(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169954
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】かご形回転子および誘導電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081316
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】疋田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】沖津 隆志
【テーマコード(参考)】
5H013
【Fターム(参考)】
5H013LL03
(57)【要約】
【課題】エンドリングの破損および変形を抑制しつつ、応力集中による保持部材の破損を抑制しうるかご形回転子を提供する。
【解決手段】かご形回転子は、回転子鉄心と、回転子鉄心の周方向に配置され、それぞれ回転鉄心を貫通し軸方向に延びる複数のロータバーと、回転子鉄心の軸方向両端に配置され、複数のロータバーを電気的に接続する一対のエンドリングと、エンドリングの外周に同心状に配置され、エンドリングの外周面を支持する保持リングと、を備える。エンドリングと保持リングの接触部の径方向位置は軸方向に沿って一定であり、エンドリングの軸方向先端側は保持リングに覆われずに外側に露出している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心と、
前記回転子鉄心の周方向に配置され、それぞれ前記回転鉄心を貫通し軸方向に延びる複数のロータバーと、
前記回転子鉄心の軸方向両端に配置され、複数の前記ロータバーを電気的に接続する一対のエンドリングと、
前記エンドリングの外周に同心状に配置され、前記エンドリングの外周面を支持する保持リングと、を備え、
前記エンドリングと前記保持リングの接触部の径方向位置は軸方向に沿って一定であり、前記エンドリングの軸方向先端側は前記保持リングに覆われずに外側に露出している
かご形回転子。
【請求項2】
前記保持リングにおいて前記エンドリングを支持する部位の厚さが軸方向に一定である
請求項1に記載のかご形回転子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のかご形回転子と、
固定子と、を備える
誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご形回転子および誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、誘導電動機の回転子には、積層鋼板で形成された回転子鉄心にかご形導体を組み付けて構成されたかご形回転子が用いられる。かご形導体は、回転子鉄心のスロットに挿通されて軸方向に延びる複数のロータバーと、回転子鉄心の両端に配置されて各々のロータバーの端部を電気的に接続する一対のエンドリングを備えている。
【0003】
例えば、電気自動車などに上記の誘導電動機を適用する場合、高出力化のために誘導電動機の回転速度を高めていくことが強く要望されるが、特に高速回転時に遠心力によってエンドリングに破損や変形が生じうる。
そのため、かご形回転子の両端に円板状又は環状の保持部材を設けることでエンドリングを保護する構成が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5-50981号公報
【特許文献2】特開2017-34777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誘導電動機の高速回転時には、保持部材の形状によっては応力の集中により保持部材が破損するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、エンドリングの破損および変形を抑制しつつ、応力集中による保持部材の破損を抑制しうるかご形回転子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のかご形回転子は、回転子鉄心と、回転子鉄心の周方向に配置され、それぞれ回転鉄心を貫通し軸方向に延びる複数のロータバーと、回転子鉄心の軸方向両端に配置され、複数のロータバーを電気的に接続する一対のエンドリングと、エンドリングの外周に同心状に配置され、エンドリングの外周面を支持する保持リングと、を備える。エンドリングと保持リングの接触部の径方向位置は軸方向に沿って一定であり、エンドリングの軸方向先端側は保持リングに覆われずに外側に露出している。
【0008】
上記のかご形回転子は、保持リングにおいてエンドリングを支持する部位の厚さが軸方向に一定であってもよい。
また、本発明の他の態様の誘導電動機は、上記のかご形回転子と、固定子とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様のかご形回転子は、エンドリングの破損および変形を抑制しつつ、応力集中による保持部材の破損を抑制しうるかご形回転子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の誘導電動機の構成を示す断面図である。
【
図2】誘導電動機のかご形回転子の一端側を拡大して示す斜視図である。
【
図4】(a)は、比較例1のかご形回転子の構成を示す図であり、(b)は、比較例2のかご形回転子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0012】
図面においては、必要に応じて誘導電動機の回転軸を符号AXで示す。また、以下の説明では、回転軸AXと平行な方向を軸方向と称し、回転軸AXを中心とする周方向を単に周方向と称し、回転軸AXを中心とする径方向を単に径方向と称する。
【0013】
図1は、本実施形態の誘導電動機10の構成を示す断面図である。
図2は、誘導電動機10のかご形回転子11の一端側を拡大して示す斜視図である。本実施形態の誘導電動機10は、インナーロータ型モータであって、かご形回転子11と、固定子12と、シャフト13を備える。
【0014】
かご形回転子11は、回転子鉄心14と、ロータバー15と、エンドリング16と、保持リング17とを備えている。回転子鉄心14は、円盤状のケイ素鋼板等を軸方向に複数積層して形成され、全体形状が略円筒形状をなしている。回転子鉄心14は、ロータバー15の周囲の磁束密度を高めてトルクを増大させる機能や、回転子を補強する機能を担う。また、回転子鉄心14の中心には、回転軸AXに沿って回転子鉄心14を貫通するようにシャフト13が嵌入されている。なお、シャフト13は、誘導電動機10の筐体(不図示)に設けられた一対の軸受(不図示)によって、回転可能に軸支される。
【0015】
また、回転子鉄心14の外周側には、回転子鉄心14を軸方向に貫通するスロット14aが複数形成されている。各々のスロット14aは、回転軸AXを中心として環状をなすように、周方向に等間隔をあけて配置される。回転子鉄心14の各スロット14aには、回転子鉄心14を貫通して軸方向に延在するロータバー15がそれぞれ挿入されている。
【0016】
ロータバー15は、例えばアルミニウムや銅などの導電性金属で構成され、回転磁界による誘導電流(二次電流)を流す。ロータバー15の断面形状は、円形または矩形のいずれであってもよい。なお、ロータバー15は、軸方向に対して斜めに傾いてスキュー状に配置されていてもよい。
【0017】
エンドリング16は、例えばアルミニウムなどの導電性金属で構成され、回転子鉄心14の軸方向両端に一対配置されている。エンドリング16は、回転子鉄心14のスロット14aの位置と対応する大きさの環状部材であり、各々のロータバー15の端部と接合されている。一対のエンドリング16は、回転子鉄心14に対して環状に配置された複数のロータバー15同士を電気的に接続する。なお、ロータバー15およびエンドリング16の接合により、かご形回転子11にはいわゆるかご形導体が形成される。
【0018】
保持リング17は、かご形回転子11の軸方向両端に一対配置されている。各々の保持リング17は、エンドリング16の外周側でエンドリング16と同心状に配置され、保持リング17の内周面がエンドリング16の外周面と密着している。
図1に示すように、エンドリング16と保持リング17の接触部の径方向位置Dは軸方向に沿って一定であり、保持リング17の内周側には径方向内側に突出する段差が形成されていない。
【0019】
また、保持リング17は、例えばステンレス鋼やチタンなどのようにエンドリング16よりも剛性の高い金属材料で形成される。これにより、保持リング17は、かご形回転子11の回転時にエンドリング16を外側から支持し、遠心力によるエンドリング16の変形や破損を抑制する。
【0020】
図1、
図2の例での保持リング17の外径は、回転子鉄心14の外径よりも大きい。また、保持リング17において回転子鉄心14に臨む基端部は内側にくぼんでおり、回転子鉄心14の外縁と嵌合するインローの嵌合部17aが形成されている。回転子鉄心14の端部を保持リング17の嵌合部17aにはめ込むことで、回転子鉄心14に保持リング17を位置決めして固定することができる。
【0021】
また、本実施形態では、保持リング17においてエンドリング16を支持する部位(嵌合部17a以外の部位)の厚さtが軸方向に一定である。また、嵌合部17aを除いた保持リング17の軸方向寸法は、エンドリング16の軸方向寸法と対応し、かご形回転子11の軸方向において保持リング17の先端部(基端部の反対側)とエンドリング16の先端部はほぼ同じ位置にある。また、かご形回転子11の軸方向においてエンドリング16の先端側の端面は保持リング17に覆われずに露出している。
【0022】
かご形回転子11の組立の際には、まず、回転子鉄心14の端部に保持リング17を嵌合させて取り付ける。次に、回転子鉄心14のスロット14aにそれぞれロータバー15を挿入した後、回転子鉄心14の端部にエンドリングの型材(不図示)を取り付ける。その後、型材内にエンドリングの材料(アルミニウム)を鋳込んでロータバー15と接合されたエンドリング16を形成する。なお、型材はエンドリング16の形成後に除去される。
【0023】
固定子12は、かご形回転子11の外周に僅かなエアギャップを隔ててかご形回転子11と同心状に配置されている。固定子12には、一次電流を流すコイル(不図示)が周方向に配列されており、当該コイルにより固定子には周方向に沿って等間隔に磁極が構成される。誘導電動機10では、コイルへの電流制御で固定子12に回転磁界が形成される。これにより、回転磁界に誘導されてかご形導体に流れる二次電流と回転磁界の間にトルクが発生し、回転軸AXを中心としてかご形回転子11およびシャフト13が回転する。
【0024】
以下、
図4の比較例の構成と対比しつつ、本実施形態の誘導電動機10の作用について説明する。
【0025】
図4(a)は、比較例1のかご形回転子11aの構成を示す図である。比較例1は、回転子鉄心14の軸方向端部に円盤状のエンドリング保持板20を取り付け、エンドリングの材料を鋳込んでエンドリング16を形成した例を示している。比較例1のエンドリング保持板20は、ロータバー15やエンドリング16の外周と接触する面に径方向内側に突出する段差20aが環状に形成されている。
【0026】
また、
図4(b)は、比較例2のかご形回転子11bの構成を示す図である。比較例2は、回転子鉄心14の軸方向端部においてロータバー15に環状のエンドリング保持部材21を取り付け、エンドリング保持部材21の内周側にエンドリング16を形成した例を示している。比較例2のエンドリング保持部材21の断面形状はL字状であり、エンドリング保持部材21においてロータバー15やエンドリング16の外周と接触する面には、径方向内側に突出する段差21aが環状に形成されている。
【0027】
誘導電動機の回転時にはかご形回転子11a、11bに遠心力が作用し、エンドリング保持板20またはエンドリング保持部材21や、エンドリング16にはそれぞれ径方向外側に向けて大きな荷重がかかる。比較例1、2のエンドリング16は、エンドリング保持板20やエンドリング保持部材21で外側から支持されているので、遠心力によるエンドリング16の変形や破損は抑制される。
【0028】
比較例1のエンドリング保持板20や比較例2のエンドリング保持部材21は、ロータバー15やエンドリング16の外周と接触する面に径方向内側に突出する段差20a、21aを有している。そのため、エンドリング保持板20やエンドリング保持部材21では、遠心力による軸方向の荷重分布が段差20a、21aの部分で大きく変化する。また、誘導電動機の回転時にはかご形導体に二次電流が流れることで、熱膨張したかご形導体によっても軸方向から段差20a、21aが押圧される。これらにより、
図4(a)(b)の破線で囲んで示した段差の部分で応力集中が生じ、エンドリング保持板やエンドリング保持部材が破損しうる。
【0029】
これに対し、本実施形態では、エンドリング16が外周側の保持リング17で外側から支持されている点は比較例1、2と同様であり、本実施形態においても遠心力によるエンドリング16の変形や破損は抑制される。
【0030】
また、本実施形態では、エンドリング16と保持リング17の接触部の径方向位置Dは軸方向に沿って一定であり、かつ、エンドリング16の軸方向先端側は保持リング17に覆われずに外側に露出している。つまり、保持リング17の内周側には径方向内側に突出する段差が形成されていない。これにより、遠心力による保持リング17の軸方向の荷重分布が均一に近づき応力集中が生じにくくなるので、保持リング17の破損を抑制することができる。また、本実施形態では、誘導電流で熱膨張したかご形導体が保持リング17を軸方向に押圧することもないので、回転時に保持リング17の応力集中はより生じにくくなる。
【0031】
また、本実施形態では、保持リング17においてエンドリング16を支持する部位の厚さtが軸方向に一定である。上記の構成によっても、遠心力による保持リング17の軸方向の荷重分布がさらに均一に近づくので、回転時に保持リング17の応力集中が生じにくくなる。
【0032】
また、本実施形態の保持リング17は比較例1のエンドリング保持板20と異なり、エンドリング16の内側に空間ができるので、誘導電動機10の軽量化を図ることもできる。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0034】
例えば、上記実施形態では、かご形回転子11がモータに取り付けられる例を説明したが、本発明のかご形回転子は発電機に適用することも可能である。
【0035】
また、上記実施形態では保持リング17が回転子鉄心14に嵌合される例を説明したが、本発明は上記構成に限定されない。例えば、
図3に示すように、保持リング17の外径を回転子鉄心14と同径にし、保持リング17を回転子鉄心14に溶接で固定してもよい。
図3の構成によっても、上記実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0036】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0037】
10…誘導電動機、11…かご形回転子、12…固定子、13…シャフト、14…回転子鉄心、15…ロータバー、16…エンドリング、17…保持リング