(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001702
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】スラブの冷却方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20221226BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20221226BHJP
B22D 11/124 20060101ALI20221226BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221226BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20221226BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20221226BHJP
【FI】
C21D9/00 101W
B22D11/12 J
B22D11/12 Z
B22D11/124 Z
C22C38/00 301Z
C22C38/06
C21D9/00 101K
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102582
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】山下 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】原田 寛
(57)【要約】
【課題】連続鋳造後、冷却過程におけるスラブの置き割れを抑制する。
【解決手段】スラブを複数積層して冷却するにあたり、積層方向において両端側に配置された第1、第2スラブが、積層時に、各々、下記の温度条件1を満たすようにし、また、第1、第2スラブの間に挟まれた第3スラブが、積層時に、下記の温度条件2を満たすようにする。温度条件1:第1、第2スラブの幅方向中央における表面温度が、第3スラブの幅方向中央における表面温度+(0超~200)℃であり、第1、第2スラブの中心温度が、第1、第2スラブの幅方向中央における表面温度以上である。温度条件2:第3スラブの幅方向中央における表面温度が、500℃以上900℃以下であり、第3スラブの中心温度が、第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも150℃以上高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造によって複数のスラブを得ること、
前記複数のスラブの幅方向の表面同士が重なり合うように、前記複数のスラブを積層して、スラブ積層体を得ること、及び、
前記スラブ積層体を冷却すること、
を含み、
前記スラブ積層体が、積層方向において一端側に配置された第1スラブと、積層方向において他端側に配置された第2スラブと、前記第1スラブ及び前記第2スラブの間に挟まれた少なくとも1つの第3スラブと、を有し、
前記第3スラブが、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有し、
前記第1スラブ及び前記第2スラブが、積層時に、下記の温度条件1を満たし、
前記第3スラブが、積層時に、下記の温度条件2を満たす、
連続鋳造スラブの冷却方法。
温度条件1:前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度が、前記第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも高温であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度と前記第3スラブの幅方向中央における表面温度との温度差が200℃以内であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの各々の中心温度が、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の前記表面温度以上である。
温度条件2:前記第3スラブの幅方向中央における表面温度が、500℃以上900℃以下であり、前記第3スラブの中心温度が、前記第3スラブの幅方向中央における前記表面温度よりも150℃以上高い。
【請求項2】
前記温度条件2について、前記第3スラブの幅方向中央における前記表面温度が550℃以上750℃以下である、
請求項1に記載の連続鋳造スラブの冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は連続鋳造により得られたスラブを冷却する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な技術分野において高張力鋼が使用されている。例えば、自動車の分野においては、燃費改善を実現するために、高張力鋼の適用による自動車車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全性確保のためにも、自動車車体に高張力鋼が多く使用されるようになってきている。
【0003】
高張力鋼は、強度の向上を狙って、C、Si及びMnが多量に添加されてなる。ここで、C、Si及びMnの多量の添加は鋼材を脆化させることが知られている。そのため、C、Si及びMnが多量に添加された鋼を連続鋳造してスラブを得た後に、当該スラブを冷却すると、スラブの表面と内部との温度差に起因する熱応力によって、スラブの内部や表面に割れが生じ易い。例えば、特許文献1に開示されているような、いわゆる「置き割れ」が発生し得る。スラブの置き割れを防止するために、鋼種によってはホットチャージローリング(HCR)等の対策が行われているものの、すべてのスラブについてHCRを行うことは困難である。
【0004】
従来技術においては、連続鋳造後のスラブを冷却する際、スラブの脆化域における冷却速度が緩やかとなるように制御して、スラブに発生する応力や歪みを抑制することで、スラブの割れを防止している。例えば、特許文献1には、連続鋳造後のスラブを室温まで冷却する際、500℃以下における平均冷却速度を細かく制御することで、スラブの置き割れを防止する技術が開示されている。また、特許文献2及び3には、連続鋳造後のスラブを冷却する際、500~700℃における平均冷却速度を20℃/hr以下とすることで、冷却過程におけるスラブの割れを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-083274号公報
【特許文献2】特開2019-167559号公報
【特許文献3】特開2019-167560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示されているように、冷却過程におけるスラブの置き割れを防止するためには、脆化域における冷却速度を細かく制御して緩冷却とすることが有効である。しかしながら、スラブの冷却速度を細かく制御することは、設備制約上、難しい場合がある。この点、冷却過程におけるスラブの置き割れを抑制可能な新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
連続鋳造によって複数のスラブを得ること、
前記複数のスラブの幅方向の表面同士が重なり合うように、前記複数のスラブを積層して、スラブ積層体を得ること、及び、
前記スラブ積層体を冷却すること、
を含み、
前記スラブ積層体が、積層方向において一端側に配置された第1スラブと、積層方向において他端側に配置された第2スラブと、前記第1スラブ及び前記第2スラブの間に挟まれ少なくとも1つの第3スラブと、を有し、
前記第3スラブが、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有し、
前記第1スラブ及び前記第2スラブが、積層時に、下記の温度条件1を満たし、
前記第3スラブが、積層時に、下記の温度条件2を満たす、
スラブの冷却方法
を開示する。
【0008】
温度条件1:前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度が、前記第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも高温であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度と前記第3スラブの幅方向中央における表面温度との温度差が200℃以内であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの各々の中心温度が、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の前記表面温度以上である。
【0009】
温度条件2:前記第3スラブの幅方向中央における表面温度が、500℃以上900℃以下であり、前記第3スラブの中心温度が、前記第3スラブの幅方向中央における前記表面温度よりも150℃以上高い。
【0010】
本開示のスラブの冷却方法において、前記温度条件2について、前記第3スラブの幅方向中央における前記表面温度が550℃以上750℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示のスラブの冷却方法によれば、冷却過程におけるスラブの置き割れが防止され易い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】スラブ積層体の形態の一例を概略的に示している。
【
図2】スラブ厚さ方向の温度分布の変化の一例を概略的に示している。
【
図3】スラブを積層した直後における熱応力解析結果の一例であり、(a)スラブの温度、(b)スラブに生じる最大主応力、(c)スラブに生じる塑性歪みの状態を示している。
【
図4】スラブにおいて圧縮歪みが生じる領域の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来技術においては、連続鋳造後のスラブの冷却速度を制御して緩やかに冷却して、スラブの表面と内部との間にできるだけ温度差を設けないようにすることで、冷却過程におけるスラブの割れを抑制している。しかしながら、設備制約上、このような温度制御が難しい場合がある。本発明者は、連続鋳造後のスラブの冷却過程においてスラブの割れを抑制可能な条件について、熱応力解析を活用して探索した。その結果、連続鋳造後のスラブに対して、その表面と内部との間に意図的に温度差を設けたうえで、当該スラブを段積み(積層)してスラブの表面を復熱させることにより、スラブの置き割れが懸念される温度域(例えば、100~500℃)におけるスラブの引張残留応力を大きく低減できることを見出した。本開示の技術によれば、従来の視点とは異なり、スラブに対して連続鋳造機端の温度分布を活用した熱履歴を付与することによって、スラブの置き割れが抑制されるとともに、スラブの冷却条件の自由度を高めることも可能となる。以下、本開示のスラブの冷却方法について詳細に説明する。
【0014】
本開示のスラブの冷却方法は、連続鋳造によって複数のスラブを得ること(以下、「第1工程」という場合がある。)、前記複数のスラブの幅方向の表面同士が重なり合うように、前記複数のスラブを積層して、スラブ積層体を得ること(以下、「第2工程」という場合がある。)、及び、前記スラブ積層体を冷却すること(以下、「第3工程」という場合がある。)、を含む。前記スラブ積層体は、積層方向において一端側に配置された第1スラブと、積層方向において他端側に配置された第2スラブと、前記第1スラブ及び前記第2スラブの間に挟まれた少なくとも1つの第3スラブと、を有する。前記第3スラブは、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有する。本開示のスラブの冷却方法においては、前記第1スラブ及び前記第2スラブが、積層時に、下記の温度条件1を満たし、且つ、前記第3スラブが、積層時に、下記の温度条件2を満たすことが重要である。
【0015】
温度条件1:前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度が、前記第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも高温であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度と前記第3スラブの幅方向中央における表面温度との温度差が200℃以内であり、前記第1スラブ及び前記第2スラブの各々の中心温度が、前記第1スラブ及び前記第2スラブの幅方向中央における各々の前記表面温度以上である。
【0016】
温度条件2:前記第3スラブの幅方向中央における表面温度が、500℃以上900℃以下であり、前記第3スラブの中心温度が、前記第3スラブの幅方向中央における前記表面温度よりも150℃以上高い。
【0017】
1.第1工程
第1工程においては、連続鋳造によって複数のスラブを得る。スラブの連続鋳造条件については特に限定されるものではない。連続鋳造機端におけるスラブの形状についても一般的なものであればよい。スラブは、連続鋳造方向と直交する断面形状において、幅(断面形状における長辺)及び厚み(断面形状における短辺)を有し、また、連続鋳造方向に長さを有するものであってよい。スラブの幅は、例えば、800mm以上1300mm以下であってもよく、スラブの厚みは、例えば、200mm以上300mm以下であってもよく、スラブの長さは、例えば、5m以上9m以下であってもよい。連続鋳造機端におけるスラブの温度は、スラブ同士を積層する際、後述する温度条件を満たすことが可能である限り、特に限定されるものではない。後述するように、第1工程において、スラブの表面を冷却することで、スラブの表面と中心部との間に所定の温度差を設けてもよい。冷却方法としては特に限定されるものではなく、自然放冷であっても強制冷却(強制対流による冷却や水冷等)であってもよい。特に、スラブの表面を強制冷却した場合に、スラブの表面と中心部との間の温度差がより大きくなり易い。
【0018】
2.第2工程
第2工程においては、連続鋳造により得られた複数のスラブの幅方向の表面(長辺側の表面)同士が重なり合うように、当該複数のスラブを積層して、スラブ積層体を得る。
図1にスラブ積層体の形態の一例を示す。
図1の紙面左右方向がスラブの幅方向、紙面上下方向がスラブの厚み方向、紙面奥手前方向がスラブの長さ方向である。
図1に示されるように、スラブ積層体100は、複数のスラブ10の幅方向の表面同士が重なり合うように、複数のスラブ10が厚み方向に複数積層されてなる。スラブ積層体100は、積層方向において一端側に配置された第1スラブ10と、積層方向において他端側に配置された第2スラブ20と、第1スラブ10及び第2スラブ20の間に挟まれた少なくとも1つの第3スラブ30と、を有する。
図1に示されるように、スラブ積層体100においては、第3スラブ30の表面のうちスラブの幅方向表面が、他のスラブの幅方向表面に重ね合わされる一方、スラブの厚み方向表面は、他のスラブと重ね合わされることなく、スラブ積層体100の外部に露出していてもよい。
【0019】
2.1 第1スラブ及び第2スラブ
図1に示されるように、第1スラブ10及び第2スラブ20は、スラブ積層体100の積層方向両端に配置される最外側のスラブであってよい。尚、第1スラブ10及び第2スラブ20は、各々、1つのスラブから構成されていてもよいし、複数のスラブから構成されていてもよい。すなわち、重ねられた複数のスラブを、1つの第1スラブ10とみなしてもよいし、1つの第2スラブ20とみなしてもよい。
【0020】
2.1.1 鋼組成
第1スラブ10及び第2スラブ20は、高張力鋼となり得る鋼組成を有していてもよいし、有していなくてもよい。また、第1スラブ10と第2スラブ20とは、互いに同じ鋼組成を有するものであってもよいし、互いに異なる鋼組成を有するものであってもよい。
【0021】
2.1.2 大きさ
第1スラブ10及び第2スラブ20は、後述する第3スラブ30を挟み込む。第1スラブ10及び第2スラブ20の幅方向表面の大きさは、特に限定されるものではないが、第3スラブ30の幅方向表面の全体を挟み込むために、第3スラブ30の幅方向表面と実質的に同じ大きさか、それより大きくてもよい。
【0022】
2.1.3 温度条件
第1スラブ10及び第2スラブ20は、後述する第3スラブ30を挟み込むことで、第3スラブ30の表面の復熱を促す。第3スラブ30の表面を適切に復熱させるため、第1スラブ10及び第2スラブ20は、積層時、上記の温度条件1を満たす。「積層時」とは、スラブ積層体100を構成するために、スラブの積層が開始された時点(一のスラブが他のスラブと重なり合った時点)をいう。上記の温度条件1を満たすスラブは、例えば、連続鋳造機における冷却条件や連続鋳造後の冷却条件を制御することによって得られる。温度条件1を満たす第1スラブ10及び第2スラブ20を得る場合、連続鋳造後のスラブを冷却してもよいし、冷却しなくてもよく、冷却する場合は放冷してもよいし、強制冷却(例えば、強制対流による冷却や水冷等)してもよい。第1スラブ10や第2スラブ20が上記の温度条件1を満たすか否かについては、スラブの冷却条件、スラブの表面温度の実測値、3次元伝熱解析結果等に基づいて判断できる。
【0023】
温度条件1において、第1スラブ及び第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度は第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも高温である。仮に、第1スラブ及び第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度が第3スラブの幅方向中央における表面温度よりも低温であった場合、第1~第3スラブを積層した際に第3スラブの表面の温度が低下し、第3スラブの表面の復熱の妨げとなり、第3スラブの表面において後述する圧縮応力を生じさせるように適切に復熱させることが難しくなる場合がある。また、温度条件1において、第1スラブ及び第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度と、第3スラブの幅方向中央における表面温度との温度差は、200℃以内である。当該温度差が大き過ぎると、第3スラブの表面において後述する圧縮応力を生じさせるように適切に復熱させることが難しくなる場合がある。当該温度差は、180℃以内、160℃以内、140℃以内、120℃以内又は100℃以内であってもよい。第1スラブ及び第2スラブの幅方向中央における各々の表面温度は、第3スラブの温度条件2との関係から、500℃超、1100℃以下である。また、上記の温度条件1において、第1スラブ及び第2スラブの各々の中心温度は第1スラブ及び第2スラブの幅方向中央における上記の表面温度以上であればよい。すなわち、第1スラブの中心温度は第1スラブの幅方向中央における表面温度以上であり、第2スラブの中心温度は第2スラブの幅方向中央における表面温度以上である。スラブ中心温度の上限については特に限定されず、スラブの積層に問題が生じない温度であればよい。例えば、温度条件1において、スラブ中心温度は、スラブの幅方向中央における表面温度よりも、50℃以上、100℃以上又は150℃以上高くてもよく、250℃以下又は200℃以下高くてもよい。第1スラブや第2スラブは、各々、温度条件1を満たしていればよく、第1スラブの温度と第2スラブの温度とは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
2.1.4 補足
尚、本開示のスラブの冷却方法において、第1スラブ10及び第2スラブ20は、あくまでも第3スラブ30の表面の適切な復熱を促すためのものである。すなわち、第1スラブ10及び第2スラブ20は、冷却過程における温度制御の対象外であってよく、第1スラブ10及び第2スラブ20について冷却過程において割れが生じることはやむを得ない。或いは、第1スラブ10及び第2スラブ20として、割れが生じ難い鋼(高張力鋼以外の鋼)からなるスラブを採用して、割れの発生を抑制してもよい。
【0025】
2.2 第3スラブ
本開示のスラブの冷却方法において、第3スラブ30は、冷却過程における置き割れを抑制する対象である。第3スラブ30は、C、Si、Mnを所定量以上含むもので、例えば、高張力鋼板の素材として用いられるものであってよい。本願において「高張力鋼板」とは、引張強さが500MPa以上の鋼板をいう。引張強さは780MPa以上、980MPa以上、1180MPa以上又は1470MPa以上であってよく、2100MPa以下、2000MPa以下又は1900MPa以下であってもよい。尚、鋼板の引張試験は、例えば、JIS Z 2241に準拠し、試験片の長手方向が鋼板の圧延直角方向と平行になる向きからJIS5号試験片を採取して行う。
【0026】
2.2.1 鋼組成
第3スラブ30は、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有する。C、Si及びMnの含有量がこのような範囲である場合、スラブの脆性が低下し易く、置き割れの問題が発生し易いところ、本開示のスラブの冷却方法によって、当該置き割れを抑制できる。尚、本願において、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0027】
(C:0.02~0.60%)
Cは鋼の静的強度だけでなく、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。Cが少な過ぎると鋼の静的強度及び疲労強度が不十分となる場合がある。この点、Cの含有量の下限は0.02質量%、0.05質量%、0.10質量%又は0.15質量%であってもよい。また、Cが多過ぎると鋼の靭性が過度に劣化し易い。この点、Cの含有量の上限は0.60質量%、0.50質量%、0.40質量%又は0.30質量%であってもよい。
【0028】
(Si:0.5~3.0%)
SiはCに次いで固溶強化能が大きい重要な元素である。高張力鋼を得る場合はSiの濃度を高濃度とする。具体的には、Siの含有量の下限は0.5質量%、0.8質量%又は1.0質量%であってもよい。一方で、Siの含有量が多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Siの含有量の上限は3.0質量%、2.5質量%又は2.0質量%であってもよい。
【0029】
(Mn:1.0~3.0%)
Mnは焼入れ性を向上させ、冷却速度が不十分な場合でも鋼材の内部まで硬度を確保するのに重要な元素である。高張力鋼を得る場合はMnの濃度を高濃度とする。具体的には、Mnの含有量の下限は1.0質量%又は1.5質量%であってもよい。一方で、Mnが多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Mnの含有量の上限は3.0質量%又は2.8質量%であってもよい。
【0030】
(P:0.100%以下)
Pは、溶鋼の凝固過程において未凝固部へのMn濃化を促進する元素であり、負偏析部のMn濃度を下げ、フェライトの面積率の増加を促す元素であり、少ないほど好ましい。また、Pを過度に含有すると鋼強度は増加する一方で鋼の脆性的な破壊を招く場合がある。この点、Pの含有量の上限は、0.100質量%、0.050質量%又は0.010質量%であってもよい。一方で、Pの含有量の下限は特に限定されるものではなく、0質量%であってもよいが、Pの含有量を0.001質量%未満に制御することは精錬時間の増大とともに、製造コストの増加を招く虞がある。製造コストの上昇を防ぐ狙いからは、Pの含有量は0.001質量%以上であってもよい。
【0031】
(S:0.010%以下)
Sは、鋼中でMnS等の非金属介在物を生成し、鋼の延性の低下を招く元素であり、少ないほど好ましい。この点、Sの含有量の上限は、0.010質量%、0.008質量%又は0.005質量%であってもよい。一方で、Sの含有量の下限は特に限定されるものではなく、0質量%であってもよく、0.001質量%であってもよい。
【0032】
(Al:0.005~1.000%)
Alは、鋼の脱酸剤として作用しフェライトを安定化する元素であり、必要に応じて添加される。Alの含有量が0.005質量%以上である場合に、このような効果が得られ易い。Alの含有量は0.010質量%以上であってもよい。一方、Alを過度に含有すると下工程における焼鈍時の冷却過程でのフェライト変態及びベイナイト変態が過度に促進されて鋼の強度が低下する場合がある。Alの含有量が1.000質量%以下である場合に、このような問題が回避され易い。Alの含有量は0.800質量%以下であってもよい。
【0033】
(N:0.0100%以下)
Nは、粗大な窒化物を形成し、鋼の加工性を低下させる元素であり、少ないほど好ましい。Nの含有量は0質量%であってもよく、0.0001質量%以上であってもよく、0.0010質量%以上であってもよく、また、0.0100質量%以下であってもよく、0.0050質量%以下であってもよい。
【0034】
第3スラブ30は、上記の基本元素のほか、上記以外の任意元素を含んでいてもよい。任意元素は含まれなくてもよいため、その下限は0%である。第3スラブ30は、例えば、質量%で、Ti:0~0.500%、Co:0~0.500%、Ni:0~0.500%、Mo:0~0.500%、Cr:0~2.000%、O:0~0.0100%、B:0~0.0100%、Nb:0~0.500%、V:0~0.500%、Cu:0~0.500%、W:0~0.1000%、Ta:0~0.1000%、Sn:0~0.0500%、Sb:0~0.0500%、As:0~0.0500%、Mg:0~0.0500%、Ca:0~0.0500%、Y:0~0.0500%、Zr:0~0.0500%、La:0~0.0500%、及び、Ce:0~0.0500%から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。尚、上記の任意元素の種類及び含有量は単なる例示であり、第3スラブ30に含まれ得る任意元素の種類や量は、上記のもの限定されない。
【0035】
2.2.2 温度条件
第3スラブ30は、積層時、上記の温度条件2を満たす。上記の温度条件2を満たすスラブは、例えば、連続鋳造機における冷却条件や連続鋳造後の冷却条件を制御することにより得られる。特に、連続鋳造時又は連続鋳造後にスラブの表面を冷却することで、温度条件2を満たす第3スラブ30が得られ易い。スラブの表面を冷却する際は、スラブを放冷してもよいし、強制冷却(例えば、強制対流による冷却や水冷等)してもよい。特に、強制冷却を行った場合に、温度条件2を満たす第3スラブ30が得られ易い。第3スラブ30が上記の温度条件2を満たすか否かについては、スラブの冷却条件、スラブの温度の実測値、3次元伝熱解析結果等に基づいて判断できる。
【0036】
本開示の技術において、上記の温度条件2を満たす第3スラブ30が、上記の温度条件1を満たす第1スラブ10及び第2スラブ20によって挟み込まれる。これにより、第3スラブ30の表面が復熱する。以下、第3スラブ30の表面を適切に復熱させることによる効果について説明する。
【0037】
本開示のスラブの冷却方法は、連続鋳造及びその後の冷却等により生じたスラブの温度勾配を利用する点に特徴がある。すなわち、従来技術のようにスラブの温度をできるだけ均一にするのではなく、スラブの表面と中心とで意図的に温度差を設ける。スラブ中心温度(幅方向及び厚み方向中央の温度)がスラブの幅方向中央における表面温度よりも高い条件で、類似の温度条件下の複数枚のスラブを重ね合わせた場合、
図2に示されるように、スラブの厚さ方向の温度分布において、スラブ表面が復熱し、スラブ内部は温度が下がる方向でバランスする。この時、スラブ表面においては、復熱によって圧縮応力が生じ、塑性歪みを生じる。すなわち、
図2及び
図3(a)に示されるようにスラブの表面が復熱することにより、当該表面は膨張したいものの内部に拘束され、
図3(b)及び(c)に示されるように、表面に圧縮応力が生じ、圧縮の塑性歪みが生じる。本発明者の知見によれば、スラブの置き割れが懸念される500℃以下における残留応力は、主に、冷却過程で生じる塑性歪み量により決定される。仮に、スラブ表面に引張の塑性変形が生じていると、伸ばされた外枠に拘束されて、スラブ内部の温度が下がるにつれて、スラブ内部に引張応力が生じ、これが置き割れに繋がる。逆にスラブ表面に圧縮の塑性変形が生じていると、上記のようなスラブ内部における引張応力も生じ難く、置き割れが防止され易くなる。本発明者は、種々の計算結果から、第3スラブの表面に圧縮側の塑性変形を生じさせるためには、第1スラブ及び第2スラブが上記の温度条件1を満たすとともに、第3スラブが上記の温度条件2を満たす、すなわち、第3スラブの幅方向中央の表面温度が500℃以上900℃以下で、且つ、第3スラブの幅方向中央部の表面からスラブ中心部に向かって150℃以上の正の温度勾配が生じている(第3スラブの中心部の温度が、スラブの幅方向中央部の表面温度よりも150℃以上高い)必要があることを見出した。
【0038】
さらに、上記の温度条件2において、第3スラブの幅方向中央における表面温度が550℃以上750℃以下である場合、スラブ内部における引張応力を一層抑制でき、置き割れが一層防止され易くなる。これは、
図4に示されるように、低温であるスラブ表面近傍の復熱層30aにおける復熱のほか、変態層30bにおけるフェライト変態が生じ、変態に伴う変態歪みによって、上記の熱歪みと同様に圧縮側の塑性変形が生じるためと考えられる。より具体的には、この温度域では、スラブ表面から変態が進行する(スラブ内部は変態しない温度域、又は、変態に時間がかかる)ことから、スラブ表面とスラブ内部とでフェライト分率に差が生じ、これにより変態歪みが生じ、スラブ表面に圧縮側の塑性変形が生じるものと考えられる。このように、熱歪みに加えて変態歪みの影響も考慮することで、スラブ冷却時の置き割れの防止に対して、より高い効果が発揮され得る。
【0039】
以上の通り、上記の温度条件2において、第3スラブの幅方向中央における表面温度は、500℃以上900℃以下であり、特に550℃以上750℃以下の場合により高い効果が期待できる。当該温度の上限は、650℃であってもよい。また、上記の温度条件2において、第3スラブの中心部の温度と第3スラブの幅方向中央部の表面温度と温度差は150℃以上であり、160℃以上又は170℃以上であってもよい。当該温度差の上限は特に限定されるものではない。例えば、300℃以下、250℃以下又は230℃以下であってもよい。
【0040】
2.3 スラブ積層体
図1に示されるように、上記の温度条件1を満たす第1スラブ10及び第2スラブ20と、上記の温度条件2を満たす第3スラブ30とを重ね合わせて積層することで、スラブ積層体100が構成される。スラブ積層体100においては、第1スラブ10、第2スラブ20及び第3スラブ30が積層された時点で、上記の第3スラブ30の復熱が生じ得る。
【0041】
スラブ積層体100においては、第1スラブ10と第2スラブ20との間に第3スラブ30が挟まれている。本開示のスラブの冷却方法において、第3スラブ30の数は、少なくとも一つであればよく、複数であってもよく、また、その上限は特に限定されるものではない。作業性等を考慮した場合、第3スラブ30の数は10枚以下であってもよい。
【0042】
3.第3工程
第3工程においては、上記のスラブ積層体100を冷却する。スラブ積層体100の冷却は、例えば、自然放冷によって行ってもよい。スラブ積層体100の冷却停止温度も特に限定されるものではなく、例えば、室温まで冷却されてもよい。第3スラブ30について注目した場合、スラブ積層体100の冷却開始時点(例えば、積層完了時点)から、第3スラブ30の表面温度が復熱により上昇する一方で、第3スラブ30の内部温度が低下する。第3スラブ30は、表面と内部とで温度がバランスしつつ、スラブ全体の温度が徐々に低下する。本開示の技術においては、第3スラブ30の冷却過程において、その冷却速度を制御する必要はない。本発明者の知見によれば、復熱完了後の第3スラブ30の冷却速度が従来技術における冷却速度よりも高速であったとしても、第3スラブ30に置き割れが生じ難い。復熱完了後の第3スラブ30の幅方向中央の表面における700℃から500℃の間の平均冷却速度は、例えば、20℃/h超であってもよいし、40℃/h以下であってもよい。
【0043】
スラブ積層体100の冷却完了後は、例えば、スラブ積層体100から第3スラブ30を取り出して、第3スラブ30の再加熱や熱間圧延を行うことで、熱延鋼板を製造することができる。その後、巻き取り、酸洗、冷間圧延、焼鈍、表面処理等を行ってもよい。熱間圧延条件、巻き取り条件、酸洗条件、冷間圧延条件、焼鈍条件、表面処理等を調整することで、目的とする性能を有する鋼板(例えば、上述の高張力鋼板)を製造することができる。
【0044】
以上の通り、本開示のスラブの冷却方法によれば、第3スラブ30の冷却過程において、当該第3スラブ30に置き割れが生じ難い。また、本開示のスラブの冷却方法においては、従来技術のようにスラブの冷却速度を細かく制御する必要がない。また、従来技術に比べて冷却速度を高速とした場合でも、第3スラブ30の置き割れが生じ難い。
【実施例0045】
以下に本発明に係る実施例を示すが、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明においては、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0046】
所定の成分からなる溶鋼を連続鋳造しスラブを製造した。下記表1に連続鋳造により製造したスラブの鋼組成を示す。連続鋳造は、スラブ鋳造用の鋳型を用い、鋳造速度0.7~1.5m/minで、厚み240~280mm、幅1100mmのスラブを製造した。その後、スラブを所定の長さに切断し、放冷又はエアを吹き付けて強制対流を生じさせてスラブの表面を冷却し、スラブの表面温度を接触熱電対により測温するとともに、3次元の伝熱解析より推定したスラブの中心温度(幅方向及び厚み方向における中央の温度)から、スラブの幅方向中央の表面温度とスラブ中心部の温度との差を求めた。
【0047】
実施例1~10および比較例2~7では、上記のスラブ(第3スラブ)を2枚のスラブ(第1スラブ及び第2スラブ)の間に挟むように積層及び段積みすることによりスラブ積層体を得て、当該スラブ積層体を放冷して室温まで冷却した。
【0048】
比較例1では、2枚のスラブ(第1スラブ及び第2スラブ)のみを積層及び段積みすることによりスラブ積層体を得て、当該スラブ積層体を放冷して室温まで冷却した。
【0049】
各々の実施例及び比較例について、下記表2に、段積み開始時の第1スラブ、第2スラブ及び第3スラブの各々について、(1)幅方向中央における表面温度、及び、(2)幅方向中央における表面温度と中心部温度との温度差を示す。尚、表1において、「第1、2スラブと第3スラブとの表面温度差」とは、第1スラブと第3スラブとの表面温度差、及び、第2スラブと第3スラブとの表面温度差のうち、絶対値が大きいほうである。また、下記表2に、スラブ積層体における段積み本数(第1スラブ、第2スラブ及び第3スラブの合計の本数)を示す。また、第3スラブの幅中央表面(上面)に熱電対を設置しておき、スラブ積層体の冷却過程において、700~500℃における第3スラブの幅方向中央表面の平均冷却速度(℃/h)を測定した。表2に示された平均冷却速度は、段積み開始時の温度が700℃以上の場合は、700~500℃の平均冷却速度であり、段積み開始時の温度が700℃未満の場合は、段積み開始時の温度から500℃までの平均冷却速度を示している。尚、第3スラブが複数ある場合、表2には、スラブ積層体の積層方向中央に位置する1つの第3スラブの平均冷却速度が示されている。具体的には、スラブ積層体のスラブの数が偶数である場合はスラブ積層体の下から数えて半分となる位置(例えば、スラブ積層体のスラブの数が6である場合、当該スラブ積層体の下から3段目)のスラブの上面における平均冷却速度であり、スラブ積層体のスラブの数が奇数である場合は当該スラブ積層体の積層方向中央(例えば、スラブ積層体のスラブの数が5である場合、当該スラブ積層体の上及び下の双方から3段目)のスラブの上面における平均冷却速度である。
【0050】
スラブ積層体を室温まで冷却した後、第3スラブにおける置き割れの有無(比較例1についてのみ、第1スラブ及び第2スラブの置き割れ有無)を観察し、評価を行った。結果を表2及び
図5に示す。
図5に示されるグラフにおいて、縦軸が「段積み温度」(スラブ積層時の第3スラブの幅方向中央における表面温度)、横軸が「温度差」(スラブ積層時の第3スラブの幅方向中央における表面温度とスラブ中心部温度との差)であり、「×」は第3スラブに置き割れが生じた場合、「●」や「〇」は第3スラブに置き割れが生じなかった場合で、中でも「●」は冷却速度を顕著に高速化することができるとともに置き割れも生じなかった場合である。尚、比較例1については、第3スラブが存在しないため、
図5にはプロットしていない。また、比較例6および比較例7については、
図5にいう「段積み温度」及び「温度差」では整理できない例であるため、
図5からは除外している。
【0051】
【0052】
【0053】
表2に示される結果から以下のことが分かる。
【0054】
比較例1については、スラブ積層体における第3スラブの数が0本であり、置き割れ防止対象が存在しない例である。比較例1については、第1スラブ及び第2スラブに置き割れが発生した。スラブ積層体における段積みの数が少な過ぎると、スラブの表面において十分な復熱が得られず、スラブの表面に圧縮応力を生じさせることができず、それに伴ってスラブの内部において引張応力が生じ易くなり、これが置き割れに繋がったものと考えられる。
【0055】
また、比較例2については、第3スラブの表面と中心部との温度差が小さ過ぎたため、第3スラブに置き割れが発生した。第3スラブの表面と中心部との温度差が小さ過ぎると、スラブの積層後、第3スラブの表面において十分な復熱が得られず、スラブの表面に圧縮応力を生じさせることができず、それに伴ってスラブの内部において引張応力が生じ易くなり、これが置き割れに繋がったものと考えられる。
【0056】
また、比較例3及び4については、第3スラブの表面の温度が低過ぎたため、第3スラブに置き割れが発生した。第3スラブの表面の温度が低過ぎると、スラブの積層後、第3スラブの表面において十分な復熱が得られず、スラブの表面に圧縮応力を生じさせることができず、それに伴ってスラブの内部において引張応力が生じ易くなることに加え、すでに置き割れが発生しやすい温度域であることからこれが置き割れに繋がったものと考えられる。
【0057】
また、比較例5に示されるように、第3スラブの表面の温度が低過ぎる場合、第1及び第2スラブを高温として第3スラブの表面を復熱させたとしても、置き割れを防止することは難しい。すなわち、第3スラブの表面の温度が低過ぎると、置き割れが発生しやすい温度域であることに加え、スラブの積層の段階で、すでに第3スラブ内部に引張応力が生じており、スラブ積層後、第3スラブの表面に十分な復熱を与えられたとしても、スラブ内部の引張応力を緩和するには十分でなかったことから、これが置き割れに繋がったものと考えられる。
【0058】
また、比較例6については、第3スラブの表面温度に対して第1、第2スラブの表面温度が高すぎ、第3スラブの表面が復熱するだけでなく、第3スラブの中心温度よりも表面温度の方が高くなったことにより、第3スラブ内部に引張応力が生じ易くなり、これが置き割れにつながったものと考えられる。
【0059】
また、比較例7については、第3スラブの表面温度に対して第1及び第2スラブの表面の温度が低温であったため、第3スラブに置き割れが発生した。第3スラブに対して第1および第2スラブの表面の温度が低温である場合、第3スラブの表面を冷却してしまうため、第3スラブ表面において十分な復熱が得られず、スラブの表面に圧縮応力を生じさせることができず、それに伴ってスラブの内部において引張応力が生じ易くなり、これが置き割れにつながったものと考えられる。
【0060】
これに対し、実施例1~10については、いずれも、第3スラブに置き割れは生じなかった。スラブの積層後、第3スラブの表面において十分な復熱が得られ、スラブの表面に圧縮応力が生じ、それに伴ってスラブの内部における引張応力も抑制でき、これが置き割れの防止に繋がったものと考えられる。特に、第3スラブの表面温度が550~750℃の範囲内であった実施例3~9については、700~500℃における平均冷却速度を25℃/h以上に高速化しても、置き割れを防止できた。