(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170076
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】高速炉の電源装置及び崩壊熱除去システム
(51)【国際特許分類】
H02J 9/08 20060101AFI20231124BHJP
G21C 15/18 20060101ALI20231124BHJP
G21C 15/00 20060101ALI20231124BHJP
F16K 31/04 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
H02J9/08
G21C15/18 M
G21C15/00 F
F16K31/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081544
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】307041573
【氏名又は名称】三菱FBRシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 理紗子
(72)【発明者】
【氏名】黒木 博▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】平松 貴志
【テーマコード(参考)】
3H062
5G015
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB30
3H062CC01
3H062DD01
3H062EE07
3H062HH02
3H062HH10
5G015FA08
5G015FA10
5G015GA04
5G015HA13
5G015JA04
5G015JA27
5G015JA52
5G015KA14
(57)【要約】
【課題】電源からの電力供給が得られなくなった場合に非常用の発電機に切り換えて負荷を起動するシステムにおいて、負荷の起動電流に対応しつつ、コストを低減させる。
【解決手段】電源母線と、交流モータに電力を供給するための発電機と、外部電源から供給された電力の一部を充電するための蓄電池と、蓄電池の充放電を切り換えるための充放電切換部と、充放電切換部の動作を制御する充放電制御部とを備え、充放電制御部は、定常動作において充放電切換部を充電状態にさせ、外部電源から電力が供給できなくなった非常動作においてダンパを動作させる場合に、充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えて交流モータに充電した電力を供給させる、電源装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環する液体金属を冷却する空気冷却器を有し、前記液体金属を用いて高速炉の炉心で発生した崩壊熱を冷却するための崩壊熱除去システムの電源装置であって、
外部送電網に接続可能に設けられており、外部電源から供給された電力を前記空気冷却器のダンパを動作させるための交流モータに伝送するための電源母線と、
前記外部電源から電力が供給できなくなった場合に、前記交流モータに電力を供給するための発電機と、
前記電源母線に接続可能に設けられており、前記外部電源から供給された電力の一部を充電するための蓄電池と、
前記蓄電池の充放電を切り換えるための充放電切換部と、
前記充放電切換部の動作を制御する充放電制御部と
を備え、
前記充放電制御部は、
前記外部電源から電力が供給されている定常動作において前記充放電切換部を充電状態にさせ、
前記外部電源から電力が供給できなくなった非常動作において前記ダンパを動作させる場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えて前記交流モータに充電した電力を供給させる、
電源装置。
【請求項2】
前記発電機から前記交流モータへと流れる電流の大きさを検出する電流検出部を更に備え、
前記充放電制御部は、前記非常動作において前記電流検出部が検出した電流の大きさが所定の値以上の場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換える、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記充放電制御部は、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えた後に、前記電流検出部が検出した電流の大きさが所定の値未満となった場合、前記充放電切換部を放電状態から充電状態に切り換える、請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記崩壊熱除去システムから前記ダンパを動作させるための指示信号を受信する受信部を更に備え、
前記充放電制御部は、前記非常動作において前記受信部が前記ダンパを動作させることを示す指示信号を受信した場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換える、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項5】
前記充放電制御部は、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えた後に、所定の時間が経過した場合、前記充放電切換部を放電状態から充電状態に切り換える、請求項4に記載の電源装置。
【請求項6】
前記高速炉の炉心で発生した崩壊熱を冷却するための崩壊熱除去システムであって、
前記高速炉の炉心を循環した前記液体金属の温度を検出する温度検出器と、
前記ダンパと前記交流モータとを有し、前記ダンパを開けることで外気を取り込んで循環する前記液体金属を冷却する前記空気冷却器と、
前記温度検出器の温度検出結果に基づき、前記ダンパを開閉させるための指示信号を前記空気冷却器に供給するダンパ制御部と、
前記ダンパ制御部による前記ダンパの動作に応じて、前記蓄電池から前記交流モータへの電力の供給を切り換える、請求項1から5のいずれか一項に記載の電源装置と
を備える、崩壊熱除去システム。
【請求項7】
前記ダンパ制御部は、前記定常動作から前記非常動作に切り換わったことに応じて、前記ダンパの開度を所定の第1開度にする、請求項6に記載の崩壊熱除去システム。
【請求項8】
前記ダンパ制御部は、前記液体金属の温度が下降して所定の第1温度よりも低くなった場合に、前記ダンパの開度を前記第1開度よりも小さい開度の第2開度にする、請求項7に記載の崩壊熱除去システム。
【請求項9】
前記ダンパ制御部は、前記ダンパを前記第2開度にした後に所定の時間が経過した場合に、前記ダンパの開度を前記第2開度よりも大きくする、請求項8に記載の崩壊熱除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉で用いられる電源装置及び崩壊熱除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉等のプラントにおいて、ダンパを駆動する交流モータ、電動弁等を動作させて運用するシステムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このようなシステムは、停電等により電源からの電力供給が得られなくなった場合に、非常用の発電機に切り換えて負荷に電力を供給していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなシステムは、負荷に直接電源電圧を印加して起動させる直入起動方式となるため、負荷の起動時に定格の8~10倍に至る起動電流が流れることがある。そこで、大きな起動電流に対応する大容量の発電機を設けること、個々の負荷にスターデルタ起動器、リアクトル起動器等の補償装置を設けること等で対策していたが、システムが大型化してしまい、コストが高くなってしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、電源からの電力供給が得られなくなった場合に非常用の発電機に切り換えて負荷を起動するシステムにおいて、負荷の起動電流に対応しつつ、コストを低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、循環する液体金属を冷却する空気冷却器を有し、前記液体金属を用いて高速炉の炉心で発生した崩壊熱を冷却するための崩壊熱除去システムの電源装置であって、外部送電網に接続可能に設けられており、外部電源から供給された電力を前記空気冷却器のダンパを動作させるための交流モータに伝送するための電源母線と、前記外部電源から電力が供給できなくなった場合に、前記交流モータに電力を供給するための発電機と、前記電源母線に接続可能に設けられており、前記外部電源から供給された電力の一部を充電するための蓄電池と、前記蓄電池の充放電を切り換えるための充放電切換部と、前記充放電切換部の動作を制御する充放電制御部とを備え、前記充放電制御部は、前記外部電源から電力が供給されている定常動作において前記充放電切換部を充電状態にさせ、前記外部電源から電力が供給できなくなった非常動作において前記ダンパを動作させる場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えて前記交流モータに充電した電力を供給させる、電源装置を提供する。
【0007】
前記発電機から前記交流モータへと流れる電流の大きさを検出する電流検出部を更に備え、前記充放電制御部は、前記非常動作において前記電流検出部が検出した電流の大きさが所定の値以上の場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えてもよい。
【0008】
前記充放電制御部は、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えた後に、前記電流検出部が検出した電流の大きさが所定の値未満となった場合、前記充放電切換部を放電状態から充電状態に切り換えてもよい。
【0009】
前記崩壊熱除去システムから前記ダンパを動作させるための指示信号を受信する受信部を更に備え、前記充放電制御部は、前記非常動作において前記受信部が前記ダンパを動作させることを示す指示信号を受信した場合に、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えてもよい。
【0010】
前記充放電制御部は、前記充放電切換部を充電状態から放電状態に切り換えた後に、所定の時間が経過した場合、前記充放電切換部を放電状態から充電状態に切り換えてもよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、前記高速炉の炉心で発生した崩壊熱を冷却するための崩壊熱除去システムであって、前記高速炉の炉心を循環した前記液体金属の温度を検出する温度検出器と、前記ダンパと前記交流モータとを有し、前記ダンパを開けることで外気を取り込んで循環する前記液体金属を冷却する前記空気冷却器と、前記温度検出器の温度検出結果に基づき、前記ダンパを開閉させるための指示信号を前記空気冷却器に供給するダンパ制御部と、前記ダンパ制御部による前記ダンパの動作に応じて、前記蓄電池から前記交流モータへの電力の供給を切り換える、第1の態様の電源装置とを備える、崩壊熱除去システムを提供する。
【0012】
前記ダンパ制御部は、前記定常動作から前記非常動作に切り換わったことに応じて、前記ダンパの開度を所定の第1開度にしてもよい。
【0013】
前記ダンパ制御部は、前記液体金属の温度が下降して所定の第1温度よりも低くなった場合に、前記ダンパの開度を前記第1開度よりも小さい開度の第2開度にしてもよい。
【0014】
前記ダンパ制御部は、前記ダンパを前記第2開度にした後に所定の時間が経過した場合に、前記ダンパの開度を前記第2開度よりも大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電源からの電力供給が得られなくなった場合に非常用の発電機に切り換えて負荷を起動するシステムにおいて、負荷の起動電流に対応しつつ、コストを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】崩壊熱除去システム100の従来の電源装置200の構成例を示す。
【
図3】電源装置200の負荷に供給する給電電流の一例を示す。
【
図4】本実施形態に係る電源装置300の構成例を示す。
【
図5】本実施形態に係る高速炉Sの1次ナトリウムの温度と、ダンパの動作状態と、入力電流Iinの変化との関係の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<高速炉Sの構成例>
図1は、本実施形態に係る高速炉Sの構成例を示す。高速炉Sは、プルトニウム等の原子を核分裂させて発生した熱で蒸気タービンを駆動して発電する。高速炉Sは、主容器10と、1次系ポンプ20と、中間熱交換器30と、2次系ポンプ40と、蒸気発生器50と、タービン60と、給水ポンプ70と、発電機80と、制御装置90と、崩壊熱除去システム100とを備える。
【0018】
主容器10は、炉心11と1次系ポンプ20と中間熱交換器30と冷却用の液体金属を収容し、内部の1次冷却材を保持する。炉心11は、プルトニウム、ウラン等の燃料と制御棒とが収容されており、核分裂の連鎖反応によりエネルギーを発生させる。
【0019】
1次系ポンプ20は、液体金属を循環させて炉心11を冷却する。液体金属は、一例として、金属ナトリウムを含む。1次系ポンプ20は、高速炉Sの1次冷却系を構成する。
図1は、1次系ポンプ20が、低温の金属ナトリウムを炉心11に供給して炉心11を冷却させ、炉心11の熱によって高温となった金属ナトリウムが炉心11から排出されている例を示す。
【0020】
中間熱交換器30は、炉心11から排出された高温の液体金属の熱を、1次冷却系とは異なる2次冷却系で循環している液体金属に伝える。言い換えると、中間熱交換器30は、炉心11で発生した熱を主容器10の外部の2次冷却系に伝える熱交換器である。これにより、1次冷却系の高温の液体金属は、熱を放出して低温の液体金属となる。そして、1次系ポンプ20は、低温になった液体金属を炉心11に供給して循環させる。なお、本実施形態において、1次系ポンプ20が循環させる液体金属を、1次ナトリウムと呼ぶこともある。
【0021】
2次系ポンプ40は、液体金属を循環させて、中間熱交換器30から伝わった熱を蒸気発生器50に伝える。2次系ポンプ40は、高速炉Sの2次冷却系を構成する。2次冷却系の液体金属は、蒸気発生器50で熱を放出する。そして、2次系ポンプ40は、温度が低くなった液体金属を中間熱交換器30に供給して循環させる。なお、本実施形態において、1次系ポンプ20が循環させる液体金属を、2次ナトリウムと呼ぶこともある。
【0022】
蒸気発生器50は、循環する液体金属によって伝わった熱により、蒸気を発生させる。タービン60は、発生した蒸気の流れを利用してホイール、ロータ等を有する回転体を回転させる。言い換えると、タービン60は、発生した蒸気の流れを機械的な回転運動に変換する。給水ポンプ70は、タービン60で用いた蒸気が液化した水を蒸気発生器50に供給して循環させる。発電機80は、タービン60による回転体の回転運動を電力に変換するタービン発電機である。
【0023】
制御装置90は、高速炉S内の各部を制御する。これにより、高速炉Sは、定常の動作時において、電力を発生させるプラントとして機能する。高速炉Sは、何らかの異常が発生した場合、原子炉の動作を緊急停止させる(原子炉トリップ)。例えば、制御装置90は、異常の発生を検知したことに応じて原子炉トリップ信号を各部に供給して停止状態へと移行させる。制御装置90は、例えば、サーバ、PC等のコンピュータである。このような高速炉Sの詳細な構造、動作等は、既知の技術なので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0024】
崩壊熱除去システム100は、このような原子炉トリップ信号を受信したことに応じて起動し、緊急停止動作を開始した後に高速炉Sの炉心で発生した崩壊熱を除去し炉心を冷却する。崩壊熱除去システム100は、温度検出器110と、空気冷却器120と、ダンパ制御部130と、電源装置200とを有する。
【0025】
温度検出器110は、主容器10内の高温の1次ナトリウムの温度を検出する。温度検出器110は、例えば、中間熱交換器30の1次ナトリウムの入口に設けられており、流入する1次ナトリウムの温度を検出する。
【0026】
空気冷却器120は、2次冷却系に設けられており、2次系ポンプ40が循環させる液体金属(2次ナトリウム)を冷却する。空気冷却器120は、入口ダンパ121、出口ダンパ122、外気ダクト123、及び交流モータを有する。入口ダンパ121は外気を取り入れて通過させる外気ダクト123の吸気口側に設けられており、出口ダンパ122は外気ダクト123の排気口側に設けられている。入口ダンパ121及び出口ダンパ122には、後述する交流モータがそれぞれ設けられている。そして、交流モータが回転することで対応するダンパが開閉する。
【0027】
外気ダクト123は、入口ダンパ121及び出口ダンパ122が開くことで外気を取り込むことができるようにファン等が設けられている。また、外気ダクト123の中には、2次ナトリウムを循環させるための液体金属伝熱管が設けられている。
【0028】
このような空気冷却器120は、入口ダンパ121及び出口ダンパ122を開けることで外気を取り込み、取り込んだ外気で液体金属伝熱管を除熱することで循環している2次ナトリウムを冷却する。なお、本実施形態において、入口ダンパ121及び出口ダンパ122をまとめてダンパと呼ぶことがある。
【0029】
ダンパ制御部130は、ダンパを開閉させるための指示信号を空気冷却器120に供給する。ダンパ制御部130は、例えば、温度検出器110の温度検出結果に基づいて指示信号を空気冷却器120に供給する。空気冷却器120は、このような指示信号を受信したことに応じて、交流モータでダンパを駆動してダンパを開閉させる。ダンパ制御部130は、ダンパの開度を変更する指示信号を空気冷却器120に供給してもよい。ダンパ制御部130は、例えば、サーバ、PC等のコンピュータである。また、ダンパ制御部130は、CPU等のプロセッサを含む制御回路であってもよい。コンピュータは、記憶部等に記憶されたプログラムを実行することにより、ダンパ制御部130として機能する。
【0030】
電源装置200は、崩壊熱除去システム100内の負荷に電力を供給する(負荷はファンを除いてもよい)。また、電源装置200は、崩壊熱除去システム100外の高速炉Sで用いる負荷等に電力を供給してもよい。まず、従来の電源装置200の構成例について、
図2を用いて説明する。
【0031】
<従来の電源装置200の構成例>
図2は、崩壊熱除去システム100の従来の電源装置200の構成例を示す。電源装置200は、電源母線210と、特高開閉装置220と、発電機230と、交流母線240と、スイッチ250と、補償装置260とを備える。
図2に示す電源装置200は、高速炉S内の負荷に電力を供給する例を示す。負荷は、定常負荷270及び間欠負荷280を有する。
【0032】
電源母線210は、特高開閉装置220を介して外部送電網に接続され、外部から電力が供給され得る。特高開閉装置220は、特別高圧の受電設備として機能する。また、1又は複数の発電機230が電源母線210と接続可能に設けられている。電源母線210は、外部電源、発電機230等から供給された電力を負荷に伝送するための母線である。負荷は、例えば、空気冷却器120のダンパを動作させるための交流モータである。
【0033】
発電機230は、何らかの異常により外部電源から電力が供給できなくなった場合に、電源母線210に接続され、負荷に電力を供給する。また、発電機230が何らかの異常により電力を供給できなくなった場合に、電源母線210に接続されて電力を供給する仮設の発電機230aが更に設けられていてもよい。発電機230は、一例として、ディーゼル発電機である。
【0034】
交流母線240は、電源母線210と種々の負荷に接続され、電源母線210から配電された電力を種々の負荷に供給する。定常負荷270は定常的に動作させる負荷であり、間欠負荷280は間欠的に動作させる負荷である。定常負荷270及び間欠負荷280は、例えば、計測制御装置電源、ダンパ駆動用交流モータである。
【0035】
定常負荷270及び間欠負荷280は、スイッチ250を介して交流母線240と接続する。スイッチ250は、例えば、ダンパ制御部130から供給される指示信号に応じて、負荷と電源母線210とを電気的に接続又は切断する。なお、スイッチ250は、負荷が交流モータの場合に、モータの回転方向を切り換えられるように構成されていてもよい。これにより、ダンパ制御部130、交流モータの回転方向を含む指示信号をスイッチ250に供給することで、ダンパを開閉させることができる。
【0036】
図2は、ダンパ制御部130が交流母線240と間欠負荷280及び定常負荷270とを接続するか否かを指示する例を示すが、これに限定されることはない。これに代えて、高速炉Sの制御装置90が負荷の一部の接続を指示してもよい。この場合、制御装置90は定常負荷270の一部又は全部の接続を制御してもよく、また、ダンパ制御部130が間欠負荷280の一部又は全部の接続を制御してもよい。
【0037】
図2に示す電源装置200は、特高開閉装置220、発電機230、及び交流母線240が電源母線210とスイッチを介して接続可能に設けられている例を示す。この場合、例えば、制御装置90が制御信号をスイッチに供給することで、これらの部材を電源母線210に接続するか否かを設定可能に構成されている。
【0038】
以上のように、定常負荷270及び間欠負荷280は、交流母線240から直接電源電圧を印加して起動させる直入起動となる。この場合、負荷には、起動時に定格の8~10倍に至る起動電流が流れることがある。このような起動電流について
図3を用いて説明する。
【0039】
<負荷に供給する給電電流の一例>
図3は、電源装置200の負荷に供給する給電電流の一例を示す。
図3の横軸は、崩壊熱除去システム100に原子炉トリップ信号が供給された後の経過時間を示し、縦軸は電源装置200の負荷に供給する給電電流を示す。外部送電網からの電力供給が得られなくなっているので、発電機230から電力が負荷に供給される。図中の点線は、発電機230の容量を示す。
【0040】
給電電流は、定常的に動作する定常負荷270により、時間的に略一定の電流を含む。また、崩壊熱除去システム100のダンパは、例えば、起動時に前開となったり、その後の除熱量に応じて開閉を繰り返したり、開度の変更が行われたりするので、間欠的に交流モータが動作する。給電電流は、このような間欠負荷280を駆動する場合に、発電機230の容量を超えてしまうほどの電流が間欠的に流れることがある。
【0041】
このような大きな起動電流に対応するためには、大容量の発電機を設けることや、個々の負荷に起動電流を補償する装置を設けること等が考えられる。
図2は、電源装置200の負荷に補償装置260がそれぞれ設けられている例を示す。補償装置260は、スターデルタ起動器、リアクトル起動器等である。このような起動機は、負荷の始動電流を制限する回路として既知であり、詳細な説明は省略する。
【0042】
以上の電源装置200を用いた崩壊熱除去システム100は、原子炉トリップ信号を受信したことに応じて起動し、液体金属の温度を低下させて高速炉Sの炉心11で発生した崩壊熱を除去して高速炉Sを安全に低温停止状態へと移行できる。
【0043】
しかしながら、
図2に示す従来の電源装置200は、複数の補償装置260を負荷毎に設けなければならず、システムが大型化してしまい、また、コストも高くなっていた。複数の補償装置260に代えて、大容量の発電機を設けることも考えられるが、システムが大型化することとコストが高くなることに変わりはない。またそれにより可搬性が損なわれる可能性がある。そこで、本実施形態に係る崩壊熱除去システム100は、負荷の起動電流に対応しつつ、システムの大型化を抑制して低コスト化させるようにする。このような崩壊熱除去システム100が用いる電源装置について次に説明する。
【0044】
<電源装置300の構成例>
図4は、本実施形態に係る電源装置300の構成例を示す。電源装置300は、
図2に示す電源装置200と同様に、高速炉Sで用いる負荷等に電力を供給する電源として機能する。本実施形態に係る電源装置300において、
図2に示された従来の電源装置200の動作と略同一のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。電源装置300は、蓄電池310と、充放電切換部320と、電流検出部330、充放電制御部340と、とを更に備える。
【0045】
蓄電池310は、電源母線210に接続可能に設けられており、外部電源から供給された電力の一部を充電する。蓄電池310は、電源母線210に接続可能に設けられている。蓄電池310は、何らかの異常により外部電源から電力が供給できなくなった場合、所定の期間において充電した電力を放電して負荷に供給する。所定の期間については後述する。
【0046】
充放電切換部320は、蓄電池310の充放電を切り換える。例えば、充放電切換部320は、電源母線210からの交流の電流を直流の電流に変換するコンバータを蓄電池310に接続して、電源母線210から供給される電力を蓄電池310に充電させる。また、充放電切換部320は、蓄電池310からの直流の電流を交流の電流に変換するインバータを電源母線210に接続して、蓄電池310に充電した電力を電源母線210へと放電させる。
【0047】
充放電切換部320は、充放電制御部340から受け取る制御信号に応じて、蓄電池310を充電させるか、又は放電させるかを切り換える。充放電切換部320は、例えば、複数のスイッチを用いてコンバータを通過する回路とインバータを通過する回路とを切り換え可能に構成されている。
【0048】
電流検出部330は、発電機230から負荷である交流モータへと流れる給電電流の大きさを検出する。これに代えて、電流検出部330は、発電機230から出力された給電電流と発電機230から蓄電池310に充電される充電電流との差を検出してもよい。電流検出部330は、一例として、交流電流計である。
図4は、電流検出部330が定常負荷270及び間欠負荷280に流れる給電電流の大きさを検出する例を示す。ここで、電流検出部330が検出する電流を入力電流Iinとする。
【0049】
充放電制御部340は、充放電切換部320の動作を制御する。充放電制御部340は、外部電源から電力が供給されている定常動作において充放電切換部320を充電状態にさせるように、充放電切換部320に制御信号を送信する。また、充放電制御部340は、外部電源から電力が供給できなくなった非常動作においてダンパを動作させる場合に、充放電切換部320を充電状態から放電状態に切り換えて交流モータに充電した電力を供給させるように、充放電切換部320に制御信号を送信する。
【0050】
例えば、充放電制御部340は、電流検出部330による入力電流Iinの検出結果に応じて、充放電切換部320の動作を制御する。この場合、充放電制御部340は、非常動作において電流検出部330が検出した電流の大きさが所定の値以上の場合に、充放電切換部320を充電状態から放電状態に切り換える。ここで、所定の値は、発電機230の容量値よりも小さい値であり、かつ、定常的に流れる電流値よりも大きい値に設定されることが望ましい。
【0051】
外部電源から電力が供給できなくなった非常動作において、電流検出部330が検出する入力電流Iinは、
図3に示すように変化する。例えば、負荷である交流モータを起動させる場合、定常的に流れる電流値よりも大きい値が流れる。そこで、充放電制御部340は、電流検出部330が所定の値よりも大きい入力電流Iinを検出したことに応じて、蓄電池310が充電した電力を負荷に供給する。これにより、電源装置300は、発電機230の容量値を超える電力を蓄電池310から補償することができる。
【0052】
このような電源装置300によれば、
図2で説明した補償装置260による補償動作を不要にして、補償装置260を省いて装置規模とコストを低減することができる。また、電源装置300によれば、発電機230の容量値を大きくしなくてもよく、装置規模とコストを低減することと可搬性の維持とができる。
【0053】
図3に示すように、負荷である交流モータを起動させた場合、入力電流Iinは短時間で減少して定常的に流れる電流値に戻る。そこで、充放電制御部340は、充放電切換部320を充電状態から放電状態に切り換えた後に、電流検出部330が検出した電流の大きさが所定の値未満となった場合、充放電切換部320を放電状態から充電状態に切り換える。これにより、電源装置300は、蓄電池310の放電する電力を低減させるので、高速炉Sの非常動作の状態が継続しても、蓄電池310による補償動作を対応して実行させることができる。
【0054】
これに代えて、又は、これに加えて、充放電制御部340は、充放電切換部320を充電状態から放電状態に切り換えた後に、所定の時間が経過した場合、充放電切換部320を放電状態から充電状態に切り換えてもよい。負荷である交流モータを動作させている期間(ダンパの開閉動作を開始してから終了するまでの時間)は、予め設定することができるので、所定の時間を当該期間よりも長い時間とすることで、充放電制御部340は、適切に蓄電池310を充電状態に切り換えることができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る電源装置300は、負荷の起動電流に対応しつつ、コストを低減させることができる。また、本実施形態において、電源装置300は、高速炉Sに用いる例を説明したが、これに限定されることはない。電源装置300は、電源からの電力供給が得られなくなった場合に非常用の発電機に切り換えて負荷を起動するシステム、プラント等に利用することができる。
【0056】
本実施形態に係る電源装置300において、充放電制御部340は、電流検出部330の検出結果に応じて充放電切換部320の動作を制御する例を説明したが、これに限定されることはない。電源装置300は、ダンパの開閉を指示する指示信号に応じて充放電切換部320の動作を制御してもよい。
【0057】
この場合、電源装置300は、崩壊熱除去システム100のダンパ制御部130からダンパを動作させるための指示信号を受信する受信部を更に備える。そして、充放電制御部340は、非常動作において受信部がダンパを動作させることを示す指示信号を受信した場合に、充放電切換部320を充電状態から放電状態に切り換える。このような構成の電源装置300は、電流検出部330を省いてもよい。以上の電源装置300であっても、上述のように、負荷の起動電流に対応しつつ、コストを低減させることができる。
【0058】
以上の本実施形態に係る電源装置300は、入力電流Iinの変化、指示信号の受信等に基づいて、蓄電池310による補償動作を実行する。これにより、電源装置300は、動作させる時刻を予測することが困難なダンパの間欠動作に対応して、蓄電池310による補償を容易に実行することができる。なお、崩壊熱除去システム100は、ダンパの開閉動作に加えて、ダンパの開度を細かく調整してもよい。
【0059】
<1次ナトリウムの温度、ダンパの動作状態、及び入力電流Iinの変化の一例>
図5は、本実施形態に係る高速炉Sの1次ナトリウムの温度と、ダンパの動作状態と、入力電流Iinの変化との関係の一例を示す。
図5の横軸は、崩壊熱除去システム100に原子炉トリップ信号が供給された後の経過時間を示す。
図5(a)の縦軸は、温度検出器110が検出した1次ナトリウムの温度を示す。
図5(b)の縦軸は、入口ダンパ121及び出口ダンパ122の開度を示す。ダンパの開度は、全閉状態、全開状態、全閉状態と全開状態の間の中間開度状態等である。
図5(c)の縦軸は、電流検出部330が検出した入力電流Iinの大きさを示す。
【0060】
図5は、時刻0において何らかの異常が発生し、原子炉の動作を緊急停止させる動作を開始した例を示す。この場合、時刻0において、ダンパ制御部130は、制御装置90から原子炉トリップ信号を受信する。そして、ダンパ制御部130は、定常動作から非常動作に切り換わったことに応じて、ダンパの開度を所定の第1開度にする。第1開度は、一例として、全開状態である。
【0061】
この場合、時刻0において、ダンパ制御部130は、ダンパを全開状態にする指示信号を空気冷却器120に送信する。これにより、間欠負荷280である交流モータが駆動するので、入力電流Iinが発電機230の容量を超えるように上昇する。しかしながら、電源装置300は、このような入力電流Iin又は指示信号に基づいて、蓄電池310による補償動作を実行するので、交流モータを安定に動作させてダンパを全開状態にできる。
【0062】
そして、入力電流Iinは発電機230の容量未満の値に減少し、電源装置300は、蓄電池310を充電状態に戻して補償動作を終了する。これにより、1次ナトリウムの温度は低減する。
図5は、1次ナトリウムの温度を所定の早さで低減させた例を示す。なお、1次ナトリウムの温度が安定に低減するように、ダンパが全開状態における空気冷却器120の冷却性能が、予め設定されていることが望ましい。
【0063】
そして、ダンパ制御部130は、液体金属の温度が下降して所定の第1温度よりも低くなった場合に、ダンパの開度を第1開度よりも小さい第2開度にする。ここで、第1温度は、例えば、高速炉Sが温態停止状態となる温度である。
図5の例の場合、時刻0から4時間が経過した時点において、1次ナトリウムの温度が第1温度以下なので、ダンパ制御部130は、ダンパを第1中間開度にする指示信号を空気冷却器120に送信する。
【0064】
これにより、入力電流Iinが発電機230の容量を超えるように上昇するが、上述のように、電源装置300は蓄電池310による補償動作を実行するので、交流モータを安定に動作させてダンパを第1中間開度にできる。そして、入力電流Iinは発電機230の容量未満の値に減少し、電源装置300は、蓄電池310を充電状態に戻して補償動作を終了する。
【0065】
これにより、崩壊熱除去システム100は、1次ナトリウムの温度の低下を緩やかにさせる。なお、この場合に、1次ナトリウムの温度がほぼ一定の値を保つように、ダンパの第1中間開度が予め設定されていることが望ましい。
図5は、1次ナトリウムの温度がほぼ一定の温態停止状態となる例を示す。
【0066】
そして、ダンパ制御部130は、ダンパを第2開度にした後に所定の時間が経過した後、ダンパの開度を第2開度よりも大きくする。
図5の例の場合、ダンパの開度を第1中間開度にしてから10時間以上経過しても、1次ナトリウムの温度がダンパの開度を第1中間開度にしたときの温度からほとんど変化がなく安定している。次に、ダンパ制御部130は、時刻0から14.5時間が経過した時点において、ダンパを第1中間開度から全開状態にする指示信号を空気冷却器120に送信する。
【0067】
これにより、入力電流Iinが発電機230の容量を超えるように上昇するが、上述のように、電源装置300は蓄電池310による補償動作を実行するので、交流モータを安定に動作させてダンパを全開状態にできる。そして、入力電流Iinは発電機230の容量未満の値に減少し、電源装置300は、蓄電池310を充電状態に戻して補償動作を終了する。これにより、1次ナトリウムの温度は更に低減する。
図5は、1次ナトリウムの温度を所定の早さで低減させた例を示す。
【0068】
そして、ダンパ制御部130は、液体金属の温度が下降して所定の第2温度よりも低くなった場合に、ダンパの開度を第1開度よりも小さい第3開度にする。ここで、所定の第2温度は、例えば、高速炉Sが低温停止状態となる温度である。
図5の例の場合、時刻0から21時間が経過した時点において、1次ナトリウムの温度は第2温度以下なので、ダンパ制御部130は、ダンパを第2中間開度にする指示信号を空気冷却器120に送信する。
【0069】
これにより、入力電流Iinが発電機230の容量を超えるように上昇するが、上述のように、電源装置300は蓄電池310による補償動作を実行するので、交流モータを安定に動作させてダンパを第2中間開度にできる。そして、入力電流Iinは発電機230の容量未満の値に減少し、電源装置300は、蓄電池310を充電状態に戻して補償動作を終了する。なお、この場合に、1次ナトリウムの温度がほぼ一定の値を保つように、ダンパの第2中間開度が予め設定されていることが望ましい。
図5は、崩壊熱除去システム100が1次ナトリウムの温度をほぼ一定の低温停止状態とする例を示す。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る崩壊熱除去システム100は、ダンパの開度を細かく調整して間欠的にダンパを開閉することで、より安全に高速炉Sを低温停止状態にすることができる。そして、電源装置200は、ダンパ制御部130によるダンパの動作に応じて、蓄電池310から交流モータへの電力の供給を切り換えることで、このような崩壊熱除去システム100の動作に対応した補償動作を実行できる。
【0071】
以上の本実施形態に係る電源装置300は蓄電池310による補償動作を実行する例を説明したが、これに限定されることはない。これに加えて、蓄電池310は、負荷に定常的に電力を供給してもよい。例えば、発電機230に何らかの故障が発生した場合、発電機230を仮設の発電機230a等に交換することがある。外部電源から電力が供給できなくなった非常動作において、このような発電機230の故障が発生した場合、電源装置300は、負荷に電力を供給することができなくなってしまう。
【0072】
そこで、発電機230を仮設の発電機230aに交換する期間において、充放電制御部340は、蓄電池310から放電させて負荷に定常的に電力を供給する。これにより、非常動作において、発電機230に故障が発生しても、負荷に電力を供給することができ、安全に高速炉Sを低温停止状態にすることができる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0074】
10 主容器
11 炉心
20 1次系ポンプ
30 中間熱交換器
40 2次系ポンプ
50 蒸気発生器
60 タービン
70 給水ポンプ
80 発電機
90 制御装置
100 崩壊熱除去システム
110 温度検出器
120 空気冷却器
121 入口ダンパ
122 出口ダンパ
123 外気ダクト
130 ダンパ制御部
200 電源装置
210 電源母線
220 特高開閉装置
230 発電機
240 交流母線
250 スイッチ
260 補償装置
270 定常負荷
280 間欠負荷
300 電源装置
310 蓄電池
320 充放電切換部
330 電流検出部
340 充放電制御部