IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コスモ石油株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-設定温度変更方法 図1
  • 特開-設定温度変更方法 図2
  • 特開-設定温度変更方法 図3
  • 特開-設定温度変更方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170070
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】設定温度変更方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/00 20060101AFI20231124BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20231124BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20231124BHJP
   G05D 23/19 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B01J8/00 C
B01J8/02 Z
B01J23/42 M
G05D23/19 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081532
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川上 敬士
【テーマコード(参考)】
4G070
4G169
5H323
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB01
4G070AB04
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB17
4G070CC01
4G070CC02
4G070DA05
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BC75B
4G169CC08
4G169DA06
4G169EE03
5H323AA01
5H323BB03
5H323CA01
5H323CB01
5H323DA01
5H323EE02
5H323EE04
5H323FF01
5H323GG01
5H323HH02
5H323LL01
5H323LL02
5H323MM06
(57)【要約】
【課題】固定床流通式反応において、反応成績を一定とする運転を行う場合に、より安定に運転可能な設定温度の変更方法を提供する。
【解決手段】設定温度の変更方法は、実測値算出ステップと、差分算出ステップと、制御ステップと、を有し、前記制御ステップにおいて、前記差分に基づき、前記反応温度を制御するための加熱装置の出力をPID制御し、前記差分が所定管理値を超えた場合には、前記加熱装置の設定温度を前記差分の解消に必要な反応温度の温度補償を加えた新たな設定温度に上げることにより温度補償を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器に充填された固体触媒に原料を含む流体を接触させることにより生成物を製造する固定床流通式反応において、前記生成物の特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を指標として制御における設定温度を変更する方法であって、
前記生成物を分析して、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を求める実測値算出ステップと、
前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の目標値と前記実測値との差分を求める差分算出ステップと、
前記差分に基づき、反応温度を制御するための加熱装置の出力をPID制御する制御ステップと、を有し、
前記差分算出ステップにおいて、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量が、前記反応温度の上昇とともに上昇する場合、前記差分は、目標値から実測値を引いた値であり、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量が、前記反応温度の上昇とともに低下する場合、前記差分は、実測値から目標値を引いた値であり、
前記制御ステップにおいて、前記差分が所定管理値を超えた場合には、前記加熱装置の設定温度を前記差分の解消に必要な反応温度の温度補償を加えた新たな設定温度に上げることにより温度補償を行う、
設定温度変更方法。
【請求項2】
前記加熱装置は、前記流体の一部又は全て、及び反応器いずれか一方又は両方を加熱することにより前記反応温度を制御する、請求項1に記載の設定温度変更方法。
【請求項3】
前記制御ステップにおいて、前記差分が前記所定管理値以下である状態から前記差分が前記所定管理値を超える状態に変化した場合にのみ新たな設定温度に上げる、請求項1又は2に記載の設定温度変更方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定温度変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応器に充填された固体触媒に原料を含む流体を接触させることにより生成物を製造する固定床流通式反応においては、所望の生成物を得るために反応温度を制御する必要がある。例えば、工業的には、原料の転化率、目的生成物の選択率、目的生成物の収率等の反応成績を一定とする運転が行われており、固体触媒の経時の活性低下を補償するために電気炉等の加熱装置を利用して反応温度を制御している。
例えば、非特許文献1には適切な触媒の選択や適切な制御方法を検討することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「第51回 日本芳香族工業会大会 技術・研究発表要旨」日本芳香族工業会 平成29年 p194-200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば反応成績を一定とするためにPID制御による反応温度の制御を行う場合、制御方法を決定するために使用されるのは生成物に関するデータであることが多く、生成物に関するデータを取得する必要があることから、フィードバックに時間を要するため温度補償が過剰となり反応が暴走することがある。そのため、PID制御により反応温度を制御することは難しい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、固定床流通式反応において、反応成績を一定とする運転を行う場合に、より安定に運転可能な設定温度の変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 反応器に充填された固体触媒に原料を含む流体を接触させることにより生成物を製造する固定床流通式反応において、前記生成物の特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を指標として制御における設定温度を変更する方法であって、前記生成物を分析して、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を求める実測値算出ステップと、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の目標値と前記実測値との差分を求める差分算出ステップと、前記差分に基づき、反応温度を制御するための加熱装置の出力を制御するPID制御ステップと、を有し、前記差分算出ステップにおいて、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量が、前記反応温度の上昇とともに上昇する場合、前記差分は、目標値から実測値を引いた値であり、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量が、前記反応温度の上昇とともに低下する場合、前記差分は、実測値から目標値を引いた値であり、前記制御ステップにおいて、前記差分が所定管理値を超えた場合には、前記加熱装置の設定温度を前記差分の解消に必要な反応温度の温度補償を加えた新たな設定温度に上げることより温度補償を行う、設定温度変更方法。
[2] 前記加熱装置は、前記流体の一部又は全て、及び反応器いずれか一方又は両方を加熱することにより前記反応温度を制御する、[1]に記載の設定温度変更方法。
[3] 前記制御ステップにおいて、前記差分が前記所定管理値以下である状態から前記差分が前記所定管理値を超える状態に変化した場合にのみ新たな設定温度に上げる、[1]又は[2]に記載の設定温度変更方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、固定床流通式反応において、反応成績を一定とする運転を行う場合に、より安定に運転可能な設定温度変更方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る反応システムの構成を示す図である。
図2】制御装置の構成を示す図である。
図3】制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4】第2の実施形態の反応システムにおける実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第1の実施形態〉
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る反応システム1の構成を示す図である。反応システム1は、反応器111、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113、制御装置13を備える。反応システム1は、さらにセパレータ12を備えてもよい。
【0009】
反応システム1は反応器111と、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113と、を備える。反応器111には固体触媒が充填され、触媒層114が形成されている。反応器111において原料を含む流体が触媒層114の固定触媒に接触することにより生成物が製造される。反応器111において実施される反応は固定床流通式反応であって、固体触媒はクオーツウール、カーボランダム、アルミナボール等の不活性物質などにより固定され、触媒層114を形成している。原料を含む流体は、液体、気体又はこれらの混合物である。流体には、原料以外に反応に関与しない不活性液体や不活性気体が含まれていてもよい。不活性液体としては水が、不活性気体としては希ガスが例として挙げられる。なお、反応熱抑制の目的で、不活性液体や不活性気体以外に反応生成物を混合したり、未反応化合物を再度反応に供するために混合したりしてもよい。
反応器加熱装置112は、反応器111を加熱することで、反応温度を制御する。反応器加熱装置112は、例えばセラミック又は真鍮に電熱線が埋め込まれた構造をしており、反応器の周囲に設置される。
流体加熱装置113は、流体を加熱することで、反応温度を制御する。流体加熱装置113は、例えば加熱炉(直立円筒型、BOX型)構造をしており、反応器111よりも上流に設置される。流体加熱装置113は、流体の一部を加熱してもよく、全てを加熱してもよい。流体が2種類以上の物質の混合物である場合、混合前の各物質の全てを加熱した後に各物質を混合して流体としてもよく、混合前の各物質の一部を加熱した後に各物質を混合して流体としてもよい。
反応システム1は、反応器加熱装置112及び流体加熱装置113の一方のみを備えていてもよく、両方を備えていてもよい。
【0010】
セパレータ12は、後述の分析部131で分析する際に反応器111により製造された生成物を分離する必要がある場合に分離を行う。例えば、セパレータ12は、生成物を水層と油層に分離したり、生成物が液体と気体の混合物である場合、生成物を気体と液体に分離したりする。セパレータ12は、反応器111の下流に設置される。
【0011】
制御装置13は、反応器加熱装置112及び/又は加熱装置の温度を制御することで反応器111における反応温度を制御する。
【0012】
図2は制御装置13の構成を示す図である。制御装置13は、分析部131、実測値算出部132、差分算出部133、制御部134及び記憶装置135を備える。
【0013】
分析部131は、反応器111により生成される生成物を分析する。分析部131は、本分野において公知の分析装置であり、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、元素分析計、近赤外分光分析計、赤外分光分析計、紫外可視分光分析計が例として挙げられる。
【0014】
実測値算出部132は、分析部131による分析結果に基づいて生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を算出する。
生成物の特定の性状値としては、オクタン価、密度、蒸気圧、蒸留点、各主成分濃度、収率、反応率、硫黄分、窒素分等が挙げられる。
本明細書において「生成物に含まれる特定物質」とは、生成物に含まれる未反応の原料、目的とする生成物、副生物等を意味する。すなわち、「生成物に含まれる特定の物質の含有量」とは原料の転化率、目的とする生成物又は副生物の選択率、目的とする生成物又は副生物の収率等の概念も含む。
【0015】
差分算出部133は、特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量の目標値と分析装置14により算出された実測値との差分を算出する。目標値と実測値との差分の計算方法は、反応器111により生成される生成物の特徴により異なる。生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量が反応温度の上昇とともに上昇する場合、差分算出部133は、目標値から実測値を引くことで、差分を算出する。生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量が反応温度の上昇とともに低下する場合、差分算出部133は、実測値から目標値を引くことで、差分を算出する。
【0016】
反応温度の上昇とともに上昇する生成物の特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の典型的な例としては、接触改質反応であればオクタン価、化合物の合成反応であれば転化率等が挙げられる。
反応温度の上昇とともに低下する生成物の特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の典型的な例としては、接触改質反応であればナフテン含有量や液収率、脱硫反応であれば硫黄分等が挙げられる。
生成物の特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量が反応温度の上昇ととともに上昇するか、低下するかに関しては、本分野の技術常識に基づいて判断可能であり、事前に反応を行い、確認することもできる。
【0017】
制御部134は、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の出力をPID制御する。制御部134は、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の設定温度をSV(set point variable)とし、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の温度をPV(process variable)とし、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の出力をMV(Manipulated variable)とし、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の出力をPID制御する。
【0018】
制御部134は、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の設定温度を、差分算出部133により算出される差分に基づき変更する。制御部134は、差分が所定管理値を超えた場合には、反応器加熱装置112の設定温度を差分の解消に必要な反応温度の温度補償を加えた新たな設定温度に上げる。他方、制御部134は、差分が所定管理値以下である場合には設定温度は変更しない。反応温度の温度補償は例えば、予め設定されたバイアス値と差分算出部133により算出される差分の積である。
【0019】
バイアス値は、生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量を1単位変更するために必要な温度を意味する。例えば生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量がオクタン価の場合、オクタン価を1単位上昇させるために必要な温度を意味する。バイアス値は、一般に固体触媒の種類により決定される値であり、同じ固体触媒を使用して行った過去の反応結果から得られた実績値を使用してもよく、実際に反応を行いながら求めてもよい。また、バイアス値は、触媒劣化速度の影響を受け、劣化速度が大きいと、バイアス値は大きく、劣化速度が小さいと、バイアス値は小さい。
【0020】
記憶装置135は、予め設定された値を記憶する。記憶装置135は、例えば特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量の目標値、特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値、所定管理値を記憶する。
【0021】
図3は、制御装置13の動作を示すフローチャートである。初めに分析部131が生成物を分析し(ステップS10)、実測値算出部132が実測値を算出する(ステップS12)。その後、差分算出部133が、目標値と実測値との差分を算出する(ステップS14)。差分が所定管理値を超える場合(ステップS16:YES)、制御部134は、設定温度を新たな設定温度に上げる(ステップS18)。制御部134は新たに設定される設定温度に基づいて反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の出力をPID制御する。差分が所定管理値を超える場合(ステップS16:NO)、動作を終了する。制御装置13は、ステップS10からステップS18までの動作を例えば所定の時間ごとに行い、設定温度を上げる又は維持する。
【0022】
《作用・効果》
制御装置13は、差分が所定管理値を超える場合に制御部134が反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の設定温度を所定管理値内とするために必要な温度補償を加えた設定値へ変更する。反応器111の固定触媒は、使用に伴い劣化していく。生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量は、反応器111の固定触媒の劣化に伴って目標値から離れていく。一方で、反応器111を連続的に使用する場合、固定触媒の劣化は不可逆的に発生し、劣化が回復することはない。そのため、差分が特定の物質の含有量の実測値と目標値との差分が所定管理値を超える場合、反応器加熱装置112及び/又は流体加熱装置113の設定温度を所定管理値内とするために必要な温度補償を加えた設定値へ変更することで、いずれ差分が所定管理値以下になる。これにより、より安定な化学反応をもたらすことができる。
【0023】
〈第2の実施形態〉
第2の実施形態に係る制御部134は、差分が所定管理値以下である状態から差分が前記所定管理値を超える状態に変化した場合にのみ新たな設定温度に上げる。つまり、ある時点の動作において差分が所定管理値以下であり、次の時点の動作において差分が所定管理値を超えた場合、設定温度を新たな設定温度に上げるが、さらに次の時点の動作において差分が所定管理値を超えた場合であっても設定温度を新たな設定温度に上げない。これにより、設定温度を新たな設定温度に上げた後所定の時間経過後に差分を算出したときに差分が所定管理値以下にならない場合であっても、さらに設定温度を上げることを防ぐことができ、より安定に反応温度を制御することができる。
【0024】
上記実施形態の設定温度の変更方法によれば、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値を一定として運転を行う場合に、より安定に運転を行うことができる。前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量の実測値が一定とは、目標値に対する実測値(実測値/目標値)が0.95~1.05であることを意味し、0.97~1.03であることが好ましく、0.99~1.01であることがより好ましい。
【0025】
前記実測値算出ステップ、前記差分算出ステップ、及び前記制御ステップを行う頻度としては、反応の種類、反応条件等に基づき(実測値/目標値)が上述の範囲に入るよう適宜設定することができる。
【0026】
[固定床流通式反応]
上記実施形態の設定温度の変更方法は、固定床流通反応に適用することができる。固定床流通反応としては、石油精製に関する反応、基礎化学品製造に関する反応が例として挙げられる。
石油精製に関する反応としては、本分野で公知の石油精製に関する反応が挙げられ、例えば、水素化脱硫反応、接触改質反応、異性化反応、水素化分解反応等が挙げられる。水素化脱硫反応の場合、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量は例えば、生成油中の硫黄濃度である。接触改質反応の場合、前記特定の性状値もしくは生成物に含まれる特定の物質の含有量は例えば、オクタン価である。
基礎化学品製造に関する反応としては、本分野で公知の基礎化学品製造に関する反応が挙げられ、例えば、ハーバーボッシュ法によるアンモニア製造反応、一酸化炭素及び水素を原料とするメタノール製造反応、メタンの水蒸気改質反応、一酸化炭素シフト反応、エチレン及び酸素を原料とするエチレンオキシド製造反応、メタノール及び酸素を原料とするホルムアルデヒド製造反応、プロピレン及び酸素を原料とするアクリル酸製造反応、イソブチレン及び酸素を原料とするメタクリル酸製造反応等が挙げられる。
【0027】
[接触改質反応]
上記反応の中でも、上記本実施形態の設定温度の変更方法は、ナフサ留分の接触改質反応に好適に適用される。ナフサ留分の接触改質反応とは、ナフサ留分のオクタン価を高める反応である。以下、ナフサ留分の接触改質反応における上記本実施形態の設定温度の変更方法を説明する。
【0028】
接触改質反応の原料はナフサ留分である。また、原料を含む流体には、コーク析出を抑制するために水素が含まれる。ナフサ留分としては、原油を常圧蒸留することにより得られる重質ナフサ留分、水素化分解ナフサ、熱分解ナフサ、コーカーナフサ等が例として挙げられる。前記留分を予め水素化脱硫した後に、接触改質反応の原料とすることが好ましい。ナフサ留分の性状としては、沸点が70~200℃、硫黄分0.5ppm以下、窒素分0.5ppm以下が例として挙げられる。
【0029】
固体触媒としては、固体酸に貴金属を担持した固体触媒が例として挙げられる。固体酸としては、ゼオライト、アルミナ、シリカが例として挙げられ、貴金属としては白金、レニウムが例として挙げられる。
【0030】
反応システム1は、反応器加熱装置112及び流体加熱装置113の一方のみを備えていてもよく、両方を備えていてもよい。反応システム1は生成物を生成ガスと生成油に分離するセパレータ12を備えることが好ましい。
【0031】
接触改質反応における前記生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量は特に限定されないが、典型的には、オクタン価である。オクタン価とは、火花点火式エンジン燃料のアンチノック性(ノッキングのしにくさ)を数値的に示した値であり、オクタン価が高いほどアンチノック性に優れることを意味する。オクタン価は本分野で公知の方法により測定することができる。
オクタン価はガソリン中に含まれる各物質の構造に依存し、多くの物質のオクタン価は既知である。そのため、例えば、セパレータ12で得られた生成油をガスクロマトグラフィーで分析することにより各構成成分と混合割合を求め、算術平均により求めることができる。
また、予め複数のオクタン価が既知のガソリンを近赤外分光分析計で分析を行い、得られたスペクトルを多変量解析することにより検量線を作成することができる。この場合、生成油中の各構成成分と混合割合を求める必要がなく、セパレータ12で得られた生成油を近赤外分光分析計で分析を行い、得られたスペクトルと前記検量線からにオクタン価を求めることができる。
すなわち、接触改質反応において、前記生成物の特定の性状値又は生成物に含まれる特定の物質の含有量をオクタン価とした場合の、分析部131はガスクロマトグラフィー、近赤外分光分析計であることが好ましく、近赤外分光分析計であることがより好ましい。
【0032】
接触改質反応の条件としては、特に限定されないが、例えば、反応温度450~550℃、水素分圧0.3~3.5MPa、液空間速度0.5~10h-1、水素/オイル1~10mol/molである。
【0033】
上記実施形態の設定温度の変更方法によれば、接触改質反応において、オクタン価を一定として運転を行う場合に、より安定に運転を行うことができるオクタン価が一定とは、オクタン価の目標値に対するオクタン価の実測値(オクタン価の実測値/オクタン価の目標値)が0.95~1.05であることを意味し、0.97~1.03であることが好ましく、0.99~1.01であることがより好ましい。
【0034】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例]
Pt-アルミナ系触媒を反応器に充填し、触媒層を形成した。加熱装置としては、反応器を加熱する反応器加熱装置112を使用し、ナフサ留分及び水素を含む流体を触媒層に供給し、ナフサ留分の接触改質反応を行った。分析部131は、近赤外分光分析計を使用し、予め作成した検量線から実測値算出部132でオクタン価を算出した。反応条件としては、水素分圧1.5MPa、液空間速度3h-1とした。
図4は、第2の実施形態の反応システム1における実験結果を示すグラフである。なお、図4のオクタン価は4分ごとに測定した分析値10個の平均値を示している。オクタン価は反応温度の上昇とともに上昇するため、差分は目標値から実測値を引いた値である。目標値は97と設定し、所定管理値は0と設定した。Aに示されたグラフは、縦軸に生成物であるガソリンのオクタン価、横軸に時刻をとったグラフである。Bに示されたグラフは、縦軸に反応器加熱装置112の設定温度、横軸に時刻をとったグラフである。Aのグラフにおいて差分が所定管理値以下である状態から前記差分が所定管理値を超えた場合に、Bのグラフが示す反応器加熱装置112の設定温度を上げたことがわかる。また、その後、前記差分が所定管理値以下である場合には、Bのグラフが示す反応器加熱装置112の設定温度を上げたことがわかる。Aのグラフに示されるように本発明の設定温度の変更方法により、オクタン価をほぼ一定として反応を行うことが可能となることがわかった。
【0036】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…反応システム、111…反応器、112…反応器加熱装置、113…流体加熱装置、114…触媒層、12…セパレータ、13…制御装置、131…分析部、132…実測値算出部、133…差分算出部、134…制御部、135…記憶装置
図1
図2
図3
図4