(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169834
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】円筒形鋼材の錆取り方法およびそれに用いる自動錆取り装置並びにかかる錆取り方法を用いた円筒形鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/361 20140101AFI20231122BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20231122BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20231122BHJP
B21C 37/30 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B23K26/361
B23K26/082
B23K26/16
B21C37/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081184
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】廣口 勤
(72)【発明者】
【氏名】永見 良介
(72)【発明者】
【氏名】榊原 弘大
(72)【発明者】
【氏名】住野 義樹
【テーマコード(参考)】
4E028
4E168
【Fターム(参考)】
4E028LA08
4E168AD03
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA43
4E168EA15
4E168EA25
4E168FC01
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】比較的安価に、かつ生産性が高く、錆取りのムラやレーザー痕が抑えられた錆取り方法を提供する。
【解決手段】レーザーユニット台数、レーザービーム径、レーザー走査速度および円筒形鋼材径により円筒形鋼材送り速度を調整し、かかる円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行い、ハの字のレーザー照射の軌跡を繰り返すことで錆取りを行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーを用いた円筒形鋼材の自動錆取り方法であって、
レーザーユニット台数、レーザービーム径、レーザー走査速度および円筒形鋼材径により円筒形鋼材送り速度を調整し、かかる円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行い、ハの字のレーザー照射の軌跡を繰り返すことで錆取りを行う円筒形鋼材の錆取り方法。
【請求項2】
前記円筒形鋼材送り速度を以下の式6のV´とする請求項1に記載の円筒形鋼材の錆取り方法。
【数1】
【請求項3】
前記レーザー走査の往路および復路の始端部をランピング機能によりレーザー照射ONの出力を勾配化させる請求項1に記載の円筒形鋼材の錆取り方法。
【請求項4】
前記レーザー走査の往路および復路の始端部をランピング機能によりレーザー照射ONの出力を勾配化させる請求項2に記載の円筒形鋼材の錆取り方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の円筒形鋼材の錆取り方法に用いる装置であって、
レーザー光を発信させるパルスレーザー発信器と、
上記パルスレーザー発信器の照射口に取り付けた、レーザー光を上記円筒形鋼材の母線上に往復走査するSiC(シリコンカーバイト)製ミラーを具備しVCチューニングを施したガルバノスキャナおよび、かかるガルバノスキャナに取り付けたレーザー光をフォーカスするためのFθレンズを備える少なくとも1台のレーザーユニットと、
上記Fθレンズと上記円筒形鋼材の周面との距離を決めるために、上記レーザーユニットの前後に設置されたタッチロール、かかるタッチロールを上記円筒形鋼材に対して進退させる昇降機構部および、上記タッチロールと上記円筒形鋼材との接触時に発生する搬送ガタを吸収する追従機構部、によって構成されるレーザーユニット昇降装置と、
上記円筒形鋼材をその軸まわりに螺旋運動をさせつつレーザーユニットの出側に向けて送り出す上記円筒形鋼材の軸方向に対し角度を持たせて配置する複数台の搬送ロール、上記円筒形鋼材の搬送時の搬送ガタを抑える上記レーザーユニット昇降装置の前後に設置されたピンチロールおよび、上記円筒形鋼材の位置を検知し、上記ピンチロールおよびレーザーユニット昇降装置に昇降動作を指令し、かつ上記レーザーユニットにレーザー照射の指令を行うセンサー、によって構成される搬送装置と、
上記ガルバノスキャナを冷却するための水冷装置、上記円筒形鋼材の周面にレーザー光を走査した際に発生する粉塵から上記Fθレンズを保護するためのブロワーおよび、かかるブロワーにより飛ばされる粉塵を回収する集塵機、によって構成される付帯設備と、
を有する円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項6】
前記往復走査の幅が9~45mmの範囲である請求項5に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項7】
前記往復走査の速度が20~27m/sの範囲である請求項5に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項8】
前記往復走査の速度が20~27m/sの範囲である請求項6に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項9】
前記搬送ロールの前記円筒形鋼材の軸方向に対する角度が1度超5度以下の範囲である請求項5に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項10】
前記搬送ロールの前記円筒形鋼材の軸方向に対する角度が1度超5度以下の範囲である請求項6に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項11】
前記搬送ロールの前記円筒形鋼材の軸方向に対する角度が1度超5度以下の範囲である請求項7に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項12】
前記搬送ロールの前記円筒形鋼材の軸方向に対する角度が1度超5度以下の範囲である請求項8に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【請求項13】
継目無鋼管や溶接鋼管に錆取りを施して円筒形鋼材とするに際し、かかる錆取りに、請求項1~4のいずれか1項に記載の錆取り方法を用いる円筒形鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーを用いた円筒形鋼材(以下、対象材ともいう)の錆取り方法およびそれに用いる自動錆取り装置に関するものである。
また、本発明は、上記した錆取り方法を用いた円筒形鋼材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒形鋼材は、継目無鋼管や溶接鋼管に大別され、主に材料管や、特殊管、油井管、ラインパイプ等に用いられるが、原管のまま使用されたり、2次加工されたりするため、かかる円筒形鋼材周面の錆取りが必要になってくる。そして、かかる錆取りは、手動または自動で行われている。
【0003】
かかる円筒形鋼材の錆取りを手動で行う場合には、研磨剤を用いた手作業により行われていた。
一方、かかる円筒形鋼材の錆取りを自動で行う場合には、円筒形鋼材の錆取り装置を用いて行われていた。そして、かかる円筒形鋼材の錆取り装置には、従来、特許文献1に開示されているようなベルト式電動錆取り装置がある。
【0004】
一般的に、錆取りに使用されるレーザーユニットのガルバノスキャナは、比較的重く安価な石英(QU)製ミラーを用いて100mm程度の長い加工幅を13~20m/sで往復走査できるように、Cチューニングと呼ばれるチューニングが施されている。
かかるチューニング(Cチューニング)では、ミラーの向きを変えた際、0.30msのトラッキングエラーが発生する。そのため、加減速時間を690μs、加工速度を20m/sとしたときには、距離として6.9mmが必要となる。よって、加工幅100mmに対し、加速距離が6.9mm、減速距離が6.9mmとなり、合わせて13.8mm、すなわち全長の13.8%(=13.8/100×100)が必要となる。この場合は、加減速距離が占める割合は全長の13.8%と低いため、加工幅の86.2%は等速で走査が可能である。従って、ミラーを制御するサーボボードへの負荷や発熱は小さく安定的な加工が行える。
【0005】
これに対し、円筒形鋼材が錆取りの対象材の場合、かかる対象材が、固定角のスキューロールにより対象材の軸方向に螺旋に搬送されるので、送りピッチ(対象材1回転当たりに進む距離)を複数台のガルバノスキャナが分割して処理を行う。そのため、一般的なレーザー錆取りで使用される加工幅より短い加工幅を加工しなければならず、加工幅に対する加減速距離が占める割合が大きくなる。特に、処理を行う対象材の径が小さい場合は、その送りピッチが小さくなる。そのため、加工幅が加減速距離以下となって等速で走査する領域が発生せず、常時、加減速を繰り返すこととなってしまう。その結果、ミラーを制御するサーボボードに負荷がかかって発熱し、蓄熱してオーバーヒートが発生してしまうという問題があった。
【0006】
かかる問題を解決するためには、固定角のスキューロールを機械的に可変式にすることで送りピッチを大きくし、加工幅に対する加減速領域の占める割合を小さくする装置が考えられていた。
【0007】
また、円筒形鋼材が錆取りの対象材の場合、スキュー(軸方向螺旋)送りされた対象材の軸方向直線状にレーザー光を連続的に往復走査させ螺旋状に錆取り加工を行う。そのため、一般的にレーザー光を連続的に往復走査させるポリラインと呼ばれる描写プログラムによって作成した1往復走査プログラムをループ処理させることで実行する。この時、対象材はスキュー回転しているため、対象材周面でのレーザー光の軌跡は『連続的な、くの字軌跡』(ジグザグ形の軌跡)となるが、復路終端から往路始端へのプログラム移行、および往路/復路の切り返しで、ガルバノスキャナのミラー制御速度に急激な加減速が発生し、単位時間当たりのパルスレーザー照射回数が上昇することで対象材周面にレーザー痕と呼ばれるきず/模様が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、前記した研磨剤を用いた手作業による錆取りは、生産性が低く、錆取りにムラが発生するという課題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載されたベルト式電動錆取り装置であっても、可搬式の装置を用いて手作業で行われており、生産性が低く、錆取りにムラが発生する問題は解消されていなかった。
【0011】
さらに、固定角のスキューロールを機械的に可変式にする設備は、構造が複雑かつ高額となるため実用的ではなかった。
加えて、レーザー痕にかかる問題は解消されていなかった。
【0012】
本発明は、前記課題を解決した、レーザーを用いた円筒形鋼材錆取り方法であって、比較的安価に、かつ生産性が高く、錆取りのムラやレーザー痕が抑えられた錆取り方法およびそれに用いる自動錆取り装置、さらにはかかる錆取り方法を用いた円筒形鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は次の通りである。
1.レーザーを用いた円筒形鋼材の自動錆取り方法であって、
レーザーユニット台数、レーザービーム径、レーザー走査速度および円筒形鋼材径により円筒形鋼材送り速度を調整し、かかる円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行い、ハの字のレーザー照射の軌跡を繰り返すことで錆取りを行う円筒形鋼材の錆取り方法。
【0014】
2.前記円筒形鋼材送り速度を以下の式6のV´とする前記1に記載の円筒形鋼材の錆取り方法。
【数1】
【0015】
3.前記レーザー走査の往路および復路の始端部をランピング機能によりレーザー照射ONの出力を勾配化させる前記1または2に記載の円筒形鋼材の錆取り方法。
【0016】
4.前記1~3のいずれか1項に記載の円筒形鋼材の錆取り方法に用いる装置であって、
レーザー光を発信させるパルスレーザー発信器と、
上記パルスレーザー発信器の照射口に取り付けた、レーザー光を上記円筒形鋼材の母線上に往復走査するSiC(シリコンカーバイト)製ミラーを具備しVCチューニングを施したガルバノスキャナおよび、かかるガルバノスキャナに取り付けたレーザー光をフォーカスするためのFθレンズを備える少なくとも1台のレーザーユニットと、
上記Fθレンズと上記円筒形鋼材の周面との距離を決めるために、上記レーザーユニットの前後に設置されたタッチロール、かかるタッチロールを上記円筒形鋼材に対して進退させる昇降機構部および、上記タッチロールと上記円筒形鋼材との接触時に発生する搬送ガタを吸収する追従機構部、によって構成されるレーザーユニット昇降装置と、
上記円筒形鋼材をその軸まわりに螺旋運動をさせつつレーザーユニットの出側に向けて送り出す上記円筒形鋼材の軸方向に対し角度を持たせて配置する複数台の搬送ロール、上記円筒形鋼材の搬送時の搬送ガタを抑える上記レーザーユニット昇降装置の前後に設置されたピンチロールおよび、上記円筒形鋼材の位置を検知し、上記ピンチロールおよびレーザーユニット昇降装置に昇降動作を指令し、かつ上記レーザーユニットにレーザー照射の指令を行うセンサー、によって構成される搬送装置と、
上記ガルバノスキャナを冷却するための水冷装置、上記円筒形鋼材の周面にレーザー光を走査した際に発生する粉塵から上記Fθレンズを保護するためのブロワーおよび、かかるブロワーにより飛ばされる粉塵を回収する集塵機、によって構成される付帯設備と、
を有する円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【0017】
5.前記往復走査の幅が9~45mmの範囲である前記4に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【0018】
6.前記往復走査の速度が20~27m/sの範囲である前記4または5に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【0019】
7.前記搬送ロールの前記円筒形鋼材の軸方向に対する角度が1度超5度以下の範囲である前記4~6のいずれか1項に記載の円筒形鋼材の自動錆取り装置。
【0020】
8.継目無鋼管や溶接鋼管に錆取りを施して円筒形鋼材とするに際し、かかる錆取りに、前記1~3のいずれか1項に記載の錆取り方法を用いる円筒形鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生産性が高く、錆取りのムラやレーザー痕が抑えられた円筒形鋼材の錆取り方法を、それに用いる比較的安価な自動錆取り装置とそれを用いた円筒形鋼材の製造方法と共に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のレーザーユニットを示す側面図である。
【
図2】本発明のレーザーユニット昇降装置を示す正面図である。
【
図6】本発明のハの字のレーザー照射の軌跡の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明に従う錆取り方法は、レーザーを用いた円筒形鋼材の自動錆取り方法であって、レーザーユニット台数、レーザービーム径、レーザー走査速度および円筒形鋼材径により円筒形鋼材送り速度を調整し、かかる円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行うことで、ハの字のレーザー照射の軌跡を繰り返すものである。かような手順とすることで、本発明は加工痕や空隙がなくかつ高速に錆取りを行うことができる。
なお、本発明で、加工痕がなくとは、顕微鏡を用い12.5倍から50.0倍の範囲で加工面を表面観察した際、レーザー痕(ドット状の溶損)が確認できない状態のことを意味する。また、空隙がなくとは、顕微鏡で加工面を表面観察した際、加工面表面がレーザービームドットで満たされ隙間が発生していない状態のことを意味する。さらに、高速とは、20m/s以上の加工速度のことを意味する。
【0024】
【0025】
【0026】
すなわち、対象材の送り速度を上げるためには、対象材の周速を上げる必要がある。上記式1から求められる通り、搬送ロールスキュー角を可変させて速度を上げる方法もあるが、装置としての機構が複雑化するため、現実的ではない。よって、本発明では固定角とする。
また、対象材の周速は、レーザー光が対象材の全面全周を空隙なく高速にカバーする速度とする必要がある。よって、具体的にかかる周速は0~850mm/sの範囲が好ましい。
さらに、かかる固定角は、設備の機構の実現性および対象材の搬送のし易さから、1度超5度以下の範囲が好ましい。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
これらの式を用いることにより、加工痕、空隙なくかつビーム径の最適化により高速に錆取りを行うための錆取り方法が得られる。
すなわち、上記式で焦点距離を変化(デフォーカス)させてビーム径を大きく変化させることで円筒形鋼材送り速度を最適化することができる。
【0042】
本発明に用いるレーザービーム径は、上記計算値に替えて、実験による実測値を用いることができる。
この際の実測値は、デフォーカスさせた状態で円筒形鋼材のレーザー加工を行ったのち、円筒形鋼材の表面状態を顕微鏡によって観察し、ビーム径の大きさと錆の除去の程度を確認することで求めることができる。
【0043】
また、本発明に用いるレーザー加工長さは、実際のレーザー加工においてレーザー痕が発生した場合に長さの補正が必要となる。
この際の、補正の手順は、円筒形鋼材のレーザー加工を行ったのち、円筒形鋼材の表面状態を顕微鏡によってレーザー痕発生部を確認し、レーザー照射遅延設定値やレーザー照射出力勾配設定値を調整する。かかる調整後、再度レーザー加工を行ってレーザー痕を確認する、という作業を繰り返す、とすればよい。
【0044】
[円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行うことで、ハの字のレーザー照射の軌跡を繰り返す]
前述した対象材周面のレーザー痕と呼ばれるきず/模様の問題を、本発明では以下の通りに、円筒形鋼材の周面において、レーザー走査を断続的および/またはオフセットさせて行うことで、回避する。
すなわち、復路終端から往路始端へのレーザー照射は、プログラムの移行があるため、かかるプログラムの移行に際し、レーザー照射ON/OFFのディレイ機能を用いることにより、往路終了前にレーザー照射をOFFとした上で、復路開始のレーザー照射ONを遅延させつつ、必要に応じレーザー照射ONの出力を勾配化することで、加減速領域でのパルスレーザー照射をマスキングしレーザー痕を回避する。
【0045】
一方、往路から復路への切り返し箇所では、1つのプログラムが実行途中であるため、上記レーザー照射ON/OFFのディレイ機能によるマスキングは行えない。そこで、往路および復路のレーザー照射をそれぞれ断続的におよび/またはオフセットさせて個別のプログラムとしてレーザー照射ON/OFFのディレイ機能が適用できるよう描写プログラムにハッチングを選定した。この個別のプログラムを用いることにより、加減速領域でのレーザー照射をマスキングすることが可能となり、さらには、レーザー照射ONの出力の勾配化を併用することで、本発明はレーザー痕を効果的に回避することができる。
【0046】
上述のように、本発明は、往路および復路の始端部をランピング機能によりレーザー照射ONの出力を勾配化させ、かつレーザー照射ON/OFFのディレイ機能と併用することで、レーザー痕回避をより効果的に達成することができる。
従って、対象材の周面でのレーザー光の軌跡は
図6に示すような『ハの字の軌跡』となる。
なお、上記勾配化の条件は、レーザー痕が消えかつマスキング範囲が最小となることを満足するように設定される。具体的には、ランピング機能を用いた設定値1mmから8mmの範囲である。
【0047】
上記ハの字の軌跡は、
図6に示すように、ジグザグ形の軌跡であり、厳密には、ハの字状の軌跡になる。特に、ランピングによってオフセットされたハの字軌跡であることが好ましい。
【0048】
本発明に用いる装置は、円筒形鋼材の周面の錆取りに用いる装置であって、
レーザー光を発信させるパルスレーザー発信器と、
上記パルスレーザー発信器の照射口に取り付けた、レーザー光を上記円筒形鋼材の母線上に往復走査するSiC(シリコンカーバイト)製ミラーを具備しVCチューニングを施したガルバノスキャナおよび、かかるガルバノスキャナに取り付けたレーザー光をフォーカスするためのFθレンズを備える少なくとも1台のレーザーユニットと、
上記Fθレンズと上記円筒形鋼材の周面との距離を決めるために、上記レーザーユニットの前後に設置されたタッチロール、かかるタッチロールを上記円筒形鋼材に対して進退させる昇降機構部および、上記タッチロールと上記円筒形鋼材との接触時に発生する搬送ガタを吸収する追従機構部、によって構成されるレーザーユニット昇降装置と、
上記円筒形鋼材をその軸まわりに螺旋運動をさせつつレーザーユニットの出側に向けて送り出す上記円筒形鋼材の軸方向に対し角度を持たせて配置する複数台の搬送ロール、上記円筒形鋼材の搬送時の搬送ガタを抑える上記レーザーユニット昇降装置の前後に設置されたピンチロールおよび、上記円筒形鋼材の位置を検知し、上記ピンチロールおよびレーザーユニット昇降装置に昇降動作を指令し、かつ上記レーザーユニットにレーザー照射の指令を行うセンサー、によって構成される搬送装置と、
上記ガルバノスキャナを冷却するための水冷装置、上記円筒形鋼材の周面にレーザー光を走査した際に発生する粉塵から上記Fθレンズを保護するためのブロワーおよび、かかるブロワーにより飛ばされる粉塵を回収する集塵機、によって構成される付帯設備と、
を有する円筒形鋼材の自動錆取り装置である。
【0049】
[レーザー光を発信させるパルスレーザー発信器]
本発明に用いるパルスレーザー発信器は、レーザー光(パルスレーザー)を発信(照射)させる機器である。
本発明に用いるレーザー光(パルスレーザー)は、パルスファイバーレーザーとする。また、発信(照射)させる機構は、コリメータ(コリメートレンズによりコリメートビームを照射できる機構)を備える。
【0050】
[上記パルスレーザー発信器の照射口に取り付けた、レーザー光を上記円筒形鋼材の母線上に往復走査するSiC(シリコンカーバイト)製ミラーを具備しVCチューニングを施したガルバノスキャナおよび、かかるガルバノスキャナに取り付けたレーザー光をフォーカスするためのFθレンズを備える少なくとも1台のレーザーユニット]
本発明に用いるレーザーユニットは、
図1に示す通り、前記パルスレーザー発信器2と、かかるパルスレーザー発信器の照射口に取り付けられた前記レーザー光を対象材の母線上(軸方向)に直線状連続的に往復走査させる機能を有するVCチューニングを施されSiC製ミラーを具備したガルバノスキャナ1と、対象材に前記レーザー光を収束させるためのFθレンズ3とで構成されている。
本発明では、かかるレーザーユニットを少なくとも1台もしくは必要に応じて2台以上、円筒形鋼材の軸方向に直列に配置する。
【0051】
ここで、本発明は、前述の固定角のスキューロールを機械的に可変式にする設備に替え、高価であるが故障リスクの低いミラー材質を採用し、チューニング方法を変更することにより対応することとした。
【0052】
すなわち、ミラーはQU製ミラーより軽いSiC製を採用し、さらに短い加工幅を高速往復走査できるVCチューニングを採用したことによって、発生するトラッキングエラーが0.19msと軽減された。その結果、加減速時間266μs、加工速度20m/sにおける加減速距離が2.7mmとなり、加工幅に対する加減速距離が占める割合を大幅に軽減させることに成功した。
なお、上記短い加工幅とは、前記往復走査の幅が短いことであって、具体的には、9~45mmの範囲であり、上記高速往復走査とは、往復走査の速度が速いことであって、具体的には20~27m/sの範囲である。
ここで、VCチューニングにつき、QU製ミラーでは重過ぎて、短い加工幅を高速で走査するVCチューニングの適用は困難であったが、QU製ミラーは、安価でSiC製ミラーと同等の耐久性を有し、一般的な錆取りで用いられる走査速度15~20m/sで100mm以上の長い加工幅の加工を得意とするため、かかる錆取り装置には必須のミラーとして用いられてきた。
本発明では、SiC製ミラーを採用し軽量化することで、走査速度20m/s以上で45mm以下の短い加工幅の加工を実現している。
【0053】
[上記Fθレンズと上記円筒形鋼材の周面との距離を決めるために、上記レーザーユニットの前後に設置されたタッチロール、かかるタッチロールを上記円筒形鋼材に対して進退させる昇降機構部および、上記タッチロールと上記円筒形鋼材との接触時に発生する搬送ガタを吸収する追従機構部、によって構成されるレーザーユニット昇降装置]
レーザーユニットのFθレンズ下面と対象材の加工面との距離は、加工精度および加工速度を決める重要なパラメータである。そのため、本発明は、一定距離となるようタッチロールによる機械的な位置決め方法を採用した。
なお、上記Fθレンズ下面と対象材の加工面との距離は、レーザービーム径が適用する最適ビーム径を満足するように設定される。具体的には、329~331mmの範囲である。
【0054】
図2および3に示す通り、レーザーユニット7およびタッチロール5は、昇降機構部4に搭載され、対象材が有る時は、レーザーユニット昇降装置8が下降することで、対象材に接する。かかるタッチロール5の接材により、対象材の径が変わることによるサイズ替え作業を省略できると共に、レーザーユニット昇降装置8の自重によって対象材を押さえることで搬送ガタを効果的に抑えることができる。
【0055】
また、対象材がレーザーユニット昇降装置8の下降方向へ逃げる事象が発生したとしても、適切な追従が行える。一方、対象材のレーザーユニット昇降装置8の上昇方向への逃げは、昇降装置に設置したエアー式の追従装置6により追従する機構としている。
なお、レーザーユニット昇降装置8の下降方向への追従機構は備えずに、自重およびエアー圧によって対象材をレーザーユニット昇降装置8の下降方向、すなわちスキューロールに押さえつける構造としている。
【0056】
タッチロールの素材は、一般に円筒形鋼材の接材に用いられるものであれば特に限定されないが、樹脂製が好ましい。
【0057】
[上記円筒形鋼材をその軸まわりに螺旋運動をさせつつレーザーユニットの出側に向けて送り出す上記円筒形鋼材の軸方向に対し角度を持たせて配置する複数台の搬送ロール、上記円筒形鋼材の搬送時の搬送ガタを抑える上記レーザーユニット昇降装置の前後に設置されたピンチロールおよび、上記円筒形鋼材の位置を検知し、上記ピンチロールおよびレーザーユニット昇降装置に昇降動作を指令し、かつ上記レーザーユニットにレーザー照射の指令を行うセンサー、によって構成される搬送装置]
対象材をスキュー送りするスキューロール11(搬送ロール)は、固定角とし複数台設置した。スキュー搬送により発生する対象材の搬送ガタを抑えるために、レーザーユニット昇降装置8の前後のスキューロール11上にエアーによる昇降式のピンチロール9,10を設けた。
なお、本発明において、搬送にかかる、入側出側および前後とは、
図3の円筒形鋼材の進行方向の矢印の始端側が入側または前、終端側が出側または後である。
また、スキューロール11の素材は、一般に円筒形鋼材の搬送に用いられるものであれば特に限定されないが、ウレタン製が好ましい。
【0058】
また、ピンチロール9,10の素材は、一般に円筒形鋼材の接材に用いられるものであれば特に限定されないが、ウレタン製が好ましい。
【0059】
ピンチロール9,10の昇降、レーザーユニット昇降装置8の昇降およびレーザー照射のON/OFFを制御するため、入側ピンチロール9前、入側ピンチロール9後、レーザーユニット昇降装置後の計3箇所に対象材の検知センサーA12,B13,C14を設けた。
かかる検知センサーA12,B13,C14は、一般に円筒形鋼材の検知に用いられるものであれば特に限定されないが、透過型光電センサーが好ましい。
【0060】
まず、入側ピンチロール9前に設置したセンサーA12は、OFF信号により入側ピンチロール9の上昇/離管指令と、OFF信号と遅延タイマーによるレーザー照射終了と、レーザーユニット昇降装置8および出側ピンチロール10の上昇/離管指令とを行う。
【0061】
次に、入側ピンチロール9後に設置したセンサーB13は、ON信号により入側ピンチロール9の下降/接材指令と、ON信号と遅延タイマーによるレーザーユニット昇降装置8の下降/接材と、レーザー照射開始指令とを行う。
【0062】
さらに、レーザーユニット昇降装置8後に設置されたセンサーC14が、ON信号と遅延タイマーによる出側ピンチロール10の下降/接材指令を行う。
【0063】
以上のフローを経ることで本発明に従う錆取りは行われる。
なお、前記固定角(円筒形鋼材の軸方向に対する角度)は、安定した円筒形鋼材の搬送ができると共に一回転当たりの円筒形鋼材の直進量がレーザー往復走査の幅以下であることを満足するように設定される。具体的には、前述したように1度超5度以下の範囲である。
【0064】
[上記ガルバノスキャナを冷却するための水冷装置、上記円筒形鋼材の周面にレーザー光を走査した際に発生する粉塵から上記Fθレンズを保護するためのブロワーおよび、かかるブロワーにより飛ばされる粉塵を回収する集塵機、によって構成される付帯設備]
本発明では、ガルバノスキャナ1のミラー材質、およびチューニング方法を変更したことにより、ミラーを制御するサーボボードへの負荷軽減を図っている。しかしながら、かかる負荷軽減を図ってもなお、発熱やその蓄積がないわけではない。そこで、設備安定化の観点から、本発明では、ガルバノスキャナ1の複数台直列に接続した水冷装置15を備えている。
【0065】
本発明では、対象材の加工面18直上にレーザーユニット7のFθレンズ3が配置されている構造になっているが、かかる構造故、レーザーによって除去された錆に起因する粉塵が立ち昇ると、Fθレンズ3を汚すこととなって、レーザー光の照射を妨げたり、レーザーの出力が低下したりして、錆取り効率を下げる要因となる。
【0066】
本発明では、かかる効率の低下を防止するため、対象材の加工面18とFθレンズ3の間にブロワー19を設け所定条件を満足するエアーカーテンを作ることで、レーザーの照射効率を落とすことなく、Fθレンズ3を保護している。また、ブロワー19によって向きを変えられた粉塵17を吸引/回収するための集塵機16を備えている。
なお、上記ブロワー19の所定条件は、Fθレンズと円筒形鋼材を結ぶ軸に対し直行するように配置しブロアーの反対側に集塵機とすることを満足するように設定される。具体的には、Fθレンズと円筒形鋼材を結ぶ軸に対し85~90°の範囲である。
【0067】
以上述べた構成による装置によって、対象材をスキュー送りさせ、前記センサーA12、B13およびC14により対象材を検知し、ピンチロール9、10を下降させ搬送ガタを適切に抑制した状態で、レーザーユニット昇降装置8を下降/接材させることで、レーザー照射による錆取りを自動で行うことができる。
【0068】
ピンチロール9,10により抑制できなかったガタは追従機構部6が吸収するので、対象材の加工面18とFθレンズ3間の距離を精度よく一定とした状態で対象材の全長に対して安定して効果的な錆取りが行える。
【0069】
最後に、対象材の通過をセンサーC14により検知し、かかるセンサーC14のOFF信号により、レーザーユニット昇降装置8とピンチロール9,10を上昇させて離材させることで本発明に従う錆取りが完了する。
【0070】
鋼管は、大きく継目無鋼管と溶接鋼管とに大別されるが、かかる継目無鋼管や溶接鋼管は、原管のまま冷牽等の2次加工を行うため、錆の均一な除去および滑らかな表面性状が求められ、錆取り工程を経る必要がある。
そこで、錆取りを施して円筒形鋼材とするに際し、かかる錆取り工程に、本発明の錆取り方法を適用することで、従来の人手で実施する錆取りに比べ錆の除去精度が高く、研磨による錆取りに比べ表面性状が滑らかとなり、一層効率の良い円筒形鋼材の製造方法となる。
【0071】
なお、本発明の錆取り方法、装置およびそれらを用いた円筒形鋼材の製造方法において、本明細書に記載のない項目は、いずれも公知公用の方法および装置機器を用いることができる。
【実施例0072】
図1~4は本発明の一実施例を示す装置構成図である。
パルスレーザー発信器2はパルスファイバーレーザー、最大出力200W、最大パルスエネルギー1.5mJを選定し、レーザー光照射部にガルバノスキャナ1(ミラー材質SiC、2Dガルバノスキャナ、最大ミラー制御速度27m/s、加工範囲150×150mm)を取り付けた。ガルバノスキャナ下部にはFθレンズ3(焦点距離255mm)を取付けた。これらで構成されるレーザーユニットを3台備えて対象材の軸方向に配置した(
図1)。
【0073】
タッチロール5は対象材へのきず防止としてウレタン製(ベアリング入り)のφ100mmを選定し、レーザーユニット前後にそれぞれ一つずつ取り付けた。レーザーユニットおよびタッチロール5はベース材で一つのユニットとして連結されており、それを対象材へ接離材する機構として、エアーシリンダφ140×ST500mm、圧力470kg(押力)、390kg(引力)のものを1台取り付けた。対象材加工面とFθレンズ3の距離はレーザービーム径の大きさを大きくするため、デフォーカス量11.0mmを含む330.4mmとし、Fθレンズ3の粉塵からの保護も含め可能な限り距離を離した。また、対象材は搬送中、搬送ガタが発生するため、追従機構として精密レギュレータ、使用圧力0~1.0MPa(IN)、0.01~0.7MPa(OUT)を昇降機構部4に組み込み追従機構部6とした(
図2)。
【0074】
搬送スキューロール11はタッチロールと同様対象材へのきず防止として、ウレタンロールφ280×w140mmとしスキュー角度1.5°の固定角とした。対象材の搬送ガタを抑止するためレーザーユニット昇降装置8の前後の搬送スキューロール11直上に、エアー昇降式のウレタン製ピンチロール9、10φ224×w100mmを設置した。また、ピンチロール昇降およびレーザーユニット昇降装置昇降、レーザー照射ON/OFFを制御するためCMD透過形センサー3式をそれぞれ、入側ピンチロール前12(センサーA)、入側ピンチロール後13(センサーB)、レーザーユニット昇降装置後14(センサーC)に1式ずつ設置した。これらにより搬送装置が構成される(
図3)。
【0075】
冷却装置15は水冷チラー、密閉系向循環方式の冷却能力1400W、流量12L/minを選定し、ガルバノスキャナ3台を直列で連結した。対象材の加工面18から立ち上る粉塵17よりFθレンズを保護するため、出力0.5kW、吐出風量13.5mm
2/min、吐出静圧1.15kPaのブロワー19を設置した。ブロワー19により、向きを変えられた粉塵17は出力0.4kW、処理風量8.0mm
2/min、吐出静圧1.5kPaの集塵機16により吸収/回収する。これらにより付帯設備が構成される(
図4)。
【0076】
前記構成の装置により、対象材を搬送スキューロールによりスキュー送りさせ、入側ピンチロール後に設置されたセンサーBにより対象材を検知し、入側ピンチロールを下降させ搬送ガタを抑制させ、検知信号と遅延タイマーにより下降時間が制御されたのちレーザーユニット昇降装置が対象材へ下降/接材する。また、同時にレーザーの照射が開始され、対象材の錆取りが開始される。
【0077】
レーザーユニット昇降装置後に設置されたセンサーCが対象材を検知し遅延タイマーにより下降時間が制御されたのち、出側ピンチロールが下降/接材する。入側および出側ピンチロールにより抑制できなかったガタは追従機構部が吸収し、対象材加工面とFθレンズ間距離を一定とした状態で対象材の全長の錆取りを行う。入側ピンチロール前に設置されたセンサーAが対象材の通過を検知し、入側ピンチロールを上昇/離材させ、検知信号と遅延タイマーにより上昇時間が制御されたのちレーザーの照射が終了し、レーザーユニット昇降装置、出側ピンチロールが上昇/離材することで錆取りが完了する。
【0078】
図5に、対象材φ114.3における錆取り結果を示す。なお、
図5中、左側が錆取り前、右側が錆取り後を示している。
図5より、本発明に従うことで良好な結果が得られることが分かる。
【0079】
描写プログラムはハッチングとし、27m/sの速度で対象材の軸方向を往復走査させた。往路/復路の始端では、レーザーONディレイ機能を用いて設定値130μsの遅延によるマスキングと、ランピング機能を用いた設定値8mmのレーザー出力の勾配化を図りレーザー痕の回避を行った。また、往路/復路の終端ではレーザーOFFディレイ機能を用いて設置値80μmの遅延によるマスキングによりレーザー痕の回避を行った。対象材加工面でのレーザー光の軌跡はマスキングなどによって断続的な、
図6示したようなオフセットされたハの字軌跡となる。
【0080】
パルスレーザー発信器、Fθレンズの選定により、比例係数1.83、モード因子は3台の平均値で1.33、レーザー波長は3台の平均値で1061nm、焦点距離255mmとなりレーザービーム径が67.8μmと算出される。本実施例においては11.0mmのデフォーカスを行っているため、レーザービーム径は計算上299.3μmとなるが、実験による実測値では270μmとなったため、レーザービーム径としては270μmを用いることとした。
なお、上記実験による実測値は、レーザー加工後の円筒形鋼材を、顕微鏡を用いてその表面を観察し、実測してレーザービーム径を得る手順に依った。
【0081】
対象材の周速は、レーザービーム径270μm、走査速度27m/s、レーザーユニット台数3台の条件により746.3mm/sと算出されるが、レーザーON/OFFディレイ機能によるマスキングおよびランピング機能による出力の勾配化を行っているため、レーザー加工長さが短くなり、周速の補正が必要となる。また、スキュー搬送において対象材の曲がり、搬送スキューロールの摩耗、機械的誤差などにより送りピッチにバラツキが発生する。
【0082】
本来、送りピッチをレーザーユニット3台で分割し、最初のレーザーユニットにて送りピッチの前段1/3を、次のレーザーユニットで中段1/3を、最後のレーザーユニットで後段1/3を処理するが、レーザーユニットにはガルバノスキャナの大きさ分間隔がありそれぞれの処理可能範囲があるため、最初のレーザーユニットで送りピッチの前段1/3を処理し対象材が数回転した後、次のレーザーユニットが中段1/3を処理し対象材が更に数回転した後、最後のレーザーユニットが後段1/3の処理を行う形となる。
【0083】
その際、送りピッチがバラつくと、最初のレーザーユニットで加工した範囲と次のレーザーユニットまたは最後のレーザーユニットが加工する範囲とが重なる場合がありレーザー加工長さの補正が必要となり、結果(バラツキ分加工長さを伸ばす⇒周速を低下させる)として周速の補正が必要となる.本実施例では、かかる補正値をそれぞれ、0.36倍(マスキングおよびランピング補正分)、0.90倍(ピッチバラツキ分)とし、結果、対象材の周速は241.8mm/s(≒周速746.3mm/s×0.36倍×0.90倍)を適用した。
なお、上記レーザー加工長さの補正値は、レーザー加工後の円筒形鋼材を、顕微鏡にて表面観察することで重なり量を実測して得た。
【0084】
以上、前述した装置を用いた錆取り方法の実施例を示したが、かかる方法を用いて製造した対象材は、従来の人手で実施する錆取りに比べて錆の除去精度にムラがなく均一になり、研磨による錆取りの表面粗さ18~24μmに対して、8~11μmと滑らかになると共に、人手で実施する錆取りの生産性1~3本/hに対して2~7本/hと一層効率良く円筒形鋼材を得ることができるという優れた特性を有した。なお、本発明はかかる実施例に限るものではない。