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特開2023-170230車両用灯具の光軸制御装置、車両用灯具の光軸制御方法、車両用灯具システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170230
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】車両用灯具の光軸制御装置、車両用灯具の光軸制御方法、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/115 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B60Q1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081812
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 陸
(72)【発明者】
【氏名】中村 成克
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA25
3K339BA30
3K339CA01
3K339DA01
3K339GB01
3K339HA01
3K339HA13
3K339KA07
3K339KA23
3K339KA29
3K339LA02
3K339LA11
3K339MC45
3K339MC46
3K339MC47
3K339MC48
3K339MC52
3K339MC54
(57)【要約】      (修正有)
【課題】精度の良い車両角度に基づく光軸制御をできるようになるまでの時間を短縮することのできる車両用前照灯の光軸制御装置を提供する。
【解決手段】コントローラは、ジャイロセンサの出力を用いて車両のピッチ角度を求め、ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、ピッチ角度を用いて車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、加速度センサの出力を用いて求まる車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各重力加速度成分を除去し、各重力加速度成分を除去後の車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前照灯の光軸を制御する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に設置された加速度センサと、
前記車両に設置されたジャイロセンサと、
前記加速度センサ、前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求め、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、
前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去し、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御する、
車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項2】
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に設置された加速度センサと、
前記車両に設置されたジャイロセンサと、
前記加速度センサ、前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求める角度算出部と、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去する除去処理部と、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御する光軸制御部と、
を含む、車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項3】
前記除去処理部は、第1期間の前記ピッチ角度の第1平均値と第2期間の前記ピッチ角度の第2平均値の間の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度の前記第2平均値を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出する、
請求項2に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項4】
前記除去処理部は、前記ピッチ角度の前記第2平均値と所定の安定角度値との間の変化量が所定の閾値よりも小さい場合に、当該第2平均値を新たな当該安定角度値として設定する、
請求項3に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項5】
前記除去処理部は、前記ピッチ角度の前記第2平均値と前記安定角度値との間の変化量が前記閾値以上の場合に、当該閾値をより大きい値に変更する、
請求項4に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項6】
前記除去処理部は、前記閾値が変更された後の処理機会において前記ピッチ角度の前記第2平均値と所定の安定角度値との間の変化量が当該閾値よりも小さい場合には、前記閾値を初期値に変更する、
請求項5に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項7】
前記ピッチ角度をθ、重力加速度をGとすると、
前記車両の前後方向に対応する重力加速度成分Xは、X=-Gsinθの関係式で求められ、
前記車両の上下方向に対応する重力加速度成分をZは、Z=Gcosθの関係式で求められる、
請求項1又は2に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項8】
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するために、当該車両に設置された前記加速度センサ及び前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラにより実行される方法であって、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求めること、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記第1時期の前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出すること、
前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去すること、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御すること、
を含む、車両用前照灯の光軸制御方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の光軸制御装置と、当該光軸制御装置によって制御される前照灯と、を含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用灯具の光軸制御装置、車両用灯具の光軸制御方法、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-073189号公報(特許文献1)には、乗員や積載荷物等による車両の姿勢変化に応じて前照灯の光軸を可変に制御するオートレベリング技術において、光軸制御のための車両角度の算出精度を向上させるために、加速度センサによって検出した加速度から重力加速度成分を除去する技術が記載されている。しかし、この従来例では、車両が定速状態(車速変化量0km/h)である場合に重力加速度成分を取得するが、走行状態によっては定速状態になるまでに時間を要する場合もある。このため、精度の良い車両角度に基づく光軸制御をできるようになるまでに時間を要する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-073189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、オートレベリング技術を用いる場合において、精度の良い車両角度に基づく光軸制御をできるようになるまでに時間を短縮することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の車両用前照灯の光軸制御装置は、車両に搭載された前照灯の光軸を制御するための装置であって、(a)前記車両に設置された加速度センサと、(b)前記車両に設置されたジャイロセンサと、(c)前記加速度センサ、前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラと、を含み、(d)前記コントローラは、(d1)前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求め、(d2)前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、(d3)前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去し、(d4)各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御する、車両用前照灯の光軸制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、前記[1]に記載の光軸制御装置と、当該光軸制御装置によって制御される前照灯と、を含む車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、オートレベリング技術を用いる場合において、精度の良い車両角度に基づく光軸制御をできるようになるまでに時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2は、ランプユニットの構成例を模式的に示す図である。
図3図3は、車両用灯具システムのコントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。
図4図4(A)は、走行中の車両の角度について説明するための模式図である。図4(B)は、図4(A)に示す状態に対応する加速度センサの出力について説明するための図である。
図5図5は、ジャイロセンサを用いて得られる車両のピッチ角度の内訳を説明するための図である。
図6図6は、車両が平坦路を走行中である場合におけるピッチ角度の変化の一例を模式的に示す波形図である。
図7図7(A)、図7(B)は、車両が平坦路を走行中である場合におけるピッチ角度の変化の他例を模式的に示す波形図である。
図8図8は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。この車両用灯具システムは、自車両の姿勢に応じて光軸を可変に設定して光照射を行うものであり、コントローラ10、ジャイロセンサ11、加速度センサ12、メモリ13、一対のランプユニット30L、30Rを含んで構成されている。
【0009】
コントローラ10は、車両用灯具システムの動作制御を行うためのものであり、例えば所定の動作プログラムを実行可能なコンピュータシステムを用いて構成される。ここでは、コントローラ10により実現される機能を理解しやすくするために機能ブロックを用いて説明する。コントローラ10は、姿勢角度算出部21、車両状態出力部22、重力加速度成分処理部23、光軸制御部24を有する。また、コントローラ10には、車両の車速を示す信号ないしデータが入力されている。車速は車両に備わった図示しないセンサ等によって検出されて、例えば車速パルス信号又は車速データという形で得られる。
【0010】
ジャイロセンサ11は、角速度を検出してその大きさに応じたデータ又は信号を出力するセンサ(角速度センサ)である。本実施形態のジャイロセンサ11は、車両のロール角、ピッチ角及びヨー角に対応する角速度を検出できるものである。ジャイロセンサ11は、車両の所定位置(例えばグローブボックスの裏側等)に設置されている。なお、ロール方向は車両の前後方向軸回りに回転する方向であり、ピッチ方向は車両の左右方向軸回りに回転する方向であり、ヨー方向は車両の上下方向軸回りに回転する方向である。
【0011】
加速度センサ12は、加速度を検出してその大きさに応じたデータ又は信号を出力するセンサである。本実施形態の加速度センサ12は、車両の前後方向、上下方向及び左右方向のそれぞれに対応した加速度を検出することが可能である。なお、加速度センサ12の各軸自体は、必ずしも車両の前後方向、上下方向及び左右方向のそれぞれと必ずしも完全に一致していなくてよく、その場合には適宜検出値に対して補正処理を行えばよい。
【0012】
メモリ13は、コントローラ10と接続されており、コントローラ10による演算処理に必要なデータを記憶する。
【0013】
姿勢角度算出部21は、ジャイロセンサ11から出力されるデータ(又は信号。以下同様)に基づいて車両の姿勢角度(ピッチ角度、ロール角度、ヨー角度)を検出し、その大きさに応じたデータ(又は信号。以下同様)を出力する。
【0014】
車両状態出力部22は、姿勢角度算出部21により算出されるピッチ角度に基づいて車両状態を決定し、当該車両状態を示すデータ(又は信号。以下同様)を重力加速度成分処理部22へ供給する。本実施形態では、車両状態出力部22は、車両状態として、ピッチ角度が「安定」、「不安定」の何れかの状態を示すデータ等を出力する。
【0015】
重力加速度成分処理部23は、加速度センサ12によって検出される加速度のデータから重力加速度成分を除去する処理を行い、処理後の加速度のデータを光軸制御部24へ提供する。
【0016】
光軸制御部24は、重力加速度成分処理部23から出力される加速度のデータに基づいて車両角度(ピッチ角度から路面角度を除した角度)を求め、この車両角度に応じて各ランプユニット30L、30Rの照射光の光軸を制御するための制御信号を生成し、各ランプユニット30L、30Rへ供給(出力)する。このとき、光軸制御部24は、車両状態出力部22から出力される車両状態に応じて演算方法を適宜選択し、当該選択した演算方法を適用して車両角度を求める。車両角度の演算方法としては公知の方法を用いることができる。
【0017】
各ランプユニット30L、30Rは、車両の前部の左右に1つずつ設けられ、車両の前方に光照射を行うためのものである。各ランプユニット30L、30Rとしては、公知の種々のランプユニットを採用することができる。例えば、光源や反射鏡等を有して構成される光源部と、光源部から放射される光の光軸(主進行方向)を車両のピッチ方向にて上下に調整するために光源部の向きを上下に調整するアクチュエータを有しており、機械的に光照射範囲を制御可能なランプユニットを用いることができる(後述の図2参照)。なお、各ランプユニット30L、30Rとしては、例えば、光源と液晶素子を組み合わせて光照射範囲を制御可能な構成のランプユニット、複数のLEDを選択的に点灯/消灯させることで光照射範囲を制御可能な構成のランプユニット、レーザ素子からの光を可動反射板によって走査してその際にレーザ素子を高速に点消灯させることで光照射範囲を制御可能な構成のランプユニットなど、電子的に光照射範囲を制御可能なランプユニットを用いることもできる。
【0018】
図2は、ランプユニットの構成例を模式的に示す図である。一例としての本実施形態の前照灯ユニット30L、30Rは、それぞれ、光源31と、この光源31を収容するハウジング33と、光源31の前方(光の出射する方向)に配置されておりハウジング33に固定されているレンズ34を備える。ハウジング33の内側面には、光源31からの光を前方へ反射させる反射面が設けられている。アクチュエータ32は、光源31を収容するハウジング33と連結されており、このハウジング33の姿勢を変化させる。それにより、光源31からの光の光軸aを可変に設定することができる。例えば、車両の後部が相対的に下がっている場合には光軸aが下向きとなるように制御され、車両の前部が相対的に下がっている場合には光軸aが上向きとなるように制御される。その際にどの程度下向きまたは上向きにするかは車両角度に応じて設定される。
【0019】
図3は、車両用灯具システムのコントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。図示のコンピュータは、相互に通信可能に接続されたCPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、記憶装置204、外部インタフェース(I/F)205を含んで構成されている。CPU201は、ROM202から読み出される基本制御プログラムをベースにして動作し、記憶装置204に格納されたプログラム(アプリケーションプログラム)206を読み出してこれを実行することにより、上記したコントローラ10の機能を実現する。RAM203は、CPU201の動作時に使用させるデータを一時的に記憶する。記憶装置204は、例えばハードディスク、ソリッドステートドライブなどの不揮発性の記憶装置であり、プログラム206など種々のデータを格納する。外部インタフェース205は、CPU201と外部装置を接続するインタフェースである。
【0020】
図4(A)は、走行中の車両の角度について説明するための模式図である。図4(B)は、図4(A)に示す状態に対応する加速度センサの出力について説明するための図である。図4(A)に示すように車両100が路面101を走行中であるとする。路面101は、水平を基準に角度θzで傾いているとする。以下、この角度を路面角度θzという。また、車両100は、積載物等の状況に応じて路面101を基準に角度θkで傾いているとする。図示の例では車両100は後傾状態であるが逆に前傾状態となる場合もある。角度θkは上記した車両角度に相当するものであり、以下、単に車両角度θkという。
【0021】
図4(A)に示すように車両100が路面角度θzの路面101を加速しながら走行しているとする。このとき、加速度センサ12のX軸(車両前後方向に対応する軸)とZ軸(車両上下方向に対応する軸)の各々は車両角度θkの変化に伴って傾くが、他方で、加速によって生じる加速度ベクトルAは車両角度θkによる影響を受けず、路面角度θzにより示される路面101と平行になる。このとき、加速度センサ12のX軸、Z軸の各成分の出力値(出力データないし出力信号)は以下のように表せる。式中の「G」は重力加速度を示す(以下においても同様)。
X=-Gsin(θk+θz)-Acosθk ・・・(1)
Z= Gcos(θk+θz)-Asinθk ・・・(2)
【0022】
ここで、走行中の車両100が定速である場合(車速の変化がない場合)、加速度ベクトルAは0となるため、加速度センサ12のX軸、Z軸の各成分の出力値X、Zは上記(1)、(2)式に基づきそれぞれ下記のように表せる。
=-Gsin(θk+θz) ・・・(3)
= Gcos(θk+θz) ・・・(4)
【0023】
上記(3)、(4)式によって表される値が重力加速度成分に相当する。すなわち、重力加速度成分X、Zは、車両角度θkと路面角度θzを含んだ関係式によって表される。従って、車両100が定速状態であることが検出できれば、加速度センサ12の出力値により重力加速度成分を得られる。しかし、例えば車両100の車速センサ(図示せず)から得られる車速に基づいて定速状態であるかどうかを判断しようとした場合、重力加速度成分が得られるタイミングとの間で時間差が生じることで、重力加速度成分の精度が低下する。このため本実施形態では、以下に説明するようにジャイロセンサ11の出力値を用いて車両100の定速状態を検出する。
【0024】
図5は、ジャイロセンサを用いて得られる車両のピッチ角度の内訳を説明するための図である。ジャイロセンサ11は、車両のピッチ、ロール、ヨーの各方向に対応する角速度を検出するので、これらを積分(積算)することで車両のピッチ角度等を求めることができる。なお、ピッチ角度等の算出に際しては公知の種々のフィルタ(例えばMadgwickフィルタ)を用いた補正を行うことでピッチ角度等の算出精度を高めることができる。図示のように、車両の前後方向の角度であるピッチ角度θpには、上記した路面角度θz、車両角度θkが含まれるとともに、車両の加減速に伴うヘッドアップやヘッドダウンによって生じる一時的な角度変化分である角度θudが含まれる。これらの関係は以下のように表せる。
θp=θz+θk+θud ・・・(5)
【0025】
ここで、θudは走行中の車両のアクセルやブレーキを踏み込むことで車両前後方向に生じる加速度の影響で一時的に発生するものであり、等加速度で走行中の場合にはθudは維持されるが定速で走行中には加速度の影響がなくなり、θud=0となる。つまり、定速時にはθp=θz+θkとなる。
【0026】
得られたピッチ角度から重力加速度成分に対応する角度を求める。重力加速度成分は路面角度θzと車両角度θkを含んだ角度θから求めることができる。走行中は車両への人の乗降や荷物積載などが発生しないので原理上、車両角度θkが変化することはないので、走行中におけるピッチ角度の変化は路面角度θzの変化ないし車両の加速度による角度θudによるものとなる。従って、これら走行中に生じ得る角度変化分の影響がない状態でのピッチ角度θpが得られれば、このピッチ角度θpを重力加速度成分に対応する角度θとして用いることができる。
【0027】
上記した重力加速度成分に対応する角度θを用い、かつジャイロセンサ11を用いて得られるロール角度θrを用いることで、下記のようにXYZ各軸に対応する重力加速度成分X、Y、Zを求めることができる。Xは車両の前後方向(進行方向)に対応する重力加速度成分であり、Yは車両の左右方向に対応する重力加速度成分であり、Zは車両の上下方向に対応する重力加速度成分である。なお、ロール角度θrとは、車両のロール方向の角度である。
=Gsinθ ・・・(6)
=Gcosθsinθr ・・・(7)
=Gcosθcosθr ・・・(8)
【0028】
図6は、車両が平坦路を走行中である場合におけるピッチ角度の変化の一例を模式的に示す波形図である。上記したように重力加速度成分を取得できるのはピッチ角度が安定したとき、すなわち走行中の角度変化の影響がない場合である。従って、ピッチ角度が安定した状態であることを検出し、そのタイミングで重力加速度成分に相当する角度を取得することができる。具体的には、ピッチ角度が安定する場合としては以下の3パターンが考えられる。
(a)ピッチ角度の変化量が小さい
(b)ピッチ角度に瞬間的な変化(飛び値)があるが比較的に変化量が小さい
(c)路面角度の変化等に伴って変化した後、変化量が小さい
【0029】
図6に示す期間aは上記した条件(a)に対応する期間であり、期間bは上記した条件(b)に対応する期間である。なお、図6において横軸の1マスは0.2sに対応し、縦軸の1マスは0.01degに対応している。期間aではピッチ角度の変化量が0.01degに満たない小さい量である。期間bでは、丸で囲んで示した4箇所において飛び値があり、各箇所を瞬間的に見れば安定とはいえないが、ある程度の区間でピッチ角度の値を平滑化すれば安定とみなせる。
【0030】
本実施形態では、一例として1.0s毎にピッチ角度の区間平均値を求め、ある区間の区間平均値と次区間の区間平均値との差分の絶対値(変化量)が基準値(一例として0.01deg)以下であれば、車両のピッチ角度の変化量が小さく安定した状態であるとする。なお、区間の長さや基準値の大きさは上記内容に限定されず、シミュレーションや実験の結果などに基づいて定めることができる。
【0031】
図7(A)、図7(B)は、車両が平坦路を走行中である場合におけるピッチ角度の変化の他の例を模式的に示す波形図である。なお、図7(A)、図7(B)において横軸の1マスは0.2sに対応し、縦軸の1マスは1.0degに対応している。図7(A)は、路面角度θzに変化があった場合のピッチ角度変化の一例を示し、図7(B)は、車両の加減速によるヘッドアップやヘッドダウンがあった場合のピッチ角度変化の一例を示している。これらは上記した条件(c)の場合に対応するピッチ角度変化の一例である。
【0032】
各図に示すように、ピッチ角度に大きな変化が生じている場合には車両のヘッドアップやヘッドダウンの可能性があり、その場合には重力加速度成分の取得には不要であるために除外したい。そこで、時期Aにおける安定時のピッチ角度と時期Bにおける安定時のピッチ角度との差分の絶対値(変化量)が所定の閾値以上に変化している場合には、一旦「不安定」であると判定する。閾値は、一例として3.0degに設定することができる。
【0033】
他方で、単純に路面角度が変化した場合には変化後の安定状態については除外されないようにしたい。そこで、ピッチ角度の差分が一度上記した閾値を超過する毎に当該閾値をより大きい値に変更する。それにより、図7(A)における時期B~時期Cのようにピッチ角度の変化量が小さい状態が継続した場合には「安定」と判定できる。また、図7(B)における時期B~時期Cのようにピッチ角度の変化量が大きい状態が継続した場合には「不安定」と判定できる。そして、閾値の変更については、ピッチ角度が一度でも「安定」と判定された場合には初期値(上記例では3.0deg)に初期化される。
【0034】
図8は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。これらの処理は、コントローラ10によって所定期間毎(例えば100ms毎)に繰り返し実行される。なお、いずれの動作手順においても、情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて適宜処理順序を入れ替えることも可能であり、またここで言及しない他の処理を追加してもよく、それらの実施態様も排除されない。以下、このフローチャートを参照しながら車両用灯具システムの動作を詳細に説明する。
【0035】
コントローラ10は、ジャイロセンサ11から角速度のデータを読み出すとともに加速度センサ12から加速度のデータを読み出す(ステップS11)。詳細には、角速度のデータは姿勢角度算出部21によって読み出され、加速度のデータは姿勢角度算出部21及び重力加速度成分処理部23によって読み出される。
【0036】
姿勢角度算出部21は、角速度のデータに基づいて車両のピッチ角度、ロール角度、ヨー角度を求める(ステップS12)。
【0037】
車両状態出力部22は、今周期及び前周期の各々におけるピッチ角度の区間平均値を求める(ステップS13)。今周期の区間平均値をAv(n)、前周期の区間平均値をAv(n-1)とする。区間の長さは一例として上記した1.0sである。なお、演算に必要十分なピッチ角度のデータ数が得られていない場合(処理開始直後等)においては、例えば予め設定した代替値を用いる等の処理を行う。
【0038】
車両状態出力部22は、区間平均値差分の絶対値|Av(n)-Av(n-1)|を求め、この差分の絶対値が所定の基準値(一例として0.01deg)より小さい場合には(ステップS14;YES)、上記した条件(c)の場合に対応する閾値Bを設定する(ステップS15)。
【0039】
次に、車両状態出力部22は、ピッチ角度の今周期の区間平均値Av(n)と前回記憶された安定角度Dの値との差分の絶対値|D-Av(n)|を求め、これが閾値B以上である場合には(ステップS16;NO)、当該絶対値が閾値B以上となった回数を示すパラメータであるカウント値を増加させ、これをメモリ13に記憶させる(ステップS17)。
【0040】
ここで、上記のカウント値とは、上記したステップS15における閾値Bの設定時に用いられるものである。具体的には、現在のカウント値をCとすると閾値Bは、例えば3.0×(C+1)[deg]と設定される。そして、ステップS17の処理が行われる毎にこのカウント値Cは1ずつ増加する。従って、ステップS16において当該絶対値が閾値B以上となった回数が増える毎に閾値が増加するように設定される。それにより、上記した条件(c)の場合に対応し、徐々に閾値を増加させることができる。
【0041】
他方、ピッチ角度の今周期の区間平均値Av(n)と前回記憶された安定角度Dとの差分の絶対値|D-Av(n)|が閾値Bより小さい場合には(ステップS16;YES)、今周期の区間平均値Av(n)を新たな安定角度Dの値としてメモリ13に記憶させる(ステップS18)。なお、ステップS16において、演算開始直後等で前回記憶された安定角度Dが存在しない場合には、例えば予め設けた所定の代替値を安定角度Dとして用いるとよい。
【0042】
次に、車両状態出力部22は、カウント値Cを0に初期化する(ステップS19)。これにより、次の閾値Bの設定時に閾値Bが初期値(一例として3.0deg)に戻される。
【0043】
次に、重力加速度成分処理部23は、安定角度Dの値を重力加速度成分に対応する角度θとして用い、かつジャイロセンサ11を用いて得られるロール角度θrを用いて、XYZ各軸に対応する重力加速度成分X、Y、Zを算出し(ステップS20)、これら算出した重力加速度成分X、Y、Zの値をメモリ13に記憶させる(ステップS21)。
【0044】
他方で、上記したステップS14において、区間平均値差分の絶対値|Av(n)-Av(n-1)|が所定の基準値以上であった場合には(ステップS14;NO)、重力加速度成分処理部23は、メモリ13に記憶された重力加速度成分X、Y、Zの値を読み出し、これらをステップS11で読み出された加速度センサ12の加速度からそれぞれ除去する(ステップS22)。具体的には、加速度センサ12から得られる加速度をX、Y、Zとすれば、X-X、Y-Y、Z-Zのそれぞれの演算が行われる。求められた各加速度のデータは光軸制御部24に出力される。
【0045】
次に、光軸制御部24は、重力加速度成分処理部23から出力される加速度のデータに基づいて車両角度を求め(ステップS23)、この車両角度に応じて各ランプユニット30L、30Rの照射光の光軸を制御するための制御信号を生成して出力する(ステップS24)。なお、ステップS23においては公知の種々の手法を用いることが可能であり、例えば加速度のデータを一定数収集して統計処理を行い、その結果を用いて車両角度を求めることもできる。
【0046】
以上のような実施形態によれば、オートレベリング技術を用いる場合において、精度の良い車両角度に基づく光軸制御をできるようになるまでに時間を短縮することが可能となる。
【0047】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では加速度センサのXYZ各軸が車両の前後方向、左右方向、上下方向と略一致している場合を例示していたが各軸の配置はこれに限定されず、XYZ各軸が車両の前後方向、左右方向、上下方向と一致していない配置としてもよい。その場合には加速度センサ12の各軸の出力に対して適宜補正処理を行えばよい。
【0048】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
【0049】
(付記1)
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に設置された加速度センサと、
前記車両に設置されたジャイロセンサと、
前記加速度センサ、前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求め、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、
前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去し、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御する、
車両用前照灯の光軸制御装置。
【0050】
(付記2)
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に設置された加速度センサと、
前記車両に設置されたジャイロセンサと、
前記加速度センサ、前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求める角度算出部と、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出し、前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去する除去処理部と、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御する光軸制御部と、
を含む、車両用前照灯の光軸制御装置。
【0051】
(付記3)
前記除去処理部は、第1期間の前記ピッチ角度の第1平均値と第2期間の前記ピッチ角度の第2平均値の間の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記ピッチ角度の前記第2平均値を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出する、
付記2に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【0052】
(付記4)
前記除去処理部は、前記ピッチ角度の前記第2平均値と所定の安定角度値との間の変化量が所定の閾値よりも小さい場合に、当該第2平均値を新たな当該安定角度値として設定する、
付記3に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【0053】
(付記5)
前記除去処理部は、前記ピッチ角度の前記第2平均値と前記安定角度値との間の変化量が前記閾値以上の場合に、当該閾値をより大きい値に変更する、
付記4に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【0054】
(付記6)
前記除去処理部は、前記閾値が変更された後の処理機会において前記ピッチ角度の前記第2平均値と所定の安定角度値との間の変化量が当該閾値よりも小さい場合には、前記閾値を初期値に変更する、
付記5に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【0055】
(付記7)
前記ピッチ角度をθ、重力加速度をGとすると、
前記車両の前後方向に対応する重力加速度成分Xは、X=-Gsinθの関係式で求められ、
前記車両の上下方向に対応する重力加速度成分をZは、Z=Gcosθの関係式で求められる、
付記1~6の何れかに記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【0056】
(付記8)
車両に搭載された前照灯の光軸を制御するために、当該車両に設置された前記加速度センサ及び前記ジャイロセンサの各々と接続されたコントローラにより実行される方法であって、
前記ジャイロセンサの出力を用いて前記車両のピッチ角度を求めること、
前記ピッチ角度の変化量が所定の基準値よりも小さい場合に、前記第1時期の前記ピッチ角度を用いて前記車両の少なくとも前後方向及び上下方向の各々に対応する重力加速度成分を算出すること、
前記加速度センサの出力を用いて求まる前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度の各々から各前記重力加速度成分を除去すること、
各前記重力加速度成分を除去後の前記車両の前後方向及び上下方向の各々に対応する加速度を用いて前記前照灯の光軸を制御すること、
を含む、車両用前照灯の光軸制御方法。
【0057】
(付記9)
付記1~7の何れかに記載の光軸制御装置と、当該光軸制御装置によって制御される前照灯と、を含む、車両用灯具システム。
【符号の説明】
【0058】
10:コントローラ、11:ジャイロセンサ、12:加速度センサ、13:メモリ、21:姿勢角度算出部、22:車両状態出力部、23:重力加速度成分処理部、24:光軸制御部、30L、30R:ランプユニット
図1
図2
図3
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図5
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図8