(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170060
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】複合材中空回転翼
(51)【国際特許分類】
B64C 11/20 20060101AFI20231124BHJP
B64C 27/473 20060101ALI20231124BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B64C11/20
B64C27/473
B64C1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081518
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507375052
【氏名又は名称】東レ・カーボンマジック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山中 雄介
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】由良 立樹
(72)【発明者】
【氏名】松葉 泰成
(57)【要約】
【課題】UAM用飛行体向けの回転翼に好適に適用でき、望ましい強度、安価なコストの要求に応えることが可能で、軽量化や省エネルギー化を促進可能であり、さらに、性能上や成形上の改善も可能な複合材中空回転翼を提供する。
【解決手段】翼長方向に回転駆動部材側に連結される翼根元部とそれとは反対側の自由端を形成する翼先端部を有するとともに、内部に翼根元部側で開口する中空部を有し、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材中空回転翼であって、翼長をLとしたとき、翼長方向の、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の2点における直交断面のうち、翼根元部側の断面の内面積をSi、翼先端部側の断面の内面積をSoとしたとき、Si≧Soを満たしていることを特徴とする複合材中空回転翼。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼長方向に回転駆動部材側に連結される翼根元部とそれとは反対側の自由端を形成する翼先端部を有するとともに、内部に翼根元部側で開口する中空部を有し、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材中空回転翼であって、
翼長をLとしたとき、翼長方向の、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の2点における直交断面のうち、翼根元部側の断面の内面積をSi、翼先端部側の断面の内面積をSoとしたとき、Si≧Soを満たしていることを特徴とする複合材中空回転翼。
【請求項2】
翼長Lが2m以下であり、かつ、翼長方向の、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の点における直交断面の翼厚方向中空部の最大内寸法が2mm以上である、請求項1に記載の複合材中空回転翼。
【請求項3】
中空部を形成する回転翼のいずれかの内面部位が、翼長方向において翼先端部に向かうにつれ翼幅が増加する方向のテーパを有し、その内面部位の翼長方向に対するテーパ角が20°以下である、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【請求項4】
中空部内に、中空部内空間を断面方向に仕切ることが可能な翼長方向に延びるウエブが1つ以上設けられており、ウエブで仕切られた2つ以上の空間がそれぞれSi≧Soを満たす、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【請求項5】
回転翼の内面に、中空部内空間に向けて延びるとともに翼長方向に延設されたリブを有する、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【請求項6】
翼長方向の任意の位置における直交断面において、中空部を形成する回転翼の内面形成線が内周方向に鈍角もしくは弧状に延びている、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【請求項7】
中空部内に侵入した水を排出可能な翼厚方向に貫通した排水孔を有する、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【請求項8】
前記排水孔が翼先端部側に配置されている、請求項7に記載の複合材中空回転翼。
【請求項9】
中空部の翼根元部側の開口を閉塞する栓が設けられている、請求項1または2に記載の複合材中空回転翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材中空回転翼に関し、とくにUAM(Urban Air Mobility:都市型航空交通)用飛行体(いわゆる「空飛ぶクルマ」)に適用して好適な複合材中空回転翼に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部の交通渋滞緩和や離島等への輸送手段の確保等を目的に、UAM用飛行体の開発が進められており、その過程で、UAM用飛行体向けの回転翼の設計をどのように行うかが課題の一つとなっている。
【0003】
従来の一般的な航空手段用回転翼は、セスナ機向けの航空機認定をとった高機能タイプと、ドローン向けの非認定/低コストタイプの2種類があるが、UAM用飛行体は比較的新しい分野であり、UAM用飛行体向けの回転翼はコスト面、信頼性面からどちらにも適合しないと考えられている。ただUAM用飛行体が都市部の上空を通過するものであることから、航空機に準ずる安全基準は設定されるものと考えられ、実際の設計に際しては、強度・剛性面やコスト面の要求に加え、軽量化や省エネルギー化の促進、さらに、性能上や成形上の改善、例えば回転翼の重心位置を極力根元よりにシフトさせることで回転モーメントを低減させること等が、主要な設計条件になると考えられる。
【0004】
上記のような観点から従来公知の回転翼を見渡してみると、例えば特許文献1~3が挙げられる。特許文献1には、炭素繊維に熱硬化性樹脂が含侵してなる表皮の内側に、熱硬化性樹脂が含浸してなる発泡体を含むコア部を有する無人航空機用回転翼が開示されている。特許文献2には、強化繊維と樹脂からなる複合材翼の背側部位と腹側部位との間に発泡剤を配置し、発泡剤を加熱膨張させて背側積層体と腹側積層体と内部発泡剤からなる複合材翼を成形する方法が開示されている。特許文献3には、第1、第2の複合繊維層間に配置された袋体を膨張させて風力タービン用の中空ブレードを成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6971840号公報
【特許文献2】特許第6789887号公報
【特許文献3】特許第6066548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に開示の構造や方法では、回転翼の内部が発泡体や発泡剤で構成されるため、翼全体の軽量化がはかられているが、内部に設けられる発泡体や発泡剤は、翼成形後にもそのまま残されるため、軽量化には限界が生じることとなっており、軽量化の効果が不十分である。この点、特許文献3に開示の方法では、ブレードの内部が中空に形成されるのでブレード全体の軽量化は可能であるが、風力タービン用の中空ブレードであるため、UAM用飛行体向けの回転翼とは基本的にサイズ、用途、全体形状、構造が大きく異なり、UAM用飛行体向けの回転翼に適用することは困難である。
【0007】
本発明の課題は、とくにUAM用飛行体向けの回転翼に好適に適用でき、望ましい強度・剛性、安価なコストの要求に応えることが可能で、軽量化や省エネルギー化を促進可能であり、さらに、性能上や成形上の改善も可能な複合材中空回転翼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合材中空回転翼は、翼長方向に回転駆動部材側に連結される翼根元部とそれとは反対側の自由端を形成する翼先端部を有するとともに、内部に翼根元部側で開口する中空部を有し、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材中空回転翼であって、
翼長をLとしたとき、翼長方向の、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の2点における直交断面のうち、翼根元部側の断面の内面積をSi、翼先端部側の断面の内面積をSoとしたとき、Si≧Soを満たしていることを特徴とするものからなる。なおここで、翼長方向に見て、Si≧Soの関係における等号の関係を満たす部位が存在する場合には、その部位は翼長方向に部分的にのみ存在することが好ましく、翼長方向に全長にわたって存在するのは好ましくない。
【0009】
このような本発明に係る複合材中空回転翼は、翼長方向に回転駆動部材側に連結される翼根元部とそれとは反対側の自由端を形成する翼先端部を有するとともに、内部に翼根元部側で開口する中空部を有する形状の回転翼に形成され、かつ、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材中空回転翼として構成される。中空部は発泡剤等が残されていない空間に形成されることから、発泡剤等が残される場合に比べ回転翼全体がより軽量化され、それに伴って回転駆動動力の低減(例えば、駆動モータの小型化)も可能になることから、省エネルギー化の促進や機体の製造コストの低減が可能になる。また、中空回転翼が熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材で構成されることにより、翼厚を小さく抑えたとしても十分に高い強度・剛性の確保が可能になる。また、翼根元部側の断面の内面積(つまり、中空部の断面積)をSi、翼先端部側の断面の内面積(つまり、中空部の断面積)をSoとしたとき、Si≧Soを満たしていることから、中空部の断面積が、翼先端部側の断面から翼根元部側の断面に向かって、部分的に等しい箇所を含む場合があるかも知れないが全体として単調増加しているのと同等の中空部の形状に形成されていることになる。このような特定形状の中空部を有する複合材中空回転翼は、例えば膨縮可能なゴム材からなる中子(場合によっては、膨縮可能なエンジニアリングプラスチック、ゴム材、小型の金属部材などからなる中子、一部分割された中子等)を用いて成形可能であり、例えば熱硬化性樹脂を硬化させる際の加熱により熱膨張させた中子により中空部形成面(中空回転翼内面)を成形するとともに、所定形状に成形した中空回転翼から中子を(場合によっては収縮させた中子を)翼根元部側の開口を通して引き抜くことが可能であり、中空回転翼全体にわたって中子を用いて容易に一発一体成形することが可能である。とくに、中空部の断面積が、翼根元部側の断面に向かって、単調増加しているのと同等の中空部の形状に形成されていることにより、中子の引き抜きが円滑に行われ、引き抜く際の中子のちぎれも容易に防止される。したがって、簡単で単純な成形方法を問題なく容易に適用でき、複雑高価な成形用治工具も不要であること、また中子を再使用できることから所望の回転翼を安価に成形可能である。さらに、中空部の断面積が翼根元部側の断面に向かって単調増加しているのと同等の中空部を有することにより、回転翼の重心位置を極力根元よりにシフトさせて回転モーメントを低減させる等の、性能上の望ましい設計を容易に行うことが可能になる。なお、本発明に係る複合材中空回転翼において、Si≧Soの関係を満たす翼長方向の範囲を、翼根元部から0.8×Lまでの範囲で規定したのは、少なくともこの範囲においてSi≧Soの関係が満たされれば、上述した作用、効果が得られるからである。0.8×Lの範囲よりも翼先端部側のいずれかの部位においてもSi≧Soの関係を満たすことは何ら差し支えない。また、0.8×Lまでの範囲で規定した別の理由は、中空部を有する複合材中空回転翼は、翼先端部では中空部が閉じる形状に構成されるので、先端から翼根元部側に向けてある程度の範囲は中空部が存在しない中実部に構成されることになるが、その場合にあっても、中実部の翼長方向の範囲(つまり、本発明で規定したSi≧Soの関係が適用されない範囲)を多くても0.2×L分みておけば十分だからである。
【0010】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、翼長Lが2m以下であり、かつ、翼長方向の、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の点における直交断面の翼厚方向中空部の最大内寸法が2mm以上であることが好ましい。とくにUAM用飛行体向けの回転翼としては、翼長Lは1m以下のものが多く、最長でも2mあれば十分と考えられ、その翼長の範囲内において、翼根元部から0.8×Lまでの範囲にある任意の点における直交断面の翼厚方向中空部の最大内寸法を2mm以上とすれば、上述の中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜き、例えば中子が引きちぎれない円滑な中子の引き抜きを確実に達成できる。
【0011】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、中空部を形成する回転翼のいずれかの内面部位が、翼長方向において翼先端部に向かうにつれ翼幅が増加する方向のテーパを有する場合には、その内面部位の翼長方向に対するテーパ角は20°以下であることが好ましい。このようなテーパを有する部位は、とくに、回転駆動部材と翼根元部との連結部を正面から見てコンパクトに構成するために同方向から見た翼根元部の幅を小さく抑えることが要求されるとき、翼根元部近傍において形成することが要求される場合がある(もちろん、この場合にあっても本発明では前述の中空部におけるSi≧Soの関係は満たされる)。しかし、このような場合、上記方向のテーパを有する中空部内面部位は、局部的に成形時の中子引き抜きに対して抵抗となる向きのテーパであるので、そのようなテーパをつけなければならない場合にあっても、そのテーパの度合いを極力小さく抑えるために、上記の如くテーパ角を20°以下とするのである。ただしこのような場合にあっても、中空部におけるSi≧Soの関係は満たされているので、中子を変形容易なものとしておくことで、中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜きは維持される。なお、テーパ角の基準線(テーパ角0°の基準線)は、中空部の翼根元部側開口の中心を通る、該開口断面と垂直に翼長方向に延びる仮想線とする。
【0012】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、中空部内に、中空部内空間を断面方向に(例えば、左右方向や上下方向に)仕切ることが可能な翼長方向に延びるウエブが1つ以上設けられている構成を採用することができ、この場合には、ウエブで仕切られた2つ以上の空間がそれぞれSi≧Soを満たすことが好ましい。このようなウエブを設けることで回転翼の強度・剛性を全体的に増大させることが可能になる。このようなウエブを設けるか否かは、回転翼の長さや目標とする回転翼の強度・剛性に応じて判断すればよい。ウエブで仕切られた2つ以上の空間がそれぞれSi≧Soを満たすことで、空間が一つの場合と同様にそれぞれの空間に対して上述した作用、効果、例えば中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜きの作用、効果が達成される。
【0013】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、回転翼の内面に、中空部内空間に向けて延びるとともに翼長方向に延設されたリブを有する構成を採用することができる。このように構成すれば、回転翼形成壁部位自身を補強できるから、回転翼の全体的な強度・剛性を向上できる。なお、このリブは、上述したウエブとは異なり、中空部内空間を仕切る役目は担っていないので、中空部内空間に向けて該空間の途中まで延びていればよく、翼長方向についても、実質的に全長にわたって延びる構成、断続的に延びる構成、翼長方向の一部分のみにわたって延びる構成、のいずれも採用することができる。
【0014】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、翼長方向の任意の位置における直交断面において、中空部を形成する回転翼の内面形成線が内周方向に鈍角もしくは弧状に延びていることが好ましい。このように構成すれば、中空部を形成する回転翼の内面が滑らかな面になり、たとえ屈曲があっても鈍角の屈曲部で形成されることになるので、例えば上述の中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜きが引っ掛かりや引きちぎれ等の問題を生じることなくより確実に行われ得る。
【0015】
また、本発明に係る複合材中空回転翼においては、中空部内に侵入した水を排出可能な翼厚方向に貫通した排水孔を有する構成を採用することができる。このように構成すれば、例えば翼が回転された際に発生する遠心力を利用して排水孔を通し中空部内から排水することが可能になり、回転翼の所定の性能をより確実に維持することが可能になる。
【0016】
上記排水孔は翼先端部側に配置されていることが好ましい。このようにすれば、翼が回転された際に発生する遠心力をより有効に利用できるので、より確実に中空部内から排水することが可能になる。
【0017】
さらに、本発明に係る複合材中空回転翼においては、中空部の翼根元部側の開口を閉塞する栓が設けられている構成を採用することができる。このように構成すれば、不要な異物や水の中空部内への侵入を容易に防ぐことができる。
【0018】
なお、上記のような本発明に係る複合材中空回転翼は、とくにUAM用飛行体の回転翼として好適なものであるが、ドローン用等の回転翼としても展開可能である。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明に係る複合材中空回転翼によれば、回転翼の望ましい強度・剛性を確保しつつ安価に製造可能であり、回転翼全体として軽量に構成可能であり、省エネルギー化も促進可能であり、回転翼の重心位置を極力根元よりにシフトさせて回転モーメントを低減させる等の性能上の望ましい設計を容易に行うことができ、さらにゴム材等からなる中子を問題なく容易に引き抜くことができる等の成形上の格別の改善も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施態様に係る複合材中空回転翼を装着したUAM用飛行体の回転翼および回転駆動部材部分の概略正面図である。
【
図2】
図1の複合材中空回転翼1枚の斜視図である。
【
図3】
図2の複合材中空回転翼の
図2のA-A線に沿う横断面図(
図3(A))およびB-B線に沿う横断面図(
図3(B))である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る複合材中空回転翼を装着したUAM用飛行体の回転翼および回転駆動部材部分を示しており、
図2は、
図1の複合材中空回転翼1枚を示している。
図1は、3枚の複合材中空回転翼1が回転駆動部材2に連結された例を示しているが、複合材中空回転翼1の数は2枚以上任意の数が可能である。複合材中空回転翼1は、
図2にも示すように、翼長方向Xに回転駆動部材2側に連結される翼根元部3とそれとは反対側の自由端を形成する翼先端部4を有しており、内部には翼根元部3側の開口部5で開口する中空部6を有している。この複合材中空回転翼1は、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材の成形によって形成されている。
【0022】
複合材中空回転翼1を構成する複合材の熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノシキ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などを用いることができる。中でも、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂のいずれか、もしくはこれらの混合物からなることが好ましい。複合材の強化繊維としては、特に限定されず、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維やこれらの組み合わせ等、任意の強化繊維の使用が可能であるが、強化繊維が炭素繊維からなる場合に、回転翼の望ましい強度・剛性を容易に設計することができ、また、目標とする軽量性も容易に確保することが可能である。強化繊維の形態としては、連続繊維、不連続繊維、織物のいずれも使用可能であり、これらの組み合わせも採用できる。
【0023】
複合材中空回転翼1の内部に形成される中空部6は、内部に部材の無い空間に形成されるので、内部に発泡剤や発泡体が残される場合に比べ回転翼全体がより軽量化され、それに伴って回転駆動動力の低減(例えば、駆動モータの小型化)も可能になるから、省エネルギー化の促進や機体の製造コストの低減も可能になる。また、複合材中空回転翼1は熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材で構成されるので、翼厚(あるいは翼の壁厚)を小さく抑えたとしても十分に高い強度・剛性の確保が可能であり、特に強化繊維として炭素繊維を使用する場合には、特に高い強度・剛性の確保が可能になる。
【0024】
そして、複合材中空回転翼1の中空部6は、翼長をLとしたとき、翼長方向Xの、翼根元部3から0.8×Lまでの範囲にある任意の2点における直交断面のうち、翼根元部3側の断面の内面積をSi、翼先端部4側の断面の内面積をSoとしたとき、Si≧Soを満たすように形成されている。すなわち、翼根元部3から0.8×Lまでの範囲にある任意の2点における直交断面として、例えば
図2のA-A線に沿う断面およびB-B線に沿う断面とした場合、翼根元部3側の断面の内面積Siは
図3(A)のようになり、翼先端部4側の断面の内面積Soは
図3(B)のようになり、これらSiとSoがSi≧Soを満たすことになる。
【0025】
中空部6がSi≧Soを満たすことにより、中空部6の断面積が、翼先端部4側の断面から翼根元部3側の断面に向かって、全体として単調増加しているのと同等の中空部6の形状に形成されていることになる。このような特定形状の中空部6を有する複合材中空回転翼1は、例えば膨縮可能なゴム材からなる中子(場合によっては、膨縮可能なエンジニアリングプラスチック、ゴム材、小型の金属部材などからなる中子、一部分割された中子等)の外側にプリプレグを積層したものを上下型からなる金型内に入れた後、型締め、加熱することにより、中子を熱膨張させ前記プリプレグを金型内面に圧接すると同時に、熱硬化性樹脂を硬化させることにより成形可能であり、熱膨張させた中子により中空部形成面(中空回転翼内面)と中空回転翼外面及び厚みを設計通りの精度で成形できる。所定形状に成形した中空回転翼からは、常温に戻した中子を(場合によっては収縮させた中子を)翼根元部3側の開口部5を通して引き抜くことが可能である。このように、中子を用いて、中空回転翼全体にわたって容易に一発一体成形することが可能である。とくに、中空部6の断面積が、Si≧Soを満たすことにより、中子の引き抜きが円滑に行われ、引き抜く際の中子のちぎれも容易に防止される。したがって、簡単で単純な成形方法を問題なく容易に適用でき、複雑高価な成形用治工具が不要であり、また中子を再使用できることから、目標とする複合材中空回転翼1を安価に成形可能である。さらに、中空部6がSi≧Soを満たす形状に成形されることにより、回転翼の重心位置を極力根元よりにシフトさせて回転モーメントを低減させる等の、性能上の望ましい設計を容易に行うことも可能になる。
【0026】
このような複合材中空回転翼1においては、翼長Lが2m以下であり、かつ、翼長方向Xの、翼根元部3から0.8×Lまでの範囲にある任意の点における直交断面の翼厚方向中空部6の最大内寸法が2mm以上であることが好ましい。前述したようにとくにUAM用飛行体向けの回転翼としては、翼長Lは1m以下のものが多く、最長でも2mあれば十分と考えられるので、その翼長の範囲内において、翼根元部3から0.8×Lまでの範囲にある任意の点における直交断面の翼厚方向中空部の最大内寸法を2mm以上とすれば、中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜き、例えば中子が引きちぎれない円滑な中子の引き抜きを確実に行うことができる。
【0027】
また、複合材中空回転翼1においては、中空部6を形成する回転翼のいずれかの内面部位が、翼長方向において翼先端部に向かうにつれ翼幅が増加する方向のテーパを有する場合には、例えば、
図1に示すように、回転駆動部材2と複合材中空回転翼1との連結構造を極力小型に構成可能とするために複合材中空回転翼1の回転駆動部材2への連結部位(取付部位)近傍の位置において翼幅が狭められる部位7が存在する場合には、この部位7において回転翼の内面部位が上記方向のテーパを有することになるが、この内面部位の翼長方向に対するテーパ角(
図1のθ)は20°以下であることが好ましい。このような方向のテーパを有する中空部内面部位は、局部的に成形時の中子引き抜きに対して抵抗となる向きのテーパであるので、そのようなテーパをつけなければならない場合にあっても、そのテーパの度合いを極力小さく抑えることにより(テーパ角を20°以下とすることにより)、中子を変形容易なものとしておくことで、中空部におけるSi≧Soの関係を利用して円滑な中子の引き抜きが確保される。なお、テーパ角θの基準線(テーパ角0°の基準線)は、中空部6の翼根元部側開口の中心を通る、該開口断面と垂直に翼長方向に延びる仮想線(
図1における基準線8)とする。
【0028】
また、複合材中空回転翼1においては、中空部6内に、中空部内空間を断面方向に(例えば、左右方向や上下方向に)仕切ることが可能な翼長方向に延びるウエブ9が1つ以上設けられている構成を採用することができ、この場合には、ウエブ9で仕切られた2つ以上の空間がそれぞれ前述のSi≧Soの関係を満たすことが好ましい。
図2、
図3に示す例では、ウエブは図の上下に延びる1つのウエブ9で構成され、中空部内空間が図の左右方向に2つの空間6a、6bに仕切られている。このようなウエブ9を設けることで回転翼の強度・剛性を全体的に増大させることが可能になる。ウエブ9で仕切られた2つの空間6a、6bがそれぞれSi≧Soを満たすことで、空間が一つの場合と同様にそれぞれの空間に対して、中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜きの作用、効果が達成される。
【0029】
また、複合材中空回転翼1においては、回転翼の内面に、中空部内空間に向けて該空間の途中まで延びるとともに翼長方向に延設されたリブ10を少なくとも1つ有する構成を採用することができる。このように構成すれば、回転翼形成壁部位自身を補強できるから、回転翼の全体的な強度・剛性を向上できる。
【0030】
また、複合材中空回転翼1においては、翼長方向の任意の位置における直交断面において、中空部6を形成する回転翼の内面形成線が内周方向に鈍角もしくは弧状に延びていることが好ましい。このように構成すれば、中空部6を形成する回転翼の内面が滑らかな面になり、たとえ屈曲があっても鈍角の屈曲部で形成されることになるので、中子を用いた成形における円滑な中子の引き抜きが引っ掛かりや引きちぎれ等の問題を生じることなくより確実に行われ得る。
【0031】
また、複合材中空回転翼1においては、中空部6内に侵入した水を排出可能な翼厚方向に貫通した排水孔11を1つ以上有する構成を採用することができる。このような排水孔11を設けておくことで、翼が回転された際に発生する遠心力を利用して排水孔11を通し中空部6内から排水することが可能になり、回転翼の所定の性能をより確実に維持することが可能になる。このような排水孔11は翼先端部4側に配置されていることが好ましく、それによって翼が回転された際に発生する遠心力をより有効に利用できるので、より確実に中空部6内から排水することが可能になる。
【0032】
さらに、複合材中空回転翼1においては、中空部6の翼根元部3側の開口部5を閉塞する栓12が設けられている構成を採用することができる。このような栓12を設けておくことで、不要な異物や水の中空部6内への侵入を容易に防ぐことができる。
【0033】
以上本発明の一実施態様について説明したが、本発明はこの実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明で規定した要件を満たす範囲内において任意の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る複合材中空回転翼は、とくにUAM用飛行体の回転翼として好適なものである。
【符号の説明】
【0035】
1 複合材中空回転翼
2 回転駆動部材
3 翼根元部
4 翼先端部
5 開口部
6 中空部
6a、6b 仕切られた空間
7 翼幅が狭められる部位
8 基準線
9 ウエブ
10 リブ
11 排水孔
12 栓