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特開2023-170086オーディオシステム及び車載システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170086
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】オーディオシステム及び車載システム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/04 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H04R3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081557
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】丹野 慶太
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA05
5D220AB01
(57)【要約】
【課題】比較的簡易な構成によって車外への音漏れを効果的に抑制できる「オーディオシステム及び車載システム」を提供する。
【解決手段】i番目のオーディオソース機器ASiが出力した音X1(f)は、i番目の音漏低減フィルタWiで、音漏低減フィルタWiに設定されている周波数伝達関数Wii(f)で調整され、i番目のスピーカSPKiからユーザPiに向けて出力される。音漏低減フィルタWiには、SPKiからユーザPiまでの周波数伝達関数のゲインに比べて、SPKiから車外の1または複数の所定の音漏れ参照位置までのゲインが比較的に大きい傾向がある周波数では音を比較的に小さくし、比較的に小さい傾向がある周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数Wii(f)を設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載されたオーディオシステムであって、
音源装置と、
スピーカと、
前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性で前記スピーカに伝達するフィルタとを有し、
前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記スピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の自動車近傍の位置である参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を比較的に小さくし、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項2】
請求項1記載のオーディオシステムであって、
前記参照位置は、前記スピーカの近傍となる位置であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項3】
自動車に搭載されたオーディオシステムであって、
音源装置と、
スピーカと、
前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性で前記スピーカに伝達するフィルタとを有し、
前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記スピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の自動車近傍の相互に異なる位置である複数の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい傾向にある周波数では音を比較的に小さくし、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記複数の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい傾向にある周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項4】
請求項3記載のオーディオシステムであって、
前記複数の参照位置の数をL、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数をC11(f)、C11(f)の複素共役をC* 11(f)、前記スピーカからz(但し、zは1からLまでの整数)番目の前記参照位置までの周波数伝達関数をCiz(f)、Ciz(f)の複素共役をC* iz(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性W11は、
【数1】
で表されることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項5】
請求項3記載のオーディオシステムであって、
前記音源装置の出力する音を入力とし出力が前記のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、前記音源装置の出力する音に前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音と前記ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、前記複数の参照位置のそれぞれに配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、前記フィルタに周波数伝達特性として設定されていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項6】
請求項3記載のオーディオシステムであって、
前記音源装置の出力する音を入力とし出力が前記のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、前記音源装置の出力する音に前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音と前記ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差を所定の重みで重みづけした値と、前記複数の参照位置のそれぞれに配置した複数のマイクの出力をマイク毎に設定した重みで重みづけした値とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、前記フィルタに周波数伝達特性として設定されていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項7】
自動車に搭載されたオーディオシステムであって、
音源装置と、
1番目からn番目(但し、n>2)までの複数のスピーカと、
1番目からn番目(但し、n>2)までの複数のフィルタとを有し、
i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達し、
i番目の前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記i番目のスピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の当該i番目のスピーカ近傍の位置であるi番目の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を比較的に小さくし、前記i番目のスピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記i番目の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7記載のオーディオシステムであって、
前記フィルタは、グラフィックイコライザーであることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5または6記載のオーディオシステムを複数備え、
各オーディオシステムは、前記自動車の複数の席のうちの、相互に異なる席を前記所定の席とするオーディオシステムであることを特徴とする車載システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されたオーディオシステムの車外への音漏れを抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されたオーディオシステムの車外への音漏れを抑制する技術としては、車外に向けて音を出力する車外向スピーカを設け、車外向スピーカから、オーディオシステムの出力音の位相を反転させた音を、オーディオシステムの出力音を車外において打ち消すキャンセル音として出力する技術が知られている(たとえば、同特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-254101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した車外向スピーカからキャンセル音を出力する技術によれば、オーディオシステムのスピーカの他に車外向スピーカが別途に必要となる。
また、この技術によれば、車外向スピーカの近傍でしかオーディオシステムの出力音の音漏れを抑制することができないため、広い方向範囲についてオーディオシステムの車外への音漏れを抑制する場合には、多数の車外向スピーカが必要となる。
よって、この技術によって、オーディオシステムの車外への音漏れを充分に抑制しようとすると、構成の規模増大化や複雑化が避けられない。
そこで、本発明は、比較的簡易な構成によって、自動車に搭載されたオーディオシステムの車外への音漏れを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載されたオーディオシステムに、音源装置と、スピーカと、前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性で前記スピーカに伝達するフィルタとを備えたものである。但し、前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記スピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の自動車近傍の位置である参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を比較的に小さくし、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数とする。
【0006】
ここで、このオーディオシステムにおいて、前記参照位置は、前記スピーカの近傍となる位置としてよい。
また、前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載されたオーディオシステムに、音源装置と、スピーカと、前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性で前記スピーカに伝達するフィルタとを備えたものである。但し、前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記スピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の自動車近傍の相互に異なる位置である複数の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい傾向にある周波数では音を比較的に小さくし、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記複数の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい傾向にある周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数とする。
【0007】
ここで、このオーディオシステムは、前記複数の参照位置の数をL、前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数をC11(f)、C11(f)の複素共役をC 11(f)、前記スピーカからz(但し、zは1からLまでの整数)番目の前記参照位置までの周波数伝達関数をCiz(f)、Ciz(f)の複素共役をC iz(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性W11が、
【0008】
【数1】
【0009】
で表されるものであってよい。
または、このオーディオシステムは、前記音源装置の出力する音を入力とし出力が前記のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、前記音源装置の出力する音に前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音と前記ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、前記複数の参照位置のそれぞれに配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、前記フィルタに周波数伝達特性として設定されているものであってもよい。
【0010】
または、このオーディオシステムは、前記音源装置の出力する音を入力とし出力が前記のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、前記音源装置の出力する音に前記スピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音と前記ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差を所定の重みで重みづけした値と、前記複数の参照位置のそれぞれに配置した複数のマイクの出力をマイク毎に設定した重みで重みづけした値とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、前記フィルタに周波数伝達特性として設定されているものであってもよい。
【0011】
また、前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載されたオーディオシステムに、音源装置と、1番目からn番目(但し、n>2)までの複数のスピーカと、1番目からn番目(但し、n>2)までの複数のフィルタとを備えたものである。i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、前記音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達しする。また、i番目の前記フィルタに設定されている周波数伝達特性は、前記スピーカから、前記自動車の所定の席に着座したユーザである対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記i番目のスピーカから、前記自動車に対して所定の相対位置を有する自動車車外の当該i番目のスピーカ近傍の位置であるi番目の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を比較的に小さくし、前記i番目のスピーカから前記対象ユーザの音の聴取位置までの周波数伝達関数のゲインに対する、前記i番目の参照位置までの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を比較的に大きくする周波数伝達関数とする。
【0012】
ここで、以上のオーディオシステムにおいて前記フィルタは、グラフィックイコライザーであってもよい。
また、以上のオーディオシステムを複数備え、各オーディオシステムを、前記自動車の複数の席のうちの、相互に異なる席を前記所定の席とするオーディオシステムとしてもよい。
以上のようなオーディオシステムによれば、スピーカに伝達する音源装置の出力音を、設定されている周波数伝達特性で調整するフィルタを設けるだけの比較的簡易な構成で、ユーザが聴取できるスピーカの出力音の音量や聴感上の品質をできるだけ低減しない形態で、車外に漏れ出るスピーカの出力音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、比較的簡易な構成によって、自動車に搭載されたオーディオシステムの車外への音漏れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るオーディオシステムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るオーディオシステムのスピーカの配置例を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る音漏低減フィルタの伝達関数の学習時のマイクの配置例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る音漏低減フィルタの伝達関数の学習の構成を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る音漏低減フィルタの伝達関数の学習の他の構成例を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るオーディオシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、第1実施形態について説明する。
図1に、本第1実施形態に係るオーディオシステムの構成を示す。
オーディオシステムは自動車に搭載されるシステムであり、iを1からnまでの数として、n個のサブシステムSSiを備えている。
i番目のサブシステムSSiは、i番目のオーディオソース機器ASi、i番目の音漏低減フィルタWi、i番目のSPKiを備えている。
サブシステムSSiは、自動車のi番目の席用のシステムであり、オーディオソース機器ASiは、i番目の席に着座したユーザPiが聴取する音を出力する装置である。サブシステムSSiにおいて、オーディオソース機器ASiが出力した音Xi(f)は、音漏低減フィルタWiで、音漏低減フィルタWiに設定されている周波数伝達関数Wii(f)で調整され、i番目の席近くに配置された、ユーザPiに向けて音を放射するスピーカSPKiから出力される。
【0016】
ここで、以下では、n=4であり、iが1から4までの数であり、自動車の1番目の席が自動車の右前席であり、2番目の席が自動車の左前席であり、3番目の席が自動車の右後席であり、4番目の席が自動車の左後席である場合を例にとり説明を行う。
この場合、図2に示すように、たとえば、サブシステムSS1のスピーカSPK1は自動車の右前ドアに配置され、サブシステムSS2のスピーカSPK2は左前ドアに配置され、サブシステムSS3のスピーカSPK3は右後ドアに配置され、サブシステムSS4のスピーカSPK4は左後ドアに配置される。
【0017】
ここで、i番目のサブシステムSSiの音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)は、以下のようにして予め算出され設定される。
ここで、周波数伝達関数Wii(f)の算定にはマイクMC1からマイクMCQ(Q>2)までの、Q個のマイクを用いる。以下では、Q=5であり、マイクMC1からマイクMC5までの5個のマイクを用いるものとして説明を行う。
サブシステムSS1の音漏低減フィルタW1の周波数伝達関数W11(f)を算出する際には、図3aに示すように、マイクMC1を1番目の座席である右前席に着座したユーザの音の聴取位置に配置し、マイクMC2、マイクMC3、マイクMC4、マイクMC5を、所定の車外の音漏れ参照位置のそれぞれに配置する。ここでは、音漏れ参照位置を、スピーカSPK1、スピーカSPK2、スピーカSPK3、スピーカSPK4の近くの4つの車外位置のそれぞれとする。
【0018】
また、サブシステムSS2の音漏低減フィルタW2の周波数伝達関数W22(f)を算出する際には、図3bに示すように、マイクMC2、マイクMC3、マイクMC4、マイクMC5の配置は図3aの場合と同様とし、マイクMC1を2番目の座席である左前席に着座したユーザの音の聴取位置に配置する。
【0019】
また、サブシステムSS3の音漏低減フィルタW3の周波数伝達関数W33(f)を算出する際には、図3cに示すように、マイクMC2、マイクMC3、マイクMC4、マイクMC5の配置は図3aの場合と同様とし、マイクMC1を3番目の座席である右後席に着座したユーザの音の聴取位置に配置する。
【0020】
また、サブシステムSS4の音漏低減フィルタW4の周波数伝達関数W44(f)を算出する際には、図3dに示すように、マイクMC2、マイクMC3、マイクMC4、マイクMC5の配置は、図3aの場合と同様とし、マイクMC1を4番目の座席である左後席に着座したユーザの音の聴取位置に配置する。
【0021】
そして、i番目のサブシステムSSiの音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)を図4に示す構成によって算出する。
図示するように、この構成は、オーディオソース機器ASi、目標設定部301、適応フィルタ302、スピーカSPKi、上述したMC1からMC5までの5個のマイク、AD1からAD5までの5個の減算器を備えている。
目標設定部301は、オーディオソース機器ASiの出力Xi(f)を入力とする5個のフィルタ3011を備えており、i番目のフィルタ3011には、スピーカSPKiからj番目のマイクMCj(jは1から5までの数)までの目標とする周波数伝達関数Hij(f)が設定されている。
【0022】
適応フィルタ302は、オーディオソース機器AS1の出力Xi(f)を入力とする可変フィルタ3021と、適応アルゴリズム実行部3022を備えており、可変フィルタ3021の出力がスピーカSPKiから出力される。
j番目の加算器ADjは、周波数伝達関数Hij(f)が設定されたj番目のフィルタ3011の出力Tj(f)からj番目のマイクMCjの出力Yj(f)を減算し、j番目のエラーEj(f)として適応フィルタ302に出力する。
適応フィルタ302の適応アルゴリズム実行部3022は、Multiple Error Filterd-X LMS(MENLSM)などの所定の適応アルゴリズムを実行し、5個の減算器AD1-AD5から出力されるエラーE1(f)からエラーE5(f)までの5個のエラーが全体として最小化するように、可変フィルタ3021の周波数伝達特性Giiを更新する適応動作を行う。
【0023】
そして、このような構成において、オーディオソース機器ASiにXi(f)の出力を行わせながら、適応アルゴリズム実行部3022に適応動作を行わせ、可変フィルタ3021の周波数伝達特性Giiが収束したならば、収束した周波数伝達特性Giiを、サブシステムSSiの音漏低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)とする。
【0024】
ここで、目標設定部301の1番目のフィルタ3011には、スピーカSPKiからユーザPiまでの目標とする周波数伝達関数を周波数伝達関数Hi1(f)として設定し、目標設定部301の2番目以降のフィルタ3011の周波数伝達関数Hi2からHi5を、全周波数についてゲイン0となるように設定する。
【0025】
この場合、スピーカSPKiからj番目までのマイクMCjまでの実際の周波数伝達関数をCijと表すこととして、算出される周波数伝達関数Wii(f)は、A*はAの複素共役を表すものとして、式1のようになる。
【0026】
【数2】
【0027】
このようにして算出して設定したサブシステムSSiの音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)によれば、Ci1(f)によって示されるスピーカSPKiからユーザPi(マイクMC1)までのゲインに比べて、mを2から5までの数としてCim(f)で示される、スピーカSPKiから音漏れ参照位置(マイクMC2-MC5)までのゲインが大きい傾向がある周波数では音を比較的に小さくし、スピーカSPKiからユーザPi(マイクMC1)までのゲインに比べて、Cim(f)で示されるスピーカ、SPKiから音漏れ参照位置(マイクMC2-MC5)までのゲインが小さい傾向がある周波数では音を比較的に大きくする調整が音漏低減フィルタWiによって行われることとなる。
【0028】
そして、この結果、i番目のユーザPiが聴取できるスピーカSPKiの出力音の音量や聴感上の品質をできるだけ低減しない形態で、音漏れを効果的に抑制することができる。
ところで、以上のようなi番目のサブシステムSSiの音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)の算出は、図5に示すように、MP1からMP5までの乗算器を設け、乗算器MPjで、ADjの出力するエラーEj(f)に重みKjを乗算して、適応フィルタ302に出力してもよい。
【0029】
また、上述のようにmを2から5までの数として、
im *(f) Cim(f)/Ci1 *(f) Ci1(f)
が最大となるmをdとし、エラーE(f)以外のエラーEm(f)の重みKmは0とし、エラーEd(f)とエラーE1(f)の重みKd、K1を1としてよく、この場合、音漏低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)は式2となる。
【0030】
【数3】
【0031】
なお、図3に示したマイクMCjの配置の場合、
im *(f) Cim(f)/Ci1 *(f) Ci1(f)
が最大となるCim(f)は、スピーカSPKiに最も近いi+1番目のマイクMC(i+1)までの周波数伝達関数Ci(i+1)であることが期待できるので、無条件にd=i+1として、エラーE(f)以外のエラーEm(f)の重みKmは0とし、エラーEd(f)とエラーE1(f)の重みKd、K1を1としてもよい。
【0032】
または、音漏れ参照位置のうちの音漏れを最も抑制したい音漏れ参照位置に配置したマイクをマイクMCRとして、d=Rとして、エラーE(f)以外のエラーEm(f)の重みKmは0とし、エラーEd(f)とエラーE1(f)の重みKd、K1は1としてもよい。
【0033】
このようにすることにより、スピーカSPKiの出力音が最も大きく漏れ聞こえてしまう車外の音漏れ参照位置、または、音漏れを最も抑制したい音漏れ参照位置へのスピーカSPKiの出力音の低減を最も効果的に行うことができる。また、周波数伝達関数Wii(f)の算出に必要となる、適応アルゴリズム実行部3022の適応動作の処理量も低減できる。
【0034】
以上、本発明の第1実施形態について説明した。
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6に、オーディオシステムの構成を示す。
本第2実施形態に係るオーディオシステムにおいては、第1実施形態と異なり、全てのSPKiが、1番目の席である左前席のユーザP1用に使用される。
図示するように、このオーディオシステムは、iを1から4までの数として、1つのオーディオソース機器AS1、4つの音漏低減フィルタWi、4つのSPKiを備えている。
オーディオソース機器ASiが出力したSPKi用の音Xi(f)は、音漏低減フィルタWiで、音漏低減フィルタWiに設定されている周波数伝達関数Wii(f)で調整され、スピーカSPKiから出力される。
音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)は予め算出され設定される。
音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)の算定は、図3aに示したようにマイクMC1-マイクMC5を配置した上で、図4、または、図5において、オーディオソース機器ASiをオーディオソース機器AS1に置き換えた構成において行う。
【0035】
なお、i番目の音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)の算定を行う際には、i番目のスピーカSPKi以外のスピーカの出力は停止する。
また、図5において、オーディオソース機器ASiをオーディオソース機器AS1に置き換えた構成において周波数伝達関数Wii(f)を算出する場合には、上述のように無条件にd=i+1として、エラーE(f)以外のエラーEm(f)の重みKmは0とし、エラーEd(f)とエラーE1(f)の重みKd、K1は1としてもよい。
【0036】
このように、4つの音漏低減フィルタWiの周波数伝達関数Wii(f)の算定を独立して行うことにより、4つの音漏低減フィルタWiは異なる特性を持つこととなる。よって、4つの音漏低減フィルタWiの異なる特性によって各々調整された4つのスピーカSPKiの出力音が相互に補い合って、ユーザP1に聞こえるオーディオソース機器AS1の出力音の音質の低下を抑制できることが期待できる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上の各実施形態における音漏低減フィルタWiの作用は、オーディオソース機器の出力音Xi(f)の周波数毎のゲインの調整であるので、音漏低減フィルタWiとしては、たとえば1/3オクターブバンド毎といったような周波数帯域毎にゲインを調整するグラフィックイコライザーを用いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
AS…オーディオソース機器、AD…減算器、MC…マイク、MP…乗算器、P…ユーザ、SPK…スピーカ、W…音漏低減フィルタ、301…目標設定部、302…適応フィルタ、3011…フィルタ、3021…可変フィルタ、3022…適応アルゴリズム実行部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6