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特開2023-169957陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法
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  • 特開-陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169957
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20231124BHJP
   H05H 3/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H05H3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081320
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】八田 直記
(72)【発明者】
【氏名】西村 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
(72)【発明者】
【氏名】坂田 豊和
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085BA01
2G085DA03
2G085EA08
(57)【要約】
【課題】高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】
高速原子ビーム線源の陰極を構成する平板状の陰極部材であって、4つの隅角部と、前記隅角部をつなぐ4つの辺で輪郭が構成された、前記陰極の内面を構成する平面を備え、前記平面において、前記隅角部と前記辺とを含み、かつ、前記高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリングによる前記陰極部材の除去量よりも、前記スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域である第一領域と、前記平面から前記第一領域を除いた領域である第二領域と、を有し、前記第一領域は、前記第二領域よりも、表面粗さRaの平均値が大きい。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速原子ビーム線源の陰極を構成する平板状の陰極部材であって、
4つの隅角部と、前記隅角部をつなぐ4つの辺で輪郭が構成された、前記陰極の内面を構成する平面を備え、
前記平面において、前記隅角部と前記辺とを含み、かつ、前記高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリングによる前記陰極部材の除去量よりも、前記スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域である第一領域と、
前記平面から前記第一領域を除いた領域である第二領域と、を有し、
前記第一領域は、前記第二領域よりも、表面粗さRaの平均値が大きい、陰極部材。
【請求項2】
グラファイト製、ガラス状カーボン製、炭化ケイ素製のいずれかである、請求項1に記載の陰極部材。
【請求項3】
高速原子ビーム線源の陰極であって、
請求項1に記載の陰極部材を備え、6つの内面を有する、内部が中空の箱状であり、
6つの前記内面として、底面と、前記底面と対向する上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ4つの側面と、を備え、
4つの前記側面は、対向する前記側面同士が互いに平行であり、
4つの前記側面のうち、対向する2組の前記側面の1組において、一方には、前記陰極内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口が設けられ、他方には、前記陰極の外部に高速原子ビームを放出する高速原子ビーム放出口が設けられている、陰極。
【請求項4】
請求項3に記載の陰極と、
円柱状、かつ、円柱断面の形状が同一である、第1陽極および第2陽極と、を備え、
前記第1陽極および前記第2陽極は、前記陰極の内部において、互いに離隔しており、
前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸は、互いに平行であるとともに、4つの前記側面のいずれに対しても平行であり、
前記第1陽極の中心軸と、前記高速原子ビーム放出口を有する前記側面と、の最短距離と、前記第2陽極の中心軸と、前記高速原子ビーム放出口を有する前記側面と、の最短距離と、が同じである、高速原子ビーム線源。
【請求項5】
前記第1陽極と前記第2陽極の中心軸間距離をP、前記第1陽極および前記第2陽極の円柱断面の半径をrとすると、
前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸と直交する断面において、前記高速原子ビーム放出口を備える前記陰極部材の、前記断面における前記第二領域の幅Wが、W≧P-2rである、請求項4に記載の高速原子ビーム線源。
【請求項6】
前記第1陽極と前記第2陽極の中心軸間距離をP、前記第1陽極と前記第2陽極の円柱断面の半径をrとすると、
前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸と直交する断面において、前記高速原子ビーム放出口を備える前記陰極部材の、前記断面における前記第二領域の幅Wが、W≦P+2rである、請求項4に記載の高速原子ビーム線源。
【請求項7】
第1の半導体基板と、第2の半導体基板とが積層した接合基板を製造する方法であって、
請求項4に記載の高速原子ビーム線源を用いて、前記第1の半導体基板の接合対象面と、前記第2の半導体基板の接合対象面に、高速原子ビームを真空中で照射する照射工程と、
前記高速原子ビームが照射された、前記第1の半導体基板の接合対象面と前記第2の半導体基板の接合対象面とを接触させて、接合界面を有する積層体を得る接触工程と、
を備える、接合基板の製造方法。
【請求項8】
前記接合工程で得られた前記積層体を熱処理して接合基板を得る熱処理工程をさらに備える、請求項7に記載の接合基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の半導体基板および前記第2の半導体基板が、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかである、請求項7に記載の接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記高速原子ビームが、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含む、請求項7に記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板同士を接合する技術の一つに、高速原子ビーム照射を用いた基板接合技術がある。これは、接合対象の半導体基板の接合対象面に原子ビームを照射して表面汚染や酸化膜を除去するとともに、未結合手であるダングリングボンドを露出させて表面活性化したのち、半導体基板の接合対象面同士を重ね合わせて圧接することで、半導体基板同士を接合する技術である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、薄層に形成された単結晶基板を支持基板の上に備えた構造の接合基板の製造方法が開示されている。この製造方法においては、基板接合技術の適用により、二つの異なる材料を一体化している。
【0003】
半導体基板の接合に用いられる原子ビーム線源(FABガン、(Fast Atom Beam))としては、サドルフィールド型の高速原子ビーム線源が用いられている。サドルフィールド型の高速原子ビーム線源は、内部に陽極を有する陰極筐体内にアルゴンやネオン、キセノン等の不活性ガスを供給し、陽極‐陰極間の電圧印加により不活性ガス原子をイオン化し、陰極の一部に設けた開口部から不活性ガス原子のビームを取り出し、半導体基板の接合対象面へ照射するものである。イオン化された不活性ガス原子の大部分は陰極に向かう途中で電子を捕獲して中性の原子ビームとして照射されるため、原子間の静電反発が少なく、指向性の高いビームとなって基板に照射される特徴を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-146694号
【特許文献2】特開2014-86400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板接合技術を用いた接合基板(図1)の製造においては、接合工程内において接合不良が発生することがある。図1は、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720とを接合して製造された接合基板750を模式的に示す斜視図である。ここで、図3は、接合不良の一例を示す断面図である。図3に示された接合不良は、第1の半導体基板710および第2の半導体基板720の接触部位にあたる接合界面730に、異物mが混入することにより、局所的に接触していない空隙Vが生じたものである。接合界面730に空隙Vが生じると、最終製品である接合基板750の各種特性に影響を与えることがある。
【0006】
異物mの混入経路としては、例えば、第1の半導体基板710,第2の半導体基板720の洗浄不足、接合工程に用いる各装置内の清浄度、または、接合工程の照射工程に用いられる各種粒子線の粒子線源からの異物の射出等が挙げられる。図2は、高速原子ビーム線源800から第1の半導体基板710の接合対象面711に高速原子ビーム810を照射する様子を模式的に示す図である。図2においては、高速原子ビーム線源800から異物mが射出され、第1の半導体基板710の接合対象面711に付着している。このような異物mが付着した接合対象面711に第2の半導体基板720を接合させると、図3に示したように、空隙Vが発生し得る。
【0007】
異物mの混入経路のうち、各種粒子線の粒子線源からの異物の射出に注目して、高速原子ビーム線源からの異物の射出を抑制することができる、高速原子ビーム線源、およびそれを具備した接合装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示された発明では、基板の接合対象面への原子ビームの照射に用いる高速原子ビーム線源において、原子ビームを照射するときに発生する異物の射出を抑制する目的で、高速原子ビーム線源内部に用いる陰極部材の材質を選定している。
【0008】
本願発明者らの実験において、高速原子ビーム線源からの異物の射出について、定常的に一定数発生するものと、経時的に発生数が増加するものとがあることが明らかとなった。さらに、経時的に増加するものについては、数自体が増加するだけでなく、そのサイズも大きくなる傾向にあることが分かった。
【0009】
図4は、第1の半導体基板710,第2の半導体基板720を接合させた接合基板750の接合界面730にサイズの大きい異物(図4のM)が混入したときに発生する接合不良の一例を示す図である。接合界面730に混入する異物のサイズが大きくなると、発生する接合不良のサイズ(図4のF)が大きくなることに加えて、接合対象である第1の半導体基板710の破損Cを伴った接合不良の発生につながる。破損Cを伴う接合不良は、接合対象の第1の半導体基板710が薄層の場合に発生する割合が高くなる。図4に示された第1の半導体基板710の破損Cを伴った接合不良は、破損していないものと比較して、大きさの面でも構造の面でも、接合基板750の特性に対して及ぼす影響が大きいため、特に発生を抑制する必要がある。このことから、高速原子ビーム線源の異物の射出に関しては、数だけでなく、特にサイズの大きい異物の発生を抑制する必要がある。
【0010】
よって、本発明は、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる陰極部材、陰極、高速原子ビーム線源、および、接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の陰極部材は、高速原子ビーム線源の陰極を構成する平板状の陰極部材であって、4つの隅角部と、前記隅角部をつなぐ4つの辺で輪郭が構成された、前記陰極の内面を構成する平面を備え、前記平面において、前記隅角部と前記辺とを含み、かつ、前記高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリングによる前記陰極部材の除去量よりも、前記スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域である第一領域と、前記平面から前記第一領域を除いた領域である第二領域と、を有し、前記第一領域は、前記第二領域よりも、表面粗さRaの平均値が大きい。
【0012】
本発明の陰極部材において、グラファイト製、ガラス状カーボン製、炭化ケイ素製のいずれかであってもよい。
【0013】
本発明の陰極は、高速原子ビーム線源の陰極であって、本発明の陰極部材を備え、6つの内面を有する、内部が中空の箱状であり、6つの前記内面として、底面と、前記底面と対向する上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ4つの側面と、を備え、4つの前記側面は、対向する前記側面同士が互いに平行であり、4つの前記側面のうち、対向する2組の前記側面の1組において、一方には、前記陰極内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口が設けられ、他方には、前記陰極の外部に高速原子ビームを放出する高速原子ビーム放出口が設けられている。
【0014】
本発明の高速原子ビーム線源は、本発明の陰極と、円柱状、かつ、円柱断面の形状が同一である、第1陽極および第2陽極と、を備え、前記第1陽極および前記第2陽極は、前記陰極の内部において、互いに離隔しており、前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸は、互いに平行であるとともに、4つの前記側面のいずれに対しても平行であり、前記第1陽極の中心軸と、前記高速原子ビーム放出口を有する前記側面と、の最短距離と、前記第2陽極の中心軸と、前記高速原子ビーム放出口を有する前記側面と、の最短距離と、が同じである。
【0015】
本発明の高速原子ビーム線源において、前記第1陽極と前記第2陽極の中心軸間距離をP、前記第1陽極および前記第2陽極の円柱断面の半径をrとすると、前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸と直交する断面において、前記高速原子ビーム放出口を備える前記陰極部材の、前記断面における前記第二領域の幅Wが、W≧P-2rであってもよい。
【0016】
本発明の高速原子ビーム線源において、前記第1陽極と前記第2陽極の中心軸間距離をP、前記第1陽極および前記第2陽極の円柱断面の半径をrとすると、前記第1陽極および前記第2陽極の中心軸と直交する断面において、前記高速原子ビーム放出口を備える前記陰極部材の、前記断面における前記第二領域の幅Wが、W≦P+2rであってもよい。
【0017】
本発明の接合基板の製造方法は、第1の半導体基板と、第2の半導体基板とが積層した接合基板を製造する方法であって、請求項4~6のいずれか1項に記載の高速原子ビーム線源を用いて、前記第1の半導体基板の接合対象面と、前記第2の半導体基板の接合対象面に、高速原子ビームを真空中で照射する照射工程と、前記高速原子ビームが照射された、前記第1の半導体基板の接合対象面と前記第2の半導体基板の接合対象面とを接触させて、接合界面を有する積層体を得る接触工程と、前記接合工程で得られた前記積層体を熱処理して接合基板を得る熱処理工程と、を備える。
【0018】
本発明の接合基板の製造方法において、前記第1の半導体基板および前記第2の半導体基板が、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかであってもよい。
【0019】
本発明の接合基板の製造方法において、前記高速原子ビームが、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の陰極部材であれば、本発明の陰極部材を備える陰極を高速原子ビーム線源に用いることにより、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる。これにより、大きいサイズの異物が半導体基板の接合対象面に付着することが抑制され、半導体基板同士を接合するときに破損を伴う接合不良が発生することを抑制して、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0021】
本発明の陰極であれば、本発明の陰極を高速原子ビーム線源に用いることにより、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる。これにより、大きいサイズの異物が半導体基板の接合対象面に付着することが抑制され、半導体基板同士を接合するときに破損を伴う接合不良が発生することを抑制して、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0022】
本発明の高速原子ビーム線源であれば、本発明の陰極を備えることにより、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる。これにより、大きいサイズの異物が半導体基板の接合対象面に付着することが抑制され、半導体基板同士を接合するときに破損を伴う接合不良が発生することを抑制して、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0023】
本発明の接合基板の製造方法であれば、本発明の陰極を備える高速原子ビーム線源を用いて基板の接合対象面を照射することから、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる。これにより、大きいサイズの異物が半導体基板の接合対象面に付着することが抑制され、半導体基板同士を接合するときに破損を伴う接合不良が発生することを抑制して、接合基板の製造効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態の接合基板の製造方法において製造される接合基板を示す斜視図である。
図2】従来の高速原子ビーム線源から半導体基板に高速原子ビーム810を照射する様子を模式的に示す図である。
図3】接合基板の製造において発生する接合不良の一例を模式的に示す断面図である。
図4】接合基板の製造において発生する接合不良の他の一例を模式的に示す断面図である。
図5】本実施形態の高速原子ビーム線源を模式的に示す斜視図である。
図6】本実施形態の陰極部材である、側面130を示す平面図である。
図7】本実施形態の高速原子ビーム線源の断面を示す断面図である。
図8】本実施形態の高速原子ビーム線源の断面において、第一領域R1、第二領域R2の箇所を説明する断面図である。
図9】従来の高速原子ビーム線源800において、高速原子ビーム線照射時の様子を示す断面図である。
図10】本実施形態の接合基板の製造方法のフローを説明する図である。
図11】本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法を説明する図である。
図12】異物のサイズと接合不良のサイズの関係について一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[高速原子ビーム線源、陰極、および、陰極部材]
本発明の一実施形態にかかる高速原子ビーム線源、陰極、および、陰極部材について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態の高速原子ビーム線源は、サドルフィールド型の高速原子ビーム線源であり、内部に不活性ガスを供給して、イオン化された不活性ガスの高速原子ビームを高速原子ビーム放出口から外部に放出するものである。また、本実施形態の高速原子ビーム線源は、例えば、2枚の半導体基板を貼り合わせた接合基板を製造するときに、接合工程の前に基板の接合対象面の表面処理を行うために用いられる。すなわち、高速原子ビーム線源から放出された高速原子ビームを基板の接合対象面に照射して、接合対象面の表面を活性化する表面処理を行う目的で用いられる。
【0027】
図1は、2枚の半導体基板を接合して製造される接合基板の一例を示す斜視図である。接合基板750は略円盤状に形成されている。図1に示された接合基板750は、例えば、下側に配置された支持基板である第2の半導体基板720と、第2の半導体基板720の上面に貼り合わされた単結晶層である第1の半導体基板710と、を備えている。第1の半導体基板710は、例えば、化合物半導体(例:6H-SiC、4H-SiC、GaN、AlN)の単結晶によって形成されていてもよい。また例えば、単元素半導体(例:Si、C)の単結晶によって形成されていてもよい。
【0028】
また、支持基板となる第2の半導体基板720には、各種の材料を用いることができる。第2の半導体基板720は、第1の半導体基板710に適用される各種の熱プロセスに対する耐性を有することが好ましい。また第2の半導体基板720は、第1の半導体基板710との熱膨張率の差が小さい材料であることが好ましい。例えば、第1の半導体基板710にSiCを用いる場合には、第2の半導体基板720には、単結晶SiC、多結晶SiC、単結晶Si、多結晶Si、サファイア、GaN、カーボンなどを用いることが可能である。多結晶SiCには、様々なポリタイプのSiC結晶が混在していても良い。様々なポリタイプが混在する多結晶SiCは、厳密な温度制御を行うことなく製造することができるため、第2の半導体基板720を製造するコストを低減させることが可能となる。
【0029】
図5には、本発明の一実施形態にかかる高速原子ビーム線源500が示されている。高速原子ビーム線源500は、陰極100と、陰極100の内部に設けられ、円柱状、かつ、円柱断面の形状が同一である、第1陽極210および第2陽極220と、を備える。なお、本実施形態の高速原子ビーム線源500、陰極100、第1陽極210および第2陽極220において、図5における矢印X方向、矢印Y方向、矢印Z方向を、それぞれ、幅方向、奥行き方向、高さ方向とする。
【0030】
本実施形態の陰極100は、後述する陰極部材103を備え、6つの内面を有する、内部が中空の箱状である。また、陰極100は、6つの内面として、底面110と、底面110と対向する上面120と、底面110と上面120とをつなぐ4つの側面130,140,150,160と、を備える。また、底面110と上面120、側面130と側面140、側面150と側面160は互いに平行である。例えば、陰極100は、内寸が幅56mm、奥行きが64mm、高さが102mmの直方体状である。
【0031】
また、底面110と上面120は、XY平面に平行であり、側面130、140は対向しているとともにXZ平面に平行であり、側面150、160は対向しているとともにYZ平面に平行である。また、これらの6つの内面は、6枚の平板状の陰極部材から構成されている。本実施形態においては、6枚の陰極部材を箱状に組み立てることで陰極100が形成されている。
【0032】
対向する2組の側面(側面130,140と側面150,160)のうち、側面130,140には、高速原子ビーム放出口101、不活性ガス導入口102が設けられている。すなわち、側面130には、陰極100の内部でイオン化された不活性ガスの高速原子ビームが放出される高速原子ビーム放出口101が設けられている。また、側面130と矢印Y方向に対向する側面140には、陰極100内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口102が設けられている。本実施形態において、高速原子ビーム放出口101は、側面130の中央付近に、直径2mmの円形状の貫通孔が高さ方向に5列、幅方向に5列に、等間隔に並んで合計25個設けられている。また、不活性ガス導入口102は、側面140に、直径3mmの円形状の貫通孔が設けられている。高速原子ビーム放出口や不活性ガス導入口の形状、個数、場所は本実施形態に限定されず、他の形態でもよい。
【0033】
図7は、高速原子ビーム線源500のXY平面に平行な断面を示す断面図である。本実施形態において、第1陽極210および第2陽極220は、陰極100の内部において、互いに離隔しており、第1陽極210および第2陽極220の中心軸は、互いに平行であるとともに、4つの側面130,140,150,160のいずれに対しても平行であり、第1陽極210の中心軸210aと、高速原子ビーム放出口101を有する側面130と、の最短距離(図7のL1)と、第2陽極220の中心軸220aと、高速原子ビーム放出口101を有する側面130と、の最短距離(図7のL2)と、が同じである。すなわち、第1陽極210と第二陽極220は、それぞれ、第1陽極210の中心軸210aと第2陽極220の中心軸220aが高速原子ビーム線源500のXZ平面に平行な1つの断面上においてZ方向に平行になるように、配置されている。
【0034】
また、第1陽極210、第2陽極220は、陰極100の内部に2本設けられており、陰極100の内部には絶縁部材(不図示)を介して固定されている。また、第1陽極210、第2陽極220の形状は、断面の直径が10mm、高さ寸法は陰極100の高さとほぼ同じ円柱状である。第1陽極210、第2陽極220は、円形の断面がXY平面に平行であり、かつ、円柱の中心軸がZ方向と平行である。また、図7に示すように、2本の第1陽極210、第2陽極220は、陰極100の奥行き方向の真ん中の位置(側面130,140からそれぞれ32mmの位置)において、2本の第1陽極210、第2陽極220の中心軸間距離が25mmとなるように、互いに離隔して設けられている。
【0035】
また、陽極の材質は、グラファイト、ガラス状カーボン、シリコン、炭化ケイ素などを用いることができる。
【0036】
また、陰極100には直流電源の負極が接続され、第1陽極210、第2陽極220には直流電源の正極が接続されており、例えば、0.8kV~2kV程度の高電圧が印加される。これにより電界が生じて、不活性ガス導入口102から陰極100内部に導入された不活性ガスが電離して2本の第1陽極210、第2陽極220間にプラズマが発生する。さらに、不活性ガスの陽イオンが、高速原子ビーム放出口101を有する側面130、およびそれに対向する側面140の近傍に滞留する電子を捕獲して中性化し、高速原子ビーム放出口101より高速原子ビーム線源500の外部に高速原子ビーム510(図11)として放出される。このとき、照射電流は、例えば、10mA~100mA程度となるように、不活性ガスの流量を調整する。
【0037】
陰極部材103は、平板状であり、4つの隅角部103aと、隅角部103aをつなぐ4つの辺103bで輪郭が構成された、陰極100の内面を構成する平面を備える。この平面において、隅角部103aと辺103bとを含み、かつ、高速原子ビーム線源500の使用により発生するスパッタリングによる陰極部材103の除去量よりも、スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域である第一領域R1(図6図8)と、平面から第一領域R1を除いた領域である第二領域R2(図6図8)と、を有する。
【0038】
ここで、図6は、陰極部材103である側面130の平面図であり、高速原子ビーム線源を一定時間使用後にスパッタ塵が堆積しやすい領域を斜線で示している。このように、陰極部材の隅角部103aおよび辺103bを含む、スパッタ塵が堆積しやすい領域が第一領域R1であり、第一領域R1を除く内部の領域が第二領域R2である。本実施形態の陰極部材において、第一領域R1は、第二領域R2よりも、表面粗さRaの平均値が大きい。なお、以下の記載において、表面粗さRaと記載した場合には、当該領域における表面粗さRaの平均値を示すものとする。また、陰極部材103の厚さは、例えば、1mm~5mm程度とすることができる。
【0039】
なお、第一領域R1は、第二領域R2よりも、表面粗さRaの平均値が大きければよく、例えば第一領域R1と第二領域R2の境界において、緩衝領域として第一領域R1と第二領域R2の中間となる表面粗さRaを有する領域を設けてもよい。また、第一領域R1と第二領域R2の境界近傍の表面粗さRaを連続的に変化させてもよい。このように表面粗さRaを段階的に設定することにより、破損を伴う接合不良の低減に向けた、より細かな設計が可能となる。
【0040】
また、所定の表面粗さRaに設定するための陰極部材の表面形状は、限定されない。特に第一領域R1においては、スパッタ塵の堆積物が剥がれることを抑制するために、表面積を大きくすることが有効であるが、等方的な形状だけではなく、例えば堆積したスパッタ塵が平面状となる事を避けるために、内部応力を分散できるように凹凸状もしくは波状にするなど、様々な形状を適用することができる。
【0041】
ここで、図8に示すように、第1陽極210と第2陽極220の中心軸間距離をP、第1陽極210および第2陽極220の円柱断面の半径をrとすると、第1陽極210および第2陽極220の中心軸210a、220aと直交する断面(図11に示すXY平面に平行な断面S)において、高速原子ビーム放出口101を備える陰極部材(側面130)の、断面Sにおける第二領域R2の幅Wが、W≧P-2rとすることができる。また、第1陽極210と第2陽極220の中心軸間距離をP、第1陽極210および第2陽極220の円柱断面の半径をrとすると、第1陽極210および第2陽極220の中心軸210a、220aと直交する断面Sにおいて、高速原子ビーム放出口101を備える陰極部材(側面130)の、断面Sにおける第二領域R2の幅Wが、W≦P+2rとすることができる。本発明者らの検討により、所定時間高速原子ビームを照射後の陰極部材において、陰極部材の中心に対して幅がP-2rまでの範囲までは比較的平滑な表面形状をしており、P-2rからP+2rまでの範囲にかけて徐々に平滑性が失われていく様子が観察されたものの、堆積物は確認されないことが分かっており、また、P+2rよりも外側の領域は膜状の堆積物が存在し、さらに、一部が剥落している様子が確認された。以上のように第二領域R2を規定することにより、異物の発生機序に応じて第一領域R1、第二領域R2における陰極部材の表面粗さRaを適切に設定して、高速原子ビーム線源からの異物の射出を効果的に抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態の陰極部材としては、例えば、導電性を有し、かつ、粒子線照射時に高速原子ビーム線源内部において発生するスパッタリングに対する耐性の高い材質を用いて形成することが適しており、例えば、グラファイト製、ガラス状カーボン製、炭化ケイ素製のいずれかとすることができる。
【0043】
(接合基板の製造工程における接合不良)
ここで、接合基板の製造工程において発生しうる接合不良について説明する。
<接合不良における異物のサイズ>
接合基板の製造工程における接合不良の形成のうち、高速原子ビーム線源からの異物の射出に起因するものについて説明する。図2は、照射工程において、高速原子ビーム線源800から第1の半導体基板710の接合対象面711に高速原子ビーム810を照射する様子を模式的に示す図である。ここでは、第1の半導体基板710への照射を例に挙げているが、同様の現象は、対向位置に配置されている第2の半導体基板720への照射においても発生しうる。高速原子ビーム線源の内部から異物mが射出され、図2に示すように、この異物mが飛来して第1の半導体基板710の接合対象面711に付着することがある。この状態で、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720の接合が行われると、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720の接合対象面711,712の接触により形成される接合界面730において、異物mが存在する部位において接合対象面711,721同士の接触が阻害されることになり、その結果、図3に示すように、局所的に接触していない空隙Vが生じることがある。この空隙Vが接合不良となる。
【0044】
接合不良のサイズは、異物mの大きさ、接合対象面711,721の接合強度および第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の機械的強度に依存する。このうち、接合対象面711,721の接合強度については、高速原子ビーム線の照射における照射条件や接合後の熱処理条件に依存する。また、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の機械的強度については、これらの基板の物性と厚みに依存し、接合不良のサイズは、接合対象面711,721に付着する異物mのサイズに強く依存する。
【0045】
図12に異物mのサイズと接合不良のサイズの関係について一例を示す。ここでの第1の半導体基板710の厚みはおよそ1μmである。図12により、異物mのサイズ(直径)と接合不良のサイズ(直径)とが正の相関を示すことが分かる。また、異物mのサイズが大きくなると、接合不良のサイズが大きくなるだけではなく、その形態にも違いが現れる。接合不良における異物mは、接合対象である第1の半導体基板710、第2の半導体基板720に対して、くさびのような役割を果たしており、各々の表面に圧力を加えている。そのため、異物mのサイズが大きくなるに従い、接合対象に対して加わる圧力が大きくなっていき、接合対象である半導体基板自身の機械的強度を超えると図4に示すような半導体基板自身の破損を伴った接合不良となる。この傾向は、特に接合対象である半導体基板が薄層の場合に顕著となる。接合対象の破損を伴った接合不良は、図3に示された破損していない接合不良と比較して、基板の特性に対して及ぼす影響が大きいため、特にその発生を抑制する必要がある。図12の例では、異物のサイズ(直径)の増加に伴い接合不良のサイズが拡大していき、およそ5μmを超えてくると、接合不良のサイズとして40μm以上あり、且つ接合対象の破損を伴ったものが発生することを示しており、ここでは特に5μmを超えるサイズの異物の発生を抑制する必要性を示している。
【0046】
<異物のサイズと接合不良発生機構の分類>
高速原子ビーム線源内部から飛来する異物mの発生機構について、図9を参照して説明する。
【0047】
図9に、XY平面に平行な断面における従来の高速原子ビーム線源800の断面における、高速原子ビーム線照射時の様子を示す。高速原子ビーム線源800は、陰極部材903の表面粗さRaが一様であること以外は高速原子ビーム線源500と同様の構成である。
【0048】
まず、不活性ガス導入口902より導入された不活性ガスGが、直流電圧(例えば、約0.8kV~2kV)が印可された第1陽極210、第2陽極220の間においてイオン化し、陽イオンeとなる。この陽イオンeが、陰極900に向かって加速しながら飛行し、高速原子ビーム放出口901近傍に滞留している電子により中性化されて、高速原子ビーム810として高速原子ビーム線源800の外側に放出される。
【0049】
一方、高速原子ビーム線源800の外側に放出されなかった陽イオンeは、高速原子ビーム線源800を構成する陰極900の内面に衝突し、陰極部材903をスパッタリングする。このスパッタリングにより生じた陰極の塵(以降、スパッタ塵905と呼ぶ)が、異物mの源となる。本願発明者らの実験の結果、高速原子ビーム線源800内部で発生したスパッタ塵905に由来する異物の発生機構が2種類存在していることが明らかとなった。
【0050】
一つは、スパッタリングにより生じた陰極由来のスパッタ塵がそのまま外部に射出されたものであり、比較的サイズの小さい異物として作用する。一方、外部に射出されずに高速原子ビーム線源内部に留まったスパッタ塵については、陰極内面に再付着すると、陰極の角などで膜状に堆積した集合体となり、堆積物を形成する。この堆積物は、その厚みが増すに従い陰極の内面から剥落し、一部が外部に射出されることがある。この射出された堆積物片がもう一つの異物であり、この異物はスパッタ塵の集合体であるため、サイズが大きいという特徴をもつ。このようなサイズの大きい異物は、接合不良の中でも図4にある破損Cを伴う接合不良発生の原因として作用する。
【0051】
このように、高速原子ビーム線源の陰極のスパッタ塵を源として発生する異物については、その発生機構と発生源である陰極材の表面形状に強い相関がある。まず異物の源であるスパッタ塵については、陰極部材のうち、スパッタリングにより削られる除去量と発生したスパッタ塵の再付着量を比較して、除去量の多い部位(第二領域R2)において発生する。その発生数は荷電粒子によりスパッタリングを受けた陰極部材の除去量に依存しており、スパッタリングによる除去量は、荷電粒子の持つエネルギーおよびスパッタリングを受ける対象の表面積に依存する。
【0052】
そのため、本実施形態の高速原子ビーム線源500においてスパッタ塵の発生を抑制するためには、荷電粒子が衝突する対象の表面積を低減するといった手段が有効であると考えられ、スパッタリングの対象である陰極部材の表面粗さについては、粗さを小さくすることが有効である。第二領域R2の最適な表面最適な粗さについては、最終製品に求める接合不良の仕様にもよるが、例えば、表面粗さRaとして0.3μm以下、更には0.1μm以下とすることができる。
【0053】
サイズの大きい異物は、陰極部材のうち、スパッタリングによる除去量と発生したスパッタ塵の再付着量を比較して、スパッタ塵の再付着量の多い部位(第一領域R1)において発生する。その発生数は、異物の源となるスパッタ塵の発生量に加えて、スパッタ塵の再付着により形成された堆積物の剥がれやすさに依存する。堆積物の剥がれやすさは、堆積物と陰極部材の接着強度および堆積物の堆積様式に依存する。一般的に、二体間の接着強度は、その接触面積が大きいほど強くなる傾向が知られている。
【0054】
そのため、本実施形態の高速原子ビーム線源500においてサイズの大きい異物の発生を抑制するためには、堆積物と接触する陰極部材の表面積を大きくするといった手段が有効であると考えられ、高速原子ビーム線によるスパッタリングの対象である陰極部材の表面粗さについて、表面粗さを大きくすることが有効であると考えられる。第一領域R1の最適な表面粗さについては、最終製品に求める接合不良の仕様にもよるが、例えば、表面粗さRaとして0.3μmより大きく、更には1.0μm以上とすることができる。
【0055】
本願発明では、接合基板の製造における接合不良の発生要因である高速原子ビーム線源から射出される異物について、異物により発生する接合不良の態様と、高速原子ビーム線源から発生する異物の種類およびその発生箇所の関係を明らかにした。その知見に基づき、第一領域R1の表面粗さRaの平均値を第二領域R2の表面粗さRaの平均値よりも大きくすることで、特に基板特性に及ぼす影響が大きい、接合対象の破損を伴った接合不良の発生源となりうるサイズの大きい異物の発生を抑えることができる。
【0056】
本実施形態の陰極部材であれば、第一領域R1は、第二領域R2よりも、表面粗さRaの平均値が大きいことにより、第二領域R2においてサイズの大きい異物の源となるスパッタ塵の発生を抑制するとともに、第一領域R1においてスパッタ塵の再付着により形成された堆積物の剥落を抑制することができる。その結果、堆積物が剥離、落下することにより発生する、高速原子ビーム線源からのサイズの大きい異物の射出を抑制することができる。すなわち、本実施形態の陰極部材を備える陰極を高速原子ビーム線源に用いると、サイズの大きい異物Mの半導体基板の接合対象面への付着が低減することで破損を伴う接合不良の発生が抑制されて、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0057】
[接合基板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法について図10図11を参照して説明する。図10は、本実施形態の接合基板の製造方法のフローを説明する図である。図11(A)は、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721に高速原子ビーム510を照射する接合装置600の様子を示す模式図である。また、図11(B)は、照射工程後の、第1の半導体基板710’および第2の半導体基板720’を模式的に示す断面図である。また、図11(C)は、接触工程後に得られた積層体700を模式的に示す断面図である。本実施形態においては、一例として、第1の半導体基板710が単結晶層である単結晶4H-SiC基板であり、第2の半導体基板720が支持基板である多結晶SiC基板である場合を例示する。
【0058】
本実施形態の接合基板の製造方法は、第1の半導体基板と、第2の半導体基板とが積層した接合基板を製造する方法である。前述した実施形態の高速原子ビーム線源500を用いて、第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721に、高速原子ビーム510を真空中で照射する照射工程(図10のS1)と、高速原子ビーム510が照射された、第1の半導体基板710’の接合対象面711と第2の半導体基板720’の接合対象面721とを接触させて、接合界面730を有する積層体を得る接触工程(図10のS2)と、を備える。また、本実施形態の接合基板の製造方法は、接合工程で得られた積層体700を熱処理して接合基板を得る熱処理工程(図10のS3)をさらに備えていてもよい。
【0059】
本実施形態の接合基板の製造方法において、第1の半導体基板710および第2の半導体基板720は、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかとすることができる。また、第1の半導体基板710を単結晶層とする場合、4H-SiCの単結晶に限られない。3C-SiCや6H-SiCなど、様々なポリタイプの単結晶SiCを用いることができ、単結晶層を形成するために、水素原子のアブレーションによる剥離技術(スマートカット(登録商標)とも呼ばれる)を用いてもよい。また、第1の半導体基板710を単結晶層とする場合、第2の半導体基板720は、単結晶層に適用される各種の熱プロセスに対する耐性を有する材料であれば、どのような材料であってもよい。
【0060】
また、高速原子ビーム510は、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含むものとすることができる。
【0061】
接合装置600は、筐体と、2つの高速原子ビーム線源500と、筐体内を真空にする真空ポンプ(不図示)と、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を保持するとともに、製造の各工程において第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を所定の位置に移動させる保持手段(不図示)と、を備える。2つの高速原子ビーム線源500は、図11に示すように、第1の半導体基板710の接合対象面711、第2の半導体基板720の接合対象面721に高速原子ビーム510を照射するように設置されている。
【0062】
具体的な手順について、図10図11を参照して説明する。まず、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を準備する。第1の半導体基板710と第2の半導体基板720の表面は、平坦化されていることが好ましい。平坦化は、研削や切削によって行われてもよいし、CMP法によって行われてもよい。
【0063】
まず、ステップS1として照射工程を行う。照射工程は、図11(A)に示すように、高速原子ビーム線源500から高速原子ビーム510を第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721とに照射する工程である。これにより、接合対象面711,721が活性化された、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’が得られる。
【0064】
接合対象面711,721の活性化とは、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721にある酸素、水素、ヒドロキシル基(OH基)等の界面終端成分、酸化膜を除去して、未結合手であるダングリングボンドを表出させることを指す。また、高速原子ビーム照射時に、接合対象面711,721の結晶構造を、表面から一定の深さで破壊することができる。その結果、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の表面に、SiとCを含んでいる非晶質層が形成される。非晶質層とは、原子が結晶構造のような規則性を持たない状態となっている層のことである。
【0065】
手順としては、図11(A)のように、第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721とが相対するように、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を接合装置600のチャンバー内に設置して相対位置の位置合わせを行う。位置合わせは、後述する接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように行われる。次に、筐体の内部を真空引きして、例えば1×10-4~1×10-7(Pa)程度の真空状態としておく。
【0066】
次に、第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721とに高速原子ビーム線源500を用いて、高速原子ビーム510を照射する。
【0067】
高速原子ビーム510は、第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721の全面に対して照射される。
【0068】
次に、ステップS2として接触工程を行う。図11(B)に示すように、接合対象面711,721が近づく方向(図11(B)の矢印方向)に、接合対象面711,721が接するまで、第1の半導体基板710’、第2の半導体基板720’を移動させる。接合対象面711,721が接触したのちに、所定の荷重(例えば、100kgf(0.98kN))を印加し、所定時間(例えば、3分間)保持する。これにより、活性状態の接合対象面711,721に存在するダングリングボンド同士が結びつき、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’とを接合させることができる。以上により接触工程が終了し、接合界面730を有する、積層体700(図11(C))が得られる。
【0069】
次に、ステップ3として熱処理工程を行う。熱処理工程は、第1の半導体基板710’、および第2の半導体基板720’の非晶質層同士が接触している状態で、積層体700を熱処理する。熱処理工程は、ファーネス(加熱炉)を用いて行われる。熱処理工程は、接合装置600のチャンバー内で減圧下において行われてもよいし、チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。
【0070】
熱処理工程では、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’の積層体700が、所定温度に加熱される。所定温度は、接合基板の材料に応じて決定してもよい。例えば、SiCを用いる場合には、1000℃以上(好ましくは1500℃程度)に加熱してもよい。これにより、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’の非晶質層を、原子配列に規則性がない状態から、原子配列に規則性を有する状態へ再結晶化させることができる。再結晶化が完了すると、非晶質層が消滅し、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720とが直接に接合している接合基板が形成される。
【0071】
本実施形態の接合基板の製造方法によれば、陰極100を備える高速原子ビーム線源500を用いて第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721を照射することから、高速原子ビーム線源500からの堆積物の放出、すなわち、サイズの大きい異物の射出が抑制され、接合対象面711,721上へのサイズの大きい異物の付着を抑制することができる。これにより、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720同士を接合する際に、特に第1の半導体基板710,第2の半導体基板720の破損を伴う接合不良が発生することを抑制して、歩留まりを改善することにより、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0072】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の工程等を含み、前述した実施形態の変形等も本発明に含まれる。
【0073】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0074】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例0075】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0076】
[実施例1]
陰極として、前述した実施形態の陰極100を用いた。すなわち、陰極は、ガラス状カーボン製で幅56mm、高さ102mm、奥行き64mm、とし、陰極部材の厚さは3mmとした。
【0077】
また、第1陽極210と第2陽極220として、直径10mm、長さ100mmの円柱状でグラファイト製の陽極を2本用いた。2本の陽極は、絶縁部材を介して、陰極100の奥行き方向の真ん中の位置(側面130,140からそれぞれ32mmの位置)において、2本の陽極の中心軸間距離が25mmとなるように、互いに離隔して底面110と上面120に固定した。
【0078】
不活性ガスは、アルゴン(Ar)ガスを不活性ガス導入口から陰極100内に導入した。高速原子ビーム線源500からの高速原子ビーム照射の加速電圧は1kVとし、照射電流が30mAになるようにArガス流量を調整して、照射を実施した。第1の半導体基板、第2の半導体基板は、直径150mm(6インチ)、厚さ625μmのシリコン基板を用いた。実施例1においては、陰極100の内面を構成する、陰極部材の平面において、ブラスト加工により第一領域の表面粗さRaを1.0μm、第二領域の表面粗さRaを0.1μmとした。なお、表面粗さは、各領域より3ヵ所測定し、その平均値とした。
【0079】
まず、未使用の状態から積算照射時間3時間後の陰極100を用いて、上記照射条件にて、シリコン基板上に300秒ビーム照射した後、シリコン基板の表面に付着した異物の数を計測した。次に、積算使用時間15時間後の陰極100を用いて、シリコン基板上に300秒ビーム照射した後、シリコン基板の表面に付着した異物の数を計測した。なお、異物の数はパーティクルカウンタ(型式WM-7S、TOPCON社製)を使用し、異物の総数、直径5μm以下の異物の数、直径5μmよりも大きい異物の数を計測した。積算使用時間15時間後において、直径5μm以下の異物の数が400個以下、直径5μmよりも大きい異物の数が5個以下の場合、異物の射出が十分に抑制され、破損を伴う接合不良の発生が極めて低くなると判断した。結果を表1に示す。
結果を表1に示した。
【0080】
さらに、積算照射時間15時間後の高速原子ビーム線源を用いて照射工程を行った第1の半導体基板(厚さ350μmの単結晶SiC基板)、第2の半導体基板(厚さ350μmの多結晶SiC基板)を用いて、接触工程、熱処理工程を行い、接合基板を作製した。水素原子のアブレーションによる剥離加工を施し、単結晶SiC基板を薄層化して厚さ1μmの単結晶SiC層としたのちに、接合不良(サイズが40μm以上、且つ破損を伴うもの)の有無を評価した。その結果、当該接合不良の発生は認められなかった。
【0081】
[実施例2]
陰極100の内面を構成する、陰極部材の平面において、第一領域の表面粗さRaを0.5μm、第二領域の表面粗さRaを0.1μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてシリコン基板の表面に付着した異物を計測した。結果を表1に示す。
【0082】
さらに、実施例1に記載の方法と同様にして、積算照射時間15時間後の高速原子ビーム線源を用いて、接合基板を作製し、接合不良(サイズが40μm以上、且つ破損を伴うもの)の有無を評価した。その結果、当該接合不良の発生は認められなかった。
【0083】
[実施例3]
陰極100の内面を構成する、陰極部材の平面において、第一領域の表面粗さRaを1.0μm、第二領域の表面粗さRaを0.3μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてシリコン基板の表面に付着した異物を計測した。結果を表1に示す。
【0084】
さらに、実施例1に記載の方法と同様にして、積算照射時間15時間後の高速原子ビーム線源を用いて、接合基板を作製し、接合不良(サイズが40μm以上、且つ破損を伴うもの)の有無を評価した。その結果、当該接合不良の発生は認められなかった。
【0085】
[比較例1]
陰極100の内面を構成する、陰極部材の平面において、第一領域の表面粗さRaを0.1μm、第二領域の表面粗さRaを0.1μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてシリコン基板の表面に付着した異物を計測した。結果を表1に示す。
【0086】
さらに、実施例1に記載の方法と同様にして、積算照射時間15時間後の高速原子ビーム線源を用いて、接合基板を作製し、接合不良(サイズが40μm以上、且つ破損を伴うもの)の有無を評価した。その結果、サイズとして、60μm~200μm、且つ破損を伴う接合不良が8個認められた。
【0087】
【表1】
【0088】
表1の結果に示されたように、実施例1~実施例3においては、第一領域よりも第二領域の表面粗さRaを大きくすることにより、特に5μmよりも大きいサイズの異物の射出が抑制された。また、表面粗さRaが大きいほど5μmよりも大きいサイズの異物の射出抑制効果が高いことが示唆された。
【0089】
本発明の例示的態様である実施例1~実施例3において、陰極部材における、スパッタリング現象により生じたスパッタ塵が堆積しやすい領域(第一領域)の表面粗さRaを第二領域よりも大きくすることにより堆積物の放出が抑制され、高速原子ビームが照射された半導体基板の接合対象面上に特に大きいサイズの異物の付着を抑制できることが示された。これにより、半導体基板同士を接合するときに接合不良が発生することを抑制して、接合基板の製造効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0090】
100 陰極
101 高速原子ビーム放出口
102 不活性ガス導入口
103 陰極部材
103a 隅角部
103b 辺
110 底面
120 上面
130 側面
140 側面
150 側面
160 側面
210 第1陽極
220 第2陽極
500 高速原子ビーム線源
750 接合基板
710 第1の半導体基板
720 第2の半導体基板
711,721 接合対象面
R1 第一領域
R2 第二領域
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