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特開2023-169846X線回折測定方法およびX線回折測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169846
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】X線回折測定方法およびX線回折測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20231122BHJP
   G01N 23/20 20180101ALI20231122BHJP
【FI】
G01N23/207
G01N23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125870
(22)【出願日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2022090513
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大和田 謙二
(72)【発明者】
【氏名】町田 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】押目 典宏
(72)【発明者】
【氏名】菅原 健人
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 徹
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001GA13
2G001JA08
2G001MA04
(57)【要約】
【課題】微小結晶粒の安定的なX線回折測定を実現する。
【解決手段】X線回折測定方法は、基板(SB0)の基板面(SF)上に配置される複数の微小結晶粒(CP)から、前記基板面に沿う結晶面(SC)を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の基板面上に配置される複数の微小結晶粒から、前記基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、
前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、
を有する、X線回折測定方法。
【請求項2】
前記探索工程は、
前記探索された微小結晶粒が、前記基板面に対して安定であるか否かを判定する安定判定工程
を有する、
請求項1に記載のX線回折測定方法。
【請求項3】
前記基板面に対して安定であると判定された微小結晶粒は、前記基板面に密着する結晶面を有する、
請求項2に記載のX線回折測定方法。
【請求項4】
前記探索工程は、
前記基板に対するX線の集光領域を並進させる並進工程と、
前記並進された集光領域内の1以上の微小結晶粒の少なくともいずれかが、前記基板面に沿う結晶面を有するか否かを判定する面判定工程と、
を有する、
請求項1に記載のX線回折測定方法。
【請求項5】
前記面判定工程は、
前記基板面へのX線の入射角度を変化させて、前記微小結晶粒で回折された、回折X線の強度を検出する検出工程と、
前記入射角度と、前記回折X線の強度との対応関係に基づき、前記微小結晶粒が前記基板面に沿う結晶面を有するか否かを判定する判定工程と、
を有する、請求項4に記載のX線回折測定方法。
【請求項6】
前記X線は、X線出射器の出射軸線に沿って、前記X線出射器から前記基板面に出射され、
前記回折X線は、X線検出器の入射軸線に沿って、前記X線検出器に入射されて、検出され、
前記X線の入射角度は、前記基板面に対して、前記出射軸線がなす第1角度によって規定される、請求項5に記載のX線回折測定方法。
【請求項7】
前記検出工程において、前記出射軸線に対して、前記入射軸線がなす、第2角度は、前記基板面に沿う結晶面の間隔に基づくブラッグ角の1.98倍以上、2.02倍以下に保持される、請求項6に記載のX線回折測定方法。
【請求項8】
前記X線は、X線出射器の出射軸線に沿って、前記X線出射器から前記基板面に出射され、
前記回折X線は、X線検出器の入射軸線に沿って、前記X線検出器に入射されて、検出され、
前記X線の入射角度は、前記基板面に垂直な平面に対して、前記出射軸線がなす第1角度によって規定される、請求項5に記載のX線回折測定方法。
【請求項9】
前記検出工程において、前記出射軸線に対して、前記入射軸線がなす、第2角度は、前記基板面に沿う結晶面と交差する結晶面の間隔に基づくブラッグ角の1.98倍以上、2.02倍以下に保持される、請求項8に記載のX線回折測定方法。
【請求項10】
前記検出工程において、前記第1角度を、前記ブラッグ角の±5[°]以下の範囲で変化させる、
請求項7または9に記載のX線回折測定方法。
【請求項11】
前記検出工程において、前記出射軸線と前記入射軸線は、互いに交わり、所定の平面を規定する直線であり、前記基板面が前記所定の平面に対して起立する状態が維持される、
請求項6または8に記載のX線回折測定方法。
【請求項12】
前記微小結晶粒の粒径が100nm以下である、
請求項1から9のいずれか1項に記載のX線回折測定方法。
【請求項13】
前記基板面は、水平面に対して傾斜するか、または、鉛直線に沿っている、
請求項1から9のいずれか1項に記載のX線回折測定方法。
【請求項14】
前記基板は、前記微小結晶粒を前記基板面上に固定する固定剤を有しない、
請求項1から9のいずれか1項に記載のX線回折測定方法。
【請求項15】
複数の微小結晶粒が配置される基板面を有する基板を保持するホルダと、
前記微小結晶粒に対してX線を出射するX線出射器と、
前記微小結晶粒によって回折された回折X線を検出するX線検出器と、
前記X線出射器に対して、前記ホルダを並進および回転させる並進・回転機構と、
1または複数のプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、前記X線出射器、前記X線検出器、および前記並進・回転機構を制御して、
前記基板面上に配置される複数の微小結晶粒から、前記基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、
前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、
を実行する、
X線回折測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定方法およびX線回折測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にX線回折が従来技術として知られている。例えば、特許文献1は、測定対象物の結晶粒が大きい場合でも特性値の測定精度が悪くならないようにする技術を開示する(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-71401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の技術的進展に伴い、例えば、粒径がμmオーダ程度以下の結晶粒(以下、「微小結晶粒」という)のX線回折分析およびX線回折イメージングが行われるようになってきている。
【0005】
しかしながら、微小結晶粒をX線回折で分析することは容易ではない。一般に、X線回折のためには、結晶粒の結晶方位に対して適宜の角度条件を満たすように、X線を入射すること等が必要となる。しかし、微小結晶粒は、その小ささから結晶方位の確認、角度の設定は容易ではない。また、微小結晶粒は、移動、回転し易く、安定的な測定が困難である。このために、結晶粒を、例えば、固定剤によって固定することが考えられるが、固定剤は、測定の精度および試料(微小結晶粒)の質を低下させる要因となる。
【0006】
本発明の一態様は、微小結晶粒の安定的なX線回折測定を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るX線回折測定方法は、基板の基板面上に配置される複数の微小結晶粒から、前記基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、微小結晶粒の安定的なX線回折測定を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係るX線回折装置の一例を表す図である。
図2】試料保持チップの一例を表す図である。
図3】基板の平坦な基板面上に配置された微小結晶粒の一例を表す図である。
図4】X線回折装置の動作手順の一例を表すフロー図である。
図5】基板面の探索領域の付近を拡大して表す図である。
図6】基板面上に配置された微小結晶粒の一例を表す図である。
図7】X線検出器の検出面上に表されるX線のスポットの一例を表す図である。
図8】ロッキングカーブの一例を表す図である。
図9】X線検出器の検出面上に表されるX線のスポットの一例を表す図である。
図10】本発明の実施形態2に係るX線回折装置の一例を表す図である。
図11】X線回折装置のホルダの一例の断面状態を表す部分断面図である。
図12】基板面の探索領域の付近を拡大して表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態1に係るX線回折装置の一例を表す図である。ここで、鉛直方向をz軸とするxyz座標が設定される。
【0011】
(X線回折装置10)
X線回折装置10は、ホルダ11、X線出射器12、X線検出器13、並進走査部14、15、16、回転走査部17、および制御部20を有し、ホルダ11に保持される試料保持チップSB上の微小結晶粒CPをX線回折によって測定する。
【0012】
微小結晶粒CPは、粒径がμmオーダ程度以下、例えば、100nm以下(一例として、40nm~100nm)の結晶粒である。ここでは、微小結晶粒CPの一例として、40nmのチタン酸バリウム(BaTiO)の結晶粒を例に挙げて説明する。
【0013】
但し、微小結晶粒CPの粒径、構成材料は適宜に変更できる。微小結晶粒CPの粒径または結晶性が変わると、これに伴って、後述のX線ビームXiのビーム径、並進位置(x、z)、および角度(Φ)の変化範囲、ステップ等を変化させてもよい。特に、角度(Φ)の変化範囲は、結晶性に応じて、変化させることが好ましく、角度(Φ)のステップは、粒径に応じて、変化させることが好ましい。
【0014】
ホルダ11は、略平板形状を有し、複数の微小結晶粒CPが配置される試料保持チップSB(基板SB0)を保持する。ここでは、試料保持チップSB上、特に、その主面(後述の基板面SF)に沿って、x軸、z軸が設定されている。なお、ホルダ11は、後に図10図11に示すような貫通孔APを有してもよい。
【0015】
ここでは、ホルダ11の主面、結局、試料保持チップSBの基板面SFは、X軸に沿っている。また、X線出射器12及びX線検出器13は、基板面SFの表側(Y軸正方向側)に配置される。すなわち、X線検出器13は、微小結晶粒CPによって回折され、試料保持チップSBを透過しない回折X線を検出している。この計測態様を反射計測と称する。これに対して、X線検出器13の配置を変更することで、X線検出器13は、微小結晶粒CPによって回折され、試料保持チップSBを透過する回折X線を検出可能となる。この計測態様を透過計測と称する。この詳細は、実施形態2において詳細に説明する。
【0016】
ホルダ11(試料保持チップSB)は、並進走査部14、15、16、回転走査部17によって、x、y、z方向に並進し、試料保持チップSB上に、z軸と略同軸に設定された回転軸Cを中心として回転する。
【0017】
図1に示すように、試料保持チップSBは、いわゆる縦置きであり、鉛直方向に沿う主面(基板面SF)を有する。基板面SFは、水平面に対して傾斜するか、または、鉛直線に沿わせることができる(例えば、略平行)。但し、試料保持チップSBは、いわゆる横置きとして、水平面に沿う主面(基板面SF)を有してもよい。
【0018】
図2は、試料保持チップSBの一例を表す図である。図2の(A)は、試料保持チップSBの平面図であり、図2の(B)は、試料保持チップSBの中心近傍を拡大した拡大平面図である。試料保持チップSBは、中央付近に、微小結晶粒CPを配置するための基板SB0を有する。
【0019】
基板SB0は、X線の波面を乱しにくい材料(例えば、窒化シリコン)の、例えば、数μmの厚さの薄膜から構成できる。但し、基板SB0の厚さを、例えば、100nmオーダ程度とより薄くしてもよい。基板SB0は、平坦な基板面(主面)SFを有し、微小結晶粒CPを載置する。この基板面SF上に、微小結晶粒CPが配置される。
【0020】
ヒータHTは、微小結晶粒CPの温度を調節するための電熱線であり、基板SB0の下層(裏側)に配置される。ヒータHTに電流を流すことで、微小結晶粒CPを加熱することができる。ここでは、ヒータHTは、螺旋形状を有するが、他の形状であってもよい。なお、試料保持チップSB近傍の温度は、ヒータHTの抵抗値、あるいは、熱電対により測定することができる。
【0021】
ここで、ヒータHTに替えて、または、ヒータHTと共に、微小結晶粒CPを冷却するためのクーラが試料保持チップSBに配置されてもよい。
【0022】
基板面SF上に、微小結晶粒CPを探索するための探索領域MAが仮想的に設定される。探索領域MAは、例えば、200μm*200μm以内の大きさであり、基板SB0(試料保持チップSB)の中央付近に設定される。この探索領域MAは、X線出射器12からのX線ビームXiによって、照射、走査(スキャン)される。
【0023】
図1に戻って、説明を続ける。判り易さのために図示を省略するが、ホルダ11は、真空チェンバ内に配置され、真空下、または、種々のガス環境下での微小結晶粒CPのX線回折測定が可能となっている。
【0024】
X線出射器12は、試料保持チップSB(基板SB0)上の微小結晶粒CPにX線ビームXiを出射する。このX線ビームXiは、基板面SF上において、小径、例えば、数μm以下(一例として、2μm)のビーム径(半値全幅)を有する。X線ビームXiが小径であることで、微小結晶粒CPの探索、測定、及び選別が容易となる。具体的には、X線ビームXiが集光され、X線の密度が向上することで、微小結晶粒CPの探索及び測定が容易になる。また、X線ビームXiのビーム径が小さいことにより、X線ビームXiの照射領域内に入る微小結晶粒CPの数が少なくなり、一の粒子を選別しやすくなる。X線出射器12は、(1)熱電子型、電界放出型、又はショットキー型の電子銃を有してもよいし、(2)シンクロトロン、蓄積リング、ライナック、マイクロトロンを含む各種加速器に設けられる挿入光源(例えば、SPring-8)であってもよい。なお、挿入光源は、偏光電磁石光源を含めてもよい。
【0025】
SPring-8のような放射光源、もしくは、SACLAのような自由電子レーザを用いると、コヒーレントなX線がX線出射器12から出射される。この場合、ブラッグコヒーレントX線回折イメージング(BCDI)法を適用して、回折パターンの取得、および位相回復計算を行うことで、微小結晶粒CPの外形、内部の双方を含んだ三次元構造を観察することができる。
【0026】
ここで、X線出射器12から照射されるX線ビームXiの中心軸を出射軸線A1と呼ぶこととする。すなわち、X線出射器12は、出射軸線A1に沿って、X線ビームXiを出射させる。出射軸線A1は、基板面SFに対して角度(第1角度)θ1をなす。
【0027】
X線検出器13は、微小結晶粒CPによって回折されたX線Xdを検出する検出器であり、回折パターンを捕捉するための多数の検出素子が2次元的に配列される検出面を有する。
【0028】
ここで、X線検出器13の検出面の中心に入射するX線Xdの中心軸を入射軸線A2と呼ぶこととする。すなわち、X線検出器13は、入射軸線A2に沿って、入射するX線Xdを検出面の中心に捕捉する。入射軸線A2は、基板面SFに対して角度θ2をなす。なお、入射軸線A2は、検出面の中心に対して、X線検出器13の検出エリアの幅に対応する誤差が認められ得る。
【0029】
並進走査部14、15、16、回転走査部17は、全体として、X線出射器12(結局は、X線ビームXi)に対して、ホルダ11を並進および回転させる並進・回転機構として機能する。
【0030】
並進走査部14、15、16はそれぞれ、ホルダ11(試料保持チップSB)をx軸方向、y軸方向、z軸方向に並進させる並進テーブルである。この並進は、例えば、100nmの高分解能で行われる。
【0031】
回転走査部17は、ホルダ11(試料保持チップSB)を試料保持チップSB上に、Z軸と略平行に設定される回転軸Cを中心として回転させる回転テーブル、例えば、ゴニオメータである。この回転は、例えば、1/1000[°]の高分解能で行われる。
【0032】
制御部20は、プロセッサ21、メモリ22を有する。メモリ22は、プログラムP1を記憶する。プロセッサ21は、プログラムP1によって、動作し、後述のX線回折測定方法を実行する。
【0033】
(安定的に配置される微小結晶粒CP)
X線回折装置10は、基板面SF上に安定的に配置される微小結晶粒CPを探索することができる。先に、基板面SF上に安定的に配置される微小結晶粒CPを説明する。
【0034】
図3は、基板SB0の平坦な基板面SF上に配置された微小結晶粒CPの例を表す図である。ここでは、基板面SFをZ軸(鉛直)方向から見た状態を表し、基板面SF上に、微小結晶粒CP1~CP4が配置されている。微小結晶粒CP1、CP3は、全体が略球形状を有し、平坦面FFを有しないため、基板面SFに対して安定に配置されていない。
【0035】
これに対して、微小結晶粒CP2、CP4は、平坦面FFを有する。この内、微小結晶粒CP2の平坦面FFは、基板面SFに対して傾いているため、基板面SFに対して安定に配置されていない。
【0036】
これに対して、微小結晶粒CP4の平坦面FFは、基板面SFと、略平行に接している。この場合、微小結晶粒CP4(平坦面FF)と基板面SFとの間に、例えば、ファンデル・ワールス力が働き、基板面SFが傾いている場合でも、微小結晶粒CP4は基板面SFに対して安定に配置(固定)される。ここでは、平坦面FFは、微小結晶粒CP4の露出された結晶面(露出結晶面)SC0である。露出結晶面SC0は、平坦性が高く、基板面SFと密着、固定され易い。一般に、微小結晶粒CP4(広義の微小結晶粒)の粉末は、露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0をある割合で含むと考えられる。
【0037】
すなわち、微小結晶粒CPを基板面SF上に散布すると、露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CPのいずれかにおいて、散布時に、その露出結晶面SC0が基板面SFに沿って、密着、固定されることを期待できる。
【0038】
X線回折装置10は、「基板面SFに密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0」を探索することを可能とする。この前提として、X線回折装置10は、「基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CP」を探索する。探索された微小結晶粒CPが基板面SFに対して安定であれば、この微小結晶粒CPは、「基板面SFに密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0」である可能性が高い。
【0039】
一般に、基板面SFに対するX線ビームXiの位置、角度を変化させながら、X線検出器13上での回折パターンの安定性を確認することで、基板面SFに固定された微小結晶粒CPを見出すことは可能である。しかし、このような探索は、変化させるパラメータが多いため、時間を要する。後述するように、本実施形態では、変化させるパラメータ(特に、角度)の範囲を制限した効率的な探索、測定が可能となる。
【0040】
(X線回折測定方法)
図4は、X線回折装置10の動作手順の一例を表すフロー図である。X線回折測定工程は、大きく分けて、準備工程(ステップS1)、探索工程(ステップS2)、位置調節工程(ステップS3)、測定工程(ステップS4)に区分される。ステップS1、S2、S3はそれぞれ、ステップS11~S13、ステップS21~S24、およびステップS31~S33に区分される。
【0041】
A.準備(ステップS1)
(1)基板SB0(結晶粒)のセット(ステップS11)
基板面SF上に微小結晶粒CPを基板面SF上に散布する。例えば、微小結晶粒CPの粉末を揮発性の液体(例えば、エタノール)中に分散して、液体中に微小結晶粒CPが分散している分散液を生成し、この分散液を試料保持チップSBの基板面SF上に滴下し、液体を揮発させる。この結果、基板面SF上に複数の微小結晶粒CPが分散して配置される試料保持チップSBが作製される。このようにして作製された試料保持チップSBをホルダ11に固定する。
【0042】
既述のように、複数の微小結晶粒CPは、基板面SFと密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0をある割合で含むと考えられる。後の探索工程(ステップS2)において、基板面SFと密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0が探索される。
【0043】
図5は、基板面SFの探索領域MAの付近を拡大して表す図である。以下、この図に基づいて、X線回折装置10の設定を説明する。
【0044】
(2)X線回折装置10の設定(ステップS12)
図5は、基板面SFの探索領域MAの付近を拡大して表す図である。ここで、X線回折装置10は、次の条件(a)~(c)を満たすように設定される。
【0045】
(a)出射軸線A1と入射軸線A2とは、基板面SF上(の点O)で交わり、出射軸線A1と入射軸線A2とによって規定される面S0を基板面SFに垂直とする。
(b)出射軸線A1に対して入射軸線A2のなす角度(第2角度)θ0(=θ1+θ2)をブラッグ角θbgの2倍とする。
θ0=θ1+θ2=2・θbg ……式(1)
θbg=sin-1(2・d/(n・λ)) ……式(2)
d: 結晶面(格子面)の間隔
n: 反射の次数(整数)
【0046】
条件(a)、(b)は、基板面SF上の微小結晶粒CP0が基板面SFと並行な結晶面SCを有することに対応する。条件(a)は、結晶面SCへの入射X線と回折X線は、結晶面SC(結局は、基板面SF)に垂直な面S0上に配置されることに基づく。条件(b)は、X線回折において、角度θ1、θ2が満たすべき条件である。
【0047】
ここで、間隔dの基準となる結晶面(格子面)は、微小結晶粒CPにおいて、露出結晶面SC0として出現し易い結晶面SCを選択することが好ましい。本件の例のチタン酸バリウムでは、結晶面SCとして、例えば、(100)結晶面を選択することが考えられる。この場合、間隔dは、約0.399[nm]となり、X線の波長λが例えば0.155[nm]であれば、反射の次数n=2のときのブラッグ角θbgは約22.86[°]となる。
【0048】
ここでは、回折強度の強い(200)ブラッグ反射を選択して、計測に用いているため、反射の次数nを「2」としている。この点、以下でも、同様である。なお、反射の次数nは、2以外であってもよい。
【0049】
(c)回転軸C(Z軸)が基板面SF上に沿い、かつ、X線ビームXiが照射される点Oを通るように設定する。これにより、回転軸Cを中心に基板SB0を回転させることで、微小結晶粒CPの正確なロッキングカーブを得ることが可能となる。ここでは、出射軸線A1と入射軸線A2とによって規定される面S0に対して、回転軸Cが直交するように設定している。但し、面S0に対して、回転軸Cが傾斜していてもよい。面S0に対して、回転軸Cが傾斜していても、微小結晶粒CPを探索できる。
【0050】
(3)測定環境(温度、ガス種、ガス圧)の設定(ステップS13)
微小結晶粒CP周囲の温度、雰囲気(真空、またはガス雰囲気:ガス種、ガス圧)を適宜に設定する。この設定は、主として、微小結晶粒CPの測定条件を規定するためのものである。温度等に起因して、微小結晶粒CPの結晶状態は変化し得る。
【0051】
B.結晶粒の探索(ステップS2)
既述のように探索領域MA内に複数の微小結晶粒CPが配置される。探索工程では、基板SB0の基板面SF上に配置される複数の微小結晶粒CPから、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを探索する。
【0052】
図6は、基板面SF上に配置された微小結晶粒CPの一例を表す図である。ここでは、基板面SF上に微小結晶粒CPa、CPb、CPcが配置されている。
【0053】
(1)基板SB0の並進(x、z)(ステップS21)
並進工程(ステップS21)は、基板SB0に対するX線の集光領域を並進させる工程である。ここでは、基板面SFに沿って基板SB0を並進することで(平面走査)、X線ビームXiの収束位置(集光領域)を移動させる。例えば、探索領域MAの中心付近から初めて、2μmステップでx、z方向に基板SB0を走査する。
【0054】
(2)基板SB0の回転(φ)・回折X線の検出(ステップS22)
基板SB0を並進したら一時停止して、回転・検出工程(ステップS22)が行われる。すなわち、回転軸Cを中心に、基板SB0を微小回転させながら、回折X線を検出する。回転・検出工程(ステップS22)は、基板面SFへのX線(X線ビームXi)の入射角度(後述の第1角度)を変化させて、微小結晶粒CPで回折された、回折X線の強度を検出する検出工程である。X線は、X線出射器12の出射軸線A1に沿って、X線出射器12から基板面SFに出射され、回折X線は、X線検出器の入射軸線に沿って、前記X線検出器に入射されて、検出される。ここで、X線の入射角度は、基板面SFに対して、出射軸線A1がなす角度θ1(第1角度)によって規定される。
【0055】
このとき、角度θ1(第1角度)を、例えば、ブラッグ角θbgの±5[°]以下の範囲で変化させる。一例として、ブラッグ角θbgを中心として±2[°]程度の範囲で、例えば、0.1[°/秒]程度で角度θ1を走査し、検出されるX線の強度の変化を測定する。後述のように、ブラッグ角θbgを中心として、角度θ1、θ2を微小変化させることで、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを容易に見出すことができる。
【0056】
回転・検出工程(ステップS22)において、条件(a)~(c)は、維持される。既述のように、出射軸線A1と入射軸線A2は、互いに交わり、所定の平面S0を規定する直線である。ここで、基板面SFは所定の平面S0に対して起立する(例えば、基板面SFは平面S0に直交する)状態が維持される(条件(a))。X線出射器12の出射軸線A1に対して、X線検出器13への回折X線の入射軸線A2がなす、角度θ0(第2角度)は、ブラッグ角θbgの略2倍(例えば、1.95倍以上、2.05倍以下であることが好ましく、1.98倍以上、2.02倍以下であれば、より好ましい)に保持される(条件(b))。回転軸C(Z軸)は基板面SF上に沿い、かつ、X線ビームXiが照射される点Oを通る状態が維持される(条件(c))。
【0057】
(3)回折X線の検出の有無の判定(ステップS23)
判定工程(ステップS23)は、X線の入射角度(角度θ1:第1角度)と、検出された回折X線の強度との対応関係に基づき、微小結晶粒CPが基板面SFに沿う結晶面SCを有するか否かを判定する工程である。回転時において、特定の角度で回折X線の強度が大きくなる場合、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CP(より好ましくは、基板面SFに密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0)を見出したことを意味する(ステップS23での「YES」)。
【0058】
回転・検出工程(ステップS22)および判定工程(ステップS23)は、並進された集光領域内の1以上の微小結晶粒の少なくともいずれかが、前記基板面に沿う結晶面を有するか否かを判定する面判定工程として機能する。
【0059】
図7は、X線検出器13の検出面上に表されるX線のスポットの一例を表す図である。ここでは、判り易さのために、図6に示す微小結晶粒CPa、CPb、CPcに対応するスポットXa、Xb、Xcが同時に表れているとする。基板SB0を微小回転させることで、このスポットXa、Xb、Xcの輝度は大きく変化(いわば、点滅、点いて消える)する。このようにして、ブラッグ角θbgを中心として、角度θ1、θ2を連動して微小変化させることで、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを容易に見出すことができる。
【0060】
判定工程(ステップS23)において、ブラッグ角θbg付近の角度θ1において、バックグラウンドと比較して高輝度の回折X線(のスポット)が検出されたら(ステップS23での「YES」)、次のステップS24に移行する。
【0061】
ステップS23での判断が「NO」の場合、基板SB0を並進(x、z)して(ステップS21)、回転(φ)・検出(ステップS22)、判定(ステップS23)が繰り返される。例えば、±50μmの範囲で並進等を繰り返す。なお、一般に、±50μmより狭い範囲内で、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを見出すことが多い。
【0062】
(4)回折X線の強度の安定性の判定(ステップS24)
高輝度の回折X線を検出したら(ステップS23での「YES」)、安定性の判定工程(安定判定工程、ステップS24)に移行し、面判定工程(ステップS22、S23)において、基板面SFに沿う結晶面SCを有すると判定された微小結晶粒CPが、基板面SFに対して安定であるか否かを判定する。具体的には、回折X線の強度が安定しているか否かを判定する。例えば、30秒~1分程度の時間、回折X線が高強度の状態(明状態)が続いたら、微小結晶粒CPは基板面SFに対して安定であると判定する。この場合、基板面に対して安定であると判定された微小結晶粒CPは、基板面SFに密着する(露出)結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0である可能性が高い。安定性の判定工程(ステップS24)での判断が「YES」であれば、位置調節工程(ステップS3)に移行する。
【0063】
回折X線の強度が安定しない場合(ステップS24での「NO」)、ステップS21に戻って、探索をやり直す。一般に、回折X線のスポット(微小結晶粒CP)は、安定しているものと不安定なものの双方が含まれる。安定な微小結晶粒CPは、基板面SFと密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0であると考えられる。不安定な微小結晶粒CPは、例えば、微小結晶粒CP内部の結晶面SCが基板面SFに対して一時的に平行となったが、その後、微小結晶粒CPが回転する等して、この平行関係が損なわれたことが考えられる。このような場合、回折X線のスポットは、一瞬にして、明状態から暗状態へと変化する。
【0064】
C.結晶粒の位置、角度の調節(ステップS3)
(1)回折X線の強度の最大化(ステップS31)
探索工程では、基板面SFと密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0を見出すことに重点があり、探索された微小結晶粒CP0の位置(x、z)および角度(Φ)は比較的荒く設定された状態にある。位置・角度の調節工程(ステップS3)では、結晶粒をより精密に位置合わせする。
【0065】
具体的には、基板SB0を回転させ、その後、並進させることで、回折X線の強度を最大化する(ステップS31)。基板SB0を回転して、強度を最大にして、その後、回転を停止した状態で、基板SB0をxz方向に並進させて、回折X線の強度を最大化する。例えば、±5μmの範囲を100nmの精度で並進させる。この結果、X線ビームXiの中心に微小結晶粒CPを配置させることができる。なお、ステップS31の工程は、必要に応じて、複数回繰り返してもよい。
【0066】
(2)ロッキングカーブの導出(ステップS32)
回折X線の強度を最大化したら、ロッキングカーブ(角度φと回折X線の強度Iとの対応関係)を求める。角度φを、例えば、±1[°]の範囲で0.1[°]ステップで調整する。各スキャン1点あたり、例えば、5秒から10秒程度、X線検出器13での検出計数を積算する。すなわち、ロッキングカーブの比較が可能なレベルに検出計数の積算量を増加させる。
【0067】
(3)ロッキングカーブの安定性の判定(ステップS33)
ロッキングカーブの導出を繰り返し、ロッキングカーブのプロファイル、ピーク位置の変動の有無に基づき、ロッキングカーブの安定性を判定する。この結果、探索された微小結晶粒CPが、基板面SFに密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0であることがより確実となる。
【0068】
図8は、ロッキングカーブの一例を表す図である。ここでは、測定された2つのロッキングカーブG1、G2が重ね合わせて示される。ロッキングカーブは安定していると考えられる。すなわち、ロッキングカーブG1、G2間において、プロファイルは誤差範囲で一致し、ピークのずれは、角度のスキャンステップ0.05[°]以内である。
【0069】
D.測定(ステップS4)
測定工程は、探索工程によって探索された微小結晶粒CPをX線回折測定する工程であり、ここでは、微小結晶粒CPの位置調節工程後に行われる。
【0070】
測定工程の前に、角度、位置の微調節を行うことが好ましい。例えば、基板SB0の回転、X方向並進、およびZ方向並進を順に行い、回折X線の強度の最大化を図る。このとき、例えば、ステップS31と同様の条件で、基板SB0を走査し、X線ビームXiに対する微小結晶粒CPの位置、角度のさらなる最適化を図る。
【0071】
測定工程では、例えば、角度φを±1[°]の範囲で0.05[°]のステップで走査する。1点当たりの測定時間(積算時間)は、例えば、180秒とし、合計で2時間の測定を行う。この結果、単一の微小結晶粒CPを高精度でX線回折測定することができる。
【0072】
以上に示すように、本実施形態では、基板SB0の基板面SF上に配置される複数の微小結晶粒CPから、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを探索し、X線回折測定する。この結果、安定した状態で基板SB0上に配置される微小結晶粒CPを高精度でX線回折測定できる。
【0073】
微小結晶粒CPのX線回折測定には、本来、微小結晶粒CPの結晶面SCに対して、ブラッグ角θbgを満たすようにX線出射器12の出射軸線A1およびX線検出器13の入射軸線A2を設定する必要がある。しかし、微小結晶粒CPの結晶面SCは観察が困難であり、微小結晶粒CPの結晶面SCに対して、出射軸線A1および入射軸線A2の角度を合わせるのは容易ではない。例えば、出射軸線A1および入射軸線A2の軸を微小結晶粒CPに合わせた状態で、X線出射器12およびX線検出器13を動作させておき、出射軸線A1および入射軸線A2の角度を変化させて、回折X線が検出される角度を求めることはできるが、出射軸線A1および入射軸線A2それぞれを2つの角度、合計、4つの角度座標を変化させることが必要となり、角度合わせに、長時間を要する。なお、一般に3次元上で物の向きを規定するには、3つの角度(例えば、X軸、Y軸、Z軸に対する回転角)が必要となる。ここでは、出射軸線A1および入射軸線A2自体を中心とする回転は問題とならないので、出射軸線A1および入射軸線A2の向きはそれぞれ、2つの角度によって規定される。
【0074】
これに対して、本実施形態では、観察が容易な基板面SFを基準として、出射軸線A1および入射軸線A2の角度を合わせることで、結果として、観察が困難な微小結晶粒CP(結晶面SC)に対する角度合わせが可能となる。この結果、角度合わせに要する時間を大幅に短縮できる。
【0075】
ここで、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを探索することは、基板面SFに固定されている微小結晶粒CP0の効率的な探索にも繋がっている。すなわち、探索された微小結晶粒CPは、基板面SFと密着する露出結晶面SC0を有する微小結晶粒CP0である可能性が高い。そして、この微小結晶粒CP0は、平面的に接触する基板面SFと露出結晶面SC0間の、例えば、ファンデル・ワールス力によって、基板面SFに固定される傾向にある。
【0076】
この結果、従来の手法では1日程度を要していた、出射軸線A1および入射軸線A2の角度合わせおよび安定的な微小結晶粒CPの探索が、例えば、1時間程度以内と、1/20以下の時間で行えるようになった。
【0077】
〔本実施形態の利点〕
本実施形態では、次のような利点を享受することができる。
(1)100nm以下の微小結晶粒CP(一例として、40nm径のBaTiO立方体形状粒)に適用できる。一般に、動き易いとされるこのサイズの微小結晶粒CPの安定的なX線回折測定が可能となる。
【0078】
(2)横置き(基板SB0の水平配置)よりも固定が難しいと考えられる縦置き(基板SB0の垂直配置)に対応できる。基板SB0を垂直に配置すると、他の計測手法との併用が容易となる。例えば、後述する実施形態2に示すように、回折X線(Xd)を透過計測しながら、他の手法による透過計測を行うことができる。他の手法による透過計測として、吸収コントラストイメージング、すなわち、X線ビーム(Xi)が微小結晶粒CPによりどの程度吸収されたかをイメージングすることが挙げられる。
【0079】
(3)基板SB0は、微小結晶粒CPを固定するための固定剤(例えば、アルミナ)を有する必要はない。本実施形態では、固定剤が、微小結晶粒CPの性質の変化要因、X線回折のノイズ要因となることはない。すなわち、微小結晶粒CPに接触した固定剤は、微小結晶粒CPの本来の性質を変化させる可能性がある。また、固定剤を高温焼成して固める場合、高温下で、微小結晶粒CPの結晶組織構造が変化したり、微小結晶粒CPが固定剤と化学反応したりする可能性がある。さらに、固定剤からのX線散乱は、本来のX線回折のノイズとなり得る。
【0080】
(4)微小結晶粒CPの固定の安定性が高い。
安定性が判定された(ステップS24)微小結晶粒CPであれば、その後の時間経過、温度変化によっても基板面SFに対して安定的に固定されていた。例えば、1時間経過後のX線回折のロッキングカーブのピーク位置の変動は0.05[°]以内とほぼ測定誤差程度以下であった。図8に示すように、微小結晶粒CPの温度を40℃、92℃、200℃と変化させても、ロッキングカーブのプロファイルに実質的な変化は見られなかった。
【0081】
[変形例]
本発明の変形例を説明する。本発明の変形例では、Z軸(回転軸C)に対して基板面S0を傾けるあおり軸(一例として、X軸に沿うあおり軸)を中心に基板SB0を回転させる。図9は、X線検出器13の検出面上に表されるX線のスポットの例を表す図である。ここでは、あおり軸を中心とする基板SB0の回転により、X線検出器13の検出面上でのX線のスポットをZ軸方向(上下)に移動する。この移動は、X線検出器13の検出面上の好適な位置にX線のスポットを配置されることに用いることができる。図9に示すように、X線検出器13は、上下2つの検出モジュールから構成され、X線検出器13の検出面は、検出モジュール間につなぎ目BDを有する。X線のスポットは、つなぎ目BD付近ではなく、X線検出器モジュールの中央CN付近に配置されることが好ましい。
【0082】
このあおり軸を中心とする回転は、微小結晶粒CPの径がある程度大きく、その結果、微小結晶粒CPから検出面までの距離をある程度大きくせざるを得ない場合に、特に意義がある。この場合、微小結晶粒CPからの回折X線をX線検出器モジュールの中央CN付近に位置させることが容易となる。
【0083】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2について、説明する。図10は、図1と対応し、本発明の実施形態2に係るX線回折装置の一例を表す図である。実施形態2に係るX線回折装置10は、実施形態1に係るX線回折装置10と、構成は同様であるが、ホルダ11の向きと形状が異なる。
【0084】
ここでは、ホルダ11の主面、結局、試料保持チップSBの基板面SFは、Y軸に沿っている。この結果、X線出射器12、及びX線検出器13は、それぞれ、基板面SFの表側(Y軸正方向側)および裏側(Y軸負方向側)に配置される。すなわち、X線検出器13は、微小結晶粒CPによって回折され、試料保持チップSBを透過する回折X線(Xd)を検出する(透過計測)。
【0085】
図11は、ホルダ11の断面状態を表す部分断面図である。図10図11に示すように、ホルダ11は、回折X線(Xd)を通過させる貫通孔APを有する。より詳細には、貫通孔APは、微小結晶粒CPを通り過ぎたX線ビーム(Xi)と微小結晶粒CPからの回折X線(Xd)の双方を遮らないように、ホルダ11に形成される。すなわち、貫通孔APは、探索領域MAより十分に広い面積を持つテーパー状の貫通孔である。貫通孔APは、例えば、試料保持チップSBに接する側(すなわち、径が小さい側)の穴径が2mmφであり、テーパー角が90度である。
【0086】
図12は、図5と対応し、基板面SFの探索領域MAの付近を拡大して表す図である。ここで、角度θ1、θ2の定義は、図5(実施形態1)と異なる。図5では、基板面SFに対して、出射軸線A1および入射軸線A2それぞれがなす角度が角度θ1(第1角度)、θ2(第2角度)であった。これに対して、図10では、基板面SFに垂直な平面SSに対して、出射軸線A1および入射軸線A2それぞれがなす角度を角度θ1、θ2としている。なお、平面SSは、出射軸線A1と入射軸線A2とのなす面S0および基板面SFの双方に直交する面である。
【0087】
このような透過計測であっても、図4に示す動作手順(X線回折測定方法)を適用することができる。すなわち、基板SB0の基板面SF上に配置される複数の微小結晶粒CPから、基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを探索し(探索工程:ステップS2)、微小結晶粒CPのX線回折測定を行うことができる(測定工程:ステップS4)。
【0088】
反射計測(実施形態1)の場合、微小結晶粒CPの探索には、基板面SFに沿う結晶面SCからの回折X線を用いていた。これに対して、透過計測(実施形態2)の場合、微小結晶粒CPの探索には、基板面SFに沿う結晶面SCとは異なる結晶面からの回折X線を用いる。これは、透過計測の場合、基板面SFに沿う結晶面SCからの回折X線の強度を確保し難いためである。透過計測では、基板面SFに沿う結晶面SCと直交に近い結晶面から高強度の回折X線を得ることができる。
【0089】
立方晶や斜方晶では、基板面SFに沿う結晶面SCと直交する結晶面から高強度の回折X線を得ることができるが、菱面体相、斜方晶相、三斜晶では、基板面SFに沿う結晶面SCと高強度の回折X線が得られる結晶面との間に、厳格な直交関係は成立しない。このため、一般的には、基板面SFに沿う結晶面SCと直交に近い結晶面(いわば、結晶面SCと交差する結晶面)からの回折X線を検出することになる。
【0090】
基板面SFに沿う結晶面SCが[001]面である場合、反射計測では(001)結晶面からの回折X線を検出するが、透過計測では、例えば、(100)結晶面、(010)結晶面からの回折X線を検出することになる。既述のように、微小結晶粒CPがチタン酸バリウムの場合、反射計測では、結晶面SCとして、例えば、(100)結晶面を選択していた。この場合、間隔dは、約0.399[nm]、反射の次数n=2のときのブラッグ角θbgは、約22.86[°]であった(X線の波長λが0.155[nm]の場合)。これに対して、透過計測では、探索対象の結晶面SCとして、(100)結晶面を選択できるが、回折に寄与する面は、例えば、(010)結晶面、(001)結晶面となる。ここで、(010)結晶面を用いて計測する場合、間隔dは、約0.399[nm]、反射の次数n=2のときのブラッグ角θbgは、約22.86[°]となる。一方、(001)結晶面を用いて計測する場合、間隔dは、約0.404[nm]、反射の次数n=2のときのブラッグ角θbgは、約22.56[°]となる。なお、いずれの場合も、X線の波長λを0.155[nm]としている。
【0091】
透過計測においても、反射計測と同様、基板面SFへのX線の入射角度(θ1)を変化させて、微小結晶粒CPで回折された、回折X線の強度を検出し(検出工程)、入射角度の変化と、回折X線の強度との対応関係に基づき、微小結晶粒CPが基板面SFに沿う結晶面SCを有するか否かを判定する(判定工程)。但し、X線の入射角度は、基板面SFに垂直な平面SSに対して、出射軸線A1がなす角度θ1(第1角度)によって規定される。また、検出工程において、出射軸線A1に対して、入射軸線A2がなす、角度θ0(第2角度)は、基板面SFに沿う結晶面CPと交差する結晶面の間隔に基づくブラッグ角の1.98倍以上、2.02倍以下に保持される。
【0092】
上述のように、微小結晶粒CPがチタン酸バリウムの場合、結晶面(010)、(001)によって、約22.86[°]、約22.56[°]とブラッグ角θbgは相違するが、この角度差は0.3[°]とブラッグ角θbgの1%程度の範囲内に留まっている。すなわち、回折に寄与する結晶面が複数あり得ることを考慮しても、角度θ0(第2角度)は、基板面SFに沿う結晶面CPと交差する結晶面の間隔に基づくブラッグ角の略2倍(例えば、1.95倍以上、2.05倍以下であることが好ましく、上記したように、1.98倍以上、2.02倍以下であれば、より好ましい)に保持することができる。
【0093】
いずれにしても、透過計測では、「基板面SFに沿う結晶面SC」は、他の結晶面からの回折X線を用いて、いわば間接的に探索され、微小結晶粒CPのX線回折測定が行われる。この点を除き、実施形態2は実施形態1と本質的に異なるものではないので、詳細な説明を省略する。
【0094】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るX線回折測定方法は、基板(SB0)の基板面(SF)上に配置される複数の微小結晶粒(CP)から、前記基板面に沿う結晶面(SC)を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、を有する。基板面SFに沿う結晶面SCを有する微小結晶粒CPを探索することで、基板面SFに対して安定な微小結晶粒CPを見出し、安定的なX線回折測定が可能となる。
【0095】
本発明の態様2に係るX線回折測定方法は、上記態様1において、前記探索された前記微小結晶粒が、前記基板面に対して安定であるか否かを判定する安定判定工程を有する。これにより、基板面に対してより安定な微小結晶粒を見出すことができる。
【0096】
本発明の態様3に係るX線回折測定方法は、上記態様2において、前記基板面に対して安定であるか否かを判定された微小結晶粒は、前記基板面に密着する結晶面を有する。これにより、基板面に対してより安定な微小結晶粒を見出すことができる。
【0097】
本発明の態様4に係るX線回折測定方法は、上記態様1~3のいずれかにおいて、前記探索工程は、前記基板に対するX線の集光領域を並進させる並進工程と、前記並進された集光領域内の1以上の微小結晶粒の少なくともいずれかが、前記基板面に沿う結晶面を有するか否かを判定する面判定工程と、を有する。これにより、基板面SFの並進範囲の微小結晶粒CPを探索できる。
【0098】
本発明の態様5に係るX線回折測定方法は、上記態様4において、前記面判定工程は、前記基板面へのX線の入射角度(θ1)を変化させて、前記微小結晶粒で回折された、回折X線の強度を検出する検出工程と、前記入射角度と、前記回折X線の強度との対応関係に基づき、前記微小結晶粒が前記基板面に沿う結晶面を有するか否かを判定する判定工程と、を有する。X線の入射角度と回折X線の強度との対応関係に基づき、微小結晶粒を探索できる。
【0099】
本発明の態様6に係るX線回折測定方法は、上記態様5において、前記X線は、X線出射器(12)の出射軸線(A1)に沿って、前記X線出射器から前記基板面に出射され、前記回折X線は、X線検出器(13)の入射軸線(A2)に沿って、前記X線検出器に入射されて、検出され、前記X線の入射角度は、前記基板面に対して、前記出射軸線がなす第1角度(θ1)によって規定される。これにより、第1角度を変化させて、微小結晶粒を探索できる。
【0100】
本発明の態様7に係るX線回折測定方法は、上記態様6において、前記検出工程では、前記出射軸線に対して、前記入射軸線がなす、第2角度(θ0)は、前記基板面に沿う結晶面の間隔に基づくブラッグ角の1.98倍以上、2.02倍以下に保持される。これにより、出射軸線A1と入射軸線A2間の角度を変えずに、微小結晶粒を探索できる。ここで、この場合の第2角度(θ0)は、当該ブラッグ角の略2倍、つまり、例えば、1.95倍以上、2.05倍以下であることが好ましく、上記したように、1.98倍以上、2.02倍以下であれば、より好ましい。
【0101】
本発明の態様8に係るX線回折測定方法は、上記態様5において、前記X線は、X線出射器(12)の出射軸線(A1)に沿って、前記X線出射器から前記基板面に出射され、前記回折X線は、X線検出器(13)の入射軸線(A2)に沿って、前記X線検出器に入射されて、検出され、前記X線の入射角度は、前記基板面に垂直な平面に対して、前記出射軸線がなす第1角度(θ1)によって規定される。これにより、第1角度を変化させて、微小結晶粒を探索できる。
【0102】
本発明の態様9に係るX線回折測定方法は、上記態様8において、前記検出工程では、前記出射軸線に対して、前記入射軸線がなす、第2角度(θ0)は、前記基板面に沿う結晶面と交差する結晶面の間隔に基づくブラッグ角の1.98倍以上、2.02倍以下に保持される。これにより、出射軸線A1と入射軸線A2間の角度を変えずに、微小結晶粒を探索できる。ここで、この場合の第2角度(θ0)は、当該ブラッグ角の略2倍、つまり、例えば、1.95倍以上、2.05倍以下であることが好ましく、上記したように、1.98倍以上、2.02倍以下であれば、より好ましい。
【0103】
本発明の態様10に係るX線回折測定方法は、上記態様7または9において、前記検出工程では、前記第1角度を、前記ブラッグ角の±5[°]以下の範囲で変化させる。これにより、入射軸線の角度を±5[°]の範囲に制限した状態で、微小結晶粒を探索できる。
【0104】
本発明の態様11に係るX線回折測定方法は、上記態様6または8において、前記検出工程では、前記出射軸線と前記入射軸線は、互いに交わり、所定の平面(S0)を規定する直線であり、前記基板面が前記所定の平面(SS)に対して起立する状態が維持される。これにより、基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒の探索をより確実に実行可能となる。
【0105】
本発明の態様12に係るX線回折測定方法は、上記態様1~11のいずれかにおいて、前記微小結晶粒の粒径が100nm以下である。粒径が100nm以下であっても、微小結晶粒の探索を行える。
【0106】
本発明の態様13に係るX線回折測定方法は、上記態様1~11のいずれかにおいて、前記基板面は、水平面に対して傾斜するか、または、鉛直線に略平行である。基板面が、水平でなくとも、基板面に対して安定な微小結晶粒を探索できる。
【0107】
本発明の態様14に係るX線回折測定方法は、上記態様1~13のいずれかにおいて、前記基板は、前記微小結晶粒を前記基板面上に固定する固定剤を有しない。固定剤によって微小結晶粒を基板面上に固定しなくても、基板面に対して安定な微小結晶粒を見出すことができる。
【0108】
本発明の態様15に係るX線回折測定装置は、複数の微小結晶粒が配置される基板面を有する基板を保持するホルダ(11)と、前記微小結晶粒に対してX線を出射するX線出射器(12)と、前記微小結晶粒によって回折された回折X線を検出するX線検出器(13)と、前記X線出射器に対して、前記ホルダを並進および回転させる並進・回転機構(14~17)と、1または複数のプロセッサ(21)と、を備え、前記プロセッサは、前記X線出射器、前記X線検出器、および前記並進・回転機構を制御して、前記基板面上に配置される複数の微小結晶粒から、前記基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒を探索する探索工程と、前記探索された微小結晶粒をX線回折測定する測定工程と、を実行する。基板面に沿う結晶面を有する微小結晶粒を探索することで、基板面に対して安定な微小結晶粒を見出し、安定的なX線回折測定が可能となる。
【0109】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
10 X線回折装置
11 ホルダ
12 X線出射器
13 X線検出器
14、15、16 並進走査部
17 回転走査部
20 制御部
21 プロセッサ
22 メモリ
図1
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