(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169824
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】固体酸化物形セルの状態推定装置、固体酸化物形セルシステム、固体酸化物形セルの状態推定方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20231122BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20231122BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231122BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20231122BHJP
【FI】
C25B1/042
H01M8/0606
C25B9/00 A
C25B15/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081168
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 忠司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【テーマコード(参考)】
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA06
4K021DB06
4K021DB40
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H127BA02
5H127BA14
(57)【要約】
【課題】低コストで、簡便に固体酸化物形セルの状態を推定する。
【解決手段】固体酸化物形セルの状態推定装置は、固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得部と、取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形セルの状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得部と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定部と、
を備える、状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態推定装置であって、
前記推定部は、前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスを構成するいずれかの成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定する、状態推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の状態推定装置であって、
前記取得部は、前記特定の周波数として100Hz以上、かつ、10kHz以下の周波数を用いる、状態推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスには、抵抗の絶対値を表す成分と、位相差を表す成分と、抵抗の実部を表す成分と、抵抗の虚部を表す成分と、が含まれ、
前記推定部は、前記抵抗の虚部を表す成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定する、状態推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の状態推定装置であって、
前記推定部は、過去に推定された前記劣化状態に応じて、新たに前記劣化状態を推定するために用いる前記特定の周波数を変化させる、状態推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の状態推定装置であって、さらに、
過去に推定された前記劣化状態と、前記変化割合とを対応付けた推定基準データを記憶している記憶部を備え、
前記推定部は、取得されたインピーダンスからの前記変化割合と、記憶された前記推定基準データに含まれる前記変化割合とを比較することにより、インピーダンスが取得された前記固体酸化物形セルの劣化状態を判定する、状態推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルは、水蒸気電解装置に用いられる固体酸化物形電解セルである、状態推定装置。
【請求項8】
固体酸化物形セルシステムであって、
前記固体酸化物形セルと、
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の状態推定装置と、
前記固体酸化物形セルが供給された水蒸気を用いて生成する水素量を制御する運転制御部と、
を備え、
前記運転制御部は、前記推定部により推定された前記劣化状態に応じて、前記固体酸化物形セルが生成する水素量を制御する、固体酸化物形セルシステム。
【請求項9】
固体酸化物形セルの状態推定方法であって、コンピュータが、
前記固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得工程と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定工程と、
を実行する、状態推定方法。
【請求項10】
コンピュータプログラムであって、
固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得機能と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定機能と、
をコンピュータに実現させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形セルの状態推定の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形セルを用いた固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolyser Cell:SOEC)や固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1に記載された技術は、広い周波数域でインピーダンスを測定したインピーダンススペクトルを用いて、SOFCの健全性を評価する。特許文献2に記載された技術は、広い周波数域でインピーダンスを測定し、測定されたインピーダンススペクトルを用いたコールコールプロットにより、SOFCのオーミック抵抗値と、燃料極反応抵抗値と、空気極反応抵抗値とを導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4488284号公報
【特許文献2】特許第6163933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載された技術では、SOFCの健全性やオーミック抵抗値などを測定するために、広い周波数域でのインピーダンス測定が必要である。多数のセルスタックで構成される大型のSOFCシステムに対して、広い周波数域でインピーダンスを測定するためには多くの測定装置が必要となる。SOFCのインピーダンスの測定装置は高額であるため、多数のセルスタックで構成されるSOFCシステムの健全性やオーミック抵抗値などを測定する場合、費用が非常にかかってしまう。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、低コストで、簡便に固体酸化物形セルの状態を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、固体酸化物形セルの状態推定装置が提供される。この状態推定装置は、前記固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得部と、取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、固体酸化物形セルの特定の周波数に対応するインピーダンスが取得される。取得されたインピーダンスのいずれかの成分を用いて、固体酸化物形セルの劣化状態が推定される。本構成では、広い周波数域のインピーダンスの代わりに、測定する周波数を1点または数点に限定する。そのため、本構成の状態推定装置を簡易化し、固体酸化物形セルの劣化状態を推定するための費用を削減できる。また、固体酸化物形セルの交換やメンテナンスが複雑な大型のSOECやSOFCのシステムの運転条件制御に、推定された固体酸化物形セルの劣化状態をフィードバックすることにより、当該システムの寿命を延ばした運転が可能になる。
【0009】
(2)上記態様の状態推定装置において、前記推定部は、前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスを構成するいずれかの成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定してもよい。
この構成によれば、固体酸化物形セルの劣化状態の推定に、取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分の変化割合が用いられる。成分の数値そのものの代わりに変化割合が用いられることにより、固体酸化物形セルの劣化状態をより適切に推定できる。
【0010】
(3)上記態様の状態推定装置において、前記取得部は、前記特定の周波数として100Hz以上、かつ、10kHz以下の周波数を用いてもよい。
この構成によれば、インピーダンスを測定されるために固体酸化物形セルに印加される特定の周波数が100Hz以上10kHz以下である。そのため、当該領域の周波数に対するインピーダンスの成分の変化割合は、その他の周波数域の場合と比較して、固体酸化物形セルの劣化状態に応じた感度が高い。すなわち、特定の周波数が100Hz以上10kHz以下であることにより、劣化状態をより適切に推定できる。
【0011】
(4)上記態様の状態推定装置において、前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスには、抵抗の絶対値を表す成分と、位相差を表す成分と、抵抗の実部を表す成分と、抵抗の虚部を表す成分と、が含まれ、前記推定部は、前記抵抗の虚部を表す成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定してもよい。
この構成によれば、固体酸化物形セルの劣化状態の推定に、測定されたインピーダンスにおける抵抗の虚部を表す成分が用いられる。インピーダンスにおける抵抗の虚部の成分における変化割合は、その他の成分と比較して、固体酸化物形セルの劣化状態に応じた感度が高い。すなわち、インピーダンスの抵抗の虚部の成分が用いられることにより、劣化状態をより適切に推定できる。
【0012】
(5)上記態様の状態推定装置において、前記推定部は、過去に推定された前記劣化状態に応じて、新たに前記劣化状態を推定するために用いる前記特定の周波数を変化させてもよい。
この構成によれば、過去に劣化状態を推定する際に用いた特定の周波数を参考にして、新たに劣化状態を推定するための特定の周波数が決定される。そのため、過去の劣化状態の推定時に、変化割合の感度が最も高かった特定の周波数を用いて、新たに劣化状態を推定できる。この結果、新たに推定される固体酸化物形セルの劣化状態をより適切に推定できる。
【0013】
(6)上記態様の状態推定装置において、さらに、過去に推定された前記劣化状態と、前記変化割合とを対応付けた推定基準データを記憶している記憶部を備え、前記推定部は、取得されたインピーダンスからの前記変化割合と、記憶された前記推定基準データに含まれる前記変化割合とを比較することにより、インピーダンスが取得された前記固体酸化物形セルの劣化状態を判定してもよい。
この構成によれば、過去に推定された劣化状態を基準として、インピーダンスから算出された変化割合を用いて、新たにインピーダンスを測定した固体酸化物形セルの劣化状態を推定する。そのため、過去に推定された劣化状態のデータのうち、インピーダンスから算出された成分の変化割合に対応付けられた劣化状態を参照することで、インピーダンスが測定された固体酸化物形セルの劣化状態を簡便に推定できる。
【0014】
(7)上記態様の状態推定装置において、前記固体酸化物形セルは、水蒸気電解装置に用いられる固体酸化物形電解セルであってもよい。
この構成によれば、固体酸化物形セルがSOECに用いられるセルであるため、SOECシステムの寿命を延ばした運転が可能になる。
【0015】
(8)本発明の他の一態様によれば、固体酸化物形セルシステムが提供される。この固体酸化物形セルシステムは、前記固体酸化物形セルと、上記態様の状態推定装置と、前記固体酸化物形セルが供給された水蒸気を用いて生成する水素量を制御する運転制御部と、を備え、前記運転制御部は、前記推定部により推定された前記劣化状態に応じて、前記固体酸化物形セルが生成する水素量を制御してもよい。
この構成によれば、固体酸化物形セルの劣化状態に応じて、固体酸化物形セルにより生成される水素量が制御される。すなわち、推定された劣化状態がフィードバックされて、固体酸化物形セルが生成する水素量が制御されるため、固体酸化物形セルの劣化が進む速度を抑制して、本構成の固体酸化物形セルシステムの寿命を延ばした運転が可能になる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、固体酸化物形セルの状態推定装置、SOECシステム、SOFCシステム、固体酸化物形セルの状態推定方法およびこれらの装置を備えるシステム、これら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態としてのSOECシステムが備える状態推定装置の概略ブロック図である。
【
図2】周波数毎の抵抗の虚部の時間変化の説明図である。
【
図3】周波数が1kHzの場合のインピーダンスの成分毎の時間変化の説明図である。
【
図4】SOECの耐久劣化加速試験についての説明図である。
【
図5】本実施形態のおけるSOECの状態推定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
1.状態推定装置の構成:
図1は、本発明の一実施形態としてのSOECシステム100が備える状態推定装置10の概略ブロック図である。
図1に示されるように、SOECシステム(固体酸化物形セルシステム)100は、供給された水蒸気から水素を生成するSOEC(Solid Oxide Electrolyser Cell:固体酸化物形電解セル)40と、SOEC40が水素を生成するために必要な電力を供給する電源PSと、SOEC40の劣化状態を推定する状態推定装置10と、を備えている。本実施形態では、電源PSから供給される電力によりSOEC40が水蒸気から水素を生成している状態で、状態推定装置10がSOEC40のインピーダンスを測定する。状態推定装置10は、測定したインピーダンスに含まれる成分のうち、抵抗の虚部の変化割合を用いて、SOEC40の劣化状態を推定する。
【0019】
SOEC40は、複数の固体酸化物形セルが積層されたセルスタックである。固体酸化物形セルは、図示されていない固体内で酸化物イオンが伝導可能な電解質層と、電解質層の一方の面に配置された空気極と、電解質層の他方の面に配置された燃料極とが接合されて構成されている。本実施形態では、固体酸化物形セルが摂氏700度(℃)まで加熱され、空気極には空気が導入され、燃料極には水蒸気を含むガスが導入される。空気極と燃料極との間に電源PSにより電力が印加される。これにより、燃料極では、水蒸気が電解され、水素ガスと酸化物イオンとなり、水素ガスが燃料極の出力ガスとして得られる。一方、燃料極で生成された酸化物イオンは、電解質層内を燃料極側から空気極側へ伝導する。空気極へと伝導した酸化物イオンは、酸化されて酸素ガスとなり、空気極の出力ガスとして排出される。
【0020】
状態推定装置10は、SOEC40による水蒸気電解を制御しながら、水蒸気電解中に特定の周波数を用いたインピーダンス測定を行う。
図1に示されるように、状態推定装置10は、SOEC40に特定の周波数の電圧振幅を印加して電流応答を検出する検出装置30と、SOEC40の劣化状態を推定する制御装置20と、を備えている。本実施形態では、検出装置30は、特定の周波数として、100Hz以上、かつ、10kHz以下の周波数の電圧振幅をSOEC40に印加する。SOEC40に印加される特定の周波数の電圧振幅は、制御装置20により決定される。なお、他の実施形態では、SOEC40に特定の周波数の電流振幅を印加して電圧応答を検出してもよい。
【0021】
制御装置20は、図示されていないキーボードおよびマウスで構成されるユーザーインターフェースが受け付けたユーザの操作と、検出装置30の検出値とに応じて、各種処理を行うパーソナルコンピュータ(Personal Computer)である。制御装置20は、
図1に示されるように、CPU(Central Processing Unit)25と、各種データを記憶する記憶部26とを備えている。
【0022】
記憶部26は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)などで構成されている。記憶部26は、検出装置30の検出値の時系列のデータを記憶する検出データベース(検出DB)27と、SOEC40の劣化状態を推定するために用いる推定データベース(推定DB)28と、を備えている。
【0023】
検出DB27は、検出装置30によりSOEC40に印加された電圧振幅と、当該電圧振幅に対する検出装置30の検出値である電流応答とを対応付けた時系列のデータを記憶する。推定DB28には、SOEC40とは異なるSOECを用いて予め測定された、SOECの寿命を表す劣化状態と、インピーダンスの成分の変化割合とを対応付けた推定基準データが記憶されている。なお、劣化状態と、インピーダンスの成分の変化割合との対応付けについては後述する。
【0024】
CPU25は、図示されていないROM(Read Only Memory)に格納されているコンピュータプログラムを、RAM(Random Access Memory)に展開して実行することにより、SOEC40および電源PSを制御するほか、成分算出部21、割合算出部22、劣化推定部23、および運転制御部24として機能する。
【0025】
成分算出部21は、SOEC40に印加した電圧振幅と、検出装置30の検出値である電流応答とを用いて、インピーダンスに含まれる成分である抵抗の絶対値|Z|と、SOEC40に印加した特定の周波数(例えば、1kHz)に対する応答する周波数の位相差θとを算出する。成分算出部21は、算出された抵抗の絶対値|Z|と位相差θとを用いて、インピーダンスに含まれる、下記式(1),(2)に示される抵抗の実部Z1と、虚部Z2との成分をさらに算出する。換言すると、成分算出部21は、SOEC40における特定の周波数のインピーダンスを取得する。
Z1=|Z|cosθ ・・・(1)
Z2=|Z|sinθ ・・・(2)
【0026】
割合算出部22は、成分算出部21により算出されたインピーダンスの各成分の抵抗の絶対値|Z|、位相差θ、抵抗の実部Z1、および抵抗の虚部Z2のそれぞれの変化割合を算出する。算出される各成分の変化割合は、算出された各成分の値を、SOEC40の水蒸気電解の開始時の値で除した値である。
【0027】
劣化推定部23は、割合算出部22により算出された各成分のうちのいずれかの成分の変化割合を用いて、SOEC40の劣化状態を推定する。具体的には、劣化推定部23は、割合算出部22により算出された成分のうちの抵抗の虚部Z2の変化割合と、推定DB28に記憶されている過去に推定された推定基準データとを比較することにより、水蒸気電解を行っているSOEC40の劣化状態を推定する。例えば、抵抗の虚部Z2の変化割合が特定されると、劣化推定部23は、特定された変化割合と、推定基準データに含まれる抵抗の虚部Z2の変化割合とを比較することにより、SOEC40の劣化状態を推定できる。なお、本実施形態では、検出装置30および成分算出部21が取得部に相当し、割合算出部22および劣化推定部23が推定部に相当する。
【0028】
また、本実施形態の劣化推定部23は、過去に推定されたSOECの劣化状態に応じて、新たに劣化状態を推定するSOEC40に対して、推定のために用いる電圧振幅の周波数を変化させる。詳細については後述するが、SOEC40の劣化状態に応じて、劣化状態を推定するための指標として適用する周波数が変化する。換言すると、劣化推定部23は、SOEC40の劣化状態に応じて、劣化状態を推定するために用いるべき特定の周波数を変化させている。
【0029】
運転制御部24は、他の装置から送信される水素生成の要求量に応じて、電源PSによりSOEC40に印加される電圧を制御して、水蒸気電解を制御する。また、運転制御部24は、劣化推定部23により推定された劣化状態に応じて、SOEC40に印加させる電圧を制御する。例えば、運転制御部24は、時刻t1から時刻t2(>t1)における抵抗の虚部Z2の変化割合の変化量が予め設定された閾値以上の場合には、水素生成の要求量によって決まる電圧よりも小さい電圧で水素生成を行う。このように、運転制御部24は、推定されたSOEC40の劣化状態に応じて、SOEC40が生成する水素量を制御する。
【0030】
2.インピーダンスの各成分の評価:
SOEC40の劣化状態を推定するために好ましい特定の周波数と、推定基準として使用されるインピーダンスの成分とを評価した。
図2は、周波数毎の抵抗の虚部Z2の時間変化の説明図である。
図2には、周波数が、1Hzと、10Hzと、100Hzと、1kHzと、10kHzとの抵抗の虚部Z2のSOEC40の稼働時間に応じた変化割合が示されている。具体的には、1Hzの変化割合が黒丸および実線で示され、10Hzの変化割合が白抜きの丸および破線で示され、100Hzの変化割合が黒の四角および一点鎖線で示され、1kHzの変化割合が白抜きの四角および細線で示され、10kHzの変化割合が白抜きの三角および二点鎖線で示されている。
図2に示されるように、5つの周波数では、SOEC40の1kHzの変化割合が、大きく、SOEC40の稼働時間の増加に応じて増加する。すなわち、SOEC40の劣化状態を推定するために、1Hz,10Hz,100Hz,および10kHzよりも1kHzの変化割合が用いられることが好ましい。
【0031】
図3は、周波数が1kHzの場合のインピーダンスの成分毎の時間変化の説明図である。
図3には、周波数が1kHzの場合に、抵抗の絶対値|Z|と、位相差θと、抵抗の実部Z1と、抵抗の虚部Z2と各成分の稼働時間に応じた変化割合が示されている。具体的には、抵抗の絶対値|Z|の変化割合が白丸および破線で示され、位相差θの変化割合が黒丸および実線で示され、抵抗の実部Z1の変化割合が白抜きの四角および一点鎖線で示され、抵抗の虚部Z2の変化割合が黒の四角および二点鎖線で示されている。
図3に示されるように、インピーダンスの各成分では、抵抗の虚部Z2の変化割合が、大きく、SOEC40の稼働時間の増加に応じて増加する。すなわち、SOEC40の劣化状態を推定するために、変化割合が大きい抵抗の虚部Z2が用いられることが好ましい。
【0032】
図4は、SOECの耐久劣化加速試験についての説明図である。
図4には、SOEC40よりも小型のSOECを用いて耐久劣化加速試験を行った場合の、耐久時間毎の周波数に応じた抵抗の虚部Z2の変化が示されている。耐久劣化加速試験では、SOECに印加する電圧振幅の周波数(Frequency)を固定せずに、0.1Hzから100kHzの範囲で、インピーダンススペクトルが測定されている。
【0033】
図4には、耐久時間が20h(時間)経過した際の抵抗の虚部Z2の変化が破線の曲線C20で示されている。同じように、耐久時間が30h経過した虚部Z2が実線の曲線C30で示され、耐久時間が40h経過した虚部Z2が細線の二点鎖線の曲線C40で示され、耐久時間が50h経過した虚部Z2が細線の一点鎖線の曲線C50で示されている。耐久時間が60h経過した虚部Z2が細線の破線の曲線C60で示され、耐久時間が70h経過した虚部Z2が細線の実線の曲線C70で示され、耐久時間が80h経過した虚部Z2が二点鎖線の曲線C80で示されている。耐久時間が90h経過した虚部Z2が一点鎖線の曲線C90で示され、耐久時間が100h経過した虚部Z2が破線の曲線C100で示され、耐久時間が110h経過した虚部Z2が実線の曲線C110で示されている。
【0034】
図4には、曲線C40~C110のそれぞれの虚部Z2の最大値に黒丸が付されている。
図4の黒丸で示されるように、各耐久時間で虚部Z2が最大となる周波数は異なっている。具体的に言うと、耐久時間40hから耐久時間が増加するにつれて、虚部Z2の変化割合が最大となる周波数は、1kHzから小さくなる。耐久時間が110hに近づくと、虚部Z2の変化割合が最大となる周波数は、100(=10
2)Hzに近づく。すなわち、SOEC40の劣化状態に応じて、劣化状態を推定するために用いられる特定の周波数を、変化させてもよい。例えば、耐久時間が30hの場合には周波数が1kHz(=10
3Hz)の虚部Z2で劣化状態が推定され、耐久時間が110hの場合には周波数が100Hzの虚部Z2で劣化状態が推定されてもよい。
【0035】
3.SOECの状態推定方法:
図5は、本実施形態のおけるSOEC40の状態推定方法のフローチャートである。
図5に示される状態推定フローでは、初めに、検出装置30が特定の周波数の電圧振幅をSOEC40に印加する(ステップS1)。検出装置30は、電圧振幅の応答信号である電流応答を検出する(ステップS2)。成分算出部21は、SOEC40に印加された電圧振幅と、応答信号である電流応答とを用いて、インピーダンスの各成分の抵抗の絶対値|Z|,位相差θ,抵抗の実部Z1,および抵抗の虚部Z2を算出する(ステップS3)。なお、ステップS1~S3までの処理は、取得工程に相当する。
【0036】
割合算出部22は、算出されたSOEC40のインピーダンスの各成分の変化割合を算出する(ステップS4)。劣化推定部23は、算出された4つの成分のうちの抵抗の虚部Z2の変化割合と、推定DB28に記憶された推定基準データとを比較することにより、SOEC40の劣化状態を推定し(ステップS5)、状態推定フローを終了するか否かが推定される(ステップS6)。例えば、SOEC40による水素生成を継続する場合には、状態推定フローが終了せずに(ステップS6:NO)、ステップS1以降の処理が繰り返される。SOEC40の水素生成を終了する場合には(ステップS6:YES)、状態推定フローが終了する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の状態推定装置10の成分算出部21が、SOEC40における特定の周波数のインピーダンスを取得する。劣化推定部23は、割合算出部22により算出された各成分のうちのいずれかの成分の変化割合を用いて、SOEC40の劣化状態を推定する。本実施形態では、広い周波数域のインピーダンスの代わりに、SOEC40で測定される周波数を1点または数点である特定の周波数に限定している。そのため、状態推定装置10を簡易化し、SOEC40の劣化状態を推定するための費用を削減できる。また、SOEC40における固体酸化物形セルの交換やメンテナンスが複雑な大型のSOECシステム100の運転条件制御に、推定されたSOEC40の劣化状態をフィードバックすることにより、SOECシステム100の寿命を延ばした運転が可能になる。また、SOEC40の劣化状態の推定に、インピーダンスを構成するいずれかの成分の数値そのものの代わりに変化割合が用いられることにより、SOEC40の劣化状態をより適切に推定できる。
【0038】
また、本実施形態の検出装置30は、特定の周波数として、1kHzの周波数の電圧振幅をSOEC40に印加する。
図2に示されるように、1kHzの周波数に対するインピーダンスの成分の変化割合は、その他の周波数域の場合と比較して、SOEC40の劣化状態に応じた感度が高い。すなわち、1kHzの周波数がインピーダンス測定に用いられることにより、SOEC40の劣化状態をより適切に推定できる。
【0039】
また、本実施形態の劣化推定部23は、割合算出部22により算出されたインピーダンスに含まれる抵抗の絶対値|Z|と、位相差θと、抵抗の実部Z1と、抵抗の虚部Z2とを表す成分のうち、抵抗の虚部Z2の変化割合を用いて、SOEC40の劣化状態を推定する。インピーダンスにおける抵抗の虚部Z2を表す成分における変化割合は、
図3に示されるように、その他の成分(抵抗の絶対値|Z|,位相差θ,および抵抗の実部Z1)と比較して、SOEC40の劣化状態に応じた感度が高い。すなわち、インピーダンスの抵抗の虚部Z2の成分が用いられることにより、SOEC40の劣化状態をより適切に推定できる。
【0040】
また、本実施形態の本実施形態の劣化推定部23は、過去に推定されたSOECの劣化状態に応じて、新たに劣化状態を推定するSOEC40に対して、推定のために用いる電圧振幅の周波数を変化させてもよい。本実施形態では、過去に劣化状態を推定する際に用いた周波数を参考にして、新たにSOEC40の劣化状態を推定するための周波数が決定される。そのため、過去のSOECの劣化状態の推定時に、変化割合の感度が最も高かった特定の周波数を用いて、新たにSOEC40の劣化状態を推定できる。この結果、新たに推定されるSOEC40の劣化状態をより適切に推定できる。
【0041】
また、本実施形態の劣化推定部23は、割合算出部22により算出された成分のうちの抵抗の虚部Z2の変化割合と、推定DB28に記憶されている過去に推定された推定基準データとを比較することにより、水蒸気電解を行っているSOEC40の劣化状態を推定する。すなわち、劣化判定部23は、過去に推定された劣化状態を基準として、インピーダンスから算出された変化割合を用いて、新たにSOEC40の劣化状態を推定する。そのため、過去に推定された劣化状態のデータのうち、インピーダンスに含まれる成分の変化割合に対応付けられた劣化状態を参照することで、インピーダンスが測定されたSOEC40の劣化状態を簡便に推定できる。
【0042】
また、本実施形態の劣化推定部23は、SOEC40の劣化状態を推定する。すなわち、固体酸化物形セルとしてSOEC40が用いられているため、SOECシステム100の寿命を延ばした運転が可能になる。
【0043】
また、本実施形態のSOECシステム100では、制御装置20の運転制御部24は、推定されたSOEC40の劣化状態に応じて、SOEC40が生成する水素量を制御する。すなわち、推定されたSOEC40の劣化状態がフィードバックされて、SOEC40が生成する水素量が制御されるため、SOEC40の劣化が進む速度を抑制して、SOECシステム100の寿命を延ばした運転が可能になる。
【0044】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0045】
上記実施形態の状態推定装置10は、一例であって、測定した固体酸化物形セルのインピーダンスのいずれかの成分の変化割合を用いて、固体酸化物形セルの劣化状態を推定する範囲で変形可能である。例えば、固体酸化物形セルとして、SOEC40ではなく、SOFCが用いられてもよい。SOEC40に印加される電圧振幅または電流振幅の周波数は、1kHz以外であってもよい。印加される周波数は、100Hz以上10kHz以下が好ましいが、ノイズキャンセルの程度によって変化割合の感度を向上させて、周波数を適宜変更できる。SOEC40の劣化状態を推定するために用いられるインピーダンスの成分は、抵抗の虚部Z2以外で、抵抗の絶対値|Z|と、位相差θと、抵抗の実部Z1とのいずれかであってもよいし、複数の成分の組み合わせであってもよい。成分算出部21は、インピーダンスの成分の全てを算出せずに、SOEC40の劣化状態を推定するために用いられる成分のみを算出してもよい。
【0046】
また、SOEC40の劣化状態を推定されるために用いられるインピーダンスの成分は、抵抗の虚部Z2等の成分の変化割合ではなく、抵抗の虚部Z2等の成分の数値そのものでもよい。例えば、劣化したSOEC40と、新しい同規格のSOEC40とを交換する場合に、劣化したSOEC40で測定された抵抗の虚部Z2の数値との比較により、新しく交換されたSOEC40の劣化状態が推定されてもよい。
【0047】
上記実施形態の劣化推定部23は、SOEC40の劣化状態に応じて、インピーダンスを測定するためにSOEC40に印加する電圧振幅の周波数を変化させたが、電圧振幅の周波数は一定であってもよい。SOEC40を構成する空気極と、燃料極と、電解質層との各材質については、周知の材質を適用できる。状態推定装置10が備える検出装置30および制御装置20は、SOEC40のインピーダンスの測定と、インピーダンスの各成分の変化割合の算出とが可能な範囲で周知の装置を適用できる。
【0048】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0049】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
固体酸化物形セルの状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得部と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定部と、
を備える、状態推定装置。
[適用例2]
適用例1に記載の状態推定装置であって、
前記推定部は、前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスを構成するいずれかの成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定する、状態推定装置。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の状態推定装置であって、
前記取得部は、前記特定の周波数として100Hz以上、かつ、10kHz以下の周波数を用いる、状態推定装置。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれか一項に記載の状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルから取得されるインピーダンスには、抵抗の絶対値を表す成分と、位相差を表す成分と、抵抗の実部を表す成分と、抵抗の虚部を表す成分と、が含まれ、
前記推定部は、前記抵抗の虚部を表す成分の変化割合を用いて、前記劣化状態を推定する、状態推定装置。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれか一項に記載の状態推定装置であって、
前記推定部は、過去に推定された前記劣化状態に応じて、新たに前記劣化状態を推定するために用いる前記特定の周波数を変化させる、状態推定装置。
[適用例6]
適用例1から適用例5までのいずれか一項に記載の状態推定装置であって、さらに、
過去に推定された前記劣化状態と、前記変化割合とを対応付けた推定基準データを記憶している記憶部を備え、
前記推定部は、取得されたインピーダンスからの前記変化割合と、記憶された前記推定基準データに含まれる前記変化割合とを比較することにより、インピーダンスが取得された前記固体酸化物形セルの劣化状態を判定する、状態推定装置。
[適用例7]
適用例1から適用例6までのいずれか一項に記載の状態推定装置であって、
前記固体酸化物形セルは、水蒸気電解装置に用いられる固体酸化物形電解セルである、状態推定装置。
[適用例8]
固体酸化物形セルシステムであって、
前記固体酸化物形セルと、
適用例1から適用例7までのいずれか一項に記載の状態推定装置と、
前記固体酸化物形セルが供給された水蒸気を用いて生成する水素量を制御する運転制御部と、
を備え、
前記運転制御部は、前記推定部により推定された前記劣化状態に応じて、前記固体酸化物形セルが生成する水素量を制御する、固体酸化物形セルシステム。
[適用例9]
固体酸化物形セルの状態推定方法であって、コンピュータが、
前記固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得工程と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定工程と、
を実行する、状態推定方法。
[適用例10]
コンピュータプログラムであって、
固体酸化物形セルにおける特定の周波数のインピーダンスを取得する取得機能と、
取得されたインピーダンスを構成するいずれかの成分を用いて、前記固体酸化物形セルの劣化状態を推定する推定機能と、
をコンピュータに実現させる、コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0050】
10…状態推定装置
20…制御装置
21…成分算出部(取得部)
22…割合算出部(推定部)
23…劣化推定部(推定部)
24…運転制御部
25…CPU
26…記憶部
27…検出DB
28…推定DB
30…検出装置(取得部)
40…SOEC(固体酸化物形セル)
100…SOECシステム(固体酸化物形セルシステム)
PS…電源
C20,C30,C40,C50,C60,C70,C80,C90,C100,C110…抵抗の虚部の曲線
|Z|…抵抗の絶対値
Z1…抵抗の実部
Z2…抵抗の虚部
t1,t2…時刻
θ…位相差