(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170053
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】四輪駆動車の駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/12 20120101AFI20231124BHJP
B60K 17/346 20060101ALI20231124BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20231124BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231124BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20231124BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B60W10/12
B60K17/346 B
B60K17/356 B
B60T8/17 C
B60W10/18
B60L7/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081505
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 義暢
(72)【発明者】
【氏名】小栗 昌己
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】神 義幸
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章也
(72)【発明者】
【氏名】草野 大志
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】荒木 拓海
(72)【発明者】
【氏名】三浦 駿太郎
【テーマコード(参考)】
3D043
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D043AA01
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA05
3D043EA23
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5H125AA01
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5H125BA05
5H125CA02
5H125CB02
5H125CB07
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】電動モータ式の四輪駆動車の減速時に車両挙動が不安定になることを抑制可能な四輪駆動車の駆動システムを提供する。
【解決手段】摩擦ブレーキシステムを備えた電動モータ式の四輪駆動車の駆動システムは、第1のモータ及び第2のモータと、プロペラシャフトと、第1のモータに接続され、前輪側又は後輪側のうちの一方側の左輪と、前輪側又は後輪側のうちの他方側と、に第1のモータの出力トルクを分配する第1の差動機構と、第2のモータに接続され、前輪側又は後輪側のうちの一方側の右輪と、前輪側又は後輪側のうちの他方側と、に第2のモータの出力トルクを分配する第2の差動機構と、第1のモータ及び第2のモータの回生による回生ブレーキ力及び摩擦ブレーキシステムによる摩擦ブレーキ力を制御する制御装置とを備え、第1の差動機構及び第2の差動機構は、それぞれ前輪側への出力トルクの配分比が50%以上となるように構成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦ブレーキシステムを備えた電動モータ式の四輪駆動車の駆動システムにおいて、
第1のモータ及び第2のモータと、
前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、
前記第1のモータに接続され、前記前輪側又は前記後輪側のうちの一方側の左輪と、前記前輪側又は前記後輪側のうちの他方側と、に前記第1のモータの出力トルクを分配する第1の差動機構と、
前記第2のモータに接続され、前記前輪側又は前記後輪側のうちの前記一方側の右輪と、前記前輪側又は前記後輪側のうちの前記他方側と、に前記第2のモータの出力トルクを分配する第2の差動機構と、
前記第1のモータ及び前記第2のモータの回生による回生ブレーキ力及び前記摩擦ブレーキシステムによる摩擦ブレーキ力を制御する制御装置と、
を備え、
前記第1の差動機構及び前記第2の差動機構は、それぞれ前記前輪側への出力トルクの配分比が50%以上となるように構成される、四輪駆動車の駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記四輪駆動車の減速時に前記回生ブレーキ力及び前記摩擦ブレーキ力の和が所定の要求ブレーキ力となるように協調制御を行い、
前記四輪駆動車の車速が所定の閾値以上から前記所定の閾値未満になった場合、前記摩擦ブレーキ力の比率を増大させる、請求項1に記載の四輪駆動車の駆動システム。
【請求項3】
前記一方側が後輪側であり前記他方側が前輪側である、請求項1に記載の四輪駆動車の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動モータ式の四輪駆動車の駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータの出力を駆動力として用いる四輪駆動の電動車両の開発が進められている。例えば特許文献1には、純電気的に全輪駆動可能な自動車の駆動システムであって、前後左右の各駆動輪を駆動可能な駆動システムが開示されている。具体的に、特許文献1には、前後それぞれの車軸上にそれぞれディファレンシャルが配置され、いずれかの車軸に接続された左右2個の電動モータの駆動トルクの一部が、直交ギヤ及びプロペラシャフトを介して他方の車軸のディファレンシャルに伝達されることで四輪を駆動可能な駆動システムが提案されている。
【0003】
特許文献1に開示された駆動システムは、旋回走行中の内輪差等による前後輪の回転差を、カップリング等を用いて吸収する必要があり、前後のトルク配分の制御の自由度が制限されるおそれがある。これに対して、特許文献2には、カップリングのような前後差回転吸収機構を用いることなく、左右の電動モータの出力制御のみにより前後左右の各駆動輪へ伝達する駆動力を制御可能な四輪駆動車の駆動システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-506862号公報
【特許文献2】特開2021-020640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、四輪駆動車における前輪側及び後輪側への駆動力の配分は、車両ごとの走行性能によって決定され、差動機構の設計により実現される。例えば車体の操作性や旋回性能、加速性能をより重視する場合には後輪側への配分比が前輪側に比べて大きくなるように設計された差動機構が用いられる。一方、直進時の走行安定性や燃費性能をより重視する場合には前輪側への配分比が前輪側に比べて大きくなるように設計された差動機構が用いられる。この差動機構による駆動力の配分比は、電動モータによる回生ブレーキ力の分配にも同様に適用される。
【0006】
電動モータを駆動源とする自動車では、減速エネルギを回生エネルギに変換することで減速エネルギを無駄にすることなく車両を走行させることができる。また、電動モータを駆動源とする自動車では、加速及び減速を1つの操作ペダルで実現することもできる。減速時の回生ブレーキ力は、目標とする減速度に基づき車両の走行抵抗及び車重を考慮して算出される。このとき、高車速状態では電動モータの回転数も高く、電動モータによる回生ブレーキのみで減速することもできるが、極低車速の状態では電動モータの回転数が低くなることから、摩擦ブレーキが併用される。つまり、車両が減速を開始し、主として回生ブレーキによりドライバが要求するブレーキ力を発生させた状態で所定の車速まで低下すると、回生ブレーキ力の比率が低下する一方、摩擦ブレーキ力の比率が増大する。
【0007】
車両の前進走行中の減速時においては前輪側の負荷が大きくなることから、摩擦ブレーキシステムは、通常前輪側へのブレーキトルクの配分比が後輪側へのブレーキトルクの配分比に比べて大きくなるように設計あるいは制御される。このため、電動モータ式の四輪駆動車の駆動システムにおいて、後輪側への配分比が前輪側に比べて大きくなる差動機構が用いられている場合、回生ブレーキ力の比率を低下させる一方、摩擦ブレーキ力の比率を増大させると、前輪側及び後輪側のブレーキ力の配分比が急変する。その結果、路面の摩擦係数が低いような場合には、車両挙動が不安定になるおそれがある。
【0008】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、電動モータ式の四輪駆動車の減速時に車両挙動が不安定になることを抑制可能な、四輪駆動車の駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、摩擦ブレーキシステムを備えた電動モータ式の四輪駆動車の駆動システムであって、第1のモータ及び第2のモータと、前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、第1のモータに接続され、前輪側又は後輪側のうちの一方側の左輪と、前輪側又は後輪側のうちの他方側と、に第1のモータの出力トルクを分配する第1の差動機構と、第2のモータに接続され、前輪側又は後輪側のうちの一方側の右輪と、前輪側又は後輪側のうちの他方側と、に第2のモータの出力トルクを分配する第2の差動機構と、第1のモータ及び第2のモータの回生による回生ブレーキ力及び摩擦ブレーキシステムによる摩擦ブレーキ力を制御する制御装置と、を備え、第1の差動機構及び第2の差動機構は、それぞれ前輪側への出力トルクの配分比が50%以上となるように構成される四輪駆動車の駆動システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本開示によれば、電動モータ式の四輪駆動車の減速時に車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態に係る四輪駆動車の駆動システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る四輪駆動車の駆動システムの動作例を示す説明図である。
【
図3】同実施形態に係る四輪駆動車の駆動システムの別の動作例を示す説明図である。
【
図4】同実施形態に係る四輪駆動車の駆動システムのブレーキトルクの構成比率を示す説明図である。
【
図5】液圧ブレーキトルク及び回生ブレーキトルクそれぞれの前後配分比を示す説明図である。
【
図6】同実施形態に係る四輪駆動車の駆動システムのブレーキ処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
<1.駆動システムの全体構成>
図1を参照して、本開示の実施の形態に係る四輪駆動車の駆動システムの全体構成を説明する。本実施形態においては、左右2つの電動モータの出力トルクが前輪と後輪とに配分される電動モータ式の全輪駆動(AWD:All-Wheel Drive)車の駆動システムの例を説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る駆動システム1の全体構成を示す模式図である。駆動システム1は、第1のモータ20Lと、第2のモータ20Rと、第1の差動機構10Lと、第2の差動機構10Rと、第1の直交ギヤ31と、プロペラシャフト23と、第2の直交ギヤ33と、第3の差動機構10Fとを備える。第1のモータ20L及び第2のモータ20Rは、例えば公知の三相交流式の同期モータであり、制御装置50により図示しないインバータを制御することによって駆動制御される。第1のモータ20Lの出力軸21Lは、第1の差動機構10Lに接続されている。第2のモータ20Rの出力軸21Rは、第2の差動機構10Rに接続されている。
【0015】
第1の差動機構10Lは、遊星歯車機構を含み、サンギヤ15Lと、ピニオンギヤ12Lと、リングギヤ13Lと、ピニオンギヤ12Lを支持するキャリア11Lとを備える。第1のモータ20Lの出力軸21Lはキャリア11Lに接続され、第1のモータ20Lの出力トルクは、キャリア11Lを介して第1の差動機構10Lに伝達される。第1の差動機構10Lは、第1のモータ20Lの出力トルクを、左後輪3LRと前輪側とに分配する。具体的に、第1のモータ20Lの出力トルクの一部は、リングギヤ13L及びギヤ機構41Lを介して左後輪3LRの駆動軸5LRに伝達される。また、第1のモータ20Lの出力トルクの一部は、サンギヤ15Lを介して中間出力軸21に伝達され、さらに、第1の直交ギヤ31を介してプロペラシャフト23に伝達される。
【0016】
第2の差動機構10Rは、遊星歯車機構を含み、サンギヤ15Rと、ピニオンギヤ12Rと、リングギヤ13Rと、ピニオンギヤ12Rを支持するキャリア11Rとを備える。第2のモータ20Rの出力軸21Rはキャリア11Rに接続され、第2のモータ20Rの出力トルクは、キャリア11Rを介して第2の差動機構10Rに伝達される。第2の差動機構10Rは、第2のモータ20Rの出力トルクを、右後輪3RRと前輪側とに分配する。具体的に、第2のモータ20Rの出力トルクの一部は、リングギヤ13R及びギヤ機構41Rを介して右後輪3RRの駆動軸5RRに伝達される。また、第2のモータ20Rの出力トルクの一部は、サンギヤ15Rを介して中間出力軸21に伝達され、さらに、第1の直交ギヤ31を介してプロペラシャフト23に伝達される。
【0017】
つまり、四輪駆動車の加速時において、第1のモータ20Lから出力される駆動トルクは、第1の差動機構10Lにより所定の配分比で左後輪3LRと前輪側とに分配される。また、四輪駆動車の減速時において、第1のモータ20Lにより生成される回生トルクは、第1の差動機構10Lにより所定の配分比で左後輪3LRと前輪側とに分配される。同様に、四輪駆動車の加速時において、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクは、第2の差動機構10Rにより所定の配分比で右後輪3RRと前輪側とに分配される。また、四輪駆動車の減速時において、第2のモータ20Rにより生成される回生トルクは、第2の差動機構10Rにより所定の配分比で右後輪3RRと前輪側とに分配される。本実施形態では、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rは、それぞれ前輪側への出力トルクの配分比が50%以上となるように構成される。
【0018】
プロペラシャフト23は、第2の直交ギヤ33を介して、左前輪3LFの駆動軸5LF及び右前輪3RFの駆動軸5RFが接続された第3の差動機構10Fに接続されている。第3の差動機構10Fは、公知のデファレンシャルギヤを含んで構成され、左前輪3LFの駆動軸5LF及び右前輪3RFの駆動軸5RFにそれぞれ接続された図示しない2つのサイドギヤ、及び、当該2つのサイドギヤに噛み合う図示しないピニオンギヤを備える。第3の差動機構10Fは、例えば旋回時や悪路走行時等に左前輪3LF及び右前輪3RFに差回転を生じさせることが可能になっている。
【0019】
プロペラシャフト23は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rと前輪側との間で駆動力を伝達する。つまり、第1のモータ20Lの出力トルクの一部及び第2のモータ20Rの出力トルクの一部は共通の中間出力軸21に伝達され、合算されたトルクが、第1の直交ギヤ31、プロペラシャフト23、第2の直交ギヤ33を介して第3の差動機構10Fに伝達される。第3の差動機構10Fは、左前輪3LF及び右前輪3RFの摩擦抵抗あるいは回転抵抗に応じて、左前輪3LF及び右前輪3RFへとトルクを分配する。
【0020】
本実施形態においては、第1のモータ20Lの出力軸21L及び第2のモータ20Rの出力軸21Rは、いずれも左後輪3LRの駆動軸5LR及び右後輪3RRの駆動軸5RRと平行になるように配置されている。これにより、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rからそれぞれ出力される出力トルクが、直交ギヤを介することなく平歯車を利用して効率よく左後輪3LRの駆動軸5LR及び右後輪3RRの駆動軸5RRへと伝達可能になっている。
【0021】
本実施形態に係る駆動システム1が適用される四輪駆動車は、摩擦ブレーキシステム70を備えている。
図1に示した摩擦ブレーキシステム70は、油圧式のブレーキシステムとして構成されているが、油圧式のものに限られない。液圧ユニット73は、前後左右の駆動輪3LF,3RF,3LR,3RRにそれぞれ設けられたブレーキキャリパ7LF,7RF,7LR,7RR(以下、特に区別を要しない場合には「ブレーキキャリパ7」と総称する)に供給する油圧をそれぞれ調節し、制動力を発生させる。液圧ユニット73の駆動は、一つ又は複数のプロセッサと一つ又は複数のメモリとを備えて構成されるブレーキ制御装置71により制御される。摩擦ブレーキシステム70による摩擦ブレーキは、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rによる回生ブレーキと併用される。
【0022】
制御装置50は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと一つ又は複数のメモリとを備えて構成される。制御装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。メモリは、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等により構成される。ただし、メモリの数や種類は特に限定されない。メモリは、プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメタ、検出データ、演算結果等の情報を記憶する。
【0023】
制御装置50は、一つ又は複数のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで四輪駆動車のブレーキ制御を実行する装置として機能する。当該コンピュータプログラムは、制御装置50が実行すべき後述する動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、制御装置50に備えられたメモリとして機能する記録媒体に記録されていてもよく、制御装置50に内蔵された記録媒体又は制御装置50に外付け可能な任意の記録媒体に記録されていてもよい。
【0024】
コンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、SSD(Solid State Drive)及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM及びROM等の記憶素子、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等のフラッシュメモリ、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0025】
駆動システム1において、前輪側の駆動軸5LF,5RFは、第3の差動機構10Fを介して互いに接続されている。一方、後輪側の駆動軸5LR,5RRは、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rを介して接続され、後輪の一方の回転が直接的に他方に伝達されないように構成されている。そして、四輪駆動車の加速時において、第1のモータ20Lから出力される駆動トルクが左後輪3LRと前輪側とに分配され、また、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクが右後輪3RRと後輪側とに分配される。その際に、前後左右の各駆動輪の負荷あるいは回転抵抗に応じて駆動トルクが分配される。
【0026】
また、四輪駆動車の旋回時において、制御装置50は、例えば左右の後輪の内輪差による差回転を考慮して、第1のモータ20Lから出力する駆動トルクと第2のモータ20Rから出力する駆動トルクとをそれぞれ制御する。これにより、前後左右の各駆動輪に伝達する出力トルクを制御する、いわゆるトルクベクタリング制御を実行することができる。
【0027】
また、四輪駆動車の減速時において、制御装置50は、摩擦ブレーキシステム70による摩擦ブレーキと、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rによる回生ブレーキとの協調制御を実行する。その際に、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rにより前輪側及び後輪側へと回生ブレーキトルクが分配される。
【0028】
<2.動作例>
続いて、本実施形態に係る駆動システム1の動作例を具体的に説明する。以下に説明する動作例は、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rによる前輪側及び後輪側へのトルクの配分比が55:45の場合の動作例であるが、前輪側へのトルクの配分比が50%以上である限り、前輪側及び後輪側へのトルクの配分比はかかる例に限定されるものではない。
【0029】
図2は、第1のモータ20Lの出力トルクを100(相対値)、第2のモータ20Rの出力トルクを100(相対値)とした場合に前後左右の各駆動輪に伝達されるトルク(相対値)を示す。なお、正の値の出力トルクは駆動トルクを表し、負の値の出力トルクは回生トルクを表す。
【0030】
四輪駆動車の直進走行中の加速時において、第1のモータ20Lから出力される駆動トルクは、キャリア11Lを介して第1の差動機構10Lに伝達され、45:55の割合で、左後輪3LR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図2に示した例では、リングギヤ13Lを介して左後輪3LRへと45(相対値)の駆動トルクが伝達され、サンギヤ15Lを介して中間出力軸21へと55(相対値)の駆動トルクが伝達される。
【0031】
また、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクは、キャリア11Rを介して第2の差動機構10Rに伝達され、45:55の割合で、右後輪3RR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図2に示した例では、リングギヤ13Rを介して右後輪3RRへと45(相対値)の駆動トルクが伝達され、サンギヤ15Rを介して中間出力軸21へと55(相対値)の駆動トルクが伝達される。
【0032】
第1のモータ20Lから出力される駆動トルクのうち中間出力軸21へ伝達される駆動トルク(55(相対値))と、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクのうち中間出力軸21へ伝達される駆動トルク(55(相対値))との合算トルク(110(相対値))は、第1の直交ギヤ31、プロペラシャフト23及び第2の直交ギヤ33を介して第3の差動機構10Fに伝達される。これにより、左前輪3LF及び右前輪3RFには、合計で110(相対値)の駆動トルクが伝達され、50:50の割合、すなわち55(相対値):55(相対値)の割合で左前輪3LF及び右前輪3RFに当該駆動トルクが分配される。
【0033】
直進走行中及び旋回走行中にかかわらず四輪駆動車の減速時において、第1のモータ20Lにより生成された回生トルクは、キャリア11Lを介して第1の差動機構10Lに伝達され、45:55の割合で、左後輪3LR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図2に示した例では、リングギヤ13Lを介して左後輪3LRへと-45(相対値)の回生トルクが伝達され、サンギヤ15Lを介して中間出力軸21へと-55(相対値)の回生トルクが伝達される。
【0034】
また、第2のモータ20Rにより生成された回生トルクは、キャリア11Rを介して第2の差動機構10Rに伝達され、45:55の割合で、右後輪3RR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図2に示した例では、リングギヤ13Rを介して右後輪3RRへと-45(相対値)の回生トルクが伝達され、サンギヤ15Rを介して中間出力軸21へと-55(相対値)の回生トルクが伝達される。
【0035】
第1のモータ20Lにより生成された回生トルクのうち中間出力軸21へ伝達される回生トルク(-55(相対値))と、第2のモータ20Rにより生成された回生トルクのうち中間出力軸21へ伝達される回生トルク(-55(相対値))との合算トルク(-110(相対値))は、第1の直交ギヤ31、プロペラシャフト23及び第2の直交ギヤ33を介して第3の差動機構10Fに伝達される。これにより、左前輪3LF及び右前輪3RFには、合計で-110(相対値)の回生トルクが伝達され、50:50の割合、すなわち-55(相対値):-55(相対値)の割合で左前輪3LF及び右前輪3RFに当該回生トルクが分配される。
【0036】
図3は、四輪駆動車の旋回走行時に、第1のモータ20Lから出力する駆動トルクを100(相対値)、第2のモータ20Rから出力する駆動トルクを50(相対値)とした場合に前後左右の各駆動輪に伝達されるトルク(相対値)を示す。
【0037】
第1のモータ20Lから出力される駆動トルクは、キャリア11Lを介して第1の差動機構10Lに伝達され、45:55の割合で、左後輪3LR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図3に示した例では、リングギヤ13Lを介して左後輪3LRへと45(相対値)の駆動トルクが伝達され、サンギヤ15Lを介して中間出力軸21へと55(相対値)の駆動トルクが伝達される。
【0038】
また、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクは、キャリア11Rを介して第2の差動機構10Rに伝達され、45:55の割合で、右後輪3RR及び前輪側に接続された中間出力軸21へと分配される。
図3に示した例では、リングギヤ13Rを介して右後輪3RRへと22.5(相対値)の駆動トルクが伝達され、サンギヤ15Rを介して中間出力軸21へと27.5(相対値)の駆動トルクが伝達される。
【0039】
第1のモータ20Lから出力される駆動トルクのうち中間出力軸21へ伝達される駆動トルク(55(相対値))と、第2のモータ20Rから出力される駆動トルクのうち中間出力軸21へ伝達される駆動トルク(27.5(相対値))との合算トルク(82.5(相対値))は、第1の直交ギヤ31、プロペラシャフト23及び第2の直交ギヤ33を介して第3の差動機構10Fに伝達される。これにより、左前輪3LF及び右前輪3RFには、合計で82.5(相対値)の駆動トルクが伝達され、50:50の割合、すなわち41.25(相対値):41.25(相対値)の割合で左前輪3LF及び右前輪3RFに当該駆動トルクが分配される。
【0040】
このように、本実施形態に係る駆動システム1では、左後輪3LR及び前輪側に分配されるトルクを出力する第1のモータ20L、及び、右後輪3RR及び前輪側に分配されるトルクを出力する第2のモータ20Rの出力を適切に制御することにより、前後左右の各駆動輪へ伝達する駆動トルクを制御することができる。かかる駆動システム1は、前後輪の回転差を吸収するためのカップリングのような差回転吸収機構を必要とせず、前後左右の駆動輪へ伝達する駆動トルクをダイレクトに制御する自由度を高めることができる。
【0041】
<3.協調ブレーキ制御>
続いて、本実施形態に係る駆動システム1による、摩擦ブレーキと回生ブレーキとを用いた協調ブレーキ制御について詳しく説明する。
【0042】
図4は、制御装置50による協調ブレーキ制御を示す説明図である。
図4は、手動運転中にドライバが要求する要求ブレーキトルクあるいは自動運転中に算出される要求ブレーキトルク、及び、要求ブレーキトルクに占める摩擦ブレーキトルクと回生ブレーキトルクとの構成比率の時間変化の一例を示している。
【0043】
車速がV_0の状態で制動が開始され、しばらくの間、要求ブレーキトルクが増加した後に一定の値で維持されて、四輪駆動車が停止するとする。制御装置50は、ドライバのブレーキ操作あるいは自動運転制御による目標減速度に基づいて、走行抵抗及び車重を用いて回生ブレーキトルクを算出する。このとき、高車速の状態では、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの回転数が大きいため、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rにより生成される回生ブレーキトルクの構成比率を高くすることができる。
【0044】
一方、低車速の状態では、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの回転数が小さいため、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rにより生成される回生ブレーキトルクの大きさが制限される。このため、車速が所定の閾値V_thrまで低下した時刻ta以降は、回生ブレーキトルクがゼロとなるように摩擦ブレーキトルクの構成比率が減少する一方、摩擦ブレーキトルクの構成比率が増大する。
【0045】
このとき、摩擦ブレーキトルクは、前輪側への配分比が後輪側の配分比よりも大きくされることから、回生ブレーキトルクの前輪側への配分比が後輪側の配分比よりも小さくされていると、前輪側及び後輪側のブレーキトルクの配分比が急変するおそれがある。このため、本実施形態では、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rが、それぞれ前輪側への出力トルクの配分比が50%以上となるように構成されていることから、回生ブレーキトルクと摩擦ブレーキトルクとの構成比率の急変に伴って、前輪側及び後輪側のブレーキトルクの配分比の急変が生じにくくされている。
【0046】
図5は、回生ブレーキトルクの前後配分比及び摩擦ブレーキトルクの前後配分比を示す説明図である。例えば摩擦ブレーキトルクの配分比(前輪側:後輪側)が60:40であるとする。破線で示した比較例の回生ブレーキトルクの配分比(前輪側:後輪側=40:60)では、要求ブレーキトルクのうち回生ブレーキトルクの構成比率が大きい状態から摩擦ブレーキトルクの構成比率が大きい状態に急変すると、前輪側のブレーキトルクが急増し、路面の摩擦係数が低い場合等においてアンダーステアやスピン等を生じるおそれがある。これに対して、実線で示した実施例の回生ブレーキトルクの配分比(前輪側:後輪側=55:45)では、要求ブレーキトルクのうち回生ブレーキトルクの構成比率が大きい状態から摩擦ブレーキトルクの構成比率が大きい状態に急変した場合であっても、前輪側のブレーキトルクの増加量が抑えられるためにアンダーステアやスピン等を生じるおそれを低減することができる。
【0047】
回生ブレーキトルクの配分比は、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rの設計により任意の配分比を実現することができる。このとき、本実施形態では、前輪側への回生ブレーキトルクの配分比が50%以上となっていれば、要求ブレーキトルクのうち回生ブレーキトルクの構成比率が大きい状態から摩擦ブレーキトルクの構成比率が大きい状態に急変した場合の配分比の急変を抑制することができる。ただし、上述した旋回走行中のトルクベクタリング制御の有効性を高めるには、後輪側への配分比が著しく小さくなることは望ましくない。したがって、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rによる前輪側及び後輪側へのトルクの配分比(前輪側:後輪側)を、50:50~60:40の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
<4.処理動作>
次に、
図6を参照して、制御装置50により実行される四輪駆動車の協調ブレーキ制御の処理動作の一例を説明する。
【0049】
まず、制御装置50は、四輪駆動車が減速を開始したか否かを判定する(ステップS11)。例えば制御装置50は、ブレーキペダルの踏み込み量あるいは踏力が所定の閾値を超えたとき、アクセルペダルが開放される速度が所定の閾値を超えたとき、あるいは、自動運転制御による減速指令を取得したときのいずれかの条件が成立したときに、四輪駆動車が減速を開始したと判定する。四輪駆動車が減速を開始したと判定されない場合(S11/No)、制御装置50は、ステップS11の判定処理を繰り返し実行する。
【0050】
一方、四輪駆動車が減速を開始したと判定した場合(S11/Yes)、制御装置50は、要求ブレーキトルクを算出する(ステップS13)。制御装置50は、例えばあらかじめメモリに記憶されたマップ等を参照し、ブレーキペダルの踏み込み量あるいは踏力、又は、アクセルペダルが開放される速度に基づいて要求ブレーキトルクを算出する。自動運転制御を司る制御装置から要求ブレーキトルクの情報が送信される場合、制御装置50は、当該要求ブレーキトルクの情報を取得する。
【0051】
次いで、制御装置50は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rそれぞれに生成させる回生トルクを算出する(ステップS15)。具体的に、制御装置50は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rそれぞれの回転数の情報を取得し、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rそれぞれにより生成可能な回生トルクを算出する。例えば制御装置50は、四輪駆動車の減速時において、左右の第1のモータ20L及び第2のモータ20Rにより同一の回生トルクを発生させる。このため、制御装置50は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rそれぞれが生成可能な回生トルクのうちの小さい方の値と、要求ブレーキトルクに0.5をかけた値とを比較し、いずれか小さい方の値を第1のモータ20L及び第2のモータ20Rそれぞれに生成させる回生トルクとする。
【0052】
次いで、制御装置50は、ステップS15で算出した回生トルクの和を算出する(ステップS17)。つまり、算出された回生トルクを2倍した値が、要求ブレーキトルクのうちの回生ブレーキトルクの値となる。
【0053】
次いで、制御装置50は、摩擦ブレーキトルクを算出する(ステップS19)。具体的に、制御装置50は、要求ブレーキトルクから回生ブレーキトルクを引いた残りの不足分を摩擦ブレーキトルクとする。制御装置50は、協調ブレーキ制御用にあらかじめ記憶されたマップ等を参照し、要求ブレーキトルクと、車速又は第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの回転数とに基づいて摩擦ブレーキトルクを算出してもよい。
【0054】
次いで、制御装置50は、四輪駆動車の車速が、あらかじめ設定された所定の閾値V_thr未満であるか否かを判定する(ステップS21)。閾値V_thrは、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rが回生ブレーキトルクを安定的に生成可能なモータ回転数の下限値となる車速に相当する値であり、あらかじめ任意の値に設定される。
【0055】
四輪駆動車の車速が、あらかじめ設定された所定の閾値V_thr未満ではない場合(S21/No)、制御装置50は、ステップS15で算出した回生トルクを目標値として、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rを回生する(ステップS25)。これにより、回生ブレーキ力が発生する。さらに制御装置50は、ステップS19で算出した摩擦ブレーキトルクの値を指示値としてブレーキ制御装置71へ送信する(ステップS27)。ブレーキ制御装置71は、摩擦ブレーキトルクの指示値に基づいて液圧ユニット73の駆動を制御し、摩擦ブレーキ力を発生させる。
【0056】
一方、四輪駆動車の車速が、あらかじめ設定された所定の閾値V_thr未満である場合(S21/Yes)、制御装置50は、回生ブレーキトルクがゼロとなるように漸減させる(ステップS23)。制御装置50は、回生ブレーキトルクを漸減させる場合、回生ブレーキトルクの減少分を摩擦ブレーキトルクに上乗せ補正し、回生ブレーキトルク及び摩擦ブレーキトルクにより要求ブレーキトルクが維持されるようにする。これにより、要求ブレーキトルクのうちの回生ブレーキトルクの構成比率が減少する一方、摩擦ブレーキトルクの構成比率が増大する。
【0057】
次いで、制御装置50は、ステップS23で算出した回生ブレーキトルクに0.5をかけた値を目標値として、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rを回生する(ステップS25)。これにより、回生ブレーキ力が発生する。さらに制御装置50は、ステップS23で補正した摩擦ブレーキトルクの値を指示値としてブレーキ制御装置71へ送信する(ステップS27)。ブレーキ制御装置71は、摩擦ブレーキトルクの指示値に基づいて液圧ユニット73の駆動を制御し、摩擦ブレーキ力を発生させる。
【0058】
四輪駆動車の減速開始後、車速が閾値V_thr未満となった直後には、要求ブレーキトルクのうち回生ブレーキトルクが支配的であった状態から摩擦ブレーキトルクが支配的となる状態に変化する。しかしながら、本実施形態に係る駆動システム1では、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rにより分配される第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの出力トルクの配分比が、前輪側への配分比が50%以上となるように構成されている。このため、要求ブレーキトルクのうち回生ブレーキトルクが支配的であった状態から摩擦ブレーキトルクが支配的となる状態に変化した場合であっても、前輪側及び後輪側へのブレーキトルクの配分比が急変することを抑制することができる。
【0059】
次いで、制御装置50は、四輪駆動車が停車したか否かを判定する(ステップS29)。例えば制御装置50は、車速がゼロになったときに四輪駆動車が停車したと判定する。四輪駆動車が停車していない場合(S29/No)、制御装置50は、四輪駆動車が加速したか否かを判定する(ステップS31)。例えば制御装置50は、ドライバによりアクセルペダルが踏み込まれた場合、あるいは、自動運転制御による加速指令を取得したときに四輪駆動車が加速したと判定する。四輪駆動車が加速していない場合(S31/No)、制御装置50は、ステップS13に戻り、これまでに説明した各ステップの処理を繰り返し実行する。
【0060】
一方、ステップS29で四輪駆動車が停車したと判定された場合(S29/Yes)、あるいは、ステップS31で四輪駆動車が加速したと判定された場合(S31/Yes)、制御装置50は、減速動作を終了する。以降、駆動システム1が停止するまでの間、ステップS11に戻って、これまでに説明した各ステップの処理を繰り返し実行する。
【0061】
以上説明したように、本開示に係る駆動システム1は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rのそれぞれに前輪側及び後輪側に出力トルクを配分する差動機構を設け、左右の前輪側への出力トルクを合計した後に直交ギヤ及びプロペラシャフトを介して前輪側へ出力トルクを伝達する。これにより、プロペラシャフト上の前後差回転を吸収する装置が不要となり、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの出力トルクを制御することにより前後左右の各駆動輪へのトルク伝達を制御することができる。
【0062】
また、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rそれぞれ、前輪側への出力トルクの配分比を50%以上としたことにより、摩擦ブレーキトルクの配分比に近づけられている。このため、四輪駆動車の減速時に車速が極低速の状態となって、回生ブレーキトルクの構成比率が減少する一方、摩擦ブレーキトルクの構成比率が増大した場合であっても、前輪側及び後輪側のブレーキトルクの配分比の急変が抑制される。したがって、車両挙動が不安定になることを抑制することができる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば、上記実施形態に係る駆動システム1は、左後輪3LR及び右後輪3RRに対応してそれぞれ第1のモータ20L及び第2のモータ20Rを設け、左前輪3LF及び右前輪3RFには共通の中間出力軸21及びプロペラシャフト23を介して出力トルクを伝達していたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。左前輪3LFに対応して第1のモータ20L及び第1の差動機構10Lを設け、右前輪3RFに対応して第2のモータ20R及び第2の差動機構10Rを設け、左後輪3LR及び右後輪3RRには共通の中間出力軸及びプロペラシャフトを介して出力トルクを伝達するように構成してもよい。例えば上記実施形態に係る駆動システム1の構成は、スポーツ走行を主目的とする車両に適用されることにより、走行安定性をより高めることができる。
【0065】
また、上記実施形態に係る駆動システム1は、第1のモータ20L及び第2のモータ20Rの出力トルクの一部が、両端にサンギヤ15L,15Rを有するとともに、第1の直交ギヤ31が設けられた中間出力軸21を介して前輪側に出力トルクを伝達していたが、本開示の技術は係る例に限定されない。例えば直交ギヤが設けられる共通の出力軸と、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rのうちの前輪側への出力トルクが分配される出力軸とがギヤ機構を介して連結されていてもよい。
【0066】
また、上記実施形態に係る駆動システム1において、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rにそれぞれ差動制限装置(Limited Slip Differential Gear)が設けられていてもよい。差動制限装置は、制御装置50により駆動制御されて、第1の差動機構10L及び第2の差動機構10Rの差動を制限する機能を有する。例えば、左後輪3LRがスリップ状態になった場合、前輪側に繋がる中間出力軸21の回転抵抗に比べて左後輪3LR側の回転抵抗が著しく小さくなる。差動制限装置は、左後輪3LRのスリップ時において第1の差動機構10Lの差動を制限することにより、第1のモータ20Lの出力トルクを、中間出力軸21を介して他の駆動輪に再配分する。これにより、スリップ状態からの脱出や発進を容易にすることができる。
【0067】
また、上記実施形態では、要求ブレーキ力(N)、回生ブレーキ力(N)及び摩擦ブレーキ力(N)の演算をブレーキトルク(Nm)を用いて行う例を説明したが、本開示の技術はかかる例に限定されるものではなく、他の指標を用いて演算が行われてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…駆動システム、10L…第1の差動機構、10R…第2の差動機構、10F…第3の差動機構、20L…第1のモータ、20R…第2のモータ、21…中間出力軸、23…プロペラシャフト、40L…第1の差動制限装置、40R…第2の差動制限装置、50…制御装置、70…摩擦ブレーキシステム、71…ブレーキ制御装置、73…液圧ブレーキユニット