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2023-170245レーザ溶接方法、端子継手構造、電力変換装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170245
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法、端子継手構造、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20231124BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 W
B23K26/21 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081839
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 浩史
(72)【発明者】
【氏名】宮城 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】金澤 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】錦見 総徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】森 貴裕
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA21
4E168BA54
4E168BA87
4E168CA06
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB22
4E168DA03
4E168DA40
4E168EA17
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】レーザ溶接におけるスパッタを抑制できる。
【解決手段】レーザ溶接方法は、銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子および第二端子を重ね合わせ、第一端子および第二端子をレーザで溶融接合するレーザ溶接方法であって、第一端子において第二端子と重ね合わされる面とは反対面である第一上面と、第二端子において第一端子に重ね合わされる面と同じ側の面である第二上面と、のそれぞれに対し、第一端子の縁に沿ってレーザを照射するレーザ照射工程を含み、レーザ照射工程では、熱伝導モード溶接となる条件でレーザが複数回照射される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子および第二端子を重ね合わせ、前記第一端子および前記第二端子をレーザで溶融接合するレーザ溶接方法であって、
前記第一端子において前記第二端子と重ね合わされる面とは反対面である第一上面と、前記第二端子において前記第一端子に重ね合わされる面と同じ側の面である第二上面と、のそれぞれに対し、前記第一端子の縁に沿って前記レーザを照射するレーザ照射工程を含み、
前記レーザ照射工程では、熱伝導モード溶接となる条件で前記レーザが複数回照射されるレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法であって、
前記第一端子の縁とは、前記第一端子に設けられた貫通孔の縁であり、
前記レーザ照射工程において、前記貫通孔の縁に沿って、前記第一端子の上面および前記第二端子の上面それぞれに前記レーザを照射するレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ溶接方法であって、
前記第一端子は、前記第二端子と重なり合う先端側において、前記第二端子と重ならない領域よりも相対的に熱容量が小さい低熱容量領域が設けられるレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ溶接方法であって、
前記レーザ照射工程において溶融された前記重ね合わせ部が凝固することによって、平均結晶粒径が50μm以上の溶接部が形成される溶接部形成工程を含むレーザ溶接方法。
【請求項5】
銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子および第二端子を重ね合わせ、重ね合わせ部をレーザで溶融接合した溶接部を備えた端子継手構造であって、
前記溶接部は、前記第一端子および前記第二端子の重ね合わせ面とは反対面である前記第一端子の上面において前記第一端子の縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第一領域と、前記重ね合わせ面と同じ側の面である前記第二端子の上面において前記第一端子の前記縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第二領域と、を含む端子継手構造。
【請求項6】
請求項5に記載の端子継手構造であって、
前記溶接部における平均結晶粒径が50μm以上である端子継手構造。
【請求項7】
請求項5に記載の端子継手構造であって、
前記第一端子の前記縁は、前記第一端子に設けられた貫通孔の縁であり、
前記溶接部は、前記貫通孔の前記縁に沿って形成される端子継手構造。
【請求項8】
請求項5に記載の端子継手構造であって、
前記第一端子は、前記第二端子と重なり合う先端側において、前記第二端子と重ならない領域よりも相対的に熱容量が小さい低熱容量領域が設けられる端子継手構造。
【請求項9】
請求項5から請求項8までのいずれか一項に記載された端子継手構造を有する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法、端子継手構造、および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置やエンジンコントロールユニット、モータ、電池などでは、電気的な接続を得るため、バスバと呼ばれる導体を用いる。例えば、インバータはバッテリ等の直流電源から交流電流を生成する装置で、スイッチング素子等を備えたパワーモジュール、平滑コンデンサ、バスバ、制御回路等で構成されている。バスバはパワーモジュール、平滑コンデンサなどと電気的に接続されており、パワーモジュールで生成された交流電流はバスバを介してモータへ供給される。バスバは導電性が求められるため、一般的に、銅やアルミが用いられており、接続方法にはTIG(Tungsten Inert Gas)溶接が用いられることが多い。
【0003】
TIG溶接では、拝み継手と呼ばれるバスバを立てて突き合わせた継手が採用される場合が多い。しかし、拝み継手はバスバを立てるための空間効率が低く、小型化や省スペース化には不利な溶接継手である。そのため、バスバを重ね継手を用いて溶接することを検討されている。重ね継手はバスバを上下に重ねて、接合する方法であり、空間効率に優れた溶接継手である。重ね継手の場合、一般的にはエネルギー効率の高いレーザ溶接が用いられる。レーザ溶接の溶融モードはキーホールモードと熱伝導モードに大別される。多くの場合、深溶込みが得られるキーホールモード溶接が採用されるが、一方で、キーホールモード溶接ではスパッタと呼ばれる溶融金属の飛散が生じる。スパッタは溶接部周囲に付着し、短絡等の不具合の原因となる。熱伝導モード溶接はスパッタが発生しない溶融モードであるが、溶込み深さが0.2~0.3mmと浅溶込みとなる欠点がある。バスバの板厚は0.3mm以上であることが多く、厚いものでは0.5mm~1.5mm程度のものまであるため、熱伝導モード溶接では第一端子と第二端子を溶接することが困難である。
【0004】
特許文献1には、加工対象を、レーザ装置からのレーザ光の照射される領域に配置し、前記レーザ装置からの前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、工程を含み、前記レーザ光は主ビームと、掃引方向前方に少なくともその一部がある副ビームによって構成され、主ビームのパワー密度は副ビームのパワー密度以上である、加工対象をレーザによって溶接する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/159857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている発明では、スパッタの抑制に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によるレーザ溶接方法は、銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子および第二端子を重ね合わせ、前記第一端子および前記第二端子をレーザで溶融接合するレーザ溶接方法であって、前記第一端子において前記第二端子と重ね合わされる面とは反対面である第一上面と、前記第二端子において前記第一端子に重ね合わされる面と同じ側の面である第二上面と、のそれぞれに対し、前記第一端子の縁に沿って前記レーザを照射するレーザ照射工程を含み、前記レーザ照射工程では、熱伝導モード溶接となる条件で前記レーザが複数回照射される。
本発明の第2の態様による端子継手構造は、銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子および第二端子を重ね合わせ、重ね合わせ部をレーザで溶融接合した溶接部を備えた端子継手構造であって、前記溶接部は、前記第一端子および前記第二端子の重ね合わせ面とは反対面である前記第一端子の上面において前記第一端子の縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第一領域と、前記重ね合わせ面と同じ側の面である前記第二端子の上面において前記第一端子の前記縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第二領域と、を含む。
本発明の第3の態様による電力変換装置は、上述した端子継手構造を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザ溶接におけるスパッタを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電力変換装置の側面図
図2】第一端子および第二端子の溶接手法を示す模式図
図3】溶接装置の概略図
図4】溶接位置の断面図
図5】比較例における溶接位置の断面図
図6】実施例2におけるレーザ光の照射を示す図
図7】変形例1における溶接方法を示す図
図8】変形例1の効果を説明する図
図9】変形例2における第一端子の形状を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
―実施の形態―
以下、図1図6を参照して、本発明にかかる電力変換装置および溶接方法の実施の形態を説明する。
【0011】
(構成)
図1は、本発明にかかる電力変換装置1の側面図である。図1では、説明の便宜のために相互に直交するXYZ軸を記載している。電力変換装置1は、半導体素子2と、複数の放熱板3と、端子台4と、キャパシタ5とを備える。半導体素子2は複数の接続端子2Aを有する。端子台4は、半導体側端部41と、外部側端部42とを含む。それぞれの放熱板3は、半導体素子2を両側、すなわちZ軸のプラス側とマイナス側から挟み込む。放熱板3は、側面図では突起のように示されるフィンを有し、効率的な放熱を可能とする。
【0012】
半導体側端部41は、半導体素子2の接続端子2AとZ方向に重なりを有し、この重なり部分において後述する手法により接続端子2Aと溶接されている。外部側端部42は、電力変換装置1の外部と接続される。キャパシタ5は、接続端子2AとZ方向に重なりを有し、この重なり部分において後述する手法により接続端子2Aと溶接されている。半導体側端部41と接続端子2Aとの溶接手法は、キャパシタ5と接続端子2Aとの溶接手法と同一である。以下では溶接対象の部材を一般化して「第一端子」および「第二端子」と呼ぶ。
【0013】
(溶接手法)
図2は、第一端子21および第二端子22の溶接手法を示す模式図である。第一端子21および第二端子22はZ軸方向に重なりを有するように配される。図2に示す例では、Z軸プラス方向からレーザ光9が照射される。以下では、第一端子21におけるZ軸プラス側の面を第一上面21U、第一端子21におけるZ軸マイナス側の面を第一下面21Dと呼ぶ。また、第二端子22におけるZ軸プラス側の面を第二上面22U、第二端子22におけるZ軸マイナス側の面を第二下面22Dと呼ぶ。第一端子21がZ軸のプラス側に位置し、第二端子22がZ軸のマイナス側に位置する。そのため、第一下面21Dと第二上面22Uとが重ね合わされる。第一上面21Uは、第一端子21において第二端子22と重ね合わされる第一下面21Dとは反対面である。第二上面22Uは、第二端子22において第一端子21に重ね合わされる面と同じ側の面である。
【0014】
第一端子21および第二端子22の材質は、導電性の高い金属、銅、アルミニウム、銅、またはアルミニウム形合金である。なお、第一端子21および第二端子22は平板形状に限定されず、角柱や円柱状のピンであってもよい。本実施の形態では、第一上面21Uおよび第二上面22Uにおいて、第一端子21のX軸マイナス側の縁に沿って熱伝導モードとなる条件でレーザ光9を複数回照射する。熱のこもりやすい端部に熱伝導モードとなる条件で複数回レーザ照射を行うことで局所的に予熱された状態となり、熱伝導モードであっても深溶込みが得られる。
【0015】
レーザ照射位置は端面からの距離が近すぎると第一端子21に十分レーザ照射が行われず、逆に遠すぎると第二端子22溶融部との接合が困難となる。そのため、レーザ光9の照射は端部から0.1mm~5mmの位置が好ましく、より好ましくは0.2mm~3mm、さらに好ましくは0.3mm~1.5mmの距離である。レーザ光9を第一端子21および第二端子22に照射する順番は任意であり、どちらが先でもよいし、第一端子21および第二端子22に複数回照射する場合には1回ずつ交互に照射してもよい。
【0016】
なお、熱伝導モード溶接とは、レーザ入射エネルギーが溶融金属中の熱伝導と対流とによってだけ溶接ルート部に伝わる溶込み比が小さいことが特徴の溶接であり、熱伝導形溶接と呼ばれることもある。熱伝導モード溶接と対称的な溶接がキーホール溶接であり、溶融池先端近傍にキーホール(材料を蒸発させるのに十分なほど高いエネルギー密度のレーザ光を照射した際に形成される溶融金属に囲まれた穴)を形成し、溶込み比の大きい溶込みを得る溶接方法である。
【0017】
ただし、第一端子21の端部に熱伝導モードとなる条件で複数回レーザ照射をするだけでは第二端子22が溶融されず、第一端子21と第二端子22とが十分に接合されない。そこで、重ね合わせ面と同じ側の面である第二端子22の上面においても端面に沿って、熱伝導モードとなる条件で複数回レーザ照射を行う。なお、第二端子22の上面にレーザ照射をする場合においても端面からの距離は近すぎず遠すぎない距離にする必要があり、0.1mm~5mmの位置が好ましく、より好ましくは0.2mm~3mm、さらに好ましくは0.3mm~1.5mmの距離である。第二端子22にもレーザ光9を照射することで、端面付近の第二端子22の上面である第二上面22Uが溶融し、第一端子21と繋がることで接合される。
【0018】
(端子溶接装置)
図3は、図2を参照して説明した溶接を行う溶接装置100の概略図である。溶接装置100は、シールドガス12を提供するシールドガスノズル11と、レーザ光9を照射するレーザ加工ヘッド13と、レーザ光9を生成するレーザ発振器14と、レーザ発振器14およびレーザ加工ヘッド13を接続する光ファイバ15と、溶接対象物を移動させるXYステージ16と、を含む。
【0019】
レーザ発振器14が生成するレーザ光9の波長は特に限定されないが、安定して熱伝導モード溶接を行うために、波長は600nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。具体的には、波長が532μmのグリーンレーザや波長が450μmのブルーレーザが好ましい。シールドガス12は、たとえばアルゴンガスである。溶接装置100は、レーザ発振器14で生成したレーザを光ファイバ15、レーザ加工ヘッド13を通じて、第一端子21および第二端子22に照射する。レーザ照射中にXYステージ16を動作させて、任意の位置を溶接する。レーザ10を第一端子21の端部に沿って、第一上面21Uおよび第二上面22Uに複数回照射することにより、第一端子21の端部と第二端子22が溶融および混合し、第一端子21および第二端子22の接合部が形成される。
【0020】
(溶接方法)
溶接装置100を用いた第一端子21および第二端子22の溶接は、レーザ照射工程と溶接部形成工程とに分けられる。まずレーザ照射工程では、溶接装置100を用いて第一端子21および第二端子22にレーザ光9が照射される。次の溶接部形成工程では、レーザ光9の照射領域が少しずつ冷えて溶接部が形成される。溶接部については次の図4で説明する。溶接部形成工程における放熱は、自然放熱でもよいし、冷却を促進または抑制するために周囲温度や空気の流れが制御されてもよい。
【0021】
(断面図)
図4は溶接位置の断面図である。図4の上部は断面写真であり、図4の下部は断面写真を説明する模式図である。断面写真を得るための詳細な手順は後述する。なお図4上部に示す矢印の長さは、参考のための寸法を示している。図4下部の模式図に示すように、図示上部からレーザ光9が照射された。レーザ光9が照射位置に向かって、柱状の結晶粒801が形成される。以下では、第一端子21においてこの結晶粒801が存在する領域を第一結晶粒領域810と呼び、第二端子22においてこの結晶粒801が存在する領域を第二結晶粒領域820と呼ぶ。第一結晶粒領域810および第二結晶粒領域820は熱伝導モードで複数回のレーザ照射を行った領域に特有の組織形態であり、溶融凝固過程の冷却速度が極めて遅いことに起因している。一般的に結晶粒界は電気伝導の障害となるため、電気伝導が律速される接合部においては結晶粒径は大きい方が好ましく、45μm以上であることが好ましい。より好ましくは55μm以上であり、さらに好ましくは65μm以上である。
【0022】
以下では、第一端子21および第二端子22の領域であり、レーザ光9により溶解され、その後の冷却により接合される領域を溶接部800と呼ぶ。溶接部800には、第一結晶粒領域810および第二結晶粒領域820が含まれる。
【0023】
図5は、比較例であるキーホールモード溶接における溶接位置の断面図である。図5の上部は断面写真であり、図5の下部は断面写真を説明する模式図である。図5においても第一端子21および第二端子22が図示上下方向に重なっている。キーホールモード溶接なので、レーザ光9は中央の深い位置まで到達した。キーホールモード溶接では、冷却速度が比較的早いため、結晶粒径は細かい。また、結晶の形状もビード中央部に等軸晶851と呼ばれる等方的な微細結晶粒が生じ、柱状結晶852がそのビード中央部に向かって延在した組織となる。
【0024】
(実施例)
以下では、本実施形態のレーザ溶接方法を具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
幅8mm、厚み1mmの第一端子と幅8mm、厚み1.5mmの第二端子を重ね合わせ、重ね合わせ部のレーザ溶接を行った。レーザの波長は532nmのグリーンレーザを使用し、熱伝導モード溶接となるように、エネルギー密度が1500kW/cm2以下となる条件を採用した。レーザ照射は、第一上面21Uにレーザを照射した後で第二上面22Uにレーザを照射する工程を1回として、この工程を1回だけ実施するパターンと、この工程を10回実施するパターンとの2パターン実施した。
【0026】
なお、レーザ軌道は第一端子21および第二端子22のいずれに照射する場合においても、第一端子21の端面に沿った軌道である。また、端面からレーザ照射位置の距離は0.5mmとした。レーザ溶接実験中は、高速度カメラにより溶融池を撮影し、スパッタの有無を確認した。なお、高速度カメラには950nm±50nmのバンドパスフィルタを装着し、フレームレートは500fpsとして撮影を行った。レーザ溶接実験の結果、レーザ照射工程1回の場合と10回の場合、どちらもスパッタは発生しなかったが、1回だけの場合には第一端子21と第二端子22は接合されず、10回実施した場合には第一端子21と第二端子22の接合が確認された。
【0027】
次に、接合された溶接サンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した。採取した断面サンプルを、まず耐水エメリー紙#1000で研磨した。そして、9μm、3μm、および1μmのダイヤモンド研磨剤を用いて鏡面研磨した。さらに、塩酸およびエタノールで塩化鉄を溶かした水溶液でエッチングして光学顕微鏡により断面観察を実施したものが図4の上部に示したものである。図4より、レーザ光9を照射した位置に向かって粗大な柱状の結晶粒801が延在している様子が確認できる。
【0028】
次に、断面サンプルを鏡面研磨した後、活性酸化物琢磨懸濁液を用いて表面のひずみを除去したうえで電子線後方散乱回折(EBSD:Electron backscatter diffraction)法により接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は67.2μm、最大結晶粒径は312.2μmであることがわかった。なお、結晶粒径は円相当径として算出した値である。
【0029】
(実施例2)
図6は、実施例2におけるレーザ光9の照射を示す図である。実施例2では、実施例1と同様に第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、図6の点線で示すように第一端子21および第二端子22の両方の上面にレーザが照射されるような楕円軌道を描きながら、ウォブリングと呼ばれる照射方法によりレーザ溶接を実施した。ウォブリングとはレーザ光の照射位置が円を描きながら所定方向に移動するように照射位置を走査することである。
【0030】
なお、楕円の長軸、短軸の長さはそれぞれ、7mm、1mmとした。また、ウォブリングの条件は、幅0.8mm、ピッチ0.2mm、回転周波数250Hzとした。実施例2においてもレーザの波長は532nmのグリーンレーザを使用し、熱伝導モード溶接となるように、エネルギー密度が1500kW/cm2以下となる条件を採用した。楕円軌道を1周する工程を1回として、前記工程を1回、5回、8回実施した。なお、5回および8回実施する場合は、レーザ照射を1周毎に止めることなく連続してレーザ照射を実施した。その結果、いずれもスパッタが発生しなかったが、1回だけレーザ照射した場合には接合されなかった。5回実施した場合には一部は接合されたが未接合部が確認された。一方で、8回実施した場合においては未接合部がなく接合されることが確認された。
【0031】
次に、8回実施したサンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した。断面サンプルを耐水エメリー紙#1000を用いて研磨し、9μm、3μm、および1μmのダイヤモンド研磨剤を用いて鏡面研磨した。さらに、活性酸化物琢磨懸濁液を用いてサンプル表面のひずみを除去したうえでEBSD法により接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は55.7μm、最大結晶粒径が198.7μmであることがわかった。
【0032】
(比較例1)
実施例1と寸法が同じ第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、重ね合わせ部をキーホール溶接となる条件、たとえばエネルギー密度が1500kW/cm2以上となる条件にて隅肉溶接を実施した。なお、レーザは実施例1と同じ波長532nmのグリーンレーザを使用し、溶接回数は1回とした。その結果、1回の溶接だけで接合されたが、スパッタが多量に発生することが確認された。次に、接合された溶接サンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した後、実施例1と同様の方法で鏡面研磨およびEBSD法による接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は30.1μm、最大結晶粒径は92.8μmであることがわかった。
【0033】
(比較例2)
実施例1と寸法が同じ第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、キーホール溶接となる条件にて重ね溶接を実施した。なお、レーザ波長1064nmのIRレーザを使用し、溶接は同じ軌道で2回実施した。その結果、第一端子21および第二端子22は接合されたものの、比較例1と同様にスパッタが多量に発生することが確認された。次に、接合された溶接サンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した後、実施例1と同様の方法で鏡面研磨およびEBSD法による接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は24.4μm、最大結晶粒径は101.4μmであることがわかった。
【0034】
(比較例3)
実施例1と寸法が同じ第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、キーホール溶接となる条件にて重ね溶接を実施した。なお、レーザ波長1064nmのIRレーザを使用し、ウォブリング溶接を実施した。その結果、第一端子21および第二端子22は接合され、比較例1および比較例2よりはスパッタが抑制されたものの、スパッタが発生することが確認された。次に、接合された溶接サンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した後、実施例1と同様の方法で鏡面研磨およびEBSD法による接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は42.2μm、最大結晶粒径は159.2μmであることがわかった。
【0035】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電力変換装置1に用いられるレーザ溶接方法は、銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、重ね合わせた領域をレーザで溶融接合する。このレーザ溶接方法は、第一端子21において第二端子22と重ね合わされる面とは反対面である第一上面21Uと、第二端子22において第一端子21に重ね合わされる面と同じ側の面である第二上面22Uと、のそれぞれに対し、第一端子21の縁に沿ってレーザを照射するレーザ照射工程を含む。レーザ照射工程では、熱伝導モード溶接となる条件でレーザが複数回照射される。そのため、溶接によるスパッタの発生を抑制できる。
【0036】
(2)レーザ照射工程において溶融された重ね合わせ領域が凝固することによって、平均結晶粒径が50μm以上の溶接部800が形成される溶接部形成工程を含む。そのため、溶接部800の電気伝導率が向上できる。詳しくは次のとおりである。一般に、金属材料では結晶粒界は電気伝導の障害となる。本実施の形態における溶接方法では、熱伝導モードのレーザを複数回照射することで、図4に示したように接合部の結晶粒はレーザ照射点に向かって成長する粗大な結晶粒になる。これにより結晶粒界密度が減少し、電気伝導率が向上する。また、電気伝導率が向上することにより、発熱やエネルギー損失を抑制できる。
【0037】
(3)電力変換装置1は、銅またはアルミニウムを主成分とする金属材料からなる第一端子21および第二端子22を重ね合わせ、第一端子21および第二端子22をレーザで溶融接合した溶接部800を備えた端子継手構造を含む。溶接部800は、第一端子21よび第二端子22の重ね合わせ面とは反対面である第一上面21Uにおいて第一端子21の縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第一結晶粒領域810と、重ね合わせ面と同じ側の面である第二上面22Uにおいて第一端子21の縁に沿った領域に向かって柱状の結晶粒が延在した第二結晶粒領域820と、を含む。この接手構造によれば結晶粒が粗大化しやすいので、結晶粒界密度が減少し電気伝導率が向上する。
【0038】
(4)電力変換装置1に含まれる端子継手構造は、溶接部800における平均結晶粒径が50μm以上である。そのため、電気伝導率が良好な溶接部800を得ることができる。
【0039】
(5)電力変換装置1は、前述の端子継手構造を有する。そのため、電気伝導率が良好な電力変換装置1が得られる。
【0040】
(変形例1)
上述した実施の形態では、第一端子21のX軸方向マイナス側の縁に沿ってレーザ光9を照射した。しかし、第一端子21に貫通孔を設けて、その貫通孔の縁に沿ってレーザ光9を照射してもよい。
【0041】
図7は、変形例1における溶接方法を示す図である。第一端子21には貫通孔21Hが設けられ、貫通孔21Hを介して第二上面22UがZ軸プラス側に露出している。本変形例では、第一上面21Uおよび第二上面22Uにおける貫通孔21Hの縁にレーザ光9を照射する。レーザ光9を照射する位置と縁の位置関係は上述した実施の形態と同様である。本変形例によれば、レーザ光9が反射した悪影響を抑制できる効果を有する。この効果を図8を参照して説明する。
【0042】
図8は、変形例1の効果を説明する図である。端面に沿って第一端子21に複数回レーザ照射を行うと、図8のように端面が溶けて形状が変化した場合や、レーザをデフォーカスさせてスポット径が大きくなりその一部が端面からはみ出た場合には、端面においてレーザ反射9Rが生じる可能性がある。レーザ反射9Rが生じると、周囲の部材、たとえばモジュールや回路が損傷する可能性がある。そこで、図7のように第一端子21に貫通孔21Hを設け、貫通孔21Hの縁に沿ってレーザ光9を照射することで、レーザ反射9Rが生じた場合にも貫通孔21Hの内部に留まる。したがって、レーザ反射9Rの影響を抑制でき、周囲へのダメージも軽減できる。
【0043】
(実施例3)
図7に示すように第一端子21に貫通孔21Hを設け、第二端子22と重ね合わせ、貫通孔21Hの縁に沿って第一上面21Uおよび第二上面22Uにそれぞれレーザ照射を実施した。なお、第一端子21および第二端子22の寸法、レーザ光9の波長、レーザ光9の照射条件は前述の実施例1と同じであり、レーザ照射位置は縁から0.5mmの位置とした。第一上面21Uと第二上面22Uにレーザ光9を照射する工程を1回として、この工程を1回だけ実施する場合と8回実施する場合の2パターン実施した。その結果、どちらもスパッタは発生しなかったが、1回だけの場合には第一端子21と第二端子22は接合されず、8回実施した場合には第一端子21と第二端子22の接合が確認された。
【0044】
次に、接合された溶接サンプルをレーザ走査方向と垂直な方向に切断し、断面サンプルを採取した後、実施例1と同様の方法で鏡面研磨およびEBSD法による接合部の結晶粒径を測定した。その結果、平均結晶粒径は88.7μm、最大結晶粒径は415.4μmであることがわかった。
【0045】
変形例1によれば次の作用効果が得られる。
(6)第一端子21の縁とは、第一端子21に設けられた貫通孔21Hの縁である。レーザ照射工程において、貫通孔21Hの縁に沿って、第一上面21Uおよび第二上面22Uそれぞれにレーザを照射し、溶接部800は貫通孔21Hの縁に沿って形成される。そのため、図8に示すようなレーザ反射9Rの影響を抑制でき、周囲へのダメージも軽減できる。
【0046】
(変形例2)
上述した実施の形態では第一端子21は平板形状であったが、レーザ光9を照射したことにより温度が上昇しやすいように第一端子21を加工してもよい。たとえば、第一端子21においてレーザ光9が照射される領域の熱容量を減らしてもよいし、レーザ光9を照射していない領域に熱が移動しにくいように熱の移動経路を減らしてもよい。
【0047】
図9は、変形例2における第一端子21の形状を示す図である。図9では符号「21-1」から符号「21-6」までの6つの例を示している。いずれの例においても図示右側にレーザ光9を照射する。符号「21-1」および符号「21-2」で示す第一端子21は、レーザ光9が照射される、点線で示す範囲において熱容量が減らされている。符号「21-3」~符号「21-6」で示す第一端子21は、レーザ光9が照射される領域の面積は実施の形態と同様であるが、破線で囲む領域においてレーザ光9を照射していない領域に熱が移動しにくいように熱の移動経路が減らされている。符号「21-1」~符号「21-6」のいずれも、破線で囲む領域は熱容量が他の領域に比べて相対的に小さい、低熱容量領域である。
【0048】
変形例2によれば次の作用効果が得られる。
(7)第一端子21は、第二端子22と重なり合う先端側において、第二端子22と重ならない領域よりも相対的に熱容量が小さい低熱容量領域が設けられる。そのため、少ない入熱でレーザ溶接が可能となるので、溶接が容易になる利点と、周囲の部材への熱による損傷を低減できる利点とを有する。
【0049】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 :電力変換装置
2 :半導体素子
2A :接続端子
9 :レーザ光
10 :レーザ
21 :第一端子
21H :貫通孔
21U :第一上面
22 :第二端子
22U :第二上面
800 :溶接部
801 :結晶粒
810 :第一結晶粒領域
820 :第二結晶粒領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9