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特開2023-170074ELID加工装置、ELID加工方法および電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170074
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ELID加工装置、ELID加工方法および電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B24B53/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081540
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 智也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤裕
【テーマコード(参考)】
3C047
【Fターム(参考)】
3C047AA25
3C047AA28
3C047AA32
(57)【要約】
【課題】ブレードの回転速度が速い場合にでも、電解液によるブレードのドレッシングを適切に行うことができる、縦回転型のELID加工装置等を提供する。
【解決手段】縦回転するブレードと、前記ブレードの頂部位置近傍に向かって電解液を吐出するノズル部と、前記頂部位置近傍から前記ブレードの回転順方向側に設けられる電極部と、前記電極部と前記ブレードとの間に電界を形成する給電部と、前記ブレードを回転駆動する駆動部と、を有し、前記ノズル部が前記電解液を吐出するノズル開口の開口中心の、前記ブレードの回転中心を通る水平面である回転中心水平面からの高さtは、前記ブレードの半径をrとしたとき、0.036≦(r-t)/r≦0.092であるELID加工装置
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦回転するブレードと、
前記ブレードの頂部位置近傍に向かって電解液を吐出するノズル部と、
前記頂部位置近傍から前記ブレードの回転順方向側に設けられる電極部と、
前記電極部と前記ブレードとの間に電界を形成する給電部と、
前記ブレードを回転駆動する駆動部と、を有し、
前記ノズル部が前記電解液を吐出するノズル開口の開口下端の、前記ブレードの回転中心を通る水平面である回転中心水平面からの高さtは、前記ブレードの半径をrとしたとき、
0.036≦(r-t)/r≦0.092
であるELID加工装置。
【請求項2】
前記高さtは、
0.036≦(r-t)/r≦0.073
である請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項3】
前記ノズル部において前記電解液が流れる流路の延在する方向である流路方向は、前記ノズル開口に向かって前記回転中心水平面に近づく方向に傾斜している請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項4】
前記ノズル部において前記電解液が流れる流路の延在する方向である流路方向は、前記回転中心水平面に略平行である請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項5】
前記ノズル開口の開口下端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第1の線が、前記回転中心を通り前記回転中心水平面に垂直である第2の線に対してなす第1の挟角の大きさは、18.5~27.0度である請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項6】
前記ノズル開口の開口下端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第1の線が、前記ノズル開口の開口上端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第3の線に対してなす第2の挟角の大きさは、25.5~34.0度である請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項7】
前記ノズル開口の開口面の少なくとも一部は、弧状に湾曲していることを特徴とする請求項6に記載のELID加工装置。
【請求項8】
前記ノズル開口の開口下端を前記流路方向に対して平行に前記電極部側に延長した第1の延長線は前記ブレードに交差し、
前記ノズル開口の開口上端を前記流路方向に対して平行に前記電極部側に延長した第2の延長線は、前記ブレードに交差しない請求項4に記載のELID加工装置。
【請求項9】
前記ノズル部は、前記ノズル開口の少なくとも一部が形成されており前記ブレードの外縁に対向して弧状に湾曲する対向面と、前記流路の前記ノズル開口とは反対側の開口である導入開口が形成される外側面と、を有する請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項10】
前記ノズル部は、前記ノズル開口の少なくとも一部が形成されており前記ブレードの外縁に対向して弧状に湾曲する対向面と、前記対向面における前記ブレードの回転軸方向の一方側と他方側の端部から前記回転中心側へ突出し、前記ブレードの外縁を前記回転軸方向の両側から挟むカバー部と、を有する請求項1に記載のELID加工装置。
【請求項11】
駆動部によりブレードを縦回転させる工程と、
ブレードの頂部位置近傍に向かってノズル部から電解液を吐出する工程と、
前記ブレードの前記頂部位置近傍から前記ブレードの回転順方向側に設けられる電極部と前記ブレードとの間に電界を生じさせる工程と、
被加工物に前記ブレードを接触させる工程と、を有し、
前記ノズル部が前記電解液を吐出するノズル開口の開口中心の、前記ブレードの回転中心を通る水平面である回転中心水平面からの高さtは、前記ブレードの半径をrとしたとき、
0.036≦(r-t)/r≦0.092
であるELID加工方法。
【請求項12】
請求項11に記載のELID加工方法により、セラミック材料を加工する工程を有する電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ELID加工装置、ELID加工方法およびこれらを用いる電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック、ガラスおよび金属などの硬質の材料を研削・加工する技術として、ELID(電解インプロセスドレッシング)が知られている。ELIDでは、砥石(ブレード)と電極部との間に電解液を供給することにより、砥石のドレッシングが、加工プロセスと並行して行われる。
【0003】
ELIDは、種々の研削、研磨および切断などの加工プロセスに用いることが可能である。たとえば、ELIDは、平面研削盤やレンズの鏡面研磨の分野において、工業的な応用が進められている。一方、ELIDをこれら以外の分野に適用することも考えられ、たとえば、小型電子部品の材料となるセラミック基板の切断に用いる湿式切断機(ダイサー)などへの応用もあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005ー74544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ELIDを湿式切断のような分野に工業的に適用する場合、縦回転するブレードへの電解液供給に課題が生ずることが、発明者らによって明らかになった。特に、ブレードの回転速度が上昇すると、従来の装置では、ブレードの頂部と電極部との間を狙って電解液を吐出しても、ELIDによってドレッシングされるべきブレードの頂部位置近傍に対して電解液を正確に供給することが難しくなり、ブレードのドレッシングが適切に行えないなどの問題が生じることが判明した。これは、ブレードが高速回転することによってブレード自体の回転に吐出された電解液が引きずられるために吐出位置からのずれが生じることが要因として考えられる。また、回転によってブレードの回転順方向に生じる気流が大きくなり、その気流によって吐出される電解液が目標位置から逸れてしまうことも要因として考えられる。
【0006】
本開示では、ブレードの回転速度が速い場合にでも、電解液によるブレードのドレッシングを適切に行うことができる、縦回転型のELID加工装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係るELID加工装置は、
縦回転するブレードと、
前記ブレードの頂部位置近傍に向かって電解液を吐出するノズル部と、
前記頂部位置近傍から前記ブレードの回転順方向側に設けられる電極部と、
前記電極部と前記ブレードとの間に電界を形成する給電部と、
前記ブレードを回転駆動する駆動部と、を有し、
前記ノズル部が前記電解液を吐出するノズル開口の開口下端から、前記ブレードの回転中心を通る水平面である回転中心水平面までの高さtは、前記ブレードの半径をrとしたとき、
0.036≦(r-t)/r≦0.092
である。
【0008】
このようなELID加工装置は、ブレードの頂部位置近傍に電解液を供給することにより、高速回転するブレードと電極部の間に適切に電解液を供給するうえで有利である。また、電解液を吐出するノズル開口の開口下端から、回転中心水平面までの高さtとブレードの半径rとの関係が所定の範囲内にあることにより、ブレードの頂部位置近傍と電極部との間に適切に電解液が供給され、電界および電解液によるブレードのドレッシングを適切に行うことができる。ノズル開口の高さが所定範囲より高すぎると、ブレードの頂部位置近傍から上方に電界液が逸れ、ノズル開口の高さが所定範囲より低すぎると、電界が形成される領域まで電解液がブレードの頂部位置近傍に保持されず、いずれもブレードのドレッシングを適切に行うことが難しい。
【0009】
また、たとえば、前記高さtは、
0.036≦(r-t)/r≦0.073であってもよい。
【0010】
このように、ノズル開口の開口下端から回転中心水平面までの高さtは、ブレードの半径rに近い所定の範囲内であることが好ましく、ブレードの半径rより僅かに低い、所定の範囲内であることが、より好ましい。
【0011】
また、たとえば、前記ノズル部において前記電解液が流れる流路の延在する方向である流路方向は、前記ノズル開口に向かって前記回転中心水平面に近づく方向に傾斜していてもよい。
【0012】
このように、ノズルの流路方向を下方に傾斜させることにより、吐出される電解液がブレードの回転によって生じる回転順方向の気流の影響によって吐出目標位置から逸れてしまうことを修正することができ、ブレードと電極部の間に適切に電解液を供給するうえで有利である。
【0013】
また、たとえば、前記ノズル部において前記電解液が流れる流路の延在する方向である流路方向は、前記回転中心水平面に略平行であってもよい。
【0014】
このように、ノズルの流路方向を回転水平面に略平行に配置することにより、ブレードの頂部位置近傍に対して、ブレードの接線方向から電解液を供給できる。そのため、ブレードの頂部位置近傍、ブレードの回転順方向に電解液を供給するうえで有利である。
【0015】
また、たとえば、前記ノズル開口の開口下端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第1の線が、前記回転中心を通り前記回転中心水平面に垂直である第2の線に対してなす第1の挟角の大きさは、18.5~27.0度であってもよい。
【0016】
第1の挟角を27.0度以下とすることにより、ノズル開口がブレードに干渉することを回避することができる。また、第1の挟角を18.5度以上とすることにより、ノズル開口とブレードの頂部位置とを近づけることができるため、電解液を効率的にブレードの頂部位置近傍に供給することができる。
【0017】
また、たとえば、前記ノズル開口の開口下端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第1の線が、前記ノズル開口の開口上端と、前記ブレードの回転中心とを結ぶ第3の線に対してなす第2の挟角の大きさは、25.5~34.0度であってもよい。
【0018】
第2の挟角をこのような範囲とすることにより、ノズル部とブレードとの干渉を避けつつ、ノズル開口の開口中心を、ブレードの頂部位置に近づけることができ、またノズル部を電極部に近くすることができる。
【0019】
また、たとえば、前記ノズル開口の開口面の少なくとも一部は、弧状に湾曲していてもよい。
【0020】
ブレードの外縁が円弧状であるため、このような弧状の開口面を有するノズル開口は、開口中心を、ブレードの頂部位置に、より近づけて配置することができる。
【0021】
また、たとえば、前記ノズル開口の開口下端を前記流路方向に対して平行に前記電極部側に延長した第1の延長線は前記ブレードに交差してもよく、
前記ノズル開口の開口上端を前記流路方向に対して平行に前記電極部側に延長した第2の延長線は、前記ブレードに交差しなくてもよい。
【0022】
ノズル開口を、ブレードに対してこのように配置することにより、ブレードの頂部位置近傍に、電解液を効率よく供給することができる。
【0023】
また、たとえば、前記ノズル部は、前記ノズル開口の少なくとも一部が形成されており前記ブレードの外縁に対向して弧状に湾曲する対向面と、前記流路の前記ノズル開口とは反対側の開口である導入開口が形成される外側面と、を有してもよい。
【0024】
このようなノズル部は、ノズル開口をブレードの頂部位置近傍に近づけて配置しつつ、内部に流路を形成して、他部材から接続しやすい位置に導入開口を配置することができる。
【0025】
また、たとえば、前記ノズル部は、前記ノズル開口の少なくとも一部が形成されており前記ブレードの外縁に対向して弧状に湾曲する対向面と、前記対向面における前記ブレードの回転軸方向の一方側と他方側の端部から前記回転中心側へ突出し、前記ブレードの外縁を前記回転軸方向の両側から挟むカバー部と、を有してもよい。
【0026】
このようなノズル部は、カバー部を有することにより、回転するブレードによって生じる気流により、電解液が目標位置から逸れる問題を抑制することができる。
【0027】
また、本開示の一実施形態に係るELID加工方法は、駆動部によりブレードを縦回転させる工程と、
ブレードの頂部位置近傍に向かってノズル部から電解液を吐出する工程と、
前記ブレードの前記頂部位置近傍から前記ブレードの回転順方向側に設けられる電極部と前記ブレードとの間に電界を生じさせる工程と、
被加工物に前記ブレードを接触させる工程と、を有し、
前記ノズル部が前記電解液を吐出するノズル開口の開口下端からの、前記ブレードの回転中心を通る水平面である回転中心水平面までの高さtは、前記ブレードの半径をrとしたとき、
0.036≦(r-t)/r≦0.092
である。
【0028】
このようなELID加工方法によれば、ブレードの回転速度・回転数をさらに高めた場合であっても、ブレードの頂部位置近傍と電極部との間に適切に電解液が供給され、電界および電解液によるブレードのドレッシングを適切に行うことができる。
【0029】
また、本開示の一実施形態に係る電子部品の製造方法は、上述のELID加工方法により、セラミック材料を加工する工程を有する。
【0030】
このような電子部品の製造方法によれば、ELID加工方法により効率的にセラミック材料を加工できるため、電子部品の生産効率を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施形態に係るELID加工装置の主要部分を示す正面図である。
図2図2は、図1に示すELID加工装置のブレードと電極部の位置関係を示す断面図である。
図3図3は、図1に示すELID加工装置の全体構成を示す概念図である。
図4図4は、図1に示すELID加工装置におけるノズル部の配置を説明した概念図である。
図5図5は、図1に示すELID加工装置におけるノズル部のノズル本体部の形状を示す平面図である。
図6図6は、図1に示すELID加工装置におけるノズル部のカバー部材の形状を示す平面図である。
図7図7は、図4に示すELID加工装置のノズル開口周辺を拡大した部分拡大図である。
図8図8は、図2に示すブレードの外縁に形成される不導体被膜を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
第1実施形態
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき説明する。図1は、本開示の一実施形態に係るELID加工装置10の概略図である。図1に示すように、ELID加工装置10は、縦回転するブレード20と、電界液を吐出するノズル部30と、電極部50とを有する。
【0033】
ELID加工装置10のブレード20は、回転中心24を中心として、図1において矢印で示す回転順方向23に縦回転する。ブレード20としては、たとえば、導電性の結合材(ボンド)と、結合材中に埋め込まれたダイヤモンド砥粒とを含むものを用いることができるが、ELIDによるドレッシングが可能なものであれば、特に限定されない。
【0034】
ブレード20の頂部位置22は、ブレード20において最も高い位置にある位置であり、回転中心24を通り回転中心水平面25に垂直である第2の線26が、回転中心24より上方でブレード20の外縁21に交差する位置でもある。電極部50は、ブレード20の頂部位置22近傍からブレード20の回転順方向23側に設けられる。
【0035】
なお、ELID加工装置10の説明では、水平面に垂直な高さ方向をZ軸方向、Z軸方向に垂直であってブレード20の回転面に平行な方向をX軸方向、Z軸方向に垂直であってブレード20の回転軸に平行な方向をY軸方向として説明をおこなう。
【0036】
図2は、図1に示すELID加工装置10のZ軸に平行なII-II断面による断面図である。図2に示すように、電極部50は、ブレード支持部66によって回転可能に支持されるブレード20の外縁21に対向する。電極部50は、ブレード20の外縁21に外径方向から対向する電極本体部51と、電極本体部51を支える電極支持部53と、電極支持部53との間で電極本体部51を挟む電極カバー部材52とを有する。
【0037】
図2に示すように、電極支持部53と電極カバー部材52とは、電極本体部51を挟んで、ブレード20の回転軸方向27の両側に配置される。電極本体部51、電極支持部53および電極カバー部材52は、ブレード20の外縁21を通過させる凹溝を形成しており、凹溝における回転順方向23とは反対方向の端部が、後述するノズル部30によって電解液を供給される電解液導入部54である。
【0038】
電解液導入部54は、頂部位置22近傍に配置され、たとえば、頂部位置22から回転順方向23側に45度以内の領域に設けられることが好ましく、30度以内の領域に設けられることがより好ましい。なお、実施形態では、電解液導入部54は、ブレード20に対して、頂部位置22から回転順方向23側に15度以内の領域に配置されている。
【0039】
図1に示すように、ノズル部30は、電極部50に対して、回転順方向23とは反対方向である回転逆方向側に設けられる。ノズル部30は、電解液が流れる流路40を有しており、ブレード20の頂部位置22近傍に向かって電解液を吐出する。先に述べたように、頂部位置22近傍には、電極部50の電解液導入部54が配置されており、ノズル部30から吐出された電解液は、ブレード20の頂部位置22近傍と電極本体部51との間の微細な隙間(図2参照)に供給される。なお、ノズル部30の形状および配置について、後ほど図5および図7を用いて詳細に説明する。
【0040】
図3は、図1に示すELID加工装置10の全体構成を示す概念図である。ELID加工装置10は、ブレード20、ノズル部30、電極部50の他に、駆動部65、電解液供給部70、給電部60および移動制御部75等を有する。
【0041】
駆動部65は、ブレード20を所定の回転数で回転駆動する。駆動部65が実現するブレード20の回転数としては、特に限定されないが、たとえば10000~60000rpmとすることが好ましく、40000~50000rpmとすることがさらに好ましい。ブレード20をこのような回転数とすることにより、セラミック基板の切断に用いる湿式切断機(ダイサー)としてELID加工装置10を適用した場合にも、好適な量産性を確保できる。
【0042】
給電部60は、動電極としてのブレード20と、静電極としての電極部50の電極本体部51(図2参照)との間に電位差を生じさせ、電極部50とブレード20との間に電界を形成する。図1および図2に示すように、電極部50とブレード20の外縁21との間に、ノズル部30からの電解液が供給されると、ブレード20に含まれるボンドが電解されて砥粒が突出し、ブレード20のドレッシングが行われる。また、電解溶出されるボンドの一部は、ブレード20の外縁21において不導体被膜を形成し、不導体被膜により電解電流が変化するため、ボンドの溶出が自動的に調整される(ELIDサイクル)。
【0043】
電解液供給部70は、ノズル部30に形成される流路40に、電解液を供給する。ELID加工装置10で用いる電解液としては、たとえば、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液のようなアルカリ性の電解液が挙げられるが、ELIDサイクルを形成する他の電解液を用いても構わない。
【0044】
移動制御部75は、ELID加工装置10による加工対象である被加工物80と、ブレード20との相対位置を変更し、ブレード20による被加工物80の加工を実現する。移動制御部75は、たとえば、被加工物80が載置されるステージなどの位置などを制御し、ブレード20と被加工物80を接触させることにより、ELID加工装置10による被加工物80の切断や研削を、進行させることができる。
【0045】
図4は、図1に示すELID加工装置10におけるノズル部30の配置を示す概念図である。ノズル部30は、図5に示すノズル本体部31と、図6に示すノズルカバー部材43の2つの部材を組み合わせて構成される。ノズル部30は、ブレード20の外縁21に対向するように、かつ、電極部50に隣接して配置される。
【0046】
図5は、ノズル本体部31をY軸負方向(図5(a))、X軸正方向(図5(b))、Y軸正方向(図5(c))およびX軸負方向(図5(d))の4方向から見た平面図である。図4および図5に示すように、ノズル部30に形成される流路40は、ノズル部30を略水平方向に貫通する貫通孔で構成される。
【0047】
すなわち、図4に示すように、ノズル部30において電解液が流れる流路40の延在する方向である流路方向41は、ブレード20の回転中心24を通る水平面である回転中心水平面25に対して平行である。ノズル部30が電解液を吐出するノズル開口33は、図5(b)に示すように、ノズル部30における電極部50側(X軸正方向側)の側面に開口している。
【0048】
図4および図5(c)に示すように、ノズル部30は、ブレード20の外縁21に対向して弧状に湾曲する対向面32を有する。図5(b)に示すように、対向面32には、ノズル開口33の少なくとも一部が形成されている。より具体的には、湾曲する対向面32には、ノズル開口33の開口中心34(図7参照)および開口下端35を含むノズル開口33の下方部分が形成されている。したがって、ノズル開口33の開口面37(図7参照)の少なくとも一部は、対向面32と同様に弧状に湾曲している。
【0049】
また、図5(a)および図5(b)に示すように、ノズル開口33の開口上端36は、流路方向41に直交しており電極部50側(X軸正方向側)を向く内側面46に形成されている。すなわち、ノズル部30のノズル開口33は、流路方向41に直交する内側面46と、ブレード20の外縁21に対向して湾曲する対向面32とに跨って形成されている。
【0050】
図5(c)および図5(d)に示すように、流路40のノズル開口33とは反対側の開口である導入開口39は、ノズル部30の外側面38に形成されている。外側面38は、流路方向41に直交しており電極部50とは反対側(X軸負方向側)を向く面である。導入開口39には、図3に示す電解液供給部70から、電解液が供給される。なお、ノズル部30の内側面46および外側面38は、図4に示す回転中心水平面25に垂直な面でもある。
【0051】
図4に示すように、ノズル開口33の開口下端35から、回転中心水平面25までの高さtは、ブレード20の半径をrとしたとき、下記の数式1を満足する。
【0052】
0.036≦(r-t)/r≦0.092 (数式1)
【0053】
開口下端35の高さtが数式1を満足することにより、開口下端35の高さ方向の位置が、ブレード20の頂部位置22に一致するか、極めて近くなる。これにより、ブレード20の回転数が高い場合にでも、図2に示すブレード20の外縁21と電極本体部51との隙間に、電解液を適切に供給することが可能となる。
【0054】
さらに、開口中心34の、回転中心水平面25からの高さtは、下記の数式2を満足することがさらに好ましい。
【0055】
0.036≦(r-t)/r≦0.073 (数式2)
【0056】
開口下端35の高さtが数式2を満足することにより、開口下端35の高さ方向の位置が、ブレード20の頂部位置22より僅かに低くなる。これによって、ブレード20の外縁21と電極本体部51との隙間に、より効率的に電解液を供給することが可能となり、ブレードの回転速度・回転数をさらに高めた場合であっても、ブレードの頂部位置近傍と電極部との間に適切に電解液が供給され、電界および電解液によるブレードのドレッシングを適切に行うことができる。
【0057】
図7は、図4に示すELID加工装置10のノズル開口33周辺を拡大した部分拡大図である。図7に示すように、ノズル開口33の開口下端35とブレード20の回転中心24とを結ぶ第1の線35aが、回転中心24を通り回転中心水平面25に垂直である第2の線26に対してなす第1の挟角θ1の大きさは、18.5~27.0度であることが好ましい。これにより、ノズル部30とブレード20との干渉を避けつつ、ノズル開口33をブレード20の頂部位置22に近づけて配置することができ、電解液のノズル開口33から電極部50(電解液導入部54)までの移動距離を短くすることができる。
【0058】
また、図7に示すように、ノズル開口33の開口下端35とブレード20の回転中心24とを結ぶ第1の線35aが、ノズル開口33の開口上端36とブレード20の回転中心24とを結ぶ第3の線36aに対してなす第2の挟角θ2の大きさは、25.5~34.0度であることが好ましい。これにより、電解液の移動距離が過度に長くなることを防ぎつつ、ノズル開口33とブレード20の外縁21との対向長さを長くすることができるため、ブレード20の外縁21と電極本体部51との隙間に、より効率的に電解液を供給することができる。
【0059】
図7に示すように、ノズル部30では、ノズル開口33の開口下端35を、流路方向41に対して平行に電極部50側に延長した第1の延長線35bはブレード20に交差する。一方、ノズル開口33の開口上端36を、流路方向41に対して平行に電極部50側に延長した第2の延長線36bは、ブレード20に交差しない。このようなノズル部30は、開口中心34の高さtが数式2を満足することと組み合わせられることにより、頂部位置22近傍の電解液導入部54へ、電解液を効率的に供給することが可能である。
【0060】
また、図7に示すように、ノズル部30では、第2の挟角θ2が第1の挟角θ1より大きい。そのため、ノズル開口33の開口上端36は、ブレード20の頂部位置22に対して回転順方向23側に配置されているのに対して、ノズル開口33の開口下端35は、ブレード20の頂部位置22に対して回転逆方向側に配置されている。このようなノズル部30の配置も、頂部位置22近傍に配置される電解液導入部54に対する効率的な電解液の供給に資する。
【0061】
図6に示すノズルカバー部材43は、図5(c)に示すノズル本体部31の取付面45に取付けられる。ノズルカバー部材43は、円弧状の外形状を有しており、ノズルカバー部材43の内周縁である第2突出縁44は、図4に示すように、回転軸方向27(Y軸方向)から見てブレード20に重なる。また、図5(c)に示すノズル本体部31の内周縁である第1突出縁42も、図4に示すように、回転軸方向27(Y軸方向)から見てブレード20に重なる。
【0062】
すなわち、図4に示すように、ノズル本体部の第1突出縁42と、ノズルカバー部材43の第2突出縁44とは、対向面32における回転軸方向27の一方側と他方側の端部から回転中心24側へ突出し、ブレード20の外縁21を回転軸方向27の両側から挟むカバー部48を構成する。カバー部48は、ノズル開口33とブレード20の外縁21とが対向する部分の周辺をカバーし、ノズル開口33を出た電解液が、ブレード20の回転が引き起こす風などにより散逸する問題を防止することができる。
【0063】
図3に示すように、ELID加工装置10によるELID加工方法は、たとえば、駆動部65によりブレード20を縦回転させる工程と、ブレード20の頂部位置22近傍に向かってノズル部30から電解液を吐出する工程と、電極部50とブレード20との間に電界を生じさせる工程と、被加工物80にブレード20を接触させる工程により実施することができる。
【0064】
ELID加工方法における被加工物80としては、特に限定されないが、電子部品の製造に用いるセラミック材料等が挙げられる。ELID加工方法によれば、ブレード20の頂部の目立てを、被加工物80の切断・研削と並行して行うことができるため、効率的に加工を行うことが可能である。
【0065】
また、ELID加工装置10は、ノズル部30におけるノズル開口33の位置および高さtが数式1等で規定される条件を満たしていることにより、ブレード20を高速回転させた場合にでも、ブレード20と電極部50の間に適切に電解液を供給することができる。
【0066】
以下、実施例を挙げ、ELID加工装置10についてさらに詳細に説明を行うが、ELID加工装置10は、これらの実施例のみには限定されるものではない。
【0067】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2では、実施形態に示すELID加工装置10を一部変更したELID加工装置を用いて、電極部50による電界の形成および電解液の吐出を行い、ブレード20の外縁21に不導体被膜29が形成されているか否かを検証した。図8は、ブレード20の外縁21に形成される不導体被膜29を模式的に示す概念図である。実際にはブレード20に不導体被膜29が形成される場合、不導体被膜29は外縁21における頂部位置22とブレード外縁側面部28にまたがるように形成される。そして、その不導体被膜29の出来栄えとしては、ブレード20の頂部位置22からブレード20の中心に向かって形成される不導体被膜29の長さで評価することができる。(以下、このブレード20の頂部位置22からブレード20の中心に向かって形成される不導体被膜29の長さを“不導体被膜の幅W“とよぶ。)この不導体被膜29の幅Wが大きいと良い。不導体被膜29の幅Wはブレード20に対して電界が作用した度合いをそのまま示すこととなるため、不導体被膜29の幅Wが大きいと効果的・効率的に電界が作用したことを判断できる。つまり、不導体被膜29の幅Wを測定することによって、ブレード20に作用した電界強度を推察することができ、効果的・効率的にELIDがなされるか否かの判断につながる。
【0068】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2で用いたELID加工装置は、ノズル部におけるノズル開口が、単純な円形であり、かつ、ブレード20の頂部位置22からX軸負方向に21.5mm離間した位置にあり、ノズルカバー部材43を有しないことを除き、実施形態に示すELID加工装置10と同様である。
【0069】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2では、ノズル開口33における開口下端35の回転中心水平面25からの高さtを、それぞれ25.8mm、24.8mm、24.3mm、26.2mm、23.8mmとして行った。いずれの実施例、比較例においても、ノズル開口の直径は2.0mm、ブレード20の半径rは26.75mm、ブレード20の回転数は15500rpmとした。各実施例および比較例の条件および評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、ノズル高さ比率(r―t)/rが、数式1を満たす実施例1、実施例2および実施例3では、ブレード20に含まれるボンドが電解して形成される不導体被膜が確認でき、ブレード20と電極の間に適切に電解液が供給されることを確認できた。また、実施例1、実施例2、実施例3の比較では、ノズル高さtとブレード20の半径rとの値がより近い実施例1において形成された不導体被膜の幅Wが最も大きかった。
【0072】
一方、ノズル高さ比率(r―t)/rが、数式1を満たさない比較例1および比較例2では、不導体被膜の形成が確認できず、ブレード20と電極の間に適切に電解液が供給されていなかったと考えられる。
【0073】
<ノズルカバー部材の適用>
比較例1、2、実施例1~3に対して、さらにノズルカバー部材43を適用し、ブレード20の回転数を45000rpmに変更した以外は同等の条件として、評価を行った。実施例1~3に対応する位置の場合、回転数が高くなっても、回転数が低くノズルカバー部材43を適用しなかった場合と同様に、100~200μmの幅Wで不導体被膜29が形成されていることが確認できた。これに対して、比較例1、2に対応する位置の場合は、回転数が高くなっても、回転数が低くノズルカバー部材43を適用しなかった場合と同様に、不導体被膜29の形成は確認されなかった。
【0074】
以上、実施形態および実施例を挙げてELID加工装置10について説明をおこなってきたが、本開示に係るELID加工装置10は、上述した実施形態や実施例の他に、他の実施形態や変形例を含むことは言うまでもない。たとえば、図1に示すように、ノズル部30における流路40の流路方向41は、回転中心水平面25に略平行であってもよいが、流路方向41が、ノズル開口33に向かって回転中心水平面25に近づく方向に傾斜していてもよい。このようなELID加工装置は、ブレード20との干渉を避けつつ、電解液導入部54にノズル開口33を近づける観点で利点を有する。
【符号の説明】
【0075】
10…ELID加工装置
20…ブレード
21…外縁
r…半径
22…頂部位置
23…回転順方向
24…回転中心
25…回転中心水平面
26…第2の線
27…回転軸方向
28…ブレード外縁側面部
29…不導体被膜
W…幅
30…ノズル部
31…ノズル本体部
32…対向面
33…ノズル開口
t…高さ
34…開口中心
35…開口下端
35a…第1の線
θ1…第1の挟角
35b…第1の延長線
36…開口上端
36a…第3の線
θ2…第2の挟角
36b…第2の延長線
37…開口面
38…外側面
39…導入開口
40…流路
41…流路方向
42…第1突出縁
43…ノズルカバー部材
44…第2突出縁
45…取付面
46…内側面
48…カバー部
50…電極部
51…電極部本体部
52…電極カバー部材
53…電極支持部
54…電解液導入部
60…給電部
65…駆動部
66…ブレード支持部
70…電解液供給部
75…移動制御部
80…被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8