(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169949
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
G09F 9/30 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G09F9/30 308Z
G09F9/30 338
G09F9/30 348A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081310
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 匠
【テーマコード(参考)】
5C094
【Fターム(参考)】
5C094AA36
5C094BA03
5C094BA21
5C094DA06
5C094DB01
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い、伸縮可能なフレキシブル電子装置を実現する。
【解決手段】
本発明の構成は次のとおりである。複数の素子領域101が第1の方向に第1の間隔をもって配置し、第2の方向に第2の間隔をもって配置し、前記複数の素子領域101は、蛇行しながら第1の方向に延在する第1の有機絶縁膜によって第1の方向に接続し、前記第1の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第1の配線111が形成され、前記複数の素子領域は、蛇行しながら第2の方向に延在する第2の有機絶縁膜によって第2の方向に接続し、前記第2の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第2の配線121が形成されていることを特徴とする電子装置。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子領域が第1の方向に第1の間隔をもって配置し、第2の方向に第2の間隔をもって配置し、
前記複数の素子領域は、蛇行しながら第1の方向に延在する第1の有機絶縁膜によって第1の方向に接続し、前記第1の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第1の配線が形成され、
前記複数の素子領域は、蛇行しながら第2の方向に延在する第2の有機絶縁膜によって第2の方向に接続し、前記第2の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第2の配線が形成されていることを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記素子領域、前記第1の有機絶縁膜、及び前記第2の有機絶縁膜は、有機絶縁膜で形成された基材の上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記基材、第1の有機絶縁膜、第2の有機絶縁膜は、ミアンダ構造を含む外形を有していることを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記素子領域は、無機絶縁膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項5】
前記素子領域には、前記第1の方向に延在する第3の配線が第1の金属膜によって形成され、前記第2の方向に延在する第4の配線が第2の金属膜によって形成され、
前記第1の配線と前記第3の配線は接続し、前記第2の配線は前記第4の配線と接続することを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項6】
前記第3の配線は、端部において、前記第1の配線と積層し、前記第4の配線は、端部において、前記第2の配線と積層することを特徴とする請求項5に記載の電子装置。
【請求項7】
前記第1の配線と前記第3の配線は走査線であり、前記第2の配線と前記第4の配線は信号線であることを特徴とする請求項5に記載の電子装置。
【請求項8】
前記基材、前記第1の有機絶縁膜、前記第2の有機絶縁膜はポリイミドで形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項9】
前記第2の有機絶縁膜は、第3の有機絶縁膜によって覆われ、
前記第3の有機絶縁膜は前記素子領域にも形成され、
前記素子領域に形成された素子は、前記第3の有機絶縁膜の上に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項10】
前記第3の有機絶縁膜はミアンダ構造を有していることを特徴とする請求項9に記載の電子装置。
【請求項11】
前記第3の有機絶縁膜及び前記基材の側面は、第4の有機絶縁膜によって覆われ、前記第4の有機絶縁膜のヤング率は、前記基材よりも小さいことを特徴とする請求項9に記載の電子装置。
【請求項12】
前記基材及び前記第4の有機絶縁膜の下面には、第5の有機絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項11に記載の電子装置。
【請求項13】
前記第5の有機絶縁膜のヤング率は、前記基材のヤング率よりも小さいことを特徴とする請求項12に記載の電子装置。
【請求項14】
前記電子装置は、主面方向において、動作可能な伸長率は10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項15】
前記素子領域に形成された素子は、トランジスタまたはダイオードを含むことを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項16】
前記素子領域に形成された素子は、光センサ、温度センサ、圧力センサ、タッチセンサ、発光素子、又は、受光素子であることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項17】
前記素子領域に形成された素子は、アクチュエータであることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可撓性および伸縮性を有した電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性あるいは伸縮性を有する電子装置への需要が高まっている。このようなフレキシブル電子装置の用途は、例えば、曲面を有する電子機器の筐体に貼り付ける、曲面を有する表示媒体に取り付ける、センサとして人体等に取り付ける等がある。素子としては、例えばタッチセンサ、温度センサ、圧力センサ、加速度センサなどのセンサ、あるいは、種々の表示装置を構成する発光素子、光バルブ等が挙げられる。
【0003】
センサ装置では、各素子を制御するために、走査線や信号線が用いられる。フレキシブル電子装置においては、装置が湾曲や伸縮に耐える必要がある。特許文献1には、走査線及び信号線を蛇行させる(以後ミアンダ配線とも言う)ことによって、曲げや伸縮に耐える構成とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査線や信号線をミアンダ構造とすることによって、フレキシブル電子装置を伸縮させたり湾曲させたりすることに対してはある程度の耐性を得ることが出来る。しかし、装置を伸縮させたり、湾曲させたりすると、走査線や信号線をミアンダ構造としても、配線全体に対して均一な応力とすることが出来るわけではない。
【0006】
すなわち、装置を伸縮させたり、湾曲させたりすると、応力が最も大きくなる部分において破断が生ずる。逆にいうと、この応力が最もかかりやすい部分の構造を対策することによって、フレキシブル電子装置の湾曲や伸縮に対する耐性を向上させることが出来る。
【0007】
本発明の課題は、フレキシブル電子装置を伸縮させたり、湾曲させたりしたときに、応力がかかりやすい部分の構造を対策し、伸縮や湾曲に対して耐性が高い、したがって、信頼性が高いフレキシブル電子装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を実現するものであり、代表的な手段は次のとおりである。
【0009】
(1)複数の素子領域が第1の方向に第1の間隔をもって配置し、第2の方向に第2の間隔をもって配置し、前記複数の素子領域は、蛇行しながら第1の方向に延在する第1の有機絶縁膜によって第1の方向に接続し、前記第1の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第1の配線が形成され、前記複数の素子領域は、蛇行しながら第2の方向に延在する第2の有機絶縁膜によって第2の方向に接続し、前記第2の有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる第2の配線が形成されていることを特徴とする電子装置。
【0010】
(2)前記素子領域、前記第1の有機絶縁膜、及び前記第2の有機絶縁膜は、有機絶縁膜で形成された基材の上に形成されていることを特徴とする(1)に記載の電子装置。
【0011】
(3)前記基材、第1の有機絶縁膜、第2の有機絶縁膜は、ミアンダ構造を含む外形を有していることを特徴とする(2)に記載の電子装置。
【0012】
(4)前記素子領域は、無機絶縁膜を含むことを特徴とする(1)に記載の電子装置。
【0013】
(5)前記素子領域には、前記第1の方向に延在する第3の配線が第1の金属膜によって形成され、前記第2の方向に延在する第4の配線が第2の金属膜によって形成され、前記第1の配線と前記第3の配線は接続し、前記第2の配線は前記第4の配線と接続することを特徴とする(1)に記載の電子装置。
【0014】
(6)前記第3の配線は、端部において、前記第1の配線と積層し、前記第4の配線は、端部において、前記第2の配線と積層することを特徴とする(5)に記載の電子装置。
【0015】
(7)前記第1の配線と前記第3の配線は走査線であり、前記第2の配線と前記第4の配線は信号線であることを特徴とする請求項6に記載の電子装置。
【0016】
(8)前記基材、前記第1の有機絶縁膜、前記第2の有機絶縁膜はポリイミドで形成されていることを特徴とする(2)に記載の電子装置。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】アクティブ領域における配線形状を示す平面図である。
【
図8】配線及び素子が形成される、基材の一部を示す平面図である。
【
図9】フレキシブル電子装置が横方向(x方向)に延ばされた場合おいて、大きなストレスが生ずる領域を示す平面図である。
【
図10】
図9に示す、大きなストレスがかかる領域において配線に断線が生ずることを示す平面図である。
【
図16】ミアンダ構造にグラフェンによる走査線を形成した状態を示す平面図である。
【
図17】素子領域に形成された走査線と、ミアンダ構造に形成されたグラフェンによる走査線を接続した状態を示す平面図である。
【
図18】実施例1によるアクティブ領域の平面図である。
【
図19】
図18の構成を実現する最初のプロセスを示す断面図である。
【
図20】第1有機絶縁膜の表面にレーザを照射してグラフェンを形成している状態の断面図である。
【
図21】走査線を構成するグラフェンの平面図である。
【
図23】第2有機絶縁膜の表面にレーザを照射してグラフェンを形成している状態の断面図である。
【
図24】信号線を構成するグラフェンの平面図である。
【
図25】信号線側に第3有機絶縁膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図26】走査線側に第3有機絶縁膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図27】走査線側のミアンダ構造をパターニングした状態を示す断面図である。
【
図28】
図27の構成を覆って、上バッファー層及び上保護膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図29】
図28の構成からガラス基板を除去している状態を示す断面図である。
【
図30】
図29の構成に下バッファー層及び下保護層を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に実施例を用いて本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例0019】
図1は、実施例1におけるフレキシブル電子装置1の平面図である。
図1のフレキシブル電子装置1は全体としては平板状となっているが、z方向に湾曲させたり、x-y平面上において、伸ばしたりすることが出来る。破断伸長率、すなわち、フレキシブル電子装置1が破壊するまでの伸び率は、フレキシブル電子装置1を構成する材料によっても異なるが、延性に富む有機材料が主となっている場合は、伸び率は30%程度が可能である、場合によっては、60%が可能な場合もある。一方、無機材料が比較的多く使用されていれば、伸び率は、10%乃至15%程度である。
【0020】
図1において、フレキシブル電子装置1は、アクティブ領域5が大きな領域を占めている。アクティブ領域5には、電子素子100がマトリクス状に配置している。電子素子100としては、例えば、センサ、半導体素子、アクチュエータ等を配置することが出来る。センサとしては、例えば、可視光あるいは赤外光を検出する光センサ、温度センサ、圧力センサ、タッチセンサ等を配置することが出来る。半導体素子としては、例えば、発光素子、受光素子、ダイオード、トランジスタ等を配置することが出来る。アクチュエータとしては、例えば、ピエゾ素子等を使用することができる。
【0021】
各電子素子100は走査線110及び信号線120と接続している。走査線110は横方向(x方向)に延在し、縦方向(y方向)に配列している、信号線120は縦方向に延在し、横方向に配列している。
図1では、走査線110も信号線120も直線状に延在しているが、これは、図を複雑にしないためであり、実際には、
図3に示すように、蛇行して走査線110は横方向に延在し、信号線120は縦方向に延在している。
【0022】
図1において、アクティブ領域5の外側には、駆動回路115、125や端子領域6が配置している。アクティブ領域5のx方向両側には走査線駆動回路115が配置し、アクティブ領域5のy方向上側には、電子素子100に電源を供給するための電源回路130が存在し、アクティブ領域5のy方向下側には信号線駆動回路125が配置している。信号線駆動回路125のさらに下側には、端子領域6が配置している。端子領域6にはフレキシブル電子装置1に電源や信号を供給し、また、信号を外部に送るためのフレキシブル配線基板150が接続している。
【0023】
図2は
図1のA-A断面図である。
図2は概略断面図である。
図2において、
図1で説明した電子素子100(以後電子素子は単に素子100という)、走査線110、信号線120等は素子層2に存在している。つまり、フレキシブル電子装置1としての機能は素子層2に存在している。この素子層2を上側から上保護層3、下側から下保護層4によって覆っている。上保護層3も下保護層4も、弾性変形をしやすい、すなわち、ヤング率の小さい材料によって形成されている。
【0024】
図2において、アクティブ領域5及び駆動回路115、125等は、上保護層3と下保護層4によって覆われているが、素子層2の端部には、上保護層3に覆われていない部分があり、この部分が端子領域6となっている。端子領域6は、下保護層4のみによって保護されている。端子領域6には、フレキシブル配線基板150が接続している。
【0025】
図3は比較例における表示領域5の平面図である。なお、
図3乃至
図10は、比較例であるが、新規事項を含むので、従来例ではない。比較例は、実施例1と対比するための例である。
図3は、
図2で示す素子層2の主要構成部分である。すなわち、
図2で示す素子層2は、単一の平面基板として存在しているのではなく、
図3に示すような、走査線110と信号線120が形成されたミアンダ構造102、及び、走査線110と信号線120の交差部に形成され、素子100が形成された、素子領域101の存在する基材10で構成され、いわば、網目状の構造を有している。
【0026】
図3において、ミアンダ構造102及び交点に存在する素子領域101は、ポリイミド等の樹脂で構成されている。この樹脂を基材10として、その上に各種有機絶縁膜を介して、走査線110、信号線120、素子100等が形成されている。
図3において、素子領域101に、菱形の素子100が存在している。このような構成とするのは、フレキシブル電子装置1を引き延ばしたときにも、各部品に対する応力を軽減するためである。
【0027】
図3において、菱形に形成された素子100のx方向の径、及び、y方向の径は、例えば、各々100μmである。素子100のx方向のピッチ及びy方向のピッチは、例えば、250μmである。また、走査線110、信号線120等を含む、ミアンダ構造102における基材10の幅は、例えば30μmである。
【0028】
図4は、
図3のB-B断面図であり、走査線110を含むミアンダ構造102の断面図である。
図4において、基材10の上に第1有機絶縁膜20が形成されている。第1有機絶縁膜20の上に走査線110が形成されている。走査線110を覆って第2有機絶縁膜30が形成され、第2有機絶縁膜の上に第3有機絶縁膜が形成されている。
図3における走査線110を含むミアンダ構造102の平面図は、基材10の平面形状を表している。
【0029】
基材10、第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30、第3有機絶縁膜30は、例えばポリイミドで形成されている。ポリイミドは、機械的な強度、耐熱性等で優れた性能を持つので、走査線110や信号線120の基材10として好適である。すなわち、フレキシブル電子装置1を引き延ばした場合、ミアンダ構造に発生する応力は、ポリイミドが引き受けるので、金属で形成された走査線110等にかかる応力は軽減される。
【0030】
走査線110は例えばTAT(Ti-Al-Ti、チタンーアルミニウムーチタン)構造を有する。三層構造において、導電性は主としてAlが担い、TiはAlの保護、あるいは、他の配線との接合の改良のために使用される。走査線110の材料はこのほかに、MoW(モリブデンータングステン合金)等、フレキシブル電子装置1の用途により種々の構成をとることが出来る。
【0031】
図3に示すように、走査線110を有するミアンダ構造102は、形状が不安定なので、上下から保護層(
図2で示す3、4)で固定している。まず、走査線110が形成されたミアンダ構造102を有機材料で形成された上バッファー層50で覆う。その上を有機材料で形成された保護層60で覆う。基材10の下面には、有機材料で形成された下バッファー層70が配置し、その下に有機材料で下保護層80が形成されている。
【0032】
このように、走査線110を含むミアンダ構造は、不安定な形状であるが、上下からバッファー層50、70及び保護層60、80で固定されているので、形状を安定して保つことが出来る。ところで、本発明の電子装置は、フレキシブル電子装置であるから、外部からの引っ張り応力に対して、伸縮可能である必要がある。したがって、ポリイミドによるミアンダ構造をサンドイッチするバッファー層50、70及び保護層60、80は、ポリイミドよりも延伸しやすい材料、すなわち、ヤング率の小さい材料であることが望ましい。このような材料としては、たとえば、アクリル、ウレタン、エポキシ、シリコーン等の樹脂が挙げられる。
【0033】
図5は、
図3のC-C断面図であり、信号線120を有するミアンダ構造102の断面図である。
図5のミアンダ構造102では、基材10の上に第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30が連続して形成されている。そして、第2有機絶縁膜30の上に信号線120が形成され、これを覆って第3有機絶縁膜が形成されている。実施例1においては、信号線120は、走査線110と同じ材料、すなわち、TAT(Ti-Al-Ti)構造を有しているが、フレキシブル電子装置の用途によって他の材料に変えてもよい。その他の構造は、
図4で説明した走査線110部分の断面形状と同じである。
【0034】
図6は、素子領域101の平面図である。素子領域101も、外形はポリイミドで形成された基材10で規定されている。
図6における素子領域101は菱形であるが、菱形の頂部は走査線110及び信号線120を有するミアンダ構造102と接続しているので、概略8角形のような形となっている。
図6においては、走査線110も信号線120も直線となっているが、
図6よりも外側では、
図3に示すようなミアンダ構造となっている。
【0035】
図6において、素子領域101に、素子100が配置している。素子100の外形は、菱形の頂部を切り欠いた概略8角形となっている。素子100の下を信号線120と走査線110が絶縁膜を挟んで交差している。ただし、
図6は模式図であり、実際の装置では、走査線110、信号線120とも、素子100を駆動するトランジスタ等と接続する。
【0036】
図7は
図6のD-D断面図である。
図7において、基材10の上に無機絶縁膜90が形成されている。無機絶縁膜90は、その上側に形成される素子100等に対して、下側から侵入するする不純物などをブロックする。
図7では、無機絶縁膜90は基材10の上に形成されているが、これは例であり、必要に応じて、素子100に近い層に形成してもよい。
【0037】
無機絶縁膜90は、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸化膜(SiO膜)、あるいは、これらの積層膜で形成される。場合によっては、アルミニウム酸化膜(AlO)が使用される場合もある。無機絶縁膜90は剛性が高いが、素子領域101にのみ形成されているので、フレキシブル電子装置1の伸縮性に対する影響は小さい。
【0038】
無機絶縁膜90を覆って第1有機絶縁膜20が、例えばポリイミドで形成されている。第1有機絶縁膜20の上に走査線110が横方向(x方向)に延在している。走査線110及び第1有機絶縁膜20を覆って、例えばポリイミドによって第2有機絶縁膜30が形成されている。第2有機絶縁膜30の上を信号線120がy方向に延在している。そして信号線120を覆って第3有機絶縁膜40が形成されている。第3有機絶縁膜の上に素子100が形成されている。
【0039】
図7は模式図であり、素子100と、走査線110や信号線120等の接続構造は省略されている。実際には、素子100としてどのようなものが使用されるかにもよるが、素子100と走査線110あるいは信号線120との間に薄膜トランジスタ(TFT)を配置し、TFTを走査線制御回路115、信号線制御回路125によって制御することによって、素子100からの信号、あるいは、素子100への信号を制御する場合が多い。したがって、素子100が形成された領域では、複数の有機または無機の絶縁膜が形成される可能性もある。しかし、
図7等では、素子100の形成領域以外では、フレキシブル電子装置を伸縮容易とするために、このような絶縁膜は形成されていない。
【0040】
図6に示す平面構造は、
図7における基材10から素子100までの断面構造に対応する。このままだと、平面形状は
図3に示すようなものになり、不安定である。そこで、
図4で説明したように、上バッファー層50、上保護層60、下バッファー層70、下保護層80を形成し、全体を平板状にまとめて形状を安定化している。また、
図4で説明したように、上バッファー層50、上保護層60、下バッファー層70、下保護層80は、基材10、第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30、第3有機絶縁膜40等よりもヤング率の小さい材料を使用することによって、フレキシブル電子装置1の伸縮性を損なわない構成とすることが出来る。
【0041】
図8は、ミアンダ領域102及び素子領域101を構成するポリイミドで形成された基材10の形状の一部を示す平面図である。素子が配置される素子領域101は菱形に近い形状となっており、その他の部分は、大部分はミアンダ構造102となっており、フレキシブルに伸縮が可能な構成となっている。
【0042】
図9は、
図8の構造を白矢印の方向に延伸した場合における問題点を示す平面図である。この場合、菱形である素子領域101と走査線110を有するミアンダ構造102の直線領域と素子領域101つなぎ目部分Bに応力が集中する。さらに、素子領域101には、素子100や無機絶縁膜80等が存在するので、他の部分よりも剛性が高い。したがって、菱形である素子領域101とミアンダ構造102のつなぎ目部分Bには、さらに応力が集中しやすい。
【0043】
それでも、基材10等を構成するポリイミドのような樹脂は強度が高いので破断することは無いが、基材10の上を延在する、金属で形成された走査線110は、この部分において断線しやすい。この様子を
図10に示す。
図10は、フレキシブル電子装置1を横方向(x方向)に引っ張った場合に、応力が大きい部分において、走査線110に破断BBが生ずることを示す平面図である。実施例1は、このような走査線110の断線を防止する構成を与える与ものである。なお、
図10では、フレキシブル電子装置1を横方向に延伸させた場合の例であるが、フレキシブル電子装置を縦方向に延伸させれば、信号線120に対して同様な現象が生ずる。本発明は、信号120側の問題に対しても同様に適用できる。
【0044】
図11は以上の問題点を対策する実施例1の概略構成を示す平面図である。
図11において、素子領域101及びミアンダ構造102は基材10、第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30、第3有機絶縁膜40等によって形成されていることは比較例と同様である。
図11の特徴は、ミアンダ構造102において、走査線111を構成する部分と、信号線121を構成する部分は、金属膜ではなく、グラフェン構造となっていることである。
【0045】
「グラフェン」は炭素で構成された厚みが原子1個分のシートである。金属の銅と同じくらいの導電性を有し、熱の伝わりやすさは銀以上とされている。その一方で耐熱性は高く、3000度程度まで溶けないとされている。さらに、柔軟、伸縮性もあって曲げ延ばしも可能である。したがって、グラフェンはフレキシブル電子装置における走査線、あるいは信号線としては、きわめて好適である。
【0046】
グラフェンは、グラファイトと同様、炭素のみで構成されている。原子を、厚みを取らないようにハニカム状に共有結合させた状態で並ばせたシートにすることで、鉱物の黒鉛と違った性質を持つようになる。本発明者は、このようなグラフェンをポリイミド膜の表面にレーザを特定の条件で照射することによって実現できることを発見した。このような製法で形成されたグラフェンは、レーザ照射されたポリイミドの上面に10nm以下の厚さ(多くは、5nm以下)で形成することで、十分な電気的性能を得ることが出来る。また、このようなグラフェンはポリイミドの伸縮に伴って伸縮することが出来る。したがって、基材である、ポリイミドが破壊されない限り、フレキシブル電子装置は破壊することは無い。
【0047】
図11では、このようなグラフェンを第1有機絶縁膜20の上に形成して走査線111とし、第2有機絶縁膜30の上に形成して信号線121としている。一方、素子領域101では、従来のように、金属膜による走査線110及び金属膜による信号線120が形成されている。つまり、素子領域の断面構成は、
図7と同じである。
【0048】
図12は、
図11のE-E断面図である。
図12において、第1有機絶縁膜20の表面がグラフェンに変換され、これが走査線111を構成している。したがって、ミアンダ領域102のグラフェンによる走査線111を、素子領域101の金属による走査線110と接続する必要がある。
図13は、
図11のF-F断面図であり、この接続部を示す断面図である。
図13において、ミアンダ部分では、第1有機絶縁膜20の表面には、グラフェンによる走査線111が形成されている。一方、素子領域101では、金属膜による走査線110が形成されている。金属膜による走査線110がグラフェンによる走査線111の上に重なるようにして、電気的な接続がとられている。
【0049】
図14は、
図11のG-G断面図である。
図14において、第2有機絶縁膜30の表面がグラフェンに変換され、これが信号線121を構成している。一方、素子領域では、従来のように、金属膜による信号線120が形成されている。したがって、ミアンダ領域102のグラフェンによる信号線121を素子領域101の金属による信号線120と接続する必要がある。
【0050】
図15は
図11のF-F断面図であり、この接続部を示す断面図である。
図15において、ミアンダ部分では、第2有機絶縁膜の表面には、グラフェンによる信号線121が形成されている。一方、素子領域101では、金属膜による信号線120が形成されている。金属膜による信号線120がグラフェンによる信号線121の上に重なるようにして、電気的な接続がとられている。
【0051】
図16は、グラフェン111が形成された状態におけるミアンダ領域102及び素子領域101を構成するポリイミドで形成された第1有機絶縁膜20の形状の一部を示す平面図である。グラフェンはミアンダ領域102にみに形成されている。
図17は素子領域101に素子100、金属膜による走査線110が形成された状態を示す平面図である。走査線110は、グラフェン111の上に積層された形で走査線111との接続がとられている。
【0052】
図18は、アクティブ領域5において、グラフェンによって走査線111を、また、グラフェンによって信号線121を構成した状態を示す平面図である。
図18において、グラフェンによる走査線111が横方向(x方向)に蛇行しながら延在し、グラフェンによる信号線121が縦方向(y方向)に蛇行しながら延在している。
図18における素子領域101付近の構成は、
図11で説明したのと同様である。その他の構成は
図3で説明したのと同様である。
【0053】
図19乃至
図29は、
図11、
図18等に示す実施例1の構成を実現するためのプロセスの例を示す図である。ところで、素子100が形成された素子領域101と、走査線111や信号線121が形成されたミアンダ構造領域102は同時に形成される。したがって、ミアンダ構造領域102を形成するプロセスは素子100の構成によって異なってくる。以下で説明するプロセスは、走査線111や信号線121が形成されたミアンダ構造領域102を形成するプロセスのみを取り出したものである。
【0054】
図19は、ガラス基板200の上に基材10及び第1有機絶縁膜20を積層して形成した状態を示す断面図である。ガラス基板200は、製造プロセスにおいて使用されるものであり、最終プロセスにおいて除去される。
図19において、ポリイミドの材料であるポリアミック酸をガラス基板200上に塗布し、焼成してイミド化し、基材10を形成する。基材10の厚さは、例えば5μmである。その後、基材10の上に、同様に、ポリアミック酸を塗布し、焼成してイミド化し、第1有機絶縁膜20を形成する。第1有機絶縁膜の厚さは、例えば1乃至5μmである。第2有機絶縁膜30、第3有機絶縁膜40の製造も基本的には、基材10,第1有機絶縁膜20等と同じである。
【0055】
図20は、レーザを、第1有機絶縁膜20の表面にフォーカスさせて、照射している状態を示す断面図である。レーザ照射された部分は、グラフェン111に変換される。グラフェンが形成された領域は、10nm以下ときわめて薄い。しかし、グラフェンの導電率は高いので、走査線111としての役割を果たすことが出来る。
【0056】
図20に示すようなレーザ照射は、第1有機絶縁膜20の全面に照射されるわけではない。横方向(x方向)に蛇行して延在する走査線111を構成するように、描画される。
図21は、このようなレーザ描画領域を示す平面図である。
図21において、第1有機絶縁膜20の表面に、横方向に蛇行して延在する走査線111がグラフェンによって形成されている。
【0057】
図22乃至
図24は、
図18に示す信号線121側を構成するためのプロセスを示す断面図である。
図22は、ガラス基板200の上に、ポリイミドによって、基材10、第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30が形成された状態を示す断面図である。第2有機絶縁膜30の厚さは例えば、1乃至5μmである。
【0058】
図23は、レーザを、第2有機絶縁膜30の表面にフォーカスさせて、照射している状態を示す断面図である。レーザ照射された部分は、グラフェン121に変換される。グラフェンが形成された領域は、10nm以下ときわめて薄い。しかし、グラフェンの導電率は高いので、信号線121としての役割を果たすことが出来る。
【0059】
図23に示すようなレーザ照射は、第2有機絶縁膜30の全面に照射されるわけではない。縦方向(y方向)に蛇行して延在する信号線121を構成するように、描画される。
図24は、このようなレーザ描画領域を示す平面図である。
図24において、第2有機絶縁膜30の表面に、縦方向に蛇行して延在する信号線121がグラフェンによって形成されている。
【0060】
図25は、
図23及び
図24のようにして形成されたグラフェンによる信号線121を覆って、例えば、ポリイミドによって第3有機絶縁膜40が形成された状態を示す断面図である。
図26は、
図20及び
図21のようにして形成されたグラフェンによる走査線111を覆って、例えば、ポリイミドによって第2有機絶縁膜30及び第3有機絶縁膜40が形成された状態を示す断面図である。以後のプロセスは、走査線111側も信号線121側も共通なので、走査線111側のプロセスのみについて説明する。
【0061】
図27は、基材10、第1有機絶縁膜20、第2有機絶縁膜30、第3有機絶縁膜40、をパターニングして、ミアンダ構造102を形成した状態を示す断面図である。このパターニングにおいて、素子領域101も同時にパターンンされる。すなわち、
図26までは、平面状の第1有機絶縁膜20に走査線111が形成され、平面状の第2有機絶縁膜30に信号線121が形成されている状態であるが、
図27におけるパターニングによって、ミアンダ領域102及び素子領域101の平面構造が規定される。
【0062】
図28は、第3有機絶縁膜40を覆って、上バッファー層50及び上保護層60が形成された状態を示す断面図である。上バッファー層50及び上保護層60の構成は、比較例で説明したのと同様である。上バッファー層50はミアンダ領域102の間にも充填される。
【0063】
図29は、基材10及び上バッファー層50からガラス基板200を剥離している状態を示す断面図である。ガラス基板200の剥離は、例えば、ガラス基板200と、基材10及び上バッファー層50の下面との界面にレーザを照射して、いわゆるレーザアブレーションによっておこなうことが出来る。なお、走査線111、信号線121はミアンダ構造となっており、平面で視て、網目状の構造であるが、
図29の状態では、上バッファー層50によって固定されているので、ガラス基板200を剥離しても、ばらばらになることはない。
【0064】
その後、
図30に示すように、下バッファー層70及び下保護層80を形成することによって、平板状のフレキシブル電子装置が完成する。
図29のように、ガラス基板200を剥離した状態の構造をひっくり返して下バッファー層70を形成する材料を塗布、焼成し、その後、下保護層80を構成する材料を塗布、焼成してバッファー層70及び下保護層80を形成する。信号線側の断面における製造プロセスも同様である。なお、フレキシブル電子装置の用途によっては、下保護膜80は省略してもよい。
【0065】
実施例1の構成によれば、第1有機絶縁膜20に形成されたグラフェンによる走査線111、及び、第2有機絶縁膜30に形成されたグラフェンによる信号線121は、各々、第1有機絶縁膜20及び第2有機絶縁膜30と一体的に伸縮するので、フレキシブル電子装置を伸縮したことによる、断線は免れる。したがって、信頼性の高いフレキシブル電子装置を実現することが出来る。
素子領域102には、センサ等の素子の他、素子の動作を制御するための、トランジスタ等が形成される。このために、素子領域102には、半導体、金属による電極、無機絶縁膜等の無機膜が多用される。無機絶縁膜には例えば、シリコン酸化膜(SiO)、シリコン窒化膜(SiN)等が使用され、アルミニウム酸化膜(AlO)が使用されることもある。
層間絶縁膜絶縁膜303の上を信号線120が、紙面垂直方向、すなわちy方向に延在している。信号線120は、層間絶縁膜絶縁膜303及び第2有機絶縁膜30の上を延在している。その後、信号線120及び第2有機絶縁膜30を覆って、第3有機絶縁膜40が形成される。第3有機絶縁膜40は、平坦化膜としての役割も有している。
このように、本発明によれば、信頼性の高い、伸縮可能なフレキシブル電子装置を実現することが出来る。なお、実施例1や実施例2で説明した、フレキシブル電子装置の断面構造は例であり、本発明は、他の断面構造を有するフレキシブル電子装置に対しても使用することが出来る。