(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170142
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】木質部材コンクリート部材合成構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/29 20060101AFI20231124BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20231124BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
E04C3/29
E04B1/30 C
E04B1/58 509E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081673
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】麻生 直木
(72)【発明者】
【氏名】渡慶次 明
(72)【発明者】
【氏名】神田 泰伸
【テーマコード(参考)】
2E125
2E163
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC24
2E125AF01
2E125AF05
2E125AG02
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG60
2E125BA02
2E125BB22
2E125BB23
2E125BD01
2E163FA12
2E163FC03
2E163FD43
2E163FD48
2E163FF42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼材補強されたコンクリート部材と木質部材とをバランスよい断面割合で一体的に配置した合成断面構造部材を提供する。
【解決手段】鋼材補強されたコンクリート部材12を構造用集成材からなる木質部材11U,11Lで挟持して構造的に一体化させるとともに、コンクリート部材12と木質部材11U,11Lとの間に、部材長手方向に沿って複数のせん断力伝達手段16,17を設けることで合成構造部材を構成し、構造体の構成部材(横架材10)として用いられた際に、作用外力に対して一体変形可能で十分な耐力を発揮させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材補強されたコンクリート部材が、積層形成された集成材からなる木質部材で挟持されて一体化されてなる合成構造であって、該合成構造部材に作用する外力に対して一体変形可能な合成断面を有することを特徴とする木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項2】
前記コンクリート部材と前記木質部材との間に、部材長手方向に沿って複数のせん断力伝達手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項3】
前記せん断力伝達手段は、前記木質部材及び前記コンクリート部材内に挿入された鋼板と、該鋼板を固定保持するドリフトピンからなる請求項2に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項4】
前記せん断力伝達手段は、前記木質部材と前記コンクリート部材とを連結するように配設されたラグスクリューボルトからなる請求項2に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項5】
前記コンクリート部材と前記木質部材とは面接着により一体化された請求項1に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項6】
前記合成構造は、構造物の横架材または鉛直支持部材に適用可能な部材形状に製作される請求項1に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【請求項7】
前記コンクリート部材は鉄筋コンクリート部材であり、前記木質部材は構造用集成材である請求項1に記載の木質部材コンクリート部材合成構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質部材と鉄筋コンクリート部材とを一体化した、横架材あるいは鉛直支持部材に適用される木質部材コンクリート部材合成構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木質部材と鉄筋コンクリート部材とを一体化した合成構造部材の一例として、
図18に示したT形断面形状からなる梁部材100(横架材)がある。図示したような断面形状の横架材100では、鉄筋コンクリート部材101からなるフランジ部分と木質部材102からなるウエブ部分とを一体的に接合し、曲げ作用時の梁断面形状を保持させるように挙動する。この場合、鉄筋コンクリート部材101と木質部材102との合成断面の効果により梁としての曲げ剛性は向上するが、梁耐力の向上はあまり期待できない。一方、柱等の鉛直支持部材として利用される場合、大きな圧縮力を保持する場合、断面が過大になり適正な建築計画が実現できないという問題がある。
【0003】
また、木質部材と鉄筋コンクリート部材との合成構造部材の一例として特許文献1に開示された複合梁がある。この複合梁では、鉄筋コンクリート部材がT形断面形状梁で、そのウエブ部分の側面を覆う側面部材として木質部材が用いられている。さらに鉄筋コンクリート部材と木質部材との応力負担の一体化を図るために、応力分担手段として梁ウエブ部分を幅方向に貫通する複数本のボルトがナット締めされて取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図18に示した複合梁を構成する横架材100では、木質部材102の上面に所定の梁幅からなる鉄筋コンクリート部材101を載せ、ボルト等で両者を一体化させるが、鉄筋コンクリート部材101と木質部材102を上下に合わせることになるため部材せい(梁せい)が大きくなる。横架材100で部材せいが大きくなると天井が低くなり、所定の天井高さを確保するために階高を大きくする必要がある。そのため、建物高さが大きくなり、外壁面も多くなり、建設コストが増加するという問題がある。また、構造上の問題として、木質部材の上に鉄筋コンクリート部材が重ねられているだけでは、横架材100の耐力を向上は見込めない。
【0006】
また、特許文献1に開示された複合梁では、応力分担手段としてのボルトの機能によって、鉄筋コンクリート梁と木質材とは一体的な力学的挙動を示すが、断面積の大きな鉄筋コンクリート梁が構造主体となっており、側部に設けられた断面積の小さな木質材は補助的な構造部材であり、小さな応力負担しか考慮されていない。また、鉛直支持部材としての断面形は想定されていない。
【0007】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、鉄筋等の補強材を含むコンクリート部材と木質部材とがバランスよい断面割合で一体的に配置された合成断面を形成し、横架材においては曲げ作用時に効果的な合成構造として機能して梁耐力の向上が図れ、軸方向支持部材においては、軸圧縮に対する柱耐力が向上できる木質部材コンクリート部材合成構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鋼材補強されたコンクリート部材が、積層形成された集成材からなる木質部材で挟持されて一体化されてなる合成構造であって、該合成構造部材に作用する外力に対して一体変形可能な合成断面を有することを特徴とする。
【0009】
前記コンクリート部材と前記木質部材との間に、部材長手方向に沿って複数のせん断力伝達手段が設けられたことが好ましい。
【0010】
前記せん断力伝達手段は、前記木質部材及び前記コンクリート部材内に挿入された鋼板と、該鋼板を固定保持するドリフトピンからなることが好ましい。
【0011】
前記せん断力伝達手段は、前記木質部材と前記コンクリート部材とを連結するように配設されたラグスクリューボルトからなることが好ましい。
【0012】
前記コンクリート部材と前記木質部材とは面接着により一体化されたことが好ましい。
【0013】
前記合成構造は、構造物の横架材または鉛直支持部材に適用可能な部材形状に製作されることが好ましい。
【0014】
前記コンクリート部材は鉄筋コンクリート部材であり、前記木質部材は構造用集成材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、横架材、軸方向支持材において、鉄筋等の補強材を含むコンクリート部材と木質部材とがバランスよい断面割合で配置された合成断面を構成したことで、横架材の曲げ強度、耐力、鉛直支持部材の軸圧縮に対する柱耐力が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第1実施形態としての横架材の断面を示した断面図。
【
図2】
図1に示した横架材を適用した柱梁構造の一例を示した概略骨組構造図。
【
図3】
図1に示した横架材の断面構成を説明するために、横架材の一部を切り取って示した斜視図。
【
図4】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第2実施形態としての横架材の断面を示した断面図。
【
図5】
図4に示した横架材を適用した柱梁構造の一例を示した概略骨組構造図。
【
図6】
図4に示した横架材の断面構成を説明するために、横架材の一部を切り取って示した斜視図。
【
図7】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第3実施形態としての横架材の断面を示した断面図。
【
図8】
図7に示した横架材の断面構成を説明するために、横架材の一部を切り取って示した斜視図。
【
図9】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第4実施形態としての横架材の断面を示した断面図。
【
図10】
図9に示した横架材の断面構成を説明するために、横架材の一部を切り取って示した斜視図。
【
図11】
図9に示した横架材の梁断面に貫通孔を形成した変形例を示した断面図。
【
図12】
図9に示した構成の横架材の鉄筋コンクリート梁部分を現場打ちコンクリートで構築するようにした変形例における木質部材の断面を示した断面図。
【
図13】
図12に示した横架材の鉄筋コンクリート梁断面に貫通孔を形成した変形例を示した断面図。
【
図14】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造を鉛直支持部材(柱部材)に適用した第5実施形態における鉛直支持部材断面を示した断面図。
【
図15】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造を横架材(梁)と鉛直支持部材(柱部材)とに適用した一例を示した概略骨組構造図。
【
図16】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造を鉛直支持部材(柱部材)に適用した第6実施形態における鉛直支持部材の断面形状2例((a)、(b))を示した断面図。
【
図17】本発明の木質部材コンクリート部材合成構造を横架材(梁)と鉛直支持部材(柱部材)とに適用した一例において柱梁接合部(a)、鉛直支持部材(b)を鉄筋コンクリート造とした構造例を示した概略骨組構造図。
【
図18】従来の木質部材と鉄筋コンクリート部材からなるT形断面合成構造梁の一例を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の複数の実施形態の構造例について添付図面を参照して説明する。第1実施形態~第4実施形態において、横架材としての合成構造について説明し、第5実施形態、第6実施形態において、鉛直支持部材としての合成構造について説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第1実施形態として、木質梁部材11に構造用集成材を、鉄筋コンクリート梁部材12にコンクリート部材を採用した横架材10の合成断面形状を示した横断面図である。この横架材10は、
図1に示したように、扁平梁形状の鉄筋コンクリート梁部材12の上下に、扁平梁の梁幅より小さな梁幅からなる断面形状の矩形の木質梁部材11が接合された合成構造部材である。なお、本実施形態においては横架材として
図2に例示したラーメン構造の梁部材を想定しているため、以下、本発明の各実施形態で説明する横架材を合成構造梁10と呼ぶ。また、コンクリート部材としては製造の容易化の点からプレキャストコンクリート部材を想定しているが、現場打設コンクリートによってコンクリート部材を製造してよいことは言うまでもない。
【0019】
本実施形態の合成構造梁10の木質梁部材11としては、同図に示したように、鉄筋コンクリート梁部材の上下を挟むように、所定寸法の矩形断面に積層して接合された構造用集成材が採用されている。本実施形態で用いられる構造用集成材はJAS規格で規定され、同一条件で製造された2列の集成材とするための幅方向の接着工程、ラミナを積層接着した複数の構成単位の積層方向の接着(二次接着)工程を経て製作されている。木質梁部材11は、具体的にはスギ、カラマツ等からなるラミナを所定厚さに積層接着してなる単位幅200mm、高さ375mmの集成材を幅方向に2列接着することで、梁幅400mm、高さ375mmの部材で構成されている。
【0020】
本実施形態の合成構造梁10を構成する鉄筋コンクリート梁部材12は、所定の梁主筋が断面内に配筋された梁幅700mm、梁せい150mmの扁平梁形状のプレキャストコンクリート部材からなる。鉄筋コンクリート梁の有効幅は接合される柱幅(
図2、
図3参照)、梁幅の大きい方、または梁スパンの1/4以下とすることが好ましい。
【0021】
図1に示した本実施形態の合成構造梁10は、あらかじめ個別に製作された矩形断面の木質梁部材11と扁平梁形状の鉄筋コンクリート梁部材12とを、工場等において所定の製造工程を経て一体接合することで製造される。本実施形態では、鉄筋コンクリート梁部材12の下面と下側木質梁部材11Lの上面とはドリフトピン接合および接着剤による全面接着により一体接合されている。ドリフトピン接合では、ドリフトピン16として長さ300mm程度、φ10mm程度のネジ加工鋼棒が用いられ、ドリフトピン16の梁長手方向の配列ピッチは200mm程度に設定されている(
図3)。ドリフトピン16の寸法、配列ピッチ等は木材強度、ドリフトピン16の引張強度、曲げ強度等を考慮して決定することが好ましい。また、鉄筋コンクリート梁部材12の下面と木質梁部材11の上面との全面接着には2液性エポキシ系樹脂接着剤が用いられている。
【0022】
本実施形態において、鉄筋コンクリート梁部材12の上面と上側木質梁部材11Uの下面とは、
図1,
図3に示したように、ラグスクリューボルト接合および接着剤による全面接着により一体接合されている。ラグスクリューボルト接合では、ラグスクリューボルト17として長さ500mm程度、M12程度のネジ加工鋼棒が用いられている。ラグスクリューボルト17の梁長手方向の配列ピッチは300mm程度に設定されている。鉄筋コンクリート梁部材12の上面と上側木質梁部材11下面との全面接着には2液性エポキシ系樹脂接着剤が用いられている。ラグスクリューボルト17のボルト径、配列ピッチ等は木材強度、ボルト引張強度、曲げ強度等を考慮して決定することが好ましい。なお、接合面でのラグスクリューボルト17による接合強度が十分確保される場合には、ボルト長さを短くして、ボルト全長が木質梁部材11内の一部に納まるような長さとしてもよい。その場合、各ボルト孔にモルタルや樹脂を用いた充填材を充填するとともに、木栓(図示せず)等で開口を塞いでボルト孔が木質梁部材11の上面に現れないようにすることが好ましい。
【0023】
上述のように鉄筋コンクリート梁部材12と木質梁部材11とが一体化されて構成された合成構造梁は、
図2,
図3に示したように、木質梁部材11が鉄筋コンクリート梁部材12の上下位置に配置され、一体的に接合され、後述する鉛直支持部材としての柱部材とともに、作用荷重に対して一体的に力学的挙動を示す梁長9m(
図2)の梁部材として構造体の一部を構成する。
【0024】
ここで、上述した木質梁部材11として適用された構造用集成材に代わる数種の木質部材について説明する。構造用集成材と同等の構造部材として適用可能な以下の木質部材が挙げられる。
(構造用単板積層材(LVL))
構造用単板積層材は「単板積層材のJAS規格」によって規格化された積層材で、本発明の木質梁部材11には、主繊維方向に直交する単板がほとんどないA種のうち、梁部材に適用可能なグレード材を用いることが好ましい。適用可能な部材寸法例としては、たとえば本発明で想定している幅400mm、木質梁としての梁せい400mm、梁長9m程度まで適用可能である。
(製材)
製材は、「製材のJAS規格」によって規格化された板材で、材料基本寸法が幅120mm、梁せい360mmであるため、所定梁断面形状となるように集積して取り扱うことが好ましい。
(CLT)
CLTは、上述した集成材の木材繊維方向が直交するように積層した集成材で、変形に強い面材料として有効である。このため梁部材として利用する際、機能は限定的となるが、後述する鋼板挿入ドリフトピン接合を行う際のドリフトピンの異方性が解消されるため、接合部位での力学的効果が期待できる。
【0025】
(せん断力伝達部材)
木質梁部材11と鉄筋コンクリート梁部材12との間のせん断力伝達部材としての接合棒材を用いた接合手段として、ラグスクリューボルト接合、ドリフトピン接合(後述する。)があるが、それらに代えて各種ネジロッド(ネジ鉄筋、異形棒鋼、FRPロッド等)を利用するアンカーボルト接合、部材接合用の貫通孔内に芯材として挿入させた接合棒材の周囲に接着剤を充填固化させるグルードインロッド(GIR)接合等を採用することもできる。また、接合棒材を介した接合に代え、または追加要素としてシアコッター、シアープレート、スプリットリング等を接合面に取り付けたり、接合面に所定形状の凹凸面を形成することも好ましい。
【0026】
さらに、木質部材と鉄筋コンクリート梁部材との面接合手段として、2液性エポキシ系樹脂接着剤の他、ポリウレタン系樹脂接着剤、2液性アクリル系樹脂接着剤、水性ビニルウレタン系接着剤等、木材と鋼板等の異種材料との接着性能が高い接着剤を選択することが好ましい。
【0027】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態として、構造用集成材からなる木質梁部材21と鉄筋コンクリート梁部材22との接合に、鋼板挿入ドリフトピン接合を採用した合成構造梁20の合成断面形状を示した横断面図である。この合成構造梁20も、第1実施形態と同様に、扁平梁形状の鉄筋コンクリート梁部材22の上下位置に同一断面形状の木質梁部材21が接合された断面形状からなり、木質梁部材21、鉄筋コンクリート梁部材22の構成要素も第1実施形態と同様である。この合成構造梁20では、
図4,
図6に示したように、横方向に接合された構造用集成材23の接合面に沿って設けられた所定幅のスリット24内に、あらかじめ鉄筋コンクリート梁部材22に一部が埋設支持された接合用鋼板25を挿入し、多数のドリフトピン26を木質梁部材21の側面から打ち込むことで、鉄筋コンクリート梁部材22と木質梁部材21との一体接合が図られている。この鋼板挿入ドリフトピン接合を採用することで、合成構造梁20の見えがかりや施工性が良くなり、モーメント抵抗接合要素としても優れた性能を示すという効果が期待できる。
【0028】
以下、本実施形態の特徴的な構成要素である鋼板挿入ドリフトピン接合について、
図4~
図6を参照して説明する。本実施形態で合成構造梁20内に挿入埋設される鋼板25の寸法は、縦750mm、横750mm、厚さ12mmで、
図5に示したように、完成形である合成構造梁20の両梁端から各2m程度の位置に埋設配置される。この鋼板25は高さ方向の中央位置の側面に所定本数のジベル27が取り付けられており、鉄筋コンクリート梁部材22の製作時に、これらのジベル27の位置を中心として鉄筋コンクリート梁部材22内に埋設保持される(
図4,6参照)。これにより鋼板25と鉄筋コンクリート梁部材22との付着、せん断の一体化が図られる。また、
図6に示したように、鋼板25の縁辺に沿って複数の孔28が列設されている。これらの孔28に所定長さのドリフトピン26を木質梁部材21の外側面から挿入貫通させることにより、鋼板25を芯材として木質梁部材21と鉄筋コンクリート梁部材22との一体化が図られる。また、鉄筋コンクリート梁部材22の上下面と木質梁部材21の上下面とは2液性エポキシ系樹脂接着剤によって全面接着されている。合成構造梁20内に挿入される鋼板25の枚数、挿入位置については、合成構造梁20の一体的挙動が実現するように適宜設定できることはいうまでもない。
【0029】
上述のように挿入鋼板ドリフトピン接合により、鉄筋コンクリート梁部材22と木質梁部材21とが一体化されて構成された合成構造梁20は、第1実施形態と同様に、工場製作時に、木質梁部材21が鉄筋コンクリート梁部材22の上下位置に一体的に接合されることで、作用荷重に対して一体的に力学的挙動を示す梁長9m(
図5)からなるプレキャスト梁部材となる。
【0030】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態として、木質梁部材31に構造用集成材を、鉄筋コンクリート梁部材32にT形断面プレキャスト鉄筋コンクリート梁部材32を採用した合成構造梁30の断面形状例を示した横断面図である。この合成構造梁30は、
図7に示したように、鉄筋コンクリート梁部材32の上側に矩形断面からなる上側木質梁部材31Uが、下側に鉄筋コンクリート梁部材32のウエブ部分32aを囲むような溝形断面形状の下側木質梁部材31Lが配置、接合された形状からなる。
【0031】
本実施形態では、鉄筋コンクリート梁部材32がT形断面形状であるため、ウエブ部分32aの側面と下面とを覆う下側木質梁部材31Lは溝形断面形状となっている。下側木質梁部材31Lと鉄筋コンクリート梁部材32との接合は、第1実施形態と同様に、鉄筋コンクリート梁部材32のウエブ部分32aの下面に対するドリフトピン36を用いた接合および接着剤による全面接着が採用されている。使用するドリフトピン36等の設置方法、各材料の仕様は第1実施形態の構成と同様である。
【0032】
鉄筋コンクリート梁部材32の上面と上側木質梁部材31Uの下面とは、本実施形態では、
図7,
図8に示したように、ラグスクリューボルト接合および接着剤による全面接着により一体接合されている。ラグスクリューボルト37の構成、接着剤の構成は、第1実施形態の構成と同様である。
【0033】
上述のようにT形断面形状の鉄筋コンクリート梁部材32と矩形及び溝形断面の木質梁部材31U、31Lとが一体化されて構成された合成構造梁30は、
図7,
図8に示したように、工場製作時に木質梁部材31(31U、31L)が鉄筋コンクリート梁部材32の上下位置に配置され、一体的に接合され、鉄筋コンクリート梁部材32が十分な応力負担することで、作用荷重に対して一体的に力学的挙動を示す梁長9m(たとえば
図2参考)からなるプレキャスト梁部材となる。
【0034】
[第4実施形態]
図9は、本発明の第4実施形態として、木質梁部材41に構造用集成材を、鉄筋コンクリート梁部材42にT形断面形状のプレキャストコンクリート梁部材を採用し、木質梁部材41と鉄筋コンクリート梁部材との接合に鋼板挿入ドリフトピン接合を採用した合成構造梁40の一例の断面形状を示している。この合成構造梁40は、
図9,10に示したように、第2実施形態と同様に、横方向に接合された構造用集成材43の接合面に沿って所定幅のスリット44を設け、あらかじめ鉄筋コンクリート梁部材42に一部が埋設された接合用鋼板45を挿入し、多数のドリフトピン46を木質梁部材41の側面から打ち込むことで、鉄筋コンクリート梁部材42と木質梁部材41との一体接合を図っている。合成構造梁40の断面としては、第3実施形態と同様のT形断面形状梁からなる鉄筋コンクリート梁部材42の上下に異なる断面形状の木質梁部材41(41U、41L)が接合された合成構造梁40となっている。本実施形態の合成構造梁40の木質梁部材41、鉄筋コンクリート梁部材42の構成要素、鋼板挿入ドリフトピン接合方式の構成は、第1実施形態、第3実施形態と同様である。
【0035】
[第4実施形態の変形例]
鉄筋コンクリート梁部材42にT形断面形状梁が用いられている第4実施形態において、ウエブ部分42aを貫通する梁貫通孔47を設置する変形例および鉄筋コンクリート梁部材42を現場打ちコンクリートによって構築するようにした変形例について、
図11~
図13を参照して説明する。
(梁貫通孔設置)
図11は、合成構造梁40において、鉄筋コンクリート梁部材42のウエブ部分42aの下側に梁貫通孔47が設けられた変形例を示している。本発明の合成構造梁40において梁貫通孔47を設ける場合、同図に示したように、あらかじめプレキャストコンクリートとして製造される鉄筋コンクリート梁部材42のウエブ部分42aにボイド管等(図示せず)を利用してあらかじめ仮貫通孔を形成しておくとともに、下側木質梁部材41Lの側面の所定位置に仮貫通孔と同径あるいは大きな径の開口48を形成しておくことで、各部材を接合して合成構造梁40を構築した際に、ウエブ部分42aに所定口径の梁貫通孔47を形成することができる。このとき梁外面は木質部材であるため、配管設置後の開口周囲の閉塞加工等の作業を容易に行うことができる。
【0036】
(現場打ち鉄筋コンクリートによる構築)
本発明では、合成構造梁40のうちの鉄筋コンクリート梁部材42は工場製作されるプレキャストコンクリート部材を想定しているが、構造物の構築現場において、現場打ちコンクリート作業によって鉄筋コンクリート梁部材42を製造することも可能である。その場合の施工方法について、
図12,
図13を参照して説明する。
【0037】
図12は、現場打ちコンクリートによって鉄筋コンクリート梁部材42を製作する際のコンクリート打設前工程の一例を仮想線で示した断面図である。同図に示したように、鉄筋コンクリート梁部材42を現場打ちコンクリートで製作する際、下側木質梁部材41LにはT形断面形状梁のウエブ部分42a(
図11)に相当する空間Vが形成され、下側木質梁部材41Lの一部がウエブ部分42aのコンクリート打設時の型枠M1となる。この型枠M1内には梁主筋等の必要な鉄筋が配筋されている。さらに下側木質梁部材41Lの上端位置に張り出しフランジ部分のための型枠M2が取り付けられ、サポートSで支保された状態が仮想線で示されている。一方、上側木質梁部材41Uの下面には梁幅方向の中心に向けて下方傾斜するテーパ面41aが形成されている。このテーパ面41aが設けられることにより、コンクリート打設時に、流動するコンクリートが上側木質梁部材41Uの下面に、コンクリート硬化後に空隙となるような空気(エア)が溜まらないように確実に充填される。
【0038】
図13は、
図12に示したのと同様の鉄筋コンクリート梁部材42を現場打ちコンクリートで製作する際に、梁下貫通孔47を同時に形成するようにした施工例を示している。同図に示したように、梁下貫通孔47の設置部分には所定口径のボイド管49が設置され、さらにこの梁下貫通孔47と連通する位置の木質梁部材41側にも開口48が設けられている。この開口48はコンクリート打設時には取り外し可能なプラグ(閉塞栓)P等で閉塞しておくことでコンクリートの流出防止が図られている。
【0039】
[第5実施形態]
図14は、本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第5実施形態として、鉛直支持部材50としての柱部材(以下、柱部材50と記す。)の断面構成を示している。
図15は、この鉛直支持部材としての柱部材50と横架材20(一例として)とからなるラーメン架構の一例を示している。本実施形態の柱部材50の断面は略正方形断面形状からなり、同図に示したように、断面中央位置の鉄筋コンクリート部分52の幅が150mm、鉄筋コンクリート部分52を挟む両側の木質部分51の幅が各275mmで、一辺の柱せいが700mm(275+150+275)となっている。鉄筋コンクリート部分52と木質部分51とは接合面に配置された各5本のアンカーボルト53によるアンカーボルト接合と接着剤による全面接着とにより一体接合されている。アンカーボルト53は鉄筋コンクリート部分51ではコンクリート内に直接埋設され、木質部分52ではアンカー穴内に充填されたエポキシ系樹脂接着剤54によって固定保持されている。このように柱断面において木質部分51に鉄筋コンクリート部分52が付加されることにより、柱の圧縮耐力を大幅に増加させることができる。この柱部材50の木質部分51には、上述した横架材に適用される構造用集成材他、強度、耐力が適合する各種の木質材料を採用できる。
【0040】
[第6実施形態]
図16各図は、本発明の木質部材コンクリート部材合成構造の第6実施形態として、第5実施形態と同様に、木質部分61に構造用集成材を、鉄筋コンクリート部分62にプレキャスト鉄筋コンクリート部分62を採用した鉛直支持部材(合成構造柱60)において、木質部分61と鉄筋コンクリート部分62との接合に鋼板挿入ドリフトピン接合を採用した柱断面形状を示した断面図である。この合成構造柱60では、横方向に接合された構造用集成材の接合面に沿って設けられた所定幅のスリット64内に、あらかじめ鉄筋コンクリート部分62に一部が埋設支持された接合用鋼板65を挿入し、多数のドリフトピン66を木質部分61の側面から打ち込むことで、鉄筋コンクリート部分62と木質部分61との一体接合が図られている。この鋼板挿入ドリフトピン接合を採用して一体化された木質部分61と鉄筋コンクリート部分62とによる合成構造により柱耐力が向上するという力学的な効果とともに、柱側部の見えがかりが良くなるという意匠的な効果も期待できる。
【0041】
また、第6実施形態の変形例として柱断面内に2枚の鋼板65,65を挿入し、これら2枚の鋼板65,65を貫通するように、多数のドリフトピン66を木質部分61の側面から打ち込むことで、鉄筋コンクリート部分62と木質部分61とが一体接合されている。2枚の鋼板65,65を用いることにより鉄筋コンクリート部分62と木質部分61との一層の一体化を図ることができる。
【0042】
[合成構造を用いたラーメン架構の構成例]
以上の説明では、本発明の合成構造を、横架材(梁)、鉛直支持部材(柱)に適用した例として、たとえば
図2,
図15を示して説明した。いずれの場合にも柱梁接合部は、梁の鉄筋コンクリート部分と柱の鉄筋コンクリート部、梁の木質部分と梁の鉄筋コンクリート部とがそれぞれ立体的に直交して接合される部位となる。これらの部材が接合される各部位における構造要素(鉄筋、せん断伝達部材等)の配置の複雑さを避けるため、また鉛直支持部材(柱)の耐力の向上を目的として
図17各図のようなラーメン架構とすることも好ましい。たとえば
図17(a)に示したように、合成構造からなる梁部材と柱部材との交点である柱梁接合部70を鉄筋コンクリート構造で一体構成することで、柱梁接合部の施工が容易になるとともに、梁、柱に配筋される各主筋間の応力伝達経路を単純化することができる。
図17(b)に示したラーメン架構では、柱部材全体を鉄筋コンクリート柱71とすることで柱耐力の向上を実現している。
【0043】
以上の説明では、横架材の一例として梁部材を想定して説明を行ったが、鉄筋コンクリート部材をスラブ構造の一部として扱うことにより、剛床構造を容易に構成することができる。また、室内の納まりとして、鉄筋コンクリート部材の上側に設けられる木質部材を二重床等の下部空間内に位置させることにより、フラットな床面が構築できる。さらに、合成構造を外周架構に用いれば、室内において床上に木質部材を現しにすることで、椅子等の室内に備える什器と一体化させた意匠とすることもでき、これにより床・天井を木質化した落ち着いた雰囲気の室内空間を提供される。
【0044】
また、木質部材と鉄筋コンクリート部材とからなる合成構造について説明したが、鉄筋コンクリート部材に代えて各種の補強繊維を用いた繊維補強コンクリート部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材、PC鋼材を配線してなるプレストレストコンクリート部材と木質部材とからなる合成構造についても同様の構成が可能である。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10,20,30,40,50 合成構造梁(横架材)
11,21,31,41,51 木質梁部材
12,22,32,42,52 鉄筋コンクリート梁部材
25,45,65 接合用鋼板
16,26,36,46,66 ドリフトピン
17,37 ラグスクリューボルト
60 合成構造柱(鉛直支持部材)
61 木質部分
62 鉄筋コンクリート部分