(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001703
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】橋梁及び橋梁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20221226BHJP
【FI】
E01D19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102584
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智大
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA31
2D059GG05
(57)【要約】
【課題】橋梁の橋脚から床版までの高さを低くすることができる橋梁及び橋梁の構築方法を提供する。
【解決手段】橋梁10は、床版16を支持する複数の主桁15と、主桁15を支持する橋脚11と、橋脚11と主桁15とを接続する免震支承とを備える。免震支承は、支持部材21と引張部材26とを備える。支持部材21は、主桁15の下部より高い位置で突出した張出部21aを有し、橋脚11上において各主桁15の周囲に配置される。引張部材26は、複数の支持部材21の間に配置された主桁15の下部と張出部21aとを離間した状態で連結する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版を支持する主桁と、前記主桁を支持する橋脚と、前記橋脚と前記主桁とを接続する免震支承とを備える橋梁であって、
前記免震支承は、
前記主桁の下部より高い位置で突出した張出部を有し、前記橋脚上において前記主桁の周囲に配置された複数の支持部材と、
前記複数の支持部材の間に配置された前記主桁の下部と前記張出部とを離間した状態で連結する引張部材と、を備えたことを特徴とする橋梁。
【請求項2】
前記主桁は、下フランジ部と、前記下フランジ部より上方のウェブに設けられ前記下フランジ部の端部よりも水平方向に突出する取付部材とを備え、
前記張出部と前記取付部材とを、前記引張部材により連結することを特徴とする請求項1に記載の橋梁。
【請求項3】
前記主桁は、下フランジ部を備え、
前記引張部材は、前記張出部と前記下フランジ部とを連結することを特徴とする請求項1に記載の橋梁。
【請求項4】
床版を支持する主桁と、前記主桁を支持する橋脚と、前記橋脚と前記主桁とを接続する免震支承とを備える橋梁の構築方法であって、
前記主桁の下部より高い位置で突出した張出部を有した複数の支持部材を、前記橋脚上において前記主桁の周囲に構築した後、
前記複数の支持部材の間に配置された前記主桁の下部と前記張出部とを離間した状態で、引張部材により連結したことを特徴とする橋梁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震支承を備えた橋梁及び橋梁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁は、橋軸方向に離間して並んだ複数の橋脚(橋台)の上に、複数の支承を介して、橋桁(主桁)を支持する。ここで、地震力を橋の床版に伝達しないために、免震支承を用いることがある(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載の支承装置は、上部構造と下部構造との間に上部構造の慣性力に対して逆方向の水平力を発生させる機構を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免震支承として、ゴム支承を用いることがある。この場合には、水平方向の剛性を小さくするために、ゴムの層厚を厚くする必要があり、ゴム支承の高さをある程度、高くする必要があった。従って、従来、固定支承や可動支承の鋼製支承(金属支承)を用いた橋梁を、ゴム支承に変更する場合には、橋梁の床版の高さが高くなることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する橋梁は、床版を支持する主桁と、前記主桁を支持する橋脚と、前記橋脚と前記主桁とを接続する免震支承とを備える橋梁であって、前記免震支承は、前記主桁の下部より高い位置で突出した張出部を有し、前記橋脚上において前記主桁の周囲に配置された複数の支持部材と、前記複数の支持部材の間に配置された前記主桁の下部と前記張出部とを離間した状態で連結する引張部材と、を備える。
【0006】
また、上記課題を解決する橋梁の構築方法は、床版を支持する主桁と、前記主桁を支持する橋脚と、前記橋脚と前記主桁とを接続する免震支承とを備える橋梁の構築方法であって、前記主桁の下部より高い位置で突出した張出部を有した複数の支持部材を、前記橋脚上において前記主桁の周囲に構築した後、前記複数の支持部材の間に配置された前記主桁の下部と前記張出部とを離間した状態で、引張部材により連結する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、橋梁の橋脚から床版までの高さを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】実施形態において耐震構造を構築する前の橋梁の正面図。
【
図4】実施形態において取付部材及び支持部材を設けた橋梁の正面図。
【
図5】実施形態において引張部材を設けた橋梁の正面図。
【
図6】第1変更例における耐震構造の橋梁の正面図。
【
図7】第2変更例における耐震構造の橋梁の正面図。
【
図8】第3変更例における耐震構造の橋梁の右側面図。
【
図9】第4変更例における耐震構造の橋梁の右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図5を用いて、橋梁及び橋梁の構築方法を具体化した一実施形態を説明する。ここでは、本実施形態の橋梁は、隣接する橋脚(橋台)に橋桁(主桁)が掛かる単純桁橋として説明する。そして、本実施形態の橋梁の構築方法では、従来の金属支承を免震支承に置き換える耐震補強の改修工事を想定する。
【0010】
図1は、改修工事を行なった後の橋梁10の橋軸方向から見た正面断面図、
図2は、橋梁10の透視図、
図3~
図5は、橋梁10の橋軸方向から見た側面断面図である。
図2に示すように、本実施形態の橋梁10は、複数の橋脚(橋台)11、主桁15、床版16を備える。橋脚11は、橋軸方向に離間して並んでいる。
【0011】
図1に示すように、橋脚11の上には、複数(ここでは3個)の主桁15をそれぞれ支持する免震支承が設けられている。この免震支承は、複数の支持部材21と、引張部材26と、主桁15に設けた取付部材25とから構成される。
【0012】
複数の支持部材21は、各主桁15の周囲を囲むように固定されている。各支持部材21は、主桁15の橋軸直角方向の両方向に配置されている。各支持部材21は、例えば、鉄筋コンクリートで構成され、張出部21aと本体部21bとを備える。本体部21bは、張出部21aを支持し、橋脚11の上に固定される。
【0013】
張出部21aは、本体部21bの上部から、主桁15側に向かって水平方向に突出する部分である。張出部21aは、取付部材25の端部と、上から見て重なるように設けられる。
【0014】
各張出部21aの端部と、主桁15の取付部材25とを連結するように引張部材26が設けられる。各主桁15は、同じ橋脚11において2個の引張部材26によって吊られている。本実施形態では、各引張部材26は、鉛直方向に延在するように配置される。引張部材26は、上端部が支持部材21の張出部21aにピン接合され、下端部が主桁15の取付部材25にピン接合される。通常、橋梁10における固有周期は1秒強~2秒程度の範囲で設定することが多い。これらの固有周期にする場合には、引張部材26の吊り長さは、30cm~1m程度の範囲に設定する。
【0015】
複数の主桁15は、橋軸直角方向に離間して配置されている。そして、各主桁15と橋脚11の上面とは隙間をおいて配置されている。主桁15は、I型断面で構成され、上フランジ部15a、下フランジ部15b及びこれらを連結するウェブ部15wを備える。
【0016】
主桁15に取り付けられた取付部材25は、主桁15の下部において、下フランジ部15bよりも上方に設けられている。各取付部材25は、引張部材26の吊り長さに応じた高さで、ウェブ部15wに固定される。各取付部材25は、ウェブ部15wから水平方向の両方向に突出した板部材である。各取付部材25の端部は、下フランジ部15bの端部よりも外側まで突出する。
また、各主桁15の上フランジ部15aの上面には、床版16が固定されている。
【0017】
(橋梁の構築方法)
次に、
図1、
図3~
図5を用いて、上述した橋梁の構築方法について説明する。ここでは、従来の金属支承を免震支承に入れ替える場合について説明する。
【0018】
図3には、従来の金属支承31を用いた橋梁30を示している。この橋梁30は、橋軸方向に離間して並んだ複数の橋脚11を備える。各橋脚11の上には、橋軸直角方向に離間して、複数の金属支承31が配置されている。各金属支承31の上には、主桁15がそれぞれ固定されている。そして、複数の主桁15は、その上に載置された床版16を固定して支持する。
【0019】
まず、
図4に示すように、主桁15の下部に、取付部材25を溶接する。なお、各取付部材25の端部には、引張部材26を貫通させるための孔を予め形成しておく。
そして、上述した従来の橋梁30の各橋脚11の上に、支持部材21を構築する。この支持部材21は、現場打ちの鉄筋コンクリート造で構築する。この場合、支持部材21の張出部21aに、引張部材26を貫通させるための孔を設けておく。この孔は、引張部材26の孔の直上に設けられる。なお、プレキャストの鉄筋コンクリート部材あるいはコンクリート以外の材料で構成された支持部材21を、アンカー等で橋脚11に固定してもよい。
【0020】
次に、
図5に示すように、支持部材21の孔及び主桁15の取付部材25の孔に引張部材26を貫通させる。そして、引張部材26の下端部を、取付部材25から下方に突出した状態でピン接合し、引張部材26の上端部を、支持部材21の張出部21aの上に突出した状態でピン接合させる。
【0021】
その後、
図1に示すように、主桁15の下に配置されていた金属支承31を取り除く。これにより、主桁15は、引張部材26を介して、支持部材21が一体化された橋脚11に吊って支持される。
【0022】
(作用)
本実施形態の橋梁10は、床版16を支持する主桁15が、橋脚11の支持部材21に、引張部材26を介して吊られる。このため、橋脚11と主桁15との間に支承を配置することなく、振り子により免震される。
【0023】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、主桁15は、橋脚11の上に固定された支持部材21に、引張部材26を介して吊られる。これにより、橋梁10は、橋脚11の上面から主桁15の高さ内で浮いていることになるので、橋脚11の上面から床版16までの高さを低くすることができる。この場合、引張部材26が支持する重量によらず、吊り長さによって固有周期が決まる。従って、吊り長さを適切に設定することにより、所望の免震を実現できる。また、振り子の特性から、地震後に必ず原点に復帰するように復元力が作用するため、残留変位が残ることがない。
【0024】
(2)本実施形態では、免震構造を構成する支持部材21及び引張部材26は、橋脚11の上の空間に設けられる。これにより、橋脚11の橋軸方向に免震構造の一部が突出することなく、免震構造を実現できる。
【0025】
(3)本実施形態では、主桁15は、橋脚11の上面から浮かすことができればよいので、従来の金属支承31を取り付けたまま支持部材21及び引張部材26を設置し、これらの設置の完了後に金属支承31を取り外して、主桁15を吊るすことができる。従って、橋梁10の橋脚11の上面から床版16までの高さを、従来の金属支承31の橋梁30と同じにすることもできる。また、従来の金属支承31の代わりに、新たな免震支承を設けるために、主桁15をジャッキアップする必要がない。
【0026】
(4)本実施形態では、各引張部材26を鉛直方向に延在させる。これにより、どの方向に揺れても、複数の引張部材26において同じ長さを維持できるので、主桁15の揺れをバランスよく吸収することができる。
【0027】
(5)本実施形態の主桁15に、引張部材26をピン接合する取付部材25を設けた。取付部材25の取り付け高さを変更することにより引張部材26の長さを変更することができるので、適切な固有周期を実現することができる。
【0028】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、主桁15の下部に、引張部材26の下端部をピン接合する取付部材25を設けた。主桁15を吊るための引張部材26を主桁15の下部に設ける構造は、これに限定されない。
【0029】
例えば、
図6に示すように、主桁15の下フランジ部15bに、直接、引張部材36の下端部をピン接合した橋梁41としてもよい。これにより、取付部材25を設けずに、下フランジ部をそのまま用いることができる。
【0030】
・上記実施形態においては、引張部材26を鉛直方向に配置するため、支持部材21の張出部21aの孔を、引張部材26の孔の直上に設ける。この場合、下フランジ部15bは、支持部材21の張出部21aの直下である必要はない。例えば、
図6に示すように、引張部材36が斜めに配置するように設けてもよい。
【0031】
・上記実施形態において、支持部材21の張出部21aは、主桁15の上フランジ部15aより下となる位置に設けた。張出部21aは、引張部材の上部を連結するために、橋脚上に配置された複数の支持部材から突出して設けられていれば、上フランジ部15aの下となる位置に限定されない。例えば、固有周期に応じて引張部材を主桁より長くする場合には、床版よりも高い位置に張出部を配置し、この張出部から引張部材を吊り下げてもよい。
【0032】
・上記実施形態においては、主桁15は、引張部材26によって吊られることにより、橋軸方向及び橋軸直角方向に揺動可能な免震支承で支持される。
主桁15は、橋軸直角方向には揺れずに、橋軸方向にのみ揺動可能な構成としてもよい。
例えば、
図7に示す橋梁42としてもよい。この橋梁42においては、主桁15に設けた取付部材35を、支持部材21の本体部21bの主桁15側の面に対して、わずかな隙間を空けて配置する。これにより、主桁15は、橋軸直角方向に揺れようとする場合は、取付部材35が支持部材21に当接しているので、橋軸直角方向への変位を抑制する。更に、主桁15の下フランジ部15bに、支持部材21の一部を接触させてもよいし、支持部材21に固定した他の部材を、主桁15の一部に接触させてもよい。更に、取付部材35は、本体部21bに当接する代わりに、変位を抑制する許容範囲量だけ、本体部21bから離れるような長さにしてもよい。また、橋軸直角方向だけでなく、橋軸方向の変位量を制限する構造としてもよい。
【0033】
・上記実施形態の橋梁10は、支持部材21に設けた引張部材26を用いて、主桁15を吊ることにより免震支承を備える。更に、橋梁に生じた揺れを減衰させるために、制振ダンパを設けてもよい。
【0034】
例えば、
図8に示す橋梁46のように、主桁15の下方に固定部材M1を設ける。そして、橋脚11と、固定部材M1との間に制振ダンパD1を設ける。制振ダンパの取付場所は、任意に決めることができる。
【0035】
・上記実施形態の橋梁10は、隣接する橋軸方向に隣接する2つの橋脚(橋台)に跨る単純桁を設けた単純桁橋として説明した。橋の構成は、これに限られず、例えば、橋軸方向に配置された3つ以上の(橋台も含む)橋脚に跨る継ぎ目のない橋桁(主桁)を有する連続橋であってもよい。
【0036】
図9に示すように、多径間連続橋47の場合には、連続桁の中央で支持する橋脚12と、主桁15の下方に設けた固定部材M2との間に制振ダンパD2を設ける。ここでは、制振ダンパは、1つに限らず、橋軸方向に複数並べて設けてもよい。
【0037】
・上記実施形態の橋梁10は、従来の金属支承31を用いた橋梁30から、免震支承に置き換える耐震補強の改修工事によって構築した。橋梁10の構成は、耐震補強の改修工事に限られず、新たに設置する橋梁10の構造として用いることもできる。
【0038】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記主桁の揺れを止めるための制振装置を更に設けたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の橋梁。
(b)前記主桁の変位を制限する変位制限部材を更に設けたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項、又は前記(a)に記載の橋梁。
【符号の説明】
【0039】
D1,D2…制振ダンパ、M1,M2…固定部材、10,30,41,42,46…橋梁、11,12…橋脚、15…主桁、15a…上フランジ部、15b…下フランジ部、15w…ウェブ部、16…床版、21…支持部材、21a…張出部、21b…本体部、25,35…取付部材、26,36…引張部材、31…金属支承、47…多径間連続橋。