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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170301
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤、及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20231124BHJP
   D06M 13/03 20060101ALI20231124BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20231124BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M13/03
D06M15/227
D06M13/144
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081955
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】小田 康平
(72)【発明者】
【氏名】原田 美弥子
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA06
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA03
4L033BA12
4L033CA12
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】弾性繊維上での均一付着性及び、紡糸時の形状保持性が良好で、弾性繊維を長期間保管した際の解舒性に優れた、保存安定性に優れた弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明の弾性繊維用処理剤は、鉱物油(A)と、下記のジメチルシリコーン(B1)、及び下記のジメチルシリコーン(B2)を含むシリコーン成分(B)と、を含有し、処理剤の全質量に対して、前記シリコーン成分(B)を1~35質量%の範囲で含有し、ジメチルシリコーン(B1)は、25℃における動粘度が12mm/s以下であるジメチルシリコーンであり、ジメチルシリコーン(B2)は、25℃における動粘度が90mm/s以上であるジメチルシリコーンであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油(A)と、下記のジメチルシリコーン(B1)、及び下記のジメチルシリコーン(B2)を含むシリコーン成分(B)と、を含有し、処理剤の全質量に対して、前記シリコーン成分(B)を1~35質量%の範囲で含有することを特徴とする弾性繊維用処理剤。
ジメチルシリコーン(B1):25℃における動粘度が12mm/s以下であるジメチルシリコーン。
ジメチルシリコーン(B2):25℃における動粘度が90mm/s以上であるジメチルシリコーン。
【請求項2】
処理剤の全質量に対して、前記シリコーン成分(B)を10~35質量%の範囲で含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記ジメチルシリコーン(B1)、及び前記ジメチルシリコーン(B2)の質量比が、ジメチルシリコーン(B1)/ジメチルシリコーン(B2)=97.5/2.5~25.0/75.0である請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記鉱物油(A)が、30℃における動粘度が10mm/s以下である鉱物油を含む請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
シリコーン成分(B)が、更にシリコーンレジン(B3)を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、ゲルベアルコール(C)を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の動粘度を有するジメチルシリコーン2種類を含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強いため、弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが難しいだけでなく、紡糸した弾性繊維の形状保持性が低いと、パッケージの巻き糸が崩れるという問題があった。
また、弾性繊維用処理剤の均一付着性が不足すると、糸切れや張力斑が発生する他、弾性繊維用処理剤の保存安定性の課題もあった。
これらの問題を解決するために、弾性繊維の平滑性を向上させる炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が提案されている。例えば、ベース成分、HLBが3~15のノニオン界面活性剤を0.01~30質量%含有する弾性繊維用処理剤(特許文献1)、ベース成分と、水、炭素数1~15の炭化水素基を有する低級アルコール、又は該低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を0.1~20質量%、乳化剤を0.1~30質量%含有する弾性繊維用処理剤(特許文献2)、ポリオキシエチレン骨格の含有量が分子中に20~80質量%であるポリオキシアルキレンエーテル変性ポリシロキサンを含有する弾性繊維用油剤(特許文献3)などであるが、上記の問題を全て解決する弾性繊維用油剤は、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-100291号公報
【特許文献2】特開2003-147675号公報
【特許文献3】特開平09-268477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、保存安定性に優れ、弾性繊維上での均一付着性及び、紡糸時の形状保持性が良好であり、弾性繊維を長期間保管した際の解舒性に優れた弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の動粘度を有するジメチルシリコーンを2種類併用し、これらを含有するシリコーン成分を特定量含有することにより、保存安定性、弾性繊維上での均一付着性、紡糸時の形状保持性及び、弾性繊維を長期間保管した際の解舒性全てに優れた弾性繊維用処理剤とし得ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.鉱物油(A)と、下記のジメチルシリコーン(B1)、及び下記のジメチルシリコーン(B2)を含むシリコーン成分(B)と、を含有し、処理剤の全質量に対して、前記シリコーン成分(B)を1~35質量%の範囲で含有することを特徴とする弾性繊維用処理剤。
ジメチルシリコーン(B1):25℃における動粘度が12mm/s以下であるジメチルシリコーン。
ジメチルシリコーン(B2):25℃における動粘度が90mm/s以上であるジメチルシリコーン。
2.処理剤の全質量に対して、前記シリコーン成分(B)を10~35質量%の範囲で含有する1.に記載の弾性繊維用処理剤。
3.前記ジメチルシリコーン(B1)、及び前記ジメチルシリコーン(B2)の質量比が、ジメチルシリコーン(B1)/ジメチルシリコーン(B2)=97.5/2.5~25.0/75.0である1.に記載の弾性繊維用処理剤。
4.前記鉱物油(A)が、30℃における動粘度が10mm/s以下である鉱物油を含む1.に記載の弾性繊維用処理剤。
5.シリコーン成分(B)が、更にシリコーンレジン(B3)を含有する1.に記載の弾性繊維用処理剤。
6.更に、ゲルベアルコール(C)を含有する1.に記載の弾性繊維用処理剤。
7.1.~6.のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の効果】
【0007】
本発明の弾性繊維用処理剤は保存安定性に優れているため、弾性繊維用処理剤の運搬や保管の際に分離や沈殿が生じることが無く有用である。
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、弾性繊維上での均一付着性に優れており、糸切れや張力斑が発生することが無い。
さらに、本発明の弾性繊維用処理剤は、紡糸時の形状保持性に優れているため、パッケージに巻き取った後の巻き糸が崩れることが無く、さらに、パッケージを長期間保管した際の解舒性にも優れている。
本発明の弾性繊維用処理剤は、保存安定性、弾性繊維上での均一付着性、紡糸時の形状保持性及び、解舒性全てにおいて優れており、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<鉱物油(A)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、鉱物油(A)を含有するものである。
鉱物油(A)としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、粘度等によって規定される市販品1種以上を適宜採用してもよい。
本発明の鉱物油(A)は、30℃における動粘度が10mm/s以下のものが好ましい。この態様により、本発明の弾性繊維用処理剤の紡糸時の形状保持性をより向上させることができるので有利である。本発明の弾性繊維用処理剤は、30℃における動粘度が10mm/s以下の鉱物油と、それ以外の鉱物油を併用しても良い。
本発明の弾性繊維用処理剤は、処理剤の全質量に対して、鉱物油(A)を40~95質量%の範囲で含有することが好ましく、50~93質量%の範囲で含有することがより好ましく、60~88質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
なお、本発明における、30℃における動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて測定される数値を意味する。
【0009】
<ジメチルシリコーン(B1)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、25℃における動粘度が12mm/s以下であるジメチルシリコーン(B1)を含有するものである。ジメチルシリコーン(B1)は、動粘度が12mm/s以下のものを2種以上併用してもよい。
ジメチルシリコーン(B1)の動粘度は、11mm/s以下であることが好ましく、10mm/s以下であることがより好ましい。また、ジメチルシリコーン(B1)の動粘度の下限値は、特に制限されないが、1mm/s以上であることが好ましく、2mm/s以上であることがより好ましく、5mm/s以上であることがさらに好ましい。 本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B1)を処理剤の全質量に対して、1~34質量%の範囲で含有することが好ましく、2~34質量%の範囲で含有することがより好ましく、2.5~34質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
【0010】
<ジメチルシリコーン(B2)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、25℃における動粘度が90mm/s以上であるジメチルシリコーン(B2)を含有するものである。ジメチルシリコーン(B2)は、動粘度が90mm/s以上のものを2種以上併用してもよい。
ジメチルシリコーン(B2)の動粘度の上限値は、特に制限されないが、100000mm/s以下であることが好ましく、50000mm/s以下であることがより好ましく、10000mm/s以下であることがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B2)を処理剤の全質量に対して、0.05~33質量%の範囲で含有することが好ましく、0.1~30質量%の範囲で含有することがより好ましく、0.1~27質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
【0011】
<シリコーン成分(B)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記ジメチルシリコーン(B1)と上記ジメチルシリコーン(B2)を含有するシリコーン成分(B)を、処理剤の全質量に対して1~35質量%の範囲で含有するものである。
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記鉱物油(A)とこのシリコーン成分(B)を含有することにより、処理剤自体の保存安定性に優れるのみならず、弾性繊維上での均一付着性、紡糸時の形状保持性及び、パッケージを長期間保管した際の解舒性に優れているという、非常に優れた効果を発揮するものである。
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記鉱物油(A)とシリコーン成分(B)を、処理剤の全質量に対して75~100質量%の範囲で含有することが好ましく、85~100質量%の範囲で含有することがより好ましく、92~100質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、シリコーン成分(B)を、処理剤の全質量に対して10~35質量%の範囲で含有することが好ましい。この態様により、本発明の弾性繊維用処理剤の弾性繊維上での均一付着性をより向上させることができるので有利である。
本発明におけるシリコーン成分(B)中の、上記ジメチルシリコーン(B1)と上記ジメチルシリコーン(B2)の割合は、その質量比が、ジメチルシリコーン(B1)/ジメチルシリコーン(B2)=97.5/2.5~25.0/75.0であることが好ましい。この態様により、本発明の弾性繊維用処理剤の保存安定性、紡糸時の形状保持性、解舒性及び弾性繊維上での均一付着性全てを、より向上させることができるので有利である。
上記ジメチルシリコーン(B1)と上記ジメチルシリコーン(B2)の割合は、その質量比が、ジメチルシリコーン(B1)/ジメチルシリコーン(B2)=97.5/2.5~25.5/74.5であることがより好ましく、97.1/2.9~26.5/73.5であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明におけるシリコーン成分(B)は、上記ジメチルシリコーン(B1)や上記ジメチルシリコーン(B2)以外に、シリコーンレジン(B3)を含有することが好ましい。この態様により、本発明の弾性繊維用処理剤の解舒性をより向上させることができるので有利である。シリコーンレジン(B3)は、処理剤の全質量に対して0~3質量%の範囲で含有することが好ましい。
シリコーンレジン(B3)としては、その種類に特に制限はないが、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン、Tシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものが好ましく、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものがより好ましい。なかでも、シリコーンレジンとして、MQシリコーンレジン、MDQシリコーンレジン及びMTQシリコーンレジンから選ばれるものを用いる場合、M/Q比が0.5~1.1であるものを用いるのが特に好ましい。尚、シリコーンレジンに冠したM、D、T、Qはシリコーンレジンを構成するシロキサン単位の表記方法として一般的に使用されているもので、Mは一般式がRSiO1/2で示される1官能性シロキサン単位、Dは一般式がRSiO2/2で示される2官能性シロキサン単位、Tは一般式がRSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位、Qは一般式がSiO4/2で示される4官能性シロキサン単位である。ここで、R~Rは炭素数1~24の炭化水素基、一般式が-RNHRNH(R及びRは炭素数2又は3の炭化水素基)や-RNH(Rは炭素数2又は3の炭化水素基)等で示される有機アミノ基、ビニル基、カルビノール基等である。
【0013】
本発明におけるシリコーン成分(B)は、上記ジメチルシリコーン(B1)、(B2)及びシリコーンレジン(B3)以外に、動粘度が12mm/sより大きく90mm/sより小さいジメチルシリコーンのほか、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等の有機変性シリコーンを含有してもよい。
【0014】
<ゲルベアルコール(C)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、アルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールであるゲルベアルコール(C)を含有することが好ましい。この態様により、本発明の弾性繊維用処理剤の保存安定性をより向上させることができるので有利である。
ゲルベアルコール(C)の具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
ゲルベアルコール(C)としては、炭素数6~24のゲルベアルコールが好ましく、炭素数12~24のゲルベアルコールがより好ましい。
【0015】
<その他の成分(D)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、その他の成分(D)として、例えば、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油や、制電剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができる。その他の成分(D)の併用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することができる。
【0016】
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記構成により保存安定性に優れ、弾性繊維上での均一付着性及び、紡糸時の形状保持性が良好であり、弾性繊維を長期間保管した際の解舒性の全てにおいて優れた効果を発揮するものである。
本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B1)を必須成分とする構成により、弾性繊維に対する弾性繊維用処理剤の濡れ性を向上させて、より均一に処理剤が付着するものと考察している。
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B2)を必須成分とする構成に加えて、鉱物油(A)を必須成分として、シリコーン成分(B)を処理剤の全質量に対して1~35質量%の範囲を含有することにより、弾性繊維同士の糸滑りを抑制し、巻き糸の形状保持性を良化させているものと考察している。
さらに、本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B2)を必須成分とする構成により、ジメチルシリコーン(B2)が、弾性繊維上で強固な油膜を形成し、糸同士の膠着を抑制して、弾性繊維を長期間保管した際の解舒性を良好なものとしていると考えている。
本発明の弾性繊維用処理剤は、ジメチルシリコーン(B1)とジメチルシリコーン(B2)を必須成分とする構成により、低温(5℃)における保管時の安定性を向上させるものと考えている。
【0017】
<弾性繊維>
本発明の弾性繊維用処理剤を付着させる弾性繊維の具体例としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
本発明の弾性繊維用処理剤の弾性繊維に対する付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の範囲で付着させることが好ましい。
【0018】
本発明における弾性繊維の製造方法は、本発明の弾性繊維用処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置させることが一般的であり、本発明の製造方法にも適用できる。これらの中でも、延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて本発明の弾性繊維用処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが、本発明の効果を顕著に発現させるために好ましい。
本発明に用いる弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【実施例0019】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0020】
<実施例1~24、比較例1~11の弾性繊維用処理剤>
実施例1~24の弾性繊維用処理剤は下記表1に、比較例1~11の弾性繊維用処理剤は下記表2に、それぞれ示された組成に基づいて、各成分をよく混合して均一にすることで各弾性繊維用処理剤を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1に記載した各成分の詳細は以下のとおりである。
<鉱物油(A)>
A-1:動粘度4.4mm/s(30℃)の鉱物油
A-2:動粘度9.0mm/s(30℃)の鉱物油
A-3:動粘度9.4mm/s(30℃)の鉱物油
A-4:動粘度9.8mm/s(30℃)の鉱物油
A-5:動粘度11.4mm/s(30℃)の鉱物油
A-6:動粘度12.8mm/s(30℃)の鉱物油
A-7:動粘度13.5mm/s(30℃)の鉱物油
A-8:動粘度37.0mm/s(30℃)の鉱物油
【0024】
<ジメチルシリコーン(B1)>
B1-1:動粘度5mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B1-2:動粘度10mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B1-3:動粘度9mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
<ジメチルシリコーン(B2)>
B2-1:動粘度100mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B2-2:動粘度1000mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B2-3:動粘度3000mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B2-4:動粘度10000mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B2-5:動粘度90mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
<シリコーンレジン(B3)>
B3-1:アミノ変性シリコーンレジン
B3-2:シリコーンレジン
<その他のシリコーン成分>
B4-1:動粘度15mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B4-2:動粘度50mm/s(25℃)のジメチルシリコーン
B4-3:動粘度4 mm/s(25℃)の環状シロキサン5量体
B4-4:動粘度60mm/s(25℃)のアミノ変性シリコーン(モノアミン型、当量4100g/moL)
B4-5:動粘度450mm/s(25℃)のアミノ変性シリコーン(ジアミン型、当量5700g/moL)
【0025】
<ゲルベアルコール(C)>
C-1:2-ブチルオクタノール
C-2:2-ヘキシルデカノール
C-3:2-オクチルドデカノール
<その他成分>
D-1:アルキルベンゼンスルホン酸のテトラブチルホスホニウム塩
D-2:グリセリンの縮合物(平均縮合度=5)とリシノール酸のエステル
D-3:ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸のナトリウム塩
【0026】
<評価方法及び評価基準>
(1)処理剤の保存安定性に関する評価
[処理剤の保存安定性の評価方法]
上記実施例と比較例の弾性繊維用処理剤を、5℃の環境下で1ヵ月静置し、下記の基準で処理剤の保存安定性を評価した。
[処理剤の保存安定性の評価基準]
◎◎:沈殿や分離が無く、調製時と同様に均一な状態を保っている。
◎:ごくわずかに沈殿を生じるが、室温において静置すると調製時と同様に均一な状態に復元する。
〇:沈殿を生じるが、室温条件で撹拌することで調製時と同様に均一な状態に復元する。
×:沈殿、分離が生じる。室温条件で攪拌しても、均一な状態に復元しない。
【0027】
(2)均一付着性に関する評価
[均一付着性の評価方法]
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLE FRICTION UNIT MODEL TB-1)を用い、2つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、ポリウレタン系弾性繊維パッケージから引き出したポリウレタン系弾性繊維を、接触角度が90度となるようセットした。
25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T1)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T2)を0.1秒毎に1分間測定した。この時のT2の標準偏差を求め、次の基準で評価した。
[均一付着性の評価基準]
◎◎:T2の標準偏差が1.5未満(油剤が均一に付着しており、繊維がクロムメッキ梨地ピンと擦過した際に張力変動がほとんどない状態である。)
◎:T2の標準偏差が1.5以上1.7未満(油剤がほぼ均一に付着しており、繊維がクロムメッキ梨地ピンと擦過した際に張力変動が僅かにあるが、操業に問題はない状態である。)
○:T2の標準偏差が1.7以上2.0未満(油剤がほぼ均一に付着しており、繊維がクロムメッキ梨地ピンと擦過した際に張力変動があるが、操業に問題はない状態である。)
×:T2の標準偏差が2.0以上(油剤が均一に付着しておらず、繊維がクロムメッキ梨地ピンと擦過した際に張力変動が大きく、操業時に問題となる状態である。)
【0028】
(3)形状保持性に関する評価方法
[形状保持性の評価方法]
20デニールのポリウレタン系弾性繊維に処理剤をノズル給油法で5.0%付着させ、巻き取り速度550m/分で、長さ57mmの円筒状紙管に、巻き幅42mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて500g巻き取り、ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを得た。
得られたポリウレタン系弾性繊維のパッケージについて、巻き幅の最大値(Wmax)と最小幅(Wmin)を計測し、バルジ(双方の差「Wmax-Wmin」)を求め、下記の基準で評価した。
[形状保持性の評価基準]
◎◎:バルジが3mm未満
◎:バルジが3mm以上4.5mm未満
○:バルジが4.5mm以上6.0mm未満
×:バルジが6.0mm以上
【0029】
(4)解舒性に関する評価
[解舒性の評価方法]
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。
第1駆動ローラーに各処理剤を付与したポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。
第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。
この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定し、下記の算出式から解舒性(%)を求め、下記の基準で評価した。
[算出式]
解舒性(%)=(V-50)÷50×100=(V-50)×2
[解舒性の評価基準]
◎◎:解舒性が150%未満(全く問題なく、安定に解舒できる状態である。)
◎:解舒性が150%以上165%未満(糸の引き出しに僅かに抵抗があるが、糸切れは無く、操業に問題はない状態である。)
○:解舒性が165%以上180%未満(糸の引き出しに抵抗があるが、糸切れは無く、操業に問題はない状態である。)
×:解舒性が180%以上(糸の引き出しに抵抗がある。糸切れもあって、操業時に問題となる状態である。)
【0030】
上記の(1)処理剤の保存安定性、(2)均一付着性、(3)形状保持性、(4)解舒性の評価結果を、実施例1~24の弾性繊維用処理剤は表3に、比較例1~11の弾性繊維用処理剤は表4にまとめて示す。
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
上記表1~4に示すとおり、本発明の弾性繊維用処理剤の具体例である実施例1~24は、(1)処理剤の保存安定性、(2)均一付着性、(3)形状保持性、(4)解舒性の全ての評価結果が、良好(◎◎)~操業に問題ない程度(○)の範囲であることから、非常に有用であることが確認された。
これに対して、処理剤の全質量に対するシリコーン成分(B)の含有量が、本発明の範囲から外れる比較例1、2や、ジメチルシリコーン(B2)を含有しない比較例3は、本発明の弾性繊維用処理剤、例えば実施例14と比較すると、(3)形状保持性に劣るものであることが明らかとなった。
また、本発明の鉱物油(A)を含有しない比較例5は、(1)処理剤の保存安定性と(3)形状保持性に、本発明のジメチルシリコーン(B1)を含有しない比較例6、7は、(1)処理剤の保存安定性と(2)均一付着性に、さらに、本発明のジメチルシリコーン(B1)とジメチルシリコーン(B2)共に含有しない比較例9は、(1)処理剤の保存安定性、(2)均一付着性、(4)解舒性に、それぞれ劣ることが明らかとなった。