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  • 特開-金属塩の分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169964
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】金属塩の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20231124BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20231124BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20231124BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/22
C22B3/06
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081330
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】505323493
【氏名又は名称】株式会社マリン・ワーク・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】渡慶次 聡
(72)【発明者】
【氏名】河合 展夫
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA39
4K001BA19
4K001BA24
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】簡便かつ低コストで、希土類金属が低濃度で含まれる溶液にも適用可能な分離方法を提供する。
【手段】希土類金属を含む水溶液から、該希土類金属を分離する方法であって、前記希土類金属を含む水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する工程、アルコールを添加する工程、前記希土類金属の塩を晶析させる工程を備え、前記希土類金属を含む水溶液中の各希土類金属の濃度が、それぞれ100ppm以下である、金属塩の分離方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属を含む水溶液から、該希土類金属を分離する方法であって、
前記希土類金属を含む水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する工程、アルコールを添加する工程、前記希土類金属の塩を晶析させる工程を備え、
前記希土類金属を含む水溶液中の各希土類金属の濃度が、それぞれ100ppm以下である、
金属塩の分離方法。
【請求項2】
前記希土類金属を含む水溶液が酸を含む、請求項1に記載の金属塩の分離方法。
【請求項3】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる、一種又は二種以上の混合物である、請求項1または2に記載の金属塩の分離方法。
【請求項4】
前記硫酸アンモニウムの濃度を2mol/L未満とする、請求項1~3のいすれか1項に記載の金属塩の分離方法。
【請求項5】
前記希土類金属が、ネオジム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、および、エルビウムからなる群から選ばれる一種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の分離方法。
【請求項6】
前記希土類金属を含む水溶液が、海底表層堆積物を酸浸出した水溶液である、請求項1~5のいずれか1項に記載の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塩の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類鉱石を産出しない、現在の日本にとって、希土類金属のリサイクル技術を確立することは急務である。この点、溶液中にある程度高濃度で含まれる希土類金属を回収する場合には既存の技術を適用できることが予想できるものの、100ppm以下程度含まれるような低濃度の溶液を扱う場合には、既存の技術では煩雑、かつコストもかかり難しいことから、簡便でかつ低コストで低濃度資源の分離・濃縮を行う手法の開発が望まれる。
【0003】
本発明者らは、これまでメタノールと硫酸アンモニウムを用いることで金属イオン含有水溶液の溶解度を変化させ、効率よく固相に分離回収する技術の開発を行ってきたが(特許文献1)、上記同様の課題があった。
【0004】
特に、島国である我が国にとって、有望な資源として有力視されている海底表層堆積物(いわゆる海底泥)について、簡便でかつ低コストで低濃度資源の分離・濃縮を行う手法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021―37438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、希土類金属が100ppm以下含まれるような低濃度の溶液を扱う場合、従来の分離方法では、煩雑かつコスト高となっており、簡便かつ低コストで、希土類金属が低濃度で含まれる溶液にも適用可能な分離方法が要望されていた。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、以下の発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 希土類金属を含む水溶液から、該希土類金属を分離する方法であって、
前記希土類金属を含む水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する工程、アルコールを添加する工程、前記希土類金属の塩を晶析させる工程を備え、
前記希土類金属を含む水溶液中の各希土類金属の濃度が、それぞれ100ppm以下である、金属塩の分離方法。
【0008】
[2] 前記希土類金属を含む水溶液が酸を含む、[1]に記載の金属塩の分離方法。
【0009】
[3] 前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる、一種又は二種以上の混合物である、[1]または[2]に記載の金属塩の分離方法。
【0010】
[4] 前記硫酸アンモニウムの濃度を2mol/L未満とする、[1]~[3]のいすれか1項に記載の金属塩の分離方法。
【0011】
[5] 前記希土類金属が、ネオジム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、および、エルビウムからなる群から選ばれる一種以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の分離方法。
【0012】
[6] 前記希土類金属を含む水溶液が、海底表層堆積物を酸浸出した水溶液である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の分離方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属塩の分離方法によれば、希土類金属が100ppm以下含まれるような低濃度の溶液から、簡便、低コスト、かつ、効率良く希土類金属を回収することができる。また、固相への濃縮を行うことで希土類資源のコンパクト化ならびにハンドリングの向上に大きく貢献出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の金属塩の分離方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<金属塩の分離方法>
本発明の金属塩の分離方法は、希土類金属を含む水溶液から、該希土類金属を分離する方法であって、前記希土類金属を含む水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する工程、アルコールを添加する工程、金属塩を晶析させる工程を備え、前記希土類金属を含む水溶液中の各希土類金属の濃度が、それぞれ100ppm以下である、金属塩の分離方法である。
図1に、本発明の金属塩の分離方法の実施形態の一例を示すフロー図を示す。
【0016】
通常、晶析を利用する方法では飽和濃度近くの残液が生じ、分離対象が残存する場合があるが、本発明の希土類金属の分離方法では、分離対象が低濃度下であっても高い効率での分離を達成し、そのほとんどが固相に析出することから、分離の効率ならびに着目成分に関する固相回収率が極めて高くなる。
分離対象が低濃度で含まれる溶液であっても、分離対象の大部分を固相に相変化させることで固相中の相対濃度が高まることから、以降の分離操作等でのハンドリングが容易になる。
既存技術では、分離対象の濃度がある程度高い領域で分離の効果を示してきたが、本願の様に分離対象が100ppm以下の溶液に対しても分離効果が有効であることが新たに示され、従来、資源としての利用価値が高いにも関わらず利用されていなかったレアアースの有効利用についての活路を与えたことは、本発明による大きな貢献である。
【0017】
(希土類金属を含む水溶液)
希土類金属を含む水溶液は、分離対象である希土類金属が溶解している水溶液であれば、特に限定されず、希土類金属の金属塩を水に溶解させて調製した溶液であってもよいし、希土類金属および/または希土類金属の金属塩を含む固体を硫酸、塩酸等の酸で浸出した酸浸出液であってもよい。また、含有している希土類金属は単数でも複数でもよい。また、希土類金属以外の金属および/またはその金属塩が含有していてもよい。
【0018】
本発明において、分離対象となる希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、カドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルリビウム、ルテチウムを挙げることができ、中でも、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、カドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテリビウム、ルテチウムが好ましく、さらには、ネオジム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウムがより好ましい。
【0019】
希土類金属以外の金属としては、一般的なベースメタルである鉄、マグネシウム、銅、鉛等の他、レアメタルであるリチウム、ベリリウム、ルビジウム、ストロンチウム、インジウム、セシウム、バリウム、タリウム、ビスマス、トリウム、ウランなどが挙げられる。
【0020】
水溶液中の各希土類金属の濃度は、それぞれ100ppm以下であり、好ましくは80ppm以下、より好ましくは50pppm以下、さらに好ましは35ppm以下、さらに好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは5.0ppm以下、特に好ましくは1.0ppm以下、最も好ましくは0.10ppm以下である。分離対象ではない希土類金属以外の金属の濃度は、特に限定されないが、数ppm~1mol/Lまで、幅広い濃度であっても構わない。
【0021】
従来、晶析を利用する分離方法の場合、溶液中に対象となる金属がある程度高い濃度である必要があったが、本発明では上記のように低い濃度であっても晶析させ分離することができる。
このため、濃縮作業を行わなくても分離が可能であり、また、所望の希土類金属が、水溶液中で低濃度で存在していたとしても、該希土類金属を他の金属(たとえ、他の金属が高濃度で存在していたとしても)に優先させて分離することが可能となる。
【0022】
(硫酸アンモニウムを添加する工程)
本願の金属塩の分離方法では、まず、希土類金属を含む水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する。本願の方法においては、得られる溶液の硫酸アンモニウム濃度は、下限が好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/L以上であり、上限が好ましくは5mol/L以下、より好ましくは3mol/L以下、さらに好ましくは2mol/L以下である。
【0023】
(アルコールを添加する工程)
上記工程で得られた溶液に、アルコールを添加する。使用できるアルコールとしては、水に対して貧溶媒性を示し誘電率が水よりも低い値を示すメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、これらは二種以上を混合しても使用してもよい。中でも、安価で回収し易いメタノールが好ましい。
アルコールの添加量は、添加後の溶液のアルコール濃度が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上となるようにする。なお、アルコールの添加量は、硫酸アンモニウムの添加量により最適な添加量が変わる。硫酸アンモニウムの濃度を下げたいときには、アルコールの濃度を高くすればよく、アルコールの添加量を抑制したい場合には、硫酸アンモニウムの添加量を上げればよい。
【0024】
なお、上記のように、硫酸アンモニウムを添加した後にアルコールを添加してもよいし、工程を逆にして、アルコールを添加した後に、硫酸アンモニウムを添加してもよいし、または、硫酸アンモニウムとアルコールとを同時に添加してもよい。なお、硫酸アンモニウムを後に添加する場合は、アルコールを除いた溶液を基準として上記の濃度となるように添加すればよい。
【0025】
(金属塩を晶析させる工程)
上記の工程により、硫酸アンモニウムおよび/またはアルコールを添加した後に、必要により、溶液を、振とう、撹拌により溶液を混合することが好ましい。混合時間は、特に限定されず、硫酸アンモニウムが溶解すればよく、例えば、10秒~10分程度とすることができる。
【0026】
その後、溶液を静置することにより、金属塩が晶析する。静置する時間は、金属塩が晶析するのに十分な時間でればよく、例えば、10分~3時間程度とすることができる。
【0027】
金属塩が晶析した後、ろ過により固液分離を行い、固相として晶析した金属塩を得ることでき、また、液相として晶析しなかった金属塩を含む溶液を得ることができる。晶析した金属塩は、元の溶液と同様のアルコール濃度および硫酸アンモニウム濃度を有する水溶液で洗浄してもよい。
以上の操作は、通常、常温・常圧で行うが、必要に応じて温度、圧力を変えて行ってもよい。
【0028】
本発明においては、分離対象である希土類金属を含む水溶液が、酸を含んでいることが好ましい。酸の種類は特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸などの水溶性の有機酸を挙げることができる。酸を含む形態については、希土類金属が溶解している溶液に、酸を添加してもよいし、または、希土類金属を含有する固体を酸で浸出した酸浸出液の形態で酸を含有していてもよい。
本発明者らは、本発明において、低濃度の希土類金属を所定の方法により晶析可能としたのは、水溶液中に酸が存在していることが大きな要因であると考えており、現在そのメカニズムについて解析中である。
水溶液中の酸の濃度は、目的とする金属を浸出できる濃度であれば特に限定されないが、例えば、下限は、0.01mol/L以上が好ましく、0.05mol/L以上がより好ましく、0.1mol/L以上がさらに好ましい。上限は、10mol/L以下が好ましく、5mol/L以下がより好ましく、1mol/L以下がさらに好ましく、0.5mol/L以下が特に好ましい。
【実施例0029】
<実施例1(Ndの晶析挙動の確認)>
ネオジム(Nd)7.2mg(NdCl:5.0×10-3mol/L)を含む水溶液に硫酸アンモニウムを添加し(硫酸アンモニウム濃度:1.0mol/L)、さらにメタノールを添加して、1分攪拌し、30分室温にて静置して、ネオジムの晶析挙動を確認した。
図2(a)、(b)に結果を示す。この結果より、メタノール濃度が44.5wt%程度で、液相のNdが1mg程度まで減少し、固相にNdが析出したことが分かった。
【0030】
<実施例2(硫酸含有溶液から希土類金属の晶析)>
硫酸を0.2mol/L含み、表1に示す各種金属を表1中の浸出液中金属濃度にて含有する水溶液に対して、硫酸アンモニウムを1mol/L添加し、メタノール濃度が44.5wt%になるように添加して、1分攪拌し、10分室温にて静置して、各金属の晶析挙動を確認した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果より、たとえばNd、Sm、Tb、Dy、Erの金属種についてみてみると、原液中に15ppm以下で含有されている場合でも、硫酸アンモニウムおよびメタノールによる処理を行うことで、そのほとんどが液相から固相中に移動し、液に残存している量はほんのわずかであることが分かる。また,原液中の濃度の約32~34倍程度で固相中に濃縮したことが分かり、溶媒が除かれて希土類金属が濃縮された固体を得ることができた。
【0033】
<実施例3(塩酸含有溶液から希土類金属の晶析)>
塩酸を0.2mol/L含み、表1に示す各種金属を表1中の浸出液中金属濃度にて含有する水溶液に対して、硫酸アンモニウムを1mol/L添加し、メタノール濃度が44.5wt%になるように添加して、1分攪拌し、10分室温にて静置して、各金属の晶析挙動を確認した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果より、たとえばNd、Sm、Tb、Dy、Erの金属種についてみてみると、原液中に1.0ppm以下で含有されている場合でも、硫酸アンモニウムおよびメタノールによる処理を行うことで、そのほとんどが液相から固相中に移動し、液に残存している量はほんのわずかであることが分かる。また、原液中の濃度の約11~13倍程度で固相中に濃縮したことが分かり、溶媒が除かれて希土類金属が濃縮された固体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の金属塩の分離方法は、基本は、液相に溶解している金属を水溶性の固相として回収することが望まれる分野において利用可能であり、従来は、晶析できなかった低濃度領域にも適用可能な分離方法である。例えば、自動車モーターからの希土類金属のリサイクル、レアアース泥(例えば、海底表層堆積物)からのレアアースの分離と濃縮、低濃度希土類含有水溶液の濃縮等において、利用の可能性がある。
図1
図2