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特開2023-169955車載制御装置及び内燃機関の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169955
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】車載制御装置及び内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/08 20060101AFI20231124BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20231124BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
F01P3/08
F01M1/08 B
F02D45/00 368A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081317
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】助川 義寛
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】赤城 好彦
(72)【発明者】
【氏名】押領司 一浩
【テーマコード(参考)】
3G313
3G384
【Fターム(参考)】
3G313BA02
3G313BB01
3G313BC04
3G313BD42
3G313CA06
3G313EA01
3G313EA12
3G384AA01
3G384BA41
3G384BA42
3G384DA02
3G384DA55
3G384EB01
3G384EB02
3G384ED07
3G384FA23Z
3G384FA28Z
3G384FA33Z
3G384FA37Z
3G384FA48Z
3G384FA52Z
3G384FA53Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
3G384FA86Z
3G384FA87Z
(57)【要約】
【課題】ノッキングを効果的に抑制しつつ、冷却損失やフリクション損失を低減することができる車載制御装置を提供する。
【解決手段】燃焼室を有する内燃機関を駆動源とする自動車に搭載される車載制御装置であって、予測されたノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の増加タイミングに設定すると共に、予測されたノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の減少タイミングに設定する冷却時期設定部と、該設定された増加タイミング及び減少タイミングと目標冷却量設定部によって設定された目標冷却量とに基づいて、冷却機構による燃焼室の冷却量を変更する冷却量変更部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を有する内燃機関を駆動源とする自動車に搭載される車載制御装置であって、
前記燃焼室を冷却する冷却機構と、
前記内燃機関の将来の出力である機関出力を予測する機関出力予測部と、
前記機関出力予測部によって予測された前記機関出力に基づいて、将来のノック強度を予測するノック強度予測部と、
前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度に基づいて、将来のノック発生期間を予測するノック発生期間予測部と、
前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度に基づいて、前記冷却機構の目標冷却量を設定する目標冷却量設定部と、
前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記燃焼室の冷却量の増加タイミングに設定すると共に、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記燃焼室の冷却量の減少タイミングに設定する冷却時期設定部と、
前記冷却時期設定部によって設定された前記増加タイミング及び前記減少タイミングと前記目標冷却量設定部によって設定された前記目標冷却量とに基づいて、前記冷却機構による前記燃焼室の冷却量を変更する冷却量変更部と、
を備える車載制御装置。
【請求項2】
前記冷却機構は、前記内燃機関のピストンをオイルジェットによって冷却するオイルジェット機構であり、
前記目標冷却量設定部は、前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度に基づいて、前記オイルジェット機構の目標オイルジェット流量を設定する目標オイルジェット流量設定部であり、
前記冷却時期設定部は、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記オイルジェット機構におけるオイルジェット流量の増加タイミングに設定すると共に、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記オイルジェット機構におけるオイルジェット流量の減少タイミングに設定するオイルジェット流量変更時期設定部であり、
前記冷却量変更部は、前記オイルジェット流量変更時期設定部によって設定された前記増加タイミング及び前記減少タイミングと前記目標オイルジェット流量設定部によって設定された前記目標オイルジェット流量とに基づいて、前記オイルジェット機構による前記オイルジェットの流量を変更するオイルジェット流量変更部である、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項3】
前記目標オイルジェット流量設定部は、前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度に基づいて、前記オイルジェット機構の目標油圧を設定する目標油圧設定部であり、
前記オイルジェット流量変更時期設定部は、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記オイルジェット機構における油圧の上昇タイミングに設定すると共に、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記オイルジェット機構における油圧の低下タイミングに設定する油圧変更タイミング設定部であり、
前記オイルジェット流量変更部は、前記油圧変更タイミング設定部によって設定された前記上昇タイミング及び前記低下タイミングと前記目標油圧設定部によって設定された前記目標油圧とに基づいて、前記オイルジェット機構へ送出するオイルの圧力を変更する可変容量オイルポンプである、
請求項2に記載の車載制御装置。
【請求項4】
前記オイルジェット機構は、バルブ機構が内蔵されたオイルジェット部を備え、
前記目標オイルジェット流量設定部は、前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度に基づいて、前記バルブ機構の目標バルブ開度を設定する目標バルブ開度設定部であり、
前記オイルジェット流量変更時期設定部は、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記バルブ機構の開弁タイミングに設定すると共に、前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記バルブ機構の閉弁タイミングに設定するバルブ開度変更タイミング設定部であり、
前記オイルジェット流量変更部は、前記バルブ開度変更タイミング設定部によって設定された前記開弁タイミング及び前記閉弁タイミングと前記目標バルブ開度設定部によって設定された前記目標バルブ開度とに基づいて、前記バルブ機構の開度を変更するバルブ開度変更部である、
請求項2に記載の車載制御装置。
【請求項5】
前記ノック発生期間予測部によって予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも前のピストン温度を予測するピストン温度予測部を備え、
前記オイルジェット流量変更時期設定部は、前記ピストン温度予測部によって予測された前記ピストン温度が所定温度よりも低い場合は、前記ピストン温度予測部によって予測された前記ピストン温度が前記所定温度より高い場合に比べて、前記オイルジェット流量の増加タイミングを遅くする、
請求項2に記載の車載制御装置。
【請求項6】
前記所定の時間は、前記内燃機関のピストン温度のステップ応答時間によって定まる、
請求項2に記載の車載制御装置。
【請求項7】
前記ピストン温度のステップ応答時間は、前記内燃機関のビストンの容積をV(mm)、前記ビストンの直径をB(mm)、前記ピストンの厚さをd(mm)、円周率をπとした場合に、下記の(1)式、(2)式及び(3)式によって定義される時間t1(ms)から時間t2(ms)までの範囲内である、
t1=4.9d …(1)
t2=30d …(2)
d=4V/πB …(3)
請求項6に記載の車載制御装置。
【請求項8】
前記冷却量変更部は、前記機関出力予測部によって予測された前記機関出力と、実際の機関出力との差が所定値以上になった場合は、前記実際の機関出力、もしくは実際の点火遅角量、もしくは実際のノック強度に基づいて、前記燃焼室の冷却量を変更する、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項9】
前記冷却量変更部は、前記冷却時期設定部によって設定された前記冷却量の増加タイミングよりも前に、点火遅角量が所定の点火遅角量を超えた場合、もしくはノック強度が所定の強度を超えた場合、もしくは水温、油温、内燃機関の壁温、吸入空気の温度のうち少なくともいずれか1つが所定の温度を超えた場合に、実際の機関出力、もしくは実際の点火時期遅角量、もしくは実際のノック強度に基づいて、前記燃焼室の冷却量を変更する、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項10】
前記冷却量変更部は、前記冷却時期設定部によって設定された前記冷却量の減少タイミングにおいて、点火遅角量が所定の点火遅角量を超えた場合、もしくはノック強度が所定の強度を超えた場合、もしくは水温、油温、内燃機関壁温、吸入空気温度のうち少なくともいずれか1つが所定の温度を超えた場合に、実際の機関出力、もしくは実際の点火時期遅角量、もしくは実際のノック強度に基づいて、前記燃焼室の冷却量を変更する、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項11】
前記機関出力予測部は、前記機関出力として機関トルク及び機関回転速度を予測し、
前記ノック強度予測部は、前記機関出力予測部によって予測された前記機関トルク及び前記機関回転速度に基づいて、将来のノック強度を予測する、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項12】
前記ノック強度予測部によって予測される前記ノック強度は、吸気温度、吸気湿度、水温、油温、吸気圧、内燃機関の壁温、燃料のオクタン値、空燃比、EGR率のうち少なくともいずれか1つに基づいて補正される、
請求項11に記載の車載制御装置。
【請求項13】
前記ノック発生期間予測部は、前記ノック強度予測部によって予測された前記ノック強度が所定のノック閾値以上である期間を前記ノック発生期間と予測する、
請求項1に記載の車載制御装置。
【請求項14】
燃焼室を有する内燃機関と、前記燃焼室を冷却する冷却機構と、を備える自動車における内燃機関の制御方法であって、
前記内燃機関の将来の出力である機関出力を予測する機関出力予測ステップと、
前記機関出力予測ステップで予測された前記機関出力に基づいて、将来のノック強度を予測するノック強度予測ステップと、
前記ノック強度予測ステップで予測された前記ノック強度に基づいて、将来のノック発生期間を予測するノック発生期間予測ステップと、
前記ノック強度予測ステップで予測された前記ノック強度に基づいて、前記冷却機構の目標冷却量を設定する目標冷却量設定ステップと、
前記ノック発生期間予測ステップで予測された前記ノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記燃焼室の冷却量の増加タイミングに設定すると共に、前記ノック発生期間予測ステップで予測された前記ノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを前記燃焼室の冷却量の減少タイミングに設定する冷却時期設定ステップと、
前記冷却時期設定ステップで設定された前記増加タイミング及び前記減少タイミングと前記目標冷却量設定ステップで設定された前記目標冷却量とに基づいて、前記冷却機構による前記燃焼室の冷却量を変更する冷却量変更ステップと、
を含む内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される車載制御装置及び内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
年々強化される自動車の燃費規制に対応するために、内燃機関の小型化、過給化、高圧縮比化を推進する技術が採用されている。これらの技術を採用すると、内燃機関の負荷率が高くなったり、燃焼室内の圧力及び温度が高くなったりする。このため、自動車の燃費規制に対応する場合は、ノッキングの発生が課題となっている。
【0003】
ノッキングを抑制するには内燃機関を冷却することが効果的である。一方で、内燃機関の冷却は、冷却損失やフリクション損失の増大を招くおそれがある。このため、内燃機関の冷却によってノッキングを抑制する場合は、自動車の運転条件に対して冷却量や冷却タイミングを最適化する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、将来の機関出力(内燃機関の出力)の予測結果に基づいて内燃機関の冷却液の温度と冷却タイミングを制御する技術が開示されている。より具体的に記述すると、特許文献1には、予測された内燃機関の出力に基づいて、冷却液の目標温度を決定する目標冷却液温度決定部と、予測された内燃機関の出力に基づいて、冷却液の温度を目標温度に変更する変更タイミングを設定する変更タイミング設定部とを備える制御装置に関して、変更タイミング設定部は、予測された内燃機関の出力が低出力から高出力に切り替わるタイミング、又は予測された内燃機関の出力が高出力から低出力に切り替わるタイミングを、上記変更タイミングとして設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-148170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関を冷却すると、内燃機関の熱容量に伴う温度応答遅れが発生する。この温度応答遅れは、冷却機構による内燃機関の冷却動作が始まってから、実際に内燃機関の温度が目標温度に低下するまでの時間的な遅れである。したがって、例えば自動車を加速するときなどのように内燃機関の出力が経時的に大きく変化する場合、すなわち過渡運転条件においては、温度応答遅れの時間を考慮して冷却タイミングを設定しないと、冷却によるノッキング抑制効果が充分に得られなかったり、冷却損失やフリクション損失などが増加したりして、内燃機関の燃費が悪化するおそれがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、内燃機関の冷却において熱容量に伴う温度応答遅れに対する考慮がなされていないため、内燃機関の燃費が悪化するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、ノッキングを効果的に抑制しつつ、冷却損失やフリクション損失を低減することができる車載制御装置および内燃機関の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の車載制御装置は、燃焼室を有する内燃機関を駆動源とする自動車に搭載される車載制御装置であって、燃焼室を冷却する冷却機構と、内燃機関の将来の出力である機関出力を予測する機関出力予測部と、機関出力予測部によって予測された機関出力に基づいて、将来のノック強度を予測するノック強度予測部と、ノック強度予測部によって予測されたノック強度に基づいて、将来のノック発生期間を予測するノック発生期間予測部と、ノック強度予測部によって予測されたノック強度に基づいて、冷却機構の目標冷却量を設定する目標冷却量設定部と、ノック発生期間予測部によって予測されたノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の増加タイミングに設定すると共に、ノック発生期間予測部によって予測されたノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の減少タイミングに設定する冷却時期設定部と、冷却時期設定部によって設定された増加タイミング及び減少タイミングと目標冷却量設定部によって設定された目標冷却量とに基づいて、冷却機構による燃焼室の冷却量を変更する冷却量変更部と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様の内燃機関の制御方法は、燃焼室を有する内燃機関と、燃焼室を冷却する冷却機構と、を備える自動車における内燃機関の制御方法であって、内燃機関の将来の出力である機関出力を予測する機関出力予測ステップと、機関出力予測ステップで予測された機関出力に基づいて、将来のノック強度を予測するノック強度予測ステップと、ノック強度予測ステップで予測されたノック強度に基づいて、将来のノック発生期間を予測するノック発生期間予測ステップと、ノック強度予測ステップで予測されたノック強度に基づいて、冷却機構の目標冷却量を設定する目標冷却量設定ステップと、ノック発生期間予測ステップで予測されたノック発生期間の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の増加タイミングに設定すると共に、ノック発生期間予測ステップで予測されたノック発生期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室の冷却量の減少タイミングに設定する冷却時期設定ステップと、冷却時期設定ステップで設定された増加タイミング及び減少タイミングと目標冷却量設定ステップで設定された目標冷却量とに基づいて、冷却機構による燃焼室の冷却量を変更する冷却量変更ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一態様によれば、ノッキングを効果的に抑制しつつ、冷却損失やフリクション損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る車載制御装置が搭載される自動車の例を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態における内燃機関の概略構成図である。
図3】固定ボルトにチェックボールを内蔵したタイプのオイルジェット部において、油圧とオイルジェット流量との一般的な関係を示す説明図である。
図4】バルブ機構を内蔵したタイプのオイルジェット部において、バルブ開度とオイルジェット流量との一般的な関係を示す特性図である。
図5】第1実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】第1実施形態に係る内燃機関の制御手順を示すフローチャートである。
図7】内燃機関の制御手順の説明を補足するために、予測トルク、予測回転速度、予測ノック強度、目標油圧の時間履歴の例を示す図である。
図8】ノックリスク期間のノック強度と目標油圧設定部によって設定される目標油圧との関係の一例を示す説明図である。
図9】第1実施形態の効果を説明するための図である。
図10】ピストン温度のステップ応答時間の求め方を説明するための図である。
図11】第2実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図12】第2実施形態に係る内燃機関の制御手順を示すフローチャートである。
図13】第2の実施形態におけるノック前ピストン温度と油圧上昇の先行時間との関係の一例を示す説明図である。
図14】第3実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図15】第3実施形態に係る内燃機関の制御手順を示すフローチャートである。
図16】第3の実施形態における目標バルブ開度とノックリスク期間のノック強度との関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る車載制御装置が搭載される自動車の例を示す概略構成図である。
図1に示すように、自動車100は、VCU(Vehicle Control Unit)1と、ECU(Engine Control Unit)2と、変速機5と、アクセル開度センサ6と、ブレーキスイッチ7と、自動車速度センサ8と、クランク角センサ10と、ナビゲーション装置11aと、車載カメラ11bと、車載レーダ11cと、内燃機関13と、ディファレンシャルギア19と、可変容量オイルポンプ57と、を備えている。
【0015】
VCU1は、自動車100を制御する自動車装置である。ECU2は、内燃機関13を制御する内燃機関制御装置である。変速機5は、内燃機関13の回転速度に応じて変速比を切り替えるための機構である。アクセル開度センサ6は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル開度を検出するためのセンサである。ブレーキスイッチ7は、ブレーキペダルが踏みこまれているか否かを検出するためのセンサである。アクセル開度センサ6及びブレーキスイッチ7は、自動車100のキャビン内に設けられる。自動車速度センサ8は、自動車100の走行速度を検出するためのセンサである。自動車速度センサ8は、車輪20の駆動軸に備えられている。クランク角センサ10は、内燃機関13が備えるクランク軸の回転角度を検出するためのセンサである。クランク角センサ10は、内燃機関13のクランク軸に備えられている。自動車速度センサ8及びクランク角センサ10から出力される各信号は、VCU1に取り込まれる。また、アクセル開度センサ6及びブレーキスイッチ7から出力される各信号も、VCU1に取り込まれる。
【0016】
ナビゲーション装置11aは、内燃機関13を駆動源とする自動車100の上空にある複数のGPS(Global Positioning System)衛星が衛星電波に乗せて発信したGPS信号を受信することにより、自動車100の現在位置を測位する。ナビゲーション装置11aが測位した自動車100の現在位置は、自動車100内の表示装置に表示された地図に重畳して表示することが可能である。ナビゲーション装置11aによる現在位置の測位には、携帯電話端末の基地局やWi-Fi(登録商標)のアクセスポイント等も併用されることがある。ナビゲーション装置11aが測位した自動車100の現在位置の情報、及び自動車100が走行する周辺及び目的地までの経路を含む地図情報は、VCU1に取り込まれる。
【0017】
車載カメラ11bは、自動車100の周囲の車両映像、路面映像、障害物映像、交通標識映像などを取得するカメラである。車載レーダ11cは、例えばレーザーやミリ波レーダであり、自動車100の周辺の静止物体及び移動物体までの相対距離を計測する。車載カメラ11bが取得した映像信号は、VCU1に取り込まれる。また、車載レーダ11cの計測信号も、VCU1に取り込まれる。
【0018】
内燃機関13は、例えば、火花点火式燃焼を用いる自動車用の3気筒ガソリン内燃機関であり、内燃機関の一例である。内燃機関13のクランク軸には、クランク角センサ10が備えられ、クランク軸の他端は、変速機5に接続されている。内燃機関13の動力は、変速機5及びディファレンシャルギア19を介して車輪20へと伝えられる。
【0019】
VCU1は、アクセル開度センサ6の出力信号に基づいて、ドライバの要求トルクを演算する。すなわち、アクセル開度センサ6は、内燃機関13への要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる。また、VCU1は、ブレーキスイッチ7の出力信号に基づいて、ドライバの減速要求の有無を判断する。また、VCU1は、クランク角センサ10の出力信号に基づいて、内燃機関13の回転速度を演算する。そして、VCU1は、上述した各センサの出力信号から得られるドライバ要求、及び自動車100の運転状態に基づいて、内燃機関要求出力の最適な動作量を演算する。内燃機関要求出力は、ドライバの操作によって内燃機関に要求される機関出力(目標出力)である。また、ドライバの操作は、例えばアクセル操作やブレーキ操作などであり、動作量は、例えば、燃料噴射部、点火部、スロットルバルブ、油圧ポンプなどの動作量である。
【0020】
VCU1で演算された内燃機関要求出力は、ECU2に送られる。ECU2は、VCU1から送られた内燃機関要求出力に基づいて、内燃機関13を制御する。具体的には、ECU2は、前述した燃料噴射部、点火部、スロットルバルブに加えて、可変容量オイルポンプ57を制御する。可変容量オイルポンプ57は、エンジンオイル(以下、単に「オイル」という。)を所定の圧力で吐出する油圧ポンプの一例として設けられている。
【0021】
次に、第1実施形態における内燃機関の構成について図2を参照して説明する。
図2は、第1実施形態における内燃機関の概略構成図である。
図2において、内燃機関13は、火花点火式4サイクルガソリン内燃機関である。内燃機関13は、シリンダブロック23と、シリンダヘッド24と、ピストン25と、吸気弁26と、排気弁27とを備え、これらの構成要素によって燃焼室28が形成されている。
【0022】
シリンダヘッド24には、点火プラグ21及び点火コイル22が設置されている。燃焼用の空気は、エアクリーナ30、スロットルバルブ31、及び吸気ポート32を通って、燃焼室28内に取り込まれる。エアクリーナ30とスロットルバルブ31との間には、エアフローセンサ36が配置されている。エアフローセンサ36は、エアクリーナ30からスロットルバルブ31及び吸気ポート32を通じて燃焼室28に取り込まれる空気の量を検出するためのセンサである。
【0023】
一方、燃焼室28から排出される燃焼後のガス、すなわち排気ガスは、排気ポート33及び触媒コンバータ34を通って大気中に排出される。触媒コンバータ34の上流側には空燃比センサ37が配置されている。空燃比センサ37は、排気ポート33を通じて排気される排気ガスの空燃比を検出するためのセンサである。また、燃料は、燃料噴射弁35によって吸気ポート32内に供給される。
【0024】
燃焼室28に取り込まれる空気の量は、エアフローセンサ36の出力をECU2が読み取ることによって検出される。また、エアフローセンサ36内には、図示しない温度センサや湿度センサが併設されている。ECU2は、温度センサ及び湿度センサの各出力を読み取ることで、エアクリーナ30から吸入する空気の温度と湿度を検出する。
【0025】
一方、燃焼室28から排出されたガス(排気ガス)の空燃比は、空燃比センサ37の出力をECU2が読み取ることによって検出される。また、シリンダブロック23にはノックセンサ38が設けられている。ノックセンサ38は、内燃機関13の燃焼室28におけるノッキング(以下、「ノック」ともいう。)を検出するためのセンサである。ECU2は、ノックセンサ38の出力を読み取ることで、燃焼室28内のノック強さを検出する。
【0026】
スロットルバルブ31の開度、燃料噴射弁35による燃料の噴射量と噴射タイミング、点火コイル22による点火タイミングは、それぞれECU2からの制御値によって変更される。
【0027】
シリンダブロック23内には水ジャケット42が設けられている。水ジャケット42には、図示しない冷却水ポンプによって冷却水が流れる。これにより、シリンダブロック23が冷却される。冷却水の熱は、図示しないラジエータによって大気中に放出される。水ジャケット42には水温センサ41が設置されている。水温センサ41は、冷却水の温度(以下、「水温」ともいう。)を検出するためのセンサである。ECU2は、水温センサ41の出力を読み取ることで、冷却水の温度を検出する。
【0028】
一方、シリンダブロック23の下部には、オイルを貯留するオイルパン40が設けられている。オイルパン40には油温センサ39が設けられている。油温センサ39は、オイルの温度(以下、「油温」という。)を検出するためのセンサである。ECU2は、油温センサ39の出力を読み取ることで、油温を検出する。
【0029】
また、シリンダブロック23には、オイルジェット部53が取り付けられている。オイルジェット部53は、ピストン25の裏面側へ向けてオイルを噴射することで、ピストン25を冷却する。オイルジェット部53は、コネクティングロッド50やクランクシャフト等との干渉を避けるように、シリンダブロック23の取付面54に固定ボルト55を用いて締結され固定されている。
【0030】
オイルジェット部53が噴射する単位時間あたりのオイル量(以下、「オイルジェット流量」ともいう。)は、オイルジェット部53に接続された可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧に応じて変化する。また、オイルジェット流量は、オイルジェット部53に内蔵されたバルブ機構の開度によっても変化する。可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧、及び、オイルジェット部53に内蔵されたバルブ機構の開度は、それぞれECU2から送出される制御値によって変更される。オイル吐出圧は、可変容量オイルポンプ57がオイルを吐出する圧力である。
【0031】
シリンダブロック23にはオイル供給通路56が設けられている。オイル供給通路56は、オイルジェット部53を含めたオイル供給部位へオイルを供給するための通路である。オイルパン40に貯留されているオイルは、可変容量オイルポンプ57によって加圧される。可変容量オイルポンプ57によって加圧されたオイルは、オイル供給通路56を介してオイルジェット部53に供給されるほか、潤滑部位や油圧作動機器等などにも供給される。
【0032】
オイルジェット部53の代表的な構造としては、ダイキャスト型、ろう付け2ピース型、及びろう付け一体型が挙げられる。オイルジェット部53の構造がダイキャスト型又はろう付け2ピース型である場合、典型的には、チェックボールを内蔵した固定ボルト55によってオイルジェット部53がシリンダブロック23に締結固定される。また、オイルジェット部53の構造がろう付け一体型であって、バルブ機構を内蔵している場合には、チェックボールを内蔵していない一般的な固定ボルトによってオイルジェット部53がシリンダブロック23に締結固定される。
【0033】
ここで、オイルジェット部53を固定する固定ボルト55がチェックボールを内蔵している場合、このチェックボールは、スプリングによりオイル供給通路56を塞ぐ方向に付勢される。可変容量オイルポンプ57によって加圧されたオイルは、オイル供給通路56(メインギャラリー)内のオイルの圧力、すなわち油圧がスプリングのセット荷重を上回ることにより、オイルジェット部53へと供給される。つまり、オイルジェット部53は、内燃機関13のオイル供給通路56へ供給されるオイルの圧力が所定値以上になると、自発的にオイルを噴射するように構成されている。
【0034】
一方、オイルジェット部53がバルブ機構を内蔵している場合は、例えばバルブ機構をソレノイド式とする。そして、バルブ機構の開度をソレノイドによって調整することにより、オイルジェット部53におけるオイルの噴射を停止したり、オイルジェット流量を調整したりする。
【0035】
図3は、固定ボルトにチェックボールを内蔵したタイプのオイルジェット部において、油圧とオイルジェット流量との一般的な関係を示す説明図である。
図3に示すように、油圧がスプリングのセット荷重を上回ると、オイルの噴射が始まり、さらに油圧の上昇と共にオイルジェット流量が増加する。
【0036】
図4は、バルブ機構を内蔵したタイプのオイルジェット部において、バルブ開度とオイルジェット流量との一般的な関係を示す特性図である。
図4に示すように、油圧が一定の場合は、バルブ開度が大きくなるに従ってオイルジェット流量が増加する。
【0037】
図5は、第1実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図5に示すように、車載制御装置101は、機関出力予測部58と、ノック強度予測部59と、ノックリスク期間予測部60と、油圧変更タイミング設定部61と、目標油圧設定部62と、オイル供給通路56と、可変容量オイルポンプ57と、オイルジェット機構530と、を備えている。ノックリスク期間予測部60は、将来のノック発生期間をノックリスク期間として予測する部分であり、ノック発生期間予測部として機能する。オイルジェット機構530は、前述したオイルジェット部53及び固定ボルト55を備えた構成になっている。第1実施形態においては、一例として、オイルジェット部53は、チェックボールを内蔵した固定ボルト55によってシリンダブロック23に固定されているものとする。
【0038】
前述した車載制御装置101の構成要素のうち、機関出力予測部58はVCU1に搭載され、ノック強度予測部59、ノックリスク期間予測部60、油圧変更タイミング設定部61及び目標油圧設定部62は、ECU2に搭載される。また、可変容量オイルポンプ57、オイル供給通路56及びオイルジェット機構530は、内燃機関13に搭載される。ただし、VCU1及びECU2に搭載する構成要素は、図5に示す例に限定されない。例えば、機関出力予測部58をECU2に搭載しても良い。また、ノック強度予測部59、ノックリスク期間予測部60、油圧変更タイミング設定部61及び目標油圧設定部62をVCU1に搭載してもよい。
【0039】
VCU1内の機関出力予測部58は、自動車100の現在位置を測位するナビゲーション装置11a(図1参照)から取得した自動車100の位置情報、及び目的地までの経路に関わる交通情報、自動車100に搭載された車載カメラ11bや車載レーダ11cによって得られる情報、及び内燃機関13の制御情報などに基づいて、将来の予測期間における、内燃機関13の出力を予測する。将来の予測期間は、例えば現在から30秒先までの期間である。現在からどのくらい先までを予測期間とするかについては任意に変更可能である。内燃機関13の出力は、例えば内燃機関13のトルクと回転速度によって規定される。以降の説明では、内燃機関13の出力を「機関出力」ともいう。また、内燃機関13のトルクを「機関トルク」ともいい、内燃機関13の回転速度を「機関回転速度」ともいう。
【0040】
機関出力予測部58は、内燃機関13の将来の出力である機関出力を予測する。機関出力予測部58は、例えば現在から10秒後に上り坂が予測される場合には、内燃機関13の10秒後の出力を高めるべく、高い機関トルクと高い機関回転速度を、10秒後の機関出力として予測する。また、機関出力予測部58は、例えば現在から20秒後に下り坂が予測される場合には、内燃機関13の20秒後の出力を下げるべく、低い機関トルクと低い機関回転速度を、20秒後の機関出力として予測する。これら機関トルクと機関回転速度の組み合わせは、予想される機関出力に対して、例えば最も燃費効率が良くなる組み合わせとして求められる。予測期間における将来の機関出力は、機関出力予測部58において、例えば0.1秒毎の時系列離散データとして求められる。また、上述した最も燃費効率が良くなる組み合わせは、例えばECU2内に予め記憶された参照テーブルもしくは相関式によって求められる。また、参照テーブルもしくは相関式は、内燃機関13のキャリブレーション試験によって作成され、ECU2内に記憶される。
【0041】
ノック強度予測部59は、機関出力予測部58によって予測された機関出力に基づいて、将来のノック強度を予測する。ノック強度予測部59は、前述した予測期間における将来の機関出力に基づいて、将来の機関出力の時系列離散データ点毎に、予測期間におけるノック強度を求める。ここで、ノック強度は、例えば、予測期間における将来の機関トルクと機関回転速度をインデックスとするマップを参照することによって求められる。言い換えると、ノック強度予測部59は、機関出力予測部58によって予測された機関出力である機関トルク及び機関回転速度に基づいて、将来のノック強度を予測する。これにより、機関運転点(機関トルクと機関回転速度の組み合わせ)におけるノック強度の違いを考慮して、ノック強度を精度良く予測することができる。
【0042】
ノックリスク期間予測部60は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、将来のノック発生期間であるノックリスク期間を予測する。ノックリスク期間は、将来ノックが発生するおそれがある期間である。ノックリスク期間予測部60は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度が所定のノック閾値以上である期間をノックリスク期間(ノック発生期間)と予測する。これにより、ノックリスク期間を精度良く予測することができる。
【0043】
油圧変更タイミング設定部61は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間に基づいて、油圧の変更タイミングを設定する。油圧は、可変容量オイルポンプ57によるオイルの吐出圧である。油圧変更タイミング設定部61によって設定される油圧の変更タイミングには、油圧の上昇タイミングと、油圧の低下タイミングとが含まれる。油圧変更タイミング設定部61は、オイルジェット流量変更時期設定部に相当する。オイルジェット流量変更時期設定部は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間(将来のノック発生期間)の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを、オイルジェット機構530におけるオイルジェット流量の増加タイミングに設定する。また、オイルジェット流量変更時期設定部は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを、オイルジェット機構530におけるオイルジェット流量の減少タイミングに設定する。
【0044】
上述したオイルジェット流量変更時期設定部は、冷却時期設定部に相当する。冷却時期設定部は、冷却機構としてのオイルジェット機構530が内燃機関13の冷却量を変更する時期を設定する。具体的には、冷却時期設定部は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間(将来のノック発生期間)の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを内燃機関13の冷却量の増加タイミングに設定する。また、冷却時期設定部は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングを燃焼室28の冷却量の減少タイミングに設定する。
【0045】
目標油圧設定部62は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、オイルジェット機構530の目標油圧を設定する。目標油圧設定部62は、目標オイルジェット流量設定部に相当する。また、目標オイルジェット流量設定部は、目標冷却量設定部に相当する。目標オイルジェット流量設定部は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、オイルジェット機構530の目標オイルジェット流量を設定する。目標冷却量設定部は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、冷却機構の目標冷却量を設定する。
【0046】
本実施形態においては、一例として、冷却機構がオイルジェット機構530によって構成されている。冷却機構は、燃焼室28を冷却する機構である。オイルジェット機構530は、内燃機関13のピストン25をオイルの噴射、すなわちオイルジェットによって冷却する機構である。内燃機関13のピストン25の冷却量は、燃焼室28の冷却量に相当する。ただし、燃焼室28の冷却量は、ピストン25の冷却量に限定されない。例えば、燃焼室28の冷却量には、シリンダブロック23の冷却量、シリンダヘッド24の冷却量なども含まれる。
【0047】
ピストン25の冷却量は、オイルジェット機構530のオイルジェット部53から噴射されるオイルの流量、すなわちオイルジェット流量に応じて変化する。具体的には、ピストン25の冷却量は、オイルジェット機構530のオイルジェット流量が多くなるほど多くなる。また、オイルジェット機構530のオイルジェット流量は、オイルジェット機構530の油圧(可変容量オイルポンプ57によってオイルジェット部53に供給されるオイルの圧力)が高くなるほど多くなる。このことから、オイルジェット機構530の目標油圧は、オイルジェット機構530の目標オイルジェット流量に相当する。また、オイルジェット機構530の目標オイルジェット流量は、冷却機構の目標冷却量に相当する。
【0048】
可変容量オイルポンプ57は、油圧変更タイミング設定部61によって設定された油圧変更タイミング(油圧の上昇タイミング、油圧の低下タイミング)と目標油圧設定部62によって設定された目標油圧とに基づいて、オイルジェット機構530へ送出するオイルの圧力(油圧)を変更する。オイルジェット機構530へ送出するオイルの圧力は、可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧に応じて変化する。このため、可変容量オイルポンプ57は、オイル吐出圧を調整することにより、オイルジェット機構530へ送出するオイルの圧力を変更する。
【0049】
本実施形態において、可変容量オイルポンプ57は、オイルジェット流量変更部に相当する。オイルジェット流量変更部は、オイルジェット流量変更時期設定部によって設定されたオイル流量の増加タイミング及び減少タイミングと目標オイルジェット流量設定部によって設定された目標オイルジェット量とに基づいて、オイルジェット機構530によるオイルジェットの流量を変更する。
【0050】
オイル供給通路56は、可変容量オイルポンプ57から吐出されるオイルをオイルジェット機構530に供給するための通路である。オイルジェット機構530は、オイル供給通路56を介して可変容量オイルポンプ57から供給されたオイルの圧力(油圧)が固定ボルト内チェックボールのスプリングセット荷重を上回った場合に、油圧に応じた流量のオイルをピストン25に向けて噴射する。また、オイルジェット機構530は、オイルの圧力がチェックボールのスプリングセット荷重よりも小さい場合は、オイルの噴射を停止する。
【0051】
続いて、第1実施形態に係る内燃機関の制御方法について図6から図8を参照して説明する。
図6は、第1実施形態に係る内燃機関の制御手順(制御方法)を示すフローチャートである。また、図7は、内燃機関の制御手順の説明を補足するために、予測トルク、予測回転速度、予測ノック強度、目標油圧の時間履歴の例を示す図である。図7において、予測トルク及び予測回転速度は、機関出力予測部58によって予測された機関出力である機関トルク及び機関回転数である。また、予測ノック強度は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度であり、予測期間は、将来の予測期間である。
【0052】
まず、機関出力予測部58は、将来の予測期間(例えば現在から30秒先までの期間)における内燃機関13の出力、すなわち内燃機関13の将来の機関出力を予測する(ステップS1)。機関出力予測部58が予測する将来の機関出力には、機関トルクと期間回転速度とが含まれる。将来の機関出力は、例えばナビゲーション装置11aから取得した自車の位置情報、及び目的地に至る経路に関わる交通情報、高度情報、車載カメラ11bや車載レーダ11cから取得した自車周囲の交通情報、過去の走行履歴情報、内燃機関13の現在の制御情報などに基づいて予測される。
また、定められた経路を自動車100が走行する場合には、例えば、定められた経路を自動車100が走行するときに想定される機関出力の時系列データを時間履歴データとして予めナビゲーション装置11aの記憶装置に記憶しておき、その時間履歴データを使用して将来の機関出力を予測してもよい。
【0053】
上述のように機関出力予測部58によって予測された内燃機関13のトルクと回転速度は、図7の予測トルクと予測回転速度のグラフに示すように、予測期間内の時系列データで表される。この時系列データは離散データであり、各離散データの間隔は、例えば0.1秒である。機関出力予測部58によって予測された機関出力の時系列離散データは、機関出力予測部58からノック強度予測部59に送出される。
【0054】
次に、ノック強度予測部59は、機関出力予測部58によって予測された機関出力に基づいて、機関出力の時系列離散データ点毎に、予測期間におけるノック強度を求める(ステップS2)。ノック強度は、例えば、予測期間における将来の内燃機関13のトルクと回転速度をインデックスとするマップを参照することによって求められる。その場合、マップには、例えば、内燃機関13の点火時期をMBT(トルク最大点火時期)に設定した場合に予想されるノック強度が、内燃機関13のトルクと回転速度毎に、0(ノック発生無し)から4(ノック強度最大)までの5段階の指標値として格納される。
【0055】
ノック強度の指標値は、予め実施した内燃機関13の試験の結果や、内燃機関13のシミュレーションの結果などに基づいて決定される。また、ノック強度は、内燃機関13のトルクと回転速度以外の物理因子によっても変化する。このため、マップから求めたノック強度の指標値を、上記物理因子の影響を考慮して補正すると、より正確にノック強度を予測できる。ノック強度に影響を与える物理因子としては、例えば、燃料のオクタン価、吸入空気の温度(吸気温度)及び湿度(吸気湿度)、冷却水の温度(水温)、オイルの温度(油温)、吸気圧、内燃機関13の壁温、燃料のオクタン価、空燃比、EGR(排ガス再循環)率などが挙げられる。このため、マップから求めたノック強度の指標値を、吸気温度、吸気湿度、水温、油温、吸気圧、内燃機関13の壁温、燃料のオクタン化、空燃比、EGR率のうち少なくともいずれか1つに基づいて補正しても良い。内燃機関13の壁温には、シリンダヘッド24の壁温、シリンダブロック23の壁温、及び、ピストン25の壁温のうち少なくともいずれか1つが含まれる。
【0056】
具体的には、ノック強度は、吸気温度、水温、油温、吸気圧、内燃機関13の壁温、空燃比が高いほど、これらが低い場合に比べて、高くなる傾向がある。このため、これらの物理因子が高くなるほど、マップから求めたノック強度の指標値を大きくなるように補正するのが良い。また、ノック強度は、燃料のオクタン価、吸気湿度、EGR率が高いほど、これらが低い場合に比べて、低くなる傾向がある。このため、これらの物理因子が高くなるほど、マップから求めたノック強度の指標値を小さくなるように補正するのが良い。
このように、ノック強度予測部59によって予測されるノック強度を上記物理因子に基づいて補正することにより、予測期間(将来)のノック強度をより正確に予測することができる。
【0057】
予測期間のノック強度は、前述したマップを参照する方法以外にも、前述した複数の物理因子を説明変数とする相関式や、物理モデル式による計算値によって求めてもよい。また、前述した物理因子としては、センサなどによって検出された現在の因子値を用いても良い。さらに、機関出力予測部58によって予測された機関出力に基づいて、上記物理因子の将来値を予測し、その将来値を用いて、ノック強度の指標値を補正してもよい。特にEGR率や吸気圧は、内燃機関13のEGRバルブやスロットルバルブの開度、さらには吸排気弁の開閉タイミングなどの制御によって変更されるため、予測された機関出力から、内燃機関13の制御状態を推定し、予測期間内のEGR率や吸気圧の変化を予測すると、ノック強度の予測精度をより高めることができる。
【0058】
次に、ノックリスク期間予測部60は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、ノックリスク期間を予測する(ステップS3)。その場合、ノックリスク期間予測部60は、ノック強度予測部59からノック強度の指標値を時系列離散データとして受け取り、この時系列離散データを用いてノックリスク期間を予測する。また、ノックリスク期間予測部60は、例えばノック強度の指標値が1(所定のノック閾値)以上である区間を、将来的にノックの発生が予測される区間、すなわちノックリスク区間と予測する。
【0059】
次に、目標油圧設定部62は、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、オイルジェット機構530の目標油圧を設定する(ステップS4)。オイルジェット機構530の目標油圧は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間のノック強度に基づいて設定される。
【0060】
図8は、ノックリスク期間のノック強度と目標油圧設定部62によって設定される目標油圧との関係の一例を示す説明図である。
図8に示すように、目標油圧設定部62は、ノックリスク期間のノック強度が高いほど、ノックリスク期間の目標油圧が高くなるように、目標油圧を設定する。ただし、ノックリスク期間の目標油圧は、固定ボルト55内のチェックボールのスプリングセット荷重から、可変容量オイルポンプ57の昇圧性能や内燃機関13の耐圧性などで制限される最大油圧の範囲内で設定される。つまり、ノックリスク期間の目標油圧は、スプリングセット荷重超、最大油圧以下の範囲内で設定される。また、ノックリスク期間以外の目標油圧は、オイルジェット部53以外の機器、例えば可変動弁機構の駆動や、内燃機関13の各部の潤滑に必要なベース油圧とする。内燃機関13を制御する場合は、可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧をベース油圧以上に設定する必要がある。また、ベース油圧は、可変容量オイルポンプ57の駆動力による内燃機関13の燃費悪化を防ぐため、オイル駆動機器や潤滑を賄える範囲でできるだけ低いことが望ましい。一般にベース油圧は、固定ボルト55に内蔵されたチェックボールのスプリングセット荷重よりも低い圧力である。
【0061】
ノックリスク期間のノック強度は、例えばノックリスク期間におけるノック強度の指標値の平均値として求められる。また、ノックリスク期間のノック強度は、例えばノックリスク期間におけるノック強度の指標値の最大値として求められる。
【0062】
次に、油圧変更タイミング設定部61は、可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧によって決まるオイルジェット機構530の油圧を変更するためのタイミング、すなわち油圧変更タイミング(Tr,Td)を設定する(ステップS5)。油圧変更タイミング設定部61は、油圧変更タイミングとして、油圧の上昇タイミングTrと油圧の低下タイミングTdを設定する。油圧の上昇タイミングTrは、下記の(4)式に示すように、ノックリスク期間の開始タイミングtsから所定の時間Δtを差し引いたタイミングとして設定される。
Tr=ts-Δt …(4)
また、油圧の低下タイミングTdは、下記の(5)式に示すように、ノックリスク期間の終了タイミングteから所定の時間Δtを差し引いたタイミングとして設定される。
Td=te-Δt …(5)
すなわち、油圧変更タイミング設定部61は、油圧を上昇させてから低下させるまでの期間を、ノックリスク期間に対して所定の時間Δtだけ先行した期間として設定する。
【0063】
次に、ECU2は、上記ステップS4で油圧変更タイミング設定部61が設定した油圧変更タイミング(Tr,Td)と、上記ステップS5で目標油圧設定部62が設定したオイルジェット機構530の目標油圧を、それぞれ油圧制御値として可変容量オイルポンプ57に送出する(ステップS6)。これにより、可変容量オイルポンプ57は、油圧の上昇タイミングである時刻Trから、油圧の低下タイミングである時刻Tdまでの期間において、可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧がノックリスク期間の目標油圧になるように、ECU2によって制御される。また、可変容量オイルポンプ57は、時刻Trより前、もしくは時刻Td以降では、可変容量オイルポンプ57のオイル吐出圧がベース油圧になるように、ECU2によって制御される。
【0064】
図9は、第1実施形態の効果を説明するための図であって、図9Aは、機関出力の経時変化を示し、図9Bは、ノック強度の経時変化を示し、図9Cは、油圧の経時変化を示している。また、図9Dは、ピストン温度の経時変化を示し、図9Eは、点火時期を示し、図9Fは、第1実施形態による正味燃料改善率を示している。また、図9Bにおいては、ノック強度が所定値以上である期間をノックリスク期間としている。また、図9C図9D及び図9Eにおいては、第1実施形態の場合を実線で示し、比較形態を破線で示している。
【0065】
まず、比較形態において、油圧の上昇タイミングは、ノックリスク期間の開始タイミング(機関出力が低出力から高出力に切り替わるタイミング)と同じタイミングになっており、油圧の低下タイミングは、ノックリスク期間の終了タイミング(機関出力が高出力から低出力に切り替わるタイミング)と同じタイミングになっている。
【0066】
一方、第1実施形態において、油圧の上昇タイミングは、ノックリスク期間の開始タイミングに対して所定の時間Δtだけ先行するタイミングになっており、油圧の低下タイミングは、ノックリスク期間の終了タイミングに対して所定の時間Δtだけ先行するタイミングになっている。このように、油圧の上昇タイミングをノックリスク期間の開始タイミングよりも所定の時間Δtだけ先行させると、オイルジェット流量の増量タイミングもノックリスク期間の開始タイミングに対して所定の時間Δtだけ先行する。また、油圧の低下タイミングをノックリスク期間の終了タイミングよりも所定の時間Δtだけ先行させると、オイルジェット流量の減量タイミングもノックリスク期間の終了タイミングに対して所定の時間Δtだけ先行する。これにより、ノック開始(機関出力の向上)によってピストン25の温度が上昇し始める前に、オイルジェット機構530によるピストン25の冷却量が増加する。このため、ノックリスク期間の初期におけるピストン25の過熱を抑制することができる。この結果、ノックリスク期間の初期においては、比較形態に比べて点火時期を進角させることができる。点火時期を進角させると、これに応じて燃焼の期間が進角し、膨張行程における内燃機関13の発熱量が相対的に減少する。また、内燃機関13の発熱量が減少すると、排ガスの温度が低下する。よって、上述のように点火時期を進角させることで、排気損失を低減することができる。
【0067】
また、第1実施形態によれば、ノック終了前(機関出力の低下前)に、オイルジェット機構530によるピストン25の冷却量が減少する。このため、ノックリスク期間後におけるピストン25の過冷却を抑制することができる。この結果、ノックリスク期間後(機関出力の低下後)においては、比較形態に比べて冷却損失を低減することができる。また、ピストンの過冷却が抑制されることで、オイルの粘性増加が抑制されるため、ピストン摺動部で発生するフリクション損失を低減することができる。
【0068】
なお、第1実施形態においては、ノックリスク期間の開始に先立って油圧が上昇するため、ノックリスク期間の開始前では、オイルポンプ駆動損失の増加により、比較形態に比べて正味燃費が悪化することが懸念される。しなしながら、第1実施形態においては、ノックリスク期間の終了に先立って油圧が低下するため、ノックリスク期間の終了前では、オイルポンプ駆動損失の低減により、比較形態に比べて正味燃費が改善する。したがって、第1実施形態では、ノックリスク期間の開始前での燃費悪化(ポンプ駆動損失の増加)が、ノックリスク期間の終了前での燃費改善(ポンプ駆動損失の低減)によって相殺されるため、正味燃費の悪化は発生しない。
【0069】
ここで、上述した所定の時間Δtについて詳しく説明する。
第1実施形態において、所定の時間Δtは、ノックリスク期間の開始タイミングtsに対して油圧の上昇タイミングTrをどの程度先行させるかを規定する時間である。また、所定の時間Δtは、ノックリスク期間の終了タイミングteに対して油圧の低下タイミングTdをどの程度先行させるかを規定する時間でもある。この所定の時間Δtは、内燃機関13のピストン温度のステップ応答時間τとするのが望ましい。つまり、Δt≒τを満たすことが好ましい。その理由は次のとおりである。
【0070】
例えば、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τよりも顕著に大きくすると、ノックリスク期間前からノックリスク期間初期にかけてピストン25の冷却が過剰となり、冷却損が増大する。また、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τよりも顕著に大きくすると、ノックリスク期間終了前のピストン25の冷却が不足して点火遅角量が増大する。
【0071】
一方、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τよりも顕著に小さくすると、ノックリスク期間初期のピストン25の冷却が不足して点火遅角量が増大する。また、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τよりも顕著に小さくすると、ノックリスク期間終了前のピストン25の冷却が過剰となり、冷却損が増大する。
【0072】
これに対して、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τにすると、ノックリスク期間の開始前後、及びノックリスク期間の終了前後におけるピストンの過熱又は過冷却が抑制される。このため、所定の時間Δtをピストン温度のステップ応答時間τとした場合は、ノックの発生を効果的に抑制することができると共に、冷却損失の低減及びフリクション損失の低減を図ることができる。
【0073】
所定の時間Δtを定めるためのピストン温度のステップ応答時間τは、下記の[数1]式に示される一次元熱伝導方程式を解くことで求められる。この[数1]式において、Tはピストンの温度(K)、xはピストン厚さ方向の距離(m)、ρはピストンの密度(Kg/m)、Cはピストンの比熱(J/kg・K)、λはピストンの熱伝導率(W/m・K)である。
【0074】
【数1】
【0075】
図10は、ピストン温度のステップ応答時間の求め方を説明するための図であって、図10Aは、ピストン温度解析のモデルを示し、図10Bは、ピストン内の温度分布の解析結果を示している。ピストン温度のステップ応答時間を求めるために、図10Aに示すように、ピストンを厚さd(mm)、初期温度TLの均質な固体でモデル化している。このモデルは、図10Aの左右方向にピストンが往復移動する場合を想定している。また、このモデルでは、燃焼室側に位置するピストンの壁(ピストン冠面)の温度をTHとし、クランク側(オイルジェット部53側)のピストンの壁の温度を初期温度と同じTL(ただし、TH>TLを満たす)としている。ピストン温度のステップ応答時間τは、上述のようにTH及びTLを定義したときのピストン内の温度変化を、上記の[数1]式を解くことで求める。
【0076】
図10Bは、ピストン厚さ方向におけるピストン内の温度分布の解析結果である。図10Bには、解析開始からの時間t=0、t1、t2、τ(ただし、0<t1<t2<τを満たす)のときの温度分布がそれぞれ示されている。ピストン内の温度分布は、例えばt=t1のときの温度分布を見ると分かるように、解析開始からの時間が短い初期には強い曲率を持つ凹型の分布になる。しかし、ピストン内の温度分布は、例えばt=t2及びt=t3のときの温度分布を見ると分かるように、解析開始から時間が経過するにつれて、凹型の分布の曲率が緩やかとなり、やがて線形の平衡温度分布(t=τ)となる。この場合、解析開始から線形の平衡温度分布に到達するまでの所要時間であるτが、ピストン温度のステップ応答時間として求められる。
【0077】
本発明者は、現在流通している内燃機関13のピストン25を想定して、ピストン温度のステップ応答時間τを上記方法によって求めた。その結果、ピストン温度のステップ応答時間τは、下記の(1)式、(2)式及び(3)式によって定義される時間t1(ms)から時間t2(ms)までの範囲を採ることが判明した。
【0078】
t1=4.9d …(1)
t2=30d …(2)
d=4V/πB …(3)
式中、dはピストンの厚さ(mm)であり、Vはビストンの体積(mm)であり、Bはピストンの直径(mm)であり、πは円周率である。
【0079】
前述したように、所定の時間Δtは、ピストン温度のステップ応答時間τによって定めることが望ましい。このため、所定の時間Δtは、上記の(1)式から(3)式によって定義される時間t1から時間t2の範囲内とすることが望ましい。
【0080】
また、ノックリスク期間の開始タイミングtsに対する油圧の上昇タイミングTrの先行時間をΔtrとし、ノックリスク期間の終了タイミングteに対する油圧の低下タイミングTdの先行時間をΔtdとした場合、ΔtrとΔtdは必ずしも同一である必要はない。例えば、ノックリスク期間内の予測ノック強度の分布に対応してΔtrとΔtdを異なる値としても良い。例えば、ノックリスク期間の初期におけるノック強度が、ノックリスク期間の後期におけるノック強度に比べて顕著に大きい場合には、Δtr>Δtdとして、オイルジェット機構530によるピストン冷却量の増加タイミングを早めることにより、ノックリスク期間初期のピストンの過熱をより抑えることが望ましい。また、例えばノックリスク期間の後期におけるノック強度が、ノックリスク期間の初期におけるノック強度に比べて顕著に大きい場合には、Δtr<Δtdとして、オイルジェット機構530によるピストン冷却量の低下タイミングを遅らせることにより、ノック期間後期におけるノック増大を抑えることが望ましい。
【0081】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る車載制御装置について説明する。
図11は、第2実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図11に示すように、車載制御装置102は、前述した第1実施形態の場合(図5)と比較して、ピストン温度予測部63が加わった点が異なり、その他の構成要素は第1実施形態の場合と同一である。
【0082】
ピストン温度予測部63は、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間(将来のノック発生期間)の開始タイミングよりも前のピストン温度(以下、「ノック前ピストン温度」ともいう。)を予測する。また、ピストン温度予測部63は、機関出力予測部58によって予測された機関出力(予測期間における機関トルク及び機関回転速度)等に基づいて、ノック前ピストン温度を予測する。そして、オイルジェット流量変更時期設定部として機能する油圧変更タイミング設定部61は、前述のように予測されたノックリスク期間と予測されたピストン温度とに基づいて、油圧の上昇タイミングと、油圧の低下タイミングをそれぞれ設定する。具体的には、油圧変更タイミング設定部61は、ピストン温度予測部63によって予測されたピストン温度が所定温度よりも低い場合は、ピストン温度予測部63によって予測されたピストン温度が所定温度より高い場合に比べて、油圧の上昇タイミングを遅くする。これをオイルジェット流量変更時期設定部に置き替えて述べると、オイルジェット流量変更時期設定部は、ピストン温度予測部63によって予測されたピストン温度が所定温度よりも低い場合は、ピストン温度予測部63によって予測されたピストン温度が所定温度より高い場合に比べて、オイルジェット流量の増加タイミングを遅くする。なお、ピストン温度予測部63は、予測された機関出力だけでなく、例えば、予測期間における水温及び油温、あるいは予測期間前における機関出力、水温及び油温に基づいて、ノック前ピストン温度を予測してもよい。
【0083】
続いて、第2実施形態に係る内燃機関の制御方法について図12及び図13を参照して説明する。
図12は、第2実施形態に係る内燃機関の制御手順(制御方法)を示すフローチャートである。このフローチャートにおいて、ステップS1からステップS4まで、及びステップS6は、前述した第1実施形態に係る内燃機関の制御手順におけるステップS1からステップSS4まで、及びステップS6と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0084】
まず、ステップS4の後のステップS7において、ピストン温度予測部63は、ノック前ピストン温度Tpを予測する。ここで、ノック前とは、現在からノックリスク期間の開始タイミングまでのいずれかの一タイミングを示す。言い換えると、ノック前とは、現在(現時点)よりも後のタイミングで、かつ、ノックリスク期間の開始タイミング以前のタイミングをいう。一例を挙げると、ノック前とは、ノックリスク期間の開始タイミングと同じタイミング、あるいはノックリスク期間の開始タイミングより5秒前のタイミングである。
【0085】
ノック前ピストン温度Tpは、例えば、予測期間における将来の機関出力、現在の水温や油温、内燃機関13の制御情報、又は過去から現在に至る内燃機関13の出力履歴などを説明変数とした物理モデル式、相関式、マップ参照などによって予測される。
【0086】
次に、油圧変更タイミング設定部61は、上述のようにピストン温度予測部63によって予測されたピストン温度Tpと予め定めた温度閾値Tc(例えば100℃)とを比較する(ステップS8)。この比較結果において、予測されたピストン温度Tpが温度閾値Tcより高い場合、油圧変更タイミング設定部61は、前述した第1実施形態と同様に、油圧の上昇タイミングTrを、ノックリスク期間の開始タイミングtsから所定の時間Δtだけ差し引いたタイミングとして設定すると共に、油圧の低下タイミングTdを、ノックリスク期間の終了タイミングteから所定の時間Δtだけ差し引いたタイミングとして設定する(ステップS5)。
【0087】
これに対して、予測されたピストン温度Tpが温度閾値Tc以下の場合、油圧変更タイミング設定部61は、油圧の上昇タイミングTr及び油圧の低下タイミングTdを下記のように設定する(ステップS9)。
まず、油圧の上昇タイミングTrについては、下記の(6)式に示すように、ノックリスク期間の開始タイミングtsから所定の時間Δt’だけ差し引いたタイミングとして設定する。
Tr=ts-Δt’ …(6)
この(6)式において、所定の時間Δt’は、前述した所定の時間Δtよりも短い時間である。
また、油圧の低下タイミングTdについては、上記の(5)式に示したように、ノックリスク期間の終了タイミングteから所定の時間Δtだけ差し引いたタイミングとして設定する。
【0088】
このように、第2実施形態に係る内燃機関の制御手順では、ノック前ピストン温度が温度閾値以下の場合に、油圧の上昇タイミングTrが、ノック前ピストン温度が温度閾値より高い場合に比べて遅くなる点が、第1実施形態に係る内燃機関の制御手順と異なる。
【0089】
以下に、第2実施形態の作用効果について説明する。
まず、ノックリスク期間の初期において、ピストンの温度応答遅れによるピストン過熱によって生じる到達温度は、ノック前ピストン温度が充分に低い場合の方が、ノック前ピストン温度が高い場合に比べて低くなる。このため、ノック前ピストン温度が充分に低い場合(例えば100℃より低い場合)には、油圧の上昇タイミングからノックリスク期間が開始するまでの時間が、ピストン温度のステップ応答時間τに比べて短くなっても、ノックリスク期間の初期における点火遅角量の増大が抑制される。
【0090】
そこで、第2実施形態に係る内燃機関の制御手順では、ノック前ピストン温度が温度閾値以下の場合に、油圧の上昇タイミングTrを、ノック前ピストン温度が温度閾値より高い場合に比べて遅くしている。これにより、ノック前ピストン温度が温度閾値以下の場合には、ノック前ピストン温度が温度閾値よりも高い場合に比べて、油圧を高圧にする期間が短くなる。このため、第2実施形態によれば、オイルポンプによってオイルを昇圧させるために必要な仕事(ポンプのインナーロータを回転させる仕事)、すなわちオイルポンプ駆動仕事による損失を低減することができる。また、ノックリスク期間前においては、オイルジェットによる冷却量が抑えられるため、冷却損失及びフリクション損失を共に低減することができる。オイルジェットによる冷却量は、オイルジェットによってピストンから除去される熱量である。
【0091】
ノック前ピストン温度Tpが温度閾値Tc以下である場合、油圧の上昇タイミングを先行させる所定の時間Δt’は、ノック前ピストン温度Tpに応じて変更してもよい。
図13は、第2の実施形態におけるノック前ピストン温度と油圧上昇の先行時間との関係の一例を示す説明図である。図13には、所定の時間Δt’をノック前ピストン温度Tpに対応して変更する場合の、ノック前ピストン温度Tpと所定の時間Δt’との関係が一例として示されている。
【0092】
ノックリスク期間初期のピストン過熱温度は、ノック前ピストン温度Tpが低いほど下がる。このため、図13に示すように、所定の時間Δt’についてはノック前ピストン温度Tpが低くなるほどを小さくすることで、オイルポンプの駆動損失、冷却損失及びフリクション損失をより一層低減することができる。また、ノック前ピストン温度Tpが非常に低い場合には、所定の時間Δt’をマイナスの値にして、ノックリスク期間の開始以降に油圧の上昇タイミングを設定しても良い。
【0093】
このように、ノック前ピストン温度Tpが閾温度Tcより低い場合は、油圧の上昇タイミングを先行させる所定の時間Δt’をノック前ピストン温度Tpに応じて変更することにより、オイルジェットによるピストン冷却のタイミングを内燃機関13の状態に応じてきめ細かく設定することができる。このため、ノックによる点火遅角量の増大を招くことなく、オイルポンプの駆動損失、冷却損失及びフリクション損失の更なる低減を図ることができる。
【0094】
<第3実施形態>
前述した第1実施形態及び第2実施形態では、油圧ポンプとして可変容量オイルポンプ57を採用し、オイルジェット流量を可変容量オイルポンプ57の吐出圧の高さによって制御する事例について示した。一方、オイルジェット部53がバルブ機構を内蔵している場合には、油圧ポンプの吐出圧(油圧)を変更しなくても、バルブ機構の開度を調整することで、オイルジェット部53におけるオイルの噴射を停止したり、オイルジェット流量を調整したりすることが可能である。そこで、第3実施形態においては、オイルジェット部53がバルブ機構を内蔵している場合であって、かつ、油圧ポンプとして定容量オイルポンプを採用する場合を例に挙げて説明する。
【0095】
図14は、第3実施形態に係る車載制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図14に示すように、車載制御装置103は、機関出力予測部58と、ノック強度予測部59と、ノックリスク期間予測部60と、バルブ開度変更タイミング設定部61bと、目標バルブ開度設定部62bと、バルブ開度変更部64と、オイルジェット機構530bと、油圧ポンプ57bと、を備えている。また、オイルジェット機構530bは、オイルジェット部53bを備えている。オイルジェット部53bは、内燃機関13のピストン25をオイルの噴射(オイルジェット)によって冷却する。また、オイルジェット部53bは、オイル供給通路56を介して油圧ポンプ57bから供給されるオイルを、オイルジェット部53bに内蔵されたバルブ機構の開度に従った流量でピストン25に向けて噴射する。
【0096】
前述した車載制御装置103の構成要素にうち、機関出力予測部58と、ノック強度予測部59と、ノックリスク期間予測部60と、オイル供給通路56については、第1実施形態の場合と同一であるため、説明を省略する。
【0097】
オイルジェット機構530bのオイルジェット部53bには、図示しないバルブ機構が内蔵されている。このため、オイルジェット部53bによって噴射されるオイルの流量であるオイルジェット流量は、バルブ機構の開度によって変わる。油圧ポンプ57bは、定容量オイルポンプによって構成されている。本実施形態において、油圧ポンプ57bの吐出圧によって決まるオイルの圧力(油圧)は一定である。
【0098】
バルブ開度変更タイミング設定部61bは、オイルジェット部53bに内蔵されたバルブ機構の開度(バルブの開度)を変更するための変更タイミングを設定する。バルブ開度変更タイミング設定部61bは、上述のように予測されたノックリスク期間に基づいて、上記バルブ機構の開弁タイミングと、上記バルブ機構の閉弁タイミングをそれぞれ設定する。具体的には、バルブ開度変更タイミング設定部61bは、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間(ノック発生期間)の開始タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングをバルブ機構の開弁タイミングに設定する。また、バルブ開度変更タイミング設定部61bは、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間の終了タイミングよりも所定の時間だけ先行したタイミングをバルブ機構の閉弁タイミングに設定する。このバルブ開度変更タイミング設定部61bは、オイルジェット流量変更時期設定部に相当する。
【0099】
目標バルブ開度設定部62bは、ノック強度予測部59によって予測されたノック強度に基づいて、上記バルブ機構の目標バルブ開度を設定する。目標バルブ開度設定部62bは、目標オイルジェット流量設定部に相当する。
【0100】
バルブ開度変更部64は、バルブ開度変更タイミング設定部61bによって設定された上記開弁タイミング及び上記閉弁タイミングと目標バルブ開度設定部62bによって設定された上記目標バルブ開度とに基づいて、上記バルブ機構の開度を変更する。バルブ開度変更部64は、オイルジェット部53bにバルブ機構が内蔵されている場合、バルブ機構の開度をソレノイドによって変更する(例えば、特開平06-042346号公報を参照)。バルブ開度変更部64は、オイルジェット流量変更部に相当する。
【0101】
続いて、第3実施形態に係る内燃機関の制御方法について図15及び図16を参照して説明する。
図15は、第3実施形態に係る内燃機関の制御手順(制御方法)を示すフローチャートである。このフローチャートにおいて、ステップS1からステップS3までは、前述した第1実施形態に係る内燃機関の制御手順におけるステップS1からステップS3までと同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0102】
まず、ステップS3の後のステップS4bにおいて、目標バルブ開度設定部62bは、ステップS2におけるノック強度の予測結果を基に、オイルジェット部53bにおけるバルブ機構の目標バルブ開度を設定する。
図16は、第3実施形態における目標バルブ開度とノックリスク期間のノック強度との関係の一例を示す説明図である。
図16に示すように、目標バルブ開度設定部62bは、ノックリスク期間のノック強度が高いほど目標バルブ開度が大きくなるように、目標バルブ開度を設定する。ただし、目標バルブ開度は、オイルジェット部53bに内蔵されたバルブ機構の最大バブル開度以下に設定される。
【0103】
次に、バルブ開度変更タイミング設定部61bは、オイルジェット機構530bにおけるオイルジェット流量を変更するためのタイミング、すなわちバルブ機構の開度変更タイミング(Top,Tcl)を設定する(ステップS5b)。バルブ開度変更タイミング設定部61bは、バルブ機構の開度変更タイミングとして、バルブ機構の開弁タイミングTopとバルブ機構の閉弁タイミングTclを設定する。
開弁タイミングTopは、下記の(7)式に示すように、ノックリスク期間の開始タイミングtsから所定の時間Δtを差し引いたタイミングとして設定される。
Top=ts-Δt …(7)
また、閉弁タイミングTclは、下記の(8)式に示すように、ノックリスク期間の終了タイミングteから所定の時間Δtを差し引いたタイミングとして設定される。
Tcl=te-Δt …(8)
すなわち、バルブ開度変更タイミング設定部61bは、バルブ機構を開弁してから閉弁するまでの期間を、ノックリスク期間に対して所定の時間Δtだけ先行した期間として設定する。
【0104】
次に、ECU2は、上記ステップS4bで目標バルブ開度設定部62bが設定した目標バルブ開度と、上記ステップS5bでバルブ開度変更タイミング設定部61bが設定したバルブ機構の開度変更タイミング(Top,Tcl)を、それぞれバルブ開度制御値としてバルブ開度変更部64に送出する(ステップS6b)。これにより、バルブ開度変更部64は、時刻Topから時刻Tclまでの期間において、バルブ機構の開度が目標バルブ開度になるように、バルブ機構のバルブ開度を変更する。また、バルブ開度変更部64は、時刻Topより前、もしくは時刻Tcl以降では、バルブ機構の開度がゼロ(もしくはオイルの噴射が停止する最大開度以下)になるように、バルブ機構の開度を変更する。
【0105】
第3実施形態においては、バルブ機構の開弁タイミングTopがノックリスク期間の開始タイミングtsよりも所定の時間Δtだけ先行する。また、オイルジェット機構530bのオイルジェット流量は、オイルジェット部53bのバルブ機構が開弁することによって増加する。このため、オイルジェット流量の増量タイミングは、ノックリスク期間の開始タイミングよりも所定の時間Δtだけ先行することになる。これにより、ノック開始によってピストン温度が上昇し始める前に、オイルジェット機構530bによるピストン25の冷却量が増加する。このため、ノックリスク期間の初期におけるピストン25の過熱を抑制することができる。この結果、ノックリスク期間の初期においては、前述した比較形態に比べて点火時期を進角させることができる。よって、排気損失を低減することができる。
【0106】
また、第3実施形態においては、バルブ機構の閉弁タイミングTclがノックリスク期間の終了タイミングteよりも所定の時間Δtだけ先行する。また、オイルジェット機構530bのオイルジェット流量は、オイルジェット部53bのバルブ機構が閉弁することによって減少する。このため、オイルジェット流量の減量タイミングは、ノックリスク期間の終了タイミングよりも所定の時間Δtだけ先行することになる。これにより、ノックリスク期間後におけるピストン25の過冷却を抑制することができる。この結果、ノックリスク期間後においては、前述した比較形態に比べて冷却損失やフリクション損失を低減することができる。
【0107】
(オイルジェット以外の冷却について)
なお、上述した各実施形態では、ノックを抑制するために、燃焼室28を形成するピストン25をオイルジェットによって冷却する内燃機関の制御装置及び制御方法について説明したが、燃焼室28を冷却する冷却機構は、オイルジェットを発生させるオイルジェット機構(530、530b)に限らない。例えば、冷却機構は、水ジャケット42に冷却水を流す冷却水ポンプを備えた構成であってもよい。その場合は、ECU2が冷却水の温度を制御することで、シリンダブロック23やシリンダヘッド24を冷却することが考えられる。
【0108】
本発明は、上述のように冷却水によって燃焼室28を冷却する場合にも適用可能である。例えば、冷却水ポンプを電動ウォーターポンプによって構成し、この電動ウォーターポンプの吐出流量によって決まる冷却水の循環流量を増やすことで、冷却水による燃焼室28の冷却量を増大し、ノック抑制を図ることができる。したがって、予測されたノックリスク期間に対して、冷却水の循環流量の増量期間(増量の開始から終了までの期間)が所定の時間だけ先行するように、電動ウォーターポンプの吐出流量の増減タイミングを制御することで、前述した実施形態で示したオイルジェットによる冷却と同様の効果を得ることができる。この場合、ノックリスク期間に対して冷却水の循環流量の増量期間を先行させる所定の時間は、シリンダブロック23等と冷却水系統の熱容量によって決まるシリンダ温度のステップ応答時間とするのが望ましい。
【0109】
なお、燃焼室28の冷却量を増減するためのパラメータは、オイルジェット流量や却水の循環流量に限らず、例えば、ラジエータのファン回転数(冷却風量)、オイルクーラに流すオイルの量なども考えられる。
【0110】
(予測が外れた場合の制御について)
上記実施形態では、将来の機関出力の予測結果を基に、将来のノック強度を予測し、さらにこのノック強度の予測結果を基に、将来のノック発生期間であるノックリスク期間を予測している。そして、それらの予測結果に基づいて、例えば、燃焼室28の冷却量の増加タイミング及び減少タイミングを、ノックリスク期間の開始タイミング及び終了タイミングに対してそれぞれ所定の時間だけ先行させている。
一方、自動車100の周囲の交通状況や意図しないドライバの操作などによって、将来の機関出力やノック発生期間の予測結果と、予測期間における実際の機関出力やノック発生期間との間に大きな乖離が生じる可能性がある。特に、ノックリスク期間は、ノック強度の予測結果に基づいて予測される期間であるため、ノックリスク期間の予測結果が実際のノック発生期間と大きく乖離すると、強いノックの発生に起因した内燃機関13の損傷、運転性(内燃機関13の騒音や振動)の悪化、燃費の悪化などが起こるおそれがある。
【0111】
そこで、予測が外れた場合の好ましい態様として、内燃機関制御装置は、機関出力予測部58によって予測された機関出力が、実際の機関出力から許容値を超えて外れた場合、あるいは、ノックリスク期間予測部60によって予測されたノックリスク期間(ノック発生期間)が、実際のノック発生期間から許容値を超えて外れた場合に、内燃機関13の制御方式を予測制御から通常制御に切り替える態様が考えられる。
【0112】
予測制御は、上述した各実施形態で述べたとおり、機関出力予測部58、機関出力予測部58、ノックリスク期間予測部60等の予測結果に基づいて、燃焼室28の冷却量を変更するように、内燃機関13を制御する方式である。これに対して、通常制御は、実際の機関出力、もしくは実際の点火時期遅角量、もしくはノックセンサ等で検出された実際のノック強度に基づいて、燃焼室28の冷却量を変更するように、内燃機関13を制御する方式である。いずれの制御方式においても、燃焼室28の冷却量を変更する主体は、冷却量変更部として機能するオイルジェット流量変更部(可変容量オイルポンプ57、バルブ開度変更部64)、あるいは冷却量変更部として機能する冷却水流量変更部(電動ウォーターポンプ)などである。
【0113】
例えば、ECU2は、現在の予測期間において予測された機関出力と、当該予測機関における実際の機関出力との差が所定値以上となった場合は、予測された機関出力に基づいて設定した冷却量の増加タイミング及び減少タイミングにおける冷却量の増加及び減少を中止して、内燃機関13の制御方式を予測制御から通常制御に切り替える。これにより、予測が外れた場合は、予測制御ではなく通常制御によって内燃機関13が制御される。
【0114】
上述のように制御方式が予測制御から通常制御に切り替わった場合、ECU2は、上記予測期間における実際の機関出力、もしくは実際の点火時期遅角量、もしくはノックセンサ等で検出された実際のノック強度に基づいて、燃焼室28の冷却量(可変容量オイルポンプ57の吐出圧、バルブ機構の開度、電動ウォーターポンプの吐出流量など)を変更するように、内燃機関13を制御する。
【0115】
内燃機関13の制御方式の切り替えは、予測された機関出力と実際の機関出力との差が所定値以上となった場合以外に行ってもよい。例えば、冷却量変更部は、予測された機関出力に基づいて設定した燃焼室28の冷却量の増加タイミングよりも前に、点火遅角量が予め定められた所定の値(点火遅角量)を超えた場合、もしくはノックセンサ等で検出されたノック強度が予め定められた所定の強度を超えた場合、もしくは水温、油温、内燃機関の壁温、吸入空気の温度のうちの少なくともいずれか1つが予め定められた所定の温度を超えた場合に、予測された機関出力に基づいて設定した燃焼室28の冷却量の増加タイミングにおける当該冷却量の増加を中止し、内燃機関13の制御方式を予測制御から通常制御に切り替える。これにより、予測が外れた場合は、予測制御ではなく通常制御によって内燃機関13が制御される。
【0116】
また、例えば、予測された機関出力に基づいて設定した燃焼室28の冷却量の減少タイミングにおいて、点火遅角量が予め定められた所定の値を超えた場合、もしくはノックセンサ等で検出されたノック強度が予め定められた所定の強度を超えた場合、もしくは冷却水温、油温、内燃機関の壁温、吸入空気の温度のうちの少なくともいずれか1つが予め定められた所定の温度を超えた場合に、予測された機関出力に基づいて設定した燃焼室28の冷却量の減少タイミングにおける当該冷却量の減少を中止し、内燃機関13の制御方式を予測制御から通常制御に切り替える。これにより、予測が外れた場合は、予測制御ではなく通常制御によって内燃機関13が制御される。
【0117】
このように、ECU2による内燃機関13の制御方式を切り替えることにより、機関出力の予測結果やノックリスク期間の予測結果が、実際の機関出力やノック発生期間と大きく乖離した場合、つまり予測が外れた場合において、強いノックの発生に起因した内燃機関13の損傷、運転性の悪化、燃費の悪化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…VCU、2…ECU、13…内燃機関、25…ピストン、28…燃焼室、53…オイルジェット部、57…可変容量オイルポンプ(オイルジェット流量変更部)、58…機関出力予測部、59…ノック強度予測部、60…ノックリスク期間予測部(ノック発生期間予測部)、61…油圧変更タイミング設定部(オイルジェット流量変更時期設定部)、61b…バルブ開度変更タイミング設定部(オイルジェット流量変更時期設定部)、62…目標油圧設定部(目標オイルジェット流量設定部)、62b…目標バルブ開度設定部(目標オイルジェット流量設定部)、63…ピストン温度予測部、64…バルブ開度変更部(オイルジェット流量変更部)、100…自動車、101,102,103…車載制御装置、530…オイルジェット機構(冷却機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16