(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169905
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】PMモータの温度推定装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/16 20160101AFI20231124BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H02P21/16
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081218
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL34
5H505LL40
5H505LL41
5H505LL46
(57)【要約】
【課題】トルクセンサ、電圧センサ等を追加することなく容易にPMモータの抵抗温度、磁石温度を推定することができるPMモータの温度推定装置を提供する。
【解決手段】インバータ2により駆動されるPMモータ1に流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータ1の回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御器34によって電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、設計したモータモデル61を用いてモータモデルの電流を計算し、そのモータモデル電流と前記モータ検出電流の差をなくすように、モータモデル61の巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを、パラメータ調整器63によって調整することにより、モータの巻線抵抗、磁石磁束を含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部60と、同定した巻線抵抗、磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度計算部68と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータモデルを用いてモータモデルの電流を計算し、計算されたモータモデル電流と前記モータ検出電流の差をなくすように、モータモデルの巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを調整することにより、モータの巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部と、
前記パラメータ同定部により同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度計算部と、を備えたことを特徴とするPMモータの温度推定装置。
【請求項2】
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータモデルを用いてモータモデルの電流を計算し、計算されたモータモデル電流と前記モータ検出電流の差をなくすように、モータモデルの巻線抵抗、磁石磁束を調整することにより、モータの巻線抵抗、磁石磁束を含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部と、
前記パラメータ同定部により同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度計算部と、を備えたことを特徴とするPMモータの温度推定装置。
【請求項3】
前記インバータはベクトル制御によりPMモータを駆動し、前記ベクトル制御には、PMモータの回転子に同期したd-q座標系の電圧、電流を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のPMモータの温度推定装置。
【請求項4】
前記パラメータ同定部は、下記式(1)~式(7)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Ld Lq Φm]
T(raは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
(但し、Θ´
n=[ra´
n Ld´
n Lq´
n Φm´
n]
T、H=diag(h
r、h
Ld、h
Lq、h
Φ):定数(≧0)、K=diag(K
d、K
q):定数(<0)、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、I
dはd軸電流、I
qはq軸電流、ωは角周波数、e
dqはdq軸電流の推定値に対する誤差、V
dqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)
【請求項5】
前記パラメータ同定部は、下記式(10)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(11)、式(7)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Ld Lq Φm]
T(raは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【数10】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数11】
【数7】
(但し、Θ´
n=[ra´
n Ld´
n Lq´
n Φm´
n]
T、H=diag(h
r、h
Ld、h
Lq、h
Φ):定数(≧0)、K=diag(K
d、K
q):定数(<0)、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、I
dはd軸電流、I
qはq軸電流、ωは角周波数、e
dqはdq軸電流の推定値に対する誤差、V
dqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)
【請求項6】
前記パラメータ同定部は、予め測定したインダクタンス値を用い、下記式(12)~式(16)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Φm]
T(raは巻線抵抗、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする請求項2に記載のPMモータの温度推定装置。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
(但し、Θ´
n=[ra´
n Φm´
n]
T、H=diag(h
r、h
Φ):定数(h
r、h
Φ≧0)、K=diag(K
d、K
q):定数(K
d、K
q<0)、L
dqn=diag(L
dn、L
qn):電流に対するインダクタンスのテーブルから読み込む、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、I
dはd軸電流、I
qはq軸電流、ωは角周波数、e
dqはdq軸電流の推定値に対する誤差、V
dqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)
【請求項7】
前記パラメータ同定部は、予め測定したインダクタンス値を用い、下記式(17)、式(13)、式(14)、式(18)、式(16)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Φm]
T(raは巻線抵抗、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする請求項2に記載のPMモータの温度推定装置。
【数17】
【数13】
【数14】
【数18】
【数16】
(但し、Θ´
n=[ra´
n Φm´
n]
T、H=diag(h
r、h
Φ):定数(h
r、h
Φ≧0)、K=diag(K
d、K
q):定数(K
d、K
q<0)、L
dqn=diag(L
dn、L
qn):電流に対するインダクタンスのテーブルから読み込む、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、I
dはd軸電流、I
qはq軸電流、ωは角周波数、e
dqはdq軸電流の推定値に対する誤差、V
dqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータの磁石温度推定に係り、PMモータの磁石温度、固定子巻線の抵抗温度を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の磁石温度、固定子巻線抵抗温度を推定する技術は、例えば非特許文献1、2、特許文献1~4に記載のものが提案されていた。
【0003】
非特許文献1では、速度センサレス制御の性能を高めるために、固定子巻線抵抗、磁石磁束を誤差の自乗の関数を評価関数(リアプノフ関数)として、評価関数の時間微分が負である様に抵抗、磁石磁束の推定値を変化させることにより、電圧センサで計測した誘起電圧を基に磁石温度を推定している。
【0004】
非特許文献2ではリアプノフ関数を用いることにより誘導電動機抵抗を推定している。
【0005】
特許文献1ではトルクセンサを用いた磁石温度推定が提案されており、トルクセンサを用いる利点は、モータが回転していない場合に温度推定をすることができる点であると記載されている。推定法の詳細は「詳細な説明」の段落番号「0086」~「0092」に記載があり、電流・磁束・トルクの関係式に電流値とトルク計測値を代入し磁束を求め、磁束の変化から磁石温度を推定するという手法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“固定子抵抗と永久磁石鎖交磁束のオンライン同時同定によるIPMSM位置センサレスベクトル制御の高性能化”、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)129.7(2009):698-704.
【非特許文献2】“誘導電動機制御のための回転子抵抗と固定子抵抗推定方法”、H24 電気学会全国大会4-132.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-170004号公報
【特許文献2】特開2021-118652号公報
【特許文献3】特開2021-016226号公報
【特許文献4】特開2021-090340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のような誘起電圧を用いる手法は電圧を計測する必要があるため、電圧センサの追加が必要である。
【0009】
特許文献1のようなトルクセンサを前提とする手法では、トルクセンサの追加が必要となる。
【0010】
特許文献3のオブザーバを用いる手法はモデルを必要とするため、正確なパラメータが必要である。
【0011】
特許文献4では機械学習を用いた状態推定を一般的な形で提案しているが、磁石温度に特化したものではなく、磁石温度推定に関する技術について明確に述べられていない。
【0012】
以上に加え、特許文献1、特許文献2、特許文献4では固定子巻線抵抗の温度は推定していない。非特許文献1では固定子巻線抵抗、磁石磁束を推定しているため、この変化から温度の変化を推定することは可能であるが、インダクタンスの誤差が固定子巻線抵抗、磁石磁束の推定誤差の原因となる。非特許文献2は誘導機を対象としている。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、トルクセンサ、電圧センサ等を追加することなく容易にPMモータの抵抗温度、磁石温度を推定することができるPMモータの温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための請求項1に記載のPMモータの温度推定装置は、
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータモデルを用いてモータモデルの電流を計算し、計算されたモータモデル電流と前記モータ検出電流の差をなくすように、モータモデルの巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを調整することにより、モータの巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部と、
前記パラメータ同定部により同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度計算部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載のPMモータの温度推定装置は、
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータモデルを用いてモータモデルの電流を計算し、計算されたモータモデル電流と前記モータ検出電流の差をなくすように、モータモデルの巻線抵抗、磁石磁束を調整することにより、モータの巻線抵抗、磁石磁束を含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部と、
前記パラメータ同定部により同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度計算部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1又は2において、
前記インバータはベクトル制御によりPMモータを駆動し、前記ベクトル制御には、PMモータの回転子に同期したd-q座標系の電圧、電流を用いることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記パラメータ同定部は、下記式(1)~式(7)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Ld Lq Φm]T(raは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
(但し、Θ´n=[ra´n Ld´n Lq´n Φm´n]T、H=diag(hr、hLd、hLq、hΦ):定数(≧0)、K=diag(Kd、Kq):定数(<0)、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Idはd軸電流、Iqはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)。
【0026】
請求項5に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記パラメータ同定部は、下記式(10)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(11)、式(7)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Ld Lq Φm]T(raは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
(但し、Θ´n=[ra´n Ld´n Lq´n Φm´n]T、H=diag(hr、hLd、hLq、hΦ):定数(≧0)、K=diag(Kd、Kq):定数(<0)、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Idはd軸電流、Iqはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)。
【0035】
請求項6に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項2において、
前記パラメータ同定部は、予め測定したインダクタンス値を用い、下記式(12)~式(16)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Φm]T(raは巻線抵抗、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
(但し、Θ´n=[ra´n Φm´n]T、H=diag(hr、hΦ):定数(hr、hΦ≧0)、K=diag(Kd、Kq):定数(Kd、Kq<0)、Ldqn=diag(Ldn、Lqn):電流に対するインダクタンスのテーブルから読み込む、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Idはd軸電流、Iqはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)。
【0042】
請求項7に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項2において、
前記パラメータ同定部は、予め測定したインダクタンス値を用い、下記式(17)、式(13)、式(14)、式(18)、式(16)をサンプリング時間Ts毎に計算してモータパラメータΘ=[ra Φm]T(raは巻線抵抗、Φmは磁石磁束)を推定することを特徴とする。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
(但し、Θ´n=[ra´n Φm´n]T、H=diag(hr、hΦ):定数(hr、hΦ≧0)、K=diag(Kd、Kq):定数(Kd、Kq<0)、Ldqn=diag(Ldn、Lqn):電流に対するインダクタンスのテーブルから読み込む、Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Idはd軸電流、Iqはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令、添え字nは時間経過を示し、´付き変数は推定値を示す)。
【発明の効果】
【0049】
(1)請求項1~7に記載の発明によれば、トルクセンサ、電圧センサ等を追加することなく容易にPMモータの抵抗温度、磁石温度を推定することができる。
(2)請求項1に記載の発明によれば、モータパラメータ(巻線抵抗、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス、磁石磁束)の推定が行える。
(3)請求項2に記載の発明によれば、モータパラメータ(巻線抵抗、磁石磁束)の推定が行える。
(4)請求項4~7に記載の発明によれば、インダクタンスに誤差があっても精度の良い温度推定が可能である。
(5)請求項6、7に記載の発明によれば、予め測定したインダクタンス値を用いているので、請求項4、5と比較して、計算量を減少することができ、また設定するパラメータが4パラメータから2パラメータとなり、調整が容易になる。
(6)請求項5、7に記載の発明によれば、モデル計算に測定電流ではなくモデル電流を(推定電流)を使用しているので、請求項4、6と比較して、電流誤差の変化が大きくなるので、同定の応答性が向上する。
(7)請求項4、6に記載の発明によれば、モデル計算の微分項以外に測定電流を使用しているため、請求項5、7と比較して、電流誤差の変化が緩やかになり、同定の安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明の実施形態例による温度推定装置の構成図。
【
図2】本発明の実施例1におけるパラメータ同定部の構成図。
【
図3】本発明の実施例1における温度計算部の構成図。
【
図4】本発明の実施例2におけるパラメータ同定部の構成図。
【
図5】本発明の実施例3におけるパラメータ同定部の構成図。
【
図6】本発明の実施例4におけるパラメータ同定部の構成図。
【
図7】温度推定シミュレーション結果を示すグラフ。
【
図8】モータパラメータ同定シミュレーション結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
図1は本実施形態例による温度推定装置を示し、
図1の構成により本発明のPMモータの磁石温度推定が行われる。
【0052】
図1において、1はインバータ2により駆動されるモータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)、3はインバータ2に電圧指令を与えるコントローラ、4はモータ1に流れる電流を検出するモータ電流検出器、5はモータ1の回転を検出するモータ回転検出器、6はモータ1の固定子巻線の抵抗温度および磁石温度を推定する温度推定器である。
【0053】
コントローラ3内の31は、モータ回転検出器5で検出された検出回転角にモータ極対数を掛けて電気角に変換する乗算器であり、32は乗算器31から出力される電気角を微分して角周波数ωを求める微分器である。
【0054】
33は、モータ電流検出器4で検出された3相のモータ検出電流を、乗算器31から出力される電気角を用いてd-q座標系での電流に座標変換する3相-dq変換器である。
【0055】
34は、3相-dq変換器33により座標変換されたdq座標系での電流(モータ検出電流)が、設定した電流指令と等しくなるように電流制御を行って、dq座標系での電圧指令を出力する電流制御器である。
【0056】
35は、電流制御器34から出力されるdq座標系での電圧指令を、乗算器31から出力される電気角を用いて3相の電圧指令に座標変換してインバータ2に与えるdq-3相変換器である。インバータ2は前記電圧指令に応じた電圧をモータ1に印加する。
【0057】
温度推定器6内の60は、3相-dq変換器33により座標変換されたdq座標系での電流と、微分器32で求められた角周波数ωと、電流制御器34から出力されるdq座標系での電圧指令とを入力とし、モータ1の固定子巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンス等を含むモータパラメータを同定するパラメータ同定部である。
【0058】
このパラメータ同定部60は、設計したモータモデル61に前記電流(3相-dq変換器33の出力電流(モータ検出電流))、電圧(電流制御器34から出力される電圧指令)、角周波数(微分器32の出力)を入力してモータモデル61のモデル電流を計算し、計算されたモデル電流と前記入力電流(モータ検出電流)の差を減算器62で求め、減算器62から出力される電流誤差をなくすように、パラメータ調整器63によってモータモデル61の巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを調整することで、モータ1の固定子巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを同定している。
【0059】
68は、パラメータ同定部60により同定した固定子巻線抵抗および磁石磁束から固定子巻線の抵抗温度および磁石温度を推定する温度計算部である。
【実施例0060】
実施例1では、
図1のパラメータ同定部60が、
図2に示すIPMSMパラメータ推定演算を行うものであり、角周波数ω、電圧指令V
dq=[V
d V
q]
T、電流I
dq=[I
d I
q]
T(電圧、電流はdq座標系での値)を用いて、以下の式(1)~式(7)の計算を行う。ここで、添え字nは時間経過を示し、サンプリング時間T
s毎に計算を行う。また、´の付いた変数は推定値を示している。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
但し、Θ´n=[ra´n Ld´n Lq´n Φm´n]T、
H=diag(hr、hLd、hLq、hΦ):定数(≧0)、
K=diag(Kd、Kq):定数(<0)、
Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Idはd軸電流、Iqはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令である。
【0069】
尚、
図2の64、65、66は推定dq軸電流I´
dqn、推定パラメータ値Θ´
n、dq軸電流I
dqnを各々遅延する遅延器であり、出力側には、1サンプリング時間前の推定dq軸電流I´
dqn-1、1サンプリング時間前の推定パラメータ値Θ´
n-1、1サンプリング時間前のdq軸電流I
dqn-1が各々出力される。
【0070】
式(1)~(7)をTs毎に繰り返すことにより、モータパラメータΘ=[ra Ld Lq Φm]Tを推定できる。
【0071】
モータパラメータΘは巻線抵抗ra、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、磁石磁束Φmである。
【0072】
温度計算部68は、
図3に示すように、モータパラメータ同定部60で推定した巻線抵抗r´
an、磁石磁束Φ´
mnから、下記式(8)、式(9)により固定子巻線の抵抗温度T´
rnと磁石温度T´
mnを計算する。
【0073】
【0074】
【0075】
ここで、ra0,Φm0は温度T0に於ける巻線抵抗raと磁石磁束Φmの値であり、α、βは温度T0に於ける巻線抵抗と磁石磁束の温度係数である。これらの値はモータメーカから入手、又は事前試験により求める。
【0076】
次に、温度推定器6で行われる
図2、
図3の推定演算(式(1)~式(9))について、補足説明する。
【0077】
IPMSMの電流・電圧・角速度を既知としてモータパラメータ(磁石磁束、固定子巻線抵抗、インダクタンス)を推定する。
【0078】
IPM方程式を以下とする(d-q軸で表現)。
【0079】
【0080】
とすると式(20)が得られる。
【0081】
【0082】
実施例1ではパラメータ推定のために以下のモデル計算を行う。
【0083】
【0084】
【0085】
ここで、
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
Θ´=[ra´ Ld´ Lq´ Φm´]T
H=diag(hr、hLd、hLq、hΦ)。
【0090】
<Lyapunov関数によるP,Qの設計>
式(20)、式(21)、式(22)よりパラメータ誤差に関する方程式を導出し、パラメータ誤差の2乗で構成した関数が非負で時間微分が負であればパラメータ誤差は0になる。
【0091】
<誤差方程式>
式(20)にΘ´=Θ+eΘ、L´dq=Ldq+eLを代入。
【0092】
【0093】
【0094】
Lyapunov関数として、式(28)を選定すると、
【0095】
【0096】
【0097】
式(26)、式(27)より
【0098】
【0099】
したがって、
【0100】
【0101】
であるので、
【0102】
【0103】
とすると、
【0104】
【0105】
であり、誤差eΘが0に収束する。
【0106】
<温度推定>
抵抗温度Tr、磁石温度Tmと、抵抗ra、磁石磁束Φmの関係は次の式(34)、式(35)となる。
【0107】
【0108】
【0109】
ra0:T0[℃]における抵抗の値[Ω]、α:係数[1/℃]
Φm0:T0[℃]における磁石磁束[Wb]、β:係数[1/℃]
したがって、推定した抵抗、磁束から以下のように温度を推定する。
【0110】
【0111】
【0112】
図7は
図1の構成で、モータ0から加速して定速になる様に電流指令を加えたときの温度推定シミュレーション結果である。このとき、一定の負荷を加えており、温度は抵抗損と鉄損から計算し、温度によって抵抗、磁束が変化しているとしている。
【0113】
図7において、一点鎖線は抵抗温度、破線は磁石温度、二点鎖線は抵抗推定温度、細実線は磁石推定温度を各々示している。
図7のシミュレーションでは、最初の過渡状態で抵抗温度推定に誤差があるが、ほぼ温度が推定できている。過渡応答は遅いため、異常判定など速応性が求められる用途では適用が難しい。
【0114】
図8はモータパラメータ同定のシミュレーション結果であり、
図7と同様の条件でシミュレーションを行ったときの抵抗、磁束の同定した値の各初期値に対する比率である。インダクタンスLqは同定値の初期値をモータLqと異なる値としてシミュレーションを行った。
【0115】
図8において、一点鎖線は抵抗、破線は磁石磁束、二点鎖線は推定抵抗、細実線は推定磁石磁束、太実線は推定q軸インダクタンスを各々示している。
図8によればモータパラメータの同定が行えていることがわかる。
【0116】
以上のように実施例1によれば、トルクセンサ、電圧センサ等を追加することなく容易にPMモータの抵抗温度、磁石温度を推定することができる。また、インダクタンスに誤差があっても精度の良い温度推定が可能である。また、モデル計算の微分項以外に測定電流を使用しているため、電流誤差の変化が緩やかになり、同定の安定性が向上する。
実施例1と異なる点は、前記式(1)の電流を測定電流から式(10)の推定電流に置き換え、これに伴って前記式(6)を式(11)に変更して計算することにあり、その他の部分は実施例1と同様に動作する。
以上のように実施例2によれば、トルクセンサ、電圧センサ等を追加することなく容易にPMモータの抵抗温度、磁石温度を推定することができる。また、インダクタンスに誤差があっても精度の良い温度推定が可能である。また、モデル計算に測定電流ではなくモデル電流を(推定電流)を使用しているので、実施例1と比較して、電流誤差の変化が大きくなるので、同定の応答性が向上する。