(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169903
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231124BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231124BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231124BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01G4/30 517
H01G4/30 311F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081215
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 明洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AH05
5E082AB03
5E082BC38
5E082EE05
5E082EE23
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082LL02
5E082MM22
5E082MM24
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL02
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ06
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029EJ03
5H029EJ04
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA01
5H050CB02
5H050DA09
5H050EA01
5H050EA09
5H050FA02
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA08
(57)【要約】
【課題】高品質の積層体を備える蓄電装置を実現する。
【解決手段】筒状のダイス21内に設けられる、蓄電装置用の複数の層の積層体10と、例えばダイス21の開口部21aに挿入されるパンチ22との間に、バッファ層24を配置する。そして、ダイス21内の積層体10を、加熱しながらバッファ層24を介してパンチ22で加圧する。バッファ層24には、加熱及び加圧される積層体10の表面形状に沿って流動する粉末26が用いられる。パンチ22で加圧される際、積層体10は、その表面形状に沿って流動するバッファ層24の粉末26によって等圧的に押される。これにより、内部の層の破断や断層化が抑えられた高品質の積層体10が実現される。更に、そのような積層体10を用いた高品質の蓄電装置が実現される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のダイス内に設けられる複数の層の積層体と、前記ダイスの第1開口部に挿入される第1パンチとの間に、第1バッファ層を配置する第1配置工程と、
前記ダイス内の前記積層体を、加熱しながら前記第1バッファ層を介して前記第1パンチで加圧する加熱加圧工程と、
を有し、
前記第1バッファ層に、加熱及び加圧される前記積層体の表面形状に沿って流動する粉末が用いられる、蓄電装置の製造方法。
【請求項2】
前記ダイス内の前記積層体と、前記ダイスの前記第1開口部とは反対側の第2開口部に挿入される第2パンチとの間に、第2バッファ層を配置する第2配置工程を有し、
前記加熱加圧工程は、前記ダイス内の前記積層体を、加熱しながら前記第2バッファ層を介して前記第2パンチで加圧する工程を含み、
前記第2バッファ層に、加熱及び加圧される前記積層体の表面形状に沿って流動する前記粉末が用いられる、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項3】
前記粉末は、前記積層体とは非反応性である、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項4】
前記粉末は、グラファイト粉末である、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項5】
前記粉末は、六方晶窒化ホウ素粉末である、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項6】
前記ダイス内に設けられる前記積層体は、
正極活物質及び第1固体電解質を含む正極層と、
負極活物質及び第2固体電解質を含む負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に設けられ、第3固体電解質を含む電解質層と、
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項7】
前記ダイス内に設けられる前の前記積層体は、有機成分を含み、
前記有機成分を除去するための熱処理が行われた前記積層体が、前記ダイス内に設けられる、請求項6に記載の蓄電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極層と誘電体層との積層体を備える積層セラミックコンデンサや、電極層と電解質層との積層体を備える固体電池といった、各種蓄電装置が知られている。
例えば、全固体蓄電素子用の正極-固体電解質複合体の製造方法として、正極活物質を含むセラミックス焼結体からなる板状正極と、イオン伝導性を有するセラミックス焼結体からなる板状固体電解質とを積層した積層体に、ホットプレス法により加熱及び加圧を施し、正極と固体電解質とを固相反応により一体化させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極層と誘電体層、或いは電極層と電解質層といった異種層の積層体のホットプレスでは、例えば、筒状のダイス内に設けられる積層体が、そのダイスの開口部から挿入されるパンチで押さえられ、加熱及び加圧が行われる。この場合、パンチの平坦な加圧面と対向する積層体の表面に凹凸が存在していたり、加熱に伴う変形によって積層体の表面に凹凸が形成されたりすると、パンチによる加圧時に、積層体の表面の凹凸が起点となって、積層体内の層の破断、破断後の融着による断層化等の不良が生じる恐れがある。このような不良は、積層体の品質低下、更には積層体を備える蓄電装置の品質低下を招き得る。
【0005】
1つの側面では、本発明は、高品質の積層体を備える蓄電装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、筒状のダイス内に設けられる複数の層の積層体と、前記ダイスの第1開口部に挿入される第1パンチとの間に、第1バッファ層を配置する第1配置工程と、前記ダイス内の前記積層体を、加熱しながら前記第1バッファ層を介して前記第1パンチで加圧する加熱加圧工程と、を有し、前記第1バッファ層に、加熱及び加圧される前記積層体の表面形状に沿って流動する粉末が用いられる、蓄電装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、高品質の積層体を備える蓄電装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】積層体のホットプレスの一例について説明する図である。
【
図2】実施の形態に係る積層体のホットプレスの一例について説明する図である。
【
図3】実施の形態に係る積層体のホットプレス工程の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
はじめに、積層体のホットプレスの一例について説明する。
図1は積層体のホットプレスの一例について説明する図である。
図1(A)には、ホットプレスが行われる積層体の一例の断面図を模式的に示している。
図1(B)には、積層体のホットプレス工程の一例の断面図を模式的に示している。
【0010】
ホットプレスには、例えば、
図1(A)に示すような複数の層(層群とも言う)が積層された積層体10が用いられる。一例として、
図1(A)には、リチウムイオン二次電池等の固体電池の電池要素である積層体10を示している。
【0011】
積層体10は、複数の層として、電解質層13、正極層11及び負極層12を備え、これらの層群が所定の順番で積層された構造を有する。正極層11及び負極層12(これらの一方又は両方を電極層とも言う)が電解質層13を介して積層され、最上層及び最下層の電極層(正極層11又は負極層12)が電解質層13で覆われる。積層体10の対向する側面10a及び側面10bからそれぞれ、正極層11の側面の一部11a及び負極層12の側面の一部12aが露出する。当該一部11a及び一部12aを除く正極層11の側面及び負極層12の側面は、電解質層13によって覆われる。電解質層13から露出する正極層11の側面の一部11a及び負極層12の側面の一部12aは、この積層体10を電池要素とする固体電池の、正負の外部電極(端子)が接続される部位となる。尚、積層体10の層数は、
図1(A)等に示すようなものには限定されない。
【0012】
積層体10の電解質層13には、固体電解質、例えば、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0<x≦1)で表されるLAGP等の酸化物固体電解質が用いられる。
【0013】
積層体10の正極層11は、正極活物質及び固体電解質を含む。正極層11の正極活物質には、ピロリン酸コバルトリチウム(Li2CoP2O7、以下「LCPO」と言う)等が用いられる。正極層11の固体電解質には、LAGP等が用いられる。正極層11には、炭素材料等の導電助剤が含まれてもよい。
【0014】
積層体10の負極層12は、負極活物質及び固体電解質を含む。負極層12の負極活物質には、酸化チタン(TiO2)や五酸化ニオブ(Nb2O5)等が用いられる。負極層12の固体電解質には、LAGP等が用いられる。負極層12には、炭素材料等の導電助剤が含まれてもよい。
【0015】
尚、正極層11に含まれる固体電解質を「第1固体電解質」とも言い、負極層12に含まれる固体電解質を「第2固体電解質」とも言い、電解質層13に含まれる固体電解質を「第3固体電解質」とも言う。
【0016】
積層体10を形成する際には、電解質層13用のペーストとして、固体電解質と、有機系のバインダー、可塑剤、分散剤等とを混合したものが準備される。正極層11用のペーストとして、正極活物質及び固体電解質等と、有機系のバインダー、可塑剤、分散剤等とを混合したものが準備される。負極層12用のペーストとして、負極活物質及び固体電解質等と、有機系のバインダー、可塑剤、分散剤等とを混合したものが準備される。
【0017】
これら電解質層13用、正極層11用及び負極層12用のペーストが用いられ、スクリーン印刷法やドクターブレード法により、
図1(A)に示すような積層体10に含まれる層群のそれぞれに相当するグリーンシートが形成され、形成されたグリーンシートが
図1(A)に示すような層群の順番となるように積層される。或いは、電解質層13用、正極層11用及び負極層12用のペーストが用いられ、
図1(A)に示すような層群の順番となるように下層から上層に向かって順に塗布されて積層される。積層の際は、正極層11と負極層12とが電解質層13を介して対向し、且つ、正極層11と負極層12とが互いに重複しない部分が形成されるように、積層される。このようにして積層された構造体が、所定の条件で乾燥されて比較的低沸点の有機成分が除去された後、必要に応じて所定の位置、即ち、正極層11と負極層12とが互いに重複しない部分に相当する位置で裁断される。裁断により、対向する側面10a及び側面10bからそれぞれ、正極層11の側面の一部11a及び負極層12の側面の一部12aが露出する構造体が得られる。そして、その構造体に対し、所定の条件で熱処理が行われ、主にバインダー等の有機成分を焼失させて除去する脱脂が行われる。これにより、
図1(A)に示すような層群が積層された、脱脂後の積層体10が形成される。
【0018】
尚、積層体10の外表面となる部分には、電解質層13に代えて、或いは電解質層13の外側に更に、ガラスやセラミックス等の材料を用いたコーティング層が形成されてもよい。この場合は、ガラス等の材料をバインダー等と混合したペーストが準備され、積層体10の外表面となる部分が当該ペーストとなるように積層された構造体が形成され、当該構造体の乾燥、必要に応じて裁断、更に脱脂が行われる。
【0019】
図1(A)に示すような積層体10は、更に所定の条件で熱処理が行われ、主に固体電解質(コーティング層が形成される場合には更にそのガラス等の材料)を焼結させる焼成が行われる。
【0020】
ここで、例えば、積層体10上に何も設置しないか或いは反り抑制のために軽量な板を載せて焼成が行われる場合には、積層体10が異種材料を含む構造となっているため、異種材料間の収縮率差や収縮開始温度差等により、積層体10の内部に空孔やクラックが生じ易い。積層体10の層群が薄い場合には、内部に生じるクラック等に起因して、電解質層13、正極層11又は負極層12の破断や、破断した正極層11と負極層12との接触による短絡等が生じる恐れもある。
【0021】
このような点に鑑み、
図1(A)に示すような積層体10に対し、
図1(B)に示すようなホットプレス装置20を用い、ホットプレスを行うことが考えられている。ここでは、ホットプレス装置20を用いた、1つの積層体10のホットプレスを例にする。
【0022】
図1(B)に示すホットプレス装置20は、筒状のダイス21と、ダイス21の一方の開口部21aに挿入されるパンチ22と、ダイス21の他方(開口部21aとは反対側)の開口部21bに挿入されるパンチ23とを有する。筒状のダイス21には、円筒状や角筒状のもの、開口部21a及び開口部21bの平面形状が円形状や多角形状のものを用いることができる。パンチ22及びパンチ23には、ダイス21の開口部21a及び開口部21bに挿入可能な円柱状や角柱状のものを用いることができる。ダイス21、パンチ22及びパンチ23には、例えば、グラファイト製のものが用いられる。
【0023】
尚、ダイス21の一方の開口部21aを「第1開口部」、この開口部21aに挿入されるパンチ22を「第1パンチ」とも言い、ダイス21の他方の開口部21bを「第2開口部」、この開口部21bに挿入されるパンチ23を「第2パンチ」とも言う。
【0024】
或いは、ダイス21の一方の開口部21aを「第2開口部」、この開口部21aに挿入されるパンチ22を「第2パンチ」とも言い、ダイス21の他方の開口部21bを「第1開口部」、この開口部21bに挿入されるパンチ23を「第1パンチ」とも言う。
【0025】
積層体10のホットプレスの際には、例えば、ダイス21の下方の開口部21bに挿入されたパンチ23上に、上記のような脱脂後で焼成前の積層体10(ここでは一例として1つ)が配置され、そのダイス21の上方の開口部21aにパンチ22が挿入される。これにより、積層体10が、ダイス21内において、上下方向からパンチ22及びパンチ23で挟まれた状態となる。このような状態から、パンチ22及びパンチ23が、ダイス21でガイドされて積層体10に向かって加圧される。
図1(B)には、このように加圧される様子を加圧30として模式的に示している。
【0026】
積層体10は、このようにパンチ22及びパンチ23によって加圧される際、例えば、ダイス21、パンチ22及びパンチ23の外部に配置されるヒータ等の加熱装置(図示せず)を用いて加熱される。
図1(B)には、このように加熱される様子を加熱40として模式的に示している。加熱は、脱脂後の積層体10を焼成するような条件で行われる。この加熱による焼成により、主に脱脂後の積層体10に含まれる固体電解質(コーティング層が形成される場合には更にそのガラス等の材料)が焼結される。
【0027】
図1(B)に示すようなホットプレスによれば、積層体10を加熱しながら加圧することで、加熱時の積層体10の熱変形を加圧により抑えつつ、加熱により固体電解質を焼結させることができると期待される。
【0028】
ところが、上記のような脱脂後の積層体10の表面10c及び表面10d、即ち、パンチ22及びパンチ23の平坦な加圧面22a及び加圧面23aとそれぞれ対向する表面10c及び表面10dには、脱脂のための熱処理に伴って形成される凹凸が存在する場合がある。積層体10の表面10c及び表面10dに凹凸が形成されると、
図1(B)に示すようなホットプレスでは、高品質の積層体10を形成することができないことが起こり得る。
【0029】
例えば、脱脂のための熱処理の際に、積層体10の内部からバインダー等の有機成分が除去されたり、当該熱処理時の熱や有機成分の除去により変形が生じたりすることで、脱脂後の積層体10の表面10cには、凹凸が形成され得る。脱脂後の積層体10の表面10cに形成される凹凸は、その高さ(凹部底と凸部頂上との間の高低差)が、例えば、数μm程度となる。尚、脱脂後の積層体10には、その表面10cの層(この例では電解質層13)に限らず、内部の層(この例では正極層11及び負極層12並びにそれらの間の電解質層13)にも凹凸が形成され得る。
【0030】
このような、表面10cに凹凸が形成された脱脂後の積層体10が、上記
図1(B)に示したようなホットプレス装置20にセットされ、加熱及び加圧が行われる。その際には、ホットプレス装置20のパンチ22の平坦な加圧面22aと、そのパンチ22側の積層体10の表面10cとが対向される。そして、凹凸を有する積層体10の表面10cが、パンチ22の平坦な加圧面22aによって加圧される(加圧30)。
【0031】
積層体10は、パンチ22の平坦な加圧面22aで押されていくことで、表面10cの凹凸が平坦化されながら層群が加圧される。しかし、この場合、パンチ22の平坦な加圧面22aは、まず積層体10の表面10cの凹凸における凸部に当接して当該凸部を局所的に押し始め、次第に表面10cを全体的に押していく。このようにパンチ22の平坦な加圧面22aで押されることで、積層体10には、その表面10cの凹凸が基点となり、破断が生じる可能性がある。即ち、積層体10に含まれる電解質層13、正極層11及び負極層12のうちの1層又は2層以上を分断するような破断が生じる可能性がある。バインダー等の有機成分が除去された脱脂後の積層体10は、比較的脆弱となるため、パンチ22による加圧が比較的低圧であっても、このような破断が生じ易い。破断は、積層体10の内部の、正又は負の電極層として機能する部分の面積低下、抵抗増大等を招く恐れがある。
【0032】
また、破断が生じた状態で焼成が進み、破断した異層同士が融着し、断層化が生じる可能性もある。積層体10に含まれる層群が比較的薄く、断層化による積層方向のずれが比較的大きい場合には、異層間の接触、例えば、破断した正極層11と負極層12とが接触して短絡を招く恐れもある。
【0033】
このように、脱脂後の表面10cに凹凸が形成されるような積層体10の場合には、ホットプレスを行うと、その内部の層群について、破断や、破断後の融着による断層化が生じる可能性がある。積層体10の破断や断層化は、積層体10の品質低下、更には積層体10を用いた固体電池の品質低下、性能低下を招き得る。
【0034】
ここでは、ホットプレス装置20における一方のパンチ22で押される、パンチ22側の積層体10の表面10cの部分を例にしたが、他方のパンチ23で押される、パンチ23側の積層体10の表面10d(
図1(B))の部分についても、同様のことが起こり得る。即ち、脱脂後の積層体10の表面10dには、表面10cと同様に凹凸が形成され得る。表面10dがパンチ23の平坦な加圧面23aで押される際には、その表面10dの凹凸が基点となり、上記同様の破断や断層化が生じ得る。それにより、積層体10やそれを用いた固体電池の品質低下が生じ得る。
【0035】
尚、積層体10の層を厚くする、例えば、最上層及び最下層の電解質層13(又はガラス等を用いたコーティング層)を厚くすることで、脱脂後の表面10c及び表面10dにおける凹凸の形成を抑えた積層体10を得て、凹凸に起因した破断や断層化を抑えることも考えられる。しかし、この場合には、積層体10を所定の厚みとするために、ホットプレス後、パンチ22及びパンチ23との接触面を除去加工して薄くすることを要し、手間がかかる。また、積層体10とパンチ22及びパンチ23との間に、カーボンシート等のシート材を挟み込むことも考えられる。しかし、この場合には、シート材の比較的大きな凹凸或いはうねりが積層体10の表面形状に反映されるため、その表面を除去加工して平坦化することを要し、手間がかかる。そのため、これらの方法を用いることも得策とは言えない。
【0036】
また、ここでは、蓄電装置の1種である固体電池の、その電池要素である積層体10を例にした。このほか、蓄電装置の1種である積層セラミックコンデンサの、そのコンデンサ要素である積層体、即ち、電極層(内部電極層)と誘電体層との積層体についても、グリーンシート等を積層して積層体を形成し、それをホットプレスする場合には、積層体の形成(脱脂のための熱処理等)に伴う表面の凹凸の形成、それに起因したホットプレス時の破断や断層化、それによる積層体及び積層セラミックコンデンサの品質低下が起こり得る。
【0037】
以上のような点に鑑み、ここでは以下に実施の形態として示すような手法を用い、高品質の積層体、及びそのような積層体を備える蓄電装置を実現する。
[実施の形態]
図2は実施の形態に係る積層体のホットプレスの一例について説明する図である。
図2には、積層体のホットプレス工程の一例の断面図を模式的に示している。
【0038】
ここでは、上記のようなリチウムイオン二次電池等の固体電池の電池要素である積層体10(
図1(A))のホットプレスを例にする。ここでは、1つの積層体10のホットプレスを例にする。
【0039】
積層体10は、複数の層(層群とも言う)として、固体電解質を含む電解質層13、正極活物質及び固体電解質等を含む正極層11、並びに、負極活物質及び固体電解質等を含む負極層12を備え、これらの層群が所定の順番で積層された構造を有する。積層体10は、電解質層13を介して正極層11と負極層12とが対向するように積層され、一部11a及び一部12aを除く正極層11の側面及び負極層12の側面が電解質層13によって覆われた構造を有する。電解質層13、正極層11及び負極層12には、それぞれ上記のような材料が用いられる。即ち、電解質層13には、例えば、LAGP等の固体電解質が用いられる。正極層11には、例えば、LCPO等の正極活物質、LAGP等の固体電解質、炭素材料等の導電助剤が用いられる。負極層12には、例えば、TiO2やNb2O5等の負極活物質、LAGP等の固体電解質、炭素材料等の導電助剤が用いられる。
【0040】
尚、正極層11に含まれる固体電解質を「第1固体電解質」とも言い、負極層12に含まれる固体電解質を「第2固体電解質」とも言い、電解質層13に含まれる固体電解質を「第3固体電解質」とも言う。
【0041】
積層体10を形成する際は、まず、前述のように、有機系のバインダー、可塑剤、分散剤等を用いた電解質層13用、正極層11用及び負極層12用のペーストが準備され、それらが所定の順番となるように積層された構造体が形成される。そして、形成されたその構造体に対し、乾燥、必要に応じて裁断、更に脱脂が行われる。例えば、酸素を含む雰囲気下、500℃で10時間保持する条件で、構造体の脱脂が行われる。これにより、
図2に示すような脱脂後の積層体10が形成される。
【0042】
尚、積層体10の外表面となる部分には、電解質層13に代えて、或いは電解質層13の外側に更に、ガラスやセラミックス等の材料を用いたコーティング層が形成されてもよい。
【0043】
脱脂後の積層体10のホットプレスには、上記同様、
図2に示すようなホットプレス装置20が用いられる。ホットプレス装置20は、筒状のダイス21と、ダイス21の一方の開口部21aに挿入されるパンチ22と、ダイス21の他方(開口部21aとは反対側)の開口部21bに挿入されるパンチ23とを有する。筒状のダイス21には、円筒状や角筒状のもの、開口部21a及び開口部21bの平面形状が円形状や多角形状のものを用いることができる。パンチ22及びパンチ23には、ダイス21の開口部21a及び開口部21bに挿入可能な円柱状や角柱状のものを用いることができる。ダイス21、パンチ22及びパンチ23には、例えば、グラファイト製のものが用いられる。
【0044】
本実施の形態における積層体10のホットプレスの際には、例えば、
図2に示すように、ダイス21の下方の開口部21bに挿入されたパンチ23上に、バッファ層25が配置される。そのバッファ層25上に、上記のような脱脂後で焼成前の積層体10(ここでは一例として1つ)が配置される。その積層体10上に、更にバッファ層24が配置される。そして、ダイス21の上方の開口部21aにパンチ22が挿入される。このように本実施の形態においては、積層体10が、ダイス21内において、上下方向からそれぞれバッファ層24及びバッファ層25を介して、パンチ22及びパンチ23で挟まれるように配置される。バッファ層24及びバッファ層25の各々の厚さは、例えば、0.5mm以上1mm以下の範囲に設定される。
【0045】
尚、ダイス21の一方の開口部21aを「第1開口部」、この開口部21aに挿入されるパンチ22を「第1パンチ」とも言い、ダイス21の他方の開口部21bを「第2開口部」、この開口部21bに挿入されるパンチ23を「第2パンチ」とも言う。この場合、ダイス21内において積層体10とパンチ22との間に配置されるバッファ層24を「第1バッファ層」、ダイス21内において積層体10とパンチ23との間に配置されるバッファ層25を「第2バッファ層」とも言う。更に、この場合、積層体10とパンチ22との間にバッファ層24を配置する工程を「第1配置工程」とも言い、積層体10とパンチ23との間にバッファ層25を配置する工程を「第2配置工程」とも言う。
【0046】
或いは、ダイス21の一方の開口部21aを「第2開口部」、この開口部21aに挿入されるパンチ22を「第2パンチ」とも言い、ダイス21の他方の開口部21bを「第1開口部」、この開口部21bに挿入されるパンチ23を「第1パンチ」とも言う。この場合、ダイス21内において積層体10とパンチ22との間に配置されるバッファ層24を「第2バッファ層」、ダイス21内において積層体10とパンチ23との間に配置されるバッファ層25を「第1バッファ層」とも言う。更に、この場合、積層体10とパンチ22との間にバッファ層24を配置する工程を「第2配置工程」とも言い、積層体10とパンチ23との間にバッファ層25を配置する工程を「第1配置工程」とも言う。
【0047】
ダイス21内で積層体10とパンチ22及びパンチ23との間にそれぞれ配置されるバッファ層24及びバッファ層25には、
図2にバッファ層24の一部を拡大して示したように、複数の粒子26a(粒子26a群とも言う)の集合からなる粉末26が用いられる。
【0048】
このバッファ層24及びバッファ層25の粉末26の粒子26a群には、ホットプレス時の加熱及び加圧の条件下において、粒子26a同士の焼結が生じ難く、粒子26a同士の滑り性が良好で、積層体10並びにパンチ22及びパンチ23との反応性が低い(「非反応性」とも言う)、物理的及び化学的に安定な粒子26a群が用いられる。このような粒子26a群の集合である粉末26は、後述のようにダイス21内においてパンチ22及びパンチ23で押される際に、流動性を示す。バッファ層24及びバッファ層25の粉末26の粒子26a群には、例えば、グラファイト粒子や六方晶窒化ホウ素(h-BN)粒子が用いられる。即ち、粉末26として、例えば、グラファイト粉末やh-BN粉末が用いられる。粒子26a群には、例えば、粒径が0.1μm以上10μm以下の範囲のものが用いられる。
【0049】
尚、バッファ層24及びバッファ層25の粉末26には、ホットプレス時の加熱及び加圧の条件下において上記のような性質を有していて流動性を示すものであれば、グラファイト粉末やh-BN粉末に限らず、各種材質のものを用いることができる。
【0050】
また、バッファ層24及びバッファ層25の粉末26は、1種類の材質の粒子26a群の集合であってよく、複数種類の材質の粒子26a群の集合であってもよい。バッファ層24及びバッファ層25の粉末26は、必ずしも球状の粒子26a群の集合であることを要せず、各種形状の粒子26a群の集合であってよく、各種形状のものが混合された粒子26a群の集合であってもよい。バッファ層24及びバッファ層25の粉末26は、必ずしも同一粒径の粒子26a群の集合であることを要せず、比較的狭い或いは広い一定の粒度分布を持った粒子26a群の集合であってよい。
【0051】
図2に示すような状態、即ち、脱脂後の積層体10が、ダイス21内において、上下方向からそれぞれバッファ層24及びバッファ層25を介してパンチ22及びパンチ23で挟まれるような状態から、パンチ22及びパンチ23が、ダイス21でガイドされて積層体10に向かって加圧される。
図2には、このように加圧される様子を加圧30として模式的に示している。例えば、10MPa以上30MPa以下の範囲の圧力で、積層体10が加圧される。
【0052】
積層体10は、このようにパンチ22及びパンチ23によって加圧される際、例えば、ヒータ等の加熱装置(図示せず)を用いて加熱される。
図2には、このように加熱される様子を加熱40として模式的に示している。加熱は、脱脂後の積層体10を焼成するような条件で行われる。例えば、窒素又は酸素を含む雰囲気下、600℃で2時間保持する条件で、積層体10の焼成が行われる。このような加熱による焼成により、主に脱脂後の積層体10に含まれる固体電解質(コーティング層が形成される場合には更にそのガラス等の材料)が焼結される。
【0053】
このような加熱及び加圧の際、積層体10は、バッファ層24及びバッファ層25を介して、上下方向からパンチ22及びパンチ23で押される。この時、積層体10の表面10cとパンチ22の平坦な加圧面22aとの間に介在されるバッファ層24は、その粉末26(粒子26a群)が、積層体10の表面形状、即ち、表面10cの形状に沿って流動する。同様に、積層体10の表面10dとパンチ23の平坦な加圧面23aとの間に介在されるバッファ層25は、その粉末26(粒子26a群)が、積層体10の表面形状、即ち、表面10dの形状に沿って流動する。積層体10は、このような流動性を示す粉末26が用いられたバッファ層24及びバッファ層25を介して、上下方向からパンチ22及びパンチ23で押され、加熱及び加圧が行われる。
【0054】
尚、ダイス21内の積層体10を、加熱しながらバッファ層24を介してパンチ22で加圧する工程、若しくは加熱しながらバッファ層25を介してパンチ23で加圧する工程、或いは加熱しながらバッファ層24及びバッファ層25を介してパンチ22及びパンチ23で加圧する工程を、「加熱加圧工程」とも言う。
【0055】
積層体10の加熱及び加圧について、
図3を参照して更に説明する。
図3は実施の形態に係る積層体のホットプレス工程の例について説明する図である。
図3(A)には、積層体のホットプレス工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
図3(B)には、ホットプレス工程後の積層体の一例の要部断面図を模式的に示している。。
【0056】
図3(A)及び
図3(B)には、上記
図2に示したQ1部に相当する積層体10の一部、バッファ層24の一部、パンチ22の一部を模式的に示している。
例えば、
図3(A)に示すように、脱脂後の積層体10の表面10cが平坦である場合、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の際には、その積層体10の平坦な表面10cが、バッファ層24を介して、パンチ22の平坦な加圧面22aによって押される(加圧30)。この時、バッファ層24の粉末26は、積層体10の表面形状、
図3(A)の例では、平坦な表面10cの形状に沿って流動する。積層体10は、平坦な表面10cの形状に沿って粉末26が流動するバッファ層24を介して、パンチ22で押される。ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の後、即ち、焼成後には、例えば、
図3(B)に示すような、平坦な表面10cを有する積層体10が得られる。このように、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧(焼成)の後には、脱脂後であって焼成前の積層体10が有していた当初の表面形状、即ち、この
図3(A)及び
図3(B)の例では、平坦な表面10cの形状が再現され得る。
【0057】
また、脱脂後の積層体10の表面10cには、脱脂のための熱処理に伴って形成される凹凸が存在している場合がある。尚、脱脂後の積層体10には、その表面10cの層(この例では電解質層13)に限らず、内部の層(この例では正極層11及び負極層12並びにそれらの間の電解質層13)にも凹凸が形成され得る。脱脂後の積層体10の表面10cに凹凸が存在している場合、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の際には、その凹凸を有する積層体10の表面10cが、バッファ層24を介して、パンチ22の平坦な加圧面22aによって押される(加圧30)。この時、バッファ層24の粉末26は、積層体10の表面形状、即ち、凹凸を有する表面10cの形状に沿って流動する。積層体10は、凹凸を有する表面10cの形状に沿って粉末26が流動するバッファ層24を介して、パンチ22で押される。
【0058】
凹凸を有する積層体10の表面10cと、パンチ22の平坦な加圧面22aとの間は、バッファ層24の粉末26で満たされた状態となる。積層体10は、凹凸を有する表面10cが、パンチ22の平坦な加圧面22aとの間に満たされるバッファ層24の粉末26によって等圧的に押されるようになる。よって、凹凸を有する積層体10の表面10cに対して局所的に圧力が加わることが抑えられ、積層体10の内部に、その表面10cの凹凸を基点として破断が生じること、破断後の融着によって断層化が生じることが抑えられる。ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の後、即ち、焼成後には、例えば、凹凸を有する表面10cを備え、内部の破断及び断層化が抑えられた積層体10が得られる。このように、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧(焼成)の後には、脱脂後であって焼成前の積層体10が有していた当初の表面形状、即ち、凹凸を有する表面10cの形状が再現され得る。
【0059】
また、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の際、積層体10は、はじめは平坦な表面10cの状態であっても、そのような平坦な表面10cの状態から、異種材料間の収縮率差や収縮開始温度差等のために、加熱及び加圧の過程で変形し、凹凸を有する表面10cの状態に変化することも起こり得る。このほか、積層体10は、はじめから凹凸を有する表面10cの状態であって、そのような凹凸を有する表面10cの状態から、異種材料間の収縮率差や収縮開始温度差等のために、加熱及び加圧の過程で更に変形し、表面10cの凹凸の形状が変化することも起こり得る。
【0060】
このように、加熱及び加圧の過程で積層体10の表面形状が変化する場合でも、積層体10とパンチ22との間にバッファ層24の粉末26を配置する手法によれば、積層体10がパンチ22で押される際、それらの間の粉末26が、積層体10の変化する表面形状に沿って、当該表面形状に追従するように、流動する。積層体10は、加熱及び加圧の過程で変化する表面10cの形状に沿って粉末26が流動するバッファ層24を介して、パンチ22で押される。よって、加熱及び加圧により、例えば、その過程で変化した表面10cの形状で、積層体10が焼成(焼結)される。積層体10は、バッファ層24の粉末26によって等圧的に押され、局所的に圧力が加わることが抑えられる。よって、積層体10の内部に、その表面10cの凹凸を基点として破断が生じること、破断後の融着によって断層化が生じることが抑えられる。加熱及び加圧の過程で表面10cの形状が変化する場合でも、例えば、その変化した表面10cの形状で焼成(焼結)され、内部の破断及び断層化が抑えられた積層体10が得られる。
【0061】
また、ホットプレス装置20を用いた積層体10の加熱及び加圧の際には、表面10cがバッファ層24の粉末26を介して所定の圧力で押されることで、内部の破断及び断層化が抑えられつつ、表面10cにはじめから存在していた凹凸或いは加熱及び加圧の過程で生じた凹凸の高さが低減し得る。即ち、積層体10は、加熱及び加圧の過程で変化する凹凸に追従するようにバッファ層24の粉末26が流動しながら表面10cが押されることで、凹凸の低減が進行し得る。この場合、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の後、即ち、焼成後には、凹凸の高さが低減して比較的平坦化された表面10cを備え、内部の破断及び断層化が抑えられた積層体10が得られるようになる。
【0062】
或いは、ホットプレス装置20を用いた積層体10の加熱及び加圧の際には、表面10cがバッファ層24の粉末26を介して所定の圧力で押されることで、内部の破断及び断層化が抑えられつつ、表面10cにはじめから存在していた凹凸或いは加熱及び加圧の過程で生じた凹凸が消失し得る。即ち、積層体10は、加熱及び加圧の過程で変化する凹凸に追従するようにバッファ層24の粉末26が流動しながら表面10cが押されることで、凹凸の低減が進行し、凹凸が消失し得る。この場合、ホットプレス装置20を用いた加熱及び加圧の後、即ち、焼成後には、凹凸が消失して平坦化された表面10cを備え、内部の破断及び断層化が抑えられた積層体10が得られるようになる。
【0063】
このように、ホットプレス装置20を用いた積層体10の加熱及び加圧の後には、凹凸が低減して比較的平坦化された表面10cを備える積層体10、或いは凹凸が消失して平坦化された表面10cを備える積層体10が得られてもよい。ホットプレス装置20を用いた積層体10の加熱及び加圧の際には、このような比較的平坦化された表面10cを備える積層体10、或いは平坦化された表面10cを備える積層体10が得られるように、加圧時の圧力等のホットプレス条件が調整されてもよい。
【0064】
尚、ここでは、ホットプレス装置20における一方のパンチ22によりバッファ層24を介して押される、パンチ22側の積層体10の表面10cの部分を例にしたが、他方のパンチ23によりバッファ層25を介して押される、パンチ23側の積層体10の表面10d(
図2)の部分についても同様である。
【0065】
続いて、上記のようなホットプレス後の積層体10の処理について説明する。
上記
図2に示したように、脱脂後の積層体10は、ダイス21内において、上下方向からそれぞれバッファ層24及びバッファ層25を介して、パンチ22及びパンチ23で挟まれるように配置される。脱脂後の積層体10は、このような状態から、加熱されながら加圧され、焼成(焼結)される。加熱及び加圧による焼成後の積層体10は、パンチ22及びパンチ23が引き抜かれたダイス21内から取り出され、ホットプレス装置20の外部に取り出される。
【0066】
この時、ホットプレス装置20から取り出された焼成後の積層体10の表面10c及び表面10dにはそれぞれ、バッファ層24及びバッファ層25の粉末26の粒子26a群が付着して残存することが起こり得る。このような場合には、取り出された焼成後の積層体10を、超音波洗浄装置を用いて超音波洗浄する。バッファ層24及びバッファ層25として、積層体10との反応性が低い、非反応性の粒子26a群の粉末26が用いられることで、取り出された焼成後の積層体10の表面10c及び表面10dに付着した粉末26の粒子26a群は、超音波洗浄によって容易に除去することが可能となる。これにより、表面10c及び表面10dにおける粉末26の粒子26a群の残存が抑えられた焼成後の積層体10が得られる。
【0067】
以上のようにして焼成まで行われた積層体10が用いられ、固体電池が製造される。例えば、積層体10の側面10aから露出する正極層11の一部11aと接続される外部電極、及び積層体10の側面10bから露出する負極層12の一部12aと接続される外部電極が形成され、固体電池が製造される。例えば、外部電極は、積層体10の側面10a及び側面10bにそれぞれ、銀(Ag)ペーストを塗布し焼き付けることで形成される。外部電極には、Agペーストのほか、各種金属粒子や炭素粒子等の導電性粒子を含有した導電性ペーストが用いられてもよい。また、外部電極は、スパッタ法やメッキ法等を用いた各種金属の堆積によって形成されてもよい。Ag等を含有する導電性ペーストの塗布及び焼き付け後に、スパッタ法やメッキ法等を用いた各種金属の堆積が行われ、外部電極が形成されてもよい。
【0068】
固体電池は、例えば、リチウムイオン二次電池とすることができる。この場合、固体電池の充電時には、正極層11内から電解質層13を介して負極層12内にリチウムイオンが伝導して取り込まれ、固体電池の放電時には、負極層12内から電解質層13を介して正極層11内にリチウムイオンが伝導して取り込まれる。リチウムイオン二次電池とされる固体電池では、このようなリチウムイオン伝導によって充放電動作が実現される。
【0069】
本実施の形態で述べたような手法によれば、内部の破断や断層化等の不良が抑えられた高品質の積層体10が実現され、そのような積層体10が用いられた高品質の固体電池が実現される。
【0070】
尚、この本実施の形態では、蓄電装置の1種である固体電池の電池要素である積層体10を例にした。このほか、蓄電装置の1種である積層セラミックコンデンサのコンデンサ要素である積層体、即ち、電極層(内部電極層)と誘電体層との積層体についても、上記同様の手法を採用することができる。即ち、上記のようなホットプレス装置20を用い、ホットプレスを行うコンデンサ要素の積層体と、パンチ22及びパンチ23との間にそれぞれ、バッファ層24及びバッファ層25を配置し、加熱及び加圧する手法を採用することができる。これにより、上記電池要素の積層体10について述べたのと同様の効果を得ることができる。コンデンサ要素の高品質の積層体が実現され、そのような積層体が用いられた高品質の積層セラミックコンデンサが実現される。
【0071】
また、上記のようなホットプレス装置20を用いたホットプレスの際に、所定の粉末26のバッファ層24及びバッファ層25を用いる手法は、表面に比較的小さな凹凸が形成されるような積層体(上記積層体10等)に限らず、内部構造の段差を反映して表面に比較的大きな段差が形成されるような積層体に対しても同様に適用可能である。表面にそのような段差が形成される積層体でも、その表面形状に沿って粉末26が流動し、表面が等圧的に押されるようになる。その結果、内部構造を反映した段差を表面に有し、且つ、内部の破断等が抑えられた、高品質の積層体が実現される。
【0072】
また、上記のようなホットプレス装置20を用いたホットプレスの際には、必ずしも積層体の上下の表面側にそれぞれバッファ層24及びバッファ層25を配置し、パンチ22及びパンチ23で加圧することを要しない。例えば、積層体の上下の表面のうち、一方には凹凸が形成されるが、他方には凹凸が形成されないような場合には、凹凸が形成される表面側のみにバッファ層として上記粉末26を配置し、パンチ22及びパンチ23で加圧することもできる。
【0073】
また、上記のようなホットプレス装置20を用いたホットプレスの際には、ダイス21内の、下側のパンチ23の上に配置された下側のバッファ層25上に、加熱及び加圧を行う複数の積層体が配置されてもよい。それら複数の積層体上に、上側のバッファ層24が配置され、その上に上側のパンチ22が配置され、加熱及び加圧が行われる。このようにバッファ層25上に複数の積層体を配置する場合には、加圧時における積層体の横方向(パンチ23の加圧面23aと平行な方向)への伸びやずれを抑えるために、例えば、隣接する積層体間や、端の積層体とダイス21の内壁面との間に、隙間が生じないように配置することができる。
【0074】
このほか、バッファ層25上に複数の積層体を配置する場合、複数の積層体は、隣接する積層体間、及び端の積層体とダイス21の内壁面との間に、隙間が設けられるように配置することもできる。このように隙間が設けられるように配置された複数の積層体が、当該隙間を含めて、上側のバッファ層24で覆われる。隣接する積層体間の隙間、及び端の積層体とダイス21の内壁面との間の隙間に、上側のバッファ層24の粉末26が入り込むことで、加圧時における複数の積層体の変形や変位が規制され、積層体の横方向(パンチ23の加圧面23aと平行な方向)への伸びやずれが抑えられる。
【0075】
(実施例)
本実施の形態で述べた手法を用いて得られた、ホットプレスによる焼成後の積層体10の断面SEM(Scanning Electron Microscope)像を得た。上記のようなバッファ層24及びバッファ層25を用いる手法によれば、積層体10を構成する電解質層13、正極層11及び負極層12に空孔の形成が抑えられ、破断、及び破断後の融着による断層化が抑えられた、高品質の積層体10が得られることが確認された。加圧時の圧力を適切に調整したホットプレスによれば、比較的平坦な表面10c及び表面10dを備える、高品質の積層体10が得られることが確認された。
【0076】
(比較例1)
ホットプレスを採用しない、通常の焼成後の積層体10、即ち、脱脂後の積層体を加圧せずに焼成して得られた積層体10の断面SEM像を得た。通常の焼成後の積層体10では、それを構成する電解質層13、正極層11及び負極層12の破断や断層化は比較的抑えられる一方、内部に比較的多くの空孔が形成された。このように積層体10の内部に形成される空孔は、積層体10における電気抵抗の上昇、リチウムイオン伝導効率の低下等を招く。
【0077】
(比較例2)
バッファ層24及びバッファ層25を用いないホットプレスによる焼成後の積層体10の断面SEM像を得た。バッファ層24及びバッファ層25を用いないホットプレスによる焼成後の積層体10では、多数の破断が生じた。
【0078】
また、バッファ層24及びバッファ層25の代わりに、カーボンシートを用いたホットプレスによる焼成後の積層体10の断面SEM像を得た。カーボンシートを用いたホットプレスによる焼成後の積層体10では、カーボンシートの比較的大きな凹凸或いはうねりが積層体10の表面10cや表面10dの形状に反映され、表面10cや表面10dに比較的大きな凹凸が形成され易かった。このような比較的大きな凹凸が形成されると、積層体10の表面形状をより平坦化するために、表面加工を行うことを要してしまう。
【0079】
また、バッファ層24及びバッファ層25を用いないホットプレスによる焼成後の積層体10では、それを構成する電解質層13、正極層11及び負極層12に、断層化が生じる場合があった。断層化は、積層体10の内部の、正又は負の電極層として機能する部分の面積低下、抵抗増大等を招く恐れがある。断層化によるずれが大きくなると、破断した正極層11と負極層12との接触による短絡等が生じる懸念もある。
【0080】
以上説明したように、所定の粉末26のバッファ層24及びバッファ層25を用いてホットプレスによる焼成を行う手法によれば、高品質の積層体10等を実現することが可能になる。更に、そのような積層体10等を用い、高品質の固体電池等の蓄電装置を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0081】
10 積層体
10a、10b 側面
10c、10d 表面
11 正極層
11a、12a 一部
12 負極層
13 電解質層
20 ホットプレス装置
21 ダイス
21a、21b 開口部
22、23 パンチ
22a、23a 加圧面
24、25 バッファ層
26 粉末
26a 粒子
30 加圧
40 加熱