(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170047
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】感温性粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20231124BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081493
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】原 脩人
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DF021
4J040GA07
4J040GA22
4J040HD43
4J040JB09
4J040KA23
4J040KA26
4J040KA28
4J040KA29
4J040KA31
4J040LA01
4J040LA07
4J040LA08
4J040MA04
4J040MA05
4J040MA10
4J040NA02
4J040NA19
4J040PA20
(57)【要約】
【課題】水に長時間接した場合でも、室温時に高い粘着性を維持し、さらには、高温剥離の際に被着体への糊残りを低減し、容易に剥離することができる感温性粘着剤を形成できる感温性粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】特定の共重合体(A)、特定の共重合体(B)、及び金属錯体(C)を含有し、これらの合計を100質量%としたときの共重合体(A)の含有量が59~99質量%、共重合体(B)の含有量が1~35質量%および金属錯体(C)の含有量が0.1~6質量%である感温性粘着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)、共重合体(B)、及び金属錯体(C)を含有し、これらの合計を100質量%としたときの共重合体(A)の含有量が59~99質量%、共重合体(B)の含有量が1~35質量%および金属錯体(C)の含有量が0.1~6質量%である感温性粘着剤組成物であって、
前記共重合体(A)は(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位を3~20質量%と下記一般式(1)で示されるモノマー(a-2)に基づく構成単位を80~97質量%含み、重量平均分子量が3,000~3,000,000であり、
前記共重合体(B)は下記一般式(2)で示されるモノマー(b-1)に基づく構成単位を30~70質量%と下記一般式(3)で示されるモノマー(b-2)に基づく構成単位を30~70質量%含み、重量平均分子量が3,000~3,000,000である、感温性粘着剤組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~18のアルキル基を示す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
5は炭素数12~22のアルキル基を示す。)
【化3】
(一般式(3)中、R
6は水素原子またはメチル基を示し、R
7は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記金属錯体(C)は、周期律表第13族元素から選ばれる元素を有し、酸素原子を配位座とする配位子を有することを特徴とする、請求項1に記載の感温性粘着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理として加温した後、室温付近まで冷却を行うことで、室温での粘着力に優れ、水に浸したあとでも粘着性が低下せず、一定の温度以上で容易に剥離することができ、剥離後に被着体への糊残りが少ない感温性粘着剤を形成できる感温性粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウォームオフタイプの感温性粘着剤は、一定の温度以上になると粘着力が低下し、容易に剥離することができるため、半導体などの電子材料分野や医療用マイクロ流路デバイスのような医療用分野の製品や製造工程時の仮固定や表面保護を目的に用いられている。
感温性粘着剤には、常温では優れた粘着性が求められる一方、高温では粘着性が低下し、被着体に粘着剤が残ることなく容易に剥離できることが要求される。また、幅広い基材に対して適用できることも求められるが、基材によっては粘着力が不足する場合や反対に粘着力が強すぎ被着体である基材に粘着剤が残る糊残りが生じる場合があった。
【0003】
このような問題に対して特許文献1では、ポリエチレンテレフタレート基材のような非晶性の有機被着体に対して、室温での粘着力に優れ、高温で容易に剥離でき糊残りもない感温性粘着剤が提供されている。しかしながら、電子材料や医療用分野の製品においては、表面に付着した異物や金属分の除去を目的に水により洗浄する場合が多い。このような工程で使用した場合、感温性粘着剤への水の浸透による粘着力低下や反対に水が浸透することで粘着剤が劣化し、断裂しやすくなることで糊残りが多くなるという問題があった。特に電子材料分野や医療用分野の製品の微細化による接着面積の低下に伴い、水による洗浄時に水が浸透する粘着剤の面積が増加し、粘着力低下および糊残りの増加を顕著に招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、水に長時間接した場合でも、室温時に高い粘着性を維持し、さらには、高温剥離の際に被着体への糊残りを低減し、容易に剥離することができる感温性粘着剤を形成できる感温性粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、特定の構造の共重合体(A)及び共重合体(B)、並びに金属錯体(C)をそれぞれ特定範囲の量で含有する感温性粘着剤組成物により上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の[1]~[2]に関する。
【0007】
[1]共重合体(A)、共重合体(B)、及び金属錯体(C)を含有し、これらの合計を100質量%としたときの共重合体(A)の含有量が59~99質量%、共重合体(B)の含有量が1~35質量%および金属錯体(C)の含有量が0.1~6質量%である感温性粘着剤組成物であって、
前記共重合体(A)は(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位を3~20質量%と下記一般式(1)で示されるモノマー(a-2)に基づく構成単位を80~97質量%含み、重量平均分子量が3,000~3,000,000であり、
前記共重合体(B)は下記一般式(2)で示されるモノマー(b-1)に基づく構成単位を30~70質量%と下記一般式(3)で示されるモノマー(b-2)に基づく構成単位を30~70質量%含み、重量平均分子量が3,000~3,000,000である、感温性粘着剤組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~18のアルキル基を示す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
5は炭素数12~22のアルキル基を示す。)
【化3】
(一般式(3)中、R
6は水素原子またはメチル基を示し、R
7は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
[2]前記金属錯体(C)は、周期律表第13族元素から選ばれる元素を有し、酸素原子を配位座とする配位子を有することを特徴とする、上記[1]に記載の感温性粘着剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感温性粘着剤組成物は、該粘着剤組成物により形成された粘着剤が長時間水に接した場合でも、融点以下で高い粘着力を有し、融点以上で剥離性に優れる。この結果として、本発明の感温性粘着剤組成物は環境異物や金属のための純水による洗浄工程を含む製品の仮固定、例えば半導体などの電子材料分野や医療用マイクロ流路デバイスのような医療用分野の製品の製造工程時の仮固定に優れた固定力および耐水性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、より具体的に記述する。なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを包含する総称である。
【0010】
[共重合体(A)]
本発明の感温性粘着剤組成物は、共重合体(A)を含有する。該共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位と、下記一般式(1)で示されるモノマー(a-2)に基づく構成単位を含む。
【0011】
〔(メタ)アクリル酸(a-1)〕
本発明における(メタ)アクリル酸(a-1)は、(メタ)アクリル酸であり、基材との密着性を良好とする観点から、アクリル酸が特に好ましい。
【0012】
共重合体(A)に含まれる全モノマーに基づく構成単位の合計を100質量%とするとき、(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位の含有量は3質量%以上20質量%以下である。(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位が3質量%未満である場合、十分な粘着性を得ることができない。このため、(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位は3質量%以上であり、4質量%以上が更に好ましい。
【0013】
また、一方、(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位が20質量%を超える場合、粘着性は十分であるものの、共重合体(A)の粘着性が高くなり、高温剥離の際に容易に剥離することが困難となる。また、感温性粘着剤を作製した際、水の浸透が促進されるため、耐水性に乏しく、高温剥離の際に被着体への糊残りが発生する恐れがある。このため、(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位は20質量%以下であり、12質量%以下が好ましく、さらに好ましくは8質量%以下であり、特に好ましいのは6質量%以下である。
なお、共重合体(A)における(メタ)アクリル酸(a-1)に基づく構成単位の含有量は、共重合体(A)を合成するために用いる原料モノマー100質量%中に含まれる(メタ)アクリル酸の量(質量%)に相当する。
【0014】
〔モノマー(a-2)〕
本発明におけるモノマー(a-2)は、下記一般式(1)で表される。
【化4】
(一般式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~18のアルキル基を示す。)
【0015】
式(1)中、R1は、水素原子またはメチル基であり、基材との密着性を良好とする観点から水素原子が好ましい。
R2は、炭素数1~18のアルキル基である。該アルキル基はヒドロキシ基を有していてもよい。
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられる。R2を構成するアルキル基の炭素数は2~12が好ましく、3~8がより好ましい。これらの中でも、R2はn-ブチル基又は2-エチルヘキシル基が特に好ましい。
これらのモノマー(a-2)は、1種類のみを選択しても良いし、2種類以上含有しても良い。
【0016】
共重合体(A)に含まれる全モノマーに基づく構成単位の合計を100質量%とするとき、モノマー(a-2)に基づく構成単位の含有量は80~97質量%である。モノマー(a-2)に基づく構成単位が80質量%未満である場合、粘着性は十分であるものの、共重合体(A)の粘着性が高くなり、高温剥離の際に容易に剥離することが困難となる。また、感温性粘着剤を作製した際、水の浸透が促進されるため、耐水性に乏しく、高温剥離の際に被着体への糊残りが発生する恐れがある。一方、モノマー(a-2)に基づく構成単位が97質量%を超える場合、十分な粘着力を得ることができない。このため、モノマー(a-2)に基づく構成単位は80~97質量%であり、88~97質量%が好ましく、さらに好ましくは92~97質量%であり、特に好ましいのは94~96質量%である。
なお、共重合体(A)におけるモノマー(a-2)に基づく構成単位の含有量は、共重合体(A)を合成するために用いる原料モノマー100質量%中に含まれるモノマー(a-2)の量(質量%)に相当する。
【0017】
〔共重合体(A)の製造〕
本発明における共重合体(A)は、上述した(メタ)アクリル酸(a-1)およびモノマー(a-2)を用いて、重合反応を行うことにより得られる。
共重合体(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、共重合体(A)の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。一般に、溶液重合は重合槽内に各種モノマー、有機溶剤、開始剤などを仕込み、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入しながら、適当な温度管理下にて数時間重合反応を進行させることにより行われる。
【0018】
有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アルキレングリコール、アルキレングリコールのモノアセテート、アルキレングリコールのジアセテートなどのグリコール誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤などを挙げることができる。
【0019】
開始剤としては、例えば2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物、t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドなどの有機過酸化物などを1種、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
重合温度としては、使用する有機溶剤や開始剤などによって変動するが、一般的に40~180℃の範囲である。重合温度が上記範囲であることにより、良好に重合反応を進行させることができる。上記範囲を超えると、(メタ)アクリルポリマーの解重合や、着色などの不具合が起こる恐れがある。上記範囲を下回ると、重合反応が十分に進行せず、未反応のモノマーが残存しやすくなる。
【0021】
共重合体(A)の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。共重合体(A)の重量平均分子量は3,000~3,000,000であり、100,000~1,000,000であることが好ましく、300,000~800,000であることがより好ましい。
【0022】
[共重合体(B)]
本発明の感温性粘着剤組成物は、共重合体(B)を含有する。該共重合体(B)は、下記一般式(2)で示されるモノマー(b-1)に基づく構成単位と、下記一般式(3)で示されるモノマー(b-2)に基づく構成単位を含む。
【0023】
〔モノマー(b-1)〕
本発明においてモノマー(b-1)は下記式(2)で示される。
【化5】
(一般式(2)中、R
3は水素原子またはメチル基を示し、R
4は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
5は炭素数12~22のアルキル基を示す。)
【0024】
式(2)中、R3は水素原子またはメチル基であり、反応性の観点から水素原子が好ましい。
R4は炭素数1~4のアルキレン基である。炭素数1~4のアルキレン基としては、直鎖のアルキレン基であってもよいし、分岐のアルキレン基であってもよいが、直鎖のアルキレン基であることが好ましい。炭素数1~4の直鎖のアルキレン基としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2-CH2-)、プロピレン基(-CH2-CH2-CH2-)、ブチレン基(-CH2-CH2-CH2-CH2-)が挙げられ、中でもエチレン基(-CH2-CH2-)が好ましい。
R5は炭素数12~22のアルキル基である。炭素数12~22のアルキル基としては、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基などが挙げられる。樹脂中での相溶性の観点から、R5は炭素数16~22のアルキル基が好ましい。また、R5は直鎖でも分岐でもよいが、直鎖のものが好ましい。
【0025】
共重合体(B)に含まれる全モノマーに基づく構成単位の合計を100質量%とするとき、モノマー(b-1)に基づく構成単位の含有量は30~70質量%である。モノマー(b-1)に基づく構成単位が70質量%を超える場合、耐水性に優れるほか、剥離時の糊残りが少なる効果があるものの、感温性粘着剤の粘着性が低くなる。一方、モノマー(b-1)に基づく構成単位が30質量%未満の場合、感温性粘着剤の密着性が増加するものの、耐水性に乏しく、剥離時の糊残りが多くなる恐れがある。このため、モノマー(b-1)に基づく構成単位は30~70質量%であり、40~60質量%が好ましく、さらに好ましくは45~50質量%である。
なお、共重合体(B)におけるモノマー(b-1)に基づく構成単位の含有量は、共重合体(B)を合成するために用いる原料モノマー100質量%中に含まれるモノマー(b-1)の量(質量%)に相当する。
【0026】
〔モノマー(b-2)〕
本発明におけるモノマー(b-2)は、下記一般式(3)で表される。
【化6】
(一般式(3)中、R
6は水素原子またはメチル基を示し、R
7は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【0027】
式(3)中、R6は、水素原子またはメチル基であり、高温時の剥離性を向上する観点から水素原子が好ましい。
【0028】
R7は、炭素数1~22のアルキル基である。該アルキル基はヒドロキシ基を有していてもよい。
炭素数1~22のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられる。高温時の剥離性の観点から、R7を構成するアルキル基の炭素数は12以下が好ましく、4以下がより好ましい。中でも、R7はメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
これらのモノマー(b-2)は、1種類のみを選択しても良いし、2種類以上含有しても良い。
【0029】
共重合体(B)に含まれる全モノマーに基づく構成単位の合計を100質量%とするとき、モノマー(b-2)に基づく構成単位の含有量は30~70質量%である。モノマー(b-2)に基づく構成単位が30質量%未満である場合、耐水性に優れるほか、剥離時の糊残りが少なる効果があるものの、感温性粘着剤の粘着性が低くなる。一方、モノマー(b-2)に基づく構成単位が70質量%を超える場合の場合、感温性粘着剤の密着性が増加するものの、耐水性に乏しく、剥離時の糊残りが多くなる恐れがある。このため、モノマー(b-2)に基づく構成単位は30~70質量%であり、40~60質量%が好ましく、さらに好ましくは50~55質量%である。
なお、共重合体(B)におけるモノマー(b-2)に基づく構成単位の含有量は、共重合体(B)を合成するために用いる原料モノマー100質量%中に含まれるモノマー(b-2)の量(質量%)に相当する。
【0030】
〔共重合体(B)の製造〕
本発明における共重合体(B)は、上述したモノマー(b-1)および(b-2)を用いて、重合反応を行うことにより得られる。
【0031】
共重合体(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく、重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、共重合体(B)の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合が好ましい。一般に、溶液重合は重合槽内に各種モノマー、有機溶剤、開始剤、連鎖移動剤などを仕込み、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入しながら、適当な温度管理下にて数時間重合反応を進行させることにより行われる。
【0032】
有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アルキレングリコール、アルキレングリコールのモノアセテート、アルキレングリコールのジアセテートなどのグリコール誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤などを挙げることができる。
【0033】
重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
連鎖移動剤としては、例えばn-ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、メルカプト酢酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシルなどを1種、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
重合温度としては、使用する有機溶剤や開始剤などによって変動するが、一般的に40~180℃の範囲である。重合温度が上記範囲であることにより、良好に重合反応を進行させることができる。上記範囲を超えると、(メタ)アクリルポリマーの解重合や、着色などの不具合が起こる恐れがある。上記範囲を下回ると、重合反応が十分に進行せず、未反応のモノマーが残存しやすくなる。
【0036】
共重合体(B)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。共重合体(B)の重量平均分子量は3,000~3,000,000であり、5,000~50,000であることが好ましく、5,000~30,000であることがより好ましい。上記範囲であることにより、共重合体(A)との相溶性が良好となり、基材への塗布に適した樹脂溶液を得られる。上記範囲を超えると、共重合体(A)との相溶性が低下するために相分離することで密着性が低下する。また、上記範囲を下回ると、相溶性は良好となるが、感温性粘着剤の高温時の密着性が抑制できない恐れがある。
【0037】
[金属錯体(C)]
本発明の感温性粘着剤組成物は、金属錯体(C)を含有する。該金属錯体(C)は、周期律表の13族の元素から選ばれる元素を有し、酸素原子を配位座とする配位子を有する金属錯体であることが好ましい。
周期律表の13族の元素には、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)およびタリウム(Tl)があり、これらのうち、アルミニウムが好ましい。
【0038】
金属錯体(C)を形成する配位子は、具体的には、その構造中に、酸素原子を配位座とする配位子を有することが好ましい。酸素原子を配位座とする配位子は、芳香族または環状もしくは非環状の脂肪族の構造を有し、金属錯体の中で、中心原子として酸素原子を1個以上有する配位子である。酸素原子を配位座とする配位子としては、具体的には、アクア、ヒドロキソ、オキソ、ニトロ、ニトリト、カルボキシラト、アルコキシ、アセチルアセトナート、アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸、クラウンエーテル、カルボニルなどが挙げられ、中でもアセチルアセトネート、及びアルコキシからなる群から選択される配位子が好ましく、アセチルアセトネートがより好ましい。
したがって、金属錯体(C)としてはアルミニウムトリスアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0039】
本発明の感温性粘着剤組成物における共重合体(A)、共重合体(B)、及び金属錯体(C)の含有量の合計を100質量%とした場合の、各成分の含有量は以下であることが好ましい。
共重合体(A)の含有量は、59~99質量%であり、好ましくは75~95質量%、特に好ましくは80~85質量%である。
共重合体(B)の含有量は、1~35質量%であり、好ましくは5~25質量%、特に好ましくは15~20質量%である。
金属錯体(C)の含有量は、0.1~6質量%であり、好ましくは0.5~2質量%である。
【0040】
感温性粘着剤組成物は、共重合体(A)、共重合体(B)、及び金属錯体(C)以外にも、必要に応じて、溶剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等を含んでもよい。
【0041】
本発明の感温性粘着剤組成物は、上記成分を混合して調製することができる。混合方法は特に限定されるものではなく、全成分を同時に混合しても良いし、各成分を順次溶解させても良い。溶解させる順序や作業条件は特に限定されず、公知の方法で調製することができる。
【0042】
本発明の感温性粘着剤組成物を基板上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、さらに必要に応じてプリベークすることで感温性粘着剤が形成される。基板としては、例えば、ガラス、窒化珪素、鉄、アルミニウム、セラミック等の無機基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)等の有機基板等、各種公知のものを適宜利用できる。
【0043】
本発明の感温性粘着剤組成物により形成される粘着層は、密着性、耐水性、高温時の剥離性に優れているため、電子材料分野や医療用分野の製品や製造工程時の仮固定や表面保護に有用である。特に、半導体材料や医療用マイクロ流路デバイスの製造時の製造工程に好適に使用できる。
【実施例0044】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
下記の表1に、後述する重合例1~4で重合した共重合体(A)における各モノマーに基づく構成単位の含有量と、共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を示す。
【0046】
【表1】
表1における略称は以下のとおりである。
AA:アクリル酸
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
【0047】
(重合例1:共重合体A1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、酢酸エチル70gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。アクリル酸5gと2-エチルヘキシルアクリレート95gを混合したモノマー溶液、及び酢酸エチル30gとt-ブチルペルオキシネオデカノエートを0.5g混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
反応容器内を70℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、70℃で4時間反応させ、酢酸エチル130gを加え希釈することで、共重合体Aの酢酸エチル溶液を得た。
【0048】
(重合例2:共重合体A2)
アクリル酸の使用量を8g、2-エチルヘキシルアクリレートの使用量を92gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体A2を得た。
【0049】
(重合例3:共重合体A3)
アクリル酸の使用量を12g、2-エチルヘキシルアクリレートの使用量を88gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体A3を得た。
【0050】
(重合例4:共重合体A4)
2-エチルヘキシルアクリレートをブチルアクリレートに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体A4を得た。
【0051】
下記の表2に、後述する重合例5~12で重合した共重合体(B)における各モノマーに基づく構成単位の含有量と、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)及び融点(Tm)を示す。
【0052】
【表2】
表2における略称は以下のとおりである。
SHA18:ステアリン酸アミドエチルアクリレート
VA:べヘニルアクリレート
MA:メチルアクリレート
F3MA:2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
【0053】
(重合例5:共重合体B1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、トルエン100g、ステアリン酸アミドエチルアクリレートが45gとメチルアクリレートを55g、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン6gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。
反応容器内を70℃まで昇温し、t-ブチルペルオキシネオデカノエートを1g仕込んだ。その後、70℃で6時間反応させ共重合体B1のトルエン溶液を得た。
【0054】
(重合例6:共重合体B2)
ドデシルメルカプタンの使用量を3gに変更したこと以外は重合例5と同様の手法で共重合体B2を得た。
【0055】
(重合例7:共重合体B3)
ステアリン酸アミドエチルアクリレート使用量を60g、メチルアクリレートの使用量を40gに変更したこと以外は重合例5と同様の手法で共重合体B3を得た。
【0056】
(重合例8:共重合体B4)
ステアリン酸アミドエチルアクリレート使用量を30g、メチルアクリレートの使用量を70gに変更したこと以外は重合例5と同様の手法で共重合体B4を得た。
【0057】
(重合例9:共重合体B5)
ステアリン酸アミドエチルアクリレート使用量を60g、メチルアクリレートをエチルアクリレートに変更し使用量を40gに変更したこと以外は重合例5と同様の手法で共重合体B5を得た。
【0058】
(重合例10:共重合体B6)
ステアリン酸アミドエチルアクリレートをべヘニルアクリレートに変更したこと以外は重合例5と同様の手法で共重合体B6を得た。
【0059】
(重合例11:共重合体B7)
べヘニルアクリレートの使用量を70g、メチルアクリレートの使用量を30gに変更したこと以外は重合例10と同様の手法で共重合体B7を得た。
【0060】
(重合例12:共重合体B8)
使用するモノマーをべヘニルアクリレートを45g、メチルアクリレートを25g、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート(製品名:ビスコート3F(大阪有機化学工業(株)製))を30gに変更したこと以外は重合例11と同様の手法で共重合体B8を得た。
【0061】
〔重量平均分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体Aと共重合体Bの重量平均分子量を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0062】
[実施例1~11、比較例1~5]
(感温性粘着剤の調製方法)
各種得られた共重合体(A)100質量部に対して、共重合体(B)を5~40質量部の割合で混合し、混合物を得た。得られた混合物を、濃度が30質量%となるように酢酸エチルに溶解させて、得られた溶液に、金属錯体(C)としてアルミニウムトリスアセチルアセトナート(TCI(株)製)を、1質量部添加し、感温性粘着剤組成物を得た。得られた感温性粘着剤組成物を、基材(100μmの厚みを有するPETフィルム)の片面に塗布し、乾燥することによって感温性粘着剤からなる粘着剤層を形成した。粘着剤層は30μmの厚みを有していた。このようにして感温性粘着テープを得た。
表3及び表4に各実施例及び比較例の感温性粘着剤組成物における、共重合体(A)、共重合体(B)、及び金属錯体(C)の合計量を100質量%としたときの、各成分の含有量および感温性粘着剤組成物の評価結果を示す。
【0063】
[粘着強度試験]
粘着強度試験は、以下に示すように水に浸漬しないで調製した試料(水浸漬無し)、23℃の水に浸漬した試料(耐水23℃)、40℃の水に浸漬した試料(耐水40℃)をそれぞれ作製して行った。
【0064】
(粘着強度試験:水浸漬なし)
得られた感温性粘着テープを、感温性粘着テープの接着面積が1cm2になるよう切り抜き、2kgのローラーを用いて被着体に貼り付けた。23℃で10分間静置、80℃で1時間静置した後、23℃まで冷却し、小型卓上試験機(島津製作所製、EZ-S)にて300mm/分の速度で感温性粘着テープをせん断接着強さ試験にて剥離し、23℃における粘着強度を測定した。得られた粘着強度を下記の基準で評価した。
【0065】
(粘着強度試験:耐水23℃、耐水40℃)
得られた感温性粘着テープを、感温性粘着テープの接着面積が1cm2になるよう切り抜き、2kgのローラーを用いて被着体に貼り付けた。23℃で10分間静置、80℃で1時間静置した。その後、23℃または40℃の恒温水中に1時間浸し、付着した水分をふき取った後、小型卓上試験機(島津製作所製、EZ-S)にて300mm/分の速度で感温性粘着テープをせん断接着強さ試験にて剥離し、23℃における粘着強度を測定した。得られた粘着強度を下記の基準で評価した。
【0066】
<評価基準>
◎:粘着強度が40N/1cm2以上の場合。
〇:粘着強度が35N/1cm2以上40N/1cm2未満の場合。
△:粘着強度が30N/1cm2以上35N/1cm2未満の場合。
×:粘着強度が30N/1cm2未満の場合。
【0067】
[糊残り評価]
糊残り評価は、以下に示すように水に浸漬しないで調製した試料(水浸漬無し)、23℃の水に浸漬した試料(耐水23℃)、40℃の水に浸漬した試料(耐水40℃)をそれぞれ作製して行った。
【0068】
(糊残り評価:水浸漬なし)
得られた感温性粘着テープを、感温性粘着テープの接着面積が1cm2になるよう切り抜き、2kgのローラーを用いて被着体に貼り付けた。23℃で10分間静置、80℃で1時間静置した。得られた感温性粘着テープは80℃にてせん断接着強さ試験を行い、被着体に対する糊残りの面積比(糊残り率)を評価した。
【0069】
(糊残り評価:耐水23℃、耐水40℃)
得られた感温性粘着テープを、感温性粘着テープの接着面積が1cm2になるよう切り抜き、2kgのローラーを用いて被着体に貼り付けた。23℃で10分間静置、80℃で1時間静置した。その後、23℃または40℃の恒温水中に1時間浸し、付着した水分をふき取ったサンプルをそれぞれ作製した。得られた感温性粘着テープは80℃にてせん断接着強さ試験を行い、被着体に対する糊残りの面積比(糊残り率)を評価した。
【0070】
<評価基準>
◎:被着体に付着物が全くない
〇:糊残り率が5%未満
△:糊残り率が5~25%
×:糊残り率が25%超
【0071】
(粘着性評価)
感温性粘着剤組成物を、基材(100μmの厚みを有するPETフィルム)の片面に塗布し、乾燥して得た30μmの厚みを有した粘着剤層を80℃に昇温し、粘着剤が粘着性を有するか否かの評価を行った。
〇:タック性がない
×:タック性が残っている
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1~11では、感温性粘着剤の粘着強度が高くなり、また、耐水試験後の粘着強度の低下が少なく、剥離後の糊残りが少なくなった。
比較例1、3および5では、耐水試験前の粘着力は高いが、耐水試験後の密着性は低下し、剥離後の糊残りが多くなった。
比較例2と4では、耐水試験後の粘着強度の低下は少なく、剥離後の糊残りも少ないが、もともとの粘着強度が低くなった。