(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170279
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】エレベーター運行状態評価装置及び評価方法
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20231124BHJP
B66B 1/18 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081898
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 敏文
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小池 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖郎
【テーマコード(参考)】
3F303
3F502
【Fターム(参考)】
3F303AA05
3F303BA01
3F303CB47
3F303DC34
3F502HB20
3F502JA30
3F502JA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エレベーターの運行状態の良否を客観的に評価すること。
【解決手段】複数のエレベーター運行データを基に各エレベーターの運行状態に関する運行性能値を示す運行状態指標を算出する運行状態指標算出部と、各エレベーターの運行データを基に各エレベーターの運用条件を検出して、運用条件データを出力する運用条件検出部と、建物仕様データと設備仕様データ、及び運用条件データを基に運行状態基準値を算出する運行状態基準値算出部と、運行状態指標と運行状態基準値を基に各エレベーターの運行状態評価値を算出する運行状態評価値算出部と、運行状態評価値を基に各エレベーターの運行性能低下に影響するか否かの評価基準を示す評価基準値を算出する評価基準値算出部と、運行状態指標と運行状態評価値、及び評価基準値を基に各エレベーターの運行状態を評価する運行状態評価部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエレベーターの運行状態を評価するエレベーター運行状態評価装置において、
前記複数のエレベーターの各々の運行データを入力し、入力した前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運行状態に関する運行性能値を示す運行状態指標を算出する運行状態指標算出部と、
前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運用条件を検出して、運用条件データを出力する運用条件検出部と、
前記各エレベーターが設置されたビルの建物仕様を含む建物仕様データと、前記各エレベーターの設備仕様を含む設備仕様データ、及び前記運用条件検出部の検出による前記運用条件データを基に、前記運行状態指標の基準の値を示す運行状態基準値を算出する運行状態基準値算出部と、
前記運行状態指標算出部の算出による前記運行状態指標と前記運行状態基準値算出部の算出による前記運行状態基準値とを基に前記各エレベーターの運行状態の評価値を示す運行状態評価値を算出する運行状態評価値算出部と、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行状態評価値を基に前記各エレベーターの運行性能低下に影響するか否かの評価基準を示す評価基準値を算出する評価基準値算出部と、
前記運行状態指標算出部の算出による前記運行状態指標と前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行状態評価値、及び前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値を基に前記各エレベーターの運行状態を評価する運行状態評価部と、を備えることを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態指標算出部の算出による前記運行状態指標の値を前記運行状態基準値算出部の算出による前記運行状態基準値で正規化して前記運行状態評価値を算出することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態指標算出部は、前記運行状態指標として、前記各エレベーターの運行性能に対する第1分類用運行状態指標と、前記各エレベーターの運行性能低下の要因に対する第2分類用運行状態指標を算出し、
前記運行状態基準値算出部は、
前記運行状態基準値として、前記第1分類用運行状態指標に対応した第1分類用運行状態基準値と、前記第2分類用運行状態指標に対応した第2分類用運行状態基準値を算出し、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態評価値として、前記第1分類用運行状態指標に対応した第1分類用運行状態評価値と、前記2分類用第運行状態指標に対応した第2分類用運行状態評価値を算出し、
前記評価基準値算出部は、
前記評価基準値として、前記第1分類用運行状態評価値に対応した第1分類用評価基準値と、前記第2分類用運行状態評価値に対応した第2分類用評価基準値を算出し、
前記運行状態評価部は、
前記第1分類用運行状態指標を基に前記各エレベーターの運行性能が低下しているか否かを評価し、前記各エレベーターのうちいずれか一つのエレベーターの運行性能が低下していると評価した場合、前記第2分類用運行状態指標に対応した前記第2分類用運行状態評価値と前記第2分類用運行状態評価値に対応した前記第2分類用評価基準値とを比較して、前記第2分類用運行状態指標が、前記一つのエレベーターの運行性能低下の要因である否かを評価することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項4】
請求項2に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態指標算出部と前記運用条件検出部にそれぞれ入力される前記各エレベーターの運行データが、前記各エレベーターのうち評価対象エレベーターから得られた運行データと、前記評価対象エレベーターとは建物仕様と前記運用条件が異なるビルに設置された比較対象エレベーターの運行データである場合、前記運行状態評価値として、前記評価対象エレベーターの運行状態評価値及び前記比較対象エレベーターの運行状態評価値を算出し、
前記運行状態評価部は、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記評価対象エレベーターの運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較すると共に、前記比較対象エレベーターの運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較し、前記評価対象エレベーターと前記比較対象エレベーターの運行状態を評価することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項5】
請求項2に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態指標算出部と前記運用条件検出部にそれぞれ入力される前記各エレベーターの運行データが、前記各エレベーターのうち評価対象エレベーターから得られた運行データと、前記評価対象エレベーターとは異なるエレベーターバンクに属する比較対象エレベーターの運行データである場合、前記運行状態評価値として、前記評価対象エレベーターの運行状態評価値及び前記比較対象エレベーターの運行状態評価値を算出し、
前記運行状態評価部は、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記評価対象エレベーターの運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較すると共に、前記比較対象エレベーターの運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較し、前記評価対象エレベーターと前記比較対象エレベーターの運行状態を評価することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項6】
請求項2に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態指標算出部と前記運用条件検出部にそれぞれ入力される前記各エレベーターの運行データが、前記運用条件が変更される前の運行データと、前記運用条件が変更された後の運行データである場合、前記運行状態評価値として、前記運行条件変更前の運行状態評価値及び前記運用条件変更後の運行状態評価値を算出し、
前記運行状態評価部は、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行条件変更前の運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較すると共に、前記運行条件変更後の運行状態評価値と前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値とを比較し、前記運行条件変更前と前記運行条件変更後における前記各エレベーターの運行状態を評価することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項7】
請求項3に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態指標算出部は、
前記各エレベーターの運行性能低下の要因に対する前記第2分類用運行状態指標として、前記各エレベーターの利用人数、前記各エレベーターの平均1周時間、前記各エレベーターの1周当たりの平均停止回数、前記各エレベーターの1周当たりに平均乗り場呼び停止回数、前記各エレベーターの1周当たりの平均かご呼び停止回数、及び前記各エレベーターの1回の停止に対する平均停止時間を算出し、
前記運行状態基準値算出部は、
前記2分類用第運行状態指標に対応した前記第2分類用基準値として、前記各エレベーターの輸送能力、前記各エレベーターの1周時間、前記各エレベーターの1周当たりの停止回数、前記各エレベーターの1周当たりの乗り場呼び停止回数、前記各エレベーターの1周当たりのかご呼び停止回数、及び前記各エレベーターの1回の停止に対する停止時間を算出することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項8】
請求項3に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記評価基準値算出部は、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記1分類用運行状態評価値と前記第2分類用運行状態評価値とを基に前記各エレベーターの複数の交通状態の各々を検出する交通状態検出部と、
前記各エレベーターが設置されたビルの用途を示すビル用途データを基に前記ビルの用途を検出するビル用途検出部と、
前記第1分類用運行状態指標に対する良し悪しの評価レベルと前記第1分類用運行状態評価値とを比較して、前記各エレベーターの運行性能が低下しているか否かを評価する運行性能評価部と、
前記運行性能評価部により前記各エレベーターの運行性能が低下していると評価された場合、前記交通状態検出部の検出結果と前記ビル用途検出部の検出結果、及び前記運行状態評価値算出部の算出による前記第2分類用運行状態評価値を基に前記第2分類用運行状態評価値に対応した前記第2分類用評価基準値として、ビル用途別の前記第2分類用評価基準値と交通状態別の前記第2分類用評価基準値を設定する評価基準値設定部と、を含むことを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項9】
請求項3に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記評価基準値算出部は、
前記運行状態評価値算出部の算出による前記1分類用運行状態評価値と前記第2分類用運行状態評価値とを基に前記各エレベーターの複数の交通状態の各々を検出する交通状態検出部と、
前記各エレベーターが設置されたビルの用途を示すビル用途データを基に前記ビルの用途を検出するビル用途検出部と、
前記第1分類用運行状態指標に対する良し悪しの評価レベルと前記第1分類用運行状態評価値とを比較して、前記各エレベーターの運行性能が低下しているか否かを評価する運行性能評価部と、
前記運行性能評価部により前記各エレベーターの運行性能が低下していると評価された場合、前記交通状態検出部の検出結果と前記ビル用途検出部の検出結果、及び前記運行状態評価値算出部の算出による前記第2分類用運行状態評価値を基に前記第2分類用運行状態評価値の統計値として、全ての前記各エレベーターについてビル用途別の前記第2分類用運行状態評価値の平均値及び前記運行性能が低下している前記各エレベーターについて交通状態別の前記第2分類用運行状態評価値の平均値を算出する統計値算出部と、を含むことを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項10】
請求項3に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運用条件検出部の検出による前記運用条件データを設定値に従って変更し、変更した前記運用条件データを変更後運用条件データとして前記運用条件検出部に返送する運用条件設定部を更に備え、
前記運行状態基準値算出部は、
前記運用条件検出部から前記変更後運用条件データを入力した場合、前記変更後運用条件データを入力する前に算出した前記運行状態基準値を、前記変更後運用条件データを基に変更して、変更後運行状態基準値を生成し、
前記運行状態評価値算出部は、
前記運行状態基準値算出部から前記変更後運行状態基準値を入力した場合、前記変更後運行状態基準値を入力する前に算出した前記運行状態評価値を、前記変更後運行状態基準値を基に変更して、変更後運行状態評価値を生成し、
前記評価基準値算出部は、
前記変更後運行状態評価値を入力した場合、前記変更後運行状態評価値を入力する前に算出した前記評価基準値を、前記変更後運行状態評価値を基に変更して、変更後評価基準値を生成し、
前記運行状態評価部は、
前記変更後運行状態評価値と前記更後評価基準値を入力した場合、前記変更後運行状態評価値と前記更後評価基準値を基に前記運用条件の変更後における前記各エレベーターの運行状態を評価することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項11】
請求項4に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価部の評価結果を基に前記各エレベーターの運行状態の評価結果を出力する結果出力部を更に備え、
前記結果出力部は、
前記各エレベーターの運行状態を示す情報を表示する表示画面を有する情報端末又は表示装置に接続された場合、
前記運行状態評価部の評価結果に用いた情報として、前記運行状態評価値算出部の算出による前記評価対象エレベーターの運行状態評価値と前記比較対象エレベーターの運行状態評価値、及び前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値をそれぞれ前記表示画面に表示することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項12】
請求項5に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価部の評価結果を基に前記各エレベーターの運行状態の評価結果を出力する結果出力部を更に備え、
前記結果出力部は、
前記各エレベーターの運行状態を示す情報を表示する表示画面を有する情報端末又は表示装置に接続された場合、
前記運行状態評価部の評価結果に用いた情報として、前記運行状態評価値算出部の算出による前記評価対象エレベーターの運行状態評価値と前記比較対象エレベーターの運行状態評価値、及び前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値をそれぞれ前記表示画面に表示することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項13】
請求項6に記載のエレベーター運行状態評価装置において、
前記運行状態評価部の評価結果を基に前記各エレベーターの運行状態の評価結果を出力する結果出力部を更に備え、
前記結果出力部は、
前記エレベーターの運行状態の情報を表示する表示画面を有する情報端末又は表示装置に接続された場合、
前記運行状態評価部の評価結果に用いた情報として、前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行条件変更前の運行状態評価値と前記運行条件変更後の運行状態評価値、及び前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値をそれぞれ前記表示画面に表示することを特徴とするエレベーター運行状態評価装置。
【請求項14】
コンピュータを用いて複数のエレベーターの運行状態を評価する方法であって、
前記コンピュータが、前記複数のエレベーターの各々の運行データを入力し、入力した前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運行状態に関する運行性能値を示す運行状態指標を算出する運行状態指標算出ステップと、
前記コンピュータが、前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運用条件を検出して、運用条件データを出力する運用条件検出ステップと、
前記コンピュータが、前記各エレベーターが設置されたビルの建物仕様を含む建物仕様データと、前記各エレベーターの設備仕様を含む設備仕様データ、及び前記運用条件検出ステップでの検出による前記運用条件データを基に、前記運行状態指標の基準の値を示す運行状態基準値を算出する運行状態基準値算出ステップと、
前記コンピュータが、前記運行状態指標算出ステップでの算出による前記運行状態指標と前記運行状態基準値算出ステップでの算出による前記運行状態基準値とを基に前記各エレベーターの運行状態の評価値を示す運行状態評価値を算出する運行状態評価値算出ステップと、
前記コンピュータが、前記運行状態評価値算出ステップでの算出による前記運行状態評価値を基に前記各エレベーターの運行性能低下に影響するか否かの評価基準を示す評価基準値を算出する評価基準値算出ステップと、
前記コンピュータが、前記運行状態指標算出ステップでの算出による前記運行状態指標と前記運行状態評価値算出ステップでの算出による前記運行状態評価値、及び前記評価基準値算出ステップでの算出による前記評価基準値を基に前記各エレベーターの運行状態を評価する運行状態評価ステップと、を備えることを特徴とするエレベーター運行状態評価方法。
【請求項15】
請求項14に記載のエレベーター運行状態評価方法において、
前記コンピュータは、
前記運行状態評価値算出ステップでは、前記運行状態指標算出ステップでの算出による前記運行状態指標の値を前記基準値算出ステップでの算出による前記運行状態基準値で正規化して前記運行状態評価値を算出することを特徴とするエレベーター運行状態評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの運行状態を評価するエレベーター運行状態評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターは、ビル内における垂直移動の交通システムであり、ビル内の利用者のスムースな移動を支えている。ビル内では、エレベーターが単独で運行している場合と、複数台で運行している場合とがある。特に、複数台のエレベーターが運行しているケースでは、複数台のエレベーターを「群」として統括制御するエレベーター群管理システムが、利用者の待ち時間を考慮して効率の良い運行を実現している。近年、エレベーター群管理システムでは、乗りかごの運行軌跡を予測し、待ち時間のさらなる短縮を図る制御が行われている。しかしながら、エレベーターの運行状態や利用者による利用状態によっては、エレベーターの運行性能が低下することがある。
【0003】
これに対して、エレベーターの運行状態や利用者によるエレベーターの利用状態を数値化、定量化することが重要であり、エレベーターの制御装置にて、各階の乗降人数と予め演算された輸送能力に基づいて設備負荷率を演算する技術が、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された従来技術において、各階の乗降人数と予め演算された輸送能力に基づいて演算する設備負荷率は、対象とするエレベーターの制御装置内で、そのエレベーターの運行状態を変数化したものである。すなわち、従来技術における設備負荷率は、これを用いてエレベーターの制御のパラメータを決定するために用いるものであり、そのエレベーターの運行状態の良し悪しを客観的に評価するために用いるものではない。例えば、他のビルのエレベーターと比較してその運行状態を評価するものではない。このため、従来技術を用いてエレベーターの運行状態を評価することは難しいという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、エレベーターの運行状態の良否を客観的に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、複数のエレベーターの運行状態を評価するエレベーター運行状態評価装置において、前記複数のエレベーターの各々の運行データを入力し、入力した前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運行状態に関する運行性能値を示す運行状態指標を算出する運行状態指標算出部と、前記各エレベーターの運行データを基に前記各エレベーターの運用条件を検出して、運用条件データを出力する運用条件検出部と、前記各エレベーターが設置されたビルの建物仕様を含む建物仕様データと、前記各エレベーターの設備仕様を含む設備仕様データ、及び前記運用条件検出部の検出による前記運用条件データを基に、前記運行状態指標の基準の値を示す運行状態基準値を算出する運行状態基準値算出部と、前記運行状態指標算出部の算出による前記運行状態指標と前記運行状態基準値算出部の算出による前記運行状態基準値とを基に前記各エレベーターの運行状態の評価値を示す運行状態評価値を算出する運行状態評価値算出部と、前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行状態評価値を基に前記各エレベーターの運行性能低下に影響するか否かの評価基準を示す評価基準値を算出する評価基準値算出部と、前記運行状態指標算出部の算出による前記運行状態指標と前記運行状態評価値算出部の算出による前記運行状態評価値、及び前記評価基準値算出部の算出による前記評価基準値を基に前記各エレベーターの運行状態を評価する運行状態評価部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エレベーターの運行状態の良否を客観的に評価することにある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置を含むエレベーターシステムの一実施例を示す全体構成図である。
【
図2】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置の対象となるビルやエレベーターの構成の一例を示す構成図である。
【
図3】本実施例に係る情報端末の表示例であって、複数のビルにそれぞれ配置される各エレベーターの運行状態を評価するための説明図である。
【
図4】本実施例に係る情報端末の表示例であって、評価対象のエレベーターと不特定多数のエレベーターの運行状態を評価するための説明図である。
【
図5】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運用条件検出部の構成例を示す構成図である。
【
図6】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置が対象とするエレベーターの運用条件を説明するためのビルの構成を示す模式図である。
【
図7】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態基準値算出部の構成例を示す構成図である。
【
図8】本実施例に係る運行状態基準値算出部で利用するエレベーターの1周時間の算出モデルを示す模式図である。
【
図9】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態評価値算出部の構成例を示す構成図である。
【
図10】本実施例に係る指標管理テーブルの構成例を示す構成図である。
【
図11】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する評価基準値算出部の構成例を示す構成図である。
【
図12】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する評価基準値設定部で評価基準値を設定する方法を説明するための模式図である。
【
図13】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態評価部の処理を説明するための機能ブロック図である。
【
図14】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運用条件設定部の構成例を示す構成図である。
【
図15】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第1表示例を示す模式図である。
【
図16】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第2表示例を示す模式図である。
【
図17】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第3表示例を示す模式図である。
【
図18】本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第4表示例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例0011】
はじめに本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に関する実施例の考え方についての要点を説明する。
【0012】
まず目的は、エレベーターの運行状態の良否を客観的に評価することであり、ビル内で稼働している対象エレベーターに対して、その運行状態を他のエレベーターなどと比較してその状態を評価することにある。例えば、その具体的な比較評価として、対象エレベーターに対して、他のビルのエレベーターとの比較、同じビル内の異なるエレベーターバンク(例えば、高層バンクと低層バンクなど)のエレベーターとの比較、同じビル内の異なるエレベーターとの比較、さらに同じエレベーターでも運用条件を変えた場合の比較などがある。ビルオーナーやビル管理者は、自身のビルのエレベーターの運行状態がどうなのか、特に他のビルや同じビルのバンクのエレベーターとの比較で知りたいという要望があり、運行状態の客観的な比較評価は重要となる。
【0013】
ここで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターの運行状態を同じ基準、同じ尺度で比較評価することで、例えば、エレベーターの速度や定員、ビル内のサービスする階床の数や行程の距離、さらには利用条件など、様々な設備仕様や運用条件のエレベーターに対して、対象のエレベーターを適正な基準で評価する方法が重要となる。
【0014】
その解決の考え方は、エレベーターの運行状態の指標を、設備仕様や運用条件に応じた基準値で「正規化(標準化)」した評価値を指標として導入し、この指標を用いて対象のエレベーターの運行状態を他のエレベーターの運行状態と比較して評価することである。具体的には、設備仕様や運用条件を基にエレベーターの運行状態を数学的にモデル化した交通計算を実行して、運行状態の特徴量を基準値として算出し、エレベーターの運行状態の指標を、交通計算で得られた基準値で正規化して評価値を得ることになる。
【0015】
この解決法により、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターであっても、その運行状態を客観的に評価することが可能となる。
【0016】
以下、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置を含むエレベーターシステムの一実施例を説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置を含むエレベーターシステムの一実施例を示す全体構成図である。エレベーター運行状態評価装置は、ビル内の各エレベーターから運行状態に関する運行データを収集し、収集した運行データを用いて、対象とするエレベーターの運行状態を定量化して評価する装置である。ここで、エレベーターの運行状態を定量化するに際しては、エレベーターの運行状態の指標(運行状態指標)を設備仕様や運用条件に応じた基準値(運行状態基準値)で正規化して評価値(運行状態評価値)を算出する。
【0018】
図1において、エレベーター運行状態評価装置1は、本発明の要となるエレベーターの運行状態を評価する仕組みであり、ビル内のエレベーターの運行データを基に運行状態を評価する。この際、エレベーター運行状態評価装置1は、運行データ遠隔収集装置9及び情報端末22にそれぞれ有線又は無線で接続される。対象となるビル2、3のうち、ビル2には、バンク4とバンク5を含む2群のエレベーターバンクが配置される。バンク4は、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群6で構成され、バンク5は、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群7で構成される。一方、ビル3には、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群8が配置される。ここで、エレベーターバンクとは、乗り場が同じである複数台のエレベーターの群を表し、エレベーターバンクとしては、例えば、高層バンク、低層バンクなどがある。尚、この例では、複数台のエレベーター群(エレベーターのグループ)を例にしているが、1台のみのエレベーターの場合でも同じである。
【0019】
運行データ遠隔収集装置9は、各エレベーター群6、7、8から通信ネットワークを通じて、遠隔で運行データを収集する。収集された運行データは、運行データ遠隔収集装置9の中でデータベースとして蓄積される。この運行データ遠隔収集装置9には、多数のビルで稼働しているエレベーターの運行データが蓄積されている。
【0020】
エレベーター運行状態評価装置1は、運行データ遠隔収集装置9から、オンライン又はオフラインで運行データを取り込み、取り込んだ運行データを基に、対象とするエレベーターの運行状態を定量的に評価する装置であって、例えば、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置、入力装置、出力装置、及び通信装置を備える計算機(図示せず)で構成される。
【0021】
プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を用いて構成される。
【0022】
主記憶装置は、コンピュータプログラムやデータを記憶する装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び不揮発性半導体メモリ等である。
【0023】
補助記憶装置は、例えば、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)、光学式記憶媒体(即ち、CD(Compact Disc)、及びDVD(Digital Versatile Disc)等)、ストレージシステム、ICカード(Integrated Circuit Card)、SD(Secure Digital)メモリカード、等の記録媒体の読取/書込装置、及びクラウドサーバの記憶領域等である。補助記憶装置に格納されているコンピュータプログラムやデータは、主記憶装置に随時読み込まれる。
【0024】
入力装置は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、カードリーダ、音声入力デバイス等である。出力装置は、ユーザに処理経過や処理結果等の各種情報を提供するユーザインタフェースである。出力装置は、例えば、表示装置(即ち、液晶モニタ、LCD(Liquid Crystal Display)、又はグラフィックカード等)、音声出力装置(即ち、スピーカ等)、又は印字装置等である。
【0025】
通信装置は、LANやインターネット等の通信手段を介した他の装置との間の通信を実現する有線方式又は無線方式の通信インターフェースである。通信装置は、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線通信モジュール、USB(Universal Serial Bus)モジュール、又はシリアル通信モジュール等である。
【0026】
エレベーター運行状態評価装置1は、具体的には、運行データ収集部10、運行状態指標算出部11、建物仕様・用途データベース12、設備仕様データベース13、運用条件検出部14、運用条件設定部15、運行状態基準値算出部16、運行状態評価値算出部17、運行状態評価値DB(データベース)18、評価基準値算出部19、運行状態評価部20、結果出力部21を備える。
【0027】
運行データ収集部10、運行状態指標算出部11、運用条件検出部14、運用条件設定部15、運行状態基準値算出部16、運行状態評価値算出部17、評価基準値算出部19、運行状態評価部20、及び結果出力部21は、補助記憶装置に格納されるプログラム、例えば、運行データ収集プログラム、運行状態指標算出プログラム、運用条件検出プログラム、運用条件設定プログラム、運行状態基準値算出プログラム、運行状態評価値算出プログラム、評価基準値算出プログラム、運行状態評価プログラム、及び結果出力プログラムを、CPUが、それぞれ補助記憶装置から読み出してRAM上に展開することによって、その機能が実現される。
【0028】
運行データ収集部10は、運行データ遠隔収集装置9から、評価の対象となるエレベーター(評価対象エレベーター)および他のビルなどの比較に用いるエレベーター(比較対象エレベーター)等、複数のエレベーターの運行データを収集する。運行データは、乗りかごの位置を示すデータ、乗りかごの重量(乗りかごに作用する荷重)を示すデータ、行先階を示すデータ、乗りかごドアの開閉状態を示すデータなどのデータであって、時間(時刻)に関連づけて管理される。運行状態指標算出部11は、運行データ収集部10で収集された運行データを基にエレベーターの運行状態に対する指標として運行状態指標の値を算出する。この運行状態指標の値は、エレベーターの運行状態を定量的に評価するベースの値となる。運行状態指標は、例えば、エレベーターを利用した利用人数、エレベーターが昇降路内を上下に1周するのに要する1周時間(平均1周時間)、乗り場でのエレベーターの待ち時間を示す平均乗り場呼び継続時間などがある。運行状態指標には、乗り場でのエレベーターの待ち時間のように、運行性能に対する指標と、エレベーターの利用人数のように、運行性能低下の要因に対する指標とがある。なお、運行状態指標の具体例については、
図10で後述する。
【0029】
建物仕様・用途データベース12には、エレベーターの運行状態基準値を算出するための入力値となるデータであって、ビルの建屋仕様を示す建屋仕様データと、ビルの用途を示すビル用途データが格納される。設備仕様データベース13には、エレベーターの運行状態基準値を算出するための入力値となるデータであって、エレベーターの設備仕様を示す設備仕様データが格納される。これらのデータは、建屋や設備の仕様に関するデータであるので、基本的に定数(年数を経ても変わらない固定値)であり、例えば、エレベーターの制御装置などから運行データ遠隔収集装置9を介して収集することができる。
【0030】
運用条件検出部14は、運行データ遠隔収集装置9から、エレベーターの運行データを取り込み、エレベーターの運行データを基に、評価対象の各エレベーターの現地での実際の運用条件を検出する。この運用条件は、例えば、停止階(サービス階)や基準階(ロビー階)などを示すデータであり、運行状態基準値算出部16でエレベーターの運行状態基準値を算出するための入力値となる。この運用条件は、設備仕様とは異なり、そのエレベーターの運用によって変更される場合がある。このため、運用条件検出部14では、運行データ遠隔収集装置9から入手した運行データから、その時の運用条件を検出する。また、運用条件の設定を変更した場合、そのエレベーターの運行状態がどう改善されかを推定したいケースがある。その場合は、運用条件設定部15で、仮に運用条件の設定を変更したケースを設定することができる。これは、例えば、今の運行性能が良くない状況であるときに、運用によって改善した場合の事前評価に用いる機能となる。
【0031】
運行状態基準値算出部16は、建物仕様・用途データベース12に格納されたデータ(建屋仕様データとビル用途データ)と、設備仕様データベース13に格納された設備仕様データとを基に基準値を算出する。この基準値は、運行状態評価値算出部17が、運行状態評価値を算出する際の「正規化」で用いる基準値となる。運行状態評価値算出部17が、この基準値で運行状態指標を正規化することにより、異なるエレベーターの設備仕様や運用条件の差異部分を規格化して、差異を吸収することが可能となる。具体的には、この基準値として、エレベーターの運行状態をモデル化した交通計算によって得られる運行状態の特徴量を用いる。ここで交通計算は、エレベーターの交通計画で用いられるエレベーターの運行状態の計算モデルで、例えば、「建築と設備技術者のためのエレベータ・エスカレータ計画」(技術書院発行)のP53~P74に記載されている。交通計算を基に算出される基準値の指標として、輸送能力(5分間輸送能力)、1周時間、平均運転間隔、1周当たりの停止回数、1回の停止に対する停止時間などが挙げられる。なお、基準値の具体例については、
図10で後述する。
【0032】
この基準値は、エレベーターの設備仕様などのデータから交通計算を基に算出された、そのエレベーターの運行状態の理論的な性能値と見なすことができる。そこで、この基準値を用いて、実際の運行状態指標の値を正規化することで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーター同士の運行状態を同じ尺度(指標、メジャー)で比較できる、と考えることができる。この考えを根拠とする本発明のポイントは、運行状態指標を基準値で正規化して運転状態評価値を得ることであり、この運転状態評価値は、運行状態評価値算出部17で算出される。
【0033】
運行状態評価値算出部17は、運行状態指標算出部11で算出された運行状態指標を、運行状態基準値算出部16で算出された基準値(運行状態基準値)で正規化して、運行状態評価値を算出する。この際、運行状態評価値算出部17は、次の(1)式で示す除算を実行する。
運行状態評価値=運行状態指標の値/基準値(運行状態基準値)・・・(1)
【0034】
運行状態評価値算出部17が、(1)式に従った演算を実行することにより、運行状態指標を、運行状態基準値によって正規化(規格化)して、運行状態評価値を算出することで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーター同士を運行状態評価値で比較することができる。例えば、エレベーターの利用人数は、エレベーターの運行性能を決める最重要な要因となる運行状態指標であるが、異なる設備仕様や運用条件のエレベーターの利用人数同士を単に比較しても、その影響は判断できない。そこで基準値として、所定時間当たり、エレベーターが輸送できる人数を表す輸送能力を用い、利用人数/輸送能力(=運行状態指標/基準値)という正規化の演算を実行して、運行状態評価値を得ることで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーター同士を、各エレベーターの運行状態評価値で比較することできる。
【0035】
さらに、この運行状態評価値に対して、その良し悪しや運行性能への影響を評価する目安となる評価基準値を導入することで、単純に運行状態評価値同士を比較するだけではなく、運行状態評価値の影響度合いを評価することができる。この評価基準値は、ビル用途毎のエレベーターの運行状態評価値を示す運行状態評価値データが格納された運行状態評価値DB18の運行状態評価値データを基に、評価基準値算出部19で算出される。評価基準値算出部19は、オフィスビル、マンション、ホテル、複合ビルなどのビル用途毎に分類された運行状態評価値のデータを基に、エレベーターの運行状態に影響を与える値を統計的に処理して評価基準値を算出することができる。例えば、エレベーターの平均待ち時間という運行性能の良し悪しを示す指標に対して、利用人数/輸送能力の運行状態評価値がどのように影響するかを相関分析のような統計モデルで算出し、算出結果のうち、エレベーターの平均待ち時間が問題となるようなケースの利用人数/輸送能力の値を評価基準値として定めることができる。
【0036】
運行状態評価部20は、運行状態指標算出部11の算出による運行状態指標と運行状態評価値算出部17の算出による運行状態評価値、及び評価基準値算出部19の算出による評価基準値を基に、異なるエレベーターの運行状態指標と運行状態評価値との比較評価や、異なるエレベーターの運行状態評価値と評価基準値との比較評価を実行し、対象とするエレベーターの運行状態を評価する。前者の評価が相対評価であり、後者が絶対評価に対応する。
【0037】
例えば、異なるビルのエレベーター同士の平均待ち時間と運行状態評価値である利用人数/輸送能力とを比較することで、それぞれのエレベーターの利用人数が平均待ち時間に与える影響を客観的に相対評価することができる。例えば、評価結果から、一方のビルのエレベーターで出勤時にエレベーター利用人数が集中している状況を把握することでき、時差出勤などで利用人数をどれだけ抑制すれば良いかなども推定することが可能となる。
【0038】
また運行状態評価値と評価基準値との比較としては、例えば、運行状態評価値が利用人数/輸送能力の場合、対象とするエレベーターの利用人数/輸送能力の値とその評価基準値とを比較することで、例えば、平均待ち時間への利用人数の影響度合いなどを把握(絶対評価)することできる。
【0039】
以上のように、運行状態評価部20は、エレベーターの運行状態指標(例えば、平均待ち時間)、運行状態評価値(例えば、利用人数/輸送能力)、評価基準値(例えば、利用人数/輸送能力の評価基準値)を基にエレベーターの運行状態を評価し、評価結果を示す情報を出力する。
【0040】
結果出力部21は、運行状態評価部20による評価結果を示す情報(画像情報を含む情報)を情報端末22に出力する。ここで、情報端末22に出力する情報は、情報端末22を利用する利用者のニーズに応じて切り替えることができる。
【0041】
情報端末22に出力する情報としては、例えば、情報端末22を利用する利用者が、ビルオーナーやビル管理者、ビル設備管理者の場合、所有しているビルのエレベーターの運行状態を他のビルや同じビルの他のバンクのエレベーターと比較することができる情報、或いはエレベーターの運行性能が低下している場合の要因を把握できる情報が挙げられる。さらにエレベーターの運行性能が低下している場合に、仮に運用条件を変更した場合の事前評価などの情報も挙げられる。
【0042】
また、情報端末22の利用者が、エレベーターの保守会社の場合、情報端末22に出力する情報としては、例えば、特にエレベーターの運行性能低下の要因を、相対評価や絶対評価で把握して、改善策を検討するための情報が挙げられる。
【0043】
さらに、情報端末22の利用者が、不動産デベロッパーやゼネコンの場合、情報端末22に出力する情報としては、例えば、ビルの計画時に、検討しているエレベーターの設備仕様や建物の仕様が適正であるかどうかを検討するための情報であって、実際に稼働しているエレベーターの運行状態の評価結果を基に評価することが可能な情報が挙げられる。
【0044】
情報端末22は、例えば、液晶モニタ等の表示装置を備え、運行状態評価部20による評価結果を示す情報を表示装置の表示画面上に表示する。この情報端末22は、基本的には運行状態の評価結果の情報を表示出力するものであるが、運用条件設定部16で、仮に運用条件を変更した場合の事前評価を行う場合には、その運用条件を設定するための入力手段にもなる。
【0045】
本実施例のエレベーター運行状態評価装置1は、エレベーターの運行状態を評価する際に、運行状態指標と運行状態評価値とを組み合わせ評価するか、又は運行状態評価値と評価基準値とを組み合わせて評価することで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターの運行状態を同じ尺度、すなわち、運行状態評価値を含む尺度で適正に比較評価することが可能となる。その結果、対象としているエレベーターの運行状態を他のエレベーターとの比較で客観的に把握できる。また平均待ち時間が長いなど、エレベーターの運行性能が低下している場合には、その要因となる運行状態指標と運行状態評価値との比較により、エレベーターの運行性能低下の要因を特定することができる。さらに運行状態評価値と評価基準値との比較で、対象とするエレベーターの運行状態の良し悪しや運行性能低下の要因の影響度合いなどを把握でき、改善策の検討に役立てることができる。さらに改善策の一つとして、運用条件の設定を変更する場合は、変更した場合の運行状態の評価値を算出できるため、事前に変更による改善効果を把握することができる。
【0046】
図2は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置の対象となるビルやエレベーターの構成の一例を示す構成図である。
図2(a)は、異なるビルのエレベーター群の構成の一例を示す構成図である。
図2(a)において、ビル30には、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群31が設置され、ビル32には、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群33が設定される。ビル30のエレベーターとビル32のエレベーターの各運行状態を比較する場合、ビル30、32の高さやサービスする階床の数、エレベーターの台数、エレベーターの速度や定員などの違いがあるため、単純に両方のビル30、32のエレベーターの運行状態を比較することは難しい。
【0047】
図2(b)は、同じビルの異なるバンクの構成の一例を示す構成図である。
図2(b)において、ビル34には、低層バンク35と高層バンク36が設置されている。この際、高層バンク36には、不停止階37が設定されている。低層バンク35と高層バンク36における各エレベーターの運行状態を比較する場合、低層バンク35と高層バンク36では、エレベーターの運行条件が異なるため、単純に低層バンク35と高層バンク36における各エレベーターの運行状態を比較することは難しい。
【0048】
図2(c)は、同じビルの同じエレベーター群の基準階が1階から2階へ変更されたとこの構成の一例を示す構成図である。
図2(c)において、ビル38には、複数台のエレベーターを備えるエレベーター群39が設置されている。この際、エレベーター群39の基準階40が1階から2階へ変更されることがある。この場合、エレベーター群39に対する運用条件を変更する必要がある。このため、例えば、エレベーター群39と他のエレベーター群とを比較する場合、変更前後の運用条件を考慮した比較が必要である。
【0049】
ビルやエレベーターが、
図2(a)~
図2(c)に示す構成の場合、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターの運行状態を管理することになるが、エレベーター運行状態評価装置1を用いることで、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターの運行状態を同じ尺度で適正に比較評価することができる。
【0050】
図3は、本実施例に係る情報端末の表示例であって、複数のビルにそれぞれ配置される各エレベーターの運行状態を評価するための説明図である。ここでは、2つの異なるビル、例えば、ビルAとビルBのエレベーター群の運行状態を比較評価するケースを例として示す。
【0051】
図3(a)は、ビルAとビルBのエレベーター群の運行状態をエレベーターの利用人数で表示したときの表示例を示す説明図である。
図3(a)において、縦軸は、エレベーターの利用人数であり、横軸は、ビルAとビルBである。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数を示すグラフ50が表示され、ビルBに対応して、ビルBのエレベーターの利用人数を示すグラフ51が表示される。ここで、エレベーターの利用人数は、所定時間当たり(例えば5分間)のエレベーターの利用人数で、乗りかごへの乗り人数の合計、降り人数の合計、乗り人数と降り人数の合計などで算出できる。乗りかごへの乗り人数や降り人数は、乗りかごの荷重センサで検出した重量の変化、乗りかご内の画像センサなどで検出できる。
図3(a)の場合、グラフ50、51を用いて利用人数だけでの比較を行っているので、各エレベーターの設備仕様や運用条件が異なる場合、各エレベーターの運行状態を単純に比較することが難しい。
【0052】
これに対して、
図3(b)は、ビルAとビルBのエレベーター群の運行状態をエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値で表示したときの表示例を示す説明図である。
図3(b)において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値(運行状態評価値算出部17で算出)であり、横軸は、ビルAとビルBである。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ52が表示され、ビルBに対応して、ビルBのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ53が表示される。
【0053】
この際、縦軸の運行状態評価値は、運行状態指標(運行状態指標算出部11で算出)を利用人数とし、基準値(運行状態基準値算出部16で算出)を輸送能力として、利用人数/輸送能力の演算から得られた値である。この利用人数/輸送能力=運行状態評価値は、エレベーターの利用人数をエレベーターの設備能力を表す輸送能力で正規化した値であり、設備能力を基準にした利用人数の状態を表す評価指標となる。このため、両者の比較対象として運行状態評価値を用いることで、両者を同じ尺度で比較できる。
【0054】
例えば、
図3(b)の場合、ビルAのエレベーターの方が、ビルBよりも運行状態評価値(利用人数/輸送能力)が大きいため(グラフ52の方が、グラフ53よりも大きい)、設備能力的には厳しい状況であり、ビルAのエレベーターの運行性能が、ビルBのエレベーターの運行性能よりも低下している可能性が高いと推測できる。これを単純に利用人数だけで比較すると、
図3(a)のように、ビルAのエレベーターの方が、グラフ50の値がグラフ51の値よりも小さく、問題が無いように見える。しかし、この場合、輸送能力がビルAのエレベーターの方が低いため、問題が無いとは言えない。これに対して、輸送能力を考慮した運行状態評価値で比較すると、
図3(b)のように、適正な評価が実施できる。
【0055】
図3(c)は、ビルAとビルBのエレベーター群の運行状態をエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値で表示し、さらに運行状態評価値の評価基準値を表示したときの表示例を示す説明図である。
図3(c)において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値であり、横軸は、ビルAとビルBである。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ52が表示され、ビルBに対応して、ビルBのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ53が表示され、さらに、グラフ52、53に対して、運行状態評価値の評価基準値54が表示される。この評価基準値54は、エレベーターの運行性能低下に影響するか否かを判定するための評価基準ラインとして破線で表示される。
【0056】
ここで、評価基準値54は、運行状態評価値(=利用人数/輸送能力)が、例えば、平均待ち時間のようなエレベーターの運行性能に影響があるかどうかを評価する目安となる基準である。この例では、ビルAのエレベーターの運行状態評価値であるグラフ52が、評価基準値54を超えているため、輸送能力に対して利用人数が多い状態にあり、ビルAのエレベーターの運行性能が低下している可能性がある、と判断できる。
【0057】
尚、この評価基準値54を、ビル用途毎に設定することにより、エレベーターの運行性能低下に対する目安の精度が上がる。例えば、一社専有のオフィスビル、テナントオフィスビル、マンション、複合ビルなどのビル用途毎に評価基準値54を定めることによって、ビル用途毎のエレベーター利用の特性に応じた運行性能低下への影響度合いを各評価基準値54に反映することができる。
【0058】
図4は、本実施例に係る情報端末の表示例であって、評価対象のエレベーターと不特定多数のエレベーターの運行状態を評価するための説明図である。
図4は、
図3とは異なる表示例を示す説明図(概念図)である。
図4において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値(=利用人数/輸送能力)であり、横軸は、ビルAと、全ビルの平均値、及び運行性能が低下しているエレベーターの平均値である。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値がグラフ52で表示され、全ビルの平均値に対応して、他の全ビルのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値の平均値がグラフ55で表示され、運行性能が低下しているエレベーターの平均値に対応して、運行性能が低下しているエレベーターの運行状態評価値の平均値がグラフ56で表示される。
【0059】
図4において、
図3(b)の表示例と異なるのは、グラフ52と比較する値として、グラフ53の代わりに、グラフ55とグラフ56を表示した点にある。これは、他のビルのエレベーターとして特定のビルを選ぶのではなく、不特定多数のエレベーターと比較するものとなる。例えば、グラフ52とグラフ55とを比較することで、他の全てのビルのエレベーターの運行状態評価値の平均値と評価対象のエレベーターの状態とを比較することができる。また、グラフ52とグラフ56(運行性能が低下しているエレベーターの平均値)と比較することで、対象のエレベーターの運行性能低下の可能性を判断することができ、また、運行性能が低下している場合には、その運行状態評価値(例えば、この例では利用人数/輸送能力)の項目が、運行性能低下の要因であるかを判断することができる。グラフ52とグラフ55又はグラフ56とを比較して、運行状態を評価する方法は、比較する他のビルのエレベーターを特定することが難しい場合に、不特定多数のエレベーターから得られた平均値を用いることで、比較が可能となる。また、エレベーターの運行性能低下の要因も判定することが可能となる。なお、エレベーターの運行状態評価値の平均値は、運行状態評価値DB18に格納された運行状態評価値のデータを基に算出することができる。
【0060】
図5は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運用条件検出部の構成例を示す構成図である。
図5は、
図1に示す運用条件検出部14の詳細であり、
図1と同一のものには、同じ符号を付しており、ここでは説明を省略する。
【0061】
運用条件検出部14は、評価対象の各エレベーターの現地での実際の運用条件を検出するものであり、ここで検出した運用条件を用いて、交通計算のモデルを基に運行状態の基準値(運行状態基準値)が運行状態基準値算出部16で算出される。この運行状態の基準値は、エレベーターの運行状態評価の要となるものであり、評価対象のエレベーターの実際の運用条件を正しく反映していることが重要となる。このため、運用条件検出部14では、評価対象のエレベーターの運行データから実際に現地で運用されている運用条件を抽出する処理を実施する。
【0062】
具体的には、運用条件検出部14は、交通状態検出部141、停止階検出部142、戸開時間検出部143、基準階検出部144、乗車率検出部145、停止確率検出部146を備える。この運用条件検出部14に対して、運行データ遠隔収集装置9、建物仕様・用途データベース12、設備仕様データベース13からそれぞれデータが提供される。
【0063】
交通状態検出部141は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データを基に、対象のエレベーターの交通状態(交通流、交通流モードとも呼ばれる)を検出し、交通状態データを出力する。ここで、交通状態は、ビル内の人の流れ(主に垂直方向の流れ)の状態を交通状態として分類したものである。この交通状態には、例えば、出勤時など上昇方向が混雑するアップピーク、アップ混雑、昼食時や退勤時など下降方向が混雑するダウンピーク、ダウン混雑、上昇方向と下降方向の両方が混雑する両方向混雑、平常状態、閑散状態などがある。
【0064】
エレベーターの運用条件は、この交通状態毎に設定されるケースが多いため、交通状態検出部141で交通状態を検出して、その交通状態毎にエレベーターの運用条件を検出する。例えば、出勤時のアップピークの停止階の運用条件のように検出する。
【0065】
停止階検出部142は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データと、交通状態検出部141の検出による交通状態データと、建物仕様・用途データベース12に格納された建物仕様・用途データ、及び設備仕様データベース13に格納された設備仕様データを基に、実際の運用における停止階として、評価対象のエレベーターの停止階(サービス階)を検出し、停止階データD1を出力する。
【0066】
実際の運用における停止階は、ビルの運用によって設定される。例えば、出勤時などのアップピーク時には、停止階を偶数階と奇数階とに分けてエレベーターを運行させるケースがある。この状況を停止階検出部1142で検出し、検出した状況を停止階データD1として記憶し、記憶した停止階データD1を運行状態基準値の算出に用いる。
【0067】
戸開時間検出部143は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データと、交通状態検出部141の検出による交通状態データ、及び設備仕様データベース13に格納された設備仕様データを基に、実際の運用における戸開時間として、評価対象のエレベーターの戸開時間を検出し、戸開時間データD2を出力する。基準階検出部144は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データと、建物仕様・用途データベース12に格納された建物仕様・用途データ、及び設備仕様データベース13に格納された設備仕様データを基に、実際の運用における基準階として、評価対象のエレベーターの基準階(メインロビー階)を検出し、基準階データD3を出力する。乗車率検出部145は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データと、交通状態検出部141の検出による交通状態データ、及び設備仕様データベース13に格納された設備仕様データを基に、実際の運用における乗車率として、評価対象のエレベーターの乗車率を検出し、乗車率データD4を出力する。
【0068】
停止確率検出部146は、運行データ遠隔収集装置9で収集された運行データと、交通状態検出部141の検出による交通状態データ、及び停止階検出部142の検出による停止階データを基に、実際の運用における停止階毎の停止確率として、評価対象のエレベーターの停止階毎の停止確率を検出し、停止確率データD5を出力する。この停止確率は、運行状態基準値算出部16で運行状態の基準値を算出する際の交通計算において要となる1周時間を算出するための重要なデータとなる。この停止階毎の停止確率を実際の運用状態に基づいて設定することで、より正確な1周時間を算出でき、より正確な運行状態の評価を実施できることになる。
【0069】
図6は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置が対象とするエレベーターの運用条件を説明するためのビルの構成を示す模式図である。
図6(a)は、ビル計画時の構成を示す模式図であり、
図6(b)は、ビル稼働後の構成を示す模式図である。
【0070】
図6(a)に示すように、B1階から12階のビル60は、ビル計画時には、B1階から12階までの各階が、〇印で示す停止階(サービス階)に設定され、1階が基準階に設定されている。これに対して、
図6(b)に示すように、ビル稼働後には、B1階から12階のうちB1階~4階、7階~11階が、〇印で示す停止階(サービス階)に設定され、基準階が1階から2階に変更される。すなわち、ビル稼働後は、ビル60の各階の使い方がその時のテナントやフロア用途によって変わるため、このように計画時から変化するケースがあり、さらにその後もテナントや用途に応じて変化を続ける可能性がある。基準階(メインロビー階)についても、鉄道の駅の新設やペデストリアンデッキの設置などで、
図6のように変化するケースがある。
【0071】
このような変化は、エレベーターの運行状態に大きく影響するため、
図5で説明した運用条件検出部14で、その変化を検出して運行状態基準値に反映できるようにしている。すなわち、運用条件検出部14は、このようなケースに対応するため、その時点の実際の運用条件を検出する処理を備えている。
【0072】
図7は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態基準値算出部の構成例を示す構成図である。
【0073】
運行状態基準値算出部で算出する運行状態基準値は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置の実施例の重要な役割を果たすものであり、本実施例では、設備仕様や運用条件の違いを正規化するための運行状態基準値を「交通計算」のモデルに基づいて算出する。
【0074】
以下、
図7について説明する。
図7において、
図1、
図5と同一のものには同じ符号を付しており、それらの説明は省略する。
【0075】
運行状態基準値算出部16は、乗り人数・降り人数算出部161、乗降時間算出部162、総停止時間算出部163、走行距離・走行時間算出部164、1周時間算出部165、総乗り人数算出部166、5分間輸送能力算出部167、平均停止回数算出部168、稼働台数算出部169、平均運転間隔算出部16Aを備える。この運行状態基準値算出部16には、設備仕様データベース13からの設備仕様データ(乗りかごの定員データ)、交通状態検出部141の検出による交通状態データ(乗りかごの速度データ、加速度データ)、停止階検出部142の検出による停止階データ、停止確率検出部146の検出による停止確率データ、基準階検出部144の検出による基準階データ、建物仕様・用途データベース12に格納された建物仕様・用途データ、戸開時間検出部143の検出による戸開時間データが、それぞれ入力データとして提供される。運行状態基準値算出部16では、これらの入力データを用いて、交通計算によるエレベーターの運行モデルに基づいて、輸送能力(5分間輸送能力)や1周時間(平均1周時間)、平均運転間隔、1周当たりの平均停止回数などの運行状態の基準値を運行状態基準値として算出する。
【0076】
ここで、まず交通計算の基本になるエレベーターの1周時間について
図8を用いて説明する。
図8は、本実施例に係る運行状態基準値算出部で利用するエレベーターの1周時間の算出モデルを示す模式図である。
図8において、縦軸は、エレベーターの乗りかごの位置を示すビルの階床であり、横軸は、エレベーターの時間軸を示す時間である。グラフ80は、時間t1~t16におけるエレベーターの運行軌跡を示す線である。このグラフ80は、エレベーターの乗りかごが、基準階を出発して上昇方向に移動し、乗り場呼びやかご呼びが生じた階に停止した後、下降運転によって下降方向に移動し、同じくかご呼びの生じた階に停止した後、基準階に戻る運行状態を示している。エレベーターの乗りかごが、基準階を出発した後、基準階に戻るまでの1周運転の時間が1周時間となる。この1周時間が長いとエレベーターの待ち時間や乗車時間が長くなるため、1周時間は、エレベーターの運行状態に関わる重要な項目となる。また時間当たりのエレベーターによる輸送人数を表す輸送能力は、この1周時間でエレベーターが運ぶ人数として計算されるため、やはり1周時間が重要となる。
【0077】
この1周時間を構成する要素は、エレベーターの停止時間、例えば、時間t1、t3、t5、t7、t9、t11、t13、t15と、エレベーターの走行時間、例えば、時間t2、t4、t6、t8、t10、t12、t14、t16である。エレベーターは、走行時間よりも停止時間の合計(総停止時間=t1+t3+t5+t7+t9+t11+t13+t15)の方が1周時間の支配要因となるため、エレベーターの停止回数が重要となる。
【0078】
従って、対象となるエレベーターの1周時間をより正確に見積もるには、エレベーターの停止回数、停止時間、走行時間をより正しく見積もるためのデータや算出法が重要となる。
図7の運行状態基準値算出部16は、これを考慮した処理となっている。
【0079】
以下、
図7の説明に戻る。乗り人数・降り人数算出部161は、設備仕様データベース13からの設備仕様データ(乗りかごの定員データ)、交通状態検出部141の検出による交通状態データ、停止階検出部142の検出による停止階データを基に、停止階毎の乗り人数、降り人数を算出し、停止階毎の乗り人数・降り人数を示す人数データを出力する。乗降時間算出部162は、乗り人数・降り人数算出部161の算出による人数データを基に、各停止階における乗客のエレベーター乗降時間、例えば、乗客一人当たりのエレベーター乗降時間を算出し、乗客一人当たりのエレベーター乗降時間を示す乗降時間データを出力する。
【0080】
総停止時間算出部163は、停止階データ(停止階検出部142の検出データ)、停止階毎の停止確率データ(停止確率検出部145の検出データ)、戸開時間データ(戸開時間検出部143の検出データ)、停止階毎の乗客の乗降時間を示す乗降時間データ(乗降時間検出部162の検出データ)を基に、エレベーター1周当たりの総停止時間を算出し、エレベーター1周当たりの総停止時間を示す総停止時間データを出力する。また、総停止時間算出部163は、エレベーター1周当たりの総停止時間の算出結果から、平均停止時間を算出し、平均停止時間を示す平均停止時間データD6を出力する。
【0081】
走行距離・走行時間算出部164は、設備仕様データベース13に格納されたデータ(設備仕様データ)、建物仕様・用途データベース12に格納されたデータ(建物仕様データ)、交通状態データ(乗りかごの速度データ、乗りかごの加速度データ)を基に、対象エレベーターの走行距離と走行時間(
図8を参照)を算出し、対象エレベーターの走行距離・走行時間を示す走行距離データ・走行時間データを出力する。
【0082】
1周時間算出部165は、総停止時間算出部163の算出によるエレベーターの1周当たりの総停止時間(総停止時間データ)と走行距離・走行時間算出部164の算出によるエレベーターの走行距離・走行時間(走行距離データ・走行時間データ)を基にエレベーターの1周時間(平均1周時間)を算出し、エレベーターの1周時間(平均1周時間)を示す1周時間データ(平均1周時間データ)D7を出力する。この際、1周時間算出部165は、
図8で説明した乗りかごの1周の運行状態のモデルを参照してエレベーターの1周時間を算出する。この1周時間は、総停止時間と走行時間の和によって算出できる。この1周時間が基準値(運行状態基準値)の1つとなる。
【0083】
総乗り人数算出部166は、乗り人数・降り人数算出部161の算出による人数データと1周時間算出部165の算出による1周時間データとを基に、エレベーターの乗りかご1周当たりの総乗り人数を算出し、エレベーターの乗りかご1周当たりの総乗り人数を示す総乗り人数データを出力する。
【0084】
5分間輸送能力算出部167は、1周時間算出部165の算出による1周時間データと総乗り人数算出部166の算出による総乗り人数データとを基に、5分間当たりのエレベーターによる輸送人数を表す5分間輸送能力を算出し、エレベーターの5分間当たりの輸送能力を示す5分間輸送能力データD8を出力する。この5分間輸送能力は、エレベーターの利用人数に対する基準値となる。
【0085】
平均停止回数算出部168は、1周時間算出部165の算出による1周時間データと、停止確率検出部146の検出による停止確率データと、停止階検出部142の検出による停止階データとを基に、エレベーターの1周当たりの平均停止回数を算出し、エレベーターの1周当たりの平均停止回数を示す平均停止回数データD9を出力する。この際、
図8で説明したように、1周時間を決める重要因子が1周当たりの停止回数となるため、1周当たりの平均停止回数も運行状態の基準値となる。さらに、
図7には記載されていないが、停止回数には乗り場呼び停止回数とかご呼び停止回数があり、この1周当たりの平均停止回数の算出と合わせて、1周当たりの平均乗り場呼び停止回数、1周当たりの平均かご呼び停止回数を算出することができる。これらも運行状態の基準値となる。
【0086】
稼働台数算出部169は、評価対象のエレベーターの運行データを基に実際のエレベーターの稼働台数を算出し、実際のエレベーターの稼働台数を示す稼働台数データを出力する。この稼働台数も、例えば、夜間に稼働台数を制限する場合や、日中も専用運転で台数が少なくなる場合があり、台数の減少は運行性能に強く影響するため、重要な項目となる。
【0087】
平均運転間隔算出部16Aは、1周時間算出部165の算出による1周時間データと、稼働台数算出部169の算出による稼働台数データとを基に、エレベーターの平均運転間隔を算出し、エレベーターの平均運転間隔を示す平均運転間隔データD10を出力する。この平均運転間隔は、所定階に対するエレベーター乗りかごの平均到着間隔に対応するものであり、平均待ち時間に関係する重要な値となる。従って、平均運転間隔は、平均待ち時間(平均乗り場呼び継続時間)に対する運行状態の基準値となる。
【0088】
以上のように、運行状態基準値算出部16では、運行データから検出した実際の運用条件(停止階データD1、戸開時間データD2、基準階データD3、乗車率データD4、停止確率データD5)、エレベーターの設備仕様データ、ビルの建物仕様データ等のデータを入力データとして、運行状態の理論モデルである交通計算を基に、輸送能力(5分間輸送能力)、停止時間(平均停止時間)、1周時間(平均1周時間)、平均運転間隔、1周当たりの平均停止回数を、実際の現地のエレベーターの運行状態に基づいて算出している。これらの値は実際のエレベーターの運行状態に基づいた運行状態の基準値として適用される。この結果、異なるビルのエレベーターの比較評価などにおいて、それぞれのエレベーターの現地の運行状態を適正に反映した運行状態の評価が可能となる。
【0089】
図9は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態評価値算出部の構成例を示す構成図である。ここでは、
図1で説明した運行状態評価値算出部17で実施される処理の内容を説明する。
【0090】
図9において、運行状態評価値算出部17は、運行状態指標/運行状態基準値の除算処理を実行する除算処理部171を備える。除算処理部171は、運行状態指標算出部11の算出結果(エレベーターの運行状態指標)と運行状態基準値算出部16の算出結果(エレベーターの運行状態指標に対する基準値)を示すデータをそれぞれ取り込み、これら入力データを基に、運行状態指標を運行状態の基準値(運行状態基準値)で除算する処理を実施して((1)式の計算処理)、運行状態に対する評価値である運行状態評価値を算出し、エレベーターの運行状態に対する評価値のデータである運行状態評価値データを運行状態評価値DB18に出力する。この除算処理は、運行状態指標を、対応する基準値で正規化することを意味している。
【0091】
既に説明したように、例えば、エレベーターの利用人数のような運行状態指標そのものを用いただけでは、異なるビルのエレベーターの運行状態を単純に比較できない。しかし、設備仕様や運用条件を反映させた輸送能力のような基準値で運行状態指標を正規化し、運行状態指標を基準値で正規化(規格化)して得られた運行状態評価値を比較評価に用いることで、異なるビルのエレベーターの運行状態を比較することができる。この運行状態評価値は、指標管理テーブルで管理される。
【0092】
図10は、本実施例に係る指標管理テーブルの構成例を示す構成図である。指標管理テーブル100は、運行状態指標と基準値及び運行状態評価値の具体的な例を一覧に整理して記録したものであり、エレベーター運行状態評価装置1の基盤となる重要な評価指標のモデルになる。
【0093】
図10において、指標管理テーブル100は、No.(番号)101、分類102、運行状態の状況(運行性能低下時)103、運行状態指標104、基準値105、運行状態評価値106の項目を備え、記憶装置に格納される。
【0094】
No.(番号)101には、指標管理テーブル100の内容を9項目に分けるための番号を示す数値(「1」~「9」)の情報が格納される。分類102には、指標を2種類に分類するために、第1分類の「運行性能に対する指標」の情報と、第2分類の「運行性能低下の要因に対する指標」の情報が格納される。
【0095】
第1分類の「運行性能に対する指標」に対応して、運行状態の状況(運行性能低下時)103には、第1分類用運行状態の状況として、「エレベーターの待ち時間が長い」「乗りかごが混んでいる」の情報が格納される。運行状態指標104には、運行状態指標算出部11の算出による第1分類用運行状態指標として、「平均乗り場呼び継続時間」「60秒以上長待ち発生比率」「乗りかご平均乗車率」の情報が格納される。基準値105には、運行状態基準値算出部16の算出による第1分類用基準値として、「平均運転間隔」「―」「平均乗車率の最大許容値」の情報が格納される。運行状態評価値106には、運行状態評価値算出部17の算出による第1分類用運行状態評価値として、「平均乗り場呼び継続時間/平均運転間隔」「60秒以上長待ち発生比率」「乗りかご平均乗車率/平均乗車率の最大許容値」の情報が格納される。なお、平均運転間隔は、交通計算より算出される値であり、乗りかご平均乗車率に対する最大許容値は、別途、個別で許容値として設定される値である。
【0096】
第2分類の「運行性能低下の要因に対する指標」に対応して、運行状態の状況(運行性能低下時)103には、第2分類用運行状態の状況として、「エレベーターの利用人数が多い」「乗りかごの1周時間が長い」「乗りかごの1周当たりの停止回数が多い」「乗り場呼びによる停止回数が多い」「かご呼びによる停止回数が多い」「乗りかごの停止時間が長い」の情報が格納される。運行状態指標104には、運行状態指標算出部11の算出による第2分類用運行状態指標として、「利用人数」「平均1周時間(実データ)」「1周当たりの平均停止回数(実データ)」「1周当たりの平均乗り場呼び停止回数(実データ)」「1周当たりの平均かご呼び停止回数(実データ)」「1回の停止に対する平均停止時間(実データ)」の情報が格納される。基準値105には、運行状態基準値算出部16の算出による第2分類用基準値として、「輸送能力」「1周時間(交通計算)」「1周当たりの停止回数(交通計算)」「1周当たりの乗り場呼び停止回数(交通計算)」「1周当たりのかご呼び停止回数(交通計算)」「1回の停止に対する停止時間(交通計算)」の情報が格納される。運行状態評価値106には、運行状態評価値算出部17の算出による第2分類用運行状態評価値として、「利用人数/輸送能力」「平均1周時間(実データ)/1周時間(交通計算)」「1周当たりの平均停止回数(実データ)/1周当たりの停止回数(交通計算)」「1周当たりの乗り場呼び停止回数(実データ)/1周当たりの乗り場呼び停止回数(交通計算)」「1周当たりの平均 かご呼び停止回数(実データ)/1周当たりのかご呼び停止回数(交通計算)」「1回の停止に対する平均停止時間(実データ)/1回の停止に対する停止時間(交通計算)」の情報が格納される。
【0097】
ここで、指標管理テーブル100の情報を利用するに際して、エレベーターの運行状態の状況(運行性能低下時)が、「エレベーターの待ち時間が長い」と判断される場合、運行状態指標104として、「平均乗り場呼び継続時間」「60秒以上長待ち発生比率」のうち一方の情報が利用され、運行状態指標104として、「平均乗り場呼び継続時間」が利用される場合、基準値105の情報として、「平均運転間隔」が利用され、運行状態評価値106の情報として、平均乗り場呼び継続時間/平均運転間隔の演算により得られた情報が利用される。
【0098】
また、エレベーターの運行状態の状況(運行性能低下時)が、「エレベーターの利用人数が多い」と判断される場合、運行状態指標104として、「利用人数」の情報が利用され、基準値105の情報として、「輸送能力」が利用され、運行状態評価値106の情報として、利用人数/輸送能力の演算により得られた情報が利用される。
【0099】
運行状態評価値106に記録されて情報は、既に説明したように運行状態指標104の情報を基準値105の情報で正規化(除算)した値である。
【0100】
ここで、運行性能に対する指標と運行性能低下の要因に対する指標の使い分けについて説明すると、対象とするエレベーターの運行状態の評価として、まず重要な指標が、平均乗り場呼び継続時間のような運行性能に対する指標となる。従って、運行状態の評価ではまずこれを示す。その上で、運行性能に低下があった場合は、その要因となる項目として、運行性能低下の要因となる各指標を示して、運行性能低下の要因を抽出する。例えば、利用人数に対応する評価値、1周時間に対応する評価値などから、利用人数が輸送能力に比べて多いことが運行低能低下の要因か、1周時間が長いことが運行低能低下の要因かなどを判定する。その結果、運行性能低下の要因が特定できたならば、その要因を改善するための策を進めることができ、運行状態の評価からその改善策の立案までを実施することが可能となる。
【0101】
図11は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する評価基準値算出部の構成例を示す構成図である。
図11は、
図1に示す評価基準値算出部19の詳細である。
【0102】
ここで、評価基準値は、運行状態評価値に対して、それがエレベーターの運行状態にどの程度影響しているかを示す目安の値になる。この評価基準値は、例えば、
図3(c)の評価基準値54に対応する。例えば、評価基準値は、指標管理テーブル100で説明した運行性能に対する指標の場合、エレベーターの運行性能低下を判断する基準となるものであり、エレベーターの運行性能低下の要因に対する指標の場合には、それが要因であるかどうかを判断する基準となるものである。本実施例では、特に後者の運行性能低下の要因を判定する基準として用いる評価基準値を想定している。
【0103】
以下、
図11を説明する。尚、
図11において
図1と同一のものには同じ符号を付しており、それらの説明を省略する。
【0104】
評価基準値算出部19は、ビル用途検出部191、交通状態検出部192、運行性能評価部193、評価レベルDB194、評価基準値設定部195、統計値算出部196を備える。この評価基準値算出部19には、建物仕様・用途データベース12に格納された建物仕様・用途データ、運行状態評価値DB18に格納された運行状態評価値データがそれぞれ入力データとして提供される。
【0105】
この際、建物仕様・用途データベース12には、例えば、ビル用途に関するデータとして、オフィスビルの1社専有タイプ、多数のテナントで構成されるタイプ、少数のテナントで構成されるタイプ、マンションビルタイプ、デパートやショッピングセンタのような商業ビルタイプ、複合ビルタイプ、大規模病院タイプ、ホテルタイプ、学校タイプ等、ビル用途別に分類されたデータが格納される。これらのデータは、評価基準値をビル用途毎に設定するために用いられる。ビル用途毎に運行状態の特性が異なるため、ビル用途毎に評価基準値を設定するのがその理由になる。
【0106】
ビル用途検出部191は、建物仕様・用途データベース12に格納された建物仕様・用途データを基に、評価対象のエレベーターが設置されているビルの用途を検出し、ビルの用途を示すビル用途データを出力する。交通状態検出部192は、運行状態評価値データベース18に格納された運行状態評価値データを基に、運行状態評価値に対する、エレベーターの交通状態を検出し、エレベーターの交通状態を示す交通状態データを出力する。この交通状態は、ビル用途と同様に、交通状態毎に評価基準値を設定するために検出される。
【0107】
運行性能評価部193は、評価レベルDB194に格納されたデータであって、複数の運行性能項目を示すデータ及び各性能項目に対する良し悪し(良否)の評価レベルを示す評価レベルデータを基に、各運行性能項目に対して、評価レベルを用いて運行性能が低下しているか否かを評価し、評価結果として運行性能評価データを出力する。例えば、運行性能項目である平均乗り場呼び継続時間が評価レベルを超えているか否かを判定し、平均乗り場呼び継続時間が評価レベルを超えている場合には、運行性能が低下していることを示す運行性能評価データを出力する。ここで、運行性能項目とは、指標管理テーブル100の運行状態指標104に属する情報のうち、「平均乗り場呼び継続時間」「60秒以上長が待ち発生比率」「乗りかご平均乗車率(混雑乗車率の発生比率)」に相当する情報(第1分類用運行状態指標に属する情報)である。
【0108】
評価基準値設定部195は、運行状態評価値DB18に格納された運行状態評価値データと、ビル用途検出部191の検出によるビル用途データと、交通状態検出部192の検出による交通状態データ、及び運行性能評価部193の評価による運行性能評価データを基に、エレベーターの運行性能低下の要因に対する運行状態評価値(第2分類用運行状態評価値)に対して、エレベーターの性能低下の要因であるかどうかの評価基準値を設定する。この際、評価基準値設定部195は、建物仕様・用途データベース12と運行状態評価値DB18に格納された大量のデータを基に機械学習や統計手法を用いて評価基準値を設定する。また、この評価基準値は、ビル用途毎、交通状態毎に異なると考えられるため、評価基準値設定部195は、ビル用途毎、交通状態毎にそれぞれ評価基準値を設定する。すなわち、評価基準値設定部195は、ビル用途別と交通状態別の運行性能低下の要因に対する評価基準値をそれぞれ設定する。
【0109】
評価基準値設定部195で設定された評価基準値は、エレベーターの運行性能低下の要因にどの項目が関わっているかを判断するための評価基準値として用いられる。例えば、運行性能低下の要因に対する運行状態評価値(例えば、利用人数/輸送能力)と、この評価基準値とを比較することで、それが要因であるかを判断することができる。例えば、
図3(c)に示したように、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値と評価基準値54とを比較することで、ビルAのエレベーターの運行性能低下の要因は、利用人数が輸送能力に比べて多いことであると判断することができる。
【0110】
統計値算出部196は、運行状態評価値DB18に格納された運行状態評価値データと、ビル用途検出部191の検出によるビル用途データと、交通状態検出部192の検出による交通状態データ、及び運行性能評価部193の評価による運行性能評価データを基に、エレベーターの運行性能低下の要因に対する運行状態評価値の統計値として、例えば、エレベーターの運行性能低下の要因に対する運行状態評価値の平均値を、ビル用途別及び交通状態別に算出する。統計値算出部196の算出による平均値は、例えば、
図4のグラフ55で示す、全ビルの平均値として用いられると共に、
図4のグラフ56で示す、運行性能が低下しているエレベーターの平均値として用いられる。また、統計値算出部196の算出による平均値は、評価対象のエレベーターの運行状態評価値に対して、他のビルの運行状態評価値がどうであるかを評価するための参考値、特に運行性能低下が起きているビルの平均値と比較する際に、客観的に評価するための参考値として用いることができる。
【0111】
図12は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する評価基準値設定部で評価基準値を設定する方法を説明するための模式図である。
【0112】
図12において、縦軸は、運行状態指標を示す平均乗り場呼び継続時間(運行性能値)であり、横軸は、運行性能低下の要因となる運行状態評価値を示す利用人数/輸送能力である。縦軸の平均乗り場呼び継続時間(運行状態指標)対しては、運行性能低下の目安レベルとなる評価レベル120が示されている。エレベーターの運行性能値を示す平均乗り場呼び継続時間が、評価レベル120を超えた場合は、平均乗り場呼び継続時間が長く、運行性能低下と判定される。
【0113】
この運行性能低下の目安レベルを基に、運行性能低下となる評価基準値が設定される。この際、1社専有型オフィスビルにおけるデータとして、運行状態評価値である利用人数/輸送能力に対する運行状態指標を示す平均乗り場呼び継続時間のデータD11~D19(黒丸印のデータ)がプロットされ、多テナント型オフィスビルにおけるデータとして、運行状態評価値である利用人数/輸送能力に対する運行状態指標を示す平均乗り場呼び継続時間のデータD21~D37(白印のデータ)がプロットされる。
【0114】
プロット点となるデータD11~D19の間には、1社専有型オフィスビルに対する要因となる運行状態評価値と運行状態指標との関係を示す特性線121が設定され、プロット点となるデータD21~D37の間には、多テナント型オフィスビルに対する要因となる運行状態評価値と運行状態指標との関係を示す特性線122が設定される。
【0115】
1社専有型オフィスビルの場合、運行性能低下となる評価基準値は、特性線121と評価レベル120とから、特性線121と評価レベル120とが交差する点の運行状態評価値に相当する線123の値に設定される。同様に、多テナント型オフィスビルの場合、運行性能低下となる評価基準値は、特性線122と評価レベル120とから、特性線122と評価レベル120とが交差する点の運行状態評価値に相当する線124の値に設定される。
【0116】
このような方法によって、評価基準値設定部195では、ビル用途別の運行性能低下の要因に対する評価基準値を設定することができる。尚、評価基準値設定部195では、交通状態に対しても同様の方法で、交通状態別の運行性能低下の要因に対する評価基準値を設定することができる。
【0117】
ここで補足として、1社専有型オフィスビルに対する要因となる運行状態評価値と運行状態指標との関係を示す特性線121の方が、多テナント型オフィスビルに対する要因となる運行状態評価値と運行状態指標との関係を示す特性線122よりも傾きが大きい理由について説明する。1社専有型オフィスビルの場合、同じ会社のため、各階床間でのエレベーターによる移動が多く、同じ利用人数でも階床間の移動が多いため、エレベーターの停止回数が多くなり、1周時間が長くなり、平均乗り場呼び継続時間が長くなるため、傾きが大きくなる。このようにビル用途毎にエレベーター利用の特性が異なるため、運行性能低下となる評価基準値もビル用途毎に設定することが良い。
【0118】
図13は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運行状態評価部の処理を説明するための機能ブロック図である。
図13は、
図1に示す運行状態評価部20の処理内容を表している。
【0119】
この
図13の処理の概要は、対象とするエレベーターの運行状態の評価として、まず運行性能に関わる運行状態指標に対して、性能低下が生じているか否かを判定し、性能低下が発生している場合には、運行性能低下に関わる運行状態評価値とその評価基準値とを用いて、その運行状態評価値の項目が性能低下の要因であるかどうかを評価するものである。運行性能に関わる運行状態指標と、性能低下の要因に関わる運行状態評価値及び評価基準値を用いて、運行状態の評価と性能低下が起きている場合の要因の判定を実施するものとなる。
【0120】
図13において、運行状態評価部20は、運行状態指標算出部11の算出結果として、エレベーターの運行性能に関わる運行状態指標Xを第1分類用運行状態指標の中から入力し、入力したエレベーターの運行性能に関わる運行状態指標X(例えば、平均乗り場呼び継続時間)に対して、運行性能(平均待ち時間)が低下しているか否かを判定する(B201)。この際、運行状態評価部20は、例えば、エレベーターの運行性能に関わる運行状態指標Xの値、すなわち、平均乗り場呼び継続時間が、運行性能低下の目安となる評価レベルを超えたか否かを判定する。
【0121】
運行状態指標Xに対して性能低下が判定されなかった場合、運行状態評価部20は、次の運行状態指標Xとして、例えば、指標管理テーブル100のNo.2の「60秒以上長待ち発生比率」を選択し(B202)、選択した運行状態指標に対して、運行性能(待ち時間)が低下しているか否かを判定する(B201)。運行状態指標Xに対して性能低下が判定されなかった場合、次の運行状態指標Xとして、例えば、指標管理テーブル100のNo.3の「乗りかご平均乗車率」を選択し(B202)、選択した運行状態指標に対して、運行性能(平均待ち時間)が低下しているか否かを判定する(B201)。これらの処理は、指標管理テーブル100のNo.1~3の運行状態指標104に記録された情報(第1分類用運行状態指標を示す情報)が全て選択されるまで実施される。
【0122】
一方、運行状態指標Xに対して性能低下が判定された場合、運行状態評価部20は、運行状態評価値算出部17の算出結果として、すなわち、運行性能低下の要因に関わる評価値として、運行状態評価値Y(例えば、利用人数/輸送能力)を第2分類用運行状態評価値の中から入力すると共に、評価基準値算出部19の算出結果として、評価基準値を入力し、運行性能低下の要因に関わる運行状態評価値Yが評価基準値よりも大きいか否かを判定する(B203)。すなわち、運行状態評価部20は、運行状態指標Xに対して性能低下が発生したのは、運行状態評価値Yが要因の可能性があるかどうかを判定する。
【0123】
運行状態評価値Yが評価基準値よりも大きくない場合、すなわち、運行状態評価値Yが性能低下の要因と判定されなかった場合、運行状態評価部20は、次の要因の運行状態評価値Yとして、例えば、指標管理テーブル100のNo.5の「1周時間(実データ)/1周時間(交通計算)」を選択し(B204)、選択した運行状態評価値Yが、評価基準値よりも大きいか否かを判定する(B203)。これらの処理は、指標管理テーブル100のNo.4~9の運行状態評価値106に記録された情報(第2分類用運行状態評価値を示す情報)が全て選択されるまで実施される。
【0124】
一方、運行状態評価値Yが評価基準値よりも大きい場合、すなわち、運行状態評価値Yが性能低下の要因と判定された場合、運行状態評価部20は、運行状態指標Xで表される運行性能低下に対して、運行状態評価値Yに対応する要因が影響している可能性がある判定し(B205)、判定結果として、運行性能低下の評価結果とその要因の評価結果を出力する(B206)。なお、ブロックB201で、運行状態指標Xに対して性能低下が判定された場合、運行状態評価部20は、指標管理テーブル100のNo.1~3の運行状態指標104に記録された情報に対する判定結果として、運行性能低下の評価結果とその要因の評価結果を出力する(B206)。また、ブロックB201において、運行状態指標Xに対して、運行性能が低下しているか否かを判定する際に、運行状態指標Xに対応した運行状態評価値(=平均乗り場呼び継続時間/平均運転間隔)と評価基準値とを比較して、性能低下を判定することもできる。
【0125】
図14は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置に属する運用条件設定部の構成例を示す構成図である。
図14は、
図1に示す運用条件設定部15の詳細である。
【0126】
図14において、
図1と同一のものには、同じ符号を付しており、それらの説明を省略する。
【0127】
図14において、運用条件設定部15は、停止階設定部151、戸開時間設定部152、基準階設定部153、乗車率制限値設定部154を備え、各部は、運用条件検出部14と情報端末22に接続される。運用条件検出部14により、評価対象のエレベーターに対する現在の運用条件が検出されると、評価対象のエレベーターに対する現在の運用条件を示す運用条件データとして、停止階データD1、戸開時間データD2、基準階データD3、乗車率データD4がそれぞれ運用件設定部15に入力される。この際、例えば、運用条件設定部15に情報端末22から変更指令が入力されると、運用条件設定部15は、変更指令に応答して、運用条件の変更処理を実行する。運用条件設定部15は、運用条件検出部14の検出による運用条件データを、例えば、情報端末22から指令された設定値に従って変更し、変更された運用条件データを変更後運用条件データとして運用条件検出部14に返送する。
【0128】
具体的には、例えば、停止階設定部151は、停止階データD1を第1設定値に従って変更し、変更された停止階データを、変更後運用条件データを示す停止階設定値P1として運用条件検出部14に返送する。戸開時間設定部152は、戸開時間データD2を第2設定値に従って変更し、変更された戸開時間データを、変更後運用条件データを示す戸開時間設定値P2として運用条件検出部14に返送する。基準階設定部153は、基準階データD3を第3設定値に従って変更し、変更された基準階データを、変更後運用条件データを示す基準階設定値P3として運用条件検出部14に返送する。乗車率制限値設定部154は、乗車率データD4を第4設定値に従って変更し、変更された乗車率制限値データを、変更後運用条件データを示す乗車率制限設定値P4として運用条件検出部14に返送する。
【0129】
この際、運用条件検出部14から各変更後運用条件データを入力する運行状態基準値算出部16は、運用条件の変更前に算出した運行状態基準値を、変更後運用条件データを基に変更して、変更後運行状態基準値を生成する。運行状態基準値算出部16から変更後運行状態基準値を入力する運行状態評価値算出部17は、運用条件の変更前に算出した運行状態評価値を、変更後運行状態基準値を基に変更して、変更後運行状態評価値を生成する。変更後運行状態評価値を入力する評価基準値算出部19は、運用条件の変更前に算出した評価基準値を、変更後運行状態評価値を基に変更して、変更後評価基準値を生成する。
【0130】
変更後運行状態評価値と変更後評価基準値を入力する運行状態評価部20は、変更後運行状態評価値と変更後評価基準値とを基に運用条件の変更後における各エレベーターの運行状態を評価する。この際、運行状態評価部20は、運用条件が変更される前に入力した情報を保持し、運用条件が変更される前後に入力された情報を基に、運用条件が変更される前後における各エレベーターの運行状態を評価することができる。
【0131】
運用条件が変更された場合、変更された内容が運用条件検出部14の検出結果や基準値等に反映さるので、変更された運用条件に対して、他のビルなどのエレベーターの運行状態のデータから、運行状態(運行性能に関わる運行状態指標、運行性能低下の要因に関わる運行状態評価値など)がどの程度改善されるかなどを推定することができる。
【0132】
これは既に稼働中のエレベーターの運行状態を改善する場合や、計画時のエレベーターの仕様を調整して予想される運行状態の改善する場合などに利用することができる。
【0133】
図15は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第1表示例を示す模式図である。この第1表示例は、情報端末22の画面に表示された画像であり、この画像の画像情報は、運行状態評価部20と結果出力部21で生成される。なお、以下で説明する第2表示例~第4表示例も、情報端末22の画面に表示された画像であり、この画像の画像情報は、運行状態評価部20と結果出力部21で生成される。
【0134】
図15(a)は、異なるビルのエレベーターの運行状態指標を基準値で正規化した運行状態評価値で比較評価した第1表示例を示す模式図である。
図15(a)において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値(=利用人数/輸送能力)であり、横軸は、ビルAとビルBである。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ150が表示され、ビルBに対応して、ビルBのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ151が表示され、さらに、グラフ150、151に対して、運行状態評価値の評価基準値152が表示される。この評価基準値152は、エレベーターの運行性能低下に影響するか否かを判定するための目安となる評価基準ラインとして破線で表示される。また、表示領域153には、評価対象のビル用途が一社専有型オフィスビルである旨の情報が表示される。
【0135】
図15(a)に示す評価結果より、ビルAのエレベーターの方が、利用人数に対する運行状態評価値がビルBのエレベーターよりも大きく、また運行状態評価値が評価基準値を超えているため、運行性能の低下が生じている場合、利用人数が輸送能力に対して大きく、運行性能低下の要因である可能性があることを示している。一方で、ビルBの方は、利用人数に対する運行状態評価値が評価基準値に対して余裕があり、利用人数は、運行性能低下に影響している可能性が低いことを示している。
【0136】
図15(b)は、異なるビルのエレベーターの運行状態指標と対応する基準値(正規化のための基準値)とを並べて表示して、運行状態を評価する第1表示例を示す模式図である。
図15(a)のように運行状態指標を基準値で正規化した評価値で表しても良いが、
図15(b)のように運行状態指標と基準値とを示すことで、基準値を比較することもできる。
【0137】
図15(b)において、縦軸は、人数であり、横軸は、ビルAとビルBである。ビルAに対応して、ビルAのエレベーターの利用人数がグラフ154で表示され、ビルAのエレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ155で表示される。ビルBに対応して、ビルBのエレベーターの利用人数がグラフ156で表示され、ビルBのエレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ157で表示される。さらに、ビルAの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.92」として表示領域158に表示され、ビルBの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.71」として表示領域159に表示される。尚、
図15(a)と
図15(b)は、同じ内容を示している。
【0138】
図15(b)では、運行状態指標の利用人数と基準値の輸送能力とが分かれて表示されているため、ビルAとビルBでそれぞれを対比して評価することができる。例えば、利用人数は、ビルBの方が大きいが、輸送能力もビルBの方が大きいため、輸送能力で正規化した利用人数に対する運行状態評価値は、ビルA=0.92に対して、ビルB=0.71であって、ビルAの方が大きく、設備能力的にはビルAの方が厳しいことが分かる。
【0139】
この際、運行状態評価値算出部17は、運行状態指標算出部11と運用条件検出部14にそれぞれ入力される各エレベーターの運行データが、各エレベーターのうち評価対象エレベーターから得られた運行データと、評価対象エレベーターとは建物仕様と運用条件が異なるビルに設置された比較対象エレベーターの運行データである場合、運行状態評価値として、評価対象エレベーターの運行状態評価値及び比較対象エレベーターの運行状態評価値を算出する。運行状態評価部20は、運行状態評価値算出部17の算出による評価対象エレベーターの運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較すると共に、比較対象エレベーターの運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較し、評価対象エレベーターと比較対象エレベーターの運行状態を評価する。
【0140】
また、結果出力部21は、エレベーターの運行状態を示す情報を表示する表示画面を有する情報端末22又は表示装置に接続された場合、運行状態評価部20の評価結果に用いた情報として、運行状態評価値算出部17の算出による評価対象エレベーターの運行状態評価値(グラフ150)と比較対象エレベーターの運行状態評価値(グラフ151)、及び評価基準値算出部19の算出による評価基準値152を表示画面に表示する。
【0141】
図16は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第2表示例を示す模式図である。この第2表示例は、
図15の第1表示例が、異なるビルのエレベーター同士を比較する例であるのに対して、同じビルの異なるバンクのエレベーター同士を比較する例である。
【0142】
図16(a)は、同じビルの異なるバンクのエレベーターの運行状態指標を基準値で正規化した運行状態評価値で比較評価した第2表示例を示す模式図である。
図16(a)において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値(=利用人数/輸送能力)であり、横軸は、低層バンクと高層バンクである。低層バンクに対応して、低層バンクのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ160が表示され、高層バンクに対応して、高層バンクのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ161が表示され、さらに、グラフ160、161に対して、運行状態評価値の評価基準値162が表示される。この評価基準値162は、エレベーターの運行性能低下に影響するか否かを判定するための目安となる評価基準ラインとして破線で表示される。また、表示領域163には、評価対象のビル用途が多テナント型オフィスビルである旨の情報が表示される。
【0143】
図16(a)から、高層バンクのエレベーターの方が、低層バンクのエレベーターよりも利用人数に対する運行状態評価値が高く、評価基準値162を超えていることが分かる。このため、輸送能力に対して利用人数が多い状況では、高層バンクのエレベーターの方が、低層バンクのエレベーターよりも設備能力的に厳しく、運行性能の低下への影響が大きいと判定することができる。
【0144】
図16(b)は、同じビルの異なるバンクのエレベーターの運行状態指標と対応する基準値(正規化のための基準値)とを並べて表示して、運行状態を評価する第2表示例を示す模式図である。
【0145】
図16(b)において、縦軸は、人数であり、横軸は、低層バンクと高層バンクである。低層バンクに対応して、低層バンクのエレベーターの利用人数がグラフ164で表示され、低層バンクのエレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ165で表示される。高層バンクに対応して、高層バンクのエレベーターの利用人数がグラフ166で表示され、高層バンクのエレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ167で表示される。さらに、低層バンクの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.72」として表示領域168に表示され、高層バンクの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.94」として表示領域169に表示される。
【0146】
図16(b)から、より具体的に各バンクのエレベーターの運行状態を比較することができ、運行性能低下が生じている場合は、その低下の要因などを対比して評価することができる。例えば、低層バンクと高層バンクは、共に利用人数は略同じであるが、輸送能力は、高層バンクの方が低いため、高層バンクの方が、低層バンクよりも設備能力的に厳しいことが分かる。
【0147】
この際、運行状態評価値算出部17は、運行状態指標算出部11と運用条件検出部14にそれぞれ入力される各エレベーターの運行データが、各エレベーターのうち評価対象エレベーターから得られた運行データと、評価対象エレベーターとは異なるエレベーターバンクに属する比較対象エレベーターの運行データである場合、運行状態評価値として、評価対象エレベーターの運行状態評価値及び比較対象エレベーターの運行状態評価値を算出する。運行状態評価部20は、運行状態評価値算出部17の算出による評価対象エレベーターの運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較すると共に、比較対象エレベーターの運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較し、評価対象エレベーターと比較対象エレベーターの運行状態を評価する。
【0148】
また、結果出力部21は、エレベーターの運行状態を示す情報を表示する表示画面を有する情報端末22又は表示装置に接続された場合、運行状態評価部20の評価結果に用いた情報として、運行状態評価値算出部17の算出による評価対象エレベーターの運行状態評価値(グラフ160)と比較対象エレベーターの運行状態評価値(グラフ161)、及び評価基準値算出部19の算出による評価基準値162を表示画面に表示する。
【0149】
図17は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第3表示例を示す模式図である。この第3表示例は、
図15の第1表示例が、異なるビルのエレベーター同士を比較する例であるのに対して、同じビルのエレベーターの運用条件を変更した場合の例である。
【0150】
図17(a)は、同じビルのエレベーターの運用条件を変更する前後に、運行状態指標を基準値で正規化した運行状態評価値で比較評価した第3表示例を示す模式図である。
図17(a)において、縦軸は、エレベーターの利用人数に対する運行状態評価値(=利用人数/輸送能力)であり、横軸は、運用条件変更前(エレベーター)と変更後(エレベーター)である。運用条件変更前(エレベーター)に対応して、運用条件変更前のエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ170が表示され、変更後(エレベーター)に対応して、変更後のエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ171が表示され、さらに、グラフ170、171に対して、運行状態評価値の評価基準値172が表示される。この評価基準値172は、エレベーターの運行性能低下に影響するか否かを判定するための目安となる評価基準ラインとして破線で表示される。また、表示領域173には、評価対象のビル用途が多テナント型オフィスビルである旨の情報が表示される。
【0151】
図17(a)から、対象エレベーターの運用条件変更前では、利用人数に対する運行状態評価値が高く、評価基準値172を超えているため、輸送能力に対して利用人数が多い状況で、これが運行性能低下を引き起こしている可能性があった。これに対して、運用条件変更後は、運用条件変更前よりも利用人数に対する運行状態評価値が低減して、評価基準値172を下回るようになり、運行性能の低下に対する影響が減少し、運行性能が改善されていることが分かる。
【0152】
図17(b)は、同じビルのエレベーターの運用条件が変更される前後に、運行状態指標と対応する基準値(正規化のための基準値)とを並べて表示して、運行状態を評価する第3表示例を示す模式図である。
【0153】
図17(b)において、縦軸は、人数であり、横軸は、運用条件変更前(エレベーター)と変更後(エレベーター)である。運用条件変更前(エレベーター)に対応して、運用条件変更前エレベーターの利用人数がグラフ174で表示され、運用条件変更前エレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ175で表示される。変更後(運用条件変更後)に対応して、運用条件変更後のエレベーターの利用人数がグラフ176で表示され、運用条件変更後のエレベーターの輸送能力が基準値としてグラフ177で表示される。さらに、運用条件変更前のエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.93」として表示領域178に表示され、運用条件変更後のエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値が、「0.74」として表示領域179に表示される。
【0154】
図17(b)から、より具体的に運用条件変更前後のエレベーターの運行状態を比較することができる。すなわち、運用条件変更前後でエレベーターの利用人数は変わらいないが、運用条件を変更することで、輸送能力が向上したため、設備能力的に余裕が増加した状況にあると評価することができる。また、運用条件を変更することで、運行性能低下が生じる場合は、その低下の要因の改善の状態などを、運用条件変更前後で対比して評価することが可能になる。
【0155】
この際、運行状態評価値算出部17は、運行状態指標算出部11と運用条件検出部14にそれぞれ入力される各エレベーターの運行データが、運用条件が変更される前の運行データと、運用条件が変更された後の運行データである場合、運行状態評価値として、運行条件変更前の運行状態評価値及び運用条件変更後の運行状態評価値を算出する。運行状態評価部20は、運行状態評価値算出部17の算出による運行条件変更前の運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較すると共に、運行条件変更後の運行状態評価値と評価基準値算出部19の算出による評価基準値とを比較し、運行条件変更前と運行条件変更後における各エレベーターの運行状態を評価する。
【0156】
また、結果出力部21は、エレベーターの運行状態の情報を表示する表示画面を有する情報端末22又は表示装置に接続された場合、運行状態評価部20の評価結果に用いた情報として、運行状態評価値算出部17の算出による運行条件変更前の運行状態評価値(グラフ170)と運行条件変更後の運行状態評価値(グラフ171)、及び評価基準値算出部19の算出による評価基準値172を表示画面に表示する。
【0157】
図18は、本発明に係るエレベーター運行状態評価装置によってエレベーターの運行状態を評価したときの第4表示例を示す模式図である。
図15の第1表示例が、異なるビルのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を比較する例であるのに対して、第4表示例は、異なるビルのエレベーターの運行性能を比較する例と異なるビルのエレベーターの運行性能低下に関わる要因を比較する例とを組み合わせたものである。第4表示例によれば、エレベーターの性能低下が発生している場合には、その要因となる項目に関わる指標を比較評価によって判定することが可能になる。
【0158】
図18において、情報端末22の表示領域180は、運行性能に関わる運行状態指標を表示するための表示領域181と、運行性能の低下に関わる要因の状態を表示するための表示領域182とから構成される。
【0159】
表示領域181には、運行性能に関わる運行状態指標(例えば、平均待ち時間)を表示するためのグラフとして、ビルAの平均待ち時間を示すグラフ183と、ビルBの平均待ち時間を示すグラフ184が表示される。さらに、グラフ183、184に対して、運行性能低下の目安となる評価レベル185が表示される。表示領域181に表示された情報から、エレベーターの運行性能の低下が起きているかどうかを確認できる。例えば、表示領域181に表示された例では、ビルAのグラフ183が、評価レベル185を超えているので、ビルAのエレベーターで運行性能低下が発生していることが分かる。
【0160】
表示領域182には、運行性能低下に関わる要因の状態を表示するためのグラフとして、ビルAのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ186と、ビルBのエレベーターの利用人数に対する運行状態評価値を示すグラフ187が表示される。さらに、グラフ186、187に対して、運行性能の低下に影響するか否かを判定するための評価基準ラインとなる評価基準値188が表示される。
【0161】
また、表示領域182には、運行性能低下に関わる要因の状態を表示するためのグラフとして、ビルAのエレベーターの平均1周時間に対する運行状態評価値を示すグラフ189と、ビルBのエレベーターの平均1周時間に対する運行状態評価値を示すグラフ190が表示される。さらに、グラフ189、190に対して、運行性能の低下に影響するか否かを判定するための評価基準ラインとなる評価基準値191が表示される。
【0162】
表示領域182に表示された情報から、ビルAのエレベーターの評価結果として、利用人数に対する運行状態評価値と、平均1周時間に対する運行状態評価値が共に運行性能の低下に影響する評価基準値を超えており、これらが共に運行低下の要因である可能性がある。
【0163】
この評価結果と基に、運行性能低下の要因に対する評価結果として、「エレベーターの利用人数が多いために、各階での停止回数が増えて、1周時間が長くなっている可能性があります。」、という要因が判定される。この要因のメッセージは、表示領域192に表示される。
【0164】
表示領域180内に、運行性能に関わる運行状態指標(平均待ち時間)を示すグラフ183、184と運行性能の低下に関わる要因となる運行状態評価値を示すグラフ186、187、189、190とを組み合わせて表示することにより、評価対象のエレベーターの運行状態と仮にその運行状態が良くない場合には、その要因を判定して、改善へとつなげることが可能となる。
【0165】
本実施例によれば、エレベーターの運行状態の良否を客観的に評価することができる。この際、エレベーターの運行状態の指標(運行状態指標)を示す運行性能値とその基準値(運行状態基準値)とから得られる運行状態評価値を用いて各エレベーターを比較することで、各エレベーターを同じ尺度で比較評価することができる。すなわち、運行状態評価値を尺度として各エレベーターを比較評価することができる。結果として、設備仕様や運用条件が異なるエレベーターの運行状態を、運行状態評価値を尺度として、同じ尺度で比較評価することができる。
【0166】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。
【0167】
また、前述した各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0168】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)の記録媒体に格納することができる。
1…エレベーター運行状態評価装置、2、3…ビル、4、5…バンク、6、7、8…エレベーター群、9…運行データ遠隔収集装置、10…運行データ収集部、11…運行状態指標算出部、12…建物仕様・用途データベース、13…設備仕様データベース、14…運用条件検出部、15…運用条件設定部、16…運行状態基準値算出部、17…運行状態評価値算出部、18…運行状態評価値データベース、19…評価基準値算出部、20…運行状態評価部、21…結果出力部、22…情報端末