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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169873
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】疲労亀裂の補修用部材
(51)【国際特許分類】
   B23P 6/04 20060101AFI20231122BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20231122BHJP
   B63B 43/00 20060101ALI20231122BHJP
   B63B 81/00 20200101ALI20231122BHJP
【FI】
B23P6/04
E01D22/00 A
B63B43/00 Z
B63B81/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074946
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022080841
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059GG39
2D059GG40
(57)【要約】
【課題】構造物に生じた疲労亀裂の補修に用いる適応型の斜面型くさび部材に関し、斜面勾配が比較的大きい場合であっても第2斜面部品のせり上がり動作を円滑なものとすること。
【解決手段】構造物に生じた疲労亀裂2に対して設けたストップホール3及び/又はウェッジホールにはめ込んで構造物の応力変動幅を抑制するための補修用部材であって、ストップホール3及び/又はウェッジホールにはめ込む斜面10aを有した第1斜面部品10と、第1斜面部品10上を摺動する斜面20aを有した第2斜面部品20と、ストップホール3及び/又はウェッジホールの伸長時に第2斜面部品20が第1斜面部品10上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重をストップホール3及び/又はウェッジホールに付与するため、斜面10a,20aと平行の付勢力を第2斜面部品20に自動的に付与する平行付勢力付与手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に生じた疲労亀裂に対して設けたストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込んで前記構造物の応力変動幅を抑制するための補修用部材であって、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールにはめ込む斜面を有した第1斜面部品と、前記第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールの伸長時に前記第2斜面部品が前記第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重を前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールに付与するため、前記斜面と平行の付勢力を前記第2斜面部品に自動的に付与する平行付勢力付与手段とを備えたことを特徴とする疲労亀裂の補修用部材。
【請求項2】
前記平行付勢力付与手段が付勢機構により、前記斜面と平行の付勢力を前記第2斜面部品に自動的に付与することを特徴とする請求項1に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項3】
前記第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く前記斜面を有し、前記付勢機構としてのばねを前記第2斜面部品の前記正面から反対側に、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、前記ばねにより前記第2斜面部品が前記正面に近接する方向に前記斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項4】
前記第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く前記斜面を有し、前記付勢機構としてのばねを前記第2斜面部品の前記正面側に、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、前記ばねにより前記第2斜面部品が前記正面から離隔する方向に前記斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項5】
前記第1斜面部品と前記第2斜面部品のそれぞれに両端を固定した前記ばねを複数本有することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項6】
前記第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く前記斜面を有し、前記平行付勢力付与手段として、前記第1斜面部品に前記斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、前記ボルト雌ねじに嵌合し前記第2斜面部品を前記正面から離隔する方向に駆動するボルトと、前記ボルトを駆動して前記斜面と平行の付勢力を付与する前記付勢機構としての渦巻ばねとを設けたことを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項7】
前記第1斜面部品が正面からみて手前側に傾く前記斜面を有し、前記平行付勢力付与手段として、前記第1斜面部品に前記斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、前記ボルト雌ねじに嵌合するボルトと、前記ボルトに介在して前記第2斜面部品に対し前記正面から離隔する方向の前記斜面と平行の付勢力を付与する前記付勢機構としてのコイルばねとを設けたことを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項8】
前記第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く前記斜面を有し、前記平行付勢力付与手段として、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品に張架され前記斜面と平行の付勢力を付与する前記付勢機構としての引張体を設け、前記引張体により前記第2斜面部品が前記正面に近接する方向に前記斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項9】
前記引張体が弾性バンドであり、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品にそれぞれ設けた前記平行付勢力付与手段としての張架手段に複数の前記弾性バンドを張架したことを特徴とする請求項8に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項10】
前記引張体がワイヤーと錘であり、前記ワイヤーを、前記第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、前記第1斜面部品に前記斜面と平行に形成した通し穴を通して他端に前記錘を係止して前記第1斜面部品の前方に垂下したことを特徴とする請求項8に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項11】
前記引張体がワイヤーとワイヤー巻き取り器であり、前記ワイヤーを、前記第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、前記第1斜面部品に前記斜面と平行に形成した通し穴を通して他端を前記第1斜面部品の前面に固定された前記ワイヤー巻き取り器に接続したことを特徴とする請求項8に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項12】
前記通し穴の前記第1斜面部品の前面における通し穴開口部を緩やかな曲面、又はラッパ状に形成したことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項13】
前記垂下した前記ワイヤーの長さ、又は前記ワイヤー巻き取り器で巻き取った前記ワイヤーの長さにより前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールの変形量を把握する変形量把握手段を設けたことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項14】
前記ワイヤーと前記錘と前記通し穴、又は前記ワイヤーと前記ワイヤー巻き取り器と前記通し穴を複数組設けたことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項15】
前記第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く前記斜面を有し、前記平行付勢力付与手段として、端部に雄ねじを有し前記第2斜面部品の周囲に装着されるU字形棒と、前記第2斜面部品を挟みこむために前記第1斜面部品に当接し前記U字形棒が貫通する板と、前記板が前記斜面と略直角を成して当接するように前記第1斜面部品に設けた当接部と、前記U字形棒の前記雄ねじに嵌合するナットと、前記板と前記ナットとの間に挟持され前記第2斜面部品に対し前記正面に近接する方向の前記斜面と平行の付勢力を付与する前記付勢機構としてのコイルばねとを設けたことを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項16】
前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールの伸長時に前記第2斜面部品が前記第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じる前記くさび荷重を前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールに付与するため、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品の位置を調節する位置調節手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4、請求項6から請求項11、及び請求項15のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項17】
前記第1斜面部品から前記第2斜面部品を摺動させて押し下げ、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールから取り外すための取り外し手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4、請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【請求項18】
前記第2斜面部品が前記第1斜面部品上を摺動しせり上がることによる前記くさび荷重を前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールに付与するため、前記第1斜面部品と前記第2斜面部品の位置を調節することと、前記第1斜面部品から前記第2斜面部品を摺動させて押し下げ、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールから取り外すことに用いる位置調節兼取り外し手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4、及び請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、道路、車輌、航空機、又は輸送・工作機械等の各種構造物に生じる疲労亀裂に対して設けたストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込んでくさび荷重を付与することにより孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端からの亀裂の再発を防止したり、再発亀裂の進展を抑制したりする方法に用いる補修用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁等の金属製構造物において疲労亀裂が発見された場合には、そのまま亀裂が進展し続けて重大な損傷事故に至ることがないよう、適切な対策を講じる必要がある。
しかし、稼働中又は供用中の構造物において大がかりな恒久的対策を講じることは困難な場合が多い。特に溶接やガウジング等の火気を伴う作業が禁じられた区域等においては、とりあえず施工が容易な応急処置を施しておき、次回の入渠時や大規模補修時等、恒久的対策が可能となるタイミングまで経過を見ながら何とか持たせるというのが現実的な対処方法となっている。
そのような応急処置として最も一般的に用いられるのは、亀裂先端部に貫通ドリル孔(ストップホール)を設けて応力集中を低減する方法だが、亀裂が長い場合や十分なホール径を確保できない場合など、ストップホールから亀裂が再発してしまう場合も多い。
このストップホールからの亀裂の再発を防ぐため、特許文献1-2、及び非特許文献1-2には、ストップホールに専用の斜面型くさび部材をはめ込んでくさび荷重を付与することにより孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端からの亀裂再発を防いだり、再発き裂の進展を抑制する方法が記載されていると共に、過大荷重によるストップホールの変形に対して自動的に追随して伸長し常に適切なくさび荷重を保持することができる適応型の斜面型くさび部材が開示されている(例えば、特許文献1の図13、特許文献2の図8)。この適応型の斜面型くさび部材を用いる補修方法によれば、補修後に作用する過大荷重による孔部の開口変位に追随して斜面型くさび部材を自動的に調節して適応させ、くさび部材の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、実際の作用荷重に応じて適切なくさび荷重を自動的に付与し、構造物中を進展する疲労亀裂を片側からでも簡便かつ効果的に補修することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6703280号公報
【特許文献2】特許第6864203号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高橋一比古,“くさび補強型ストップホールを用いた疲労き裂の簡易補修法”,溶接学会論文集,2019,第37巻,第2号,p.81-97
【非特許文献2】高橋一比古,“くさび補強型ストップホールを用いた疲労き裂の簡易補修法 -再発き裂への適用性と耐疲労スマートペーストの効果-”,溶接学会論文集,2020,第38巻,第4号,p.335-350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1-2、及び非特許文献1-2に開示されている適応型の斜面型くさび部材においては、斜面型くさび部材の自動調節に用いる付勢力の作用方向がいずれもくさび荷重の作用方向と垂直な方向であり、第2斜面部品(部品B)がせり上がる斜面の方向とは斜面角度分だけずれている。このため、斜面角度が大きい場合には、第1斜面部品(部品A)と第2斜面部品(部品B)が接する斜面間には付勢力に起因する垂直抗力が生じて摩擦抵抗力が発生し、第2斜面部品(部品B)のせり上がりが円滑に行われない場合がある。
【0006】
図12は引張荷重とプーリー回転角度の関係(斜面勾配による変化)を示す図であり、非特許文献1の図15を基にしている。
図12には、図中の左上に記載の適応型の斜面型くさび部材を用いた静的載荷試験結果の一例として、外力として静的載荷された引張荷重Pと、付勢力を付与する適応機構に用いているプーリーの回転角度θとの関係を示している。この試験では、プーリー外周に巻き付けてから伸ばしたタコ糸の先端に吊す錘の重さwは斜面勾配tanαの値にほぼ比例させ、錘を吊すことにより斜面型くさび部材から円孔部の上下端に加わる付加的なくさび荷重Wが概ね等しくなるように設定している。具体的には、tanα=1:10の場合はw=300g、tanα=1:7の場合はw=428g、tanα=1:5の場合はw=600gである。ボルト先端と斜面型くさび部材とのメタルタッチが生じた時点を起点(プーリー回転角度θ=0)として、その後の錘の吊り下げや静的引張載荷に応じてプーリー回転角度がどのように変化するかを調べている。
図12においては、Pとθの関係を、載荷→除荷を1サイクルとして3サイクル分について示している。まず始めにP=0の状態で錘を吊すと、3通りの斜面勾配に共通して、プーリーが一定量(系が弾性的に釣り合うまで)回転してプロット点は原点から横軸上を移動するが、この時のθの値は32~54°の範囲であった。その後、引張荷重Pが増して円孔が図中の左上に記載の斜面型くさび部材における上下方向に伸びると、それに追随して第2斜面部品がせり上がると同時にボルトを嵌入したプーリーが回転し、θは単調に増大していくが、斜面勾配tanα=1:5の場合は他の二つに比べていびつな軌跡を描いており(点線の楕円で囲んだ部分)、不安定な挙動となっている。この原因としては、上述の通り、斜面勾配が大きい場合に同じ大きさの付加的なくさび荷重Wを発生させるためには斜面勾配に比例させて錘を重くする必要があることと、斜面勾配が大きいため斜面間に作用する垂直抗力が大きくなって摩擦抵抗力が増大し、両部品間の円滑な相対滑りが阻害されたものと考えられる。
【0007】
ここで、図13は付勢力と斜面に生じる垂直抗力の関係を示す図である。
図13は、斜面と角度αを成す方向の付勢力fと、付勢力によって斜面角度αの斜面に生じる垂直抗力の関係を示したものだが、垂直抗力の大きさはfsinαとなり、垂直抗力はαが大きい程(斜面勾配が大きい程)増大し、斜面間の最大静止摩擦係数をμとすれば摩擦抵抗力μ・fsinαも増大する。
適応型の斜面型くさび部材を用いる場合には、円孔の変形に追随するために必要となる適応機構の動作(例えばボルトの回転量)はなるべく小さい方が(即ち斜面勾配が大きい方が)機構的には有利となるが、上記の例のように斜面勾配が大きくなると付勢力による垂直抗力が増して摩擦抵抗力が増大し、くさびの滑動斜面としての安定性が損なわれて挙動が不安定になる場合がある。
そこで本発明は、構造物に生じた疲労亀裂の補修に用いる適応型の斜面型くさび部材に関し、斜面勾配が比較的大きい場合であっても第2斜面部品のせり上がり動作を円滑なものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載に対応した疲労亀裂の補修用部材においては、構造物に生じた疲労亀裂に対して設けたストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込んで構造物の応力変動幅を抑制するための補修用部材であって、ストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込む斜面を有した第1斜面部品と、第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、ストップホール及び/又はウェッジホールの伸長時に第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重をストップホール及び/又はウェッジホールに付与するため、斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に自動的に付与する平行付勢力付与手段とを備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、付勢力の作用方向を斜面部品の斜面と平行にすることにより、ストップホール又はウェッジホールの伸長時に円孔端との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品が第1斜面部品の斜面上を摺動してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって第1斜面部品の斜面と第2斜面部品の斜面との間に生じる垂直抗力がゼロとなるため、摩擦抵抗力が大幅に低減し、第2斜面部品を自動的に円滑にせり上がらせることができる。
【0009】
請求項2記載の本発明は、平行付勢力付与手段が付勢機構により、斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に自動的に付与することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、付勢機構により斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0010】
請求項3記載の本発明は、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、付勢機構としてのばねを第2斜面部品の正面から反対側に、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、ばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、ばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0011】
請求項4記載の本発明は、第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く斜面を有し、付勢機構としてのばねを第2斜面部品の正面側に、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする
請求項4に記載の本発明によれば、ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0012】
請求項5記載の本発明は、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定したばねを複数本有することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、付勢機構としての複数のばねにより付勢力に冗長性を持たせることができる。
【0013】
請求項6記載の本発明は、第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品に斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、ボルト雌ねじに嵌合し第2斜面部品を正面から離隔する方向に駆動するボルトと、ボルトを駆動して斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としての渦巻ばねとを設けたことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、渦巻ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0014】
請求項7記載の本発明は、第1斜面部品が正面からみて手前側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品に斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、ボルト雌ねじに嵌合するボルトと、ボルトと第2斜面部品との間に介在して第2斜面部品に対し正面から離隔する方向の斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としてのコイルばねとを設けたことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、コイルばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0015】
請求項8記載の本発明は、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品と第2斜面部品に張架され斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としての引張体を設け、引張体により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を付与することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、引張体により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0016】
請求項9記載の本発明は、引張体が弾性バンドであり、第1斜面部品と第2斜面部品にそれぞれ設けた平行付勢力付与手段としての張架手段に複数の弾性バンドを張架したことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、付勢機構としての引張体である複数の弾性バンドにより付勢力に冗長性を持たせることができる。
【0017】
請求項10記載の本発明は、引張体がワイヤーと錘であり、ワイヤーを、第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、第1斜面部品に斜面と平行に形成した通し穴を通して他端に錘を係止して第1斜面部品の前方に垂下したことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、引張体であるワイヤーと錘により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0018】
請求項11記載の本発明は、引張体がワイヤーとワイヤー巻き取り器であり、ワイヤーを、第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、第1斜面部品に斜面と平行に形成した通し穴を通して他端を第1斜面部品の前面に固定されたワイヤー巻き取り器に接続したことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、引張体であるワイヤーとワイヤー巻き取り器により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0019】
請求項12記載の本発明は、通し穴の第1斜面部品の前面における通し穴開口部を緩やかな曲面、又はラッパ状に形成したことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、通し穴開口部を緩やかな曲面とすることで、ワイヤーに無理な曲げ変形、引っ掛かりや摩耗が生じることを防止できる。また、通し穴開口部をラッパ状に形成することで、第1斜面部品と第2斜面部品の取付方向等によって変化する錘の垂れ下がる方向や、通し穴開口部からワイヤー巻き取り器までのワイヤーの方向に対して、柔軟に対応することができる。
【0020】
請求項13記載の本発明は、垂下したワイヤーの長さ、又はワイヤー巻き取り器で巻き取ったワイヤーの長さによりストップホール及び/又はウェッジホールの変形量を把握する変形量把握手段を設けたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、ストップホール又はウェッジホールの変形量を容易に把握することができる。
【0021】
請求項14記載の本発明は、ワイヤーと錘と通し穴、又はワイヤーとワイヤー巻き取り器と通し穴を複数組設けたことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、平行付勢力付与手段としての冗長性を増すことができる。また、付勢力(張力)の作用点が第1斜面部品の斜面と第2斜面部品の斜面に沿って複数となるため、一点の場合に比べてより安定した近接付勢力を得ることができる。
【0022】
請求項15記載の本発明は、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、端部に雄ねじを有し第2斜面部品の周囲に装着されるU字形棒と、第2斜面部品を挟みこむために第1斜面部品に当接しU字形棒が貫通する板と、板が斜面と略直角を成して当接するように第1斜面部品に設けた当接部と、U字形棒の雄ねじに嵌合するナットと、板とナットとの間に挟持され第2斜面部品に対し正面に近接する方向の斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としてのコイルばねとを設けたことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、コイルばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0023】
請求項16記載の本発明は、ストップホール及び/又はウェッジホールの伸長時に第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重をストップホール及び/又はウェッジホールに付与するため、第1斜面部品と第2斜面部品の位置を調節する位置調節手段を備えたことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、位置調節手段を用いることで、第1斜面部品に対する第2斜面部品の位置の調節を容易に行うことができる。
【0024】
請求項17記載の本発明は、第1斜面部品から第2斜面部品を摺動させて押し下げ、ストップホール及び/又はウェッジホールから取り外すための取り外し手段を備えたことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、取り外し手段を用いることで、ストップホールから第1斜面部品及び第2斜面部品の取り外しを容易に行うことができる。
【0025】
請求項18記載の本発明は、第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることによるくさび荷重をストップホール及び/又はウェッジホールに付与するため、第1斜面部品と第2斜面部品の位置を調節することと、第1斜面部品から第2斜面部品を摺動させて押し下げ、ストップホール及び/又はウェッジホールから取り外すことに用いる位置調節兼取り外し手段を備えたことを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、位置調節と取り外しの機能を兼ね備えた一つの部品とすることで、部品点数を減らすことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の疲労亀裂の補修用部材によれば、付勢力の作用方向を斜面部品の斜面と平行にすることにより、ストップホール又はウェッジホールの伸長時に円孔端との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品が第1斜面部品の斜面上を摺動してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって第1斜面部品の斜面と第2斜面部品の斜面との間に生じる垂直抗力がゼロとなるため、摩擦抵抗力が大幅に低減し、第2斜面部品を自動的に円滑にせり上がらせることができる。
【0027】
また、平行付勢力付与手段が付勢機構により、斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に自動的に付与する場合には、付勢機構により斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0028】
また、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、付勢機構としてのばねを第2斜面部品の正面から反対側に、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、ばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を付与する場合には、ばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0029】
また、第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く斜面を有し、付勢機構としてのばねを第2斜面部品の正面側に、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定して設け、ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を付与する場合には、ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0030】
また、第1斜面部品と第2斜面部品のそれぞれに両端を固定したばねを複数本有する場合には、付勢機構としての複数のばねにより付勢力に冗長性を持たせることができる。
【0031】
また、第1斜面部品が正面から見て手前側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品に斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、ボルト雌ねじに嵌合し第2斜面部品を正面から離隔する方向に駆動するボルトと、ボルトを駆動して斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としての渦巻ばねとを設けた場合には、渦巻ばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0032】
また、第1斜面部品が正面からみて手前側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品に斜面と平行に形成したボルト雌ねじと、ボルト雌ねじに嵌合するボルトと、ボルトと第2斜面部品との間に介在して第2斜面部品に対し正面から離隔する方向の斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としてのコイルばねとを設けた場合には、コイルばねにより第2斜面部品が正面から離隔する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0033】
また、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、第1斜面部品と第2斜面部品に張架され斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としての引張体を設け、引張体により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を付与する場合には、引張体により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0034】
また、引張体が弾性バンドであり、第1斜面部品と第2斜面部品にそれぞれ設けた平行付勢力付与手段としての張架手段に複数の弾性バンドを張架した場合には、付勢機構としての引張体である複数の弾性バンドにより付勢力に冗長性を持たせることができる。
【0035】
また、引張体がワイヤーと錘であり、ワイヤーを、第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、第1斜面部品に斜面と平行に形成した通し穴を通して他端に錘を係止して第1斜面部品の前方に垂下した場合には、引張体であるワイヤーと錘により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0036】
また、引張体がワイヤーとワイヤー巻き取り器であり、ワイヤーを、第2斜面部品の前面に係止手段を介して係止し、第1斜面部品に斜面と平行に形成した通し穴を通して他端を第1斜面部品の前面に固定されたワイヤー巻き取り器に接続した場合には、引張体であるワイヤーとワイヤー巻き取り器により第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0037】
また、通し穴の第1斜面部品の前面における通し穴開口部を緩やかな曲面、又はラッパ状に形成した場合には、通し穴開口部を緩やかな曲面とすることで、ワイヤーに無理な曲げ変形、引っ掛かりや摩耗が生じることを防止できる。また、通し穴開口部をラッパ状に形成することで、第1斜面部品と第2斜面部品の取付方向等によって変化する錘の垂れ下がる方向や、通し穴開口部からワイヤー巻き取り器までのワイヤーの方向に対して、柔軟に対応することができる。
【0038】
また、垂下したワイヤーの長さ、又はワイヤー巻き取り器で巻き取ったワイヤーの長さによりストップホール及び/又はウェッジホールの変形量を把握する変形量把握手段を設けた場合には、ストップホール又はウェッジホールの変形量を容易に把握することができる。
【0039】
また、ワイヤーと錘と通し穴、又はワイヤーとワイヤー巻き取り器と通し穴を複数組設けた場合には、平行付勢力付与手段としての冗長性を増すことができる。また、付勢力(張力)の作用点が第1斜面部品の斜面と第2斜面部品の斜面に沿って複数となるため、一点の場合に比べてより安定した近接付勢力を得ることができる。
【0040】
また、第1斜面部品が正面から見て向こう側に傾く斜面を有し、平行付勢力付与手段として、端部に雄ねじを有し第2斜面部品の周囲に装着されるU字形棒と、第2斜面部品を挟みこむために第1斜面部品に当接しU字形棒が貫通する板と、板が斜面と略直角を成して当接するように第1斜面部品に設けた当接部と、U字形棒の雄ねじに嵌合するナットと、板とナットとの間に挟持され第2斜面部品に対し正面に近接する方向の斜面と平行の付勢力を付与する付勢機構としてのコイルばねとを設けた場合には、コイルばねにより第2斜面部品が正面に近接する方向に斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0041】
また、ストップホール及び/又はウェッジホールの伸長時に第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重をストップホール及び/又はウェッジホールに付与するため、第1斜面部品と第2斜面部品の位置を調節する位置調節手段を備えた場合には、位置調節手段を用いることで、第1斜面部品に対する第2斜面部品の位置の調節を容易に行うことができる。
【0042】
また、第1斜面部品から第2斜面部品を摺動させて押し下げ、ストップホール及び/又はウェッジホールから取り外すための取り外し手段を備えた場合には、取り外し手段を用いることで、ストップホールから第1斜面部品及び第2斜面部品の取り外しを容易に行うことができる。
【0043】
また、第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることによるくさび荷重をストップホール及び/又はウェッジホールに付与するため、第1斜面部品と第2斜面部品の位置を調節することと、第1斜面部品から第2斜面部品を摺動させて押し下げ、ストップホール及び/又はウェッジホールから取り外すことに用いる位置調節兼取り外し手段を備えた場合には、位置調節と取り外しの機能を兼ね備えた一つの部品とすることで、部品点数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の第一の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図2】同第二の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図3】同第三の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図4】同第四の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図5】同第五の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図6】同第六の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図7】同第七の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図8】同第八の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図9】同第九の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図10】同第十の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図11】同第十一の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図
図12】従来の引張荷重とプーリー回転角度の関係(斜面勾配による変化)を示す図
図13】付勢力と斜面に生じる垂直抗力の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の実施形態による疲労亀裂の補修用部材について説明する。補修用部材は、船舶、海洋構造物又は橋梁等の構造物に疲労亀裂が生じた場合に、疲労亀裂の先端部等に設けたストップホール又はウェッジホールにはめ込んで構造物の応力変動幅を抑制するのに用いる。
【0046】
図1は第一の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図1(b)においてはボルトとばねを見取り図とし、それ以外を断面図としている。また、図には本説明における各方向も示している。
図に示すストップホール3は、構造物の母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部に開けた貫通ドリル孔である。
ストップホール3に適用する補修用部材は、正面から見て向こう側に傾く斜面10aを有する第1斜面部品10と、第1斜面部品10の斜面10aに自らの斜面20aが接した状態で第1斜面部品10上を摺動する第2斜面部品20と、斜面10a,20aと平行の付勢力を第2斜面部品20に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品10と第2斜面部品20との位置調節、及びストップホール3からの両斜面部品の取り外しに用いる位置調節兼取り外し手段としてのボルト30を備える。
なお、以降の説明において、第1斜面部品10と第2斜面部品20をまとめて「両斜面部品」ということがある。
【0047】
第1斜面部品10は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部11と、ストップホール3に挿入するはめ込み部12と、はめ込み部12の先端に設けられた突出部13からなる。平行部11にはボルト雌ねじ14が形成されている。はめ込み部12は、上面が平行部11から突出部13にかけて斜め下がりの平滑な斜面10aとなっており、平行部11に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品20は略四角柱状であり、第1斜面部品10のはめ込み部12と接する下面は平滑な斜面20aとなっている。第2斜面部品20の斜面20a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品10のはめ込み部12の斜面10a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0048】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としてのばね40と、そのばね40の付勢力を第2斜面部品20に斜面10a,20aと平行に作用させる構造としてのばね取付面を有し、斜面10a,20aと平行の付勢力を第2斜面部品20に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品20が第1斜面部品10上を摺動(滑動)しせり上がる方向である。
ばね取付面は、斜面10a,20aに対して略垂直な面であり、第1斜面部品10と第2斜面部品20のそれぞれに設けられている。第1斜面部品10におけるばね取付面である第1ばね取付面41は突出部13の前面に形成され、第2斜面部品20におけるばね取付面である第2ばね取付面42は第2斜面部品20の後面下部に形成されている。
ばね40は、圧縮コイルばねであり、第2斜面部品20の正面から反対側の、第1ばね取付面41と第2ばね取付面42に挟まれた位置において斜面10a,20a近傍に設置され、その一端は第1ばね取付面41に固定され、他端は第2ばね取付面42に固定されている。ばね40の軸線40Aは、両斜面部品の斜面10a,20a(第2斜面部品20の滑動方向)に対して平行である。なお、ばね40の第1ばね取付面41と第2ばね取付面42への固定方法は、ばね40の両端を第1ばね取付面41と第2ばね取付面42に設けた凸状部に圧入する方法、凸状部の周囲に設けた溝に嵌合させる方法、溶接や接着により固定する方法等、凡そ固定する機能を果たせるあらゆる方法が採用可能である。また、軸線40Aの方向が保持されるようにばね40の一端が第1ばね取付面41または第2ばね取付面42に固定されている場合には、もう一方の端(他端)の固定を省略することも可能である(但し、その場合は後述するばね40の脱落防止用係止手段としての機能は失われる)。
平行付勢力付与手段を用い第2斜面部品20にせり上がり方向の付勢力を継続的にかけておくことで、補修用部材を設置後に母材板1に疲労亀裂2が開口する方向の過大荷重が作用してストップホール3が荷重方向に延伸した場合、それに追随して第2斜面部品20が第1斜面部品10上をせり上がるため、適切なくさび荷重をストップホール3に対して自動的に付与することができる。
【0049】
位置調節兼取り外し手段であるボルト30は、第1斜面部品10に形成されているボルト雌ねじ14に螺入する。なお、本実施形態ではボルト30として六角穴付ボルトを用いているが、用いることができるボルト30の種類は任意であり、六角穴付ボルトに限定されるものではない。
第1斜面部品10に開けられたボルト雌ねじ14は第1斜面部品10の平行部11を貫通している。ボルト30の軸部はボルト雌ねじ14よりも長いため、第1斜面部品10の前面側からボルト雌ねじ14に螺入されたボルト30は軸部が第1斜面部品10の平行部11の後面から突出し、先端が第2斜面部品20に当接する。
【0050】
補修用部材の設置方法は次の通りである。なお、補修用部材を設置するにあたり、構造物の母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール(円孔)3を設けてある。
まず、両斜面部品の斜面10a,20a同士が密接するように第1斜面部品10のはめ込み部12上に第2斜面部品20を載置し、第1ばね取付面41にばね40の一端を固定し、第2ばね取付面42にばね40の他端を固定する。また、両斜面部品の位置関係を調節することにより、ストップホール3にはめ込む際における第1斜面部品10に対する第2斜面部品20の相対的位置決めを行う(S1:載置ステップ)。
第2斜面部品20に先端が当接した状態のボルト30を回転させると、第2斜面部品20は第1斜面部品10上をずり下がる方向に押される。ボルト30が第2斜面部品20を押す力を加減することで、第1斜面部品10に対する第2斜面部品20の位置関係の調節を容易に行うことができる。相対的位置は、両斜面部品がぎりぎりでストップホール3を通るように、第1斜面部品10のはめ込み部12と第2斜面部品20のなす高さが、ストップホール3の径よりも若干小さい程度に調節することが好ましい。また、調整した位置関係がずれないように、テープ等で仮止めしておいてもよい。この状態において、ばね40は圧縮された状態である。
【0051】
載置ステップS1の後、第1斜面部品10と第2斜面部品20をストップホール3にはめ込む(S2:はめ込みステップ)。
はめ込みステップS2においては、両斜面部品について、第2斜面部品20の上面と第1斜面部品10のはめ込み部12の下面とがそれぞれストップホール3の孔端上下に密接するように、ストップホール3に挿入する深さ、及び亀裂に対する角度を調節する。
【0052】
はめ込みステップS2の後、ボルト30をボルト雌ねじ14から取り外すか、又は先端が第1斜面部品10の平行部11の後面から突き出さないようにし、ばね40が発生させる付勢力(押圧力)fによる近接荷重によって第2斜面部品20を第1斜面部品10の斜面10aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる(S3:くさび荷重発生ステップ)。近接荷重は、第1斜面部品10の平行部11に第2斜面部品20が近づく方向の荷重である。
ストップホール3に補修用部材を適用して補強した場合、母材板1に作用する引張荷重がゼロの時でもストップホール3の孔端部にはくさび荷重Wによる初期応力が生じている。その状態で引張荷重が増加すると、孔端部応力は線形に上昇していくが、両斜面部品とストップホール3との接触が保たれているうちは孔部の見かけ剛性が両斜面部品の分だけ大きくなるため、応力上昇の傾きは補修用部材を適用しない場合よりも緩やかになる。これにより、ストップホール3の孔端部又は疲労亀裂2の先端部の構造物の応力変動幅を抑制し、孔端部又は疲労亀裂2の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる。
【0053】
くさび荷重発生ステップS3の後は、そのまま付勢力付与ステップS4に移行する。
付勢力付与ステップS4においては、第1斜面部品10と第2斜面部品20のそれぞれに両端を固定して設けたばね40が圧縮された状態を保つことで、第2斜面部品20が正面に近接する方向に斜面10a,20aと平行の付勢力fを第2斜面部品20に継続的に安定して付与することができる。このため、両斜面部品とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用した場合は、第2斜面部品20が第1斜面部品10上をせり上がって両斜面部品とストップホール3の孔端部との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与される。このように、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、開口変位に追随して両斜面部品とストップホール3との接触状態が緩むことを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、過大荷重除荷後には実際の作用荷重に応じて自動的に調節された適切なくさび荷重を付与し、孔端部の亀裂再発を防ぐことができる。
【0054】
さらに、図1に示す通り、付勢力fの作用方向(本実施形態ではばね40の軸線40A)を両斜面部品の斜面10a,20aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品20が第1斜面部品10の斜面10a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力fによって斜面10a,20a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、上記の解決しようとする課題の欄で述べたような不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
また、ばね40の両端が第1ばね取付面41と第2ばね取付面42に固定されていることにより、第2斜面部品20は、過大荷重により変形したストップホール3から仮に外れたとしても、第1斜面部品10に引き留められ脱落しない。このようにばね40は、第2斜面部品20がストップホール3から脱落することを防止する脱落防止用係止手段としての機能も有する。
なお、ばね40の本数は本実施形態では1本としているが、2本以上設けてもよい。第1斜面部品10と第2斜面部品20のそれぞれに両端を固定したばね40を複数本有することで、付勢機構としての複数のばね40により付勢力に冗長性を持たせることができる。ばね40を複数設ける場合は、例えば上下方向又は左右方向に配設する。また、ばね40としては、コイルばねのみならず、板ばね、皿ばね、台形ばね、ゴムなど、第2斜面部品20に対して一定方向への押圧力を付与できる任意の弾性体を用いることができる。
【0055】
両斜面部品をストップホール3から取り外す際は、第2斜面部品20に先端が当接した状態のボルト30を回転させることによりばね40の力に抗して第2斜面部品20を押し下げる。両斜面部品の設置後に大きなくさび荷重が作用した場合等は、両斜面部品をストップホール3から取り外すことが困難な場合があるが、そのような場合はボルト30を用いて第2斜面部品20をずり下げることで、第1斜面部品10及び第2斜面部品20とストップホール3との接触状態を緩めることができるため、両斜面部品の取り外しを行いやすくなる。
また、位置調節と取り外しの機能を兼ね備えた一つの部品として位置調節兼取り外し手段(ボルト)30を用いることで、位置調節用の部品と取り外し用の部品を別々に設ける場合よりも部品点数を減らすことができる。
【0056】
図2は第二の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図2(b)においては母材板を断面図とし、それ以外を見取り図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面110aを有する第1斜面部品110と、第1斜面部品110の斜面110aに自らの斜面120aが接した状態で第1斜面部品110上を摺動する第2斜面部品120と、斜面110a,120aと平行の付勢力を第2斜面部品120に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品110に対する第2斜面部品120の位置調節等に用いる位置調節兼取り外し手段としてのボルト130を備える。
【0057】
第1斜面部品110は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部111と、ストップホール3に挿入するはめ込み部112からなる。平行部111にはボルト雌ねじ113が形成されている。はめ込み部112は、上面が平行部111との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面110aとなっており、平行部111に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品120は略四角柱状であり、第1斜面部品110のはめ込み部112と接する下面は平滑な斜面120aとなっている。第2斜面部品120の斜面120a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品110のはめ込み部112の斜面110a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0058】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としてのゴムバンド等の弾性バンド(引張体)140と、その弾性バンド140の付勢力を第2斜面部品120に斜面110a,120aと平行に作用させる構造としての張架手段を有し、斜面110a,120aと平行の付勢力を第2斜面部品120に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品120が第1斜面部品110上を摺動しせり上がる方向である。
張架手段は、第1斜面部品110の平行部111の左右側面に一つずつ配置された第1張架手段141と、第2斜面部品120の左右側面に一つずつ配置された第2張架手段142とからなる。弾性バンド140は、左側面における第1張架手段141及び第2張架手段142と、右側面における第1張架手段141と第2張架手段142に、2本ずつ架け渡されている。なお、弾性バンド140の本数は、左右側面に1本ずつとすることもできるが、付勢機構としての冗長性を考慮した場合、本実施形態のように左右側面それぞれに複数の弾性バンド140を張架することが好ましい。
【0059】
第1張架手段141及び第2張架手段142は、所謂プーリーのような円形部材であって、第1斜面部品110又は第2斜面部品120と接続する基端から先端部にかけて円柱状部分を有し、この円柱状部分に弾性バンド140が掛けられる。また、第1張架手段141及び第2張架手段142の基端及び先端の底面は円柱状部分よりも直径が若干大きくなっており、円柱状部分から基端及び先端の底面にかけては径が徐々に大きくなるよう円弧状に滑らかにつながっている。これにより、弾性バンド140が張架されているとき、両斜面部品と張架手段との接合部における応力集中を低減でき、また、弾性バンド140が張架手段から外れて脱落してしまうことを防止できる。また、張架手段の側視形状を円形とすることにより、張架した弾性バンド140の合力Tの作用線140Aが円の中心を通ることになるため、設計時における張架手段の位置決めが容易になると共に、張架した弾性バンド140の曲率が抑えられて不要な応力集中を防げるため、弾性バンド140の耐久性が向上する。
弾性バンド140の合力(牽引力)Tの作用線140Aは、両斜面部品の斜面110a,120a(第2斜面部品120の滑動方向)に対して平行である。換言すると、第1張架手段141及び第2張架手段142の中心を結ぶ線が、斜面110a,120aと平行を成すように、第1張架手段141及び第2張架手段142が第1斜面部品110と第2斜面部品120にそれぞれ取り付けられている。
【0060】
第二の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品110のはめ込み部112上に第2斜面部品120を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品120を第1斜面部品110の斜面110aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品120に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、左右の張架手段にそれぞれ弾性バンド140を架け渡し、第2斜面部品120の前面に先端を当接させたボルト130のねじ込み量を調節して第1斜面部品110と第2斜面部品120との相対位置を調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品120の自由なせり上がりをボルト130が妨げないように、ボルト130を取り外すか、又は先端が第1斜面部品110の平行部111の後面から突き出さないようにする。そして、弾性バンド140が発生させる付勢力(合力(牽引力)T)による近接荷重によって第2斜面部品120を第1斜面部品110の斜面110aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
くさび荷重発生ステップS3の後はそのまま付勢力付与ステップS4に移行し、弾性バンド140が伸長した状態を保つことで、第2斜面部品120が正面に近接する方向に斜面110a,120aと平行の付勢力(弾性バンド140の合力(牽引力)T)を第2斜面部品120に継続的に安定して付与することができる。
【0061】
図2に示す通り、付勢力(弾性バンド140の合力(牽引力)T)の作用方向(本実施形態では作用線140A)を両斜面部品の斜面110a,120aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品120が第1斜面部品110の斜面110a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面110a,120a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
また、張架手段に張架された弾性バンド140を介して第1斜面部品110と第2斜面部品120が繋がっていることにより、第2斜面部品120は、過大荷重により変形したストップホール3から仮に外れたとしても、第1斜面部品110に引き留められ脱落しない。このように弾性バンド140は、第2斜面部品120がストップホール3から脱落することを防止する脱落防止用係止手段としての機能も有する。
なお、弾性バンド140は、第2斜面部品120に対して一定方向への牽引力を付与できる任意の引張体(コイルばね等)で代替することができる。
また、張架手段の個数は、弾性バンド140の合力Tの作用線140Aが第1斜面部品110の斜面110a及び第2斜面部品120の斜面120aと平行であるという条件を満たす限り任意であり、例えば、第1斜面部品110の左右側面それぞれに第1張架手段141を上下方向に2個ずつ設け、第2斜面部品120の左右側面それぞれに第2張架手段142を上下方向に2個ずつ設けてもよい。
また、第1張架手段141を第1斜面部品110に直接接合して回転不能とするのではなく、第1斜面部品110に固定した回転軸を設け、その回転軸に第1張架手段141を取り付けることで、第1張架手段141を回転可能とすることもできる。この構成とすれば、張架手段に懸架した弾性バンド140の上下に張力差が生じた場合には、第1張架手段141が回転して、自動的に上下の弾性バンド140の張力を均衡させることができる。
【0062】
図3は第三の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図3(a)は正面図、図3(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図3(b)においてはボルトとばねを見取り図とし、それ以外を断面図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面210aを有する第1斜面部品210と、第1斜面部品210の斜面210aに自らの斜面220aが接した状態で第1斜面部品210上を摺動する第2斜面部品220と、斜面210a,220aと平行の付勢力を第2斜面部品220に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品210に対する第2斜面部品220の位置調節等に用いる位置調節兼取り外し手段としてのボルト230を備える。
【0063】
第1斜面部品210は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部211と、ストップホール3に挿入するはめ込み部212からなる。平行部211には長穴213が形成されている。はめ込み部212は、上面が平行部211との境目から後面にかけて斜め上がりの平滑な斜面210aとなっており、平行部211に近いほど高さが小さい。
第2斜面部品220は略四角柱状であり、第1斜面部品210のはめ込み部212と接する下面は平滑な斜面220aとなっている。第2斜面部品220の斜面220a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品210のはめ込み部212の斜面210a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。第2斜面部品220の表面には有底ボルト雌ねじ221が形成されている。
【0064】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としてのばね240と、そのばね240の付勢力を第2斜面部品220に斜面210a,220aと平行に作用させる構造としてのばね取付面を有し、斜面210a,220aと平行の付勢力を第2斜面部品220に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品220が第1斜面部品210上を摺動しせり上がる方向である。
ばね取付面は、斜面210a,220aに対して垂直な面であり、第1斜面部品210と第2斜面部品220のそれぞれに設けられている。第1斜面部品210におけるばね取付面である第1ばね取付面241は、平行部211の後面下部に形成され、第2斜面部品220におけるばね取付面である第2ばね取付面242は、第2斜面部品220の前面下部に形成されている。
ばね240は、圧縮コイルばねであり、第1ばね取付面241と第2ばね取付面242に挟まれた位置でボルト230よりも下方において斜面210a,220a近傍に設置され、その一端は第1ばね取付面241に固定され、他端は第2ばね取付面242に固定されている。ばね240の軸線240Aは、両斜面部品の斜面210a,220a(第2斜面部品220の滑動方向)に対して平行である。なお、ばね240としては、コイルばねのみならず、板ばね、皿ばね、台形ばね、ゴムなど、第2斜面部品220に対して一定方向への押圧力を付与できる任意の弾性体を用いることができる。
【0065】
位置調節兼取り外し手段であるボルト230は、長穴213に通して先端を有底ボルト雌ねじ221に螺入する。なお、本実施形態ではボルト230として六角穴付ボルトを用いているが、用いることができるボルト230の種類は任意であり、六角穴付ボルトに限定されるものではない。
第1斜面部品210に開けられた長穴213は第1斜面部品210の平行部211を貫通している。ボルト230の軸部は長穴213よりも長いため、第1斜面部品210の前面側から長穴213に螺入されたボルト230は軸部が第1斜面部品210の平行部211の後面から突出する。長穴213の縦径(長径)はボルト230の軸部の通し穴径よりも大きく形成されており、ボルト230は長穴213の中を上下方向に動くことが可能である。
第2斜面部品220の前面に開けられた有底ボルト雌ねじ221は、長穴213の範囲に対応する高さに形成されている。有底ボルト雌ねじ221には、長穴213から突出したボルト230の先端が嵌合(螺合)する。
【0066】
第三の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品210のはめ込み部212上に第2斜面部品220を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品220を第1斜面部品210の斜面210aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品220に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、第1斜面部品210のはめ込み部212上に第2斜面部品220を載置し、第1ばね取付面241にばね240の一端を固定し、第2ばね取付面242にばね240の他端を固定する。また、ボルト230を第1斜面部品210の平行部211の長穴213に通して先端を第2斜面部品220の有底ボルト雌ねじ221に回し入れ、第1斜面部品210に第2斜面部品220を係止する。両斜面部品をボルト230で繋ぎとめることにより、第1斜面部品210に対する第2斜面部品220の相対的位置決めを容易かつ確実に行うことができる。相対的位置は、ボルト230を回し入れる量によって調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品220の自由なせり上がりをボルト230が妨げないように、ボルト230を緩めて長穴213から取り外すか、又は十分緩めて有底ボルト雌ねじ221に螺合した状態とし、ばね240が発生させる付勢力(押圧力)fによる離隔荷重によって第2斜面部品220を第1斜面部品210の斜面210aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。離隔荷重は、第1斜面部品210の平行部211から第2斜面部品220が遠ざかる方向の荷重である。
くさび荷重発生ステップS3の後はそのまま付勢力付与ステップS4に移行し、ばね240が圧縮された状態を保つことで、第2斜面部品220が正面から離隔する方向に斜面210a,220aと平行の付勢力fを第2斜面部品220に継続的に安定して付与することができる。
なお、付勢力付与ステップS4において、ボルト230を十分緩めて有底ボルト雌ねじ221に螺合した状態としている場合、ボルト230は、第2斜面部品220がストップホール3から脱落することを防止する脱落防止用係止手段としての機能をばね240と共に果たす。この場合、必要に応じてボルト230をより長いボルトと交換してもよい。
【0067】
図3に示す通り、付勢力fの作用方向(本実施形態ではばね240の軸線240A)を両斜面部品の斜面210a,220aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品220が第1斜面部品210の斜面210a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力fによって斜面210a,220a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
なお、本実施形態ではばね240の本数を1本としているが、2本以上設けてもよい。ばね240を複数設ける場合は、例えば上下方向又は左右方向に配設する。また、ばね240は、第2斜面部品220に対して一定方向への押圧力を付与できる任意の弾性体で代替することができる。
【0068】
両斜面部品をストップホール3から取り外す際は、長穴213に挿通して有底ボルト雌ねじ221に先端を螺合させたボルト230をねじ込む方向に回転させる。これにより第2斜面部品220が第1斜面部品210の平行部211の方向に引き寄せられてずり下がるため、両斜面部品とストップホール3の上下端との間に作用していたくさび荷重が解放され、両斜面部品をストップホール3から安全かつ確実に取り外すことができる。
【0069】
図4は第四の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図4(a)は正面図、図4(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図4(b)においてはボルトと渦巻ばねを見取り図とし、それ以外を断面図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面310aを有する第1斜面部品310と、第1斜面部品310の斜面310aに自らの斜面320aが接した状態で第1斜面部品310上を摺動する第2斜面部品320と、斜面310a,320aと平行の付勢力を第2斜面部品320に自動的に付与する平行付勢力付与手段を備える。
【0070】
第1斜面部品310は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部311と、ストップホール3に挿入するはめ込み部312からなる。はめ込み部312は、上面が平行部311との境目から後面にかけて斜め上がりの平滑な斜面310aとなっており、平行部311に近いほど高さが小さい。
第2斜面部品320は略四角柱状であり、第1斜面部品310のはめ込み部312と接する下面は平滑な斜面320aとなっている。第2斜面部品320の斜面320a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品310のはめ込み部312の斜面310a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0071】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としての渦巻ばね330と、その渦巻ばね330の付勢力を第2斜面部品320に斜面310a,320aと平行に作用させる構造として、第1斜面部品310の平行部311にはめ込み部312の斜面310aと平行に形成したボルト雌ねじ331と、ボルト雌ねじ331に嵌合(螺合)するボルト332を有し、斜面310a,320aと平行の付勢力を第2斜面部品320に自動的に付与する。また、第1斜面部品310の前面のうちボルト雌ねじ331が開けられている箇所を含む部分と、第2斜面部品320の前面のうちボルト332が当接する部分は、両斜面部品の斜面310a,320aに対して垂直な面としている。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品320が第1斜面部品310上を摺動しせり上がる方向である。
ボルト332の軸線332Aは、両斜面部品の斜面310a,320a(第2斜面部品320の滑動方向)に対して平行である。
【0072】
第四の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品310のはめ込み部312上に第2斜面部品320を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品320を第1斜面部品310の斜面310aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品320に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
くさび荷重発生ステップS3においては、先端を第2斜面部品320の前面に当接させたボルト332を回し込み、離隔荷重によって第2斜面部品320を第1斜面部品310の斜面310aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
付勢力付与ステップS4においては、先端が第2斜面部品320の前面に当接しているボルト332の頭部に渦巻ばね330の一端を固定し、調節具333を介して渦巻ばね330の他端を第1斜面部品310の平行部311に固定する。調節具333は渦巻ばね330の巻き締め具合を調節するためのものであり、調節具333を用いてボルト332の頭部に適切なトルクN1を作用させる。これにより、渦巻ばね330による斜面310a,320aと平行の付勢力fを第2斜面部品320が正面から離隔する方向に第2斜面部品320に継続的に安定して付与することができる。
【0073】
図4に示す通り、付勢力fの作用方向(本実施形態ではボルト332の軸線332A)を両斜面部品の斜面310a,320aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品320が第1斜面部品310の斜面310a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力fによって斜面310a,320a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0074】
図5は第五の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図5(a)は正面図、図5(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図5(b)においてはボルトとコイルばねを見取り図とし、それ以外を断面図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面410aを有する第1斜面部品410と、第1斜面部品410の斜面410aに自らの斜面420aが接した状態で第1斜面部品410上を摺動する第2斜面部品420と、斜面410a,420aと平行の付勢力を第2斜面部品420に自動的に付与する平行付勢力付与手段を備える。
【0075】
第1斜面部品410は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部411と、ストップホール3に挿入するはめ込み部412からなる。はめ込み部412は、上面が平行部411との境目から後面にかけて斜め上がりの平滑な斜面410aとなっており、平行部411に近いほど高さが小さい。
第2斜面部品420は略四角柱状であり、第1斜面部品410のはめ込み部412と接する下面は平滑な斜面420aとなっている。第2斜面部品420の斜面420a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品410のはめ込み部412の斜面410a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0076】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としてのコイルばね430と、そのコイルばね430の付勢力を第2斜面部品420に斜面410a,420aと平行に作用させる構造として、第1斜面部品410の平行部411にはめ込み部412の斜面410aと平行に形成したボルト雌ねじ431と、ボルト雌ねじ431に螺合するボルト432を有し、斜面410a,420aと平行の付勢力を第2斜面部品420に自動的に付与する。コイルばね430は、ボルト432と第2斜面部品420との間に介在している。また、第1斜面部品410の前面のうちボルト雌ねじ431が開けられている箇所を含む部分と、第2斜面部品420の前面のうちコイルばね430が当接する部分は、両斜面部品の斜面410a,420aに対して垂直な面としている。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品420が第1斜面部品410上を摺動しせり上がる方向である。
コイルばね430の軸線430Aは、両斜面部品の斜面410a,420a(第2斜面部品420の滑動方向)に対して平行である。
【0077】
第五の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品410のはめ込み部412上に第2斜面部品420を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品420を第1斜面部品410の斜面410aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品420に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
くさび荷重発生ステップS3においては、ボルト432を回し込み、離隔荷重によって第2斜面部品420を第1斜面部品410の斜面410aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
付勢力付与ステップS4においては、ボルト432の回し込み量によりコイルばね430の圧縮量を調節することで、第2斜面部品420が正面から離隔する方向に斜面410a,420aと平行の付勢力(押圧力)fを発生させ、第2斜面部品420に継続的に安定して付与することができる。
【0078】
図5に示す通り、付勢力fの作用方向(本実施形態ではコイルばね430の軸線430A)を両斜面部品の斜面410a,420aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品420が第1斜面部品410の斜面410a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力fによって斜面410a,420a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0079】
図6は第六の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図6(a)は正面図、図6(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図6(b)においてはボルトと引張体を見取り図とし、それ以外を断面図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面510aを有する第1斜面部品510と、第1斜面部品510の斜面510aに自らの斜面520aが接した状態で第1斜面部品510上を摺動する第2斜面部品520と、斜面510a,520aと平行の付勢力を第2斜面部品520に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品510に対する第2斜面部品520の位置調節に用いる位置調節手段としての第一ボルト530と、補修用部材をストップホール3から取り外す際にくさび荷重を解放するのに用いる取り外し手段としての第二ボルト540を備える。
【0080】
第1斜面部品510は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部511と、ストップホール3に挿入するはめ込み部512からなる。平行部511には長穴513とボルト雌ねじ514が設けられている。長穴513はボルト雌ねじ514よりも上に位置する。はめ込み部512は、上面が平行部511との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面510aとなっており、平行部511に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品520は略四角柱状であり、第1斜面部品510のはめ込み部512と接する下面は平滑な斜面520aとなっている。第2斜面部品520の前面には有底ボルト雌ねじ521が形成されている。第2斜面部品520の斜面520a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品510のはめ込み部512の斜面510a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0081】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としての引張体550と、その引張体550の付勢力を第2斜面部品520に斜面510a,520aと平行に作用させる構造としての張架手段560を有し、斜面510a,520aと平行の付勢力を第2斜面部品520に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品520が第1斜面部品510上を摺動しせり上がる方向である。
本実施形態では、引張体550としてゴムバンド等の弾性バンドを一本用いる。弾性バンド550は、第1斜面部品510と第2斜面部品520を共締めするように、両斜面部品に前後方向に装着する。なお、ポリウレタンバンドやスプリング等を引張体550として用いることもできる。
張架手段560は、弾性バンド550を装着する部分のうち、第1斜面部品510の平行部511の前面と第2斜面部品520の後面のそれぞれ一部を凹ますように設けた凹部である。張架手段560は、第1斜面部品510の前面においてはボルト雌ねじ514よりも下方に位置し、第2斜面部品520の後面においては下部に位置する。これにより弾性バンド550は斜面510a,520a近傍に装着されるため、第2斜面部品520に余分な回転モーメントが生じてしまうことを防止できる。また、弾性バンド550を張架手段560に引っ掛けることで、弾性バンド550のずれを防止できる。
弾性バンド550の牽引力Tの作用線550Aは、両斜面部品の斜面510a,520a(第2斜面部品520の滑動方向)に対して平行である。換言すると、第1斜面部品510と第2斜面部品520に設けた張架手段560の凹部の中心を結ぶ線が、斜面510a,520aと平行を成すように、凹部が設けられている。なお、凹部の断面形状は、弾性バンド550の形状に応じて半円形や角形等、任意に形成できる。
【0082】
第六の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品510のはめ込み部512上に第2斜面部品520を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品520を第1斜面部品510の斜面510aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品520に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、第一ボルト530を第1斜面部品510の平行部511の長穴513に通して先端を第2斜面部品520の有底ボルト雌ねじ521に回し入れ、第1斜面部品510に第2斜面部品520を係止する。相対的位置は、第一ボルト530を回し入れる量によって調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品520の自由なせり上がりをボルトが妨げないように、第二ボルト540を取り外すか、又は先端が第1斜面部品510の平行部511の後面から突き出さないようにする。そして、第一ボルト530の締め付けと、弾性バンド550が発生させる付勢力(牽引力T)による近接荷重によって第2斜面部品520を第1斜面部品510の斜面510aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
付勢力付与ステップS4においては、第一ボルト530を取り外すか、又は十分緩めて有底ボルト雌ねじ521に螺合した状態とし、弾性バンド550が伸長した状態を保つことで、第2斜面部品520が正面に近接する方向に斜面510a,520aと平行の付勢力(弾性バンド550の牽引力T)を第2斜面部品520に継続的に安定して付与することができる。なお、第二ボルト540も取り外すか、又は先端が第1斜面部品510の平行部511の後面から突き出さないようにしておく。
【0083】
図6に示す通り、牽引力Tの作用方向(本実施形態では弾性バンド550の作用線550A)を、両斜面部品の斜面510a,520aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品520が第1斜面部品510の斜面510a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面510a,520a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0084】
図7は第七の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図7(a)は正面図、図7(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図7(b)においてはボルトと引張体を見取り図とし、それ以外を断面図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面610aを有する第1斜面部品610と、第1斜面部品610の斜面610aに自らの斜面620aが接した状態で第1斜面部品610上を摺動する第2斜面部品620と、斜面610a,620aと平行の付勢力を第2斜面部品620に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、位置調節兼取り外し手段としてのボルト630を備える。
【0085】
第1斜面部品610は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部611と、ストップホール3に挿入するはめ込み部612からなる。平行部611にはボルト雌ねじ613が設けられている。はめ込み部612は、上面が平行部611との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面610aとなっており、平行部611に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品620は略四角柱状であり、第1斜面部品610のはめ込み部612と接する下面は平滑な斜面620aとなっている。第2斜面部品620の斜面620a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品610のはめ込み部612の斜面610a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0086】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としての引張体640と、その引張体640の付勢力を第2斜面部品620に斜面610a,620aと平行に作用させる構造としての張架手段650を有し、斜面610a,620aと平行の付勢力を第2斜面部品620に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品620が第1斜面部品610上を摺動しせり上がる方向である。
本実施形態では、引張体640としてゴムバンド等の弾性バンドを二本用いる。弾性バンド640は、第1斜面部品610と第2斜面部品620を共締めするように両斜面部品に前後方向に装着する。
張架手段650は、弾性バンド640を装着する部分のうち、第1斜面部品610の平行部611の前面と第2斜面部品620の後面のそれぞれ一部を凹ますように設けた凹部である。張架手段650は、第1斜面部品610の前面においてはボルト雌ねじ613よりも上方と下方の二箇所に位置し、第2斜面部品620の後面においては下端と略中間の二箇所に位置する。下側の弾性バンド640は斜面610a,620a近傍に装着されるため、第2斜面部品620に余分な回転モーメントが生じてしまうことを防止できる。また、弾性バンド640を張架手段650に引っ掛けることで、弾性バンド640のずれを防止できる。
弾性バンド640の牽引力Tの作用線640Aは、二本とも両斜面部品の斜面610a,620a(第2斜面部品620の滑動方向)に対して平行である。換言すると、第1斜面部品610と第2斜面部品620に設けた張架手段650の凹部の中心を結ぶ線が、斜面610a,620aと平行を成すように、凹部がそれぞれ設けられている。なお、凹部の断面形状は、弾性バンド640の形状に応じて半円形や角形等、任意に形成できる。
【0087】
第七の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品610のはめ込み部612上に第2斜面部品620を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品620を第1斜面部品610の斜面610aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品620に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、弾性バンド640を装着し、第2斜面部品620の前面に先端を当接させたボルト630のねじ込み量を調節して第1斜面部品610と第2斜面部品620との相対位置を調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品620の自由なせり上がりをボルト630が妨げないように、ボルト630を取り外すか、又は先端が第1斜面部品610の平行部611の後面から突き出さないようにする。そして、弾性バンド640の牽引力Tによる近接荷重によって第2斜面部品620を第1斜面部品610の斜面610aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
くさび荷重発生ステップS3の後はそのまま付勢力付与ステップS4に移行し、弾性バンド640が伸長した状態を保つことで、第2斜面部品620が正面に近接する方向に斜面610a,620aと平行の付勢力(弾性バンド640の牽引力T)を第2斜面部品620に継続的に安定して付与することができる。また、張架手段650に複数の弾性バンド640を張架することで、付勢機構としての引張体640である複数の弾性バンドにより付勢力に冗長性を持たせることができる。
【0088】
図7に示す通り、牽引力Tの作用方向(本実施形態では弾性バンド640の作用線640A)を両斜面部品の斜面610a,620aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品620が第1斜面部品610の斜面610a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面610a,620a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0089】
図8は第八の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図8(a)は正面図、図8(b)は右側面図、図8(c)は図8(b)のA-A’断面図である。構造を分かりやすくするため、図8(b)、(c)においては一部を断面で表している。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面710aを有する第1斜面部品710と、第1斜面部品710の斜面710aに自らの斜面720aが接した状態で第1斜面部品710上を摺動する第2斜面部品720と、斜面710a,720aと平行の付勢力を第2斜面部品720に自動的に付与する平行付勢力付与手段を備える。
【0090】
第1斜面部品710は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部711と、ストップホール3に挿入するはめ込み部712からなる。はめ込み部712は、上面が平行部711との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面710aとなっており、平行部711に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品720は略四角柱状であり、第1斜面部品710のはめ込み部712と接する下面は平滑な斜面720aとなっている。第2斜面部品720の斜面720a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品710のはめ込み部712の斜面710a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0091】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としてのコイルばね730と、そのコイルばね730の付勢力を第2斜面部品720に斜面710a,720aと平行に作用させる構造として、端部に雄ねじ734を有し第2斜面部品720の周囲に装着されるU字形棒731と、第2斜面部品720を挟みこむために第1斜面部品710に当接しU字形棒731が貫通する板732と、板732が斜面710a,720aと略直角を成して当接するように第1斜面部品710に設けた当接部733を有し、斜面710a,720aと平行の付勢力を第2斜面部品720に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品720が第1斜面部品710上を摺動しせり上がる方向である。
U字形棒731は、第1斜面部品710と第2斜面部品720を抱え込める大きさであり、端部が第1斜面部品710の平行部711の前面側に配置される。
板732は、左右端部二箇所に形成された円形の貫通穴に雄ねじ734を挿通させた状態で、第2斜面部品720を挟み込むために第1斜面部品710の平行部711の前面に当接して配置される。雄ねじ734に螺合するナット735と板732との間には平ワッシャー736が配置される。
コイルばね730は、板732と平ワッシャー736との間に配置される。ナット735を締め込むと、コイルばね730には圧縮方向の弾性歪が生じ、第1斜面部品710と第2斜面部品720との相対的距離を狭める方向に締め付け力が作用する。
コイルばね730の軸線730Aは、両斜面部品の斜面710a,720a(第2斜面部品720の滑動方向)に対して平行である。
【0092】
第八の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品710のはめ込み部712上に第2斜面部品720を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品720を第1斜面部品710の斜面710aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品720に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
U字形棒731は、くさび荷重発生ステップS3において両斜面部品に装着する。U字形棒731は、ストップホール3と両斜面部品との隙間から差し込み、U字の折れ曲がり部分を第2斜面部品720の後面に引っ掛ける。そして、雄ねじ734が取り付けられているU字形棒731の両端部を、ストップホール3と両斜面部品との隙間から母材板1の前面側に引き出す。その後、U字形棒731の両端部をそれぞれ板732の貫通穴に通して、突き出た先端にコイルばね730及び平ワッシャー736を嵌め込んだ後、ナット735を螺合する。このとき、ナット735とコイルばね730との間には平ワッシャー736が配置されている。そして、2個のナット735による付勢荷重(締め付け力)が略均等になるように留意しながらナット735を徐々に締め付ける。これにより、コイルばね730に圧縮方向の弾性歪(圧縮歪)が生じ、第1斜面部品710の平行部711と第2斜面部品720との相対的距離を狭める方向に締め付け力が作用する。この締め付け力による近接荷重によって第2斜面部品720を第1斜面部品710の斜面710aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
付勢力付与ステップS4においては、コイルばね730が圧縮された状態を保つことで、第2斜面部品720が正面に近接する方向に斜面710a,720aと平行の付勢力(締め付け力による近接荷重)を第2斜面部品720に継続的に安定して付与することができる。
【0093】
図8に示す通り、締め付け力の作用方向(本実施形態ではコイルばね730の軸線730A)を両斜面部品の斜面710a,720aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品720が第1斜面部品710の斜面710a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面710a,720a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0094】
両斜面部品をストップホール3から取り外す際は、第1斜面部品710に形成されたボルト雌ねじ737にボルト(図示無し)を螺合し、第2斜面部品720に軸部の先端が当接した状態のボルトを回転させることにより第2斜面部品720を押し下げる。
【0095】
図9は第九の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図9(a)は正面図、図9(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図9(b)においては母材板を断面図とし、それ以外を見取り図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面810aを有する第1斜面部品810と、第1斜面部品810の斜面810aに自らの斜面820aが接した状態で第1斜面部品810上を摺動する第2斜面部品820と、斜面810a,820aと平行の付勢力を第2斜面部品820に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品810に対する第2斜面部品820の位置調節等に用いる位置調節兼取り外し手段としてのボルト830を備える。
【0096】
第1斜面部品810は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部811と、ストップホール3に挿入するはめ込み部812からなる。平行部811にはボルト雌ねじ813が形成されている。はめ込み部812は、上面が平行部811との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面810aとなっており、平行部811に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品820は略四角柱状であり、第1斜面部品810のはめ込み部812と接する下面は平滑な斜面820aとなっている。第2斜面部品820の斜面820a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品810のはめ込み部812の斜面810a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0097】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としての引張体と、その引張体の付勢力を第2斜面部品820に斜面810a,820aと平行に作用させる構造としての張架手段を有し、斜面810a,820aと平行の付勢力を第2斜面部品820に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品820が第1斜面部品810上を摺動しせり上がる方向である。
本実施形態では、引張体としてワイヤー840と錘841を用いる。張架手段は、ワイヤー840の一端を第2斜面に固定するのに用いる係止手段850と、第1斜面部品810の平行部811を前面から後面にかけて貫通した通し穴851である。通し穴851は、斜面810aと平行に形成されている。
ワイヤー840は、一端をビス留めやフック留め等の任意の係止手段850を介して第2斜面部品820の前面に係止し、通し穴851を通して第1斜面部品810の前面に沿って垂らし、他端に重量Gの錘841を係止する。これにより錘841が第1斜面部品810の前方に垂下された状態となり、ワイヤー840に近接付勢力としての張力Tが生じる。ワイヤー840の張力Tの作用線840Aは、両斜面部品の斜面810a,820a(第2斜面部品820の滑動方向)に対して平行である。
【0098】
第一斜面部品810の前面に設けられる通し穴開口部851Aは、屈曲部においてワイヤー840に無理な曲げ変形、引っ掛かりや摩耗が生じないように、図9に点線で示すように適度な曲率半径を有する緩やかな曲面とすることが好ましい。また、両斜面部品の取付方向によって錘841の垂れ下がる方向は変化するため、通し穴開口部851Aの曲面は360度全ての方向に緩やかに広がるラッパ状とすることが好ましい。
【0099】
第九の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品810のはめ込み部812上に第2斜面部品820を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品820を第1斜面部品810の斜面810aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品820に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、ワイヤー840を、通し穴851に通されると共に一端が第2斜面部品820の前面に固定され他端に錘841が取り付けられた状態とし、第2斜面部品820の前面に先端を当接させたボルト830のねじ込み量を調節して第1斜面部品810と第2斜面部品820との相対位置を調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品820の自由なせり上がりをボルト830が妨げないように、ボルト830を取り外すか、又は先端が第1斜面部品810の平行部811の後面から突き出さないようにする。そして、引張体が発生させる付勢力(張力T)による近接荷重によって第2斜面部品820を第1斜面部品810の斜面810aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
くさび荷重発生ステップS3の後はそのまま付勢力付与ステップS4に移行し、他端に錘841が係止されているワイヤー840の一端が第2斜面部品820の前面に係止された状態を保つことで、第2斜面部品820が正面に近接する方向に斜面810a,820aと平行の付勢力(張力T)を第2斜面部品820に継続的に安定して付与することができる。
【0100】
図9に示す通り、付勢力(張力T)の作用方向(本実施形態ではワイヤー840の張力Tの作用線840Aの方向を決める通し穴851の方向)を両斜面部品の斜面810a,820aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品820が第1斜面部品810の斜面810a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面810a,820a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0101】
補修用部材には、垂下したワイヤー840の長さによりストップホール3の変形量を把握する変形量把握手段を設けることができる。これにより、ストップホール3の変形量を容易に把握することができる。
また、変形量把握手段に代えて、ワイヤー840に付した目盛、又はワイヤー840の長さを計測するための定規等、ワイヤー840の長さを計測する長さ計測手段を用いてもよい。通し穴開口部851Aから垂下したワイヤー840の長さを長さ計測手段で計測すれば、第一斜面部品810と第二斜面部品820の相対的位置の変化を知ることができ、幾何学的な関係からストップホール3の変形量を把握することが可能である。
【0102】
第2斜面部品820の前面に通し穴851を通して錘841が取り付けられたワイヤー840の一端が固定されていることにより、第2斜面部品820は、過大荷重により変形したストップホール3から仮に外れたとしても、ワイヤー840に引き留められ脱落しない。このように引張体は、第2斜面部品820がストップホール3から脱落することを防止する脱落防止用係止手段としての機能も有する。
ワイヤー840の材料や種類は任意であるが、十分な引張強度と耐久性、及び可撓性を有するものが好ましく、稼働環境や使用条件(錘841の重量Gの大きさなど)に応じて、細めの柔軟なワイヤーロープや紐、タコ糸などから適宜選択することが好ましい。
【0103】
ボルト830は、上記のように両斜面部品の設置時における位置決めに利用する他、両斜面部品の取り外し時にも利用する。両斜面部品をストップホール3から取り外す際は、第2斜面部品820に先端が当接した状態のボルト830を回転させることにより、各部に作用する摩擦力や引張体の力に抗して第2斜面部品820を押し下げる。
【0104】
図10は第十の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図10(a)は正面図、図10(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図10(b)においては母材板を断面図とし、それ以外を見取り図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、上記した第九の実施形態の補修用部材と比べて、平行付勢力付与手段としての引張体及び張架手段(ワイヤー840、錘841、係止手段850、通し穴851)を二連(二組)とした点において相違し、その余の点は同様である。
引張体及び張架手段を二連とすることにより、平行付勢力付与手段としての冗長性を増すことができる。また、付勢力(張力T)の作用点が両斜面部品の斜面810a,820aに沿って二点となるため、一点の場合に比べてより安定した近接付勢力を得ることができる。なお、平行付勢力付与手段を三連(三組)以上とすることも可能である。
【0105】
図11は第十一の実施形態による疲労亀裂の補修用部材をストップホールに適用した状態を示す図であり、図11(a)は正面図、図11(b)は右側面図である。構造を分かりやすくするため、図11(b)においては母材板を断面図とし、それ以外を見取り図としている。なお、上記した実施形態と重複する説明は省略する場合がある。
本実施形態の補修用部材は、斜面910aを有する第1斜面部品910と、第1斜面部品910の斜面910aに自らの斜面920aが接した状態で第1斜面部品910上を摺動する第2斜面部品920と、斜面910a,920aと平行の付勢力を第2斜面部品920に自動的に付与する平行付勢力付与手段と、第1斜面部品910に対する第2斜面部品920の位置調節等に用いる位置調節兼取り外し手段としてのボルト930と、ストップホール3の変形量を把握する変形量把握手段960を備える。
【0106】
第1斜面部品910は、側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部911と、ストップホール3に挿入するはめ込み部912からなる。平行部911にはボルト雌ねじ913が形成されている。はめ込み部912は、上面が平行部911との境目から後面にかけて斜め下がりの平滑な斜面910aとなっており、平行部911に近いほど高さが大きい。
第2斜面部品920は略四角柱状であり、第1斜面部品910のはめ込み部912と接する下面は平滑な斜面920aとなっている。第2斜面部品920の斜面920a(下面)の傾斜角度αは、第1斜面部品910のはめ込み部912の斜面910a(上面)の傾斜角度αと等しく、その傾斜角度αは45度よりも小さい。
【0107】
平行付勢力付与手段は、付勢機構としての引張体と、その引張体の付勢力を第2斜面部品920に斜面910a,920aと平行に作用させる構造としての張架手段を有し、斜面910a,920aと平行の付勢力を第2斜面部品920に自動的に付与する。付勢力を付与する方向は、第2斜面部品920が第1斜面部品910上を摺動しせり上がる方向である。
本実施形態では、引張体としてワイヤー940とワイヤー巻き取り器941を用いる。張架手段は、ワイヤー940の一端を係止する係止手段950と、第1斜面部品910の平行部911を前面から後面にかけて貫通した通し穴951である。通し穴951は、斜面910aと平行に形成されている。ワイヤー巻き取り器941は、第1斜面部品910の前面に固定されている。ワイヤー巻き取り器941の構造は任意であるが、例えば、巻き取り式メジャー等で通常用いられるゼンマイばねを利用した構造等とする。
ワイヤー940は、一端をビス留めやフック留め等の任意の係止手段950を介して第2斜面部品920の前面に係止し、通し穴951を通して他端をワイヤー巻き取り器941に接続する。これにより、ワイヤー940には、常にワイヤー巻き取り器941に巻き取られる方向の力が作用するため、結果として近接付勢力としての張力Tが生じる。ワイヤー940の張力Tの作用線940Aは、両斜面部品の斜面910a,920a(第2斜面部品920の滑動方向)に対して平行である。
【0108】
第一斜面部品910の前面に設けられる通し穴開口部951Aは、屈曲部においてワイヤー940に無理な曲げ変形、引っ掛かりや摩耗が生じないように、図11に点線で示すように適度な曲率半径を有する緩やかな曲面とすることが好ましい。また、両斜面部品の取付方向やワイヤー巻き取り器941の取付位置によって通し穴開口部951Aからワイヤー巻き取り器941に至るワイヤー940の方向は変化するため、通し穴開口部951Aの曲面は360度全ての方向に緩やかに広がるラッパ状とすることが好ましい。
【0109】
第十一の実施形態における補修用部材の設置方法も上記実施形態と同様に、第1斜面部品910のはめ込み部912上に第2斜面部品920を載置して両斜面部品の位置関係を調節し(S1:載置ステップ)、ストップホール3に両斜面部品をはめ込み(S2:はめ込みステップ)、第2斜面部品920を第1斜面部品910の斜面910aに沿って滑動させることによりくさび荷重Wを発生させ(S3:くさび荷重発生ステップ)、ストップホール3に両斜面部品が設置されている間は平行付勢力付与手段により第2斜面部品920に付勢力を付与する状態が維持されるようにする(S4:付勢力付与ステップ)。
載置ステップS1においては、ワイヤー940を、通し穴951に通されると共に一端が第2斜面部品920の前面に固定され他端がワイヤー巻き取り器941に接続された状態とし、第2斜面部品920の前面に先端を当接させたボルト930のねじ込み量を調節して第1斜面部品910と第2斜面部品920との相対位置を調節する。
くさび荷重発生ステップS3においては、第2斜面部品920の自由なせり上がりをボルト930が妨げないように、ボルト930を取り外すか、又は先端が第1斜面部品910の平行部911の後面から突き出さないようにする。そして、引張体が発生させる付勢力(張力T)による近接荷重によって第2斜面部品920を第1斜面部品910の斜面910aに沿ってせり上がらせ、くさび荷重Wを発生させる。
くさび荷重発生ステップS3の後はそのまま付勢力付与ステップS4に移行し、他端にワイヤー巻き取り器941が接続されているワイヤー940の一端が第2斜面部品920の前面に係止された状態を保つことで、第2斜面部品920が正面に近接する方向に斜面910a,920aと平行の付勢力(張力T)を第2斜面部品920に継続的に安定して付与することができる。
【0110】
図11に示す通り、付勢力(張力T)の作用方向(本実施形態ではワイヤー940の張力Tの作用線940Aの方向を決める通し穴951の方向)を両斜面部品の斜面910a,920aと平行にしているため、ストップホール3が変形して円孔端と両斜面部品との間に微小な間隙が生じ第2斜面部品920が第1斜面部品910の斜面910a上を滑動(摺動)してせり上がろうとする瞬間、付勢力によって斜面910a,920a間に生ずる垂直抗力はゼロとなるため摩擦抵抗力が大幅に低減し、不安定挙動が解消される。この効果は、特に斜面勾配が大きい場合(tanα≧1/5)において顕著となる。
【0111】
変形量把握手段960は、第1斜面部品910の前面に固着されているワイヤー巻き取り器941に取り付けられており、ワイヤー巻き取り器941で巻き取ったワイヤー940の長さによりストップホール3の変形量を把握する。これにより、ストップホール3の変形量を容易に把握することができる。
また、変形量把握手段960に代えて、ワイヤー巻き取り器941に、巻き取ったワイヤー940の長さを計測及び表示する機能(巻き取り長さ計測/表示器)を付与しておくこともできる。この場合は、巻き取り長さ計測/表示器に表示された値によって第一斜面部品910と第二斜面部品920の相対的位置の変化を瞬時に知ることができ、幾何学的な関係からストップホール3の変形量を把握することが可能である。
【0112】
第2斜面部品920の前面にはワイヤー940の一端が固定されていることにより、第2斜面部品920は、過大荷重により変形したストップホール3から仮に外れたとしても、ワイヤー940に引き留められ脱落しない。このように引張体は、第2斜面部品920がストップホール3から脱落することを防止する脱落防止用係止手段としての機能も有する。
ワイヤー940の材料や種類は任意であるが、十分な引張強度と耐久性、及び可撓性を有するものが好ましく、稼働環境や使用条件に応じて、細めの柔軟なワイヤーロープや紐、タコ糸などから適宜選択することが好ましい。
【0113】
ボルト930は、上記のように両斜面部品の設置時における位置決めに利用する他、両斜面部品の取り外し時にも利用する。両斜面部品をストップホール3から取り外す際は、第2斜面部品920に先端が当接した状態のボルト930を回転させることにより、各部に作用する摩擦力や引張体の力に抗して第2斜面部品920を押し下げる。
【0114】
平行付勢力付与手段としての引張体及び張架手段(ワイヤー940、ワイヤー巻き取り器941、係止手段950、通し穴951)は、例えば二連とするなど、複数組設けることもできる。
引張体及び張架手段を複数組とすることにより、平行付勢力付与手段としての冗長性を増すことができる。また、付勢力(張力T)の作用点が両斜面部品の斜面910a,920aに沿って複数となるため、一点の場合に比べてより安定した近接付勢力を得ることができる。
【0115】
以上説明したように、構造物に生じた疲労亀裂2に対して設けたストップホール3にはめ込んで構造物の応力変動幅を抑制するための補修用部材が、ストップホール3にはめ込む斜面を有した第1斜面部品と、第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、ストップホール3の伸長時に第2斜面部品が第1斜面部品上を摺動しせり上がることにより生じるくさび荷重W’をストップホール3に付与するため、斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に自動的に付与する平行付勢力付与手段とを備えることで、付勢力の作用方向が斜面部品の斜面と平行となり、付勢力によって第1斜面部品の斜面と第2斜面部品の斜面との間に生じる垂直抗力がゼロとなるため、摩擦抵抗力が大幅に低減し、ストップホール3又はウェッジホールの伸長時に第2斜面部品を自動的に円滑にせり上がらせることができる。
また、平行付勢力付与手段が付勢機構により、斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に自動的に付与することで、付勢機構により斜面と平行の付勢力を第2斜面部品に安定して付与することができる。
【0116】
なお、上記各実施形態においては、補修用部材を疲労亀裂2の先端部に設けたストップホール3に適用するものとして説明したが、補修用部材は、疲労亀裂2の基部及び先端部以外の亀裂経路上に設けたドリル孔であるウェッジホールについても同様に使用することができ、また、ストップホール3とウェッジホールを併設して両方に使用することもできる。また、平行付勢力付与手段として付勢機構を中心に説明したが、付勢機構のように弾性力を付勢力として利用するもの以外に、磁力や油圧等の他の付勢力を利用するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、道路、車輛、航空機、又は輸送・工作機械等の各種構造物について、ストップホールやウェッジホールからの亀裂再発の防止や再発亀裂の進展抑制に用いる補修用部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
2 疲労亀裂
3 ストップホール
10(110,210,310,410,510,610,710,810,910) 第1斜面部品
10a(110a,210a,310a,410a,510a,610a,710a,810a,910a) 第1斜面部品の斜面
20(120,220,320,420,520,620,720,820,920) 第2斜面部品
20a(120a,220a,320a,420a,520a,620a,720a,820a,920a) 第2斜面部品の斜面
30(130,230,630,830,930) 位置調節兼取り外し手段(ボルト)
40,41,42 平行付勢力付与手段(付勢機構(ばね)、第1・第2ばね取付面)
140,141,142 平行付勢力付与手段(付勢機構(引張体(弾性バンド))、第1・第2張架手段)
240,241,242 平行付勢力付与手段(付勢機構(ばね)、第1・第2ばね取付面)
330,331,332 平行付勢力付与手段(付勢機構(渦巻ばね)、ボルト雌ねじ、ボルト)
430,431,432 平行付勢力付与手段(付勢機構(コイルばね)、ボルト雌ねじ、ボルト)
530 位置調節手段(第一ボルト)
540 取り外し手段(第二ボルト)
550,560 平行付勢力付与手段(付勢機構(引張体(弾性バンド))、張架手段)
640,650 平行付勢力付与手段(付勢機構(引張体(弾性バンド))、張架手段)
730,731,732,733 平行付勢力付与手段(付勢機構(コイルばね)、U字形棒、板、当接部)
840,841,850,851 平行付勢力付与手段(付勢機構(引張体(ワイヤー、錘))、張架手段(係止手段、通し穴))
851A 通し穴開口部
940,941,950,951 平行付勢力付与手段(付勢機構(引張体(ワイヤー、ワイヤー巻き取り器))、張架手段(係止手段、通し穴))
951A 通し穴開口部
960 変形量把握手段
図1
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