(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169829
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】磁性壁取付け物品および磁性壁取付けシステム
(51)【国際特許分類】
A01K 15/02 20060101AFI20231122BHJP
A47G 29/00 20060101ALI20231122BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20231122BHJP
A47B 96/02 20060101ALI20231122BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A01K15/02 D
A47G29/00 J
E04F13/08 Z
A47B96/02 C
A47B96/02 F
H01F7/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081175
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
(72)【発明者】
【氏名】門脇 太一
【テーマコード(参考)】
2E110
3K100
【Fターム(参考)】
2E110AA42
2E110AA55
2E110AA60
2E110AB04
2E110AB23
2E110BA12
2E110BC02
2E110BC07
2E110CA03
2E110CA04
2E110CC04
2E110DC32
2E110GA32Z
2E110GA33W
2E110GB02W
3K100AE01
3K100AF03
3K100AG01
3K100AG03
3K100AJ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁性壁への磁気吸着力を損なうことなく取外しを楽に実施できる磁性壁取付け物品および磁性壁取付けシステムを提供すること。
【解決手段】磁性壁1に磁気吸着力により着脱自在に取付けられる磁性壁取付け物品2であって、剛体からなる背面板22を備え磁性壁1への取付け対象となる物品本体20と、背面板22に貼着されたマグネットシート3とを備え、マグネットシート3は、背面板22と対面する対面領域3Bのうちの略下半部に背面板22に対して連続的に非貼着となる非貼着領域3Nを備えた構成とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性壁に磁気吸着力により着脱自在に取付けられる磁性壁取付け物品であって、
剛体からなる背面板を備え磁性壁への取付け対象となる物品本体と、
背面板に貼着されたマグネットシートとを備え、
マグネットシートは、背面板と対面する対面領域のうちの略下半部に背面板に対して連続的に非貼着となる非貼着領域を備えることを特徴とする磁性壁取付け物品。
【請求項2】
非貼着領域は、背面板の最上端から背面板の高さの少なくとも3分の2の下方位置よりも下方に形成されている請求項1に記載の磁性壁取付け物品。
【請求項3】
物品本体は、剛体からなり背面板に直交する載置板を備える請求項1または請求項2に記載の磁性壁取付け物品。
【請求項4】
背面板が軟磁性材からなる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁性壁取付け物品。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性壁取付け物品と、強磁性体層を有する磁性壁とを有することを特徴とする磁性壁取付けシステム。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性壁取付け物品と、強磁性体層を有する磁性壁とを有し、
磁性壁は、着磁ラインが水平方向に平行となるように取り付けられた壁面マグネットシートが壁材とされ、磁性壁取付け物品のマグネットシートは、壁面マグネットシートと同一の着磁ピッチとされ、磁性壁取付け物品のマグネットシートの着磁ラインが水平方向に平行となるように、磁性壁取付け物品を磁性壁に磁着させたことを特徴とする磁性壁取付けシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性壁取付け物品および磁性壁取付けシステムに関する。より詳しくは、磁性壁に磁気吸着力により着脱自在に取付けられる磁気吸着型の取付け物品、および磁性壁取付けシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、猫ブームにより、自宅で猫を飼う人が増えている。そのような状況の下、室内の壁にマグネットの吸着するパネルを施工することで、マグネット着脱式の猫用踏み台を設置できるようにしたシステムが人気を呼んでいる。猫用踏み台には、例えば下記特許文献1に示すような、背面板にマグネットシートを貼着するとともに背面板に直交する載置板を備えたL字棚が用いられる。このシステムでは、L字棚はマグネットによる着脱式となっているため、壁面に複数のL字棚を自由な配置で設置することができる。例えば階段状に設置することで、猫が昇り降りする遊び空間を室内に実現することができる。
【特許文献1】特開2021-61285号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したシステムにおいて、隣り合う踏み台間の落差を大きく配置した場合や、猫が成長に伴い体重を増した場合でも、昇り降り時に壁面から踏み台が脱落しないように、マグネットシートにはある程度強い磁気吸着力が必要とされる。しかし、磁気吸着力を強くすることは、取外しの際にも大きな力が必要となることを意味する。
ところで、猫に飽きをこさせないようにするため、踏み台の配置は時々変えてやる必要がある。このため、このシステムの踏み台では強い磁着力を備える一方で、取外しにそれほど大きな力を必要としないことが求められる。このような条件は、猫用の踏み台に限らず、時折配置替えをしたい磁着式の収納箱や額縁などにも当てはまる。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、磁性壁への磁気吸着力を損なうことなく取外しを楽に実施できる磁性壁取付け物品および磁性壁取付けシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。なお、本欄(「課題を解決するための手段」の欄)において各構成手段に付した括弧書きの符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すための参考用のものであり、本発明の構成手段をこれに限定するものではない。
【0006】
本発明の一の態様は、磁性壁(1)に磁気吸着力により着脱自在に取付けられる磁性壁取付け物品(2)であって、剛体からなる背面板(22)を備え磁性壁(1)への取付け対象となる物品本体(20)と、背面板(22)に貼着されたマグネットシート(3)とを備え、マグネットシート(3)は、背面板(22)と対面する対面領域(3B)のうちの略下半部に背面板(22)に対して連続的に非貼着となる非貼着領域(3N)を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の他の態様では、上記磁性壁取付け物品(2)において、非貼着領域(3N)は、背面板(22)の最上端(22U)から背面板(22)の高さの少なくとも3分の2の下方位置(22M)よりも下方に形成されている。
【0008】
本発明の他の態様では、上記物品本体(20)は、剛体からなり背面板(22)に直交する載置板(21)を備える。
【0009】
本発明の他の態様では、背面板が軟磁性材からなる。
【0010】
本発明の他の態様は、磁性壁取付けシステム(100,200,300,400)であって、上記いずれか一の態様に記載の磁性壁取付け物品(2)と、強磁性体層(12)を有する磁性壁(1,1A)とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様は、磁性壁取付けシステム(400)であって、上記いずれか一の態様に記載の磁性壁取付け物品(2)と、強磁性体層を有する磁性壁(1A)とを有し、磁性壁(1A)は、着磁ライン(63)が水平方向に平行となるように取り付けられた壁面マグネットシート(6)が壁材とされ、磁性壁取付け物品(2)のマグネットシート(3)は、壁面マグネットシート(6)と同一の着磁ピッチとされ、磁性壁取付け物品(2)のマグネットシート(3)の着磁ライン(33)が水平方向に平行となるように、磁性壁取付け物品(2)を磁性壁(1A)に磁着させたことを特徴とする。
【0012】
本発明の態様についての主要な作用効果を以下に記す。
磁性壁取付け物品(2)において、背面板(22)は剛体からなる。一方、マグネットシート(3)は可撓性を有し、背面板(22)と対面する対面領域(3B)のうちの略下半部に背面板(22)に対して連続的に非貼着となる非貼着領域(3N)を備える。マグネットシート(3)は、背面板(22)の最上端(22U)では背面板(22)と貼着している。
【0013】
ここで貼着領域(3G)では、マグネットシート(3)は背面板(22)と一体化しており、背面板(22)と一体となった動作を行う。つまり背面板(22)を回動させた場合、その回動に同調して(完全に伴って)マグネットシート(3)も回動する。これはマグネットシート(3)を磁性壁(1)から剥がす作用となる。一方、非貼着領域(3N)ではマグネットシート(3)は背面板(22)と一体化しておらず、背面板(22)の回動に完全には同調しない動作をする。
今、磁性壁(1)にマグネットシート(3)により磁着している磁性壁取付け物品(2)を磁性壁(1)から取り外すにあたり、マグネットシート(3)における上記最上端(22U)を軸として回動させマグネットシート(3)をその下方から剥がそうとする作用を加えた場合、次のような過程をたどる。
【0014】
すなわち、
図7に示すように、背面板(22)がマグネットシート(3)に貼着している貼着領域(3G)では、マグネットシート(3)を引き剥がそうとする力が集中し、中央部(a1)が剥がれるが、非貼着領域(3N)では、引き剥がそうとする力が緩やかになる。これにより、例えば非貼着領域(3N)近くの下部(a2)ではマグネットシート(3)は磁性壁(1)から剥がれないが、その後、更に上記作用を加えることで下部(a2)も剥がれていく。
このように、上記要領で磁性壁取付け物品(2)を磁性壁(1)から取り外す場合は、マグネットシート(3)の磁着面全体が一気に壁面から剥がれるのではなく、中央部(a1)、下部(a2)の順で剥がれていく。つまり、一度に大きな力を加えるのでなく、比較的小さな力を複数回に分けて加え、段階的に剥がすことができる形態であるため、取外し作業が容易にできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、磁性壁への磁気吸着力を損なうことなく取外しを楽に実施できる磁性壁取付け物品および磁性壁取付けシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の磁性壁取付けシステムの斜視図である。
【
図3】L字棚におけるマグネットシートの2面図である。
【
図4】第1実施形態の磁性壁取付けシステムに作用する力を説明するための側面図である。
【
図5】L字棚を磁性壁から取り外すときの手順と状態の一例を時系列的に説明するための斜視図である。
【
図6】L字棚を磁性壁から取り外すときの手順と状態の他例を時系列的に説明するための側面図である。
【
図8】第2実施形態の磁性壁取付けシステムの側面図である。
【
図9】第3実施形態の磁性壁取付けシステムの側面図である。
【
図10】第3実施形態の変形例の磁性壁取付けシステムの側面図である。
【
図11】第3実施形態の変形例の磁性壁取付けシステムにおいてL字棚を取り外すときの状態の一部を説明するための側面図である。
【
図12】第4実施形態の磁性壁取付けシステムの側面図である。
【
図13】壁面マグネットシートにおけるマグネットシートの2面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
以下の説明では、直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、水平方向をX方向、Y方向と表現し、XY平面に垂直な方向(つまり、重力方向)をZ方向と表現する。また、Z方向は、重力に逆らう方向を上、重力がはたらく方向を下と表現する。また、Y方向を中心軸として回転する方向をθ方向とする。各図において、磁性壁1はXY平面に垂直で且つZX平面に平行であるものとする。また、添付図面に図示した部材などの縮尺や角度は、必ずしも実物と一致するものではなく、適宜明示しやすい大きさに調整している。なお、以下の説明では「磁気吸着」のことを単に「磁着」と記すことがある。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1は第1実施形態の磁性壁取付けシステム100の斜視図であり、(a)は全体的なイメージ図であり、(b)は(a)における一点鎖線部の拡大図である。
図2は
図1(b)の側面図である。
図3はL字棚2におけるマグネットシート3の2面図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【0019】
図1(a)に示すように、磁性壁取付けシステム100は、一般家庭の室内に設置された磁性壁1と、磁性壁1に取り付けられた複数のL字棚2とを有し、猫の遊び場空間として機能する。すなわち、室内で飼われている猫が、階段状に配置されたL字棚2を昇り降りできるようになっている。各L字棚2は、裏側に設けられたマグネットシート3により、磁性壁1に着脱自在に取り付けられている。従って、ビス等の固定部品を要することなく自由にL字棚2の取付け取外しが可能であり、配置パターンやアイテムの種類を適宜変えることができるようになっている。
【0020】
次に磁性壁取付けシステム100の各構成要素について説明する。
磁性壁1は、
図1(b)に示すように、軟磁性ボード10と壁材フィルム13を有する。
【0021】
軟磁性ボード10は、石膏ボード11と、石膏ボード11の片面に塗布により積層された軟磁性層12とを備える。このような軟磁性ボード10の具体例として、吉野石膏株式会社製のタイガーFeボード(登録商標)を挙げることができる。なお、上記した軟磁性層付きの石膏ボードに代えて、マグピタボード(登録商標)を用いることもできる。マグピタボードは、無機ボードの片面に化粧鋼板層を積層させたものである。また、鋼板、または鋼板に表装シート若しくは機能性シートをラミネートしたボードを用いてもよい。
【0022】
壁材フィルム13は、厚さ数十μ~数百μとされたフィルム状の装飾壁面材であり、ベースフィルム(不図示)の上面に絵柄や模様が印刷されたインキ層を備える。ベースフィルムとしては、表面にインキ受理層を形成したポリ塩化ビニール系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、または薄い紙材などを使用することができる。このインキ受理層に用途に応じた印刷によりインクを定着させる。印刷方式には、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを挙げることができる。
【0023】
磁性壁1は、軟磁性ボード10に壁材フィルム13を例えばウレタン系の接着剤を介して積層させた構成とされ、その壁材フィルム13を表側、すなわち室内空間に向けた状態で、合板、コンクリート、または軽金属などを基材とした壁下地(不図示)に対し、釘、ビス、接着剤、両面粘着テープまたはステープルなどで留付け固定される。
【0024】
L字棚2は、
図1(b)および
図2に示すように、本体部20とマグネットシート3を備える。
本体部20は、木材、合成樹脂または金属を材質とした長方形状の剛体からなる二枚の板を、側面視がL字型となるように接合または折曲げ加工させた構成とされ、載置板21と背面板22を備える。具体的には、背面板22の最下位置で載置板21が直交する形となっている。
載置板21は、猫が載るための載り台として機能する。
背面板22は、取付けの相手方となる磁性壁1への対向部となる部分であり、その裏面はマグネットシート3を接着剤により貼着(固着)することのできるフラット面となっている。
【0025】
マグネットシート3は、背面板22よりも高さ方向(Z方向)に一回り大きなサイズの可撓性シート状の磁石体であり、背面板22の裏面に背面板22から上方にオーバーフレームさせた状態で接着剤Gにより貼着される。すなわち、背面板22の最上端22Uから上方へ距離L1のところにマグネットシート3の上端縁3Uが位置し、背面板22からのオーバーフレーム領域3Vを有するように背面板22に貼着される。
より具体的には、オーバーフレーム領域3Vは、背面板22の高さ方向Zの上側にはみ出る形で形成され、その高さ方向Zの長さL1は、背面板22の高さ方向Zの長さL2の0.4倍~1.0倍である。これは、磁性壁1からのマグネットシート3の取外しの容易さや磁着力の強さに基づいている。
【0026】
ここで背面板22へのマグネットシート3の貼着は、
図2に示すように、背面板22の裏面全面に亘ってなされるのではなく、マグネットシート3と背面板22とが対面する対面領域3Bのうちの一部の領域である貼着領域3Gについてのみなされている。貼着領域3Gは、背面板22の最上端22Uと、この最上端22Uから背面板22の高さ方向Zの全長の約3分の2の下方位置22Mとの間の領域である。つまり、上記下方位置22Mと背面板22の最下端22Lとの間は、貼着されていない非貼着領域3Nとなっている。言い換えれば、背面板22における略下半部に、マグネットシート3に対して連続的に非貼着となる非貼着領域3Nが設けられる。
【0027】
非貼着領域3Nは、後述するように、L字棚2を、そのマグネットシート3の上側接着端3M1が回動軸となるように磁性壁1から引きはがす際に、一度に加える力の緩和に寄与するものである。この非貼着領域3Nは、背面板22の高さ方向Zの全長の約3分の2の下方位置22Mよりも上方の範囲に設けると、耐荷重が小さくなる影響が無視できなくなる。
【0028】
上記マグネットシート3は、硬磁性材料の微粉末と、粘結材となる少量の有機高分子エラストマーとの混合体を、圧延または押出しなどの方式により成形したシート状体の表面に着磁を施して製作される。マグネットシート3は、両面多極着磁型となっている。すなわち、
図3に示すように、表裏各面に、互いに極性の異なる一定幅の磁極31,32(N極とS極)が交互に等間隔の縞状に形成され、一定ピッチの着磁ライン33を有する。マグネットシート3の厚さは1mm~5mmとされる。ここで着磁ライン33とは、多極着磁されたマグネットシート3の表面における任意の1つの磁極31と、その隣にある極性の異なる磁極32との仮想の境界線のことである。現実的には、磁気ビュアシート(磁性流体のマイクロカプセルをフィルム中に均一に分散させたもの)を密着させたときに白く見える部分であって、マグネットシート表面における法線方向、即ち表面に垂直方向の磁場が著しく弱いかまたは零の領域である。つまり、着磁ライン33は、シート表面の仮想線を意味する。着磁ライン33は、側面図では、マグネットシート3の厚み方向の両端部に位置することになる。
なお、十分な磁着力を得るために、異方性の硬磁性材料を用いることが好ましい。また、マグネットシート3の磁着面に剥離自在の粘着剤層を設け、磁性壁面との固着をより強固にすることもできる。
【0029】
次に、磁性壁取付けシステム100に特有な第1の作用効果を、
図4を用いて説明する。
図4は第1実施形態の磁性壁取付けシステム100に作用する力を説明するための側面図であり、載置板21に負荷Dを載せたL字棚2が磁性壁1に磁着されている状態を示す。
図4において、(a)はマグネットシート3がオーバーフレーム領域3Vを有する形態を示し、(b)はマグネットシート3がオーバーフレーム領域3Vを有さない形態を示す。(a)(b)ともに、負荷Dは各システムが保持できる最大重量であるとする。つまりこの重量を超えると、L字棚2は脱落してしまう
【0030】
(a)(b)の各状態では、Z方向について下記の力の釣合式が成立する。
(a)について、
Q1=μ×P1=W1
P1=S1×P0
(b)について、
Q2=μ×P2=W2
P2=S2×P0
【0031】
ここで、QはL字棚2に作用するZ方向上向きの力、μはマグネットシート3と磁性壁1との間の静止摩擦係数、Pはマグネットシート3と磁性壁1との間に働く磁気吸着力、Sはマグネットシート3の磁着面の面積、P0はマグネットシート3と磁性壁1との間に働く単位面積あたりの磁着力、WはL字棚2と負荷Dとの総荷重である。各アルファベット符号の後ろに添えられた「1」「2」は、(a)(b)のどちらの形態であるかを区別するものであり、「1」は(a)の形態を示し、「2」は(b)の形態を示す。
【0032】
(a)については、マグネットシート3がオーバーフレーム領域3Vを有するため、S1>S2である。よってP1>P2であることから、W1>W2となる。
つまり、(a)では(b)よりも大きな耐荷重が得られることになる。
これはマグネットシートが、点でなく面で磁着することで強い保持力を得られるという優れた特性を活用した技術思想である。
【0033】
また、L字棚2の載置板21において、荷重Wの作用重心25のY方向位置は、磁性壁1の壁面から一定距離だけ離れたところにあるため、
図4において時計回り方向のモーメントMが生じる。すなわちマグネットシート3の最下部3Lを軸として時計回り方向に回動させようという作用が働く。このモーメントMはL字棚2におけるマグネットシート3を磁性壁1から引き剥がすように作用する。
【0034】
この作用の強さは、マグネットシート3の最下部3LとL字棚2における荷重Wの作用重心25との間のY方向距離rと、荷重Wとの積で決まる。
また、これに抗する作用の強さは、マグネットシート3と磁性壁1との間に働く磁着力Pと、マグネットシート3における磁着力Pの作用重心35とマグネットシート3の最下部3Lとの間のZ方向距離(腕)hとの積により決まる。そして両作用が釣り合っている。
【0035】
上記内容を式で表せば、
(a)については、M1=W1×r1=P1×h1となる。
(b)については、M2=W2×r2=P2×h2となる。
上側にオーバーフレーム領域3Vを設けることにより、磁着力Pの作用重心35は上に移動し長い腕h1が確保できる。腕h1が長いほど、マグネットシート3を剥がそうとする作用に抗する作用が強くなる。つまり、オーバーフレーム領域3Vは背面板22の上方に形成されることが好ましい。
【0036】
次に、磁性壁取付けシステム100に特有な第2の作用効果を、
図5を用いて説明する。
図5はL字棚2を磁性壁1から取り外すときの手順と状態の一例を時系列的に説明するための斜視図である。
マグネットシート3は、オーバーフレーム領域3Vにおいて可撓性を有するため、L字棚2を取り外すにあたり、
図5(a)に示すように、オーバーフレーム領域3Vの上端角部T1を力F1で手前に引いて捲ることで、磁性壁1に磁着したマグネットシート3を徐々に剥がしていくことができる。
【0037】
そして
図5(b)に示すように、オーバーフレーム領域3Vの最下部(背面板22とマグネットシート3との境界部)、つまり上側接着端3M1まで剥がれたところで一気に力を加えて外す。上端角部T1からマグネットシート3の最下部3LまではL3という長い腕が確保できるため、てこの原理を利用することができ、弱い力での取外しが可能となる。例えば載置板21の左右端をそれぞれ左右の手でもって一気に引っ張って取り外す場合に比べると、楽に作業ができ、比較的に力の弱い子供や女性でも無理なく取り外しができる。
【0038】
次に、磁性壁取付けシステム100に特有な第3の作用効果を、
図6,7を用いて説明する。
図6はL字棚2を磁性壁1から取り外すときの手順と状態の他例を時系列的に説明するための側面図であり、
図7は
図6(b)を拡大して示す図である。
ここでは、磁性壁1に磁着したL字棚2を、載置板21の手前側位置に上向きの力F2を加えて取り外す場合について示す。
【0039】
図6(a)は初期状態を示し、L字棚2が、背面板22に貼着されたマグネットシート3を介して磁性壁1に磁着している状態を示している。この状態では、マグネットシート3は、その磁着面が全面に亘って磁性壁1に磁着している。
【0040】
図6(a)の状態で載置板21に力F2を加えると、L字棚2は、
図6(b)に示すように、上側接着端3M1を軸として、反時計周り方向に回動を始める。
図6(b)は、L字棚2が回動を始めて鉛直軸から微小角θ1傾いた状態を示している。このとき、マグネットシート3における非貼着領域3Nでは、背面板22とマグネットシート3との間の空間が略「ハ」の字状に広がる形になる。それとともに、マグネットシート3の中央部a1が、磁性壁1から側面視が略凸状に膨らむように局所的に変形する形で剥がれる。この理由については後述する。
その後、力F2を加え続けることで、
図6(c)に示すように、マグネットシート3の下部a2が剥れ、次いで
図6(d)に示すように、マグネットシート3の上端縁3Uを軸とした回動により、上部a3が剥がれる。
【0041】
このように、上記手順でL字棚2を磁性壁1から取り外す場合は、マグネットシート3の磁着面全体が一気に壁面から剥がれるのではなく、中央部a1、下部a2、上部a3の順で剥がれていく。つまり、一度に大きな力を加えるのでなく、比較的小さな力を複数回に分けて加え、段階的に剥がすことができる形態であるため、取外し作業が容易にできる。
【0042】
次に、主に
図7を用いて、L字棚2におけるマグネットシート3の上記剥がれ方の原理について説明する。
【0043】
今、
図6(a)の初期状態から載置板21に力F2を作用させたとき、この系には、上側接着端3M1を軸として、L字棚2を反時計周り方向に回動させるモーメントM3が作用する。モーメントM3の大きさは、M3=F2×R(
図6(a)参照)で表すことができる。ここでRは、磁性壁1の壁面と、力F2との間のY方向距離であり、力の大きさも「F2」としている。
【0044】
L字棚2の本体部20は剛体であり、載置板21と背面板22とは外力による変形が無視できる形で一体化している。一方、マグネットシート3はそれ単体では可撓性を有した弾性体といえる。ここでL字棚2では、マグネットシート3は背面板22との貼着領域3Gで背面板22と一体化しているため、貼着領域3Gでは可撓性を有さない。他方で、オーバーフレーム領域3Vと非貼着領域3Nでは、背面板22と一体化していないため、可撓性を有する。そしてマグネットシート3における可撓性の有無の境目となる箇所は、背面板22との上側接着端3M1と下側接着端3M2である。上側接着端3M1は、背面板22の最上端22Uに対応するところに位置し、下側接着端3M2は、背面板22の下方位置22Mに対応するところである。
【0045】
ここで貼着領域3Gでは、マグネットシート3は背面板22と一体化しており、背面板22と一体となった動作を行う。つまり背面板22が回動すると、貼着領域3Gのマグネットシート3は、この回動に完全に同期して回動する。これはマグネットシート3を磁性壁1から剥がす作用となる。一方、非貼着領域3Nではマグネットシート3は背面板22と一体化しておらず、非貼着領域3Nのマグネットシート3は、背面板22の回動に完全には同期しない動作をする。非貼着領域3Nのマグネットシート3の磁着面は、磁性壁1に磁着した状態を保持しようとする力が強く、下部a2の若干上方を除いてはすぐには剥がれない。その結果、背面板22とマグネットシート3との間の空間が略「ハ」の字状に広がる形になる。また、マグネットシート3は下側接着端3M2から下では変形可能なことから、下部a2を磁性壁1に磁着させた状態で下側接着端3M2の下方部を引き剥がす形になる。以上のようにして、マグネットシート3は中央部a1で凸状に膨らむ形で磁性壁1から剥がれる。
【0046】
この時点で、マグネットシート3は、剥がれた面積分だけ、磁性壁1への磁着力が弱まっている。
更に力F2を加えていくと、回動により角度θ1が増し、貼着領域3Gのマグネットシート3に引っ張られる形で下部a2も磁性壁1から剥がれていく。上記したように、磁性壁1への磁着力が弱まっているため、この時の引剥がしに要する力は、小さくてよい。なお、非貼着領域3Nは、マグネットシート3の下半部にあり、L字棚が磁性壁1に固定されているときは、時計回り方向のモーメントにより磁性壁1側に押さえつけられるので、マグネットシート3の磁着力の低下をもたらすものではない。
【0047】
〔第2実施形態〕
図8は第2実施形態の磁性壁取付けシステム200の側面図である。
図8に示すように、磁性壁取付けシステム200では、L字棚2におけるオーバーフレーム領域3Vの非磁着面側に壁材フィルム13Vが接着剤(不図示)により貼着されている。それ以外の構成は第1実施形態と同一であり、同一の構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。壁材フィルム13Vは、壁材フィルム13の表面と同種または類似の装飾が表面に施されている。このため、オーバーフレーム領域3Vが磁性壁1の表面と視覚的に適合し、違和感がなくなる。なお、オーバーフレーム領域3Vの外形形状を意匠性のあるもの、例えば動物や花の一部、或いは曲線状に形成してもよい。
【0048】
〔第3実施形態〕
図9は第3実施形態の磁性壁取付けシステム300の側面図である。
図9に示すように、磁性壁取付けシステム300では、L字棚2における背面板22とマグネットシート3との間にクッション材4を備える。それ以外の構成は第1実施形態と同一であり、同一の構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0049】
クッション材4は、背面板22の面領域と同じ面サイズを有する扁平直方体状の弾性体である。厚さは1mm~5mmとされ、材質は、例えば発泡スチレン、発泡ウレタン、ゴムシートなどからなる。一方の面は、マグネットシート3の非磁着面に接着剤Gを介して固定され、他方の面は、背面板22の裏面に接着剤(不図示)を介して固定される。
【0050】
磁性壁取付けシステム300によると、高所に配置された別のL字棚2から猫が載り移ってきたときなどでも、L字棚2に加わる衝撃はクッション材4で吸収・緩和されてマグネットシート3に伝わるため、L字棚2の脱落が防止される。
【0051】
〔第3実施形態の変形例〕
図10は第3実施形態の変形例の磁性壁取付けシステム310の側面図である。
図10に示すように、磁性壁取付けシステム310では、L字棚2における背面板22とマグネットシート3との間にクッション材4を備えるとともに、背面板2におけるマグネットシート3の非貼着領域3Nに対応する部分に、スチール板等の軟磁性体からなる軟磁性体片7が例えば接着剤(不図示)により取り付けられている。つまり、クッション材4は、マグネットシート3における貼着領域3Gに対応する部分のみに設けられている。
磁性壁取付けシステム310では、
図10に示すように、L字棚2が磁性壁1に固定されている状態では、軟磁性体片7の表面はマグネットシート3に磁着し、軟磁性体片7がない場合に比べて耐荷重を増大させることができる。
【0052】
また
図11に示すように、L字棚2に力F2を加えることで磁性壁から取り外す場合、クッション材4は上方部分が圧縮され下方部分が引張される形となり、その際に軟磁性体片7がまず初めに磁性壁1から離脱する。次いで、軟磁性体片7よりも上方のマグネットシート3が剥離する。つまり、前述の第1実施形態と同様な段階的な挙動での取外しが可能である。
【0053】
〔第4実施形態〕
図12は第4実施形態の磁性壁取付けシステム400の側面図、
図13は壁面マグネットシート5におけるマグネットシート6の2面図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
図14は
図12における円内の拡大図である。
図12に示すように、磁性壁取付けシステム400では、第1実施形態の磁性壁1に替えて磁性壁1Aを有する。それ以外の構成は第1実施形態と同一であり、同一の構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0054】
磁性壁1Aは、次の点で第1実施形態の磁性壁1と異なる。すなわち、第1実施形態の磁性壁1は、軟磁性ボード10に接着剤を介して壁材フィルム13を積層させた構成であったが、壁材ボード1Aは、軟磁性ボード10に壁面マグネットシート5を磁着させた構成とされる。
壁面マグネットシート5は、
図12に示すように、マグネットシート6に接着剤(不図示)を介して壁材フィルム13を積層させてある。マグネットシート6は、
図13に示すように、一定ピッチの着磁ライン63を有する両面着磁型とされる。着磁ライン63のピッチ幅はL字棚2のマグネットシート3のピッチ幅と同じである。
この壁面マグネットシート5は、マグネットシート6の着磁ライン63が水平方向に平行となるように軟磁性ボード10に磁着されている。
【0055】
図12において、L字棚2は、磁性壁1Aのマグネットシート6とL字棚2のマグネットシート3との間に働く磁着力により、磁性壁1Aに固定されている。このとき、マグネットシート3とマグネットシート6とは、
図14に示すように、互いに異極同士(N極31とS極62、S極32とN極61)が磁着した状態となっている。
これにより、L字棚2は水平方向から傾くことなく、真っ直ぐな状態で磁性壁1Aに固定される。したがって、L字棚2の水平状態を保持して磁性壁1Aに取り付ける際の作業労力が軽減される。
【0056】
また、マグネットシート3の磁着面全体にわたり異極同士が磁着しあうため、第1実施形態と比べて強い磁着力で固定が行われる。
なお、マグネットシート3およびマグネットシート6は、等方性磁性材料で製作されたものを使用しても、N極とS極同士が磁着しあうため、安定した半固定、つまり着脱が繰り返し何度でもできる機能を有する。
【0057】
第2から4の各実施形態でも、第1実施形態と同様な外し方をすることで、第1実施形態と同様な効果を奏する。特に第4実施形態では、磁性壁1AへのL字棚2の磁着力が強いため、一度に大きな力を加えるのでなく、力を複数回に分けて、段階的に剥がす形態による取外し作業は非常に有効である。
【0058】
〔その他の変形例〕
上述の各実施形態において、L字棚2のマグネットシート3は上方だけにオーバーフレーム領域3Vを有する形のものを示したが、
図15(a)に示すように、左右上下の全てにはみ出るオーバーフレーム領域3Wを有してもよい。なお左右下の少なくとも一つにオーバーフレーム領域を有するものでもよい。また本体部20はL字形状に限らず、例えば
図15(b)に示すように、左右端に出入口を有するとともに正面に開口窓2Hを有する窓付きのトンネル型のアイテムとしてもよい。また
図15(c)に示すように、オーバーフレーム領域V3を有さなくてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明を行ったが、上に開示した実施形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【0060】
例えば、L字棚2の本体部20における特に背面板22を軟磁性体の金属、例えばスチールやフェライト系ステンレス鋼とした場合、ヨーク効果によりマグネットシート3の磁着面の磁束密度が大きくなり磁着力が増す。つまり、木製または合成樹脂製に比べて耐荷重が上がる。一方、非貼着領域3Nを設けることで、取外し作業に要する力は軽減できる。このため、取り外しは楽なままで木製または合成樹脂製の棚よりも耐荷重が上がる。
また、既存の全面貼着型のマグネットシート付きスチール製L字棚に対し、マグネットシートにおける接着剤部分の一部を例えばカッター刃により除去することでマグネットシートの非貼着領域を設け、耐荷重はそのままで取り外しが楽な棚に変更することもできる。
【0061】
その他、磁性壁取付けシステム100,200,300,400の各部または全体の構成、構造、形状、サイズ、個数、材質、配置などは、本発明の主旨に沿って適宜変更することができる。また、用途についても、猫の踏み台に限らず、本や食器用の各種棚、各種家具類、壁面磁着用テレビなど様々な対象に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
磁性壁に磁気吸着力により着脱自在に取付けられる磁着型の取付け物品、および取付けシステムとして幅広く活用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 磁性壁
1A 磁性壁
2 L字棚(磁性壁取付け物品)
3 マグネットシート
3B 対面領域
3N 非貼着領域
12 軟磁性層(強磁性体層)
20 本体部(物品本体)
21 載置板
22 背面板
22U 最上端
22M 下方位置
63 着磁ライン
100 磁性壁取付けシステム
200 磁性壁取付けシステム
300 磁性壁取付けシステム
400 磁性壁取付けシステム