)が形成され、図3に示すように、上方の小孔にインバータ3の上面から延び出た2本のケーブル30A,30Bが通され、下方の小孔にインバータ3の下面から延び出たケーブル30Cが通される。
【0034】
後者のケーブル30Cは、換気装置2に駆動電源を供給するための電源ケーブルである。ケーブル30Cは、インバータ2の下方の小孔を介して内装パネル13の外面側に引き出されて換気装置2の電源端子に接続される。
【0035】
ケーブル30Aはインバータ3に直流電圧を供給するための電源ケーブルであり、ケーブル30Bは、インバータ3の作動スイッチを切り替えるための制御信号を伝送する信号ケーブルである。これらのケーブル30A,30Bは、内装パネル13の外面に沿って車体の前方へと導かれる。
【0036】
図1には、ケーブル30A,30Bが案内される経路の一例を、一点鎖線により表している。この例では、各ケーブル30A,30Bは、インバータ3の取付位置から内装パネル13の下端部まで降ろされた後に下端縁に沿って内装パネル13の前端付近まで案内され、そこから床下に入って運転席の前方の壁部まで導かれる。さらにケーブル30A,30Bは上記壁部の内面に沿って上方へと案内されて、ダッシュボード14の右端部に設けているスイッチ31A,31B(図2を参照。)に接続される。
【0037】
図1,2では、スイッチ31A,31Bを矩形で表しているが、実際のスイッチ31A,31Bは手動操作のためのレバーを有する切替スイッチであり、それらが含まれる電気回路と共にユニット化されてダッシュボード14の右端に組み込まれている。
【0038】
上記の電気回路は、車体に備え付けのヒューズボックスから電源の供給を受けて、スイッチ31Bが閉じられたときにハイレベルとなる信号を生成する。この信号が前述した制御信号となって、ケーブル30Bを介してインバータ3に伝送される。
【0039】
電源ケーブル30Aが接続されるスイッチ31Aは、上記の電気回路を介してヒューズボックスの12Vの直流電圧の出力端子に接続されている。よって、スイッチ31Aが閉じられると、12Vの直流電圧がケーブル30Aを介してインバータ3に供給される。さらにスイッチ31Bが閉じられると、ケーブル30Bを介して伝送されたハイレベルの制御信号よりインバータ3が作動し、12Vの直流電圧から変換された100Vの交流電圧がケーブル30Cを介して換気装置2に供給される。
【0040】
上記の交流電圧の供給によって換気装置2のファン26が回転を開始すると、車室100の内部から換気装置2の円形孔23(吸引口)、筒体25の空洞部、インナーパネル10Bとアウターパネル10Aとの間の空間Sを順に通過して排気口4から車外に抜ける空気の流れが生じる。車室100には、別途、車体に備え付けられている空調設備から外部の空気が供給され、これらも上記と同様の経路をたどって車外に排出される。このようにして車室100の内部の空気が入れ替えられる状態が続くことによって、ウイルスなどの有害物質が車室100内に滞留するのを防ぐことができる。
【0041】
上記の実施例では、アウターパネル10Aの排気口4が換気装置2の配備される範囲より下の位置に設けられているので、排気グリル40の羽根の隙間から空間Sに雨などの水滴が入った場合でも、その水滴はインナーパネル10Bに当たって落下、またはインナーパネル10Bに届く前に落下して、サイドパネル10の下端面の適所に設けられている水抜き用の穴から排出される。したがって、水滴が換気装置2を通過して車室100の内部に入ることは殆どない。
【0042】
上記の換気機構を組み込むには、まず、サイドパネル10の内部の補強用フレームが設けられていない場所の中から、換気機構の各構成要素の配置に適した場所を選定し、内装パネル13の選定された場所に、換気装置2の後端部分を挿通させるための貫通穴やケーブル30A,30B、30Cを通すための小孔を開ける。サイドパネル10のアウターパネル10Aやインナーパネル10Bにも貫通穴を開ける。
【0043】
内装パネル13の貫通穴および小孔、ならびにインナーパネル10Bの貫通穴は、内装パネル13の内面側から電動ドリルや電動ノコギリなどで穴を開ける方法により形成することができる。アウターパネル10Aの排気口4となる貫通穴も、アウターパネル10Aの外面側から同様の道具を用いて開けることができる。
【0044】
換気装置2やインバータ3を取り付ける際には、サイドパネル10、運転席15およびその隣の助手席16、ならびにそれらの座席の下のフロアパネル(図示せず。)などが取り外される。
【0045】
換気装置2は、吸気グリル21は外されるが、補助部材22やインバータ3との接続用のケーブル30Cが取り付けられた状態にされ、後方部分を内装パネル13の内面側から貫通穴に挿入し、前板24および補助部材22を内装パネル13にネジ止めする方法により内装パネル13に固定される。ケーブル30Cも後方部分と共に貫通穴に挿入されて内装パネル13の裏面側に引き出される。吸気グリル21は、上記の固定が完了した後に本体部20に装着される。
【0046】
インバータ3も、筐体の上下の複数位置で内装パネル13の内面にネジ止めされる。その固定の前に、内装パネル13の外面側で換気装置2に接続されたケーブル30Cが下側の小孔から内装パネル13の内面側に引き入れられてインバータ3に接続される。ケーブル30A,30Bは、インバータ3の固定後または固定前に、上側の小孔から内装パネル13の外面側へと引き出される。
【0047】
上記とは逆に、インバータ3を先に内装パネル13に取り付けてから換気装置2を取り付けてもよい。その場合は、ケーブル30Cはあらかじめインバータ3に接続されて、インバータ3の取り付け作業の際に内装パネル13の裏面側へと引き出され、換気装置2が取り付けられるときにその電源端子に接続される。いずれの場合も、ケーブル30Cは内装パネル13の裏面から大きく離れないように長さが調整されると共に、内装パネル13の裏面の適所に設けられた保持部材によって当該裏面に沿うように支持される。
【0048】
なお、換気装置2の端子が前板24の裏面など、内装パネル13の内側に突出する部分に設けられる場合には、ケーブル30Cによる換気装置2とインバータ3との接続も内装パネル13の内面側で行ってよい。その場合には、ケーブル30Cを内装パネル13の内面に沿うように支持し、その上方を保護ケースで覆うなどの方法により、ケーブル30Cを保護するのが望ましい。
【0049】
ケーブル30A,30Bも、先に説明したとおり、内装パネル13の外面や床下部分の底面に沿ってダッシュボード14まで導かれ、それぞれスイッチ31A,31Bに接続される。
【0050】
かくして、換気装置2やインバータ3の内装パネル13への固定や電気接続が完了すると、取り外されていたパネルや座席が再び車体に取り付けられる。サイドパネル10が元のとおりに取り付けられたとき、内装パネル13の外側に突出していた換気装置2の後端部分がインナーパネル10Bの貫通穴に通され、図4に示したように、換気装置2の後方部分の大半がインナーパネル10Bとアウターパネル10Aとの間の空間Sに入り、換気装置2の筒体25の空洞部(空気通路)が空間Sに連通した状態になる。またケーブル30A,30B,30Cは、サイドパネル10やフロアパネル等によって隠された状態になる。
【0051】
なお、換気装置2やインバータ3を内装パネル13にネジ止めしても、これらの装置の支持が不安定になるおそれがある場合は、インナーパネル10Aまで届く長さのネジを用いて各装置を内装パネル13に仮止めとして取り付けておき、サイドパネル10の再取り付けが完了してから上記のネジを完全に締めてインナーパネル10Bにまでネジを貫入させるとよい。
【0052】
アウターパネル10Aに排気口4を開ける作業や排気グリル40を取り付ける作業は、サイドパネル10の取り外し前に限らず、サイドパネル10の取り外し中に行うことができる。取り外されたサイドパネル10の再取り付けが完了した後に行うこともできる。
【0053】
排気グリル40はアウターパネル10Aの外面側に取り付けられるが、厚みは数ミリ程度であるので、車体の右側部から大きく突出して車幅の最大幅に影響を及ぼすおそれはない。また、排気口4を開ける際に、その外周縁部の厚み部分を少し削って排気グリル40の端縁部を載せる段部を形成するようにすれば、アウターパネル10Aに対する排気グリル40の突出度合いをより小さくすることができる。
【0054】
図4に示した例では、換気装置2の筒体25の後端部がインナーパネル10Bとアウターパネル10Aとの間の空間Sに入るようにしたが、必ずしもそのようにする必要はない。インナーパネル10Bや内装パネル13に、筒体25の空洞部の端面と同程度の大きさの貫通穴、また当該空洞部の端面より小さいが駆動部27より十分に大きな径を有する貫通穴を開け、駆動部27の後端部がそれらの貫通穴を通過して空間Sに入るようにするのであれば、筒体25の全体が内装パネル13より内側に配置されるようにしてもよい。ただし、筒体25に吸い込まれた車室100の内部の空気が筒体25の開口部から漏れ出ることがないように、換気装置2の内装パネル13より突出する部分の吸気グリル21が装着されていない範囲の全体に補助部材22を被せる必要がある。
【0055】
図3に示したように、換気装置2やインバータ3は、車室100の内装パネル13の内面からかなり突出した状態で取り付けられるが、その近傍に座席はなく、車椅子110が入る場合でも、換気装置2やインバータ3から十分な距離を隔てた場所に車椅子110を配置することができる(図2を参照。)。したがって、換気装置2やインバータ3が取り付けられたことによって利用者のための空間が狭められることも、換気装置2やインバータ3が利用者の身体に当たるなどの不都合が生じることもなく、車室100に対する換気能力を容易に高めることができる。
【0056】
換気機構を配備する場所は上記の実施例の場所に限らず、図5に示すように、車体の右側部の窓より上の範囲に配備することもできる。
【0057】
図5の例では、ルーフパネル12の右側部に対応する範囲にある内装パネルに換気装置2およびインバータ3を先の実施例と同様の関係をもって取り付けると共に、ルーフパネル12の換気装置2より後ろに排気口4を設けている。この排気口4には、上下方向に沿う羽根が横並びに配列された構成の排気グリル41が取りつけられている。
【0058】
換気装置2やインバータ3の内装パネルへの取り付けの方法や両者の電気接続の方法は、先の実施例で説明したのと同様である。インバータ3から内装パネルの外面側に延び出たケーブル30A,30Bを内装パネルの外面に沿わせて床下まで導き、床下からダッシュボード14のスイッチ31A,31Bまで案内することも、先の実施例と同様である。
【0059】
図5の例では、ケーブル30A,30Bは、右側部の窓の上の内装パネルの下端縁に沿って運転席ドア11の近傍位置まで導かれた後、サイドパネル10に対向する内装パネル13の前端縁に沿って降ろされて床下へと導かれる。さらにケーブル30A,30Bは、運転席の床下で運転席の前方の壁部に対応する場所まで延ばされ、そこから壁部の内面を上るように案内され、ダッシュボード14のスイッチ31A,31Bに接続される。
【0060】
図5の例のように、アウターパネル10Aの排気口4を換気装置2の後ろに設ける場合でも、換気装置2から吸い出された空気をインナーパネルとアウターパネルとの間の空間Sを介して排気口4に導き、外部に排出することができる。排気口4から空間Sに入った水滴が換気装置2から車室100の内部に入るのを防ぐこともできる。
また、排気口4の排気グリル41の羽根の面を後方に向かうにつれてアウターパネル10Aから離れる方向に傾けることによって、水滴が空間Sに入るのを防ぐ効果を高めることができる。
【0061】
図1図5に示したケーブル30A,30Bの案内経路はあくまでも一例である。特に、内装パネルに対しては、様々な経路を設定することができる。
【0062】
たとえば、図1の例では、内装パネル13の内面側からケーブル30A,30Bが引き出されたときの高さ位置を維持して各ケーブル30A,30Bを内装パネル1の前端部まで案内し、そこからケーブル30A,30Bを降ろして床下へと導くこともできる。
【0063】
図5の例の場合には、各ケーブル30A,30Bを、前後の窓の間の柱部分のパネルの外面に沿わせて降ろして内装パネル13へと導き、そのまま内装パネル13でもケーブル30A,30Bを下端部まで降ろし、そこから図1の例と同様に内装パネル13の下端縁にケーブル30A,30Bを沿わせて床下まで案内することもできる。
【0064】
いずれの例でも、車体の右側部のドアが設けられていない領域内で換気装置2より前方になる位置にインバータ3を取り付けたことによって、インバータ3から運転席までの範囲に配線を妨げるものが殆ど生じないようにでき、案内経路を自由に設定することができる。
【0065】
各ケーブル30A,30Bをそれぞれ異なる経路で案内することもできる。またケーブル30A,30Bはいずれも一本で全長が形成されるものに限らず、複数のケーブルを繋いだものを使用してもよい。
【0066】
図5の例のように、右側部の窓より上の範囲に換気機構を設ける場合は、その設置の場所を前方側の窓の上方の範囲(座席17aに対応する場所)に変更してもよい。または前方側の窓の上方および後方側の窓の上方の2箇所に、換気装置2,インバータ3および排気口4を含む換気機構を設けてもよい。
また、車体の左側部の窓の上の範囲にも、同様の構成の換気機構を設けることができる。この場合にも、ケーブル30A,30Bをルーフパネル12の下にある天井パネルの外面に沿わせて左側部から右側部へと案内すれば、その後は図5の例と同様のルートでスイッチ31A,31Bまで導くことができる。
【0067】
図1および図5のいずれの例でも、換気装置2の作動(オン状態)と停止(オフ状態)とを運転席でのスイッチ操作によって行うことができるので、室内の込み具合などの状況に応じて換気装置2を容易に動かすことができる。また、ワゴン車1が移動しているときでも、信号待ちなどで車両が停止したタイミングを利用して、適宜、オン状態またはオフ状態に切り替えることができる。
【0068】
なお、各実施例では、ケーブル30Bにより伝送される制御信号をインバータ3に与えることにより換気装置2のオン状態とオフ状態とを切り替えるようにしたが、換気装置2にオン・オフの切り替えスイッチやそのスイッチへの接続端子が設けられている場合には、ケーブル30Bを換気装置2に接続して換気装置のオン・オフ動作を直接に制御してもよい。
【0069】
制御信号をインバータ3に伝送する場合には、インバータ3を出力電圧や周波数を変更する機能を持つタイプに変更すると共に、それらの変更を支持する制御信号をスイッチ操作に応じて生成してインバータ3に伝送することによって、換気装置2のファン26の風量を調整することも可能になる。
【0070】
また換気装置2をDCモータを使用するタイプに変更し、電源装置をDC-DCコンバータに変更した場合でも、上述した各種の実施形態による換気機構をワゴン車1の車体に組み込むことができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ワゴン車
2 換気装置
3 DC-ACインバータ
4 排気口
10 サイドパネル
10A アウターパネル
10B インナーパネル
11 運転席ドア
12 ルーフパネル
13 内装パネル
15 運転席
23 円形孔
25 筒体
27 駆動部
30A,30B,30C ケーブル
31A,31B スイッチ
100 車室
S インナーパネルとアウターパネルとの間の空間
図1
図2
図3
図4
図5