(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169926
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】水処理方法、水処理装置、および凝集剤
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20231124BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20231124BHJP
【FI】
B01D21/01 102
C02F1/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081265
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】上條 太治
(72)【発明者】
【氏名】日高 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】西村 究
(72)【発明者】
【氏名】安永 利幸
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA08
4D015BA19
4D015BA22
4D015BB05
4D015CA20
4D015DA04
4D015DC02
4D015EA03
4D015EA33
4D015EA35
4D015EA36
4D015EA37
4D015FA02
4D015FA11
4D015FA13
4D015FA15
4D015FA17
4D015FA24
4D015FA26
(57)【要約】
【課題】被処理水中に含まれる懸濁物質を効果的に凝集させるとともに、凝集剤の注入率を自動で決定し、浄化処理することができる水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】水処理方法は、懸濁物質を含む被処理水に凝集剤を注入し、凝集剤が注入された被処理水を撹拌し、撹拌された被処理水を浄化装置20により浄化することを含み、凝集剤は、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物質を含む被処理水を浄化するための水処理方法であって、
前記被処理水に凝集剤を注入し、
前記凝集剤が注入された前記被処理水を撹拌し、
前記撹拌された前記被処理水を浄化装置により浄化することを含み、
前記凝集剤は、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、水処理方法。
【請求項2】
前記被処理水の性状指標値を取得し、
前記性状指標値に基づいて、前記凝集剤の注入率を決定し、
前記決定した注入率で前記凝集剤を注入することをさらに含む、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記性状指標値は、前記被処理水の濁度、SS濃度、および単位体積当たりの微粒子数のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記濁度と前記SS濃度との相関関係を予め取得することをさらに含み、
前記性状指標値を取得することは、測定したSS濃度および前記相関関係に基づいて濁度を算出すること、または測定した濁度と前記相関関係に基づいてSS濃度を算出することである、請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記被処理水の塩化物イオン濃度は、1,000~22,000mg/Lの範囲内にある、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項7】
懸濁物質を含む被処理水を浄化するための水処理装置であって、
前記被処理水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、
前記凝集剤が注入された前記被処理水を撹拌する撹拌機と、
前記撹拌された前記被処理水を浄化する浄化装置を備え、
前記凝集剤は、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、水処理装置。
【請求項8】
前記被処理水の性状指標値を取得する性状測定装置と、
前記性状指標値に基づいて、前記凝集剤の注入率を決定する制御装置をさらに備えている、請求項7に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記性状測定装置は、濁度測定装置、SS濃度測定装置、および微粒子カウンターのうちの少なくとも1つである、請求項8に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている、請求項7に記載の水処理装置。
【請求項11】
前記被処理水の塩化物イオン濃度は、1,000~22,000mg/Lの範囲内にある、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項12】
懸濁物質を含む被処理水を凝集処理するための凝集剤であって、
塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、凝集剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁物質を含む被処理水を浄化する水処理方法および水処理装置に関する。また、本発明はこのような水処理方法に用いられる凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水族館等における魚類、海獣類等の水生生物の展示および飼育や、魚介類の養殖に使用される水槽内の水には、清浄な海水を使用する必要がある。沖合から清浄な海水を運搬することは現実的ではないため、通常、比較的清浄度の低い港湾内や沿岸付近の海水や汽水を浄化した水が使用されている。
【0003】
清浄度の低い海水(以下、被処理水ともいう)を浄化する方法としては、被処理水にポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を注入し、被処理水に含まれる懸濁物質を凝集させて、砂ろ過装置などを用いて被処理水を浄化する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-49442号公報
【特許文献2】特開2021-20165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被処理水は、その水質(濁度、懸濁物質の量など)が環境の変化に伴って大きく変動する。そのため、被処理水の水質に応じて、凝集剤を適正な注入率に調節する必要がある。凝集剤が適正な注入率に対して過剰であると、懸濁物質の凝集に寄与しない凝集剤のアルミニウム成分が、浄化処理後の被処理水に流出してしまう。また、凝集剤が適正な注入率に対して不足すると、懸濁物質が十分に凝集せず、被処理水を浄化することができない。
【0006】
水族館や養殖場では、24時間被処理水の浄化処理を行って水槽の水をメンテナンスする必要がある。しかしながら、作業者が被処理水の水質を常時モニタリングして、凝集剤を適正な注入率に調節することは、コストなどの問題があり困難である。
【0007】
そこで、本発明は、被処理水中に含まれる懸濁物質を効果的に凝集させ、被処理水を浄化処理することができる水処理方法および水処理装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このような水処理方法に用いられる懸濁物質を効果的に凝集させることができる凝集剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、懸濁物質を含む被処理水を浄化するための水処理方法であって、前記被処理水に凝集剤を注入し、前記凝集剤が注入された前記被処理水を撹拌し、前記撹拌された前記被処理水を浄化装置により浄化することを含み、前記凝集剤は、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、水処理方法が提供される。
一態様では、前記水処理方法は、前記被処理水の性状指標値を取得し、前記性状指標値に基づいて、前記凝集剤の注入率を決定し、前記決定した注入率で前記凝集剤を注入することをさらに含む。
【0009】
一態様では、前記性状指標値は、前記被処理水の濁度、SS濃度、および単位体積当たりの微粒子数のうちの少なくとも1つである。
一態様では、前記水処理方法は、前記濁度と前記SS濃度との相関関係を予め取得することをさらに含み、前記性状指標値を取得することは、測定したSS濃度および前記相関関係に基づいて濁度を算出すること、または測定した濁度と前記相関関係に基づいてSS濃度を算出することである。
一態様では、前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている。
一態様では、前記被処理水の塩化物イオン濃度は、1,000~22,000mg/Lの範囲内にある。
【0010】
一態様では、懸濁物質を含む被処理水を浄化するための水処理装置であって、前記被処理水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、前記凝集剤が注入された前記被処理水を撹拌する撹拌機と、前記撹拌された前記被処理水を浄化する浄化装置を備え、前記凝集剤は、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、水処理装置が提供される。
一態様では、前記水処理装置は、前記被処理水の性状指標値を取得する性状測定装置と、前記性状指標値に基づいて、前記凝集剤の注入率を決定する制御装置をさらに備えている。
一態様では、前記性状測定装置は、濁度測定装置、SS濃度測定装置、および微粒子カウンターのうちの少なくとも1つである。
一態様では、前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている。
一態様では、前記被処理水の塩化物イオン濃度は、1,000~22,000mg/Lの範囲内にある。
【0011】
一態様では、懸濁物質を含む被処理水を凝集処理するための凝集剤であって、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む、凝集剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塩基度が65~80%であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む凝集剤を用いて凝集処理することで、被処理水中に含まれる懸濁物質を効果的、かつ安定的に凝集させることができる。さらに、本発明によれば、被処理水の性状指標値を取得して、取得した性状指標値に基づいて、凝集剤の注入率を決定するため、凝集剤の注入率を自動で決定し、浄化処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】被処理水の濁度とSS濃度の相関関係を示すグラフである。
【
図4】水処理装置を用いた試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、水処理装置1の一実施形態を示す図である。本実施形態に係る水処理装置1は、懸濁物質を含む被処理水を浄化するための装置である。本実施形態の被処理水は、比較的清浄度の低い港湾内や沿岸付近の海水や汽水である。被処理水の塩化物イオン濃度は、1,000~22,000mg/Lの範囲内にある。ただし、被処理水は懸濁物質を含むものであれば、これに限定されることなく、例えば淡水であってもよい。
【0015】
水処理装置1は、被処理水供給配管2、性状測定装置3、凝集剤供給配管5、撹拌機10、浄化装置20、および制御装置30を備えている。被処理水供給配管2は、水処理装置1の最も上流側に配置されている。被処理水供給配管2は、水処理装置1に隣接する港湾や沿岸付近から被処理水を導入するための導入配管(図示せず)に連結されてもよいし、被処理水を貯留する貯留槽(図示せず)に連結されてもよい。導入配管または貯留槽から供給された被処理水は、被処理水供給配管2を流れる。
【0016】
性状測定装置3は、被処理水供給配管2に配置されている。性状測定装置3は、後述するように、被処理水供給配管2を流れる被処理水の性状指標値を取得するように構成されている。凝集剤供給配管5は、性状測定装置3よりも下流側の位置で、被処理水供給配管2に連結されている。凝集剤供給配管5は、凝集剤を貯留する凝集剤貯槽7に連結されている。凝集剤供給配管5には、懸濁物質を含む被処理水に凝集剤を所定の注入率で注入する凝集剤注入装置8が配置されている。凝集剤注入装置8は、例えば、ポンプ、またはバルブ、またはポンプとバルブの組み合わせである。
【0017】
本実施形態の凝集剤は、ポリ塩化アルミニウムのうち、塩基度が65~80%の高塩基度であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウム(PAC)を1mL当たり12万個以上含むものが使用されている。ポリ塩化アルミニウムの一般式は、[Al2(OH)n・Cl6-n]m(1≦n≦5、m≦10)で表され、塩基度は、n/6×100%で定義される。凝集剤については、詳細を後述する。
【0018】
被処理水供給配管2は、凝集剤供給配管5よりも下流側の位置で、撹拌機10に連結されている。凝集剤注入装置8により凝集剤が注入された被処理水は、撹拌機10に供給される。一実施形態では、凝集剤供給配管5は、被処理水供給配管2に代えて撹拌機10に連結されており、撹拌機10内の被処理水に凝集剤が注入されてもよい。
【0019】
撹拌機10は、被処理水供給配管2から供給された被処理水を収容する撹拌槽12と、被処理水を撹拌する撹拌翼13と、撹拌翼13を回転させる駆動装置としてのモータ15を備えている。被処理水供給配管2は、撹拌槽12に連結されており、凝集剤が注入された被処理水は、撹拌槽12内に供給される。本実施形態の撹拌機10は、撹拌翼13の回転速度が30~220min-1に設定された撹拌機として構成されている。撹拌翼13の回転速度は、懸濁物質を含む被処理水の性状(例えば、濁度、SS(Suspended Solids)濃度、単位体積当たりの微粒子数、粘度など)などに基づいて、調整される。
【0020】
凝集剤が注入された被処理水が撹拌槽12内で撹拌されると、凝集剤が被処理水中に均一に分散される。被処理水に含まれる懸濁物質は、分散した凝集剤により表面電荷が中和され、被処理水中に懸濁物質のフロックが形成される。以下、この処理を「凝集処理」と呼ぶことがある。
【0021】
一実施形態では、撹拌機10としてラインミキサーを用いてもよい。ラインミキサーとは、配管に組み込まれたミキサーである。ラインミキサーの利点はミキサーが密封されているため、ラインミキサーの上流にある被処理水用ポンプ、および凝集剤用ポンプの2台のポンプがあれば、ラインミキサーの下流に被処理水を送ることができる点である。一方、撹拌槽12内に撹拌翼13が設置された撹拌機10の場合、撹拌槽12の上部が開放されているので、撹拌機10の下流に液を送るためのポンプ或いはポンプ相当の機器がさらに必要である。そのため、通常は、ポンプを設置せず、高低差で下流に液を送るのが一般的である。他の実施形態では、撹拌機およびラインミキサーを備えることなく、被処理水が流れるラインに直接凝集剤を注入して、ライン内の被処理水の流れによって被処理水と凝集剤を混合してもよい。
【0022】
撹拌機10は、浄化装置20に連結されている。浄化装置20は、撹拌水移送配管21、砂ろ過装置25、および浄化水移送配管26を備えている。撹拌水移送配管21は、上流側において撹拌機10の撹拌槽12に連結されており、下流側において砂ろ過装置25に連結されている。撹拌機10により撹拌され、フロックが形成された被処理水は、撹拌水移送配管21を流れ、砂ろ過装置25に供給される。
【0023】
フロックが形成された被処理水は、砂ろ過装置25を通過することにより、フロックとろ液とに分離される。浄化水移送配管26は、砂ろ過装置25の下流側に連結されている。砂ろ過装置25により分離されたろ液は、清浄な水として、浄化水移送配管26を通じて、水槽50に供給される。このようにして、水処理装置1は、懸濁物質を含む被処理水を浄化して、清浄な水を水槽50に供給する。
【0024】
砂ろ過装置25は、単層の砂ろ過層を有する単層ろ過装置であってもよい。あるいは、砂ろ過装置25は、アンスラサイトやガーネット等の密度および粒径の異なる砂状ろ材が、水流方向に粗粒から細粒となるように構成された、多層の砂ろ過層を有する多層ろ過装置であってもよい。
【0025】
砂ろ過装置25の砂状ろ材は、均等係数(砂の粒度加積曲線上における、全試料の60%が通過する砂の粒径と、全試料の10%が通過する砂の粒径との比)が1.7以下であってもよい。砂状ろ材の均等係数が1の場合、砂状ろ材の粒径がすべて同じであることを示す。砂状ろ材の均等係数が1に近いほど、ろ過層の空隙率が大きく、濁質抑留量(例えば、フロックの抑留量)が増える。すなわち、砂状ろ材の均等係数が1に近いほど、砂ろ過装置25の浄化性能が上がる。
【0026】
また、浄化処理を繰り返すことにより砂状ろ材が破砕、摩耗すると、砂状ろ材が流出して、砂ろ過層の粒度構成や厚さが変化することがある。そのため、砂ろ過装置25の砂状ろ材は、夾雑物が少なく、摩耗しにくいものが好ましい。より具体的には、砂状ろ材の比重は2.57~2.67の範囲内であってもよい。比重が2.57よりも小さい砂状ろ材には、有機性物質や多孔性の砂が混入している場合があり、比重が2.67よりも大きい砂状ろ材には、石灰石や重金属類の鉱石が混入している場合があるため、好ましくない。
【0027】
さらに、砂状ろ材の有効径(砂の粒度加積曲線上における、全試料の10%が通過する砂の粒径)は、濁質阻止率、ろ過持続時間、および逆流洗浄速度の観点、並びに広範な被処理水の性状に対応するために、0.45~0.70mmの範囲内であってもよい。有効径が0.45mmよりも小さい砂状ろ材では、ろ材が後段の浄化水移送配管26に流出するおそれがあり、有効径が0.70mmよりも大きい砂状ろ材では、フロックを捕捉(阻止)する能力が低く、十分な浄化性能を得ることができないため、好ましくない。
【0028】
本実施形態では、浄化装置20は、ろ材として砂状ろ材を用いた砂ろ過装置25を備えているが、ろ過装置に用いられるろ材の種類(素材、サイズ、形状等)は、特に限定されない。ろ材の素材としては、例えば、アンスラサイト、ウレタンフォーム、活性炭、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。一実施形態では、浄化装置20は、砂ろ過装置25に加えて、または代えて、浮上ろ過装置、繊維ろ過装置、膜ろ過装置などの種々のろ過装置、泡沫分離処理装置、オゾン処理装置、UV処理装置、接触酸化処理装置のうちの少なくとも1つを備えてもよい。
【0029】
水槽50は、特に限定されるものではなく、水族館の展示水槽、養殖用水槽、活魚水槽等の種々の形状及び大きさの水槽であってよい。本実施形態の水処理装置1は、特に、高い清浄度が要求される展示用の水槽50に水を供給する際に、好適に使用される。
【0030】
水槽50内には、魚介類、甲殻類、海水ほ乳類、水生植物、海草等を含む水生生物を収容することができる。水槽50の容量は、特に限定されるものではなく、数m3~数万m3程度の容量の水槽50を用いることができる。例えば、容量が1m3以上、更には1000m3以上、更には5000m3以上の容量を持つ水槽50を用いることができる。
【0031】
次に、凝集剤の注入率を決定する方法について説明する。凝集剤が適正な注入率に対して過剰であると、懸濁物質の凝集に寄与しない凝集剤のアルミニウム成分が、浄化処理後の被処理水に流出してしまう。また、凝集剤が適正な注入率に対して不足すると、懸濁物質が十分に凝集せず、浄化処理後に所望の水質の水を得ることができない。そこで、本実施形態の水処理装置1は、性状測定装置3により取得された被処理水の性状指標値に基づいて、凝集剤の注入率を決定する。
【0032】
性状測定装置3は、被処理水の濁度を測定する濁度測定装置、SS濃度測定装置、および微粒子カウンターのうちの少なくとも1つである。濁度測定装置は、被処理水の濁度を性状指標値として取得する。SS濃度測定装置は、被処理水のSS濃度を性状指標値として取得する。微粒子カウンターは、被処理水の単位体積当たりの微粒子数を性状指標値として取得する。濁度測定装置、SS濃度測定装置、および微粒子カウンターには、いずれも市販品を使用することができる。
【0033】
凝集剤の適正な注入率とは、凝集処理において被処理水に含まれる懸濁物質のフロックが良好に形成される程度の注入率である。被処理水の濁度、SS濃度、および単位体積当たりの微粒子数は、いずれも被処理水に含まれる懸濁物質の状態を示す数値である。したがって、凝集剤の適正な注入率は、被処理水の濁度、SS濃度、および単位体積当たりの微粒子数のうちの少なくとも1つの性状指標値に基づいて、決定することができる。
【0034】
図1に示すように、性状測定装置3および凝集剤注入装置8は、制御装置30に電気的に接続されている。制御装置30は、性状測定装置3により取得した性状指標値に基づいて、凝集剤の注入率を決定するように構成されている。制御装置30は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。制御装置30は、プログラムが格納された記憶装置30aと、記憶装置30aに格納されたプログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置30bを備えている。
【0035】
記憶装置30aには、被処理水の濁度と凝集剤の適正な注入率の関係、被処理水のSS濃度と凝集剤の適正な注入率の関係、および被処理水の単位体積当たりの微粒子数と凝集剤の適正な注入率の関係のうちの少なくとも1つを示す適正注入率データが格納されている。性状測定装置3により取得された被処理水の性状指標値は、制御装置30に送られる。演算装置30bは、性状測定装置3により取得された被処理水の性状指標値、および記憶装置30aに格納された適正注入率データに基づいて、凝集剤の注入率を決定するように構成されている。決定された注入率は、凝集剤注入装置8に送られ、凝集剤注入装置8は、決定された注入率で、凝集剤を注入する。
【0036】
性状測定装置3による被処理水の性状指標値の取得は、所定の時間毎に自動的に実行され、被処理水の性状を常時モニタリングすることができる。また、制御装置30は、取得された被処理水の性状測定値に基づいて、凝集剤の注入率を自動で決定することができる。これにより、作業者が被処理水の水質を常時モニタリングして、凝集剤の注入率を調節することなく、被処理水の性状変化に応じて、適正に浄化処理を行うことができる。結果的に、人件費などのコストを削減し、メンテナンスを簡易化することができる。
【0037】
図2は、被処理水の濁度とSS濃度の相関関係を示すグラフである。
図2において、縦軸は濁度を表し、横軸はSS濃度を表している。
図2に示すように、被処理水の濁度とSS濃度には相関関係がある。そこで、一実施形態では、性状測定装置3は、被処理水の濁度とSS濃度の相関関係(検量線)を予め取得し、測定した被処理水のSS濃度と該相関関係から被処理水の濁度を算出して、性状指標値として取得してもよい。あるいは、性状測定装置3は、測定した被処理水の濁度と該相関関係から被処理水のSS濃度を算出して、性状指標値として取得してもよい。
【0038】
制御装置30は、このようにして取得した被処理水の性状指標値である濁度またはSS濃度に基づいて、凝集剤の注入率を決定する。他の実施形態では、被処理水の濁度とSS濃度の相関関係は、制御装置30の記憶装置30aに格納されてもよい。この場合、演算装置30bは、性状測定装置3により測定された被処理水のSS濃度と、記憶装置30aに格納された該相関関係から、被処理水の濁度を算出してもよい。あるいは、演算装置30bは、性状測定装置3により測定された被処理水の濁度と、記憶装置30aに格納された該相関関係から、被処理水のSS濃度を算出してもよい。
【0039】
一実施形態では、制御装置30は、被処理水の濁度、SS濃度、および単位体積当たりの微粒子数のうちの2つ以上の性状指標値に基づいて、凝集剤の注入率を決定してもよい。この場合、性状測定装置3は、濁度測定装置、SS濃度測定装置、および微粒子カウンターのうちの2つ以上であってもよい。あるいは、被処理水の濁度の測定値と、被処理水の濁度とSS濃度の相関関係から算出された被処理水のSS濃度の2つの性状指標値、または被処理水のSS濃度の測定値と、被処理水の濁度とSS濃度の相関関係から算出された被処理水の濁度の2つの性状指標値を用いてもよい。複数の性状指標値を用いることで、より精度よく凝集剤の注入率を決定することができる。
【0040】
一実施形態では、予め定められた凝集剤の注入率の下限値または上限値が記憶装置30aに格納されており、著しく被処理水の性状指標値が低下または上昇しても、制御装置30は、当該下限値および/または上限値の範囲内で凝集剤の注入率を決定するように構成されてもよい。
【0041】
次に、凝集処理に用いられる凝集剤について説明する。一般に、凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第二鉄、ポリシリカ鉄などの無機凝集剤や、有機凝集剤、高分子凝集剤などが使用されている。本実施形態では、ポリ塩化アルミニウムのうち、塩基度が65~80%の高塩基度であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウム(PAC)を1mL当たり12万個以上含む凝集剤が使用されている。
【0042】
発明者らは、本実施形態について、以下に説明する試験を行った。試験に使用した被処理水は、pHが7.9、単位体積当たりの微粒子数が18,700個/mL、電気伝導率が4,000mS/m、酸消費量が79CaCO3mg/Lであった。この被処理水を対象として、凝集処理、浄化処理のジャーテスト、および水処理装置1を用いた試験を行った。
【0043】
図3は、ジャーテストの結果を示す表である。ジャーテストは、以下の手順で行った。
【0044】
<実施例1~3>
被処理水500mLに対して、塩基度が70%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり16万個含む凝集剤を所定の注入率で注入し、回転速度150min-1で1分間撹拌を行った。撹拌後、直ちにろ紙(JIS P 3801、化学分析用、5種A)でろ過を行い、ろ液の濁度、単位体積当たりの微粒子数、およびアルミニウム濃度を測定した。凝集剤の注入率は、実施例1では2.5mg/L、実施例2では5.0mg/L、実施例3では7.5mg/Lとした。
【0045】
<比較例1~3>
被処理水500mLに対して、塩基度が51%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり9.3万個含む凝集剤を所定の注入率で注入し、回転速度150min-1で1分間撹拌を行った。撹拌後、直ちにろ紙(JIS P 3801、化学分析用、5種A)でろ過を行い、ろ液の濁度、単位体積当たりの微粒子数、およびアルミニウム濃度を測定した。凝集剤の注入率は、比較例1では2.5mg/L、比較例2では5.0mg/L、比較例3では7.5mg/Lとした。凝集剤の種類、凝集剤の注入率以外は、実施例1~3と同じ条件で行った。
【0046】
図3に示す試験結果より、実施例3において被処理水が最も浄化されていることが確認された。また、実施例1~3と比較例1~3を比較すると、同じ凝集剤の注入率であっても、塩基度が70%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり16万個含む凝集剤を用いた実施例1~3の方が被処理水を効果的に浄化できることが確認された。
【0047】
図4は、水処理装置1を用いた試験結果を示す表である。水処理装置1を用いた試験は、以下の手順で行った。
【0048】
<実施例4~6>
被処理水が処理量120m3/時間で流れるラインに、塩基度が70%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり16万個含む凝集剤を所定の注入率で注入した。ライン内で被処理水と凝集剤が混合された後、浄化装置20を用いて砂ろ過を行い、ろ液の濁度、単位体積当たりの微粒子数、およびアルミニウム濃度を測定した。凝集剤の注入率は、実施例4では6.3mg/L、実施例5では7.2mg/L、実施例6では9.0mg/Lとした。
【0049】
<比較例4>
被処理水が処理量120m3/時間で流れるラインに、塩基度が51%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり9.3万個含む凝集剤を注入率9.0mg/Lで注入した。ライン内で被処理水と凝集剤が混合された後、浄化装置20を用いて砂ろ過を行い、ろ液の濁度、単位体積当たりの微粒子数、およびアルミニウム濃度を測定した。凝集剤の種類、凝集剤の注入率以外は、実施例4~6と同じ条件で行った。
【0050】
図4に示す試験結果より、実施例4~6のいずれにおいても、被処理水が効果的に浄化されていることが確認された。すなわち、実施例4~6で用いた塩基度が70%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり16万個含む凝集剤は、適正な注入率の範囲が広く、効果的かつ安定的に凝集処理を行うことができることが分かった。また、実施例6と比較例4を比較すると、同じ凝集剤の注入率であっても、塩基度が70%、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり16万個含む凝集剤を用いた実施例6の方が被処理水を効果的に浄化できることが確認された。
【0051】
発明者らは、塩基度が65~80%の高塩基度であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む凝集剤を用いることにより、効果的かつ安定的に凝集処理できることを見出した。塩基度が65%未満のポリ塩化アルミニウムでは、被処理水に含まれる懸濁物質が十分に凝集せず、フロックを良好に形成することができない。塩基度が80%を超えるポリ塩化アルミニウムでは、ポリ塩化アルミニウムの安定性が低下してしまう。
【0052】
また、塩基度が65~80%のポリ塩化アルミニウムにおいて、粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムが1mL当たり12万個未満の場合、粒径が0.5μmよりも小さいか、粒径が1μmよりも大きいポリ塩化アルミニウムを多く含むこととなる。粒径が0.5μmよりも小さいポリ塩化アルミニウムを多く含む場合、懸濁物質の凝集に効果的に作用せず、フロックを良好に形成することができない。また、浄化処理後の被処理水にポリ塩化アルミニウムが流出するおそれがある。粒径が1μmよりも大きいポリ塩化アルミニウムを多く含む場合、被処理水の濁度に影響を及ぼすおそれがあるため、凝集剤として適さない。
【0053】
一実施形態では、上述した塩基度が65~80%の高塩基度であり、かつ粒径が0.5μm~1μmのポリ塩化アルミニウムを1mL当たり12万個以上含む凝集剤に加えて、公知の無機凝集剤、あるいは有機凝集剤を併用してもよい。
【0054】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 水処理装置
2 被処理水供給配管
3 性状測定装置
5 凝集剤供給配管
7 凝集剤貯槽
8 凝集剤注入装置
10 撹拌機
12 撹拌槽
13 撹拌翼
15 モータ
20 浄化装置
21 撹拌水移送配管
25 砂ろ過装置
26 浄化水移送配管
30 制御装置
50 水槽