(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169936
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】金属筒体の抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20231124BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20231124BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N27/00 L
G01N27/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081288
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 二朗
(72)【発明者】
【氏名】橋田 修吉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 陸
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 康平
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050EB02
2G050EC06
2G060AA10
2G060AD04
2G060AE28
2G060AF07
2G060AG04
2G060EA08
2G060EB02
2G060HC02
2G060HC14
2G060HC15
(57)【要約】
【課題】金属筒体が腐食している場合でも板厚を簡単に評価できる抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を提供する。
【解決手段】抵抗測定治具3は、金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体3Aと、本体3Aの板面方向に交差する方向に延び、本体3Aの板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃34と、を備える。ドリル刃34は、抵抗計の端子を接続可能に構成され、電気信号を導通可能な導電性を有してもよい。本体3Aの底面部には、金属筒体の表面に吸着する磁石31が設けられてもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備える抵抗測定治具。
【請求項2】
前記ドリル刃は、抵抗計の端子を接続可能に構成され、電気信号を導通可能な導電性を有している、
請求項1に記載の抵抗測定治具。
【請求項3】
前記本体の底面部には、前記金属筒体の表面に吸着する磁石が設けられている、
請求項1又は2に記載の抵抗測定治具。
【請求項4】
前記ドリル刃の基端部には、ユーザによる回転操作が可能な回転つまみが設けられ、
前記回転つまみは、その基端側に設けられ、抵抗計の端子が差し込み可能な差し込み口と、その先端側に設けられ、前記ドリル刃の基端部が取り付けられる取り付け口と、を備え、
前記差し込み口及び前記取り付け口は、前記差し込み口に前記端子を差し込むと、前記端子が前記取り付け口に取り付けられた前記ドリル刃の基端部に接触するように形成されている、
請求項1又は2に記載の抵抗測定治具。
【請求項5】
前記本体の上面部に設けられ、前記ドリル刃が前進する方向に向かって前記ドリル刃を付勢すると共に前記ドリル刃を回転可能に支持する支持手段をさらに備える、
請求項1又は2に記載の抵抗測定治具。
【請求項6】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に一列に並べた状態で前記本体に設けられ、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な電動ドリルのドリル刃を前記金属筒体表面に向けてガイドする複数のガイド部材と、
を備える抵抗測定治具。
【請求項7】
請求項1又は6に記載の抵抗測定治具と、
前記抵抗測定治具を用いて錆皮膜が除去された前記金属筒体の各接点に電気的に接続される複数の端子を備える抵抗計と、
を備える抵抗測定システム。
【請求項8】
抵抗測定治具を金属筒体に装着する工程と、
前記抵抗測定治具を用いて前記金属筒体の錆皮膜を除去することで、前記金属筒体に複数の接点を作成する工程と、
前記金属筒体に作成された各接点に抵抗計の各端子をそれぞれ電気的に接続する工程と、
前記抵抗計により前記金属筒体の抵抗を測定する工程と、
を含む抵抗測定方法。
【請求項9】
金属筒体の腐食箇所及び健全箇所の抵抗を測定する工程と、
前記健全箇所の抵抗値と前記腐食箇所の抵抗値とを比較することで、前記腐食箇所の板厚を判定する工程と、
を含む板厚評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属筒体の抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板組立柱や鋼管柱などの金属筒体は低コストかつ高強度の構造物であることから、様々なインフラ設備において、例えば、送配電線、照明、信号などの支持物や無線電波塔として利用されている。金属筒体では、地際部が地中の水分の影響を受けて腐食しやすいため、地際部の腐食が進行していないかどうかを確認する点検が定期的に行われている。この点検では、金属筒体のうち腐食した鋼板の板厚を測定し、測定値が基準を満たしていない場合には鋼板の取り替えが行われる。例えば、特許文献1には、超音波探傷器を用いて鋼板組立柱に超音波を照射し、鋼板組立柱からの反射波に基づいて鋼板組立柱の欠陥の程度を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、広範囲に錆皮膜を除去する必要があり、ケレンに多く労力を要する。ケレンを行うことで、鋼板の板厚が減少すると共に金属母材が露出して腐食が進行するおそれも生じる。加えて、孔食状の腐食のような凹凸が鋼板に生じている場合には、超音波探傷子で鋼板表面を測定できない、という問題もある。また、汎用的な超音波厚さ計を用いることも考えられるが、汎用的な超音波厚さ計は、湾曲した金属筒体の板厚測定を考慮に入れておらず、金属筒体に腐食が存在しない場合でも正確な板厚測定が困難である。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、金属筒体が腐食している場合でも板厚を簡単に評価できる抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る抵抗測定治具は、
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属筒体が腐食している場合でも板厚を簡単に評価できる抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る抵抗測定システムの構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る抵抗計の構成を示す図である。
【
図3】(a)、(b)は、それぞれ本発明の実施の形態1に係る抵抗測定治具の構成を示す正面図、底面図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る抵抗測定治具の構成を示す側面図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係る演算装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】(a)は、抵抗値記憶部のデータテーブルの一例を示す図であり、(b)は、板厚変化率記憶部のデータテーブルの一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態1に係る板厚評価方法の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施の形態1に係る抵抗測定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施の形態1に係る演算処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】(a)、(b)、(c)は、それぞれ本発明の実施の形態2に係る抵抗測定治具の構成を示す正面図、平面図、側面図である。
【
図11】本発明の実施の形態2に係る抵抗測定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図12】鋼材の抵抗値と温度との関係を示す図である。
【
図13】実施例1における試験片毎の抵抗値の測定結果に基づいて作成したグラフである。
【
図14】実施例2における抵抗値と端部からの距離との関係を示すグラフである。
【
図15】実施例3における鋼板組立体における測定箇所を示す図である。
【
図16】実施例3における測定箇所毎の抵抗値の測定結果及び減肉率の換算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
(実施の形態1)
図1~
図9を参照して、実施の形態1に係る抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を説明する。以下、抵抗測定システムを用いて鋼板組立柱の地際部に発生した腐食箇所における板厚を評価する場合を例に説明する。
【0011】
図1に示すように、抵抗測定システム1は、鋼板組立柱の抵抗を測定する抵抗計2と、鋼板組立柱に装着され、抵抗計2と鋼板組立柱とを電気的に接続する抵抗測定治具3と、を備える。抵抗測定治具3には、抵抗計2の端子が挿入される取り付け口が設けられ、抵抗測定治具3の取り付け口に抵抗計2の端子が挿入されることで、抵抗計2と抵抗測定治具3とが電気的に接続される。
【0012】
図2に示すように、抵抗計2は、4端子抵抗計であり、定電流電源及び電圧計を備える本体部21と、本体部21の定電流電源に接続され、測定対象に定電流を供給する一対の電流源端子22と、本体部21の電圧計に接続され、測定対象における電圧降下を検出する一対の電圧検出端子23と、を備える。4端子抵抗計では、電圧計の入力インピーダンスが高いため、電圧検出端子側のリード線にほとんど電流が流れず、リード線の抵抗や接触抵抗の影響を受けずに測定対象の抵抗を測定できる。電流源端子22及び電圧検出端子23は、抵抗測定治具3に設けられた取り付け口に挿入できるよう、いずれもピン状に形成されている。以下、電流源端子22及び電圧検出端子23の区別が不要な場合、両者を総称して端子2Aと表現する。
【0013】
次に、
図3及び
図4を参照して、実施の形態1に係る抵抗測定治具3の構成を説明する。抵抗測定治具3は、鋼板組立柱に装着された状態で鋼板組立柱表面に形成された錆皮膜を除去し、金属母材が露出している鋼板組立柱表面の接点と抵抗計2の端子2Aとを電気的に接続する治具である。
【0014】
抵抗測定治具3は、鋼板組立柱の形状に合わせて変形可能な本体3Aと、本体3Aに対して一列に並べて設けられ、抵抗計2の各端子2Aを受け入れた状態で、抵抗計2の各端子2Aを鋼板組立柱の金属母材が露出している各接点に電気的に接続させる4つの接続ユニット3Bと、を備える。各接続ユニット3Bが一列に並べられているのは、鋼板組立柱の曲率に合わせて本体3Aを湾曲しやすくすると共に、抵抗計2による抵抗の測定精度を向上させるためである。
【0015】
本体3Aは、鋼板組立柱の形状に合わせて変形可能なゴム板で形成されている。本体3Aの底面部には、板面方向に等間隔で一列に並べられた4つの凹部3aが形成されている。凹部3aの中心部に凹部3aから本体3Aの上面部に向かって貫通孔3bが形成され、凹部3aの両端部には、凹部3aから本体3Aの上面部に向かって一対の貫通孔3cが形成されている。ここで板面方向とは、板状の本体3Aが拡がる面内の任意方向を示す。
【0016】
各接続ユニット3Bは、本体3Aの凹部3aの両端で貫通孔3cに合わせて配置され、鋼板組立柱に吸着可能な一対の磁石31と、本体3Aの上面部に設けられ、各磁石31と共に本体3Aを挟み込むように配置された板状部材32と、板状部材32の上面部に設けられた枠部材33と、枠部材33により回転可能に支持され、本体3A、板状部材32及び枠部材33を貫通して配置され、鋼板組立柱表面の錆皮膜を除去するドリル刃34と、ドリル刃34の基端側に設けられ、ユーザによるドリル刃34の回転操作を受け付ける回転つまみ35と、を備える。
【0017】
各磁石31は、鋼板組立柱表面に吸着するように本体3Aの底面部から僅かに突出している。各磁石31は、例えば、永久磁石であり、円盤形状に形成されている。各磁石31の中心部には、ボルト31bが挿通可能な貫通孔31aが設けられている。
【0018】
板状部材32は、各凹部3aのそれぞれに平行に配置される板状の部材である。板状部材32は、中心部に設けられ、ドリル刃34が挿通される貫通孔32aと、貫通孔32aの両側に配置され、枠部材33に固定されるボルト33dの頭部が埋め込まれる一対の貫通孔32bと、一対の貫通孔32bの外側に配置され、ボルト31bが挿通される一対の貫通孔32cと、を備える。
【0019】
板状部材32は、一対の磁石31と共に本体3Aを上下から挟み込んだ状態で本体3Aに固定される。磁石31の貫通孔31a、本体3Aの貫通孔3c及び板状部材32の貫通孔32cには、ボルト31bが挿通された状態で、ボルト31bにナット31cが締め付けられている。
【0020】
貫通孔32bは、ボルト33dの頭部を収容する大径部と、ボルト33dの軸が挿通でき、ボルト33dの頭部が挿通できない小径部と、を備える。貫通孔32bは、ボルト33dの頭部を完全に収容できるため、板状部材32と本体3Aとが固定された状態でも、ボルト33dの頭部が本体3Aの上面部と干渉しない。
【0021】
枠部材33は、上面部と、下面部と、上面部及び下面部にそれぞれ接続された一対の側面部と、を備える。上面部及び下面部には、ドリル刃34が挿通される貫通孔33a、33bがそれぞれ形成され、枠部材33の上面部、下面部及び一対の側面部は、ドリル刃34を収容する内部空間を形成している。枠部材33の下面部の底面側には、一対の雌ねじ孔33cが設けられている。枠部材33は、板状部材32の貫通孔32bに挿通されたボルト33dを雌ねじ孔33cに締め付けることで、板状部材32に対して固定されている。
【0022】
ドリル刃34は、電気信号を導通可能な導電性と鋼板組立体の錆皮膜を粉砕可能な硬さとを兼ね備えるドリルである。ドリル刃34は、鋼板組立体の錆皮膜を粉砕することを考慮すると、ガラスに穴を空けることが可能なガラスドリル刃であることが好ましい。ガラスドリル刃は、超硬合金、例えば、タングステンカーバイド及びコバルトの粉末を混合して焼結した合金で形成されている。ドリル刃34同士の距離は、抵抗計2による測定精度を考慮しつつ、抵抗計2の各端子2Aがそれぞれ電気的に接続される複数の接点が鋼板組立体表面で一列に並べられ、互いに一定間隔となるように設定される。凹凸の激しい腐食鋼板で平均的な値の抵抗値を得るには、ドリル刃34同士の距離を長くするとよいが、ドリル刃34同士の距離を長くすると、今度は測定電圧が小さくなるため測定誤差が大きくなる。実験を鋭意繰り返した結果によると、ドリル刃34同士の距離は、例えば、20mm~30mmの範囲内であることが好ましく、25mmであることがより好ましい。
【0023】
回転つまみ35は、抵抗計2の端子2Aに合わせて形成された差し込み口35aと、ドリル刃34に合わせて形成された取り付け口35bと、を備える。差し込み口35a及び取り付け口35bは、上面部から下面部に突き抜ける1本の貫通孔を形成している。取り付け口35bには、垂直な方向に雌ねじ孔35cが形成されている。ドリル刃34を取り付け口35bに取り付け、雌ねじ孔35cにボルトを締め付けることで、ドリル刃34が回転つまみ35に固定される。ドリル刃34が取り付け口35bに取り付けられた状態で、端子2Aを差し込み口35aに挿入すると、端子2Aの先端面がドリル刃34の基端面に接触し、端子2Aがドリル刃34に電気的に接続される。
【0024】
抵抗測定治具3は、ドリル刃34の中間部に設けられ、ドリル刃34の軸方向の移動を規制するストッパ36と、枠部材33の上面部とストッパ36との間に配置され、ストッパ36を枠部材33の下面部に押し付けるコイルバネ37と、をさらに備える。板状部材32、枠部材33、ストッパ36及びコイルバネ37は、本体3Aの上面部に設けられ、ドリル刃34が前進する方向に向かってドリル刃34を付勢すると共にドリル刃34を回転可能に支持する支持手段の一例である。
【0025】
ストッパ36は、円筒形状の部材であり、内部にドリル刃34が挿通される貫通孔を備える。ストッパ36の周壁部には、貫通孔に向かって貫通孔の径方向に貫通する雌ねじ孔が設けられ、雌ねじ孔にボルトが締め付けられることで、ストッパ36がドリル刃34の中間部に固定される。ストッパ36は、枠部材33の内部空間に配置され、枠部材33の下面部と接触することで、ドリル刃34の本体3A側への移動を規制する。
【0026】
また、ストッパ36は、ドリル刃34に対して押し込み方向の荷重が加えられない状態でコイルバネ37により枠部材33の下面部に押し付けられている。この状態でドリル刃34は、本体3Aの底面部より僅かに、例えば、5mm程度突出している。ストッパ36は、ドリル刃34が回転つまみ35側に押し込まれると、枠部材33の上面部に向かって圧縮されたコイルバネ37の作用により元の位置に戻るように付勢される。このため、抵抗測定治具3を鋼板組立柱に装着すると、鋼板組立柱表面に接触したドリル刃34が僅かに回転つまみ35側に押し込まれ、ドリル刃34が鋼板組立柱表面に向かって付勢される。これにより抵抗測定治具3を鋼板組立柱に装着した状態で、ドリル刃34を確実に鋼板組立柱表面に接触させることができる。
【0027】
抵抗測定治具3は、上記の構成を備えるため、鋼板組立柱表面に金属母材が露出した4つの接点を簡単に作成でき、鋼板組立柱の測定箇所における抵抗を測定できる。また、抵抗計2により測定された抵抗値は、表面に凹凸を有する鋼板組立柱の測定箇所における断面積の平均値に対応しているため、抵抗計2により抵抗を測定することで、鋼板の断面積に依存する鋼板の機械強度を簡便に評価できる。
以上が、抵抗測定治具3の構成である。
【0028】
次に、
図5を参照して、実施の形態1に係る演算装置100のハードウェア構成を説明する。演算装置100は、例えば、汎用コンピュータである。演算装置100は、操作部110と、表示部120と、通信部130と、記憶部140と、制御部150と、を備える。演算装置100の各部は、内部バス(図示せず)を介して相互に接続されている。
【0029】
操作部110は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部150に供給する。操作部110は、例えば、マウス、キーボードを備える。
【0030】
表示部120は、表示駆動回路を備え、制御部150から供給されるデータに基づいて、ユーザに向けて各種の画像を表示する。
【0031】
通信部130は、演算装置100が外部の機器と通信するための通信インタフェースである。通信部130は、例えば、インターネットのような通信ネットワーク、入出力端子を介して外部の機器と通信する。入出力端子は、例えば、USB(Universal Serial Bus)である。
【0032】
記憶部140は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクを備える。記憶部140は、制御部150で実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部140は、各種の情報を一時的に記憶し、制御部150が処理を実行するためのワークメモリとしても機能する。さらに、記憶部140は、抵抗値記憶部141と、板厚変化率記憶部142と、を備える。
【0033】
図6(a)に示すように、抵抗値記憶部141は、抵抗計2により測定された抵抗値を、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応づけて記憶する。鋼板組立柱の識別番号は、鋼板組立柱毎に割り振られた固有の番号である。測定位置は、例えば、鋼板組立柱の軸方向の位置(高さ)z1、z2、…と、鋼板組立柱の軸周りの角度r1、r2、…とにより表現される。
【0034】
図6(b)に示すように、板厚変化率記憶部142は、演算装置100により算出された板厚変化率を、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応づけて記憶する。
【0035】
図5に戻り、制御部150は、プロセッサを備え、演算装置100の各部の制御を行う。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。制御部150は、記憶部140に記憶されているプログラムを実行することにより、
図9の演算処理を実行する。制御部150は、機能的には、取得部151と、平均値算出部152と、板厚変化率算出部153と、出力部154とを備える。
【0036】
取得部151は、抵抗計2により測定された抵抗値に関するデータを取得し、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応づけて抵抗値記憶部141に記憶させる。取得部151によるデータの取得には、記憶部140に記憶されたデータを読み出すことが含まれる。
【0037】
平均値算出部152は、取得部151により取得された抵抗値に基づいて、健全箇所及び各腐食箇所における抵抗値の平均値を算出する。
【0038】
板厚変化率算出部153は、平均値算出部152により算出された健全箇所及び各腐食箇所における抵抗値の平均値に基づいて各腐食箇所における板厚変化率を算出し、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応付けて板厚変化率記憶部142に記憶させる。腐食箇所における板厚変化率は、腐食箇所における抵抗値の平均値を健全箇所における抵抗値の平均値で割ることで算出する。
【0039】
出力部154は、板厚変化率算出部153により算出された各腐食箇所における板厚変化率のデータを外部に出力する。例えば、各腐食箇所における板厚変化率を表示部120に表示させてもよい。
以上が、演算装置100の構成である。
【0040】
(板厚評価方法)
次に、
図7を参照して、実施の形態1に係る抵抗測定システム1を用いてユーザが実行する板厚評価方法の流れを説明する。
【0041】
まず、鋼板組立体表面に腐食が発生している腐食箇所の抵抗を測定する(ステップS11)。鋼板組立柱の腐食箇所は土中部にあるため、スコップ等で穴を掘って鋼板組立柱を露出させる。腐食箇所は、鋼板組立柱を露出させた時点で、鋼板組立体を目視で確認し、減肉していそうなところを中心に何箇所かをピックアップして選択する。抵抗測定は、例えば、
図8に示す方法で実行する。現場での抵抗測定では、周囲環境の影響により誤差が生じやすいため、同一箇所に対する抵抗測定は、少なくとも5回以上行うことが好ましい。
【0042】
次に、鋼板組立体表面に腐食が発生していない健全箇所の抵抗を測定する(ステップS12)。健全箇所は、通常腐食することのない地上部の任意の箇所を選択してもよく、土中部でも目視で腐食していない箇所を選択してもよい。抵抗測定の手法は、ステップS11の工程の場合と同一である。
【0043】
次に、ステップS11の工程で測定した腐食箇所の抵抗値とステップS12の工程で測定した健全箇所の抵抗値とを比較することで、腐食箇所における板厚を評価する(ステップS13)。具体的には、演算装置100に
図9の演算処理を実行させることで、腐食箇所の板厚変化率を算出する。次に、算出された腐食箇所の板厚変化率に基づいて、鋼板組立体における鋼管の交換が必要かどうかを判断すればよい。
以上が、板厚評価方法の流れである。
【0044】
(抵抗測定方法)
以下、
図8を参照して、実施の形態1に係る抵抗測定システム1を用いてユーザが実行する抵抗測定方法の流れを説明する。実施の形態1に係る抵抗測定方法では、抵抗測定治具3を用いるため、4本の端子2Aを取り扱う抵抗測定であっても作業員一人で実行できる。
【0045】
まず、抵抗測定治具3を鋼板組立柱の測定箇所に設置する(ステップS21)。抵抗測定治具3の本体を全体に張り伸ばすように鋼板組立柱表面に接触させる。抵抗測定治具3が鋼板組立柱表面に接触すると、磁石31により鋼板組立柱表面に吸着される。なお、鋼板組立体のうち鋼管同士が重なった部分(互いに接触する部分)は、抵抗値の測定精度が低下するため、測定箇所として選択しない。できれば鋼管の端部から100mm以上離れた箇所を測定箇所として選択することが好ましい。
【0046】
次に、抵抗測定に必要な限度で測定箇所の錆皮膜を除去し、内部の金属母材をピンポイントで露出させることで、鋼板組立柱表面に接点を作成する(ステップS22)。具体的には、本体3Aを押さえた状態で回転つまみ35を軽く回転させる。回転つまみ35の回転では、特に力を入れる必要はなく、10回程度ゆっくりと回す程度でよい。
【0047】
次に、抵抗測定治具3の回転つまみ35の取り付け口35bに端子2Aを挿入し、鋼板組立柱の金属母材が露出している接点と抵抗計2の端子2Aとを電気的に接続させる(ステップS23)。
【0048】
次に、抵抗計2を用いて測定箇所における抵抗を測定する(ステップS24)。具体的には、抵抗計2が出力する測定値が安定した時点で抵抗計2の測定値を読み取る。端子の接触不良で測定値が出力されない場合や測定値が安定しない場合は、再度回転つまみ35を回して鋼板組立柱の接点と抵抗計2の端子との接触状態を改善すればよい。
【0049】
次に、鋼板組立柱から抵抗測定治具3を取り外し(ステップS25)、全ての工程が終了する。
以上が、抵抗測定方法の流れである。
【0050】
(演算処理)
次に、
図9を参照して、実施の形態1に係る演算装置100が実行する演算処理の流れを説明する。演算処理は、抵抗計2を用いて鋼板組立柱の抵抗測定を行った後、演算装置100がユーザによる指示を受け付けた時点で開始する。
【0051】
まず、取得部151は、抵抗計2により測定された抵抗値に関するデータを取得し、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応づけて抵抗値記憶部141に記憶させる(ステップS31)。
【0052】
次に、平均値算出部152は、取得部151により取得された抵抗値に基づいて、健全箇所及び各腐食箇所における抵抗値の平均値を算出する(ステップS32)。
【0053】
次に、板厚変化率算出部153は、平均値算出部152により算出された健全箇所及び各腐食箇所における抵抗値の平均値に基づいて、各腐食箇所における板厚変化率を算出し、鋼板組立柱の識別番号及び測定位置に対応付けて板厚変化率記憶部142に記憶させる(ステップS33)。腐食箇所における板厚変化率は、腐食箇所における抵抗値の平均値を健全箇所における抵抗値の平均値で割ることで算出する。
【0054】
次に、出力部154は、板厚変化率算出部153により算出された各腐食箇所における板厚変化率のデータを表示部120に表示させ(ステップS34)、処理を終了する。
以上が演算処理の流れである。
【0055】
以上説明したように、実施の形態1に係る抵抗測定治具3は、鋼板組立体の形状に合わせて変形可能な板状の本体3Aと、本体3Aの板面方向に垂直な方向に延び、本体3Aの板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、鋼板組立体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃34と、を備える。このため、各ドリル刃34を回転させるという簡単な操作で鋼板組立体の錆皮膜をピンポイントで除去することで、抵抗計2の端子2Aと電気的に接続される複数の接点を一列に並べて一定間隔で作成でき、鋼板組立柱の鋼板における抵抗を測定できる。
【0056】
(実施の形態2)
図10及び
図11を参照して、実施の形態2に係る抵抗測定治具、抵抗測定システム、抵抗測定方法及び板厚評価方法を説明する。実施の形態1では、抵抗測定治具3を用いて錆皮膜を除去した後、抵抗計2の端子2Aを抵抗測定治具3に電気的に接続していたが、実施の形態2では、抵抗測定治具4を用いて錆皮膜を除去した後、抵抗計2の端子2Aを直接鋼板組立柱に電気的に接続する点で相違している。実施の形態2に係る抵抗測定治具4は、実施の形態1に係る抵抗測定治具3では錆皮膜を除去できない場合に有用である。以下、両者の相違する点を中心に説明する。
【0057】
図10を参照して、実施の形態2に係る抵抗測定治具4の構成を説明する。抵抗測定治具4は、鋼板組立柱に装着された状態で鋼板組立柱表面の錆皮膜を除去し、抵抗計2の端子2Aの接点を作成する電動ドリルのドリル刃をガイドする治具である。電動ドリルのドリル刃は、抵抗測定治具3のドリル刃34と同様に、ガラスドリル刃であることが好ましい。
【0058】
抵抗測定治具4は、鋼板組立柱の形状に合わせて変形可能な本体4Aと、本体4Aに対して一列に並べて設けられ、それぞれ電動ドリルのドリル刃を受け入れる4つのガイドユニット4Bと、を備える。各ガイドユニット4Bが一列に並べられているのは、鋼板組立柱の曲率に合わせて本体4Aを湾曲しやすくすると共に、抵抗計2による抵抗の測定精度を向上させるためである。
【0059】
本体4Aは、鋼板組立柱の形状に合わせて変形可能なゴム板で形成されている。本体4Aには、板面方向に等間隔で一列に並べられて配置され、下面部から上面部に向かって貫通している4つの貫通孔4aが形成されている。また、貫通孔4aの両側には、それぞれ下面部から上面部に向かって貫通している一対の貫通孔4bが形成されている。
【0060】
各ガイドユニット4Bは、本体4Aの底面部に設けられ、貫通孔4bに合わせて配置され、鋼板組立柱に吸着可能な一対の磁石41と、本体4Aの上面部に設けられ、各磁石41と共に本体4Aを挟み込むように配置され、電動ドリルのドリル刃をガイドするガイド部材42と、を備える。
【0061】
各磁石41は、例えば、円盤形状に形成されている。各磁石41は、鋼板組立柱表面に吸着するように本体4Aの底面部から離れる方向に突出している。各磁石41の中心部には、ボルト41bが挿通可能な貫通孔41aが形成されている。
【0062】
ガイド部材42は、本体4Aの上面部に設置される板状部材42aと、板状部材の下面部から延び、本体4Aの貫通孔4aに収容される円筒スリーブ42bと、を備える。ガイド部材42の中心部には、電動ドリルのドリル刃が挿通されるガイド孔42cが形成されている。ガイド孔42cは、上面部から下面部に向かって窄まるように形成されている。隣接するガイド孔42cの中心点同士の距離は、抵抗測定治具3のドリル刃34同士の距離と同様に設定され、例えば、20mm~30mmの範囲内であることが好ましく、25mmであることがより好ましい。
【0063】
板状部材42aの両端部には、ボルト41bが挿通される一対の貫通孔42dが形成されている。ガイド部材42は、一対の磁石41と共に本体4Aを挟み込んだ状態で本体4Aに固定されている。磁石41の貫通孔41a、本体4Aの貫通孔4b及びガイド部材42の貫通孔42dには、ボルト41bが挿通され、ボルト41bにナット41cが締め付けられている。
以上が、抵抗測定治具4の構成である。
【0064】
(抵抗測定方法)
以下、
図11を参照して、実施の形態2に係る抵抗測定システム1を用いてユーザが実行する抵抗測定方法の流れを説明する。この方法では、測定計2の4本の端子を人手で把持して鋼板組立柱に作成された接点に接触させる必要があるため、作業員が少なくとも2人以上必要である。
【0065】
まず、抵抗測定治具4を鋼板組立柱の測定箇所に設置する(ステップS41)。抵抗測定治具4の本体4Aの全体を張り伸ばすように鋼板組立柱表面に接触させる。抵抗測定治具4が鋼板組立柱表面に接触すると、磁石41により鋼板組立柱表面に吸着される。
【0066】
次に、電動ドリルをガイド孔42cにセットし、電動ドリルで鋼板組立柱の錆皮膜を除去することで、鋼板組立柱に抵抗計2の端子2Aとの接点を作成する(ステップS42)。鋼板組立柱の接点では、金属母材を露出させる必要がある。金属母材が露出していることを確認するには、ペンライトで切削箇所を照らし、反射光による光沢が生じるかどうか目視で観察するとよい。
【0067】
次に、鋼板組立柱から抵抗測定治具4を取り外す(ステップS43)。
【0068】
次に、鋼板組立柱の接点と抵抗計の端子とを電気的に接続させる(ステップS44)。鋼板組立柱の接点は、周囲に比べて僅かに凹んでいるため、ピン状に形成された抵抗計2の端子2Aを当てると、手の感触でその位置を確認できる。
【0069】
次に、測定箇所における抵抗を測定する(ステップS45)。具体的には、抵抗計2が出力する測定値が安定した時点で測定値を読み取る。
以上が、抵抗測定方法の流れである。
【0070】
実施の形態2に係る抵抗測定治具4は、鋼板組立柱の形状に合わせて変形可能な本体4Aと、本体4Aを貫通するように本体4Aに対して一列に並べた状態で本体4Aに設けられ、鋼板組立柱に形成された錆皮膜を除去可能な電動ドリルのドリル刃を鋼板組立柱に向けてガイドする複数のガイド部材42と、を備える。このため、抵抗測定治具4で錆皮膜の除去が困難な場合でも、電動ドリルを用いて鋼板組立柱表面に金属母材が露出した複数の接点を同一の間隔で繰り返し作成できるため、鋼板組立柱の測定対象における抵抗を簡単に測定できると共に、各測定対象における抵抗値を互いに比較できる。
【0071】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0072】
(変形例)
上記実施の形態では、抵抗測定システム1を用いて鋼板組立柱に発生した腐食箇所における板厚を評価する場合を例に説明していたが、本発明はこれに限られない。例えば、抵抗測定システム1を用いて鋼板組立柱に発生した摩耗箇所における板厚を評価してもよい。
【0073】
上記実施の形態では、抵抗計2として4端子抵抗計を用いていたが、本発明はこれに限られない。鋼板の抵抗を正確に測定できれば、抵抗計2はいかなる抵抗計であってもよい。抵抗測定治具3、4における接続ユニット3B及びガイドユニット4Bの数は、抵抗計2の端子の数に合わせて設定すればよい。
【0074】
上記実施の形態では、本体3A、4Aは、いずれもゴム板で形成されていたが、本発明はこれに限られない。本体3A、4Aは、鋼板組立柱の曲率に合わせて変形可能であればよく、例えば、4枚の板部材を一列に並べ、隣接する板部材を互いにヒンジで折り曲げ可能に接続して構成してもよい。
【0075】
上記実施の形態では、本体3A、4Aから磁石31、41、板状部材32及びガイド部材42がそれぞれ取り外し可能に構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、磁石31、41、板状部材32及びガイド部材42を本体3A、4Aから取り外しできないように固定してもよい。
【0076】
上記実施の形態1では、磁石31が本体3Aの凹部3aに取り付けられていたが、本発明はこれに限られない。例えば、本体3Aにおいて凹部3aを省略してもよい。
【0077】
上記実施の形態では、磁石31、41は永久磁石であったが、本発明はこれに限られない。例えば、磁石31、41として通電により磁力を発生させる電磁石を用いてもよい。
【0078】
上記実施の形態1では、板状部材32と枠部材33とが別体で、互いに取り外し可能に構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、板状部材32と枠部材33とを一体に構成してもよい。
【0079】
上記実施の形態1では、ドリル刃34が本体3Aの板面方向に垂直な方向に延びていたが、本発明はこれに限られない。ドリル刃34は本体3Aの板面方向に交差する方向に延びていればよく、例えば、ドリル刃34を本体3Aに垂直な方向を基準にして傾けてもよい。
【0080】
上記実施の形態1では、ドリル刃34は導電性を有していたが、本発明はこれに限られない。例えば、抵抗測定治具3を鋼板組立柱表面に接点を作成する用途で使用するだけであれば、ドリル刃34は非導電性であってもよい。
【0081】
上記実施の形態1では、抵抗計2の端子2Aを差し込み口35aに挿入することで、端子2Aの先端面をドリル刃34の基端面に接触させていたが、本発明はこれに限られない。例えば、ドリル刃34の基端部を回転つまみ35の基端面から露出させ、ドリル刃34の基端部を抵抗計2の端子2Aに設けられたワニ口クリップで挟むようにしてもよい。また、回転つまみ35を省略して、直接ドリル刃34に端子2Aを接続するように構成してもよい。
【0082】
上記実施の形態1では、枠部材33の上面部とストッパ36との間にコイルバネ37が配置されていたが、本発明はこれに限られない。錆皮膜の状態を考慮してドリル刃34を鋼板組立柱表面に押し付ける必要が無いと判断できれば、ストッパ36及びコイルバネ37を省略してもよい。
【0083】
上記実施の形態では、抵抗計2が出力した抵抗値をそのまま用いていたが、本発明はこれに限られない。抵抗計2は、付属の温度センサにより外気温を測定し、測定した抵抗値を予め設定された温度の抵抗値に補正して出力している。このため、鋼板組立柱表面の温度と外気温とが相違していると、抵抗値に誤差が生じる可能性がある。
【0084】
このような場合には、例えば、
図12に示すような鋼材の温度と抵抗値の理論値との関係を示すグラフ等に基づいて、鋼板組立柱表面の温度と抵抗値との関係を示す変換テーブルを予め作成しておく。そして、抵抗の測定時に鋼板組立柱表面の温度を温度計で測定し、変換テーブルを参照して鋼板組立柱表面の温度の測定値に合わせて抵抗値を補正すればよい。このとき、鋼板組立柱表面の温度を測定する温度計としては、鋼板組立柱表面の温度場を乱さないように非接触式温度計を用いればよい。
【0085】
上記実施の形態では、抵抗計2により測定した抵抗値に基づいて腐食箇所における板厚変化率を測定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、抵抗計2により測定した抵抗値に基づいて腐食箇所の板厚を算出してもよい。具体的には、演算装置100の記憶部140に、鋼板の抵抗値と鋼板の板厚との関係を示すマスターカーブ(関係式)を記憶させ、演算装置100の制御部150に、記憶部140に記憶されたマスターカーブに基づいて鋼板の抵抗値から鋼板の板厚に算出する板厚算出部を設けるとよい。マスターカーブは、材料毎に板厚が既知である試験片における抵抗測定を繰り返すことで予め生成しておけばよい。
【0086】
上記実施の形態では、演算装置100の記憶部140に各種データが記憶されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、各種データは、その全部又は一部が通信ネットワークを介して外部の制御装置やコンピュータに記憶されていてもよい。
【0087】
上記実施の形態では、演算装置100は、それぞれ記憶部140に記憶されたプログラムに基づいて動作していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、プログラムにより実現された機能的な構成をハードウェアにより実現してもよい。
【0088】
上記実施の形態では、演算装置100は、例えば、汎用コンピュータであったが、本発明はこれに限られない。例えば、演算装置100は、クラウド上に設けられたコンピュータで実現してもよい。
【0089】
上記実施の形態では、演算装置100が実行する処理は、上述の物理的な構成を備える装置が記憶部140に記憶されたプログラムを実行することによって実現されていたが、本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
【0090】
また、上述の処理動作を実行させるためのプログラムを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto-Optical Disk)のようなコンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納して配布し、そのプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理動作を実行する装置を構成してもよい。
【0091】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
実施例1では、厚さが既知の試験片を用いて試験片の板厚と抵抗値との間に相関関係があるかどうかを検証した。まず、板厚がそれぞれ異なる5種類の試験片を作成した。各試験片は、腐食が発生していない市販の炭素鋼を400mm×400mmのサイズで切り出したものである。試験片毎の板厚は、それぞれ1.5mm、1.8mm、2.3mm、2.6mm、3.0mmである。これらの試験片に抵抗測定治具3、4のいずれかを用いて抵抗計2の端子2Aを接続し、それぞれにおいて抵抗値を5回測定した。抵抗計2は、HIOKI RM3584を使用した。
【0094】
その結果、
図13に示すように抵抗値をグラフにプロットすると、試験片の板厚と抵抗値とは反比例の関係にあることが判明した。相関係数は0.9997である。なお、試験片毎に5回測定した抵抗値の標準偏差は、いずれの試験片でも0.4以下と十分に小さく、抵抗値の測定結果は妥当であると考えられる。
【0095】
(実施例2)
次に、鋼板組立柱の鋼板の抵抗を測定する際の鋼板が重なる箇所の影響について厚さが既知の試験片を用いて検証を行った。鋼板が重なる箇所では、鋼板の端部において電気力線の広がりが抑制されて電流密度が高くなり、その結果として見かけ上の抵抗値が高くなると考えられるためである。この検証では、厚さ2.3mmの試験片を使用し、試験片の端部から10mm間隔で測定位置をずらして抵抗を繰り返し測定した。その他の条件は実施例1と同一である。
【0096】
その結果、
図14に示すように試験片の端部から100mm以上離れると試験片の端部における電流密度の影響は無視できることが判明した。したがって、鋼板の端部から100mm以上離れた箇所に金属母材を露出させた接点を作成することが望ましいと理解できる。
【0097】
(実施例3)
実施例3では、実設備の鋼板組立体を用いて抵抗値により板厚を評価できるかどうかを検証した。まず、実設備の鋼板組立体を採取し、
図15に示す腐食レベル小、腐食レベル中、腐食レベル大の3つの測定箇所における抵抗を測定し、各測定箇所における板厚を評価した。腐食レベル小は、目視で腐食が確認できない箇所、腐食レベル中は、目視である程度の腐食が確認できる箇所、腐食レベル大は、腐食レベル中よりも明らかに腐食が進行した箇所である。抵抗の測定は、実施例1と同じ条件でそれぞれ6回ずつ実施した。
【0098】
その結果、
図16に示すように抵抗値が得られた。腐食レベル小の減肉率(板厚変化率)を0%とし、腐食レベル中、腐食レベル大の減肉率を腐食レベル小の抵抗値に対する腐食レベル中、腐食レベル大の抵抗値の比率で表現したところ、
図16に示すように腐食レベル中、腐食レベル大の減肉率は、それぞれ26.0%、35.8%であった。この減肉率は、実設備の鋼板組立体に関する目視で確認した腐食状況によく対応しており、実設備の鋼板組立体においても抵抗値により板厚を評価できることが確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1 抵抗測定システム
2 抵抗計
3,4 抵抗測定治具
3A,4A 本体
31 磁石
34 ドリル刃
35 回転つまみ
35a 差し込み口
35b 取り付け口
42 ガイド部材
42c ガイド孔
【手続補正書】
【提出日】2023-07-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る抵抗測定治具は、
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備え、
前記ドリル刃は、超硬合金で形成されたガラスドリル刃である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備え、
前記ドリル刃は、超硬合金で形成されたガラスドリル刃である、
抵抗測定治具。
【請求項2】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
前記本体の上面部に設けられ、前記ドリル刃を回転可能に支持する支持手段と、
を備え、
前記ドリル刃は、前記ドリル刃の基端部が前記支持手段の外側に配置され、抵抗計の端子と接続可能となるように構成され、電気信号を導通可能な導電性を有している、
抵抗測定治具。
【請求項3】
前記支持手段は、前記ドリル刃が前進する方向に向かって前記ドリル刃を付勢する、
請求項2に記載の抵抗測定治具。
【請求項4】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備え、
前記本体には、各ドリル刃が貫通される複数の貫通孔が形成され、
前記本体の底面部には、前記金属筒体の表面に吸着する一対の磁石が各貫通孔の両側にそれぞれ設けられている、
抵抗測定治具。
【請求項5】
前記ドリル刃の基端部には、ユーザによる回転操作が可能な回転つまみが設けられ、
前記回転つまみは、その基端側に設けられ、抵抗計の端子が差し込み可能な差し込み口と、その先端側に設けられ、前記ドリル刃の基端部が取り付けられる取り付け口と、を備え、
前記差し込み口及び前記取り付け口は、前記差し込み口に前記端子を差し込むと、前記端子が前記取り付け口に取り付けられた前記ドリル刃の基端部に接触するように形成されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載の抵抗測定治具。
【請求項6】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に一列に並べた状態で前記本体に設けられ、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な電動ドリルのドリル刃を前記金属筒体表面に向けてガイドする複数のガイド部材と、
を備える抵抗測定治具であって、
前記ガイド部材には、その上面部から下面部に向かって貫通し、前記電動ドリルのドリル刃を挿通可能なガイド孔が形成され、
前記電動ドリルは、前記抵抗測定治具が前記金属筒体表面に設置された後に前記ガイド孔にセットされる、
抵抗測定治具。
【請求項7】
請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の抵抗測定治具と、
前記抵抗測定治具を用いて錆皮膜が除去された前記金属筒体の各接点に電気的に接続される複数の端子を備える抵抗計と、
を備える抵抗測定システム。
【請求項8】
請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の抵抗測定治具を前記金属筒体に装着する工程と、
前記抵抗測定治具を用いて前記金属筒体の錆皮膜を除去することで、前記金属筒体に複数の接点を作成する工程と、
前記金属筒体に作成された各接点に抵抗計の各端子をそれぞれ電気的に接続する工程と、
前記抵抗計により前記金属筒体の抵抗を測定する工程と、
を含む抵抗測定方法。
【請求項9】
請求項1から4及び6のいずれか1項に記載の抵抗測定治具を用いて前記金属筒体の腐食箇所及び健全箇所の抵抗をそれぞれ測定する工程と、
前記健全箇所の抵抗値と前記腐食箇所の抵抗値とを比較することで、前記腐食箇所の板厚を判定する工程と、
を含む板厚評価方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る抵抗測定治具は、
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
前記本体の上面部に設けられ、前記ドリル刃を回転可能に支持する支持手段と、
を備え、
前記ドリル刃は、前記ドリル刃の基端部が前記支持手段の外側に配置され、抵抗計の端子と接続可能となるように構成され、電気信号を導通可能な導電性を有している。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
前記本体の上面部に設けられ、前記ドリル刃を回転可能に支持する支持手段と、
を備え、
前記ドリル刃は、前記ドリル刃の基端部が前記支持手段の外側に配置され、抵抗計の端子と接続可能となるように構成され、電気信号を導通可能な導電性を有している、
抵抗測定治具。
【請求項2】
前記支持手段は、前記ドリル刃が前進する方向に向かって前記ドリル刃を付勢する、
請求項1に記載の抵抗測定治具。
【請求項3】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備え、
前記本体には、各ドリル刃が貫通される複数の貫通孔が形成され、
前記本体の底面部には、前記金属筒体の表面に吸着する一対の磁石が各貫通孔の両側にそれぞれ設けられている、
抵抗測定治具。
【請求項4】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に交差する方向に延び、前記本体の板面方向に一列に並べた状態で回転可能に支持され、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な複数のドリル刃と、
を備え、
前記ドリル刃の基端部には、ユーザによる回転操作が可能な回転つまみが設けられ、
前記回転つまみは、その基端側に設けられ、抵抗計の端子が差し込み可能な差し込み口と、その先端側に設けられ、前記ドリル刃の基端部が取り付けられる取り付け口と、を備え、
前記差し込み口及び前記取り付け口は、前記差し込み口に前記端子を差し込むと、前記端子が前記取り付け口に取り付けられた前記ドリル刃の基端部に接触するように形成されている、
抵抗測定治具。
【請求項5】
金属筒体の形状に合わせて変形可能な板状の本体と、
前記本体の板面方向に一列に並べた状態で前記本体に設けられ、前記金属筒体に形成された錆皮膜を除去可能な電動ドリルのドリル刃を前記金属筒体表面に向けてガイドする複数のガイド部材と、
を備える抵抗測定治具であって、
前記ガイド部材には、その上面部から下面部に向かって貫通し、前記電動ドリルのドリル刃を挿通可能なガイド孔が形成されている、
抵抗測定治具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の抵抗測定治具と、
前記抵抗測定治具を用いて錆皮膜が除去された前記金属筒体の各接点に電気的に接続される複数の端子を備える抵抗計と、
を備える抵抗測定システム。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の抵抗測定治具を前記金属筒体に装着する工程と、
前記抵抗測定治具を用いて前記金属筒体の錆皮膜を除去することで、前記金属筒体に複数の接点を作成する工程と、
前記金属筒体に作成された各接点に抵抗計の各端子をそれぞれ電気的に接続する工程と、
前記抵抗計により前記金属筒体の抵抗を測定する工程と、
を含む抵抗測定方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の抵抗測定治具を用いて前記金属筒体の腐食箇所及び健全箇所の抵抗をそれぞれ測定する工程と、
前記健全箇所の抵抗値と前記腐食箇所の抵抗値とを比較することで、前記腐食箇所の板厚を判定する工程と、
を含む板厚評価方法。