(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170075
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】レールのガス圧接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20231124BHJP
E01B 11/48 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B23K20/00 330B
E01B11/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081542
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太初
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167BB13
4E167BB14
4E167CA04
4E167DB03
(57)【要約】
【課題】ガス圧接時の圧縮量を低減しても酸化介在物を低減することができ、押抜き割れの発生を抑制し、ガス圧接作業の労力を削減することができるレールのガス圧接方法を提供する。
【解決手段】ガス圧接方法#100は、レール端面5同士を突き合わせた突合せ部7をガス圧接することによって、レール端面5同士を接合する方法である。ガス圧接方法#100は、レール端面形状がレール断面形状よりも小さくなるように、レール端面縁部を所定の削り加工寸法で加工する端面加工工程#110を含み、端面加工工程#100は、レール長さ方向のレール端面縁部の削り加工寸法Y、レール長さ方向と交差する方向のレール端面縁部の削り加工寸法Zであるときに、Z/Y<1の加工条件で削り加工する工程を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール端面同士を突き合わせた突合せ部をガス圧接することによって、このレール端面同士を接合するレールのガス圧接方法であって、
レール端面形状がレール断面形状よりも小さくなるように、前記レール端面の縁部を所定の削り加工寸法で加工する端面加工工程を含み、
前記端面加工工程は、レール長さ方向の前記レール端面の縁部の削り加工寸法Y、レール長さ方向と交差する方向の前記レール端面の縁部の削り加工寸法Zであるときに、Z/Y<1の加工条件で削り加工する工程を含むこと、
を特徴とするレールのガス圧接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレールのガス圧接方法において、
前記端面加工工程は、前記レール端面に面取り部を形成する工程を含み、
前記端面加工工程は、レール長さ方向の前記面取り部の深さY、レール長さ方向と交差する方向の前記面取り部の深さZであるときに、Z/Y<1の加工条件でこの面取り部を形成する工程を含むこと、
を特徴とするレールのガス圧接方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレールのガス圧接方法において、
前記端面加工工程は、レール底部側面とその付近を除き、前記レール端面の縁部を削り加工する工程を含むこと、
を特徴とするレールのガス圧接方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のレールのガス圧接方法において、
前記レールの突合せ部を加熱しながら圧接する加熱加圧工程を含み、
前記加熱加圧工程は、前記端面加工工程後の前記突合せ部を圧縮量5mm以上10mm以下で加熱しながら圧接する工程を含むこと、
を特徴とするレールのガス圧接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レール端面同士を突き合わせた突合せ部をガス圧接することによって、このレール端面同士を接合するレールのガス圧接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、レールを何本か基地又は現地において、主として溶接により接合することで200m程度の長さにして、レールの継目をなくすロングレールが採用されている。ロングレールは、レールの継目部における衝撃が大幅に緩和され、線路状態の改善、列車の乗り心地の改善、保守量の低減、騒音・振動対策などの環境対策に寄与している。ロングレール化のためのレール同士の接合には、ガス圧接、テルミット溶接、フラッシュ溶接などの溶接技術が採用されている。
【0003】
図8及び
図9に示す従来のガス圧接方法#200は、レール101のレール端面105をグラインダにより研摩してレール端面105を平滑に処理する端面処理工程#210と、レール端面105同士を突き合せた状態でガス圧接機によって所定の加圧力を加えて保持する保持加圧工程#220と、ガス圧接機のガス圧接バーナによってレール101の突合せ部107を加熱しながら所定の圧縮量(例えば、24mm)に達するまで圧接する加熱加圧工程#230と、レール101の圧接部(接合部)109の膨らみを熱間で押し抜く熱間押抜き工程#240などを含む。熱間押抜き工程#240では、加熱加圧工程#230における加圧の停止直後に、ガス圧接機に組み込まれている押抜きせん断装置の専用バイト(押抜き刃(せん断刃))Bによって、レール101の圧接部109の膨らみを熱間で押し抜き除去する。熱間押抜き工程#240後には、ガス圧接機による加圧を停止してクランプを開放し、ガス圧接バーナ及びガス圧接機がレール101から取り外されて、圧接部109の曲がりを熱間で矯正し、圧接部109の仕上げ作業を行って仕上がり検査を実施する。
【0004】
鉄道用レールのガス圧接法では、レール端面に酸化物が過剰に残存すると、金属結合が阻害されて接合箇所の強度が低下するとともに、圧接部の膨らみを熱間押抜きでせん断除去する際に、せん断に伴う塑性変形によって酸化物の残存箇所に割れや傷などの欠陥を生じる。このため、鉄道用レールのガス圧接法は、ガス炎による部材外周からの加熱による接合界面温度の上昇、および部材軸方向への加圧に伴う接合界面の塑性変形により、接合阻害因子(酸化介在物)を分断・微細化し、金属結合を達成させる必要がある。主要なガス圧接施工条件として、ガス流量、加圧力および圧縮量(例えば、アセチレン流量105L/min、酸素100L/min、加圧力170kN、圧縮量24mm)が挙げられ、現在、鉄道現場で施工する場合にはこれらに対して標準施工条件が定められている。
【0005】
一方、レールガス圧接作業では、圧縮量15mmを超えた段階で圧接部表面の溶融防止のためにバーナ揺動作業を実施することや、ガス圧接により生じた膨らみを施工直後に専用バイトBで押抜くことなど、圧縮量24mmとすることで生じる作業が多く含まれる。従来の加熱バーナ揺動方法は、鉄道用レールの端部同士を突き合わせてガス圧接するときに、加熱バーナを揺動幅20~40mmで揺動させ、鉄道用レールの端部同士を圧縮開始後10~80秒で揺動を開始している(例えば、特許文献1参照)。この従来の加熱バーナ揺動方法では、鉄道用レールの突合せ部に十分な熱を投入させた後に、加熱バーナを揺動させてレール表面の溶融滴下を防止している。この従来の加熱バーナ揺動方法では、作業者の技量に依存することなく、加熱バーナ揺動の自動化を達成するなど、脱技能化技術が開発されている。
【0006】
また、専用バイトBによる押抜きにより、その後の研摩作業の労力削減を図っているが、押抜き時に生じる応力により圧接部表面に割れ(押抜き割れ)が生じることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。特に、頭部あご下部や底面中央部に生じた場合、施工直後の仕上り検査が難しく、これらの部位に押抜き割れが生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【0008】
【非特許文献1】山本隆一,「レールの溶接技術」,溶接学会誌,一般社団法人溶接学会,2012年,第81巻,第8号,p.11-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
標準条件である24mmの圧縮量を低減することができれば、上記のバーナ揺動作業や押抜き作業が不要となると共に、押抜きにより割れが生じることが無くなるため、現行のレールガス圧接作業の労力削減や信頼性向上を効率的に実施可能となる。しかし、圧縮量を低減した場合、ガス圧接部の接合界面上における塑性変形が減少し、酸化介在物の残存により接合状態が悪化することが考えられる。これまでは、接合界面上の塑性変形を確保するには圧縮量を増加することが最も簡易であったため、他の手法は考えられていない。
【0010】
この発明の課題は、ガス圧接時の圧縮量を低減しても酸化介在物を低減することができ、押抜き割れの発生を抑制し、ガス圧接作業の労力を削減することができるレールのガス圧接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図1~
図4に示すように、レール端面(5)同士を突き合わせた突合せ部(7)をガス圧接することによって、このレール端面同士を接合するレールのガス圧接方法であって、レール端面形状(S
1)がレール断面形状(S
2)よりも小さくなるように、前記レール端面の縁部(6)を所定の削り加工寸法で加工する端面加工工程(#110)を含み、前記端面加工工程は、レール長さ方向の前記レール端面の縁部の削り加工寸法Y、レール長さ方向と交差する方向の前記レール端面の縁部の削り加工寸法Zであるときに、Z/Y<1の加工条件で削り加工する工程を含むことを特徴とするレールのガス圧接方法(#100)である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のレールのガス圧接方法において、
図2に示すように、前記端面加工工程は、前記レール端面に面取り部(8)を形成する工程を含み、前記端面加工工程は、レール長さ方向の前記面取り部の深さY、レール長さ方向と交差する方向の前記面取り部の深さZであるときに、Z/Y<1の加工条件でこの面取り部を形成する工程を含むことを特徴とするレールのガス圧接方法である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のレールのガス圧接方法において、
図1に示すように、前記端面加工工程は、レール底部側面(3c)とその付近を除き、前記レール端面の縁部を削り加工する工程を含むことを特徴とするレールのガス圧接方法である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2に記載のレールのガス圧接方法において、
図3及び
図4に示すように、前記レールの突合せ部(7)を加熱しながら圧接する加熱加圧工程(#130)を含み、前記加熱加圧工程は、前記端面加工工程後の前記突合せ部を圧縮量5mm以上10mm以下で加熱しながら圧接する工程を含むことを特徴とするレールのガス圧接方法である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、ガス圧接時の圧縮量を低減しても酸化介在物を低減することができ、押抜き割れの発生を抑制し、ガス圧接作業の労力を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施形態に係るレールのガス圧接方法におけるガス圧接前のレール端部の外観図であり、(A)は端面図であり、(B)は側面図であり、(C)は(B)のIII-IIIC線で切断した状態を示す断面図である。
【
図3】この発明の実施形態に係るレールのガス圧接方法の工程図である。
【
図4】この発明の実施形態に係るレールのガス圧接方法の模式図であり、(A)は端面加工工程の模式図であり、(B)は保持加圧工程の模式図であり、(C)は加熱加圧工程の模式図であり、(D)は加熱加圧工程後の模式図であり、(E)は熱間押抜き工程の模式図である。
【
図5】レールの端面加工形状を一例として示す外観図であり、(A)は端面図であり、(B)は側面図である。
【
図6】相当塑性ひずみ分布(圧縮量10mm)を示すグラフであり、(A)はレールの各部位における相当塑性ひずみを示すグラフであり、(B)はレールの各部位を示す端面図である。
【
図7】相当塑性ひずみと引張強さ、伸びの関係を示すグラフである。
【
図8】従来のレールのガス圧接方法の工程図である。
【
図9】従来のレールのガス圧接方法の模式図であり、(A)は端面処理工程の模式図であり、(B)は保持加圧工程の模式図であり、(C)は加熱加圧工程の模式図であり、(D)は加熱加圧工程後の模式図であり、(E)は熱間押抜き工程の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示すレール1は、
図3に示すガス圧接方法#100によってガス圧接される部材である。レール1は、車輪を案内する部材である、レール1は、鉄道車両の左右の車輪をそれぞれ支持し案内してこの鉄道車両を走行させる。レール1は、一般に高炭素鋼が使用されており、普通レール及び熱処理レールが存在する。レール1は、
図1に示すレール頭部2と、レール底部(フランジ部)3と、レール腹部(ウェブ部)4と、
図1及び
図2に示すレール端面5と、
図2に示すレール端面縁部6などを備えている。レール頭部2は、車輪と接触する部分である。レール頭部2は、車輪を直接支持する頭頂面(頭部上面)2aと、レール頭部2の左右の側面部分を構成する頭部側面2bと、頭頂面2aと頭部側面2bとの間を繋ぐゲージコーナー部(頭部上角)2cなどを備えている。レール底部3は、レール1を支持する支承体(支持体)に取り付けられる部分である。レール底部3は、レール1と支承体とを締結するレール締結装置によって押さえ付けられる底部上面3aと、支承体上に設置される底部下面(底面)3bと、レール底部3の左右の側面部分を構成する底部側面(底部端)3cなどを備えている。レール腹部4は、レール頭部2とレール底部3とを繋ぐ部分である。レール腹部4は、レール頭部2に作用する荷重をレール底部3に伝達する。
【0018】
図1(A)(B)、
図2及び
図3に示すレール端面5は、レール1の両端部を構成する面である。レール端面5は、レール長さ方向に対して直交する平坦面である。
図2に示すレール端面縁部6は、レール端面5の外周部であり、レール端面5を端面加工する前のレール両端の外周部である。
図1(A)に示すレール端面形状S
1は、レール端面5の平面形状である。
図1(C)に示すレール断面形状S
2は、レール長さ方向と直交する平面でレール1を切断したときの断面形状である。
【0019】
図3及び
図4に示すガス圧接方法#100は、レール端面5同士を突き合せた突合せ部7をガス圧接することによって、レール端面5同士を接合する方法である。ガス圧接方法#100は、
図8及び
図9に示す従来のガス圧接方法#200に比べて、ガス圧接時の圧縮量を低減しつつ、必要な塑性ひずみを確保することで酸化介在物を低減可能であり、圧縮量が低減されるため押抜き作業が不要になって押抜き割れを抑制可能であるとともに、バーナ揺動作業が不要になってガス圧接作業の労力を軽減可能になる。
【0020】
ガス圧接方法#100では、突合せ部7で軸方向に加圧し、酸素-アセチレン炎による可燃ガス炎で突合せ部7を加熱して接合する。ここで、
図4(B)に示す突合せ部7は、接合するレール1のレール端面5同士を向かい合わせた部分である。ガス圧接方法#100は、他の溶接材料を必要とせずにレール1同士を直接接合し、接合温度が比較的低い固相接合であり、接合強度が比較的高いなどの利点がある。ガス圧接方法#100は、加熱にガス炎を使用するため、接合のための大容量の電源を必要とせず、酸素及びアセチレンのボンベを運搬すれば接合が可能であり、ガス圧接装置が比較的簡単で持ち運びが容易であり、線路脇での溶接が可能で機動性に優れた接合方法である。ガス圧接方法#100は、
図3及び
図4に示すように、端面加工工程#110と、保持加圧工程#120と、加熱加圧工程#130と、熱間押抜き工程#140などを含む。
【0021】
図3及び
図4(A)に示す端面加工工程#110は、
図1(A)(C)に示すレール端面形状S
1がレール断面形状S
2よりも小さくなるように、レール端面縁部6を所定の削り加工寸法で加工する工程である。端面加工工程#110では、
図1及び
図2に示すように、レール端面5に面取り部8を形成する。ここで、面取り部8は、レール端面縁部6を斜めに削ることによって形成される部分である。面取り部8は、レール端面縁部6が直線状に削られたC面取りである。端面加工工程#110では、レール端面5がグラインダにより研摩されて、レール長さ方向に対して直角に平滑に仕上げられるとともに、さびや油などの付着部が完全に除去される。
【0022】
端面加工工程#110では、
図3に示すように、レール長さ方向のレール端面縁部6の削り加工寸法Y、レール長さ方向と交差する方向(面方向)のレール面縁部R
5の削り加工寸法Zであるときに、Z/Y<1の加工条件で削り加工する。ここで、削り加工寸法Yは、レール長さ方向の面取り部8の深さである。削り加工寸法Zは、レール長さ方向と交差する方向の面取り部8の深さである。端面加工工程#110では、Z/Y<1の加工条件で面取り部8を形成する。端面加工工程#110では、
図1(A)に示すように、レール底部3の底部側面3cとその付近を除き、レール端面縁部6を削り加工する。端面加工工程#110では、例えば、レール頭部2及びレール腹部4についてはほぼ一定の削り加工寸法Y,Zによって削り加工されている。端面加工工程#110では、例えば、レール底部3についてはレール端面形状S
1の幅がほぼ一定になるような削り加工寸法Y,Zによって削り加工されている。端面加工工程#110では、例えば、底部上面3aのレール腹部4側から底部側面3c側に向って削り加工寸法Y,Zが徐々に減少し、底部側面3cにおいて削り加工寸法Y,Zがゼロになるように削り加工されている。端面加工工程#110では、例えば、底部下面3bの中央部から底部側面3c側に向って削り加工寸法Y,Zが徐々に減少し、底部側面3cにおいて削り加工寸法Y,Zがゼロになるように削り加工されている。
【0023】
図3及び
図4(B)に示す保持加圧工程#120は、レール端面5同士を突き合せた状態で、突合せ部7に所定の加圧力を加えて保持する工程である。保持加圧工程#120では、レール端面5同士を突き合せた状態でガス圧接機をレール1の頭頂面2aに装着して、このガス圧接機によってレール腹部4をクランプし、このガス圧接機によって突合せ部7に所定の加圧力を加える。
【0024】
加熱加圧工程#130は、レール1の突合せ部7を加熱しながら圧接する工程である。加熱加圧工程#130では、レール1の両側に装着されたガス圧接機のガス圧接バーナに点火して、レール1の突合せ部7を加熱しながら圧接し、突合せ部7の圧縮量が所定量に達した後に、ガス圧接バーナを消火して加圧を停止する。加熱加圧工程#130では、例えば、酸素のガス流量100~105(L/min)、加圧力20~25(MPa)のガス圧接条件で加熱しながら圧接する。加熱加圧工程#130では、圧縮量が5mmを下回ると十分な塑性ひずみを確保することができず、圧縮量が10mmを超えると圧接部9の膨らみが大きくなるため、突合せ部7を圧縮量5mm以上10mm以下で加熱しながら圧接することが好ましい。加熱加圧工程#130後には、ガス圧接機による加圧を停止してクランプを開放し、ガス圧接バーナ及びガス圧接機がレール1から取り外されて、圧接部9の曲がりを熱間で矯正し、圧接部9の仕上げ作業を行って仕上がり検査を実施する。
【0025】
次に、この発明の実施形態に係るレールのガス圧接方法の作用を説明する。
図1~
図4に示すように、端面加工工程#110においてレール端面縁部6にZ/Y<1の加工条件で面取り部8が形成されており、レール長さ方向と交差する方向の深さZに対してレール長さ方向の深さYが長く設定されている。このため、加熱加圧工程#130において、従来の圧縮量24mmよりも少ない圧縮量でレール1の突合せ部7を加熱しながら加圧しても、レール長さ方向と交差する方向に突合せ部7が伸びて変形量が増加する。その結果、突合せ部7の変形量が増加することによって突合せ部7の塑性変形が増加し、接合強度低下の要因となる酸化介在物が分断・細分化されて酸化介在物が低減する。また、従来の圧縮量24mmよりも少ない圧縮量でレール1の突合せ部7を加圧するため、圧接部9の余盛が小さくなり、圧接部9の膨らみを専用バイトBによって除去する作業が省略される。
【0026】
一方、レール端面縁部6にZ/Y≧1の加工条件で面取り部8を形成して、深さZに対して深さYを短く設定した場合には、端面加工により開口する面取り部8が接合面となる。このため、レール長さ方向と交差する方向に突合せ部7が伸びる変形量が小さくなる。その結果、突合せ部7の塑性変形も小さく、酸化介在物が分断・細分化されず酸化介在物が残存して接合状態が低下する。
【0027】
レールガス圧接部の加熱変形解析モデルを使用して、従来法(面取りなし)及び本発明(面取りあり)について、同じガス圧接条件で60kgレールをガス圧接する場合に、圧接部の圧縮量を10mmに低減可能であるか数値解析を行った。
図5は、数値解析に使用したガス圧接前のレール端面の加工形状である。
図5に示す加工寸法は、Z
1=3mm、Z
2=6mm、Y=15mmである。
図6は、ガス圧接時の圧縮量10mmの場合の本発明及び従来例のガス圧接方法による相当塑性ひずみ分布である。
図6(A)に示す縦軸は、相当塑性ひずみであり、横軸は
図6(B)に示すレールの各部位である。従来例では、
図6(A)に示すように、頭部あご、頭部あご下部及び底面中央において相当塑性ひずみが小さいため、ガス圧接時の変形量が小さくなり、これらの部位において酸化介在物が残存し圧接部に欠陥が生じやすい。一方、本発明では、従来法の場合に欠陥が生じやすい頭部あご、頭部あご下部及び底面中央において、相当塑性ひずみを増加可能であることが確認された。
【0028】
図7は、相当塑性ひずみの増加により引張強さがどの程度向上するかを示すグラフである。
図7に示す横軸は、相当塑性ひずみであり、左側縦軸は引張強さ(MPa)であり、右側縦軸は伸び(%)である。
図7に示すように、一定の相当塑性ひずみが得られるガス圧接部では母材レベルの強度が得られることが知られている。相当塑性ひずみが増加すると引張強さがある一定値まで向上し、相当塑性ひずみがある値に達すると母材で破断する傾向が認められる。相当塑性ひずみが増加すると引張強さがある一定値まで向上し、相当塑性ひずみがある値に達すると母材が破断する傾向が認められる。本発明では、
図6(A)に示すように、底面中央において0.7程度の相当塑性ひずみが得られており、
図7に示すように相当塑性ひずみ0.7程度の場合には母材レベルの強度を得られることが確認された。また、本発明では、
図6(A)に示すように、頭部あご及び頭部あご下において0.4程度の相当塑性ひずみが得られており、
図7に示すように相当塑性ひずみ0.4程度の場合には母材レベルにまで強度が達していないものの、従来法に比べて強度が上昇することが確認された。以上より、数値解析の結果、レールガス圧接部の塑性変形状況を把握し、塑性相当ひずみの小さな箇所の端面形状を変更することによって、この箇所の変形を増加可能であることが確認された。
【0029】
この発明の実施形態に係るレールのガス圧接方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、レール端面形状S1がレール断面形状S2よりも小さくなるように、このレール端面縁部6を所定の削り加工寸法Y,Zで加工する。また、この実施形態では、レール長さ方向のレール端面縁部6の削り加工寸法Y、レール長さ方向と交差する方向のレール端面縁部6の削り加工寸法Zであるときに、Z/Y<1の加工条件で削り加工する。このため、加熱加圧工程#130においてレール1の突合せ部7を加熱しながら低圧縮量で圧接しても、必要となる塑性ひずみを確保することができ、圧接部9の膨らみを押抜く際に割れが発生するのを抑制することができる。また、圧縮量を低減することができるため、バーナの揺動作業や押抜き作業が不要になって、ガス圧接作業の労力を削減することができる。
【0030】
(2) この実施形態では、レール端面5に面取り部8を形成しており、レール長さ方向の面取り部8の深さY、レール長さ方向と交差する方向の面取り部8の深さZであるときに、Z/Y<1の加工条件で面取り部8を形成する。このため、レール端面5に簡単な面取り部8を形成するだけで、低圧縮量であっても十分なひずみを確保することができ、酸化介在物を低減することができる。また、ガス圧接時の圧縮量が低減されるため、圧接部9の膨らみが小さくなり押抜き作業を省略することができる。その結果、ガス圧接時の作業負担を軽減することができるとともに、ガス圧接機に押抜きせん断装置を組み込む必要がなくなって、ガス圧接機の軽量化と低コスト化を図ることができる。
【0031】
(3) この実施形態では、レール底部3の底部側面3cとその付近を除き、レール端面縁部6を削り加工する。例えば、比較的細い底部側面3cに削り加工をするとガス圧接時の塑性変形が不十分になる。このため、底部側面3cについては削り加工を省略することによって、ガス圧接時に底部側面3cにおいて必要な塑性ひずみを確保することができる。
【0032】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
この実施形態では、レール1をガス圧接する場合を例に挙げて説明したが、鉄筋などの構造用鋼材のガス圧接についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、レール端面縁部6を直線状に面取りするC面取りを例に挙げて説明したが、レール端面縁部6を曲線状に面取りするR面取りの場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 レール
2 レール頭部
3 レール底部
4 レール腹部
5 レール端面
6 レール端面縁部
7 突合せ部
8 面取り部
9 圧接部
S1 レール端面形状
S2 レール断面形状
B 押抜き刃