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特開2023-169969コンクリート構造物の補修方法及び補修材キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169969
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修方法及び補修材キット
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231124BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20231124BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E01D22/00 A
E21D11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081349
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】507379946
【氏名又は名称】馬居化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝一
(72)【発明者】
【氏名】馬居 正治
(72)【発明者】
【氏名】馬居 武志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 達夫
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059BB39
2D059GG39
2D155CA03
2D155LA02
2D155LA06
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB15
2E176BB16
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物のひび割れを効果的に補修する方法及びキットを提供する。
【解決手段】コンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液及び前記けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液の一方を含浸させる第一工程と、その後、前記ひび割れに、前記けい酸塩水溶液及び前記ゲル化剤水溶液の他方をさらに含浸させて、前記ひび割れの内部に前記けい酸塩のゲルを形成する第二工程と、を含む。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液及び前記けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液の一方を含浸させる第一工程と、
その後、前記ひび割れに、前記けい酸塩水溶液及び前記ゲル化剤水溶液の他方をさらに含浸させて、前記ひび割れの内部に前記けい酸塩のゲルを形成する第二工程と、
を含む、コンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記けい酸塩は、アルカリ金属けい酸塩である、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属けい酸塩は、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムからなる群より選択される1以上である、
請求項2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記ゲル化剤は、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上である、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記ゲル化剤は、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸水素塩である、
請求項4に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム及びリチウムからなる群より選択される1以上である、
請求項4又は5に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項7】
前記ひび割れは、その幅が0.2mm超、1.0mm未満である、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項8】
前記けい酸塩水溶液及び/又は前記ゲル化剤水溶液を、前記ひび割れ1cmあたり0.1g以上の量で、前記ひび割れに含浸させる、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項9】
コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れを補修するための補修キットであって、
けい酸塩を含むけい酸塩水溶液と、
前記けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液と、
を含む、コンクリート構造物の補修キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の補修方法及び補修キットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは乾燥収縮、温度変化、自己収縮、水和収縮等により収縮する性質を持つ。このような収縮が既設構造物や既設部材や部材の内部の鉄筋等により拘束されてひび割れを生じる場合がある。また、コンクリートを打設の際にブリーディング(浮き水)が生じると、発生したブリーディングによりコンクリート表面が沈下する。この沈下によりひび割れが生じる場合もある。更に、凝結前のコンクリート表面が乾燥し、内部のコンクリートとの収縮差から表面にひび割れが起こることもある。このようにしてコンクリート構造物に形成されたひび割れの補修には、一般に、そのひび割れの幅に応じて異なる補修材が用いられる。
【0003】
すなわち、従来、例えば、ひび割れの幅が0.2mm~1.0mmである場合、エポキシ樹脂系注入材、アクリル樹脂系注入材、又は注入用ポリマーセメントといった有機系の注入材を当該ひび割れに注入する補修方法(注入工法)が採用されてきた。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂を主成分とするA液と、硬化剤を主成分とするB液と、変性ウレアを主成分とするC液とを、A液:B液:C液の混合比率を調整して混合することで、B型粘度計で測定される23℃での5rpmにおける粘度と23℃での50rpmにおける粘度との比率(η5/η50)が1.00以上1.10未満であって、且つ、23℃粘度が100~1000mPa・sである浸透型補修組成物を調製し、得られた浸透型補修組成物を、コンクリート構造物の表面に塗布して、微細なひび割れ部に浸透させて硬化させることを特徴とする、コンクリート構造物のひび割れ補修方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-190221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来一般的な注入工法においては、有機系の注入材の粘度が高いため、幅が0.2mm~1.0mmのひび割れの内部に当該注入材を十分に浸透させることが難しかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、コンクリート構造物のひび割れを効果的に補修する方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液及び前記けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液の一方を含浸させる第一工程と、その後、前記ひび割れに、前記けい酸塩水溶液及び前記ゲル化剤水溶液の他方をさらに含浸させて、前記ひび割れの内部に前記けい酸塩のゲルを形成する第二工程と、を含む。本発明によれば、コンクリート構造物のひび割れを効果的に補修する方法を提供することができる。
【0009】
[2]前記[1]の方法において、前記けい酸塩は、アルカリ金属けい酸塩であることとしてもよい。[3]前記[2]の方法において、前記アルカリ金属けい酸塩は、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0010】
[4]前記[1]乃至[3]のいずれかの方法において、前記ゲル化剤は、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。[5]前記[4]の方法において、前記ゲル化剤は、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸水素塩であることとしてもよい。[6]前記[4]又は[5]の方法において、前記アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム及びリチウムからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0011】
[7]前記[1]乃至[6]のいずれかの方法において、前記ひび割れは、その幅が0.2mm超、1.0mm未満であることとしてもよい。[8]前記[1]乃至[7]のいずれかの方法において、前記けい酸塩水溶液及び/又は前記ゲル化剤水溶液を、前記ひび割れ1cmあたり0.1g以上の量で、前記ひび割れに含浸させることとしてもよい。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の補修キットは、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れを補修するための補修キットであって、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液と、前記けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液と、を含む。本発明によれば、コンクリート構造物のひび割れを効果的に補修するキットを提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート構造物のひび割れを効果的に補修する方法及びキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例1において、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合した結果を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例2において、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合した結果を示す説明図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る実施例3において、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合した結果を示す説明図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る実施例3において、けい酸塩水溶液と参考水溶液とを混合した結果を示す説明図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る実施例4において、幅0.3mmのひび割れの透水性試験を実施した結果を示す説明図である。
図4B】本発明の一実施形態に係る実施例4において、幅0.6mmのひび割れの透水性試験を実施した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0016】
本実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法(以下、「本方法」という。)は、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液及び当該けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液の一方を含浸させる第一工程と、その後、当該ひび割れに、当該けい酸塩水溶液及び当該ゲル化剤水溶液の他方をさらに含浸させて、当該ひび割れの内部に当該けい酸塩のゲルを形成する第二工程と、を含む。
【0017】
また、本実施形態に係るコンクリート構造物の補修キット(以下、「本キット」という。)は、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れを補修するための補修キットであって、けい酸塩を含むけい酸塩水溶液と、当該けい酸塩のゲル化剤を含むゲル化剤水溶液と、を含む。
【0018】
本方法における補修の対象は、その表面にひび割れが形成されたコンクリート構造物であれば特に限られないが、例えば、交通施設、水利施設、建築物又は屋外施設のコンクリート構造物が挙げられる。具体的に、交通施設のコンクリート構造物は、例えば、道路の車道及び歩道、高速道路や鉄道路の擁壁及び防音壁等のコンクリート構造物であってもよい。水利施設のコンクリート構造物は、例えば、水路(河川、海岸、湾、湖、池、農業用等の用水路を含む)やダムに設けられた堤防、防液提、防波堤等のコンクリート構造物であってもよい。建築物は、例えば、一般家屋、ビル、倉庫の一部を構成し又はその敷地内に設置されたコンクリート構造物を含む。屋外施設のコンクリート構造物は、例えば、公園やスポーツ施設等に設けられたコンクリート構造物を含む。また、コンクリート構造物は、例えば、橋梁の主桁、縦桁、横桁、床版、橋台、橋脚、基礎、支承、高欄、及び地覆であってもよいし、トンネル及び地下道の坑口部分、側面部及び内壁であってもよい。コンクリート構造物は、施工の現場で成形されたものであってもよいし、プレキャストコンクリート(例えば、ボックスカルバート)のように予め工場等の施工現場以外の場所で成形されたうえで当該施工現場に輸送され設置されたものであってもよい。
【0019】
補修の対象とするひび割れは、例えば、その幅が0.2mm超、1.0mm未満であることが好ましい。また、ひび割れの幅は、例えば、0.3mm以上、0.9mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上、0.8mm以下であることがさらに好ましく、0.3mm以上、0.7mm以下であることがさらに好ましく、0.3mm以上、0.6mm以下であることがさらに好ましく、0.3mm以上、0.5mm以下であることが特に好ましい。なお、本実施形態において、「その幅がAmm以上、Bmm以下であるひび割れ」とは、「ひび割れに沿って10mm間隔で連続的に設定した6点の各々で測定したひび割れの幅の全てがAmm以上、Bmm以下であるひび割れ」を意味する。
【0020】
補修の対象とするひび割れの深さは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10mm以上であってもよく、50mm以上であってもよく、100mm以上であってもよい。また、ひび割れの深さは、例えば、1000mm以下であってもよく、500mm以下であってもよく、100mm以下であってもよく、50mm以下であってもよい。本方法で補修の対象とするひび割れの深さは、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0021】
補修の対象とするひび割れの長さは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0.1m以上であってもよく、1m以上であってもよく、5m以上であってもよい。また、ひび割れの長さは、例えば、20m以下であってもよく、10m以下であってもよく、5m以下であってもよい。本方法で補修の対象とするひび割れの長さは、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0022】
補修の対象とするコンクリート構造物を構成するコンクリートは、セメントと骨材(例えば、細骨材及び/又は粗骨材)とを含む。具体的に、コンクリート構造物を構成するコンクリートは、例えば、セメントと、細骨材(例えば、砂及び/又は砕砂)及び/又は粗骨材(例えば、砂利及び/又は砕石)とを含むものであってもよく、少なくともセメントと細骨材とを含むものであることが好ましい。すなわち、セメントと細骨材とを含むコンクリートは、セメントと細骨材と粗骨材とを含むものであってもよいし、セメントと細骨材とを含み粗骨材を含まないものであってもよい。
【0023】
コンクリートに含まれるセメントは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント及びエコセメントからなる群より選択される1以上であってもよく、ポルトランドセメントであることが好ましく、普通ポルトランドセメントであることが特に好ましい。
【0024】
コンクリートに含まれる骨材は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、天然骨材、人工骨材、副産骨材及び再生骨材からなる群より選択される1以上であってもよい。
【0025】
コンクリートは、必要に応じて、さらにコンクリート混和剤及び/又はコンクリート混和材を含んでもよい。コンクリート混和剤は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、AE(Air Entraining)剤、減水剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、防錆剤及び分離低減剤からなる群より選択される1以上であってもよい。コンクリート混和材は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、フライアッシュ、高炉粉末、シリカフューム、鉱物質微粉末、膨張材及び急硬材からなる群より選択される1以上であってもよい。
【0026】
コンクリートの組成は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、当該コンクリートは、例えば、セメント、水、細骨材及び混和剤を1:0.5:2:0.36(セメント:水:細骨材:混和剤)の重量比で配合したものであってもよい。コンクリートの組成は、用途等の条件に応じて適宜決定されればよく、例えば、設計図書等により現場配合されたものであってもよい。なお、コンクリート構造物は、鉄筋を含むものであってもよい。
【0027】
けい酸塩水溶液に含まれるけい酸塩は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、アルカリ金属けい酸塩であることが好ましい。アルカリ金属けい酸塩は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムからなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0028】
けい酸塩水溶液に含まれるけい酸塩の濃度(2種類以上のけい酸塩が含まれる場合は、当該2種類以上のけい酸塩の濃度の合計)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、二酸化けい素(SiO)に換算して、5重量%以上であってもよく、8重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、12重量%以上であることがさらに好ましく、14重量%以上であることが特に好ましい。また、けい酸塩水溶液中のけい酸塩の濃度は、例えば、SiOに換算して、40重量%以下であってもよく、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましく、18重量%以下であることが特に好ましい。けい酸塩水溶液に含まれるけい酸塩の濃度は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0029】
けい酸塩水溶液のpHは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、8以上、13以下であってもよく、9以上、13以下であることが好ましく、10以上、12以下であることが特に好ましい。けい酸塩水溶液のpHが酸性域又は強アルカリ域であるとコンクリートが溶出してしまうため好ましくない。したがって、けい酸塩水溶液のpHは、弱アルカリ域であることが好ましい。
【0030】
けい酸塩水溶液の粘度は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、1mPa・s以上、2000mPa・s以下であってもよい。けい酸塩水溶液の粘度は、JIS Z8803:2011に準拠した方法にてB型粘度計を用いて25℃で測定される。けい酸塩水溶液の粘度を調整する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、けい酸塩水溶液に増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、グアガム、セルロースナノファイバー等の有機系増粘剤)を添加する方法が好ましく用いられる。
【0031】
けい酸塩水溶液の粘度が比較的低い場合、当該けい酸塩水溶液をひび割れの深部にまで容易に浸透させることができる。この場合、けい酸塩水溶液の粘度は、例えば、1mPa・s以上、500mPa・s以下であってもよく、1mPa・s以上、300mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上、100mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0032】
一方、けい酸塩水溶液の粘度が比較的高い場合、当該けい酸塩水溶液をコンクリート構造物の表面に効果的に付着させることができるため、当該けい酸塩水溶液がひび割れの内部に浸透する前に流れ落ちてしまうことを効果的に回避できる。この場合、けい酸塩水溶液の粘度は、例えば、500mPa・s以上、2000mPa・s以下であってもよく、500mPa・s以上、1500mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以上、1500mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0033】
ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤は、けい酸水溶液に含まれるけい酸塩と混合されることでゲルを形成する化合物であり、より具体的には当該けい酸水溶液と当該ゲル化剤水溶液との混合液の全体の流動性を失わせてゲル化させるゲル化剤であることが好ましい。
【0034】
具体的に、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤は、本発明の効果が得られるものであれば特に限られないが、例えば、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上であることが好ましく、アルカリ金属又はアンモニアの炭酸水素塩であることが特に好ましい。
【0035】
すなわち、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤は、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、及び、アンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、からなる群より選択される1以上であることが好ましく、アルカリ金属の炭酸水素塩、及び/又は、アンモニアの炭酸水素塩であることが特に好ましい。
【0036】
より具体的に、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤は、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム及びアンモニアからなる群より選択される1以上の炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上であることが好ましく、ナトリウム、カリウム、リチウム及びアンモニアからなる群より選択される1以上の炭酸水素塩であることが特に好ましい。
【0037】
すなわち、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤は、ナトリウムの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、カリウムの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、リチウムの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、及びアンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩及び硫酸塩からなる群より選択される1以上、からなる群より選択される1以上であることが好ましく、ナトリウムの炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム)、カリウムの炭酸水素塩(炭酸水素カリウム)、リチウムの炭酸水素塩(炭酸水素リチウム)、及びアンモニアの炭酸水素塩(炭酸水素アンモニウム)からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0038】
ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤の濃度(2種類以上のゲル化剤が含まれる場合は、当該2種類以上のゲル化剤の濃度の合計)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、3重量%以上であってもよく、4重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、6重量%以上であること特に好ましい。また、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤の濃度は、例えば、35重量%以下であってもよく、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましく、15重量%以下であることが特に好ましい。ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤の濃度は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤の濃度が低すぎるとゲルの形成が不十分となり、且つゲルの強度が弱くなる。一方、ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤の濃度が高すぎると、当該ゲル化剤の溶解度が飽和溶解度を超えてしまう。
【0039】
より具体的に、ゲル化剤水溶液が炭酸水素ナトリウムを含む場合、当該ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素ナトリウムの濃度は、例えば、3重量%以上であってもよく、4重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることが特に好ましい。また、ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素ナトリウムの濃度は、例えば、15重量%以下であってもよく、12重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素ナトリウムの濃度は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0040】
また、ゲル化剤水溶液が炭酸水素カリウムを含む場合、当該ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素カリウムの濃度は、例えば、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であることが好ましく、8重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることが特に好ましい。また、ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素カリウムの濃度は、例えば、35重量%以下であってもよく、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることが特に好ましい。ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素カリウムの濃度は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0041】
また、ゲル化剤水溶液が炭酸水素アンモニウムを含む場合、当該ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素アンモニウムの濃度は、例えば、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であることが好ましく、8重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることが特に好ましい。また、ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素アンモニウム濃度は、例えば、35重量%以下であってもよく、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることが特に好ましい。ゲル化剤水溶液に含まれる炭酸水素アンモニウムの濃度は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0042】
ゲル化剤水溶液のpHは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、6以上、13以下であってもよく、7以上、13以下であることが好ましく、7以上、12以下であることが特に好ましい。
【0043】
より具体的に、ゲル化剤水溶液がアルカリ金属塩又はアンモニアの炭酸水素塩を含む場合、当該ゲル化剤水溶液のpHは、例えば、7以上、13以下であってもよく、7以上、12以下であることがより好ましく、7以上、11以下であることがより好ましく、7.5以上、11以下であることが特に好ましい。ゲル化剤水溶液のpHが酸性域又は強アルカリ域であるとコンクリートが溶出してしまうため好ましくない。この点、炭酸水素塩類の水溶液のpHは概ね上述した適切な範囲内に入る。
【0044】
ゲル化剤水溶液の粘度は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、1mPa・s以上、2000mPa・s以下であってもよい。ゲル化剤水溶液の粘度は、JIS Z8803:2011に準拠した方法にてB型粘度計を用いて25℃で測定される。ゲル化剤水溶液の粘度を調整する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、ゲル化剤水溶液に増粘剤(例えば、セルロースナノファイバー等の有機系増粘剤)を添加する方法が好ましく用いられる。
【0045】
ゲル化剤水溶液の粘度が比較的低い場合、当該ゲル化剤水溶液をひび割れの深部にまで容易に浸透させることができる。この場合、ゲル化剤水溶液の粘度は、例えば、1mPa・s以上、500mPa・s以下であってもよく、1mPa・s以上、300mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上、100mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0046】
一方、ゲル化剤水溶液の粘度が比較的高い場合、当該ゲル化剤水溶液をコンクリート構造物の表面に効果的に付着させることができるため、当該ゲル化剤水溶液がひび割れの内部に浸透する前に流れ落ちてしまうことを効果的に回避できる。この場合、ゲル化剤水溶液の粘度は、例えば、500mPa・s以上、2000mPa・s以下であってもよく、500mPa・s以上、1500mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以上、1500mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0047】
本方法においては、まず第一工程において、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の一方をコンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに含浸させ、次いで第二工程において、当該けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の他方を当該ひび割れにさらに含浸させる。
【0048】
すなわち、本方法においては、例えば、第一工程において、まずけい酸塩水溶液をひび割れに含浸させ、続く第二工程において、ゲル化剤水溶液を当該ひび割れにさらに含浸させてもよいし、又は、第一工程において、まずゲル化剤水溶液をひび割れに含浸させ、続く第二工程において、けい酸塩水溶液を当該ひび割れにさらに含浸させてもよいが、けい酸塩水溶液は、ゲル化剤水溶液に比べてコンクリートにとって適切なpHを有しやすいため、本方法においては、第一工程において、まずゲル化剤水溶液をひび割れに含浸させ、続く第二工程において、けい酸塩水溶液を当該ひび割れにさらに含浸させる(すなわち、最後にけい酸塩水溶液をひび割れに含浸させる)ことが特に好ましい。
【0049】
本方法においては、コンクリート構造物のひび割れに対し、まず第一工程でけい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の一方を含浸させ、続く第二工程で当該けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の他方をさらに含浸させることにより、当該ひび割れの内部において、当該けい酸塩水溶液に含まれるけい酸塩と、当該ゲル化剤水溶液に含まれるゲル化剤との化学反応により、当該けい酸塩のゲルを形成させる。したがって、本方法によれば、ひび割れの内部に含浸されたけい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との混合により形成されたゲルによって、当該ひび割れを効果的に閉塞することができる。
【0050】
より具体的に、本方法で利用するけい酸塩とゲル化剤との化学反応においては、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との混合液の全体の流動性を失わせてゲル化させる。このように、ひび割れに含浸された混合液の全体がゲル化することにより、当該ひび割れを極めて効果的に閉塞することができる。したがって、本方法によれば、ひび割れが形成されたコンクリート構造物に対して極めて高い補修効果を達成することができる。
【0051】
また、上述したけい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液を含む本キットを用いることにより、本方法を効果的に実施して、ひび割れが形成されたコンクリート構造物に対して極めて高い補修効果を達成することができる。
【0052】
本方法及び/又は本キットにおいて、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との組み合わせは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該けい酸塩水溶液と当該ゲル化剤水溶液とを混合して得られる混合液のpHが9以上、13以下の範囲内となる組み合わせであってもよく、当該混合液のpHが10以上、13以下の範囲内となる組み合わせであることが好ましく、当該混合液のpHが10以上、12以下の範囲内となる組み合わせであることが特に好ましい。
【0053】
第一工程及び/又は第二工程において、コンクリート構造物の表面に形成されたひび割れに、けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を含浸させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、当該コンクリート構造物の表面のうち、ひび割れが形成されている部分にのみ選択的に当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を塗布する(例えば、当該ひび割れに沿って当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を塗布する)ことにより、当該ひび割れに当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を含浸させてもよいし、又は、当該コンクリート構造物の表面の全体に当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を塗布することにより、当該表面に形成されたひび割れに当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液を含浸させてもよい。
【0054】
また、第一工程及び/又は第二工程において、けい酸塩水溶液及び/又はゲル化剤水溶液のひび割れへの含浸は、例えば、刷毛やローラー等の塗布器具、スプレーや散布機等の噴霧器具、及び注射機やシリンジ等の注入器具からなる群より選択される1以上を用いて実施してもよい。
【0055】
第一工程及び/又は第二工程において、ひび割れに含浸させるけい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液の量(すなわち、第一工程において、ひび割れに含浸させるけい酸塩水溶液及びゲル化水溶液の一方の量、及び/又は、第二工程において、ひび割れに含浸させる当該けい酸塩水溶液及びゲル化水溶液の他方の量)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該けい酸塩水溶液及び/又はゲル化剤水溶液を、当該ひび割れ1cmあたり0.1g以上の量で、当該ひび割れに含浸させることとしてもよい。
【0056】
第一工程及び/又は第二工程において、ひび割れ1cmあたりに含浸させるけい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液の量は、例えば、0.2g以上であることが好ましく、0.3g以上であることがより好ましく、0.4g以上であることがさらに好ましく、0.5g以上であることが特に好ましい。
【0057】
また、第一工程及び/又は第二工程において、ひび割れ1cmあたりに含浸させるけい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液の量は、例えば、100g以下であってもよく、50g以下であってもよく、20g以下であってもよく、10g以下であってもよく、5g以下であってもよく、2g以下であってもよい。第一工程及び/又は第二工程において、ひび割れの1cmあたりに含浸させるけい酸塩水溶液及び/又はゲル化水溶液の量は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0058】
本方法において、ひび割れ1cmあたりに含浸させるけい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との重量比(けい酸塩水溶液:ゲル化剤水溶液)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1:10~10:1の範囲内であってもよく、1:8~8:1の範囲内であることが好ましく、1:6~6:1の範囲内であることがより好ましく、1:4~4:1の範囲内であることがさらに好ましく、1:2~2:1の範囲内であることが特に好ましい。
【0059】
第一工程においてけい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の一方をひび割れに含浸させてから、第二工程において当該けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の他方を当該ひび割れにさらに含浸させるまでの時間は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0.1時間以上であってもよく、1時間以上であることが好ましく、5時間以上であることがより好ましく、10時間以上であることがさらに好ましく、15時間以上であることがさらに好ましく、20時間以上であることが特に好ましい。また、上記時間は、例えば、170時間以下であってもよく、150時間以下であることが好ましく、120時間以下であることがより好ましく、100時間以下であることが特に好ましい。第一工程においてけい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の一方をひび割れに含浸させてから、第二工程において当該けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の他方を当該ひび割れにさらに含浸させるまでの時間は、上述した下限値のいずれか一つと、上述した上限値のいずれか一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。上記時間が短すぎるとゲル化はし易いが、ひび割れの内部以外の部分にけい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液が付着した場合、当該部分に白華が形成されて外観が悪くなりやすい。一方、上記時間が長すぎると第一工程で先に含浸させたけい酸塩水溶液又はゲル化剤水溶液が乾いてしまい、第二工程においてゲル化がしにくくなる。
【0060】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0061】
けい酸塩としてアルカリ金属けい酸塩を含むけい酸塩水溶液を調製した。すなわち、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム又はけい酸リチウムと純水とを混合することにより、SiO換算で16重量%のけい酸ナトリウム、けい酸カリウム又はけい酸リチウムを含むけい酸塩水溶液を調製した。なお、けい酸ナトリウム又はけい酸カリウムを含むけい酸塩水溶液のpHは11.5であり、けい酸リチウムを含むけい酸塩水溶液のpHは11であった。
【0062】
また、ゲル化剤としてアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩又は硫酸塩を含むゲル化剤水溶液を調製した。すなわち、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は硫酸ナトリウムと純水とを混合することにより、炭酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを10重量%含むゲル化剤水溶液、及び、炭酸水素ナトリウムを6重量%含むゲル化剤水溶液を調製した。なお、炭酸ナトリウムを含むゲル化剤水溶液のpHは12であり、炭酸水素ナトリウムを含むゲル化剤水溶液のpHは8であり、硫酸ナトリウムを含むゲル化剤水溶液のpHは6であった。
【0063】
そして、樹脂製容器内で、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを重量比1:1(けい酸塩水溶液:ゲル化剤水溶液)で混合し、得られた混合溶液を室温にて静置した。けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合してから1時間後、及び1日後に、容器内の混合物の様子を目視にて観察した。
【0064】
図1には、観察結果を示す。図1において、「〇」印はゲルが形成されたことを示し、「×」印はゲルが形成されていなかったことを示す。また、「〇」「×」印の後の括弧内には、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合した直後における混合溶液のpHを測定した結果を示す。
【0065】
図1に示すように、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムのいずれか1種を含むけい酸塩水溶液と、炭酸水素ナトリウムを含むゲル化剤水溶液とを混合することにより、1時間後にはゲルが形成されることが確認された。また、けい酸リチウムを含むけい酸塩水溶液と、炭酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムのいずれか1種を含むゲル化剤水溶液とを混合することにより、1日後にはゲルが形成されることが確認された。これらゲルが形成された例では、容器内において、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との混合物の全体が流動性を失ってゲル化することによりゲルが形成されていた。
【実施例0066】
けい酸塩としてアルカリ金属けい酸塩を含むけい酸塩水溶液を調製した。すなわち、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム又はけい酸リチウムと純水とを混合することにより、SiO換算で16重量%のけい酸ナトリウム、けい酸カリウム又はけい酸リチウムを含むけい酸塩水溶液を調製した。また、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムの3種全て(以下、「けい酸Na-K-Li」という。)と純水とを混合することにより、SiO換算で合計16重量%の当該けい酸Na-K-Liを含むけい酸塩水溶液を調製した。なお、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム又はけい酸Na-K-Liを含むけい酸塩水溶液のpHは11.5であり、けい酸リチウムを含むけい酸塩水溶液のpHは11であった。
【0067】
また、ゲル化剤としてアルカリ金属又はアンモニアの炭酸水素塩を含むゲル化剤水溶液を調製した。すなわち、炭酸水素カリウム又は炭酸水素アンモニウムと純水とを混合することにより、炭酸水素カリウム又は炭酸水素アンモニウムを10重量%含むゲル化剤水溶液を調製した。なお、炭酸水素カリウムを含むゲル化剤水溶液のpHは8.13であり、炭酸水素アンモニウムを含むゲル化剤水溶液のpHは7.71であった。
【0068】
そして、樹脂製容器内で、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを重量比1:1(けい酸塩水溶液:ゲル化剤水溶液)で混合し、得られた混合溶液を室温にて静置した。けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合してから1時間後、及び1日後に、容器内の混合物の様子を目視にて観察した。
【0069】
図2には、観察結果を示す。図2に示すように、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム及びけい酸リチウムのいずれか1種、又はこれらの全て(けい酸Na-K-Li)を含むけい酸塩水溶液と、炭酸水素カリウム又は炭酸水素アンモニウムを含むゲル化剤水溶液とを混合することにより(いずれの場合も、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合した直後における混合溶液のpHは10であった。)、1時間後にはゲルが形成されていることが確認された。また、上述の実施例1と同様、容器内においては、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との混合物の全体が流動性を失ってゲル化することによりゲルが形成されていた。
【実施例0070】
けい酸塩としてアルカリ金属けい酸塩を含むけい酸塩水溶液を調製した。すなわち、けい酸Na-K-Liと純水とを混合することにより、SiO換算で合計16重量%のけい酸Na-K-Liを含む「基本型」のけい酸塩水溶液(pH=11.5)を調製した。
【0071】
また、上記「基本型」のけい酸塩水溶液とシリコーンを60重量%含むシリコーン水溶液とを重量比97:3(けい酸塩水溶液:シリコーン水溶液)で混合することにより、「撥水型」のけい酸塩水溶液(pH=11.5)を調製した。
【0072】
また、上記「基本型」のけい酸塩水溶液とセルロースナノファイバー(CNF)が2重量%の濃度で分散されたCNF水溶液とを重量比1:1(けい酸塩水溶液:CNF水溶液)で混合することにより、「CNF型」のけい酸塩水溶液(pH=11)を調製した。
【0073】
一方、上述の実施例1と同様に、炭酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを10重量%含むゲル化剤水溶液、及び、炭酸水素ナトリウムを6重量%含むゲル化剤水溶液を調製した。また、参考水溶液として、亜硝酸カルシウムを20重量%含む水溶液(pH=11)を調製した。
【0074】
そして、樹脂製容器内で、けい酸塩水溶液と、ゲル化剤水溶液又は参考水溶液とを重量比1:1(けい酸塩水溶液:ゲル化剤水溶液又は参考水溶液)で混合し、得られた混合溶液を室温にて静置した。けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液又は参考水溶液とを混合してから1時間後、及び1日後に、容器内の混合物の様子を目視にて観察した。
【0075】
図3Aにはゲル化剤水溶液を用いた例について、及び図3Bには参考水溶液を用いた例について、それぞれ観察結果を示す。図3Aに示すように、「基本型」、「撥水型」及び「CNF型」のけい酸塩水溶液と、炭酸水素ナトリウムを含むゲル化剤水溶液とを混合することにより、1時間後にはゲルが形成されることが確認された。これらゲルが形成された例では、容器内において、けい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液との混合物の全体が流動性を失ってゲル化することによりゲルが形成されていた。一方、炭酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを含むゲル化剤水溶液を用いた場合には、ゲルは形成されていなかった。
【0076】
また、図3Bに示すように、「基本型」、「撥水型」及び「CNF型」のけい酸塩水溶液と、亜硝酸カルシウムを含む参考水溶液とを混合することにより、流動性を有する混合液中に沈殿(析出物)が形成されていることは観察されたが、混合液の全体が流動性を失ってゲル化することはなかった。
【実施例0077】
土木学会規準「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(JSCE-K572-2018)で規定される「ひび割れ透水性試験」において試験体に導入するひび割れの幅を0.3mm又は0.6mmに変更した方法で、ひび割れ透水性試験を実施した。
【0078】
試験体としては、VU管と一体化した直径75mm、長さ50mmの円柱状コンクリート構造物を用いた。コンクリートとしては、普通ポルトランドセメント1重量部に対して、水0.55重量部及び標準砂3重量部を混合したものを用いた。
【0079】
けい酸塩水溶液としては、上述の実施例3と同様に調製された、けい酸Na-K-Liを含む「基本型」、「撥水型」及び「CNF型」の3種類のけい酸塩水溶液を用いた。ゲル化剤水溶液としては、上述の実施例1と同様に調製された、炭酸水素ナトリウムを含むゲル化剤水溶液を用いた。
【0080】
まず試験体を載荷試験機に設置し、0.3mm幅又は0.6mm幅のひび割れを導入した。次いで、試験体を試験装置に設置し、水頭高さ1mにて、ひび割れ透水量を測定した。その後、試験体を試験装置から取り外し、刷毛を用いてゲル化剤水溶液をひび割れに沿って塗布することにより、当該試験体1個あたり5g(ひび割れ1cmあたり約0.67g)の当該ゲル化剤水溶液を当該ひび割れに含浸させた。
【0081】
さらに、ゲル化剤水溶液の含浸から1日後(ひび割れ幅0.6mmの試験体)又は4日後(ひび割れ幅0.3mmの試験体)に、刷毛を用いてけい酸塩水溶液をひび割れに沿って塗布することにより、試験体1個あたり5g(ひび割れ1cmあたり約0.67g)の当該けい酸塩水溶液を当該ひび割れに含浸させた。そして、けい酸塩水溶液の含浸から11日間(ひび割れ幅0.6mmの試験体)、又は14日間(ひび割れ幅0.3mmの試験体)、試験体を室温(約20℃)で静置して、気中養生を行った。
【0082】
次いで、気中養生後の試験体を試験装置に設置し、水頭高さ1mにて、14日間の通水を行った。さらに、14日間の通水後、試験体のひび割れ透水量を測定した。そして、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液を含浸する前に測定された透水量に対する、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液を含浸し通水した後に測定された透水量の割合を「ひび割れ透水比(%)」として算出した。
【0083】
また、ゲル化剤水溶液に代えて、上述の実施例3と同様に調製された参考水溶液(亜硝酸カルシウム水溶液)を用いた以外は同様にして、ひび割れ透水量を測定し、ひび割れ透水比(%)を算出した。
【0084】
また、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の含浸に代えて、市販のシラン液(有機系溶媒を含む)を試験体1個あたり5g(ひび割れ1cmあたり0.67g)の量でひび割れに含浸させたこと以外は同様にしてひび割れ透水量を測定し、ひび割れ透水比(%)を算出した。
【0085】
また、ひび割れ幅0.6mmの試験体については、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液の含浸に代えて、予め「基本型」のけい酸塩水溶液とゲル化剤水溶液とを混合して形成されたゲルを試験体1個あたり5g(ひび割れ1cmあたり0.67g)の量で塗布したこと以外は同様にしてひび割れ透水量を測定し、ひび割れ透水比(%)を算出した。
【0086】
図4A及び図4Bには、それぞれひび割れ幅0.3mmの試験体、及びひび割れ幅0.6mmの試験体について測定されたひび割れ透水比(%)(n=3)を示す。なお、ひび割れ透水比(%)が小さいほど、ひび割れ補修効果が高いことを示す。
【0087】
図4A及び図4Bに示すように、けい酸塩水溶液及び参考水溶液(亜硝酸カルシウム水溶液)を用いた例、シラン液を用いた例、及び予め形成されたけい酸塩ゲルを用いた例に比べて、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液を用いた例において、顕著に低いひび割れ透水比(%)が達成され、高い補修効果が実証された。また、けい酸塩水溶液及びゲル化剤水溶液を用いた補修効果は、ひび割れ幅が0.6mmの試験体に比べて、ひび割れ幅が0.3mmの試験体において特に高かった。

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B